2016年1月29日金曜日

足底筋膜炎について



カンファで出てきたのでまとめます。

テイラー先生のパールに「足底筋膜炎は妊娠のようなもの(8カ月くらいで自然治癒する)」
というのがあったと記憶しています。

好発は40-60歳ですが、よく走る人はもっと若くして発症します。
1/3は両側に起こります。
他のリスク因子は肥満、立ち仕事、扁平足などです。

朝起きて一歩目で踵が痛い→歩いているうちに痛みが和らぐ→ずっと荷重していると夜になるとまた痛くなる、というのが典型的です。
疼痛は第一趾背屈で増強します。

治療は保存的に行います。

足や踵が痛いときの鑑別診断は以下の通り
・アキレス腱損傷
・足根管症候群
・S1神経根障害
・Haglund症候群(アキレス腱付着部位の骨突出)
・骨粗鬆症→疲労骨折
・関節リウマチ
・脊椎関節症→付着部炎
・糖尿病→有痛性末梢神経障害→Charcot関節
・外因:靴があっていない、立ちっぱなし等
・加齢(身も蓋もない…)
・構造異常(そりゃそうだろ…)


参照:UpToDate Plantar fasciitis


2016年1月26日火曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part4



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part4です。最終パートです。
Table 4には非常に有用なことが書かれてありますが、本文のみ訳したので原文を参照ください。





路上生活状態と統合失調症

Dr. Derri L. Shtasel: 患者はなぜ路上生活に陥ったのか。患者は統合失調症による発達上の問題を多く抱えている。統合失調症の診断がつくのはたいていの場合青年期後半や成人期前半なので、教育上、職業上、人間関係上の発達を阻害してしまう。中核症状‐幻覚、妄想、偏執、関心と意欲の消失、実行機能障害‐があると、大人としての生活に要求される事柄を行うのが難しくなる。結果として、成人の統合失調症患者は、この患者がそうであったように、無職あるいはパート勤務であり、社会的に孤立していて、家族との縁が切れていることが多い。とどのつまりが路上生活である。

 この患者にとって、4年間路上にいたことを考えれば、シェルターに入ったことは大きな一歩である。60年前であれば、このような患者はずっと入院することになっていたであろう。その頃と比べると、長期入院から地域社会に基づく治療システムへとの変革がなされ、外来でこのような患者に出会うことが多くなった。この変化に伴い、精神科急性期病院への入院は、従来のように疾患の重症度ではなく、どれだけ危険が迫っているかで判断されるようになった。そして入院治療では、緊急事態をいかに安定化させるかが重視されるようになった。この患者は、5年前の精神科入院で症状が改善したが、外来診療も来なくなり薬もやめてしまったことで疾患が再燃してしまった。どうして抗精神病薬を注視してしまったのかはわからないが、このような事態はよく起こる。統合失調症の薬剤治療が開発された当初は、これで治癒可能な病気になると思われたが、その希望は実現しなかった。そのかわり分かったことは、抗精神病薬はいくつかの症状を和らげるにすぎず、必ずしも機能を改善させるわけではなく、副作用を頻繁に起こすことであった。それゆえ、内服中断率は高値である。


包括的地域生活支援
 
 地域基盤型の治療が重症精神疾患患者においても望ましいのは明らかだが、ほとんどの外来型メンタルヘルスサービスの対象者は、複雑なシステムに従うことができ、信頼できるサポート資源と通院手段を有しており、予約を守ることができる者である。このようなサービスでは、このケースのような患者の役に立つことはまずない。治療やサービスを患者のもとに届けることが必要なのである。包括的地域生活支援は、診察室の外に出て多職種協同のチームが行うアウトリーチ活動であり、確立されたアプローチ法でまさに「患者のもとに届ける」支援を行う。包括的地域生活支援をこの患者にすぐに適応することはできなかったが、構成要素はいくつか活用した。マサチューセッツ州精神保健部門がもっている60床のシェルターにこの患者は入居した。そこでは新たな協同が実践されてきた。つまり、ソーシャルワーカー、看護師、精神科医、内科医、リハビリが、政府、大学、地域セクターの同じ専門家と手を取り合い、オンサイトのメンタルヘルスケア、プライマリケア、リカバリー志向型サービスのネットワークを発展させて、今回のような患者の多面的なニーズにこたえられるようにしてきた。統合されたモデルでは、多様な健康サービスをどのように届けるのかが重要であると考えるのだが、今回のような患者の役に立つような専門家によるメディカルホームを構築する動きの中で俄然注目を浴びている。



