2020年12月28日月曜日

難聴のレビュー

 

難聴についての良くまとまったレビューがCan Fam Physicianに掲載されていました.

Daniel Newsted, Emily Rosen, Bonnie Cooke, Michael M. Beyea, Matthew T.W. Simpson, Jason A. Beyea. Approach to hearing loss. Can Fam Physician 2020;66 (11):803-809


Figure 1がすべてですね.



ポイントだと思った点を列挙します.

・難聴をきたす薬剤は抗がん剤,抗菌薬(アミノグリコシド,マクロライド,バンコマイシン),サリチル酸.

・フロセミドはシスプラチンおよびアミノグリコシドの耳毒性を増強する.ループ利尿薬による難聴は見落としそう.

・基本的知識ですが,片側の突然の感音難聴は突発性難聴→高用量ステロイドですね.(1 mg/kg to a maximum of 60 mg/d for 1 week, tapering during the second week)

・感音性か伝音性かの判断は,Weber徴候,Linne徴候が参考になる…とありますが,実際やってみてもはっきりわからないことが多い印象です.緊急性がなければ一度は耳鼻科紹介が望ましいかと思います.

・鼓膜所見はしっかり見ましょう.

・耳硬化症は鼓膜所見正常の伝音性難聴で疑います.比較的若年で緩徐進行です.手術で劇的に改善する可能性があるので,見逃してはいけないですね.

・高齢者の難聴は,転倒,社会的孤立,精神疾患,認知症のリスクです.


定期通院している高齢者で耳が遠い人は多いですが,せめてお薬手帳と鼓膜はみようと再認識させられました.


2020年12月21日月曜日

アルコール依存とは何かを言語化する

 

この記事は,大学院での課題レポートをもとに作成したものです.


アルコール依存の方を診る機会が多く,「医師として診察するにあたって」アルコール依存の状態をどのように解釈したらよいのかを考えてみました.


Handbook of Alcoholism Treatment Approachesという文献では

アルコール依存をとらえる主なモデルとして

「モラルモデル」「疾病モデル」「政治経済モデル」「社会文化モデル」の4つを上げています.

これらのモデルはどれが正しいというものではなく,真の理解と対処のためにはすべてのモデルを用いる必要があるというものです.


モラルモデルでは,アルコール依存は自己をコントロールできず社会的責任感のない個人が不道徳な選択をした結果であり,宗教的な背景をもとに罰を与えることで対処すべき状態であるとしています.現在でも飲酒を戒律違反とするムスリムや一部のプロテスタントといった宗教的側面を共有する社会において優勢なモデルです.

現在の日本においても,著名人のアルコール依存(または薬物依存)にかかわる報道に対し,社会的な罰をあたえることで「改心」をうながすモラルモデルが支配的であるように思われます.

一方で,当事者である著名人が「(アルコール依存を含む依存症は)一人では回復できない病気」(高知東生 Twitter 2020年9月22日21:53)「依存症は脳の機能不全。病気です。」(東ちづる Twitter 2020年9月24日 14:32)と主張し,次に述べる疾病モデルの重要性を訴える意見も見聞されます.


疾病モデルでは,アルコール依存を治療の必要な疾病としてとらえます.

生物医学の発展によりアルコール分解酵素などの遺伝的差異が明らかになったこと,フロイトの性心理気道モデルに代表される心理学的モデルによりアルコール依存を精神疾患ととらえることが可能になったことが,このモデルを後押ししています.

精神疾患の分類と診断のマニュアル(DSM-5)は典型的な疾病モデルの例です.

DSMにはalcohol use disorderという項目があり,11の症状のうちいくつ当てはまるかで重症度を分類しています.「患者」の状態のみに着目して「診断」がなされる点に注意です.


政治経済モデルでは,アルコール依存が貧困,失業,社会的周辺化と結びついていること,政府やグローバル企業が合法的な依存としてアルコールを推奨していることなどに注目し,社会的経済的な不平等がアルコール依存を生み出す仕組みに関心が寄せられます.

現状の政治・経済の仕組みを批判的にとらえ,不正義,不公正が弱い立場にある人に悪影響を与えているというパラダイムに依拠しています.

政治経済モデルの具体例として,WHOが発表した健康の社会的決定要因に関する冊子The Solid Factsがあります.ここでは「アルコール依存症、不法薬物の使用や喫煙は全て社会的・経済的に不利な状況と密接に関わっている」との主張がなされています.


社会文化モデルでは,アルコールの使用は特別の文化的意味が付与されており,文化の定めたルールが正常とされる飲酒と以上とされる飲酒とを区別する,という考えに立ちます.日本では諸外国と比較して,「酔っ払い」が外でふらついていることが許容される,アルコールの宣伝広告が多くみられるなど,飲酒に寛容な文化であると思われます.


以上のモデルはすべて,当事者ではない者(医師や社会学者など)からの視点で書かれたものです.

一方で,当事者自身がアルコール依存をどのように位置づけて,どのように向き合っているかということを知ることが,共同創造の観点からは求められます.

共同創造とは,当事者ではない研究者や集団がどのような財やサービスをどのようにデザインするかを決めるのではなく,その過程で当事者や支援者の視点を取り入れる,あるいは当事者や支援者が主導することを指し,身体障害,発達障害などに対する支援や研究において採用されてきた手法です.

共同創造や,それに関連する当事者研究では,当事者がもとから抱える本質的な生きづらさや,物質に依存せざるを得ない状況への対応について語られています.


余談ですが,当事者研究については目下最大の関心事でして,学習を深めているところです.コロナ禍だけどそこまで流行していない地域の家庭医の当事者研究とかしてみたいです.


本題に戻ると,アルコール依存を医師として診察する際には,疾病モデルがもつ「依存症は治療が必要な病気であり,患者は治療に専念するために守られるべき存在である」という枠組みを有効に活用しながらも,患者の文化的背景や,患者に影響を与える政治経済的問題についても探索することが必要だろうと考えます.

加えて,当事者の語りに耳を傾けて,回復の目標や必要な支援について共同創造を行うことが重要であると考えます.


結論は大したことないですが,いままでなんとなくこうやったらうまくいくこと多いよなと思いながら探り探りやっていたアルコール依存診療が,少し言語化できたような感じがします.


【参考文献】

第8章「文化と薬理学-医薬品,ドラッグ,アルコール,タバコ」4節「飲酒と乱用」In: ヘルマン医療人類学 金剛出版 2018年 pp.211-7.

臨床心理学増刊第9号「みんなの当事者研究」熊谷晋一郎=編 金剛出版 2017年



2020年12月14日月曜日

Clinical Pictureが出版されました.


 

Hunter舌炎のClinical ImageがInternal Medicineに掲載されました.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/advpub/0/advpub_6004-20/_article

大したことのない症例報告で恐縮ですが,まだHunter舌炎がPictureとして掲載されていない雑誌を選んで,次の2点のメッセージを強調したことで,アクセプトしていただけたのかなと思っています.


①すでにビタミン製剤が投与されている場合は,ホモシステイン値を測定しましょう.

②舌炎は神経症状や貧血に先行して出現することがあるので,典型的な画像を再度確認しておきましょう.


完全に個人的な姿勢の話なのですが,

症例報告をするときには,珍しい疾患や病態はあえて取り上げないようにしています.

読者を自分と同じ家庭医と設定して,

日常のプラクティスに影響を与えるようなテーマを選んでいます.


今回は非常に典型的なケースで,新規性はないですが,

少しでも皆様のお役に立てればと思います.



2020年12月7日月曜日

活動報告のレターが出版されました.

 

Journal of General and Family Medicineに,中小研修病院の研修医を対象に行っている教育活動について報告したレターが掲載されました.

Circum‐Setouchi conference: Transboundary support for residents in small‐scale programs


中小研修病院では,地域に根差した医療,患者の社会的背景を考慮し,多職種協働により行われる医療を学ぶことができる一方,教育資源と同期が少ないため研修医は漠然とした不安を感じていることが先行研究から分かっています.

そこで,10の研修病院の研修医が月1回あつまり,一緒に学び交流する場を運営してきました.

研修医はそこで,医学的知識の獲得のみならず,自分の研修を振り返り,改善点を探すということをしていることが分かりました.また,自分の研修の到達度を多プログラムの研修医と比べることで相対化し,漠然とした不安を解消していました.


コロナ禍のためオンラインでの運営になりました.オンラインならではの利点のなかで,チャット機能を有効に活用することで,臨床推論カンファランスの運営がスムーズになり,さらに参加者同士の交流が図れることが分かりました.

学習者と双方向の意見交流を行う際に,チャット欄をメインに用いて,学習者の書き込みをファシリテーターが順次読み上げコメントをしていく,ラジオDJのような進行により,コミュニケーションが促進されました.


今後もしばらくオンラインカンファレンスは増えそうなので,皆様のご参考になればと思います.



2020年11月30日月曜日

360°評価を用いて効果的なフィードバックを行うためには

 

この記事は,大学院の課題をもとに再構成したものです.

十分深めきれてはいませんが,新家庭医療専攻研修では360°評価が必須になったので,議論の足掛かりにはなるだろうと思い,投稿します.

(用語確認:360°評価は,英語ではMulti-source feedback (MSF)と書かれることが多いようです.)



まず,MSFの意義について確認します.

Millerのピラミッドとして有名ですが,学習者の評価は,"Knows" "Knows how" "Shows how" "Does"の各レベルで行われます.

そのうち,Doesを評価する方法として,Workplace Based Assessment(WPBA)があります.

WPBAにも様々な領域がありますが,誰が評価するか,という軸で大別すると,

学習者自身の評価(学習ログ,audit,Significant Event Analysisなど)

学習者と指導者による評価(ビデオでのフィードバック,Case-based Discussionなど)

そして,学習者でも指導者でもない人の評価

があります.

(RCGP International Training of Trainers Courseより引用)

そして,学習者でも指導者でもない人からの視点を得る方法として,患者視点のPatient satisfaction questionnnaireまたはPatient Experienceと,同僚・多職種視点のMSFがある,というわけです.



次に,MSFで何を評価するのかです.

何でもかんでもMSFで評価するのではありません.

例えば,医学的知識の確認や診断・治療の妥当性を,MSFで確認するのは不適当であり,そこは筆記試験であったり,Case-based discussionで評価するのが妥当です.

文献によれば,MSFで評価する内容は以下の通りです.

(J Grad Med Educ. 2017 Jun;9(3):367-368.)


MSFで評価項目を絞る,という発想は重要だと思います.
学習者も評価者も,何をしたらよいのかが明確になります.

例えば,日本プライマリ・ケア連合学会新家庭医療専門研修で使われるMSFの評価票は
「対人コミュニケーションスキル」と「リーダーシップ・マネジメントスキル」の
2項目に限定しています.
http://primary-care.or.jp/nintei_sk/evaluation.html



最後に,どのようにフィードバックを行うかです.

上述の学会の評価票では,多職種が記載した評価票そのものは学習者には開示されません.

指導医が評価票をもとに学習者と話し合うことで,フィードバックを行うシステムになっています.


MSFが有効に機能するための項目として以下が挙げられています.(J Grad Med Educ. 2017 Jun;9(3):367-368.)

① 有意義なフィードバックをするための質問項目の開発

②評価者の観察と判断が一致する行動の同定

③だれを評価者とするか

④評価者の訓練


また,学習者がMSFを通じて自分の行動を変えるようになるためには,信頼している評価者からMSFの目標と価値を説明されて,それを受け入れることが必要です.(J Contin Educ Health Prof. 2003; 23(1): 4–12.) 


また,2014年に発表されたシステマティックレビュー (BMC Med Educ. 2014; 14: 76.)では,MSFによる変化が予期される項目はコミュニケーション(対同僚,対患者)と臨床能力の改善であり,それを促進する因子として,①フィードバックのフォーマット,②自由記載,③信頼のおける情報源が挙げられています.


