2017年11月23日木曜日

ピットフォールその3:心筋梗塞


今回でピットフォールシリーズはいったん終了.

●心筋梗塞は,非典型なのが典型

心筋梗塞患者434877人を解析した研究では,33%が胸痛なし
高齢者,女性,糖尿病,心不全の既往で多い.
(JAMA 2000;283:3223-9)

急性冠症候群で入院した20881例を解析した研究では,
8.4%に胸痛がなく,23.8%は初期診断が違っていた. 
呼吸困難が約半数.次いで発汗 26.2%,悪心・嘔吐24.3%,(前)失神19.1%.
(Chest 2004;126:461-9)

非典型的な症状の方が死亡率が高い.HR 1.30-1.97(多因子調整済)
30日後の死亡率 典型例17.9% 非典型例49.2%
1年後の死亡率  典型例26.2% 非典型例61.0% 
(Heart 2001;86:494-8)


●心筋梗塞をいかに除外するか

症状と身体所見だけでは診断も除外もできない.
(Br J Gen Pract 2008;58(547):e1-e8)

血清マーカーの組み合わせ(CK, CK-MB, ミオグロビン,トロポニンI/T)はどうか.
初回測定だけでは感度37-49%, 特異度87-97%とイマイチ.
(Ann Emerg Med 2001;37:478-94)


●TIMI score 0点で感度97.9-99.8%(Lancet 2011;377:1077-84)

個人的には,このスコアは絶対に覚えられない自信があります.
TIMI scoreを眺めると,大事な点がいくつか見つかります.
こうまとめる方が実践的かも.

①心電図の「変化」をみること
②時間を空けて再度血液検査行うこと
③生活歴をしっかり聞くこと
④65歳以上の胸痛はそれだけでリスクが高いと認識すること


2017年11月16日木曜日

ピットフォールその2:くも膜下出血


ピットフォールシリーズ 第2弾はくも膜下出血

●どうして私たちはくも膜下出血を見逃すのか.
N Engl J Med 2000;342:29-36には以下の要因が挙げられている.

1.臨床像の幅広さを理解していない
〇警告出血の頭痛(急性,強い,いつもと違う)
〇頭痛が自然と治る,鎮痛薬でよくなる
〇ウイルス感染症,一次性頭痛,副鼻腔炎,頸部痛に似ている
〇頭部外傷に惑わされる(実際は失神による転倒)
〇ECG変化に惑わされる
〇高血圧に惑わされる 
〇未破裂動脈瘤の臨床像を知らない

2.CTの限界を理解していない
〇頭痛開始から時間がたつと感度が低下していく
〇小出血で偽陰性となる
〇読影の問題
〇技術面の問題(スライスの薄さや動きによるアーチファクト)
〇Hct 30%以下で偽陰性

3.腰椎穿刺施行しない+所見を正確に解釈できない
〇CTで判断がつかないときに腰椎穿刺を施行しない
〇出血12時間以内なら陰性になることがある
〇視認は分光計より感度が劣る

●よくある迷信・神話

くも膜下出血の頭痛で,突然発症は半数のみにみられる.
ただし,大半は5分以内にピークに達する.
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1998;65:791‐3)

Trauma Tapを見分ける方法はない.別の椎間で穿刺するか他の方法を.
(Am J Neuroradiol 2005;26:820-4)

頭蓋内出血による頭痛もNSAIDsに反応する
(Am J Emerg Med 1995;13:43-5)

●オタワ基準やエメラルド基準は,そりゃそうだよなという印象を個人的に受けます.
それぞれJAMA 2015;310:1248-55,BMJ Open 2016;6:e010999を参照

●第5世代CTならSAHの見逃しは殆どない.(J Emerg Med 2005;29:23-7)
ただし,非専門医がパッと見て判断しても間違えない,なんて誰も言っていない.
やはり,少しでも疑わしければ腰椎穿刺の閾値を下げるのがよいか.
時間を空けて再度CTでもいいかも(BMJ 2006;333:235-40).




2017年11月9日木曜日

ピットフォールその1:虫垂炎


軽症疾患と間違えてしまうピットフォールをいかに避けるか.

その1:虫垂炎

「ERでの非典型症状に騙されない 救急疾患の目利き術」によると…
①主訴が腹痛でない
②腹部所見がそれらしくない
③既存の疾患のために惑わされる
のときに,虫垂炎を見落としてしまいやすくなる.

たしかに,自験例でも腹部膨満や便秘,発熱のみを主訴に来院した虫垂炎は
診断がつくまで厄介だった記憶があります.

●高齢者は腹部所見がはっきりしないので要注意.

60歳以上の虫垂炎患者で
・古典的症状(右下腹部痛,嘔吐,発熱,白血球増加)は20%のみ
・⅓は入院が48時間以上遅れ,入院時点で虫垂炎の疑いがあったのは51%のみ
(以上,Am J Surg 1990;160:291-3)

・⅔以上が発熱なし
・30%が右下腹部痛なし
・¼が白血球正常
(以上,Am J Surg 2003;185:198-201)

●小児も注意

①半数以上が痛みの移動がない
②半数以上が嘔気がない
③半数以上が局所的な圧痛点がない
④半数以上が反跳痛がない
→胃腸炎,咽頭炎,中耳炎,敗血症,尿路感染,熱性けいれんなどと誤診される
(Emerg Med Clin N Am 2010;28:103-18)

↑の文献は必読です.



結局は,すべての腹痛患者で虫垂炎を念頭に置き,
医療面接と適切な誘発試験を行ったうえで,
迷ったら,子どもならエコー,高齢者ならCTかエコーをするしかないかと.

65歳以上の腹痛患者で
CT撮影で方針が変化した割合が,入院:26%,手術:12%,抗菌薬:21%
診断が変化した割合が45%
という報告もあります(Am J Emerg Med 2004; 44:270-2)

虫垂炎のCTは, 感度90-100%,特異度91-99%と診断能が良い(N Engl J Med 2003; 348:236-42)ですが,
非専門医が見落としなく読めるかというのは別問題だと理解しています.


2017年10月29日日曜日

ジェネラリストアプローチ( part 2: last)


統合されたケアについて勉強する中で出会ったEditorialです.
院内で共有するため全訳しましたので,掲載します.
part 2です.症例の解説です,


The Generalist Approach




ジェネラリストアプローチ
JimDorisにはジェネラリストが必要だった.自分たちのことをよく知っていて,医学的にも感情の面でも必要なものをそろえる手助けができるジェネラリストである.健康と病気の境界面を解釈して見届け,必要に応じて焦点を絞った治療に結び付けるジェネラリストである.必要とされたのは,プライマリケアの鍵となる各側面,つまり初診のアクセス,包括的アプローチ,協働,そしてケアの個別化であった.ジェネラリストのしくみの中で専門領域の知識技術を活用する専門家も必要であった.そして,このような原理に価値を認めて基づいているヘルスケアシステムが必要であった.
ジェネラリストアプローチには,存在と知のあり方として根本的に重要なものが含まれている.これは,私たちが複雑な状況における現在の見方,やり方では価値あるものとみなされないことが多いものである.そのような複雑な状況としては以下が挙げられる.
・過渡期と不安定な時期
・多義性と多様性がある環境
・関係性や個別化が重要になる状況
・相互関連性や複雑性が非常に高いシステム
・強固に関連する出来事と緩く関連する出来事の双方が時間とともに見えてくるような状況
・個々の集合では全体には及ばないような状況.
わかりやすい問題が明瞭な解決策で対応できるときは,焦点を狭く絞ったアプローチが望ましい.しかし,数多くの問題が人生の中に織り込まれているようなときは,ジェネラリストアプローチが不可欠となる.
ジェネラリストアプローチには以下の事柄が含まれる:全体に注意を払いながら個別の問題に取り組む.関係性を維持することでつながり続ける.その時々の情報に立脚しながら幅広い知識の基盤を持つ.全体を一通り評価し優先順位を付けた後に,最も意義のある点に焦点を絞る.普遍性と個別性の間を行き来する.
 ジェネラリストアプローチは個人,地域,そして総体の秩序とつながっているという認識に根差している.単に分野や専攻の1つなどではない.存在,知,認識,思考,行動それぞれのあり方がしっかり定まっており広く応用できるものでなくては実践できないものである.このようなあり方は表1のとおり要約される.以下で解説する.

