2021年1月31日日曜日

ニキビをGPはどう診るか.

Platt D, Muller I, Sufraz A, Little P, Santer M. GPs' perspectives on acne management in primary care: a qualitative interview study. Br J Gen Pract. 2020 Dec 28;71(702):e78-e84. doi: 10.3399/bjgp20X713873. PMID: 33257464; PMCID: PMC7716869.

https://bjgp.org/content/71/702/e78.short?rss=1

背景

ニキビは一般的な皮膚疾患であり、ほとんどの思春期の若者がどこかの時点で罹患する。ガイドラインでは外用薬が第一選択とされているが、経口抗菌薬の長期投与が一般的に行われる。

目的

ニキビの管理に関するGPの見解を探る。

デザインとセッティング

イングランド南西部のGPを対象とした質的インタビュー調査。

方法

GP の教育者が情報を発信するために使用している既存の電子メールリストを介して GP を招待した。性別、診療年数、診療所が農村部か都市部かに関して幅広い参加者をリクルートするために合目的的サンプリングが行われた。半構造化された電話インタビューは、インタビューガイドに沿って行われ、録音と書き起こしが行われた。データは、NVivoソフトウェア(バージョン11)を用いた帰納的テーマ分析を用いて分析した。

結果

合計102名のGPが招待され、そのうち20名が参加した。分析の結果、外用薬に関する不確実性、特に入手可能な製品、副作用に関する課題、外用薬の受容性に関する不確実性が明らかになった。GPは一般的に、外用薬は経口抗菌薬よりも効果が低いと認識している、または,外用薬は効果がないとの患者の見方から、経口抗菌薬を処方するよう患者から圧力をかけられていると認識していた。GPは経口抗菌薬を処方することに慣れていると述べ、ニキビにおける抗菌薬のスチュワードシップ(責任を持って管理すること)についての懸念をほとんど表明しなかった。また、ニキビに対する抗菌薬の使用は3ヶ月を超えてはならないというガイダンスを知らないGPもいたが、抗菌薬の中止に関する患者との難しい会話を避けることに言及したGPもいた。

結論

GPは、ニキビの外用治療について不確実性を表明しており、治療効果が低いと感じているか、経口抗菌薬を処方するように患者から圧力を感じているかのどちらかであった。

感想

プラクティスエビデンスギャップの理由を質的に探索した研究.実装を意識したとても家庭医らしい研究だと思う.私自身はニキビの診療にそこまでかかわったことはないのですが,よほどのことがなけれな経口抗菌薬は使わないと思うので,彼我の差があるのかもしれない.

難民の医師に対する教育プログラム

Shah R, Moodambail A, Alam M, Ragiwala D, Mulamehic F. An evaluation of the CAPS refugee doctor scheme in London - a survey of outcomes. Educ Prim Care. 2020 Dec 29:1-4. doi: 10.1080/14739879.2020.1857662. Epub ahead of print. PMID: 33371821.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14739879.2020.1857662?af=R&journalCode=tepc20

NHSは臨床医の採用と維持に課題を抱えている。NHS長期計画では、その目標の一つとしてNHSのスタッフレベルの向上を目指している。適切な支援があれば、難民の医師は、人員配置のギャップを埋め、質の高い患者ケアを提供することができる。このグループを支援する道徳的な義務が存在する.それは包摂と平等を促進するということである。ロンドンは、難民の医師に、オーダーメイドの教育プログラムへのアクセスとプロフェッショナルサポートユニット(PSU)によって提供されるリソースへのアクセスが保証された,資金が確保された6ヶ月間の定員外の2年目研修医としての役割の機会を提供する,イングランドで唯一の地域である。私たちの目的は、この6ヶ月間の配置後に,NHSに難民の医師が残る割合を評価することでした。

2009年10月(CAPS開始時)から2020年3月までの間に、85人の難民医師がCAPSプログラムに参加した。アンケートに回答した48人の医師のうち、45人が現在もNHSで働いていた(93.8%)。ほとんどの医師が地域で雇用された医師として、さまざまな病院の専門分野で働いている(47%)が、単一の科としてキャリア選択の中で最も人気があったのはGPであった(29%)。

CAPSのスキームは、比較的低コストで難民医師をNHSに統合することに成功している。このグループに対しては、キャリアアップの面でより多くの支援を提供すべきであり、英国の他の地域、特に医師が不足している地域では、このスキームを展開すべきである。

感想:非常に大事な取り組みであり,このように活動内容とその意義を報告するのはジャーナリスティックな意味がある.

2021年1月30日土曜日

HFpEF患者のポリファーマシー

Wu Y, Zhu W, He X, Xue R, Liang W, Wei F, Wu Z, Zhou Y, Wu D, He J, Dong Y, Liu C. Influence of polypharmacy on patients with heart failure with preserved ejection fraction: a retrospective analysis on adverse outcomes in the TOPCAT trial. Br J Gen Pract. 2020 Dec 28;71(702):e62-e70. doi: 10.3399/bjgp21X714245. PMID: 33257457; PMCID: PMC7716870.

https://bjgp.org/content/71/702/e62.short?rss=1

背景

ポリファーマシーは心不全患者では一般的であるが、駆出率の保たれたHF(HFpEF)患者におけるポリファーマシーの有害転帰への影響は明らかではない。

目的

HFpEF患者におけるポリファーマシーの有病割合、予後への影響、予測因子を評価する。

デザインとセッティング

6カ国で2006-2013年に行得れた国際ランダム化二重盲検プラセボコントロール研究であるTOPCATトライアルのデータを用いて, 米州地域(米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルを含む)の症候性HFで左室駆出率が45%以上の患者を対象としたレトロスペクティブ解析。

方法

患者は4つのグループに分類された:対照群(5剤未満)、ポリファーマシー群(5~9剤)、ハイパーポリファーマシー群(10~14剤)、スーパーハイパーポリファーマシー群(15剤以上)。全群の転帰と予測因子を評価した。

結果

1761人の参加者のうち、年齢中央値は72歳であり、37.5%がポリファーマシー、35.9%がハイパーポリファーマシー、19.6%がスーパーハイパーポリファーマシーであり、7.0%が薬剤負荷が少なかった。多変量回帰モデルでは、薬剤負荷の高い3つの実験群はいずれも全死因死亡の減少と関連していたが、HF入院と全死因入院のリスクは増加していた。さらに、いくつかの併存疾患(脂質異常症、甲状腺疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患)、狭心症の既往、拡張期血圧80mmHg未満、ベースライン時の心機能低下(ニューヨーク心臓協会機能分類レベルIIIおよびIV)は、HFpEF患者における薬剤の多さと独立して関連していた。

結論

HFpEF患者では、ベースライン時における薬剤負荷が高い割合が大きい。薬剤負荷の高さは再入院のリスクを増加させる可能性があるが、死亡率の上昇には寄与していない可能性がある。

感想

心不全はすぐpolypharmacyになりますよね.HFpEFは薬剤治療でできることが少ないですが,少なくともポリファーマシーが死亡率を上げるとはいえないという結論です.逆に言えば,あれこれ薬を使わなくても5剤以下のシンプルな処方設計でもいいのかもしれないということでしょうか.でも全死因死亡は5剤以下群で少し高いようですね.ポリファーマシーを恐れすぎず,必要な薬剤はちゃんと使う,のがよいのでしょうね.

試験を受けるタイミング

Daniel Jurich, Michelle Daniel, Karen E Hauer, Christine Seibert, Latha Chandran, Arnyce R. Pock, Sara B. Fazio, Amy Fleming & Sally A. Santen (2020) Does Delaying the United States Medical Licensing Examination Step 1 to after Clerkships Affect Student Performance on Clerkship Subject Examinations?, Teaching and Learning in Medicine, DOI: 10.1080/10401334.2020.1860063

現象

学校は米国医師免許試験(USMLE)のステップ 1 の最適な時期を検討している。コア・クラークシップの後にステップ1を移動させる2つの主な理由は、臨床の場でより深く、より統合的な基礎科学の学習を促進することと、ステップ1の臨床的な焦点がますます高まることに備えて学生をよりよく準備することである。コア・クラークシップの後にステップ1を配置することは、国家的な主要評価の機会を活用して学習を促進し、学生が臨床の場で基礎科学の知識を深めることを奨励することになる。これまでの研究では、臨床実習の後にステップ1を配置した場合、ステップ1のスコアがわずかに上昇し、不合格率が低下し、ステップ2の臨床知識のスコアも同様に上昇することが実証されている。ステップ1を移行したいくつかの学校では、臨床科目試験(CSE)の成績の低下が報告されている。これは、クラークシップ前のカリキュラムが短縮されたこと、知識統合のためのステップ1の学習期間がなかったこと、またはCSEを受ける前に国家試験タイプの問題に触れる機会が少なかったことなどが原因と考えられる。この多施設共同研究では、CSEの学生の成績が,コア・クラークシップ後にステップ1が移行したことによって影響を受けるかどうかを判断することを目的とした。

アプローチ

2012年から2016年の間にコア・クラークシップ後にステップ1に移行した8校の学生のCSEスコアをpre-postの形式で分析した。階層的線形モデルを用いて、カリキュラムがCSEの成績に及ぼす影響を定量化した。追加分析では、クラークシップの順番が臨床科目試験の成績に影響を与えたかどうか、カリキュラム変更の前後で、カリキュラム変更によって最低パーセンタイル(全国の5パーセンタイル以下と定義される)の得点を取る学生が増えたかどうかを調べた。

所見

ステップ 1 をクラークシップ後に移行した後、これらの 8 校は 4 つの CSE(内科、脳神経科、小児科、外科)の成績が統計的に有意に低下したが、産科・婦人科と精神科の成績は低下しなかった。ステップ 1 の変更前と変更後の 3 年間の成績を比較すると、すべてのクラーク シップで 0.3~-2.0 ポイントの差があり、平均差は-1.1 ポイントであった。クラークシップ中のCSE の成績は、早い時期に受験した場合にカリキュラム変更の影響をより強く受けており、その差はその後の試験で徐々に消えていった。内科と脳神経科では、臨床年度の早い時期に履修した場合、カリキュラムグループ間の平均差が最も大きかった。最後に、臨床科目試験のうち4つの試験(内科、脳神経科、小児科、精神科)において、クラークシップ後にステップ1を受けたコホートでは、全国の5パーセンタイル以下の得点を取る可能性がわずかに高かった。

洞察

コア・クラークシップ後にステップ1を移行することが、CSEのスコアに与えた影響は全体的に小さく、クラークシップの初期の試験ではスコアが低下し、5パーセンタイル以下の学生の数が増加した。成績の差がクラークシップの成績に与える影響は軽微であるが、全体としては教育的に意味のある影響の大きさではないと考えられる。学校は、クラークシップの段階でCSEのパフォーマンスとステップ1の準備に対処するために、様々な緩和戦略を使用することができる。

感想

試験をどのタイミングで受けるかが,研究テーマになること自体が自分にとって目新しかった.結局はUSMEL Step 1をいつ受けても,学校の成績はそこまで変わらない,ということか.

2021年1月29日金曜日

専門教育前のいわゆる教養課程から得られるもの

Costa M, Kangasjarvi E, Charise A. Beyond empathy: a qualitative exploration of arts and humanities in pre-professional (baccalaureate) health education. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2020 Dec;25(5):1203-1226. doi: 10.1007/s10459-020-09964-z. Epub 2020 Feb 25. PMID: 32100196; PMCID: PMC7704487.

https://link.springer.com/article/10.1007/s10459-020-09964-z

40 年近くにわたり、研究者たちは、医療者教育(Health Professions Education: HPE)に文学・人文学のコンテンツを組み込むことを研究してきた。しかし、文学・人文学を取り込む目的、効果、および実施に関する長年の論争から、研修生がそのようなコンテンツに触れるタイミングと文脈が,あまり考慮されないが実は重要な要因であることが示唆されている。HPEに進む前に,人文学に基づく医療保健カリキュラムを導入することの利点をより理解するために、カナダ初の保健人文学科バカロレアプログラムの参加者を対象としたinstrumental case studyを実施した。半構造化インタビュー(n=11)とフォーカスグループ(n=14)から得られた,完全に匿名化されたトランスクリプトをオープンコード化し、テーマ別のナラティブ分析を行い、記述された経験における3つの主要な時間的領域(すなわち、12週間の「保健人文学入門」コースへの参加前、参加中、参加後)を明らかにした。本研究で得られた知見は、医療者教育における文学・人文学の内容についての認識が、医療者教育の入学前から大きく形成されていることを示している。また、新たな概念である「認識論的多能性」を定義することで、参加者が専門職に就く前の段階での健康関連の教育や学習において、複数の学問分野(特に文学と人文学)間を行き来して(かつそれぞれ役割を主張しながら)学習する能力が生まれていることを示した。したがって、バカロレア課程と HPE のカリキュラムの調整が改善されれば、認識論的な多面性、美的感性、その他 HPE 候補者に求められる資質など、文学・人文学に関連した能力の開発が強化される可能性がある。結論として、専門過程前コースに参加することは、医療専門職教育の「ライフコース」全体にわたって、文学・人文学の目的、役割、効果の実施と批判的理解の両方を強化するための新しい能力主導型のアプローチを提示している。

感想:医療者教育に社会学sociologyをどのように組み込むかについては,AMEE guideにもまとめられていたが,この論文ではarts and humanitiesをどのように組み込むかを議論している.いわゆる教養科目について着目した研究はあまり読んでこなかったが,たしかにこのような着眼点はあるよなと思った.

認知症患者に対する非定型抗精神病薬の害

 Oh ES, Rosenberg PB, Rattinger GB, Stuart EA, Lyketsos CG, Leoutsakos JS. Psychotropic Medication and Cognitive, Functional, and Neuropsychiatric Outcomes in Alzheimer's Disease (AD). J Am Geriatr Soc. 2020 Dec 31. doi: 10.1111/jgs.16970. Epub ahead of print. PMID: 33382921.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.16970?af=R

背景・目的

アルツハイマー病(AD)における向精神薬の安全性と有効性についての懸念が高まっている。我々は、大規模なAD臨床コホートにおいて、向精神薬の服用と認知、機能、神経精神医学的転帰の経時的変化との関連を検討した。

デザイン

縦断的観察研究。

設定

全国アルツハイマー病コーディネートセンターにおいて,39のアルツハイマー病センターのデータを組み合わせた.

参加者

AD認知症の参加者8,034人。

測定方法

Mini-Mental State Exam(MMSE)、Clinical Dementia Rating Scale-Sum of Boxes(CDR-SB)、およびNeuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI-Q)の合計。投薬をうける確率(propensity score、PS)はロジスティック回帰により算出された。薬剤クラスには、すべての抗精神病薬(非定型vs定型)、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]vs非SSRI)、およびベンゾジアゼピン系薬剤が含まれた。薬物治療を受けた参加者は、そのクラスで治療を受けていない参加者のうち最も近いPSがある者とマッチングされた。薬物治療の効果は、線形混合効果モデルを用いて評価した。

結果

参加者の平均年齢(SD)は75.5(9.8)歳で、平均スコア(SD)はMMSE 21.3(5.7)、CDR-SB 5.5(3.4)、NPI-Q Total 4.5(4.4)であった。平均追跡期間は服薬クラスに応じて2.9~3.3年であった。非SSRIの抗うつ薬使用は良好なCDR-SBと関連していた(2年変化差:-0.38[-0.61、-0.15]、P = 0.001)。非定型抗精神病薬の使用は、MMSE(-0.91[-1.54、-0.28]P = 0.005)およびCDR-SBスコア(0.50[0.14、0.86]、P = 0.006)におけるより大きな低下と関連していた。注目すべきことに、どの薬物クラスもNPI-Qスコアの改善とは関連していなかった。

結論

非定型抗精神病薬の使用は、認知と機能の低下と関連しており、神経精神症状の改善と関連する薬物クラスはなかった。

感想

認知症に抗精神病薬を投与すると予後が悪化するというのは相当の知見が重なっているが,(私含めて)よく使われており,エビデンスプラクティスギャップはまだ縮まっていないように思います.Next Stepはなぜギャップがあるのか,そしてどのように解消したらいいのか,だろうと考えます.

2021年1月28日木曜日

臨床実習におけるダイアド(二人一組)学習

Noerholk, L.M., Morcke, A.M., Bader Larsen, K.S. and Tolsgaard, M.G. (2020), Is two a crowd? A qualitative analysis of dyad learning in an OBGYN clinical clerkship. Medical Education. Accepted Author Manuscript. https://doi.org/10.1111/medu.14444

導入

ダイアド学習は、2人の学生が協力して新しいスキルや知識を習得するときに起こる。いくつかの研究では、制御された模擬環境でのダイアド学習の教育的根拠を支持する証拠が提供されている。しかし、臨床現場でのダイアド学習の役割については不明な点が多い。模擬環境とは異なり、臨床現場での学習は医学生、医師、看護師、患者の間の複雑な相互作用に依存しているため、クラークシップでのダイアド学習の価値が低くなる可能性がある。本研究の目的は、主要なステークホルダーが医学生の臨床実習中にダイアド学習を実施することの価値をどのように認識しているかを探ることであった。

方法

構成主義的質的研究で、ダイアド学習に関わる主要なステークホルダー(医学生10名、医師12名、看護師5名、患者9名の計36名)を対象に、51回の半構造化インタビューを実施した。データは、テーマ分析を用いて帰納的にコード化した後、理論的枠組みとしてのステークホルダー理論を用いて演繹的にコード化した。

結果

臨床現場におけるダイアド学習の教育的効果については、ステークホルダーは一般的に同様の認識をしているが、その価値については意見が分かれていることがわかった。学生は、ダイアド学習によって患者を診る際により積極的に参加できるようになったと強調し、患者は二人の学生が同席することを気にしていなかった。医師や看護師は、ダイアド学習はサービスとトレーニングのバランスを崩すと考え、自分たちが良い患者ケアだと思っているものとは共鳴しないと報告した。

結論

ダイアド学習は臨床実習中に学生がより積極的に活動することを可能にするが、サービスとトレーニングのバランスを簡単に崩してしまう。このようなバランスの乱れは、異なるステークホルダー間の優先順位や価値観のバランスの変化や、指導する医師や看護師の暗黙の指導義務がより明確になることによって悪化する可能性がある。その結果、ダイアド学習の実施は、その教育学的根拠にかかわらず、臨床現場の医師や看護師には価値あるものとして認識されない可能性がある。

感想

ダイアド学習という言葉を初めて知った.臨床実習ならではの適応の限界に迫っている良い研究だと思う.

医師・看護師の目からみた「バランスを崩す」という指摘はもっともだが、一方、学生が有効性を実感しているということに着目すると,もう少しmodifyしたら、実装化できそう.

