2015年12月31日木曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part1



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part1です。血液検査の結果は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


患者:40歳 路上生活中の女性
主訴:頭痛、高血圧、精神病

 精神病の既往のある40歳女性が、頭痛と高血圧のため路上生活者のシェルターから当院に入院した。

 入院1週間前、患者はシェルターに入ることとなった。それまで4年間は、公共の建物の中で寝泊まりしていた。その間、シェルターのアウトリーチワーカーによる援助を繰り返し拒否していた。屋外にいて人々を見守るのが神から与えられた使命であると患者は話していた。シェルターでの評価では、恰好が乱れていて話が支離滅裂であり、霊的な事柄ばかりを考えていた。自分の障害を、12年以上前に遭った自動車事故で脳が損傷したためだと考えていた。自分が精神科疾患にかかっているとは考えておらず、精神科的治療を拒否したが、シェルターに駐在しているプライマリケア医の診察を受けることには同意した。限られた身体診察では、白癬が広がっており、足に静脈鬱滞性皮膚炎があることが分かった。

 入院当日の朝、患者は昨夜からの強い頭痛を訴えた。看護師が許可の上でバイタルサインを測定すると、血圧が180/110mmHgであった。緊急医療サービスが要請され、再度測定すると、収縮期血圧が212mmHgであった。患者は救急車で当院救急部門まで搬送された。


 患者は“おかしい”感じがあると言い、前頭部の頭痛を時々訴えた。視覚症状、胸痛、腹痛、嘔気、嘔吐は訴えなかった。高血圧に加え12年以上前からの精神病の既往があり、身体性妄想、偏執性妄想、誇大妄想、滅裂思考、貧困なセルフケアといった特徴があった。今回の入院の5年前に精神病院への入院歴があった。入院中はオランザピンの服用で症状が若干改善していた。退院後は精神科ケアのフォローアップを受けず、オランザピンの服用も中断していた。今回の入院の4年前にヒドロクロロチアジドを服用していたが、最近はどの薬剤も服用していなかった。ニフェジピンのアレルギーがあり、動悸がおきるとのことであった。患者はカリブ海の国の出身で、だいぶ昔にアメリカ北東部に移住してきた。喫煙は時々あり、違法薬物を使ったことはないが、過去によくわからない物質を大腿に注射したことがあると申告した。家族歴は不明だった。


 診察を行った。患者は肥満かつ低栄養で、恰好が乱れ、多数の服を重ね着していた。血圧は208/118mmHgで、再度測定すると240/130mmHgであった。脈拍95bpm、体温36.4℃、呼吸数16/min、SpO2 90%(室内気)。上部胸骨右縁に収縮期雑音(grade 1/6)を聴取したが、心膜摩擦音やギャロップはなかった。両下肢膝以遠に2+の圧痕性浮腫があり、慢性の鬱滞と硬化による皮膚の変化があった。態度は快活かつ協力的で、視線を合わせ、異常な動きはなかった。発語は小声かつ早口であった。自分の気分は「良好」であると話し、見ためも気分良好で感覚鈍麻あった。思考過程は滅裂で、過度に宗教的かつ誇大な妄想が含まれていた。神や悪魔の声といった幻聴があり、神からのメッセージだと信じている「幻視」もあった。自殺・他殺の念慮はなく、自分の状況をよくわかっておらず、判断力に欠けていた。他の一般診察所見は正常であった。

 白血球数と分画、腎機能、凝固、尿検査は正常であった。電解質、カルシウム、リン、マグネシウム、血糖、トロポニンT、NT-proBNP、ビタミンB12、葉酸も正常であった。トロポニンI、尿hCG試験は陰性だった。他の結果はTable 1に示す。心電図、胸部X線、単純頭部CTは全て正常だった。ラベタロール静注とカプトプリル経口投与が開始され、血圧は187/111mmHgに下がった。患者は入院となった。