存在のあり方
ジェネラリストの存在のあり方には,開かれた姿勢,謙虚さ,鍵となる関係性を介してのつながりが挙げられる.個人及び集団がジェネラリストの英知を知り,認識し,それに従って行動し始める準備ができる前に,このような特性がすでに発達していなければいけない.またこの特性は,個人を結合しコミュニケーションを涵養するシステムが下支えしていなくてはいけない.
診察室にパッと入りJimの筋ひきつれを診察したときに,私は開かれた姿勢を持とうと強く意識していた.多少不可解な点が残っているのに簡単な説明に逃げてしまったときのことを思い出すことで,常に謙虚な気持ちでいることができる.謙虚さにより常に開かれたままでいられる.自分は各個人がつながりあって作られた全体の一要素でしかないと認識することも開かれたままでいるためには重要だ.ジェネラリストの方法を実践するためには,つながっているということが不可欠である.他者とこのようにつながることにより,全体を視野に入れて,自分は全てを知っているわけではないと認識するという不確実性に立ち向かうことができるようになる.

知のあり方
ジェネラリストの知のあり方とは,ジェネラリストの役割をより高い水準で達成するために社会や個人がどのような準備をすればよいのか,ということである.この訓練には,幅広い知識だけではなく特定の能力も持ち合わせるようにすることが含まれるし,自分自身や他者,自分たちが動く場のシステム,自然世界,そして相互関係のあり方について知ることも含まれる.
大学生は,専攻したトピックについて狭く深い知識を得て,アート,サイエンス,人間性について学ぶ際に,ジェネラリストの訓練を受ける.一方,小学校が児童それぞれの発達と能力獲得を涵養することより均一な試験を作成することを重要視してしまったら,いままさにジェネラリストの知のあり方が花開くのを邪魔してしまうことになる.学習者と実践家は,意味のある状態を作り出すために,各自の分野の基本的な情報に加え,幅広い知識が必要である.つながりを探すことで知識は英知になる.
 Jimの診療を行うためには,スペシャリストも私もある特定の医学的知識を要した.外科医には2つの胸部疾患の危険性を重みづけすることと,食道がんを安全に除去する専門技術が必要であった.手術を追加するより化学療法を先に行う方が良い結果が得られることを示すデータは,早い段階でがん専門医に関わってもらうために必要であった.私はジェネラリストとしてJimをまわりの家族や地域社会で暮らす個人として知る必要があった.自分自身を知り,予定通りことが進まないと深い仕事ができなくなってしまいがちであることを知る必要があった.ヘルスケアシステムの知識と省察された生の経験が,このような分野が互いにどのように関連しているのかについての先行研究とあわせて,私には必要であった.

認識のあり方
ジェネラリストの認識のあり方の中には,ジェネラリストアプローチのコアである,統合された観点がある.加えて,その場全体を見て取るために網羅的な確認をする,最も重要なものを優先する,そして最も優先順位が高いものに注力することも含まれる.
ジェネラリストの認識には,全体を眺めながらも重要な要素に集中するために五感全てを活用することが挙げられる.情報システムはこのような認識を下支えすることができるのかもしれないが,現時点ではほとんどの場合,優先度を無視した入力指示とノイズという不協和音を付け足すのみである.
Jimの場合,痛みの原因として最も可能性の高いものに焦点を絞った.活動的な退職者が背中の痛みを訴え,筋の引きつれが診察でわかるなら,それは大抵の場合,筋の損傷である.ただし,良くならない場合,増悪緩解を繰り返す場合,なんか変だと思う場合は,できるだけ幅広いレンズを持つことが重要である.Jimにかかわるスペシャリストは,専門分野の知識や技術が問題と密接に関連しているほど,より力を発揮できる.スペシャリストが専門を駆使すれば,私もジェネラリストとして存分に振舞える.単一の特定分野を極めている専門家は,ジェネラリストの役割を補完するが,より効果的な診療を行うには,双方とも網羅的な確認と優先順位の設定が必要である.両者の差異は,関係の深さ,知識の基盤,視野の広さである.

思考と行動のあり方
ジェネラリストの思考と行動のあり方は,優先順位がついて統合された行動につながる.このような行動は,その時の状況において最も重要な箇所に関与することから起こる.幅広さと深さ,主観と客観,行動と省察を反復する(行ったり来たりする)ことが肝である.反復はジェネラリストの方法の鍵となる機能である.
ジェネラリストのやり方として,低水準の業務を多く行うことで高度に統合された行動がのちのち可能となるということが時にある.Jimの背中の痛みが始まる何年も前から,血圧を測定し,良好な血圧の維持と毎日薬剤を飲むことのわずらわしさの間を取りながら薬剤を調整し,もっと運動をしたほうが良いと勧めてきたが,これらは全て,疾患を超えた人としてのかかわりが教えてくれる人生の物語を少しずつ拾い集めることになっていた,関節炎の治療と一口に言っても,運動をDorisと共に行う毎日のルーチンの1つにすること,薬剤を調整すること,関節置換術をいつ考慮するか決める手助けをすることが含まれている.このような小さな取り組みが時間を経て相互の知識と信頼を構築していたからこそ,CT検査をして正解だったという時に,事態に対処するだけの豊かな関係性がすでに存在していたのである.このような付加価値は,ヘルスケアシステムではたいてい可視化されないが,ヘルスケアシステムがジェネラリストの原理に立脚している社会が費用をかけずに公平な社会と良好な公衆衛生を達成できる理由の多くはこの付加価値にある,
 ジェネラリストの思考と行動のあり方は,常につながりを探求する.このあり方はチームを対象とすることが多くなってきたが,効果的にするには,関係性の分散ではなく個人間のつながりを涵養するチームを対象としなくてはいけない.部分(情報の切れ端やチーム)を意味のある全体に統合することが対象になる. It is about putting a larger good and the other person before the wants of the self. 個人と家族,そして地域社会に足をつけ,世界を統合された全体として認識することで,つながりを作ることが可能となる.ジェネラリストアプローチは愛を可能にする.

もうちっとだけ続くんじゃ
 ある日の朝早く,Dorisが起きたらJimがとなりのベッドで身震いしており,それから動かなくなり意識がなくなった.私の家に電話がかかってきたが,あいにくロンドンに学会に行っており留守だった.
私の妻がDorisに救急車を呼ぶよう伝えた.もし自分があの時その場にいたら,もう臨終だと伝え,この後待ち構えていることを避けられたのかもしれないと今でも思ってしまう.私がいない間に,Jimは胸骨圧迫を受け,人工呼吸器につながれていた.急を要する状態だったので,救急隊員は最寄りの病院に搬送したが,そこで私の代わりとなった医師は今までかかわったことがない者であり,Jimのことを知るものはいなかった.
 動脈瘤破裂でこのようなことがいつか起こるだろうと何年も思われていたが,CT検査では血管外リークはなかった.動脈瘤は無事だった.ただしJimは無地じゃなかった.集中治療専門医は神経専門医にコンサルトし,Jimは脳死状態であると宣告された.知っている人が一人もいない状況で,Dorisと子どもたちはJimの生命維持装置を外す決断をし,Jimは亡くなった.