やはり,評価票を直接学習者に見せるだけでは不適当であり,学習者の行動を良い方向に変えるよう指導者が注意深いフィードバックを行う必要があるといえます.



以上の議論より,適切なMSFのために必要なことを自分なりに考えてみました.

・評価者が教育されており,直接観察に基づいて教育的なコメントを行うことができる

・指導者が学習者にMSFの意義をしっかり説明している

・評価項目が学習者にとって納得のいくものである.学習者に項目策定に参画してもらうのがいいかもしれません

・フィードバックが学習者の行動変容につながるような仕組みになっている



2020年11月23日月曜日

Clinical Problem Solvingが出版されました

 

Journal of General and Family MedicineにClinical Problem Solvingが掲載されました.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.396


Why-not-doing-high-tech-test syndromeというタイトルです

「どうして検査やってない症候群」ですね.

high-tech medicineではなくて,high-touch medicineをしましょう

というメッセージを込めています.

実際の症例は本文をお読みください.無料で読めます.


CPSの出版はこれで2回目です.

前回はAll that glitters is not gold.というタイトルで,腹痛の原因がじつは腹腔内になかった,という内容でした.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.264


2本とも,獨協医大の志水教授にご指導いただきました.

1本目は私は症例部分とdiscussionの記載をメインに行ったのですが,今回はdiscussantの部分も含めてすべて元の文章を書くことができました.

discussantの文章を書くのが,自分の診療を振り返る視点でとても勉強になりました.論文執筆は臨床における自己学習の大きなツールであることを実感しました.


大学院に進学するとどうしても臨床経験が減るのですが,引き続き症例報告を書くことですこしでも臨床能力を維持していきたいです.



2020年11月16日月曜日

Journal Club: IPEを受け入れる地域病院で何がおきたのか(リアリストアプローチ)


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Haruta J, Yamamoto Y. Realist approach to evaluating an interprofessional education program for medical students in clinical practice at a community hospital. Med Teach 2020;42(1):101-110. (PMID: 31595791)


【背景】

・IPEは学年を通じて継続的に行うことが望ましい.

・多職種協働の準備を行うためには,臨床現場で様々な場面に出会う(clinical encounter approach)ことが望ましい.

・大学病院での実施は困難で,プライマリケア領域の方が適している.

・臨床現場での複雑なIPEプログラムを評価する方法の確立は,IPEの普及に寄与すると考えられる.

・複雑な介入に対して,”What works, for whom and in what circumstances”を評価するRealist approachが推奨される.


【Realist approachとは】
・詳しくはリンク先の論文を読んでください.(日本プライマリ・ケア連合学会誌.「リアリストアプローチ:科学的方法論に基づいた複雑な介入や教育プログラムの評価」)

・どのようなコンテキストで,なにをすれば,どのようなメカニズムが機能するし,どのようなアウトカムが生じるかを探索・検証する方法で,この一連の組をCMO(Context-Mechanism-Outcome)と呼ぶ.

・データ収集→CMOを明示→一貫性と統合性を洗練→条件を限定して成り立つ中範囲理論を生成する,という流れです.意図するアウトカムのために環境を設定し,そのなかで学習者が何を学びどのような活動を行ったのかを評価することになります.

・以下の手順が提起されているようです.
 1.作業仮説・理論の生成
 2.CMOの構成要素についての仮説
 3.観察と検証(特定の方法に限定せず行う)
 4.理論の明示

【手法】
・著者らが開発したIPEプログラムで研究が行われた.
・学習目標は以下の3つ
 「他の職種の役割を理解する」
 「他の職種が期待する医師の役割を学ぶ」
 「チームの一員としての医師の役割を学ぶ」
・学習戦略:observation through shadowing
・評価:(形成的) 病院スタッフとファカルティメンバーによる観察
     (総括的)360°評価と最終日の振り返り
・対象者:5年生または6年生の58名.コース選択はランダムである.

〇作業仮説・理論の生成
・著者自身が多職種のシャドーイングを行い,さらにインタビューを施行した
→実習の準備過程において,多職種は以下の2つを獲得していたことがわかった.
 ①Confident professional role
 ②Readiness to teaching medical students

・これより以下の仮説を得た.
「医学生が地域の病院で多職種をシャドーイングすることで,自らの医師中心的な考え方を見直し,多職種協働の価値を認識するようになる.」

【結果】
・医学生のレポート,360°評価,フィールドノート→テーマ分析でCMOを抽出した
Context
(1) 医学生の大学病院での経験 
(2) 医学生の学習の特徴
(3) 多職種からの臨床上の支援
(4) 地域病院間の密接な専門家間の関係
(5) 多職種のユニークで包括的な役割/貢献
(6) 医学生が地域のニーズを学ぶのに役立つ地域の病院の学習環境
(7) 多職種が医学生に持つステレオタイプに関する自由な議論

教育介入
(1) 多職種のシャドーイング
(2) 多職種の役割に関するレポートの作成
(3) 振り返り
(4) 診療現場への参加
(5) 当直を含む臨床現場
(6) 地域の病院の外でのフィールドトレーニング
(7) 多職種が医学生に将来の医師とし抱く期待と,医師の役割に関する助言

想定されたメカニズム
(1) コンテキストの学習
(2) 自己管理型学習
(3) 正統的周辺参加
(4) 経験型学習
(5) 接触仮説
(6) 観察学習
(7) 社会構造の気づき
(8) 認知的共感のための学習プロセス

・これより以下の4つのCMOを得た.
1. 大学病院と地域病院との比較と、比較に基づく自己管理型学習
2. 医学生の学習特性と地域病院のコンテクストに基づく
    正統的周辺参加、経験的学習および接触仮説
3. 多職種間での観察学習と
    観察学習のコンテクストの理解を深める社会構造の認識
4. 医学生の認知的共感を高めるような、多職種との自由な議論の学習効果

・これらのCMOが機能したとき,医学生は多職種に親近感を持ち、多職種と協力する医師の役割に対する理解を深めた。また,医師中心の考えを見直し、専門家間協力の重要性を認識した。


2020年11月9日月曜日

業績集のページを作りました

 

いままでの業績のまとめが必要になったので,ブログでも公開いたします


学術誌はまだ活動報告や症例報告ばかりですが,大学院でしっかり研究論文を書けるようになりたいです.

商業誌はありがたいことにちょくちょく声をかけてもらえるようになりました.依頼お待ちしております.SDH,複雑困難事例,診断推論,医学教育などなど…

学会発表,ワークショップ/セッションは列挙するとかなりやっているんだなということが分かります.わりと論文化まで到達している印象です(これから論文化するものも含みます).特に社会的バイタルサインについては,徐々に浸透してきている印象です.


たぶん漏れているのもあるのでしょうが,まあいいです.


論文執筆をつづけつつも,商業誌や翻訳の依頼,お待ちしております.



2020年11月2日月曜日

レターが掲載されました.

 

Journal of General and Family Medicineに,レターが載りました.


Caution about overdiagnosis of neck calcification


Crowned dens症候群や石灰沈着性頸長筋腱炎の診断フローチャートに対し,無症候性石灰化の可能性を考慮すべきという趣旨です.

歯突起の周りに石灰化があったとしても,髄膜炎などのcritical diseasesは簡単に除外してはいけません.


ご笑覧いただければ幸いです.


2020年10月26日月曜日

Journal Club:コンピテンシーが現場での評価項目に翻訳される際に,何が起こるのか


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Tavares W, et al. Translating outcome frameworks to assessment programmes: Implications for validity. Med Teach. Med Educ. 2020 Jul 2. (online ahead of print) (PMID: 32614480)

〇背景
コンピテンシー基盤型医学教育(CBME)では,教育者が臨床能力の評価を構造化する方法が鍵となります.そりゃそうですよね.現場で行われる評価をどれだけ妥当性の高いものにするかが重要となるわけです.

なので,コンピテンシーのリストをアセスメントプランに「翻訳」する必要があります.ここで,どのような枠組みに従って「翻訳」するのがを明らかにしないと,評価の妥当性が損なわれる可能性があります.

このように,すでにある何かの実践を,アセスメントプランの策定など何か別のものに翻訳する過程を説明する理論として,Callonの翻訳理論があります.
「翻訳は単なる認知行為ではなく,社会的,政治的,実体的行為である」という考え方です.具体的には以下の4ステップからなります.

1.問題化problematization:現状の問題を投げかける
2.関心づけinteressment:問題を解決する意義を説く
3.取り込みenrolment:行動するよう促す
4.動員mobilization:別の部門へ応用する

ところで,CBMEや職場での評価(WBA)は,現場の状況や関心などの影響を受けます.
そこで,翻訳プロセスを理解し、説明できれば、効果的なCBMEと妥当な評価プログラムが前進するかもしれません.
この論文では,カナダの卒後教育において,アウトカムの枠組みが形成的/総括的評価計画に翻訳される際,その翻訳が何により構成されるかを調べています.理論的枠組として,Callonの翻訳論理とKaneの妥当性フレームワークを用いています.

〇方法
CBMEの実施が義務付けられた3大学の卒後教育関係者にIn-depth semi-structured interviewを行って,下の3つについて明らかにしようとしています.
1.評価プログラムの発展の描写と文脈化
(EPAがどのように使われているか,EPA以外はどうか)
2.翻訳プロセスの説明
(決定はどのようになされたか,計画や実装の過程でどのような変化が起こったのか)
3.評価計画の質と妥当性を保証するプログラム評価の説明

分析は,CallonとKaneの概念的枠組みに沿った直接内容分析で行われています.直接内容分析とは,理論や関連した研究知見に則って分析を開始する方法で,以下の仮定に基づいた分析が行われています.
「情報提供者は,形成的評価を行う目的で評価を構造化しているが、生成されたデータは総括的評価に関する決定においても使用される.この際には,データの生成と解釈の両方において,ある程度の妥当性がある証拠が義務付けられる」

参加者の登録→データ収集→分析→チームミーティング
という循環的かつ反復的なプロセスを継続し,その都度,サンプリングとインタビューを修正しています.これを(いわゆる)理論的飽和に達するまで継続しています.

〇結果
3つのテーマが得られました.

①「アウトカムの枠組みは,良質な評価のために必要だと位置づけられている一方で,構造が不完全ともみなされている」

・アウトカムがほぼ翻訳なしで評価として使われています
・評価者は評価プランを無批判に受け入れています
・アウトカムの枠組みが,妥当性に関係する「意図された構造」を持っていません.
・EPAだけではなく,従来の評価法(筆記試験,OSCE,360°評価)を放棄することに消極的です.

→要するに,「現場で評価する際のフレームワークは,必要だし大事だとは思っているけど,これじゃあいまいちだよね」とも思っている,ということです.

②「評価計画に対する影響と競合しながら交渉する」

・関係者は,意識的にも無意識的にも,自分のポジションを強くし他者のポジションを弱めるように動きます.
・CBMEを実装する際の意思決定は,妥当性と衝突を起こします.
・現場は圧力を感じています.
・技術的側面により評価計画が制限を受けます.

→要するに,「CBMEは聞こえは立派だけど,実際そうはいかないよね,だけど上からやれって言われているし仕方ないか,でも現場ではこちらのやり方でやらせてもらうからね」ということです.

③「妥当性を,がけっぷちであり,不明瞭で,偽りのものだと 位置づけている」

・翻訳過程と評価計画の策定のどちらにおいても妥当性が脅かされています.
 「いわれたことをしている」「参考になる先行事例がない」との発言が見られました.
・妥当性の議論より優先されるものが多いと考えられています.
・サロゲートに基づく評価がなされています
 「委員会の人たちが何度も確認していた(から大丈夫)」との発言がみられました.