 ラベタロールとカプトプリルを増量し、アセトアミノフェン、ダルテパリン、硫酸第一鉄、オメプラゾール、葉酸、チアミン、マルチビタミンも投与した。血圧は左上肢141/65mmHg、右上肢141/62mmHgまで低下し、頭痛は徐々におさまった。尿薬物スクリーニングは陰性だった。患者はインフルエンザワクチンを拒否した。患者は入院3日目にシェルターに退院し、シェルター内で血圧モニタリングを受けることとなった。退院時の薬剤は、リシノプリル、チアミン、マルチビタミン、葉酸、オメプラゾール、硫酸第一鉄であった。診療所の外来で1週間後にフォローアップを受けるよう患者に促した。

 方針の決定がなされた。



2015年12月29日火曜日

重度認知症患者の経管栄養と輸液(part 2)


Canadian Family Physicianに掲載されていたレビューを読んで
驚きと反省が大きかったので
全訳して掲載いたします。
前回の続きです。

Artificial nutrition and hydration in advanced dementia
Irene Ying
Canadian Family Physician (61) 245-248 2015


 Nさんに胃瘻を増設すると、全体として有害事象が多く苦痛が増える、とあなたは説明したが、Nさんの娘は、母親が飢え死にしてしまうという考えにとらわれたままであった。


ANHを希望する家族へのアプローチ

 理想的には、ANHを開始するという決断は、利益(身体的、精神的の両方にわたる)と有害事象の重みを天秤にかけたうえで、医師、患者、家族が共同して行うべきものである。法的にはは、意思決定は各州で定められた意思決定代理人(SDMs)の順位に従って指名された人が行うべきである。一般的にこのような決定は、患者が以前表明していた希望にまず真っ先には基づくべきであるが、この希望は、認知症が始まる前かまだ進行していない初期に、患者に尋ねることでしか知りえない。このような希望を知りえない状態では、患者の最善の利益に基づいて決定が行われるべきである。
 栄養チューブ挿入は大抵の場合、急性期での入院の間に行われるが、そこではスペシャリストや患者家族に継続した関係を持たない医師が医学的ケアを提供しており、家族が意思決定を行う際のプレッシャーが強くなることが多い。それゆえ家庭医にとっては、進行期での人工栄養を支持するエビデンスがないことについて、認知症の初期の段階で患者や家族と話し合っておくことが、やはり大事である。

理解内容を明確にする
 ANHの利害について話し合う前に、患者の友人や家族が抱いている特定の懸念についてまず理解することが大切である。その懸念は、最愛の人が「渇きと飢えで死んでいく」という考えに端を発しているのか。技術の進歩と良質なケアを同一のものと認識しているのか。まだ見えていない家族内の複雑な動的作用から導かれた決定なのか。こういったことを知らなければ、家族や患者を効果的に支えることがとてつもなく困難になる。

教育する
 前述のようなANHにまつわる神話に加えて、飢えと渇きについての不安が介護者の心にのしかかっていることが多い。口渇と口腔乾燥は終末期によく見られることであるが、輸液はこの症状を緩和していないように見える。末期患者では、経口での食事が空腹感を悪化させることすらある。死期が近い場合は、少量の食事、水分、人工唾液、良質な口腔ケアにより、飢えと渇きをどちらも効果的に治療することができる。

支える
 SDM(意思決定代理人)の役割は、不確定や不安と闘うことである。SDMは、ソーシャルワークやスピリチュアルケアといった、自らの支えとなる存在に気付くべきであり、実際それらは利用可能である。文化的、宗教的信念に基づいて家族が反対を唱えている場合は、その信念の細部を理解して情報が明確に伝達できるようにするために、患者の文化的、精神的指導者に対話をお願いすることが有用かもしれない。たとえば、苦しみが人間の体験における重要な側面であるとみなされている文化があるが、そこでは不快感のリスクは特定の介入を追求する際の妨げとならないかもしれない。しかしこれは、有害事象の危険性があることや死に向かう最後の数日間の過程を変えることとは異なる。このようにしばし曖昧となる輪郭を描く際には、コミュニケーションの継続が重要となる。

