2017年3月29日水曜日

NEJM Case Record 2017-9


思い出したようにNEJM Case Recordです.

Case 9-2017
A 27-Year-Old Woman with Nausea, Vomiting, Confusion, and Hyponatremia

27歳女性
1週間前に嘔気,嘔吐(非胆汁性,非血清)あり.数時間で軽快した.
2日前の夕方,嘔気と数回の嘔吐あり.その後,傾眠,歩行不能になったため近医を受診した.
バイタルサイン:体温36.1℃,血圧94/64mmHg,脈拍100bpm,呼吸数16/min,SpO2 100%ra
質問や指示に応じず,話は的を射ない.時折啼泣し,四肢を意味もなく動かしている.低血圧に対し生食投与を行った.
血液検査:Na 104,K 5.1,Cl 74,CO2 19,BS 114 ,AG 11
集中治療が可能な病院に移送した.移送中に患者は興奮し横にじっとできなくなった.

搬送先病院バイタルサイン:体温36.7℃,血圧102/57mmHg,脈拍92bpm,呼吸数12hi/min,SpO2 100%ra

尿所見:比重740,Na 158
瞳孔正常,粘膜湿潤,心音呼吸音正常,腹部所見なし.頭部CTと胸部レントゲンは正常.

さて,診断は?

最大のプロブレムは低ナトリウム血症
くわえて,間欠的嘔吐,昏迷・興奮,高比重・高ナトリウム尿,輸液に反応する低血圧,高K血症,AG正常性代謝性アシドーシス

低ナトリウム血症をみたら,まずは体液量評価をする.
このケースでは,最初は細胞外液量低下→輸液で正常体液になった.
くわえて,尿比重が高いということはADH高値であるということ

腎症や中枢性塩喪失症候群は否定的.
妊娠は低Na血症を来すがこんなに重症にはならない.
甲状腺機能低下症は原因となりうる→ホルモン測定で除外できた.
SIADHは除外診断

利尿薬使用による低ナトリウム血症はどうか.
最多の原因薬物はサイアザイド.ループ利尿薬より低ナトリウム血症を来しやすい.
特徴は,尿濃縮能力が保たれている・ADH反応性がある・体液量正常であることが多い点.
服用1-2週で発現する.

副腎不全,特に一次性はどうか.
低ナトリウム血症に至る経路は,コルチゾール不足によるADH上昇とアルドステロン不足(原発性のみ)の2つ.体液量は低~正常.
副腎不全は低血圧を来す.コルチゾール不足による血管拡張または嘔吐やアルドステロン不足による体液量低下.

MDMA乱用もADH上昇による低Na血症を来す.
高体温になるので飲水も促される.
その他の徴候は,高血圧,頻脈,横紋筋誘拐,セロトニン症候群など.

このケースでは利尿薬乱用か副腎不全が考えられる.
利尿薬乱用はふつう,低K血症かつ高アルドステロン症による代謝性アルカローシス
副腎不全なら低アルドステロンによる高K血症と代謝性アシドーシス

原発性副腎不全なら色素沈着がほぼ必発だが頻繁に見逃される.
そう思って調べると,屈曲部位に色素沈着が見られた.

追加の病歴をとると,じつは数か月前から倦怠感があり,運動機能が低下していた.

というわけで,最終診断は原発性副腎不全でした.
低Na血症の鑑別はシステマティックに行うようにしましょう.

2017年3月23日木曜日

ベンゾジアゼピン依存


たまには医学生物的記事も.
今週のNEJMのReviewを部分的に抜粋します.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1611832

ベンゾジアゼピン依存

離脱症状:短期間型なら2-3日以内,長期間型なら5-10日で発現
最も軽い→反跳性不眠
よくある身体症状→筋緊張,脱力,筋けいれん,疼痛,インフルエンザ様症状,ピリピリとしたしびれ
よくある精神症状→不安,パニック,そわそわ,興奮,気分変調,集中力低下,睡眠以上
他には→食欲低下,頻脈,眼のカスミ,口腔乾燥,耳鳴り,嗜眠,現実感の消失
知覚異常もよく起こる→聴覚過敏,羞明,異常感覚など
突然やめると痙攣が起こることも.
重症では幻覚,妄想,脱人格化,譫妄も

鑑別診断:他の精神疾患,アルコールや薬物中毒,てんかん,頭蓋内病変,心筋梗塞,甲状腺ホルモンなどの内分泌異常など

治療の肝はゆっくり減量すること
プロトコルは様々:各週ごとに50%ずつ減らす~2週ごとに10-25%ずつ減らす
ただし,あまり長々としないほうが良い

ジアゼパムなど長期間作用型に変更するのもよいかもしれない
オピオイド維持療法を受けている場合はオピオイドの量は変えない.
抗うつ薬など他材を用いる方法もあるが効果ははっきりせず.

