2018年12月31日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 6)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療が自分に合っているか、どうしたらわかるのか

 家庭医が自分に合っているか知るには、実際に家庭医についてみるのが一番である。家庭医の診療をローテーションで回るのが良いだろう。様々な人に家庭医は合っているし、その理由も様々だ。家庭医に聞いてみれば、自分の仕事をどんなところが好きか、多種多様な内容を話してくれるだろう。患者や地域社会と、深く有意義な継続的関係を築くのが楽しいのだという人もいれば、状態や疾患にとらわれず生まれてから亡くなるまで幅広い診療をできるのが好きだという意図もいる。包括的な研修を受けることで、診療の選択肢が広がり、地域社会に貢献できるのが楽しいという人もいる。家庭医療に興味を惹かれた理由として、国境に関係なくほとんどすべての問題に立ち向かうことができることを挙げる人もいれば、分娩や新生児ケアを含めた家族全体をケアできることを挙げる人もいる。
 家庭医の診療射程は幅広い。もし卒前実習でローテーションした科がどれも楽しくて、一つに絞り切れないと思ったら、家庭医療に進むことをお勧めする。医者になりたいと思ったきっかけを思い出して、自分の理想としている診療は何でそれをどこでしているかを想像してみなさい。その理想が現実のものとなるように専門研修を考えてみるのが最も大事なことです。

家庭医療プログラムを選択する際に考慮した方がよいことは何か

 完璧なものかそうでないかはともかくとして、その人にあうプログラムはおそらくたくさんある。プログラムの立地は、学生が判断する際に最も重要な因子の1つとしてよく言われている.家庭との近さ,配偶者のニーズ,地域社会と関連したライフスタイル,レジデンシーが医療を提供する患者集団は,プログラムを差別化する要素となりうる.半数以上の家庭医療レジデントはレジデンシートレーニングを受けた場所から100マイル (161キロメートル)以内の地域で最終的に診療することになる.

レジデンシーの医療機関の状況(大学病院か地域の医療機関か)や他専攻のレジデントやフェローがいるかどうかも,検討する上での重要な要因となるかもしれない.他の専攻レジデンシーが典型的には大きな大学病院を基盤としているのと対照的に,家庭医療のレジデンシーはより小規模な地域の病院や医療機関にあることが多い.学生の時には大学や大きな附属病院のなかで,大人数で専攻も様々なレジデントやフェローがいるような環境で実習を受けてきたはずだ.レジデンシー研修では,同時に研修いる他の専攻のレジデントやフェローが様々いて,多彩なレアケースがあり資源が豊富な大学病院の環境の方を好むこともあるだろう.規模が小さい地域の医療機関では患者や手技の競合がすくなく,よくある病態より集中的に診ることができるので,その方があっていることもあるだろう.以上の記述はかなり単純化しており,上記のカテゴリー内でも非常に多様な研修環境がある.なので,あなた自身にとって最良の学習環境を選ぶ必要がある.


2018年12月24日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 5)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医が行う手技にはどのようなものがあるか

 家庭医は様々な手技を行うことがある(Table 2)。心負荷試験の7.5%、分娩の9.9%、筋骨格系手技の64%、皮膚系手技の79%は家庭医が行っている。家庭医は、診療の幅が多岐にわたっているほど、ヘルスケアの4つの目標をより達成できるようになる。

Table 2. 家庭医が行う手技

○麻酔
意識下の鎮静
指、局所、末梢神経ブロック

○消化管
肛門鏡
大腸内視鏡
経管栄養チューブ留置
血栓性痔核の切開
S状結腸鏡
肛門周囲膿瘍の石灰排膿
経鼻胃管留置

○泌尿器
新生児割礼
恥骨上膀胱穿刺
尿鏡検
精管切除

○救命
ACLS
産科ALS
ATLS(外傷)
新生児蘇生プログラム
PALS(小児)

○妊婦ケア
自発的経膣分娩(胎児モニタリング、分部誘発・促進、裂傷縫合を含む)
吸引分娩

○筋骨格系
単純骨折の初期対応
関節・滑液包注射、トリガーポイント注射、ガングリオン吸引
肩関節脱臼の修復
四肢の固定法

○呼吸器
スパイロメトリー

○皮膚
生検
凍結手術
電気メスでの手術
切開排膿
裂傷縫合

○超音波
基本的胎児エコー
筋骨格系エコー
中心静脈穿刺、腹腔穿刺、胸腔穿刺のエコーガイド

○外来、病棟
鼻出血に対する後方鼻腔パッキング
フルオレセイン眼染色
異物除去
腰椎穿刺
静脈ルート確保

○女性医療
子宮頸部凍結療法
コルポスコピー
子宮内膜生検
子宮内デバイス挿入・除去
パパニコロウ染色
子宮内膜掻爬
外陰部生検

2018年12月17日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 4)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療の研修について何を知っておく必要があるか

