2026年10月13日火曜日

がんワクチン(JAMA review)

 Disis ML, Chun BMN, Dhillon KK, Liao JB, Hunter N, Cecil DL. Vaccines for cancer: a translational science review. JAMA. Published online September 21, 2026. doi:10.1001/jama.2026.15540. https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2854262


重要性

腫瘍免疫学とワクチン技術の進歩により、長年にわたって臨床的な成功が限られていたがんワクチンの開発は、大きく変化しつつある。免疫原性を有する腫瘍タンパク質、すなわち抗原が2,000種類以上同定され、腫瘍を排除するために必要な免疫応答の種類が明らかになり、安全かつ有効なワクチン送達技術も開発されてきた。こうした進歩により、さまざまながんを対象としたがんワクチンの臨床研究が再び活発化している。


観察

ヒトパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎ウイルスに対するワクチンなど、ワクチンは主に以下の3つの要素から構成される。

1. 抗原標的:免疫応答の標的となるもの

2. アジュバント:免疫系を活性化するもの

3. ワクチン送達媒体:抗原などを体内に届けるもの

抗原には、腫瘍の遺伝子変異に由来するネオアンチゲンと、がんに関連する非変異タンパク質がある。後者は、正常なヒトのタンパク質でありながら、がんにおいて異常に発現しているものである。

また、腫瘍そのものを抗原源として利用する方法もある。例えば、腫瘍細胞全体を用いて免疫する方法や、免疫原性物質を腫瘍内に直接注入し、適応免疫応答を誘導する方法がある。

がんワクチンは、獲得免疫を担うTリンパ球およびBリンパ球を刺激することで、がんに対する高い特異性と持続性を備えた免疫応答を誘導できる。適応免疫を誘導するがんワクチンの中には、すでにがん治療薬として承認されているものもある。

前立腺酸性ホスファターゼを標的とするワクチンであるsipuleucel-Tは、転移性去勢抵抗性前立腺がんの男性患者において、プラセボと比較して全死亡リスクを低下させた(32%対23%、ハザード比0.78、95%信頼区間0.61–0.98、p=0.03)。

また、全身性免疫刺激薬である顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と比較して、talimogene laherparepvecを進行期メラノーマの病変内に注入した場合、6か月以上持続する完全奏効または部分奏効の割合が高かった。奏効率は16.3%(95%信頼区間12.1–20.5%)対2.1%(95%信頼区間0–4.5%)で、オッズ比は8.9、p<0.001であった。

ここで、完全奏効とは治療対象となったすべての病変が消失すること、部分奏効とは新たな病変が出現せず、測定可能病変の互いに垂直な径の積の総和が50%以上減少することと定義された。

がんワクチンの有害事象の多くは、倦怠感、発熱、注射部位反応など、軽度のものである。

がんワクチンを化学療法や免疫療法と組み合わせることで、免疫応答の強さが増し、腫瘍の縮小がさらに促進される可能性がある。

個別化された変異ベースのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(mRNA-4157)と免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブを併用した研究では、切除後の高リスクステージIIIB~IV皮膚メラノーマ患者において、ペムブロリズマブ単独と比較して無再発生存率が改善した(76.6%対60%、ハザード比0.56、95%信頼区間0.31–1.02、p=0.05)。

現在、がんワクチンは、がんの再発予防および一次予防を目的とした臨床試験でも評価されている。


結論と意義

がんワクチンは、メラノーマ、前立腺がん、膀胱がんなど、複数の悪性腫瘍の治療に使用できる。がんワクチンに関連する有害事象は、一般に軽度で持続期間も短い。そのため、今後、化学療法や免疫療法を含む治療レジメンに組み込まれていく可能性がある。

さらに、がんワクチンは、がんの一次予防を目的とした研究でも、ますます評価されるようになっている。


感想

この分野については全く知らなかったのでとても勉強になりました。どんどん進歩しているのですね。

2026年10月12日月曜日

多様なジェンダーの患者の骨盤痛

 Chona R, Sabbah SG, Englesakis M, Di Renna T, Drodge O, Rosenbloom BN, et al. Chronic pelvic and related genital pain in transgender and gender-diverse people: a scoping review. EClinicalMedicine. 2026 Oct;101:104252. doi: 10.1016/j.eclinm.2026.104252.


背景

慢性骨盤痛(chronic pelvic pain:CPP)および関連する性器痛は、トランスジェンダーおよびジェンダー・ダイバース(transgender and gender-diverse:TGD)の人々において、生活に支障をきたす多面的な問題であるが、これまで十分に研究されてこなかった。


方法

本スコーピングレビューでは、ホルモン療法(gender-affirming hormone therapy:GAHT)、手術、コミュニティという各文脈において、慢性骨盤痛の有病率、病因、評価方法、管理に関するエビデンスを整理した。Joanna Briggs Instituteの方法論およびPRISMA-ScRに従い、データベースの収載開始時点から2025年7月30日まで、10種類のデータベースを検索した。さらに、引用文献をたどる追加検索を行った。慢性骨盤痛については、3か月以上持続または反復する骨盤痛と定義し、より広い慢性疼痛の枠組みにおける関連する骨盤痛・性器痛も対象に含めた。研究計画はOpen Science Framework(OSF)に事前登録された。2名のレビュー担当者が、文献のスクリーニングと公表データの抽出を独立して実施した。


結果

24報の文献が採択され、23の独立したコホート、計5,527人のTGDの参加者が含まれた。

期間を明確に定義した慢性骨盤痛の有病率を推定していた研究は1件のみであり、出生時に女性と割り当てられたTGDの成人において17.7%と報告されていた。

より広義の骨盤痛・性器痛については、5件の研究で有病率が9.6~72.2%と報告されていた。ただし、これらの数値を、期間が定義された慢性骨盤痛の有病率として解釈すべきではない。


原因や関連要因として、相互に重複し得る以下の4領域が特定された。

1. ホルモンおよび組織を介した要因

2. 骨盤底および筋骨格系の要因

3. 手術および解剖学的要因

4. 心理社会的要因およびトラウマに関連する要因


評価方法や診断までの経路には大きなばらつきがあった。

治療・管理に関するエビデンスは非常に限られており、そのほとんどが観察研究、プログラムの監査報告、症例報告に由来していた。介入を評価したランダム化比較試験は、短期間のものが1件のみであった。


解釈

本レビューの結果は、ジェンダー・アイデンティティを肯定し、多職種が連携して評価するアプローチの必要性を支持している。同時に、慢性骨盤痛の標準化された定義、TGDの人々に特化した妥当性の確認された患者報告アウトカム尺度、前向きコホート研究、十分な検出力を備えた介入試験の必要性が明らかになった。


感想

確かに重要なリサーチテーマだと思います。あまり考えたことのなかった臨床問題だったので、これから気を付けて診察します。

2026年10月11日日曜日

デエビゴは股関節骨折リスクが低いといえそう

 Matsuo Y, Yamana H, Sasabuchi Y, Matsui H, Kohro T, Yasunaga H. Hip fracture risk of lemborexant and suvorexant in comparison with Z-drugs: a target trial emulation. J Am Geriatr Soc. 2026 Oct 8. doi: 10.1111/jgs.70754.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.70754


背景

レンボレキサントとスボレキサントは、不眠症の薬物療法に広く使用されているデュアルオレキシン受容体拮抗薬(dual orexin receptor antagonists:DORA)である。これらの薬剤は、股関節骨折を含む有害事象に関して、一般にベンゾジアゼピン受容体作動薬(Z-drugs)より安全と考えられている。しかし、両者を直接比較したエビデンスは限られている。本研究では、高齢者において、レンボレキサントおよびスボレキサントがZ-drugsと比較して股関節骨折リスクの低下と関連するかを検討した。


方法

栃木県のデータベースを用いたコホート研究を実施した。対象は65歳以上で、レンボレキサントまたはZ-drugsを新規に開始した患者(レンボレキサント解析コホート)、あるいはスボレキサントまたはZ-drugsを新規に開始した患者(スボレキサント解析コホート)とした。主要アウトカムは、コホートへの登録後1年以内の股関節骨折による入院とした。割り付けられた薬剤を継続使用した場合の、per-protocol効果を推定した。ベースラインの交絡因子については、傾向スコアに基づく逆確率治療重み付けを用いて調整した。割り付けられた薬剤の中止、または比較対象薬への切り替えによる打ち切りについては、逆確率打ち切り重み付けを用いて調整した。調整後の累積発生率はKaplan–Meier法、ハザード比はCox回帰を用いて推定した。


結果

レンボレキサント解析コホートには22,655人が含まれ、レンボレキサント群が6,879人、Z-drugs群が15,776人であった。

調整後、レンボレキサントの使用は、股関節骨折発生率の有意な低下と関連していた(HR 0.31(95%信頼区間 0.16–0.59、p<0.001))。

スボレキサント解析コホートには22,377人が含まれ、スボレキサント群が6,699人、Z-drugs群が15,678人であった。

調整後、スボレキサント群では股関節骨折発生率が低い傾向を認めたものの、統計学的に有意な差ではなかった(HR 0.57(95%信頼区間 0.23–1.44、p=0.234))。


結論

DORAは、特にレンボレキサントについて、股関節骨折リスクの観点からZ-drugsより安全な代替薬となる可能性がある。


感想

レンボレキサント(デエビゴ)とスボレキサント(ベルソムラ)を直接比較しているわけではありませんが、デエビゴのほうに軍配が上がる結果ではありました。ビッグデータでこういうのが分かるのはいいですね。

2026年10月10日土曜日

スティグマを伴う言葉遣いのカルテ記載

 Caton J, Sun B, Steele N, Santiago C, Antara F, Hom J, Dougherty R. Hospital-Based Clinicians’ Knowledge and Practices Regarding Stigmatizing Language in Clinical Documentation: A Multicenter Survey. J Gen Intern Med. 2026 Oct 7. doi: 10.1007/s11606-026-10803-x.


背景 スティグマを伴う言葉遣いは医療記録に広くみられ、偏見を助長し、その後の臨床判断や患者ケアに影響を及ぼす可能性がある。内科の指導医、研修医、Advanced Practice Provider(APP)は、臨床記録を作成する最前線の医療者である。また、指導医とAPPには、研修医に適切な記録方法についてフィードバックや教育を行う役割もある。しかし、研修医、APP、指導医が、医療記録におけるスティグマを伴う言葉遣いに対応する準備ができているかは明らかでない。さらに、このような言葉遣いに関する医療者の知識、態度、行動についても、十分にわかっていない。


目的 臨床記録におけるスティグマを伴う言葉遣いについて、研修医、APP、指導医の経験、価値観、信念を明らかにすることを目的とした。


方法 横断的なオンライン調査と知識テストを実施した。


対象者 2つの大規模な大学内科部門に所属する内科研修医、指導医、APPを対象とした。


主要評価項目 知識テストでは、臨床記録の抜粋に含まれるスティグマを伴う言葉遣いを識別する能力を評価した。質問紙では、リッカート尺度による質問を用いて、言葉遣いに関する態度と、自分自身のスキルに対する認識を評価した。


結果 指導医・APP群から82人(指導医72人、APP 10人、回答率52%)、研修医群から63人(回答率21%)の回答を得た。

回答者のほぼ全員が、自分の言葉遣いが患者に与える影響を考慮していると回答した(指導医・APP群91%、74人;研修医群92%、58人)。また、他の医療者への影響を考慮していると回答した割合も高かった(指導医・APP群90%、73人;研修医群84%、53人)。

しかし、自分の臨床記録がスティグマを伴う言葉遣いを避けられていると自信を持っていたのは、指導医・APP群の10%(8人)、研修医群の24%(15人)にとどまった。 さらに、知識テストで評価された11個のスティグマを伴う用語をすべて正しく識別できたのは、指導医・APP群の4%(3人)、研修医群の3%(2人)だけであった。


結論 参加施設の指導医・APPと研修医は、患者中心の言葉遣いの重要性を認識している一方で、このテーマに関する知識やスキルが不足していた。この結果は、対象を絞った教育的介入と、システムレベルでの介入を今後開発する重要性を示している。


感想

カルテ記載内容を扱ったスティグマに関する研究。面白い着眼点です。

2026年10月9日金曜日

研修医はメンタルを病みやすいがあまり受診しない

 Syed S, Myran DT, Solmi M, Kobewka D, Yoo S, Gibb M, Spilg E, Kendall CE, Fleming N, Maniate JM, Tucker J, Hundemer GL, Colman I, Tanuseputro P, Sood MM. Mental Health Care Use Among Resident Physicians Compared with the General Population. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10843-3.


背景 医師では一般人口よりもメンタルヘルス上の問題が多いことが、これまでの調査から示唆されている。しかし、こうした問題が医師という職業特有の要因によるものなのか、それとも社会全体にみられる変化を反映したものなのかは明らかではない。特に、独特のストレスにさらされる研修医においてメンタルヘルス上の問題がより大きな影響を及ぼしているのか、また男女で違いがあるのかについては十分にわかっていない。本研究では、研修医におけるメンタルヘルス関連の医療機関受診を、非医師と比較し、さらに性別による違いを検討することを目的とした。


方法 2004年4月1日から2018年3月31日までを対象とした、性別で層別化した人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。研修医を、研修開始年、性別、年齢、都市・農村区分、所得五分位を用いて、非医師と1:5でマッチングした。主要評価項目は、5年間の研修期間中におけるメンタルヘルス関連の受診率とし、メンタルヘルス疾患を示す診断コードまたは請求コードが記録された場合を受診と定義した。


結果 研修医10,925人と、マッチングされた非医師54,625人を対象とした。研修医の平均年齢は27.2歳で、女性が5,941人(54.37%)、男性が4,984人(45.62%)であった。全体として、研修医の34.35%が研修期間中にメンタルヘルス関連の受診をしていたのに対し、非医師では36.13%であった。すべての群で不安症が最も一般的な診断であり、女性研修医ではメンタルヘルス関連受診の67.38%を占めた。

研修医の中では、女性は男性よりもメンタルヘルス関連受診のリスクが高かった(調整HR 1.44、95% CI 1.35–1.54)。一方、非医師と比較すると、女性研修医の受診率は女性非医師より低かった(39.71% vs 41.24%、調整HR 0.89、95% CI 0.85–0.93)。男性でも同様に、男性研修医は男性非医師より受診率が低かった(27.97% vs 30.03%、調整HR 0.81、95% CI 0.76–0.85)。


結論 研修医の3人に1人が研修期間中にメンタルヘルス関連の医療機関を受診していた。しかし、受診率は、背景因子をマッチさせた非医師よりも低かった。これは、医師のメンタルヘルスに関する懸念が持続しているにもかかわらず、研修医が必ずしも一般人口より積極的にメンタルヘルスケアを利用しているわけではないことを示している。女性研修医は男性研修医よりも受診率が高く、この点は一般人口における男女差と同様のパターンであった。


感想

重要な記述研究です。研修医はメンタルで病院を受診するのにハードルがあるのでしょう。

2026年10月8日木曜日

「QIを教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別

Disalvo D, Giannitrapani K, Lorenz K, Offner K, Roberts SJ, Puranam S, Mickelsen J, DeNatale M, Agar M. Fostering Locally Led Palliative Care Innovation: A Qualitative Evaluation of the SPHERE-Stanford Collaborative Quality Improvement Program. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10824-6.


背景 オーストラリアは質の高い緩和ケアで国際的に評価されている一方、緩和ケアへのアクセスの不均衡、サービスモデルのばらつき、医療人材への負担などが、安全で効果的かつ患者中心のケアを妨げている。質改善(QI)は、こうした課題に取り組むための実践的な方法となり得る。本研究では、地域におけるQI能力を構築するため、Sydney Partnership for Health, Education, Research and Enterprise(SPHERE)がStanford Medicineと連携し、オーストラリアの7つの緩和ケアサービスにエビデンスに基づくQIプログラムを導入した。


目的 SPHERE-Stanford Medicine Collaborative QI Programを通じてQIプロジェクトを実施した医療者の経験を評価し、プロジェクトの実施を成功させるうえでの障壁と促進要因を明らかにすることを目的とした。


参加者 7つの参加チームから、チームリーダー、チームメンバー、メンター、サービスディレクターを含む25人にインタビューを実施した。


方法 各チームは、オンラインワークショップ、2日間の対面集中研修、継続的なメンターによる支援を組み合わせた、6か月間の構造化されたQIカリキュラムを受講した。半構造化インタビューによって、QI能力の構築とQIプロジェクトの実施に関する経験を調査した。Consolidated Framework for Implementation Research(CFIR)を枠組みとして、質的内容分析を行い、実施の成功に影響する要因を特定した。


結果 プログラムによって、医療者のQIに関する知識と自信が向上し、各チームはサービス上の問題の根本原因を特定し、標的を絞った介入を設計できるようになった。その結果、緩和ケアへの紹介件数の増加、ケアの統合の向上、記録方法の一貫性の向上など、意味のある改善が得られた。多職種連携、強いチームの結束、そして継続的なメンタリングが、主要な促進要因であった。また、経営層からの支援と積極的なコミュニケーションが、関係者からの支持を促し、新しい実践の導入を支えた。

一方、サービスモデルの違い、限られた資源、医療者の離職・交代、連携先サービスにおける緩和ケアに対する認識不足が主要な障壁となった。それでも参加者は、本プログラムを継続的なQI活動のきっかけとなるものと捉えており、成果を他施設へ共有・拡大する機会も認識していた。


結論 本プログラムは、オーストラリアの緩和ケアサービスにおけるQI能力を強化し、公平性、アクセス、サービスの質を改善するために他の現場にも応用可能な解決策を生み出した。今後は、こうした取り組みを持続可能なものにするための支援、学習成果の普及、そして緩和ケア領域全体へのQI能力の拡大が必要である。


感想

「QI能力を個人に教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別の課題、ということですかね。

単なる研修内容ではなく、①多職種チームの結束、②継続的なメンタリング、③経営層の支持、④積極的なコミュニケーションが成功要因で、逆に、医療者の離職や資源不足が組織的障壁として挙がっています。

2026年10月7日水曜日

妊娠有害転帰の行動変容を健康の公正性の視点でみる

 Hodges VJ, Shareef S, Chew-Graham CA, Wu P, Adetola M, Mitchell C. Primary Care Cardiovascular Risk Reduction after Pregnancy Complications: A Qualitative Systematic Review. Br J Gen Pract. 2026 Jun 1;76(??):BJGP.2026.0110. doi: 10.3399/BJGP.2026.0110. PMID: 42225390.