CBT(認知行動療法)はしっかり効果あり
他の薬物やアルコールの乱用にも注意


2017年3月14日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 8 final)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


最終回です。推奨のつづき、地域の現場で何をするべきかがまとめられています。



地域診療の場で

 以下の推奨文は、貧困の中で生活する子どもが健康で元気でいるのに小児科医が個人としてどのように支援できるかを扱っている。貧困家庭が直面する複雑な課題を認識するメディカルホームにしていくには、個々の世帯を特徴づける危険因子と防御因子の両方を臨床家の立場で調査し収集することが必要である。

・貧困の中で生活する家族のニーズを認識しそれに気づくメディカルホームを構築するべきだ。どの家族も子どもに最良の資源とケアを提供したいと考えているが、経済的障壁がその妨げとなりうる。ケアチームと診療所のすべてのメンバーが、貧困家族が直面することが多い問題について知っておくべきである。外出における障壁、過酷な勤務スケジュール、経済的問題との戦いといった問題を認識することで、診療所は家族と効果的に意思疎通を行いそばに寄り添うことができる。母性抑うつの認識といった感情面での家族ケアは地域の小児科医が診療する範疇であり、有害なストレスが子どもに与える影響は小児早期での支持的で安定した関係性を保つことでの健康により軽減することができると理解することで、貧困家族に統合されたケアを提供する高度なメディカルホームが活気づく。

・患者が診療所内にいる間に健康の社会的決定要因内の危険因子をスクリーニングするべきだ。診療所では、食事、住居、防寒などの基本的ニーズについて簡単な記述式スクリーニングツールを使ったり直接家族に質問したりすることができる。基本的ニーズのスクリーニングにより、家族が経験した困難のうち明白なものにかぎらず気づかれにくいものも把握することができる。患者中心のメディカルホームがこれからも発展することで、ケアの調整者は貧困家族を必要な資源につなげることで地域の相談者としても役割を果たすことができるようになるだろう。

・インクレディブルイヤーズや前向き子育てプログラムといった精神保健介入とプライマリケアの統合に加えて、ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、ヘルスリーズ、VIPといった統合されたメディカルホームプログラムの実践を考慮するべきだ。これらのプログラムは、子どもにおけるレジリエンスを構築する能力と自信を両親につけてもらい、家族の逆境に対応する力を向上させる一助となる。輝かしい未来:米国小児科学会による子どもの健康管理のためのガイドラインでは、健康管理について最も広範な推奨を行っており、行動医学ヘルスケアを小児メディカルホームに導入し健康の社会的決定要因に取り組む戦略がこれを力強いものにしている。

・家族の力と防御因子を同定しそこに立脚すべきだ。貧困家族は多くの難題に直面するが、家族はそれぞれ力、能力、防御因子を有している。結合、ユーモア、支援ネットワーク、技能、宗教的・文化的信念といった家族内の防御因子を小児科医は同定しそこに立脚することができる。家族の力を基盤にした観点でアプローチすることで、小児科医は信頼を構築し、家族が子供の問題とケアに効果的に取り組む際に活用することができる財産を同定することができる。

・家族がまだ満たされていない基本的ニーズに対処し家族のストレス要因に手を差し伸べることができるように地域団体と協働するべきだ。小児科医は、まだ満たされていない基本的ニーズと貧困に関連したリスクを同定することで、家族を適切な地域サービスと公共プログラムにつなげることができる。鍵となるパートナーとしては、地方や国の保健衛生部門、法的サービス、ソーシャルワーク組織、食料提供所、信仰団体、地域開発組織も挙がるだろう。役に立つ革新的な経済リテラシープログラムを有している地域もあるだろう。診療所は、家族が子育て上の課題や他のストレス因子に対処する一助となる各地域の訪問事業プログラムや地域社会におけるメンタルヘルスサービス、親支援グループと手を携えることができるかもしれない。

・学習を促し学校でうまくやっていくための早期介入プログラムや学習機関にかかわるべきだ。教育の専門家は学業を通じて低収入世帯の子どもを支援する懸命な努力を行っていることが多く、食料配給プログラム、衣服支援、健診といった基本的ニーズを満たす動きに参画していることもある。小児科医は、早期介入プログラム、放課後プログラム、チュータープログラムや、学校区毎に提供される社会サービスだけでなく、このような動きに積極的に参加することができる。