→要するに,「自分の評価が妥当かって?,ふん,そんなのお偉いさんが妥当って言っているんだから妥当でしょう?そもそもこんなのやったことないし,どうしていいかわからないんだから言われたとおりにしているだけなんですけど!」ということです.

〇議論
CBMEでは,定められたコンピテンシーを評価する際に,現場で当初予測されていなかった評価基準となってしまうことがあります.
①アウトカムのフレームワークは優れた評価のために必要だが,構造が不完全です.
②いざ評価する際に,社会的,実用的な文脈による影響を受けます.
③妥当性はまじめに評価されません.また,妥当性評価の優先度が低いです.

〇limitation
カナダの3大学での調査であり,この論文の内容は環境に依存します.
また,CBMEが導入された初期の時点での研究である点にも注意です.

〇批判的吟味
研究参加者はプログラムディレクター~評価委員会のメンバーですが,もっと多様な参加者をリクルートすべきなのではと思いました(評価を受ける学習者や多職種など).
また,それ自体批判されるものではないのですが,もともとの枠組みから逸脱するような発見が書かれていない点はちょっと物足りないです.

〇感想
この論文は私にとって非常に難解で,読み解くのに時間がかかりました.まだまだ学習が足りていません.






2020年10月19日月曜日

尿酸降下はtreat to targetが良いのか



いままで,高尿酸血症に対する治療は
Lancetの2016年のseminarの記載に基づいて行っていました.
西伊豆病院のカンファレンスに,日本語での解説があります.)
つまり,尿酸降下薬の適応があれば,アロプリノールを順次増量して尿酸値を6以下にする,というものです.

6以下にする,という記述の根拠は,2012年のAmerican College of Rheumatologyの診療ガイドラインです.
そこで引用されているのが,2012年のRCTです.

ただし,このRCTは,フェブキソスタット40mg,フェブキソスタット80mg,アロプリノール300mg(腎障害あれば200mg)の3群を比べて,尿酸値を6以下にできた割合がフェブキソスタット80mgで最も多く,有害事象に差はなかった,というものなので,これですなわち「尿酸値は6以下にせよ」が導き出せるわけではなさそうです.

ところで,2020年9月のCanadian Family Physicianに,Targeting uric acid levels in treating goutという記事が載っていて,
そこでは尿酸値6以下を達成するまでアロプリノールを増量するTreat to targetは利益がないというRCTが紹介されていました.

2017年に行われたRCTなので,Lancetのセミナーの後ですね.把握していませんでした.

たしかに,このRCTを読むと,確かにアロプリノールの用量を増やした群(尿酸値6以下を達成した割合が多い)でも通常用量群とくらべ痛風発作の回数も有害事象の割合もおおよそ同じです.

各種診療ガイドラインでは,やはり6以下にしなさいと主張するもの(ACR 2020年版)もあれば,treat to targetをしないことを推奨しているもの(ACP2017年版)もあります.

余談ですが,これでACRの痛風の診療ガイドラインが2020になっているところに気づきました.読み直すと,推奨がいろいろ変わっていたので,それはそれで勉強になりました.

2012年だと,尿酸降下薬の適応は①痛風結節がある②年2回以上の発作③CKD stage 2以上④腎結石の既往となっています.

これが2020年だと,
①痛風結節②痛風によるX線上の変化③年2回以上の発作で開始を強く推奨,
④年1回以上の発作⑤発作歴が1回でもあり,かつ(CKD stage3以上 or 尿酸値9以上 or 腎結石既往)で場合によって推奨としたうえで,
発作が1回あっただけor無症候性の高尿酸血症は薬剤治療を推奨しないと明記されています.

じゃあ,どうするんだ,という話ですが,
CFPの記事には,そもそも尿酸降下療法はアドヒアランスが1年後で50-87%と慢性疾患の中では最悪の部類なので,health care supportをしっかりしましょうねと書いてあります.
たしかに,その通りだと思います.

というわけで,アロプリノールを通常量使ってもなお痛風発作が出る場合には,まず生活指導や服薬アドヒアランスの向上を図ったうえで,それでも発作が出るようなら相談の上増量や他の薬剤の併用に進む,という流れでよさそうです.

結局,この議論を通じて私の診療が大きく変化することはありませんでしたが
4年前の知識はすでに古くなっているという現実を見る機会になりました.


2020年10月12日月曜日

two feet-one hand syndrome


初めて知って,とても面白かったので,簡単に紹介です.

手の白癬で最も多い病型だそうです.
話は簡単で,足白癬を手で掻く→手に白癬がうつる→もう片方の足にもうつる,ということで,両足と片手の白癬ができることを,このように呼んでいます.

手の白癬を見たら足を見る.
また,両足の白癬を見たら,手も見る.

このように意識づけておくと拾いあげられるかもしれません.

主な鑑別は接触性皮膚炎です.
この症例報告の様に,抗真菌薬の外用薬で起こると,非常に紛らわしくなります.



2020年10月5日月曜日

Journal Club:医学教育におけるRCT.ロールモデル教育の効果測定


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Mohammadi E, et al. Enhancement of role modelling in clinical educators: A randomized controlled trial. Med Teach. 2020 Apr;42(4):436-443. (PMID 31769342)

・論文のPICOは以下の通り.

P:テヘラン医科大学の主要な関連病院2つに所属する臨床経験5年未満の臨床医で,レジデント,インターン,クラークシップ学生のいずれかを監督する任に当たっている者
I: ロールモデルについての教育の目的で開発された3か月の縦断型プログラムを受ける
C: プログラムを受けない
O: 学習アウトカム(反応,学習された内容,行動の変化)

・学習プログラムの内容について
Positive Doctor Role Modellingフレームワークに基づいて内容を決定
 -このフレームワークには2つのphase(exposure phaseとevolution phase)があるが,このうちexposure phaseに絞った内容である.

さらに,先行文献に基づいてプログラムをデザイン
 ーBanduraの社会的学習理論に基づくロールモデル教育の7つの戦略
 ーロールモデルのイニシアチブをデザインする15の原則

・介入についての注意
対照群のコンタミを最小限にするため,プログラムの内容は他言禁止とした.

・Outcomeの測定
Kirkpatrick’s modelに基づいて評価項目を定めた
 -アウトカムのレベル:参加者の反応,学習,行動,プログラムの結果

①参加者の反応:12項目の質問紙で評価(1-5点のリッカート尺度)

②参加者の学習:7項目の質問紙で評価(1点-5点のリッカート尺度)
 ー既知の質問紙を使用した.


 -妥当性が評価されていなかったので今回評価した.
   Cronbachのα係数 0.73 
   項目全体相関:サブセット1と2のPearson相関係数は0.87と0.85
          サブセット間の相関は0.49

 -Cronbachのα係数は,尺度の均一性を評価するものであり,尺度を構成する各質問項目が,同じ特性の異なる側面についての質問となっているかを測る.

 -項目全体相関は,ある項目のスコアと,その項目以外の質問項目のスコアの合計との関連を示すものである.その項目が仲間外れでないことを確認する・

③参加者の行動:参加者(指導者)の下にいる学習者が,盲検化された状態で,行動をRole Model Apperception Toolで評価.
 -Toolの特性 α係数:0.7(開発者),0.96(パイロット研究)
        Test-retestの級間相関係数:0.82

・結果
①反応
介入群のプログラム全体に対する満足度の平均:4.7/5(SD 0.5)
質問紙の最後のフィードバック記載欄でも,満足度の高さが分かった.

②学習
介入群 3.3(SD 0.38)→4.3(SD 0.39)
対照群 3.5(SD 0.47)→3.6(SD 0.50)
介入群の介入前後で有意差あり 介入後の介入群-対照群で有意差あり

③行動
介入群 4.1(SD 0.34)→4.2(SD 0.70)
対照群 4.3(SD 0.32)→4.3(SD 0.30)
全体で有意差なし.かつ,どの評価項目においても有意差なし.

・Limitation
長期間のフォローアップができていない.
 -永続的な効果を評価していない
 -行動の変化を見るには長期間のフォローが必要

1つの大学のみでの実施
 -得られた結果の一般化可能性に制限があるかもしれない

・批判的吟味
Result②学習について,プログラム受講により3.3→4.3に変化したとある.
しかし,評価ツールの元論文では,点数の平均値はサブセット1で介入前3.9→介入直後4.6→1か月後4.3,サブセット2で介入前3.0→介入直後4.4→1か月後4.0と変化している.
今回測定された点数の変化は,このプログラムに特異的なものなのか?

Result③行動について,変化に有意差が出なかった.
統計解析の対象者が,当初のサンプルサイズに至っていないため,検出力不足の可能性がある,
また,尺度のα係数が,パイロット試験で0.96と高すぎる.
ここから,今回の研究の対象集団において,対象者の特性の違いを区別することが十分にできない可能性がある.

・感想
教育効果の測定には,プログラム開発にあたっての理論的基盤の記載や,何をどう測定するかについてなどの細部に気を配る必要がある.
自分もプログラム開発+評価をしてみたいので,とても参考になった.
正直,介入効果としてはイマイチだし,プログラムも小さくて対象者数も少ないけど,しっかりデザインすればLeading Journalに載るのですね.


2020年9月28日月曜日

薬剤誘発性白斑


白斑vilitigoが,薬剤により起こることがあります.
phototoxic drug eruptionであろうと考えています.

drug-induced vilitigoの報告がある薬剤は以下の通り.

抗てんかん薬(カルバマゼピン,クロナゼパム,フェニトイン,バルプロ酸)
抗マラリア薬
抗がん剤
抗パーキンソン薬(レボドパ,トルカポン)
その他:βブロッカー,ドパミン,ガンシクロビル,インスリンなど

急に起こった白斑は薬剤性を疑うべきですね.


2020年9月21日月曜日

帰納的/演繹的アプローチと質的/量的データとの組み合わせ



Academic MedicineのLast Pageは,毎号,医学教育研究にかかわるトピックが一枚の図表にまとめられています.

今年7月号のAM Last Pageが,帰納的/演繹的アプローチと質的/量的データについてであり,まさに知りたいことでした.


帰納的inductiveは,from data to theoryとありますが,観察されるデータを集めて理論を構築するというやり方です.
一方,演繹的deductiveとは,from theory to dataで,まず理論(仮説)があって,それを検証するためにデータを取るというやり方です.

質的研究は帰納的アプローチ,量的研究は演繹的アプローチと単純にとらえられがちですが,実際は違うよというのがこのページの論旨です.
そもそも,帰納的/演繹的は二項対立ではなくスペクトラムがあり.さらに,各段階で量的/質的どちらの研究も成り立ちます.

①帰納的アプローチ
質的研究では,伝統的なグラウンデッドセオリーが当てはまります.観察されたデータに基づき現象を説明する理論を構築する手法で,観察者はtabula rasa,つまり何も書かれていない白紙のようにふるまうことが求められます.

量的研究では,探索的因子分析がここに当てはまります.調査票などから得られたデータを統計学的に解析し,背後にある理論的構造(これが因子です)を特定します.

②どちらかというと帰納的アプローチ
質的研究ではエスノグラフィーが当てはまります.ある集団の文化を観察したデータと,人間の社会的振る舞いに関する既存の理論とを組み合わせます.

量的研究では,構造方程式モデリングが当てはまります.あるデータセットを見た時に.それを説明できるような統計学的モデルを複数考えて,どれが最も当てはまるかを調べます.

③どちらかというと演繹的アプローチ
質的研究では,構成主義的グラウンデッドセオリーが当てはまります.構成主義は「見る人によってリアリティは異なる」という考え方にたちます.既存の理論を発展させることを目標にデータを解析していきます.

量的研究では,ベイズ統計学のアプローチが当てはまります.既存の知識やデータを用いた研究です.

