2020年3月30日月曜日

梅毒アップデート(NEJM review article)


NEJMに梅毒のレビューがありました.
そこまで遭遇頻度は高くないためか,私にとっては穴になりがちなところです.
これを機にしっかりとした知識をつけたいと思います.

The Modern Epidemic of Syphilis
N Engl J Med 2020; 382: 845-54.

文献には検査や治療のことも書かれていましたが,本記事では徴候と自然史について詳しく述べます.

・感染後数日以内に菌体は全身に広がる.CNSや胎児に感染することもある.
・一期梅毒といえば硬性下疳chancre.
・浸潤したり潰瘍形成したりするが,基部は保たれている.
・多くは無痛性で性的接触のあった場所に孤立性にできる.
・なので直腸周囲,直腸,口腔にできることもある.
・多数の有痛性潰瘍として出現することもあるので,無痛の孤立性結節でないからといって否定はできない.

・二期梅毒は多種多様な症候を呈する.
・搔痒のない手掌足底の皮疹をみたら,まず梅毒から疑う
・発熱やリンパ節腫大,粘膜病変,脱毛症を呈することも.
・骨膜炎が起こることもあるらしい.知らなかったのでCase reportを漁ると,両側脛骨の圧痛を呈するケースが多いのかもしれない.
・肝炎(肝性梅毒)をきたすこともある.ALPが高くなるが,AST,ALTはそこまで高くならない.
・梅毒で糸球体腎炎が起こりうる.初めて知りました.調べるとネフローゼになることもあるらしいです.

・神経梅毒はどのステージでも起こる.
・初期で起こりうる徴候は髄膜炎や脳神経障害.
・三期でおこる神経梅毒は髄膜血管型梅毒と実質型梅毒.
・髄膜血管型梅毒の徴候は片麻痺,失語,けいれんなど
・脊髄の血管を侵すこともある.
・実質型梅毒は全身の進行性麻痺または脊髄癆を来す.
・全身の進行性麻痺の症状は,易刺激性,認知機能障害,精神症状(妄想,錯乱)など
・脊髄癆は疼痛の鈍麻,失調,失禁など.
・脊髄癆のvisceral crisisって何?と思って調べたところ,脊髄後角や後枝が侵されることで,腹痛や背部痛が起こるとのこと.(PMID:30045319) 知らなかった.
・一期梅毒で神経症状がなければ髄液検査は推奨されない.

・ちょっとした視野異常,聴力異常は見落とされやすい.眼性梅毒,耳性梅毒もどのステージでも起こりうる.
・心血管の病変やゴム腫は有名だけど,調べるとさすがに現在では稀とのこと.

・梅毒の経過についてはFig.2が非常にわかりやすい.


・検査については簡単にだけ.
・トレポネーマ特異抗体は,梅毒が現在または過去感染していたことを示す.
・非トレポネーマ抗体は,疾患活動性と相関する.
・初期は陰性.なので一期梅毒疑いで抗体陰性なら2週間空けて再検査.
・非トレポネーマ抗体は無治療で30%がセロコンバージョンする.
・以上を踏まえた上で,下のFiruge 3を頭に叩き込んでおこうと思います.



・治療効果の測定について.
・非トレポネーマ抗体が早期梅毒だと6-12か月後,晩期梅毒だと12-24か月後に1/4いかになっていればserologic cureと判断.
・早期梅毒では6か月でserologic nonresponseが20%,12か月で11.5%.
・ただserologic nonresponseケースで追加の抗菌薬投与をすべきかは不明.髄液検査はしてもいいかもしれない.