予測とパラメーターを設定する‐しかし、柔軟でありつづける
 ANHが開始された場合では、介入の変更や中止の必要性を示す徴候や症状についてのガイドラインを近しい人に渡しておくとよい。肺水腫による息切れ、下痢、褥瘡の悪化などの徴候や、栄養チューブや輸液ラインの自己抜去といった、ANHの有害事象を再評価する必要があるイベントについてあらかじめ議論しておくことで、家族がANHの中止に備えるのを手助けすることができる。友人や家族が、「生命維持」の提供というシンボル的性質と、実際目の前で起こっている有害事象との間で引き裂かれているような状況では、栄養注入や輸液の速度を症状が出ないレベルに下げるというような、より柔軟なアプローチでもよいかもしれない。速度が無視できるレベルになることもあるだろう。このようなシンボル的な所作は、近しい人が感情的に自らの喪失と向き合い、悲嘆過程を安寧なものとするのに十分な時間を提供するのかもしれない。


 あなたは、母親が「飢え死に」するのではとNさんの娘が心配していることを理解し、ANHの限界と有害事象について彼女に説明した。Nさんの娘は、注意深い食事介助を続けることに決めた。それから6か月間、Nさんは徐々に傾眠になっていき、娘は輸液を希望した。あなたは、他の症状が出ないレベルで皮下注入を行うことに同意した。娘は最終的にNさんの末期状態に向き合うことができ、輸液は終了となった。


これだけは

・人工栄養が重度認知症患者の予後を伸ばす、人工栄養・補液(ANH)は飢えと渇きを改善させる、というエビデンスはない。非経口補液は、それを行うことで症状を改善させる状況があるかもしれないため、ケースバイケースで考慮しても良い。

・食事、飲水はシンボル的な意味を強く有しており、これはANHの利害を推し量る際に無視できないものである。家庭医とジェネラリストは、サブスペシャリストによる管理の間は欠けてしまうかもしれない俯瞰的な視点を有しているため、重度認知症患者に対するANHの利害について家族と相談する際に重要な役割を果たす。

・議論は予防的に行うべきである。つまり、嚥下困難により合併症や入院が起こる前に、理想的には患者が自分の願いを表現できなくなる前に、議論をしておくとよい。

以上


調べていて見つけたのですが、
American Geriatrics SocietyのChoosing Wiselyの最初の項目は
American Academy of Hospice and Palliative Medicineと同じであり、
本文での推奨通りのことが書かれています。

Don't recommend percutaneous feeding tubes in patients with advanced dementia; instead offer oral assisted feeding.

Careful hand-feeding for patients with severe dementia is at least as good as tube-feeding for the outcomes of death, aspiration pneumonia, functional status and patient comfort. Food is the preferred nutrient. Tube-feeding is associated with agitation, increased use of physical and chemical restraints and worsening pressure ulcers.


参考:ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.5 Choosing wisely in Japan -Less is more-




2015年12月24日木曜日

重度認知症患者の人工栄養と補液 (part 1)


Canadian Family Physicianに掲載されていたレビューを読んで
驚きと反省が大きかったので
全訳して掲載いたします。

Artificial nutrition and hydration in advanced dementia
Irene Ying
Canadian Family Physician (61) 245-248 2015


 Nさんは80歳の女性であり、7年前にアルツハイマー型認知症とはじめて診断された。病状は進行し、現在は寝たきりでADLは全介助である。周囲の状況をあまり理解しておらず、同居している娘や義理の息子のことも時に分からなくなる。幸運にも、興奮や他の行動上の懸念はわずかである。娘は主介護者として家を離れずに面倒を見ている。
 あなたはNさんと娘家族を家庭医として長年診ている。ある日の診察中、Nさんの娘が、経管栄養が母にとっていいのだろうかと質問してきた。Nさんは食事が難しくなってきており、よく喉を詰まらせるからとのことである。