背景 妊娠有害転帰(adverse pregnancy outcomes: APOs)は約30%の妊娠で生じ、その後の生涯にわたる心血管疾患(CVD)リスク上昇と関連する。行動変容を促す介入は、このリスクを軽減できる可能性がある。本研究では、APOsを経験した女性が、心血管リスクを低減するための行動変容をどのように経験しているのかについて、健康の公正性に焦点を当てて質的研究を系統的にレビューすることを目的とした。


方法 PubMed、Embase、CINAHLを開始時点から2025年3月まで検索し、APOs後の心血管リスク低減に向けた行動変容について女性の経験を扱った一次研究を抽出した。対象は、医療への普遍的アクセスが確保されている高所得国で実施された研究に限定した。ThomasとHardenによる3段階の方法を用いてテーマ統合を行い、抽出されたテーマをCOM-Bモデル(Capability、Opportunity、Motivation―Behaviour)に対応させ、理論的枠組みとして分析を構造化した。


結果 18研究、計339人の女性がレビューに含まれた。マイノリティ民族の女性が参加者の過半数を占めていた研究は2件のみであり、5研究では社会経済的状況、民族性、またはその両方に関する人口統計学的情報が欠如していた。行動変容を形成する経験は、COM-Bモデルの各領域と対応していた。

身体的・心理的な回復が遅れることは、女性が行動変容を開始する能力(Capability)を低下させていた。また、育児、家事、仕事などの複数の役割や責任が、長期的な心血管の健康に取り組むための機会(Opportunity)を制限していた。一方、行動変容を家族の日常生活に容易に組み込むことができ、家族全体にも利益がある場合には、その機会が広がっていた。動機づけ(Motivation)は、自分自身のCVDリスクが高いことへの認識、親としての責任、そして医療者から個別化された助言を受けることによって強化されていた。また、個々の状況に合わせた積極的なフォローアップは、特にマイノリティ民族や社会経済的に不利な立場にある女性の医療への継続的な関与を支えていた。


結論 APOs後のCVD予防には、女性個人に行動変容を求めるだけではなく、家族を単位とした行動変容を優先できるような、構造化されたシステムレベルの支援が必要である。特にCVDリスクが高い集団はこれまでの研究に十分に含まれておらず、健康格差を拡大させないためには、これらの集団とともに介入を共同創出することが有用である可能性がある。


感想

これはとてもいい着眼点のレビューだと思います。しびれます。

「運動しましょう」「体重を減らしましょう」という個人への助言だけでは不十分で、育児や家族生活の中に健康行動を組み込めるように支援する必要があることを示唆しています。また、リスクの高い人ほど、研究にも介入にも十分に含まれていないという、格差に対する視点も重要です。

2026年10月6日火曜日

台湾でのHospital at Homeのアウトカム

 Wang YC, Liao JY, Yang FC, et al. Hospital-Level Acute Care at Home via Direct Home Admission in Taiwan: A Non-randomized Controlled Pilot Trial Before National Implementation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 30. doi: 10.1007/s11606-026-10828-2. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10828-2


背景

Hospital-at-home(HaH)は世界的に広がりつつあるが、台湾のIntegrated Home-Based Medical Care(統合在宅医療)の仕組みの中で、地域から直接自宅に入院させる direct home admission(DHA) 型のHaHについては、十分なエビデンスがない。本研究では、DHAを中心としたHaHモデルについて、臨床アウトカム、患者・介護者の経験、および実施可能性を評価することを目的とした。なお、一部の患者については救急外来を経由して自宅での治療を開始する経路も含まれた。


方法

2022年10月から2023年7月にかけて、前向き非ランダム化比較パイロット試験を実施した。急性感染症のため病院レベルの治療を必要とする、在宅生活中の高齢者144人を対象とし、5病院・13地域診療所から登録した。83人がHaH群、61人が通常の病院入院群となった。対象者は概してフレイルで、慢性疾患を有し、日常生活機能が低下していた。

HaH群では、多職種による訪問診療、静脈内薬物療法、point-of-care検査、遠隔患者モニタリングを実施した。対照群では通常の入院診療を行った。

主要評価項目は、寛解・治療完遂、病院への搬送を必要とする臨床的エスカレーション、治療期間中の死亡、30日死亡率とした。副次評価項目として、在院期間(length of stay:LOS)、QOL、患者・介護者の満足度を評価した。


結果

治療完遂は両群の大多数で達成され、HaH群86.7%、通常入院群95.1%であった(p=0.153)。治療期間中の死亡率は低く、それぞれ2.4%、3.3%であった(p=1.000)。HaH群では、9人(10.8%)が臨床的エスカレーションを必要とし、病院への移行が必要となった。

一方、HaH群では在院期間が通常入院群より有意に短く、9.72日 vs. 11.85日(p=0.035)であった。また、HaH群では、患者・介護者の満足度、利便性、および「次回もこのモデルを選びたい」という意思が有意に高かった(いずれもp<0.05)。


結論

本研究は、台湾におけるdirect home admissionを利用したHaHモデルを評価した初めての研究であり、フレイル高齢者に対する地域起点の病院レベル急性期在宅医療(acute care at home:ACAH)が、実施可能かつ患者・介護者に受け入れられる可能性を示した。これらの結果は、既存の台湾の在宅医療インフラに病院レベルの急性期医療を統合することを支持するものであり、その後の台湾全国ACAHプログラムの開発にもつながった。


感想

これもHaHの研究。HaHでコストがどれだけかかったのか知りたいところ。

2026年10月5日月曜日

在宅医療が立ち向かう健康格差

 Baim-Lance A, Perez S, Gorbenko K, Nnemnbeng JF, Hart J, Howard B, et al. Leadership Perspectives on Hospital at Home and Equity: Broadening Access, Removing Enrollment Barriers, and Adding Value by Addressing Disparities. J Gen Intern Med. 2026 Oct 1. doi: 10.1007/s11606-026-10841-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10841-5


背景 Hospital at Home(HaH)は、従来の入院医療に代わり、患者の自宅で安全かつ質の高い急性期病院レベルの医療を提供する仕組みである。米国でHaHが拡大する一方、プログラムのリーダーが医療の公平性をどのように捉え、公平な医療提供に影響する運用上の課題にどう対応しているかは、十分に明らかになっていない。本研究では、HaHにおける公平性の定義、実現を妨げる障壁、およびその克服に向けた戦略を明らかにすることを目的とした。


方法 規模、地理的条件、セーフティネット病院としての位置づけが多様なHaHプログラムを目的抽出法によって選定した。半構造化インタビューを実施し、インタビュー後の振り返り用テンプレートと要約を用いた迅速な質的分析を行った。その後、焦点を絞ったコーディングによってテーマを抽出し、フレーム分析の枠組みで整理した。


結果 15の病院ベースのHaHプログラムと3つの民間事業者のプログラムを代表する28人のリーダーに対し、18件のインタビューを実施した。参加者のおよそ半数はセーフティネット病院に所属していた。HaHにおける公平性を捉えるための、相互に関連する3つのフレームが明らかになった。

HaHへのアクセスを広げる(Broaden HaH Access):プログラムの設立を妨げたり可能にしたりする要因に注目し、農村地域なども含め、より広い人々にHaHを届けることを目指す。

HaHへの登録・利用開始を妨げる障壁を取り除く(Remove Barriers to HaH Enrollment):保険の種類、地理的条件、自宅の安全性、患者や介護者の希望など、患者が実際にプログラムを利用できるかどうかに影響する社会人口学的要因に注目する。保険の対象範囲を広げるなど、それぞれの障壁に対応する戦略が報告された。

格差に対処することでHaHの価値を高める(Add Value by Addressing Disparities):既存の健康上・社会的な課題を軽減し、長期的なアウトカムの改善につなげるために、HaHを積極的に活用するという考え方である。


考察 これら3つのフレームは相互に補完的であり、排他的なものではない。それぞれのフレームにおいて、HaHのリーダーたちは公平性に関する課題や障壁を認識し、公平な医療提供を促進するための具体的な戦略を示していた。こうした取り組みは、医療システム全体の目標に対するHaHの価値を高めることにもつながる。


結論 HaHにおける公平性を考える際のフレームを明確にし、それらを整合させたうえで、各フレームに対応する改善策を個別にも横断的にも実施することが重要である。これにより、HaHが拡大するなかで、包括的で公平な医療を提供する能力を高められる可能性がある。


感想

あくまでリーダーへのインタビューではありますが、在宅医療が如何にして健康格差に立ち向かうのかがよくまとまっています。

①サービス自体を幅広い地域に届ける、②利用資格があっても利用できない人の障壁を取り除く、③既存の健康格差そのものを縮小する、という3つのアプローチが組み合わさるということですね。

2026年10月4日日曜日

若手女性家庭医の経験するマイクロアグレッション

 Byrd M, Filippi MK, Siddiqi A, Fleischer SE, Bazemore AW, Koempel A. The Impact of Biases for Early-Career Women in Medicine: “It’s the Little Day-to-Day Microaggressions”. J Am Board Fam Med. 2026;39(1):167190. doi:10.3122/jabfm.2025.250291R2. https://www.jabfm.org/content/39/1/167190


背景

女性医師は、臨床現場において、心身の健康を損なうさまざまな制度的・社会的バイアスに直面している。性別に基づく差別を経験したと報告した女性医師の割合は、キャリア初期では76%、中期では57%、後期では36%であった。これらの傾向は、キャリアを重ねるにつれてバイアスが減少する可能性を示唆しているものの、バイアスは女性医師のキャリアを通じて持続する負担となっている。本研究は、職場のバイアスに関する質的研究で十分に取り上げられてこなかった、キャリア初期の女性家庭医に焦点を当てた点に特徴がある。特に、女性医師が臨床現場で経験するマイクロアグレッションを取り上げ、直面するバイアスをより深く理解することを目指した。


方法

2021~2023年のAmerican Board of Family Medicine National Graduate Surveyに回答した、地理的・人種的に多様なキャリア初期の女性医師25名を、電子メールを通じて募集した。研修医から臨床現場で働く医師へと移行する時期の経験を理解するため、ライフヒストリー・アプローチに基づいた半構造化インタビューガイドを作成した。インタビューを逐語録にし、データを整理したうえで、NVivoを用いて帰納的内容分析を行った。分析は質的研究者によって実施された。


結果

データから、主に3つのテーマが特定された。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:臨床現場でのコミュニケーションに、性別に基づくバイアスのパターンが表れていた。

2. 外見や他者の認識による、医師としての立場の否定:患者が、女性医師の外見や自分自身の認識に基づいて、その医師の立場や専門性を認めない経験がみられた。

3. 感情的・心理的な労働への対処:女性医師は、職業上および社会的に求められる期待に応えるなかで、感情的・心理的な負担を抱え、それに対処していた。


結論

プライマリ・ケアの現場では、マイクロアグレッションに対して、直接的かつ意図的な介入が必要である。こうした経験に対処しなければ、公平性と医療従事者の持続可能な就労環境が損なわれるおそれがある。組織のリーダーには、個々の医師を支援するだけでなく、組織文化やプライマリ・ケア全体の使命を強化するために、マイクロアグレッションを認識し、それを中断させ、適切に対応する能力が求められる。こうした取り組みは、医療における公平性の実現という、より広い社会的要請にも関わるものである。


感想

具体的なテーマの説明は以下の通り。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:女性医師を、専門職としてではなく、性別に基づく役割や期待によって捉える言動。

採用時の質問: 男性面接官2名から、将来の出産・子育ての計画について質問された。

日常的な発言: 妊娠中の同僚が分娩シミュレーション用の骨盤模型を購入しようとした際、男性の責任者から「巣作り(nesting)をしているんだね」と言われた。

職場での関係: 男性の前任者とは意見が一致していたと繰り返し述べる上司との関係において、若さや性別が意見の対立に影響しているのではないかと感じた。

こうした何気ない発言が日常的に積み重なり、女性医師の専門性や能力を軽視する環境を形成している。


2. 外見に基づく医師としての立場の否定:若さ、性別、人種などに基づく患者の思い込みによって、医師としての専門性や立場を認めてもらえない経験。

医師であることへの疑念: 若く見える女性医師が、患者から「あなたが医師なの?」と疑うように尋ねられた。

医師であることを示す工夫: 医師であることを明記した名札をつけていても、「医師はどこにいるの?」と尋ねられた。

私生活への立ち入り: 患者から子どもの有無や次の出産予定について質問されたり、外見から話せる言語を決めつけられたりした。

こうした経験は、医師としての役割を否定するだけでなく、患者との専門的な関係や適切な境界を損なっている。


3. 臨床現場や社会の期待に伴う感情的・心理的労働:周囲の感情に配慮し、人間関係を円滑に保ち、ジェンダーや人種に基づく期待に対処するために、追加の心理的負担を引き受けること。

話し方への要求: 男性医師よりも女性医師のほうが、スタッフから話し方や言葉遣い、丁寧さを厳しく求められると感じていた。

社会的な性役割: 女性は医師として働いていても、家事や育児を担うべきだという社会的期待が残っていると語られた。

人種との交差: 黒人女性医師は、黒人患者を診療する際、白人男性医師には生じにくい感情的負担を経験していた。文化的配慮を意図した同僚の発言が、かえって不快感を与える場合にも、その状況に対処しなければならなかった。

過剰な警戒: 過去の経験から、将来も障壁に直面することを予期し、常に備えておかなければならないと感じていた。また、少数派の同僚に負担をかけたくないと考え、支援を求めることを控えた参加者もいた。

差別的な出来事そのものだけでなく、それを予測し、感情を調整し、周囲との関係を維持するために継続的な努力を求められる


非常に具体的かつ明確に記述されており、日本でも同様の現象は起こっているだろうと思いました。日本での追検証が必要だと思います。

2026年10月3日土曜日

コンサルテーションの文章で診断プロセスを分析する

 Kawamura R, Harada Y, Shimizu T. Diagnostic Reasoning in General Internal Medicine Consultations: A Text Mining Analysis of Consultation Requests. J Gen Fam Med. 2026 Sep 13;27(5):e70176. doi: 10.1002/jgf2.70176


背景

診断推論は、その多くが内的な思考過程であるため評価することが難しく、診療の質と関連する言語的特徴については十分に明らかになっていない。コンサルテーション依頼文は、医師がその時点で行っている診断的思考を捉えるための有用な手がかりとなる可能性がある。本研究では、総合内科へのコンサルテーション依頼文における言語が、診断推論をどのように反映しているのかをテキストマイニングによって検討した。


方法

日本の大学病院の総合診療・総合内科部門において、2021年に行われた診断目的のコンサルテーション依頼を対象とした、単施設後ろ向き観察研究を実施した。コンサルテーションは、最初に依頼した専門診療科が最終的に正しい診断を確定したかを中心とした、アウトカムに基づく操作的定義によって適切と不適切に分類した。さらに、特定の診断が強く疑われていた場合には、最終診断との一致も分類基準に加えた。

テキストマイニングにはKH Coderを使用し、共起ネットワーク分析、対応分析、キーワード・イン・コンテクスト(KWIC)分析を行った。


結果

352件のコンサルテーションのうち、適切なのは229件、不適切なのは123件であった。適切なコンサルテーションでは、明確な異常所見や疾患の進行を示す言葉が特徴的にみられた。一方、不適切なコンサルテーションでは、「不明」「陰性」など、診断の方向性が限定的であることを示唆する言葉が関連していた。

特に興味深い結果として、KWIC分析では「陰性」という言葉が、少なくとも2つの異なる診断推論を表していた:検査結果が陰性だったことを受けて、鑑別診断を修正する;陰性な検査結果があっても、なお特定の診断を疑い続ける。つまり、同じ「陰性」という言葉でも、診断推論上の意味は一様ではなかった。

また、不適切なコンサルテーションでは、こうした表現が、評価や診療記録の不十分さ、および診断的不確実性を伴っていた。


結論

コンサルテーション依頼文のテキストマイニングによって、コンサルテーションの適切性と関連する言語的特徴を明らかにすることができた。また、「陰性」という言葉が、異なる診断推論上の行動を反映していることも明らかになった。コンサルテーション依頼文は、診断推論を評価するための、拡張可能な窓口となる可能性があり、診断コミュニケーションやコンサルテーションの質を改善する機会を特定するためにも利用できる可能性がある。


感想

総合診療科から他科へのコンサルテーションの文章を用いた分析で、着眼点がとても面白いです。ここでいう「適切」はコンサルテーション文章に最終診断が含まれていることを意味しています(ざっくりとした説明ですが)。診断プロセスや診断エラーの研究は表に現れないプロセスを扱うので難しいですが、確かにコンサルテーションの文章に着目するというのは可能性がかなりありそうですね。こういう着想で研究するのは素晴らしいことだと思います。

2026年10月2日金曜日

介護者は診療同伴で何をしているか、そしてそれはvirtual careに移行可能か

 Ward K, Wang H, Chacty V, Lau AY. Carer involvement in GP-patient consultations and translatability to virtual care: a multi-methods study. BJGP Open. 2026 Aug 11:BJGPO.2025.0114. doi: 10.3399/BJGPO.2025.0114. https://bjgpopen.org/content/early/2026/08/09/BJGPO.2025.0114


背景

介護者は、患者が医療にアクセスし、良好な医療経験を得るうえで重要な役割を果たしている。介護者はしばしば患者に付き添って診療を受け、その際に精神的・身体的な支援を提供している。しかし、これまでのところ、診療中に介護者が具体的にどのような活動に関わっているのか、また、それらの活動をオンライン・遠隔診療にどの程度移行できるのかを明らかにした研究は限られている。


目的

本研究の目的は、患者がGPの診察を受ける際に、介護者がどのような活動に関与しているのかを明らかにし、記述すること、そして、それらの活動をvirtual careによる診療にどの程度移行できるのかを評価することであった。


研究デザイン・セッティング

英国の8つのGP診療所で実施された対面でのGP診療のビデオ281件をスクリーニングし、そのうち39件を分析対象とした。


方法

対面で行われたGP診療の二次分析を行い、介護者が関与している活動を抽出した。それぞれの活動について、著者らが開発したエビデンスに基づく新しいスコアリングシステムを用いて評価し、その介護者の活動がvirtual careにおいて実施可能である可能性を判定した。


結果

介護者が関与する39の活動が同定され、7つのカテゴリーに分類された。

健康情報の共有 10 25.6%

精神的・身体的支援 9 23.1%

病歴聴取 8 20.5%

自宅での健康関連活動 5 12.8%

ロジスティクス 3 7.7%

関係性の構築 3 7.7%

その他 1 2.6%

39の活動について、virtual careへの移行可能性を評価したところ、平均スコアは15点満点中13点であった。


結論

介護者が関与するすべての活動について、virtual careへの移行可能、または移行可能性があると評価された。今後の研究では、virtual careにおける介護者の役割と、介護者をその役割の中でどのように支援できるかについて検討する必要がある。


感想

面白い研究。介護者が何をしているのかを測定するだけでも面白いのに、それをvirtualに移行できるかどうかの評価までしています。すばらしい。そしてこんなにおもしろくてもopenに回るのですね。最近、論文の質がAnn Fam MedよりBJGP Openのほうが高い気がします。


virtual careへの移行を評価するシステムに工夫があります。筆者たちの先行研究をもとにしているとありますが、つまるところ筆者たちが勝手に作ったスコアリングです。

Clinical endorsement、Physical artefacts / physical interaction、Type of carer support requiredの3項目をそれぞれ1~5点で評価し、合計15点満点にしています。


Clinical endorsement score:その活動を行うために、どの程度medical/clinical expertiseや医療者による確認が必要か

1 対面での臨床専門知識が必要

2 対面の臨床専門知識が望ましいが、遠隔で代替できる可能性あり

3 自宅で測定できるが、結果の解釈に医療者のclinical endorsementが必要

4 医療者による確認は必要だが、特別な機器なしにvirtual careで実施しやすい

5 医療専門知識が必ずしも必要ない


注射・ワクチン → 1

聴診・触診 → 2

血圧、体温、SpO₂測定 → 3

targeted history taking → 4

印刷など → 5


Physical artefacts / physical interaction:物理的な機器や身体的接触がどの程度必要か

1 virtual careでは代替困難な機器・身体診察が必要

2 機器・身体診察が必要だが、遠隔化の可能性あり

3 薬局などで簡単に購入できる機器が必要

4 自宅にある可能性の高い機器が必要

5 機器・身体的接触が不要


swab / smear → 1

聴診器による聴診 → 2

体温・血圧測定 → 3

computer / printer / weighing scale → 4

電話で服薬について話す → 5


Type of carer support required:その活動を患者が行うために、carerがどの程度の支援を必要とするか

1 非常に複雑。専門的な対面ケアが必要

2 複雑。clinical guidanceを伴う身体的・会話的支援が必要

3 重要な役割。ある程度の身体的支援または複雑な会話的支援が必要

4 比較的単純な支援。clinical knowledgeはほとんど不要

5 carerの支援は基本的に不要、または存在するだけでもよい


1:複雑な身体診察、高いリスクを伴う複数疾患、高度なclinical expertiseが必要な活動

2:複雑な診療情報の整理、multidisciplinary teamとの調整、複雑な在宅検査

3:診察時の衣服の着脱を手伝う、書類を準備する、患者に代わって病歴を説明する

4:患者を落ち着かせる、手を握る、会話を補足する、診察予約を手伝う

5:単に同席する、一般的な質問をする

2026年10月1日木曜日

高齢クィアのニーズを医療者教育に組み込む共同創造

 Hall S, Code D, Dyck D, Rabari D, Hubbard Murdoch N. What Healthcare Professionals Need to Understand About Queer Older Adult Care Experiences: A Double Diamond Design Study. J Gen Intern Med. 2026 Sep 25. doi: 10.1007/s11606-026-10800-0. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10800-0


背景

two-spirit、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア(2SLGBTQ+)の人々が高齢化するなか、多くの人々が異性愛規範的(heteronormative)な医療システムへのアクセスにおいて困難に直面している。医療専門職(HCP)は、包摂的で、アイデンティティを肯定するケアを提供するための、対象を明確にした教育を必要としている。本研究の目的は、クィアな高齢者へのケアにおけるHCPの能力向上を目的とした教育ツールキットに含めるべき主要な内容領域を明らかにすることであった。


方法

Double Diamondデザインモデルは、4つの段階――discover(発見)、define(定義)、develop(開発)、deliver(提供)――からなる人間中心設計(human-centred design)の枠組みである。

本研究ではDouble Diamondデザインモデルを用い、カナダ・サスカチュワン州において、クィアな高齢者とHCPを対象とした2回の共同創造ワークショップを実施した。ワークショップでは、ストーリーテリング、障壁の特定、解決策の創出といった活動を行った。逐語録、フィールドノート、参加者が作成した資料のデータを帰納的に分析し、その後、コードを先行研究で記述されている現象と関連づけ、既存の用語に沿うように名称を変更した。


結果

3つのテーマが同定された。

Relational ontologies(関係の中で浮かび上がる存在):クィアな高齢者の健康経験が、人間関係、包摂的な言語、可視性、そして「選択した家族(chosen family)」の認識によってどのように形づくられるかを示す概念である。

Institutionalized othering(制度による他者化):異性愛規範的な方針、前提、教育上の不足によって、医療システムのなかでクィアなアイデンティティや人間関係が周縁化されることを示す概念である。

Self-protective behaviours(自己防衛的行動):クィアな高齢者が、カミングアウトや自身の情報開示をどの程度行うかを判断し、安全性を評価し、予想される差別から自分自身を守るために用いる方略を示す概念である。

これらのテーマは、現在開発中の教育ツールキットの中核的な内容領域を構成するものとなっている。


結論

これらの結果は、HCP教育において、積極的な信頼関係の構築(proactive trust building)と包摂的なケア方針(inclusive care policies)を優先する必要があることを示している。