産婦人科という環境がなければより有効性が強調されるかもしれない.

非緊急のER受診患者をGPが診る

 Leigh S, Mehta B, Dummer L, Aird H, McSorley S, Oseyenum V, Cumbers A, Ryan M, Edwardson K, Johnston P, Robinson J, Coenen F, Taylor-Robinson D, Niessen LW, Carrol ED. Management of non-urgent paediatric emergency department attendances by GPs: a retrospective observational study. Br J Gen Pract. 2020 Dec 28;71(702):e22-e30. doi: 10.3399/bjgp20X713885. PMID: 33257462

https://bjgp.org/content/71/702/e22.short?rss=1

背景

小児では、緊急性のない救急受診がよくみられる。プライマリケアでのマネジメントは、臨床的により適切であるだけでなく、患者の経験を向上させ、より費用対効果の高いものになる可能性がある。

目的

GPを小児救急に統合した場合の入院、待ち時間、抗菌薬の処方、治療費への影響を明らかにする。

デザインとセッティング

イングランド北西部の小児救急部における非緊急の救急受診を調査した後方視的コホート研究。

方法

2015年10月1日から2017年9月30日まで毎日,午後2時から午後10時まで、GPが救急部に配置された。マンチェスター・トリアージ・システムを使用して「緑」(非緊急)とトリアージすべての小児は、「GPの診察が適切」とみなされた。GPが診察できない場合には、非緊急と判断された小児は、救急スタッフによって管理された。2年間にわたり,同じ時間帯で,GPの管理と救急スタッフの管理との間で,小児の臨床的あるいは業務的アウトカム、ならびに医療費について比較した。

結果

調査期間中に救急受診した小児115,000人のうち、「GPが適切」と分類された13,099人の完全なデータが利用可能であり、そのうち8,404人(64.2%)はGPが管理し、4695人(35.8%)は救急スタッフが管理した。救急室滞在時間の中央値はGP群で39分(四分値間範囲[IQR]16-108分)、ED群で165分(IQR104-222分)であった(P<0.001)。GP群の小児入院する可能性が低く(オッズ比[OR] 0.16;95%信頼区間[CI]=0.13~0.20)、入退院までに4時間以上待つ可能性が低かった(OR 0.11;95%CI =0.08~0.13)が、抗菌薬の投与を受ける可能性が高かった(OR 1.42;95%CI =1.27~1.58)。治療費はGPが管理する群で18.4%低かった(P<0.0001)。

結論

小児救急サービスの需要が高まっていることを考えると、GPによる救急部でのケアのモデルは非緊急の救急受診患者の管理を改善する可能性がある。しかし、因果関係のある研究デザインを取り入れた更なる研究が必要である。

感想

もちろん,GPが救急医より優れているという話ではなく,非緊急患者だったらGPが力になれますよ,という解釈が妥当だと思う.当然,GP個々人の技量によるので,小児救急で一定水準のパフォーマンスができるように訓練を積むことが大事だと感じた.個人的には,非緊急だと思ったが実は緊急だった(便秘による腹痛だと思ったら虫垂炎だった,熱性けいれん後だと思ったら二相性脳症だった,風邪だと思ったら心筋炎だったなど)ケースをGPがちゃんと拾えているか,そしてGPが診察することに関する保護者の受け入れはどうか,という点が気になった.小児救急を診る際に自分が一番心配になる点なので.

2021年1月27日水曜日

臨床での教育的会話は,研修医から指導医が学ぶ場でもある

Lisanne S. Welink, Esther de Groot, Marie-Louise E. L. Bartelink, Kaatje Van Roy, Roger A. M. J. Damoiseaux & Peter Pype (2020) Learning Conversations with Trainees: An Undervalued but Useful EBM Learning Opportunity for Clinical Supervisors, Teaching and Learning in Medicine, DOI: 10.1080/10401334.2020.1854766

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10401334.2020.1854766?af=R

現象

指導医と研修医は、お互いの強みを活かしつつ,協調と交流により、エビデンスに基づく医療に関連するスキルを互いに学びあうことができる。本研究では、指導医が研修医と学習的な会話をすることで、現在どのようにエビデンスに基づく医療を学んでいるのかについて、指導医の認識を探る。

アプローチ

オランダとベルギーの総合診療指導医22名を対象に、ビデオ刺激により誘発される半構造化面接を実施した。指導医には、ビデオに記録された自身の学習会話の断片を見せ、省察を促した。記録されたインタビューは、グラウンデッドセオリーに基づくアプローチを用いて分析された。

所見

指導医は,職場での学習会話を、研修医からエビデンスに基づく医療を学ぶ機会と直ちに認識することはなかった。ほとんどの指導医は、これらの会話を研修医にとっての学習の機会であり、自分たちの診療の中でケアの質を維持する機会であると考えていた。それにもかかわらず、インタビューの中で、指導医は学習会話により自分たちが最新の知識や検索スキルを身につけることができたり、自身の知識や知識ギャップについてより多くの気づきを得ることができることを認めた。学習成果として認識されなかったのは、エビデンスに臨床経験や患者の好みを組み合わせることで,臨床の中でエビデンスに基づく医療をどのように適用するか,ということであった。

洞察

指導医は、研修医との学習会話を通じてエビデンスに基づく医療の3つの側面の要素を学んでいることを認めているが、現在のところ、これは研修生の学習プロセスの二次的なものであると考えている。双方向の学習の機会を強調することで、職場での学習会話の中でエビデンスに基づく医療の学びが改善される可能性がある。

感想

臨床の場での教育的な会話は,研修医から指導医が学ぶ場でもあるという点を強調した論文.とても良い視点であるし,確かにそうだと思う.EBMに限らず,学習者から学ぶという姿勢は大事だし,そのような姿勢から何が得られるのかについてさらに研究が必要だと思う.

多疾患併存患者の尿失禁

 Jacob L, López-Sánchez GF, Oh H, Shin JI, Grabovac I, Soysal P, Ilie PC, Veronese N, Koyanagi A, Smith L. Association of multimorbidity with higher levels of urinary incontinence: a cross-sectional study of 23 089 individuals aged ≥15 years residing in Spain. Br J Gen Pract. 2020 Dec 28;71(702):e71-e77. doi: 10.3399/bjgp20X713921. PMID: 33257465

https://bjgp.org/content/71/702/e71

背景

マルチモビディティ患者における尿失禁の有病割合は比較的高いと考えられるが、この分野の文献は乏しい。GPが尿失禁のリスクのある患者を特定し、早期の治療と集学的管理を開始するためには、さらなる堅牢な研究が必要である。

目的

スペイン在住の15歳以上の23,089人を対象に、マルチモビディティと尿失禁の関連性を検討する。

デザインおよびセッティング

本研究では、スペイン在住の15歳以上の参加者23,089人(女性54.1%、平均[標準偏差]年齢=53.4[18.9]歳)の横断的サンプルであるスペイン国民健康調査2017のデータを使用した。

方法

尿失禁およびその他30の身体的および精神的慢性疾患を自己申告してもらった。マルチモビディティを、2つ以上の身体的および/または精神的慢性疾患(尿失禁を除く)の存在と定義した。コントロール変数には、性別、年齢、配偶者の有無、教育、喫煙、および飲酒量が含まれた。マルチモビディティと 尿失禁との関連を評価するために、多変量ロジスティック回帰分析が実施された。

結果

このサンプルでは、尿失禁の有病割合は5.9%であった。尿失禁は,30の慢性疾患のどれかがある場合の方が、どれもない場合と比べ,頻度が高かった(P<0.001)。尿失禁がある人の割合もまた、マルチモビディティ群では非マルチモビディティ群よりも高かった(9.8%対0.7%、P<0.001)。いくつかの潜在的交絡因子(すなわち、性別、年齢、配偶者の有無、教育、喫煙、アルコール)を調整した後で、マルチモビディティと尿失禁の間には有意に正の関係があった(オッズ比=5.02、95%信頼区間[CI]=3.89~6.59、P<0.001)。

結論

この15歳以上のスペイン人の大規模サンプルでは、マルチモビディティがあることが尿失禁に有意に関連していた。

感想

またもやマルチモビディティの研究.尿失禁はunderestimateされがちだし,目の付け所がシャープですよね.私は高齢患者には時々CGAをとるようにしていますが,引き続き意識的に尿失禁についての質問をしていかなければいけないと思いました.

2021年1月26日火曜日

フィードバックツールの効果について

McEllistrem B, Barrett A, Hanley K. Performance in practice; exploring trainer and trainee experiences of user-designed formative assessment tools. Educ Prim Care. 2020 Oct 23:1-7. doi: 10.1080/14739879.2020.1815085. Epub ahead of print. PMID: 33094687.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14739879.2020.1815085?af=R&journalCode=tepc20

導入

アイルランドのGP研修では現在、様々な手法で形成的評価とフィードバックが研修医に提供される。2018年、アイルランド総合診療専門大学(Irish College of General Practitioners)は、研修医へのフィードバックが学習を引き起こすような、2つの新しいユーザーデザインの形成的フィードバックツールを作成するよう委託した。これらのツールは、PiP(Performance in Practice)ツールとして知られるようになった。

目的

4ヶ月間のPiPツールの試験的な使用を修了したGPの指導医と研修医の経験を調査する。

方法

トレーナーと研修医の経験を理解するために、探索的現象学的アプローチがとられた。1対1のインタビューが実施され、テンプレート分析によりテーマとサブテーマの分析が行われた。

結果

ユーザーの経験は、教育的価値と受容性の2つの主要な分野に焦点を当てていた。教育的価値に関しては、PiPツールはカリキュラムを中心に展開しており、独立して診療を行うGPが求める独自の多面的な要件を反映しているため、既存の形成的フィードバックを改善したものであると見なされていた。受容性は、主にデータの管理や構造、ソフトウェアの使いやすさなどの実用的な問題に焦点が当てられていた。

結論

全体的に、PiPツールの使用経験は、指導医と研修医の双方にとってポジティブなものであった。今後、PiPツールの導入をさらに検討していく予定だが、この研究から得られるものは大きい.

感想

結構手間がかかりそうな評価票です.ツール実装の研究として,自分のテーマの参考になりそうです.

住宅の保障と医療アクセス

Chen KL, Wisk LE, Nuckols TK, et al. Unmet Medical Needs Among Adults Who Move due to Unaffordable Housing: California Health Interview Survey, 2011–2017. J Gen Int Med 2020 Dec 28 [Epub ahead of print]. https://doi.org/10.1007/s11606-020-06347-3

背景

安定した手頃な価格の住宅は、健康の決定要因として確立されている。米国全土で手頃な価格の住宅が不足しているために、人々が自宅から追い出されるおそれがあるため、費用に関連する住宅の移動が医療アクセスに与える影響を理解することが重要である。

目的

費用に関連する引っ越しと満たされない医療ニーズとの関係を検討する。

デザイン

カリフォルニア州健康面接調査の7波(2011年~2017年)を対象に横断研究を行った。

参加者

18歳以上の全回答者を対象とした。

主な測定

主な予測変数は、過去5年間の自宅の引っ越し歴(費用に関連する引っ越し、費用に関連しない引っ越し、引っ越しなし)であった。主要アウトカムは、過去1年間における満たされない医療ニーズ(必要な薬や医療ケアが遅れている、または受けられていない)であった。

主な結果

我々のサンプルには 146,417 人の成人(回答率 42-47%)が含まれており、その加重人口は 28,518,590 人であった。全体では、サンプルの20.3%が過去1年間の満たされない医療ニーズを報告し、4.9%が過去5年間に費用関連の引っ越しを報告した。多変量ロジスティック回帰モデルにおいて、満たされない医療ニーズの調整後リスクは、引っ越しをしなかった人と比較して、費用に関連する引っ越し(aOR 1.38;95%CI 1.19-1.59)および費用に関連しない引っ越し(aOR 1.17;95%CI 1.09-1.26)の双方で増加していた。引っ越しをした人の中で、費用に関連する引っ越しをした人は、費用に関連しない引っ越しをした人に比べて、満たされない医療ニーズを報告する可能性が高かった(p = 0.03)。

結論

家賃が賄えないために引っ越しをした人々は、満たされない医療ニーズのリスクが高まる集団である。人々の健康を改善しようとする政策立案者は、費用に関連する引っ越しを少なくして、医療アクセスへの悪影響を緩和するための戦略を検討すべきである。

感想

非常に重要かつ目の付け所が鋭い研究.米国では家賃を払えなくなった人が家から追い出されるというのが社会問題化していて(例えばサブプライムローンの時にかなり多くの人が自宅を失っていたはず),それは健康に悪影響を与えるはずだという仮説のもと,今回の研究では,経済的理由で家を手放した場合に医療アクセスが悪くなるということを観察研究で示しています.このようなエビデンスを一つずつ積み重ねることが,健康格差の是正につながっていくと思います.

2021年1月25日月曜日

キーワードを拾い集める症例問題が人種差別に与える影響

Mosley MP, Tasfia N, Serna K, Camacho-Rivera M, Frye V. Thinking with two brains: Student perspectives on the presentation of race in preclinical medical education. Med Educ. 2020 Dec 23. doi: 10.1111/medu.14443. Epub ahead of print. PMID: 33354809.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/medu.14443?af=R文脈
医学生が教育を受けているうちに,「人種」は生物学的な構成要素であり、「人種」に基づいて患者を差別的に治療することが臨床的に有益であると考えるようになることが懸念されている。医学生に「人種」がどのように提示されるかは、医学生の暗黙のバイアスと将来の臨床実践の両方に影響を与え、医療における人種格差を拡大させる可能性がある。方法
米国北東部の大都市圏にある公立医学部に通う臨床にでる前の医学生22人(うち大半が白人ではない)を対象にin-depth interviewを行った。インタビューの内容は、医学生が医学教育における人種の提示をどのように経験しているか、学習経験の中で人種を利用しているか、将来の臨床で医師として人種を利用することをどのように想定しているかに焦点を当てた。文字起こししたデータをフレームワーク法を用いて分析し、新たなテーマを抽出した。結果
参加者は、国家試験形式の問題で人種の提示を最も意識し、講義中では人種の提示を最も意識しないと回答した。参加者は、問題解決型学習(PBL)モジュールで、人種と疾患の関連性が高いと思われるケースを題材にしている場合、人種を意識していると答えた。また参加者は,講義中の人種の提示方法に不正確さがあり、人種による健康格差の原因についての説明が不十分であることを見つけていた。参加者は、人種による自己認識を行うための準備ができていないと感じ、患者の診断における人種の有用性について複合的なメッセージを受けたと述べている。参加者からは、国家試験形式の問題や講義での人種の提示について、認知的不協和を感じた経験があることの報告があった。結論
「人種」の提示または「人種」についての指導を批判的に評価することは,人種が提示されたのは生物医学的構成概念としてか社会的構成概念としてか,カリキュラムの内容における人種の分類がどの程度正確か、人種と疾患の関連性の原因とメカニズムは何かについて対処するために,不可欠である.このことは、生物学的構成概念としての人種についての誤った思い込みや、その結果としての臨床ケアへの悪影響を最小限に抑える可能性を秘めている。今後は、国家試験形式の問題や教条的な講義とは対照的に、問題に基づく学習や体験型学習(OSCE)が、健康や病気における人種に関する学生の教育に最も効果的な方法であるかどうかを評価するような研究が求められる.さらに、教員の使命(すなわち社会的使命)と集団の構成(大半が白人の機関もあれば,歴史的に黒人が大学)が、人種の提示に関する学生の経験に影響を与えるかどうかを調査するような研究が望まれる.感想
日本だと「〇〇歳男性」とはじまる症例問題が,米国だと人種がかかれており,そういったキーワードを拾い集めて問題の答えを出す,ということが行われるわけで,それが不適切な人種差別につながりはしないか,という問題意識なのだと思います.

大腸がんの診断

Högberg C, Gunnarsson U, Jansson S, Thulesius H, Cronberg O, Lilja M. Diagnosing colorectal cancer in primary care: cohort study in Sweden of qualitative faecal immunochemical tests, haemoglobin levels, and platelet counts. Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e843-e851. doi: 10.3399/bjgp20X713465. PMID: 33139332;

https://bjgp.org/content/70/701/e843.short?rss=1

背景

大腸がんの診断はプライマリケアにおける課題であり、信頼性の高い診断補助検査が望まれている。スウェーデンでは2000年代半ばから便免疫化学検査(FIT)が大腸がんの疑いがある場合に使用されているが、その有効性に関するエビデンスは乏しい。貧血と血小板増多症はともに大腸がんと関連している。

目的

プライマリケアで症状のある患者に依頼された定性FITが、単独で、あるいは貧血や血小板増多症の所見と組み合わせて、大腸がんの診断に有用であるかどうかを評価する。

デザインと設定

スウェーデンの5つの地域を対象に、電子カルテとスウェーデンがん登録簿のデータを使用した人口ベースのコホート研究。

方法

2015年1月1日から2015年12月31日までにプライマリケア医によりFITを提出された5地域の18歳以上の患者を同定した。FITと血液検査のデータを登録し、2年以内に行われたすべての大腸がん診断を検索した。診断測定値を算出した。

結果

合計で15,789人の患者がFIT(試薬は4種類)を受けた.うち304人が後に大腸がんと診断された。ヘモグロビン値は13,863人、血小板数は10,973人の患者で確認できた。それぞれの試薬のみで計算した場合、大腸がんに対する感度は81.6%~100%、特異度は65.7%~79.5%、陽性的中率は4.7%~8.1%、陰性的中率は99.5%~100%であった。FITが陽性または貧血がある場合の感度は88.9~100%であった。血小板増多症を追加しても、診断性能のさらなる向上は見られなかった。

結論

プライマリケアでの定性FITは、大腸がんが疑われる場合に紹介するためのルールイン検査として有用であると思われる。FITが陰性で貧血がなければ大腸がんのリスクは低い。

感想

「大腸がんを疑って提出した」便潜血検査の感度は80-100%,特異度は65-80%で,貧血を含めると感度はやや上がり,血小板増多は関係ない,という結論.大腸がんをどうして疑ったのかについてのデータはない.自分のプラクティスとしては,スクリーニング対象者には年1回の便潜血→便潜血陽性で大腸カメラ陰性なら後はカメラでスクリーニングであり,何らかの理由で大腸がんを疑ったら(カメラへのアクセスにバリアがない限り)便潜血を飛ばしてカメラを行うのですが,疑い患者で陰性予測値99.5%なら便潜血で除外してもいいのかなという気になりました.