認知症患者の人工栄養と輸液のリスク

 アメリカにおいて、重度認知障害があり施設入所中の患者の3分の1が経管栄養を受けている。精神能力が障害されている可能性のある患者における人工栄養と輸液(ANH)に関する治療法決定のシステマティックレビューによれば、認知症患者を含めてANHを開始する第一の理由は延命である。しかし、エビデンスによれば、重度認知症患者におけるANHは延命にもQOL向上にもつながらない。それどころか、経腸栄養は合併症のリスクを挙げ尊厳を否定しかねない(Box 1)。従来から人工栄養は誤嚥のリスクを下げ創傷治癒を促進するといわれてきたが、研究は全く逆の結果を示しており、誤嚥のリスクと褥瘡の進行は経管栄養を開始することで増加する。後者に関しては、排便の量が増える(特に下痢になることが多い)ことで湿潤環境になり皮膚バリアが破壊してしまうのではと言われている。
 1989年に、生命倫理学者のMark Yarborough博士は増え続ける経腸栄養の利用に疑問を投げかけた。Yarboroughは経腸栄養を特定の集団に“強制的に食事させる”方法であると考えている節があった。想像力を抑制する必要はないが、経腸栄養により忍容量以上の食事を与えるという考えを招くため、重度認知症患者の文脈ではこれは適切なたとえではない。たとえそうであっても、私たちは異常な割合で重度認知症患者にANHを使い続けている。


社会、文化、倫理的考慮

 重度認知症患者への人工栄養が有害であるというエビデンスが既に知られており、どんどん蓄積されているにもかかわらず、人工栄養はこのような患者集団で頻繁に使用される介入方法であり続けている。この現象の原因として特定の集団をどれか一つだけ指摘するのは不公平であろう。というのも、原因はおそらく多岐にわたっているからだ。
 患者や家族にとって、食事や水分は宗教的、文化的、個人的な理由により重要な意味を持ちうる。例えば、迫害や貧困などにより飢えを経験した人はどのような状況であっても、経管栄養により生じる可能性のある害を差し置いて、栄養を投与されないことを尊厳の蹂躙ととらえるだろう。多文化な集団に対するこのような考慮を心にとどめておくことが特に重要である。カナダにいる住民の多くは、国内外を問わず生活環境が非常に苛酷であった可能性のある地域の出自である。
 医師やほかの臨床家が、重度認知症患者に経腸栄養を過度に使い続ける役割を演じてしまうこともある。たとえば認知症患者にとって誤嚥性肺炎は経管栄養の重要な適応であるというような誤りをよく犯す医師には知識の大きなギャップがあるというエビデンスが存在する。このように、多くの言語病理学者は、重度認知症や重度嚥下障害患者に経管栄養を行うと栄養状態が改善し予後が延伸するという誤った信念を抱いている。
 サブスペシャリストが管理している患者は、ジェネラリストの患者と比較して経管栄養を受けていることが多い。この理由は不明確だが、ジェネラリストが患者のケアをより広い視点で見る傾向にあることと関係しているのかもしれない。
 アメリカ老年医学協会のガイドラインでは、重度認知症患者に経管栄養を行わないよう推奨しており、注意深く介助下で食事させることを勧めている。注意深い食事会所が可能な状況下ではたしかにそのほうが良いが、現実には、重度の認知機能低下がある患者の多くは、育児も行っており非常に忙しい子ども(sandwich generation: 親の介護と育児の両方を行わなくてはいけない世代)が世話をしていたり、1対1の対応をする時間が限られている施設にいたりする。アメリカの研究では、経管栄養の入居者にかかる1日のコストは、そうでない入居者より低いことが明らかになっている。しかし、メディケアの請求書をみると、経管栄養の患者はチューブの挿入や合併症による入院などに関連する払戻の必要額が随分高いことが分かる。この研究結果により介護施設は、患者の健康とヘルスケアシステム全体のコストを考慮しながらも、自分の経営も安定化させなければいけないという難しい状況に追い込まれている。


輸液 (注:原文はparenteral hydration)

 経管栄養が引き起こすリスクと害のうち、輸液とも関連しているものがある(肺水腫、末梢浮腫、分泌物増加)が、量を制限して集中的に輸液を行うことが良い状況があるかもしれない。たとえば、補液はオピオイド中毒や高カルシウム血症のような譫妄の原因を緩和させることがある。