住居と回復
 現在のエビデンスは以下のことも示唆している:安心してずっといることのできる住居を保証することがこの患者のケアにとってコアとなる要素である。とくに「ハウジングファースト」という概念は、重篤な精神疾患のある人々が長期的に家に住むことができるように取り組んでいく際に重要となるであろう。従来のリニアハウジングという枠組みでは、まず対象者が一通りサービスを受けて、臨床的に安定してから個々の住居に移るという流れになる。一方、ハウジングファーストでは、まず個々の住居に入り、そこで利用可能な臨床的、社会的サービスを受けるという流れになる。この患者は抗精神病薬を服用しようとせず、正式な精神科ケアを受けようともしなかったが、ほぼ2年にわたりシェルターにいて次の支援を待つことができた。ここには、ハウジングファーストアプローチの特徴が色濃く表れている。

 回復(recovery)こそ、この患者に対するケア目標の中心として重視すべきだ。2003年にNew Freedom Commission on Mental Healthは回復を「変化の過程であり、それを通じて個々人が健康を増進し、自立し、可能性を最大にするために努力できるようになる」と定義している。回復の目標は、人々がスティグマ、無力感、絶望に陥らないようにすることである。これらは重篤な精神疾患につきものである。そして生きる目的を再構築し、希望を取り戻し、家族、友人、地域社会と再びつながることである。回復の枠組みに乗っ取って、今回のケースでは患者自身(サービス提供者ではないことに注意)が優先順位と目標を決めた(Table 4)。

 どうしてこの患者はよくなったのか。患者が高血圧エピソードのため入院した後、多くの機関(Table 3)のメンバーが協同して患者の内科的、精神的、社会的、個人的ニーズを把握し、一時的にシェルターにいる患者に直接サービスを提供した。内科的、精神科的に不確実な状態にいるのを良しとして、急がなくてはという思いと患者のペースや優先度とのバランスをとった。プライマリケア提供者は患者との関係性を最優先し、頻回な診療により信頼獲得に努め、なるべく患者が治療決定に携わるようにした。メンタルヘルスケアについては精神科医と緊密に連携をとった。皮肉なことに、患者が法的地位を再獲得し社会保障を受けられるようになるまでに時間がかかったことで、時間をぜいたくに使うことができた。患者は身分証も持っておらず、収入もなく、安心してずっと家に住む手段もなかったため、どこにも行くことができなかった。そのため時間をとることができ、実際のヘルスホームを構築した。そこでは住居、内科的、精神科、社会的の各種サービスがコミュニティアウトリーチやリハビリのチームと結びついている。患者はいま、地域社会ベースのグループホームで生活している。母親や子とふたたびつながり、路上生活を脱出してもう2年以上になる。


Dr. Nancy Lee Harris: この患者は、シェルターの入居者の代表的な姿であるか。この患者のように回復をするのは一握りか、それとも多くの患者が良くなっていき一人で生活するようになるのか。

Dr. Shtasel: 適切な治療とサポートにより、路上生活をしていた統合失調症患者の多くは安定して地域で暮らせるようになる。まさにこの患者が現在しているように。


最終診断

統合失調症、統合失調症にともなう認知障害、高血圧、路上生活



2016年1月20日水曜日

アシクロビル脳症/IgA血管炎による浮腫



出会った疾患を復習です。


アシクロビルの副作用は腎障害が有名です。
点滴の場合は、事前の輸液にくわえ、1-2時間かけてゆっくり投与することが必要です。

ときに中枢神経障害を招きます。
興奮、振戦、譫妄、幻覚、ミオクローヌスなどが出現します。
最初見たときは、アルコールの振戦譫妄かと思いました。

高齢者、腎障害患者で注意です。
そして何より適正使用です。

参照:UpToDate Acyclovir: An overview


IgA血管炎は、以前はアレルギー性紫斑病とかヘノッホシェーンライン紫斑病とか呼ばれていました。
紫斑はもちろん、関節痛を起こします。関節炎ではないため他動時痛はあまりないです。

特に3歳以下の小児に起こると、限局性の浮腫を起こすことがあります。
自験例では、6歳男児の両足関節痛と両下腿浮腫、片側前腕浮腫で来院し、経過で体幹背側の限局性浮腫が出現したケースがあります。

腹痛は有名ですが、患者の半数で見られます。便鮮血が要請になるのが56%ですが、大量出血は稀です。
消化器症状は紫斑出現後8日以内に起こるのが典型的ですが、数か月後に起こることもあり長期フォローが必要です。15-35%で紫斑出現前に起こります。ピットフォールですね。

