2016年7月23日土曜日

急性好酸球性肺炎


10代の患者が呼吸困難と発熱で来院,SpO285%r/aですりガラス陰影あり,あとから好酸球が上がってきて喫煙歴発覚,というケースを見聞しました.


・比較的急性発症,多くは7日未満
・乾性咳嗽(95%),呼吸困難(92%),発熱(88%)が多い

・両側肺底部の吸気時crackelsと強制呼気でのrhonchiを聴取する
・バチ指はおこらない

・低酸素血症が起こる.人工呼吸が必要になることも多い.
(そういえば見聞したケースでも,若いのに著名な低酸素血症を呈していて,細菌性肺炎や非定型肺炎としては違和感があります)

・初期は好中球増加(細菌性肺炎っぽくみえる).CRPも上がる.好酸球はあとで上がってくる.
(これが最大のClinical pearls.AEPの初期診断はeosinophiliaではできない.)

・レントゲンではびまん性の実質の陰影
・喫煙のほかに,薬剤や塵の吸引歴を聞く

・治療は酸素吸入などの支持療法
・ステロイド40-60mg/dayで開始,2週間あるいは症状改善まで続けて,5mg/7dayで減量.
・重症では60-125md/6h毎.


まとめると,若年者の急激な呼吸困難で,非定型肺炎っぽいレントゲン像で,採血結果は細菌性肺炎っぽいのに喀痰はでなくて,低酸素血症が強い,というのがおおまかなゲシュタルトでしょうか.好酸球増加は後にならないとわからない点に注意ですね.

参考:UpToDate idiopathic acute eosinophilic pneumonia


2016年7月21日木曜日

ホームレス状態にある人のケア part.1



AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



ホームレス状態の人々に対するケア:概観


男性でも女性でも子どもでも,あらゆる人種,民族の人々が,ホームレス状態になりうる.アメリカでは,どの夜も61万人以上の人がホームレス状態にいる,ホームレス状態にあると,一般人口と比べて病気になりやすくなり,入院率が高くなり,若くして亡くなるようになる.ホームレス状態の人々の平均寿命は42歳~52歳である.ホームレス状態の子どもは非常に病気になりやすく,学習や行動面での問題を多く抱えることになる.収入が足りないことと,住める家がないことが,ホームレス状態になる主な理由である.心身ともに複雑かつ進行した問題を抱え,それが薬物やアルコールの乱用でさらに深刻なものとなり,さらに経済面,社会面での問題(例:家がない,適切な交通機関がない)が合わさるというホームレス状態特有の問題が,ヘルスケアシステム,地域社会,政府に突き付けられている.統合された多職種ヘルスケアチームが,アウトリーチ活動を行いながら,地方あるいは州の機関と協働することが,このような人々のケアの質を担保し,自己充足感を得る助けとなるために最も適している.家庭医は,ホームレス状態の人々に必要なものをマネージメントし,継続的なケアを提供し,多職種チームのリーダーとなるのに適している.


 ホームレス状態とは,毎日住むような家がないことをさし,路上だけでなくシェルターなどの施設や立ち入り禁止の建物,車などに住んでいる場合や,ほかの不安定または長続きしない状況にいる場合も含まれる.やむなく友達や親族の家を転々とする場合や,出所後や退院後に帰ることのできる安定した住居がない場合もホームレス状態とみなされることがある.


人口統計
 男性でも女性でも子どもでも,あらゆる人種,民族の人々が,ホームレス状態になりうる.アメリカではどの年度でも,約300万人,人口の1%がホームレス状態となっている.2013年は,どの夜も61万人がホームレス状態にいて,そのうち約36%が家族単位であり,約35%の安全が確保されていなかった.たいていの場合,ホームレス状態は数日から数週間と一時的なものである.

 過去30年にわたり,貧困の増大と住むことができる住居のさらなる不足がホームレス状態の増加を主に招いてきた.2009年の調査では,個人単位では14.3%,世帯単位では10.5%で収入が貧困レベルを下回っており,4620万人のアメリカ人が,経済的,医学的な問題が一度でも起これば生活が破綻しホームレス状態になる危険にあることが判明した.ホームレス状態と関連する経済的,社会的要因としては,不安定な雇用,低賃金,公的扶助の拒否,精神疾患患者の退院や退所,退役軍人,安価な住宅の欠如,低い教育水準,ヘルスケアを受けられないことがあげられる.このような要因がどれかひとつでもあると,アルコールや薬物の乱用,家庭内暴力,身体あるいは精神の疾患,虐待やネグレクトと結びつくことで,ホームレス状態に陥ってしまいかねない.



2016年7月15日金曜日

vocal cord dysfunction


vocal cord dysfunctionによるwheezeを聴取するケースに出会ったので勉強します。
こまったときのAFP。簡潔なReview記事があったのでそれを中心に。

Vocal Cord Dysfunction  AFP 81(2) 156-9 2010

・正常声帯は、吸気に外側に開き、呼気にわずかに閉じる
・本症では、呼気、吸気のいずれかで声帯が中央に移動してしまい閉塞をきたす
・病名はいろいろ。paradoxival vocal cord dysfunction (UpToDateでは
これを使っている)、paradoxical voral cors motion、factitious asthmaなど。

・20-40歳の女性に多いが、男性にも小児にもみられる。
・呼吸困難感+吸気時ストライダー、咳嗽、窒息感、胸のつまり
・症状は軽く間欠的であることが多い。
・59%が以前に喘息と診断されていた。