2021年1月24日日曜日

家庭医とサブスペシャリストは一緒に学びたいけど時間がない

Stewart L, Cunningham D. Practice-based small group learning (PBSGL) with mixed groups of general practitioners and secondary care doctors: a qualitative study. Educ Prim Care. 2020 Nov 29:1-6. doi: 10.1080/14739879.2020.1850213. Epub ahead of print. PMID: 33252032.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14739879.2020.1850213?af=R&journalCode=tepc20

総合診療医(GP)と二次医療従事医師は、医学部在学中に共に学ぶという共通の背景を持っているが、専門医資格を取得した後は、学習の経路が異なるものになる。「再接続」(reconnect)はスコットランドのNHSグランピアン(NHSの理事会)で行われている取り組みで、両方の医師に学習を含む様々な共有の活動を提供してきた。学習活動の一つに、プライマリケア医に人気があることが証明されている「実践ベースの小グループ学習(Practice-Based Small Group Learning: PBSGL)」がある。

両方の医師集団から参加者を集めてグループを作り,5ヶ月間の試験期間にわたって会合が開かれた。参加者の認識や経験を明らかにするために、質的研究手法が選ばれた。参加者は、1対1の電話インタビューを受けた。インタビューは音声録音され、文字起こしされ、グラウンデッドセオリーの手法を用いて分析された。2つのPBSGLグループが結成され、メンバーの合計は13名であった。1つのグループはパイロット期間中に2回会合を開き、もう1つのグループは1回のみであった。

9人の参加者にインタビューを行い、データの分析から4つの主要なテーマが浮かび上がった。参加の理由は、2つのセクター間の協力関係を改善し、理解を深めたいという願望に関連していることが多かった。医師は、労働条件やチームワークが他のセクターの仕事状況にどのような影響を与えているかを学んだ。参加者は、さらなる会議を手配することが困難であることに気づき、一緒に学ぶ時間を共有できていないと考えてした。プロジェクトの将来についての考察は肯定的なものであったが,これはこれまでに行われた会合が少ないこととは対照的であった。

感想:家庭医と専門医は一緒に学びたいし,相互に理解しあいたいけど,忙しいからできないという,身もふたもないというか,なんだか寂しい結論.slackなどを用いた非同期グループ学習が望ましいだろうと私は考えており,現在実践をしているところです.この研究の新規性は,primary care doctorとsecondary care doctorとの交流をテーマにしたところだろうなと思っています.

プライマリケアの受診理由

Chueiri PS, Gonçalves MR, Hauser L, et al. Reasons for encounter in primary health care in Brazil. Fam Pract. 2020 Oct 19;37(5):648-654. doi: 10.1093/fampra/cmaa029. PMID: 32297637.

https://academic.oup.com/fampra/article-abstract/37/5/648/5820801?redirectedFrom=fulltext

背景

ブラジルにおけるプライマリ・ヘルスケア(PHC)の提供は、ここ数十年で改善されてきた。しかし、家族健康戦略チーム(Family Health Strategy team)が国民の健康ニーズを満たしているかどうかは不明である。

目的

ブラジルのPHCにおける受診理由(reasons for encounter: RFEs)を説明し、性、年齢、地理によるRFEsの変動を調べる。

方法

この記述的研究は、2016 年に実施された全国規模の横断的研究の一部である。サンプルは、地域ごとのPHC医師数で層別化した。同じPHCユニットで少なくとも1年間勤務していた医師を対象とした。各参加医師について、少なくとも2回受診した18歳以上の患者12人が調査された。患者は、国際プライマリ・ケア分類に従って分類されたRFEについて質問された。

結果

6160件の受診で、合計8046件のRFEがコード化された。7つの理由が全RFEの50%を占めていた。検査結果、薬の変更、予防薬に関連するコードの頻度が高かった。RFEsは性差や地域によって有意差はなかったが、年齢層によって有意差があった(P<0.001)。処方、検査依頼、専門医療への紹介の割合はそれぞれ71.1%、42.8%、21.3%であった。

結論

本研究は、ブラジルのPHCにおけるRFEの「ブラックボックス」を明らかにした。これらの知見は、ブラジルにおけるPHCの質を向上させるために、PHCサービスの範囲を再定義し、仕事のやり方を見直すことに貢献することができる。

感想

受診理由を調べるためにはこのように研究をデザインすればいいのかと勉強になった.

2021年1月23日土曜日

多職種連携にEPAは存在するのか

Ten Cate O, Pool IA. The viability of interprofessional entrustable professional activities. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2020 Dec;25(5):1255-1262. doi: 10.1007/s10459-019-09950-0. Epub 2019 Dec 23. PMID: 31872327.

https://link.springer.com/article/10.1007/s10459-019-09950-0

多職種連携教育(IPE)と遂行可能業務(EPA)は、近年注目を集めている医療従事者教育の2つのトピックである。IPE(様々な医療従事者が最適なケアを目指してお互いに学び合う時間)が持つ固有の焦点は、集団に対するものである。一方、EPA(研修生が監督なしで特定の活動を実行するために必要な能力があることを示した後に、研修生に完全に任せることができるようになる,専門職としてのプラクティスの単位)は、個人に焦点を当てている。この2つを関連づけようとすると摩擦が生じる可能性があり、問題は、この2つを両立させることができるのかということである。多職種間EPAやチームEPAは有用な概念なのか,そして有用であるならば、どのような形であるべきなのか?著者らは、現代の医療におけるほとんどの仕事には多職種連携が含まれていると主張している。EPAのなかには、救急チームワーク、多職種チーム会議の運営、手術など、多職種間に固有の性質を強く持っているものがある。一方,多職種間連携にそこまで依存していないEPAもある。著者らは、他のEPAとは対照的に,多職種間のチームEPA(チーム単位で認定されうる、あるいは認定されるべきもの)も、個人を対象とした多職種EPAも、いずれも実行可能な概念ではないと結論づけている。しかし、著者らは、医療従事者を認定し、研修生にほとんどの臨床業務を任せる際には、多職種連携の能力を確認する必要があることを疑問視しているわけではない。ほとんどの EPA に対し,学習者を評価し、委託する決定を行う際には、この点を考慮しなければならない。これは、臨床現場における多職種連携能力の強化に役立つ。

感想:研究論文ではないですが,IPEとEPAというホットトピックについての論考だったので興味深く読みました.EPAはあくまで個人に対するものであり,「この個人は多職種連携ができる能力があるのか」を評価するのがよいということなのでしょうか.

医療ニーズの高い集団の異質性

Heins M, Korevaar J, Schellevis F, Rijken M. Identifying multimorbid patients with high care needs - A study based on electronic medical record data. Eur J Gen Pract. 2020 Dec;26(1):189-195. doi: 10.1080/13814788.2020.1854719. PMID: 33337928.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13814788.2020.1854719?af=R

背景

総合診療の受診、救急医療の利用、計画外の入院を頻繁にしているマルチモビディティの患者は、積極的な統合ケアによる介入から恩恵を受けることができるかもしれない,総合診療医は、これらの「ニーズの高い」患者が誰であるかを常に把握しているわけではない。電子カルテはこれらの患者を特定するための潜在的な情報源である。

目的

マルチモビディティ患者の総合診療の電子カルテから治療ニーズが高いことを予測する因子を見つけ出し、その予測値を評価すること。

方法

2 以上の慢性疾患を持つ患者 245,065 人の総合診療の電子カルテを病院請求データにリンクさせた。プロビット回帰分析が行われ、i) 総合診療への受診が年間12回以上あること、ii) 救急部門の受診、およびiii) 計画外の入院を予測した。予測因子は、患者の年齢、性別、罹患率、医療サービス、および前年の医療薬使用であった。

結果

マルチモビディティ患者の11%が、前年の総合診療の受診回数が12回以上であった.これは,前年の受診回数によって信頼のおける予測が可能であった(PPV 42%)。すべての予測因子を含むモデルの予測値はわずかに良好であった(PPV 44%)。救急外来受診と計画外入院(マルチモビディティ患者において12%と7%)の予測精度は低かった(PPVはそれぞれ 27%と20%)。総合診療に頻繁に受診した人は、救急外来を受診した者(29%)や計画外入院をした者(17%)とほとんど重ならなかった。

結論

マルチモビディティ患者の中には、様々な「ニーズの高い」グループが存在する。総合診療のニーズが高い患者は、以前に総合診療を受けたことがあるかどうかで特定することができる。頻繁に救急外来を受診している患者や計画外の入院をしている患者を特定するためには、追加の情報が必要である。

感想

家庭医を頻繁に受診する人と,救急外来を受診する人,予定外入院をする人は,違う集団ですよということを示した研究.解釈は様々で,家庭医療でいろいろ頑張っても予定外入院や救急受診は防げないよ(ambulatory-care sensitive conditionは本当に存在するのか,という根源的疑問に突き当たります)という解釈もあるだろうし,家庭医を受診しない人が救急車で搬送されるのだ,という解釈も,本来なら救急車で運ばれていたであろう人が家庭医の頻回受診により避けられたので,という解釈も可能です.

2021年1月22日金曜日

LGBTQ+に関する教育は重要だと思っているけど知識がない

Gentile D, Boselli D, MacNeill E. Clinician's Experience and Self-Perceived Knowledge and Attitudes toward LGBTQ + Health Topics. Teach Learn Med. 2020 Dec 17:1-25. doi: 10.1080/10401334.2020.1852087. Epub ahead of print. PMID: 33327769.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2020.1852087?af=R&journalCode=htlm20

現象

レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、その他の性的/ジェンダーマイノリティ(LGBTQ+)の健康トピックに対する臨床医の知識や態度に関する研究は、ほとんどが初期キャリアの小規模なサンプルに頼っている。臨床経験が知識や態度に与える影響については検討されていない。本研究の目的は、医師とadvanced practice provider (水本注:Physician Assistants (PAs), Nurse Practitioners (NPs), Midwives (CNMs),  Certified Registered Nurse Anesthetists (CRNAs)の総称)における(a)LGBTQ+の健康トピックに関する自己認識している知識と態度、(b)臨床経験と自己認識している知識と態度との関係、(c)LGBTQ+に関する医学教育に対する好みを検討することである。

アプローチ

南東部の大規模な多施設医療機関の医師とadvanced practice provider3667人を対象に、オンライン匿名調査票を電子メールで送付した。ロジスティック回帰により、臨床経験、知識、態度の関連性を調べた。

結果

回答者は880人(24.0%)であった。ほとんどが医師(70%)であった。38%が15年以上の臨床経験を有していた。54%がオンライン教育を好んでいた。LGBTQ+の健康に関する6つのトピックについて高度な知識を持っていると答えた人はほとんどいなかった(6%ー10%)。大多数は、これらはすべての医師にとって重要である,あるいは非常に重要であると回答した。人口統計を考慮した後では、経験は知識や態度とは関連していなかった。

洞察

肯定的な態度であるにも関わらず知識のギャップがあることは、LGBTQ+患者に関する追加トレーニングが必要であり、それが十分に受け入れられる可能性が高いことを示唆している。経験が知識や態度に影響を与えないことから、研修はあらゆる経験レベルの臨床医に適用可能であることが示唆された。今後の研究では、LGBTQ+の健康に関するトピックに対する知識や態度が、文化的能力の高いヘルスケアの実践に影響を与えるかどうかを判断すべきである。

感想

とてもいい研究だと思う.いざLGBTの教育実践を始める前に,現状を把握しておこうという意図だろう.重要だと思っているけど知識がない,というのは,私のテーマであるSDHでも同じかなと思います.回答率の高さをどのように実現したのかが気になります.

夜更かしは睡眠の質を下げるのか

Zhu L, Meng D, Ma X, Guo J, Mu L. Sleep timing and hygiene practices of high bedtime procrastinators: a direct observational study. Fam Pract. 2020 Nov 28;37(6):779-784. doi: 10.1093/fampra/cmaa079. PMID: 32785594.

https://academic.oup.com/fampra/article-abstract/37/6/779/5891432?redirectedFrom=fulltext

背景

夜更かし(Bedtime procrastination:BP)は、心理学的な観点から睡眠不足の重要な指標であることが証明されている。しかし、BPが睡眠不足に関連する睡眠パターンに与える影響については不明な点が多い。

目的

本研究では、自己申告による睡眠タイミングと衛生習慣の特徴を、高・中等度のBP者と低・中等度のBP者の間で検討することを目的とした。また、これらの特徴と高レベルのBPとの関係を検討することを目的とした。

調査方法

本研究では、合計391名の中国人大学生を募集した。参加者は、人口統計学的指標、睡眠タイミングの変数、睡眠衛生実践尺度(SHPS)およびBP尺度(BPS)に関する質問票に記入した。

結果

高BP者は、SHPSのグローバルスコアとサブドメインスコアが高い傾向があった(Ps < 0.001)。また、平日と週末の両方で、睡眠の開始、睡眠の終了、起床時間が遅くなる傾向があった(Ps < 0.01)。高BPの有病割合に対する有意な独立決定因子は以下の通りであった。SHPS合計スコア[オッズ比(OR)=1.05、P<0.001]、覚醒関連行動(OR=1.07、P<0.007)、睡眠スケジュールとタイミング(OR=1.12、P<0.001)、平日の睡眠開始(OR=2.65、P<0.001).

結論

高BP者は不適応な睡眠関連変数を示し、主に覚醒関連行動の変化、睡眠スケジュールとタイミングの変化、平日の入眠時間の遅れなどが明らかになった。この知見は、プライマリ・ヘルスケアにおける適切な介入の策定の指針となる可能性がある。

感想

夜更かしが睡眠衛生に与える影響ってはっきり分かっていなかったのですね.プライマリケアならではというか、真剣に臨床しているからこそ出てくるRQだなと思いました。

2021年1月21日木曜日

GPは裁量の幅が大きい緩和ケアプログラムが好き?

Leysen B, Schmitz O, Aujoulat I, Karam M, Van den Eynden B, Wens J. Implementation of Primary Palliative Care in five Belgian regions: A qualitative study on early identification of palliative care needs by general practitioners. Eur J Gen Pract. 2020 Dec;26(1):146-153. doi: 10.1080/13814788.2020.1825675. PMID: 33078644; PMCID: PMC7592891.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13814788.2020.1825675?af=R

背景

最適な緩和ケアを提供するために、一次緩和ケアのためのケアパスウェイ(CPPPC)が開発された。このCPPPCは、ベルギーの5つの緩和ケアネットワークの地域で総合診療医によって実施された(2014年~2016年)。ベルギーの医師は治療の自由度が高く、ガイドラインに従うことが一般的ではない。

目的

CPPPCとその実施プロジェクトが公開される前に、総合診療医によって緩和ケアがどのように提供されていたかを評価する。

方法

2013年から2015年にかけて、総合診療医を対象とした7つのフォーカスグループが実施された。フランス語圏のフォーカスグループ3つに15人、オランダ語圏のフォーカスグループ4つに26人の総合診療医が参加しており、年齢、性別、緩和ケア経験、診療の状況などで多様性が見られた。一部の総合診療医は後にCPPPCを実施した。

結果

総合診療医は緩和ケアの各症例をユニークなものと考え、厳格なプロトコルを嫌っていた。しかし総合診療医は,ピアレビューと省察的枠組みの必要性を表明した。総合診療医は緩和ケア患者を「タイムリーに」特定することが重要であると感じているが、これは難しいと考えている。スクリーニング法は役立つが、広く使われていないと感じている。総合診療医は、非がん患者での緩和ケアのニーズを特定することに最も苦労していた。悪い知らせを伝えることは難しいと考えられた。ケアの継続性は非常に重要であると考えられた。しかし,アドバンスケアプランニングはフランス語圏のGPよりもオランダ語圏のGPの方が広く実践されているようであった。緩和ケアのタブーは感情的な議論を引き起こした。

結論

総合診療医が「オーダーメイド」のケアを提供するのを助ける緩和ケアの枠組みは、厳格なプロトコルよりも採用される可能性が高い。総合診療医は、悪いニュースを切り出すときのための教育を受けるべきである。緩和ケアとアドバンスケアプランニングの実践は地域によって異り,ガイドラインの普及計画はこの地域の違いを尊重すべきである。

感想

日本も医師の裁量が高いので,自由度を残したプロトコルの方が受け入れられやすいというのは実感と合致します.これも一種の実装研究で,プロトコルを作って終わりではなく,それをどうやったら使ってもらえるかについて研究しています.

マイルストーンはどのように順次達成されるのか

Tanaka P, Park YS, Roby J, Ahn K, Kakazu C, Udani A, Macario A. Milestone Learning Trajectories of Residents at Five Anesthesiology Residency Programs. Teach Learn Med. 2020 Dec 17:1-10. doi: 10.1080/10401334.2020.1842210. Epub ahead of print. PMID: 33327788.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2020.1842210?af=R&journalCode=htlm20

構築

半年ごとに、研修プログラムは、研修医のマイルストーンレベルの達成状況をACGME(Graduate Medical Education Accreditation Council for Graduate Education)に報告する。マイルストーンによって、学習者と研修プログラムは個人の能力開発の軌跡を知ることができるようになる。

背景

専門分野別にグループ化された研修医(例:内科と救急医学)のマイルストーンレベルの評価から、全体として、初期研修医よりも後期研修医の方が高い評価を受けていることがわかる。麻酔科のマイルストーンは、研修医と教員の両方によって評価されるものであるが、これも卒後年数との間に正の線形関係がある。しかし、これらの研究は縦断的なコホート研究ではなく横断的なものであり、研修期間中に個々の研修医がどのように進歩していくかについての研究が必要である。パフォーマンス評価の軌跡を縦断的にデータ分析することは、Next Accreditation Systemの妥当性に関する問題への対応となる。私たちは、以下の目的のために,縦断的なマイルストーンデータに学習分析を適用することについてを検討した.1)「直進性」の頻度を測定する。2)各サブコンピテンシーについて、卒業までに「レベル4」(教師なしでの実践が可能な状態)に到達した研修医の割合を評価する。3)ベースラインのマイルストーンレベルと改善率におけるプログラム間および個々の居住者間のばらつきを特定する.4)仮説的に構築された成長曲線モデルがACGMEに報告されたマイルストーンデータにどのように適合するかを決定する。

アプローチ

2014年7月1日から2017年6月30日までにACGMEに半期ごとに提出された25のサブコンピテンシーのマイルストーンレベル評価について、5つの麻酔科レジデンシープログラムから得た便宜的に抽出したサンプルを用いて,研修医(n = 67)を対象にレトロスペクティブに分析した。データは、臨床麻酔科研修1年目の初めから3年目および最終年の終わりまでの縦断的な研修医のマイルストーンの進行を反映していた。直進性を,ある6ヶ月間にわたるレポートで,25のサブコンピテンシーすべてについて同等のマイルストーンレベルの評価を受けた研修医と定義し、各プログラムごとにその頻度を算出した。すべての研修医は研修中に6回評価されたため,直進性があるという評価を最大6回受ける可能性があった。

結果

各プログラムの研修医数は5-21名(中央値13名、レンジ16名)であった。サブコンピテンシーの平均マイルストーンレベル評価は、各6ヵ月間で有意に異なっていた(p<0.001)。直線化の頻度は、プログラムによって9%~57%(中央値22%)と有意に異なっていた。プログラムにより様々だが、53%~100%(中央値86%)の研修医が25の麻酔科サブコンピテンシーすべてで卒業目標レベル4以上に到達していた。9~18%の研修医が、研修期間中に少なくとも1つのサブコンピテンシーでレベル4に到達しなかった。初年度の臨床麻酔科研修マイルストーンレベルと、6つのコアコンピテンシーのうち5つの改善率で,プログラム間で大きなばらつきが見られた。

結論

ACGMEに報告されている麻酔科研修医のマイルストーンレベルの成長の軌跡は、プログラムによってだけでなく、個々の研修医によっても大きく異なっていた。本研究は、現在いくつかの研修医プログラムで使用されているNext Accreditation Systemの有効性について懸念を抱かせる事例を提供している。

感想

マイルストーンは直線的な成長を仮定しているが,そうではないかもしれない,ということだろうか.

