2026年11月2日月曜日

デジタルツールの実装

 Lambooij AC, van der Worp H, van Noort E, et al. Implementation of an evidence-based app to improve healthcare for female urinary incontinence: identification of implementation strategies using the consolidated framework for implementation research-expert recommendations for implementation change matching tool. Fam Pract. 2026;43(6):cmag082. doi:10.1093/fampra/cmag082.


背景

女性の尿失禁は女性の約3人に1人に影響を及ぼしており、十分でない対応がなされていることも多い。アプリを用いた治療法であるURinControlは、費用対効果が高いことが示されている。しかし、オランダのプライマリ・ケアにおける導入は限定的である。本研究の目的は、導入における主要な障壁を明らかにし、プライマリ・ケアの現場でURinControlの利用を促進するための実施戦略を開発することである。


方法

オランダの家庭医、地域薬局の薬剤師、および診療所または地域薬局で働く支援スタッフを対象に、横断的質問紙調査を実施した。実施上の障壁は、実装研究のための統合フレームワーク(CFIR)を用いて特定した。実施戦略の候補は、CFIRと実装変更に関する専門家推奨(ERIC)を組み合わせたマッチングツールを用いて選定した。


結果

合計174人の医療従事者が質問紙に回答した。家庭医と薬局の双方に共通する主な障壁として、アプリの相対的な優位性に対する疑問、尿失禁およびアプリに関する知識不足、組織上の制約、患者のデジタルスキルの不足が挙げられた。薬局では、尿失禁について話し合う機会が限られていることや、費用負担に関する懸念も追加の障壁として認められた。これらの結果に基づき、5つの実施戦略が開発された。


解釈

尿失禁に対するエビデンスに基づくデジタルアプリをプライマリ・ケアに効果的に導入するには、医療従事者の認知度や知識を高め、支援体制を整えるとともに、デジタルヘルスツールを日常診療に構造的に組み込む必要がある。また、eHealthの受容を促進するための、より広範な政策的・社会的変化も求められる。さらに、本研究では、特定された障壁を、理論に基づく5つの個別化された実施戦略に変換した。これらは、医療従事者への教育、患者の参加促進、診療ワークフローへの統合、費用負担への対応、そしてオランダ全土の日常診療における家庭医療診療所と地域薬局の連携を対象としている。


感想

デジタルツールの実装に関する研究。今時だなとも思いますし、どのようにしたら実施できるかを検討することはとても大事だと思います。

2026年11月1日日曜日

ACP、ホスピスと主介護者との関係

 Dong Y, Lum HD. Caregiving relationships, advance care planning, and hospice use in later life. J Am Geriatr Soc. 2026 Oct 19. doi:10.1111/jgs.70791.


背景

高齢期において、主たる介護者との関係性が、ホスピスの利用やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)と関連しているかどうかについては、ほとんど明らかになっていない。本研究では、主たる介護者との関係性によって、ホスピスの利用およびACPにどのような違いがあるかを検討した。


方法

Gateway Harmonized Health and Retirement Studyの終末期データを用い、第12波以降のデータを分析対象とした。対象者は、60歳以上で死亡した3,952人であった。

介護者のカテゴリーは、主たる介護者の関係性に基づき、配偶者・パートナー、子ども・孫、その他の親族、親族以外のインフォーマルな介護者に分類した。これらに加えて、フォーマルな介護サービスのみを利用している場合、および特定の介護者が確認されない場合も、独立したカテゴリーとして設定した。

ホスピス利用については多変量ロジスティック回帰分析を用いて推定した。また、4つのインフォーマルな主介護者カテゴリー間の全体的な差を共同Wald検定によって評価し、ACPを介した間接的な関連については、確率尺度による分解分析を行った。


結果

インフォーマルな主介護者が特定されていた死亡者において、ホスピス利用には、介護者との関係性による全体的な差は認められなかった。

配偶者・パートナーが主介護者である場合と比較すると、介護者が特定されていない場合(OR 0.46)、およびフォーマルな介護サービスのみを利用していた場合(OR 0.62)には、ホスピス利用が少なかった。

一方、子ども・孫が主介護者であることは、ACPが行われる確率の3.87パーセントポイントの上昇と関連していた。ただし、子ども・孫が主介護者であることとホスピス利用との関連において、ACPを介した間接的な関連は小さく、0.39パーセントポイントであった。


結論

ホスピス利用は、特定のインフォーマルな主介護者との関係性に集中しているわけではなかった。一方、ACPについては、介護者との関係性による違いがより明確に認められた。これらの結果は、事前のケア計画と、最終的なサービス利用との間には違いがあることを示している。また、介護者との続柄だけでなく、介護者の存在や、より広い介護を取り巻く状況を考慮することの重要性を示唆している。


Key points

インフォーマルな主介護者が特定されている高齢死亡者では、配偶者・パートナー、子ども・孫、その他の親族、親族以外の介護者という4つのカテゴリー間で、ホスピス利用に全体的な差は認められなかった。

子ども・孫が主介護者であることは、ACPの実施率の高さと関連していたが、ホスピス利用の増加とは関連していなかった。このことは、ケアの事前計画と最終的なサービス利用との間に違いがあることを示している。

介護者との関係性は、最終的に誰がホスピスを利用するかを区別するよりも、終末期のケア計画がどのように行われるかを理解するうえで、より有用な情報となる可能性がある。


感想

続柄だけから介護支援の有無を推測するのではなく、誰が介護に関わっているのかを具体的に把握する方が良い、ということかなと思い亜mした。

2026年10月31日土曜日

誤嚥性肺炎予防のための入院時スクリーニングプロトコル

 Yamauchi T, Ikebuchi M, Toyoda H,  et al. Admission dysphagia screening and hospital-acquired aspiration pneumonia in general wards: a retrospective cohort study. J Gen Intern Med. 2026 Oct 26. doi:10.1007/s11606-026-10770-3.


背景

高齢化に伴い、誤嚥性肺炎の発生率は増加している。誤嚥性肺炎は予防できる可能性があるため、入院時に系統的な嚥下評価を行うことで、誤嚥性肺炎のリスクが高い患者を特定できる可能性がある。当院では一般病棟において、看護師主導の嚥下障害スクリーニングプロトコルを導入した。このプロトコルでは、摂食評価ツール10(EAT-10)に続いて、反復唾液嚥下テスト(RSST)および食事場面の観察を実施する。


目的

入院時の嚥下障害スクリーニングと、入院後に発症する誤嚥性肺炎(HA-AP)の発生率との関連を評価すること。


研究デザイン

後ろ向きコホート研究。


対象

2022年3月から2023年2月までに一般病棟へ入院した成人患者12,374人。内訳は、プロトコル遵守群10,947人、非遵守群1,427人であった。


主要評価項目・測定方法

HA-APは、まず、日本の通常診療において診療報酬請求目的で記録されたICD-10コードJ69.0~J69.9に基づいて特定した。その後、特定されたすべての症例について、研究者が診療録を確認し、該当することを検証した。年齢、性別、BMI、嚥下障害に関連する併存疾患、悪性腫瘍、手術、内視鏡処置、放射線治療、化学療法、および入院月で調整した上で、修正ポアソン回帰分析を用いてリスク比(RR)を推定した。


主な結果

HA-APの発生率は、プロトコル遵守群で非遵守群よりも低かった(0.8%対2.1%)。脳血管疾患、認知症、呼吸器疾患は、HA-APの発生率上昇と関連していた。多変量調整後も、プロトコルの遵守はHA-APリスクの低下と独立して関連していた(RR 0.424、95%信頼区間 0.272–0.663、p<0.001)。このリスク低下との関連は、疾患カテゴリー全般で認められ、特に悪性腫瘍を有していない患者および手術を受けた患者で顕著であった。


結論

一般病棟において、入院時の嚥下障害スクリーニングプロトコルを遵守することは、入院後誤嚥性肺炎のリスクが有意に低いことと関連していた。入院時に系統的な嚥下評価を実施することは、入院後誤嚥性肺炎の予防を目的とした取り組みの有用な構成要素となる可能性がある。


感想

具体的なスクリーニングは以下の三段階だそうです。

  1. EAT-10(摂食評価ツール10):入院時に質問紙を用いて嚥下障害のリスクを評価する。
  2. RSST(反復唾液嚥下テスト)
  3. 食事場面の観察:実際の食事中の様子を観察し、嚥下障害の徴候を確認する。


実際の体制としては

  • 看護師主導で実施する。
  • 入院後24時間以内にスクリーニングを完了する。
  • 結果に基づいて嚥下リスクを判定し、必要に応じて専門職への紹介や適切な対応につなげる。
  • 多職種間の情報共有や食事場面の継続的な観察も、想定される重要な要素である。


著者らは、スクリーニングによる早期リスク把握に加え、以下のような一連のケアプロセスが効果に寄与した可能性を指摘しています。

  • 多職種間の情報共有
  • 食事場面の注意深い観察
  • 必要な専門職への迅速な紹介
  • 患者の状態に応じた適切な管理


単にスクリーニングしたから効果が出たというものではないのでしょう。しっかりと多職種連携してリソース割いてやらないといけないのでしょう。

2026年10月30日金曜日

認知症患者の不安・抑うつ

 Nimmons D, Aboughdir M, Walters K, Cooper C, Renukanthan A, Chew-Graham CA, et al. Identification of anxiety and depression in community-dwelling people with dementia: a multiperspective qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Oct 26. doi:10.3399/BJGP.2025.0639.


背景

認知症のある人では不安や抑うつの症状がよくみられる。しかし、これらの症状をほかの症状と区別することは難しく、見逃されたり、適切に認識されなかったりすることがある。


目的

地域で生活する認知症のある人において、不安や抑うつの症状がどのように認識され、理解されているのかについて、本人、介護者、医療・福祉専門職それぞれの視点から明らかにすること。


研究デザイン・対象

英国の地域で生活する認知症のある人のうち、不安や抑うつを経験している人、その介護者、およびプライマリ・ケアに従事する医療・福祉専門職を対象とした質的研究。


方法

56人の参加者を対象に、対面、電話、ビデオ通話による半構造化インタビューおよびグループインタビューを実施した。インタビューを録音・文字起こしし、リフレクシブ・テーマ分析によってデータを分析した。


結果

2つのテーマと6つのサブテーマが抽出された。

第1のテーマは「認識と診断に影響する要因」であった。不安や抑うつ、認知機能障害の症状には類似性があり、これによって認知症の診断が遅れる可能性があると、すべての参加者群が考えていた。医療・福祉専門職と介護者は、認知症が進行するにつれて生じる行動や感情反応の経時的な変化が、不安や抑うつの認識に役立つと考えていた。

医療・福祉専門職と介護者は、不安や抑うつの症状を認知症そのものに起因すると捉えることが多かった。しかし、ほかの併存疾患も症状に影響する可能性があるため、別の原因についても検討する必要がある。すべての参加者群が、性格などの状況的要因によって、不安や抑うつの現れ方が異なる可能性を指摘した。

第2のテーマは「援助を求めることへのスティグマ」であった。すべての参加者群が、文化的背景(民族性など)、症状の否認、症状を隠すことなどが、援助を求める行動に影響すると考えていた。


結論

認知症のある人における不安や抑うつの認識は複雑である。行動の変化、併存疾患、文化的背景、スティグマなどの要因を考慮することで、症状をより適切に認識できる可能性がある。


感想

N集めて労作だなと思う一方で、結果は何一つ新しいことがなく、つまらない研究だなと思ってしまいました。

2026年10月29日木曜日

高齢者施設での排便管理の困難

 Fukuyama Y, Furushima C, Ito S, Akiyama A. Factors associated with care workers' perceived difficulty in collaborating with nurses on bowel care in dementia group homes: A nationwide survey in Japan. J Gen Fam Med. Published online October 14, 2026. doi:10.1002/jgf2.70189.


背景

本探索的研究は、日本の認知症高齢者グループホームにおいて、排便ケアに関する看護師との協働について、介護職員が感じる困難と関連する要因を明らかにすることを目的とした。


方法

2025年7月から10月にかけて、全国横断調査を実施した。国の公開データに掲載された14,202施設のうち、層化無作為抽出法により2,000施設に質問票を郵送した。437件(回収率21.9%)の回答のうち、介護職員からの423件を解析対象とした。

協働の困難感は0〜10点の数値評価尺度で測定し、6〜10点を「困難あり」、0〜5点を「困難なし」と二分した。群間比較と多変量二項ロジスティック回帰分析を実施した。共変量の欠測値は多重代入法で補完した。また、困難感を連続変数として扱う感度分析を行った。


結果

評価項目に有効な回答があった417人のうち、182人(43.6%)が困難を感じていた。困難感と有意に関連する要因は4つあった。

年齢が高いこと(調整オッズ比[aOR]=1.044、95%信頼区間[CI]:1.020–1.069)、腹部を温めることの重要性を強く信じていること(aOR=1.222、95% CI:1.077–1.386)、排便に関する懸念をいつ看護師に報告すべきかについて不確かさが大きいこと(aOR=1.282、95% CI:1.175–1.398)は、困難感が高いことと関連していた。

一方、介護経験が長いこと(aOR=0.939、95% CI:0.906–0.973)は、困難感が高いことと関連するオッズの低下に関連していた。感度分析でも同様の結果が得られた。


結論

看護師との協働に関する困難感は、年齢が高いこと、介護経験が短いこと、看護師に相談する適切なタイミングがわからないことと関連していた。介護職員がどのような場合に看護師の助言を求めるべきかを明確にすることで、排便ケアにおけるより効果的な協働を支援できる可能性がある。


感想

排便の管理は難しいですよね。本文でも温罨法との関連の原因についてはよくわからないとあります。温罨法に拘泥するとうまくいかないのでしょうか。

2026年10月28日水曜日

脊椎関節症(AFP)

 Kim AR, Van Weezep J, Silva TW. Spondyloarthropathies. Am Fam Physician. 2026;114(3):262-270.


脊椎関節症は、強直性脊椎炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患に伴う関節炎、乾癬性関節炎、分類不能の脊椎関節症などを含む炎症性疾患群である。それぞれの病型では、脊椎などの体軸に関わる症状と末梢の症状の両方がみられることがある。これらの疾患には、共通する遺伝的素因や臨床所見があり、炎症性腰痛、末梢関節炎、指趾炎、付着部炎などが含まれる。そのほか、眼病変、皮膚・粘膜病変、炎症性腸疾患を伴うこともある。診断は主に病歴と身体診察に基づいて行うが、画像検査やHLA-B27遺伝子検査も実施する。治療は病型によって異なり、通常は非ステロイド性抗炎症薬、理学療法、生物学的製剤(腫瘍壊死因子阻害薬など)を組み合わせて行う。家庭医の役割は、初期の徴候や症状を認識して適切な治療を開始し、患者の生活の質を高めるとともに、疾患の進行を最小限に抑えることである。


感想

この前疑い事例があったので、ちょうどよかったので読みました。


  • 診断の基本は、病歴、身体診察、画像所見の組み合わせ。単独で確定診断できる特異的な検査はない。
  • 45歳未満で発症した慢性腰痛、運動による改善、安静で改善しない痛み、夜間痛、30分以上の朝のこわばりなどは、体軸性脊椎関節症を疑う手がかりとなる。
  • 単純X線検査を行う。X線検査が正常でも疑いが強い場合は、仙腸関節のMRIを検討する。
  • HLA-B27検査は診断を支持するが、陽性だけで疾患とは診断できない。赤沈やCRPも補助的な指標であり、正常値でも疾患を否定できない。
  • 関節症状だけでなく、乾癬、爪病変、ぶどう膜炎、消化器症状、先行感染などを系統的に確認する。
  • 診断までに時間がかかることがあり、体軸性脊椎関節症では症状出現から診断まで平均約7年と報告されている。


今まで通りの疑い方でいいのかなと確認できました。

2026年10月27日火曜日

短期間型不眠症行動療法の研修と実装支援

 Bramoweth AD, Ulmer CS, Klingaman EA, O’Brien EM, Deininger CJ, Boudreaux-Kelly MY, et al. Delivery of behavioral insomnia care in VA primary care mental health integration clinics: sustainment outcomes of a hybrid type 3 trial. J Gen Intern Med. 2026 Oct 23. https://doi.org/10.1007/s11606-026-10950-1


背景

不眠症は一般的な疾患であり、健康状態や日常生活機能に重大な悪影響を及ぼす。慢性不眠症に対しては、不眠症の認知行動療法などの行動療法が推奨されており、そのための研修も行われている。しかし、多くの患者にとって治療へのアクセスは依然として困難である。


目的

米国退役軍人省(VA)のプライマリ・ケア精神保健統合診療部門において、実装を促進するための支援を終了した後、短時間型不眠症行動療法の提供状況がどのように変化するかを評価すること。


研究デザイン

ステップドウェッジ型のハイブリッド・タイプ3試験の定着段階において、実装支援を終了する前後を比較した分析。


対象者

4か所のVA医療センターにおけるプライマリ・ケアおよびプライマリ・ケア精神保健統合診療部門を利用する退役軍人。


介入

VAのプライマリ・ケア精神保健統合診療部門において、短時間型不眠症行動療法の提供を改善するための実装戦略と支援を導入し、その後終了した。


主要評価項目

プライマリ・ケア精神保健統合診療部門における短時間型不眠症行動療法、不眠症の認知行動療法、および両者を合わせた行動療法の提供状況と、プライマリ・ケア部門における睡眠薬の処方状況。


主な結果

4施設すべてにおいて、実装段階の第3期から定着段階の第4期にかけて、実装支援が終了した後も、プライマリ・ケア精神保健統合診療部門における短時間型不眠症行動療法の提供割合は、不眠症のある退役軍人の20.2%から32.7%へと12.5パーセントポイント上昇した(オッズ比1.9、p<0.001)。

短時間型不眠症行動療法と通常の不眠症の認知行動療法を合わせた行動療法全体の提供割合も、25.5%から37.9%へ上昇した(オッズ比1.8、p<0.001)。一方、通常の不眠症の認知行動療法の提供状況には、この期間中に有意な変化は認められなかった(p=0.8)。

プライマリ・ケア部門における睡眠薬の処方も0.8パーセントポイント減少した(対象数2,158、オッズ比0.9、p<0.001)。


結論

4か所のVA医療センターにおいて、短時間型不眠症行動療法の研修と実装支援は、その療法の提供を増加させた。また、実装支援を終了した定着段階においても、短時間型不眠症行動療法および行動療法全体の提供増加が維持されていた。行動療法による不眠症ケアへのアクセスの改善は、特に短時間型不眠症行動療法の導入を通じて、睡眠薬の処方減少とも関連していた。プライマリ・ケア精神保健統合診療部門における短時間型不眠症行動療法の研修と実装支援は、行動療法による不眠症ケアへのアクセスを改善し、VAと米国国防総省の不眠症診療ガイドラインを推進するうえで有用である。


感想

短期間型不眠症行動療法の研修と実装支援によりアウトカムの改善が長期的にも残っていたという研究で、ちゃんと長期アウトカムを評価しているのは好感が持てます。確かに、行動療法は効果があることはわかってはいるものの、実際に家庭医外来に取り入れるにはハードルがあることがありますから、RQの立て方としても非常に妥当だと思います。


具体的なやり方は以下の通り。

4週間・全4回

  1. 対面、~45分 睡眠の仕組みと不眠の原因を説明し、睡眠行動を調整する
  2. 電話、<20分 睡眠日誌や実践状況を確認し、継続を妨げる問題を解決する
  3. 対面、~30分 睡眠状況に基づき、床上時間を15分単位で調整する
  4. 電話、<20分 床上時間を再調整し、改善状況と再発予防を確認する


患者が実践する4つのルール

  • 毎日、同じ時刻に起床する。
  • 床上時間を短くする。
  • 眠気を感じてから就床する。
  • 眠れないままベッドに居続けない。


床上時間の調整方法

  • 睡眠日誌があれば、それをもとに調整
  • 睡眠日誌がない場合は30/30ルール:入眠までの時間と夜間に目が覚めている時間の両方がほぼ毎晩30分未満なら床上時間を15分延長し、30分を超える状態が続くなら15分短縮する。


まあまあ大変そうな介入ではあります。集団でやるなどの効率化が必要そうですね。

2026年10月26日月曜日

慢性疼痛患者への社会的支援

 Ko HJ, Jackson JLN, Thompson-Lastad A, Wennik J, Swedlow P, Chao MT. Social support in group medical visits for chronic pain in primary care. Ann Fam Med. 2026;24(5):422-430. doi:10.1370/afm.250684. https://www.annfammed.org/content/24/5/422


目的

社会的支援は、慢性疼痛を抱える人々の健康アウトカムの改善と関連しており、生物心理社会的な疼痛ケアにおいて重要である。しかし、その役割については十分に研究されていない。本研究では、プライマリ・ケアで慢性疼痛を抱える患者を対象に、グループ診療が4種類の社会的支援、すなわち情緒的支援、評価的支援、情報的支援、道具的支援をどのように促進するのかを明らかにすることを目的とした。


方法

慢性疼痛に対する統合的グループ診療のランダム化試験の一環として、質的データを収集した。グループ診療群に割り付けられた、英語を話す患者の2つのコホートを対象とした。データは、16回のグループ診療の観察、2回のフォーカスグループ、12件の半構造化インタビューから収集した。介入では、臨床ケア、疼痛に関する教育、マインドフルネス瞑想、身体を動かす治療的活動、進行役による話し合いを組み合わせた週1回、計12回のセッションを実施した。データ分析には、研究チームによる柔軟なコーディングと、コードブックを用いたテーマ分析を採用した。