④演繹的アプローチ
多くの量的研究はここにあたります.命題を検証するために帰無仮説を立てて統計学的に処理し有意差がでれば仮説を棄却し命題が証明されます.

質的研究では,内容分析が当てはまります.質的データを客観的かつ数量的に分析します.


それぞれの研究法は知っていましたが,このようにまとめるととてもすっきりします.


2020年9月14日月曜日

症例検討:DVT/PEの治療



経験したケースを基にしたひとりディスカッションです.
個人情報保護のため大幅に修正しました.もはや原形をとどめていないです.

心房細動,MRのある慢性心不全,COPD,慢性腎不全,認知症と,絵にかいたようなmultimorbidityの超高齢者.
息子と2人暮らしで,身の回りのことは何とかできていた.

ある日,トイレからの帰りに転倒し,廊下で動けなくなった.
夕方帰ってきた息子が発見し,なんとかベッド上に移動させたが,以降,左下肢の付け根を痛がっている.
鎮痛薬で効果なく,経口摂取が低下し,寝たきりとなった.
種々の事情で転倒から数日たってようやく救急受診.
(詳しくは書きませんが,このような場合,社会的な困難があるのだろうという仮説を立てて,診断ー治療のラインとは別に情報収集と評価を行います)

著明な脱水があり,Na 170と異常高値.慢性腎不全+急性腎不全.
心機能低下もしっかりあり,心不全増悪も隠れた病態でありそう.
もともと呼吸器+心臓+腎臓の機能不全が相互に関与し,下降期の病態であったのだろう.

発熱,ごく軽度の低酸素血症があり,画像上は片側の浸潤影と胸水がある.
(喀痰は当然とれず...)
左大腿痛については,X線骨折はなさそう.
というわけで鑑別を考える.

血液ガスは呼吸性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス.
呼吸性アルカローシス+片側大腿痛+片側浸潤影&胸水+この病歴なので
DVT+PEが想起される.(肺野は肺炎も起こしているのかもしれない.)
エコーで疼痛を訴える部位にDVTを確認.

さて,治療はどうするか.
日本ではDVT±PEの抗凝固療法はヘパリンがDOAC.
ただしDOACは腎障害があると使用が制限される.
具体的には,ア45ピキサバンとリバロキサバンはCCr15以下で禁忌,
エドキサバンはCCr 30未満で禁忌となる.

では,そこそこ腎機能が低下した患者でヘパリンは安全に使えるのか.
「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」では,CCr<30では未分化ヘパリン一択とある.未分化ヘパリンは腎排泄率30%である.
結局はリスクとベネフィットとを個々のケースで慎重に検討するほかないのでしょう.
なお,皮下注製剤のアリクストラはCCr 30以下で原則禁忌です.

腎障害患者での未分画ヘパリンの投与設計については,Clinical Kidney Journalのレビューにこのように記載がありました.

the traditional 75–80 units/kg loading dose and 18 units/kg/h maintenance dose for treatment of a venous TE for patients with severe kidney dysfunction is associated with supra-therapeutic levels. A more conservative dose of 60 units/kg loading dose and 12 units/kg/h maintenance dose is thus chosen for patients with severe kidney dysfunction. 

というわけで,初回投与60U/kg→持続投与12U/kgが推奨されています.
体格や血清Alb量をみて,もっと減らしてもよいかもしれません.

この患者では,腎障害が強いこと,るい痩著明で低Alb血症があることから,使うなら初回投与45U/kg→持続投与9U/kgくらいではじめて,APTTみながら調整,といった感じでしょうか.


ただ,この患者は,転倒によると思われる血腫が大腿にあり,静脈と交通していることが,下肢エコー時に判明しました.
こうなると抗凝固療法はリスクが高すぎる.

下肢静脈フィルターは,このような抗凝固ができない場合に適応となる.
やはり「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」によると,抗凝固療法がしっかりできるならフィルターは不要だし,PEの死亡や全死亡は減らないことが分かっているが,高齢者でフィルター留置が3か月以内の死亡リスクを軽減することも示されており,このケースでは適応は積極的に考えてもよいかもしれない.

このケースでは,著しい電解質異常があること,細菌感染合併が疑われること,全身状態から長期予後が見込めないこと,本人と家族の意志,社会的要因によるバリア等の複合的な要因があり,フィルター留置も行わず.DVTについてはそのままで経過を見るほかないということになった.全身状態が改善すれば,再度相談する必要がありそう.


2020年9月7日月曜日

質的研究の質評価の基準


Academic MedicineのLast Pageは,駆け出し医学教育研究者にとっては非常に勉強になります.
もちろん医学教育研究者でなくても,例えば家庭医療関連の論文を読む際にも参考になります.

今回は研究の質の基準について,量的研究と質的研究を対比する形で紹介します.


●エビデンスが真実であるかどうか
量的研究:内的妥当性
→観察された効果が,注目している独立変数の影響をどの程度受けているのか

ではどうすればいいのか?
・十分な検出力があるようにサンプルサイズを計算する
・介入内容を詳細に記述する
・脱落を減らす
・コントロール群を設定する など

質的研究:信頼性credibility
→研究知見が他者にとって価値があり,かつ信じるに足るものであるか

ではどうすればいいのか?
・複数の情報源,方法,研究者,理論を用いて,トライアンギュレーション(もとは三角測量という意味.いろんな視点で対象を見ることで,記述を厚くして信頼性を高める)を行う
・期間を長くしてデータを集める(prolonged engagement)
・データとその解釈を研究参加者に見せてフィードバックを得る(member checking)


●エビデンスが他の集団で適応できるのか?
量的研究:外的妥当性
→結果が研究参加者以外の一般の集団についてどの程度一般化できるか

ではどうすればいいのか?
・ランダム化したり層別サンプリングを行ったりする(集団の一般化可能性)
・他のコンテキストで研究を再度行う(生態学的一般化可能性)
・独立変数と従属変数との予測される関係を変えてみる(構造的バリデーション)

質的研究:Transferability
→知見が他のセッティングにおいてもどの程度成り立つのか

ではどうすればよいのか?
・知見とそのコンティストを詳細に記述することで,他者にとって意味のあるものにする(厚い記述)
・サンプリング戦略を説明する(典型例サンプリングなど)
・異なるセッティングにおける先行文献と得られた知見に通底するものを議論する


●エビデンスの一貫性
量的研究:信頼性reliability
→この研究を繰り返した時に一貫した結果が得られるか

ではどうすればよいのか?
・測定の繰り返しによる内的一貫性を推定する(古典的なテスト理論)
・測定に影響を与える変数の源を推定する(一般化可能性理論)
・項目,試験,人(受験者,評価者)のパラメーターを推定する(項目反応性理論)

質的研究:信頼性dependability
→知見が生み出されたコンテクストとの関係において,得られた知見が一貫しているのか

ではどうすればよいのか?
・新たなテーマが出なくなるまでデータを集める(飽和)
・継続的にデータを分析し,更なるデータ収集を行う(反復的データ収集)
・分析中に出てくる考えを用いて,データを継続的に再調査する(反復的データ分析)
・プロセスとトピックに対して柔軟でいる(flexible/emergent research design)


●エビデンスの中立性
量的研究:客観性
→個人のバイアスがどれだけ除去されて,価値判断のない情報が集められているか

ではどうすればいいのか
・盲検化を行う
・匿名化を行う
・オリジナルデータを保管しておく

質的研究:確証性confirmability
→研究者のバイアスではなく,研究参加者とセッティングに基づいて知見が作り出されているか

ではどうすればいいのか
・得られた知見に反するようなデータや文献を探す
・プロセスや結果を他者と議論する(peer debriefing)
・プロセスや研究者の役割や影響を振り返る(再帰 reflexivity)
・ステップや決定を記録する(audit trail)


むちゃくちゃ分かりやすいまとめです.
元論文をぜひご一読ください.


2020年8月31日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 5 final)

JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


604 意識障害,ミオクローヌス,尿閉を来したアマンタジン中毒の一例:腎機能の確認が必要
(タイトルにポイントが詰まっています.とても分かりやすくてよいタイトルですね)
(自分で処方したことはまだない薬ですが,処方されているのを見たことはあります.薬物の副作用はある程度覚えておく必要があります)

607 健康な高齢女性が急な嘔気,嘔吐,下痢で来院し,electrolytes depletion syndromeと診断した1例.
・80歳女性が数日前からの嘔気嘔吐下痢で受診.
・腎前性腎不全,低Na血症,低K血症あり.
・原因検索の画像検査で直腸巨大腫瘤あり.
・いくら補正してもK値は上昇せず.腫瘍摘出後に軽快した.
・繊毛腫瘍から大量に粘液が排泄されることで脱水と電解質異常が起こる.
(初めて知りました.臨床は奥が深い…)
(高齢者で腎前性腎不全,低Na血症,低K血症は,補正に気を取られるので原因の同定をしようという意識になりづらいです.)
(幸い5cm以上の腫瘤で起こるようなので,画像検査で腫瘤があることはすぐわかるとは思います.しかし2cmの腫瘤で起こることもあるようです.)

627 爪の圧迫によって特定できたJaneway病変
(ぜひポスターをご覧になってください.よく気付いたなぁと感服するほかないです)
(指趾末梢に病変がなくても,あきらめずに爪を押すようにします)

今回でこのシリーズは終了です.

2020年8月24日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 4)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


562 抗IL-6受容体抗体投与中に発熱やCRP上昇を伴わず発症した急性喉頭蓋炎の一例
・関節リウマチでトリシズマブを投与されている患者が,咽頭痛,嚥下困難のため診療所を受診した.
・発熱なし.白血球8640,Seg 81.6%,CRP 0.06.
・急性喉頭外炎を疑いX線検査でthumb sign確認.耳鼻科紹介で診断確定.
(抗IL-6抗体は血液検査だけでなく,発熱や倦怠感の症状も見えづらくなる,ということをまず知っておかなければいけません.この点,知識はあるものの普段の診療で頻繁に出会う薬剤でないので,パッと想起できない可能性があるなと思いました.)
(トシリズマブ(アクテムラ)やサリルマブ(ケブラサ)を投与されている患者は細菌感染症があっても熱がない,倦怠感がない,炎症反応がない.覚えます)
(このケースだと,咽頭痛と嚥下困難があるので,喉頭の画像検索にはたどり着けるかなと思います.採血ありきだと変なノイズが入ってしまいそうですね)


592 胆嚢炎を疑ったら~私,ときどき垂れて捻じれるんです~
(タイトルがすべて.鑑別疾患リストに入れていないと画像所見を見落としそうです)
(知らないと「何かおかしいんだけど,まあいいか」といってスルーしてしまうことは,胆嚢捻転症に限らずままあることです)


595 病歴聴取の重要性を痛感した急性肺塞栓症の一例
(overdose後の気分不良という触れ込みだったが,実際は肺塞栓症だったというケース)
(overdoseの病歴がなければ診断は難しくないけど,いわゆるred herringのためpremature disclosureに陥ってしまった.)
(このような診断エラーを共有してくださるとはとてもありがたいです)
(ポイントは病歴聴取の重要性ではなく認知エラーだと思います)


596 ニボルマブ投与中止後に急性発症1型糖尿病から糖尿病性ケトアシドーシスに至った1例
(免疫関連有害事象irAEは投与修了後半年までは発症する可能性がありますよ,ということです)
(irAEについては最低限の知識は入れています.こうやって素振りしておくといつか役に立つ…かも)


602 診断に苦慮した感染性胸部大動脈瘤の1例
(MSSA菌血症はsource不明はまま経験しますが,感染性大動脈瘤は確かにpitfallとなるかもしれないです.ただsource不明なら造影CTするような気がします.)
(そこにあっても疑わなければ見えない,というケースであり,やはり共有していただくことはとてもありがたいです)




2020年8月17日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 3)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


535 8年前からのめまいで受診した持続性知覚性姿勢誘発めまいの1例
・8年前に頭位変換時のめまいが出現
・浮動性.持続時間は数秒~数分.日に何度も繰り返す.
・特定の姿勢(立位,歩行,上を向くなど)で誘発される.
・身体診察では異常なし
(vertigoじゃないけど,症状が出るタイミングに再現性がある,というのがポイントなのでしょうか.History,History,Historyですね)

・PPPD(Persistent Postural Perceptual Dizziness)と診断.
・認知行動療法とSSRI/SNRIで改善.
(PPPDは新しい疾患概念として知ってはいたが,詳しく勉強していなかったので,良い機会になりました)
(VertigoでなくてDizzinessであることと,誘発は頭位に限らず立位や視覚刺激もありうることを覚えておこうと思います)
(怖いのは過剰診断ですね.つい最近も「めまい症」で近医からいわゆる抗めまい薬を出され続けていた若年糖尿病性ケトアシドーシスのケースがありました)


553 繰り返し急性上気道炎として診断,加療されていたが,複数回問診を行い診断に至ったHIV感染症の一例
・若い男性が3日前からの発熱で救急受診→上気道炎として対症療法
(ここまではよくある経過.)
・その2日後に解熱しないと病院外来受診.体幹四肢に丘疹あり.臨床的にインフルエンザと診断しタミフル処方.
(後医は名医ですが,これは頂けないですよね.5日間の発熱でインフルエンザはないでしょうし,この経過で体幹四肢の丘疹があれば,急性HIV感染症,伝染性単核症,マイコプラズマが想起されます.)