2021年1月20日水曜日

緊急じゃないのに小児ERを受診する理由

Akbayram HT, Coskun E. Paediatric emergency department visits for non-urgent conditions: Can family medicine prevent this? Eur J Gen Pract. 2020 Dec;26(1):134-139. doi: 10.1080/13814788.2020.1825676. PMID: 33025832; PMCID: PMC7580770.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13814788.2020.1825676?af=R

背景

トルコでは、家庭医は診療時間内にのみ診療を行う一方で,救急サービスは24時間365日無料アクセスできる。緊急でない小児患者であっても、小児救急科(PED)が利用されることが一般的である。トルコでは、なぜ緊急性のない小児医療に家庭医ではなく救急医療が利用されているのかについてのエビデンスはほとんどない。

目的

非緊急のPED受診に影響を与える原因と要因を評価する。非緊急の小児治療で家庭医を利用しない理由を明らかにする。

方法

2019 年 4 月-5 月に Gaziantep 大学 PED で横断調査を実施した。5段階トリアージシステムを用いて非緊急(レベル5)にトリアージされた小児(1ヶ月~16歳)の保護者にアンケートを実施した。

結果

総勢457名の保護者を対象に調査を行った。患者の平均年齢は6.5±4.7歳で、24.5%が慢性疾患を持っていた。保護者の3分の1(33.7%)が子どもの状態を「非常に緊急」と考えていた。家庭医や他の医療機関ではなくPEDを希望する理由として最も多かった(42.5%)のは、子どもの状態が悪化すると考えたからであった。患者のうち253人(55.4%)が診療時間外に受診した。保護者の58.9%が家庭医に満足していたが、子どもの健康状態に問題があるときは家庭医よりも他の専門医を希望すると回答した保護者が大半(67.8%)を占めた。小学校を卒業した学歴のある父親は、家庭医よりも他の専門医を好む傾向が強かった。

結論

親の緊急性の認識と子どもの状態が悪化するという考えが、緊急性がないのにPEDを受診する主な理由である。

感想

家庭医としてはグサグサと刺さる論文ですが,このような受診行動の背景について明らかにする研究はとても大事だと思います.テーマが核心をついている&手法はシンプルという,自分がお手本にするにはとても良い論文だと思いました.

小グループでのアクティブラーニングを学生はどう思っているか

Grijpma JW, de la Croix A, Kleinveld JH, Meeter M, Kusurkar RA. Appreciating small-group active learning: What do medical students want, and why? A Q-methodology study. Med Teach. 2020 Dec 17:1-18. doi: 10.1080/0142159X.2020.1854705. Epub ahead of print. PMID: 33327835.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2020.1854705?af=R

序章

小グループでのアクティブラーニング(Small-Group Active Learning: SMAL)を効果的に行うためには、学生が有意義に学習活動に参加して知識を構築する必要がある。教員は学生をこのプロセスに関与させることに困難を覚えるかもしれない。そこで本研究では、医学生のSMALに対する評価の多様性を、認識論的信念(epistemic belief)と学習アプローチの概念を用いて明らかにすることを目的とした。

研究方法

Q方法論とは、主観性を体系的に研究するために用いられる混合方法論的研究デザインである。アクティブラーニングの方法に関する54のステートメントが作成された。医学生1年生を対象に、これらの記述に対する同意度を順位付けし、その理由を説明してもらった。データの分析には、by-person因子分析を用い、共通の視点を持つ参加者をグループ化した。

結果

4因子のsolution(すなわちプロファイル)が、52人の学生から収集したデータに最もフィットし、分散の52%を説明した。それぞれのプロファイルは、SMALに関する共通の視点を記述していた。私たちは、プロファイルを「理解志向」「評価志向」「グループ志向」「実践志向」として特徴づけた。

議論

4 つのプロファイルは、学生が SMAL をどのように評価しているのか、そしてなぜ評価が異なるのかを説明している。教師は、学生の認識論的信念や学習へのアプローチに関連して、SMALの授業を設計して教える際に、より良い情報に基づいた意思決定をするために、プロファイルを使用することができます。これにより、学生のSMALに対するモチベーションと関わり方が向上するかもしれない。

用語確認:Q方法論 Q-methodology

http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000005405/2-552.pdf

Q方法論についてかなり詳しく書かれており,興味があれば一読を.以下,簡潔にまとまっている個所を引用する.

価値観を解明する有効なアプローチとしてQ方法論(Q methodology) がある。これは人々の価値観や世界観、ある事象への意味付けなどの主観的な 考え(subjectivity)に焦点を当て、その中から主要な視点を総体的に明らか にすることを目指す手法である。一般的には、視点を明らかにするために必要なアイテムのセット、いわゆるQセット(Q set)を作成した上で、それを一定の分布に従って並べるQ分類(Q sort)を参加者が実施する。このQ分類を通じて量的なデータを収集した上で、そのデータを因子分析にかけることに よって主要な視点を抽出し、その意味を解釈する。量的調査に加えてインタビューなどの定性的な手法を組み合わせる混合研究法が推奨されており、そうすることで調査対象となる人々が持つ視点を豊かに明らかにすることが可能となる。

日本語だと他に看護研究で使用例があった。

http://www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/data/file/data1_20180625052558.pdf

あとは農水省にリンクのある

https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/170731_30kyokyu4_05.pdf

がありました。

以下のような背景があって今は軸の回転を考慮する因子分析の方が主流で、Q方法論はあまり行われていないと自分なりに理解しました。

http://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900025601/

感想

Q方法論を初めて知りました.

2021年1月19日火曜日

末梢神経障害は死亡と関係している

 Hicks CW, Wang D, Matsushita K, Windham BG, Selvin E. Peripheral Neuropathy and All-Cause and Cardiovascular Mortality in U.S. Adults : A Prospective Cohort Study. Ann Intern Med. 2020 Dec 8. doi: 10.7326/M20-1340. Epub ahead of print. PMID: 33284680.

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1340

背景

糖尿病がないとしても末梢神経障害はよくある病態であることを示すエビデンスが増えている。しかし、一般集団における末梢神経障害の臨床的後遺症については定量評価されていない。

目的

米国の一般成人集団における末梢神経障害と全死因死亡および心血管死亡との関連を評価すること。

デザイン

プロスペクティブコホート研究

設定

NHANES(国民健康・栄養調査)、1999年~2004年。

参加者

末梢神経障害に関する標準化されたモノフィラメント検査を受けた40歳以上の成人7116人。

測定法

人口統計および心血管リスク因子を調整した後の全死亡率および心血管死亡率と末梢神経障害の関連を評価するためCox回帰を行った.糖尿病の状態によって層別化した。

結果

末梢神経障害の全有病率(±SE)は13.5%±0.5%(糖尿病のある成人では27.0%±1.4%、糖尿病のない成人では11.6%±0.5%)であった。中央値13年間の追跡期間中に、2128人の参加者が死亡し、そのうち488人は心血管の原因によるものであった。全死因死亡の発生率(1000人年当たり)は、糖尿病および末梢神経障害を有する成人で57.6%(95%CI、48.4~68.7%)、末梢神経障害を有するが糖尿病を有さない成人で34.3%(CI、30.3~38.8%)、糖尿病を有するがPNを有さない成人で27.1%(CI、23.4~31.5%)、糖尿病を有さないがPNを有さない成人で13.0%(CI、12.1~14.0%)であった。調整モデルでは、糖尿病のある参加者では、末梢神経障害は全死因死亡(ハザード比(HR)1.49[CI:1.15~1.94])および心血管死亡(HR 1.66[CI:1.07~2.57])と有意に関連していた。糖尿病のない参加者では、末梢神経障害は全死因死亡率と有意に関連していた(HR 1.31[CI:1.15~1.50])が、末梢神経障害と心血管死亡率との関連は調整後では統計的に有意ではなかった(HR、1.27[CI、0.98~1.66])。

限界

有病率の高い心血管系疾患については自己申告であり、末梢神経障害はモノフィラメント検査のみで定義された。

結論

末梢神経障害は、糖尿病がない場合でも、米国の集団では一般的であり、死亡率と独立して関連していた。これらの所見は、足の感覚の低下が一般集団では死亡の危険因子として認識されていない可能性を示唆している。

感想

糖尿病患者では足の診察をできるだけするようにはしているが,糖尿病がない場合でも末梢神経障害がみられることがあり,それが死亡とも関係しているという,インパクトが大きい研究.本文を読むと,糖尿病には至らないまでも代謝系の異常が背景にあるのではという考察がされている.

WPBAの評価としてのEPAの実装

Bray MJ, Bradley EB, Martindale JR, Gusic ME. Implementing Systematic Faculty Development to Support an EPA-Based Program of Assessment: Strategies, Outcomes and Lessons Learned. Teach Learn Med. 2020 Dec 17:1-31. doi: 10.1080/10401334.2020.1857256. Epub ahead of print. PMID: 33331171.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2020.1857256?af=R&journalCode=htlm20

課題

コンピテンシーに基づいた新しい評価プログラムを開発するためには、実装を成功に導くプロセスを測定する計画を作成する必要がある。実装科学の原則は、教育プログラム内の変革的変化を支援し維持するための主要な推進要因を考慮することの重要性を概説している。評価の枠組みとしてEntrustable Professional Activity(EPA)を導入することで、評価者が評価の新しいパラダイムに従う準備をするための構造化された計画を作成する必要性が強調される。職場基盤型評価(workplace-based assessment)のための評価者トレーニングへのアプローチはこれまで記述されてきたが、学生がどの程度の監督を必要としているかに関連する基準を採用する準備を評価者が行うための具体的な戦略については文書化されていない。

介入

カリキュラムにおけるクラークシップのフェーズにおいて,医学生の EPA 評価を完遂させるために、評価者、教員および大学院研修生を準備するための体系的なアプローチについて記述する。この機関全体を対象としたプログラムは、実際の患者との出会いの中で学習者を直接観察する際における評価者のスキルを向上させることを目的としている。評価者は、学習者が臨床業務を遂行するために必要な監督のレベルを決定するために、すでに設定したパフォーマンスの期待値を使用する際に新しい知識と実践スキルを適用する。評価者はまた、学生をコーチングし学生の継続的な臨床的成長を促進するために,フィードバックと説明的なコメントを提供することも学ぶ。評価者のためのデータの可視化は、研修中に学習した重要点の強化を促進する.教員育成セッションでの共同学習とピアフィードバックは、評価者間の実践コミュニティの形成を促進する。

背景

評価者のための教員養成は、EPA プログラムの実施に先立って実施された。本プログラムの評価者には、学生と密接に連携する研修医/フェロー、専門分野に特化した専門知識を持つ教員、およびコンピテンシーベースの EPA 評価の専門家(Master Assessor)として選ばれた経験豊富な臨床医のグループが含まれている。研修では、学生の成績評価に使用される基準の適用についての共通理解を深めることに重点が置かれた。AAMCのCore Entrustable Professional Activities for Entering Residencyに基づくEPA評価は、9つのコアクラークシップで実施された。EPA評価には、学部医学教育での使用を目的に修正された尺度に基づく監督評価が含まれていた。

影響

プログラムの初年度に完了した EPA 評価のデータを分析し、評価者が一貫して評価基準を適用できるように準備するために実施された教員育成活動の有効性を評価した。研修ならびに重要な推進要因への注意喚起に対する体系的なアプローチにより、教育機関全体での実施が可能となり、あらゆるタイプの評価者が実施した学生に対する最初の EPA 評価に対する監督の評価、評価者が特定の臨床状況において実施した評価、および臨床状況を超えて特定の評価者グループが 割り当てた評価に一貫性が見られるようになった。

学んだ教訓

既存のインフラを利用して柔軟に対応し、潜在的な参加者に働きかけようとする意欲を持った教員育成への体系的なアプローチは、評価者の新しい評価文化への関与を促進することができる。研修セッション中の参加者間の交流は、学習を促進するだけでなく、コミュニティの構築にも貢献する。ファカルティ・ディベロップメントを監督する責任のある指導者グループは、利害関係者のニーズに対応し、評価文化の変化が持続することを保証することができる。

感想

またもやEPAの実装に関する報告.WPBAの評価としてのEPAをどのように実装するかについては,色々課題があるのだが,評価の質を一定にするとりくみを事前に行っておくことで効果が見込めるということですね.JPCAでも新家庭医療でCOTやMSFを行うことを求めていますが,実装研究してみたくなりました.

2021年1月18日月曜日

共感の成長軌跡

Piumatti G, Abbiati M, Baroffio A, Gerbase MW. Empathy trajectories throughout medical school: relationships with personality and motives for studying medicine. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2020 Dec;25(5):1227-1242. doi: 10.1007/s10459-020-09965-y. Epub 2020 Feb 24. PMID: 32095990.

https://link.springer.com/article/10.1007/s10459-020-09965-y

共感性は、医学教育研究において常に広く議論されているテーマである。医学生の共感性の変化に関する研究は結論がまちまちであり、共感性が低下する場合もあれば、安定している場合もあれば、上昇する場合もある。共感性の変化における個人間の変動性、すなわち共感性の縦断的な軌跡には様々なものがあるのかについては、ほとんど研究が行われていない。また、共感性の軌跡と,性格や医学を学ぶ動機との関連性についてのエビデンスも乏しい。

本研究では,潜在成長モデル(latent growth modeling)を用いて、201人の医学生(念帝の中央値:20.74、女性が57%)の共感性(Jefferson Scale of Empathyで測定)を、入学時(1年目)と臨床に出たての2年間(4年目と5年目)という3つの時期に評価を行った。共感の軌跡、1年目における医学生の性格、4年目と5年目のそれぞれにおける医学を学ぶ動機との関連性が検証された。

共感性の軌跡は、低値かつ減少しているグループ(n=59、29%)と、高値かつ安定しているグループ(n=142、71%)の2つに分けられた。回帰分析では、1年目の評価時に高い開放性がある学生ほど、より高く安定したグループに属する確率が高くなることが示された(1年目における動機についてコントロールを行っている)。開放性がおよぼす効果は,4年目と5年目における動機をコントロールすると消失したが、患者への思いやり(4年目と5年目)と利他主義(4年目)は、高値かつ安定したグループに属する可能性に正の関連をしめした。

要約すると、共感性はほとんどの医学生で安定しているが、少数の医学生では低下していた.医学学習に対し開放的で患者志向の医学生は,共感性が高値かつ安定していることがわかった。医学生の患者志向の動機を臨床実習期間を通して臨床に出る前から促すことで、共感性の低下を防ぐことができるかもしれない。

用語解説:潜在成長モデリング latent growth modelling

成長の軌跡を推定するために構造方程式モデリング( structural equation modeling:SEM)フレームワークで使用される統計的手法であり,一定期間の成長を推定するための縦断的な分析手法である。潜在成長曲線分析(latent growth curve analysis)とも呼ばれる。(Wikipediaより)

感想:①共感性はもとから低くてさらに低くなるグループと,もとから高くて安定しているグループがある,②開放的かつ患者志向の学生は高値安定の流れになりやすい.という2点が明らかになった.SEMはまだ詳しく勉強していないし,私にできる気はしないが,とても面白くわかりやすい論文だと思った.

マンモグラフィーのエビデンスに対する家庭医の認識

Siedlikowski S, Grad R, Bartlett G, Ells C. Physician Perspectives on Mammography Screening for Average-Risk Women: "Like a Double-Edged Sword". J Am Board Fam Med. 2020 Nov-Dec;33(6):871-884. doi: 10.3122/jabfm.2020.06.200102. PMID: 33219066.

https://www.jabfm.org/content/33/6/871.full

背景

マンモグラフィ検診は,有益性と有害性のバランスを検討するに、平均的なリスクを持つ女性に体系的な検診を行うべきかは疑問視されている。スクリーニングをするかどうかの決定はプライマリケアで行われることが多いため、家庭医がマンモグラフィ検診に関するエビデンスについてどのように考えているのか、またこの情報を実際にどのように利用しようとしているのかを理解することが重要である。

方法

横断的デザインを用いて、我々は、医師参加者のグループに毎日Patient-Oriented Evidence that Matters(POEM:研究に基づく短文のパール)を評価してもらい,データを得た。医師は、妥当性の評価された情報評価法に基づいて、クローズドおよびオープンエンドの質問に回答した。量的データは記述的統計を用いて評価した。質的データは帰納と演繹を反復するテーマ分析で分析した。これらのデータはサブテーマに整理され、主要なテーマにグループ化された。

結果

4 つの関連する POEM が特定された。これらのPOEMはそれぞれ1243人から1351人の医師によって評価され、POEMの評価により310のコメントが生み出された。3つの主要なテーマが4つのPOEMすべてに渡って浮上した。1)POEMで提示された情報の視点、2)この情報を実践に応用すること、3)臨床的・文化的現実に直面すること。我々の調査結果は、医師がマンモグラフィ検診に関する研究ベースの情報を評価し、この情報を診療に利用する方法の重要な違いを浮き彫りにした。

結論

マンモグラフィ検診についてのPOEMは、有害性と有益性についての認識を高めるが、変化のプロセスがどのように複雑であるかを示す根深い考えがある。要約すると、平均的なリスクを持つ女性に対する乳がん検診を再考することはハードルの高い課題である。

感想

4つのPOEMは以下の通り.1. Overdiagnosis of breast cancer is common. 2. Numbers to help women understand the benefits/harms of screening mammography. 3. Mammography doesn’t decrease cancer-related deaths long term. 4. Mammogram decision aid slightly increases informed decisions by women.