・MIECHVプログラムを推進するべきだ。小児科医は各地域のMIECHVプログラムと、国レベル、地域レベルで親を訪問事業プログラムにつなげる方法に通暁しておくべきである。MIECHVは加盟している個々の報恩事業プログラムを絶えず評価し、うまく機能しているプログラムをレビューに載せることができることを小児科医とAAPは知っておくべきである。FCMHと訪問事業プログラムがより密に連携する機会は常に探求されるだろう。

・子どもの人生に父親が参画することを促す地域プログラムを支援するべきだ。小児科医は地域基盤型の父親参画促進にとって重要なサポート資源となりその重要性を訴えることができる。可能なら、同居していない父親も子どものケアのあらゆる場面でかかわるべきである。

・家族と子どものメンタルヘルスと発達に取り組む戦略を進めるべきだ。出産後1年間は毎回の診察時に母性抑うつのスクリーニングを常に実施し、抑うつが疑われる場合は適切な治療につなげることができるようになることを小児科医に強く推奨する。親の抑うつのスクリーニングやケア調整活動にそれぞれ金銭的対価をつけることもふくめて、貧しい地域社会におけるメンタルヘルスと行動医学上の問題に取り組む資源を増やすことを小児科医は代弁者として主張することができる。

・全ての子どもを支援し、貧困が子供の健康に与える影響を軽減する一助となる施策を訴えるべきだ。小児科医は、貧困の中にいる子どもと家族を援助する施策を訴える重要な役割を果たすことができる。小児科医は、生涯を通じての健康、社会、経済各面に影響を与える科学的根拠に基づいた健康への懸念として貧困をとらえなおすことで、貧困に関連した主張にユニークな訴えを追加することができる。


結論

 貧困やその他の健康に悪影響を与える社会的決定要因は子どもの健康に有害な影響を与え、米国における子どもの健康格差の根本的な原因となっている。この分野は急速に解明が進んでおり、特に貧困や関連する環境ストレスが慢性疾患のライフコースのみならず発達中の人間の脳に与える神経生物学的影響について顕著である。小児早期の貧困と大人になってからの健康状態との因果関係は周知されるべきであり、これを理解することは施策作成者、研究者、地域の小児科医の決定に影響を与える。幅広い能力を有するFCMH(家族中心メディカルホーム)が、子どもが貧困から受ける悪影響を小さくするために必要不可欠な資源であると見做すに足る科学的根拠がある。

 米国小児科学会は、米国における子どもの貧困は許容できないものであり、子どもが健康で元気でいるのに有害であると考えており、子どもの貧困をなくすために行動している。米国小児科学会は、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体にくわえてits state chaptersが、有効性が示されている現存のプログラムを支援したりさらに拡大したりすることで子どもの貧困をなくす取り組み、それ以外にも有効である可能性のある施策やプログラムを認識し、発展させ、推進していく取り組みを協力協同で成し遂げることを求める。米国議会は、1935年に社会保障法を可決し、1965年にはメディケア(訳注:貧困者を対象とした公的医療保険制度)を制定した。この2つの法律によって、高齢者の貧困は劇的に減少し、根絶間近である。今度は子どもの貧困を根絶する番である。同様の改革が望まれる。米国小児科学会は、この提言にあるポリシーを奉じ推奨を実行することで、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体とともに、米国での子どもの貧困を根絶するために協力協同の努力を惜しまない。



2017年3月7日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 7)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


今回と次回で推奨をまとめます。まずは政策の大きな話しから。



推奨

 ヘルスケアシステムが質を改善しコストを抑える方向にますます注力しているなかで、低所得世帯の子どものケアを改善できるようにヘルスケア提供システムを再構築する新たな機会が生まれている。英国を含む諸国の施策決定者もまたこの方向に邁進するかもしれない。ケア調整とチーム基盤型ケアにインセンティブを与えることにより、患者中心・家族中心メディカルホーム(FCMHs)を通じて質の高いヘルスケアをより多くの子どもたちが受ける一助となることが期待される。メディカルホームは、地域の保健医療従事者などのヘルスケアチーム内のパートナーに依頼することで家族が必要だがまだ満たされていない社会的、経済的ニーズに対処する一助にもなりうる。先に述べたように、訪問事業はMIECHVが支援している。

 州単位での改革とヘルスケア提供システムの統合がなされている地域もあるが、それは集団に対する健康アプローチの推進になっており、健康な街づくりを推進する際の協働を主導している。ヘルスケア機関の協働相手としては、教育システム、社会サービス、信仰団体、地域開発組織も挙げられるだろう。ヘルスケア機関と地域資源の協働が進むことはすべての子どもたちにとって利益となることであるが、貧しく世帯収入の低い子どもたちにもたらされる利益は特に大きいものとなるだろう。