 家庭医療レジデンシー研修の目標は、卒業するころには包括的かつ継続的なケアをあらゆる年齢層の患者に提供できるようになることである。このような教育での肝腎なポイントは、診療のその場その場で最良のエビデンスに当たり、情報を上手に患者に適応し、資源を効率的に活用する方法を教えることである。

 多くの場合、家庭医療レジデンシープログラムの研修期間は3年間であり、内科や小児科の研修と同じである。家庭医療プログラムの卒業生は、臨床現場に非常によく適応できる。少数ではあるが、研修の最適な期間を調べる長期間の国家的パイロットプログラムに参加しているレジデンシープログラムもある。このばあい、期間は4年間であり、特別なコースや上位の資格を得ることができる。


専門的関心を追求したい家庭医療レジデントは、どのような複合型レジデンシーやさらなるフェローシップ研修を受けることができるか

 家庭医療教育の目標は、プライマリケアを患者、家族、地域社会に提供できるように最適な研修をすることである。家庭医はそれぞれ特有の興味を持っていて、ジェネラリストの研修の一環として、あるいは追加する形で、その分野をさらに学ぶこともできる。複合型レジデンシーにおいて深く体験できたり、レジデンシー終了後にフェローシップを選択したりすることを望む場合もあるだろう。(Table 1)

 複合型レジデンシーのトレーニングプログラムは、異なった二つの専門医プログラムの要素をつなぎ合わせたハイブリッドである。しかし、全く別の専門が二つあるわけではなく、どちらの専門もより広く認定できるように制度設計されている。現在、家庭医とのダブルボードが可能な専門分野は4つある:家庭医療/精神科、家庭医療/救急科、家庭医療/内科、家庭医療/予防医療。これらの複合型レジデンシーの期間はたいてい4-5年である。

 内科/小児科プログラムは、家庭医療とは異なる。このプログラムは、内科と小児科を4年間のレジデンシーにまとめたものである。最近のレビューによれば、内科/小児科プログラムの大半は、分娩、婦人科、外科、皮膚科、整形領域の訓練を必要としていない。内科/小児科プログラム卒業生のおよそ1/3はサブスペシャリティ志向であり、これはプライマリケアとは異なるところである。

 アメリカ家庭医療学会(AAFP)が家庭医療のレジデントが卒業する際におこなった2013年の調査によると、約14%のレジデントがフェローシップやさらに上の学位を含めた追加研修を計画している。

(以下,米国のレジデンシーの詳細が書かれているが,訳では省略する)


Table 1
家庭医療レジデンシーの卒業生が選ぶことのできるフェローシップ

思春期医療 行動医学 医療情報学 地域医療 救急医療 大学教育の質改善活動
高齢医学 健康政策 ホスピス・緩和医療 病院総合診療 HIV/AIDS
統合医療 国際医療 妊婦ケア・産科 疼痛緩和 予防医学 研究
僻地医療 睡眠医学 スポーツ医学 薬物乱用 初診外来 女性医療



2018年12月10日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 3)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


診療の射程はどうか、どんなキャリアを得る機会があるか

 家庭医を目指すと、家庭医として特徴的な研修を受けることになる。急性疾患も慢性疾患も扱い包括的なケアを提供する、健康増進と疾患予防を行う、他の専門家と協同して治療を取りまとめるといった内容が含まれる。幅広い射程をもった研修を行い、家族や地域社会という文脈で患者中心の医療を実践し、ヘルスケアシステムの機能について理解を深めることで、どんな場所でも、どのようなセッティングでも対応できるようになる。家庭医が「多分化幹細胞」と評される所以である。