2015年12月19日土曜日

SMA症候群について



糖尿病→急激な減量→嘔気・嘔吐→SMA症候群
の疑いがあるケースを経験したので、SMA症候群について調べてみます。


基本的には近位小腸閉塞と一致した病状を呈します。
軽症だと食後心窩部痛や早期満腹感のみですが
進行すると嘔気、胆汁性嘔吐、体重減少を来します。
逆流性食道炎の症状が出ることもあります。

症状は腹臥位、左側臥位、膝胸位で軽快することもあります。

身体的ないし精神的疾患や手術後による体重の急激な減少が最も多いリスク因子です。
悪性腫瘍、吸収不良症候群、AIDS、外傷、熱傷が契機となることが多いです。

しかし、体重減少がなくてもSMA症候群を来すことがあります。
例えば側弯症の手術後(これをCast症候群といいます)などです。


診断が遅れると、嘔吐→電解質異常、胃穿孔、気腹症、門脈内ガス、十二指腸内石の原因となります。

鑑別疾患は以下の通り。
糖尿病などによる蠕動運動低下、膠原病、強皮症、慢性特発性腸偽閉塞
食道裂孔ヘルニアなど良くある消化不良、逆流の原因を検索する必要がります。
腸管アンジーナも似た症状を呈するので注意です。

画像検査では、十二指腸の閉塞、腹腔動脈とSMAの分岐角が25°以下、Treitz靭帯の異常、SMA起始部が低位などの所見に留意します。


治療は、胃管挿入(全例挿入と記載してあります)、電解質補正、栄養療法(鼻-十二指腸管やCVを考慮することも)です。ダメなら手術適応です。といっても効果はまちまちみたいですが。


参照:UpToDate Superior mesenteric artery syndrome


2015年12月14日月曜日

ニューキノロンの相互作用



尿路感染症の外来フォローなどで使う機会があります。
知っているものもあれば知らなかったものもあるので、纏めてみました。


ニューキノロン+NSAIDs:痙攣

ニューキノロン+ワーファリン:PT-INR延長

ニューキノロン+テオフィリン:テオフィリン中毒(頭痛、痙攣)

ニューキノロン+Na, Ca, Al:ニューキノロン吸収低下
市販胃腸薬に含まれていたりするので注意
Fe, Znでも吸収低下が起こりうる

ニューキノロン+アミオダロン・抗精神病薬など:QT延長


気を付けて使用しなくては。


2015年12月11日金曜日

甲状腺結節(NEJM Clinical Review)


今週のNEJM Clinical reviewが甲状腺結節についてでした。
偶発的に見つけることがままあるので、まとめてみます。

・触知可能な甲状腺結節は人口の4-7%にみられる。
・癌は結節の8-16%を占める。
・無症状の患者100人にエコーをすると、22人に単結節、45人に多結節がみられる。

・亜急性甲状腺炎や橋本病が腫瘤を形成することがある。
・ヘモクロマト―シスや癌転移などの浸潤性疾患や種々の良性腫瘍は甲状腺結節の稀な原因である。

・甲状腺がんのリスクファクターは以下の通り:家族歴、放射線曝露歴、既往歴、男性、原子力事故の近隣住民

・良性の場合は大きさが比較的変わらない。
・組織学的に良性と診断された甲状腺結節を5年間フォローすると、拡大傾向が15%、縮小傾向が19%。5例(0.3%)が悪性と判明した。

・まずは病歴。上記のリスクファクターを念頭に。
・急速進行は悪性を疑うが、良性結節・嚢胞の出血も。
・嗄声、嚥下困難、前頸部不快感はRED FLAG。
・甲状腺がん、乳がん、大腸がんの家族歴あり、皮膚や粘膜に過誤腫があれば、Cowden症候群かも。他にも家族性に甲状腺がんを来す症候群はある。
・触診では硬さ、位置、大きさを確認。リンパ節腫大も合わせて確認。

・TSHは全例測定しよう。TSH低値でhyperfunctioning noduleなら甲状腺機能亢進症として治療となる。
・カルシトニンを全例測定するのは推奨されていない。