・喉頭痙攣は本症のサブタイプ。失声(aphonia)や急性の呼吸困難をきたす。麻酔時に多い。
・話している時に突然嗄声になることも。

・喘息との鑑別点:呼気より吸気がしづらい、胸つまり・窒息感がある
・診断のゴールドスタンダードは喉頭鏡だけど、なんとかスパイロで診断できないかなぁ→後述
・他の鑑別は以下の通り
急を要する:アナフィラキシー、血管浮腫、喉頭蓋炎、異物
その他:甲状腺機能低下症、喉頭軟化症、クループ、声帯ポリープ/癌、喉頭硬化症(挿管後、放射線治療後など)

・運動後に発作が起きやすい。通常治療に反応しない運動誘発性喘息をみたら鑑別に!
・心理的ストレスも発作を誘発する。不安障害などあればより起きやすい。
・副鼻腔炎、GERDの併発に注意

・スパイロで胸郭外上気道閉塞の所見が出る。非発作時でもみられることがある。


・治療:まずは患者さんを安心させる。
・呼吸法の指導:浅く素早く息をするだけで横隔膜呼吸、鼻呼吸、ストローを使っての呼吸、口すぼめ呼吸、シューッと息を吐く
・ヘリウムガス(!)を吸うと速効性あり。
・誘発因子(タバコ、ほこり)をさけ、併存疾患を治療する。運動誘発ならアトロベント吸入がよいかも。

2016年7月12日火曜日

女性の単純性膀胱炎の治療薬



30代前半の女性が「膀胱炎だと思う」と来院→単純性膀胱炎と臨床診断→グラム陽性球菌検出
という、よくあるケースを経験しました。


起因菌の多くはE.coliですが、P.mirabilisK.pneumoniaeなど他の腸内細菌も関与します。
グラム陽性球菌がみられたら、S.saprophyticusを考えます。 性交後の膀胱炎として有名ですね。
腸球菌やB群溶連菌の関与はまれだそうです。

海外のガイドラインでは、フラントイン、ホスホマイシン、ST合剤が第一選択ですが、前2つは日本では使えません。
ST合剤は妊婦では禁忌です。
日本のガイドラインではキノロン推しですが、まあ使う気にはなれません。
結局、単純性膀胱炎なら第一世代セフェムでよいのではと思います。

この論文を見ると、第一世代セフェムはST合剤と比べ
治療成功率は同じ、再発率は有意差ないものの若干劣る
という結果ですね。


第一世代セフェム3日間→再発すれば培養してST合剤
という治療プランはどうかなと考えています。

なお、患者の「膀胱炎だと思う」は信用してよいみたいですね。
Diagnosis and Treatment of Acute Uncomplicated Cystitis


参考
UpToDate Acute uncomplicated cystitis and pyelonephritis in women
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11239031852.html

2016年7月8日金曜日

壊疽性膿皮症について


皮膚所見から一発診断する機会があったので、こういう時こそ復習のタイミングです。
急性発症の境界明瞭な有痛性深ぼれ潰瘍で底が壊死していたら壊疽性膿皮症だと理解しています。

背景疾患があることで有名ですが、半数は特発性なのだとか。知らなかったです。
炎症性腸疾患のほかにも、憩室炎、パラプロテイン血症、白血病、活動性慢性肝炎、ベーチェット病が背景疾患となります。血管炎も得蘇生膿皮症を続発しえます。
針刺し、虫刺され、生検などの微小外傷が契機となることもあります。

水疱を形成することも多く、その時は血性の膿疱となります。
周囲が赤くハローを形成します、
全身状態は見た目ぐったりしていることが多いみたいです。

無治療だと数カ月から数年の有病期間です。自然に治癒することもあるみたいですが。
背景疾患の治療にくわえ、ステロイド全身投与などを行います。
壊死しているからといって不用意にデブリすると創部がどんどん広がっていきます。

参考:Fitzpatrick's color atlas and synopsis of clinical dermatology pp.116-119




2016年7月3日日曜日

QT延長と関連する薬剤


一カ月ぶりです。
ブログ再始動です。

いかなる主訴、病態を見ても
「薬剤性」を常に鑑別に上げるようにしています。

BMJ Clinical ReviewでQT延長が扱われていたので勉強しましょう。


BMJ 2016;353:i2732
Clinical Review From Drug and Therapeutics Bulletin
QT interval and drug therapy


薬剤性のQT延長とそれによるTdPは非常にまれであるとのことです。
しかし、死に至る状態ですので、やはりしっかり押さえておく必要があります。

よく見る薬剤を抽出してあげます。
・抗不整脈薬:アミオダロン(アンカロン)、ジソピラミド(リスモダン)
・抗菌薬:マクロライド(クラリス、ジスロマックなど)、キノロン(クラビット、アベロックスなど)、アゾール
・消化器:ドンペリドン(ナウゼリン)、オンダンセトロン(ゾフラン)
・抗ヒ薬:ヒドロキシジン(アタラックス)
・抗精神病薬
・抗うつ薬

ナウゼリンやアタラックスは、恥ずかしながらQT延長のリスクという認識を持っていませんでした。

こういう患者には注意です
・女性、高齢
・電解質異常(低K血症など)
・肝障害、腎障害
・心不全、左室肥大、心筋梗塞、徐脈など
・利尿薬、ジゴキシン投与中


心房細動を伴う心不全で、ジゴキシンとアンカロンが出されてて、利尿薬で低K血症になっている高齢女性が、尿路感染症で処方されたクラビットを飲んでいて、心肺停止というのがthe worst scenarioでしょうか。気を付けましょう。