具体的には、

relational ontologies:包摂的なコミュニケーション、「選択した家族」の認識、肯定的な対人ケア

institutionalized othering:構造的スティグマ、異性愛規範的な制度・方針への批判的検討、システムレベルでの包摂

self-protective behaviours:情報開示に配慮した診療、信頼関係の構築、安全に医療へ参加するための障壁の軽減

という形で、ツールキットの内容に反映される。

生きられた経験とデザイン研究の原則に基づいて開発されるこのツールキットは、クィアな高齢者をケアするHCPの準備性を高め、医療における公平性の向上を目指すものである。


感想

研究デザインもトピックも結果も、どれをとっても質の高い研究だと思います。

chosen familyとは、血縁や法律上の家族ではなくても、本人が「自分の家族」と認識し、家族のような親密さや相互扶助を持つ人々をさします。

単にニーズを記述するのではなく、当事者と医療者がco-designのプロセスに参加し、その経験を医療者教育の具体的なコンテンツへ変換しようとしている点が評価すべき点だと思いました。

2026年9月30日水曜日

RCTで効果を検証した介入を実装するための質的研究

 Purcell N, Moore LC, Becker WC, Seal KH. Implementing Integrated Whole-Person Care for Chronic Pain: Lessons from VA’s Multisite wHOPE Study. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10825-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10825-5


背景

ガイドラインでは、慢性疼痛に対して、多面的かつ生物心理社会的なケアが推奨されている。しかし、このようなケアを大規模に実装することは容易ではない。近年、Whole Health Options and Pain Education(wHOPE)研究では、米国の6つの退役軍人省(VA)医療センターにおいて、Whole Health Team(WHT)介入が実施・評価された。WHTは、医療提供者、complementary and integrative health(CIH)提供者、health coachからなる多職種チームであり、包括的で非薬物的な疼痛ケアを提供する。慢性疼痛を有するVA患者764人を対象としたランダム化比較試験では、WHTは、group cognitive behavioral therapy(CBT)および通常診療と比較して、pain interferenceをより効果的に減少させ、その他の疼痛関連アウトカムも改善した。WHTの有効性が示されたことから、今後広くWHTを実装することが可能かどうかを検討することが重要である。


目的

質的研究を用いて、WHTの実装を促進・阻害する要因、WHTの持続可能性に影響する要因を検討した。


方法

Practical Robust Implementation and Sustainability Model(PRISM)を理論的枠組みとして用いた。wHOPE介入の実装に関わった43名のcliniciansおよびstaffを対象に半構造化インタビューを実施し、template-based rapid analysisを用いてインタビュー内容からテーマを抽出した。


主な結果

臨床医はWHT介入を高く評価しており、自身の診療を向上させ、患者ケアを改善したと感じていた。インタビューから、WHTの実装と持続可能性に影響するいくつかの重要な要因が明らかになった。

① チーム構成・協働

以下が必要とされた。

チームメンバーが継続して同じメンバーであること

臨床医に十分な時間・業務量を割り当てること

各臨床職種の役割を明確にすること

定期的なteam huddleを行うこと

② 組織インフラ・統合

以下が重要とされた。

既存の疼痛診療におけるギャップに対応すること

primary careと緊密に連携すること

complementary wellnessおよびtreatment modalitiesへの紹介経路を確立すること

③ Administrative coordination

実装およびその後の運営を支えるために、熟練したadministrative coordinationが必要であることも強調された。


結論

包括的で患者中心的な多職種疼痛ケアを実装することは複雑であり、特有の課題を伴う。しかし、この質的研究から、こうしたケアの実装と持続可能性を成功させるための有望な戦略が明らかになった。


感想

昨日紹介した論文はこの論文を読むための準備でした。RCTで効果があるのはわかった(本当に?と私は思っていますが…)から、じゃあどうやって実装する?という質的研究です。分析は、あらかじめマトリックスを作っておいて該当する内容を埋めるような方法で行われており、迅速に結果が得られるようです。

結論はありきたりですが、こうやってRCTに質的研究をくっつけて実装の課題を探すというのは、とても重要なことだと思います。

2026年9月29日火曜日

チームでの疼痛管理の効果

 Seal KH, Morasco BJ, Martin AM, Reddy KP, Van Iseghem TM, Bolton RE, et al; wHOPE Study Group. The Veterans Affairs' Whole Health Approach for Chronic Pain Management: The wHOPE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2026;335(20):1774-1786. doi:10.1001/jama.2026.5006. https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2848379


重要性

米国退役軍人省(US Department of Veterans Affairs: VA)のWhole Healthアプローチは、VA病院で診療を受ける慢性疼痛患者に対して、2016年に議会によって導入が義務付けられた。しかし、これまで、その有効性をランダム化臨床試験で検証した研究はなかった。


目的

VAで慢性疼痛を有する患者を対象として、Whole Health Teamによる介入の有効性を、認知行動療法(CBT)および通常診療と比較して評価すること。また、長期的な疼痛による生活への支障の軽減について、CBTと通常診療を比較すること。


研究デザイン、設定、対象者

米国の6つのVA医療システムで実施されたランダム化臨床試験である。参加者の登録は2020年9月18日から2024年1月19日まで行われ、最終追跡は2025年1月27日に実施された。解析は2025年4月1日から2026年2月3日まで行われた。対象は、VAのプライマリケアを受診している慢性疼痛患者であった。


介入

慢性疼痛患者を11:11:2の割合で無作為に、Whole Health Team介入群:343人、慢性疼痛に対するCBTのグループセッション:339人、通常診療:82人の3群に割り付け、12か月間介入した。

Whole Health Teamは、プライマリケア医またはナースプラクティショナー、非薬物療法またはintegrative pain careを提供するsecond clinician(注:非薬物療法またはintegrative pain careを実際に提供する臨床職。PT、鍼灸師、カイロプラクターなど)、コーチ(注:Whole Healthに基づく目標設定やセルフマネジメントを支援)から構成された。

このチームは、VA Whole Healthモデルに沿って、多職種による個別化されたケアを提供し、患者自身の価値観や人生の目標と一致した個人的な健康目標の達成を支援した。


主要評価項目

主要アウトカムは、12か月時点におけるBrief Pain Inventory interference(BPI-I)サブスケールのスコアであった。BPI-Iは0~10点で評価され、点数が高いほど疼痛による生活への支障が大きいことを示す。最小臨床的重要差(minimal clinically important difference: MCID)は1.0点と設定された。


結果

12か月時点で、Whole Health Team群では、疼痛による生活への支障がCBT群および通常診療群よりも大きく改善した。

BPI-Iの平均差は、Whole Health Team vs CBT:−0.58点、Whole Health Team vs usual care:−0.77点であった。

一方、CBT群と通常診療群の比較では、平均差は−0.19点(99% CI −0.89~0.50、P=.46)であり、有意差は認められなかった。

なお、Whole Health Teamによる改善は統計学的には有意であったものの、MCIDとして設定された1.0点には達していなかった。


結論と意義

これらの結果は、慢性疼痛を有するVA患者において、Whole Health Teamアプローチを使用することで、疼痛による生活への支障を統計学的に有意ではあるものの、小幅に改善できることを支持する。


感想

手間とコストをかけてもあまり変わらないような印象を受けました。疼痛管理はやはり難しいですね。

2026年9月28日月曜日

家庭医療レジデンシーのQIカリキュラム

 Harriett LE, Wright KM, Anderson L, Wheat S, Harrison L, Rowland K, et al. Quality Improvement in Residency: Training, Projects, and Outcomes. Ann Fam Med. 2026;24(5):431-436. doi:10.1370/afm.250717. https://www.annfammed.org/content/24/5/431


背景

Quality improvement(QI)は家庭医学レジデンシー教育の中心的な要素であり、医師がシステムレベルの変革を主導し、価値に基づく医療を提供するための能力を育成する。しかし、レジデンシーにおけるQIプロジェクトの成功を評価するための標準化されたカリキュラムや指標は存在せず、卒後医学教育におけるQI教育・評価のベストプラクティスについてもコンセンサスがない。本研究では、米国の家庭医学レジデンシーにおけるQIカリキュラムの現状を明らかにすることを目的とし、教育方法、プロジェクトの要件、指導教員の役割、成功の指標として認識されているもの、障壁などを調査した。


方法

本研究は、2025 Council of Academic Family Medicine Educational Research Alliance(CERA)による家庭医学レジデンシープログラム・ディレクターを対象とした横断的調査の一部として実施された。調査項目には、QI教育、プロジェクトの運営方法、プロジェクトの特徴およびアウトカムに関する質問が含まれた。記述統計およびχ²検定を用いてデータを分析した。


結果

回答率は44.2%(321/726)であった。

QIカリキュラムについては、38.8%のプログラムがレジデンシー独自に開発したカリキュラムを使用し、46.8%が独自開発と外部リソースを組み合わせたハイブリッド型カリキュラムを使用していた。

QIプロジェクトの監督は、54.2%のプログラムでコア・ファカルティが担当していた。

QIに必要なデータへのアクセスは、44.6%で「limited」、27.6%で「full」とされていた。

QIプロジェクトは45.2%でレジデントのチームによって実施されていた。

レジデンシー修了者のQI能力は、63.5%のプログラムで「intermediate」と評価されていた。

卒業時のQI能力が高いことは、ハイブリッド型カリキュラム、データアクセス上の障壁が少ないこと、プロジェクトの継続性、およびプロジェクトの成果をより広く普及・実装していることと有意に関連していた(いずれもP<.05)。


結論

レジデントのQI能力や臨床実践の変化と関連する教育・プロジェクトの特徴は、家庭医学レジデンシーにおいて、より標準化された長期的なQI教育アプローチが必要であることを示している。


感想

実際のclinical practice changeと関連していたプロジェクトの特徴は、

レジデントが個人ではなくチームで取り組む

次のresident classにプロジェクトが引き継がれる

結果を発表・出版する

であり、専攻医がやりっぱなしではなく継続して取り組まれるようにするのがいいのでしょうね。


専攻医のQIの能力をどのように評価しているのか気になったのですが、Program DirectorにBasic、Intermediate、Advanced/Expertの3段階で評価をきいているだけで、さすがにいまいちだなと思いました。

総じて、面白さを感じ取ることはできるけど、雑な研究だなと思ってしまいました。

2026年9月27日日曜日

VitB12の投与経路

 Debone D, Azeredo da Silva A, Cordenonssi J et al. Comparative efficacy of vitamin B12 supplementation routes in adults with replacement indication: a systematic review. eClinicalMedicine, 2026; 100 https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(26)00467-0/fulltext


背景

ビタミンB12欠乏症は一般的であり、重篤な合併症を予防するために長期的な補充療法が必要となることが多い。しかし、経口、舌下、筋肉内という異なる投与経路の有効性を比較した場合、その違いについては不明確な点が残されている。本システマティックレビューでは、補充療法が適応となる成人において、異なるビタミンB12補充経路の有効性を評価した。


方法

PubMed、Embase、Cochrane CENTRALを、言語や発表年による制限を設けず、各データベースの開始時点から2025年7月18日まで検索し、2026年7月13日に更新した。PRISMA 2020に従って報告した。

対象は、補充療法が適応となる成人を対象とし、経口、舌下、または筋肉内によるビタミンB12補充を比較したランダム化試験および観察コホート研究とした。小児を対象とした研究および比較を行っていない研究は除外した。

バイアスのリスクは、ランダム化試験についてRoB 2.0、コホート研究についてROBINS-Iを用いて評価した。主要アウトカムは、血清ビタミンB12値または臨床的反応とした。

本システマティックレビューはPROSPERO(CRD420251126832)に登録された。


結果

13研究が適格基準を満たした。その内訳は、ランダム化比較試験7件、観察コホート研究3件、学会抄録2件、research letter 1件であった。研究はアジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニアの10か国で実施され、単施設研究と多施設研究の両方が含まれていた。

最も多かった比較は経口投与と筋肉内投与で、8研究がこれを比較していた。複数の研究では、経口投与は筋肉内投与と同等、あるいはそれ以上の生化学的反応を示唆していた。

舌下投与については研究数が少なく、5研究のみであったが、短期的な生化学的有効性は他の投与経路と同等またはそれ以上であった。

3つの投与経路はいずれも血清ビタミンB12値を上昇させた。

7件のランダム化比較試験はすべて、バイアスのリスクについて「some concerns」と判断された。主な問題は、ランダム化手順の限界と、アウトカム報告の選択性であった。

3件の観察研究はすべて「serious risk of bias」と判断され、主な理由は交絡因子の調整が不十分であったことであった。残る3研究(学会抄録2件、research letter 1件)はバイアス評価の対象外とした。


解釈

投与経路の選択では、患者の希望、忍容性、アクセスのしやすさを考慮すべきである。

特に舌下投与についてはエビデンスが限られているが、現在得られている研究からは、選択された患者にとって非侵襲的な代替手段となる可能性が示唆される。

今後は、症状の改善、治療アドヒアランス、患者の選好など、患者中心のアウトカムを評価する、十分な検出力を持った比較研究が必要である。


感想

特に新たな知見というわけではなさそうでした。ただ評価はあくまでVitB12検査値であり、臨床的なアウトカムではないことに注意が必要です。

2026年9月26日土曜日

小規模チーム制のプライマリケアは費用が少しかかるが、全体の医療費は削減される

 Wong SKW, Tan KB, Pang J, Wong V, Ng DWL, Tan DHY, Lim Z, Sundram M, Ng KMY, Lew YJ, Chong PN. Assessing 5-year outcomes of a teamlet care model in Singapore polyclinics: a matched difference-in-difference analysis. Ann Fam Med. 2026 Sep;24(5):405-412. doi:10.1370/afm.250635.


背景

シンガポールのポリクリニックでは、慢性疾患患者に対するケアの継続性と包括性を向上させるため、2014年に新しいteamlet(小規模チーム)型ケアモデルが導入された。患者は、家庭医2名、看護師1名、ケアコーディネーター1名からなる小規模チームに登録され、連携したチームベースのケアを受けた。本研究では、このモデル導入後5年間のアウトカムについて、臨床指標、ケアの遵守、医療サービス利用、経済的影響に焦点を当てて評価した。


方法

2014~2016年にteamletプログラムに登録された、糖尿病、高血圧、または高脂血症の患者を対象とした後ろ向きマッチドコホート研究を実施した。アウトカムを、通常診療を受けていたマッチングされた対照患者と比較した。シンガポール保健省のデータベースを用い、個人およびコホート・時点による固定効果を調整した差の差分析を行った。


結果

teamletモデルでは、臨床指標に小幅な改善が認められた。登録前にHbA1cが上昇していなかったサブグループでは、HbA1cが0.1%低下した。

収縮期血圧は0.65 mmHg低下した。LDLコレステロールは0.03 mmol/L低下した。一方、糖尿病スクリーニングの遵守率は改善し、対照群と比較して、足のスクリーニングが16%増加、眼のスクリーニングが6%増加した。医療サービスの利用はプライマリ・ケア側へシフトし、高コストの医療サービス利用が減少した。

入院:1人あたりSGD 2,432の費用削減

専門医外来:1人あたりSGD 130の費用削減

救急外来:1人あたりSGD 49の費用削減

一方、ポリクリニック利用費は1人あたりSGD 479増加した。

これらを合わせると、1人あたりの総費用はSGD 2,186削減された。


結論

ポリクリニックの人員配置を、より小規模で協働的なチームへ再編することで、ケアプロセスが改善し、高コストの医療サービス利用が減少した。これらの結果は、患者数の多いプライマリ・ケア環境においてチームベースのケアモデルを拡大することが、医療システム全体の効率性向上と費用削減につながる可能性を示している。


感想

チームベースのケアが費用対効果に優れていることを明確に示していると思います。プライマリ・ケアにかかるコストが少し増えても、全体として医療費は下がる、というのが素晴らしいですね。プライマリ・ケアに手厚く予算を配分したほうがいいですよと主張する根拠になります。こういうエビデンスがアジア圏からでるのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月25日金曜日

継続性と効率性

 McDonald T, Lethebe BC, Green LA. Cost savings from primary care clinic continuity among patients with chronic disease in Alberta, Canada: a retrospective population-level cross-sectional study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0085. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0085


背景


プライマリ・ケア医(PCP)とのケアの継続性は、患者の健康状態を改善し、医療サービス利用(HSU)を減少させ、医療費を低下させることが知られている。一方、チーム医療や共同診療モデルに関連する「診療所レベルでの継続性」がどのような影響をもたらすかについては、十分に明らかになっていない。このようなモデルの費用への影響を明らかにすることは、医療提供体制や報酬制度の設計に重要である。


目的


慢性疾患患者を、継続性の低い・中程度のプライマリ・ケア診療所から、継続性の高い診療所へ移行した場合に、医療サービス利用にかかる費用をどの程度削減できるかを推定すること。


デザイン・セッティング


カナダ・アルバータ州において、慢性疾患患者約50万人のコホートからマッチングされた約7万人を対象とした、3年間の後ろ向き人口ベース横断研究。すべての出来高払い(fee-for-service)のプライマリ・ケア医を対象とした。


方法


診療所レベルの継続性を、Usual Provider of Care(UPC)Indexを改変して算出した。医療サービス利用にかかる費用は、Canadian Institute of Health Informationの費用算定方法を用いて推定した。


結果


継続性と急性期医療費との関連から、継続性が高い診療所(UPC 80–100%)をすべての患者に適用した場合、現在それ未満の継続性の診療所でケアを受けている約19万5000人について、3年間で8億9800万ポンドを超える費用削減が理論的に可能と推定された。


1人あたりの費用削減効果は、医学的に複雑な患者ほど大きかった。


結論


一般的な慢性疾患をもつ患者において、診療所レベルのケアの継続性は、患者の複雑性の程度にかかわらず、医療費の削減と関連していた。高い継続性を重視するプライマリ・ケア診療所に患者のケアを集約することで、大幅な費用削減が実現できる可能性がある。


感想

これはまたすごいエビデンスが出ました。継続性はどんどんエビデンスが出てきますね。

2026年9月24日木曜日

複雑系における多疾患併存

 Arakelyan S, Guthrie B, Anand A, Lone N, Mercer SW, Tooman T. Clinical empathy and relational continuity mitigate care fragmentation for patients with multiple long-term conditions: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0171. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0171


背景

多疾患併存(multiple long-term conditions: MLTC)をもつ患者への医療サービスは、断片化し、十分に連携されていないシステムの中で提供されている。しかし、サービスの変化やシステムの複雑化に応じて、患者のケアに対する経験、認識、行動がどのように形成され、変化していくのかは十分に理解されていない。


目的

複雑適応系(complex adaptive care system)の中で、MLTC患者とその介護者のケアに対する経験や認識がどのように形成・変化するのかを明らかにし、より良いケアにつながる機会を特定すること。


デザイン・セッティング

スコットランドの4つの統合型保健・社会福祉パートナーシップにおいて、MLTC患者および介護者28人を対象に、6つのフォーカスグループを実施した質的研究。


方法

2024年2月から5月にデータを収集した。複雑適応系の視点に基づくアブダクティブ分析を行った。


結果

MLTC患者へのケアは、患者、介護者、医療専門職、組織構造の間の動的かつ相互的な相互作用によって形成されていた。増加する医療需要に対応するために導入されたサービス変更は、患者の複雑なニーズと一致していないと認識されることが多く、その結果、患者や介護者はアクセス上の障壁を乗り越えるために自身の行動を変化させていた。

ケアの経験は予測困難であり、小さな個人的な相互作用が、信頼や医療への関与に不釣り合いに大きな影響を与える強化型フィードバックループによって形作られていた。また、システムの不足を埋めるためにインフォーマルケアが拡大し、家族がケアの調整や患者の権利擁護を担うようになっていた。

その一方で、臨床的共感(clinical empathy)とケアの関係性の継続性(relational continuity)は、断片化したケアシステムの中で重要な安定化要因として機能していた。


結論

ケアの効率化を目的としたサービス変更は、意図せずケアを不安定化させ、MLTC患者や介護者に負担を転嫁する可能性がある。その結果、患者が感じるケアの質や、医療者との関係性の継続性にも影響を及ぼしうる。医療者と患者の相互作用や関係性の質が、患者のケアに対する認識と、その後の医療への関与を形作る。


感想

多疾患併存に対する王道の質的研究だと思いました。

  • MLTC患者にとって、医療は「複数の疾患別サービスの寄せ集め」になりやすい


  • 患者・家族は、断片化したシステムに「適応」していた。システムの問題を患者・家族自身が補っていた。つまり、自分で予約を取る、医療機関を使い分ける、救急を利用する、家族が調整役になる、といった行動が生じていた。


  • 医療者との小さな相互作用が、信頼やその後の受療行動に大きな影響を与えた。良い経験は信頼・継続的な受療を促進する一方、些細に見える対応の悪さが不信や受療中断につながることがあった。


  • clinical empathyとrelational continuityが、断片化を「安定化」する。自分の病歴を理解してくれる医療者、共感的に話を聞いてくれる医療者、他のサービスとの調整をしてくれる医療者の存在が、患者・家族の負担や不確実性を軽減していた。


というのがこの研究の論旨だと思います。


システム改善が必ずしも患者にとって改善になるとは限らず、効率化のためのデジタル化・標準化が、MLTC患者にはむしろ新たな適応を要求していること、逆に、「ちょっとした共感」「顔の見える継続的な関係」といった小さな相互作用が、システム全体の経験を大きく変えるというのが、まさに複雑系という感じです。