・さらに7日後,強い頭痛が生じ救急受診.無菌性髄膜炎で入院.ここで診断がついた.
(プライマリケアでHIVの見逃しを避けるのはchallengingだといつも感じています.急性の感冒様患者全員に詳細に性交渉歴を聴取するのは非現実的だと思います.このポスターの考察はとても建設的で家庭医の役割を重視したものになっていますが,やはり急性HIV症候群のillness scriptを有しているかどうかが診断に関しては最も重要なのではないかと思います.)


555 朝起きられないのは鉄欠乏症が原因だった.
・3年前から朝起きられず学校に行けない高校生
・貧血のない鉄欠乏があり,鉄補充したら症状が改善した
(こういうケースは超大事で,気付けるかどうかで患者の人生が大きく変わります)
(ポスターでは同施設で過去3年間の貧血のない鉄欠乏のケースがまとめられており,これがかなり勉強になります.)
(私も倦怠感や抑うつがある女性では積極的に鉄を測定していますが,このポスターを見るともっと対象を広げたほうがよさそうです)
(ただし,鉄欠乏は有病割合が高いので,単に合併しているだけの可能性もありますね.補充自体は害は少ないと思うので,しっかりフォローしなくてはいけません.漫然と投与して他の疾患を見逃すことがないようにしたいです)


2020年8月10日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 2)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


522. 訪問薬剤師が在宅医と専門医の橋渡し役を担うことで,薬剤性ジスキネジアを消失できた1症例

・幻視,幻聴に対して処方された抗精神病薬ブロナンセリンによる薬剤性ジスキネジアに訪問薬剤師が気づいた.
・患者の服に米粒がついている→食事に問題があるのではないか→食事の時間に訪問した→歯がカクカクしている→これって薬剤性ジスキネジアでは?→動画を取って処方医に情報提供→ほかの薬剤に切り替えてジスキネジア消失,という流れ.
(まるで推理小説ですね.衣服に米がついていることに気付いて,そこまで推論を働かすことができるというのは,プロフェッショナルの業ですね.)
(”服に米粒がつくようになった?内服薬を確認しなさい.”というClinical Pearlはいかがでしょうか)


524. チラーヂンS錠にて薬疹が生じ,チラーヂンS散への変更で改善した2例

・チラーヂンS錠の添加物がアレルギー反応を引き起こすことがあり,その場合は散剤に変えることで対応できる.
(知りませんでした.錠剤の添加物のアレルギーなんて思いもしませんでした)
(知らなければ,単純にチラーヂンを止めるという話になりますが,よく考えてみれば甲状腺ホルモンは本来体内で産生されるものであり,それでアレルギーというのは腑に落ちないのですね.)
(ポスターにはさらに細かい考察がなされています.知らなくては絶対思いつかないので,とても教育的な症例です.)
(”チラーヂンS錠でアレルギー?散剤にするか50µg錠を使いなさい”というClinical Pearlですね)
(それにしても,筆者の先生方はどうして散剤に変えると良いということを知っていたのだろう?専門医の間では有名なことなのかな.)


531. 関節外症状のみで発症し地域医療連携の中で早期診断が困難であった悪性関節リウマチの一例

・長期にわたる貧血と血清CRP高値.他の所見はGAVEのみ.
・半年後に後頭部に1cmの腫瘤が数個あり.
・総合病院皮膚科に紹介するなどしたが,生検されず適切な診断がされないまま経過.
・関節症状が全くない悪性関節リウマチ(腫瘤はリウマトイド結節)と診断したが死亡.
(筆者の無念さが伝わってきます.)
(このようなケースを報告してくださるのは本当にありがたいことだと思います.)
(専門医に紹介して,「××の疑い」として返書が来た時に,「そんなわけないじゃん」と思ってもそれ以上追求できない,というのは,小病院総合診療科のあるあるなのかもしれないです)
(不明熱患者に突然できた腫瘤,というキーワードで関節症状がなくてもリウマトイド結節を想起できるようになっておくとよいのかもしれません)
(筆者のドヤ顔が浮かぶような症例報告より,このようなエラーを克明に記録した症例報告の方が,学ぶものが多いです.自戒を込めて)


2020年8月3日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 1)


日本プライマリ・ケア連合学会学術大会がオンラインで始まりました.
自宅で学習講演が聴ける,しかもいつもは裏かぶりで聴けないものも全部聴ける,というのは素晴らしいですね.一方で参加者同士の交流がほぼなくなってしまうのは淋しいです.

私はポスターを3本出しております.よければご笑覧ください.

[P-症-569]薬におぼれる:入院が契機となり有害事象が生じたポリファーマシー
[P-症-628]CTで見落とし,身体診察で判明した急性腹痛の原因:内腹斜筋断裂
[P-活-124]健康の社会的決定要因を臨床現場に実装する~社会的バイタルサインの開発,実践,普及と今後の展望~

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.

510. 初回指摘の肝硬変に合併した肝肺症候群の一例

・肝硬変患者の低酸素血症で鑑別に入れる
(経験に乏しいので,いざ目の前に来ると頭が回らなさそう.症例報告を学ぶ意味はまさにそこにありますよね)
・立位,臥位でSpO2が変動する
(シャントによるplatypnea-orthodeoxia syndromeのことでしょうか.起坐呼吸とは逆で,坐位で呼吸困難感が増悪します.肝硬変患者で1例経験があります.)
・胸部造影CTでは末梢で肺血管拡張あり.コントラスト心エコー検査陽性が補助所見となる.
(私の診療セッティングでは肺血流シンチができないので,このあたりで診断がつけられることを目標にします.除外診断が前提ですが.)

512. シタグリプチン投与後に血小板減少症をきたした一例

これは単純に,へぇーそんなことがあるんだ,というものですね.
DPP-4阻害薬の一般的な副作用,というわけではなく,
どうやらシタグリプチンに特異的に起こるようです.

516. 離島での医療資源に乏しい環境で適切なマネジメントができためまい症の一例

・めまいの身体診察はHINTS PLUS
(本症例はHead Impulse Testで内耳障害のパターンを呈さなかったことが,中枢性めまいを疑う根拠となっている.)
・中枢性めまい患者の大半に糖尿病または脂質異常症の病歴がある
(血管リスク評価は,とくに心筋梗塞を疑うときに気にしますが,めまいを見る際にも意識したほうが良いですね)
この症例で素晴らしいのは,身体診察と現場での判断が搬送直後のMRIより優れているという点です.ぜひポスターをご覧になってください.

521. 医療機関と教育期間で密に連携し,重症頭部外傷患者の高校受験に取り組んだ一例

ただただ驚嘆する報告です.
「患者に寄り添う」という言葉は手垢がついた陳腐なものになってしまっていますが
医療現場がここまでできるのだと心が奮いたてられます.
いやぁ.すごいです.

2020年7月27日月曜日

慢性細葉性散布肺結核症


最近復習したので.



いわゆる岡ⅡBと呼ばれるタイプです.
岡先生による表現では「肺野に広く細かい病変が散布されたものである。その散布状況は全肺野一様ではなく粗密の差があり,一つ一つの病影も多少大小があり,形も不規則である。典型的には,両側肺に殆ど対称的に,上方は密で下方に行くに従って疎に細葉性病変が散布している」とあります.

私の理解では,肺小葉の1つ1つが個々に病変を呈するため,正常にみえる肺小葉と浸潤影を呈する肺小葉がモザイク状に分布することで,特徴的な画像所見を呈することで起こります.
どうしてこのような分布になるのかははっきりわからないようです.

肺結核の中では珍しい表現形ですが,結核はいつどこで出会うかわからないので,特徴的な画像を理解しておくべきだとおもいます.


画像についてはリンク先をご参照ください.



2020年7月20日月曜日

Favre-Racouchot症候群


皮膚科各論の知識は,外来診療で有用です.
少し突っ込んだ勉強をしておくとひょんなときに役に立ちます.

Favre-Racouchot症候群では,高齢者の眼科周囲などに大きな皺と多数の黒色開放面皰がみられます.
紫外線による老化現象と考えられています.

(http://www.atlasdermatologico.com.br/disease.jsf;jsessionid=843310D6854517D5D4BEDC871BD613FF?diseaseId=146より引用)

典型例では生検は必須でないようです.
知っていれば,良性疾患であると説明できますね.
美容的観点から治療を望めば皮膚科に紹介するべきだと思います.


2020年7月13日月曜日

症例検討:Bizarre appearance


またもや経験したケースの振り返りです.
患者所法は大幅に改変しており,ほぼ創作となっています.

70歳代.慢性腎障害あり.
昨日,転倒し前腕を強く打った.骨折はないが筋挫傷あり.
当日朝から気分不良があり外来受診.

この時点で嫌な感じがしたので,すぐ心電図をとる.
心電図は以下の通り(実際のものではなく,拾いものです)


なんだこれ,という心電図.
ここで,心電図のMy Clinical Pearlが発動.
「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」

はたして,Kは6.8と異常高値
すぐグルコン酸カルシウムを投与し,緊急透析ができる高次医療機関に転院打診.
その間に,β刺激薬の吸入,GI療法,フロセミド投与を開始.
無事,転院先で治療が行われ,回復した.


高K血症の心電図は,テント状T波やQRS幅拡大、P波消失がみられますが,時に「何が何だかわからない」心電図になることがあります.
これをBizarre appearanceといいます.
なので,「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」なのです.
このパールに救われたことが何回かあります.

以下,ネットで拾ったBizarre appearanceです.
どれも高K血症です.
まさに「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」です.







2020年7月6日月曜日

症例検討:G群溶連菌菌血症



久しぶりに経験症例を振り返る形で学習してみます.
個人情報保護のため,患者情報は大きく改変しています.
二次資料だけを当たっています.ご承知ください.


80歳代の患者.朝から気分が悪く,胃液がこみ上げてくるような感覚があり夕食を食べることができなかった.倦怠感が続くため救急要請.救急隊が発熱に気付いた(38℃台).
意識は清明で,診察上熱源のフォーカスは絞れず.胸部X線検査と尿検査は異常なし.
採血では,既知の腎障害の他は,WBC 10000,CRP 1.5程度.

