2020年11月30日月曜日

360°評価を用いて効果的なフィードバックを行うためには

 

この記事は,大学院の課題をもとに再構成したものです.

十分深めきれてはいませんが,新家庭医療専攻研修では360°評価が必須になったので,議論の足掛かりにはなるだろうと思い,投稿します.

(用語確認:360°評価は,英語ではMulti-source feedback (MSF)と書かれることが多いようです.)



まず,MSFの意義について確認します.

Millerのピラミッドとして有名ですが,学習者の評価は,"Knows" "Knows how" "Shows how" "Does"の各レベルで行われます.

そのうち,Doesを評価する方法として,Workplace Based Assessment(WPBA)があります.

WPBAにも様々な領域がありますが,誰が評価するか,という軸で大別すると,

学習者自身の評価(学習ログ,audit,Significant Event Analysisなど)

学習者と指導者による評価(ビデオでのフィードバック,Case-based Discussionなど)

そして,学習者でも指導者でもない人の評価

があります.

(RCGP International Training of Trainers Courseより引用)

そして,学習者でも指導者でもない人からの視点を得る方法として,患者視点のPatient satisfaction questionnnaireまたはPatient Experienceと,同僚・多職種視点のMSFがある,というわけです.



次に,MSFで何を評価するのかです.

何でもかんでもMSFで評価するのではありません.

例えば,医学的知識の確認や診断・治療の妥当性を,MSFで確認するのは不適当であり,そこは筆記試験であったり,Case-based discussionで評価するのが妥当です.

文献によれば,MSFで評価する内容は以下の通りです.

(J Grad Med Educ. 2017 Jun;9(3):367-368.)


MSFで評価項目を絞る,という発想は重要だと思います.
学習者も評価者も,何をしたらよいのかが明確になります.

例えば,日本プライマリ・ケア連合学会新家庭医療専門研修で使われるMSFの評価票は
「対人コミュニケーションスキル」と「リーダーシップ・マネジメントスキル」の
2項目に限定しています.
http://primary-care.or.jp/nintei_sk/evaluation.html



最後に,どのようにフィードバックを行うかです.

上述の学会の評価票では,多職種が記載した評価票そのものは学習者には開示されません.

指導医が評価票をもとに学習者と話し合うことで,フィードバックを行うシステムになっています.


MSFが有効に機能するための項目として以下が挙げられています.(J Grad Med Educ. 2017 Jun;9(3):367-368.)

① 有意義なフィードバックをするための質問項目の開発

②評価者の観察と判断が一致する行動の同定

③だれを評価者とするか

④評価者の訓練


また,学習者がMSFを通じて自分の行動を変えるようになるためには,信頼している評価者からMSFの目標と価値を説明されて,それを受け入れることが必要です.(J Contin Educ Health Prof. 2003; 23(1): 4–12.) 


また,2014年に発表されたシステマティックレビュー (BMC Med Educ. 2014; 14: 76.)では,MSFによる変化が予期される項目はコミュニケーション(対同僚,対患者)と臨床能力の改善であり,それを促進する因子として,①フィードバックのフォーマット,②自由記載,③信頼のおける情報源が挙げられています.


やはり,評価票を直接学習者に見せるだけでは不適当であり,学習者の行動を良い方向に変えるよう指導者が注意深いフィードバックを行う必要があるといえます.



以上の議論より,適切なMSFのために必要なことを自分なりに考えてみました.

・評価者が教育されており,直接観察に基づいて教育的なコメントを行うことができる

・指導者が学習者にMSFの意義をしっかり説明している

・評価項目が学習者にとって納得のいくものである.学習者に項目策定に参画してもらうのがいいかもしれません

・フィードバックが学習者の行動変容につながるような仕組みになっている



2020年11月23日月曜日

Clinical Problem Solvingが出版されました

 

Journal of General and Family MedicineにClinical Problem Solvingが掲載されました.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.396


Why-not-doing-high-tech-test syndromeというタイトルです

「どうして検査やってない症候群」ですね.

high-tech medicineではなくて,high-touch medicineをしましょう

というメッセージを込めています.

実際の症例は本文をお読みください.無料で読めます.


CPSの出版はこれで2回目です.

前回はAll that glitters is not gold.というタイトルで,腹痛の原因がじつは腹腔内になかった,という内容でした.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.264


2本とも,獨協医大の志水教授にご指導いただきました.

1本目は私は症例部分とdiscussionの記載をメインに行ったのですが,今回はdiscussantの部分も含めてすべて元の文章を書くことができました.

discussantの文章を書くのが,自分の診療を振り返る視点でとても勉強になりました.論文執筆は臨床における自己学習の大きなツールであることを実感しました.


大学院に進学するとどうしても臨床経験が減るのですが,引き続き症例報告を書くことですこしでも臨床能力を維持していきたいです.



2020年11月16日月曜日

Journal Club: IPEを受け入れる地域病院で何がおきたのか(リアリストアプローチ)


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Haruta J, Yamamoto Y. Realist approach to evaluating an interprofessional education program for medical students in clinical practice at a community hospital. Med Teach 2020;42(1):101-110. (PMID: 31595791)


【背景】

・IPEは学年を通じて継続的に行うことが望ましい.