2026年9月23日水曜日

Greener practiceの実装

 Twohig H, Geddes O, Dale J, Dahlmann F, Earle J, Eccles A, Gregg M, Nunes AR, Spencer R, Karaba F, Thomas N, Atherton H. Factors influencing implementation of decarbonisation actions in general practice: longitudinal multi-centre case-study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 22. doi:10.3399/BJGP.2026.0143. https://bjgp.org/content/early/2026/09/22/BJGP.2026.0143

背景

 英国国民保健サービス(NHS)は2040年までにネットゼロを達成することを目指している。家庭医療診療所はその実現に重要な役割を担うと認識されているものの、脱炭素化の取り組みがどのように実装され、またその進展をどのように支援できるのかについては、十分に明らかになっていない。

目的


家庭医療診療所における脱炭素化の取り組みの実装に影響を与える、制度的、組織的、専門職上の要因を、時間経過とともに明らかにすること。


デザイン・セッティング

イングランドの12の家庭医療診療所を対象とした縦断的質的ケーススタディ。


方法

各診療所が、12か月間に実施する3~5個の測定可能な行動からなるGreen Action Plan(GAP)を作成した。ベースライン時のワークショップ、3か月ごとのフォローアップ「check-in」ディスカッション、最終フォーカスグループを通じて質的データを収集した。Normalisation Process TheoryおよびTheoretical Domains Frameworkに基づいてトピックガイドを段階的に作成し、Framework analysisを行った。


結果

 脱炭素化に影響を与える要因として、以下の5つのテーマが明らかになった。

制度的障壁(systemic barriers)

組織文化とコミュニケーション(culture and communication)

キャパシティと競合する業務(capacity and competing demands)

「実際に機能させること」(‘making it work’)

行動、態度、感情(behaviour, attitudes and feelings)

NHSのより広範な優先課題と整合する取り組みや、時間・費用の効率化につながる取り組みは、日常業務に組み込みやすかった。一方、個人の行動変容を必要とする取り組みや、外部システムに依存する取り組みは、実装がより困難であった。また、政策面での調整不足や、施設・インフラに対する診療所の管理権限の限界が、進展を妨げていた。


結論

診療所レベルでは、日常業務に組み込むことができ、効率化にもつながる取り組みが、最も実施しやすい。持続的な変化を支えるためには、国レベルでの指示的な政策と、システムレベルで調整された支援が必要である。すでに多くの業務上のプレッシャーが存在する中では、個人の行動変容は困難であるが、支援的な組織文化とチームでの協働が、その進展を促進しうる。


感想

Greener practiceの実践よりの研究で面白いです。実装をどうするかというのはいかなる時も課題ですね。

2026年9月22日火曜日

プライマリケアでACSを除外する

 van den Bulk S, Petrus AH, Willemsen R, Numans ME, Boogers MJ, Hermans MPJ, Meeder JG, Rahel B, Janssen M, Dinant G, Cobbaert CC, Bonten TN. Ruling out acute coronary syndrome in primary care: a diagnostic trial (POB-HELP). Br J Gen Pract. 2026 Sep 10. doi:10.3399/BJGP.2026.0167. https://bjgp.org/content/early/2026/09/10/BJGP.2026.0167


背景

プライマリ・ケアにおいて胸痛患者を正確にリスク層別化することは、患者安全を改善すると同時に、不必要な病院紹介を減らす可能性がある。


目的

高感度トロポニンI(hs-cTnI)とMarburg Heart Score(MHS)を組み合わせたclinical decision rule(CDR)について、プライマリ・ケアの胸痛患者における急性冠症候群(ACS)、特に心筋梗塞(MI)を除外する診断性能を評価し、通常診療と比較して紹介率を検討すること。


デザイン・セッティング

オランダのプライマリ・ケア診療所で実施されたcluster-randomised diagnostic trial(介入:対照=2:1)。


方法

急性胸痛を呈した患者を、家庭医がCDRを用いて評価した。CDRはMHSと、point-of-careで測定するhs-cTnI検査を組み合わせた。対照群の家庭医は通常診療を行った。

診断性能について、感度、特異度、NPV)、PPVを評価した。また、副次的評価としてmodified HEART scoreと、単回hs-cTnIによるrule-out strategyも評価した。


結果

合計827人が参加し、740人が介入群、87人が対照群であった。

CDRではACSを1例見逃した。ACSに対する感度は98.3%(95% CI 90.8–100%)、NPVは99.7%(95% CI 98.0–100%)だった。特異度は49.1%、PPVは14.1%だった。MIについては、感度 100%、NPV 100%であった。特異度は48.6%、PPVは11.9%だった。

一方、病院への紹介率は介入群54.6%、対照群47.1%で、両群間に有意差は認められなかった(P=0.39)。


結論

MHSとpoint-of-care hs-cTnI検査を組み合わせたCDRは、プライマリ・ケアにおいてACSおよびMIを安全に除外することができた。しかし、通常診療と比較して、病院紹介率には有意な差はなかった。


感想

まずはCDRの詳細を。MHS(Marburg Heart Score)+指先採血hs-cTnIで判定しています。

MHS ≤2 + hs-cTnI ≤3.8 ng/L→ ACSをrule out → 経過観察

どちらか一方が陽性→ ACSをrule outできない → 循環器医に相談

MHS ≥3 + hs-cTnI ≥3.9 ng/L→ ACSリスク高い → EDへ直接紹介

(hs-cTnIは指先採血で約8分で測定。)


MHSについては以下の通り

年齢・性別    :男性 ≥55歳、女性 ≥65歳で1点

心血管疾患の既往 :あれば1点

患者自身が「心臓が原因」と考えていれば1点

運動で胸痛が増悪  :あれば1点

触診で胸痛が誘発されなければ1点

MHS ≤2点 = low risk MHS ≥3点 = high risk 


本研究の重要ポイントとして、家庭医はこの予測ルールの推奨を無視することができるという点です。

つまり実際医は、CDRが経過観察を指示していても、医師の判断で紹介できますし、循環器に相談することが示唆されても家庭医の判断で経過観察にできます。

実際に、医師の臨床判断を一切入れずCDRだけで機械的に運用すると、rule outできたのは20%のみで、理論上の救急紹介率は80%になっておいます。


つまり、

CDRは安全に除外できるが、機械的に運用すると大量の患者を紹介する羽目になる。

家庭医の臨床判断は優秀で、経過観察で紹介せずに済んだ群がかなりいる。

ということですね。


そう考えると、abstractの結論の記載はだいぶmisleadingで、予測スコア使わず、引き続き医師が臨床判断したほうがいい、と私なら解釈するなと思いました。

2026年9月21日月曜日

喘息の診断を家で行う

 Wang R, Lawton K, Khatoon B, Smith J, Fowler SJ, Simpson A, Murray CM. Expectations and attitudes in primary care towards home-based testing for diagnosing asthma: a mixed-methods study. BJGP Open. 2026 Sep 8. doi:10.3399/BJGPO.2025.0260. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0260


背景

喘息は、診療所で行われる検査では喘息症状の自然な変動性を捉えきれないことがあり、しばしば誤診される。


目的

本研究では、早期のステークホルダー・エンゲージメントの一環として、携帯型スパイロメーターおよび呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を用いた在宅診断検査について、プライマリ・ケア医療従事者がどのように考えているかを検討した。


デザイン・セッティング

2段階のmixed-methods studyを実施した。

Phase 1では、イングランド北西部のプライマリ・ケア医療従事者を対象に2回のフォーカスグループを実施した。

Phase 2では、英国全土のプライマリ・ケア医療従事者を対象に、電子的な全国調査を実施した。


方法

フォーカスグループではnominal group technique(NGT)を用いて、在宅で喘息診断を行うための戦略について重要な優先事項を特定した。これらの結果をもとに、Phase 2の全国調査票を作成した。


結果

Phase 1のフォーカスグループには、21人のプライマリ・ケア医療従事者が参加した。在宅で喘息診断を行うことについて、利点、課題、実装を促進する要因が明らかになった。

Phase 2では、104人のプライマリ・ケア医療従事者がすべての質問への回答を完了した。回答者は幅広い人口学的背景を有し、勤務する診療所も社会経済的困窮度のさまざまなレベルにわたっていた。

在宅診断戦略が実行可能ではないと考えた回答者はわずか3.8%だった。

最も頻繁に挙げられた障壁は「デバイスの高コスト」であり、一方、「患者の参加・関与」と「デバイスへのアクセス可能性」が最も重要な促進要因として挙げられた。

また、多くの回答者が「より正確な喘息診断」を在宅診断の主要な潜在的メリットとして挙げた。


結論

携帯型スパイロメトリーとFeNOを用いた在宅での喘息診断は、調査結果からはプライマリ・ケア医療従事者に概ね好意的に受け止められている。ただし、その実装には多面的な課題が存在する。成功のためには、在宅検査をどのように提供し、支援するかについて、システムレベルでの変化が必要となる。今後は、検査の実行可能性と精度を評価し、その後、臨床的有効性および費用対効果を評価する予定である。


感想

診断の場を在宅に移行しようという取り組みだと認識しました。デバイスのアクセスが過大なのですね。そりゃそうですが。

2026年9月20日日曜日

救急対応が稀な家庭医療診療所における救急チェックリスト

Higham H, Maloney A, Greig PR, Shawcross E, Harbord P, Warren R, Thomas J. Checklists for emergencies in general practice: participatory design of a quick reference handbook. BJGP Open. 2026. doi:10.3399/BJGPO.2025.0268. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0268


背景
家庭医療診療所における救急対応の機会は増加している一方、診療所のスタッフが救急事態に対応する機会は数か月に一度しかないこともある。チェックリストなどの認知支援ツールは、病院内の救急医療の質を向上させることが知られているが、既存のツールは家庭医療診療所での使用には十分適していない。


目的

家庭医療診療所で遭遇する頻度の高い救急事態を明らかにし、より安全な対応のために、診療所に特化したチェックリストを共同開発すること。


デザイン・セッティング

家庭医療診療所に特化した救急チェックリストを参加型デザインによって開発し、多職種からなる家庭医療チームが実際の臨床現場でその使いやすさを評価した。


方法

多職種の専門家グループが、混合研究法による参加型アプローチを用いて、優先的に対応すべき救急事態を選定し、GP Quick Reference Handbook(GP-QRH)のためのチェックリストを作成した。29の家庭医療診療所で実施した現場シミュレーションを通じて、チェックリストの内容、レイアウト、使いやすさを反復的に改善した。


結果

最終版のGP-QRHには、15種類の臨床的救急事態に対するチェックリスト、非臨床スタッフ向けのチェックリスト1種類、構造化された申し送りテンプレート、および救急対応後のデブリーフィングのためのガイダンスが含まれた。11の家庭医療診療所で最終版を試験したところ、評価は一貫して肯定的であり、シンプルなデザイン、明確な言葉遣い、エスカレーションを促す目立つプロンプト、そしてチェックリスト使用に関するチームトレーニングの重要性が強調された。


結論

本研究では、プライマリ・ケアに特化し、実際の利用者と共同で開発した、家庭医療診療所のための初のクイック・リファレンス・ハンドブック(QRH)を開発した。その効果を発揮するためには、一貫した使用、地域レベルでのリーダーシップ、GPネットワークによる普及への取り組みが必要である。今後は、さらなるユーザビリティ評価、臨床的効果の検証、チェックリストの追加開発が必要であるが、このGP-QRHは、英国および国際的な家庭医療診療所における救急医療と患者安全を向上させる可能性がある。

感想
実際のチェックリストはこちらからアクセスできます。
チェックリスト開発のために様々なステップを経ており、同様の研究をする際の参考になると思います。

2026年9月19日土曜日

漏斗胸レビュー

 Odeh NB, Khedr AE, Zeineddine RM, Senjab A, Farina JM, Jaroszewski DE. Diagnosis and Management of Pectus Excavatum in Primary Care. J Am Board Fam Med. 2026;39(1). doi:10.3122/jabfm.2025.250122R1. https://www.jabfm.org/content/39/1/157903


漏斗胸(pectus excavatum: PE)は、胸骨が内側に陥凹する先天性胸壁変形であり、最も頻度の高い胸壁変形です。重症例では心肺機能に影響し、日常生活や運動能力を低下させることがあります。にもかかわらず、漏斗胸は単なる美容上の問題であり治療を必要としないと考えられることがあります。

プライマリ・ケア医はPE患者を最初に診察することが多いため、漏斗胸の診断、評価、治療適応、専門医への紹介について理解しておくことが重要です。

漏斗胸患者の症状には大きな個人差があり、無症状の場合もあれば、軽度の労作時呼吸困難から失神まで認める場合があります。また、症状は加齢とともに進行することがあります。PEの手術後には、QOLだけでなく心肺機能も改善し得ることが報告されています。


感想

見た目の変形が強くなくても心臓圧迫から労作時呼吸困難、運動耐容能低下、胸痛、動悸、めまいなどを呈することがあるようです。心エコー正常でも全く除外できないとのこと。

大したことないと思わず、専門医に紹介すべき疾患であると認識しました。

2026年9月18日金曜日

ハイブリッド型バーチャル在宅医療

 Bravata DM, Perkins AJ, Schwartzkopf AL, Myers LJ, Zhang Y, Damush TM, et al. Evaluation of Hybrid-Virtual Home Visits for Comprehensive Geriatric Management: A Quality Improvement Project. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10580-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10580-7?utm_source=chatgpt.com


背景

高齢者に対する在宅訪問はアウトカムを改善することが知られている。しかし、高齢者に多い身体的・認知的・技術的な障壁や、人員不足などの施設側の制約によって、老年医学的な在宅医療プログラムの対象を拡大することには限界がある。


目的

ハイブリッド型のバーチャル在宅訪問モデル(TeleGRACE)の有効性を評価すること。


デザイン

傾向スコアによる重み付けを用いた観察コホート型の質改善(quality improvement)プロジェクト。


対象

米国退役軍人省(VA)の1施設において、入院または救急外来(ED)受診後の老年症候群を有する地域在住高齢者。


介入

患者宅にはtelehealth technicianが訪問し、看護師とソーシャルワーカーからなる老年医学チームが遠隔から参加するハイブリッド型の在宅訪問を実施した。


主な評価項目

TeleGRACEへの登録後90日および1年以内の、全死亡、ナーシングホームへの入所、再入院、救急外来受診。


主な結果

TeleGRACE群76人、通常ケア群319人を比較した。TeleGRACE群では、通常ケア群と比較して、90日以内にさまざまな臨床サービスを受ける割合が高かった。例えば、補助具の提供は78.7%対18.9%であった(p<0.001)。傾向スコアによる逆確率重み付け(IPW)解析では、1年間のナーシングホーム入所リスクはTeleGRACE群で低かった(HR 0.20、95% CI 0.07–0.53)。一方、ED受診リスクは90日(HR 1.32、95% CI 1.02–1.72)および1年(HR 1.28、95% CI 1.04–1.76)でTeleGRACE群の方が高かった。入院および死亡については、両群間に差は認められなかった。


結論

ハイリスクの地域在住高齢者に対して、ハイブリッド型の在宅訪問モデルは、ケアやアウトカムを改善する可能性がある。特にナーシングホームへの入所を減らす効果については、今後の研究による検証が必要である。


感想

この結果を受けての結論が「ケアやアウトカムを改善する可能性がある」は少し言い過ぎではないかという気がします。ただ、ED受診の回数が増えるのは、決してネガティブな結果ではないというのは、確かになぁと思うところではあります。こうやってちゃんと活動をpaperにするのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月17日木曜日

知的/発達障害者の予防医療の不公正

 Santra R, Pulukuri S, Sharma N. Inequities in preventive care for adults with intellectual and/or developmental disability in the USA: a narrative review. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10807-7. https://doi.org/10.1007/s11606-026-10807-7


40代の女性姉妹を2人とも診療しているプライマリ・ケア医を想像してみたい。1人はDown症候群があり、もう1人にはない。Down症候群のない姉妹は、国内のガイドラインに従って子宮頸がん検診(Pap smear)を定期的に受けていた。一方、Down症候群のある姉妹については、「検査に容易には耐えられないだろう」という思い込みから、検診が繰り返し延期されていた。子宮頸がんのリスクを心配した姉妹は、障害のある人への診療を専門とする婦人科クリニックに妹を連れて行った。そこでは、写真を用いた説明や、慎重に配慮した抗不安薬の使用といった簡単な工夫が行われた。その結果、妹は推奨されていた時期から20年遅れて、初めてPap smearを受けることができた。幸いにも、HPVおよび子宮頸部異形成は陰性であった。この患者レベルでの実例は、集団レベルでも広く存在する問題、すなわち知的障害および/または発達障害(intellectual and/or developmental disabilities: IDD)を持つ人々における予防医療の不平等を示している。これまでの研究から、IDDのある人々では、ワクチン接種や、乳がん・子宮頸がん・大腸がんの検診といった一次予防・二次予防の実施率が、一般人口より低いことが示されている。しかし、こうした人々が予防医療を必要とする程度は一般人口と同等、あるいはそれ以上である。実際、これらのがんでは、より進行した段階で診断され、死亡率も高いことが報告されている。本ナラティブレビューでは、米国のIDD成人における予防医療の利用格差について検討し、患者、臨床医、医療システムという3つのレベルにおける障壁について記述する。さらに、代替的なスクリーニング方法や、医療提供モデルなど、アクセスを拡大するための可能な戦略について検討する。修正可能な障壁を認識し、それらに対処することは、この集団における予防可能な罹患および死亡を減らすために不可欠である。


感想

本文の要点は以下の通り。

IDDのある成人では、ワクチン接種や乳がん・子宮頸がん・大腸がん検診などの予防医療を受ける割合が、一般人口より明らかに低い。

その結果、IDDのある人では予防可能な疾患による死亡や、より進行した段階でのがん診断が多い。乳がん・大腸がんでは、診断時に転移している割合やがん死亡率も高い。

障壁は患者側だけではない。感覚過敏、コミュニケーション困難、移動・費用・介護者の負担に加え、医療者の知識不足や「この患者には検査は難しいだろう」という思い込みが、予防医療へのアクセスを妨げている。

対策として、写真や絵を使った説明、長めの診療時間、静かな環境、鎮静など、患者に合わせた合理的配慮が重要。標準的な検査が困難な場合には、FIT、乳房超音波、スペキュラムを使わないPap smearなどの代替手段も検討できる。ただし、代替検査は感度・特異度を犠牲にする場合があり、標準検査が本当に困難な場合に限定して考えるべきとされている。

医療者側では、IDDに関する教育を医学教育・研修医教育に組み込み、障害者差別や診断の思い込みを減らす必要がある。同時に、IDD診療に必要な追加時間・労力に見合う診療報酬など、制度的支援も必要。

個々の医師の努力だけでは限界があり、IDDを対象とした定期的な包括的健康チェックを制度化することが有効な可能性がある。カナダや英国では、標準化されたannual health checkによって、がん検診や慢性疾患スクリーニングの実施率が改善している。

さらに、在宅プライマリ・ケア、地域での予防医療、個別化された予防接種環境など、患者が医療システムに合わせるのではなく、医療システムを患者に合わせるモデルが紹介されている。


制度面を改革する必要があります。最近成人のDown syndromの方のフォローが増えたのですが、採血一つとってもなかなか大変だと痛感しております。

2026年9月16日水曜日

コミュニティハブのケアの効果

 Bailey JE, Ogunsanmi DO, Mahmud S, Kabir UY, Boykins AM, Butterworth SW, et al. The Neighborhood Health Hub Model: Extending Primary Care into Medically Underserved Neighborhoods to Improve Health Equity. J Gen Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.1007/s11606-026-10764-1. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10764-1


背景

医療サービスが十分に行き届いていない地域(medically underserved neighborhoods)にプライマリ・ケアを拡張するために、health coachを配置することの実現可能性については、十分な研究がなされていない。


目的

重要な予防医療サービスを住民が便利に利用できるようにする、革新的で、患者中心で、場所を基盤とした(place-based)、近隣地域レベル(neighborhood-level)で提供するアプローチである「Neighborhood Health Hub Model」を実施した初期経験を評価すること。


セッティング

米国テネシー州メンフィス/シェルビー郡。


参加者

2022年1月から2024年6月までにNeighborhood Health Hubの施設を利用した成人。


プログラムの概要

Health Hubには、地域から採用されたlay health coachが配置され、動機づけ面接の訓練を受け、遠隔医療で接続された医療専門職の監督を受けた。

提供されたサービスには以下が含まれた。

肥満、高血圧、糖尿病、社会的決定要因のスクリーニング

慢性疾患管理のための個別およびグループでのhealth coaching

医療、行動・心理面、社会的ニーズに対する紹介


プログラム評価

合計1,252人の利用者がサービスを受け、そのうち1,151人がhealth coachingを受けた。383人(31%)は2回以上のcoaching sessionに参加し、合計3,367回のcoaching sessionと2,951回のgroup visitが実施された。