腎障害は年長児や成人例で多いです。血尿が最多です。

他の症状としては、陰嚢痛/腫大、中枢神経症状(頭痛、けいれん、脳症、失調など)、末梢神経障害、ぶどう膜炎などがあるそうです。初めて知りました。

急性多関節痛でIgA血管炎を想起した時の鑑別は、反応性関節炎、一過性滑膜炎、若年性特発性関節炎などですかね。

参照:UpToDate Henoch-Schönlein purpura (immunoglobulin A vasculitis): Clinical manifestations and diagnosis



2016年1月17日日曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part3



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part3です。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


マネージメントについての議論

Dr. Travus P. Baggett:私がこの患者に初めて会ったのは当院入院1週間前である。何年も公共の場で寝泊まりし社会サービスを拒否してきたが、ついにアウトリーチワーカーとともに、私がBoston Health Care for the Homelss Program(BHCHP)の医師として週一回開いているプライマリケアクリニックのあるシェルターを訪れた。下腿浮腫を診るよう私に依頼があった。

初診での第一の目標は、患者の信頼を得て、シェルター訪問を公式な医療受診にしないことであった。バイタルサインは測定せず、包括的な身体診察はしなかった。その代わり、足浴をして足の爪を切った。この方法は、重症な精神疾患を有しているがケアを受け入れたがらないであろう患者に、怖がらせずに身体的接触を行う足がかりとなる。患者のメンタルヘルスや社会環境を覗く窓を提供するという点においても、明らかに必要なことである。患者の足指の爪は伸びており、巻爪となっていた。これは、精神疾患が慢性に進行し、自分の状態をあまり把握していないことを示唆している。足はびしょびしょであり、悪臭があり、白癬感染と一致する変化が広範囲にあった。靴や靴下をあまり脱いでいないことが示唆された。比較的若い女性に見られる静脈鬱滞性皮膚炎による下腿浮腫は、椅子に座って眠ったり長い時間公共のベンチで眠ったりする人で良くみられる。

 数日後、患者はシェルターに入ることとなり、そのあとすぐ高血圧エピソードのために当院に入院した。しかし患者は退院後の処方薬を受け取ることができなかった。グリーンカートをはじめとする証明証がなかったため、マサチューセッツメディケイドプログラムの対象外となってしまったからである。シェルターの多職種協同チームが協力して、患者の戸籍証明とグリーンカードを手に入れた。患者は相変わらず自分の精神疾患のことを分かっておらず、精神科治療は受けたがらなかったが、内科的プライマリケアは喜んで受診した。

 患者はそれから2年間で私のシェルターでのプライマリケア診療所を60回以上受診した。気にするのはたいてい身体症状のほうで、身体の左側のみに集中していた。症状は頭痛、胸痛、腹痛、上肢痛にくわえて、頭部浮遊感、嘔気、倦怠感もあった。このような訴えは支離滅裂であり、妄想の内容と認知のゆがみの影響を受けていることがよく見て取れた。患者は症状の原因を12年前の交通事故で額の左側を打ったためだと考えることが多かった。事故の日に他院で撮った頭部CTでは、軟部組織の血腫があったが、頭蓋骨骨折や急性頭蓋内合併症はなかった。その病院で頭部CTを何回かフォローしたが問題はなかった。

 外来で、患者の血圧をリシノプリルとヒドロクロロチアジドでコントロールすることにした。BHCHPとマサチューセッツ精神健康課の助成金で治療を行うことができた。頭痛が継続するため頭部MRIを撮像したが正常であった。神経内科にコンサルテーションを行い、片頭痛としてトピラメート内服を開始した。患者は神経精神科的検査を拒否した。HIV検査は陰性であった。TSHは正常であった。鉄とヘマトクリットは、月経過多に対する鉄剤補充療法により正常化した。セリアック病の血清学的検査は陰性であった。何とかパパにコロー検査を受けてもらい、結果は陰性であった。推奨されているワクチンは接種した。

 私は、診察のほとんどを患者の話を聞くことに費やし、ラポールを形成しナラティブを理解するよう気を配った。精神病の症状は強かったが、患者はそのことを問題だとあまり思っていなかった。読んでいるスピリチュアルの本の一節を私に見せながら、自分は統合失調症でないと訴えた。そこにはLily Tomlinからの引用があった:「神と話しているとそれは祈りなのに、神に話しかけられたら統合失調症だといわれる筋合いはない。」