 大半の家庭医は臨床の最前線におり、救急対応や病棟でも医療を行っている。このようなセッティングでは、教育家リサーチの様々なキャリアを得る機会に恵まれている。教育は家庭医にとって重要なことであり、多くの家庭医が日常的に臨床の中で学生や研修医を教育している。また、レジデンシープログラムや大規模な学術機関といったアカデミックな場でのキャリアを選ぶ家庭医もいる。研究科学者になる人もいれば、臨床基盤型研究に参加して重要なリサーチクエスチョンにこたえるためのデータを提供する人もいる。家庭医療のキャリアの選択肢は幅広く、老年医学、思春期医学、緩和ケア、疼痛ケア、睡眠医学、救急医療、病院総合医、スポーツ医学、公衆衛生、国際医療、野外・災害救急など多岐にわたる。家庭医として得られる様々な機会についてまとめた短いビデオは、このサイトでみられる。http://vimeo.com/25152825


家庭医療の研修はグローバルヘルスを実践する足掛かりとなるか

 最高の健康を享受する権利は国境を超えた基本的人権である。その実現には、プライマリケアへのアクセスを確保するのが最善策である。エボラのような疾病のアウトブレイクは非常に目につくニュースであるが、いま大きな問題となっている疾患群は、発展途上国においても先進国においても、感染症から慢性疾患に移り変わってきている。しっかり研修を受けた家庭医は、小児、思春期、成人、産婦とあらゆる層に対応し、幅広い手技をみにつけているため、地球上のあらゆる場所で診療を行うのに最適である。これとまったく同じ能力が合衆国の中でも求められており、移民や難民を診療する際に必要となる。



2018年12月3日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 2)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


なぜ家庭医療はこれほど重要なのか

 あらゆる専門科のなかで、家庭医療がプライマリケアの定義に最も当てはまる。患者を最初に診て、継続的、包括的に、多くの人と協同してケアを提供する。その対象も性別、疾患別、臓器別になっておらず、あらゆる人を診る。プライマリケアに基づいたヘルスケアシステムは、患者のQOLを上げ、集団としての健康を促進し、公平性を担保し、かつコストもかからない。米国は伝統的にプライマリケアの担い手をあまり重視しておらず、他の西欧諸国と比べてヘルスケアがあまり上手く機能していなかった。西欧諸国では、重要なポイントに沿ってヘルスケアのシステムがどのように機能しているかをしっかり評価していた。米国のヘルスケアシステムが医療サービスの量ではなく質を大事にするようになってきて、家庭医も国民の健康に良い影響を大きく与えることのできる体制になってきている。


家庭医療のケアモデルと患者中心メディカルホームとは何か

 家庭医は患者全体を治療しようと専心する。いつでもかかりやすい診療を提供し、継続的に患者を診ていくなかで包括的なサービスをおこなう。たとえ家庭医療の範疇を超えた治療が必要な場合でも、家庭医は患者に対する責任を持ち続け、他の専門医が行う治療についても協同してかかわる。このようなケアモデルを、患者中心メディカルホーム(PCMH)という。ヘルスケアシステムがどんどん複雑になり細切れになっていく中で、PCMHは伝統的なケアのモデルから派生して創られた。これはまさに、医師中心のモデルの対極にある、患者中心のモデルである。

 PCMHのモデルは単一ではない。またその定義は、一つの診療、一つの建物の中だけで完結するものではない。PCMHのフォーマットを決定する一番の因子は、地域社会が何を必要としているかである。チーム医療を行う、受診しやすいようにコミュニケーションを改善したり診療時間を広げたりする、電子カルテのような高度情報システムを備える、質と安全を重視する、家族や地域社会という文脈の中で患者にケアを提供する。このような取り組みを行うことで、以下の4つの目標に近づくことができる:より良い健康、よりよいヘルスケア、1人当たりコストの節約、医者人生の向上。

 ヘルスケアシステムを継続可能なものにするには、プライマリケア、行動・精神医学、公衆衛生を統合する必要があるという認識が最近ますます広がっている。PCMHのなかには、伝統的なモデルをさらに広げて、メンタルヘルスやポピュレーションヘルスツールも導入しているところもある。PCMHのモデルが進化していくということは、家庭医が適切なケアを適切な時に適切な場所で患者のニーズに適したやり方で行うよう努力し続けるということである。


2018年11月26日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 1)


Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療について医学生がよく抱く疑問とその回答

この記事では、家庭医療という専攻について医学生がよく抱く数多くの疑問に回答していく。そのなかで、家庭医の大事な役割について以下の事項を触れる。ヘルスケアの環境をどう充実していくか、診療の射程はどうか、いかに多様なキャリアを得る機会があるか、家庭医を教育し訓練するとは何か、家庭医療のキャリアは実際のところ経済的にどうなのか、なぜ家庭医療の未来はこんなに輝かしいのか、なぜ家庭医は自分の仕事に熱意を持っているのか。