肥満のある利用者では、平均体重変化は−3.32ポンド(95% CI −5.72~−0.92)であった。

高血圧のある利用者では、収縮期血圧の平均変化は−15.17 mmHg(95% CI −19.64~−10.69)であった。

また、health coachingのセッション数が多いほど、体重減少が大きいことと有意に関連していた。


考察

Neighborhood Health Hub Modelを広く普及させることで、全米のhealth equityの改善につながる可能性がある。


感想

改善したというだけでは、平均への回帰(使い方あってるかなぁ。数字が悪い人がHubに行くから何もしなくても再度計測すれば少し良くなって見える)ではという気もしますが、セッション数に依存して体重が減少することも示しているので、確かに効果あるのだなとわかります。費用対効果を知りたいところですね。普通に家庭医かNPが一人いればOK、ではないことを知りたいと思いました。

2026年9月15日火曜日

電子カルテをデザインするだけでは不十分

 Owens-Jasey C, Gunn R, Cook N, Fein HL, Pisciotta M, Fee C, et al. Community Health Center Adoption of Enabling Technologies to Address Contextual Drivers of Health for Care-Managed Patients: Formative Evaluation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 10. doi:10.1007/s11606-026-10735-6. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10735-6


背景

ケアマネジメント・プログラムでは、食料、住居、交通など、健康に影響を与えるcontextual driversに対応するための新たな戦略が検討されている。電子カルテ(EHR)を基盤としたケアマネジメントツールは、こうした要因のスクリーニングや、特定されたニーズへの対応のための紹介を支援することができる。しかし、地域医療センター(community health centers: CHCs)のケアマネジャーが、このような支援技術をどのように導入し、活用することができるのかについては、十分に明らかになっていない。


目的

CHCのケアマネジメント担当者が、患者のcontextual driversに対応するために、統合型モジュールを含むEHRツールを現在どのように利用しているかを明らかにすること。得られた結果を、こうしたツールの導入を促進するための実装戦略の開発に活用することを目的とした。開発された戦略は、今後、試行・改良された後、無作為化試験で評価される予定である。


研究デザイン

人間中心設計の原則に基づく形成的評価


参加者

複数州にまたがるヘルスセンター・ネットワークから、ケアマネジメント担当者11名および専門家5名。


アプローチ

半構造化インタビューを実施し、その後、rapid qualitative analysisを用いて、EHRツールを利用してcontextual driversに関連するケアを調整する際の、文脈的要因、障壁、実装戦略について検討した。


主な結果

一部のEHR機能(例えば、スクリーニング用フローシートやアラート)は、スクリーニング結果の記録に利用されていた。

一方、contextual driversに関連するケアの調整にケアマネジメント・モジュールを利用する際には、いくつかの課題があった。例えば、紹介内容を記録するための構造化された入力欄がEHRにないなど、EHRツール自体の限界があった。また、患者を適切なサービスへ紹介し、その後のフォローアップを行うための十分なトレーニングも不足していた。

参加者は、こうしたツールを効果的に活用するためには、組織のリーダーシップによる支援、実践的なトレーニング、そしてヘルスセンターが提供するサービスやケアマネジメントに対する報酬要件に合わせたケアプランのカスタマイズが必要であると強調した。


結論

EHRを用いたケアマネジメントツールには、contextual driversに関連するケアの調整を支援する可能性がある。しかし現在は、こうしたツールを効果的に利用することを妨げる障壁が存在している。対象を絞った実装支援によって、これらの障壁を取り除き、ツールの導入・活用を促進できる可能性がある。


感想

カルテのシステムを作るだけではダメとのことですね。最終的にはそれができる人を育成する必要があります。

2026年9月14日月曜日

関節リウマチ(JAMA review)

 Smolen JS, Kerschbaumer A, Aletaha D, Robinson WH. Rheumatoid Arthritis in Adults: A Review. JAMA. 2026 Sep 10. doi: 10.1001/jama.2026.15455. 


重要性

関節リウマチ(RA)は、軟骨および隣接する骨に炎症と破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患であり、不可逆的な身体障害につながる可能性がある。関節リウマチは世界の成人の0.53%、米国成人の0.74%にみられる。


観察

関節リウマチは男性より女性に多く、男女比は約2:1であり、発症のピークは55~75歳である。RAはすべての滑膜関節に生じる可能性があり、関節外病変としてリウマチ結節、血管炎、リウマチ肺疾患などを認めることがある。

診断時には、約40~60%の患者で自己抗体(リウマトイド因子および/または抗シトルリン化ペプチド抗体)が認められる。RAには正式な診断基準は存在せず、臨床経過、近位指節間関節・中手指節関節・手関節などの特徴的な関節腫脹、自己抗体の存在、C反応性蛋白(CRP)上昇などをもとに診断する。

早期診断、理想的には症状発現から6週間以内に診断することで、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)による治療を速やかに開始でき、炎症を抑制して関節破壊のリスクを低下させることができる。

治療目標は、3か月までに疾患活動性を少なくとも50%改善させ、6か月までに寛解または低疾患活動性を達成することであり、Clinical Disease Activity Index(CDAI)などの妥当性が確認された指標を用いて評価する。

European Alliance of Associations for Rheumatology(EULAR)は、メトトレキサートを開始し、7.5~10 mg/週から4~8週間かけて20~25 mg/週まで増量することを推奨している。また、短期間の糖質コルチコイド(例:プレドニゾン5~7.5 mg/日)を追加し、3か月以内に漸減・中止すること、あるいはデポ型メチルプレドニゾロン80~160 mgの筋肉内投与を検討することを推奨している。

メトトレキサートが禁忌の場合には、スルファサラジン(2~4 g/日)またはレフルノミド(20 mg/日)が推奨される。

治療により、新たに診断されたRA患者の約40%が6か月以内にCDAI寛解を達成する。初回DMARD治療で寛解に至らない患者には、生物学的DMARD(腫瘍壊死因子α阻害薬、共刺激阻害薬、インターロイキン6受容体阻害薬、B細胞を標的とする抗CD20薬など)、または血栓塞栓症、心血管疾患、悪性腫瘍のリスクが高くない患者ではJAK阻害薬を追加する。これにより、寛解または低疾患活動性を達成する患者の割合は全体で約80%まで上昇する。


結論と関連性

関節リウマチは関節破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患である。初期治療の第一選択薬はメトトレキサートであり、糖質コルチコイドの追加を検討する。初期治療で寛解に至らない患者では、生物学的DMARDまたはJAK阻害薬を追加することで、寛解または低疾患活動性を達成する割合は約80%に上昇する。


感想

つい最近、抗体陰性だけどどう考えてもRAという方を専門家に紹介しました。やはりRAとして治療が開始されていました。

RAでは自己抗体が存在する患者は約40~60%で、CRP陰性でも否定できないとのことで、このレビューでは、特定の検査に依存せず臨床的に炎症性関節炎を捉えなさいと主張しています。

専門家はエコーをよく使っていますよね。初期病変の描出に優れており、多疾患との鑑別にも有用だと理解していますが、本レビューでもEULARでも、エコーでの異常所見は必須ではなく、あくまで臨床判断だということになっています。とはいえ、エコーは診断だけでなくマネジメントにも有用であるとのことです。http://www.elsevier.es/en/linksolver/pdf/pii/S1699-258X(16)30106-1


MTXがキードラッグなのは言うまでもなく、

MTXが使えない(禁忌・早期忍容性不良)ならスルファサラジンorレフルノミド

MTXは使えるが治療目標未達ならbiologic DMARDまたはJAK inhibitorを追加

という整理がなされています。

日本リウマチ学会の診療ガイドラインhttps://academic.oup.com/mr/article/29/1/31/6299805?utm_source=chatgpt.com&login=false によると、妊娠、MTX過敏症、重症感染症、重度の血液・肝・腎・呼吸器障害などが禁忌で、さらに日本人の多くは16mg/wに耐えられないとのことです。


私の診療圏だと、近くにリウマチセンターがあるので、疑えば紹介、少なくとも治療の導入はお願いする、というのが多いです。

一方、特にADLの低下した高齢者や在宅患者で、移動の制限等で紹介できず自分で治療を開始せざるを得ない場合があり、必然的に複雑事例のマネジメントを行わなくてはならないということがあります。close follow-upで少量ずつ薬を試すしかないですし、一般的なケースとは治療による達成目標が変わる点を注意しています。

2026年9月13日日曜日

正常結果を患者が受け止める際の医師の有能さと温かさ

 Kube T, Seewald A. Influence of Physician Behaviors on How Patients Interpret Normal Test Results. Ann Fam Med. 2026 Sep;250671. doi:10.1370/afm.250671. https://www.annfammed.org/content/early/2026/08/21/afm.250671


目的

「重大な問題はありません」と患者を安心させることは、家庭医療において最も一般的な介入の一つである。しかし、医学的な安心づけがうまく機能しないこともあり、その際に医師の行動がどのような役割を果たすのかは、まだ明らかではない。本研究では、医師の「温かさ(warmth)」と「能力(competence)」が、診断検査で正常な結果が示された際の患者の反応に、それぞれ独立して有意な影響を与えるという、事前登録された仮説を検証した。


方法

中程度の身体症状負担を報告したオンラインの便宜的サンプル(N=349、平均年齢29.9歳、女性79%)を対象に、実験的アナログ研究を実施した。参加者はまず症状に関するビネットを提示され、その後、医師が診断検査の結果を説明する場面を撮影した動画を視聴した。医師は「異常は確認されなかった」と説明した。診断情報そのものはすべて同一とした一方で、医師の行動については、温かさ(高 vs 低)と能力(高 vs 低)が異なるように操作した。


結果

医師が高い温かさと高い能力を示した場合、参加者は「重大な疾患である可能性」を有意に低く評価した。さらに、高い温かさと能力は、「別の医師の意見を聞きたい」「追加の検査を受けたい」という希望が低下するなど、その他のアウトカムの改善にもつながった。媒介分析では、温かさと能力の効果は、参加者が診断情報をどの程度、認知的に価値づける(あるいは価値を下げる)かによって調整されることが示された。


結論

患者にとって、診断情報はそれ自体だけで意味を持つわけではない。医師の行動が、患者がその情報をどのように受け止め、統合するかを決定するうえで重要な役割を果たしている。高い温かさと能力を示すことは、患者が医師を信頼し、それに応じて自身の病気に対する認識を適切に更新することを助ける可能性がある。


感想

面白いテーマで、研究デザインは発想としては自然ですね。

primary outcomeである、「重大な疾患である可能性」をみても、医師の能力でCohen's d=0.439、温かさでCohen's d=0.281であり、相乗効果は見られておりません。「優しい医師」であることより、「有能で信頼できそうな医師」であることの方が、正常検査結果を受け入れることに強く影響したということですね。その他のアウトカムを診ると、温かさは貫して患者の反応に影響しており、有能さは特に「診断情報を信頼する」「追加検査を求めない」に強く影響しています。

媒介変数としてCognitive immunization(自分の病気に関する元々の信念と矛盾する診断情報を、価値の低い情報として退ける傾向)を仮定、つまり、正常検査結果→でもこの検査は信用できないのでは?→正常結果を受け入れない、というパスを仮定し、Cognitive Immunization against Medical Reassurance scaleというスケールで測定しています。媒介分析で、有能さと温かさのどちらにおいても媒介が有意に検出されています。

その他、実際に患者の知覚した有能さ、温かさでの分析(温かく見える医師は有能にも見えてしまうというspilloverが観測されています。これは結果の解釈において重要な点)をしたり、ベイズ解析を行ったりしており、統計解析をかなりrobustに行っています。AFMに採用されるpaperはここまでするのだなととても参考になりました。

2026年9月12日土曜日

持続血糖モニタリングの医療格差

 Milosavljevic J, Schechter C, Fazzari M, Mathias P, Mathew J, Agarwal S. Inequity in continuous glucose monitor (CGM) prescribing behaviors in primary care. J Gen Intern Med. 2026 Jan 13. doi:10.1007/s11606-025-09923-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-025-09923-7


背景

持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM)は糖尿病管理の標準的な治療手段となっているが、糖尿病患者の大部分を診療するプライマリ・ケアにおいて、その導入は依然として限定的である。プライマリ・ケアにおけるCGM処方に関連する要因を検討することで、糖尿病診療全体の健康アウトカムを改善するための新たな介入標的を特定できる可能性がある。


目的

11,000人以上のインスリン治療中2型糖尿病患者を診療するセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、プライマリ・ケア医(PCP)によるCGM処方に関連する要因を明らかにすること。


方法

後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、ニューヨーク州ブロンクスのセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、2020年7月31日から2023年7月31日の間に少なくとも1回プライマリ・ケアを受診した、インスリン治療中の2型糖尿病成人患者とした。主要アウトカムは、PCPによる初回CGM処方とした。多変量解析には原因別Cox回帰を用い、死亡および内分泌科によるCGM処方を打ち切りイベントとして扱った。


結果

インスリン治療中の患者11,037人(平均年齢61±14歳、女性56%、ヒスパニック系44%、非ヒスパニック系黒人39%)のうち、17%がプライマリ・ケアで初回CGM処方を受けた。月あたりの新規CGM処方率の中央値は3.1%(2.8–3.3%)であった。高齢患者、スペイン語話者、公的医療保険加入者では、CGMが処方される可能性が低かった。一方、HbA1c値が高い患者、より強化されたインスリン治療を受けている患者、および診療経験年数の長い医療者から診療を受けている患者では、人種・民族にかかわらずCGMが処方される可能性が高かった。


結論

プライマリ・ケアにおけるCGM処方率は依然として低く、若年、英語話者、民間医療保険加入者、および経験年数の長い医療者による診療を受ける患者に有利な不公平が認められた。CGM処方を増加させるためには、診療ワークフローの効率化、言語や年齢に応じたトレーニング支援、研修医教育における課題に取り組む必要がある。CGM処方における不公平に対処することは、プライマリ・ケアにおける糖尿病診療の質を高め、十分な医療を受けにくい糖尿病患者におけるアウトカムの格差が連鎖することを防ぐための重要な第一歩である。


感想

CGMは格差を助長するのではないかと疑問に思っており、自分で小規模な研究をしようかなと思っていたのですが、大規模な研究が出ましたね。どうやったら必要な患者に必要なケアが届くかという命題は常に考えなければなりません。

2026年9月11日金曜日

素敵なケースレポート

 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.70177


とても素晴らしいケア実践のケースレポート。こういうことができる家庭医になりたい。
おそらく、この患者さんがやってきた→外来担当医が勉強してケアを実践、という時系列だと思うんですよね。目の前にいる患者が自分の専門である、という家庭医の本懐を体現しています。素敵。

再発性尿路感染が患者生活に与える影響

 Glogowska M, Moore M, Hay AD, Butler CC, Hayward G. The impact of recurrent urinary tract infections in women: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 May 14:BJGP.2025.0699. doi:10.3399/BJGP.2025.0699. https://bjgp.org/content/early/2026/09/06/BJGP.2025.0699


背景

多くの女性が再発性尿路感染症(recurrent urinary tract infection: rUTI)を経験しているが、罹患した女性にとってrUTIがどのような意味を持つのかについては、十分に記述・理解されていない。


目的

女性が経験するrUTIと、それが女性の生活に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。


研究デザイン・設定

臨床的にrUTIと定義された女性を対象とした、D-マンノースに関する英国のRCTに組み込まれた質的研究。


方法

RCTに参加した32人の女性を対象に、半構造化電話インタビューを実施した。インタビューは録音し、逐語的に文字起こしした。データはテーマ分析によって分析した。


結果

女性たちは、rUTIの経験が身体的に苦痛で消耗させる症状をもたらすだけでなく、生活全般にも広範な支障を及ぼす負担の大きい経験であると語った。rUTIは人生のさまざまな段階に影響を及ぼしており、その影響には2つの側面が認められた。

内在化された影響(internalised impact)には、rUTIに対する感情的な反応、再発への恐怖、そして再発に対処できるよう常に備えておくことが含まれていた。

外在化された影響(externalised impact)には、再発を極めて警戒すること、再発が疑われるとすぐに医療機関に助けを求めること、そしてその過程で直面するさまざまな困難が含まれていた。

また、女性たちは、医療者(HCP)に相談した際の医療者側の対応が、その後の受診行動や自己評価に影響し、ときには無力感につながることを説明した。


結論

rUTIを経験することで、女性たちは自身の状態に対して警戒し、積極的に対処するようになっていた。しかし、そのような女性自身の理解や対応力が、医療者からの理解や承認によって必ずしも支えられているわけではなかった。rUTIを経験している女性が医療機関を受診した際には、臨床医はrUTIそのものだけでなく、女性が経験しているより広範な影響、すなわち内在化された影響と外在化された影響の双方を考慮することが有用である。


感想

8/17に紹介したBJGPOの再発性尿路感染症の研究と類似していますが、こちらは尿路感染が引き起こす生活全般の影響について探索しています。RCT研究と同時に行われた質的研究ですね。家庭医にとって重要なテーマだと思います。

2026年9月10日木曜日

アルコール使用障害入院患者を外来につなげる

 Bernstein EY, Hills-Dunlap K, Challapalli A, Bero L, Calcaterra SL, et al. Interventions to improve outpatient follow-up for hospitalized patients with alcohol use disorder: a systematic review. Ann Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.7326/ANNALS-26-01312. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-26-01312


背景

アルコール使用障害(alcohol use disorder: AUD)による入院は多く、重大な健康上の問題と関連している。退院後の外来フォローアップは重要であるが、入院中にどのような介入を行えば、退院後に外来治療へつなげられるのかについては明らかになっていない。


目的

AUDで入院した患者に対して、退院後の外来フォローアップを改善することを目的として、病院で実施される介入の有効性を評価すること。


情報源

複数の電子データベースを検索し、AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための介入を評価した研究を検索した。


研究選択

AUDによる入院後の外来フォローアップを改善することを目的とした、病院ベースの介入を評価した研究を対象とした。


データ抽出・統合

研究の特徴、介入内容、比較対象、フォローアップのアウトカムおよび研究の限界についてデータを抽出した。介入内容とアウトカムには大きな異質性が認められたため、結果を定量的に統合することには限界があった。


結果

17研究、合計12,000人以上の患者を対象とし、21種類の介入を評価した。17研究のうち、12研究はランダム化比較試験、3研究は非ランダム化試験、2研究はコホート研究であった。

介入の多くは、複数の要素を組み合わせたものであり、例えば、

行動カウンセリング

ケア・コーディネーション

AUDに対する薬物療法

社会的支援

電話による退院後のフォローアップ

予約のリマインダー

外来医療へのナビゲーション

などが含まれていた。

21種類の介入のうち、8種類では退院後の外来治療へのフォローアップを改善する効果が認められた。一方で、研究間で介入内容や評価方法が大きく異なっており、効果の大きさも一貫していなかった。

また、ランダム化比較試験の12研究のうち10研究は、バイアスのリスクが高いと評価された。全体として、エビデンスの確実性は非常に低かった。


限界

研究間で、対象患者、介入内容、アウトカムの定義、研究方法が大きく異なっていた。また、多くの研究でバイアスのリスクが高く、どの介入が最も有効なのかを明確に判断することは困難であった。


結論

AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための病院ベースの介入については、現在のエビデンスは限定的である。いくつかの介入では外来治療へのつながりを改善する可能性が示されたものの、研究間の異質性が大きく、エビデンスの確実性も非常に低かった。今後は、どのような介入の構成要素が退院後の外来治療への移行を効果的に促進するのかを明らかにするため、より大規模で質の高い臨床試験が必要である。


感想

効果の合った介入をまとめると、退院時に単に『外来へ紹介する』だけでは不十分で、患者の動機づけ・家族/peer支援・薬物療法と、退院後の具体的なケアコーディネーションを組み合わせることで、外来治療への接続が改善する可能性がある、と結論できそうです。単独では効果が立証されていないものが多く、組み合わせないといけないようですね。手間暇がかかります。

2026年9月9日水曜日

肺がん検診を促すシステム

 Wernli KJ, Anderson ML, Palazzo L, Luce C, Bezman N, Rogers K, et al. Health communication and stepped reminders interventions for lung cancer screening: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2026 Aug 10. doi:10.1001/jamainternmed.2026.3666. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2852476


Key Points

問い:複数のレベルに存在する障壁に対処する介入によって、毎年の肺がん検診の受診率は改善するのか?