2020年3月26日木曜日

Baxter's neuritis



足底筋膜炎plantar fasciitisの鑑別として、Baxter's neuritisという疾患があることをしりました。

(図はhttps://phxfootankle.com/tarsal-tunnel-syndrome-treatment-and-management/より引用)

外側足底神経第一枝(First branch of the lateral planter nerve)の絞扼による疼痛です。
足底筋膜炎の圧痛部位は踵骨の付着部位となり、場所が近接しているため鑑別が必要になります。

知らなくては容易に見逃してしまいそうです。
他の神経枝も絞扼による疼痛を起こすので、あわせて分布を理解しておいたほうがよさそうです。


2020年3月23日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル(part 4)



困難な状況にいる学習者に対するRDM-pモデルを解説したThe RDM-p Manualを訳しております.
※原著はA unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)

前回(3回目)では,SKIPEフレームワークの概論と,論理的基盤の解説を途中まで扱いました.
今回(4回目)は,SKIPEの論理的基盤の残りと,全体のまとめです.

今回で一区切りです.マニュアルにはこの後,詳細な追加解説がたくさん載っていますが,また気が向いたら紹介しようと思います.


•SKIPEは、以上の様々な要因を通る自然経過をシンプルに示す.まず,学習者が実際に示している技能Sとそれを下支えする知識Kのレベルで考える.その後,一歩下がって,技能と知識に影響を与えている可能性のある,他の現在の内部要因Iについて考える。そして,何らかの過去の要因Pがその学習者に継続的な影響を与えているかどうかを自問する.最後に,何らかの外的要因E(学習者の外にある要因)が事態を更にややこしくさせている可能性をチェックする.このアプローチをとることで、SKIPEは学習者に潜在的に影響する要因を,個人の中(現在,過去を問わず)と個人の外(つまり外的要因)の双方で探し,その2つを総合して考える。ここを出発点にして、適切な成長計画の作成が可能となる。

•希望するなら、別の方法で考えてもよい.その場合私たちは、学習者個人そのもの(学習者が普段どのように考え、感じ、振る舞うのか)を理解し,それが専門家としての成長にどのように影響するのかを理解するのに役立つさまざまな要因を、スキップSKIPをしながら探索する必要がある。 その後、外的Externalの影響因子が,学習者個人の考え、感情、行動に現在どのような役割を果たしており,その結果学習者の成長にどのような影響を与えているのかをチェックする.


SKIPEと因果関係に関するTimの言葉

 特定のパフォーマンスの問題を(RDM-p を通じて)診断した後に,因果関係の旅が始まる.つまり,(RDM各領域の) 'SK' に関する証拠を確かめることによって、俎上にある特定の技能または知識をその学習者が身に付けているのかどうかを確認することができる.

•別の時点や環境なら俎上の技術や知識を実践できる場合(したがって、特定のセッティングにおいて既に獲得したスキルを適用できなかった姿を見ていた場合)、どうしてその時はできなかったのかを明らかにするために、より広い「IPE」の旅に乗り出すことになる。

•技術/知識を実践したことがないと思われる場合、決定的な原因がこの領域にある可能性が高い.その場合,IPEの段階のチェックは控えめにして,主要な原因がないかと深く探索する必要はない.

 したがって、因果関係の検索は、常に「SK」のチェックから始めるのが良い。私が経験した最良の例は、ある学習者が「医者中心」であるために紹介されたケースである。最初の「SK」の証拠は、診察場面のビデオなどに見られた(あきらかに患者が示す手がかりを「無視」したり、質問のではなく伝達をしていたりした)。よいでしょう,それが問題の初期診断である。それならば,因果関係を探る重要な出発点は、「患者中心」の診療が実際に意味するものについてどれだけ深く理解しているかを確認することである.患者への対応が指導者等に大きな不満を与えるような医師と一緒に働いたことは何度もあるが、そのような医師は,問題ではなく患者個人を診るということの意味を知らずにいた.このように、因果関係の大本もまたRDM内に存在することが多い.(この場合は”D”の問題である.自分が何をしようとしているのか、なぜ自分の行為が失礼と認識されるのかについての理解/洞察力が欠如している)。一度しっかり問題を理解してしまえば、技能ははるかに自然に発達し始めることが多い。したがって、SKの問題が適切に確認されるまで、より深い問題に飛び込まないのがよい。


トップヒント:パフォーマンスが低い学習者に対し、SKIPEを追跡することは負の要因を明らかにするだけでなく、肯定的な影響も明らかにする(関係性の技能が高い、職業倫理が強い、家族が協力的であるなど)。あなたが対処する必要があると感じる他のどんな問題があろうとも、これらの肯定的な面を強調しなさい。


要約すると

•総合診療の仕事を定義する広範な領域が3つあり(関係性,診断,管理),どれもプロフェッショナリズムが下支えとなっている.RDM-pモデルは、困難な状況にいる医師にとって,このうちのどこに問題があるかを判断するのに役立つ.