公共政策アドボカシーの場で

 貧困の影響を受けている子どもの健康を守り、家族が経済的に安定する支援をするために公共政策が果たすべき役割がある。この章以降で具体的に提言する推奨は、査読文献にくわえ、十分見込みがあり厳格な長期間の評価が進行中である予備研究において有効性が示されたものに基づいている。

・幼児に投資するべきだ。質の高い小児早期プログラムに資金を提供することは、投資として経済的に大きな見返りが期待できる。しかしより重要なことは、幼児の健康な発育を国家の優先事項として健康の社会的決定要因に取り組むことは、家族や地域社会が生涯にわたる健康を確立する一助となるのである。

・低収入で貧しい子どもを支援するのに不可欠な給付プログラムの資金を保護し拡大するべきだ。(早期)ヘッドスタートプログラム、メディケイド、CHIP、WIC、訪問事業、SNAP、学校給食プログラムをはじめとする健康な食事を提供できるプログラムや、育児と児童の発達のためのブロック補助金が資金提供しているプログラムといった、科学的根拠に基づいているプログラムに適切な資金を提供することで、子どもの健康と発達に投資すべきである。公共の給付プログラムの対象選定と交信のプロセスを効率化すべきである。

・子どもと親を同時に支援することに着目した2世代戦略を支援するべきだ。大人と子どもに着目したプログラム、施策、システムの調整と整理を進めるべきである。

・雇用を促進し親の収入が増えるような戦略を支援・拡大するべきだ。低収入の親の稼ぎを増やすプログラムは子どもに益となることが示されている。最低賃金の引上げ、教育プログラムや職業訓練プログラムにくわえ、EITC、児童税額控除、児童扶養家族税額控除といった、世帯収入増加の一助となる施策を支援すべきである。

・住居や公共空間を手に届くものとするような多地域インフラを改善する施策措置を支援するべきだ。健康で安全で手に届く住居に加え、安全な外の遊び場をすべての子どもたちに保証すべきである。

・健康格差を縮小するという目標をもって、質の高いヘルスケアをかかりやすいものにし、集団全体の健康を向上するインセンティブを創出するべきだ。質を改善しコストを削減する戦略には、健康に関連する医療分野以外の懸念(食事、住居、公共物など)に家族が取り組む一助となるようなケア調整ならびにチーム基盤型のケアが含まれるべきである。小児科医とヘルスケアシステムは、健康を改善し収入の違いによる格差を縮小する地域レベルでの戦略を推進するよう他の利害関係者とすすんで手を取り合うべきである。

・リスクのある家族に対する包括的なケアを支援するヘルスケアへの出資を促進するべきだ。全ての給付プランは、貧困世帯対象のメディカルホームにおける高度サービスをカバーしたものであるべきである。小児科医が提供するケア調整、チームによるケア、精神保健サービスへの取り組みはこのような高度サービスの例である。

・低収入あるいは家庭能力の乏しい世帯に住む子どもたちすべてを対象とする訪問プログラムに対し、国家は資金を全面的に提供するべきだ。国際医療協力局は19のプログラムを認定している。このプログラムには、看護師家族パートナーシップ、早期ヘッドスタート、健康な家族・アメリカ、先生としての親プログラムといった妊婦と5歳以下の子どもがいる家族を対象としたものが含まれるが、そうでなくてはいけないわけではない。

・ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、VIP、インクレディブルイヤーズ、メディカルリーガルパートナーシップ、前向き子育てプログラムといった有効な子育てと就学準備を推進する、メディカルホームでの統合されたケアモデルを支援するべきだ。メディケイドと教育資金提供期間の双方が、メディカルホームでの子育てと読み聞かせの推進を支援すべきである。

・国レベルでの貧困の定義と測定方法を改善するべきだ。FPLでは米国における貧困の広がりと深刻さを過小評価してしまう。SPMはFPLを改善した指標であるが、米国での貧困の広がりとそれが子どもと家族に与える影響を数字にして、有効策を発展させ推進していくにはさらなる研究が必要である。

・貧困が子どもに与える影響についてさらに深く理解し、子どもの健康を改善する介入を突き止めさらに洗練していくための包括的な研究アジェンダを支援するべきだ。貧困がどのように子どもに影響を与えるのか、貧困世帯を支援するのに有効なのは何か、得られた情報を用いて貧困層の問題を実際にどのように解決していくのかという問いに答えるより良い方法を探求する研究が必要である。