知見:1,837人を対象としたランダム化臨床試験において、shared decision-makingに加えて健康情報を提供する介入を行っても、肺がん検診の継続受診率は改善しなかった。

一方、プライマリ・ケア医と患者の双方を対象としたシステムレベルのリマインダーによって、肺がん検診の受診率は向上した。特に、現在喫煙している患者でその効果が大きかった。


意味:プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムでは、適切なタイミングで、

プライマリ・ケア医には「低線量CTをオーダーするよう」リマインドする

患者には「低線量CTを予約するよう」リマインドする

という多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効だった。


重要性

米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force: USPSTF)は10年以上にわたり、毎年の肺がん検診を推奨している。しかし、毎年の検診を継続して受ける割合は依然として低い。


目的

ガイドラインに沿った毎年の肺がん検診の継続受診率を高めるため、患者中心の多層的な介入を2種類実施し、その効果を検証すること。


研究デザイン、実施場所、対象者

Kaiser Permanente Washingtonにおいて、プラグマティックな2×2要因ランダム化臨床試験を実施した。

2022年11月21日から2024年4月5日までに、肺がん検診を受け、画像上正常所見であった患者を対象とした。最終フォローアップ日は2025年7月4日であった。データ解析は2025年7月から12月に行われた。


介入

4群を設定した。

通常診療群

Health Communication群

Stepped Reminders群

両方の介入を行う群


Health Communication介入では、印刷物および動画による情報提供を行い、患者が肺がん検診について十分な知識を持っていないことによる障壁に対応した。

Stepped Reminders介入では、プライマリ・ケア医が肺がん検診の画像検査をオーダーできるようにするとともに、患者に検査の予約を促すアウトリーチを行った。

両方の介入は、電子健康記録のレジストリを利用するシステムレベルの肺がん検診コーディネーターによって実施された。


主要評価項目

主要評価項目は、基準となる低線量CT検査の9~15か月後に、肺がん検診として低線量CT検査または胸部CTを完了したかどうかであった。

毎年の検診対象となったすべての参加者をmodified intention-to-treat解析に含めた。肺がんと診断された場合、死亡した場合、予定より早くLDCTまたは胸部CTを受けた場合、または健康保険から脱退した場合には、その時点で追跡を打ち切った。


結果

1,837人が試験に参加した。平均年齢は66.3歳(SD 6.5)で、897人(48.8%)が女性、940人(51.2%)が男性であった。現在喫煙していた人は875人(47.6%)であった。

参加者は、

通常診療群:459人

Health Communication群:460人

Stepped Reminders群:460人

両介入群:458人

に無作為に割り付けられた。


年間肺がん検診の受診率は、Health Communication介入を受けた群では59.2%(804人中476人)であり、介入を受けなかった群の63.3%(815人中516人)より4.7ポイント低かった。相対リスクは0.93(95% CI, 0.86–1.00、P=0.04)であり、Health Communication介入による受診率の改善は認められなかった。

一方、Stepped Reminders介入を受けた群の年間検診受診率は75.5%(800人中604人)で、介入を受けなかった群の47.4%(819人中388人)より27.7ポイント高かった。相対リスクは1.59(95% CI, 1.47–1.72、P<0.001)であった。


さらに、Stepped Remindersの効果は現在喫煙している患者で特に大きかった。

現在喫煙者:介入あり73.0% vs 介入なし41.2% リスク差:32.3ポイント(95% CI, 25.9–38.8)

過去喫煙者:介入あり77.8% vs 介入なし52.9% リスク差:24.1ポイント(95% CI, 18.1–30.0)

この効果の違いは統計学的にも有意であった(P for interaction=0.03)。


結論・意義

このランダム化臨床試験では、適切なタイミングで、PCPにはLDCTをオーダーするよう、患者には検査を予約するよう促す多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効であった。

特に、プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムにおいて、このような介入は有効である可能性が示された。


感想

患者要因だけではなく医療者要因にも介入することの有用性を示した研究だと思います。

2026年9月8日火曜日

Teach-backの有効性

 Vick JB, Pace R, Klimek-Johnson P, Rushton S, Roberts M, Lewinski A, et al. Teach-back in clinical communication: a systematic review and meta-analysis. J Gen Intern Med. 2026 Sep 3. doi:10.1007/s11606-026-10678-y. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10678-y


背景

Teach-backは、医療者が患者に伝えた情報を患者自身に説明し返してもらうことで理解度を確認する、臨床コミュニケーションの方法である。本研究では、臨床コミュニケーションにおけるteach-backの有効性に関する既存研究を統合し、特に患者の知識、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスに及ぼす影響を検討した。

方法

teach-backの有効性を検討したランダム化比較試験を対象として、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。18件のランダム化比較試験を含め、teach-backが患者の知識獲得、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスなどに及ぼす影響を評価した。

結果

teach-backによって患者の知識獲得が明確に改善するというエビデンスは得られなかった。一方、teach-backは自己効力感および健康行動へのアドヒアランスを有意に改善することが示された。ただし、これらのエビデンスの確実性は低かった。

結論

Teach-backは、患者の知識獲得を改善する効果については明確ではないものの、自己効力感や推奨される健康行動へのアドヒアランスを改善する可能性がある。今後は、teach-backを日常診療に効果的かつ持続的に導入するための方法や、どのような臨床場面・患者において最も有用なのかを明らかにする研究が必要である。


感想

teach-backを臨床でしたことはないです。どうやって良好なコミュニケーションをとりながらteach-backできるかのイメージがわかないです。知識を伝授するという診療スタイルではないからかもしれません。ですが、口頭で受けた専門的な説明を患者さんがいつも理解できているとは当然思っておらず、認識の齟齬をどのように確認したらいいのかについては考えなくてはならないなと思っています。

2026年9月7日月曜日

一人暮らし高齢者の食事

 Noh HY, Seo KI, Kim KH. Differences and determinants of dietary intake according to living arrangements in older adults: a cross-sectional study using the 2019, 2021, and 2023 Korea National Health and Nutrition Examination Surveys. Korean J Fam Med. 2026 Jun 26. doi:10.4082/kjfm.25.0331. https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4893


背景

高齢者の栄養状態は、居住形態と密接に関連しており、社会的支援や食料へのアクセスを反映している。本研究では、独居高齢者と他者と同居している高齢者の食事摂取量を比較するとともに、栄養素摂取量に影響を及ぼす主要な社会経済的、行動的、心理社会的要因を明らかにすることを目的とした。


方法

2019年、2021年、2023年の韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey: KNHANES)のデータを用いた。65歳以上の高齢者を、居住形態に基づいて「独居」と「他者との同居」に分類した。食事摂取量は24時間食事思い出し法(24-hour dietary recall)によって評価した。1日のエネルギーおよび栄養素摂取量について、年齢で調整した共分散分析(analysis of covariance)を用いて群間比較を行った。また、居住形態別に、エネルギーおよび栄養素摂取量と関連する要因を検討した。


結果

独居高齢者では、他者と同居している高齢者と比較して、1日のエネルギー、炭水化物、タンパク質、脂質、カルシウムの摂取量が有意に低かった(すべてP<0.05)。

非独居群では、喫煙状況、QOL、食料の豊富さ(food abundance)がエネルギーおよび栄養素摂取量の主要な決定因子であった。一方、独居高齢者では、経済活動、喫煙状況、食料の豊富さが最も影響の大きい要因であった。


結論

居住形態は、韓国の高齢者の食事摂取量に影響を及ぼす重要な文脈的要因である。 食料へのアクセス・食料安全保障を改善し、社会参加を促進する栄養支援プログラムによって、こうした格差を軽減し、健康的な加齢を支援できる可能性がある。


感想

重要な疫学的調査だと思います。

2026年9月6日日曜日

英国の終末期ケアのフレームワークをブルネイに適用する

 Chong JX, Teo SP, Husaini A, Venkatasalu MR. Gold Standards Framework to identify palliative care needs in primary care: a qualitative study of implementation in Brunei Darussalam. Korean J Fam Med. 2026 Aug 25. doi:10.4082/kjfm.26.0170. https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4905


背景

プライマリ・ケアにおいて、緩和的アプローチから恩恵を受ける可能性のある患者を早期に特定することは、依然として困難である。Gold Standards Framework(GSF)は、人生の最終段階に近づいている可能性のある患者を特定するための体系的なアプローチを提供する。しかし、英国以外のプライマリ・ケアの現場においてGSFがどのように実装されているかについては、十分に明らかになっていない。

本研究では、ブルネイ・ダルサラームのプライマリ・ケアにおいて、GPがGSFの予後指標ガイダンスを用いて緩和ケアニーズのある患者を特定した経験を明らかにすることを目的とした。


方法

本研究は、プライマリ・ケアにおけるGSFの使用を評価した、より大規模な混合研究法プロジェクトの一部として実施された質的研究である。

構造化された研修ワークショップを受講した後、日常診療でGSFを適用したGPを対象として、フォーカスグループディスカッションおよび少人数グループでのインタビューを実施した。データは録音し、逐語録を作成したうえで、帰納的アプローチによるテーマ分析を行った。


結果

10名のGPが研究に参加した。以下の4つの包括的テーマが明らかになった。

GSFをプライマリ・ケアの診療に適応させること

プライマリ・ケアにおける構造的制約

予後の不確実性と役割に対する戸惑い

緩和的アプローチを統合するためのシステム上の促進要因

GSFは有用な枠組みとして認識されていた一方で、その実際の適用には地域・診療環境に応じた調整(contextual adaptation)が必要であり、医療者レベルとシステムレベルの双方の要因から影響を受けていた。


結論

GSFは、プライマリ・ケアにおいて緩和ケアのニーズを有する患者を特定することを支援できる。しかし、効果的に実装するためには、地域の診療ワークフローとの整合、診療の継続性の改善、そしてシステムレベルでの支援が必要である。特に、明確な紹介経路(referral pathways)と統合されたケア・プランニング(integrated care planning)が重要である。


感想

GSFは、Surprise Question → general indicators → disease-specific indicatorsの3段階で、「この患者は今後、緩和的アプローチを考えるべき状態にあるか」を臨床的に判断するためのフレームワークです。

英国で開発されたGSFをブルネイで使用する際にどのような調整が必要かを議論しています。

まず、取り扱われている疾病と指標がブルネイでは合わないという点があるようで、特にCOPD、喘息、フレイル、多疾患併存、複雑な糖尿病などがブルネイではより重視されるべきだとのことです、

また、ブルネイでは患者が毎回同じGPを受診するとは限らず、GPが患者の長期的な病状の経過を把握しにくいため、英国のような「長期的に患者を知っているGPが、少しずつ悪化している患者を認識する」は必ずしも成り立たず、そのため電子カルテの活用や情報共有の必要性が高いとのことです。

あわせて、進行患者の管理が病院、スペシャリスト中心となっているため、ブルネイのGPは「自分が予後を判断して緩和ケアを開始してよいのか?」と感じており、referral pathwayやshared-care systemを整える必要があるとのことです。


英国のGSFをブルネイに導入するにあたり、コンテキスト上の様々な差異はどこにあるのか、それをどのように調整したらいいのかを明らかにしており、とても実践的で家庭医らしい研究だなと思いました。日本の現状もどちらかというと英国よりブルネイに近いように思います。日本でも、横のものを縦にして満足するだけでなく、コンテキストに合わせた調整をどうするかを考える必要があると感じました。

2026年9月5日土曜日

献血における黒人差別

 Cénat JM, Dalexis RD, Darius WP, Pakhalé S. “Our blood is not pure enough”: a qualitative study to understand systemic racial barriers to blood donation for Black people in Canada. CMAJ. 2026:198(29):E1143-E1152; DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.250123


背景

献血は重要な医療を支えるために不可欠である。しかし、カナダでは黒人が献血を行う際に複数の障壁に直面している。本研究では、これらの障壁を明らかにし、献血者の多様性と公平な医療へのアクセスを向上させる方法について理解を深めることを目的とした。


方法

カナダに居住する黒人成人を対象に、半構造化された詳細なインタビューによる質的研究を実施した。参加者はソーシャルメディアおよび地域のコミュニティ組織を通じて募集した。インタビューを逐語録に起こし、NVivoソフトウェアを用いてコード化・テーマ分析を行った。データの分析には、文化的感受性を確保しながら、BraunとClarkeによる6段階のテーマ分析を用いた。


結果

42人(女性57.1%)にインタビューを行った。カナダにおける黒人の献血を妨げる障壁として、14の主要テーマを特定し、それらを5つのクラスターに分類した。

最も頻繁に言及されたのは、制度・政策上の障壁であり、Canadian Blood ServicesおよびHéma-Québecが採用している制限的な献血政策、制度的人種差別、そして歴史的な反黒人人種差別などが含まれた。

知識・認識に関する障壁としては、情報不足、黒人献血者から提供された血液が十分に活用されていないという認識、黒人コミュニティを十分に対象としないアウトリーチ活動などが挙げられた。

アクセス・実務上の障壁には、献血センターへのアクセスのしにくさや経済的制約が含まれた。

社会的・文化的障壁として、スティグマ、スタッフにおける黒人の代表性の不足、歓迎されていないと感じる環境が挙げられた。

さらに、心理的障壁として、注射針への恐怖や、医療・献血システムに対する不信感が認められた。この不信感は参加者の間に広くみられた。


解釈

本研究の結果は、カナダにおいて黒人の献血を困難にする制限的な政策が現在も存在していることを明らかにした。また、過去および現在の人種差別によって、医療システムおよび献血システムに対する深い不信感が形成されていることを示した。信頼を改善するためには、政策改革、包摂的なコミュニケーション、そして医療機関と黒人コミュニティとの協働が必要である。


感想

献血を切り口に人種差別の構造をあぶりだした研究であり、これぞ質的研究という感じの素晴らしい論文です。CMAJはよい質的研究を出版しますね。

2026年9月4日金曜日

心不全診断後にフェリチンを測定しているか

 Maharajan V, Jones NR, Bankhead C, Erone I, Haynes S, Katumba AM, et al. Iron deficiency testing among people with incident heart failure in primary care. BJGP Open. 2026 Jul 31. doi:10.3399/BJGPO.2026.0086.https://bjgpopen.org/content/early/2026/07/31/BJGPO.2026.0086


背景

心不全患者のおよそ50%には何らかの鉄欠乏が認められるため、各種ガイドラインでは鉄欠乏のスクリーニングが推奨されている。しかし、プライマリ・ケアにおいて実際にどの程度検査が行われているのか、また検査が公平に実施されているのかは明らかではない。


目的

新たに心不全と診断された患者のうち、診断後12か月以内にフェリチン検査を受けた患者の割合を明らかにすること。


研究デザイン・セッティング

2016~2021年のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumのデータを用いた、プライマリ・ケアにおける後ろ向きコホート研究。


方法

新たに心不全と診断された成人患者について、診断後12か月以内にフェリチン検査を受けた割合を算出した。さらに、多変量ロジスティック回帰分析を用いて、主要な人口統計学的因子および併存疾患による検査実施オッズの違いを検討した。


結果

新たに心不全と診断された105,749人(平均年齢71.6歳、SD 14.3)のうち、診断後1年以内にフェリチン検査を受けたのは35,688人(33.7%)にとどまった。

検査を受けるオッズは、年齢が高いほど高く、10歳年齢が上がるごとにOR 1.25(95% CI 1.24–1.27)であった。また、女性でも検査を受ける可能性が高く、男性のORは0.86(95% CI 0.84–0.89)であった。さらに、アジア系の患者では検査を受けるオッズが高かった(OR 1.70、95% CI 1.59–1.80)。

併存疾患では、セリアック病(OR 1.86、95% CI 1.58–2.21)、1型糖尿病(OR 1.82、95% CI 1.51–2.19)、肝硬変(OR 1.64、95% CI 1.43–1.87)が、フェリチン検査を受けることと関連していた。

また、患者背景を調整した後も、地域によって検査実施率に差が認められた。


結論

大規模なプライマリ・ケアデータベースを用いた本研究では、新たに心不全と診断された患者の約3分の2が、診断後1年以内に鉄欠乏を評価するためのフェリチン検査を受けていなかった。これは現在の診療における明らかなギャップを示しており、鉄欠乏の検査をプライマリ・ケアでより適切に実施するための診療体制改善の機会があることを示唆している。


感想

まずい、心不全管理でフェリチンを測定するという意識はありませんでした。今後気を付けようと思います。

2026年9月3日木曜日

expert generalistによる退院後の診療:HATCHモデル

 Boddy N, Reeve J, Spencer RA, Clarkson PJ, Avery AJ. HATCHing plans: a qualitative study of how discharge communication can support expert generalist management. BJGP Open. 2026 Aug 21. doi:10.3399/BJGPO.2026.0012. 


背景

退院サマリーの標準化によって改善がみられているものの、受け取る側のGPにとっては、患者を全人的に継続診療するための詳細な情報が不足しているなど、依然として問題が残っている。病院側の作成者は、退院後の地域医療におけるエキスパート・ジェネラリスト(expert generalist)の実践について十分に理解していないことが多く、そのため一般的な情報標準や単純化されたサマリーの項目に過度に依存している可能性がある。


目的

エキスパート・ジェネラリストであるGPが、退院後の難しい症例を管理する際に退院情報をどのように実際に活用しているのか、またどのような課題に直面しているのかを明らかにし、退院時の情報共有がどのようなものであるべきかについて新たな理解を得ること。


研究デザイン・セッティング

退院後の管理が困難な状況について、GPの視点から質的に探索した研究。


方法

GPおよびGP研修医を対象に、模擬症例とthink-aloud法を用いた半構造化インタビューを15件実施した。テーマ分析は、「エキスパート・ジェネラリズムの4Es」を理論的枠組みとして行った。


結果

退院後の移行期におけるエキスパート・ジェネラリストGPの意思決定を支える基盤として、「Holistic Adjustment To Context after Hospital discharge(HATCH:退院後の状況に対する全人的な文脈調整)」という解釈的プロセスが明らかになった。

その下位プロセスであるrationalisation(合理化)とintegration(統合)は、エキスパート・ジェネラリストに特徴的な解釈的パラダイムの活用を示していた。

一方、病院で行われた重要な意思決定について、その理由や背景(explanation and context)に関する情報が十分に伝達されていない場合、GPによるHATCHプロセスが妨げられ、退院後の診療の質と安全性が損なわれるリスクが生じていた。GPはこうした情報不足を自ら補うことができたものの、それには見えにくいリスクやコストが伴っていた。


結論

HATCHプロセスを理解し、文脈や説明に関する情報がこのプロセスをどのように支えるのかを明らかにすることは、退院サマリーをさらに改善するための重要なステップであることが示された。この問題に対応するためには、情報共有の標準や退院サマリーのテンプレートを改良することが重要な機会となる。また、これらの考え方をAIソフトウェアに組み込むことや、関係するすべての医療者に対する研修を更新することも有用である。


感想

エキスパート・ジェネラリズム(expert generalism)の4Esは、Joanne Reeve先生が提唱している枠組みですね。高度なジェネラリスト診療がどのような知識活動によって成り立っているかを説明しています。

  • Epistemology 認識論・知識のあり方 「患者を理解するために、どのような知識を使うのか」
  • Exploration 探索 「患者の病気・症状を、その人の生活や文脈も含めてどう探索するか」
  • Explanation 説明・解釈 「得られた情報を統合して、この患者に何が起きているのかをどう説明するか」
  • Evaluation 評価・判断 「その患者にとって、何をすることが最も適切なのかをどう判断するか」


この論文で提案されている HATCH(Holistic Adjustment To Context after Hospital discharge)は、退院後の患者を担当するGPが、病院から得た情報を患者の現在の生活・病歴・価値観などの文脈に合わせて再解釈し、診療方針を組み立て直すプロセスとして提示されます。

病院からの退院情報をもとに、「病院はなぜこの判断をしたのか」を理解し、患者が退院後に置かれている文脈と照らし合わせて情報を合理化(rationalisation)します、そして、複数の情報を統合(integration)し、「この患者に今、何が必要か」を判断し、退院後の個別化された診療を行います。

病院から提供された情報をそのまま引き継ぐのではなく、患者の文脈に適合するように意味づけ直すのがHATCHであり、rationalisationとintegrationという下位プロセスが、expert generalist特有の解釈的パラダイムの利用を示していたとされています。

例えば退院情報に「薬剤Aを中止し、薬剤Bを開始した」とだけ書いてあったとして、「なぜ薬剤Aを中止したのか?」「なぜ薬剤Bを選んだのか?」「病院ではどのような情報をもとに判断したのか?」という病院での意思決定について説明と文脈の情報が不足しているときに、GPは不足した情報を自分で補うことで診療を成り立たせます。

病院 → GPへの情報伝達は、事実の伝達だけでは不十分であり、GPが患者の文脈の中でその情報を解釈できるように、意思決定の理由と文脈も伝える必要があると筆者たちは主張しています。


たしかに、患者コンテクストに基づき情報を自分で補完するというのはいつもやってることだなと思いました。

2026年9月2日水曜日

自殺者の特徴

 Oliver P, Reed E, Hulin J, Delaney B, Marshall J, Mitchell C. Understanding suicide through coroners’ narratives: implications for primary care from a mixed-methods study of 157 coroners’ reports. Br J Gen Pract. 2026 Sep 1. doi:10.3399/BJGP.2026.0207. https://bjgp.org/content/early/2026/08/31/BJGP.2026.0207


背景

自殺は重大な公衆衛生上の問題であり、家庭医療は、死亡前の比較的最近の医療接点となっていることが多い。精神疾患が重要な要因であることは広く認識されている一方、自殺リスクに影響を及ぼす、より広範な社会的・文脈的要因については、プライマリ・ケアや疫学研究において十分に報告されていない。


目的

自殺で死亡した人々の人口統計学的、臨床的、心理社会的特徴を明らかにするとともに、検視官による量的データと質的なナラティブ記録を統合し、プライマリ・ケア/二次医療および公衆衛生への示唆を明らかにすること。


研究デザイン・セッティング

イングランドの5つの地方自治体において、検視官の記録に記載された、2018~2019年の連続157件の自殺死亡例を対象とした説明的逐次型混合研究法(explanatory sequential mixed-methods study)。


方法

検視官の記録から人口統計学的、臨床的、社会的データを抽出し、記述統計によって要約した。さらに、ナラティブ形式の症例要約をコード化し、死亡前の文脈的要因、対人関係上の要因、医療サービスに関連する要因を明らかにするため、テーマ分析を行った。