•各領域には、特定の知識とそれに対応するスキルセット(SKIPEの”SK”に該当)が必要だが、SKの成長はより広範な要因(SKIPEの”IPE”に該当)によって促進されたり妨害されたりする。

•もがいている学習者にこのモデルを使用する際の鍵は、何がうまくいっていないのかを(RDM-pを用いて)まず突き止めることである.その後、何が原因か、何が問題に影響を与えているかを(SKIPE'フレームワークで手がかりを探すことで)特定するようにする。 SKIPE フレームワークは、より高い精度で原因や影響要因を特定するのに役立つ。そうすることで,あなたと学習者は、成功する可能性が高い「処方箋」を生成するのに適した位置に立つことができる.


2020年3月19日木曜日

家庭医療学の論文を読む


最近、どうやって家庭医療学の論文を読んでいるのかと質問されたので、
我流ですが記載します。

あくまで私はこうやっているという方法なので、あまり期待しすぎないようにしてください。
少しは参考になればうれしいです。

私はRSS feederに以下の雑誌を登録しています。
Annals of Family Medicine
Annals of Internal Medicine
British Journal of General Practice
Canadian Family Physician
Journal of American Board of Family Medicine
Journal of General and Family Medicine
Journal of American Geriatrics
Journal of General Internal Medicine
Education of Primary Care

購読点数を多くしすぎると処理できなくなるので、いろいろ取捨選択した結果、いまは上記に落ち着いています。
あとは時間があるときにタイトル流し読み→気になったらアブスト流し読み→さらにきになったら全文読みます。
このブログでは、諸事情あり家庭医療の論文の紹介はあまりしていないです。

最近のRCTの結果とか、診療ガイドラインのここがこう変わったよ、というのは、
恥を忍んで申し上げると、原著論文ではフォローしていません。
日本語で読めるブログがたくさんあるので、そちらでまかなっています。
本当はEvidence alertとかUpToDateのWhat's newとかPubmedの機能を使ってある程度網羅的にやったほうが良いのでしょうが、有限の時間と気力をどうやって振り分けるかという判断だと思います。
Case ReportやClinical Pictureを紹介してくれるブログもあるので、大助かりです。

家庭医療学については原著論文を自分でフォロー。
そうでない一般内科学的な知識や臨床スキルのアップデートについては二次資料を大いに活用。
おおざっぱにいえばそのような棲み分けです。

なお、NEJMのCase Records、Clinical Problem Solving、Clinical practice、Reviewはざっと目を通しています。とくにClinical practiceは私にとって大事です。疾患各論のアップデートができます。このブログでもよく取り上げています。
BMJのEducation at a glanceに分類される記事も定期的にチェックしています。こちらも疾患各論のアップデートのためです。
JAMAとLancetまでは手が回らないです。まあいいか。他の先生方のブログを頼ります。


2020年3月16日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル(part 3)



困難な状況にいる学習者に対するRDM-pモデルを解説したThe RDM-p Manualを訳しております.
※原著はA unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)

前回(2回目)では,RDM-pモデルを用いてどのように「問題」の診断を行うのかを概観しました.
今回(3回目)は,特定した問題の「原因」は何かを,SKIPEのフレームワークで診断する方法について述べます.長いので途中までです.続きとまとめは次回です.