結果

参加した26人の患者の多くは低所得者であり、80.8%の世帯年収は5万米ドル未満であった。人種・民族については、50.0%が黒人またはアフリカ系アメリカ人、15.4%がヒスパニックまたはラティーノ系、23.1%が白人と回答した。平均疼痛強度は10点満点中7.7点であり、参加者は総じて強い疼痛を抱えていた。

4種類すべての社会的支援が、プログラムの構造化された要素、すなわちカリキュラム、進行役の働きかけ、プログラムの構成を通じて生じていた。また、参加者同士、および参加者と進行役との相互作用を通じても促進されていた。

  • 情緒的支援:帰属意識を育み、孤立感やスティグマに対抗する働きをしていた。
  • 評価的支援:患者が抱える困難を特別なものではないと捉え直すことを促し、自分自身への思いやりを育んでいた。
  • 情報的支援:双方向型の教育と、患者同士の知識や経験の共有が組み合わさっていた。
  • 道具的支援:具体的かつ実際的な援助を提供していた。


結論

本研究の結果から、慢性疼痛に対するグループ診療では、相互に結びつき、互いを強化する4種類の社会的支援が、治療の中核的なプロセスとして機能していることが示された。また、グループ診療は、プライマリ・ケアにおける慢性疼痛の生物心理社会的なマネジメントを実践するための有望なモデルとなる可能性がある。


感想

4種類の社会的支援が、診療の構造や医療者の働きかけ、患者同士の交流を通じて生まれ、相互に強化されていたことを報告した質的研究です。

それぞれの支援を詳しく見ていくと…

① 情緒的支援

自分の経験や苦しみを理解してもらい、受け入れてもらうこと。

患者同士が共感し、孤立感や「自分だけが苦しんでいる」という感覚を和らげる。

遅刻や欠席、発言しないことを責めないルールや、守秘義務の共有が、安心して参加できる環境を支えていた。

悲嘆やつらい経験を語った際に、他の参加者や進行役が耳を傾け、気持ちを受け止めていた。


② 評価的支援

自分の経験を肯定的に捉え直し、自己理解や自己評価を深めるための支援。

他の患者の困難を知ることで、自分の苦しみを特別なもの、あるいは自分の弱さのせいだと考えにくくなる。

医療者も自身の困難や対処経験を共有し、完璧でなくてもよいことを示していた。

小さな進歩を認め合うことで、自己批判を和らげ、自分自身への思いやりを育んでいた。


③ 情報的支援

疼痛の仕組み、セルフマネジメント、運動、ストレス対処などについて知識や技術を得ること。

医療者が一方的に教えるのではなく、患者の質問や生活状況に応じて内容を調整していた。

患者同士が、身体的制約に合わせた運動方法や、医療・福祉サービスの利用方法などを共有していた。

日常生活で実際に使える知識が、患者の自己管理能力を支えていた。


④ 道具的支援

移動、生活、医療へのアクセスなどに関する具体的な援助。

参加者同士の送迎、車椅子への移乗の補助、食事の準備などが行われていた。

進行役が、カウンセリングやマッサージ、社会福祉サービスなどの資源につないでいた。

緊急事態では、医療者と他の参加者が協力し、問題解決を助けていた。


これらが相互に作用すると論じられています。

例えば、患者が自分の疼痛や生活上の困難を安心して話せるようになると、他の患者から経験に基づく助言を受けやすくなる。そこで得た知識を実践しようとしても、経済的な問題や移動手段の不足が障壁になることがある。患者同士の送迎や医療・福祉資源への紹介は、その障壁を取り除く助けになる。

さらに、具体的な援助を受けた経験は、「自分のことを気にかけてくれる人がいる」という感覚を強め、グループへの信頼や帰属意識を高める。


さらに、社会的不利やスティグマについても描かれています。参加者の多くは低所得で、慢性疼痛に加えて経済的な困難や医療へのアクセス上の障壁を抱えており、人種差別、外国人排斥、障害に対する偏見、慢性疼痛への偏見など、複数の不利益が重なり合う経験が語られています。グループ内では、こうした経験を個人の問題として片づけず、社会的な偏見や不平等との関係も含めて語ることができていたようです。さらに、医療者からの情報提供だけでは解決しにくい問題に対して、患者同士の経験共有や具体的な援助が役立っていました。患者を一方的に支援される立場ではなく、他者に知識や援助を提供できる主体として位置づけているのがこの論文の特徴だと思いました。


具体的な実践的示唆ですが、

  • 心理的に安全な場をつくる:守秘義務、尊重し合うルール、発言を強制しない姿勢を共有する。
  • 参加の柔軟性を確保する:遅刻や欠席、身体的制約などを理由に患者が排除されないようにする。
  • 患者の経験知を重視する:患者同士が知識や対処方法を教え合えるようにする。
  • 医療者も人間的な側面を示す:自身の経験や限界を適切に共有し、相互理解を促す。
  • 実際的な障壁に対応する:移動、経済的困難、社会福祉サービスへのアクセスなどにも目を向ける。
  • 多様な背景を尊重する:患者の人種、文化、障害、社会経済的状況などを踏まえた柔軟な進行を行う。グループ診療の価値は、患者を一か所に集めること自体ではなく、安心して参加でき、相互に学び合い、必要な援助を得られる関係性を意図的につくることにある。

といったところかなと思います。

2026年10月25日日曜日

妊婦のベンゾジアゼピン曝露

 Fung K, Sujan AC, Bateman BT, Straub L, Hernandez-Diaz S, Brill G, et al. Benzodiazepine use early in pregnancy and risk for congenital malformations. Ann Intern Med. 2026 Oct 13. doi:10.7326/ANNALS-25-05148.


背景

妊娠中のベンゾジアゼピン系薬剤の使用と先天奇形との関連について、これまでの研究結果は一致していない。


目的

妊娠第1三半期にベンゾジアゼピン系薬剤に曝露した場合の、主要な先天奇形のリスクを評価すること。


研究デザイン

米国における集団ベースのコホート研究。


研究セッティング

Medicaid(2000~2018年)およびMerative MarketScan(2003~2020年)のデータベース。


対象者

妊娠前90日から分娩後30日まで保険に加入していた妊婦と、出生後90日間保険に加入していた生児。


評価項目

曝露は、妊娠第1三半期にベンゾジアゼピン系薬剤を少なくとも1回調剤されたことと定義した。

主要評価項目は、すべての主要な先天奇形、および過去の研究でベンゾジアゼピン系薬剤への曝露との関連が報告されている臓器別の先天奇形とした。

交絡因子を調整するため、傾向スコアの細分化層別化に基づく重み付けを用い、薬剤曝露群と非曝露群を比較して相対リスクを推定した。相対リスク1.3以上を、臨床的に重要なリスク上昇と事前に定義した。


結果

公的医療保険加入者では2,478,434件の妊娠のうち51,339件(2.1%)、民間医療保険加入者では1,750,721件の妊娠のうち27,779件(1.6%)で、ベンゾジアゼピン系薬剤への曝露が認められた。

先天奇形全体の調整後絶対リスクは、曝露群と非曝露群の比較で、公的医療保険加入者ではそれぞれ4.0%と4.1%、民間医療保険加入者ではそれぞれ4.9%と4.8%であった。

両データベースを統合した調整後相対リスクは0.99(95%信頼区間0.96~1.03)であった。

臓器別の先天奇形との関連は、感度分析では一貫して認められず、用量反応関係も認められなかった。ベンゾジアゼピン系薬剤の種類別に解析した結果も、同様であった。

一部の解析では、ベンゾジアゼピン系薬剤と他の向精神薬を併用した場合、特定の臓器別先天奇形のリスク上昇が認められた。しかし、一貫した傾向は確認されなかった。


研究の限界

曝露およびアウトカムの誤分類が、非差別的に生じている可能性がある。また、解析対象は出生時に認められる先天奇形に限定されていた。


結論

複数のデータソースを通じて、先天奇形のリスクが大幅に上昇するという一貫した証拠は認められなかった。

他の薬剤との併用に関する解析結果は一貫しておらず、さらなる研究が必要である。


感想

限界はもちろんありつつも、おそらくリスクはないだろうということで、重要な研究だと思います。

2026年10月24日土曜日

乳がん早期死亡とプライマリケアアクセス

 Thomas P, Carter B, Earle CC, et al. Factors associated with early death from de novo metastatic breast cancer in Ontario, Canada. CMAJ. 2026;198(36):E1392-E1403. doi:10.1503/cmaj.260156.


背景

女性の乳がんによる早期死亡には、疾患の生物学的特性に加え、年齢、社会的周縁化、社会経済的地位、居住地域の農村性、プライマリ・ケアへのアクセスなどの要因が影響する。本研究の目的は、初診時に遠隔転移を認めることで定義される、初診時転移性乳がんと診断された患者において、早期死亡と関連する要因を明らかにすることである。


方法

カナダ・オンタリオ州の2010~2019年の医療行政データを連結して用い、集団ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。オンタリオ州がん登録を用いて、初診時転移性乳がんと診断された成人患者を特定した。主要アウトカムは早期死亡の頻度とし、がん診断から6か月以内の死亡を早期死亡と定義した。早期死亡と関連する患者、がん、および医療提供者の特性を明らかにするため、多変量ロジスティック回帰分析を行った。


結果

初診時転移性乳がんと診断された4,004人の患者のうち、22.9%(918人)が早期死亡を経験した。

オンタリオ州社会的周縁化指数のうち、世帯・住居および物質的資源の領域におけるスコアが高いことは、早期死亡と有意に関連していた。それぞれのオッズ比は1.27(95%信頼区間1.04~1.55)および1.21(95%信頼区間1.00~1.46)であった。

プライマリ・ケア医に登録していることは、早期死亡のオッズの有意な低下と関連していた(オッズ比0.74、95%信頼区間0.62~0.88)。

また、早期死亡の頻度には地理的地域によるばらつきが認められた。さらに、全身療法の開始後には、農村部に居住する患者で早期死亡が増加していた。


解釈

オンタリオ州において、初診時転移性乳がんと診断された患者の早期死亡には、社会的周縁化、プライマリ・ケア医へのアクセス、および地理的要因が関与している。プライマリ・ケア提供者へのアクセスを改善することは、これらの患者の早期死亡を減らすうえで有用である可能性がある。


感想

プライマリケアへのアクセスが予後を改善するというエビデンスの一つですね。

2026年10月23日金曜日

成人ADHD(NEJM review)

 Buitelaar JK, Newcorn JH. Adult attention deficit–hyperactivity disorder. N Engl J Med. 2026;395(15):1519-1528. doi:10.1056/NEJMcp2516040.


ADHD(注意欠如・多動症)は、世界の成人の約2.5%に認められる医学的疾患であり、生涯を通じてさまざまな形で症状が現れる。成人ADHDの患者には、不安症、気分障害、睡眠障害、物質使用障害、パーソナリティ障害などの精神疾患が併存することが多い。また、肥満、心血管疾患、脳血管疾患、1型・2型糖尿病、免疫・炎症性疾患などの身体疾患も併存しやすい。そのため、成人ADHDの患者は、精神疾患から身体疾患まで、幅広い健康問題を診療する医療者を受診する可能性がある。しかし、成人ADHDは、現在でも多くの患者で認識されず、診断に至っていない。評価にあたっては、ADHDの中核症状、併存疾患、およびそれらが日常生活の機能に及ぼす影響について、患者への面接を行う必要がある。標準化された評価尺度を活用することで、評価をより体系的に進めることができる。治療の主な要素は、心理教育と、精神刺激薬または非刺激薬による薬物療法である。多くの場合、心理社会的介入や生活習慣に関する助言を組み合わせて治療を行う。


感想

成人ADHDは、典型的な多動を主訴に受診するとは限らない、というのがポイントかなと。仕事の不調や不安、不眠などをきっかけに発見されるものだと理解しておく必要があります。

本文中には気づくきっかけとして以下の項目がありました。

仕事・学業上の問題: 先延ばし、締め切りを守れない、仕事を最後まで終えられない、計画や整理が苦手。

日常生活上の問題: 忘れ物、時間管理の困難、家事や育児の段取りが苦手。

対人関係上の問題: 相手の話を遮る、衝動的な発言や行動、感情のコントロールの難しさ。

精神症状を主訴とする場合: 不安症、抑うつ、睡眠障害、物質使用の問題など。


特に、治療抵抗性のうつ病ではADHDの併存を検討し、仕事、家庭、対人関係など複数の生活領域に支障が生じていないかを確認する必要があります。

とりわけ女性では症状が見過ごされやすいようです。

パートナーや親などから情報を得ることも大事なようです。小児期の症状を正確に思い出せないからということですが、そりゃあそうですね。


一見関係ない症状(精神症状だけでなく、糖尿病や肥満、動脈硬化性疾患など)からADHDを疑い、不注意、時間管理の困難、先延ばしなどが、複数の生活領域に影響していないかを確認せよ、ということだと理解しました。

治療は専門家との協働になるかと思います。特に慢性疾患管理の際には、特性を理解するだけでもかなり対応が変わりそうではありますね。

2026年10月22日木曜日

社会的処方は必要な人に届き、時間経過とともに効果が表れる

 Calderón-Larrañaga S, Meza-Torres B, de Lusignan S, et al. Equity and impact of social prescribing in type 2 diabetes prevention: cross-sectional and cohort study using national primary care data. Br J Gen Pract. 2026 Oct 19. doi:10.3399/BJGP.2025.0748.


背景: 社会的処方は、長期的な健康問題の予防・管理を支援するため、2019年以降、英国のプライマリ・ケアで急速に普及している。しかし、2型糖尿病予防における利用機会の公平性や有効性に関するエビデンスは限られている。


目的: 2型糖尿病の発症リスクが高い成人を対象に、社会的処方の到達範囲、利用機会の公平性、および2型糖尿病予防への潜在的な影響を検討すること。


研究デザイン・設定: イングランドの1,800か所以上の家庭医療診療所を含む Oxford-RCGP Research and Surveillance Centre の日常診療データを用いた観察研究。対象期間は2019年1月から2023年11月。


方法: 横断解析では、多変量ロジスティック回帰を用いて、2型糖尿病の発症リスクが高い成人における社会的処方への紹介と関連する要因を検討した。コホート解析では、ベースラインの共変量を調整し、紹介と新規の2型糖尿病発症との関連を推定した。サービスの導入拡大やCOVID-19による変化を考慮するため、暦年別のCox比例ハザードモデルを用いた。また、紹介からの経過時間によって関連が異なるかを探索的に検討した。


結果: 2型糖尿病の発症リスクが高い成人2,326,400人のうち、271,582人(11.7%)が追跡期間中に2型糖尿病を発症した。追跡期間の中央値は3.7年(四分位範囲[IQR]1.44~4.83年)だった。

社会的処方への紹介割合は、2019~2020年の0.3%(3,897/1,479,172人)から、2023年1~11月には2.5%(47,883/1,917,187人)へと9.5倍に増加した。

紹介は、女性(調整オッズ比[aOR]1.42、95%信頼区間[CI]1.40~1.43)、より剥奪度の高い地域の居住者(aOR 1.89、95% CI 1.86~1.93)、現在喫煙者(aOR 1.71、95% CI 1.68~1.73)、肥満のある人(aOR 1.19、95% CI 1.17~1.21)、うつ病・不安症のある人(aOR 2.52、95% CI 2.49~2.54)、多疾患併存のある人(aOR 1.45、95% CI 1.43~1.47)で多かった。

暦年別の解析では、社会的処方への紹介は、2019年には2型糖尿病の発症リスク上昇と関連していた(調整ハザード比[aHR]1.67、95% CI 1.20~2.32)が、2023年には発症リスク低下との関連が認められた(aHR 0.84、95% CI 0.79~0.89)。

紹介後の経過時間別では、紹介後0~2年では発症リスクの上昇と関連していた(aHR 1.09、95% CI 1.04~1.15)が、3年以上経過した後では発症リスク低下との関連が認められた(aHR 0.88、95% CI 0.80~0.97)。


結論:社会的処方は、健康面・社会面のニーズがより大きい人々に届いていた。2型糖尿病発症リスクの低下との関連は、COVID-19後にサービスが成熟するにつれて、また追跡期間が長くなるにつれて現れていた。この結果は、サービスへの継続的な参加が関係している可能性を示唆するが、実際の利用状況に関するデータは得られていなかった。


感想

必要な人に届いている点と、時間経過とともに効果が表れる点を示しているのが白眉だと思います。

2026年10月21日水曜日

診療所における患者からの暴力

 Chou S, Tyrrell E, Rowe E, Bryant J. Experience and impacts of violence and abuse by patients and the public towards general practice staff: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Oct 19. doi:10.3399/BJGP.2025.0685. https://bjgp.org/content/early/2026/10/16/BJGP.2025.0685


背景

家庭医療診療所では、総合病院の診療現場と比べて、患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為が多く発生している。しかし、医療スタッフがこうした行為をどのように経験し、どのように受け止めているかについて、幅広さと深さの両面から検討した質的研究は限られている。


目的

家庭医療診療所のスタッフが患者や一般市民から受けた暴力や虐待・迷惑行為について、直接的・間接的な経験を明らかにし、それらがスタッフのウェルビーイングや診療所の業務に及ぼす影響について、スタッフ自身がどのように認識しているかを探ること。


研究デザイン・設定

イングランド全土を対象としたオンライン全国調査に続いて実施された、混合研究法プロジェクトの第2段階にあたる質的研究。全国調査の終了時に、参加者にインタビューへの参加を依頼した。


方法

2023年8月から12月にかけて、半構造化インタビューを実施した。参加者の特性、暴力や虐待・迷惑行為の経験、職場での安全感や支援に関する認識を記述するため、全国調査の量的データも抽出した。インタビューは逐語録にし、フレームワーク・アプローチに基づいてテーマ分析を行った。


結果

家庭医療診療所のスタッフ23人が参加し、女性17人、男性6人だった。15人は非臨床職、8人は臨床職に従事していた。

以下の6つのテーマが特定された。

直接的なやり取りを通じた暴力や虐待・迷惑行為

直接的なやり取り以外の場面で生じる暴力や虐待・迷惑行為

リスクの増大

個人への影響

職業上の影響

ケアや医療サービスへの影響


結論

患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為には、幅広い行動が含まれる。スタッフには深刻な影響が及び、場合によっては長期にわたって、安心して働けないという感覚が持続したり、私生活や社会生活に支障が生じたりする。

また、スタッフの離職や、提供できる医療サービスの縮小を通じて、臨床サービスにも影響が及んでいる。


感想

興味深いテーマだったので全文読んでまとめました。

最も頻繁に報告されたのは言語的暴力(怒鳴る、罵る等)。受付事務にとって日常的な経験。

性的な嫌がらせ、人種差別、トランスジェンダーへの差別なども

執拗な電話や苦情、SNSでの中傷、ストーキングなどの直截的ではない被害も

心理的影響は長期化し、仕事以外の生活にも及ぶ

深刻な脅迫やストーキングは特に強い不安を招く。トラウマに類似する症状も。

職場の近隣で加害者と遭遇することへの不安から、仕事以外での外出や地域との関わりを避けるスタッフもいた。

被害対応、警察への連絡、苦情への返答などにより、特に診療所管理者の業務負担が増える。

暴力や迷惑行為を「仕事の一部」として受け入れる傾向があり、被害を受けて心理的に傷つくこと自体を恥ずかしく感じるスタッフもいる。

長期的な被害は休職や離職意向につながり、経験豊富なスタッフの退職、新人教育の負担、残った職員へのさらなる負荷という悪循環を招く

医療の質や患者へのケアにも影響する。暴力への対応により他の患者への対応や診療所の改善活動に使える時間が減る。

暴力を避けるため、医療者がエビデンスや専門的基準に沿わない対応をせざるを得ない場合があり、道徳的傷つきが生じる。

暴力や威圧的な行為を目撃した待合室の患者も、恐怖や精神的苦痛、身体的危険にさらされる。


さらにまとめると、以下の5つの点になると思います。

患者から罪悪感を刺激するような言動を受けることで、受付スタッフが自分の対応に自信を失う。

暴力を回避するために専門職としての基準を妥協することが、道徳的傷つきにつながる。

受付スタッフが被害を受ける姿を見た臨床職にも、罪悪感が生じる。

家庭医療診療所では職員と患者が同じ地域で生活することも多く、職業生活と私生活の境界が侵食される。

暴力を目撃した患者にも被害が及び、スタッフにはその安全を確保する負担が生じる。

2026年10月20日火曜日

プライマリケアにおける緩和ケアのQI

 Cunha V, Sidhu R, Gonzalez Pallares K, Englesakis M, Tripodoro VA, Pereira J, et al. Mapping quality indicators for primary care-based palliative care: a systematic review. BJGP Open. 2026 Sep 8. doi:10.3399/BJGPO.2026.0229.