 家庭医は、あらゆる年齢の、あらゆる健康状態にある患者のかかりつけ医である。家庭医は、これまでにも増して、米国のヘルスケアシステムを変革していくのに不可欠な役割を持つようになっている。医学生は、家庭医という専攻について多くの疑問を抱いている。この記事を読めば、答えがわかるはずだ。

 家庭医の数は、ほかのどの専門の内科医よりも多い。(内科医全体をあわせると家庭医より数が多くなるが、内科医には様々なサブスペシャリティがあり、一つひとつの専攻医の数は家庭医より少なくなる。) 家庭医療のレジデンシープログラムは内科より多く全体で一位だが、レジデントの数をみると2番目になる。米国での家庭医の数は内科系勤務医の13%を占めるが、救急治療の25%は家庭医が行っており、外来診療もどの専攻医よりも数多く行っている。加えて、家庭医は2次医療、3次医療にも深くかかわっており、HIV感染患者など特別な集団に対する治療から集中治療まで診療の幅も広い。


2018年11月19日月曜日

グループホームの褥瘡患者にどう対応するか


訪問診療の一コマ

グループホーム入所中のMultimorbodityかつBed-riddenの患者に褥瘡が発生.
職員の方も頑張っていただいているが進行し真皮を超えている.
さて,どうするか.

適切な処置とアドバイスは勿論ですが,
やはりここは各種サービスを上手に使うべきです.

グループホームに訪問看護は原則入れない(介護サービスの重複になる)が,
特別訪問看護指示があれば,訪問看護は医療保険の扱いとなり,入ることができる.
しかも,週4回以上入れる(逆に言えば,週3回以下はダメ)

特別訪問看護指示の期間は交付日(=診療日)から14日まで.
通常は月1回のみだが,気管カニューレがある時と真皮を超える褥瘡があるときは月2回指示を出すことができる.

つまり,冒頭の場面では訪問診療を最低2週間毎行い,診察後に特別訪問看護指示を出せば,褥瘡が改善するまではグループホームでも訪問看護を使うことができる,ということですね.

帰りの往診車のなかで上記を思いつくことができたので,スムーズにサービス調整ができました.

ケアマネ任せ,看護師任せにせずに(連携を取るのはもちろん大事ですが)
使えそうな知識はしっかり押さえておかなくてはいけないと痛感しました.





2018年11月12日月曜日

咳喘息について


咳喘息(cough variant asthma)
自分が罹患した(暫定診断,本日よりICSで診断的治療開始)ため,基礎知識をまとめます.

・可逆性のある気道閉塞は見られることもあれば見られないこともある
・逆に咳喘息でない咳嗽患者で気道可逆性が見られることもある
・スパイロメトリーは33%の患者で偽陽性,メサコリン負荷試験は22%で偽陽性(PMID: 19121405)
・ゆえに最も確実な診断法はICS(吸入ステロイド)による診断的治療
・経過中に成人で30%程度が気管支喘息に移行
(以上,UpToDate: Evaluation of subacute and chronic cough in adultsより)

日本の診療ガイドラインをみても,やはり第一選択はICSですね.


アトピー咳嗽とどのように区別してよいのかいまいちよくわかっていません.
病態が違うことは理解できる(咳喘息は気管支平滑筋収縮,アトピー咳嗽は咳受容体感受性亢進:上述のガイドラインによる)のですが,どっちもICSが効きます.
鑑別点はβ刺激薬の効果の有無だとおもうのですが,診断的治療をICSでするなら鑑別しようがないのではと思ってしまいます.
ICSを2週間使って効果がいまいちならH1 blocker併用というので良いのでしょうか.余り腑に落ちていないです.
それとも,典型的な症状(のどのあたりがいがいが,ぞわぞわする)があればH1 blockerから開始,とするのでしょうか.

UpToDateにはnonashmatic eosinophilic bronchitisについての記述がありますが,これもICSが効きます.


細かい鑑別を追求するより,見逃してはいけない肺がんと結核をしっかり除外する方にエネルギーを割いたほうが良いのかもしれません.