原因の診断 : SKIPE を通じて

 4 つのパフォーマンス領域のうちどれに問題があるのかを特定したら、その背後にある原因,そしてその原因を存続させてしまっている影響因子を調べる必要がある。 この探索は学習者との話し合いの中でのみ行うことができる。RDM-p モデルは、この探索を行うための構造化された包括的な手法を提供する.それは"SKIPE" フレームワークと呼ばれる.SKIPEはSkills(技術)、Knowledge(知識)、Internal factors(内的要因),Past factors(過去の要因),External Factors(外的要因)の頭文字である.SKIPE は、3 つのパフォーマンス ドメイン (関係性、診断、管理)のいずれかで個人の成長に影響を与え,その基盤となるプロフェッショナリズムにも影響を与える可能性のある一連の原因および影響因子を特定する.

 SKIPEと聞くと,直ちにSkype(オンライン通信アプリ)が連想されるであろうが,これは意図的にそうしている.Skypeは他者とつながり議論を促進するシンプルな手段と謳われている.SKIPEもまさに同様であり,行動と原因を適切に「つなぐ」手段であり,学習者個人と対話する

 SKIPEのフレームワークは、意図的にRDM-pと区別しておく必要がある.これは,指導者が臨床業務で適用しているのと同じ原則に依拠する必要があることを強調するためである.つまり指導者は,まず(RDM-pを用いて)問題を診断し、その後に(SKIPEを用いて)考えられる原因を探さなくてはいけない.


SKIPEの理論的基盤



•まず青に注目する:学習者の能力は、主にの知識と技術(つまり,学習者の姿を実際に見聞きできるもの)の観点から定義される。これらが貧弱であれば、学習者が基本的能力を有している可能性は低くなる。つまり,そもそも能力がなければ、パフォーマンス(赤四角)を良くすることはできない!ところで,学習者は何の能力を身に付ける必要があるのか?答えは,R、D、Mで定義されるパフォーマンスの 3 つの主要領域である。したがって、最初に注目すべきのは、この3つの領域である.

•ゆえに,学習者のパフォーマンスが低い場合,私たちは自然に学習者の知識と技術(青楕円)の強化に焦点を当てる傾向があります.知識と技術を再度身に付け,能力(青い四角)を向上させ、最終的にパフォーマンス(赤四角)が改善することを期待するからである.このことには何の問題もない。研修生が知識や技術を欠いているなら、それらを強化する必要は明らかにある.問題なのは,どうしても知識や技術ばかりに目を向けがちであるということである.真相の多くはまだ他の領域に残されている.

•物語の他の部分は、灰色、黄色、緑の角丸四角(内部、外部、過去の要因)に埋め込まれている。これらは相互に影響し合い,学習者の現在の心の状態(紫四角)に寄与するだけでなく,知識と技術(青楕円形)の発達に潜在的影響を与える.学習者の現在の心の状態は,現在の能力の水準 (青四角) とパフォーマンス(赤四角) の関係を仲介する,刻々と変化する「マインドセット」(紫四角)である。 したがって、包括的または全体的なアプローチを採用することに真剣に取り組むなら、これらの角丸四角の要因を考慮することが不可欠である.

1.内的要因:態度/価値観、性格の特性/スタイル、健康/能力など、個人の中で現在作用する要因である。学習者の態度は、主にプロフェッショナリズムを決定する. ここでの問題は、'p'の証拠を再検討するきっかけになる.(注意:性格についてのアンケートの使用を考えている場合は注意が必要である.アンケートで確かに一般的な傾向はわかるが,その学習者がもがいている特定の状況をつぶさに観察するには解像度が低い可能性がある。この文脈では、そのような一般的な測定法はは信頼できない可能性がある。)