私たちができること
昔から知られてきたが忘れられがちなジェネラリストの英知の真実を真剣に検討したらどうなるのであろうか.どのようにシステムを再設計するだろう.どのように報酬体系を変革するだろう.どのように関係性,チーム,トレーニングを再検討するだろう.どんな支援テクノロジーを構築するだろう.どんな種類の取り組みを自分の内面で起こすだろう.今できることは何か.
 私たちは,すべての人の健康を向上させることをヘルスケアシステムの目指すところに再び設定することができる.健康を向上させる方法はプライマリケアシステムを基盤にすることであることを示す確固たるエビデンスがある.つまり初診のアクセス,包括的アプローチ,ケアの個別化と協働が確立して,ジェネラリストとの継続的な関係をもとにして,必要に応じて特定の領域に絞った治療を受けられるようにすることが大事である.米国では,上記の方法をとるためには,プライマリケアチームの役割拡大に対して労働力,償還制度,支援システムを再構築する必要がある.ジェネラリストとプライマリケア施設がもう一度,情報社会においてジェネラリストの根本の再定義に取り組む必要がある.お題目ではなく個人と社会に対するより大きな責任として,プロフェッショナリズムを再度生み出す必要がある.公衆衛生を再構築し,プライマリケアの強固なインフラとの新しいつながりを作り出す必要がある.そして,スペシャリスト,ジェネラリスト,公衆衛生従事者,そして国民が,健康を促進するために各々ができる最善のことを成し遂げるように全体の指揮を執る必要がある.
 私たちは,医療産業を勢いづかせるのではなく健康を増進する方向に力を合わせることができる.教育,環境,維持可能な経済発展,プライマリケア,公衆衛生にもっと資源と投入することができる.社会にとって良いことは逆説的に個々人を利することにもなるが,そのような事柄に焦点を当て続けることで勝ち組と負け組の対立に介入することができる.継続的な関係においてケアの統合を支援する人間のシステムと技術のシステムを発展させることができる.
 私たちは,疾患管理を細分化するのではなくケアの統合と優先順位付けを涵養する情報システムを発展させることができる.個別化された医療は,その人の遺伝子を知るだけでは不可能であり,関係性を構築することが必要である.
私たちは,共通性を認識することができる.一部の患者にはあまりにも高額で細分化された産業的医療を提供し,他の患者には基本的なケアをほとんど行わないようなことをすれば,私たち全員が滅びることを,深く心にとめることができる.複雑な問題に対し,即効性があり痛みを伴うこともない解決策が存在すると簡単に信じてしまわないようにすることができる.初期条件がそれぞれ違うのだから,実行可能なシステムは状況により様々なのだと知ることで,自分たちが今いるところから希望を持って出発することができる.リーダーの中から誠実で率直な語りと行動をとるものを称えることができる.システムの機能不全を助長する了見の狭い私利私欲に立ち向かう勇気を養うことができる.すぐには表れないが長い目で見ればこちらのほうが良いということを進んで行うことができる.自分とは違う個人や集団,そして社会との関係性を形作っていき,地域社会の意味を広げていくことができる,
個人として,集団として,システムとして,社会として,謙虚に,つながりをもって,開いている存在でいようとすることができる.その時々の経験に立脚しながら幅広い知識の基盤を探索するようにしなさい.全体を一通り評価し,優先順位を付け,全体を視野におさめながらも最も重要な点に焦点を絞ることで,統合を涵養するようなやり方で認識するようにしなさい.一見低水準だが関係性をはぐくむやり取りに意味づけを行うような,そしてより良いものを促進するために部分と全体を反復するようなやり方で思考し行動するようにしなさい.
 このようなジェネラリストアプローチは,手ごわいが達成可能なものである.私たち全員にこの道は開かれている.


2017年10月26日木曜日

ジェネラリストアプローチ(part 1)


統合されたケアについて勉強する中で出会ったEditorialです.
院内で共有するため全訳しましたので,掲載します.
まずはpart 1.症例の提示です,


The Generalist Approach
Kurt C. Stange, MD, PhD


この記事は,統合され,個別化された,価値の高いヘルスケアを実行する方法を述べたシリーズの第2部である.第一部では断片化fragmentationについて概説した.次回はプライマリケアのパラドックスについて明らかにする.この記事では,ジェネラリストアプローチgeneralist approachという英知について具体例に基づいて説明する.この英知は,深い洞察が得られているのに,断片化された現在の産業的医療ではよく見逃されてしまうものである.