背景

生命を脅かす疾患を抱える人々に対して、プライマリ・ケアに緩和ケアを組み込むことの重要性がますます認識されている。しかし、既存の緩和ケアの質指標(quality indicators:QIs)が、プライマリ・ケアの現場にどの程度適しているかは、依然として明らかでない。


目的

プライマリ・ケアで提供される緩和ケアに関連する質指標を特定し、体系的に整理・分類するとともに、その質を評価すること。


研究デザイン・設定

プライマリ・ケアを基盤とする緩和ケアに適用可能な質指標を記述した研究を対象とするシステマティックレビュー。


方法

MEDLINE、Embase、Cochraneデータベース、Global Index Medicusを対象に、各データベースの収載開始から2024年7月までの文献を検索した。緩和ケアとプライマリ・ケアの両方に関連する質指標を記述した研究を適格とした。

指標は、Donabedianの枠組みに基づいて「構造」「プロセス」「アウトカム」に分類した。さらに、National Consensus Projectの緩和ケア領域、およびWHOのプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)測定・改善フレームワークに対応づけた。また、Appraisal of Indicators through Research and Evaluationという評価ツールを用いて、指標の質を評価した。


結果

22件の研究が適格基準を満たし、関連する質指標381項目が抽出された。

指標の大部分はケアのプロセスに関するもので(64.8%)、構造に関する指標は27.6%、アウトカムに関する指標は7.6%だった。

緩和ケアの指標は、PHCの領域のうち、継続性、連携、患者中心性、ケアの有効性に集中していた。一方、心理社会的、スピリチュアル、文化的な領域を扱う指標は少なかった。また、ガバナンスや集団の健康に着目したアプローチなど、PHCの構造的なシステム要素を捉える指標もごくわずかだった。

指標の方法論的な質は、目的の明確さについては最も高かったが、利害関係者の関与についてはばらつきがあり(28~94%)、実装のための具体的な指針については低かった(17~65%)。


結論

現在の緩和ケアの質指標は、ケアのプロセスに重点を置いており、プライマリ・ケアを基盤とする緩和ケアの幅広い側面を十分に反映できていない可能性がある。特に、患者中心のアウトカムや、心理社会的、スピリチュアル、文化的な領域が十分に捉えられていない。

今後は、プライマリ・ケアの実践に特化した質指標を開発し、その妥当性を検証する必要がある。


感想

QI開発のためのSRという位置づけでしょうか。着眼点がいいなと思います。

2026年10月19日月曜日

処方カスケードはどう起こるのか

 Gilmore S, Doherty AS, Moriarty F, et al. Prescribing cascades, associated patient characteristics, and health-care utilisation in older community-dwelling adults in Ireland: a retrospective, observational cohort study. Lancet Prim Care. 2026 Sep 14;2(9):100206. doi:10.1016/j.lanprc.2026.100206.


背景

ある薬剤の副作用を治療するために別の薬剤が処方される「処方カスケード」については、研究が限られており、問題のあるポリファーマシーに及ぼす影響も十分に検討されていない。この問題は、処方の大部分が行われ、処方カスケードが見過ごされる可能性のあるプライマリ・ケアにおいて、特に重要である。本研究では、一般診療所を受診する高齢者を対象に、処方カスケードの発生率、関連する患者特性、およびその後の医療利用との関連を検討した。


方法

本研究は、後ろ向き観察コホート研究である。アイルランドのダブリンにあるRCSI医科健康科学大学が保有する、Health Research Board(HRB)プライマリ・ケア研究センターの一般診療所コホートの電子診療録データを用いた。2011年1月1日から2016年6月30日までに、アイルランドの参加一般診療所44施設で得られたデータを用い、ThinkCascadesで定義された薬剤の組み合わせ(dyads)に基づいて処方カスケードの発生率を調べた。対象は、65歳以上で、少なくとも2年間のデータが利用可能な成人とした。


主要アウトカムの分析には、以下の条件を満たす患者を組み入れた。

- 薬剤A(ThinkCascadesで定義された薬剤ペアのうち、最初に処方される薬剤)を新規に処方されていること。

- 診療所に継続的に通院している患者であること。

- 薬剤Aの初回処方日から少なくとも1年間の追跡データがあること。


一方、指標日(薬剤Aの初回処方日)前の365日間に薬剤B(薬剤ペアの2番目の薬剤)が処方されていた患者、または薬剤Aの開始時点以前に薬剤Bによる治療の適応となる疾患の診断が記録されていた患者は除外した。

各ThinkCascades薬剤ペアについて、追跡開始後60日、180日、365日以内に薬剤Bが新たに処方されることを主要アウトカムとし、95%信頼区間(CI)を伴う累積発生率として報告した。

また、処方カスケードの累積発生率(1つ以上の処方カスケードが発生した場合と、発生しなかった場合)と患者特性との関連を、ロジスティック回帰モデルで検討し、オッズ比(OR)と95%信頼区間を算出した。


結果

HRBプライマリ・ケア研究センターの一般診療所コホートにおいて、65歳以上でデータが利用可能だった32,424人を研究対象として評価し、そのうち12,864人が組み入れ基準を満たした。対象者の平均年齢は71.8歳(標準偏差7.9)で、女性は7,303人(56.8%)、男性は5,558人(43.2%)、性別データが欠損していた人は3人(0.1%未満)だった。

365日以内に、ThinkCascadesで定義された薬剤ペアのいずれかで処方カスケードが発生した割合は3.2%(12,864人中416人)だった。分析対象となった8種類の薬剤ペアで、365日間に発生した373件の処方カスケードのうち、252件(67.6%)は180日以内に発生していた。

高齢であることは、処方カスケードの発生と関連していた(12,841人中416件、調整OR 1.02、95% CI 1.01–1.04、p=0.0013)。一方、性別、医療保障の種類、多疾患併存、および使用した薬剤の種類数と、処方カスケードの発生との間には有意な関連は認められなかった。


解釈

2011~2016年にアイルランドの一般診療所を受診した高齢者において、処方カスケードの発生は比較的まれだった。しかし、高齢者における回避可能な問題のあるポリファーマシーの一因となり得る。プライマリ・ケアを受診した高齢者に新たな症状が認められた場合、特に新規薬剤の開始後には、鑑別診断の一つとして薬剤有害反応を考慮すべきである。処方カスケードの多くは初回処方から6か月以内に発生していたため、この時期は、不要となった可能性のある薬剤を特定し、適切な場合には減薬・中止を行うことで、高齢者の薬物療法を最適化する機会となる。


感想

処方カスケードは、多剤併用の薬剤数だけを見ていてもわからないという点と、約3分の2が初回処方後6か月以内に発生している点が、重要なポイントだなと思いました。

2026年10月18日日曜日

PBRNに登録していても回答してくれるとは限らない

 Pentzek M, Löscher S, Voigt K, Piller S, Döpfmer S, Kretzschmann C, et al. Recruitment and participation of general practices in research networks: quantitative evaluation of the first joint study in six German practice-based research networks. BJGP Open. 2026 Oct 6. doi:10.3399/BJGPO.2026.0113.


背景

研究への参加を目的として家庭医診療所を募集することは難しい。診療所を基盤とする研究ネットワーク(practice-based research networks:PBRN)は研究参加を促進する可能性があるが、新たに設立されたPBRNが多施設共同研究で実際にどのように機能するかについては、十分に知られていない。


目的

ドイツの6つのPBRNが初めて共同で実施した研究において、参加施設の募集に要する労力、参加状況、データの完全性、および研究参加の受容性を評価すること。


研究デザイン・設定

ドイツの6つのPBRNに属する18の大学拠点で実施された、多施設横断的な実施可能性研究。


方法

家庭医診療所は、オンライン調査システムREDCapを用いた質問票に回答した。質問票では、診療所の特性、診療所管理システム(practice management systems:PMS)から手作業で抽出した患者数の集計データ、および新型コロナウイルス感染症後・ワクチン接種後に関連する症状についての考え方を収集した。

各研究拠点は、連絡やリマインダーの実施状況、および募集に費やした時間を記録した。拠点ごとの募集戦略を特徴づけるために2段階クラスター分析を行い、データの完全性に関連する要因を検討するために一般化線形混合モデルを用いた。


結果

連絡を取った906人の家庭医のうち、156人が研究に参加した(17.2%)。このうち、69人(全体の7.6%)が、項目回答率90%以上のほぼ完全なデータセットを提供した。

募集には全体で134時間のスタッフ労働を要した。ほぼ完全なデータセットを1件得るために、平均して約2時間の労働と、13人への連絡が必要だった。募集に要する労力には、研究拠点間で大きなばらつきがあった。

募集戦略は2つのクラスターに分類された。1つは、電子メールを中心とした労力の少ない戦略で、より多くの診療所を募集できた。もう1つは、電話連絡を多用する労力の大きい戦略で、回答率は高かったものの、受容性は低かった。

データの完全性は、診療所管理システムから抽出した患者データで最も低かった。データの完全性は研究拠点によって異なったが、PBRN間や募集戦略のクラスター間では差が認められなかった。また、年齢が若い家庭医、女性の家庭医、複数の医師が勤務する診療所、および過去に研究経験のある家庭医で、データの完全性が高かった。


結論

ドイツのPBRNが初めて共同で実施した本研究では、研究ネットワークに所属していても、参加率とデータの完全性は限定的だった。今後のPBRN研究では、各研究拠点の実施能力、診療所の研究経験、そして日常診療データをより容易に抽出できる仕組みが重要と考えられる。


感想

登録はしていても回答してくれる診療所は少ないという、さもありなんという結果です。現場の労力を減らす戦略と、どこにお願いするかという戦略が必要なのですかね。

2026年10月17日土曜日

子宮頸がん検診の受診率改善

 di Martino E, Khan T, Bradley SH, Daniels T, Foy R, Alderson S, et al. Evaluation of an audit and feedback intervention to improve uptake of cervical screening. BJGP Open. 2026 Oct 6. doi: 10.3399/BJGPO.2025.0218.


背景

子宮頸がん検診プログラムは長年にわたって実施され、その有効性を裏付ける強固なエビデンスがある。しかし、検診への参加率は低下している。イングランドでは2023~2024年に、対象者のおよそ3分の1が検診を受けていなかった。


目的

一般診療(general practice)において、子宮頸がん検診の受診率を改善するための監査とフィードバック(audit and feedback)介入について、実施可能性と受容性を評価すること。


研究デザインと実施施設

3つのプライマリ・ケア・ネットワーク(primary care networks:PCNs)に所属する一般診療施設のスタッフ、および地域・国レベルの政策担当者を対象とした、半構造化インタビュー研究。


方法

23の一般診療施設を対象に、四半期ごとの報告書を作成した。報告書では、各施設の子宮頸がん検診受診率を、社会経済的剝奪の程度が類似する地域の他施設と比較した。さらに、受診率改善に役立つ資料や実践的な提案も掲載した。

報告書は各施設の管理者に電子メールで送付し、管理者からチーム内で共有するよう依頼した。

研究者らは、施設スタッフおよび医療サービスの責任者に半構造化インタビューを実施し、報告書がどのように受け取られ、理解され、活用されたかを調べた。インタビューの設計と分析には、臨床パフォーマンスのフィードバック介入理論(Clinical Performance Feedback Intervention Theory:CP-FIT)を用いた。


結果

一般診療施設のスタッフ14人と、医療サービスの責任者3人にインタビューを実施した。

施設のチームは、インタビューへの招待を受けるまで、フィードバック報告書を見た記憶がほとんどなかった。しかし、インタビュー時に報告書を提示されると、概して肯定的に評価した。

報告書の形式、長さ、配信頻度、内容はいずれも適切と考えられていた。子宮頸がん検診の業務に携わるスタッフは、報告書を明確で有益なものと評価し、認識や動機づけが高まることで、改善に向けた具体的な行動につながる可能性があると考えていた。


結論

フィードバックの対象者に報告書が届かなければ、監査とフィードバックによって子宮頸がん検診の受診率を改善することはできない。

フィードバックが本来の対象者に確実に届くように、施設内で情報伝達の窓口となる「ゲートキーパー」を巻き込む、あるいはその経路を介さずに対象者へ直接届ける、より効果的な方法が必要である。


感想

大事な着眼点だと思います。素晴らしい研究ですね。

2026年10月16日金曜日

患者中心性と自己管理

 Xirasagar S, Nan Z, Platonova E, Merrell M, Natafgi N. Does patient-centered communication by physicians facilitate cardiometabolic disease self-management among community health center patients? A nationwide study. J Gen Intern Med. 2026 Oct 14. doi: 10.1007/s11606-026-10928-z.


背景

肥満、高血圧、2型糖尿病(T2DM)、脂質異常症などの心血管代謝リスクを有する患者にとって、生活習慣を変えることによる自己管理は、生命を脅かす合併症を回避するうえで重要である。


目的

地域保健センター(Community Health Center:CHC)の医師による患者中心のコミュニケーション(patient-centered communication:PCC)が、心血管代謝疾患を有する患者による日常生活での疾患自己管理行動の実践を促進するかどうかを検討する。


研究デザイン

2022年に実施された、米国保健資源事業局(HRSA)とResearch Triangle Internationalが設計した、CHC患者を対象とする全国代表性のある調査データを二次解析した。調査の回答率は85.0%であった。心血管代謝疾患の自己管理行動について、以下の5領域における実践状況と、プライマリ・ケア受診時に患者が評価した医師のPCCとの関連を検討した。

- 体重管理

- 食生活の改善

- 身体活動

- 座位時間の削減

- 禁煙・喫煙の削減


参加者

プライマリ・ケアを受診した、心血管代謝疾患を1つ以上有する18~74歳の成人2,942人。


評価項目

アウトカム:心血管代謝疾患の自己管理スコア

5領域の行動について、患者の行動実践状況を重み付けした割合スコアを合計し、100倍して整数で表される比率尺度のスコアを算出した。

主要な独立変数:患者が評価した医師のPCC

プライマリ・ケア受診時における医師のPCCを、Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems(CAHPS)の質問項目を改変した5項目で評価した。各項目は0~3のリッカート尺度で採点し、合計スコアを算出した。


結果

解析対象となった2,942人の患者のうち、2型糖尿病を有する人は25.3%、肥満は62.8%、高血圧は60.1%、脂質異常症は50.9%であった。

心血管代謝疾患の自己管理スコアは、平均246.3(標準偏差82)、中央値250であった。スコアの理論上の範囲は−30~470であった。

PCCスコアは、探索的因子分析によって妥当性が検討され、平均17.7(標準偏差3.3)、中央値20であった。スコアの範囲は0~20であった。

人口統計学的変数、慢性疾患、身体活動を可能にする環境、食料安全保障、身体的・精神的な障害に関する患者報告指標を調整した後も、PCCスコアが1単位高いことは、自己管理スコアが1.8ポイント高いことと関連していた(標準誤差0.5、p<0.001)。


結論

CAHPS調査によって測定された医師の患者中心のコミュニケーションは、ヘルスリテラシーが低いことも多いCHC患者において、心血管代謝疾患のより良好な自己管理を促進する可能性がある。


感想

量的な関係性が示されていますが、値は非常に小さいように思います。(500点幅があるうちの1.8ポイント)

プライマリケアと精神科の連携

 Miner SA, Breslau J, Engel C, Yi S, Matthews LJ. Defining mental disorder: differences in primary care providers’ and psychiatrists’ conceptions of illness. J Gen Intern Med. 2026 Oct 13. doi: 10.1007/s11606-026-10906-5.


背景

プライマリ・ケア医(primary care providers:PCPs)は、精神疾患の認識や診断において、ますます重要な役割を担うようになっている。しかし、PCPsが診療する患者集団において精神疾患をどのように概念化しているのか、また、その概念化が精神科医による精神疾患の捉え方とどのように異なり、どのような点で一致するのかは、ほとんど明らかになっていない。


目的

以下の3点を明らかにすることを目的とした。

1. PCPsと精神科医が、精神疾患が疑われる患者をどのように説明するか。

2. PCPsと精神科医が、診断・治療が容易な患者と、診断・治療が困難な患者をそれぞれどのように説明するか。

3. PCPsが精神科への紹介をどのように管理しているか。


デザイン

オンラインによる質的インタビュー研究。


参加者

PCPs 41人、精神科医41人の計82人が参加した。参加者は、診療対象地域の異なる2つの医療ネットワークから募集された。東海岸のCambridge Health Allianceは主に都市部・郊外の患者を診療しており、西海岸のUniversity of Washingtonは都市部・郊外・農村部の患者を診療している。


分析方法

研究チームは、迅速フレームワーク分析(rapid framework analysis)の手法を用いて、インタビュー記録を演繹的に分析した。


主な結果

PCPsと精神科医は、診断・治療が容易な患者については、類似した特徴を挙げていた。一方、PCPsは統合失調症などの複雑な精神疾患を有する患者について、診断・治療がより困難であると捉えていた。こうした複雑な患者の管理に比較的自信を持っているPCPsは、精神科サービスを利用できる環境、あるいは電子的なコンサルテーション(e-consult)サービスを利用できる環境にあった。


結論

PCPsと精神科医による精神疾患患者の捉え方の違いを検討することで、精神医療における課題が明らかになる。その一つは、PCPsと精神科医の連携の必要性である。精神科医によるe-consultサービスなどの連携は、特に農村部における精神医療へのアクセス改善に役立つ可能性がある。また、診断や治療管理についてプライマリ・ケア医が支援を必要とする、より複雑な患者への対応にも有用と考えられる。


感想

結果は目新しいものはないかなという印象です。連携していきましょうということなのでしょうか(ありきたりですが)。

2026年10月14日水曜日

胆汁酸性下痢

 Barbara G, et al. Bile acid diarrhea in patients with chronic diarrhea: current appraisal and recommendations for clinical practice. Dig Liver Dis. 2025;57(3):680-687. doi:10.1016/j.dld.2024.12.019.

Bile acid diarrhea(BAD)知らなかったのでまとめます。
CMAJのこの記事を読んだのがきっかけです。

胆汁酸の吸収・代謝の異常により大腸に過剰な胆汁酸が流入し、下痢を引き起こす病態。

過敏性腸症候群・下痢型(IBS-D)や機能性下痢と判断されている患者の中にも、BADが隠れている可能性がある。


4週間以上続く慢性下痢で、特に以下の背景がある場合はBADを考慮せよ。

- 回腸末端切除の既往

- 胆嚢摘出術後

- 腹部への放射線治療歴


検査はいろいろあるが、現在臨床で使用可能なものはない。

中心となる治療は、胆汁酸吸着薬(bile acid sequestrants:BAS)であり、コレスチラミンが第一選択とあるが、日本では下痢に対する適応はない。抗リウマチ薬レフルノミドを体内から除去する薬でもあり、大事に使うべき薬剤とのこと(日本動脈硬化学会より)

第二選択のコレセベラムは日本では上市されていない。


まとめると…

慢性下痢を診療する際に、安易にIBS-Dとするのではなく、治療可能な原因の一つである胆汁酸性下痢を意識せよ、特に胆嚢摘出後や回腸切除後の慢性下痢では、BADを見逃すな。
ただ、治療薬で入手可能なものはない。コレスチラミンの適応外投与しか方法はなさそう。診断的治療も出来ないのでは困ったなぁ。

2026年10月13日火曜日

がんワクチン(JAMA review)

 Disis ML, Chun BMN, Dhillon KK, Liao JB, Hunter N, Cecil DL. Vaccines for cancer: a translational science review. JAMA. Published online September 21, 2026. doi:10.1001/jama.2026.15540. https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2854262


重要性

腫瘍免疫学とワクチン技術の進歩により、長年にわたって臨床的な成功が限られていたがんワクチンの開発は、大きく変化しつつある。免疫原性を有する腫瘍タンパク質、すなわち抗原が2,000種類以上同定され、腫瘍を排除するために必要な免疫応答の種類が明らかになり、安全かつ有効なワクチン送達技術も開発されてきた。こうした進歩により、さまざまながんを対象としたがんワクチンの臨床研究が再び活発化している。


観察

ヒトパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎ウイルスに対するワクチンなど、ワクチンは主に以下の3つの要素から構成される。

1. 抗原標的:免疫応答の標的となるもの

2. アジュバント:免疫系を活性化するもの

3. ワクチン送達媒体:抗原などを体内に届けるもの

抗原には、腫瘍の遺伝子変異に由来するネオアンチゲンと、がんに関連する非変異タンパク質がある。後者は、正常なヒトのタンパク質でありながら、がんにおいて異常に発現しているものである。

また、腫瘍そのものを抗原源として利用する方法もある。例えば、腫瘍細胞全体を用いて免疫する方法や、免疫原性物質を腫瘍内に直接注入し、適応免疫応答を誘導する方法がある。

がんワクチンは、獲得免疫を担うTリンパ球およびBリンパ球を刺激することで、がんに対する高い特異性と持続性を備えた免疫応答を誘導できる。適応免疫を誘導するがんワクチンの中には、すでにがん治療薬として承認されているものもある。

前立腺酸性ホスファターゼを標的とするワクチンであるsipuleucel-Tは、転移性去勢抵抗性前立腺がんの男性患者において、プラセボと比較して全死亡リスクを低下させた(32%対23%、ハザード比0.78、95%信頼区間0.61–0.98、p=0.03)。

また、全身性免疫刺激薬である顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と比較して、talimogene laherparepvecを進行期メラノーマの病変内に注入した場合、6か月以上持続する完全奏効または部分奏効の割合が高かった。奏効率は16.3%(95%信頼区間12.1–20.5%)対2.1%(95%信頼区間0–4.5%)で、オッズ比は8.9、p<0.001であった。

ここで、完全奏効とは治療対象となったすべての病変が消失すること、部分奏効とは新たな病変が出現せず、測定可能病変の互いに垂直な径の積の総和が50%以上減少することと定義された。

がんワクチンの有害事象の多くは、倦怠感、発熱、注射部位反応など、軽度のものである。

がんワクチンを化学療法や免疫療法と組み合わせることで、免疫応答の強さが増し、腫瘍の縮小がさらに促進される可能性がある。

個別化された変異ベースのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(mRNA-4157)と免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブを併用した研究では、切除後の高リスクステージIIIB~IV皮膚メラノーマ患者において、ペムブロリズマブ単独と比較して無再発生存率が改善した(76.6%対60%、ハザード比0.56、95%信頼区間0.31–1.02、p=0.05)。

現在、がんワクチンは、がんの再発予防および一次予防を目的とした臨床試験でも評価されている。


結論と意義

がんワクチンは、メラノーマ、前立腺がん、膀胱がんなど、複数の悪性腫瘍の治療に使用できる。がんワクチンに関連する有害事象は、一般に軽度で持続期間も短い。そのため、今後、化学療法や免疫療法を含む治療レジメンに組み込まれていく可能性がある。

さらに、がんワクチンは、がんの一次予防を目的とした研究でも、ますます評価されるようになっている。


感想

この分野については全く知らなかったのでとても勉強になりました。どんどん進歩しているのですね。

2026年10月12日月曜日

多様なジェンダーの患者の骨盤痛

 Chona R, Sabbah SG, Englesakis M, Di Renna T, Drodge O, Rosenbloom BN, et al. Chronic pelvic and related genital pain in transgender and gender-diverse people: a scoping review. EClinicalMedicine. 2026 Oct;101:104252. doi: 10.1016/j.eclinm.2026.104252.