 19回目の診察で、患者は初めて認知機能の症状で悩んでいると言った。記憶力低下と読字、計算、思考、集中の困難を症状として挙げた。このような症状をよくするために薬剤を使ってはどうかと提案したが、患者は断った。以降6か月にわたり、私ののんびりした外来を頻回に受診してもらいながら、内科的疾患について話し合うのと並行して、抗精神病薬を試してみないかと優しく繰り返し説明した。33回目の受診で、患者はオランザピンを少量から始めてみることに同意した。それから、患者のことをよく知っているBHCHPとこの病院の精神科医と協力して、彼女に薬剤を処方した、数か月かけて用量を徐々に増やしていくことで、幻覚や妄想といった陽性症状が徐々に改善していった。患者は徐々に施設外からきている精神科医の診察を受け入れるようになった。その精神科医は患者のことを前からよく知っていた。オランザピンによる体重増加と鎮静が見られたので、私はその精神科医とともに、治療薬をルナシドンに徐々に変更していった。患者は現在グループホームにおり、私の定期的なプライマリケアを今も受けている。


2016年1月13日水曜日

Panayiotopoulos症候群について



疑う機会があったので、しっかり勉強します。


1-14歳で発症します。平均年齢は5歳です。

自律神経てんかんです。てんかん発作が自律神経症状になることが特徴的です。
具体的には、嘔吐(70-85%)、悪心、retching(吐きそうになる)の症状が現れます。
他の自律神経症状は、顔面蒼白、縮瞳、唾液増加、咳嗽などです。

突然の脱力発作も半数の患者でみられます。
発作の多くで、意識を徐々に失っていき、頭位や眼位の偏位がみられます。

嘔吐、嘔気→眼球偏位と意識障害が出現→片側けいれん
というタイムコースが典型的みたいです。

夜間に起こることが多く、5分以上続きます。
発作のうち1/3~1/2は、30分以上続く、非痙攣性てんかん重責状態になります。
これを「てんかん」だと認識するのが難しいみたいで、脳炎・脳症とみなされてしまうことが多いです。

診断は脳波で行います。
非発作時でも75%のケースで後頭部のスパイクが見られます。
予後は良好で、たいていは2-3年で自然治癒します。

小児の発作的嘔吐の鑑別としてPanayiotopoulos症候群を挙げて
嘔吐の原因を胃腸炎と簡単に決めてしまわないようにしたいです。


参考文献
UpToDate Benign focal epilepsies of childhood
Panayiotopoulos症候群 -underdiagnosed and underrecognized epileptic syndrome-


2016年1月8日金曜日

ヘルペス性歯肉口内炎について



小児でよく見る疾患ですが、あまり理解していなかったのでまとめます。

単純ヘルペスウイルスの初感染で約5パーセントに起こります。
3〜8日の潜伏期の後、高熱とともに口腔内に小水疱が多発します。痛いです。
舌の先にできることもあります。
歯肉は発赤腫脹し、出血も見られます。
歯肉と歯の境界が赤くなるのが比較的特徴なのでしょうか。

発熱は5日間、口腔の痛みは1週間程度続きます。

6ヶ月〜5歳の小児が高熱と口腔内の痛みを訴え、ご飯が食べられないよ〜となっている場合が、疑うポイントになりそうです。
痛みが強くて発症後72〜96時間以内ならアシクロビルを使うこともあります。



(画像はUpToDateより:歯肉出血・舌先のアフタに注目ですね)

参考文献
開業医の外来小児科学
UpToDate Herpetic gingivostomatitis in young children


2016年1月6日水曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part2



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part2です。Table 2は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


鑑別診断

Dr. Oliver Freudenreich: 議論の参加者は全員このケースの診断を知っている。路上生活中のこの40歳女性は、未治療の精神病があり、重度の高血圧で救急部を受診した。この患者は精神疾患と内科疾患の双方を有しており、ワークアップと治療に優先順位をつけて最も可能性のある診断のリストを作成することが重要である。系統的かつ時系列での病歴が分からないので、ある程度診断が確定できなくても許容しなくてはいけない。


精神病

 この患者の精神病の原因となる鑑別診断を構築する際に、精神病が一次性か二次性かで区別すると良い(Table 2)。一次性精神病は精神疾患によるものである一方、二次性精神病は内科・外科疾患や物質使用によるものである。