結果

157人のうち、79%が男性で、65%がIMD(Index of Multiple Deprivation)の最も貧困度の高い五分位地域に居住していた。85%に診断された精神疾患があり、62%に長期的な身体疾患があり、41%に過去の自殺企図があった。

約半数が死亡前3か月以内にGPを受診しており、そのうち約半数の診療で精神健康が扱われていた。

主なストレス要因として、人間関係の破綻(37.2%)、住居の不安定さ(22.1%)、仕事上のプレッシャー(18.2%)がみられた。


ナラティブ分析から、相互に関連する7つのテーマが明らかになった。

精神健康(Mental health)

アルコール/物質使用(Alcohol/Substance use)

身体健康(Physical health)

社会的つながり(Social connectedness)

ライフコース上のトラウマ(Life course trauma)

社会経済的・構造的脆弱性(Socioeconomic and Structural Vulnerability)

医療へのアクセス(Healthcare access)


また、医療サービス間の移行が重要な脆弱性のポイントとなっていた。


結論

検視官の記録は、自殺に至るまでの複雑な状況について重要な洞察を提供する。これらの記録は、GPが複数の要因が交差する複雑な状況(intersectional complexity)を認識することの重要性を示しており、複数の領域・機関が連携した統合的な自殺予防アプローチを支援する機会を明らかにしている。


感想

これはまたすごい研究を… 私にはまったくなかった着眼点です。これが家庭医療の研究としてみとめられるのもまたすごいです。

2026年9月1日火曜日

COPD急性増悪に潜むアスペルギルス

 Denning DW, Bertuzzi M, Chotirmall SH, Wilkinson TM, Mathioudakis AG, Gago S, Takazono T, Rogers TR, Bowyer P, Kosmidis C, Guinea J, Lagrou K, Janssens W, Ray A, James DA, Vogelmeier CF, Su X, Bafadhel M, Sun Y, Roche N, Vestbo J. COPD and Aspergillus—a complex interaction of global health importance. Lancet Infect Dis. 2026 Aug 18. doi:10.1016/S1473-3099(26)00360-9. https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(26)00360-9/fulltext


背景・概要

Aspergillus属は空気中に広く存在する真菌であり、ヒトの肺に感染症を引き起こす最も一般的な真菌病原体である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では、感染に対する通常の防御機構がさまざまな程度に障害されているため、特に気管支拡張症を伴う場合には気道への持続的な感染が生じやすい。また、アレルギー(または感作)や気道抵抗の増加、慢性肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス症などを発症する可能性がある。

気道からAspergillusが検出される患者では、COPD増悪がより頻繁に起こるため、入院や死亡を減らすための治療介入が可能である可能性がある。さらに、住宅内の湿気やカビ、高い大気汚染、重要な免疫防御機構を損なう呼吸器ウイルス感染などの環境因子も、この悪循環を悪化させる。全身性および吸入性のコルチコステロイド治療も、気道および肺の防御機構をさらに低下させる。局所および全身の免疫応答はいずれも影響を受ける。

COPD患者におけるアスペルギルス感染は、過小認識されている。その主な理由として、喀痰からのAspergillus培養検査の感度が低いこと、慢性的な呼吸機能障害のある患者では気管支鏡検査が有害となり得ること、誘発喀痰検査が主に研究目的でしか用いられていないこと、そして血清Aspergillus IgGや抗原検査の意義が十分に認識されていないことが挙げられる。

入院患者や高リスク患者に対して、喀痰の高容量真菌培養およびAspergillus PCRを実施することで、より多くの症例を診断できる可能性がある。

COPD増悪による入院患者は世界で年間約6000万人に上り、COPDを合併した侵襲性および慢性肺アスペルギルス症では死亡率も高い。そのため、予防、早期診断、治療介入には、まだ検証されていない多くの可能性が残されている。特に、COPD患者におけるコルチコステロイド曝露を減らすことによって、アスペルギルス感染の影響を大幅に軽減できる可能性がある。


キーポイント

  • COPDは世界中で4億人以上が罹患しており、年間約6000万人が入院し、340万人以上が死亡している。これらの死亡例の3分の1は、侵襲性肺アスペルギルス症に直接起因する可能性がある。
  • COPD患者における複数の疾患は、侵襲性および慢性肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス気管支炎およびアスペルギルス気管支炎(おそらく主に気管支拡張症患者)、アスペルギルス感作、および新たに報告されたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症およびアスペルギルス結節(肺癌に類似)など、アスペルギルス属菌に直接的または間接的に起因する。
  • COPD患者では、アスペルギルス属菌による気道感染または定着がよく見られ、疾患の重症度と吸入ステロイド薬の使用によって増加し、COPDの増悪と関連している。
  • アスペルギルスへの環境曝露はCOPDの悪化を引き起こすが、予防戦略はまだ初期段階にある。
  • 経口および高用量吸入コルチコステロイドは、侵襲性および慢性肺アスペルギルス症の両方の発生率を大幅に増加させる(200~500%増加)。


感想

今までCOPD増悪患者をたくさん診てきましたが、アスペルギルスについて考えたことはなかったので、いたく反省した次第です。

AJRCCMによると(https://academic.oup.com/ajrccm/article/212/9/1913/8723239)以下のリスク因子が2つ以上あればアスペルギルスを積極的に評価せよ、とのことです。

  • 全身性ステロイド使用、とくに最近の使用・累積曝露
  • 高用量ICS
  • 気管支拡張症
  • 糖尿病
  • 心血管疾患
  • 重症COPD(GOLD III–IV)
  • 抗菌薬の長期使用
  • 過去のAspergillus感染・定着


喀痰培養は感度低いですが、やるなら大量に喀痰を集めたほうがいいようです。

私のセッティングだと、血清ガラクトマンナン抗原、血清アスペルギルス抗体が関の山かと。

BALFできたらもっと迫れるのでしょうが、そもそもCOPD急性増悪患者にBALFしようと思っている状態でアスペルギルスのことを考えているはずであり、臨床判断を先にしないといけないです。


普段からステロイドはできるだけ使わず管理し、リスク因子のあるCOPD急性増悪で治療効果乏しければアスペルギルスの関与を疑うということなのだと思います。頻度そこそこあるようなので意識しておきます。

2026年8月31日月曜日

意思決定の患者負担

 Huijgens FL, Henselmans I, Huisinga MJ, Diepenhorst GMP, van Laarhoven HWM, Oerlemans AJM, et al. Clinicians’ perception and management of cancer patients’ decision making burden. J Gen Intern Med. 2026 Aug 26. doi:10.1007/s11606-026-10737-4. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10737-4


背景

がん診療において、患者を治療方針の意思決定に参加させることが、ますます求められている。しかし、そのような参加を負担に感じる患者もいる。共同意思決定において、医療者が患者の意思決定に伴う負担をどのように認識し、対応しているのかは明らかになっていない。


目的

意思決定への参加によって患者が感じる負担について、腫瘍診療に携わる医療者がどのような経験をしているのかを明らかにすること。


研究デザイン

半構造化された詳細な質的インタビュー研究。


対象者・方法

乳がんまたは前立腺がん患者に対して根治的治療の選択肢について話し合う医療者を目的抽出し、インタビューを実施した。質問では、医療者が患者の負担をどのように察知し、その原因をどのように捉え、どのように対応しているのかを尋ねた。インタビューは録音し、逐語録を作成した。


分析

2名の研究者が帰納的にインタビュー内容をコード化し、テーマ分析を行った。


主な結果

医療者20名から、患者が負担を感じていることを示す複数の指標が語られた。例えば、患者からの「先生だったらどうしますか?」という質問、意思決定において非常に積極的または消極的な役割をとること、意思決定を長引かせたり急いだりすることなどであった。医療者は、患者の負担の原因として、不確実性、患者の期待と実際の意思決定との不一致、診断後の感情的な脆弱性を挙げた。医療者は、意思決定の難しさを正常なものとして受け止めるよう伝える、考える時間を提供するなど、患者の負担を軽減するためのさまざまな方略を用いていた。一方、治療について推奨を示すことについては、医療者間で対応が異なっていた。患者の不確実性や意思決定に伴う苦痛を軽減するために治療を推奨する医療者がいる一方で、SDMとは患者自身が選択することであると考え、明確な助言を控える医療者もいた。


結論

医療者が患者の意思決定に伴う負担を認識した際の対応には、大きなばらつきがみられた。患者の自律性を尊重することと、患者に害や過度の負担を与えないこととの緊張関係をどのように調整するかについて医療者間で議論することは、SDMにおける患者の負担への対応について、より一貫した方針を形成することにつながる可能性がある。


感想

これはこれでいい研究だと思いますが、やはり患者サイドの話を聞かないと知見としては物足りないと思ってしまいます。意思決定にまつわる患者負担を考えよ、というのはその通りだと思いました。

糖尿病の経済毒性

 Wentzell K, Zhong C, Mooney C, O’Connor C, Patel MR. Financial toxicity and cost-related nonadherence in adults with type 1 diabetes. J Gen Intern Med. 2026 Aug 26. doi:10.1007/s11606-026-10711-0. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10711-0


背景

 インスリン価格の上昇や糖尿病管理に伴う多大な経済的負担を背景に、特に1型糖尿病(T1D)患者において、financial toxicity(経済毒性)およびcost-related nonadherence(費用を理由とした治療不遵守:CRN)への懸念が高まっている。

目的

 1型糖尿病成人におけるfinancial toxicityおよびCRNの有病率を明らかにし、社会的決定要因(SDOH)との関連を検討するとともに、ライフスパン上の発達段階が及ぼす影響を検討すること。

研究デザイン

 社会的ニーズが満たされていない糖尿病成人を対象とした大規模なランダム化比較試験のベースラインデータを用いた二次解析。

対象者

 1型糖尿病患者130人。

主要評価項目

 主要アウトカムはCRNとした。CRNは、費用を理由としてインスリン、薬剤、医療用品の使用量を減らしたり、処方箋の受け取りや医療機関の受診を遅らせたり、控えたりすることと定義した。 

主な結果

 対象者の平均年齢は41.1±15.5歳(19~74歳)で、64.6%が女性、78.5%が非ヒスパニック系白人、54.6%が年間所得6万ドル以上であった。51.5%が就業しており、56.9%が民間医療保険に加入していた。全体の32.3%が少なくとも1つのCRN行動を経験し、78.5%が高いfinancial toxicityを示した。CRNには年齢による有意差があり、30歳以下では44.4%、30歳超では25.9%がCRNを経験していた(p<0.05)。ロジスティック回帰分析では、financial toxicityの高さ(OR 7.29、95% CI 1.96–27.16)と民間保険への加入(OR 2.88、95% CI 1.17–7.08)がCRNの有意な予測因子であった。年齢もほぼ有意であり(p=0.057)、30歳以下では高年齢群と比較してCRNを報告する可能性が2.25倍であった。 

結論

 1型糖尿病をもつ成人では、financial toxicityおよびCRNの頻度が高い。特に若年成人ではCRNのリスクが高い可能性があり、この傾向は、他のライフステージでCRNと関連するとされている従来のSDOHだけでは説明できないようである。


感想

重要なデータですね。若い人でリスクが高そうというのは大事な臨床的着眼点だと思います。

2026年8月29日土曜日

電子タバコをどう考える?

 Vasooja D, Peters K, Wasan D, Najafi E, Warnapala M, Baker Y, et al. GPs' perspectives on assessing adolescent vaping among individuals without prior smoking history: a qualitative study within primary care. BJGP Open. 2025 Nov 19;BJGPO.2025.0207. doi:10.3399/BJGPO.2025.0207. 

https://bjgpopen.org/content/early/2026/08/24/BJGPO.2025.0207


背景

 現在、喫煙経験のない青年や若年成人の間でも、電子タバコを使用する人が増えている。GPは、電子タバコ使用について適切にスクリーニングし、助言を行う必要がある。電子タバコの使用は、ニコチン依存、呼吸器症状、心血管系への影響と関連している。長期的なデータが限られていることから、長期間使用する人に対するリスクや不確実性はさらに大きくなっている。青年・若年成人の電子タバコ使用者に対するGPの助言を導くエビデンスは、日常診療において依然として乏しい。

目的

 電子タバコ使用の流行への対応について、GPがどのように考えているか、どの程度準備ができているか、どのような課題を抱えているか、また個人レベルおよび国レベルでどのような改善が可能かを明らかにすること。

研究デザイン・セッティング

 英国のGPを対象とした半構造化インタビューによる質的研究。

方法

 英国全土のPrimary Care Networks(PCN)を通じて、半構造化インタビューへの参加を募集した。英国のGPの人口統計学的特徴を反映するようpurposive samplingを用いて参加者を選定した。インタビューは2024年4~5月に英国各地で実施し、11人(n=11)でデータ飽和に達した。インタビューは逐語録を作成してNVivo 10に取り込み、Gioia法を用いてテーマ分析を行った。 

結果

 4つの統合的次元、11の二次テーマ、29の一次概念が抽出された。変化を促す要因として、若者の電子タバコ使用に対する懸念の高まりが中心となっていた。一方、現在の診療では、知識が限られており、患者への助言にもばらつきがみられた。障壁として、ガイダンス、利用可能なサービス、診療時間の不足が挙げられた。改善策としては、教育の充実、デジタルツールの活用、関係者の関与が重視された。 

結論

 本研究の結果は、青年および若年成人の非喫煙者における電子タバコ使用の増加に対応するため、早急な介入が必要であることを示している。一部のGPは診療を改善しようという意欲を持っている一方、現在得られているエビデンスが限られ、内容も一貫していないため、不確実性を感じているGPもいる。効果的な解決策には、プライマリ・ケアだけでなく、他の医療専門職や主要な関係者も含めた取り組みが必要である。


感想

アブストだけよめば、軽く流してしまいがちになりますが、論文じっくり読んだら面白かったです。質的解析の過程やreflexivityについてかなり詳細に記述してあります。コーディングの過程もわかりやすくsupplementalに載っています。ここまで詳しく記載した論文を今まで読んだことがなく、新たな見本とすべき論文だと思いました。

Gioia法が初見だったのでしらべました。

参加者の発言→1st-order concepts(参加者に近い概念)→2nd-order themes(研究者による解釈)→Aggregate dimensions(より抽象的な概念)という「データから理論へ」の階層構造を作る方法とのことで、日本のSCATに似てるなという印象です。

「参加者が意味づけた概念」と「研究者が理論的に解釈した概念」を明確に区別して記述するので、分析過程を比較的透明に示すことができ、新しい概念モデルや理論をデータから帰納的に構築したい場合に使えそうです。

これを使うと、各コンセプトがどれだけ生み出されているかを数えることもできるので、データの飽和についてもかなり明確に示すことができます。

結論として、まだ探索されていない研究課題について、一般的で包括的な結論を得たい場合には有用だなと思いました。私が使うかどうかは…私のRQとは合わないことが多いようなきがしています。ちょうど合致するRQを思いついたときに使いたいですね。

2026年8月28日金曜日

personal continuityの測定法

 Sidaway-Lee K, Pereira Gray D, Fearn-Smith J, Buick A, Engamba S, Khan N, et al. Development of a novel GP continuity measurement for practices without personal lists. Br J Gen Pract. 2026 Apr 2;BJGP.2025.0624. doi:10.3399/BJGP.2025.0624. https://bjgp.org/content/early/2026/08/23/BJGP.2025.0624


背景

 GPによるケアの継続性を改善すべきであることは広く認識されている。そのためには、すべての診療所で利用可能な継続性の指標が必要である。しかし、これまでの指標には限界がある。

目的

 ケアの継続性を評価する、より優れた指標を開発し、既存の指標とその性能を比較すること。

研究デザイン・セッティング

 2つのGP診療所において、監査データを用いて1年間実施したパイロット研究。

方法

 修正版SLICC(modified St Leonard's Index of Continuity of Care:mSLICC)を開発し、毎月算出した。そして、St Leonard's Index of Continuity of Care(SLICC)、1年間のBice-Boxerman(BB)指標、およびUsual Provider of Care Index(UPC)と比較した。指標に含まれる患者および診療予約の割合を算出し、患者を年齢、3年間の診療予約回数、フレイルのカテゴリー別に分類した。

結果

 2つの診療所において、mSLICCには29,127件の診療予約のうち19,840件(68.1%)が含まれ、診療予約のある患者の平均65.2%(SD 6.4%)が対象となった。UPC/BBでは21,032件(72.2%)の診療予約と、診療予約のある9,924人の患者のうち4,096人(41.2%)が対象となった。

診療所Aでは、mSLICCは52.0%、SLICCは57.1%、平均UPCは0.63(95% CI 0.62–0.64)、平均BBは0.41(95% CI 0.40–0.43)であった。診療所Bでは、mSLICCは25.7%、SLICCは25.1%、平均UPCは0.50(95% CI 0.49–0.51)、平均BBは0.23(95% CI 0.22–0.25)であった。mSLICCはSLICCと強く相関していた(r=0.98、P<0.001)。

結論

 mSLICCは、ケアの継続性を毎月評価するための新しい指標である。BBやUPCと比較して限界が少なく、特定の担当GP(named GP)を必要としない。十分なITリソースがあれば、担当GPの個人リスト制(personal lists)を採用していない診療所でも、mSLICCを用いてケアの継続性を測定することが可能である。


感想

新たな継続性の指標を提案している論文です。

SLICCは、特定のかかりつけ医との継続性を測る指標です。ある患者がGPを10回受診したとして、何回「特定の個人のかかりつけ医」を受診したかを算出します。非常にわかりやすいですが、担当GP制がない診療所では使いにくいという課題がありました。

mSLICCは、過去2年間に最も多く診察したGPを実質的な担当GPとみなすことで、この課題を解決しようとしました。そして、相関がかなり高かったということで筆者たちはこの測定が妥当であると主張しています。

なお、UPCは、患者の受診のうち、最も多く診察した医師を受診した割合を示す指標で、BBは、患者の全受診回数と、各医師への受診回数の分布から継続性を評価する指標です。


研究を行った2つの診療所は担当GP制であり、それならSLICCとmSLICCがほぼ一致するのは当たり前では?という気がしました。まあでも、personal continuityを測定しようと思ったらいずれにせよこういう算出法になるわけで、研究対象を広げることができるという意味で価値があるのだと思います。家庭医療の基礎研究ですね。ほかのcontinuityについては、それぞれ測定指標があるのだろうと思います。

2026年8月27日木曜日

手の変形性関節炎

 Kaya O, van Baalen E, Strijkers R, Kloppenburg M, Selles R, Bierma-Zeinstra S, et al. Patients' perceptions of hand osteoarthritis care in Dutch general practice. Br J Gen Pract. 2026 Aug 25. doi:10.3399/BJGP.2025.0768. https://bjgp.org/content/early/2026/08/25/BJGP.2025.0768


背景

手の変形性関節症(osteoarthritis: OA)は、OAの中で2番目に頻度の高い病型であり、しばしば疼痛、機能低下、生活の質(QOL)の低下を伴う。その有病率の高さにもかかわらず、手のOA患者は、この疾患が通常管理されるプライマリ・ケアにおいて、満たされていないニーズがあることをしばしば訴えている。


目的

 プライマリ・ケアにおける手のOAの管理について患者の視点を明らかにし、ケアに対する主要な障壁および促進要因を特定すること。


研究デザイン・セッティング

 オランダの手のOA患者を対象とした半構造化インタビューに基づく質的研究。


方法

 フレームワークに基づくインタビューガイドを用いて、16人の患者に半構造化インタビューを実施した。患者はpurposive samplingによって募集した。テーマ分析により主要なテーマを特定した。さらに、51人の患者が回答した追跡質問票を用いて、回答者による妥当性確認(respondent validation)を行った。


結果

 7つの障壁と3つの促進要因が明らかになった。GPによる指導の質、手のOAに関する情報や説明の提供状況、治療の有効性に対する認識は、それらが不十分な場合には障壁となり、十分な場合には促進要因となることが示された。その他の障壁として、手のOAに対する意欲を削ぐような態度、医療提供者間の連携不足、利用できる治療選択肢が限られているという認識、そして患者自身が特定の治療を受けることに消極的であることが挙げられた。


結論

 手のOA患者は、プライマリ・ケアにおいて複数の障壁に直面しており、その多くはGPによるコミュニケーション、支援、医療提供者間の調整に関連している。患者は、積極的に関与し、日常生活の中で自分の病状を管理するための実践的な手段や指導を提供してくれるGPを求めている。GPがこの役割を果たせるようにするためには、研修の充実、より明確な臨床ガイドライン、そして利用しやすい患者教育資料が必要である。これらの取り組みにより、より先回りした患者中心のケアが可能となり、手のOA患者のアウトカム改善につながる可能性がある。


感想

BJGPはこの手の、common diseaseのプライマリ・ケア管理に関する患者(または医療者)の視点を探る質的研究をたくさん採用するんですよね。着眼点が鋭い論文は大変に面白いのですが、この研究に関しては結果が総花的で、薄味になっている印象です。自分なら何をテーマにするかなぁ。ACNESを診断することが多いので、ACNESの確定診断を付けた患者に協力してもらうかなあ。人数集まるかなぁ。あと、ぱっと思いつくのはリブレですけど、先行研究ありそうなんですよね。