背景

慢性骨盤痛(chronic pelvic pain:CPP)および関連する性器痛は、トランスジェンダーおよびジェンダー・ダイバース(transgender and gender-diverse:TGD)の人々において、生活に支障をきたす多面的な問題であるが、これまで十分に研究されてこなかった。


方法

本スコーピングレビューでは、ホルモン療法(gender-affirming hormone therapy:GAHT)、手術、コミュニティという各文脈において、慢性骨盤痛の有病率、病因、評価方法、管理に関するエビデンスを整理した。Joanna Briggs Instituteの方法論およびPRISMA-ScRに従い、データベースの収載開始時点から2025年7月30日まで、10種類のデータベースを検索した。さらに、引用文献をたどる追加検索を行った。慢性骨盤痛については、3か月以上持続または反復する骨盤痛と定義し、より広い慢性疼痛の枠組みにおける関連する骨盤痛・性器痛も対象に含めた。研究計画はOpen Science Framework(OSF)に事前登録された。2名のレビュー担当者が、文献のスクリーニングと公表データの抽出を独立して実施した。


結果

24報の文献が採択され、23の独立したコホート、計5,527人のTGDの参加者が含まれた。

期間を明確に定義した慢性骨盤痛の有病率を推定していた研究は1件のみであり、出生時に女性と割り当てられたTGDの成人において17.7%と報告されていた。

より広義の骨盤痛・性器痛については、5件の研究で有病率が9.6~72.2%と報告されていた。ただし、これらの数値を、期間が定義された慢性骨盤痛の有病率として解釈すべきではない。


原因や関連要因として、相互に重複し得る以下の4領域が特定された。

1. ホルモンおよび組織を介した要因

2. 骨盤底および筋骨格系の要因

3. 手術および解剖学的要因

4. 心理社会的要因およびトラウマに関連する要因


評価方法や診断までの経路には大きなばらつきがあった。

治療・管理に関するエビデンスは非常に限られており、そのほとんどが観察研究、プログラムの監査報告、症例報告に由来していた。介入を評価したランダム化比較試験は、短期間のものが1件のみであった。


解釈

本レビューの結果は、ジェンダー・アイデンティティを肯定し、多職種が連携して評価するアプローチの必要性を支持している。同時に、慢性骨盤痛の標準化された定義、TGDの人々に特化した妥当性の確認された患者報告アウトカム尺度、前向きコホート研究、十分な検出力を備えた介入試験の必要性が明らかになった。


感想

確かに重要なリサーチテーマだと思います。あまり考えたことのなかった臨床問題だったので、これから気を付けて診察します。

2026年10月11日日曜日

デエビゴは股関節骨折リスクが低いといえそう

 Matsuo Y, Yamana H, Sasabuchi Y, Matsui H, Kohro T, Yasunaga H. Hip fracture risk of lemborexant and suvorexant in comparison with Z-drugs: a target trial emulation. J Am Geriatr Soc. 2026 Oct 8. doi: 10.1111/jgs.70754.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.70754


背景

レンボレキサントとスボレキサントは、不眠症の薬物療法に広く使用されているデュアルオレキシン受容体拮抗薬(dual orexin receptor antagonists:DORA)である。これらの薬剤は、股関節骨折を含む有害事象に関して、一般にベンゾジアゼピン受容体作動薬(Z-drugs)より安全と考えられている。しかし、両者を直接比較したエビデンスは限られている。本研究では、高齢者において、レンボレキサントおよびスボレキサントがZ-drugsと比較して股関節骨折リスクの低下と関連するかを検討した。


方法

栃木県のデータベースを用いたコホート研究を実施した。対象は65歳以上で、レンボレキサントまたはZ-drugsを新規に開始した患者(レンボレキサント解析コホート)、あるいはスボレキサントまたはZ-drugsを新規に開始した患者(スボレキサント解析コホート)とした。主要アウトカムは、コホートへの登録後1年以内の股関節骨折による入院とした。割り付けられた薬剤を継続使用した場合の、per-protocol効果を推定した。ベースラインの交絡因子については、傾向スコアに基づく逆確率治療重み付けを用いて調整した。割り付けられた薬剤の中止、または比較対象薬への切り替えによる打ち切りについては、逆確率打ち切り重み付けを用いて調整した。調整後の累積発生率はKaplan–Meier法、ハザード比はCox回帰を用いて推定した。


結果

レンボレキサント解析コホートには22,655人が含まれ、レンボレキサント群が6,879人、Z-drugs群が15,776人であった。

調整後、レンボレキサントの使用は、股関節骨折発生率の有意な低下と関連していた(HR 0.31(95%信頼区間 0.16–0.59、p<0.001))。

スボレキサント解析コホートには22,377人が含まれ、スボレキサント群が6,699人、Z-drugs群が15,678人であった。

調整後、スボレキサント群では股関節骨折発生率が低い傾向を認めたものの、統計学的に有意な差ではなかった(HR 0.57(95%信頼区間 0.23–1.44、p=0.234))。


結論

DORAは、特にレンボレキサントについて、股関節骨折リスクの観点からZ-drugsより安全な代替薬となる可能性がある。


感想

レンボレキサント(デエビゴ)とスボレキサント(ベルソムラ)を直接比較しているわけではありませんが、デエビゴのほうに軍配が上がる結果ではありました。ビッグデータでこういうのが分かるのはいいですね。

2026年10月10日土曜日

スティグマを伴う言葉遣いのカルテ記載

 Caton J, Sun B, Steele N, Santiago C, Antara F, Hom J, Dougherty R. Hospital-Based Clinicians’ Knowledge and Practices Regarding Stigmatizing Language in Clinical Documentation: A Multicenter Survey. J Gen Intern Med. 2026 Oct 7. doi: 10.1007/s11606-026-10803-x.


背景 スティグマを伴う言葉遣いは医療記録に広くみられ、偏見を助長し、その後の臨床判断や患者ケアに影響を及ぼす可能性がある。内科の指導医、研修医、Advanced Practice Provider(APP)は、臨床記録を作成する最前線の医療者である。また、指導医とAPPには、研修医に適切な記録方法についてフィードバックや教育を行う役割もある。しかし、研修医、APP、指導医が、医療記録におけるスティグマを伴う言葉遣いに対応する準備ができているかは明らかでない。さらに、このような言葉遣いに関する医療者の知識、態度、行動についても、十分にわかっていない。


目的 臨床記録におけるスティグマを伴う言葉遣いについて、研修医、APP、指導医の経験、価値観、信念を明らかにすることを目的とした。


方法 横断的なオンライン調査と知識テストを実施した。


対象者 2つの大規模な大学内科部門に所属する内科研修医、指導医、APPを対象とした。


主要評価項目 知識テストでは、臨床記録の抜粋に含まれるスティグマを伴う言葉遣いを識別する能力を評価した。質問紙では、リッカート尺度による質問を用いて、言葉遣いに関する態度と、自分自身のスキルに対する認識を評価した。


結果 指導医・APP群から82人(指導医72人、APP 10人、回答率52%)、研修医群から63人(回答率21%)の回答を得た。

回答者のほぼ全員が、自分の言葉遣いが患者に与える影響を考慮していると回答した(指導医・APP群91%、74人;研修医群92%、58人)。また、他の医療者への影響を考慮していると回答した割合も高かった(指導医・APP群90%、73人;研修医群84%、53人)。

しかし、自分の臨床記録がスティグマを伴う言葉遣いを避けられていると自信を持っていたのは、指導医・APP群の10%(8人)、研修医群の24%(15人)にとどまった。 さらに、知識テストで評価された11個のスティグマを伴う用語をすべて正しく識別できたのは、指導医・APP群の4%(3人)、研修医群の3%(2人)だけであった。


結論 参加施設の指導医・APPと研修医は、患者中心の言葉遣いの重要性を認識している一方で、このテーマに関する知識やスキルが不足していた。この結果は、対象を絞った教育的介入と、システムレベルでの介入を今後開発する重要性を示している。


感想

カルテ記載内容を扱ったスティグマに関する研究。面白い着眼点です。

2026年10月9日金曜日

研修医はメンタルを病みやすいがあまり受診しない

 Syed S, Myran DT, Solmi M, Kobewka D, Yoo S, Gibb M, Spilg E, Kendall CE, Fleming N, Maniate JM, Tucker J, Hundemer GL, Colman I, Tanuseputro P, Sood MM. Mental Health Care Use Among Resident Physicians Compared with the General Population. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10843-3.


背景 医師では一般人口よりもメンタルヘルス上の問題が多いことが、これまでの調査から示唆されている。しかし、こうした問題が医師という職業特有の要因によるものなのか、それとも社会全体にみられる変化を反映したものなのかは明らかではない。特に、独特のストレスにさらされる研修医においてメンタルヘルス上の問題がより大きな影響を及ぼしているのか、また男女で違いがあるのかについては十分にわかっていない。本研究では、研修医におけるメンタルヘルス関連の医療機関受診を、非医師と比較し、さらに性別による違いを検討することを目的とした。


方法 2004年4月1日から2018年3月31日までを対象とした、性別で層別化した人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。研修医を、研修開始年、性別、年齢、都市・農村区分、所得五分位を用いて、非医師と1:5でマッチングした。主要評価項目は、5年間の研修期間中におけるメンタルヘルス関連の受診率とし、メンタルヘルス疾患を示す診断コードまたは請求コードが記録された場合を受診と定義した。


結果 研修医10,925人と、マッチングされた非医師54,625人を対象とした。研修医の平均年齢は27.2歳で、女性が5,941人(54.37%)、男性が4,984人(45.62%)であった。全体として、研修医の34.35%が研修期間中にメンタルヘルス関連の受診をしていたのに対し、非医師では36.13%であった。すべての群で不安症が最も一般的な診断であり、女性研修医ではメンタルヘルス関連受診の67.38%を占めた。

研修医の中では、女性は男性よりもメンタルヘルス関連受診のリスクが高かった(調整HR 1.44、95% CI 1.35–1.54)。一方、非医師と比較すると、女性研修医の受診率は女性非医師より低かった(39.71% vs 41.24%、調整HR 0.89、95% CI 0.85–0.93)。男性でも同様に、男性研修医は男性非医師より受診率が低かった(27.97% vs 30.03%、調整HR 0.81、95% CI 0.76–0.85)。


結論 研修医の3人に1人が研修期間中にメンタルヘルス関連の医療機関を受診していた。しかし、受診率は、背景因子をマッチさせた非医師よりも低かった。これは、医師のメンタルヘルスに関する懸念が持続しているにもかかわらず、研修医が必ずしも一般人口より積極的にメンタルヘルスケアを利用しているわけではないことを示している。女性研修医は男性研修医よりも受診率が高く、この点は一般人口における男女差と同様のパターンであった。


感想

重要な記述研究です。研修医はメンタルで病院を受診するのにハードルがあるのでしょう。

2026年10月8日木曜日

「QIを教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別

Disalvo D, Giannitrapani K, Lorenz K, Offner K, Roberts SJ, Puranam S, Mickelsen J, DeNatale M, Agar M. Fostering Locally Led Palliative Care Innovation: A Qualitative Evaluation of the SPHERE-Stanford Collaborative Quality Improvement Program. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10824-6.


背景 オーストラリアは質の高い緩和ケアで国際的に評価されている一方、緩和ケアへのアクセスの不均衡、サービスモデルのばらつき、医療人材への負担などが、安全で効果的かつ患者中心のケアを妨げている。質改善(QI)は、こうした課題に取り組むための実践的な方法となり得る。本研究では、地域におけるQI能力を構築するため、Sydney Partnership for Health, Education, Research and Enterprise(SPHERE)がStanford Medicineと連携し、オーストラリアの7つの緩和ケアサービスにエビデンスに基づくQIプログラムを導入した。


目的 SPHERE-Stanford Medicine Collaborative QI Programを通じてQIプロジェクトを実施した医療者の経験を評価し、プロジェクトの実施を成功させるうえでの障壁と促進要因を明らかにすることを目的とした。


参加者 7つの参加チームから、チームリーダー、チームメンバー、メンター、サービスディレクターを含む25人にインタビューを実施した。


方法 各チームは、オンラインワークショップ、2日間の対面集中研修、継続的なメンターによる支援を組み合わせた、6か月間の構造化されたQIカリキュラムを受講した。半構造化インタビューによって、QI能力の構築とQIプロジェクトの実施に関する経験を調査した。Consolidated Framework for Implementation Research(CFIR)を枠組みとして、質的内容分析を行い、実施の成功に影響する要因を特定した。


結果 プログラムによって、医療者のQIに関する知識と自信が向上し、各チームはサービス上の問題の根本原因を特定し、標的を絞った介入を設計できるようになった。その結果、緩和ケアへの紹介件数の増加、ケアの統合の向上、記録方法の一貫性の向上など、意味のある改善が得られた。多職種連携、強いチームの結束、そして継続的なメンタリングが、主要な促進要因であった。また、経営層からの支援と積極的なコミュニケーションが、関係者からの支持を促し、新しい実践の導入を支えた。

一方、サービスモデルの違い、限られた資源、医療者の離職・交代、連携先サービスにおける緩和ケアに対する認識不足が主要な障壁となった。それでも参加者は、本プログラムを継続的なQI活動のきっかけとなるものと捉えており、成果を他施設へ共有・拡大する機会も認識していた。


結論 本プログラムは、オーストラリアの緩和ケアサービスにおけるQI能力を強化し、公平性、アクセス、サービスの質を改善するために他の現場にも応用可能な解決策を生み出した。今後は、こうした取り組みを持続可能なものにするための支援、学習成果の普及、そして緩和ケア領域全体へのQI能力の拡大が必要である。


感想

「QI能力を個人に教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別の課題、ということですかね。

単なる研修内容ではなく、①多職種チームの結束、②継続的なメンタリング、③経営層の支持、④積極的なコミュニケーションが成功要因で、逆に、医療者の離職や資源不足が組織的障壁として挙がっています。

2026年10月7日水曜日

妊娠有害転帰の行動変容を健康の公正性の視点でみる

 Hodges VJ, Shareef S, Chew-Graham CA, Wu P, Adetola M, Mitchell C. Primary Care Cardiovascular Risk Reduction after Pregnancy Complications: A Qualitative Systematic Review. Br J Gen Pract. 2026 Jun 1;76(??):BJGP.2026.0110. doi: 10.3399/BJGP.2026.0110. PMID: 42225390.


背景 妊娠有害転帰(adverse pregnancy outcomes: APOs)は約30%の妊娠で生じ、その後の生涯にわたる心血管疾患(CVD)リスク上昇と関連する。行動変容を促す介入は、このリスクを軽減できる可能性がある。本研究では、APOsを経験した女性が、心血管リスクを低減するための行動変容をどのように経験しているのかについて、健康の公正性に焦点を当てて質的研究を系統的にレビューすることを目的とした。


方法 PubMed、Embase、CINAHLを開始時点から2025年3月まで検索し、APOs後の心血管リスク低減に向けた行動変容について女性の経験を扱った一次研究を抽出した。対象は、医療への普遍的アクセスが確保されている高所得国で実施された研究に限定した。ThomasとHardenによる3段階の方法を用いてテーマ統合を行い、抽出されたテーマをCOM-Bモデル(Capability、Opportunity、Motivation―Behaviour)に対応させ、理論的枠組みとして分析を構造化した。


結果 18研究、計339人の女性がレビューに含まれた。マイノリティ民族の女性が参加者の過半数を占めていた研究は2件のみであり、5研究では社会経済的状況、民族性、またはその両方に関する人口統計学的情報が欠如していた。行動変容を形成する経験は、COM-Bモデルの各領域と対応していた。

身体的・心理的な回復が遅れることは、女性が行動変容を開始する能力(Capability)を低下させていた。また、育児、家事、仕事などの複数の役割や責任が、長期的な心血管の健康に取り組むための機会(Opportunity)を制限していた。一方、行動変容を家族の日常生活に容易に組み込むことができ、家族全体にも利益がある場合には、その機会が広がっていた。動機づけ(Motivation)は、自分自身のCVDリスクが高いことへの認識、親としての責任、そして医療者から個別化された助言を受けることによって強化されていた。また、個々の状況に合わせた積極的なフォローアップは、特にマイノリティ民族や社会経済的に不利な立場にある女性の医療への継続的な関与を支えていた。


結論 APOs後のCVD予防には、女性個人に行動変容を求めるだけではなく、家族を単位とした行動変容を優先できるような、構造化されたシステムレベルの支援が必要である。特にCVDリスクが高い集団はこれまでの研究に十分に含まれておらず、健康格差を拡大させないためには、これらの集団とともに介入を共同創出することが有用である可能性がある。


感想

これはとてもいい着眼点のレビューだと思います。しびれます。

「運動しましょう」「体重を減らしましょう」という個人への助言だけでは不十分で、育児や家族生活の中に健康行動を組み込めるように支援する必要があることを示唆しています。また、リスクの高い人ほど、研究にも介入にも十分に含まれていないという、格差に対する視点も重要です。

2026年10月6日火曜日

台湾でのHospital at Homeのアウトカム

 Wang YC, Liao JY, Yang FC, et al. Hospital-Level Acute Care at Home via Direct Home Admission in Taiwan: A Non-randomized Controlled Pilot Trial Before National Implementation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 30. doi: 10.1007/s11606-026-10828-2. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10828-2


背景

Hospital-at-home(HaH)は世界的に広がりつつあるが、台湾のIntegrated Home-Based Medical Care(統合在宅医療)の仕組みの中で、地域から直接自宅に入院させる direct home admission(DHA) 型のHaHについては、十分なエビデンスがない。本研究では、DHAを中心としたHaHモデルについて、臨床アウトカム、患者・介護者の経験、および実施可能性を評価することを目的とした。なお、一部の患者については救急外来を経由して自宅での治療を開始する経路も含まれた。


方法

2022年10月から2023年7月にかけて、前向き非ランダム化比較パイロット試験を実施した。急性感染症のため病院レベルの治療を必要とする、在宅生活中の高齢者144人を対象とし、5病院・13地域診療所から登録した。83人がHaH群、61人が通常の病院入院群となった。対象者は概してフレイルで、慢性疾患を有し、日常生活機能が低下していた。

HaH群では、多職種による訪問診療、静脈内薬物療法、point-of-care検査、遠隔患者モニタリングを実施した。対照群では通常の入院診療を行った。

主要評価項目は、寛解・治療完遂、病院への搬送を必要とする臨床的エスカレーション、治療期間中の死亡、30日死亡率とした。副次評価項目として、在院期間(length of stay:LOS)、QOL、患者・介護者の満足度を評価した。


結果

治療完遂は両群の大多数で達成され、HaH群86.7%、通常入院群95.1%であった(p=0.153)。治療期間中の死亡率は低く、それぞれ2.4%、3.3%であった(p=1.000)。HaH群では、9人(10.8%)が臨床的エスカレーションを必要とし、病院への移行が必要となった。

一方、HaH群では在院期間が通常入院群より有意に短く、9.72日 vs. 11.85日(p=0.035)であった。また、HaH群では、患者・介護者の満足度、利便性、および「次回もこのモデルを選びたい」という意思が有意に高かった(いずれもp<0.05)。


結論

本研究は、台湾におけるdirect home admissionを利用したHaHモデルを評価した初めての研究であり、フレイル高齢者に対する地域起点の病院レベル急性期在宅医療(acute care at home:ACAH)が、実施可能かつ患者・介護者に受け入れられる可能性を示した。これらの結果は、既存の台湾の在宅医療インフラに病院レベルの急性期医療を統合することを支持するものであり、その後の台湾全国ACAHプログラムの開発にもつながった。