高齢者の漠然とした全身の症状+発熱なので,入院で経過観察.
血液培養,尿培養採取の上,抗菌薬フリーで経過観察.

後日,感受性良好のG群溶連菌が検出された.
関節炎の所見はない.皮膚感染症の所見はない.
末梢塞栓徴候や心雑音はない.経胸壁心エコーで疣贅はみられない.
経食道心エコー検査は当院では施行不可.
造影CTは腎障害があるため行わず.単純CTや腹部エコー等で膿瘍はなさそうとの判断.

感受性のあるセファゾリンを経静脈的に投与し,数日以内に状態の改善を得た.

さて,どうするか…


まず検討すべきは感染性心内膜炎(IE)の有無.
GPCだからIEが起こっても不思議じゃないよなと思いながら検索.
UpToDateの記事を当たると,このような記述がある.

In some series of patients with invasive GCS or GGS infection, bacteremia has been associated with endocarditis in 25 to 50 percent of cases

やっぱりIEがあっても不思議じゃない.

modified Duke criteriaでは,大基準1項目+小基準1項目でpossible IE.
うーん,なんとも.


抗菌薬治療期間については,やはりUpToDateの記載を読むと…

The duration of treatment should be tailored to clinical response and generally should be continued until at least three days after resolution of fever and other clinical signs. General guidelines are 7 to 10 days for cellulitis, 14 days for bacteremia, 14 to 28 days for severe invasive soft tissue infection, 28 to 42 days for osteomyelitis or septic arthritis, and 28 to 42 days for endocarditis.

IEなら28-42日間の治療が必要,菌血症単体だと14日間とある.
やはりIEかどうかが重要.しかし種々の条件から,経食道心エコーのためだけに高次医療機関に送るのはかなりハードルが高い.どうしよう…


菌血症の治療だけを考えるなら28日間投与が望ましい.
しかし,入院期間が長くなると自宅復帰が困難になりそう.

S. aureusのUpToDate記事を読むと,本患者と同じような条件で,抗菌薬投与2-4日後の血液培養が陰性なら,14日間の治療期間を推奨している.

というわけで,投与2-4日後に血液培養を採取し,陰転化が確認できれば,全身状態と採血データをフォローして,経過良好なら静注は14日間で終了し退院できるかもしれない.
その時点で経口薬に切り替えて1-2週間外来フォローするという方法もとれそう.


色々調べたものの,結局は当初から予定していたプラクティスに落ち着きました.
文献はあくまで文献で,患者の状態を慎重にみていくのが大前提だと思います.


追記
SNSでコメントをいただいたので転記します。


せっかくなので、追加で勉強してみました。

IEの経口スイッチ、研究けっこう進んできてるんですね。
そのままこの症例に当てはめてよいかは外的妥当性が微妙ですが(本文まで読まないと微妙さがわからないのが論文の面白さですね)、いろいろな制約があるなかで例外的に慎重に一歩踏み出すときのガイドにはなるように思いました
http://www.jseptic.com/journal/20181106.pdf

また、個人的にはKANSEN Journalのこの記事も、エキスパートオピニオンも入っていてけっこう好きです。
内容の無断転載だめなので本文読んでいただければと思いますが、最後の方にある血流感染でのガイドライン遵守率のところをみると色々感じるところがあるし、アクセス可能なら「ガイドライン通りに行けない事情があるとき(総合医の出番ぽい場面)こそ、専門医にエキスパートオピニオンを聞いてみる」ことの有用性があるという持論が強化された記述でした
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20190715J73-1.htm



2020年6月29日月曜日

偏頭痛を増悪させる薬剤


更新を週2回から週1回に変更します.

学生の勉強会のために,偏頭痛について勉強していたのですが,
NEJMの総説( Migraine NEJM 2017;377:553-61)に
偏頭痛を増悪させる可能性がある薬剤が載っていました.

知らない薬剤が多く,びっくりした反面
これを暗記するのは大変だと感じ
かつ,記事にでもしないと,偏頭痛を増悪させる薬があったことすら忘れてしまいそうなので
あわてて記事にします.

・経口避妊薬
・閉経後ホルモン保有治療薬
・鼻粘膜血管収縮薬
・SSRI
・PPI

あわせて,増悪させる生活習慣としては以下の通りです
・食事を抜く
・不規則なカフェイン接種
・不規則な睡眠
・ストレス

カフェインは特異的に聴取しないといけませんね.
いままで聞いていませんでした.診療を変えます.


2020年6月25日木曜日

糖尿病性筋梗塞



例によって,いままで知らなかった疾患について調べました.

糖尿病に長期罹患している患者が,急激な大腿痛を来した時に鑑別に挙げる疾患です.
横紋筋融解症,感染症,DVTなどの除外が必要です.

システマティックレビューで115人の患者を集めた研究があります.

要点をまとめると
・突然発症の筋痛.大腿が多い.
・局所の腫脹を伴うことが多い
・自然と軽快するが,再発も多い.palpable painful massが残ることも.
・両側性が8.4%
・CKが上昇するのは半数程度
・MRIが診断に有用:T2でHigh,T1でlow.

diagnostic delayがある疾患ですが,
安易に飛びつくと,DVTや壊死性筋膜炎を見逃しそうで注意が必要です.


2020年6月22日月曜日

味覚・嗅覚異常の原因



味覚・嗅覚異常は,外来で時折であう主訴ですが
鑑別診断があまり想起できず,栄養素欠乏がなければ加齢性疑いでお茶を濁していました.

AFPで総説があったのでざっくりまとめます.

嗅覚異常の鑑別は以下の通り(上論文より改変)
・鼻・副鼻腔疾患
・頭部外傷
・パーキンソン病など神経変性疾患
・頭蓋内腫瘍
・内分泌(副腎不全,クッシング症候群,糖尿病,甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症など)
・てんかん,偏頭痛
・SLE
・シェーグレン症候群

味覚異常は以下の通り
・口腔内感染症(カンジダなど)
・ベル麻痺
・頭部,頭蓋底の腫瘍
・鉛や銅の中毒
・内分泌(副腎不全,クッシング症候群,糖尿病,甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症など)
・てんかん,偏頭痛
・シェーグレン症候群

言われてみればなるほどですね.内分泌系の疾患が主訴からだと想起しづらいです.


薬剤性の味覚・嗅覚障害も珍しいことではないようです.
これもリストを作成して頭の中に入れておきます.

・抗菌薬(アンピシリン,アジスロマイシン,シプロフロキサシン,クラリスロマイシン,メトロニダゾールなど)
・抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトイン)
・抗うつ薬
・抗ヒスタミン薬
・降圧薬など循環器系薬剤(エナラプリル,ジルチアゼム,サイアザイド,ニフェジピン,プロプラノロール,スピロノラクトンなど)
・コルヒチン
・抗がん剤
・レボドパ
・クロザピン
・メチマゾール,プロピルチオウラシル
・スタチン(フルバスタチン,ロスバスタチン,プラバスタチン)
・バクロフェン,ダントロレン

かなり省きましたが,それでも長いリストになってしまいました.
大まかに覚えたうえで,味覚・嗅覚障害の鑑別に薬剤性を外さないようにするのがよさそうです.


2020年6月18日木曜日

精巣痛の鑑別疾患



マニアックな主訴は素振りが大事です.
いつか出会う時のために練習です.

当然,第一鑑別は精巣捻転です.
精巣垂捻転や精巣炎,精巣上体炎は容易に想起できます.出会う頻度も高いです.
虫垂炎の放散痛も有名ではあります.まだ出会ったことはありません.

動脈炎,特に結節性多発動脈炎で,精巣の炎症が起こることがあります.
血管炎を疑う患者には,ROSの一環として聴取するようにしています.

陰部大腿神経による放散で,腹部大動脈瘤が隠れていた,というのがworst scenarioです.

ざっとまとめると,急性の陰嚢痛で捻転や精巣炎ではない原因のリストは以下の通りです.
あまりに稀なものまでリストに入れると覚えられなくなるので,こんなものでしょう.

・結節性多発動脈炎
・虫垂炎(特に盲腸後)
・腹部大動脈瘤
・S1神経根症
・尿路結石

また,慢性睾丸痛chronic orchialgiaという疾患概念があるようです.
Cleveland clinicの分かりやすい患者胸のパンフレットがあったので参考にしてください.

睾丸痛が前面に出ない場合,慢性的な下腹部痛で来院するかもしれませんね.
いままで知らなかったので,しっかり鑑別に挙げるようにしたいです.


2020年6月15日月曜日

ALS患者にみられるsplit hand


知らなかった身体所見に出会うことは喜びです.

母指球筋(短母指外転筋),第一背側骨間筋,小指球筋(小指外転筋)は
どれもC8-Th1の髄節で支配されます.
なので,例えば頚椎症なら,どの筋も萎縮するはずです.

ですが,母指球筋と第一背側骨間筋は著明に萎縮しているにもかかわらず
小指球筋が萎縮していない場合があります.

これをsplit handと呼び,ALSに特異的な所見です.
原因はまだよく分かっていないようですが,神経のNa電流と関係があるらしいそうです.
解説を読んだのですが,生理学が苦手な私にはよくわかりませんでした.

split handの詳しい解説や写真は以下のリンクからお願いします.






2020年6月11日木曜日

low-FODMAP食



下痢優位の過敏性腸症候群では,low-FODMAP食が症状改善に寄与することがあります.
具体的に患者さんに説明できるようになる必要がありますね.

FODMAPは,Fermentable, Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, And Polyolsの略ですが,これを覚えても意味がないですね.それ以前に覚えられないです.


避けるべき,high FODMAP食は以下の通りです.
(以下のサイトを参照しました.著者が医師であることを開示しています.https://www.medicinenet.com/low_fodmap_diet_list_of_foods_to_eat_and_avoid/article.htm)

野菜:玉ねぎ,にんにく,キャベツ,ブロッコリー,アスパラガス,キノコなど
果物:桃,マンゴー,リンゴ,ナシ,メロンなど(果肉が硬いもの)
その他:ドライフルーツ,濃縮還元のフルーツジュース,小麦・ライ麦,
乳製品,ピスタチオ,人工甘味料,アルコール,スポーツドリンクなど
(注:過敏性腸症候群で避けるとよいとされている食品のリストです)

なんだか,クリームパスタの材料になるものは軒並みhigh FODMAPですね…


一方,症状を緩和させるかもしれないlow FODMAP食は以下の通りです.

野菜:人参,グリーンピース,キュウリ,レタス,トマト,なす,ジャガイモなど
果物:オレンジ,ぶどう,バナナ,キウイ,レモン,イチゴなど
その他:肉,魚,卵,大豆,米,グルテンフリーのパンやパスタ
ストレートジュース,アーモンド,ピーナッツなど

low FODMAPには夏野菜が多いですね.
果物は朝のスムージーに合いそうなものが並んでいます.


クリームパスタの材料はhigh FODMAP
夏野菜と朝のスムージー,肉・魚・大豆と米はlow FODMAP
このようにしてざっくり覚えることにします.


2020年6月8日月曜日

D-乳酸アシドーシス


知らない疾患だったので.
稀ですが,素振りは大事です.

体内で産生される乳酸はL-乳酸です.
普通の乳酸測定では,L-乳酸が測定されます.
D-乳酸は特殊な測定が必要です.
なのでD-乳酸アシドーシスでは,検査値上は乳酸値正常となります.

D-乳酸アシドーシスは,症状で吸収されなかった炭水化物が,大腸で細菌に代謝されることで起こります.
なので,起こるなら空腸回腸バイパスや短腸症候群の患者です.

炭水化物摂取後の脳症+代謝性アシドーシスで疑います.
意識障害や失調は数日続くこともあります.

