2015年10月28日水曜日

アキレス腱断裂について


今週のBMJ Practiceを箇条書きでまとめます。
Acute Achilles tendon rupture BMJ 2015;351:h4722


スポーツ中に起こることが多い。通常の歩行時に起こることはめったにない。
年間発症率は2/10000

リスク因子:加齢、アキレス腱症、ステロイド服用、アキレス腱付近のステロイド注射の既往、キノロン使用

非専門医は20%を見落としている。打撲と間違われることが多い。
歩けて、つま先立ちができて、底屈の筋力が正常でもアキレス腱断裂していることがある。
見落とす理由は以下の通り。
・腱が切れる音はないこともある
・完全断裂でも1/3は疼痛を訴えない
・内出血や腫脹が軽度のことがある
・触って断裂部位が分からないことがある
・他の底屈筋がアキレス腱をカバーしてしまう

治療が遅れると予後が悪くなる。
歩くことはできても走ったり階段上がったりが難しくなる。

診断はSimmondの三徴をみる。
2つ以上当てはまれば感度100%で診断できる。
Simmondの三徴は、言葉で説明するより動画をご覧あれ。


活動性の高い患者なら手術が第一選択。
治療すれば予後良好。歩行や階段昇降は12週(中央値)後、スポーツ復帰は9ヶ月(中央値)後に可能。


少しでも疑えば、Simmondの三徴をしっかりみて、手術につなぎましょう。


2015年10月22日木曜日

薬剤誘発性巨赤芽球性貧血(NEJM Review Article)


最近、薬剤副作用関連の記事が多いですね。

今週のNEJM Review Articleをまとめます。
Drug-Induced Megaloblastic Anemia

巨赤芽球性貧血といえばVitB12欠乏ならびに葉酸欠乏ですが
栄養状態が改善した現在は、医原性の割合が高くなっているとのことです。
MCVが高いからと言ってイコール巨赤芽球性貧血ではありません。
アルコール乱用、甲状腺機能低下症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、溶血など網状赤血球数が高い場合でもMCVは高値になります。

ビタミンB12の必要量は1-2.5ug/dayと少量です。
葉酸摂取により血球異常は修飾されるので、医原性のビタミンB12欠乏は神経症状が先行することが多いそうです。
ミエロパチー、ニューロパチー、視神経萎縮、精神変化、直腸膀胱傷害などの自律神経障害に注意です。

・プリン、ピリミジン代謝阻害
抗がん剤の他には、メトトレキサート、アロプリノールなどが普段使う薬で重要です。

・葉酸吸収阻害
アルコール、抗痙攣薬、避妊薬、抗生物質がここに挙げられます。

・葉酸代謝阻害
メトトレキサートは、腸管や骨髄の前駆細胞に急速に影響を与えるので、治療開始24時間後には葉酸服用を開始すべきです。
ST合剤もこの仲間です。

・ビタミンB12吸収阻害
臨床的には、回腸粘膜が傷害されることにより引き起こることが多いです。
また、ビタミンB12は弱酸なので、アルカリ下で吸収が阻害されます。
フェニトイン(pH12)、H2ブロッカー、PPIなどが注意です。


巨赤芽球性貧血を疑う場合は
これらの薬剤が処方されていないかを確認しましょう。



ニューモシスティス肺炎の予防について


HIV患者も非HIV患者も、ニューモシスティス肺炎予防の第一選択はST合剤です。
1年半の観察で、発症予防効果がRR 0.04-0.62、死亡予防効果が0.03-0.94です。
(J Hospitalist Network Clinical Question 「PCP予防」を参照。Cochrane Database Syst Rev. 2014;10:CD005590.)。

予防レジメンは、バクタ1錠/日あるいは2錠分1隔日です。(ブログ「呼吸器内科医」)


5-10mg/dayのステロイドを数年にわたり服用している方を連続して受け持つ機会があったので
ステロイドの用量との関係について調べました。

UpToDateには、予防開始の基準として
・プレドニゾン20mg/day以上を1か月以上かつ他の免疫抑制状態となる原因がある(Grade1A)
・リウマチ性疾患でプレドニゾン10mg/day以上を1か月以上かつ他の免疫抑制薬を使用(Grade2B)
とあります。

他の見解としては、20mg/day以上を2-3週以上使用する場合で推奨(Clin Microbiol Rev. 2004 17:770-82.)、16mg/day以上を8週間以上使用で推奨(N Eng J Med 2004 350:2487-98)などがあります。

10mg/day以下または累積700mg/day以下では発症率は増えない(Rev Infect Dis. 1989 11:954-63)という報告もあります。
一方、≦5mg/dayでHR 1.5-2.0、5-10mg/dayでHR 1.7-2.7、>10mg/dayでHR 1.6-3.2とする研究(Arthritis Rheum 2006 54:628-34)もあり、悩ましいです。
(参考:レジデントのための感染症診療マニュアル)