実際の現場ではエビデンス通りに診療が行われていないことが多いです.この研究では,マンモグラフィーのエビデンス(を短文の形に要約したPOEM)を家庭医がどのように診療に反映させているかを明らかにすることで,どうしてギャップができるのかの一端を明らかにしようとしているのではないかと思いました.エビデンスだけでなく様々な要因が意思決定に絡んでいることが描写されています.

2021年1月17日日曜日

医学教育研究は学際的なのか

Albert M, Rowland P, Friesen F, Laberge S. Interdisciplinarity in medical education research: myth and reality. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2020 Dec;25(5):1243-1253. doi: 10.1007/s10459-020-09977-8. Epub 2020 Jun 24. PMID: 32583329

https://link.springer.com/article/10.1007/s10459-020-09977-8

医学教育研究コミュニティの特徴は複数の分野および研究領域(例:社会学、人類学、教育学、人文科学、心理学)からの洞察、方法、知識を活用していることにある。医学教育研究に対するこの共通の見解は、主要な医学教育の学科や研究センターが、自分たちの活動を「学際的」と表現することによって,増幅・補強されている。

計量書誌学Bibliometricsとは、どのような知識が評価され、認識され、利用されているかを同定するために、学術コミュニケーションを調査する効果的な方法を提供する。本論文では,医学教育研究における知識生産が,複数の分野や研究領域から得られたものなのか、それとも主に医学教育研究の分野の内部で生成された知識に基づいているのかを実証的に検証することで、医学教育研究を特徴を「学際的」と表現することは実際に基づくものなのかを探る。

上位5誌の医学教育研究誌に2017年に掲載された研究論文から抽出された引用文献1412件の分析を行った。6つの知識クラスター類型が帰納的に形成された。その結果、医学教育研究分野は、主に2つの知識クラスターから構成されていることがわかった.参考文献の41%を占める応用健康研究クラスター(臨床研究および医療サービス研究で構成)と、参考文献の40%を占める医学教育研究クラスターである。この 2 つのクラスターが全文献の 81%を占めており、残りの 19%は他の知識クラスター(教育研究、特定の学問分野における研究、学際的研究、トピック中心の研究)に分散していた。

応用健康研究と医学教育研究のクラスターが準覇権的な立場にあるため,他の知識源は医学教育研究分野において周辺的な役割を果たすにとどまっている。我々の調査結果から、医学教育研究が学際的な分野であるという仮定は、実証データによって説得力を持って裏付けされるものではなく、医学教育学に入ってくる知識はほとんどが健康研究の領域から来ていることを示唆している。

感想:「研究の研究」という印象を受ける論文.学際的とは名ばかりで,実際は決まった分野から知的財産を引っ張り出しているのだという現実を突きつけたという意味で,価値ある論文.まあでもたしかにそうだよなという感じはする.これが研究になること自体が,医学教育学が学際的であることの証のような気もする.新しいトピックに新しい視点を導入する研究をしたい.

本当にNSAIDsは腎臓に悪いのか

Amatruda JG, Katz R, Peralta CA, Estrella MM, Sarathy H, Fried LF, Newman AB, Parikh CR, Ix JH, Sarnak MJ, Shlipak MG; Health ABC Study. Association of Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs with Kidney Health in Ambulatory Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2020 Dec 10. doi: 10.1111/jgs.16961. Epub ahead of print. PMID: 33305369.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.16961?af=R

背景・目的

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、特に高齢者において腎障害を引き起こす可能性がある。しかし、これまでに報告されたNSAID使用と腎臓の健康アウトカムとの関連は一貫性がなく、血清クレアチニンに基づくGFR推定値に依存している点で知見は限定的である。本解析では、複数の腎機能指標を用いて、NSAIDs使用と高齢者の腎障害との関連を調査した。

デザイン

横断分析と縦断分析。

設定

多施設共同、地域基盤型コホート。

参加者

Health ABC Studyに参加した2,999人の高齢者。追加のバイオマーカー測定のために、サブコホート(n = 500)が無作為に選択された。

曝露

処方薬と市販のNSAIDsの使用については、自己申告で確認した。

測定方法

2,999人の参加者を対象に、シスタチンC(cysC)による推定糸球体濾過率(eGFR)、尿中アルブミン対クレアチニン比(ACR)、腎障害分子(KIM-1)、およびインターロイキン-18(IL-18)のベースライン値を測定した。α-1マイクログロブリン(α1m)、好中球ゲル化酵素関連リポカリン(NGAL)、プロペプチドIII型プロコラーゲン(PIIINP)、およびウロモデュリン(UMOD)は500人の参加者を対象に測定した。GFRは10年間で3回推定し、1年あたりの変化率で表した。

結果

参加者の平均年齢は74歳で,51%が女性、41%がアフリカ系アメリカ人であった。ベースライン時のeGFRは、NSAID使用者(n = 655)と非使用者(n = 2,344)の間で差は認められなかった(両群とも72ml/min/1.73m2)。非使用者と比較して、NSAIDs使用者ではACRが30mg/gを超える調整オッズが低く(0.67;95%信頼区間(CI)=0.51-0.89)、ベースライン時の平均尿中IL-18濃度が低かった(-11%;95%CI=-4%~-18%)が、平均KIM-1濃度は同程度(5%;95%CI=-5%~-14%)であった。残りの尿バイオマーカーのベースライン濃度には有意差は認められなかった。NSAID使用者と非使用者では、eGFRの低下率に有意差はなかった(1年あたり-2.2% vs. -2.3%)。

結論

自己申告によるNSAIDの使用は、複数の尺度に基づく腎機能低下や腎障害とは関連しておらず、外来高齢者における腎障害を伴わないNSAIDsの使用の可能性が示唆された。NSAIDsの安全な服用パターンを定義するためには、さらなる研究が必要である。

感想

家庭医療っぽい研究ではないが,リアルではどうなっているかを複数の指標を用いて検証しているという意味で,家庭医にとって価値ある論文だと思う.NSAIDs使用が自己申告なのでその点に注意.

2021年1月16日土曜日

クラークシップで学生が何をしてよいかをだれが決めているか

Pinilla S, Kyrou A, Maissen N, Klöppel S, Strik W, Nissen C, Huwendiek S. Entrustment Decisions and the Clinical Team: A Case Study of Early Clinical Students. Med Educ. 2020 Dec 10. doi: 10.1111/medu.14432. Epub ahead of print. PMID: 33301632.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/medu.14432?af=R

目的

臨床学習の文脈により,entrustment decision(自分で責任をもって行う決定)への医学生の関与の仕方が左右される.しかし、学生と医療チームのメンバーがentrustment decisionのプロセスをどのように認識しているかは不明である。本研究では、臨床ローテーションの初期段階で、どのような要因がentrustment decisionに関連していると,学生とチームメンバーが考えているのかを検討した。

方法

大学の教育病院において,クラークシップ期間中の医学生28名と医療チームメンバー4名にインタビューを行い、ケーススタディを実施した。社会構成主義的な認識論のもと、半構造化インタビューを用いて、その場限りのentrustment decisionに対する学生と医療チームメンバーの認識を探った。インタビューの記録と学生とのフィードバックラウンドのメモが分析に使用された。

結果

コアクラークシップ中の医学生は、研修医を教育上の重要な門番であり、entrustment decisionを行う上で重要な促進役であると認識していた。もう一つの重要なテーマは、学生のモチベーション、自発性、医療チームや患者との関わりへの意欲に関するものとして浮上した。学生は様々な医療チームのメンバーとの信頼形成プロセスに積極的に関与していた。entrustment decisionのプロセスは、医療チームのメンバー全員と患者を巻き込む,多面的かつダイナミックなものであると認識されていた。また、インタビューデータからは,看護師や心理士を含む複数のentrusting supervisorが浮かび上がってきた。彼ら/彼女らは、クラークシップ生とともに、またクラークシップ生のために、entrustment decisionの交渉に積極的な役割を果たし、機会を促進することも阻害することもあった.entrustment decisionは,多面的な監督者ネットワークの相互作用の結果として現れたものであった。

結論

学生を臨床チームに統合する指導医の能力は、医学生が臨床活動で責任をもって業務を果たす機会を促進するための重要な要素であると考えられる。また、医療チームのメンバーからなる非公式な監督者ネットワークが学生を積極的にマネジメントしていることや、チームメンバーが学生の教育に責任を持とうとしていることが、その場限りのentrustmentに関連する側面として浮かび上がった。これらのデータは、多職種からの監督が医学生の臨床教育に有益であることを示唆しており、さらなる検討が必要であると考えられる。

感想

めちゃ面白い論文.臨床実習で医学生が責任をもって何かを行う(日本だと,情報収集,身体診察,カルテ記載,患者への簡単な説明などでしょうか)ときに,それを現場でだれがどのようにマネジメントしているのか,という論点.1つ目は,研修医が指南役になっている,ということ.2つ目は,多職種がいろいろかかわって,やってみたら,とか,やらないでね,とか言っている,ということ.かつそれは,その場において即興的になされる決定である,ということですね.

言語化されたら,たしかにそうだよなという感覚.一方で日本の卒前実習だと,そこまで学生が積極的にかかわらないのではという印象がある.学外の地域医療実習などでより当てはまりそうな知見だと思いました.

EPAを設定して監督しようと思っても,結局は現場の多職種や研修医が,学生がどのくらいできるか決めちゃうのだなぁという解釈もできるかと思います.

高齢者にやさしい健康システムの実装

Lundy J, Hayden D, Pyland S, Berg-Weger M, Malmstrom TK, Morley JE. An Age-Friendly Health System. J Am Geriatr Soc. 2020 Dec 4. doi: 10.1111/jgs.16959. Epub ahead of print. PMID: 33275785.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.16959?af=R

背景・目的

高齢者にやさしい健康システムの4Mを活用した農村部の医療システムにおいて、老年症候群のスクリーニングと介入プログラムを実施し、その一環として運動療法と認知刺激療法(CST)を実施することを目的としている。

デザイン

臨床データのレトロスペクティブ評価

設定

農村のプライマリ・ヘルスケア・システム

参加者

ミズーリ州ペリー郡の65歳以上の高齢者。

測定方法

老年症候群のスクリーニングは、FRAIL、SARC-F、簡易栄養性食欲質問票(SNAQ)、および迅速認知機能検査(RCS)を含む迅速老年医学評価(RGA)を用いて行われた。運動とCSTのアウトカムには、Five Times Sit to Stand(FTSS)およびTimed Up and Go(TUG)テスト、Cornell Scale for Depression in Dementia(CSDD)、Saint Louis University Mental Status Examination(SLUMS)、QoL-AD(Quality of Life in Alzheimer's Disease:アルツハイマー病におけるQoL-AD)測定が含まれた。

結果

RGAは1,326人を対象に実施され、うち虚弱者36.5%、サルコペニア42.1%、食欲不振リスク26.1%、認知症20.8%であった。運動療法を受けたこれらの患者のうち、FTSSとTUGはともに3ヵ月後と12~24ヵ月後で改善していた。CST群では、SLUMS、QoL-AD、CSDDは7週間後と6~12ヵ月後で改善していた。

結論

老人症候群のスクリーニングプログラムを導入し、運動や認知刺激療法のプログラムを成功させて対応することは実現可能である。

用語解説

4M:https://www.aha.org/system/files/2018-05/at-a-glance-age-friendly-5-30.pdf を参照

What Matters: Know and act on each older adult’s specific health outcome goals and care preferences across settings.

Medications: If medications are necessary, use age-friendly medications that do not interfere with what matters, mentation or mobility.

Mentation: Identify and manage depression, dementia and delirium across care settings.

Mobility: Ensure that older adults at home and in every setting of care move safely every day in order to maintain function and to do what matters.

感想:これも実装についての論文.やっていることはシンプルだが,実践を形にするのはとても大事. 

2021年1月15日金曜日

認知フロー(念能力?)のレビュー

McQueen S, Jiang S, McParland A,Mobilio MH, Moulton C. Cognitive Flow in Healthcare Settings: A Systematic Review. Med Educ. 2020 Dec 12. https://doi.org/10.1111/medu.14435

導入

認知フローの状態は、口語では「ゾーンに入った」と呼ばれており、パフォーマンスの向上、幸福感、キャリアの満足度、燃え尽き症候群の減少と関連している。しかし、この概念は、ヘルスケアトレーニング、継続的な専門職開発、または日常的な実践にはあまり採用されていない。本研究では、ヘルスケアにおけるフローのエビデンスをマッピングするために、ナラティブ統合によるシステマティックレビューを実施した。

方法

すべてのヘルスケア分野におけるフローを論じた論文について,MEDLINE、PsycInfo、EMBASEで2019年7月に検索を行い、2020年10月に更新した.1806年から2020年10月13日までに発表された論文を対象とした。2人の著者が独立してタイトルと抄録(およびその後必要に応じてフルテキスト)をレビューし,統合した。意見の相違があればコンセンサスに達するまで議論した。場所、原稿の種類、集団と文脈、対策、主要な所見についてのデータを抽出した。

結果

4923件の抄録が最初に検索され、15件の論文が最終レビューに含まれた。ヘルスケアにおけるフローをサポートするための経験、利点、戦略について報告する。フローは、疲労、燃え尽き、ストレスを軽減しつつ、キャリアの楽しみ、ウェルネス、パフォーマンスを向上させることで、提供者に利益をもたらす可能性がある。他の領域の研究では、個別のトレーニングを通じてフローを支援することに焦点が当てられてきたが、我々の結果は、システムと環境要因の重要性を浮き彫りにしている。

結論

ヘルスケアにおける専門職や研修生のフローをサポートするには、個別の研修やシステムレベルでの介入を含めた全体的なアプローチが必要である。

感想

認知フローについて,システムレビューができるくらい論文が出ているというのが驚き.意図的にゾーンに入ることなんてできるのだろうか.念能力じゃあるまいし.

プライマリケアにおける難聴

Zazove P, Plegue MA, McKee MM, DeJonckheere M, Kileny PR, Schleicher LS, Green LA, Sen A, Rapai ME, Mulhem E. Effective Hearing Loss Screening in Primary Care: The Early Auditory Referral-Primary Care Study. Ann Fam Med. 2020 Nov;18(6):520-527. doi: 10.1370/afm.2590. PMID: 33168680

https://www.annfammed.org/content/18/6/520

目的

米国で 2 番目に多い障害である難聴は、十分な診断と治療が行われていない。早期に難聴を発見することで、既知の重大な有害転帰を防ぐことができる可能性がある。

方法

2 つの医療システムにある 10 の家庭医療クリニックにおいて、55 歳以上の難聴患者を特定して紹介するためのスクリーニングの枠組みを評価するために、複数のベースライン・デザインが実施された。患者は同意書にくわえ,高齢者のための聴覚障害インベントリ(HHI)に記載をした。電子アラートにより、受診時に難聴のスクリーニングを行うよう臨床医に促した。

結果

研究期間中に対象となった14,877人の患者は,36,701回受診した。家庭医療クリニックにおける紹介割合は、1つの医療システムではベースライン時の3.2%から14.4%に、もう1つの医療システムではベースライン時の0.7%から4.7%に上昇した。一般内科での比較群では、紹介割合はベースライン時の3.0%から3.3%に上昇した。HHIを実施した5,883人の患者のうち、25.2%(n=1,484)が難聴を示唆するHHIスコアであったが、これらの患者の紹介割合は28%対9.2%と高かった(P <.001)。聴力検査のために紹介された1,660人の患者のうち、717人の聴力検査データが解析に利用可能であった.669人(93.3%)が適切に紹介され、421人(58.7%)が補聴器の候補者とみなされた。全体では、71.5%の患者が紹介が適切であると感じていた。

結論

55歳以上の患者に難聴について尋ねるように臨床医に注意を促すために電子アラートを使用することで、リスクのある患者への聴力検査の紹介が有意に増加した。聴覚学的およびオージオグラムのデータは、この促進の有効性を支持している。臨床医は、難聴の既知および有害な後遺症の軽減を目的に難聴の患者を特定するために,この方法を採用することを検討すべきである。

感想

①プライマリケアで難聴が見逃されていること,②電子アラートにより紹介が増えること,③その紹介はおおむね適切であることが本研究の結果です.実装を意識した家庭医療らしい研究だと思いました.やっていることは非常にシンプルで,目の付け所の良さでAFMに採用されたのだと思います.臨床やってるぜー感がビシビシ伝わるかっこいい論文です.

2021年1月14日木曜日

心電図解釈の認知プロセス

Wu W, Hall AK, Braund H, Bell CR, Szulewski A. The Development of Visual Expertise in ECG Interpretation: An Eye-Tracking: Augmented Re Situ Interview Approach. Teach Learn Med. 2020 Dec 10:1-20. doi: 10.1080/10401334.2020.1844009. Epub ahead of print. PMID: 33302734.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2020.1844009?af=R&journalCode=htlm20

現象

医学における視覚的な専門技能は、専門的な視覚的行動パターンと高次の認知プロセスとの間の複雑な相互作用を伴う。医学における視覚的専門技能に関するこれまでの研究では、放射線学や病理学などの伝統的に視覚を重視する分野を中心に行われてきた。しかし、心電図の解釈における視覚的専門技能に関する研究は限られている。だが,心電図の解釈は臨床で頻繁に行われる作業であり、高いエラー率と関連している.本研究では、医学生、救急科研修医、救急科主治医での心電図の解釈に対する認知的アプローチの違いを明らかにすることを目的とした、質的主導型のマルチメソッド研究である。

アプローチ

1つの3次大学病院から医学生10名、救急科研修医10名、救急専従医10名を本研究の参加にリクルートした。参加者はスクリーンベースのアイトラッキング装置に映し出された10枚の心電図を解釈した後、アイトラッキングにより映し出される参加者自身の視線の移り行きをみながら、自己アフレコインタビュー(subjective re situ interview)に答えた。インタビューは逐語的に文字起こしされ、参加者のグループ間で創発的テーマ分析(emergent thematic analysis)が行われた。診断速度、精度、視線分布のヒートマップを収集し、量的知見を補完した。

結果

質的分析では、3つの主要なテーマにおけるコホート間の違いが明らかとなった:デュアルプロセス推論、優先順位を付ける能力。これらの質的所見は、各心電図の視線分布のヒートマップによって示された視線の動きの違いと一致していた。経験豊富な参加者は、経験の浅い参加者に比べて、心電図の解釈を有意に早く、正確に完了していた。

洞察

心電図解釈に関連する認知プロセスは、救急医療の初心者と経験豊富な医者で異なっていた。これらのグループ間の心電図解釈に対する認知的アプローチの違いを理解することは、どこでも使えるこの診断スキルを教える際の最善の方策に役立つ可能性がある。

用語確認:

・自己アフレコインタビュー(subjective re situ interview)

cued retrospective recallの一種とされている.録画された自分の行為を見返しながら,ここではこのように考えていたと,その時の認知プロセスを話してもらう.(ゲーム動画の後撮り本人解説実況のようなもの,と理解しました.)日本語で検索結果は出てこず,「自己アフレコインタビュー」というのは私が勝手に作った訳語です.