・多職種協働の準備を行うためには,臨床現場で様々な場面に出会う(clinical encounter approach)ことが望ましい.

・大学病院での実施は困難で,プライマリケア領域の方が適している.

・臨床現場での複雑なIPEプログラムを評価する方法の確立は,IPEの普及に寄与すると考えられる.

・複雑な介入に対して,”What works, for whom and in what circumstances”を評価するRealist approachが推奨される.


【Realist approachとは】
・詳しくはリンク先の論文を読んでください.(日本プライマリ・ケア連合学会誌.「リアリストアプローチ:科学的方法論に基づいた複雑な介入や教育プログラムの評価」)

・どのようなコンテキストで,なにをすれば,どのようなメカニズムが機能するし,どのようなアウトカムが生じるかを探索・検証する方法で,この一連の組をCMO(Context-Mechanism-Outcome)と呼ぶ.

・データ収集→CMOを明示→一貫性と統合性を洗練→条件を限定して成り立つ中範囲理論を生成する,という流れです.意図するアウトカムのために環境を設定し,そのなかで学習者が何を学びどのような活動を行ったのかを評価することになります.

・以下の手順が提起されているようです.
 1.作業仮説・理論の生成
 2.CMOの構成要素についての仮説
 3.観察と検証(特定の方法に限定せず行う)
 4.理論の明示

【手法】
・著者らが開発したIPEプログラムで研究が行われた.
・学習目標は以下の3つ
 「他の職種の役割を理解する」
 「他の職種が期待する医師の役割を学ぶ」
 「チームの一員としての医師の役割を学ぶ」
・学習戦略:observation through shadowing
・評価:(形成的) 病院スタッフとファカルティメンバーによる観察
     (総括的)360°評価と最終日の振り返り
・対象者:5年生または6年生の58名.コース選択はランダムである.

〇作業仮説・理論の生成
・著者自身が多職種のシャドーイングを行い,さらにインタビューを施行した
→実習の準備過程において,多職種は以下の2つを獲得していたことがわかった.
 ①Confident professional role
 ②Readiness to teaching medical students

・これより以下の仮説を得た.
「医学生が地域の病院で多職種をシャドーイングすることで,自らの医師中心的な考え方を見直し,多職種協働の価値を認識するようになる.」

【結果】
・医学生のレポート,360°評価,フィールドノート→テーマ分析でCMOを抽出した
Context
(1) 医学生の大学病院での経験 
(2) 医学生の学習の特徴
(3) 多職種からの臨床上の支援
(4) 地域病院間の密接な専門家間の関係
(5) 多職種のユニークで包括的な役割/貢献
(6) 医学生が地域のニーズを学ぶのに役立つ地域の病院の学習環境
(7) 多職種が医学生に持つステレオタイプに関する自由な議論

教育介入
(1) 多職種のシャドーイング
(2) 多職種の役割に関するレポートの作成
(3) 振り返り
(4) 診療現場への参加
(5) 当直を含む臨床現場
(6) 地域の病院の外でのフィールドトレーニング
(7) 多職種が医学生に将来の医師とし抱く期待と,医師の役割に関する助言

想定されたメカニズム
(1) コンテキストの学習
(2) 自己管理型学習
(3) 正統的周辺参加
(4) 経験型学習
(5) 接触仮説
(6) 観察学習
(7) 社会構造の気づき
(8) 認知的共感のための学習プロセス

・これより以下の4つのCMOを得た.
1. 大学病院と地域病院との比較と、比較に基づく自己管理型学習
2. 医学生の学習特性と地域病院のコンテクストに基づく
    正統的周辺参加、経験的学習および接触仮説
3. 多職種間での観察学習と
    観察学習のコンテクストの理解を深める社会構造の認識
4. 医学生の認知的共感を高めるような、多職種との自由な議論の学習効果

・これらのCMOが機能したとき,医学生は多職種に親近感を持ち、多職種と協力する医師の役割に対する理解を深めた。また,医師中心の考えを見直し、専門家間協力の重要性を認識した。


2020年11月9日月曜日

業績集のページを作りました

 

いままでの業績のまとめが必要になったので,ブログでも公開いたします


学術誌はまだ活動報告や症例報告ばかりですが,大学院でしっかり研究論文を書けるようになりたいです.

商業誌はありがたいことにちょくちょく声をかけてもらえるようになりました.依頼お待ちしております.SDH,複雑困難事例,診断推論,医学教育などなど…

学会発表,ワークショップ/セッションは列挙するとかなりやっているんだなということが分かります.わりと論文化まで到達している印象です(これから論文化するものも含みます).特に社会的バイタルサインについては,徐々に浸透してきている印象です.


たぶん漏れているのもあるのでしょうが,まあいいです.


論文執筆をつづけつつも,商業誌や翻訳の依頼,お待ちしております.



2020年11月2日月曜日

レターが掲載されました.

 

Journal of General and Family Medicineに,レターが載りました.


Caution about overdiagnosis of neck calcification


Crowned dens症候群や石灰沈着性頸長筋腱炎の診断フローチャートに対し,無症候性石灰化の可能性を考慮すべきという趣旨です.

歯突起の周りに石灰化があったとしても,髄膜炎などのcritical diseasesは簡単に除外してはいけません.


ご笑覧いただければ幸いです.