感想

これもHaHの研究。HaHでコストがどれだけかかったのか知りたいところ。

2026年10月5日月曜日

在宅医療が立ち向かう健康格差

 Baim-Lance A, Perez S, Gorbenko K, Nnemnbeng JF, Hart J, Howard B, et al. Leadership Perspectives on Hospital at Home and Equity: Broadening Access, Removing Enrollment Barriers, and Adding Value by Addressing Disparities. J Gen Intern Med. 2026 Oct 1. doi: 10.1007/s11606-026-10841-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10841-5


背景 Hospital at Home(HaH)は、従来の入院医療に代わり、患者の自宅で安全かつ質の高い急性期病院レベルの医療を提供する仕組みである。米国でHaHが拡大する一方、プログラムのリーダーが医療の公平性をどのように捉え、公平な医療提供に影響する運用上の課題にどう対応しているかは、十分に明らかになっていない。本研究では、HaHにおける公平性の定義、実現を妨げる障壁、およびその克服に向けた戦略を明らかにすることを目的とした。


方法 規模、地理的条件、セーフティネット病院としての位置づけが多様なHaHプログラムを目的抽出法によって選定した。半構造化インタビューを実施し、インタビュー後の振り返り用テンプレートと要約を用いた迅速な質的分析を行った。その後、焦点を絞ったコーディングによってテーマを抽出し、フレーム分析の枠組みで整理した。


結果 15の病院ベースのHaHプログラムと3つの民間事業者のプログラムを代表する28人のリーダーに対し、18件のインタビューを実施した。参加者のおよそ半数はセーフティネット病院に所属していた。HaHにおける公平性を捉えるための、相互に関連する3つのフレームが明らかになった。

HaHへのアクセスを広げる(Broaden HaH Access):プログラムの設立を妨げたり可能にしたりする要因に注目し、農村地域なども含め、より広い人々にHaHを届けることを目指す。

HaHへの登録・利用開始を妨げる障壁を取り除く(Remove Barriers to HaH Enrollment):保険の種類、地理的条件、自宅の安全性、患者や介護者の希望など、患者が実際にプログラムを利用できるかどうかに影響する社会人口学的要因に注目する。保険の対象範囲を広げるなど、それぞれの障壁に対応する戦略が報告された。

格差に対処することでHaHの価値を高める(Add Value by Addressing Disparities):既存の健康上・社会的な課題を軽減し、長期的なアウトカムの改善につなげるために、HaHを積極的に活用するという考え方である。


考察 これら3つのフレームは相互に補完的であり、排他的なものではない。それぞれのフレームにおいて、HaHのリーダーたちは公平性に関する課題や障壁を認識し、公平な医療提供を促進するための具体的な戦略を示していた。こうした取り組みは、医療システム全体の目標に対するHaHの価値を高めることにもつながる。


結論 HaHにおける公平性を考える際のフレームを明確にし、それらを整合させたうえで、各フレームに対応する改善策を個別にも横断的にも実施することが重要である。これにより、HaHが拡大するなかで、包括的で公平な医療を提供する能力を高められる可能性がある。


感想

あくまでリーダーへのインタビューではありますが、在宅医療が如何にして健康格差に立ち向かうのかがよくまとまっています。

①サービス自体を幅広い地域に届ける、②利用資格があっても利用できない人の障壁を取り除く、③既存の健康格差そのものを縮小する、という3つのアプローチが組み合わさるということですね。

2026年10月4日日曜日

若手女性家庭医の経験するマイクロアグレッション

 Byrd M, Filippi MK, Siddiqi A, Fleischer SE, Bazemore AW, Koempel A. The Impact of Biases for Early-Career Women in Medicine: “It’s the Little Day-to-Day Microaggressions”. J Am Board Fam Med. 2026;39(1):167190. doi:10.3122/jabfm.2025.250291R2. https://www.jabfm.org/content/39/1/167190


背景

女性医師は、臨床現場において、心身の健康を損なうさまざまな制度的・社会的バイアスに直面している。性別に基づく差別を経験したと報告した女性医師の割合は、キャリア初期では76%、中期では57%、後期では36%であった。これらの傾向は、キャリアを重ねるにつれてバイアスが減少する可能性を示唆しているものの、バイアスは女性医師のキャリアを通じて持続する負担となっている。本研究は、職場のバイアスに関する質的研究で十分に取り上げられてこなかった、キャリア初期の女性家庭医に焦点を当てた点に特徴がある。特に、女性医師が臨床現場で経験するマイクロアグレッションを取り上げ、直面するバイアスをより深く理解することを目指した。


方法

2021~2023年のAmerican Board of Family Medicine National Graduate Surveyに回答した、地理的・人種的に多様なキャリア初期の女性医師25名を、電子メールを通じて募集した。研修医から臨床現場で働く医師へと移行する時期の経験を理解するため、ライフヒストリー・アプローチに基づいた半構造化インタビューガイドを作成した。インタビューを逐語録にし、データを整理したうえで、NVivoを用いて帰納的内容分析を行った。分析は質的研究者によって実施された。


結果

データから、主に3つのテーマが特定された。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:臨床現場でのコミュニケーションに、性別に基づくバイアスのパターンが表れていた。

2. 外見や他者の認識による、医師としての立場の否定:患者が、女性医師の外見や自分自身の認識に基づいて、その医師の立場や専門性を認めない経験がみられた。

3. 感情的・心理的な労働への対処:女性医師は、職業上および社会的に求められる期待に応えるなかで、感情的・心理的な負担を抱え、それに対処していた。


結論

プライマリ・ケアの現場では、マイクロアグレッションに対して、直接的かつ意図的な介入が必要である。こうした経験に対処しなければ、公平性と医療従事者の持続可能な就労環境が損なわれるおそれがある。組織のリーダーには、個々の医師を支援するだけでなく、組織文化やプライマリ・ケア全体の使命を強化するために、マイクロアグレッションを認識し、それを中断させ、適切に対応する能力が求められる。こうした取り組みは、医療における公平性の実現という、より広い社会的要請にも関わるものである。


感想

具体的なテーマの説明は以下の通り。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:女性医師を、専門職としてではなく、性別に基づく役割や期待によって捉える言動。

採用時の質問: 男性面接官2名から、将来の出産・子育ての計画について質問された。

日常的な発言: 妊娠中の同僚が分娩シミュレーション用の骨盤模型を購入しようとした際、男性の責任者から「巣作り(nesting)をしているんだね」と言われた。

職場での関係: 男性の前任者とは意見が一致していたと繰り返し述べる上司との関係において、若さや性別が意見の対立に影響しているのではないかと感じた。

こうした何気ない発言が日常的に積み重なり、女性医師の専門性や能力を軽視する環境を形成している。


2. 外見に基づく医師としての立場の否定:若さ、性別、人種などに基づく患者の思い込みによって、医師としての専門性や立場を認めてもらえない経験。

医師であることへの疑念: 若く見える女性医師が、患者から「あなたが医師なの?」と疑うように尋ねられた。

医師であることを示す工夫: 医師であることを明記した名札をつけていても、「医師はどこにいるの?」と尋ねられた。

私生活への立ち入り: 患者から子どもの有無や次の出産予定について質問されたり、外見から話せる言語を決めつけられたりした。

こうした経験は、医師としての役割を否定するだけでなく、患者との専門的な関係や適切な境界を損なっている。


3. 臨床現場や社会の期待に伴う感情的・心理的労働:周囲の感情に配慮し、人間関係を円滑に保ち、ジェンダーや人種に基づく期待に対処するために、追加の心理的負担を引き受けること。

話し方への要求: 男性医師よりも女性医師のほうが、スタッフから話し方や言葉遣い、丁寧さを厳しく求められると感じていた。

社会的な性役割: 女性は医師として働いていても、家事や育児を担うべきだという社会的期待が残っていると語られた。

人種との交差: 黒人女性医師は、黒人患者を診療する際、白人男性医師には生じにくい感情的負担を経験していた。文化的配慮を意図した同僚の発言が、かえって不快感を与える場合にも、その状況に対処しなければならなかった。

過剰な警戒: 過去の経験から、将来も障壁に直面することを予期し、常に備えておかなければならないと感じていた。また、少数派の同僚に負担をかけたくないと考え、支援を求めることを控えた参加者もいた。

差別的な出来事そのものだけでなく、それを予測し、感情を調整し、周囲との関係を維持するために継続的な努力を求められる


非常に具体的かつ明確に記述されており、日本でも同様の現象は起こっているだろうと思いました。日本での追検証が必要だと思います。

2026年10月3日土曜日

コンサルテーションの文章で診断プロセスを分析する

 Kawamura R, Harada Y, Shimizu T. Diagnostic Reasoning in General Internal Medicine Consultations: A Text Mining Analysis of Consultation Requests. J Gen Fam Med. 2026 Sep 13;27(5):e70176. doi: 10.1002/jgf2.70176


背景

診断推論は、その多くが内的な思考過程であるため評価することが難しく、診療の質と関連する言語的特徴については十分に明らかになっていない。コンサルテーション依頼文は、医師がその時点で行っている診断的思考を捉えるための有用な手がかりとなる可能性がある。本研究では、総合内科へのコンサルテーション依頼文における言語が、診断推論をどのように反映しているのかをテキストマイニングによって検討した。


方法

日本の大学病院の総合診療・総合内科部門において、2021年に行われた診断目的のコンサルテーション依頼を対象とした、単施設後ろ向き観察研究を実施した。コンサルテーションは、最初に依頼した専門診療科が最終的に正しい診断を確定したかを中心とした、アウトカムに基づく操作的定義によって適切と不適切に分類した。さらに、特定の診断が強く疑われていた場合には、最終診断との一致も分類基準に加えた。

テキストマイニングにはKH Coderを使用し、共起ネットワーク分析、対応分析、キーワード・イン・コンテクスト(KWIC)分析を行った。


結果

352件のコンサルテーションのうち、適切なのは229件、不適切なのは123件であった。適切なコンサルテーションでは、明確な異常所見や疾患の進行を示す言葉が特徴的にみられた。一方、不適切なコンサルテーションでは、「不明」「陰性」など、診断の方向性が限定的であることを示唆する言葉が関連していた。

特に興味深い結果として、KWIC分析では「陰性」という言葉が、少なくとも2つの異なる診断推論を表していた:検査結果が陰性だったことを受けて、鑑別診断を修正する;陰性な検査結果があっても、なお特定の診断を疑い続ける。つまり、同じ「陰性」という言葉でも、診断推論上の意味は一様ではなかった。

また、不適切なコンサルテーションでは、こうした表現が、評価や診療記録の不十分さ、および診断的不確実性を伴っていた。


結論

コンサルテーション依頼文のテキストマイニングによって、コンサルテーションの適切性と関連する言語的特徴を明らかにすることができた。また、「陰性」という言葉が、異なる診断推論上の行動を反映していることも明らかになった。コンサルテーション依頼文は、診断推論を評価するための、拡張可能な窓口となる可能性があり、診断コミュニケーションやコンサルテーションの質を改善する機会を特定するためにも利用できる可能性がある。


感想

総合診療科から他科へのコンサルテーションの文章を用いた分析で、着眼点がとても面白いです。ここでいう「適切」はコンサルテーション文章に最終診断が含まれていることを意味しています(ざっくりとした説明ですが)。診断プロセスや診断エラーの研究は表に現れないプロセスを扱うので難しいですが、確かにコンサルテーションの文章に着目するというのは可能性がかなりありそうですね。こういう着想で研究するのは素晴らしいことだと思います。

2026年10月2日金曜日

介護者は診療同伴で何をしているか、そしてそれはvirtual careに移行可能か

 Ward K, Wang H, Chacty V, Lau AY. Carer involvement in GP-patient consultations and translatability to virtual care: a multi-methods study. BJGP Open. 2026 Aug 11:BJGPO.2025.0114. doi: 10.3399/BJGPO.2025.0114. https://bjgpopen.org/content/early/2026/08/09/BJGPO.2025.0114


背景

介護者は、患者が医療にアクセスし、良好な医療経験を得るうえで重要な役割を果たしている。介護者はしばしば患者に付き添って診療を受け、その際に精神的・身体的な支援を提供している。しかし、これまでのところ、診療中に介護者が具体的にどのような活動に関わっているのか、また、それらの活動をオンライン・遠隔診療にどの程度移行できるのかを明らかにした研究は限られている。


目的

本研究の目的は、患者がGPの診察を受ける際に、介護者がどのような活動に関与しているのかを明らかにし、記述すること、そして、それらの活動をvirtual careによる診療にどの程度移行できるのかを評価することであった。


研究デザイン・セッティング

英国の8つのGP診療所で実施された対面でのGP診療のビデオ281件をスクリーニングし、そのうち39件を分析対象とした。


方法

対面で行われたGP診療の二次分析を行い、介護者が関与している活動を抽出した。それぞれの活動について、著者らが開発したエビデンスに基づく新しいスコアリングシステムを用いて評価し、その介護者の活動がvirtual careにおいて実施可能である可能性を判定した。


結果

介護者が関与する39の活動が同定され、7つのカテゴリーに分類された。

健康情報の共有 10 25.6%

精神的・身体的支援 9 23.1%

病歴聴取 8 20.5%

自宅での健康関連活動 5 12.8%

ロジスティクス 3 7.7%

関係性の構築 3 7.7%

その他 1 2.6%

39の活動について、virtual careへの移行可能性を評価したところ、平均スコアは15点満点中13点であった。


結論

介護者が関与するすべての活動について、virtual careへの移行可能、または移行可能性があると評価された。今後の研究では、virtual careにおける介護者の役割と、介護者をその役割の中でどのように支援できるかについて検討する必要がある。


感想

面白い研究。介護者が何をしているのかを測定するだけでも面白いのに、それをvirtualに移行できるかどうかの評価までしています。すばらしい。そしてこんなにおもしろくてもopenに回るのですね。最近、論文の質がAnn Fam MedよりBJGP Openのほうが高い気がします。


virtual careへの移行を評価するシステムに工夫があります。筆者たちの先行研究をもとにしているとありますが、つまるところ筆者たちが勝手に作ったスコアリングです。

Clinical endorsement、Physical artefacts / physical interaction、Type of carer support requiredの3項目をそれぞれ1~5点で評価し、合計15点満点にしています。


Clinical endorsement score:その活動を行うために、どの程度medical/clinical expertiseや医療者による確認が必要か

1 対面での臨床専門知識が必要

2 対面の臨床専門知識が望ましいが、遠隔で代替できる可能性あり

3 自宅で測定できるが、結果の解釈に医療者のclinical endorsementが必要

4 医療者による確認は必要だが、特別な機器なしにvirtual careで実施しやすい

5 医療専門知識が必ずしも必要ない


注射・ワクチン → 1

聴診・触診 → 2

血圧、体温、SpO₂測定 → 3

targeted history taking → 4

印刷など → 5


Physical artefacts / physical interaction:物理的な機器や身体的接触がどの程度必要か

1 virtual careでは代替困難な機器・身体診察が必要

2 機器・身体診察が必要だが、遠隔化の可能性あり

3 薬局などで簡単に購入できる機器が必要

4 自宅にある可能性の高い機器が必要

5 機器・身体的接触が不要


swab / smear → 1

聴診器による聴診 → 2

体温・血圧測定 → 3

computer / printer / weighing scale → 4

電話で服薬について話す → 5


Type of carer support required:その活動を患者が行うために、carerがどの程度の支援を必要とするか

1 非常に複雑。専門的な対面ケアが必要

2 複雑。clinical guidanceを伴う身体的・会話的支援が必要

3 重要な役割。ある程度の身体的支援または複雑な会話的支援が必要

4 比較的単純な支援。clinical knowledgeはほとんど不要

5 carerの支援は基本的に不要、または存在するだけでもよい


1:複雑な身体診察、高いリスクを伴う複数疾患、高度なclinical expertiseが必要な活動

2:複雑な診療情報の整理、multidisciplinary teamとの調整、複雑な在宅検査

3:診察時の衣服の着脱を手伝う、書類を準備する、患者に代わって病歴を説明する

4:患者を落ち着かせる、手を握る、会話を補足する、診察予約を手伝う

5:単に同席する、一般的な質問をする

2026年10月1日木曜日

高齢クィアのニーズを医療者教育に組み込む共同創造

 Hall S, Code D, Dyck D, Rabari D, Hubbard Murdoch N. What Healthcare Professionals Need to Understand About Queer Older Adult Care Experiences: A Double Diamond Design Study. J Gen Intern Med. 2026 Sep 25. doi: 10.1007/s11606-026-10800-0. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10800-0


背景

two-spirit、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア(2SLGBTQ+)の人々が高齢化するなか、多くの人々が異性愛規範的(heteronormative)な医療システムへのアクセスにおいて困難に直面している。医療専門職(HCP)は、包摂的で、アイデンティティを肯定するケアを提供するための、対象を明確にした教育を必要としている。本研究の目的は、クィアな高齢者へのケアにおけるHCPの能力向上を目的とした教育ツールキットに含めるべき主要な内容領域を明らかにすることであった。


方法

Double Diamondデザインモデルは、4つの段階――discover(発見)、define(定義)、develop(開発)、deliver(提供)――からなる人間中心設計(human-centred design)の枠組みである。

本研究ではDouble Diamondデザインモデルを用い、カナダ・サスカチュワン州において、クィアな高齢者とHCPを対象とした2回の共同創造ワークショップを実施した。ワークショップでは、ストーリーテリング、障壁の特定、解決策の創出といった活動を行った。逐語録、フィールドノート、参加者が作成した資料のデータを帰納的に分析し、その後、コードを先行研究で記述されている現象と関連づけ、既存の用語に沿うように名称を変更した。


結果

3つのテーマが同定された。

Relational ontologies(関係の中で浮かび上がる存在):クィアな高齢者の健康経験が、人間関係、包摂的な言語、可視性、そして「選択した家族(chosen family)」の認識によってどのように形づくられるかを示す概念である。

Institutionalized othering(制度による他者化):異性愛規範的な方針、前提、教育上の不足によって、医療システムのなかでクィアなアイデンティティや人間関係が周縁化されることを示す概念である。

Self-protective behaviours(自己防衛的行動):クィアな高齢者が、カミングアウトや自身の情報開示をどの程度行うかを判断し、安全性を評価し、予想される差別から自分自身を守るために用いる方略を示す概念である。

これらのテーマは、現在開発中の教育ツールキットの中核的な内容領域を構成するものとなっている。


結論

これらの結果は、HCP教育において、積極的な信頼関係の構築(proactive trust building)と包摂的なケア方針(inclusive care policies)を優先する必要があることを示している。

具体的には、

relational ontologies:包摂的なコミュニケーション、「選択した家族」の認識、肯定的な対人ケア

institutionalized othering:構造的スティグマ、異性愛規範的な制度・方針への批判的検討、システムレベルでの包摂

self-protective behaviours:情報開示に配慮した診療、信頼関係の構築、安全に医療へ参加するための障壁の軽減

という形で、ツールキットの内容に反映される。

生きられた経験とデザイン研究の原則に基づいて開発されるこのツールキットは、クィアな高齢者をケアするHCPの準備性を高め、医療における公平性の向上を目指すものである。


感想

研究デザインもトピックも結果も、どれをとっても質の高い研究だと思います。

chosen familyとは、血縁や法律上の家族ではなくても、本人が「自分の家族」と認識し、家族のような親密さや相互扶助を持つ人々をさします。

単にニーズを記述するのではなく、当事者と医療者がco-designのプロセスに参加し、その経験を医療者教育の具体的なコンテンツへ変換しようとしている点が評価すべき点だと思いました。

2026年9月30日水曜日

RCTで効果を検証した介入を実装するための質的研究

 Purcell N, Moore LC, Becker WC, Seal KH. Implementing Integrated Whole-Person Care for Chronic Pain: Lessons from VA’s Multisite wHOPE Study. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10825-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10825-5


背景

ガイドラインでは、慢性疼痛に対して、多面的かつ生物心理社会的なケアが推奨されている。しかし、このようなケアを大規模に実装することは容易ではない。近年、Whole Health Options and Pain Education(wHOPE)研究では、米国の6つの退役軍人省(VA)医療センターにおいて、Whole Health Team(WHT)介入が実施・評価された。WHTは、医療提供者、complementary and integrative health(CIH)提供者、health coachからなる多職種チームであり、包括的で非薬物的な疼痛ケアを提供する。慢性疼痛を有するVA患者764人を対象としたランダム化比較試験では、WHTは、group cognitive behavioral therapy(CBT)および通常診療と比較して、pain interferenceをより効果的に減少させ、その他の疼痛関連アウトカムも改善した。WHTの有効性が示されたことから、今後広くWHTを実装することが可能かどうかを検討することが重要である。


目的

質的研究を用いて、WHTの実装を促進・阻害する要因、WHTの持続可能性に影響する要因を検討した。


方法

Practical Robust Implementation and Sustainability Model(PRISM)を理論的枠組みとして用いた。wHOPE介入の実装に関わった43名のcliniciansおよびstaffを対象に半構造化インタビューを実施し、template-based rapid analysisを用いてインタビュー内容からテーマを抽出した。


主な結果

臨床医はWHT介入を高く評価しており、自身の診療を向上させ、患者ケアを改善したと感じていた。インタビューから、WHTの実装と持続可能性に影響するいくつかの重要な要因が明らかになった。