2.過去の要因:個人が職業生活を築く基盤である.初期の影響(育ち、文化的ルーツ、教育的ルーツなど)と最近の影響(臨床実習や病院での経験など)の両方が考慮される。いずれも、個人の思考や行動に支配的または長く続く影響を及ぼす可能性がある。私たちはみな独特の個人的な特性を有しているが,その多くは私たちの生い立ちにおける特定の影響因子から派生するものである。例えば,学習者に完璧主義、慢性的な自信の欠如、「正しいことは正しい」という考えに基づく強い価値観などの特性があることに気付いたとする.これらの特徴は,他者が植え付け深く確立するに至った,思考や生活のパターンにルーツがあることが多い.原因を探索する際には,学習者と協働してこのルーツに触れることが非常に有用である可能性がある.ただしその場合,敏感な扱いが求められる.このような内省的な対話は、学習者にとって重要な「ひらめき」の瞬間につながり、多くの場合、自分の特性のルーツとそれが及ぼす結果を認識することで、その特性の影響を和らげることができる。 

3.外的要因('ならず者’要因):現在個人に作用している要因である.家庭の要因もあれば,職場の要因もある(関係性、資源、期待など)。例えば、2人の小さな子どもを育てる母親でありながら、フルタイムの総合診療専攻を完璧にこなそうとする.あるいは、過重労働の指導医が,「学習速度が遅い」学習者に不満を感じてしまい,関係性を崩壊させてしまうことで,既に脆弱である学習者の自信をさらに損ない、ストレスによる症状(およびパフォーマンスの信頼度低下)を引き起こしてしまう.



2020年3月12日木曜日

塹壕足


この前、であったので。

英語だとtrench footです。
第一次世界大戦で、塹壕の中、冷たいぬかるみにずっと立っていた兵士に起こったことから名前が付きました。
現在は、路上生活などと関係するのかなと思います。
なお、塹壕内で水から全身を防ぐために作られたのがトレンチコートです。

google画像検索でtrench footと検索すれば、どんな足かは一目瞭然です。
幸い今回の患者さんは大事にはいたりませんでしたが、場合によったら切断もあり得るみたいです。

この疾患概念を知ったのが、AFPのCare of the homeless: an overviewというレビューでした。
Immersion foot syndromeのなかでも、特に冷水に浸かっていた場合に塹壕足とよびます。

https://wannabeafamilyphysician.blogspot.com/2016/11/part5-final.html
(↑該当箇所の日本語訳です)

名前を知っていると治療や対応など調べることができるので、覚えておきたいです。


2020年3月9日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル (part 2)



困難な状況にいる学習者に対するRDM-pモデルを解説したThe RDM-p Manualを訳しております.
※原著はA unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)

前回(1回目)では,RDM-pモデルの概観について説明しました.
困難な状況にいる学習者に向き合う際には,何が起こっているのか(問題)と,どうしてそれがおこっているのか(原因)をそれぞれ突き止める必要があることが分かりました.

今回(2回目)は,RDM-pモデルで行う「問題」の診断についての概説です.


問題の診断 : RDM-p を通じて

 RDM-pアプローチで再認識すべきことは、質の高い結果を出力するには入力の質が高くないといけないという事実である。 したがって、データ収集に時間を費やすことが重要である.学習者のパフォーマンスが気にかかるとき、多くの場合その懸念は何らかの証拠(データ)に起因するものである。 この種の証拠には以下のようなものがある.

・あなたが直接観察したり、気づいたりしたこと:例えば、学習者の部屋に手紙の山があり,迅速な返信ができていないところを目撃する。

・他の人が発言したこと: 受付スタッフが、学習者にどれだけ下に見られているか訴える.患者が,学習者の態度について不満を言う.診療マネージャーが、学習者がいつも仕事に30分遅れているようだと伝える。

 RDM-pモデルが有効に機能するためには,このような具体的な「証拠」をできる限り集めることが重要である.しかしこのモデルでは,この時点で結論に飛びつくのではなく,まずは集めた証拠がパフォーマンスに対する懸念のどの領域に当てはまるのかを考える.一般的には,(患者,同僚,その他,あるいは学習者自身の文脈における)学習者のパフォーマンス不足は,RDM-pの4つの領域のどれか1つ以上に当てはまる.

