2022年7月30日土曜日

COVID-19によるがん診断の減少


Núria Mora, Carolina Guiriguet, Roser Cantenys, Leonardo Méndez-Boo, Mercè Marzo-Castillejo, Mència Benítez, Francesc Fina, Mireia Fàbregas, Eduardo Hermosilla, Albert Mercadé, Manuel Medina, Ermengol Coma.

Cancer diagnosis in primary care after second pandemic year in Catalonia: a time-series analysis of primary care electronic health records covering about 5 million people.

Family Practice, 2022;, cmac083,


COVID-19のパンデミックにより、プライマリ・ケアの受診が減りました。

この受診抑制により、がんの診断がどのような影響を受けたのかを分析しています。


2014年1月から2021年12月までの電子カルテデータを用い、トレンドと季節性で調整した時間回帰を用いて、人口10万人あたりの月間がん診断率の予測値を求めました。

そのうえで、2019年のがん診断率と2020年、2021年のがん診断率をt検定で比較しました。


その結果、2020年のがん診断の割合は2019年と比較して-21%減少していました。

とりわけ、2020年初頭のロックダウン期間中では40%以上減少していました。

前立腺がんと皮膚がんでは減少の幅がより大きく、それぞれ29.6%減少、26.9%減少でした。

一方、肺がんは統計的に有意な差はありませんでした。


がん診断は2021年3月頃に期待値に戻り、2021年の割合は2019年とほぼ同じでした。

しかし、2020-2021年のパンデミック月とパンデミック前の月を比較すると、やはり11%の減少が見られました。


ポイントとしては、

①がん診断の割合はパンデミック前に戻った。しかし、パンデミック中に診断されなかったケースを取り返すほどではない。

②前立腺がんと皮膚がんで診断されず取り残されている人が多いはず。


普段から意識しましょう。


2022年7月25日月曜日

高齢者の自宅訪問による医学生の学び


Goldlist K, Beltran CP, Rhodes-Kropf J, Sullivan AM, Schwartz AW. Out of the classroom, into the home: Medical and dental students' lessons learned from a Geriatrics home visit. J Am Geriatr Soc. 2022 Jul 19. doi: 10.1111/jgs.17968. Epub ahead of print. PMID: 35852495.


ハーバード大学医学部で、1年生が老年医学のカリキュラムの一環で、高齢者の自宅に訪問するということをしているようです。

3年間、495名の1年生のうち、参加に同意した348名が匿名評価用紙に記入した内容の質的内容分析を行って、老年医学の5Mというのを抽出しています。

5MとはMobility, Mind, Medications, Multicomplexity, Matters Mostです。


研究手法としては非常にシンプルです。日本でも同様の取り組みをしているところはありますよね。この論文は、普段の教育をしっかり分析して、5Mという簡潔で分かりやすいテーマを見つけたところだと思います。


2022年7月15日金曜日

家庭医に必要な時間は1日26.7時間?



家庭医が扱う各健康問題に対し、エビデンス通りに診療するのに必要な時間を文献を基に推定して、家庭医の患者パネルでその時間を足し合わせて計算した、というものです。


細かい内容は本文を読んでいただくとして…
家庭医が単独で行うなら26.7時間/日必要です。
チームでするなら9.3時間/日必要です。

実際には、必要な時間はコンテキストで変わるだろうから参考程度にするとして、慢性疾患ケアの2倍の時間が予防医療にかかる、というのが私としては一番面白いところでした。
チーム内で役割を分担することが大事というのは賛成です。
この論文を読んで、家庭医は忙しいんだ、と主張するより、自分がちゃんとした予防医療や疾患ケアを提供できていないのではないか、と自分の診療を振り返るのがよいのだろうと思います。
また、マルチモビディティに対して効率的なケアを提供する、継続的な関係性をもとに健康問題に優先順位をつける、といった方略が重要なのかなと思いました。

2022年7月12日火曜日

大腸がんスクリーニングで家族歴を意識するか?


Ingrand I, Palierne N, Sarrazin P, Desbordes Y, Blanchard C, Ingrand P. Familial colonoscopic screening: how do French general practitioners deal with patients and their high-risk relatives. A qualitative study. Eur J Gen Pract. 2022 Dec;28(1):182-190. doi: 10.1080/13814788.2022.2089353. PMID: 35796607.


フランスにおける家族性 CRC スクリーニングにおけるGPの位置づけを探ることを目的とした質的研究です。


65歳以下で大腸がんになった患者とその第一度近親者に対する大腸がんスクリーニングに関して、GP対象に35件の犯行増加面接を行ってデータを収集しています。収集したデータはテーマ分析をしています。


その結果、大腸がんの第一親等に対する大腸がんスクリーニングに関する知識と実施状況は、GPによって大きく異なることがわかりました。

診断プロセスを開始しながらも、GPは自分たちが家族歴に関するリスクに関する情報の流れの主体であるとは考えていませんでした。

GPは、家族歴の調査の重要性を強調するものの、実際には時間がなくて、また患者 が提供する情報の信頼性を疑っていました。


研究者たちは、知識ギャップを回避し、家族歴収集の質を改善し、適切なスクリーニングにむずびつけることが課題であると指摘しています。


この研究を実臨床にどう応用するか考えました。

私は、定期通院患者に対しては40-45歳から年1回の便潜血検査を推奨するようにしています。(大腸ポリープ既往があればリスクに応じた期間で内視鏡スクリーニングです。)

しかし、家族歴については、そこまで気にしていませんでした。

これだと、40歳未満で大腸がんが起こりうる遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC: Hereditary nonpolyposis colorectal cancer)や家族性大腸ポリポーシス(FAP: Familial adenomatous polyposis)がもれてしまいますね。

そもそも、40歳未満で私の外来を定期通院する患者に、がんの家族歴を聞く、というプラクティスをしていませんでした。

今の自分のセッティングなら、40歳未満の方が定期通院していることが少ないので、若年者のスクリーニングに力を入れるより、40-45歳以上の患者に確実に便潜血検査を行うほうが現実的かなと思いつつ、40歳未満の患者に(大腸がんに限らず)がんの家族歴を聴取し、もし大腸がんの家族歴があれば、必要に応じて検査を行う、少なくとも40歳になったら便潜血検査を確実に開始する、というプラクティスがいいのかなと思いました。




2022年7月9日土曜日

肺塞栓症の診断遅延


van Maanen R, Trinks-Roerdink EM, Rutten FH, Geersing GJ. A systematic review and meta-analysis of diagnostic delay in pulmonary embolism. Eur J Gen Pract. 2022 Dec;28(1):165-172. doi: 10.1080/13814788.2022.2086232. PMID: 35730378.


プライマリケアセッティングでの肺塞栓症の診断遅延についてのメタアナリシスです。


平均診断遅延の推定値は、6.3日(95%予測区間2.5~15.8)。

7日以上の遅延があった患者の割合は、18%~38%。

咳嗽、慢性呼吸器疾患、心不全があると、診断が遅れる。


プライマリケアでは肺塞栓診断前に症状が平均して1週間続く、というのは驚きでした。

数日以上続く呼吸器症状や胸痛、というプレゼンで患者が診療所を受診すれば、肺塞栓症を考えるスイッチを入れるほうがよさそうです。