① チーム構成・協働

以下が必要とされた。

チームメンバーが継続して同じメンバーであること

臨床医に十分な時間・業務量を割り当てること

各臨床職種の役割を明確にすること

定期的なteam huddleを行うこと

② 組織インフラ・統合

以下が重要とされた。

既存の疼痛診療におけるギャップに対応すること

primary careと緊密に連携すること

complementary wellnessおよびtreatment modalitiesへの紹介経路を確立すること

③ Administrative coordination

実装およびその後の運営を支えるために、熟練したadministrative coordinationが必要であることも強調された。


結論

包括的で患者中心的な多職種疼痛ケアを実装することは複雑であり、特有の課題を伴う。しかし、この質的研究から、こうしたケアの実装と持続可能性を成功させるための有望な戦略が明らかになった。


感想

昨日紹介した論文はこの論文を読むための準備でした。RCTで効果があるのはわかった(本当に?と私は思っていますが…)から、じゃあどうやって実装する?という質的研究です。分析は、あらかじめマトリックスを作っておいて該当する内容を埋めるような方法で行われており、迅速に結果が得られるようです。

結論はありきたりですが、こうやってRCTに質的研究をくっつけて実装の課題を探すというのは、とても重要なことだと思います。

2026年9月29日火曜日

チームでの疼痛管理の効果

 Seal KH, Morasco BJ, Martin AM, Reddy KP, Van Iseghem TM, Bolton RE, et al; wHOPE Study Group. The Veterans Affairs' Whole Health Approach for Chronic Pain Management: The wHOPE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2026;335(20):1774-1786. doi:10.1001/jama.2026.5006. https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2848379


重要性

米国退役軍人省(US Department of Veterans Affairs: VA)のWhole Healthアプローチは、VA病院で診療を受ける慢性疼痛患者に対して、2016年に議会によって導入が義務付けられた。しかし、これまで、その有効性をランダム化臨床試験で検証した研究はなかった。


目的

VAで慢性疼痛を有する患者を対象として、Whole Health Teamによる介入の有効性を、認知行動療法(CBT)および通常診療と比較して評価すること。また、長期的な疼痛による生活への支障の軽減について、CBTと通常診療を比較すること。


研究デザイン、設定、対象者

米国の6つのVA医療システムで実施されたランダム化臨床試験である。参加者の登録は2020年9月18日から2024年1月19日まで行われ、最終追跡は2025年1月27日に実施された。解析は2025年4月1日から2026年2月3日まで行われた。対象は、VAのプライマリケアを受診している慢性疼痛患者であった。


介入

慢性疼痛患者を11:11:2の割合で無作為に、Whole Health Team介入群:343人、慢性疼痛に対するCBTのグループセッション:339人、通常診療:82人の3群に割り付け、12か月間介入した。

Whole Health Teamは、プライマリケア医またはナースプラクティショナー、非薬物療法またはintegrative pain careを提供するsecond clinician(注:非薬物療法またはintegrative pain careを実際に提供する臨床職。PT、鍼灸師、カイロプラクターなど)、コーチ(注:Whole Healthに基づく目標設定やセルフマネジメントを支援)から構成された。

このチームは、VA Whole Healthモデルに沿って、多職種による個別化されたケアを提供し、患者自身の価値観や人生の目標と一致した個人的な健康目標の達成を支援した。


主要評価項目

主要アウトカムは、12か月時点におけるBrief Pain Inventory interference(BPI-I)サブスケールのスコアであった。BPI-Iは0~10点で評価され、点数が高いほど疼痛による生活への支障が大きいことを示す。最小臨床的重要差(minimal clinically important difference: MCID)は1.0点と設定された。


結果

12か月時点で、Whole Health Team群では、疼痛による生活への支障がCBT群および通常診療群よりも大きく改善した。

BPI-Iの平均差は、Whole Health Team vs CBT:−0.58点、Whole Health Team vs usual care:−0.77点であった。

一方、CBT群と通常診療群の比較では、平均差は−0.19点(99% CI −0.89~0.50、P=.46)であり、有意差は認められなかった。

なお、Whole Health Teamによる改善は統計学的には有意であったものの、MCIDとして設定された1.0点には達していなかった。


結論と意義

これらの結果は、慢性疼痛を有するVA患者において、Whole Health Teamアプローチを使用することで、疼痛による生活への支障を統計学的に有意ではあるものの、小幅に改善できることを支持する。


感想

手間とコストをかけてもあまり変わらないような印象を受けました。疼痛管理はやはり難しいですね。

2026年9月28日月曜日

家庭医療レジデンシーのQIカリキュラム

 Harriett LE, Wright KM, Anderson L, Wheat S, Harrison L, Rowland K, et al. Quality Improvement in Residency: Training, Projects, and Outcomes. Ann Fam Med. 2026;24(5):431-436. doi:10.1370/afm.250717. https://www.annfammed.org/content/24/5/431


背景

Quality improvement(QI)は家庭医学レジデンシー教育の中心的な要素であり、医師がシステムレベルの変革を主導し、価値に基づく医療を提供するための能力を育成する。しかし、レジデンシーにおけるQIプロジェクトの成功を評価するための標準化されたカリキュラムや指標は存在せず、卒後医学教育におけるQI教育・評価のベストプラクティスについてもコンセンサスがない。本研究では、米国の家庭医学レジデンシーにおけるQIカリキュラムの現状を明らかにすることを目的とし、教育方法、プロジェクトの要件、指導教員の役割、成功の指標として認識されているもの、障壁などを調査した。


方法

本研究は、2025 Council of Academic Family Medicine Educational Research Alliance(CERA)による家庭医学レジデンシープログラム・ディレクターを対象とした横断的調査の一部として実施された。調査項目には、QI教育、プロジェクトの運営方法、プロジェクトの特徴およびアウトカムに関する質問が含まれた。記述統計およびχ²検定を用いてデータを分析した。


結果

回答率は44.2%(321/726)であった。

QIカリキュラムについては、38.8%のプログラムがレジデンシー独自に開発したカリキュラムを使用し、46.8%が独自開発と外部リソースを組み合わせたハイブリッド型カリキュラムを使用していた。

QIプロジェクトの監督は、54.2%のプログラムでコア・ファカルティが担当していた。

QIに必要なデータへのアクセスは、44.6%で「limited」、27.6%で「full」とされていた。

QIプロジェクトは45.2%でレジデントのチームによって実施されていた。

レジデンシー修了者のQI能力は、63.5%のプログラムで「intermediate」と評価されていた。

卒業時のQI能力が高いことは、ハイブリッド型カリキュラム、データアクセス上の障壁が少ないこと、プロジェクトの継続性、およびプロジェクトの成果をより広く普及・実装していることと有意に関連していた(いずれもP<.05)。


結論

レジデントのQI能力や臨床実践の変化と関連する教育・プロジェクトの特徴は、家庭医学レジデンシーにおいて、より標準化された長期的なQI教育アプローチが必要であることを示している。


感想

実際のclinical practice changeと関連していたプロジェクトの特徴は、

レジデントが個人ではなくチームで取り組む

次のresident classにプロジェクトが引き継がれる

結果を発表・出版する

であり、専攻医がやりっぱなしではなく継続して取り組まれるようにするのがいいのでしょうね。


専攻医のQIの能力をどのように評価しているのか気になったのですが、Program DirectorにBasic、Intermediate、Advanced/Expertの3段階で評価をきいているだけで、さすがにいまいちだなと思いました。

総じて、面白さを感じ取ることはできるけど、雑な研究だなと思ってしまいました。

2026年9月27日日曜日

VitB12の投与経路

 Debone D, Azeredo da Silva A, Cordenonssi J et al. Comparative efficacy of vitamin B12 supplementation routes in adults with replacement indication: a systematic review. eClinicalMedicine, 2026; 100 https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(26)00467-0/fulltext


背景

ビタミンB12欠乏症は一般的であり、重篤な合併症を予防するために長期的な補充療法が必要となることが多い。しかし、経口、舌下、筋肉内という異なる投与経路の有効性を比較した場合、その違いについては不明確な点が残されている。本システマティックレビューでは、補充療法が適応となる成人において、異なるビタミンB12補充経路の有効性を評価した。


方法

PubMed、Embase、Cochrane CENTRALを、言語や発表年による制限を設けず、各データベースの開始時点から2025年7月18日まで検索し、2026年7月13日に更新した。PRISMA 2020に従って報告した。

対象は、補充療法が適応となる成人を対象とし、経口、舌下、または筋肉内によるビタミンB12補充を比較したランダム化試験および観察コホート研究とした。小児を対象とした研究および比較を行っていない研究は除外した。

バイアスのリスクは、ランダム化試験についてRoB 2.0、コホート研究についてROBINS-Iを用いて評価した。主要アウトカムは、血清ビタミンB12値または臨床的反応とした。

本システマティックレビューはPROSPERO(CRD420251126832)に登録された。


結果

13研究が適格基準を満たした。その内訳は、ランダム化比較試験7件、観察コホート研究3件、学会抄録2件、research letter 1件であった。研究はアジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニアの10か国で実施され、単施設研究と多施設研究の両方が含まれていた。

最も多かった比較は経口投与と筋肉内投与で、8研究がこれを比較していた。複数の研究では、経口投与は筋肉内投与と同等、あるいはそれ以上の生化学的反応を示唆していた。

舌下投与については研究数が少なく、5研究のみであったが、短期的な生化学的有効性は他の投与経路と同等またはそれ以上であった。

3つの投与経路はいずれも血清ビタミンB12値を上昇させた。

7件のランダム化比較試験はすべて、バイアスのリスクについて「some concerns」と判断された。主な問題は、ランダム化手順の限界と、アウトカム報告の選択性であった。

3件の観察研究はすべて「serious risk of bias」と判断され、主な理由は交絡因子の調整が不十分であったことであった。残る3研究(学会抄録2件、research letter 1件)はバイアス評価の対象外とした。


解釈

投与経路の選択では、患者の希望、忍容性、アクセスのしやすさを考慮すべきである。

特に舌下投与についてはエビデンスが限られているが、現在得られている研究からは、選択された患者にとって非侵襲的な代替手段となる可能性が示唆される。

今後は、症状の改善、治療アドヒアランス、患者の選好など、患者中心のアウトカムを評価する、十分な検出力を持った比較研究が必要である。


感想

特に新たな知見というわけではなさそうでした。ただ評価はあくまでVitB12検査値であり、臨床的なアウトカムではないことに注意が必要です。

2026年9月26日土曜日

小規模チーム制のプライマリケアは費用が少しかかるが、全体の医療費は削減される

 Wong SKW, Tan KB, Pang J, Wong V, Ng DWL, Tan DHY, Lim Z, Sundram M, Ng KMY, Lew YJ, Chong PN. Assessing 5-year outcomes of a teamlet care model in Singapore polyclinics: a matched difference-in-difference analysis. Ann Fam Med. 2026 Sep;24(5):405-412. doi:10.1370/afm.250635.


背景

シンガポールのポリクリニックでは、慢性疾患患者に対するケアの継続性と包括性を向上させるため、2014年に新しいteamlet(小規模チーム)型ケアモデルが導入された。患者は、家庭医2名、看護師1名、ケアコーディネーター1名からなる小規模チームに登録され、連携したチームベースのケアを受けた。本研究では、このモデル導入後5年間のアウトカムについて、臨床指標、ケアの遵守、医療サービス利用、経済的影響に焦点を当てて評価した。


方法

2014~2016年にteamletプログラムに登録された、糖尿病、高血圧、または高脂血症の患者を対象とした後ろ向きマッチドコホート研究を実施した。アウトカムを、通常診療を受けていたマッチングされた対照患者と比較した。シンガポール保健省のデータベースを用い、個人およびコホート・時点による固定効果を調整した差の差分析を行った。


結果

teamletモデルでは、臨床指標に小幅な改善が認められた。登録前にHbA1cが上昇していなかったサブグループでは、HbA1cが0.1%低下した。

収縮期血圧は0.65 mmHg低下した。LDLコレステロールは0.03 mmol/L低下した。一方、糖尿病スクリーニングの遵守率は改善し、対照群と比較して、足のスクリーニングが16%増加、眼のスクリーニングが6%増加した。医療サービスの利用はプライマリ・ケア側へシフトし、高コストの医療サービス利用が減少した。

入院:1人あたりSGD 2,432の費用削減

専門医外来:1人あたりSGD 130の費用削減

救急外来:1人あたりSGD 49の費用削減

一方、ポリクリニック利用費は1人あたりSGD 479増加した。

これらを合わせると、1人あたりの総費用はSGD 2,186削減された。


結論

ポリクリニックの人員配置を、より小規模で協働的なチームへ再編することで、ケアプロセスが改善し、高コストの医療サービス利用が減少した。これらの結果は、患者数の多いプライマリ・ケア環境においてチームベースのケアモデルを拡大することが、医療システム全体の効率性向上と費用削減につながる可能性を示している。


感想

チームベースのケアが費用対効果に優れていることを明確に示していると思います。プライマリ・ケアにかかるコストが少し増えても、全体として医療費は下がる、というのが素晴らしいですね。プライマリ・ケアに手厚く予算を配分したほうがいいですよと主張する根拠になります。こういうエビデンスがアジア圏からでるのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月25日金曜日

継続性と効率性

 McDonald T, Lethebe BC, Green LA. Cost savings from primary care clinic continuity among patients with chronic disease in Alberta, Canada: a retrospective population-level cross-sectional study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0085. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0085


背景


プライマリ・ケア医(PCP)とのケアの継続性は、患者の健康状態を改善し、医療サービス利用(HSU)を減少させ、医療費を低下させることが知られている。一方、チーム医療や共同診療モデルに関連する「診療所レベルでの継続性」がどのような影響をもたらすかについては、十分に明らかになっていない。このようなモデルの費用への影響を明らかにすることは、医療提供体制や報酬制度の設計に重要である。


目的


慢性疾患患者を、継続性の低い・中程度のプライマリ・ケア診療所から、継続性の高い診療所へ移行した場合に、医療サービス利用にかかる費用をどの程度削減できるかを推定すること。


デザイン・セッティング


カナダ・アルバータ州において、慢性疾患患者約50万人のコホートからマッチングされた約7万人を対象とした、3年間の後ろ向き人口ベース横断研究。すべての出来高払い(fee-for-service)のプライマリ・ケア医を対象とした。


方法


診療所レベルの継続性を、Usual Provider of Care(UPC)Indexを改変して算出した。医療サービス利用にかかる費用は、Canadian Institute of Health Informationの費用算定方法を用いて推定した。


結果


継続性と急性期医療費との関連から、継続性が高い診療所(UPC 80–100%)をすべての患者に適用した場合、現在それ未満の継続性の診療所でケアを受けている約19万5000人について、3年間で8億9800万ポンドを超える費用削減が理論的に可能と推定された。


1人あたりの費用削減効果は、医学的に複雑な患者ほど大きかった。


結論


一般的な慢性疾患をもつ患者において、診療所レベルのケアの継続性は、患者の複雑性の程度にかかわらず、医療費の削減と関連していた。高い継続性を重視するプライマリ・ケア診療所に患者のケアを集約することで、大幅な費用削減が実現できる可能性がある。


感想

これはまたすごいエビデンスが出ました。継続性はどんどんエビデンスが出てきますね。

2026年9月24日木曜日

複雑系における多疾患併存

 Arakelyan S, Guthrie B, Anand A, Lone N, Mercer SW, Tooman T. Clinical empathy and relational continuity mitigate care fragmentation for patients with multiple long-term conditions: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0171. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0171


背景

多疾患併存(multiple long-term conditions: MLTC)をもつ患者への医療サービスは、断片化し、十分に連携されていないシステムの中で提供されている。しかし、サービスの変化やシステムの複雑化に応じて、患者のケアに対する経験、認識、行動がどのように形成され、変化していくのかは十分に理解されていない。


目的

複雑適応系(complex adaptive care system)の中で、MLTC患者とその介護者のケアに対する経験や認識がどのように形成・変化するのかを明らかにし、より良いケアにつながる機会を特定すること。


デザイン・セッティング

スコットランドの4つの統合型保健・社会福祉パートナーシップにおいて、MLTC患者および介護者28人を対象に、6つのフォーカスグループを実施した質的研究。


方法

2024年2月から5月にデータを収集した。複雑適応系の視点に基づくアブダクティブ分析を行った。


結果

MLTC患者へのケアは、患者、介護者、医療専門職、組織構造の間の動的かつ相互的な相互作用によって形成されていた。増加する医療需要に対応するために導入されたサービス変更は、患者の複雑なニーズと一致していないと認識されることが多く、その結果、患者や介護者はアクセス上の障壁を乗り越えるために自身の行動を変化させていた。

ケアの経験は予測困難であり、小さな個人的な相互作用が、信頼や医療への関与に不釣り合いに大きな影響を与える強化型フィードバックループによって形作られていた。また、システムの不足を埋めるためにインフォーマルケアが拡大し、家族がケアの調整や患者の権利擁護を担うようになっていた。

その一方で、臨床的共感(clinical empathy)とケアの関係性の継続性(relational continuity)は、断片化したケアシステムの中で重要な安定化要因として機能していた。


結論

ケアの効率化を目的としたサービス変更は、意図せずケアを不安定化させ、MLTC患者や介護者に負担を転嫁する可能性がある。その結果、患者が感じるケアの質や、医療者との関係性の継続性にも影響を及ぼしうる。医療者と患者の相互作用や関係性の質が、患者のケアに対する認識と、その後の医療への関与を形作る。


感想

多疾患併存に対する王道の質的研究だと思いました。

  • MLTC患者にとって、医療は「複数の疾患別サービスの寄せ集め」になりやすい


  • 患者・家族は、断片化したシステムに「適応」していた。システムの問題を患者・家族自身が補っていた。つまり、自分で予約を取る、医療機関を使い分ける、救急を利用する、家族が調整役になる、といった行動が生じていた。


  • 医療者との小さな相互作用が、信頼やその後の受療行動に大きな影響を与えた。良い経験は信頼・継続的な受療を促進する一方、些細に見える対応の悪さが不信や受療中断につながることがあった。


  • clinical empathyとrelational continuityが、断片化を「安定化」する。自分の病歴を理解してくれる医療者、共感的に話を聞いてくれる医療者、他のサービスとの調整をしてくれる医療者の存在が、患者・家族の負担や不確実性を軽減していた。


というのがこの研究の論旨だと思います。


システム改善が必ずしも患者にとって改善になるとは限らず、効率化のためのデジタル化・標準化が、MLTC患者にはむしろ新たな適応を要求していること、逆に、「ちょっとした共感」「顔の見える継続的な関係」といった小さな相互作用が、システム全体の経験を大きく変えるというのが、まさに複雑系という感じです。

2026年9月23日水曜日

Greener practiceの実装

 Twohig H, Geddes O, Dale J, Dahlmann F, Earle J, Eccles A, Gregg M, Nunes AR, Spencer R, Karaba F, Thomas N, Atherton H. Factors influencing implementation of decarbonisation actions in general practice: longitudinal multi-centre case-study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 22. doi:10.3399/BJGP.2026.0143. https://bjgp.org/content/early/2026/09/22/BJGP.2026.0143

背景

 英国国民保健サービス(NHS)は2040年までにネットゼロを達成することを目指している。家庭医療診療所はその実現に重要な役割を担うと認識されているものの、脱炭素化の取り組みがどのように実装され、またその進展をどのように支援できるのかについては、十分に明らかになっていない。

目的


家庭医療診療所における脱炭素化の取り組みの実装に影響を与える、制度的、組織的、専門職上の要因を、時間経過とともに明らかにすること。


デザイン・セッティング

イングランドの12の家庭医療診療所を対象とした縦断的質的ケーススタディ。


方法

各診療所が、12か月間に実施する3~5個の測定可能な行動からなるGreen Action Plan(GAP)を作成した。ベースライン時のワークショップ、3か月ごとのフォローアップ「check-in」ディスカッション、最終フォーカスグループを通じて質的データを収集した。Normalisation Process TheoryおよびTheoretical Domains Frameworkに基づいてトピックガイドを段階的に作成し、Framework analysisを行った。


結果

 脱炭素化に影響を与える要因として、以下の5つのテーマが明らかになった。

制度的障壁(systemic barriers)

組織文化とコミュニケーション(culture and communication)

キャパシティと競合する業務(capacity and competing demands)

「実際に機能させること」(‘making it work’)

行動、態度、感情(behaviour, attitudes and feelings)

NHSのより広範な優先課題と整合する取り組みや、時間・費用の効率化につながる取り組みは、日常業務に組み込みやすかった。一方、個人の行動変容を必要とする取り組みや、外部システムに依存する取り組みは、実装がより困難であった。また、政策面での調整不足や、施設・インフラに対する診療所の管理権限の限界が、進展を妨げていた。


結論

診療所レベルでは、日常業務に組み込むことができ、効率化にもつながる取り組みが、最も実施しやすい。持続的な変化を支えるためには、国レベルでの指示的な政策と、システムレベルで調整された支援が必要である。すでに多くの業務上のプレッシャーが存在する中では、個人の行動変容は困難であるが、支援的な組織文化とチームでの協働が、その進展を促進しうる。


