2020年6月29日月曜日

偏頭痛を増悪させる薬剤


更新を週2回から週1回に変更します.

学生の勉強会のために,偏頭痛について勉強していたのですが,
NEJMの総説( Migraine NEJM 2017;377:553-61)に
偏頭痛を増悪させる可能性がある薬剤が載っていました.

知らない薬剤が多く,びっくりした反面
これを暗記するのは大変だと感じ
かつ,記事にでもしないと,偏頭痛を増悪させる薬があったことすら忘れてしまいそうなので
あわてて記事にします.

・経口避妊薬
・閉経後ホルモン保有治療薬
・鼻粘膜血管収縮薬
・SSRI
・PPI

あわせて,増悪させる生活習慣としては以下の通りです
・食事を抜く
・不規則なカフェイン接種
・不規則な睡眠
・ストレス

カフェインは特異的に聴取しないといけませんね.
いままで聞いていませんでした.診療を変えます.


2020年6月25日木曜日

糖尿病性筋梗塞



例によって,いままで知らなかった疾患について調べました.

糖尿病に長期罹患している患者が,急激な大腿痛を来した時に鑑別に挙げる疾患です.
横紋筋融解症,感染症,DVTなどの除外が必要です.

システマティックレビューで115人の患者を集めた研究があります.

要点をまとめると
・突然発症の筋痛.大腿が多い.
・局所の腫脹を伴うことが多い
・自然と軽快するが,再発も多い.palpable painful massが残ることも.
・両側性が8.4%
・CKが上昇するのは半数程度
・MRIが診断に有用:T2でHigh,T1でlow.

diagnostic delayがある疾患ですが,
安易に飛びつくと,DVTや壊死性筋膜炎を見逃しそうで注意が必要です.


2020年6月22日月曜日

味覚・嗅覚異常の原因



味覚・嗅覚異常は,外来で時折であう主訴ですが
鑑別診断があまり想起できず,栄養素欠乏がなければ加齢性疑いでお茶を濁していました.

AFPで総説があったのでざっくりまとめます.

嗅覚異常の鑑別は以下の通り(上論文より改変)
・鼻・副鼻腔疾患
・頭部外傷
・パーキンソン病など神経変性疾患
・頭蓋内腫瘍
・内分泌(副腎不全,クッシング症候群,糖尿病,甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症など)
・てんかん,偏頭痛
・SLE
・シェーグレン症候群

味覚異常は以下の通り
・口腔内感染症(カンジダなど)
・ベル麻痺
・頭部,頭蓋底の腫瘍
・鉛や銅の中毒
・内分泌(副腎不全,クッシング症候群,糖尿病,甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症など)
・てんかん,偏頭痛
・シェーグレン症候群

言われてみればなるほどですね.内分泌系の疾患が主訴からだと想起しづらいです.


薬剤性の味覚・嗅覚障害も珍しいことではないようです.
これもリストを作成して頭の中に入れておきます.

・抗菌薬(アンピシリン,アジスロマイシン,シプロフロキサシン,クラリスロマイシン,メトロニダゾールなど)
・抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトイン)
・抗うつ薬
・抗ヒスタミン薬
・降圧薬など循環器系薬剤(エナラプリル,ジルチアゼム,サイアザイド,ニフェジピン,プロプラノロール,スピロノラクトンなど)
・コルヒチン
・抗がん剤
・レボドパ
・クロザピン
・メチマゾール,プロピルチオウラシル
・スタチン(フルバスタチン,ロスバスタチン,プラバスタチン)
・バクロフェン,ダントロレン

かなり省きましたが,それでも長いリストになってしまいました.
大まかに覚えたうえで,味覚・嗅覚障害の鑑別に薬剤性を外さないようにするのがよさそうです.


2020年6月18日木曜日

精巣痛の鑑別疾患



マニアックな主訴は素振りが大事です.
いつか出会う時のために練習です.

当然,第一鑑別は精巣捻転です.
精巣垂捻転や精巣炎,精巣上体炎は容易に想起できます.出会う頻度も高いです.
虫垂炎の放散痛も有名ではあります.まだ出会ったことはありません.

動脈炎,特に結節性多発動脈炎で,精巣の炎症が起こることがあります.
血管炎を疑う患者には,ROSの一環として聴取するようにしています.

陰部大腿神経による放散で,腹部大動脈瘤が隠れていた,というのがworst scenarioです.