二次性精神病

 二次性精神病で考慮すべき4つのメインカテゴリーは、譫妄、認知症、内科疾患(神経疾患を含む)、物質使用(アルコール、違法薬物、薬物によるトキシドローム)である。初期目標は、診断を早期閉鎖せずに患者の精神状態の原因となるものを同定することである。このタスクを管理可能なものにするために、臨床状況に応じて検査を提出し、致死的な精神病の原因(譫妄など)を除外し、治療可能な原因(甲状腺機能亢進症、ビタミンB12欠乏症など)と同定することに焦点を絞るべきである。検査は賢明に選択することが重要である。あまりに多い検査や誤った検査を提出すると、偽陽性、偽陰性が多くなるからである。救急の状況では検査をたくさん出す必要はないが、特に外来でのフォローアップが難しい場合では、急性期治療を行う際はあらゆる検査を考慮すべきである。

 全ての患者で以下の診察・検査を行う:バイタルサインの測定、身体診察、血糖値・血算・血球分画・電解質(カルシウム含む)、肝機能、腎機能を含む血液検査。腰椎穿刺、頭部画像検査、脳波検査はそれぞれ、脳炎、脳の構造的異常、てんかんを臨床的に疑う際に施行すべきである。治療的な状況はスクリーニングを考慮すべきであり、それには甲状腺疾患(TSH検査)、免疫・炎症疾患(赤沈、抗核抗体)、ビタミンB12欠乏症(ビタミンB12と葉酸)、感染症(HIV、神経梅毒など)などが含まれる。

 譫妄は精神病の約50%に伴っているが、このケースでは精神状況が急性でもなく変動も見られないため、譫妄の可能性は低い。患者の発症状況と病歴は神経変性疾患に合致しないが、患者にアパシーがあると考えると、以前の外傷性脳損傷は神経変性疾患と関連がある。重度の高血圧は精神病に伴う精神状況の変化の原因となりうるが、私は錯乱を伴う脳炎と他の末梢臓器障害があるのではと考える。高血圧に関連する別の懸念は脳梗塞であり、これも精神病の原因となりうるが、このケースでは頭部CTが正常で神経診察で巣症状がないため、この診断は可能性が低い。尿薬物スクリーニングは陰性だが、この検査が精神作用のある薬物乱用をすべては検出できない。ビタミンB12欠乏症は除外されたが、TSHの測定は依然として必要であり、神経梅毒とHIVの検査は強く考慮されるべきである。これらの状況は全て治療可能であり、精神病と関連しているからである。しかし、これらの検査結果が異常でなかったら、二次性精神病の可能性は低くなる。


一次性精神病

 精神疾患による精神病の診断を考える際は、統合失調症スペクトラム障害と精神病性気分障害に大別する。臨床的に重要な気分障害がないため、精神病性気分障害は否定的である。一方、患者は統合失調症に特徴的な症状を有している。患者の陽性症状としては妄想、幻聴、滅裂思考がある。患者は感覚鈍麻があり、これはコアとなる陰性症状である。他の陰性症状には、社会性の欠如と意欲低下が挙げられる。病勢が慢性であることも統合失調症に典型的であり、患者は社会的機能が乏しいように思われる。

 患者は自分の病状についての認識に欠けているが、それは統合失調症で良くみられることである、より高次の認知機能の問題を示唆することが多い。実際、統合失調症患者の85%で機能に関連する認知機能障害がみられており、特に運動記憶、言語記憶、実行機能に影響が見られる。このような状態は、統合失調症に関連する認知機能障害として知られているが、永続し、かつ抗精神病薬による治療に反応しない。

 統合失調症は除外診断だが、それにもかかわらず診断は観察可能な臨床的特徴と病歴に基づいている。この患者の受診時に手に入った情報に基づいて考えれば、可能性のある診断は統合失調症であり、おそらくそれが認知機能障害に関連した可能性が最も高く、もしかしたら以前の外傷性脳損傷により増悪したのかもしれない。もし患者の病勢がもっとエピソード的であり、気分障害の期間だけに精神病が見られたりした場合や、内科的疾患が症状をよりしっかり説明すると判明した場合は、付帯する情報とさらなる検査により、統合失調症の診断を見直すことになるかも知れない。

 患者は抗精神病薬と降圧薬の治療を受けるべきである。患者の木認知機能障害をより理解するためには、神経認知試験にくわえ、脳梗塞の既往や外傷性脳損傷による脳軟化症の所見を見つけるために頭部MRIを検査することを推奨する。統合失調症による認知機能低下が疑われるため、複雑な口頭指示は避けるべきである。この患者は理想的には、患者が信頼する人1人が継続的に外来でフォローして、これらの試験を受け治療反応をモニターするのを手助けすべきである。


Dr. Oliver Freudenreichの診断

統合失調症、統合失調症による認知機能低下の疑い、高血圧、路上生活状態