・エコーも全例検査しよう。低エコー、辺縁不明瞭、高さ>幅、微小石灰化は悪性所見
・1cm以上でエコーで疑わしい場合、1.5cm以上でエコーで否定的でない場合、2cm以上の場合は細胞診を。
・細胞診の偽陰性は5-10%ある。3cm以上なら偽陽性率11.7%(3cm以下なら4.8%)。

・細胞診の結果と将来の発がんリスクは以下の通り。



・細胞診で良性所見かつ臨床的、エコー的に疑わしくない場合は1-2年ごとにエコーをフォロー。
・少しでも疑わしい所見があれば6-12か月ごとにエコーをフォロー。
・50%以上の体積増加あるいは2つの次元で2mm以上増大があれば再度針生検。



2015年12月6日日曜日

CEA産生腫瘍/胆嚢摘出術後の総胆管結石



研修で生じた疑問をサクッと解決しちゃいましょうのコーナーです。
UpToDateに頼りきりですが、パパッとまとめます。


①大腸癌でCEAが高いと予後が悪いのか。

CEAが5.0ng/ml以上であると予後不良です。これはステージとは独立しています。
J Natl Cancer Inst. 2011;103(8):689によれば、27ヶ月間のフォローでCEA高値群の死亡率がHR 1.46-1.76で高値でした。
この傾向はどのステージでも見られました。
そして、リンパ節転移なしでCEA高値の群が、リンパ節転移ありでCEA正常の群と比べて死亡率が同じもしくは高い傾向が見られました。(HRで比較すると前者が1.48-2.09、後者が1.30-1.91)。

(以上、Pathology and prognostic determinants of colorectal cancerを参照)

なお、CEAは胃潰瘍や喫煙、加齢などでも上昇することがあります。
感度、特異度ともに高くないので、CEAのみを根拠に診断を行うのは無理です。
当然、大腸がん検診をCEAで行うのもアウトです。


話はそれますが、大腸がんの健診におけるUSPSTFの推奨は以下の通りです。
対象:50-75歳
方法
①便潜血検査を年1回
②10年ごとの大腸内視鏡
③5年ごとのS状結腸鏡+3年ごとの便潜血検査

大腸ポリープ診療ガイドライン2014では、6mm以上の大腸ポリープは切除適応で3年後フォローアップとなっています。

上の2つは、国内外の様々なガイドラインで推奨が異なります。

(参照:Hospitalist 外来における予防医療)


②胆嚢摘出術後の総胆管結石について

発生率は10%程度とのことです。結構多いのですね。
エコーは使えない(そもそも摘出術後は胆管拡張している)ので
胆石様の腹痛や肝酵素異常などで疑ったら、CTなどの検査をもちいます。

胆嚢摘出術後症候群(postcholecystectomy syndrome PCS)という概念があります。
症状としては、繰り返す持続的腹痛と消化不良です。
晩期に起こることもあり、結石再発、胆道狭窄、胆嚢遺残の炎症、胆道ジスキネジアなどが原因となります。

(以上、UpToDate Laparoscopic cholecystectomyを参照)