以下,本文から引用.

Unlike concurrent think-aloud protocols, in which participants are asked to continuously verbalize their thought processes while performing the primary task, cued retrospective recall has little risk of interfering with the primary task. The type of cued retrospective recall used in this study is known more specifically as a subjective re situ interview and has been shown to be effective in other studies that have described physician cognitive processes in various contexts. 

この方法が提唱された論文では,"own-point-of-view" perspecticeと表されている.最近出てきた手法みたいだが,すでに臨床推論等の研究で数例の応用事例が報告されている.

PelacciaT, TardifJ, TribyE, CharlinB. A novel approach to study medical decision making in the clinical setting: the “own-point-of-view" perspective. Acad Emerg Med . 2017;24(7):785–795.

・創発的テーマ分析(emergent thematic analysis)

inductive coding(帰納的コーディング)ともいう.事前に分類を行わずに自由にコーディングする.対となるのはdeductive coding(演繹的コーディング)で,これはあらかじめ設定した仮説やResearch questionに基づいて分析し,適宜修正を加える方法である.

参考にしたサイト:http://www.u.tsukuba.ac.jp/~hirai.akiyo.ft/forstudents/tokkou2019files/forstudents.files/part1.27.R.H.htm

個人的感想

個人的にかなり興味深かった論文.subjective re situ interviewは,自分の研究テーマであるSDHを踏まえた診療や,家庭医の診察技法一般についてもビデオレビューを使えば応用できそう.強い知的興奮を覚えました.

社会的剥奪と関連する処方薬剤

Mooney J, Yau R, Moiz H, Kidy F, Evans A, Hillman S, Todkill D, Shantikumar S. Associations between socioeconomic deprivation and pharmaceutical prescribing in primary care in England. Postgrad Med J. 2020 Dec 11:postgradmedj-2020-138944. doi: 10.1136/postgradmedj-2020-138944. Epub ahead of print. PMID: 33310893.

https://pmj.bmj.com/content/early/2020/12/10/postgradmedj-2020-138944?rss=1

背景

社会経済的剥奪は、健康の不平等と関連している。これまでの研究では、個々の医薬品や薬剤クラスにおいて,プライマリケアにおける処方割合と社会経済的困窮との関連について述べてきた。我々は、社会経済的剥奪と英国のプライマリケアにおける個々の医薬品および薬剤クラスの処方割合との間の相関関係を探求し,さらなる調査を必要とするであろう処方の不平等を特定することを目的とした。

方法

この横断研究では、全国のプライマリケアの処方データ(プライマリケア診療別)を、英国の2019年のデータより取得した。社会経済的剥奪は、Index of Multiple Deprivation(IMD)スコアを用いて定量化した。相関関係は、診療リストのサイズと人口統計データを調整したスピアマンの順位相関係数を使用して計算され、ボンフェローニ補正によりp値の閾値を5x(10の-5乗)とした。

結果

英国の6896の診療で調剤された10億5,000万件の処方品目を対象とした。142/206クラス(69%)の薬剤クラスと,505/774品目(65%)の薬剤がIMDスコアと有意な相関を示した(p<5x(10の-5乗))。その774種類の薬剤のうち、31種類(4%)がIMDスコアと中程度の正の相関を示した(0.4以上)。IMDスコアと中程度の負の相関を示したのは1つだけであり(<0.4)、これはより裕福な地域で処方率が高いことを示唆している。IMDスコアとの関連性が最も高かったのは、オピオイド系および非オピオイド系鎮痛薬、抗精神病薬、食道逆流防止薬であった。豊かさとの関連性が最も高い薬剤は、エピネフリン、経口避妊薬、ホルモン補充療法であった。

結論

我々は、処方と貧困との間に新たな関連性があることを発見した。これらの関連性の根本的な理由を明らかにし、不平等の推進要因に対処するための適切な介入を策定できるようにするためには、さらなる研究が必要である。

感想

社会的剥奪と処方数が関連している薬剤をとりだそうという研究.当然ながら横断研究なので因果は示せないという点に注意.なお,エピネフリンはアナフィラキシーに対する処方だと思われます.

2021年1月13日水曜日

EPAを前方視的に評価する際の課題

Postmes L, Tammer F, Posthumus I, Wijnen-Meijer M, van der Schaaf M, Ten Cate O. EPA-based assessment: Clinical teachers' challenges when transitioning to a prospective entrustment-supervision scale. Med Teach. 2020 Dec 11:1-14. doi: 10.1080/0142159X.2020.1853688. Epub ahead of print. PMID: 33305676.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2020.1853688?af=R

背景

本研究では、Entrustable Professional Activity(EPA)に基づくカリキュラムで,初めて前方視的ES(entrustment-supervision)尺度を使用する際に、臨床指導医が直面する課題について探求した。前方視的ES尺度は、学生がある臨床問題への対応をこれから行うとしたときに,どのレベルの監督下で活動を行う準備ができているかを推定することを目的としている。

方法

我々は、EPA に基づく新しい卒前カリキュラムと, 前方視的ES尺度を用いたEPA に基づく評価が導入された直後に、合目的的に選定した12 名の臨床指導医を対象に半構造化面接を実施し、クラークシップにおける医学生の前方視的評価への移行について調査した。

結果

正しい解釈を示した臨床教員は一定数いたものの,評価戦略はクラークシップ終了時の目標監督レベルの影響を受けているようであった。また、将来どの監督レベルで活動を行う準備ができているかを推定するための指示は必ずしも理解されていなかった。さらに,教員の尺度アンカーの解釈はフレーズに大きく依存していた。

考察

前方視的評価では、観察されたパフォーマンスの報告から将来の監督レベルを推定する判断過程において、臨床指導医に推論のステップを追加で踏むよう求めている。このことは、後方視的でパフォーマンス志向型の評価手法、すなわち観察されたことを報告する手法から発想を転換させることを必要としている。本研究で得られた知見は、ES 尺度の文言を最適化し、ファカルティ・ディベロップメントを改善することを推奨するものである。

用語解説:ES評価尺度

本文中の解説をそのまま引用する.

EPA の枠組みは、ES評価尺度を示唆している。この尺度のアンカーは,ある一定の監督の程度や水準のための準備を記述する点で従来の評価尺度とは異なる。この尺度では、特定の活動に対する臨床指導医の学生への信頼が反映され、全体的に採点される。ES尺度は、後方視的尺度(過去に焦点を当てる)と前方視的尺度(未来に焦点を当てる)に分類できる。後方視的 ES 尺度が,学生が特定の活動(観察された行動)を行っている間に実際に行われた監督の水準を報告するのに対し、前方視的ES 尺度では、将来のパフォーマンスに焦点を当てて、指定されたレベルの監督で活動を行う準備ができているかの推定が必要である。後方視的に策定された尺度アンカーを含むES尺度の例として、外科教育のために設計されたOスコアがある。監督者は、「念のために部屋にいる必要があった」など,実際の場で提供しなければならなかった監督の量をスコア化する。一方,付随記述を用いた前方視的ES尺度の例は以下の通りである。「今日の観察に基づいて、この研修生はこの EPA に対し,次回のレビューの後に監督レベル X で実施する準備ができているであろうと推定する」

感想

EPAの評価手法であるES尺度という言葉を初めて知った.前方視的/後方視的という修飾語は本論文独自のものであるみたいだが,「実際にこれこれをやってもらったときに,このくらいの監督が必要だったよね」が後方視的評価であり,「ということは,次はこのくらいの監督があればできるよね」が前方視的評価である,という解釈でよいと思う.前方視的評価を導入したときに,実際に評価する人がちゃんとできていたか,思ったように評価できていないなら何が問題だったのかを分析した研究であり,新しいプログラムを導入するにあたってこのように綿密に実装を評価して改善点を見つけているのは素晴らしい取り組みだと思う.

実現できない事前指示

Lee RY, Modes ME, Sathitratanacheewin S, Engelberg RA, Curtis JR, Kross EK. Conflicting Orders in Physician Orders for Life-Sustaining Treatment Forms. J Am Geriatr Soc. 2020 Dec;68(12):2903-2908. doi: 10.1111/jgs.16828. Epub 2020 Sep 16. PMID: 32936447.
https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.16828?af=R

背景/目的
慢性疾患を持つ高齢者の多くは、緊急治療に関する携帯可能な医学的指示を文書化するために、「生命維持治療に関する医師による指示書」(Physician Orders for Life‐Sustaining Treatment:POLST)を使用している。しかし、POLSTの中には、一貫した治療プランに翻訳できない指示の組み合わせが書かれているものもある(例:心肺蘇生はするが集中治療は行わない,集中治療はするが抗菌薬は用いない)。本研究では、指示が競合するPOLSTの存在割合とその予測因子を明らかにする。

デザイン
後方視的コホート研究。

設定
大規模な大学病院のシステム

参加者
命に関わる慢性疾患があるPOLST利用者のうち,2010年から2015年の間に死亡した3,123人(平均年齢=69.7歳)。

測定方法
参加者の電子カルテ内のすべてのPOLSTを後方視的にレビューし、心停止や医学的介入の指示が競合するPOLSTの存在割合を記述したうえで、clustered ロジスティック回帰を用いて指示競合の潜在的な予測因子を評価した。また、抗菌薬および人工栄養剤に対するPOLSTの指示と,心停止または医学的介入の指示との間に競合がある割合を調べた。

結果
3,123人の死亡者につけられた完全なPOLST 3,924件のうち、209件(5.3%)のPOLSTには、「心肺蘇生を試みる」指示に,「限定的介入」または「緩和的処置のみ」の指示が付加されていた.745件/3169件(23.5%)のPOLSTには、抗菌薬を制限する指示に、積極的に治療介入を行う指示が組み合わされていた.170件/3098件(5.5%)のPOLSTには、人工栄養を控える指示と、心肺蘇生または集中治療を行う指示とが組み合わされていた。集中治療を行わない指示があるPOLSTのうち、心肺蘇生を試みる指示がある可能性は,患者の疾患経過の早い時期にPOLSTが完成している場合に高かった(調整後オッズ比:POLSTから死亡までの日数が2倍に増加するごとに1.27.95%信頼区間=1.18-1.36.P<0.001)。

結論
ほとんどのPOLSTは臨床医が実行可能なものであるが、5%の患者では心停止と医学的介入の指示が競合し、24%の患者では心停止、医学的介入、抗菌薬、人工栄養の指示が1つ以上競合していた。このような矛盾した指示は、急性期医療の現場の臨床医にとってPOLSTの実施を困難にしている。

感想
ACPは早すぎてもだめ,という従来の知見を指示する結果だと思われる.いざその時に何をしてほしいかを,すべての患者があらかじめ十分理解して指示できるわけではないというのは,当たり前なことなのですが,案外忘れがちになってしまう点でもあります.ちなみに,私は終末期治療についてはpaternalisticな意見を持っていることを自覚しているので,できるだけpaternalisticにならないようにふるまおうとしています.

2021年1月12日火曜日

地域に出るウォーキングツアーでSDHを学ぶ

Cross JJ, Arora A, Howell B, Boatright D, Vijayakumar P, Cruz L, Smart J, Spell V, Greene A, Rosenthal M. Neighbourhood walking tours for physicians-in-training. Postgrad Med J. 2020 Dec 7:postgradmedj-2020-138914. doi: 10.1136/postgradmedj-2020-138914. Epub ahead of print. PMID: 33288683.

https://pmj.bmj.com/content/early/2020/12/07/postgradmedj-2020-138914?rss=1

社会的・経済的要因は患者の健康に大きな影響を与える。しかし、これらの要因に関する教育は、研修医の教育に一貫して組み込まれているわけではない。近隣のウォーキングツアーは、研修医が健康の社会的決定要因(SDoH)について学ぶのに役立つかもしれない。

我々は、近隣のウォーキングツアーが,研修医のSDoHに対する認識、患者に対する健康相談の計画、および地域資源に関する知識に与える影響を評価した。

コミュニティベースの参加型研究アプローチを用いて、2017年に内科、内科/プライマリケア、救急医学、小児科、内科/小児科、内科/小児科の複合、産婦人科を研修している研修医を対象とした近隣ウォーキングツアーのカリキュラムを実施した。ツアーの前後で、参加者に(1)患者の健康に影響を与える個人レベルと地域レベルの要因の重要性をランク付けし、(2)健康行動を改善するために使用した戦略を説明し、(3)地域社会の資源に関する知識を説明するように求めた。

81名の研修医がウォーキングに参加した(ツアー前調査:参加率93%(n=75)、ツアー後調査:参加率53%(n=43))。ツアー前の調査では、患者の健康に影響を与える要因として最も多く言及されたのは「プライマリ・ケアへのアクセス」(67%)だったが、ツアー後の調査では「所得」(44%)と「交通機関」(43%)であった。食事と運動を改善する方法を説明する際に、ツアー前では67%が個人レベルの戦略を、16%が地域レベルの戦略を取り上げていたのに対し、ツアー後では個人レベルの戦略を取り上げたのは39%、地域レベルの戦略を取り上げたのは37%であった。地域資源を知っていると回答した者の割合は5%から76%に変化した(p<0.001)。

ウォーキングツアーは、研修医がSDoHの重要性と地域資源の価値を認識するのに役立ち、健康的なライフスタイルについて患者にカウンセリングするための枠組みを広げた可能性がある。

感想:研究デザインとしてはかなりシンプル.結果としては,そりゃそうだろうという感じですが,質問が工夫されているので見たい効果がちゃんと見れているのだろうと思う.pretest-posttest designはアウトカムをどのように評価するが質を左右するという印象をうけた.

ambulatory care-sensitive conditionの実態調査

Mahmoudi E, Kamdar N, Furgal A, Sen A, Zazove P, Bynum J. Potentially Preventable Hospitalizations Among Older Adults: 2010-2014. Ann Fam Med. 2020 Nov;18(6):511-519. doi: 10.1370/afm.2605. PMID: 33168679

https://www.annfammed.org/content/18/6/511

目的

米国の 3,200 の郡および高齢者の様々な下位集団にまたがる、予防可能であったと考えられる入院(potentially preventable hospitalization)―患者が適切な時期にプライマリケアを受診していれば防ぐことができたであろうambulatory care-sensitive conditionsによる入院―の全国的な傾向を調査するために研究を行った。

方法

2010-2014年のメディケアの請求データを用いて、65歳以上の被保険者におけるpotentially preventable hospitalizationの傾向を調査し、ヒートマップを作成して郡レベルの変動を調査した。一般化推定可能式(generalized estimating equation)を使用し、人口統計、併存疾患、二重受益(メディケアとメディケイド)、郵便番号レベルの地域所得、郡レベルのプライマリケア医と病院の数を用いてモデルを調整した。

結果

3,200の調査郡において、potentially preventable hospitalizationは327郡で減少し、123郡で増加し、その他の郡では変化がなかった。人口レベルでは、potentially preventable hospitalizationの調整後の割合は、2010年の19.42%(95%CI:18.4%-20.5%)から2014年には15.97%(95%CI:15.3%-16.6%)へと3.45ポイント減少した.白人では2.93ポイント減少して14.96%(95%CI:14.67%-15.24%)に,黒人では2.87ポイント減少して17.92%(95%CI:17.27%-18.58%)に、ヒスパニックでは3.87ポイント減少して17.10%(95%CI:16.25%-18.0%)になった。同様に、二重受益者における割合は、2010年の21.62%(95%CI:20.5%-22.8%)から2014年には17.91%(95%CI:17.2%-18.7%)へと3.71ポイント低下した。(すべてP <.001)

結論

2010年から2014年の間、potentially preventable hospitalization の割合は、大多数の郡で変化しなかった。人口レベルでは、すべての小集団の間で割合は低下したが、二重受益者、黒人およびヒスパニック系の患者では、それぞれ非二重受益者および白人患者と比較して,非常に高い割合を維持していた。

感想

ambulatory care-sensitive conditionや potentially preventable hospitalizationは,家庭医なら絶対抑えておいた方が良い概念.これをどれだけ防げるかが,家庭医の質をはかる指標の1つだと思います.

日本では,船橋二和病院で単施設での記述疫学調査が今年発表されたばかりで,実態解明はこれからという感じ.https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jgf2.352

さすがAnn Fam Medといった内容で,記述疫学とはいえかなり網羅的に調査しており,かつ年度比較と地域差,人種差,保険(Medicare, Medicaid)による差も検討している.ACSCは定義上,プライマリケア医がちゃんと診療していれば防げるはずなので,黒人/ヒスパニックやMedicare/medicaid両方の対象になるような社会経済的状況にある人には,適切なプライマリケアが届いていないことの傍証になる.日本ではどうなるのだろうか.生活保護,無料低額診療,在日外国人でACSCが多くなっていないか調べてみたい.

2021年1月11日月曜日

デブリーフィング面接の教育効果

Chua IS, Bogetz AL, Long M, Kind T, Ottolini M, Lineberry M, Bhansali P. Medical student perspectives on conducting patient experience debrief interviews with hospitalized children and their families. Med Teach. 2020 Dec 8:1-13. doi: 10.1080/0142159X.2020.1854707. Epub ahead of print.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2020.1854707?af=R

目的

小児科クラークシップを修了した医学生が、入院患者や家族とのデブリーフィング面接の利点と障壁をどのように捉えているかを調査する。

方法

本研究では、デブリーフィングインタビューの終了後、小児科クラークシップの学生を対象にフォーカスグループを実施した。メズローの変容学習理論をレンズとして用いてたえざる比較法を行い、インタビューを行うことの利点と課題についての認識を探った。

結果

フォーカスグループの結果、5つの利点と2つの課題が明らかになった。利点としては、デブリーフィングインタビューによって学生が,(1)患者を人間として見て、患者の健康に及ぼす社会的・環境的影響を理解するようになる、(2)ケアに対する介護者・患者の誤解を訂正するために,その理解度を評価するするようになる、(3)治療計画の作成のために,介護者・患者に積極的に関与してもらうようになる、(4)患者が疑問や不安を積極的に表現するよう促すようになる、(5)医療チームにおける自分の役割の価値を認識するようになる、ということが挙げられた。課題としては、(1)診断に関する介護者・患者の質問に答えるための知識の不足、(2)介護者・患者の不満や不安、悲しみに対応することへの居心地の悪さ,が挙げられた。実現性と実装について学生からフィードバックを受けたことで、患者の選定やデブリーフィングインタビュー後の小グループディスカッションの実施に関するガイドラインが作られた.