真実の物語
ドア越しに聞こえてくる叫び声に招かれて,私は次の患者が待つ診察室に入った.
「いたい!そこだ!この痛みがずっと続いているんだ.」
Jim Bauerは背中の上の方を指さしており,傍らには妻のDorisがいた.2週間前,筋のひきつれだと診断し,イブプロフェン定期服用の処方と理学療法の予約を3枠取ったのだが,まったく良くなっていない.
「そこだ,ちょうどそこが痛いんだ」
指先に硬い隆起が触れる.筋は本来もっと柔らかいはずだが,これは骨みたいに硬い.以前受傷して硬くなったところがひきつれているようだ.Jimは数週間前から庭いじりをしており,それで菱形筋を痛めた可能性が最も高い.
 自然と手つきが診断から治療へと瞬時に切り替わり,手のひらや掌底をつかって筋をほぐしていく.最初は優しく,次第に強く,筋全体に力が分散するように.音楽のクレッシェンドのイメージだ.
 「ああ,痛い痛い!」
どうやら全く効いていないようだ.イメージは完璧なのに.
「ホットパックやイブプロフェン,ストレッチをして少しは効きましたか.」
「いいや,全く.壁にもたれかかると時々痛みが消えるけど,それ以外は効果なしだよ.」
 庭いじりをいったんお休みし,お気に入りのボートで遊覧することも止めてしまったのだからに,本当に痛みがつらいのだろう.
「もしよければ,起きて壁にもたれてみましょう.」
ようやく痛みが治まり,和やかな顔になった.
視点を変え,解剖学的に考えてみる.この部位にはなにがあるのか?答えはたくさんある.筋,骨,脊椎,神経,心臓,肺,食道.症状をすばやく確認し,これらの臓器についてさらに診察を行ったが,なにも見つからなかった.
幸運にも,容疑のかかっている臓器すべてに専門家がいる.理学療法士はすでに筋の治療を行っている.整形外科医は脊椎または肩甲帯の問題を調べてくれるだろう(クリーブランドでは,脊椎専門の整形外科医と肩専門の整形外科医がそれぞれいる).循環器科医は心臓と心膜を診察するし,呼吸器科医は肺の問題があるかを診て,問題がなければまた私のところに戻してくれるだろう.消化器科医は喜んで内視鏡で食道と胃を見てくれるに違いない.
私は困っており,誰かにすがりたい気持ちだ.しかし,上述した専門医のだれかに専門領域の問題がないか診てもらい,私が見当外れなら「うちの科じゃない」と返事が返ってくるというのは,あまり良い選択肢とは思えない.
 「うーん,Jim,やっぱり私には筋のひきつれのように思えます」
「僕もそう思うよ.」不機嫌そうに答え,しかめ笑いを浮かべたJimをみて,私はとりあえず満足し,Dorisも胸をなでおろした.
「そうですね.でも今よりかは良くなってくると思います.もう少し詳しく調べるので,それまでは今の治療を続けましょう.」
私は胸部CT検査を受ける手続きをDorisに伝えた.背部痛と筋のひきつれは家庭医診療ではよくあることだ.しかし,Jimを長年知っている身としては,なにか変だと感じていた.
 一週間後,放射線科医がわざわざやって来て,CT検査をして正解だったなと伝えた.私はJimに電話をして,夕食後にCTの画像を持っていてもいいか聞いた.玄関までの足取りは重かった.JimDorisは網戸越しに私を眺め,CTの画像が入った大きなフォルダーに目をやっていた.おでましのあいさつは必要なかった.
私はX線の画像を光にかざして,丸く白いかたまりを指し示した.大動脈が心臓から頭に向かった後に方向を変え少し下行したところで拡大していた.直径は7cmあり,破裂予防の手術をする基準として通常用いられる6cmをすでに超えていた.
Jim
は,Dorisの肩に手を置いて結果を聞いていた.他にも何か問題があるのか尋ねるべきだと直感が告げていた.
 「実は,左の腎臓に3cmくらいのこぶがあります.偶然見つかったものです.肺の一番下を撮るときに腎臓の先が写りこむことがあって,放射線科医が気づいたのです.」
「それは何だい?」
「このようなこぶは腎癌だと判明することがほとんどです.痛みとは関係がないと思いますが,いずれにせよこの腎臓は摘出することになるでしょう.腎臓は1つだけでも体に問題はありません.」
Doris
は震えながらたずねた「何をすればよいのでしょうか?」
覚悟をきめて告げた「まだあるのです.食道の壁が厚くなっています.中を覗いてみる必要があると考えます.背中の痛みを起こしてもおかしくない場所にあります.」
「こっちはいったい何なんだ?」Jimは境界の不明瞭な灰色の領域を見つめていた.
「おそらくここにも癌があります.」
Jimは座り込んだ.Dorisは椅子をJimに近づけ,ごつごつした手を自分の両手で包み込んだ.「何をすればよいのでしょうか?」Dorisが再度たずねたときは,声の震えも手の震えも,もう止まっていた.
 私は状況を整理した.「まず,もっと情報が必要です.背中の痛みの原因になりそうなものが2つ見つかりました.痛みは筋のひきつれによるものだという考えに変わりはありません.しかし,ひきつれの原因は庭いじりを頑張りすぎたからではなくて,大動脈瘤または食道の肥厚によるものなのかもしれません.この肥厚が何なのか明らかにする必要があります.」
 「わかりました」JimDorisは同時に答えた.
「消化器内科医に食道を調べてもらえるようにします.動脈瘤についてアドバイスをもらえるように胸部外科医の診察も受けてもらいたいです.検査結果と治療推奨を私たち全員が知ることができるように話をつけておきます.理学療法士にも連絡をしておきます.トレーニングはつづけたほうが良いでしょうし,筋のひきつれの原因となりそうなものが2つあると解れば,別の治療があるかもしれません.」
「腎臓のこぶはどうしたら?」とDorisが尋ねた.
「しばらくはそのままでもよいでしょうが,いずれ泌尿器科医に紹介することになります.腎臓以外のことで手術を受ける必要があれば,泌尿器科医も同時に腎臓のことで力になってくれるでしょう.」
 「それともう一つ.動脈瘤があるため,血圧をもっと低くする必要があります.それに,血圧を低くすれば背中の痛みも良くなるかもしれません.もしそれで改善すれば,動脈瘤が痛みを引き起こしていたということになります.」
それから3年にわたり,消化管専門医による食道がんの診断,腫瘍科医による化学療法,胸部外科医による食道切除術をJimが適切に受ける手助けをした.同時に,JimDoris,胸部外科医と,動脈瘤の手術を受ける利点と欠点を比較検討した.その結果,手術による死亡リスクと,動脈瘤から脊髄に向かう血管の破綻により麻痺が残るリスクを考慮して,すぐには手術を行わないことにした.化学療法と胸部手術から回復してから,泌尿器科医の診療を段取りし,癌のある腎臓は摘出された.食道切除後に胃を吊り上げてのどの後方に縫合した痕が肥厚するために飲み込みにくさを訴えることもしばしばあった.そのたびにJimに消化管専門医のところに行き拡張術をうけてもらった.ひどい胃酸逆流があるのも驚くことではなかった.万策手が尽き,カナダに住むJimの息子に,アメリカではまだ手に入らない消化管専門医お勧めの新薬を調達してもらった.効果は上々であった.動脈瘤破裂の危険を最小限にするために,薬剤を複数用いて血圧を下げ,ふらつきがでたら薬を減らし,可能な限り血圧を低く保つようにした.高血圧切迫症に陥り背中が不気味なほど痛くなったために入院させたことも2回あった.その際には外科医に相談し,手術は必要ないことを確認した.

私はJimが自分の希望を生前意思にまとめる手助けをした.そして,Dorisが夫の病気から受けている影響を考慮し,糖尿病,高血圧,甲状腺機能低下症,関節炎の管理に合わせて,不安症と不眠の治療も統合して行った.不安症,不眠,関節炎の痛みに対しては,それぞれ別々の薬を使うのではなく一つの薬剤にまとめて,できる限りで薬を飲むのではなく生活習慣を改善してもらうようにした.Jimの血圧が徐々に上昇したときは,Dorisが良い方向に変わる良い機会になった.一緒に毎日歩くようになったことで二人とも血圧と関節痛がよくなり,Dorisは以前ほど薬を必要としなくなった.二人で歩く時間は,Jimの病気から,そして今や終わりがみえてきた二人一緒に歩んだ長い人生から,何らかの意味を見つけ出すための静かな時間にもなった.

2017年10月11日水曜日

胸膜痛について


胸膜痛ではまず肺塞栓を除外せよという強いメッセージを感じます.

Pleuritic Chest Pain: Sorting Through the Differential Diagnosis
Am Fam Physician. 2017 Sep 1;96(5):306-312.

胸膜性胸痛の特徴は,呼吸時に生じる突然かつ強い胸痛で,鋭い,または刺すような,または焼けるような痛みと表現される.最も高頻度かつ重篤な原因は肺塞栓であり.胸膜性胸痛で救急を受診する患者の5-21%を占める.肺塞栓に関し妥当性が確認された臨床決断ルールを適応することで,Dダイマー測定,肺換気血流スキャン,CTアンギオグラフィーといった追加の検査を行うかどうかの参考となる.他の重篤な疾患としては,心筋梗塞,心膜炎,大動脈解離,肺炎,気胸があり,上記疾患以外の診断を下す前に,病歴と身体診察,心エコー,トロポニン測定,胸部レントゲンを用いて除外すべきである.冠動脈疾患を除外するのに有用な,妥当性が確認された臨床決断ルールを用いることができる.胸膜性胸痛を引き起こす最多の要因はウイルスである.病原としてよくみられるものに,コクサッキーウイルス,RSウイルス,インフルエンザ,パラインフルエンザ,ムンプス,アデノウイルス,サイトメガロウイルス,EBウイルスがある.胸膜性胸痛の治療は原因疾患の治療に準じる.ウイルス性または非特異的な胸膜性胸痛の場合は,疼痛コントロールとしてNSAIDsが適している.症状が持続する患者,喫煙者,肺炎のある50歳以上の患者では,初期治療から6週後に再度胸部レントゲンを撮影し,画像上の改善を確かめることが重要である.