2026年8月26日水曜日

プライマリ・ケアでのCKD管理

 Veighey K, Teasdale E, Myall M, Henaghan-Sykes K, Blakeman T, Ibrahim K, Raut B, Everitt H, Fraser SDS. Understanding risk stratification of chronic kidney disease: a qualitative study in primary care. Br J Gen Pract. 2026 Aug 24. doi:10.3399/BJGP.2025.0802.https://bjgp.org/content/early/2026/08/23/BJGP.2025.0802


背景

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)は、英国イングランドの成人のおよそ10%にみられる。このうち約1%が腎不全へ進行し、健康関連QOLに大きな影響を及ぼすとともに、医療費の増大にもつながっている。CKDは心血管疾患リスクの上昇とも関連している。近年、CKD患者の転帰を改善する新たな治療法が登場しており、効果的なリスク層別化の必要性が高まっている。


目的

プライマリ・ケアチームがCKDのリスク層別化についてどのように考え、どのような経験をしているのかを明らかにする。


研究デザイン・実施施設

イングランド南部、南ロンドン、ヨークシャーのGP診療所を対象とした質的インタビューおよびフォーカスグループ研究。


方法

2024年1月から2025年1月にかけて、20の診療所を対象に、GP、薬剤師、診療看護師に対する半構造化インタビュー26件と、診療チームを対象としたフォーカスグループ4回(参加者31名)を実施した。フォーカスグループには、臨床スタッフだけでなく、事務職員やマネジメントスタッフも参加した。研究はNormalisation Process Theory(NPT:実践の定着・標準化を説明する理論)を踏まえて実施し、テーマ分析を用いてデータを分析した。


結果

以下の4つの主要なテーマが明らかになった。

診断基準およびリスク層別化ツールに関する認識

CKDのコーディング(電子カルテ等への診断情報の登録)とリスクについて話し合うことの価値

CKDのリスク層別化を妨げる障壁

CKDのリスク層別化を改善するための方法

診断基準については、すべての参加者が認識していた一方、リスク層別化ツールについての認識は低かった。CKDを電子カルテ等にコーディングすることは、医療専門職にとっては有用であると認識されていたが、患者にとっての有用性は低いと考えられていた。また、リスクについて患者と話し合うことにより、患者の不安を増大させたり、過剰な医療化(overmedicalisation)につながったりする可能性が懸念されていた。さらに、時間的制約や業務量の多さ、インセンティブの不足が、CKDのリスク層別化を妨げる主要な障壁として認識されていた。

改善策として、医療専門職への教育の充実、ガイドラインの整備、診療経路(pathway)の改善、テクノロジーや自動化の活用などが挙げられた。


結論

プライマリ・ケアにおけるCKDへの認識は高いものの、業務量の多さ、時間的制約、患者の不安や過剰な医療化への懸念が、十分なリスク層別化の実施を妨げている可能性がある。診療プロセスを改善するとともに、患者との効果的なコミュニケーションを促進することによって、CKDのケアを改善できる可能性がある。


感想

確かにそうだなーという印象で、肌感覚を説明してくれています。Cre値ここ数年動いていないし、敢えてこれを取り上げても患者の不安をかきたてるだけだろうし、これでSGLT-2I入れるのはさすがにovermedicalisationだよなー、とかよく思います。適切なケースには導入しているつもりですが。

2026年8月25日火曜日

発育阻害とケアラーの知識

 Rachmawati R,  Nazarina, Setyawati B, et al. Bridging the knowledge divide: a national cross-sectional analysis of urban-rural disparities in the stunting knowledge index among mothers/caregivers in Indonesia. Korean J Fam Med.2026 https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4902


背景

インドネシアでは、発育阻害による深刻な公衆衛生危機が続いている。母親の知識は、栄養習慣と結果の重要な推進力である。本研究は、母親/介護者の発育阻害知識指数(SKI)を開発し、都市部と農村部の知識の格差を分析し、これらの格差を引き起こす主要な決定要因を特定することを目的とした。


方法

この横断研究では、294,538人の母親と介護者を対象とした2024年インドネシア栄養状態調査のデータポイントを分析した。発育阻害に関する知識、社会人口統計学的特性、母親と介護者の特性、子供の特性、居住地域、および母親の健康知識と利用に関連する変数に関するデータは、母親へのインタビューを通じて収集された。年齢別身長Zスコア(HAZ)は、年齢と身長の測定値を使用して計算された。知識レベルは、低、中、高に分類された構築されたSKIを使用して測定された。カイ二乗検定と多変量ロジスティック回帰を用いて、低SKIの予測因子と発育阻害のリスクを特定した。


結果

低SKIスコアの有病率は農村部で有意に高く、両地域において母親の教育が低SKIスコアの最も強い決定因子であった。農村部では、正式な保健情報へのアクセスが限られていること(例:母子保健手帳がない)が主な予測因子であった。低SKIは発育阻害リスクのオッズ上昇と関連していた(都市部:調整オッズ比[aOR]、1.617;農村部:aOR、1.576)が、発育阻害の長期的な影響に対する高い認識は有意な保護効果をもたらした。


結論

都市部と農村部の知識格差は、教育水準が低く保健サービスの利用が限られている介護者に集中していた。介入は地域に合わせて調整し、教育水準の低い介護者を対象とし、発育阻害の長期的な影響を強調して予防行動を促進する必要がある。


感想

SKIを開発したとありますが、筆者たちが文献をもとに作成したものだそうです。こういう知識を測定する質問紙ってどうやってvalidateするものなのか気になったので勉強してみました。

あくまで一例ですが…

・内容妥当性:専門家パネルに、各質問の関連性、包括性、明快さなどを判断(content validity indexなどを算出したり)

・インタビュー:対象者10~20人程度にthink-aloudやcognitive interviewを行う

・パイロット研究:各項目について、難易度、弁別性、天井効果、分布などを確認 ITTなど

・Known-groups validity:専門家や一般人など異なる集団での比較

・Test-retest:ICCなどで再現性を確認

・可能なら外的妥当性の確認

という感じなのですね。大変だ…

2026年8月24日月曜日

片頭痛の診断と治療

 Watson DP, Pawinski R, Czachorowski M, Araghi M, Williams AM, Randall R, Camidge L, Rottier E, Gowman H, Law S, O'Neil G. Diagnosis and management of migraine in adults: a population-based study in England. BJGP Open. 2026 Aug 11:BJGPO.2025.0143. https://bjgpopen.org/content/early/2026/08/09/BJGPO.2025.0143


背景

これまでの研究では、片頭痛はプライマリケアにおいて診断不足および治療不足であることが明らかになっている。


目的

イングランドにおける片頭痛患者の診断および治療パターンを明らかにすること。


デザインとセッティング

臨床診療研究データリンク(CPRD)Aurumと2019年多重剥奪指数データセットをリンクさせた後向きコホート研究。


方法

本研究の対象集団は、2012年9月から2023年5月(指標イベント)までに18歳以上で片頭痛のため家庭医診療所を受診した患者とした。指標イベントから12か月後に処方された薬剤を、社会人口統計学的層別化(年齢、性別、民族、貧困度)ごとに比較した。薬剤の過剰処方は、3か月連続で10日分以上(オピオイドおよびトリプタン)または15日分以上(鎮痛剤、解熱剤、非ステロイド性抗炎症薬[NSAID])の供給と定義した。


結果

合計で、イングランドのプライマリケアを受診した頭痛または片頭痛の患者1,534,807人が観察された。このうち、876,233人(57.1%)は未分化または分類不能の頭痛とコード化され、606,928人(39.5%)は一次性頭痛障害とコード化された。一次性頭痛障害の中で最も多くコード化されたのは片頭痛で、成人476,191人(78.5%)が、その後の分析に使用された最終サンプルを構成した。片頭痛コホートのうち、予防薬を処方されたのはわずか36.5%であった。処方された用量に関して、アミトリプチリンを処方された人の17.9%、プロプラノロールを処方された人の31.3%、トピラマートを処方された人の31.2%が、スコットランド大学間ガイドラインネットワーク(SIGN)155および国立医療技術評価機構(NICE)臨床知識要約(CKS)の推奨用量に達していた。片頭痛患者全体の62.6%に急性期治療薬が処方されており、内訳はトリプタンが36.6%、オピオイドが9.6%であった。薬剤の過剰使用の可能性については、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の定義に基づくと、トリプタン使用者の23.6%、オピオイド使用者の44.3%に薬剤の過剰処方が見られた。


結論

プライマリケアを受診する頭痛の大部分は、鑑別診断がつかないか分類されないままである。片頭痛と診断された患者のうち、トリプタン製剤または予防薬を処方されるのは約3分の1に過ぎない。急性期治療薬の過剰処方はよく見られ、予防薬の最適化は不十分である。


感想

プライマリ・ケアでは片頭痛患者に予防薬を出すことはそこまでなくてもいいような… アセトアミノフェンやロキソニンで対応可能ならそれに越したことはないと思っています。ただ、急性期の鎮痛薬が過剰処方されているというのは確かに問題です。診断はなるべくつけるようにはしていますが、分類不能が一定いるのは仕方ないことだとは思います。

2026年8月22日土曜日

入院患者の鎮静剤処方

 Burry LD, Rose L, Pinto R, Williamson DR, Hill A, Scales D, Bronskill SE, Fowler R, Dolovich L, Fu L, Bell CM, Wunsch H. Association between sedative prescriptions after hospital discharge and falls and other adverse events in older adults: a population-based cohort study. CMAJ. 2026 Jun 28;198(25):E958-E968. doi: 10.1503/cmaj.251965. PMID: 42373114; PMCID: PMC13309139.


背景:入院後の鎮静剤処方が患者の予後不良と関連しているかどうかは不明である。本研究では、高齢者における退院後30日以内の鎮静剤に関連する有害事象の発生率とリスクを明らかにすることを目的とした。


方法:オンタリオ州の病院から生存退院した高齢者(66歳以上)を対象とした集団ベースのコホート研究を実施した(2003年から2023年)。退院後7日以内に処方された鎮静剤(ベンゾジアゼピン、抗うつ鎮静剤、または抗精神病薬)と転倒(骨折の有無を問わず)、救急外来(ED)受診、および再入院との関連性を評価した。退院後に処方された鎮静剤とアウトカムとの関連性を評価するために、死亡以外の結果については原因別比例ハザード回帰、死亡についてはCox比例ハザードモデルを使用した。入院前の鎮静剤処方との相互作用があったため、入院前の鎮静剤未投与状態と投与済み状態に基づいて結果を層別化した。


結果: 1,868,484人の高齢者(平均年齢77歳、女性52.1%)のうち、13.2%が退院後に鎮静剤の処方箋を受け取った。これらの患者のうち、31.0%は入院前に鎮静剤を服用したことがなかった。転倒は1.6%(n = 30,626)、救急外来受診は21.3%(n = 397,402)、再入院は12.4%(n = 231,191)、死亡は3.8%(n = 70,661)に発生した。退院後に鎮静剤の処方箋を受け取った患者(処方箋を受け取らなかった患者と比較)で、入院前に鎮静剤を服用したことがなかった患者では、すべての転帰について調整ハザード比(HR)が増加した(転倒:1.20、95%信頼区間[CI] 1.13~1.26、救急外来受診:1.20、95% CI 1.19~1.22、再入院:1.20、95% CI 1.17~1.22、死亡:1.78、95% CI 1.73~1.83)。入院前に鎮静剤に曝露された患者では、死亡のリスクが増加したが(調整HR 1.08、95% CI 1.05~1.11)、他の転帰については増加しなかった。鎮静剤を服用したことのない高齢者においては、ベンゾジアゼピン系薬剤はあらゆる転帰のリスク増加と関連があり、抗精神病薬は転倒および死亡のリスク増加と関連があり、抗うつ鎮静剤は転倒のリスク減少と関連があった。


解釈:退院後7日以内に新たに処方された鎮静剤は、退院後30日以内の転倒、救急外来受診、入院、死亡のリスク増加と関連しており、そのリスクは鎮静剤の種類によって異なっていた。これらの知見は、カナダの高齢者に対する入院中の薬剤見直しと転倒リスク評価において重要な意味を持つ。


感想

入院中に新たにベンゾ、抗精神病薬を開始した場合、退院後も服用継続が必要なのかしっかり考えるべきであり、漫然と開始し漫然と継続してしまったら患者に明らかに害である、という解釈をしました。入院診療を行っている身としては重要なデータだと思います。

2026年8月21日金曜日

聴覚障害者の医療アクセス

Levy BB, Teo K, Kapsack A, Karim A, MacKenzie K, Etheridge R, Legere L, Harth T, Kalocsai C. Experiences of culturally Deaf people with health care access and navigation in Ontario, Canada: a qualitative co-design study. CMAJ. 2026 Aug 9;198(28):E1098-E1109. doi: 10.1503/cmaj.251945. PMID: 42575538.


背景:公平な医療へのアクセスは、包摂的で公正な社会の礎石であるが、聴覚障害のある患者は、カナダの医療制度において、安全性、信頼性、そして健康状態を損なう根深い障壁に依然として直面している。本研究では、文化的に聴覚障害のあるコミュニティのメンバーが医療にアクセスし、医療制度を利用する際の経験を明らかにし、公平かつ文化的に安全な医療を実現するための優先事項を特定することを目的とした。


方法:私たちは、聴覚障害者コミュニティのメンバーにサービスを提供する非営利団体であるDeaf Services Canadaと提携し、批判的解釈パラダイムに基づいた質的共同創造研究を実施した。カナダのオンタリオ州の都市部、農村地域、オンタリオ州北部など、複数の地域から参加者を募集した。聴覚障害のある成人、家族、通訳者、アドボケーターを募集し、アメリカ手話(ASL)と英語の通訳者を用いて8つのフォーカスグループを実施した。私たちは、聴覚障害の社会文化的モデルに基づいて、省察的なテーマ分析を行った。コーディングとテーマ開発は、反復的な議論を通じて共同で実施し、分析プロセスが多様な視点を反映し、信頼性を強化し、聴覚障害者コミュニティの経験に責任を持つようにした。


結果:参加者は23名であった。うち14名が文化的にろう者、9名が聴覚者で、家族(n =7)、通訳者(n =5)、アドボケーター(n =7)など、役割が重複していた。5つの共通するテーマが浮かび上がった。医療へのアクセス制限は、聴覚と音声言語を優先するシステムに組み込まれている。予約プロセスにおける構造的な障壁が排除を助長している。通訳サービスは一貫して評価・実施されておらず、コミュニケーションを阻害している。医療チーム内のコミュニケーションの障害が公平な医療を阻害している。そして、制度的な障壁にもかかわらず、主体性と適応戦略が持続している。


解釈:ろう者コミュニティの経験は、話し言葉と聴覚の規範が、構造的にも対人的にも、医療へのアクセスと利用をいかに形成し、制約しているかを浮き彫りにしている。医療従事者の教育にろう文化への配慮を組み込み、通訳サービスの提供を標準化し、文化的に安全なコミュニケーション経路を統合することは、この認識不足の集団の健康における公平性を推進するための重要な第一歩である。


感想

個人的に今年3本の指に入る素晴らしい研究。こういう研究が実施できるという質的研究の魅力を思う存分堪能できます。その問いを問うこと自体に価値のある疑問を、当事者が参加している研究チームで、適切な理論を用いて体験を明らかにし、それを実際の社会に還元しようとしている研究です。

2026年8月20日木曜日

変形性股関節炎:BMJレビュー

 Hoveidaei AH, Al-Obaedi O, Arvin A, Johnston B, Ravi B. Assessing, diagnosing, and managing hip osteoarthritis in primary care. BMJ. 2026 Aug 10;394:e258168. https://www.bmj.com/content/394/bmj-2026-258168


股関節の変形性関節症(OA)

・股関節や鼠径部の痛みを呈する

・朝のこわばりはないか、あっても短時間

・診察時の可動域の制限が診断に最も資する。


・股関節OAは臨床診断である。X線写真が正常であってもOAを除外できず、臨床症状がない状態でX線写真がOAを示唆する所見であっても、確定できない。

・第一選択は、患者教育、運動、減量、必要に応じて経口鎮痛剤の投与が挙げられる。

・症状が生活の質を低下させるなら専門医による診察。


・膝または股関節OAの患者182人を対象に行われた横断調査では、推奨されている非外科的治療の全てを受けたと報告した患者はわずか6%


・男性よりも女性にやや多い。肥満、過去の関節損傷、股関節形成不全などの先天性異常、大腿臼蓋インピンジメント、高齢などがリスク


・主な症状は、歩行、ハイキング、階段昇降などの体重負荷のかかる活動によって悪化する股関節and/or鼠径部の疼痛です。

・鼠径部に最も多い。鈍い痛み。大腿外側部や臀部上部に放散することも。

・痛みには、60分未満で治まる朝のこわばりや可動域の制限が伴うことが多い


・発症初期は、X線写真に異常が見られないにもかかわらず症状が現れる場合がある。

・早期OA患者588人を対象とした前向きコホート研究では、X線での所見あり患者は、10年間で19%から49%に増加した。

・しかし、股関節置換術を必要とした患者は12%にとどまり、残りの患者(非外科的治療)は追跡期間中、痛みと活動レベルが安定していた。


・進行期の症状は患者の生活の質を著しく低下させる可能性があり、臨床上の焦点は症状のコントロールと関節置換へと移る。

・鑑別は多岐にわたるが、多いのは神経根症、大転子痛症候群、鼠径ヘルニア、骨盤内疾患


・重度の内側大腿痛は、まれだが(患者の2.7%)、股関節OAに非常に特異的(感度:12%、特異度:98%、LR+:7.8、LR-:0.89)

・患者の26~36%では反対側の関節痛も発症する


・階段昇降や坂道下りなどの動作中に痛みが悪化する場合は、股関節OAの可能性が中程度に示唆される(感度と特異度はともに約68%)。

・歩行時の疼痛と座位時の症状緩和は、感度が高い(80~97%および92%)が特異度は低い(12~34%および33%)

・膝OAの既往歴は、感度33%、特異度84%(LR+:2.1、LR-:0.80)である。

・家族歴は、感度は低い(34%)が、特異度は84%(LR+:2.1、LR-:0.79)。


・しかし、診断に必要なのは病歴よりも身体診察所見

・可動域検査中の疼痛も重要だが、可動域制限のほうが大事。

・股関節内転制限(感度:80%、特異度:81%、PLR:4.2、NLR:0.25)

・内旋制限(15度未満、感度:66%、特異度:79%、PLR:3.2、NLR:0.43)、

・内旋時の疼痛(感度:82~88%、特異度:38~39%、PLR:1.4、NLR:0.31~0.45)


・外転または内転時の鼠径部痛は、感度33%だが、特異度94%。


・関節腔の狭小化などの初期の画像所見は、今後5~10年の間に症状のある股関節OAを発症する人を予測する能力も低い


・第一選択は、運動、患者教育、減量

・痛みの許容範囲内で、低負荷の有酸素運動(例:ウォーキング、サイクリング、水泳)など、継続可能なあらゆる身体活動に取り組むよう促す。

・週に最低45分の中強度運動を行うよう指導し、可能であれば週150分を目指すよう勧める。

・運動開始時に関節痛が一時的に増悪する可能性があることを患者に伝える。

・10件のRCTを対象としたコクランレビューでは、股関節OA患者において運動が痛みを28%軽減し、身体機能を42%改善することが示された。


・階段昇降などの刺激の強い活動は避ける。

・高負荷の運動を低負荷の運動に置き換える

・長時間立ったり歩いたりすることを減らす

・過体重または肥満の患者には減量を促す

・体重について話し合う前に許可を求め、すべての症状を過体重や肥満のみに起因するものと決めつけることは避け、体重管理に取り組む前に患者の主訴が適切に評価され、管理されていることを確認すること。

・局所的な筋力強化(股関節外転筋、伸筋、外旋筋などを含む)を有酸素運動と組み合わせる。


・ 3 か月以内に十分な症状緩和をもたらさない場合、または患者の症状の重症度を考慮すると不十分な場合は、第一選択治療を補完する薬物療法を検討する。薬物療法開始後 3 か月以内に患者を再評価する

・NSAIDsが第一選択の薬物療法

・ネットワークメタアナリシスによると、ジクロフェナクとエトリコキシブが股関節OAの治療に最も効果的な経口NSAIDである

・外用製剤は胃腸障害のリスクは低いものの、浸透性が限られているため股関節への使用には適しておらず、経口NSAIDの使用が必要となる。

・NSAIDが禁忌、耐容性がない、または効果がない場合は、短期的な症状緩和のためにアセトアミノフェンを検討するが、効果は限定的。


・ここまでで効果乏しければ専門医紹介

・THAは効果高いが、術後4年までで、患者の27%が何らかの程度の術後疼痛が持続する。約6%は重度から極度の持続性疼痛。

・BMI高値と抑うつは、THA後2~5年後の軽度から重度の疼痛の潜在的な予測因子


・新たな治療法として、GLP-1による減量や、タネズマブによる疼痛管理が現在検証中。


感想

特に初期はX線と診断が必ずしも一致しない、疼痛が進行せず経過する患者が一定数いる、疼痛の部位が必ずしも股関節とは限らない、あたりが重要ポイントだと思いました。