高齢者虐待 part3



NEJMの高齢者虐待のレビューです。
今回はpart3です。これで終わりです。
なお、Figureの訳は載せていません。


介入
高齢者介入についての特異的かつ明確な介入について大規模かつ質の高いランダム化比較研究はなく、この分野における決定的な知識ギャップを引き起こしている。しかし、この分野での数十年にわたる臨床経験と記述された最良の診療が、被害者と救う際の臨床家の手助けとなる。成功例であっても、一回の介入で虐待の被害者を窮地から迅速かつ確実に救い出せることはまずない。そうではなく、高齢者虐待に対する介入の成功例は、多職種が関わり、継続して、地域ベースで、資源を集約しているのが典型的である。医者はこのような介入の医学的要素に重要な役割を果たしているが、たいていの場合は、高齢者虐待自体に対し介入を始め、維持し、成功するのは、医師だけでは困難である。それ故、医師にとって最も重要な仕事は、高齢者虐待を認識、同定し、地域社会で利用可能な介入資源をよく理解し、これらの資源に患者を紹介したりともに協同してケアを行っていくことである。
Table 2に、高齢者虐待の事例に介入する際によく関係するサービスや機関とその役割を載せている。Figure 1は、虐待被害者が同定されたとき、あるいは疑わしいときに行う、包括的かつ多職種による介入アプローチの概要を示している。APSは、虐待が疑わしいときに必須の報告を受け取る連邦政府プログラムであり、事例調査の中心的存在である。49の州(ニューヨークを除く)は、虐待のケースを、たとえ疑い例でもAPS、警察、調整機関に報告する義務を、指定報告者(医師を含む)に法律で課している。報告を受けるとAPS職員は通常、懸念を確証したり打ち消したりするために、家庭を訪問し調査を行う。もし虐待だとわかったら介入措置が取られるが、それは被害者の状況に合致したものであり、地域資源や家族の資源や動きに高度に依拠したものである。医師は、APS職員が調査を進めるときに非常に有用な資源となりうる。
虐待の状況により必要な介入は様々である。精神科疾患のある加害者には強制的に精神科的治療が必要となるかもしれない。介護負担が重いために高齢者虐待となっている場合はレスパイトサービスや被介護者に対する在宅サービスが必要かもしれない。物質乱用に関連した高齢者虐待では、全く異なる介入が有効である。このような状況全てにおいて医師は重要な役割を有しており、虐待の存在がはっきりと証明されていなくても、身体的治療や在宅サービスを導入し、慢性疾患治療を最適化し、ケアを調整し、生活機能を高く保持するために注意を払うなどの高齢医学的サービスを始めることで、虐待の起きた状況を改善することができる。
認知症による認知機能低下(高齢者での機能障害の最も多い原因)は有病率が高いため、高齢者虐待では全例、被害者が意思決定能力を有しているか、避難的介入を受け入れることができるかを考慮することが肝要である。このような意思決定能力の評価には、決定権のある州の法的機関だけでなく当人の障害の程度にもよるが、精神科医や高齢医学の臨床家が大抵は必要となる。それは、APSチームと一員としてのこともあるし、私的な依頼を受けてのこともある。患者が介入を拒否したり意思決定能力を欠いたりしている場合は、後見人などの法的介入が必要になることが多い。そのような場合、医師は身体診察と病歴から意思決定能力の有無を示す証拠を提出することが役割であり、時には、加害の被疑者が後見人にならないように手続きに参加することもある。
高齢者虐待は様相が複雑なため、最も幸先のある対応策は多職種協同チームの発展である。多職種連携チームとも呼ばれる多職種協同チームは、医師、ソーシャルワーカー、警察、代理人、他の地域社会の参加者が協同して動くものであり、被害者を救うための最も実践的なアプローチであるとのエビデンスがある。多職種協同チームは、地域社会での複雑なケースについて議論し、効果的な反応を呼び起こすために、コーディネーター(大抵はソーシャルワーカーや看護師が担う)が旗振り役となって定期的に会合を開く。行動プランが立ち、個々のメンバーが特定の仕事に割り振られ、フォローアップの時間枠が明確に定められる。(分野を超えたチームの会合の模擬映像はhttp://nyceac.com/clinical-services/mdtsで観ることができる。) データによると、分野を超えたチームはメンバー間で効率、協同、専門的サポートを高め合う。
多くの医師にとって、地域社会での高齢者虐待に対応する公的な多職種協同チームを抱えるのは無理がある。しかし、いくつかの必要な機関(APSを含む)と専門家がいることで、そのようなチームを作り上げることができる。医師はこれらの関係性を熟成させて、高齢者虐待の被害者を救い、地域社会での多職種協同チームを発展させることができる。まさしく、地域社会で多職種協同チームを構築するための触媒となることこそが、高齢者虐待に関して医師ができる最大の貢献である。多職種協同チームの構築に関する詳細なガイダンスは、高齢者虐待ナショナルセンターのサイトからダウンロードできる(http://ncea.aoa.gov/stop_Abuse/Teams/index.aspx#traditional)。