気管支拡張症は…CTを撮らない限り診断は難しいのではと思ってしまいます.
膿性痰がずっと出ているような場合で考慮するのでよいのでしょうか.
喀痰抗酸菌培養で肺MAC症を診断した場合は,アジスロマイシン・リファンピン・エタンブトールを喀痰培養12か月間確認するまで投与です.薬剤副作用に注意ですね.
(UpToDate: Treatment of Mycobacterium avium complex lung infection)


2018年10月24日水曜日

肥大型心筋症に出会ったら:続き



(経験症例をもとに大幅な改変をしています)

近隣医療機関が閉院したため当院外来に転院した高齢患者.
診断名は「高血圧,心不全」だが,診察上Valsalva法で増強するsystolic murmurあり.
心尖拍動は前腋窩線上で触知する.CTRは60%を超えるが肺うっ血像はない.
心エコーでSAM,LVOT狭小あり.
他の所見も勘案し肥大型心筋症+軽度心不全と診断した.
自覚症状の乏しい高齢者.手術適応はおそらくないし,本人も希望なし.
さて,どのようにマネジメントすればよいだろうか.

前回はその場しのぎまで.
せっかくなのでもう少し詳しく勉強しておこうと思い,MKSAPのtextを開きます.

・HCMは500人に1人.しかし多くは無症候で経過する
・中には症状が出現し,突然死のリスクとなる場合がある
・心不全になる場合は,左室拡張障害やLVOT閉塞が関与しているかもしれない
・AFib合併はコモン.LVOT圧較差増悪を招く.
・VT→突然死の危険性あり
・ゆえにHCMを診断したらホルター心電図はしましょう.
・左室壁肥厚の主な鑑別は①高血圧②アスリート心③アミロイドーシス④Fabry病
・一親等での突然死の家族歴,最大左室壁厚30mm以上,最近の説明がつかない失神,VT3連発以上などあればICDの適応

・薬剤治療はLVOT閉塞,心不全,AFibに関連する症状に対する
・具体的には,息切れや(前)失神があれば治療考慮
・前負荷低下や血管拡張を起こすようなことは避ける(脱水,熱い風呂,アルコール過量摂取など)
・βブロッカーはα作用のないものを選ぶ(血管拡張させないため).ゆえにカルベジロール(アーチスト)は避けて,プロプラノロール(インデラル)やメトプロロール(セロケン),アテノロール(テノーミン)を使う.
・上述の理由のため,ニトロ製剤も避ける.
・薬剤治療をしても症状が強い時は手術検討を.
・心エコーは1-2年に1回しましょう.

いかにLVOTを保つか,というのが戦略になるのですね.


2018年10月18日木曜日

肥大型心筋症に出会ったら


(経験症例をもとに大幅な改変をしています)

近隣医療機関が閉院したため当院外来に転院した高齢患者.
診断名は「高血圧,心不全」だが,診察上Valsalva法で増強するsystolic murmurあり.
心尖拍動は前腋窩線上で触知する.CTRは60%を超えるが肺うっ血像はない.
心エコーでSAM,LVOT狭小あり.
他の所見も勘案し肥大型心筋症+軽度心不全と診断した.
自覚症状の乏しい高齢者.手術適応はおそらくないし,本人も希望なし.
さて,どのようにマネジメントすればよいだろうか.


まずUpToDateでその場しのぎを図ります.

Hypertropic cardiomyopathy: Medical therapy
→SUMMARY & RECOMMENDATIONS
とすすみ,以下の記述を得ました.

・HFとLVOT閉塞があれば,陰性変力作用のある薬剤の単剤使用を推奨(Grade 1B)
・そのなかでもβ blockerが第一選択(Grade 2C)
・血管拡張薬や利尿薬は,LVOT増悪のリスクがあり,あまり使わないほうがよさそう.
・単剤でもHF,LVOT閉塞が解消されなければ,非ジヒドロピリジン系CCB(ベラパミル等)を追加する(Grade 2C).それでもだめならジソピラミド追加.
・無症候性のHCMは経過観察.
・左室心尖部に瘤があれば経口抗凝固薬を.(Grade 2C)

というわけで,薬物治療はβblocker主体で行うことにしました.




2018年10月9日火曜日

原発性アルドステロン症の内服治療


診療所外来で疑問に思ったので.