ざっとまとめると,急性の陰嚢痛で捻転や精巣炎ではない原因のリストは以下の通りです.
あまりに稀なものまでリストに入れると覚えられなくなるので,こんなものでしょう.

・結節性多発動脈炎
・虫垂炎(特に盲腸後)
・腹部大動脈瘤
・S1神経根症
・尿路結石

また,慢性睾丸痛chronic orchialgiaという疾患概念があるようです.
Cleveland clinicの分かりやすい患者胸のパンフレットがあったので参考にしてください.

睾丸痛が前面に出ない場合,慢性的な下腹部痛で来院するかもしれませんね.
いままで知らなかったので,しっかり鑑別に挙げるようにしたいです.


2020年6月15日月曜日

ALS患者にみられるsplit hand


知らなかった身体所見に出会うことは喜びです.

母指球筋(短母指外転筋),第一背側骨間筋,小指球筋(小指外転筋)は
どれもC8-Th1の髄節で支配されます.
なので,例えば頚椎症なら,どの筋も萎縮するはずです.

ですが,母指球筋と第一背側骨間筋は著明に萎縮しているにもかかわらず
小指球筋が萎縮していない場合があります.

これをsplit handと呼び,ALSに特異的な所見です.
原因はまだよく分かっていないようですが,神経のNa電流と関係があるらしいそうです.
解説を読んだのですが,生理学が苦手な私にはよくわかりませんでした.

split handの詳しい解説や写真は以下のリンクからお願いします.






2020年6月11日木曜日

low-FODMAP食



下痢優位の過敏性腸症候群では,low-FODMAP食が症状改善に寄与することがあります.
具体的に患者さんに説明できるようになる必要がありますね.

FODMAPは,Fermentable, Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, And Polyolsの略ですが,これを覚えても意味がないですね.それ以前に覚えられないです.


避けるべき,high FODMAP食は以下の通りです.
(以下のサイトを参照しました.著者が医師であることを開示しています.https://www.medicinenet.com/low_fodmap_diet_list_of_foods_to_eat_and_avoid/article.htm)

野菜:玉ねぎ,にんにく,キャベツ,ブロッコリー,アスパラガス,キノコなど
果物:桃,マンゴー,リンゴ,ナシ,メロンなど(果肉が硬いもの)
その他:ドライフルーツ,濃縮還元のフルーツジュース,小麦・ライ麦,
乳製品,ピスタチオ,人工甘味料,アルコール,スポーツドリンクなど
(注:過敏性腸症候群で避けるとよいとされている食品のリストです)

なんだか,クリームパスタの材料になるものは軒並みhigh FODMAPですね…


一方,症状を緩和させるかもしれないlow FODMAP食は以下の通りです.

野菜:人参,グリーンピース,キュウリ,レタス,トマト,なす,ジャガイモなど
果物:オレンジ,ぶどう,バナナ,キウイ,レモン,イチゴなど
その他:肉,魚,卵,大豆,米,グルテンフリーのパンやパスタ
ストレートジュース,アーモンド,ピーナッツなど

low FODMAPには夏野菜が多いですね.
果物は朝のスムージーに合いそうなものが並んでいます.


クリームパスタの材料はhigh FODMAP
夏野菜と朝のスムージー,肉・魚・大豆と米はlow FODMAP
このようにしてざっくり覚えることにします.


2020年6月8日月曜日

D-乳酸アシドーシス


知らない疾患だったので.
稀ですが,素振りは大事です.

体内で産生される乳酸はL-乳酸です.
普通の乳酸測定では,L-乳酸が測定されます.
D-乳酸は特殊な測定が必要です.
なのでD-乳酸アシドーシスでは,検査値上は乳酸値正常となります.

D-乳酸アシドーシスは,症状で吸収されなかった炭水化物が,大腸で細菌に代謝されることで起こります.
なので,起こるなら空腸回腸バイパスや短腸症候群の患者です.

炭水化物摂取後の脳症+代謝性アシドーシスで疑います.
意識障害や失調は数日続くこともあります.

検査で引っかからないので,知らなくては診断は極めて困難だと思います.
典型例をおさえて,サクッと覚えてしまいましょう.


2020年6月4日木曜日

箸休め:アナフィラキシーの初期対応


今回の投稿は息抜きです.

現在,医学生を対象とした臨床推論の学習会を行っています.
アナフィラキシーの初期対応についてのスライドを作成しました.
我ながら狂気的ですが,エピソード記憶とともに一生忘れない知識にしてほしいという真剣な思いの表れです.