2017年9月30日土曜日

爪周囲炎の処置


ときどき出会うマイナートラブルですね.

Acute and Chronic Paronychia
Am Fam Physician. 2017 Jul 1;96(1):44-51.

爪周囲炎は,指趾の3つある爪縁のうち1つ以上に炎症が起きている状態である,急性爪周囲炎は爪の保護的なバリアが破られたことで複数の細菌感染が起きることによる.治療は温水浸漬であり,ブロー液や1%酢酸はあってもなくてもよい.浸漬だけで炎症が改善しないときは,局所の抗菌薬を使用する.局所ステロイドを併用することもある.膿瘍の有無を確認し,あればドレナージを行う.ドレナージには様々な選択肢があり,皮下注射針をつかうこともあれば,外科用メスで広く切開することもある.十分にドレナージできれば,免疫不全や重症感染がなければ経口抗菌薬はまず必要ない.治療は病原として可能性の高い菌と地域の感受性パターンに基づく.慢性爪周囲炎は症状が少なくとも6週間つづくもので,爪のバリアが破壊されたことで刺激物質による皮膚炎を呈する.刺激物質としては酸,アルカリなどの化学物質が多く,主婦,皿洗い,バーテンダー,花屋,パン屋,水泳選手がなることが多い.局所ステロイドやカルシニューリン阻害薬で炎症を抑えながら,刺激源を避けることが大事である.爪の保護的バリアを復元するにはより積極的な手技が必要なこともある.治療は数週から長くて数か月かかる.急性爪周囲炎,慢性爪周囲炎の再発を予防するには患者教育が最重要である.

2017年9月25日月曜日

Choosing Wisely優秀賞

AFP 8/15号に,2016年に掲載したPOEMSの優秀pearlsがまとまっています.
内科系分野のChoosing wiselyを訳出しました.

Top POEMs of 2016 Consistent with the Principles of the Choosing Wisely Campaign
Am Fam Physician. 2017 Aug 15;96(4):234-239.


心血管系
慢性の安定型狭心症があり,冠動脈の1つに70%以上の狭窄が見られる患者に,最適な薬剤治療単独に加えて,PCIの施行をあわせて推奨してはいけない.

冠動脈疾患に罹患しているかそのリスクが高い患者に,アスピリンに加えてクロピドグレル(プラビックス)も併用しても,死亡率が下がることはないため,併用してはいけない.

活動能力を下げ,副作用が増えるため,HFpEF患者に硝酸イソソルビドを処方してはいけない.

呼吸器系
市中肺炎では,最短5日間の抗菌薬投与後に臨床状態が安定していれば抗菌薬を中止するのが良い.

全身ステロイド投与が必要な喘息の急性増悪に対し,標準治療に加えてアジスロマイシン(ジスロマック)を処方してもアウトカムの改善は得られないため,処方してはいけない.

吸入ステロイド,長期間作動型β2刺激薬,ロイコトリエン受容体刺激薬を用いてもなお中等度の発作が持続する,10代で非喫煙の喘息患者に,チオトロピウム(スピリーバ)を追加してはいけない.

予防
平均的なリスクを有する女性に卵巣がんのスクリーニングを行うことは,死亡率の改善に資することはないと考えられるため,推奨されない.

低線量CTによる肺がんスクリーニングを受けようと考えているすべての患者に以下のことを伝え話し合いなさい.肺がんによる死亡を1つ防ぐために必要なスクリーニング数は非常に多く(308; 95%信頼区間は201-787),それに比べスクリーニングによる害の危険性は無視できない(スクリーニング後の侵襲的手技による死亡率は3%).

大腸がんが一親等内に1名いるが,55歳までに大腸がんにならなかった場合,その患者の大腸がんのリスクは一般集団とほぼ同じであると伝えなさい.

典型的な多民族集団において,ACC/AHAのPooled cohort Equations calculatorで動脈硬化性の心血管疾患のイベント発生リスクを正確に推定できると考えてはいけない.

施設に入所している高齢女性に毎日のクランベリーカプセル内服を推奨してはいけない.

2017年9月11日月曜日

プロバイオティクスについて


プロバイオティクスについての総説がAFPに掲載されていました.
臨床にじかに結びつく,AFPらしい総説です.
アブストラクトと,本文中のキーポイントを訳出しました.


Probiotics for Gastrointestinal Conditions: A Summary of the Evidence
Am Fam Physician. 2017 Aug 1;96(3):170-178.

要約
プロバイオティクスは微生物で構成され,ヒトの腸に常在する善玉菌に似た細菌が大半を占める.様々な消化器疾患で幅広くプロバイオティクスの効果が研究されている.最も研究が進んでいる菌種はLactobacillus, Bifidobacterium, Saccharomycesなどである.しかし,種々の消化器症状に対し,プロバイオティクスをいつ投与すべきか,最も効果的なプロバイオティクスはなにかについて,明確なガイドラインがないために,家庭医と患者は困惑する羽目になっている.プロバイオティクスは消化管の免疫平衡の維持に対し重要な役割を果たすが,それは免疫細胞に直接作用してなされる.プロバイオティクスの効果はおそらく菌種,用量,疾患に応じて定まり,治療期間は臨床上の指標で決まる.プロバイオティクスが効果的だという質の高いエビデンスが存在するものとして,急性の感染性下痢,抗菌薬関連下痢,クロストリジウム関連下痢,肝性脳症,潰瘍性大腸炎,過敏性腸症候群,機能性胃腸障害,壊死性腸炎がある.反対に,急性膵炎とクローン病は,プロバイオティクスの効果がないというエビデンスがある.プロバイオティクスは幼児,小児,成人,高齢者と幅広い世代で安全に使用できるが,免疫不全患者には注意が必要である.


KEY RECOMMENDATIONS FOR PRACTICE
小児,成人ともに抗菌薬関連下痢のリスクを減らす.(A)
C. difficile関連下痢の発生を減らすかもしれない.(B)
肝性脳症のリスクを劇的に下げるかもしれない.しかし,NAFLDとNASHに関するエビデンスは不十分である.(B)
成人UCの寛解率を上げる.(A)
小児,成人ともにIBSの腹痛と全身症状スコアを改善させる.(B)
早期産児の壊死性腸炎の発生と死亡率を減らす.(A)
急性膵炎とクローン病に対する効果はない(B)

他に…
細菌性の急性腸炎には効果あり.ウイルス性に関してはどっちつかず.
H.pylori除菌に追加すると,NNT10で効果ありというメタアナリシスもあれば,OD=0.87-2.39というメタアナリシスもある.
慢性の特発性便秘に効果あり.


2017年9月8日金曜日

障害のある患者のケアの目標について



AFPのこの記事は,必読だと思います.
医療者が患者の意向を勝手に推測し,やさしさと見せかけて尊厳をうばうことになってはならないと思います.

Table 1の内容が非常に価値の高いものですので,以下に訳します.


Patients with Disabilities: Avoiding Unconscious Bias When Discussing Goals of Care
Am Fam Physician. 2017 Aug 1;96(3):192-195.