これをみると、10mg/dayのプレドニゾンを他院で10年間投与されている患者に関しては、St合剤による予防はありかなと思います。
一方、5mg/dayのプレドニゾンを1年間飲んでいる患者は、他の要因も考慮して、予防は必ずしも必要ではないかなと思います。

患者、家族とShared desicion makingをするしかないですね。


2015年10月20日火曜日

ビスフォスフォネートを止める時期について


骨粗鬆症のスクリーニング対象群と治療開始判断基準については
この本によくまとまっています。



骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版からの引用です。



ステロイドを使用する際も、第一選択はビスフォスフォネートです。
ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年改訂版)の引用です。



ビスフォスフォネートを使用している入院患者さんで
長期投与は逆に骨折のリスクになるとどこかで読んだなと思い
ポリファーマシーということもあって
ビスフォスフォネートをやめようかなと考えたのですが
ガイドラインや上の文献にも「やめ時」の記載がなく
どうしたものかと困ったので調べてみました。

BMJ 2015;351:h3783の記載を基にまとめます。

 HORIZON-PFT studyでは、ゾレドロン酸3年間投与後に、さらに3年ゾレドロン酸を内服した群と、3年後からプラセボを服用した群をRCTで比較しています。
X線上の椎体骨折発見率はゾレドロン酸継続群で少なかった(3.0%vs6.2%)ですが、臨床的な違いはなかったという結論でした。

FLEX studyでは、アレンドロン酸を継続した群と止めた群で、椎体以外の骨折のリスクは変わらなかったが、臨床的な椎体骨折の発生率は継続群で減少した(2.4%vs5.3%)という結論になりました。しかし、FDAの分析では診療的な骨折の発生率は差がないということになったみたいです。

ビスフォスフォネートの休薬に関するRCTはこの2つだけなので、はっきりしたことは言えないのですが
BMJでは、アレンドロン酸を5年間ありはゾレドロン酸を3年間使用することで、休薬しても骨折予防効果が残るかもしれないという記載になっています。
臨床の場では、その時々の患者さんの状態に合わせて判断するように、とのことですね。
薬を始めた後に寝たりきになった、ステロイドを始めた、骨折をした、など、続けるか止めるかを判断する情報は変わっていきますからね。
そして大切なのは、始めるときに治療期間を決めることだ、とのあります。

私のケースでは、ポリファーマシーであること、寝たきりであることは休薬を支持する情報であり
治療期間がまだ短いこと、骨折新規発症のハイリスク群であることは続行を支持する情報です。
本人のADLと相談し、併存疾患の趨勢を判断しながら、相談して決めていこうと思います。


2015年10月18日日曜日

低アルブミン血症とワーファリン


低アルブミン血症のある患者さんがDVTを起こしていたために
ワーファリンを少量から開始したのですが、PT-INRが著明に延長してしまい
慌てて拮抗したという経験をしました。

以前まとめた、ワーファリンが効きすぎたら(BMJ Practice)という記事では扱っていなかったのですが
低アルブミン血症でワーファリンが効きすぎることがあります。

血中ワーファリンの約95%はアルブミンに結合しています。
アルブミンが薬物と結合する箇所は3つあり、
それぞれサイトI(ワルファリンサイト)、サイトII(ジアゼパムサイト)、サイトIII(ジギトキシンサイト)と名前がついています。

故に、アルブミンが低値であったり、他のアルブミン結合性が高い薬剤が併用されていたりすると
遊離ワーファリン濃度が高くなり、PTが延長しすぎることが起こりえます。
仮にAlb 4で遊離ワーファリンが全体の5%だとするならば、
単純計算でAlb 2だと遊離ワーファリンは全体の52.5%を占めることになりますね。

Am J Med. 2002 Feb 15;112(3):247-8.にレビューがあるみたいですが
全文が読めず断念しました。

2015年10月17日土曜日

ボルタレン坐薬による血圧低下


内科研修で担当した患者を何かの切り口でまとめたいと考えています。
薬物の有害事象がでている高齢者をみる機会が非常に多いので、その切り口で分析したら面白いかなと思っています。

腎障害のある高齢者が腎盂腎炎で発熱して
近医でボルタレンサポを投与されて意識レベル低下して…
という患者さんに出会いました。

私自身はボルタレンサポを使用する機会がないのですが
腎障害+ボルタレンで低血圧を招くとのことです。

ROCKY NOTEに詳しい解説がありました。さすが…。
ジクロフェナク坐薬と血圧低下


2015年10月9日金曜日

Bad News Telling の共通言語


Bad News Tellingについては、以下の記事にも書いています。
終末期ケアにおける患者との対話 Vol.1, Vol.2, Vol.3

Bad News Tellingを勉強する上で、共通言語となるキーワードとして
SPIKESとSHAREをまとめておきます。

参照
http://www.kcfm.jp/filemgmt_data/files/SPIKES_SHARE_20110816.pdf
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02759_01