R: Relationship 
関係性の構築または維持に関する問題-患者、同僚、または他の人との関係性に関連する

D: Diagnostics
診断の問題-情報の収集や解釈、優先順位付け、意思決定(臨床に限らず,人生の他の部分の意思決定も含む)に関連する

M: Management
管理の問題-管理はここでは、臨床上ではなく組織の管理に関連する。自分の仕事や自分自身,そして他者を整理するような意味が含有されている。

P: Professionalism
プロフェッショナリズムの問題-態度、誠実さ、高潔さ,信頼に関連する。

 このように証拠をマッピングすると、特定の具体的事象から離れて一般化することができ,パフォーマンスの困難さがどの領域に属するものなのか,明確に見通すことができるようになる。4つのRDM-p領域すべてを見直し、困難さを最も示す証拠がどこにあるのかを調べることによって,困難の真の正体が姿を現わす。Norfolkは論文(訳注:原著のこと)でこのように述べている.

 「総合診療にはその本質として,関係性、診断、管理という3つのコアアクティビティ間の微妙な相互作用が内包されている。その3つを連動する『車輪の歯車』とみなし、プロフェッショナリズムを歯車に不可欠な潤滑油であるとして視覚化することがおそらく可能である.これら3つの領域間のダイナミックな相互作用のなかに、職能のあらゆる構成要素が含まれているが,関心の対象の大半は関係性と診断についてである.」


2020年3月5日木曜日

Nasogastric tube syndrome



他院入院中で経鼻胃管が留置されている患者が,酸素飽和度低下で来院.
著明なstridorがあり,気道閉塞を疑って検査したところ,両側声帯麻痺が発覚.
気管切開をして気道確保し,胃管を抜去して経過観察したら,麻痺は自然軽快した.

…というケースを見聞しました.


Nasogasrtic tube syndromeといい,胃管挿入により両側の声帯麻痺がおこることがあります.知らなかったです.


調べてみると,17例を集積したメタアナリシスがありました.
Brousseau VJ, Kost KM. A rare but serious entity: nasogastric tube syndrome. Otolaryngol Head Neck Surg. 2006 Nov;135(5):677-9. (PMID: 17071292)

症状は,咽頭痛が最も多く13/17,次にストライダー(9/17),嚥下障害(6/17),嗄声(5/17),呼吸困難(3/17)と続きます.
予兆はなく,挿入後すぐに起こることもあれば,抜去後しばらくして起こることもあるようです.


上気道閉塞という緊急で処置が必要な状態となるので,
「胃管挿入に関連して両側声帯麻痺が起こることがある」という知識は
救命のためには非常に重要ですね.

もちろん稀ですが,胃管挿入はコモンな手技なので,知っておくべきです.


参考:http://www.jseptic.com/journal/28.pdf


2020年3月2日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル (part 1)


RCGPのTraining the trainerで,Trainee in Difficulty(TID)について学んだことを前々回のブログで紹介しました.

ほかにもTIDについて学んだことがあり,それがRDM-pモデルです.
TIDの何が躓いているポイントで,どうすればよいのかを解明するモデルです.
講義ではさらっと流れてしまったので,詳しくしらべてみました.

原著はこれですね.
A unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)
しかし,この論文を読んでも,いまいち理解が進みませんでした.

そこでもっと調べてみると,Dr Ramesh Mehayが,RDM-pモデル生みの親であるTim Norfolkの主催するコースに参加してのまとめ記事がみつかりました.
The RDM-p Manual

どうも,Dr Ramesh MehayがEditorを務めた以下の書籍に付随したweb chapterのようです.本はさっそく購入しました.



というわけで,RDM-pマニュアルを読んだわけですが,これが非常に面白く,目から鱗が落ちまくったので,久しぶりに何回かに分けて訳してみようと思いました.
ざっと調べた範囲では,RDM-pモデルを日本語で紹介した文献は見当たらなかったので,ちょうどいいと思います.
全訳ではなく抄訳です.でもほぼ全訳になるとおもいます.
元記事は上記リンクの通り無料で公開されいるので,気になる方はぜひ図表入りで読んだ下さい.