Table 1 障害のある患者の治療目標を議論する際によく陥りやすいコミュニケーションのピットフォール

【凡例】
〇無意識のバイアス→支持的コミュニケーション

「無意識のバイアスの例」
→支持的コミュニケーションの例


〇同情→尊敬

「このかわいそうで不運な患者はこんな病気になってしまって…」
→スミス氏は56歳の男性で,車いすに乗り,患者の声を届ける活動を行っています.

「家族のお荷物になって頼りっきりになるなんていやなんでしょ」
→機能制限が新しく起きた場合,それに慣れるには時間がかかります.障害がありながら生活している人の話を直接聞いてみるのはいかがでしょうか.

〇放棄→つながりを保ち,深めていく

「私たちにできることは何もありません」
→あなたの場合,この治療はリスクの方が高いです.しかし,私は定期的にあなたを診察し,ケアを提供していきたいと思っています.あなたの望みは何でしょうか.必要なことは?恐れていることは?

「痛みが我慢できなくなったら呼んでください」
→痛みをチェックするためにお呼びしますね.その前に,緩和ケアチームにあなたを紹介します.支援団体とマインドフルネスを基盤としたストレス軽減教室があり,あなたも興味を持つと思います.


〇予後の誤り→専門知識と不確実性を共有する

「あと6か月以内の命です」
→あとどれくらいかはっきり分かる人はいません.障害がある場合,予後を正確に予測することはとりわけ難しいのです.ただ,あなたの状態だと,おそらくあと数年ではなくてあと数か月でしょう.


〇制度にがんじがらめ→家や地域を基盤としたサービス

「状態が悪化すれば,施設入所が必要になるでしょう」
→ソーシャルワーカーに相談しますね.あなたの時間を友達や家族と楽しむために必要な援助や在宅サービスを使えるように手助けしてくれます.


〇文脈なき介入→その人ごとの目標,リスク,利点の情報を提供する

「人工呼吸がないと死んでしまうとなったら,つけることを望みますか.」
「経管栄養で生命を長らえたいと思いますか.」
→筋力が衰えており,飲み込んだり息をしたりすることが難しくなります.誤嚥性肺炎の危険性を下げ,栄養状態を改善し,より元気になるために,経管栄養や在宅人工呼吸器を使うことができます.神経筋障害があり,在宅人工呼吸器を使って生活している人の話を聞いてみるのはどうでしょうか.


〇脱人格化→包摂

「アルツハイマー病はあなたの母親の記憶と尊厳を徐々に奪っていくでしょう」
→アルツハイマー病があってもよい友人または家族の一員でいるためのヒントをお伝えしますね.


〇弱っている患者の生命を低く評価する→能力を最大化するよう支援する

「障害が治らなくてもこの手術,治療を受けたいのですか」
→体力や移動能力がこれ以上損なわれないよう手術を行い,その直後から,あなたの回復に合わせて理学療法のスタッフが関わるようにします.入院あるいは在宅での日常生活動作を上手に行うためにできることをしていきましょう.


〇希望を奪う→希望と現実的なプランを共有する

「それは非現実的だ」
→そうなればよいですね!なんて素敵でしょう!その目標を心にとめたうえで,なんとかなりそうなことから計画を立てていきましょう.


〇自律性を尊重しない→意思決定を支援する

「誰が医療上の決定を行うの?」
→医療上の決定を行うのを手助けしてくれる信頼のおける支援者を指名したいですか.

「痛みを感じているのだろうか?」
→どのようなコミュニケーションが最善ですか.あなたのためにどんなことが私にできますか.


2017年8月23日水曜日

小児の発達遅滞スクリーニング


遅れていますが,AFPのレビューまとめです.

Developmental Delay: When and How to Screen
Am Fam Physician. 2017 Jul 1;96(1):36-43.


米国では,小児の15%が発達の遅れを少なくとも1つ有していると指定される.しかし,このうち3歳未満の早期介入サービスを受けているのは1/5にも満たない.初期スクリーニングと紹介を実施するには多くの障壁があるが,準備さえすればプライマリケアの現場の流れのなかで簡単に使えるスクリーニングツールがある.妥当性のあるスクリーニングツールを,健常児の検診にとどまらず,定期的に繰り返し用いることで,早期に見つけ出しやすくなる.高リスクの子どもにとって早期介入は有効であり,認知面の向上にも勉強面の向上にもつながる.時間の節約になるので,直接評価を行うツールより親だけで施行できるツールのほうがプライマリケアの現場では望まれる.親だけで最もしっかり評価できるツールは, Ages and Stages Questionnaire と Parents' Evaluation of Developmental Statusである.家庭医は,現在利用可能なスクリーニングツールとその限界・強みを知っておくべきである.スクリーニングにより発達の遅れが疑われる場合は,追加の評価と紹介が推奨される.


Ages and Stages Questionnaireの日本語版はこちら
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-184/b-184_03.pdf


2017年8月11日金曜日

睡眠薬の使い方


American Family Physicianを購読し始めました.
早速,まとめてみます.


Insomnia: Pharmacologic Therapy
Am Fam Physician. 2017 Jul 1;96(1):29-35.

要約
家庭医を訪れる不眠患者は年間550万人を超える.行動への介入が治療の本幹であるが,薬物治療が必要な患者もいる.不眠に対する薬物治療の利害を理解しておくことが重要である.高齢者には徐放性メラトニンとdoxepinが第一選択薬であり,いわゆるz-drug(ゾルピデム:マイスリー,エスゾピクロン:ルネスタ,zaeplon: Sonata)は,第一選択薬が無効な時のために残しておくべきである.一般集団に対して,寝付けない場合には徐放性メラトニンとz-drugが考慮される.中途覚醒がある場合には,低用量doxepinとz-drugが考慮される.ベンゾジアゼピンは乱用になりやすく,他により良い選択肢があるので,使用は推奨されない. オレキシン受容体アンタゴニストであるスボレキサント(ベルソムラ)はそこそこ効果があるが,z-drugと同様の成績であり,薬価ははるかに高くかさむ.鎮静効果のある抗ヒスタミン薬,抗てんかん薬,非定型抗精神病薬は,不眠とは別の状態の治療を主として用いるのでなければ推奨されない.睡眠時無呼吸や夜間低酸素を伴う慢性肺疾患があるばあいは,睡眠薬を処方する前に睡眠の専門家の評価を受けるべきである.

SORT: KEY RECOMMENDATIONS FOR PRACTICE
ベンゾジアゼピンは短期間の睡眠のアウトカムを改善させるが,重大な副作用があり依存を形成する可能性がある.(evidence rating B)
z-drug(ゾルピデム:マイスリー,エスゾピクロン:ルネスタ,zaeplon: Sonata)は一般集団において睡眠のアウトカムを改善させる.(evidence level A)
ラメルテオン(ロゼレム)はプラセボに対してわずかに効果があるだけだが,副作用が少ない.(evidence level B)
低用量doxepin(Silenor)は睡眠のアウトカムを改善し,プラセボと比較して重大な副作用を招かない(evldence level A)

BEST PRACRICES IN SLEEP MEDICINE: RECOMMENDATIONS FROM THE CHOOSING WISELY CAMPAIGN
高齢者の不眠,興奮,譫妄の第一選択薬としてベンゾジアゼピンや他の鎮静薬・睡眠薬を用いない(American Geriatrivs Society)
成人の慢性的な不眠にたいし,まず睡眠薬を使うのは避ける.認知行動療法や必要に応じた補助的治療としての薬剤療法を施行する.(American Academy of Sleep Medicine)
成人の不眠に対する第一選択の介入としてルーチンで抗精神病薬を処方しない(American Psychiatric Association)

まずは非薬物的療法を
寝付けない不眠:徐放性メラトニン,z-drug
中途覚醒による不眠:エスゾピクロン,Doxepin,ゾルピデム
高齢者:Doxepin,徐放性メラトニン,ラメルテオン
抑うつにともなう不眠:Doxepin,ミルタザピン(レメロン,リフレックス)



2017年7月30日日曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 3)



施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


患者の治療目標対コスト


非経口ビスフォスフォネート(ゾレドロン酸)とデノスマブは,経口ビスフォスフォネートと比べて骨所掌症患者の骨折予防により効果的であるように思える.研究者はさらなる研究が必要だ,これらの薬剤の利益を比較しきちんと数字で示すためにガチンコ勝負が必要であると言うだろう.学術的臨床家は,患者が長期施設入所しており薬剤治療の益があるなら,患者の治療の目標,過去の治療の経験,併存疾患,機能の状態,費用により最適な治療が決まると結論するだろう(表1).結局のところ,多くが低収入であると考えられる施設長期入所者において,費用は実際になるほどと思う論点なのだろうか.