SPIKES
1. Setting
・ プライバシーを保証するような場を設定する。
・ 患者に「その場に居て欲しい人は誰か」を確認しておく。
・ 患者が涙ぐむ場合に備えてティッシュを用意しておく。
・ 患者と家族には必ず自己紹介し、患者のケアにおける役割を明確にする。

2. Perception
・次のように質問して患者の病気の認識度を把握する。
「あなたが理解していることをお話しください。」
「あなたが主治医から聴かれたことはどんなことでしょう。」
・否認の徴候は特に敏感に感じ取る。
否認は患者が恐怖やコントロール感を失うことへの対処の一つである。

3. Invitation
・患者がどれくらいの情報を知りたがっているのかを評価する。
「あなたはたくさんの情報を知っておきたいと思われるタイプですか、それとも...」
(患者の知る権利を尊重するのと同様に、患者の知りたくない権利も尊重する)
・常に現在の情報の必要性を確認していく。
患者は診断時に多くの情報を知りたがるがこの要求は病気が進行するにつれ減少することがある。

4 Knowledge
・ 評価した患者の理解力のレベルで医学的事実、情報を提供する。
・ 警告弾を放ってから悪い知らせを予測させ、情報を提供する。
「あなたに伝えなければならないことがありますが、あまり良い内容ではないので残念です......」
・ 情報は小出しに、わかりやすく伝える。 (医学的専門用語は避ける)
・ 患者がどのくらい理解したのかを時々確認しながら、それに応じて情報提供を調節していく。
「理解できましたか?」
「私の言っていることがわかりますか?」
・「我々があなたにできることはもうありません」と絶対に言わない。

5. Empathy & Exploration
・ すべての反応に共感的に反応する。
・ 患者の感情がわからないときは、患者の考えや気持ちを探索する。
・ 患者の気がかりを確認する。

6. Summary, Strategy


SHARE

Supportive environment
How to deliver the bad news
Additional information
Reassurance and Emotional support

・基本
礼儀正しく患者に接する
患者に質問を促し、その質問に十分にこたえる

1.面談を開始する<起>
患者の気持ちを和らげる言葉をかける
病状、これまでの経過、面談の目的について振り返り、病気に対する認識を確認する
家族に対しても患者と同じように配慮する

2.悪い知らせを伝える<承>
悪い知らせを伝える前に患者が心の準備をできるような言葉をかける
悪い知らせをわかりやすく明確に伝える
患者が感情を表に出しても受け止める
患者に理解度を確認しながら伝える

3.治療を含め今後のことについて話し合う<転>
標準的治療方針/選択肢/治療の危険性や有効性を説明し、推奨する治療法を伝える
誰が治療選択に関わることを望むかを尋ねる
「できないこと」だけでなく、「できること」を伝える
患者が利用できるサービスやサポート(たとえば、医療相談、高額医療負担、訪問看護、ソー
シャルワーカー、カウンセラー)に関する情報を提供する
患者のこれからの日常生活や仕事についても話し合う

4.面談をまとめる<結>
要点をまとめて伝える(サマリーを行う)
説明に用いた紙を患者に渡す
今後も責任をもって診療に当たること、見捨てないことを伝える
患者の気持ちを支える言葉をかける


2015年10月6日火曜日

ミノサイクリンによる皮膚色素沈着


上肢と顔面が「青い」患者さんがいて
原因は何だろうとあれこれ調べていたら
長期投与(理由は不明)されているミノサイクリンの副作用に当たりました。

minocycline-induced skin hyperpigmentationで検索すれば画像がたくさん見れます。


NEJMのIMAGES IN CLINICAL MEDICINEにも取り上げられたことがあります。
N Engl J Med 2006; 355:e23



薬剤を中止したら元に戻ることも多いですが、レーザー治療などを行うこともあるようです。
(British Journal of Dermatology 1996: 135: 317-9)



Dermacase from CFP 2013-後半



以前の記事の続きです。












2015年10月5日月曜日

レボドパ・カルビドパと酸化マグネシウムの併用


舌が黒くなっているパーキンソン病の方に出会いました。
レボドパ・カルビドパと酸化マグネシウム散剤を同時に服用していたことによるものと考えました。

レボドパはアルカリ下で分解されてしまい、黒色を呈するようになります。
ゆえに、一緒にお湯で溶かしたり、散剤を混ぜたりすると失活してしまいます。

また、カルビドパはアルカリ下で瞬間的に失活します。
パーキンソン病により便秘が起こるため、薬剤の服用のタイミングには注意です。

他に、鉄剤や抗精神病薬などとの併用も注意です。

また、レボドパ・カルビドパを急に中止すると、悪性症候群が起こることがあります。こちらも注意です。

参考:http://bit.ly/1OekoH7
混ぜ合わせた時の黒くなる動画もあります。参考にしてください。


2015年10月4日日曜日

Dermacase from CFP 2013-前半


Canadian Family Physicianで以前連載されていた
Dermacaseをまとめてみました。

まずは、2013年前半分です。
参考:Fitzpatrick’s color atlas and synopsis of clinical dermatology 7th edition