検査で引っかからないので,知らなくては診断は極めて困難だと思います.
典型例をおさえて,サクッと覚えてしまいましょう.


2020年6月4日木曜日

箸休め:アナフィラキシーの初期対応


今回の投稿は息抜きです.

現在,医学生を対象とした臨床推論の学習会を行っています.
アナフィラキシーの初期対応についてのスライドを作成しました.
我ながら狂気的ですが,エピソード記憶とともに一生忘れない知識にしてほしいという真剣な思いの表れです.










2020年6月1日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 7 (last)



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.今回で最後です.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


ピットフォールと解決策

すべての臨床医が学生の教育に対して積極的であるわけではないし、ExBLをうまく機能させる能力があるわけでもない。臨床現場はただでさえ多忙であり、臨床医が患者の治療と学生の教育の両方をバランスよく行うことが難しい場合がある。すべての患者が学生に治療に参加してほしいと感じるわけではなく,これは公的医療機関よりも民間の医療機関で問題が大きくなる可能性がある。学習環境に適応することに困難を覚える学生が出てくる場合があり,異なる環境をローテートするときに顕著に表れる.ExBLは、学生を煩わしい傍観者から医療チームの(潜在的な)貢献者に変革させることによって、学生の受動性に対処する。このガイドは、指導者育成が臨床医に事前の追加支援をどのように与えれば,学生が自分の学習の責任を取り臨床現場に積極的に参加するように仕向けるようになるかについて示唆している.また、患者の共同参加を支援する方法も示唆している。品質向上も重要な役割を果たす。ExBLを最適化したい教育者は、ExBLを評価して、その場の状況や資源に適応させることができる。

影響

臨床医への影響

「私の部局で、私が行う手技の間で、病棟で、診察室で、医学生に教えるにはどうすればよいか」という質問に対する我々の答えは以下の通りである.「学生が臨床の弁場に参加するよう支援してください.学生がコンフォートゾーンから一歩外に出ることを、そうすることで省察的に学ぶことを、そして能力をもっと身に付けることを支援してください.」あなたの最も重要な貢献は、公式なものではなく、一見すると小さなことかもしれない(例:学生に進んで関わる).良い臨床をモデル化し、学生を会話に参加させ、質問を投げかけ、あなたが何をしているのかを説明し、あなたの模範に従うように促しなさい。学生を歓迎し、臨床での学習環境について説明し、関連する臨床現場での学習の機会を手配することで、臨床現場への配属を学生に支持的なものにしなさい。リーダーシップを発揮し、カリキュラムに積極的に関心を持ちなさい。

ExBLの原則に従う臨床医は、学生と患者が臨床現場に基づく学習に積極的に参加するよう背中を押すことができる。従来の臨床教育とのもう一つの大きな違いは、学生の学習の主題が、難解な知識ではなく、常に臨床と密接に関連していることである。 ExBLでは,実臨床における「複雑さ」以上のものは扱わない.そして実臨床では,「正しい答え」はまず存在せず、どのようなアクションを取るのかは患者と治療者が共同して選択する。

図 3 では,このアドバイスを臨床医と学生と短い出会いの時系列に沿って示したものであり,表 2 と表 4 は、このアドバイスを実行に移す数多くの様々な方法を明記している。



患者と学生の関与

患者における主な貢献とは、臨床で診察を受けている時に学生と共同して参加することである。学生における主な貢献は、臨床医との関係を構築し、臨床現場に積極的に参加し、省察的に学び、その結果として能力を開発することである。患者および学生は、進行中のカリキュラムにおいて、カリキュラムの発展に寄与することができる(図4)。




配属先決定者への示唆

リーダーシップは、臨床配属先決定を成功させる鍵である。リーダーは組織的、教育学的、および感情面での支援を提供するが、個人間での支援ではなく対等な関係での支援を行うことができる。
配属先決定者が答えるべき主な質問は次の通りである。
・この配属はどのような機会を提供するか.
・学生は、これらの機会からどのような能力を開発できるのか.
・学生の参加と能力の育成をどのように支援できるのか.
表 4 に、これらの質問に対する回答を示す。

結論

ExBLは、医学生は医師として仕事を始める準備をしており、働くことができるには仕事の経験が必要であるということを公理として扱う。今までとは違う環境における参加型学習に関する様々なカリキュラムの設計とアフォーダンスに対応するために、ExBLは様々な文脈で柔軟に適用することができる,理論とエビデンスに則った原則を提供する。研修医やその他の医療従事者にとってもExBLはおそらく有用である。より良い「指導医」になりたい臨床医に対し私たちができるアドバイスは、SPaRCを活用することである.つまり,:学生の参加(Participation)、省察的なな実際の患者からの学び(Real patient learning)、および能力(Capacities)と医師であるというアイデンティティの涵養を支援(Support)することである。


2020年5月28日木曜日

免疫不全のごくシンプルなまとめ



どうしても,どうしても,免疫不全が覚えられないのです.
何回教科書を読んでも,覚えられません.
「はたらく細胞」でもダメでした.かなり苦手な分野です.

仕方ないので,最小限の事項に絞って暗記することにしました.

・液性免疫不全
免疫グロブリンの低下により,莢膜を持つ細菌に弱くなる
原因菌:S. pneumoniae,H influenzae,Klebsiella spp.など
病態:CVID,多発性骨髄腫,CLL,脾摘後

・好中球減少
発熱・臓器特異的所見が起こりにくい.
一般的な細菌に加え,S. aureus,P. aeruginosa,アシネトバクター,アスペルギルスに注意
病態:急性白血病,化学療法,再生不良性貧血,薬剤性

・細胞性免疫不全
T細胞の異常.ウイルス,真菌,細胞内寄生菌に弱くなる.
原因菌:CMV,ニューモシスティス,クリプトコッカス,結核,ヒストプラズマ,レジオネラ,ノカルジアなど
病態:HIV,悪性リンパ腫,免疫抑制薬(シクロフォスファミドは,他の免疫不全も引き起こす)

・ステロイドは細胞性免疫不全>液性免疫不全

これで何とかなるでしょう.

参考:免疫不全者の呼吸器感染症




2020年5月25日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 6


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


支援

 学生が自分の快適な領域から一歩外に出て、患者や臨床医と協働することを助ける,3つの条件がある.この条件は、経験の種類(見学、クラークシップ、臨床研修、臨床現場訪問、選択実習、インターンシップのいずれであっても、そして経験の期間(瞬間、数ヶ月、数年など)によって変わることはない。その条件とは,次の 3 種類の支援である。

・組織的支援:施設、リソース、および学生実習を統括する団体
・教育学的支援:臨床医による,学生の学習の公式,非公式両面からの支援
・感情面での支援::学生の学習環境における肯定的な態度と価値観の表示

 支援とは,学生を甘やかすことでもなければ,追加のオプションでもない.学生が臨床での課題に立ち向かうことを可能にするものである。図 2 はその例示である.表 3 の完全版ガイドで詳細を述べる.



組織的支援
 組織的支援により,学生、患者、臨床医が協働して,臨床と教育の双方を推し進めて3つの当事者すべてに最大の利益がもたらされるようになる。臨床医がリーダーシップを発揮することで、患者,学生との三者間の相互作用が促進されるが、これは組織的支援の最も重要な要素である。

教育学的支援
 ExBLでは、「教育teaching」よりも「公式な教育学的支援formal pedagogic support」という言葉を好んで使用する.それは,教師ではなく学生に関するプロセスに再び焦点を当て、教条的ではなく支持的なものであることを強調するためである.つまり,良い実践をモデル化し、臨床活動に学生を巻き込み、自分の経験を構造化しそこから学ぶ方法を学生に伝えることを意図している。臨床医は、自分の考えを声に出し、学生が一緒に考えることを援助し、学生に説明し、質問し、耳を傾け、臨床での実践について話をすることによって、非公式の支援を提供する。また臨床医は、学生がただ参加するだけでなく,省察を経て実際の患者での学習と能力の獲得を目指すようになる手助けをする.

感情面での支援
 臨床医は、教育的および臨床的実践に対して積極的な態度を持ち、集団レベルでも個人レベルでも学生に肯定的にかかわることで,本質的な支援を提供することができる.感情面での支援は,定義するのは難しいが、認識するのは簡単である。それが最も容易に観察されるのは学生と臨床医との個人間での相互作用においてであるが、どのカリキュラムのレベルにおいても感情面での支援は存在する.配置やカリキュラムを決めるリーダーは学生の情動面をサポートすることで,最も効果的な人材になるからである。


ExBLの評価

 適切に設計された学習環境は、学生が学ぶためのエネルギーを自分の中に見つける助けとなる。配属により学習環境の設計がどれだけうまく行われるかを評価する方法は様々あるが、そのどれもが学生に数値スケールで項目を評価するよう求めるものである.マンチェスター臨床配属指数(MCPI)は、ExBLを評価するために特別に開発されたものである(Dornan et al. 2012 Dornan T, Muijtjens A, Graham J, Scherpbier A, Boshuizen H. 2012. Manchester Clinical Placement Index (MCPI). Conditions for medical students’ learning in hospital and community placements. Adv Health Sci Educ. 17:703–716.).これは短く(わずか8項目である)、学生にコメントを求めて,配属を改善する方法を提案してもらうことができる。学生が簡単に回答を埋めることができるだけでなく、MCPIは広く使用されている他のスケール(Kelly et al. 2015 Kelly M, Bennett D, O’Flynn S, Dornan T. 2015. Can less be more? Comparison of the Dundee Ready Educational Environment Measure (DREEM) and a novel 8-item placement quality measure. Adv Health Sci Educ. 20:1027–1032.)と少なくとも同等の信頼性を有している.MCPIの8項目のうち5項目の平均は学習環境の質を測定し、他の3つの項目は学生のリハーサルと寄与に与えられた支援を測定する。MCPI は、ExBLの評価を行う際に,論理的に最初に選択すべきものである。


2020年5月21日木曜日

薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)


家庭医でも,抗精神病薬を処方するケースはままあります.

錐体外路症状に注意,という知識は当然ありますが,
具体的に何に注意したらいいのか,というと,あまり自信はなく…

薬原性錐体外路症状評価尺度(Drug-Induced Extrapyramidal Symptom Scale: DIEPSS)では,9つの徴候をそれぞれ5段階で評価します.

・歩行 Gait
小刻みな遅い歩き方.速度の低下,歩幅の減少,上肢の振れの減少,前屈姿勢や前非右突進現象.

・動作緩慢 Bradykinesia
動作がのろく乏しい.動作の開始または終了の遅延または困難.顔面の表情変化の乏しさ(仮面様顔貌).単調で緩徐な話し方.

・流涎 Sialorrhea
唾液分泌過多

・筋強剛 Muscle rigidity
上肢の屈伸に対する抵抗.歯車現象,蝋屈現象,鉛管様強剛,手首の曲がり具合.

・振戦 Tremor
口,手指,四肢,躯幹の4-8Hzのリズミカルな運動

・アカシジア Akathisia
静坐不能.下肢のムズムズ感,ソワソワ環,絶えず動いていたいという衝動などの内的不穏症状とそれに関連した苦痛.運動亢進症状(身体の揺り動かし,下肢の振り回し,足踏み,足の組み換え,うろうろ歩き).

・ジストニア Dystonia
筋緊張の異常な亢進.舌,頸部,四肢,躯幹などの筋の捻転やつっぱり.持続的な異常ポジション.舌の突出捻転,斜頸,後頸,牙関緊急,眼球上転,Pisa症候群

・ジスキネジア Dyskinesia
運動の異常な亢進.顔面,口,舌,顎,四肢,躯幹の他覚的に無目的で不規則な不随意運動.舞踏病様運動.アテトーゼ様運動を含む.振戦は評価しない

・概括重症度 Overall severity

以上の項目はしっかり覚えておくべきですね.
着眼点が分かると,わずかな異常を見落とす確率が下がりそうです.