2020年6月1日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 7 (last)



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.今回で最後です.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


ピットフォールと解決策

すべての臨床医が学生の教育に対して積極的であるわけではないし、ExBLをうまく機能させる能力があるわけでもない。臨床現場はただでさえ多忙であり、臨床医が患者の治療と学生の教育の両方をバランスよく行うことが難しい場合がある。すべての患者が学生に治療に参加してほしいと感じるわけではなく,これは公的医療機関よりも民間の医療機関で問題が大きくなる可能性がある。学習環境に適応することに困難を覚える学生が出てくる場合があり,異なる環境をローテートするときに顕著に表れる.ExBLは、学生を煩わしい傍観者から医療チームの(潜在的な)貢献者に変革させることによって、学生の受動性に対処する。このガイドは、指導者育成が臨床医に事前の追加支援をどのように与えれば,学生が自分の学習の責任を取り臨床現場に積極的に参加するように仕向けるようになるかについて示唆している.また、患者の共同参加を支援する方法も示唆している。品質向上も重要な役割を果たす。ExBLを最適化したい教育者は、ExBLを評価して、その場の状況や資源に適応させることができる。

影響

臨床医への影響

「私の部局で、私が行う手技の間で、病棟で、診察室で、医学生に教えるにはどうすればよいか」という質問に対する我々の答えは以下の通りである.「学生が臨床の弁場に参加するよう支援してください.学生がコンフォートゾーンから一歩外に出ることを、そうすることで省察的に学ぶことを、そして能力をもっと身に付けることを支援してください.」あなたの最も重要な貢献は、公式なものではなく、一見すると小さなことかもしれない(例:学生に進んで関わる).良い臨床をモデル化し、学生を会話に参加させ、質問を投げかけ、あなたが何をしているのかを説明し、あなたの模範に従うように促しなさい。学生を歓迎し、臨床での学習環境について説明し、関連する臨床現場での学習の機会を手配することで、臨床現場への配属を学生に支持的なものにしなさい。リーダーシップを発揮し、カリキュラムに積極的に関心を持ちなさい。

ExBLの原則に従う臨床医は、学生と患者が臨床現場に基づく学習に積極的に参加するよう背中を押すことができる。従来の臨床教育とのもう一つの大きな違いは、学生の学習の主題が、難解な知識ではなく、常に臨床と密接に関連していることである。 ExBLでは,実臨床における「複雑さ」以上のものは扱わない.そして実臨床では,「正しい答え」はまず存在せず、どのようなアクションを取るのかは患者と治療者が共同して選択する。

図 3 では,このアドバイスを臨床医と学生と短い出会いの時系列に沿って示したものであり,表 2 と表 4 は、このアドバイスを実行に移す数多くの様々な方法を明記している。



患者と学生の関与

患者における主な貢献とは、臨床で診察を受けている時に学生と共同して参加することである。学生における主な貢献は、臨床医との関係を構築し、臨床現場に積極的に参加し、省察的に学び、その結果として能力を開発することである。患者および学生は、進行中のカリキュラムにおいて、カリキュラムの発展に寄与することができる(図4)。




配属先決定者への示唆

リーダーシップは、臨床配属先決定を成功させる鍵である。リーダーは組織的、教育学的、および感情面での支援を提供するが、個人間での支援ではなく対等な関係での支援を行うことができる。
配属先決定者が答えるべき主な質問は次の通りである。
・この配属はどのような機会を提供するか.
・学生は、これらの機会からどのような能力を開発できるのか.
・学生の参加と能力の育成をどのように支援できるのか.
表 4 に、これらの質問に対する回答を示す。

結論

ExBLは、医学生は医師として仕事を始める準備をしており、働くことができるには仕事の経験が必要であるということを公理として扱う。今までとは違う環境における参加型学習に関する様々なカリキュラムの設計とアフォーダンスに対応するために、ExBLは様々な文脈で柔軟に適用することができる,理論とエビデンスに則った原則を提供する。研修医やその他の医療従事者にとってもExBLはおそらく有用である。より良い「指導医」になりたい臨床医に対し私たちができるアドバイスは、SPaRCを活用することである.つまり,:学生の参加(Participation)、省察的なな実際の患者からの学び(Real patient learning)、および能力(Capacities)と医師であるというアイデンティティの涵養を支援(Support)することである。