原発性アルドステロン症の内服治療
・first-lineはスピロノラクトン
・スピロノラクトンの副作用は高K,高Cre.特に腎障害・糖尿病の患者で
・スピロノラクトン+NSAIDs定期は避ける(降圧効果減弱)
・プロゲステロンアゴニストとしての副作用に注意
・初期投与量は37.5-75mg/分3
・血性カリウム値が正常高値になるまで2週間ごとに用量を増やしていく
・副作用に耐えられなければエプレレノン.副作用は少ないが血圧低下効果が劣る
・上の2剤がともにだめならアミロライドやトリアムテレン
・血圧はスピロノラクトンだけでは目標達成できないことが多い
・その場合はサイアザイドやACE阻害薬を併用する.

参照:UpToDate Treatment of primary aldosteronism


2018年10月2日火曜日

ライム病/Felty症候群(MKSAP)


MKSAPを解き進めています.

今回は一発ネタ.

●慢性単関節炎+多量液体貯留+痛みはほとんどない
 →ライム病の関節炎に特徴的!

問題を解いているときは,上のことを知らなかったのでドツボにはまってしまいました.
遭遇機会はあまりないかもですが,知らないと疑うこともできないかと思います.

●罹病期間の長い進行性の関節リウマチ
 →好中球減少・脾腫をみたらFelty症候群
 →重症感染,下肢潰瘍,リンパ腫,血管炎のハイリスク

Felty症候群は名前だけ聞きかじっていたので,初めてしっかり認識しました.



2018年9月21日金曜日

抗ARS抗体症候群(MKSAP)


耳学問で何となく知ってはいたのですが,MKSAPで出会ったのを機にしっかり覚えます.

抗ARS抗体症候群(Antisynthetase syndrome)
間質性肺炎,禁煙,Raynaud現象,非糜爛性関節炎,微熱,機械工の手が特徴
とくに機械工の手は疾患特異性あり.
皮膚筋炎の1/3で併発するとのこと.抗Jo-1抗体が特異的.

※機械工の手(MKSAPより引用)



第1指の尺側,他の指(第2-3指が多い)の橈側に起こる過角化.


2018年9月13日木曜日

Cameron lesion (MKSAP)


MKSAP始めました!
知らなかったこと,なるほどとおもったことを不定期でまとめます.

Cameron lesion
食道裂肛ヘルニアの胃襞にできる糜爛.
横隔膜ヘルニアが上下にこすれることで起こると考えられている.
(図はPMID: 22367337より)

大きなヘルニアで起こりやすく,NSAIDs内服はリスクとなる.
8260人に胃カメラをして食道裂肛ヘルニアがあったのが1306人.
うち43人にCameron lesionがあった.(PMID: 24758713)


2018年9月7日金曜日

患者を知ってノーと言えるように(part last)


長かったですが,ようやくラストです.


想定される患者の反応

 FAVERの技術は,初めは簡単ではないと感じるかもしれないが,実際は臨床をもっと容易にしてくれるものであり,患者受けの良さに驚くことになるかもしれない.大半の患者は,たとえがっかりしたとしても,あなたのノーを受け入れてくれるだろう.患者は自分の欲しいものや必要だと思っているものを得ずに終わり,自然と少し曇った気持ちになるだろう.怒りを表出することも,担当医を変えようとしたりクレームをつけたりすることもあるかもしれない.これは疾患による症状であることが多く,あなたやあなたの治療によりもたらされたものではない.
 数は少ないがより憂慮すべき事態として,患者が威嚇と取れる行動をする(罵声を浴びせる,ドアを強くたたく,悪口を言う,紙を投げつける),あるいは患者が明確にあなたやスタッフにたいし脅迫を行うことが挙げられる.もしあなたの診療が脅迫行動に向き合うだけのポリシーに欠けているなら,しっかりポリシーを持ったほうが良い.そうすることは,患者に退去を命じる,警察に来てもらうといった結末に関わってくるだろうし,医師が自分の身の安全を確保するために適切な警告を行う手助けとなってくれるだろう.
 やり取りの困難さを経てやがて医師患者関係が強化されることも多いが,それでも医師
の気持ちは落ち着かないままであるだろう.医師が最善を尽くしても,すっきりしない結末を迎えることもある.FAVERの戦略やアプローチは効果的でないと結論づけたり,将来のために捨て去りたいと願ったりすることもままあるだろう.実際,後味の悪さは避けられないことかもしれない.例えば,あなたには手が付けられない,そのときには手が付けられない患者だっているだろう.それが人間というものであり,医療というものである.そんな患者でも,いつか良くなるかもしれないし,別の医療従事者が何とかしてくれるかもしれない.信頼できる同僚とデブリーフィングをすることが,このような困難な診察場面において自分の役割を認識しながらも,患者の感情面,行動面での反応に責任があると思いこまずに済む一助となる.
 FAVERアプローチという,比較的よく遭遇する不愉快な臨床場面にアプローチする簡潔かつ標準化された方法を使うことで,医師が元気づけられ励まされることを願っている.関係性を保ちながらノーということはたやすいことではないが,実践可能なことであり努力する価値のあることである.