2020年5月18日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 5



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


参加

 サポートの上で臨床現場に参加する経験は,学生が有能な医師になる一助となる。参加する際は、患者、臨床医、学生という三つ組みのメンバーとなる。参加には3つのタイプがある。

・観察:実際に手を動かすことはせず、臨床現場に参加し実践から学ぶ
・リハーサル:患者に対する治療は行わないが,臨床での業務に従事する
・寄与:臨床業務を(共同して)実践する責任を与えられている

 観察、リハーサル、寄与は、独立して臨床を行うようになるための梯子の段である。学生がこの梯子をのぼる姿は決して直線的ではないが,その理由の一端は,学生がどこまで参加できるかが,患者の臨床上のニーズに従い,大きく,そして時に非常に素早く変化するからである。表2で、臨床医が参加を促進する方法を説明する。


観察
 観察は学生に幅広い経験を与え、患者の治療に積極的に参加するようになるきっかけとなるため、観察という梯子の段を学生が踏むことは必須だが、しかしあまりにも長く観察の段で足踏みしてはならない。臨床医は表2に示すテクニックを使用して、学生を受動的な観察者ではなく能動的な参加者にするほうが,ずっと効果的である.

リハーサル
 表2で、学生が責任を取ったり患者の治療に携わったりすることなく、状況に応じて,医師としてのふるまいを経験することができる活動を挙げる.

寄与
 梯子の一番上の段は,どれほど小さなものであっても、患者の治療に実際に携わることである.もちろん、これは安全でなければならないため,学生の能力と患者のプロブレムの性質によって左右される.学生はこの最上段にいるときに最も多くのことを学ぶ.つまり自分の能力を最大限活かして患者と関わるようになる。

表2. 参加型学習の支援(割愛)


参加のダイナミクス
 臨床現場での学習は本質的にダイナミックであるため、臨床医は動的に対応し,参加の水準を調整して学生にとって最も教育的な量の課題になるよう維持する必要がある.つまり,学生の予想より少し難しいタスクを与え,そのタスクを実行する自由も予想より少し多く与えることが求められるが,同時に,学生は臨床に参加するのに正当な存在であり,学生の学びは大事なことであり,学生と患者の双方の安全が保たれることを明確にしなければいけない.このことが自然と身に付いている臨床医もいるだろう.後述する表2とImplicationの章で,実践的なヒントを述べる.


実際の患者での学習(PRL)
 RPLとは、学生が記憶に残る患者に以前に行った学習を結び付けて、学んだことを新しい能力に再構築、統合、強化、文脈化する,省察プロセスである。参加の経験を省察することは、やまいと疾病の範囲と複雑さを理解し、理論と実践を結び付けるのに役立つ。学生が有する経験とRPLは多いほど良い.というのも,医師の頭の中がどうなっているのか分かるようになるからである.RPLが盛んとなるには,学生の省察的学習を支援する臨床医(支援方法については表3参照)がいる必要がある.臨床医にとってとりわけ大事なのは,学生の声によく耳を傾け、学生に自分の経験をあらゆる角度から洩らさず語るよう慎重に促すことである.


2020年5月14日木曜日

診断と治療「診療困難な痛みに向き合うケーススタディ」に寄稿しました



診断と治療2020年5月号「診療困難な痛みに向き合うケーススタディ」に拙稿が掲載されています.
http://www.shindan.co.jp/books/index.php?menu=03&zcd=2

プライマリケアレベルでよく出会う良性の胸痛について
・検査が陰性に出ることで,診断確定のモチベーションがわきづらいこと
・疾患概念を知り,特異的な臨床所見を狙いに行くことで診断ができること
・診断をつけることでbio-feedbackがかかり,説明が症状を和らげる治療となること
・良性疾患は積極的に診断する姿勢が必要だが,pitfallの回避も必要であること
以上の項目について議論しています.

つい最近も,1年間の腹痛を訴える若年女性を診察しました.
最終診断はslipping rib syndromeであり,説明するととても安心しておいででした.

プライマリケアを行うなら頻繁に遭遇する疾患群ですので,もしよければご笑覧ください.


2020年5月11日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 4



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


能力
経験が卒業生に与える能力には3種類ある:知的能力(知っている)、実践的能力(スキルがある)、そして情動的能力(感受性がある).そして,それぞれがサブタイプを有している。能力のタイプは境界が曖昧であり,それは各能力が複雑かつ個性的で、場面により様々に変化し、互いに重なり合い、臨床経験を通じて進化するためである.我々はラベルを、ある(サブ)タイプの能力を別の機能と正確に区別する定義としてではなく、各能力の原型を示すものとして利用している。

・知的能力
経験とRPLを省察することから生じる知識とは,医師となり,医師であり続けるための方法,医師が医学を実践する文脈,およびその実践の構成についての一元的な理解である。この能力のサブタイプには、応用的知識と推論スキルがある.

・実践的能力
これは観察可能な行動のセットを指す.つまり,:臨床スキル(患者に直接影響を与える行動)と自己管理スキル(学生や医師が自分の仕事と学習を整理するための行動)から成る.

・情動的能力
情動的能力には、価値観と感情が含まれる。自分が医者であることを自覚し,他者やその仕事に感情的に関わることが卒業生に求められるため、この能力は重要である。この能力は観察可能な行動とはいえないが、行動に確かに影響を与える。このサブタイプには,気分(例:満足感、報酬、不安、怒り)、自信と動機、アイデンティティ(例:自分が医者になりつつあるという自覚、臨床現場に属しているという自覚、患者を治療する権利を有しているという自覚)、態度と価値観(例:理想主義である、敬意を持っている、他者と協働できる、責任感がある)、他者への想い(例:共感、思いやり)がある.情動的能力は、伝統的にあまり強調されてこなかった.表1で詳説する.

表1.

サブタイプ
トピック
気分
肯定的な気分である
幸せである 光栄である 刺激を受けている 誇っている 安心である 報われている 安全を感じている 満足している
両価的あるいは否定的な気分を認識し適切に対応している
心配である 葛藤している 落ち込んでいる 怯えている 苛立っている 悲しんでいる ストレスである 弱っている
動機と自信
達成した 自信がある モチベーションがある 自己効力感がある
他者に対しての感情
共感している 同情している
恐怖や嫌悪など他者への否定的な感情を認識し対応している
態度と価値観
おもいやりがある 協働的である 批判的でない 境界を認識している 限界を認識している 敬意がある 責任感がある 自己を認識している 個人の価値観を示している 肯定的態度を示している



2020年5月7日木曜日

erythrasma(紅色陰癬)


皮膚疾患の英語ってどうしてこんなに覚えにくいのでしょうか.

erythrasmaは紅色陰癬と訳されます.
よく出合っているはずなのですが,疾患概念としてイマイチ理解していなかったのでまとめました.
ちなみに,erysipelasは丹毒です.ごっちゃに覚えてました.

erythrasmaは,皮膚の皺にできる細菌感染症です.
脇,陰部,足趾間などにできやすいです.
原因菌はCorynebacterium minutissimumです.

皮疹は境界明瞭で,痂皮を伴い,表面に亀裂があります.搔痒を伴うことがあります.
糖尿病患者では全身に広がることがあるようです.

UpToDateのページに病変の写真があります.これなら何とか一発診断できそうです.

似た疾患でintertrigoがあります.こちらは間擦疹のことです.やはり英語は難しい.


2020年5月4日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 3


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


本目標と具体的目標

 本稿の本目標は、臨床医に次の質問に対する実践的な回答を提供することである.「学生が私のユニットに配置された時、私が処置をしている時,病棟にいる時,または私の診察室にいる時,私はどのように医学生に教えるべきか」.この本目標を達成するために、以下の項目をどのように達成できるのかについて実践的なガイダンスを提供するのが,本稿の具体的目標である。

・医学生が臨床現場に参加することができる.

・臨床現場のスタッフメンバーと患者が学生の参加を支援できる.

・臨床医が、学生が実際の患者の経験から内省的に学ぶ手助けをすることができる.

・安全で優秀で思いやりのある医師の能力とアイデンティティを涵養することができる.

 上記の質問に対する回答を待ち望んでいる読者は、図3と表2にすぐ目を向けるとよい.一方,実践法だけでなく原則についても理解したい読者は、次のセクションで推奨する事項についての説明を読むのがよい.


経験に基づく学習(ExBL)

 経験に基づく学習(ExBL)という教育学は、20年にわたる研究の業績であり、その中には職場学習理論の調査、約300の出版論文からのエビデンスの抽出、研究プログラムの実施、一連の論文の出版が含まれている。

 図1はExBLの模式図であり,学生はこの図のようにして,新人医師としてふるまうために医師としてのアイデンティティの基礎を確立する必要がある.これらの基礎を築くために、学生は能力を身に付ける必要がある。実際の患者からの学び(RPL:Real Patient Learning)は,臨床医、患者,学生という三つ組みの中に参加した経験の省察から生じるものであり、学生に能力を身に付けさせるものである。臨床医が支持的に振舞うかどうかで、学生の参加、RPL、および能力の獲得に適した状況となるかどうかが決まる。臨床医は,(1)良い診療をモデル化し、学生と共にそれを提供する.(2) 学生に現在の自分の能力を拡張させるよう促す.(3)患者が学生の学習に共に参加できるようにする.臨床医は、学生を職場での会話に巻き組み、治療を受けている患者との交流を促し、経験に対する省察を支援する.SPaRCはExBLの要素をまとめたものであり,支援(Support),参加(Participation),実際の患者からの学び(RPL),能力(Capability)の頭文字を取ったものである.図 1 で最も外側にあり全てを包含する矢印は、支援が ExBL の中核的な条件であることを強調している.


ExBLの射程範囲
範囲内:患者への直接的な治療と学生教育の双方ともを目標とする活動
範囲外:high-stakesな評価(訳注:合否や進級を決めるような評価)とシミュレーション


図1




2020年4月30日木曜日

7日間ブックカバーチャレンジを1日でやってみる


SNSで「7日間ブックカバーチャレンジ」というトレンドがあるようです.

読書文化の普及に貢献することを目的として,好きな本を1日1冊,7日間投稿します.
本についての説明は必要なく,表紙画像だけを投稿し,投稿ごとに友達を1人指名し参加を依頼するようです.

趣旨に賛同いたしますので,友達指名なし,一気に7冊紹介という形で,このブログ上で行います.ブログなので,説明文を簡単に添えます.


1.オリガ・モリソヴナの反語法
推理小説の要素があり,ページをめくる手が止まらなくなる本です.
ソ連支配下の冬の時代に,過酷な状況でしたたかに生きる市民の逞しさ,生命の強さがあふれ出ています.



2.アムリタ
よしもとばななが好きになったきっかけの本です.
よしもとばななの小説は死と霊で満たされています.だからこそ美しい世界を描くことができるのだと思います.



3.水俣が映す世界
医師として人々の暮らしと社会をどう見るのか,最も影響を受けた本です.
私にとって,生き方,考え方のバイブルです.
「苦海浄土」も私にとって大事な本です.



4.切りとれ,あの祈る手を
本を読むということの本当の意味がわかります.しびれます.
命がけで本を読むとは何か.本とともに革命を起こすとは何か.



5.沈黙
有名どころから1冊.もはや古典的傑作です.
神はいるのか,ここまで考え抜く著者の覚悟が伝わってきます.



6.プライマリ
巻頭言を初めて読んだときに,揺れていた心がはっきりと定まり,地元で家庭医になることを決めました.
読み返すたびに新たな発見があります.



7.The Health Gap
COIはバリバリあります.でもやっぱり最後はこの本です.