薬剤
年間の費用(概算)
コメント
ビタミンD3とカルシウム
> $30
1日にビタミンD3を600IU,またはカルシウムを最大999mgだとこの費用となる
経口ビスフォスフォネート(毎日)
> $92
カルシウムとともに毎日の経口摂取
経口ビスフォスフォネート(週1回)
> $229
ビタミンDとともに週1回の経口摂取
デノスマブ
> $660
6か月おきの注射
ゾレドロン酸
> $671
年1回の注射

結論 B氏にはどのようなアドバイスがなされるべきなのだろうか.QOLとケアの目標に焦点を当てた診療にエビデンスを落とし込むことは容易ならざることだとレジデントは結論するだろう.そしておそらく,研究者や学術医,そして"もっとも重要なことだが"レジデントの指導医もこの結論に同意するだろう.


2017年7月19日水曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 2)


施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


治療のエビデンス

ついこの前リウマチ科をローテートしていたとき,椎体骨折の既往がある地域に住む患者には経口ビスフォスフォネートよりゾレドロン酸やデノスマブがよいと指導医に勧められ,刺激的な議論を繰り広げた.ところで,長期施設入所者に対する骨粗鬆症の薬物的治療のエビデンスはどのようなものだろうか.

最近公表されたJournal of Internal Medicineのレビューには,カルシウムとビタミンDの補充は,地域に住む成人の股関節部の骨折を予防しないとある.しかし,カルシウムとビタミンDの組み合わせは,ビタミンDが欠乏している施設長期入所中の高齢女性の股関節部骨折の予防には有用であることが示されている.高齢者,特に高齢男性に対し,当然のようにビタミンDとカルシウムの補充を行ってよいのか疑問が出てくる.骨折を予防するというエビデンスが現状不十分にしかないからだ.しかし,施設入所者のビタミンD欠乏がおそらく非常に多いことを考えると,低用量のビタミンD補充(400-800IU/日)は,重大な副作用もなく,おそらく許容されるだろう.一方,過量のカルシウム摂取は,消化器の副作用,腎結石,心筋梗塞などの心血管イベントにつながる.実際に,ビタミンD欠乏のない患者で,カルシム摂取量が300mg/dayと少量であっても,臨床的に有意な骨量減少につながらないというエビデンスがある.このような理由により,カルシウム補充の敷居は高く,とくに他疾患が併存している長期施設入所高齢者ではとりわけ難しいと感じるだろう.

骨粗鬆症治療薬の一つである骨吸収抑制薬の選択については,Nature Reviewsの論文に,頻用される薬剤を比較した包括的な要約がある.経口または非経口のビスフォスフォネートならびにデノスマブは臨床で最もよく出会う薬剤である.第一に,これらの薬剤の効果とリスクを直接比較したガチンコ勝負は行われていない.デノスマブはRANKLを標的としたモノクローナル抗体であり,6か月おきに60mgを皮下注射することで椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ68%, 40%, 20%減らす.デノスマブに関連する重要な有害事象として,皮膚感染,尿路感染,皮膚炎や失神といった皮膚反応がある.36か月間のデノスマブ治療はプラセボと比較して,有害事象全体の発生率に有意な差はなかった.

以上のデータはFREEDOM (Fracture Reduction Evaluation of Denosumab in Osteoporosis Every 6 Months)試験で得られたものである.ゾレドロン酸(年1回5mg投与)の有効性も同様であり,椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ70%, 41%, 25%減らす.7つのRCTをまとめたシステマティックレビューによると,経口リセドロネートは椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ39%, 26%, 20%減らす.ビスフォスフォネートの有害事象はよくわかっており,顎骨壊死,非定型大腿骨骨折,消化管障害などがある.これらの有害事象のリスクは低く(治療10,000-1,000,000人年に1例),経口でも非経口でもおおよそ同じである.注意すべきこととして,非経口ビスフォスフォネートでは注射後に頭痛,発熱,筋痛といったインフルエンザ様症状が出現することがある.初回で最も可能性が高く(31.6%),回数を経るにつれリスクは大きく減少していく.


2017年7月4日火曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 1)



施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.
まずは導入部,part1です.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


85歳の施設長期入所者であるB氏は,転倒により脊椎骨折を受傷した.B氏と出会ったのは最近のことだが,施設ケアにおける骨粗鬆症の治療について,刺激的な会話を指導医とするきっかけになった.これは,多くの医師がよく直面するジレンマを浮かび上がらせるものである.QOLや治療目標に焦点を当てながら,現在のエビデンスを臨床に組み入れることについて考えよう.

過少治療と変動


Osteoporosis Canadaによれば,B氏が1年以内に次の椎体骨折を受傷する危険性は20%である.たしかに,女性の3人に1人は生涯で1回は骨粗鬆症による骨折を経験するし,カナダでの50歳以上の骨折の80%以上が骨粗鬆症,つまり「静かな盗賊(注:無症状のまま骨量が減少していくことをこのように表現している)」によるものである.長期施設入所者には骨粗鬆症が多いという認識は広く共有されているものの,現時点ではあまり治療されていないことが多いようである.骨粗鬆症のマネジメントは施設によってかなりさまざまである.骨粗鬆症患者の治療の質を改善するには,目標志向型の介入が必要である.骨粗鬆症のマネジメントに関する研究はこれまで主に,地域社会に住む成人を対象に行われてきた.しかし,長期施設入所者はこのような研究から除外されることが多く、施設入所者の骨粗鬆症治療の決定を困難にしている。

最近公表されたOsteoporosis Canadaは、長期施設入所者を対象とした骨粗鬆症マネジメントのガイドラインである。ガイドラインによると、食事による1日1200mgのカルシウム摂取が望ましく、食事によるカルシウム摂取が1日500mg未満であればカルシウム補充が推奨される。骨折のリスクが高い場合(股関節や椎体骨折の既往、複数回の骨折の既往、骨折既往があり最近グルココルチコイドを投与されている、レントゲンで診断された椎体骨折、高リスクだと以前判断された)や余命が1年以上と期待できる場合は、少数の例外を除き、第一治療として経口ビスフォスフォネート、ついでデノスマブやゾレドロン酸が推奨される。


2017年6月24日土曜日

自由,になること



学生の時に読んで,いまだに何回も読み返すエッセイ.
これまでの活字経験の中で,これを超えるエッセイはまだないです.
今の臨床にも大いに影響しているし,ものの見方,捉え方の基盤となっている文章です.

よかったら,どうぞ.