感想

Greener practiceの実践よりの研究で面白いです。実装をどうするかというのはいかなる時も課題ですね。

2026年9月22日火曜日

プライマリケアでACSを除外する

 van den Bulk S, Petrus AH, Willemsen R, Numans ME, Boogers MJ, Hermans MPJ, Meeder JG, Rahel B, Janssen M, Dinant G, Cobbaert CC, Bonten TN. Ruling out acute coronary syndrome in primary care: a diagnostic trial (POB-HELP). Br J Gen Pract. 2026 Sep 10. doi:10.3399/BJGP.2026.0167. https://bjgp.org/content/early/2026/09/10/BJGP.2026.0167


背景

プライマリ・ケアにおいて胸痛患者を正確にリスク層別化することは、患者安全を改善すると同時に、不必要な病院紹介を減らす可能性がある。


目的

高感度トロポニンI(hs-cTnI)とMarburg Heart Score(MHS)を組み合わせたclinical decision rule(CDR)について、プライマリ・ケアの胸痛患者における急性冠症候群(ACS)、特に心筋梗塞(MI)を除外する診断性能を評価し、通常診療と比較して紹介率を検討すること。


デザイン・セッティング

オランダのプライマリ・ケア診療所で実施されたcluster-randomised diagnostic trial(介入:対照=2:1)。


方法

急性胸痛を呈した患者を、家庭医がCDRを用いて評価した。CDRはMHSと、point-of-careで測定するhs-cTnI検査を組み合わせた。対照群の家庭医は通常診療を行った。

診断性能について、感度、特異度、NPV)、PPVを評価した。また、副次的評価としてmodified HEART scoreと、単回hs-cTnIによるrule-out strategyも評価した。


結果

合計827人が参加し、740人が介入群、87人が対照群であった。

CDRではACSを1例見逃した。ACSに対する感度は98.3%(95% CI 90.8–100%)、NPVは99.7%(95% CI 98.0–100%)だった。特異度は49.1%、PPVは14.1%だった。MIについては、感度 100%、NPV 100%であった。特異度は48.6%、PPVは11.9%だった。

一方、病院への紹介率は介入群54.6%、対照群47.1%で、両群間に有意差は認められなかった(P=0.39)。


結論

MHSとpoint-of-care hs-cTnI検査を組み合わせたCDRは、プライマリ・ケアにおいてACSおよびMIを安全に除外することができた。しかし、通常診療と比較して、病院紹介率には有意な差はなかった。


感想

まずはCDRの詳細を。MHS(Marburg Heart Score)+指先採血hs-cTnIで判定しています。

MHS ≤2 + hs-cTnI ≤3.8 ng/L→ ACSをrule out → 経過観察

どちらか一方が陽性→ ACSをrule outできない → 循環器医に相談

MHS ≥3 + hs-cTnI ≥3.9 ng/L→ ACSリスク高い → EDへ直接紹介

(hs-cTnIは指先採血で約8分で測定。)


MHSについては以下の通り

年齢・性別    :男性 ≥55歳、女性 ≥65歳で1点

心血管疾患の既往 :あれば1点

患者自身が「心臓が原因」と考えていれば1点

運動で胸痛が増悪  :あれば1点

触診で胸痛が誘発されなければ1点

MHS ≤2点 = low risk MHS ≥3点 = high risk 


本研究の重要ポイントとして、家庭医はこの予測ルールの推奨を無視することができるという点です。

つまり実際医は、CDRが経過観察を指示していても、医師の判断で紹介できますし、循環器に相談することが示唆されても家庭医の判断で経過観察にできます。

実際に、医師の臨床判断を一切入れずCDRだけで機械的に運用すると、rule outできたのは20%のみで、理論上の救急紹介率は80%になっておいます。


つまり、

CDRは安全に除外できるが、機械的に運用すると大量の患者を紹介する羽目になる。

家庭医の臨床判断は優秀で、経過観察で紹介せずに済んだ群がかなりいる。

ということですね。


そう考えると、abstractの結論の記載はだいぶmisleadingで、予測スコア使わず、引き続き医師が臨床判断したほうがいい、と私なら解釈するなと思いました。

2026年9月21日月曜日

喘息の診断を家で行う

 Wang R, Lawton K, Khatoon B, Smith J, Fowler SJ, Simpson A, Murray CM. Expectations and attitudes in primary care towards home-based testing for diagnosing asthma: a mixed-methods study. BJGP Open. 2026 Sep 8. doi:10.3399/BJGPO.2025.0260. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0260


背景

喘息は、診療所で行われる検査では喘息症状の自然な変動性を捉えきれないことがあり、しばしば誤診される。


目的

本研究では、早期のステークホルダー・エンゲージメントの一環として、携帯型スパイロメーターおよび呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を用いた在宅診断検査について、プライマリ・ケア医療従事者がどのように考えているかを検討した。


デザイン・セッティング

2段階のmixed-methods studyを実施した。

Phase 1では、イングランド北西部のプライマリ・ケア医療従事者を対象に2回のフォーカスグループを実施した。

Phase 2では、英国全土のプライマリ・ケア医療従事者を対象に、電子的な全国調査を実施した。


方法

フォーカスグループではnominal group technique(NGT)を用いて、在宅で喘息診断を行うための戦略について重要な優先事項を特定した。これらの結果をもとに、Phase 2の全国調査票を作成した。


結果

Phase 1のフォーカスグループには、21人のプライマリ・ケア医療従事者が参加した。在宅で喘息診断を行うことについて、利点、課題、実装を促進する要因が明らかになった。

Phase 2では、104人のプライマリ・ケア医療従事者がすべての質問への回答を完了した。回答者は幅広い人口学的背景を有し、勤務する診療所も社会経済的困窮度のさまざまなレベルにわたっていた。

在宅診断戦略が実行可能ではないと考えた回答者はわずか3.8%だった。

最も頻繁に挙げられた障壁は「デバイスの高コスト」であり、一方、「患者の参加・関与」と「デバイスへのアクセス可能性」が最も重要な促進要因として挙げられた。

また、多くの回答者が「より正確な喘息診断」を在宅診断の主要な潜在的メリットとして挙げた。


結論

携帯型スパイロメトリーとFeNOを用いた在宅での喘息診断は、調査結果からはプライマリ・ケア医療従事者に概ね好意的に受け止められている。ただし、その実装には多面的な課題が存在する。成功のためには、在宅検査をどのように提供し、支援するかについて、システムレベルでの変化が必要となる。今後は、検査の実行可能性と精度を評価し、その後、臨床的有効性および費用対効果を評価する予定である。


感想

診断の場を在宅に移行しようという取り組みだと認識しました。デバイスのアクセスが過大なのですね。そりゃそうですが。

2026年9月20日日曜日

救急対応が稀な家庭医療診療所における救急チェックリスト

Higham H, Maloney A, Greig PR, Shawcross E, Harbord P, Warren R, Thomas J. Checklists for emergencies in general practice: participatory design of a quick reference handbook. BJGP Open. 2026. doi:10.3399/BJGPO.2025.0268. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0268


背景
家庭医療診療所における救急対応の機会は増加している一方、診療所のスタッフが救急事態に対応する機会は数か月に一度しかないこともある。チェックリストなどの認知支援ツールは、病院内の救急医療の質を向上させることが知られているが、既存のツールは家庭医療診療所での使用には十分適していない。


目的

家庭医療診療所で遭遇する頻度の高い救急事態を明らかにし、より安全な対応のために、診療所に特化したチェックリストを共同開発すること。


デザイン・セッティング

家庭医療診療所に特化した救急チェックリストを参加型デザインによって開発し、多職種からなる家庭医療チームが実際の臨床現場でその使いやすさを評価した。


方法

多職種の専門家グループが、混合研究法による参加型アプローチを用いて、優先的に対応すべき救急事態を選定し、GP Quick Reference Handbook(GP-QRH)のためのチェックリストを作成した。29の家庭医療診療所で実施した現場シミュレーションを通じて、チェックリストの内容、レイアウト、使いやすさを反復的に改善した。


結果

最終版のGP-QRHには、15種類の臨床的救急事態に対するチェックリスト、非臨床スタッフ向けのチェックリスト1種類、構造化された申し送りテンプレート、および救急対応後のデブリーフィングのためのガイダンスが含まれた。11の家庭医療診療所で最終版を試験したところ、評価は一貫して肯定的であり、シンプルなデザイン、明確な言葉遣い、エスカレーションを促す目立つプロンプト、そしてチェックリスト使用に関するチームトレーニングの重要性が強調された。


結論

本研究では、プライマリ・ケアに特化し、実際の利用者と共同で開発した、家庭医療診療所のための初のクイック・リファレンス・ハンドブック(QRH)を開発した。その効果を発揮するためには、一貫した使用、地域レベルでのリーダーシップ、GPネットワークによる普及への取り組みが必要である。今後は、さらなるユーザビリティ評価、臨床的効果の検証、チェックリストの追加開発が必要であるが、このGP-QRHは、英国および国際的な家庭医療診療所における救急医療と患者安全を向上させる可能性がある。

感想
実際のチェックリストはこちらからアクセスできます。
チェックリスト開発のために様々なステップを経ており、同様の研究をする際の参考になると思います。

2026年9月19日土曜日

漏斗胸レビュー

 Odeh NB, Khedr AE, Zeineddine RM, Senjab A, Farina JM, Jaroszewski DE. Diagnosis and Management of Pectus Excavatum in Primary Care. J Am Board Fam Med. 2026;39(1). doi:10.3122/jabfm.2025.250122R1. https://www.jabfm.org/content/39/1/157903


漏斗胸(pectus excavatum: PE)は、胸骨が内側に陥凹する先天性胸壁変形であり、最も頻度の高い胸壁変形です。重症例では心肺機能に影響し、日常生活や運動能力を低下させることがあります。にもかかわらず、漏斗胸は単なる美容上の問題であり治療を必要としないと考えられることがあります。

プライマリ・ケア医はPE患者を最初に診察することが多いため、漏斗胸の診断、評価、治療適応、専門医への紹介について理解しておくことが重要です。

漏斗胸患者の症状には大きな個人差があり、無症状の場合もあれば、軽度の労作時呼吸困難から失神まで認める場合があります。また、症状は加齢とともに進行することがあります。PEの手術後には、QOLだけでなく心肺機能も改善し得ることが報告されています。


感想

見た目の変形が強くなくても心臓圧迫から労作時呼吸困難、運動耐容能低下、胸痛、動悸、めまいなどを呈することがあるようです。心エコー正常でも全く除外できないとのこと。

大したことないと思わず、専門医に紹介すべき疾患であると認識しました。

2026年9月18日金曜日

ハイブリッド型バーチャル在宅医療

 Bravata DM, Perkins AJ, Schwartzkopf AL, Myers LJ, Zhang Y, Damush TM, et al. Evaluation of Hybrid-Virtual Home Visits for Comprehensive Geriatric Management: A Quality Improvement Project. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10580-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10580-7?utm_source=chatgpt.com


背景

高齢者に対する在宅訪問はアウトカムを改善することが知られている。しかし、高齢者に多い身体的・認知的・技術的な障壁や、人員不足などの施設側の制約によって、老年医学的な在宅医療プログラムの対象を拡大することには限界がある。


目的

ハイブリッド型のバーチャル在宅訪問モデル(TeleGRACE)の有効性を評価すること。


デザイン

傾向スコアによる重み付けを用いた観察コホート型の質改善(quality improvement)プロジェクト。


対象

米国退役軍人省(VA)の1施設において、入院または救急外来(ED)受診後の老年症候群を有する地域在住高齢者。


介入

患者宅にはtelehealth technicianが訪問し、看護師とソーシャルワーカーからなる老年医学チームが遠隔から参加するハイブリッド型の在宅訪問を実施した。


主な評価項目

TeleGRACEへの登録後90日および1年以内の、全死亡、ナーシングホームへの入所、再入院、救急外来受診。


主な結果

TeleGRACE群76人、通常ケア群319人を比較した。TeleGRACE群では、通常ケア群と比較して、90日以内にさまざまな臨床サービスを受ける割合が高かった。例えば、補助具の提供は78.7%対18.9%であった(p<0.001)。傾向スコアによる逆確率重み付け(IPW)解析では、1年間のナーシングホーム入所リスクはTeleGRACE群で低かった(HR 0.20、95% CI 0.07–0.53)。一方、ED受診リスクは90日(HR 1.32、95% CI 1.02–1.72)および1年(HR 1.28、95% CI 1.04–1.76)でTeleGRACE群の方が高かった。入院および死亡については、両群間に差は認められなかった。


結論

ハイリスクの地域在住高齢者に対して、ハイブリッド型の在宅訪問モデルは、ケアやアウトカムを改善する可能性がある。特にナーシングホームへの入所を減らす効果については、今後の研究による検証が必要である。


感想

この結果を受けての結論が「ケアやアウトカムを改善する可能性がある」は少し言い過ぎではないかという気がします。ただ、ED受診の回数が増えるのは、決してネガティブな結果ではないというのは、確かになぁと思うところではあります。こうやってちゃんと活動をpaperにするのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月17日木曜日

知的/発達障害者の予防医療の不公正

 Santra R, Pulukuri S, Sharma N. Inequities in preventive care for adults with intellectual and/or developmental disability in the USA: a narrative review. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10807-7. https://doi.org/10.1007/s11606-026-10807-7


40代の女性姉妹を2人とも診療しているプライマリ・ケア医を想像してみたい。1人はDown症候群があり、もう1人にはない。Down症候群のない姉妹は、国内のガイドラインに従って子宮頸がん検診(Pap smear)を定期的に受けていた。一方、Down症候群のある姉妹については、「検査に容易には耐えられないだろう」という思い込みから、検診が繰り返し延期されていた。子宮頸がんのリスクを心配した姉妹は、障害のある人への診療を専門とする婦人科クリニックに妹を連れて行った。そこでは、写真を用いた説明や、慎重に配慮した抗不安薬の使用といった簡単な工夫が行われた。その結果、妹は推奨されていた時期から20年遅れて、初めてPap smearを受けることができた。幸いにも、HPVおよび子宮頸部異形成は陰性であった。この患者レベルでの実例は、集団レベルでも広く存在する問題、すなわち知的障害および/または発達障害(intellectual and/or developmental disabilities: IDD)を持つ人々における予防医療の不平等を示している。これまでの研究から、IDDのある人々では、ワクチン接種や、乳がん・子宮頸がん・大腸がんの検診といった一次予防・二次予防の実施率が、一般人口より低いことが示されている。しかし、こうした人々が予防医療を必要とする程度は一般人口と同等、あるいはそれ以上である。実際、これらのがんでは、より進行した段階で診断され、死亡率も高いことが報告されている。本ナラティブレビューでは、米国のIDD成人における予防医療の利用格差について検討し、患者、臨床医、医療システムという3つのレベルにおける障壁について記述する。さらに、代替的なスクリーニング方法や、医療提供モデルなど、アクセスを拡大するための可能な戦略について検討する。修正可能な障壁を認識し、それらに対処することは、この集団における予防可能な罹患および死亡を減らすために不可欠である。


感想

本文の要点は以下の通り。

IDDのある成人では、ワクチン接種や乳がん・子宮頸がん・大腸がん検診などの予防医療を受ける割合が、一般人口より明らかに低い。

その結果、IDDのある人では予防可能な疾患による死亡や、より進行した段階でのがん診断が多い。乳がん・大腸がんでは、診断時に転移している割合やがん死亡率も高い。

障壁は患者側だけではない。感覚過敏、コミュニケーション困難、移動・費用・介護者の負担に加え、医療者の知識不足や「この患者には検査は難しいだろう」という思い込みが、予防医療へのアクセスを妨げている。

対策として、写真や絵を使った説明、長めの診療時間、静かな環境、鎮静など、患者に合わせた合理的配慮が重要。標準的な検査が困難な場合には、FIT、乳房超音波、スペキュラムを使わないPap smearなどの代替手段も検討できる。ただし、代替検査は感度・特異度を犠牲にする場合があり、標準検査が本当に困難な場合に限定して考えるべきとされている。

医療者側では、IDDに関する教育を医学教育・研修医教育に組み込み、障害者差別や診断の思い込みを減らす必要がある。同時に、IDD診療に必要な追加時間・労力に見合う診療報酬など、制度的支援も必要。

個々の医師の努力だけでは限界があり、IDDを対象とした定期的な包括的健康チェックを制度化することが有効な可能性がある。カナダや英国では、標準化されたannual health checkによって、がん検診や慢性疾患スクリーニングの実施率が改善している。

さらに、在宅プライマリ・ケア、地域での予防医療、個別化された予防接種環境など、患者が医療システムに合わせるのではなく、医療システムを患者に合わせるモデルが紹介されている。


制度面を改革する必要があります。最近成人のDown syndromの方のフォローが増えたのですが、採血一つとってもなかなか大変だと痛感しております。

2026年9月16日水曜日

コミュニティハブのケアの効果

 Bailey JE, Ogunsanmi DO, Mahmud S, Kabir UY, Boykins AM, Butterworth SW, et al. The Neighborhood Health Hub Model: Extending Primary Care into Medically Underserved Neighborhoods to Improve Health Equity. J Gen Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.1007/s11606-026-10764-1. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10764-1


背景

医療サービスが十分に行き届いていない地域(medically underserved neighborhoods)にプライマリ・ケアを拡張するために、health coachを配置することの実現可能性については、十分な研究がなされていない。


目的

重要な予防医療サービスを住民が便利に利用できるようにする、革新的で、患者中心で、場所を基盤とした(place-based)、近隣地域レベル(neighborhood-level)で提供するアプローチである「Neighborhood Health Hub Model」を実施した初期経験を評価すること。


セッティング

米国テネシー州メンフィス/シェルビー郡。


参加者

2022年1月から2024年6月までにNeighborhood Health Hubの施設を利用した成人。


プログラムの概要

Health Hubには、地域から採用されたlay health coachが配置され、動機づけ面接の訓練を受け、遠隔医療で接続された医療専門職の監督を受けた。

提供されたサービスには以下が含まれた。

肥満、高血圧、糖尿病、社会的決定要因のスクリーニング

慢性疾患管理のための個別およびグループでのhealth coaching

医療、行動・心理面、社会的ニーズに対する紹介


プログラム評価

合計1,252人の利用者がサービスを受け、そのうち1,151人がhealth coachingを受けた。383人(31%)は2回以上のcoaching sessionに参加し、合計3,367回のcoaching sessionと2,951回のgroup visitが実施された。

肥満のある利用者では、平均体重変化は−3.32ポンド(95% CI −5.72~−0.92)であった。

高血圧のある利用者では、収縮期血圧の平均変化は−15.17 mmHg(95% CI −19.64~−10.69)であった。

また、health coachingのセッション数が多いほど、体重減少が大きいことと有意に関連していた。


考察

Neighborhood Health Hub Modelを広く普及させることで、全米のhealth equityの改善につながる可能性がある。


感想

改善したというだけでは、平均への回帰(使い方あってるかなぁ。数字が悪い人がHubに行くから何もしなくても再度計測すれば少し良くなって見える)ではという気もしますが、セッション数に依存して体重が減少することも示しているので、確かに効果あるのだなとわかります。費用対効果を知りたいところですね。普通に家庭医かNPが一人いればOK、ではないことを知りたいと思いました。

2026年9月15日火曜日

電子カルテをデザインするだけでは不十分

 Owens-Jasey C, Gunn R, Cook N, Fein HL, Pisciotta M, Fee C, et al. Community Health Center Adoption of Enabling Technologies to Address Contextual Drivers of Health for Care-Managed Patients: Formative Evaluation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 10. doi:10.1007/s11606-026-10735-6. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10735-6


背景

ケアマネジメント・プログラムでは、食料、住居、交通など、健康に影響を与えるcontextual driversに対応するための新たな戦略が検討されている。電子カルテ(EHR)を基盤としたケアマネジメントツールは、こうした要因のスクリーニングや、特定されたニーズへの対応のための紹介を支援することができる。しかし、地域医療センター(community health centers: CHCs)のケアマネジャーが、このような支援技術をどのように導入し、活用することができるのかについては、十分に明らかになっていない。


目的

CHCのケアマネジメント担当者が、患者のcontextual driversに対応するために、統合型モジュールを含むEHRツールを現在どのように利用しているかを明らかにすること。得られた結果を、こうしたツールの導入を促進するための実装戦略の開発に活用することを目的とした。開発された戦略は、今後、試行・改良された後、無作為化試験で評価される予定である。


研究デザイン

人間中心設計の原則に基づく形成的評価


参加者

複数州にまたがるヘルスセンター・ネットワークから、ケアマネジメント担当者11名および専門家5名。


アプローチ

半構造化インタビューを実施し、その後、rapid qualitative analysisを用いて、EHRツールを利用してcontextual driversに関連するケアを調整する際の、文脈的要因、障壁、実装戦略について検討した。


主な結果

一部のEHR機能(例えば、スクリーニング用フローシートやアラート)は、スクリーニング結果の記録に利用されていた。

一方、contextual driversに関連するケアの調整にケアマネジメント・モジュールを利用する際には、いくつかの課題があった。例えば、紹介内容を記録するための構造化された入力欄がEHRにないなど、EHRツール自体の限界があった。また、患者を適切なサービスへ紹介し、その後のフォローアップを行うための十分なトレーニングも不足していた。

参加者は、こうしたツールを効果的に活用するためには、組織のリーダーシップによる支援、実践的なトレーニング、そしてヘルスセンターが提供するサービスやケアマネジメントに対する報酬要件に合わせたケアプランのカスタマイズが必要であると強調した。


結論

EHRを用いたケアマネジメントツールには、contextual driversに関連するケアの調整を支援する可能性がある。しかし現在は、こうしたツールを効果的に利用することを妨げる障壁が存在している。対象を絞った実装支援によって、これらの障壁を取り除き、ツールの導入・活用を促進できる可能性がある。


感想

カルテのシステムを作るだけではダメとのことですね。最終的にはそれができる人を育成する必要があります。

2026年9月14日月曜日

関節リウマチ(JAMA review)

 Smolen JS, Kerschbaumer A, Aletaha D, Robinson WH. Rheumatoid Arthritis in Adults: A Review. JAMA. 2026 Sep 10. doi: 10.1001/jama.2026.15455. 


