Wu W, Hall AK, Braund H, Bell CR, Szulewski A. The Development of Visual Expertise in ECG Interpretation: An Eye-Tracking: Augmented Re Situ Interview Approach. Teach Learn Med. 2020 Dec 10:1-20. doi: 10.1080/10401334.2020.1844009. Epub ahead of print. PMID: 33302734.
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2020.1844009?af=R&journalCode=htlm20
現象
医学における視覚的な専門技能は、専門的な視覚的行動パターンと高次の認知プロセスとの間の複雑な相互作用を伴う。医学における視覚的専門技能に関するこれまでの研究では、放射線学や病理学などの伝統的に視覚を重視する分野を中心に行われてきた。しかし、心電図の解釈における視覚的専門技能に関する研究は限られている。だが,心電図の解釈は臨床で頻繁に行われる作業であり、高いエラー率と関連している.本研究では、医学生、救急科研修医、救急科主治医での心電図の解釈に対する認知的アプローチの違いを明らかにすることを目的とした、質的主導型のマルチメソッド研究である。
アプローチ
1つの3次大学病院から医学生10名、救急科研修医10名、救急専従医10名を本研究の参加にリクルートした。参加者はスクリーンベースのアイトラッキング装置に映し出された10枚の心電図を解釈した後、アイトラッキングにより映し出される参加者自身の視線の移り行きをみながら、自己アフレコインタビュー(subjective re situ interview)に答えた。インタビューは逐語的に文字起こしされ、参加者のグループ間で創発的テーマ分析(emergent thematic analysis)が行われた。診断速度、精度、視線分布のヒートマップを収集し、量的知見を補完した。
結果
質的分析では、3つの主要なテーマにおけるコホート間の違いが明らかとなった:デュアルプロセス推論、優先順位を付ける能力。これらの質的所見は、各心電図の視線分布のヒートマップによって示された視線の動きの違いと一致していた。経験豊富な参加者は、経験の浅い参加者に比べて、心電図の解釈を有意に早く、正確に完了していた。
洞察
心電図解釈に関連する認知プロセスは、救急医療の初心者と経験豊富な医者で異なっていた。これらのグループ間の心電図解釈に対する認知的アプローチの違いを理解することは、どこでも使えるこの診断スキルを教える際の最善の方策に役立つ可能性がある。
用語確認:
・自己アフレコインタビュー(subjective re situ interview)
cued retrospective recallの一種とされている.録画された自分の行為を見返しながら,ここではこのように考えていたと,その時の認知プロセスを話してもらう.(ゲーム動画の後撮り本人解説実況のようなもの,と理解しました.)日本語で検索結果は出てこず,「自己アフレコインタビュー」というのは私が勝手に作った訳語です.
以下,本文から引用.
Unlike concurrent think-aloud protocols, in which participants are asked to continuously verbalize their thought processes while performing the primary task, cued retrospective recall has little risk of interfering with the primary task. The type of cued retrospective recall used in this study is known more specifically as a subjective re situ interview and has been shown to be effective in other studies that have described physician cognitive processes in various contexts.
この方法が提唱された論文では,"own-point-of-view" perspecticeと表されている.最近出てきた手法みたいだが,すでに臨床推論等の研究で数例の応用事例が報告されている.
PelacciaT, TardifJ, TribyE, CharlinB. A novel approach to study medical decision making in the clinical setting: the “own-point-of-view" perspective. Acad Emerg Med . 2017;24(7):785–795.
・創発的テーマ分析(emergent thematic analysis)
inductive coding(帰納的コーディング)ともいう.事前に分類を行わずに自由にコーディングする.対となるのはdeductive coding(演繹的コーディング)で,これはあらかじめ設定した仮説やResearch questionに基づいて分析し,適宜修正を加える方法である.
参考にしたサイト:http://www.u.tsukuba.ac.jp/~hirai.akiyo.ft/forstudents/tokkou2019files/forstudents.files/part1.27.R.H.htm
個人的感想
個人的にかなり興味深かった論文.subjective re situ interviewは,自分の研究テーマであるSDHを踏まえた診療や,家庭医の診察技法一般についてもビデオレビューを使えば応用できそう.強い知的興奮を覚えました.