「まだの性」
~あるトランスジェンダーが見てきたこと~


ちなみに,無粋ながら試験問題風にしてみました.

問1.「トランスジェンダーは、『何かになりたがっている』と思われるらしい。」とあるが,その理由を60字程度で説明せよ.

問2.「全身で抵抗していた」とあるが,その理由を60字程度で説明せよ.

問3.「私はFTMという言葉を手に入れたことにより、『FTMになった』」とあるが,どういうことか60字程度で説明せよ.

問4.「相変わらず『男女ゲーム」』の盤上にしか私はいなかった」とあるが,どういうことか60字程度で説明せよ.

問5.「自分を自由にすること。周りの誰かが自由になれること」とあるが,ここでの「自由」とは具体的にどのようなことか,120字程度で説明せよ.


さらに無粋ながら,解答例はこちら.

解答例1 
男・女らしさが強制される社会では,自分が通暁し理解できる範疇に分類できない存在は不完全だとみなされてしまうから.

解答例2
社会に既にある枠組みに入ることを自分に強いる以外に自己の存在を安全に確立する方法がないと無自覚のうちに感じていたから.

解答例3
自分に親和性が高いと思われる概念を発見し,どうにかその範疇に収まることによって,自我を守ろうとした,ということ.

解答例4
既成概念の枠に自分をはみ出さずに当て込むという無理を自らに課し苦しむという状態に変わりはなかった,ということ.

解答例5
限られた特性集団のどれかに属さなければいけないという圧力が強い社会であっても.むりやりに何かに所属したり分類されたりする必要はない.自分の存在を既存の枠に押し込まなくてはいけないという狭い了見から自分も他人も開放していくこと.


2017年6月18日日曜日

家庭医療専門医 なんちゃって模擬試験


とある機会があり,作成してみました.
本当の試験がどのような形式か知らないので,あくまでお遊びです.
また,症例は架空のケースです.

症例:39歳男性.自営業.5年前,感冒症状で当院を受診し,血液検査で偶発的に2型糖尿病(HbA1c 12%, 随時血糖300)が発覚し,治療をすすめられるも継続受診に至らなかった.2年前に小外傷の治療目的に当院を受診したことを契機に,糖尿病の継続治療に同意し,糖尿病専門医のもとで経口血糖降下薬の処方を受けていたが,1か月で治療中断となった.本日,「そろそろまずいかな」と思い,家庭医療科外来を初回受診した.口渇,多尿,浮腫,体重変化はないが,足趾のしびれを自覚している.また,半年前から左目の視野のかすみを感じている.未婚独居.飲酒なし.タバコは1日1箱.

身体所見 身長170cm 体重80kg
血圧144/100mmHg 脈拍80bpm整 発熱なし 呼吸回数12/min
心雑音なし 呼吸雑音なし 腹部は平坦・軟で腸蠕動音正常
下腿浮腫なし 左視力:手指弁レベル

検査値 (括弧内は中断前のデータ)
随時血糖  450 (200)
HbA1c   13.0(11.0)
LDL-C   150 (115)
尿蛋白   2+  (1+)
尿ケトン  陰性
血算,肝機能,腎機能に異常はない

設問1:追加で行いたい身体診察ならびに臨床検査があれば,記載してください.

設問2:糖尿病性網膜症について,この患者の治療や今後のマネジメントに関連して重要だと考える事項を記載してください.

設問3:外来でインスリンを導入することに患者は同意した.①外来でのインスリン導入の具体的な処方と,外来管理を行う上での留意点について述べてください.②インスリン自己注射の具体的な方法と,この患者に自己注射を指導する際に強調すべき点について述べてください.③インスリン導入に対する一般的なハードルについて,医療側,患者側それぞれの側面で述べたうえで,対応策を考えてください.

設問4:家庭医療の原理であるACCCC(A)の5項目について,各項目を日本語または英語で答えてください.また,5項目のうちから1つ選び,家庭医療の原理に基づきながらこの患者に対応するなら,あなたならどのような点に留意するか,思うところを述べてください.


2017年6月11日日曜日

外来診療小ネタ集 便秘の評価/リンパ節腫大のエコー所見


家庭医の外来診療で出会ったプチ疑問をまとめます.

①新規亜急性発症の便秘の評価

消化管全体の詳細な問診,そして直腸診.
非薬物治療は以下の通り
①bowel training(決まった時間に排便を試みる)
②運動
③食物繊維20-25g/d
④水分1500ml/d

常に原因検索の姿勢を.
癌はどうか?薬剤はどうか?
CCB,鉄剤,抗コリン,カルシウムに要注意.

参照:Swanson's family medicine


②リンパ節腫大のエコー所見

短径>8mmまたは長径/短径<2で悪性疑い
微小石灰化・PDで周辺血流あればほぼ悪性
(Radiology 243:258-67)

放射状中心血流あればほぼ良性
血流半放射状,多発性中心血流,中心血流消失あればほぼ悪性
(AJR Am J Roentgenol 168:1311-6)

参照:内科診断リファレンス pp.8-9


2017年6月5日月曜日

ミニレクチャー ラクナ梗塞


10分で調べ5分で発表するミニレクチャー
ラクナ梗塞について

5つの古典的サブタイプ
これらの症状がある患者では,まず間違いなくラクナ梗塞があると言える.

症候群名
部位
症状
純運動片麻痺(最多)
内包,放線冠,橋底部,内側延髄
顔面・上下肢の片麻痺
感覚障害は呈さない
純感覚症候群
視床,橋被蓋,放線冠
顔面・上下肢片側感覚障害
運動障害は呈さない
失行性片麻痺
内包~放線冠,橋底部,視床
片麻痺と四肢失行
感覚運動症候群
視床内包
時に橋底部,外側延髄
顔面・上下肢の片(不全)麻痺+同側の感覚障害
構音障害-手巧緻性低下症候群
橋底部,内包,放線冠
顔面片麻痺,構音障害,嚥下障害,軽度の手巧緻性低下













参照:UpToDate

ラクナ梗塞は,発症後に数日の単位で症状が変動する.

Branch atheromatous disease(BAD):1989年にCaplanが提唱(未確立の概念)
脳血管穿通枝入口部の微小アテロームによる閉塞から穿通枝領域全体が梗塞に陥る
治療抵抗性を示す進行性増悪の経過 生命予後良好だが機能予後不良
 (Clin Neurol 2010;50:921-924)



2017年5月29日月曜日

ミニレクチャー 妊婦の尿路感染症


10分で調べ5分で発表するミニレクチャー

Q. 妊婦の尿路感染症の治療戦略は?

A. BMJの10 minutes consultationでは以下の通り(BMJ 2017;357:j1777)

・妊婦は膀胱炎→腎盂腎炎のリスクが高い
・尿培養,尿グラム染色を施行
・全身状態に問題がなければ,7日間の抗菌薬投与
  1stはフラントインとあるが日本未発売

・尿培養でKlebsiellaやProteusがでたら結石合併を考慮せよ
・尿培養でGBSがでたら産婦人科紹介を:胎児産道感染のリスク

抗菌薬
15
1627
28週~
出産
授乳
ST合剤
禁忌
安全
安全
安全
短期間なら安全
CEX
安全
安全
安全
安全
安全
AMPC
安全
安全
安全
安全
安全
GM
禁忌
禁忌
禁忌
禁忌
CPFX
禁忌
禁忌
禁忌
禁忌
禁忌

・ただし,日本の添付文書ではST合剤は妊娠中,授乳中は禁忌となっている.