結論

デブリーフィングインタビューは、患者との直接の関わりや対話を通じて、入院中の患者の視点を探求するユニークなアプローチであり、専門職としての発達、共感、そして潜在的には,よりポジティブな患者ケアの経験に貢献する。

感想

独自に開発した臨床手法を評価するために,学生にそれを経験してもらい,利点と課題を教えてもらう,というやり方をしている.今自分がしている研究に通ずるところがあり,とても参考になる.しっかりデザインすることが重要だなと感じた.

糖尿病患者に対するティーチバックは予後を改善させるか

Hong YR, Huo J, Jo A, Cardel M, Mainous AG 3rd. Association of Patient-Provider Teach-Back Communication with Diabetic Outcomes: A Cohort Study. J Am Board Fam Med. 2020 Nov-Dec;33(6):903-912. doi: 10.3122/jabfm.2020.06.200217. PMID: 33219069.

https://www.jabfm.org/content/33/6/903.abstract?rss=1

背景と目的

本研究の目的は、ティーチバック(「対話型コミュニケーションループ」とも呼ばれる)に関する患者の体験のパターンを調べ、糖尿病患者における糖尿病合併症や入院のリスク、健康に関する支出との関連を明らかにすることである。

方法

糖尿病の診断が確定した 18 歳以上の米国成人 2901 人を対象に、2011~2016 年の縦断的医療費パネル調査(Longitudinal Medical Expenditure Panel Survey)のデータを用いて後方視的コホート研究を実施した。ベースライン(1年目)におけるティーチバックの患者経験が糖尿病合併症の発症、入院、フォローアップ(2年目)における健康支出と関連しているかどうかを,調査計画で調整した多変量モデルを用いて検討した。健康支出はインフレ率を調整し、2017年の米ドルで表現した。すべての調整モデルには、患者の社会統計学的特徴および臨床的特徴が含まれていた。

結果

解析の結果、ティーチバック経験のある患者は、1年後のフォローアップ時に糖尿病合併症を発症する可能性が低く(調整オッズ比[AOR] 0.70;95%CI 0.52~0.96)、糖尿病合併症のために入院する可能性が低い(AOR 0.51;95%CI 0.29~0.88)ことが明らかになった。また、ティーチバック経験のある患者では、ティーチバックを受けていない患者と比較して総支出の増加額が1920ドル対3639ドルと有意に少なかった(差額は-1579ドル;95%CI -1717ドル~-1443ドル、P<0.001)。

結論

ティーチバックは、健康転帰を改善し、糖尿病ケアの節約につながりうる効果的なコミュニケーション戦略であるかもしれない。

感想

ティーチバックは,例えば「糖尿病の合併症について,今私が説明したことを,逆に私に説明してください」などといった手法.効果をみるために従来のコホート集団を用いて上手にデザインを行っているが,あまりに効果がありすぎるように思う.ティーチバックをしたかどうかでここまでアウトカムが変わるとは思えないのだが.

2021年1月10日日曜日

思いやりのあるケアはカリキュラムに位置づけられているか

 Chen AY, Kuper A, Whitehead CR. Competent to provide compassionate care? A critical discourse analysis of accreditation standards. Med Educ. 2020 Dec 7. doi: 10.1111/medu.14428. Epub ahead of print. PMID: 33283303.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/medu.14428?af=R

背景

医学部の認定は、医学博士(MD)の学位につながるプログラムの重要な品質管理プロセスだと国際的に認識されている。認定基準は認定プロセスを管理し、ゆえに教育目標を推進するものである。このような基準がカリキュラムの中で何が評価されるようになるかを形作る力を持つことから、専門職の中核となる価値観や理想がしっかり基準に組み込まれるようにすることが不可欠である。思いやりのあるケアの提供は、これまで長い間、医療の中心的な価値観でありつづけており、この価値観はMDプログラムの認定基準に明確に明記されるべきである。

方法

1957年より北米の医学部を統括する学部医学教育認定基準の中で、思いやりのあるケアについて批判的談話分析を行った。本研究では、認定基準の文言に思いやりのあるケアがどのように、またどの程度盛り込まれているかを探った。

結果

学部医学教育認定基準における思いやりのあるケアへの言及はほとんどなかった。歴史的には、米国医科大学協会(AAMC)が発行した「The Objectives of Undergraduate Medical Education(学部医学教育の目的)」が1957年に初めて言及しており、かつこれが唯一の言及である。そこでは、思いやりのあるケアが提供できるといった属性を発達させることをを学部医学教育の基本的な目的として記述している。その後、この価値について言及されることはほとんどなかった。思いやりのあるケアの側面に関与しうる用語が特定されたが、それらは思いやりとの関連性を限定した方法で説明されていた。その代わりに、「ケア」という用語はますます道具的に使われるようになっている(急性期のケア、慢性期のケアなど)。

結論

思いやりのあるケアは良い医療に不可欠であるため、認定基準に思いやりのあるケアに関する言葉が相対的に欠如していることは問題である。この欠如は、コンピテンシーに基づいた研修が花盛りな現在において特に重要であり、本質的な価値観や実践が意図せずして失われないように、すべての重要なカリキュラム目標を明確にしなければならない。

用語確認

批判的談話分析:日本語での解説は以下を参照.内容の精度については判断できませんでした.

https://discourseguides.com/kougi_hihan/

感想

批判的談話研究というものがあることを初めて知った.とにかくいまは獲得目標は明示すべき,という流れの中で,「思いやり」が明示されていないことへの問題提起だが,はたして明記していればよいのか,という根源的な疑問は残ります.研究自体は良いものだと思います.

性機能障害について話し合うためには

Barnhoorn PC, Zuurveen HR, Prins IC, van Ek GF, den Oudsten BL, den Ouden MEM, Putter H, Numans ME, Elzevier HW. Unravelling sexual care in chronically ill patients: the perspective of GP practice nurses; Health Service Research. Fam Pract. 2020 Nov 28;37(6):766-771. doi: 10.1093/fampra/cmaa071. PMID: 32719863.
https://academic.oup.com/fampra/article/37/6/766/5877083


背景
慢性疾患患者の多くが性機能障害(SD)を経験しているため、性的健康の評価は重要である。一般診療看護師(GPN)は、SDに対処する上で重要な役割を果たすことができる。目的
この横断研究の目的は、GPNが慢性疾患患者とSDについてどの程度話し合っているのか、またどのような障壁がSDについて話し合うことを妨げているのかを調べることであった。さらに、どのような要因がSDについて話し合う頻度の高さと関連しているかを検討した。方法
オランダ全国のGPN637名を対象に48項目の質問紙を用いた横断的調査を実施した。結果
アンケートには 総計で407 名の GPN から回答があり(回答率 63.9%)、そのうち 337 名が調査を完遂した。221名(65.6%)のGPNが、SDについて話し合うことが重要であると考えていた。GPNの半数以上(n=179、53.3%)が初診時にSDについて話し合ったことがこれまで一度もなく、60人(18%)がフォローアップ診察時にSDについて話し合ったことがなかった。SDについて話し合う上で最も重要な3つの障壁は、研修不足(54.7%)、「言語と民族に関する理由」(47.5%)、「文化と宗教に関する理由」(45.8%)であった。GPN の半数以上が、SD について話しあうのに十分な知識がないと考えていた(n = 176、54.8%)。SDへの対応に関するプロトコルがあれば、SD中の話し合いが大幅に増加するであろうと考えられる.結論
本研究は、GPNが慢性疾患患者とSDについて日常的に話し合っていないことを示している。このような実践パターンの最も重要な理由は、知識不足、トレーニング不足、文化的多様性に関連する理由であることが明らかになった。一般診療所でSDに関するガイドラインと組み合わせたトレーニングを実施することで、慢性患者との性的健康についての話し合いについて改善がなされる可能性がある。


感想
研究手法はとてもシンプルだが,目の付け所がとても良い.個人的には患者さんとSDについて話した経験はほぼ皆無であり,いたく反省した.良いリサーチクエスチョンが良い研究につながるのですね.

2021年1月9日土曜日

医学教育における適応的熟達

 Kua J, Lim WS, Teo W, Edwards RA. A scoping review of adaptive expertise in education. Med Teach. 2020 Nov 28:1-30. doi: 10.1080/0142159X.2020.1851020. Epub ahead of print.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/0142159X.2020.1851020?journalCode=imte20


適応的熟達には効率性と革新性が含まれるが、医学教育における適応的熟達の研究状況についてはほとんど知られていない。本研究では、適応的熟達の概念的枠組み、発達、測定に関する既存のエビデンスをまとめた。

1986年以降に発表された英語の原著論文をPubmed, MEDLINE, ERIC, CINAHL, PsycINFOで検索した。研究の不均一性を考慮して、定量的統合は行わず、論文は定性的に要約した。

組み入れ基準を満たした48本の論文のうち、19本が概念的枠組みを、24本が発達を支援する介入を、5本が測定を検討していた。概念的枠組みは、医療従事者教育の内外で一貫していた。発達に影響を与える要因には、知識などの素因(知識を統合して革新する能力)、信念と態度(高いモチベーションと謙虚さ)、スキルなどの実現因子(enabling factor)(人とうまく付き合う能力、内省や学術活動の実施)、カリキュラムを実現させる要素などの資源(多様なケースの提供,解決策を生み出す柔軟性、教科書の批判的評価)、指導者によるフィードバックや継続的なカリキュラムの見直しなどの増強要因が含まれている。

適応的熟達については、妥当性のある測定ツールが2つ存在する。適応的熟達の発達がおこる介入を研究する機会は非常に多い.測定ツールの開発と検証には注目すべきギャップが存在している。


用語確認

adaptive expertise:適応的熟達

以下,本文中の記載より.

熟達には2つあり,特定の領域内で一般的なタスクを実行することの熟達をroutine expertise(固定的熟達化)といいう.一方,適応的熟達は,一般的な問題を解決することができるだけでなく、なぜその解決策が機能するのかについてのより深い理解に根差す.手続き的な知識だけでなく,物事が「なぜ」機能するのかを知るための概念的な知識を持っていることため,適応的熟達者は,類推的な問題解決能力を発揮することができるし,慣れない状況に直面しても乗り越える力がある.

感想

adaptive expertiseは,家庭医療学でよく言及される省察的実践家に似たような概念なのですね.2つの測定法とは,the adaptive expertise inventory と the adaptive expertise surveyのことみたいです.

routine expertiseとadaptive expertiseという言葉は知っておいた方がよさげですね.

教育学一般の概念を医学教育学の文脈で検討するという意味では王道ですね.

やんちゃな時期のリスク行動スクリーニング

 Eisner-Fellay T, Akre C, Auderset D, Barrense-Dias Y, Suris JC. Far from acceptable: youth-reported risk behaviour screening by primary care physicians. Fam Pract. 2020 Nov 28;37(6):759-765. doi: 10.1093/fampra/cmaa068. PMID: 32634207.

https://academic.oup.com/fampra/article-abstract/37/6/759/5868429?redirectedFrom=fulltext


背景

思春期と成人早期は、健康を害する行動が獲得される可能性のある「実験期間」である。

目的

本研究の目的は、若者の希望、リスク行動、個人的特徴に応じて、若者の健康リスク行動に医師がどのように対応する傾向にあるのかを評価することである。

方法

スイスの17~26歳の若者1970人のサンプルを対象に実施されたGenerationFRee縦断研究の第3波(2017~18年)からデータを得た。分析されたリスク行動は以下の通り:摂食障害、薬物使用、情緒的ウェルビーイング、問題のあるインターネット使用、ギャンブル。二変量解析および多変量解析が行われ、結果は調整オッズ比(aOR)として示された。

結果

医師が大半の危険行動について話し合った若者は半数以下であった。リスク行動に対処するオッズは、リスク行動が存在したり、青少年が話し合うことを希望したりしてもほとんど上昇しなかった。情緒的なウェルビーイングが取り上げられた男性の数は女性の半数であり(aOR 0.47)、薬物は家族の社会経済的地位が低いと報告した若者ほど頻繁に取り上げられていることがわかった(aOR 6.18)。リスク行動に対処する場合はたいてい、拡大スクリーニングと一緒に行われていた。

結論

この研究では、若者が話し合いたいと希望しているかどうかかかわらず、健康リスク行動のスクリーニングは低い水準でしか行われていないことが判明した。水準は低いが、医師はいざとなれば、特に物質使用について話し合う場合には、体系的にスクリーニングを行う傾向がある。この実践を増やすために、リスク行動スクリーニングとカウンセリングにおける医師の研修を改善する必要がある。

感想

思春期~20代前半の,やんちゃをしちゃう時期の患者に対し,健康を害する行動に関して医師が話題に取り上げているか,という研究.医師が勝手にハードルを上げているだけかも,という解釈ができそうです.

2021年1月8日金曜日

外科手技評価の信頼性に影響を与える因子

Andersen SAW, Park YS, Sørensen MS, Konge L. Reliable Assessment of Surgical Technical Skills Is Dependent on Context: An Exploration of Different Variables Using Generalizability Theory. Acad Med. 2020 Dec;95(12):1929-1936.

目的

外科手技に対する信頼性の高い評価は、コンピテンシーに基づいた医療トレーニングに不可欠である。判定の信頼性だけでなく,一貫性があり再現性のあるコンピテンシーの判定を行うために必要な観察の回数にも,いくつかの要因が影響している.本研究の目的は、大規模かつシミュレーションベースである外科手技評価のデータを解析することで、様々な条件が信頼性に及ぼす影響を一般化可能性理論を用いて検討することで、様々な条件の役割を探ることである。

方法

2012年から2018年に実施された大規模なシミュレーションベースの側頭骨外科トレーニング研究の評価データをプールし、1,723のパフォーマンスに対する3,574の評価を回収した。著者らは、unbalanced random-effects designを用いて一般化可能性の分析を行い、信頼性の予測における異なる変数の効果を調べるために決定研究(decision study)を行った。

結果

全体として、一般化係数>0.8を達成するためには5つの観察が必要であった。いくつかの変数が信頼性の予測に影響した:学習者の経験が増加するとより多くの観察が必要となった(医学生は5、研修医は7、経験豊富な外科医は8).より複雑な死体解剖を用いると,バーチャルリアリティシミュレーションよりも必要とする観察回数は少なくなった(2対5).シミュレーショングラフィックスの忠実度の向上は必要とされる観察の回数を7から4に減らした。 トレーニング構造(大規模実習か分散型実習か)とシミュレーター統合型の個人指導は信頼性にほとんど影響を与えなかった。最後に、学習曲線が最も急峻な初期の研修時期には、プラトー期と比較して、より多くの観察が必要であった(6対4)。

結論

外科手技の評価における信頼性は、よく報告されているほどには安定していないようである。トレーニングの状況や条件は信頼性に影響を与える。この研究から得られた知見は、医学教育者が他の文脈で特定のシミュレーションベースの評価を使用する際に注意を払うべきであることを強調している。


感想

G係数を用いて信頼性の高いスキル評価を行うための観察回数を決定する,というのはよくあるセッティングだが,外科手技においてその回数は様々な因子の影響を受けるということを示した論文.よく遭遇するセッティングについて,細かいところまで気を配って研究した折り目正しい論文,という印象.

孤独が受診に与える影響

 Hooker SA, Stadem P, Sherman MD, Ricco J. Patient loneliness in an urban, underserved family medicine residency clinic: prevalence and relationship to health care utilization. Fam Pract. 2020 Nov 28;37(6):751-758. doi: 10.1093/fampra/cmaa065. PMID: 32632440.

https://academic.oup.com/fampra/article-abstract/37/6/751/5868158?redirectedFrom=fulltext


背景

孤独(loneliness)が,心血管疾患や早世など、悪い健康アウトカムのリスクを高めることを示唆する証拠が多数存在する。

目的

この研究では、都市部の十分な医療サービスがない(underserved)地域にある家庭医療研修クリニックにおける孤独の有病割合、および孤独と医療ケア利用との関連性を調査した。

方法

成人患者(N = 330.年齢中央値 42.1歳、SD = 14.9.女性63%.アフリカ系アメリカ人58%)に対し、2018年11月から2019年1月の間に,プライマリケアを受診した時に3項目のUCLA孤独スクリーニング(UCLA Loneliness screener)を行った。後方視的ケースコントロール研究のデザインを使用して、孤独と認識された患者とそうでない患者との間で、過去2年間の医療ケア利用(入院、救急受診、プライマリケア受診、不受診(予約したが来院しなかった)、紹介)を比較した。人口統計的特徴と臨床的特徴を共変量とした.

結果

患者の半数近く(44%)が孤独のカットオフ値を超えていた。孤独な患者は、アフリカ系アメリカ人である、うつ病を患っている、薬物使用障害がある可能性が高かった。孤独な患者は、孤独でない患者に比べて,入院期間が有意に長く、プライマリケアの受診、不受診、紹介が多かったが、入院や救急受診の回数に差はなかった。

結論

都市部の十分な医療サービスがない地域にあるプライマリケア診療所における孤独の有病割合は、先行研究におけるプライマリケアでの有病割合の推定値よりもはるかに高かった。孤独な患者は、孤独ではない患者よりも多くの医療資源を利用している可能性がある。プライマリケアは、孤独がヘルスケアのアウトカムに及ぼす影響をさらに理解するために、孤独な患者を同定するための理想的な環境であるかもしれない。

感想

孤独の有病割合についての記述疫学と,孤独とヘルスケアの関係を明らかにするための観察研究からなる論文.すでに確立している孤独の測定法を用いている.孤独に関連する臨床アウトカムは入院や救急ではなくプライマリケアでみられていることから,孤独に対応するのはプライマリケアの役割であることを主張している.交絡の調整については注意が必要.

2021年1月7日木曜日

手技を身につける成長のパターン

 Mema B, Mylopoulos M, Tekian A, Park YS. Using Learning Curves to Identify and Explain Growth Patterns of Learners in Bronchoscopy Simulation: A Mixed-Methods Study. Acad Med. 2020 Dec;95(12):1921-1928.