重要性

関節リウマチ(RA)は、軟骨および隣接する骨に炎症と破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患であり、不可逆的な身体障害につながる可能性がある。関節リウマチは世界の成人の0.53%、米国成人の0.74%にみられる。


観察

関節リウマチは男性より女性に多く、男女比は約2:1であり、発症のピークは55~75歳である。RAはすべての滑膜関節に生じる可能性があり、関節外病変としてリウマチ結節、血管炎、リウマチ肺疾患などを認めることがある。

診断時には、約40~60%の患者で自己抗体(リウマトイド因子および/または抗シトルリン化ペプチド抗体)が認められる。RAには正式な診断基準は存在せず、臨床経過、近位指節間関節・中手指節関節・手関節などの特徴的な関節腫脹、自己抗体の存在、C反応性蛋白(CRP)上昇などをもとに診断する。

早期診断、理想的には症状発現から6週間以内に診断することで、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)による治療を速やかに開始でき、炎症を抑制して関節破壊のリスクを低下させることができる。

治療目標は、3か月までに疾患活動性を少なくとも50%改善させ、6か月までに寛解または低疾患活動性を達成することであり、Clinical Disease Activity Index(CDAI)などの妥当性が確認された指標を用いて評価する。

European Alliance of Associations for Rheumatology(EULAR)は、メトトレキサートを開始し、7.5~10 mg/週から4~8週間かけて20~25 mg/週まで増量することを推奨している。また、短期間の糖質コルチコイド(例:プレドニゾン5~7.5 mg/日)を追加し、3か月以内に漸減・中止すること、あるいはデポ型メチルプレドニゾロン80~160 mgの筋肉内投与を検討することを推奨している。

メトトレキサートが禁忌の場合には、スルファサラジン(2~4 g/日)またはレフルノミド(20 mg/日)が推奨される。

治療により、新たに診断されたRA患者の約40%が6か月以内にCDAI寛解を達成する。初回DMARD治療で寛解に至らない患者には、生物学的DMARD(腫瘍壊死因子α阻害薬、共刺激阻害薬、インターロイキン6受容体阻害薬、B細胞を標的とする抗CD20薬など)、または血栓塞栓症、心血管疾患、悪性腫瘍のリスクが高くない患者ではJAK阻害薬を追加する。これにより、寛解または低疾患活動性を達成する患者の割合は全体で約80%まで上昇する。


結論と関連性

関節リウマチは関節破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患である。初期治療の第一選択薬はメトトレキサートであり、糖質コルチコイドの追加を検討する。初期治療で寛解に至らない患者では、生物学的DMARDまたはJAK阻害薬を追加することで、寛解または低疾患活動性を達成する割合は約80%に上昇する。


感想

つい最近、抗体陰性だけどどう考えてもRAという方を専門家に紹介しました。やはりRAとして治療が開始されていました。

RAでは自己抗体が存在する患者は約40~60%で、CRP陰性でも否定できないとのことで、このレビューでは、特定の検査に依存せず臨床的に炎症性関節炎を捉えなさいと主張しています。

専門家はエコーをよく使っていますよね。初期病変の描出に優れており、多疾患との鑑別にも有用だと理解していますが、本レビューでもEULARでも、エコーでの異常所見は必須ではなく、あくまで臨床判断だということになっています。とはいえ、エコーは診断だけでなくマネジメントにも有用であるとのことです。http://www.elsevier.es/en/linksolver/pdf/pii/S1699-258X(16)30106-1


MTXがキードラッグなのは言うまでもなく、

MTXが使えない(禁忌・早期忍容性不良)ならスルファサラジンorレフルノミド

MTXは使えるが治療目標未達ならbiologic DMARDまたはJAK inhibitorを追加

という整理がなされています。

日本リウマチ学会の診療ガイドラインhttps://academic.oup.com/mr/article/29/1/31/6299805?utm_source=chatgpt.com&login=false によると、妊娠、MTX過敏症、重症感染症、重度の血液・肝・腎・呼吸器障害などが禁忌で、さらに日本人の多くは16mg/wに耐えられないとのことです。


私の診療圏だと、近くにリウマチセンターがあるので、疑えば紹介、少なくとも治療の導入はお願いする、というのが多いです。

一方、特にADLの低下した高齢者や在宅患者で、移動の制限等で紹介できず自分で治療を開始せざるを得ない場合があり、必然的に複雑事例のマネジメントを行わなくてはならないということがあります。close follow-upで少量ずつ薬を試すしかないですし、一般的なケースとは治療による達成目標が変わる点を注意しています。

2026年9月13日日曜日

正常結果を患者が受け止める際の医師の有能さと温かさ

 Kube T, Seewald A. Influence of Physician Behaviors on How Patients Interpret Normal Test Results. Ann Fam Med. 2026 Sep;250671. doi:10.1370/afm.250671. https://www.annfammed.org/content/early/2026/08/21/afm.250671


目的

「重大な問題はありません」と患者を安心させることは、家庭医療において最も一般的な介入の一つである。しかし、医学的な安心づけがうまく機能しないこともあり、その際に医師の行動がどのような役割を果たすのかは、まだ明らかではない。本研究では、医師の「温かさ(warmth)」と「能力(competence)」が、診断検査で正常な結果が示された際の患者の反応に、それぞれ独立して有意な影響を与えるという、事前登録された仮説を検証した。


方法

中程度の身体症状負担を報告したオンラインの便宜的サンプル(N=349、平均年齢29.9歳、女性79%)を対象に、実験的アナログ研究を実施した。参加者はまず症状に関するビネットを提示され、その後、医師が診断検査の結果を説明する場面を撮影した動画を視聴した。医師は「異常は確認されなかった」と説明した。診断情報そのものはすべて同一とした一方で、医師の行動については、温かさ(高 vs 低)と能力(高 vs 低)が異なるように操作した。


結果

医師が高い温かさと高い能力を示した場合、参加者は「重大な疾患である可能性」を有意に低く評価した。さらに、高い温かさと能力は、「別の医師の意見を聞きたい」「追加の検査を受けたい」という希望が低下するなど、その他のアウトカムの改善にもつながった。媒介分析では、温かさと能力の効果は、参加者が診断情報をどの程度、認知的に価値づける(あるいは価値を下げる)かによって調整されることが示された。


結論

患者にとって、診断情報はそれ自体だけで意味を持つわけではない。医師の行動が、患者がその情報をどのように受け止め、統合するかを決定するうえで重要な役割を果たしている。高い温かさと能力を示すことは、患者が医師を信頼し、それに応じて自身の病気に対する認識を適切に更新することを助ける可能性がある。


感想

面白いテーマで、研究デザインは発想としては自然ですね。

primary outcomeである、「重大な疾患である可能性」をみても、医師の能力でCohen's d=0.439、温かさでCohen's d=0.281であり、相乗効果は見られておりません。「優しい医師」であることより、「有能で信頼できそうな医師」であることの方が、正常検査結果を受け入れることに強く影響したということですね。その他のアウトカムを診ると、温かさは貫して患者の反応に影響しており、有能さは特に「診断情報を信頼する」「追加検査を求めない」に強く影響しています。

媒介変数としてCognitive immunization(自分の病気に関する元々の信念と矛盾する診断情報を、価値の低い情報として退ける傾向)を仮定、つまり、正常検査結果→でもこの検査は信用できないのでは?→正常結果を受け入れない、というパスを仮定し、Cognitive Immunization against Medical Reassurance scaleというスケールで測定しています。媒介分析で、有能さと温かさのどちらにおいても媒介が有意に検出されています。

その他、実際に患者の知覚した有能さ、温かさでの分析(温かく見える医師は有能にも見えてしまうというspilloverが観測されています。これは結果の解釈において重要な点)をしたり、ベイズ解析を行ったりしており、統計解析をかなりrobustに行っています。AFMに採用されるpaperはここまでするのだなととても参考になりました。

2026年9月12日土曜日

持続血糖モニタリングの医療格差

 Milosavljevic J, Schechter C, Fazzari M, Mathias P, Mathew J, Agarwal S. Inequity in continuous glucose monitor (CGM) prescribing behaviors in primary care. J Gen Intern Med. 2026 Jan 13. doi:10.1007/s11606-025-09923-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-025-09923-7


背景

持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM)は糖尿病管理の標準的な治療手段となっているが、糖尿病患者の大部分を診療するプライマリ・ケアにおいて、その導入は依然として限定的である。プライマリ・ケアにおけるCGM処方に関連する要因を検討することで、糖尿病診療全体の健康アウトカムを改善するための新たな介入標的を特定できる可能性がある。


目的

11,000人以上のインスリン治療中2型糖尿病患者を診療するセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、プライマリ・ケア医(PCP)によるCGM処方に関連する要因を明らかにすること。


方法

後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、ニューヨーク州ブロンクスのセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、2020年7月31日から2023年7月31日の間に少なくとも1回プライマリ・ケアを受診した、インスリン治療中の2型糖尿病成人患者とした。主要アウトカムは、PCPによる初回CGM処方とした。多変量解析には原因別Cox回帰を用い、死亡および内分泌科によるCGM処方を打ち切りイベントとして扱った。


結果

インスリン治療中の患者11,037人(平均年齢61±14歳、女性56%、ヒスパニック系44%、非ヒスパニック系黒人39%)のうち、17%がプライマリ・ケアで初回CGM処方を受けた。月あたりの新規CGM処方率の中央値は3.1%(2.8–3.3%)であった。高齢患者、スペイン語話者、公的医療保険加入者では、CGMが処方される可能性が低かった。一方、HbA1c値が高い患者、より強化されたインスリン治療を受けている患者、および診療経験年数の長い医療者から診療を受けている患者では、人種・民族にかかわらずCGMが処方される可能性が高かった。


結論

プライマリ・ケアにおけるCGM処方率は依然として低く、若年、英語話者、民間医療保険加入者、および経験年数の長い医療者による診療を受ける患者に有利な不公平が認められた。CGM処方を増加させるためには、診療ワークフローの効率化、言語や年齢に応じたトレーニング支援、研修医教育における課題に取り組む必要がある。CGM処方における不公平に対処することは、プライマリ・ケアにおける糖尿病診療の質を高め、十分な医療を受けにくい糖尿病患者におけるアウトカムの格差が連鎖することを防ぐための重要な第一歩である。


感想

CGMは格差を助長するのではないかと疑問に思っており、自分で小規模な研究をしようかなと思っていたのですが、大規模な研究が出ましたね。どうやったら必要な患者に必要なケアが届くかという命題は常に考えなければなりません。

2026年9月11日金曜日

素敵なケースレポート

 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.70177


とても素晴らしいケア実践のケースレポート。こういうことができる家庭医になりたい。
おそらく、この患者さんがやってきた→外来担当医が勉強してケアを実践、という時系列だと思うんですよね。目の前にいる患者が自分の専門である、という家庭医の本懐を体現しています。素敵。

再発性尿路感染が患者生活に与える影響

 Glogowska M, Moore M, Hay AD, Butler CC, Hayward G. The impact of recurrent urinary tract infections in women: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 May 14:BJGP.2025.0699. doi:10.3399/BJGP.2025.0699. https://bjgp.org/content/early/2026/09/06/BJGP.2025.0699


背景

多くの女性が再発性尿路感染症(recurrent urinary tract infection: rUTI)を経験しているが、罹患した女性にとってrUTIがどのような意味を持つのかについては、十分に記述・理解されていない。


目的

女性が経験するrUTIと、それが女性の生活に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。


研究デザイン・設定

臨床的にrUTIと定義された女性を対象とした、D-マンノースに関する英国のRCTに組み込まれた質的研究。


方法

RCTに参加した32人の女性を対象に、半構造化電話インタビューを実施した。インタビューは録音し、逐語的に文字起こしした。データはテーマ分析によって分析した。


結果

女性たちは、rUTIの経験が身体的に苦痛で消耗させる症状をもたらすだけでなく、生活全般にも広範な支障を及ぼす負担の大きい経験であると語った。rUTIは人生のさまざまな段階に影響を及ぼしており、その影響には2つの側面が認められた。

内在化された影響(internalised impact)には、rUTIに対する感情的な反応、再発への恐怖、そして再発に対処できるよう常に備えておくことが含まれていた。

外在化された影響(externalised impact)には、再発を極めて警戒すること、再発が疑われるとすぐに医療機関に助けを求めること、そしてその過程で直面するさまざまな困難が含まれていた。

また、女性たちは、医療者(HCP)に相談した際の医療者側の対応が、その後の受診行動や自己評価に影響し、ときには無力感につながることを説明した。


結論

rUTIを経験することで、女性たちは自身の状態に対して警戒し、積極的に対処するようになっていた。しかし、そのような女性自身の理解や対応力が、医療者からの理解や承認によって必ずしも支えられているわけではなかった。rUTIを経験している女性が医療機関を受診した際には、臨床医はrUTIそのものだけでなく、女性が経験しているより広範な影響、すなわち内在化された影響と外在化された影響の双方を考慮することが有用である。


感想

8/17に紹介したBJGPOの再発性尿路感染症の研究と類似していますが、こちらは尿路感染が引き起こす生活全般の影響について探索しています。RCT研究と同時に行われた質的研究ですね。家庭医にとって重要なテーマだと思います。

2026年9月10日木曜日

アルコール使用障害入院患者を外来につなげる

 Bernstein EY, Hills-Dunlap K, Challapalli A, Bero L, Calcaterra SL, et al. Interventions to improve outpatient follow-up for hospitalized patients with alcohol use disorder: a systematic review. Ann Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.7326/ANNALS-26-01312. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-26-01312


背景

アルコール使用障害(alcohol use disorder: AUD)による入院は多く、重大な健康上の問題と関連している。退院後の外来フォローアップは重要であるが、入院中にどのような介入を行えば、退院後に外来治療へつなげられるのかについては明らかになっていない。


目的

AUDで入院した患者に対して、退院後の外来フォローアップを改善することを目的として、病院で実施される介入の有効性を評価すること。


情報源

複数の電子データベースを検索し、AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための介入を評価した研究を検索した。


研究選択

AUDによる入院後の外来フォローアップを改善することを目的とした、病院ベースの介入を評価した研究を対象とした。


データ抽出・統合

研究の特徴、介入内容、比較対象、フォローアップのアウトカムおよび研究の限界についてデータを抽出した。介入内容とアウトカムには大きな異質性が認められたため、結果を定量的に統合することには限界があった。


結果

17研究、合計12,000人以上の患者を対象とし、21種類の介入を評価した。17研究のうち、12研究はランダム化比較試験、3研究は非ランダム化試験、2研究はコホート研究であった。

介入の多くは、複数の要素を組み合わせたものであり、例えば、

行動カウンセリング

ケア・コーディネーション

AUDに対する薬物療法

社会的支援

電話による退院後のフォローアップ

予約のリマインダー

外来医療へのナビゲーション

などが含まれていた。

21種類の介入のうち、8種類では退院後の外来治療へのフォローアップを改善する効果が認められた。一方で、研究間で介入内容や評価方法が大きく異なっており、効果の大きさも一貫していなかった。

また、ランダム化比較試験の12研究のうち10研究は、バイアスのリスクが高いと評価された。全体として、エビデンスの確実性は非常に低かった。


限界

研究間で、対象患者、介入内容、アウトカムの定義、研究方法が大きく異なっていた。また、多くの研究でバイアスのリスクが高く、どの介入が最も有効なのかを明確に判断することは困難であった。


結論

AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための病院ベースの介入については、現在のエビデンスは限定的である。いくつかの介入では外来治療へのつながりを改善する可能性が示されたものの、研究間の異質性が大きく、エビデンスの確実性も非常に低かった。今後は、どのような介入の構成要素が退院後の外来治療への移行を効果的に促進するのかを明らかにするため、より大規模で質の高い臨床試験が必要である。


感想

効果の合った介入をまとめると、退院時に単に『外来へ紹介する』だけでは不十分で、患者の動機づけ・家族/peer支援・薬物療法と、退院後の具体的なケアコーディネーションを組み合わせることで、外来治療への接続が改善する可能性がある、と結論できそうです。単独では効果が立証されていないものが多く、組み合わせないといけないようですね。手間暇がかかります。

2026年9月9日水曜日

肺がん検診を促すシステム

 Wernli KJ, Anderson ML, Palazzo L, Luce C, Bezman N, Rogers K, et al. Health communication and stepped reminders interventions for lung cancer screening: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2026 Aug 10. doi:10.1001/jamainternmed.2026.3666. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2852476


Key Points

問い:複数のレベルに存在する障壁に対処する介入によって、毎年の肺がん検診の受診率は改善するのか?


知見:1,837人を対象としたランダム化臨床試験において、shared decision-makingに加えて健康情報を提供する介入を行っても、肺がん検診の継続受診率は改善しなかった。

一方、プライマリ・ケア医と患者の双方を対象としたシステムレベルのリマインダーによって、肺がん検診の受診率は向上した。特に、現在喫煙している患者でその効果が大きかった。


意味:プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムでは、適切なタイミングで、

プライマリ・ケア医には「低線量CTをオーダーするよう」リマインドする

患者には「低線量CTを予約するよう」リマインドする

という多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効だった。


重要性

米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force: USPSTF)は10年以上にわたり、毎年の肺がん検診を推奨している。しかし、毎年の検診を継続して受ける割合は依然として低い。


目的

ガイドラインに沿った毎年の肺がん検診の継続受診率を高めるため、患者中心の多層的な介入を2種類実施し、その効果を検証すること。


研究デザイン、実施場所、対象者

Kaiser Permanente Washingtonにおいて、プラグマティックな2×2要因ランダム化臨床試験を実施した。

2022年11月21日から2024年4月5日までに、肺がん検診を受け、画像上正常所見であった患者を対象とした。最終フォローアップ日は2025年7月4日であった。データ解析は2025年7月から12月に行われた。


介入

4群を設定した。

通常診療群

Health Communication群

Stepped Reminders群

両方の介入を行う群


Health Communication介入では、印刷物および動画による情報提供を行い、患者が肺がん検診について十分な知識を持っていないことによる障壁に対応した。

Stepped Reminders介入では、プライマリ・ケア医が肺がん検診の画像検査をオーダーできるようにするとともに、患者に検査の予約を促すアウトリーチを行った。

両方の介入は、電子健康記録のレジストリを利用するシステムレベルの肺がん検診コーディネーターによって実施された。


主要評価項目

主要評価項目は、基準となる低線量CT検査の9~15か月後に、肺がん検診として低線量CT検査または胸部CTを完了したかどうかであった。

毎年の検診対象となったすべての参加者をmodified intention-to-treat解析に含めた。肺がんと診断された場合、死亡した場合、予定より早くLDCTまたは胸部CTを受けた場合、または健康保険から脱退した場合には、その時点で追跡を打ち切った。


結果

1,837人が試験に参加した。平均年齢は66.3歳(SD 6.5)で、897人(48.8%)が女性、940人(51.2%)が男性であった。現在喫煙していた人は875人(47.6%)であった。

参加者は、

通常診療群:459人

Health Communication群:460人

Stepped Reminders群:460人

両介入群:458人

に無作為に割り付けられた。


年間肺がん検診の受診率は、Health Communication介入を受けた群では59.2%(804人中476人)であり、介入を受けなかった群の63.3%(815人中516人)より4.7ポイント低かった。相対リスクは0.93(95% CI, 0.86–1.00、P=0.04)であり、Health Communication介入による受診率の改善は認められなかった。

一方、Stepped Reminders介入を受けた群の年間検診受診率は75.5%(800人中604人)で、介入を受けなかった群の47.4%(819人中388人)より27.7ポイント高かった。相対リスクは1.59(95% CI, 1.47–1.72、P<0.001)であった。


さらに、Stepped Remindersの効果は現在喫煙している患者で特に大きかった。

現在喫煙者:介入あり73.0% vs 介入なし41.2% リスク差:32.3ポイント(95% CI, 25.9–38.8)

過去喫煙者:介入あり77.8% vs 介入なし52.9% リスク差:24.1ポイント(95% CI, 18.1–30.0)

この効果の違いは統計学的にも有意であった(P for interaction=0.03)。


結論・意義

このランダム化臨床試験では、適切なタイミングで、PCPにはLDCTをオーダーするよう、患者には検査を予約するよう促す多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効であった。

特に、プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムにおいて、このような介入は有効である可能性が示された。


感想

患者要因だけではなく医療者要因にも介入することの有用性を示した研究だと思います。