長期ケア施設における高齢者虐待
施設で高齢者虐待が起こっているという懸念が最初に世間に広まったのは1970年代であった。そのころは、施設はあまり管理されておらず、見逃しもあった。1987年の連邦予算削減一括法で、施設入居者の評価とケアを標準化する枠組みを連邦政府が策定したことで、施設での高齢者虐待の発見と報告が多くなった。このような状況で虐待が多くなるという科学的研究はないが、利用可能な観察研究、臨床研究のエビデンスによると、スタッフが利用者を不適切に扱うことは、医師が関心を抱くくらいには多い。利用者間での暴力は、身体的、言語的、性的のいずれでも非常に多いことが研究で指摘されている。利用者間の暴力によって生じる臨床的に重要な創傷を発見するために、利用者を診察、治療する際に、このような可能性に留意するべきである。
虐待の原因が何であろうと、医師は虐待を受けた利用者に出会うことがある。プライマリケア医として施設で出会うこともあるし、患者が救急受診した際に相談されることもあるだろう。施設での虐待の疑いを報告し調査するための報告機関が各州にはあり、それに従って医師は自らの懸念を報告しなければいけない。高齢者虐待のナショナルセンターでは、このような目的のために報告用の電話番号や各州のオンブズマン機関の住所をウエブサイトに掲載している(http://ncea.acl.gov/Stop_Abuse/Get_Help/State/index.aspx)

結論
高齢者虐待の被害者は孤立する傾向にあるので、途切れ途切れであったり回数が少なかったりしても医師が虐待被害者と関わることは、高齢者虐待を認識し、介入したり被害者を適切なケア提供者へ紹介したりする決定的に重要な機会となりうる。また、高齢者虐待の多様な表出と多職種協同チームのアプローチの重要性について理解を深めるにつれ、このような公衆衛生上の主要な問題を扱う際に医師が果たす重要な役割が何かが浮かび上がってくる。研究と臨床経験の両方が、医師一人だけでは高齢者虐待の治療を成功させることは、もしできたとしてもめったにないことを示唆している。なので、医療の専門家としては、理想的には多職種協同チームによるアプローチの文脈において、ソーシャルワーカー、警察、保護サービスなどの多分野の専門家と共同して対応をしなくてはならない。


2015年12月1日火曜日

急性冠症候群のprediction score


胸痛の救急患者さんに出会うと

「急性冠症候群じゃないよね」と常に不安が付きまといます。

もちろん、6時間おきに心電図とデータフォローというのが王道なのですが

もうちょっと自らの診断性能を高めたいと思っています。


JAMAのClinical Rational Examinationでこの話題があったので(JAMA. 2015;314(18):1955-1965.)
目を通したところどうやらTIMI scoreとHEART scoreが有用とのことだったので、調べてみました。


TIMI score (Thrombolysis in Myocardial Infarction Score)

・65歳以上
・リスクファクターが3つ以上
  (冠動脈疾患の家族歴、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)
・冠動脈狭窄の既往(50%以上)
・7日間以内のアスピリン使用
・24時間以内に2回以上の狭心痛
・0.5mm以上のST変化あり
・心筋マーカー(CKMB, TropT)陽性

TIMI scoreが5-7点でLR+:5.2-8.9
0-1点でLR-:0.23-0.43となっています


HEART score

【病歴】非常に疑わしい:2点 そこそこ疑わしい:1点 あまり疑わしくない:0点
【心電図】著明なST低下:2点 非特異的再分極:1点 正常:0点
【年齢】65歳以上:2点 45-65歳:1点 45歳以下:0点
【リスクファクター】3以上:2点 1-2:1点 0:0点
【トロポニン】3倍以上:2点 1-3倍:1点 正常:0点

7点以上でLR+ 7.0-24
3点以下でLR- 0.13-0.30です。


救急の場で、しっかりリスク因子(冠動脈疾患の家族歴、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)を聴取しないといけないのですね。