目的

学習曲線は、学習者がスキルを習得する過程と,能力を発揮するまでの道のりを説明することができる。本研究では、気管支内視鏡のバーチャルリアリティ(VR)シミュレーターで練習している初心学習者の成長軌跡を調査し、エキスパートの成長軌跡と比較した。


研究方法

混合研究法の説明的順次デザインで行った。カナダのトロントにあるHospital for Sick Childrenで、20名の小児科専攻の研修医と7名の教員がVRシミュレータを用いて練習を行った(2017年10月~2018年3月)。著者らは、成長混合モデル(growth mixture modeling)を用いて、反復回数とVRでのアウトカムおよび成長パターンの関係を検討した。instrumental case studyのデザインを用いて、成長のパターンを説明するために、フィールドノートと,研修医ないしシミュレーションインストラクターに対する半構造化インタビューの内容が検討された。著者らは、テーマを反復的に特定するために、絶えざる比較アプローチを用いた。安定したテーマ構造が形成され、データ全体に適用されるまで,チームでの分析が続けられた。


結果

成長混合モデルでは、2つの成長パターンが確認された。成長が遅い学習者には、スキル習得がもともと困難な学習者、シミュレーション練習において解剖学の知識を統合していない学習者、シミュレーターを使用して単純な反復練習を行っているが,試行の間に改善のための戦略を立てていない学習者であった。一方、成長が早かった学習者は、解剖学の知識を統合し、柔軟な解決策を見つけ、より深い概念的理解を生み出すという,専門知識への適応的なアプローチを用いた学習者であった。


結論

著者らは、教育における成長モデルの使用について妥当性の根拠を示し、機械的な反復練習を伴う「ゆっくりとした成長」と適応的な専門知識を伴う「速い成長」といった成長のパターンを説明している。


用語確認

・成長混合モデル(growth mixture modelling)

 複数の観察されていない部分集団(umobserved sub-population)を特定し、おのおのの観察されていない部分集団内の縦断的変化を記述し、観察されていない部分集団間の変化の違いを調べるための手法である。(PMID: 23885133 より引用)

 このケースでは,対象者を,早い成長を示す群と遅い成長を示す群によりわけ,それぞれの違いをしらべている.

・instrumental case study 

事例研究には,intrinsic, instrumental, collectiveの3つがある.intrinsicは、通常、ユニークな現象について調べるために行われる。研究者は、その現象ならではの独自性,つまり他のものにはないその現象だけにあるものを探し当てなければならない。対照的に、instrumentalは、ある問題や現象をより広く理解するために、特定のケース(その中には他のケースよりも優れているものもある)を使用する。collectiveでは、特定の問題についてより広範な理解を得るために、複数の事例を同時に、または順次研究する。(PMID: 21707982 より引用)


感想

おなじ手技の練習をしていても,すぐに身に着ける人とそうでない人がいる.その違いは何かを,混合成長モデルを用いて分析した研究.私,統計はからっきしなので,混合成長モデルの詳しい内容を読む気にはなれませんでしたが,そんな方法があるんだということだけは認識しました.まず量的に両群の違いを導き,どうして違いが起こるかを質的に分析する,順次的説明デザインのお手本のような流れです.手技の習得を極端に苦手としている私としては耳が痛い内容でした.

緩和ケアが手遅れになってはいないだろうか.

Stow D, Matthews FE, Hanratty B. Timing of GP end-of-life recognition in people aged ≥75 years: retrospective cohort study using data from primary healthcare records in England. Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e874-e879.

https://bjgp.org/content/70/701/e874.short?rss=1

背景

質の高い個別化された緩和ケアはすべての人に提供されるべきであるが、高齢者の終末期を時宜に適って認識することは、高齢者の終末期ケアの障壁となる可能性がある。

目的

75 歳以上の高齢者を対象に,プライマリケアにおいて終末期だと認識した時期,緩和ケア登録、終末期における望みに関する記録内容を調査する。

デザインとセッティング

英国のGP診療所の34%をカバーする全国規模のプライマリケア記録データを用いた後方視的コホート研究。

方法

2015年1月1日から2016年1月1日までの間に英国で死亡した75歳以上の人の電子カルテ記録のResearchOneデータを調査した。終末期であることの認識、緩和ケア登録、終末期の望みに関する臨床コードを抽出し、コード入力から死亡までの経過月数を算出した。各アウトカムのタイミングと関連する 電子カルテ記録の割合を報告した。

結果

1年間の研究期間中、ResearchOneのデータには合計13149人の死亡が記録された。そのうち、6303人(47.9%)の記録には、死亡月よりも前の時点で終末期が認識されていたことを示唆するコードが含まれていた。うち2248件(17.1%)の記録では、死亡の12ヵ月以上前に認識されていた。緩和ケア登録は総計で1659人(12.6%)になされており、うち457人(3.5%)が死亡の12カ月以上前に登録されていました.2987人(22.7%)の記録には患者がケアを受ける場所の希望についてのコードがあり、1713人(13.0%)には希望する死亡場所のコードがありました。死亡場所の希望が記録されている場合は、介護福祉施設(n=813、47.5%)と本人の自宅(n=752、43.9%)が最も一般的であった。

結論

プライマリケアにおいて終末期と認識されるのは、死亡間近であり、かつ75歳以上であってもそのうちの少数でしか起こらないように思われる。本研究の知見は、高齢者の死を医療専門家が予測しておらず、緩和ケアへの公平なアクセスが損なわれている可能性を示唆している。

感想

プライマリケア医の死期予想は甘い,という従来から知られている傾向は,本研究でも同様の結果であった.緩和ケアのアクセスについて論じるときの基本データとなる研究である.

2021年1月6日水曜日

Workplace Based Assessmentを実装するにあたってのネガティブな経験とその克服

Young JQ, Sugarman R, Schwartz J, O'Sullivan PS. Faculty and Resident Engagement With a Workplace-Based Assessment Tool: Use of Implementation Science to Explore Enablers and Barriers. Acad Med. 2020 Dec;95(12):1937-1944.


目的

workplace-based assessment(WPBA)の実施は、大きな課題に直面している。教員や研修医は、WPBAを「チェックボックス」をつけるだけの取り組み,あるいは「輪くぐりの芸をする」ように評価を得るためなら何でもする取り組みとして否定的に捉えていることが多い。このような課題に対処するために、いくつかの提言がなされている。これらの提言に従ったWPBAの経験を理解するために、著者らは、「実装研究のための統合フレームワーク」(Consolidated Framework for Implementation Research:CFIR)を用いて質的研究を実施し、ツールへの関与の促進因子と阻害因子を明らかにした。


方法

Psychopharmacotherapy-Structured Clinical Observation(P-SCO)は、向精神薬管理の研修を受けている研修医のパフォーマンスを評価するために設計された直接観察ツールである。2017年8月から2018年2月まで、Zucker Hillside Hospital/Northwell Healthの2年目と3年目の研修医を対象として,継続外来を行う診療所においてP-SCOを実施した。2019年2月と3月に、筆者らは参加教員と研修医を対象に半構造化インタビューを実施した。CFIRに基づいたインタビューガイドを用いて、関与の促進因子と阻害因子を把握した。面接記録は独立してコーディングされた。コードはその後,CFIRのドメインに関連するテーマに統合された。


結果

10 名の教員と 10 名の研修医がインタビューを受けた。全体的に、参加者はP-SCOについて肯定的な経験をしていた。教員と研修医にとっての促進因子としては、継続的なトレーニング、P-SCOのデザインの特徴、素因となる信念、専任教員の時間確保、P-SCOによって口頭でのフィードバックの質が向上したという認識などが挙げられた。教員にとっての阻害因子には、チェックリストの長さやアイデンティティを脅かすフィードバックへの不快感があり、研修医にとっての障壁には、教員によるフィードバックの適時性と質のばらつき,フィードバックを最初に受け取ったのちの振り返りがほぼなされないことなどがあった。


結論

この研究は、先行研究で示されたWPBAに対する教員や研修医の否定的な経験は、具体的な実施戦略を追求すれば、少なくとも部分的には克服できることを示している。この結果は、今後の研究と実施のための指針を提供するものである。


用語確認

「実装研究のための統合フレームワーク」(Consolidated Framework for Implementation Research:CFIR)

参考:https://www.radish-japan.org/files/Radish2_proceedings.pdf

Dissemination and Implementation Research (普及と実装研究、D&I 研究)で用いられる. 5 つの領域と 39 の構成概念からなる。従来はD&Iのモデルが乱立していたが,いまはおよそこれを使っている様子.プログラム実装の阻害・促進要因を特定目的で使われる.

①介入の主要特性(8つの構成概念:介入の出処、エビデンスの強さと質など)

②外的環境(4つの構成概念:外部組織とのつながりの程度、外的な施策やインセンティブなど)

③内的環境(5つの構成概念と 9 つの下位概念:相対的優先度、組織の風土、リーダーの関与など)

④個人の特性(5つの構成概念:関係する人々の知識や信念、自己効力感など)

⑤実装プロセス(4つの構成概念と 4つの下位概念:実施計画、ステークホルダーの関わりなど)


感想

WPBAを実装するにあたっての課題をCFIRを用いて分析した研究.実装研究は家庭医療学研究でも時々みかけるが,医学教育でも有用だなと感じました.CFIRを知ったのがこの論文を読んだ最大の収穫です.WPBAに限らず,理論的には美しいけど実際にはうまく機能していないプログラムってありますよね.

フレイルを電子カルテデータから同定できるか

Ravensbergen WM, Blom JW, Evers AW, Numans ME, de Waal MW, Gussekloo J. Measuring daily functioning in older persons using a frailty index: a cohort study based on routine primary care data. Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e866-e873.

https://bjgp.org/content/70/701/e866.short?rss=1

背景

電子カルテの研究への活用が進んでいるが、日常生活機能のような多要素のアウトカム指標を容易に抽出することはできない。

目的

地域にすむ高齢者(75歳以上)を対象とした研究において、ルーチンのプライマリケアデータに基づくelectronic frailty index(電子カルテにおける虚弱指数)が日常生活機能の指標として利用できるかどうかを評価する。

デザインおよびセッティング

「高齢者のための統合的な全身ケア(ISCOPE)」試験の参加者を対象としたコホート研究(対象者:11,476人、観察コホート:7285人、症例組み入れ:3141人)。

方法

ベースライン(T0)および12ヵ月後(T12)に、Groningen Activities Restriction Scale(GARS、範囲18~72)を用いて日常機能を測定した。T0およびT12時点のelectronic frailty indexスコア(範囲0~1)を電子カルテから算出した。electronic frailty indexの反応性を測定し、日常生活機能のgold standardであるGARSと比較した。

結果

総計で、電子カルテとフォローアップのデータが完全にそろっている1390人の参加者が選ばれた(31.4%が男性、年齢中央値=81歳、中間値範囲=78-85)。electronic frailty indexは年齢とともに上昇し、女性では高く、パートナーと同居している参加者では低かった。急性の大きな医療イベントの後にスコアに反応がみられた.しかしながら、T0時のelectronic frailty indexとGARSとの間の相関は限られていた。

結論

electronic frailty indexは日常生活機能を反映していないため,電子カルテが高齢者を対象とした研究のための有用なデータソースとなるためには,日常生活機能を日常的なケアデータ(例えば他の代理変数)で測定する新しい方法についてのさらなる研究が必要である.

感想

家庭医療学の基礎研究というべき研究.例えば,高齢者のフレイルと何か(例:処方薬剤の種類)の関連について調べたいと思ったときに,どのようにフレイルを測定すればいいのか,という問題に突き当たります.通常は,妥当性の確認された質問紙を用いて測定をするわけですが,これだと手間もお金もかかってしまうわけで,それが日常診療の電子カルテデータを用いて評価できたら嬉しいということです.それで,特に研究を意識せずに日常診療で集めた情報だけが載っている電子カルテデータを用いて妥当なフレイルの測定ができないかなとやってみたけど,うまくできなかった,という結果になりました,という論文です.こういう論文はめちゃ大事です.

2021年1月5日火曜日

継続的な教育の質改善に資する文化とは

Bendermacher GWG, De Grave WS, Wolfhagen IHAP, Dolmans DHJM, Oude Egbrink MGA. Shaping a Culture for Continuous Quality Improvement in Undergraduate Medical Education. Acad Med. 2020 Dec;95(12):1913-1920.

目的

本研究では、組織の品質文化(quality culture: より良いサービスを提供するための態度/信念/行動のこと)の主要な特徴を特定し、それらの特徴が卒前医学教育の継続的な品質向上にどのように貢献しているかを探ることを目的とした。

方法

2018年7月から12月にかけて、オランダのマーストリヒト大学の研究者が、6つの教育品質諮問委員会を対象に多施設フォーカスグループ研究を実施した。参加者は、オランダの6つの医学部に所属する教員22名と学生代表18名であった。グループインタビューでは、教育の開発、実施、評価、および(さらなる)改善の最適化に関連した品質文化の特徴に焦点を当てた。データの分析には、段階的なテーマ分析であるテンプレート分析を適用した。

結果

継続的な教育改善に資する,品質文化の構成要素に類似した 5 つの主要なテーマが明らかになった。(1) 開かれたシステムの視点の醸成、(2) 教育デザイン/リデザインへのステークホルダーの関与、(3) 教育と学習の重視、(4) オーナーシップとアカウンタビリティの間のナビゲート、(5) 統合的なリーダーシップの構築による,最初の 4 つのテーマに内在する緊張関係の克服。支持的なコミュニケーションの風土(これは組織のリーダーが推進できるものである)は、最初の4つのテーマに貢献するものであり,最終的には統合されるものである。

結論

本研究の結果は、管理と説明責任を重視した静的な品質管理アプローチから、継続的な品質改善のための文化の5つのテーマに焦点を当てた、より柔軟で開発指向のアプローチへのシフトを求めるものである。本研究は、継続的な品質改善に関する理論と実践の橋渡しに新たな知見を与えるものである。具体的には、品質マネジメントのシステムや構造に加えて、教員の専門的自律性(professional autonomy)、仲間や学生との協働、教育・学習の価値観を増幅させる必要がある。

用語確認

Template analysis(テンプレート分析):テーマ分析の一種.https://research.hud.ac.uk/research-subjects/human-health/template-analysis/what-is-template-analysis/ より引用.

テンプレート分析では、コーディング「テンプレート」の開発を行う.データセットの中で重要なものとして研究者が特定したテーマを要約し、有意義かつ有用な方法で整理する。階層的なコーディングが強調され、「病気への対応」のような広範なテーマを用いて、「変化した関係」や「医療専門家との変化した関係」のような、より狭く具体的なテーマを次々と取り込んでいく。

分析の多くはa prioriなコードから始まる.それらのコードは,分析に関連していると強く予想されるテーマを特定するものである。しかし、これらのコードが有用でないとわかったり,調査した実際のデータに適していなかったりする場合には、修正・削除がなされる。a prioriなテーマを決めた後の,分析の最初のステップは、データを読み込み、リサーチクエスチョンに関連する何かを研究者に伝えているようにみえる部分すべてに何らかの形で印をつけることである。そのようなセグメントがa prioriなテーマに対応する場合は、そのテーマをコードする。それ以外の場合は、関連する資料を含むように新しいテーマを定め、初期テンプレートに組み入れる。初期テンプレートは通常、データのサブセットの初期コーディング(例:15のトランスプリプトがあるうちの最初の3つをまず読み込んでコーディングする)の後に行われる。

この初期テンプレートは、その後、データセット全体に適用され、各トランスクリプトを慎重に検討することで修正される。最終版を作成し、すべてのトランスクリプトがコーディングされると、そのテンプレートは,研究者がデータセットを解釈あるいは説明したり、発見したものを書き上げたりするための基礎となる。

感想

製薬会社などでよくつかわれるquality cultureを,医学教育に落とし込んで,継続的な教育改善を行うために必要なテーマを割り出した研究.すでに他分野でquality cultureの研究は盛んになされているので,その知見をa prioriなテーマとしてテンプレート分析を行っているものと思われる.学際的な研究で,自分の得意分野を持ち込むことで新たな切り口で医学教育を眺めるような内容で,とても面白い.

HFpEFに関する医師と患者/介護者の視点

Sowden E, Hossain M, Chew-Graham C, Blakeman T, Tierney S, Wellwood I, Rosa F, Deaton C. Understanding the management of heart failure with preserved ejection fraction: a qualitative multiperspective study. Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e880-e889.

背景
心不全患者の約半数は、心臓が硬くなっているHFpEFである。このタイプの心不全は、高血圧、肥満、糖尿病の既往歴のある高齢者に多くみられる。HFpEFの患者はプライマリケアで管理されることが多く、時には専門医との協働が必要である。心不全患者の数は増えているが,この集団を管理する最善の方法についての知見は限られており、このような患者のケアを改善することが急務となっている。目的
医師と患者・介護者のHFpEFの管理に関する視点や経験を探り、より良いケアモデルの開発に役立てることを目的とする。デザインとセッティング
イングランド東部、Greater Manchester、West Midlandsにあるプライマリーケアとセカンダリーケアを対象とした多視点の質的研究(multiperspective qualitative study)。方法
半構造化インタビューとフォーカスグループが実施された。書き起こしたデータは、フレームワーク分析を用いて分析され、正規化プロセス理論(NPT)で意味付けがなされた。結果
総計で50人の患者、9人の介護者/親族、73人の医師が参加した。診断の困難さ、疾患認識の不明確さ、管理の格差がHFpEFの管理に影響を与えうる重要な要因であることが明らかになった。また、NPTの構成要素である一貫性は、ケアを改善するためには、この疾患の同定、理解、認識を改善する必要があるという参加者の意見を反映したものであった。結論
HFpEFに対する一般への認知度と臨床での認知度を高め、HFpEFの管理に関して周知されている実践を明確にセット化したものを開発し、さらに,ケアシステムを利用しやすく,かつ心不全患者のニーズに合わせたものになるようにすることが急務である。

用語解説
・フレームワーク分析 (framework analysis)
5段階からなる質的分析法:data analysis, developing a theoretical framework, indexing, charting, synthesizing the data
詳細はhttps://www.magonlinelibrary.com/doi/abs/10.12968/ajmw.2010.4.2.47612

・正規化プロセス理論 (Normalisation process theory)

あるプログラムや知見を実装する際の理論.みんなが当たり前にできるようになるプロセスに関する理論.
1.Coherence 組織やその構成員が新しい実践提案を意味あるものとして理解できるプロセスに関する領域
2.Cognitive Participation 組織やその構成員が新しい実践提案に関わろうとするプロセスに関する領域
3.Collective Action 組織やその構成員が新しい実践を実行するプロセスに関する領域
4.Reflective Monitoring 新しい実践を実施後、振り返りによる評価吟味を行うプロセスに関する領域
詳しくは,藤沼先生のブログへ.以上の記載もそれの引用.
https://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2015/03/08/230213

感想

HFpEFの研究と言えば,薬剤の効果をみる研究などが真っ先に思いつきますが,医師と患者/介護者の視点を探ることで,どのようにケアを実装していけばいいのかについて議論した,きわめて家庭医療らしい論文だと思いました.HFpEFという疾患の特性が実際の診療においてどのような課題を提起しているのかがよくわかります.HFpEFは、現状では、HFrEFのように明確なエビデンスのある薬剤がないため,背景疾患の管理や心理社会的因子への介入が肝になるので,そういう意味で今回のリサーチの切り口は「自然」なのでしょうが、こうやって形にするのは本当に難しいことですし、いい研究だと思います。