RDM-p マニュアル

この文書は、RDM-p アプローチを詳細に説明する包括的マニュアルである。 明確さを確保するために意図的に長く書かれている。 読者は最終的に、RDM-pアプローチを実際に適用できるようになることが期待される。

RDM-pモデルは、学習者にどのような支援をすべきかを導く診断フレームワークであり,特に困難な状況にいる学習者(Trainee in difficulty)を支援する際に役立つ.2006年にTim Norfolkによって開発された。 Tim は、既存のモデルではカバーする範囲や構造が十分ではないことを知り、この新しいパフォーマンス評価モデルを開発した。

RDM-pモデルは,RCGPが臨床および教育監督者に,すべての学習者についてこの枠組みに従って報告することを求めるようになった。 12の作業ベースの評価ドメインがTimのモデルにきちんと収まることも大事だが、困難な状況にいる学習者のパフォーマンスのパターンを診断するためのツールとして特別な価値がある。 


なぜこの文書を読む必要があるのか?

多くの人が、学習者がパフォーマンスの問題を抱え始めた瞬間を思い出すことができるだろう。 残念ながら、その時我々の大半がとる行動は,学習者のところに乗り込み、原因について表面的な推測を行い、それらを修正しようと残りのエネルギーを費やすことである.これは根本的に欠陥があり、失敗しやすい方法である.本質を適切にとらえられていないからである.RDM-pアプローチでは、結論に飛びつくのを防ぎ、パフォーマンスに関する問題に対し,やみくもに解決を急ぐのではなく,まず適切に問題を同定するようになる。

この文書を読むべき人:
・困難な状況にいる学習者がいて,前を向いて進むための明確な方法を有していない.
・困難な状況にいる学習者がいて,そのとき何をすべきか分からなかった.
・他の枠組みをためしてみたが,うまくいかなかった.
・困難な状況にいる学習者に定期的に向き合っている者が開発したモデルについて読んでみたい.


では、なぜこのアプローチを学ぶのか?

 困難な状況にいる学習者に対処する方法を提案するモデルは数多く発表されている(CLMDAなど)が、多くのモデルでは,実際に何が起こっているのか(症状)を診断することと,何によって引き起こされたのか(原因)を診断することとの境界が曖昧である.この 2 つは分けて考える必要があり、それこそがRDM-p モデルの特色である。

 RDM-pモデルの優れた点を以下に要約する.

1. このプロセスの肝要な点は、(RDM-pフレームワークを通じて)問題の正確な診断から始まることを担保しているところにある。 正確な診断の後に,(後で説明する SKIPE フレームワークを通じて) 原因を段階的に検索する。 パフォーマンスの評価(RDM-p)を原因/影響因子の評価(SKIPE)と峻別することで,実際のパフォーマンス領域における懸念事項を明瞭かつ有意義に解明することができる.

2. RDM-pにより、少数の人間の発言に対する主観的な判断ではなく、学習者に関する明確な証拠に立脚することができる。 観察された出来事に基づいて(研修生とその周辺の人々から)コメントを収集し評価することが奨励される。ゆえに,他の方法を使って見通しの悪いアプローチを企てるよりも,正しい方向に向かうことができる可能性が高い.他の方法によるテンプレートはおしなべて,通り一遍の課題に立ち向かう「ざっとしており,あらかじめ用意された」ものでしかない.

3. 他のアプローチが考慮する原因の範囲はあまり一貫したものではない。RDM-p アプローチは,SKIPE を用いることで原因のみならず影響因子を考えることができるため,より包括的であり,かつ明確な方法論に基づくものである.

4. 他のモデルの大半は、個々の原因を別々に(それぞれ独立した存在として)考えるという深い欠陥がある。 現実世界では、パフォーマンスの低下は、複数の原因と影響因子が相互作用した結果である.そしてこれこそが,(SKIPEを通じて探求される)RDM-pアプローチの肝である。