2018年8月29日水曜日

患者を知ってノーと言えるように(part 4)


続きです.今回は短めです.FAVERのRです.

R:ラポール(Rapport)を再構築する
 FAVERアプローチの最後のステップは,ラポールを再構築することである.患者と同じ経験を持っていないと共感できないということはない.欲しいものや必要だと思っているものが手に入らない経験をしたことがあれば,患者がいま感じているであろう不満や恐怖,無力感に触れることができる.「あなたの望むことではないと分かっています」「不満に感じているようですね」といった共感的な発言をすることで,このような感情を認識することができる.患者の陰性感情を受容できるようになるという技能は,陰性感情を最小化したり改めようとしたりする技能より,よほど医師にとって不可欠である.
 ラポールを再構築するのに有用となりうる他の戦略としては,「~であればよいのですが」というフレーズを使うことである.動機づけ面接法の原則の1つに,患者の側にたち物事を患者の立場で説明する(少なくとも一部は)ことで患者は自分が理解してもらっていると感じるというものがある.患者のお願いを断りながらこれを実践するのは難しいことだが,「~であればよいのですが」というフレーズを使うことで,不適切な要求をのむことなしに患者の側に立つことができる.例を示す.「オキシコドンが安全に鎮痛剤としてあなたに使えたらよいのですが.自分にはオキシコドンが良く効くのだとおっしゃっているのは存じています.ですが残念ながら,あなたの痛みのタイプにはオキシコドンは安全な治療薬ではないのです.」「陪審員として召集されたくないのはよくわかります.一筆書くことができたらよいのですが.しかし,それは誠実なことではないためできないのです.」本当にそう願っているというのが重要であり,それは最善のやり方で患者を動的に見ることで達成されやすくなる.


2018年8月19日日曜日

患者を知ってノーと言えるように(part 3)


つづきです.FAVERアプロ―チのVとEです.

V:最も適切な光を当てて患者を見つめる(View)
 過去の体験、時間のプレッシャー、疲労、バーンアウト、人格などの複数の要因が、自分の要求が「間違っている」と患者は分かっているとの考えに医師を導いてしまう。このような考えにいたると、陰性感情が増幅され、医師患者関係がこじれてしまいかねない。
 最も適切な光を当てて患者を見つめることは、困難な患者関係がさらに悪化することを防ぐ解毒薬である。その目標は、患者は自分の要求が不適切であることが分かっていないことをしっかりとらえることである。以上のより自然な枠組みを使うことで、医師は患者により肯定的かつ効果的に対応することができ、頼れる後ろ盾を得たと感じることができる。
 医学的な問題についての誤解は良くあることで、多くは個人の責に帰すものではないということを覚えておくと助けになるかもしれない。特定の疾患あるいは状況では特定の行為が観察される可能性があるということも覚えておくべきである。たとえば、糖尿病の患者では血糖値が高いだろうと考えるように、物質依存の患者も望む物を更に手に入れるためにうそをついたり巧言を弄したりするかもしれないと考えておく。患者を否定的に見つめても会話の助けにならないことが多い。患者が自分を利用したり操ろうとしたりしていると考えることが、不適切な要求に屈しないように備える助けとなると主張する者もいるかもしれない。確かに上記の主張が当てはまる患者もいるだろうが、医師患者関係と医師の健全感に与える悪影響を考えると、殆どの場合で効果も魅力もない主張である。

E:その要求がなぜ不適切なのかを明確に(Explicitly)述べる
 次のステップは、患者の要求がケアとして意義が乏しい、法律違反である、人道にもとる、信義に反するということを明確に述べることである。明確に述べる際には簡単な説明を付け加えてもよいが、以下の事項は避ける必要がある。
 冗長な説明を行う。心配だとたくさん話しがちになる。このような状況では、医師がたくさん話すほど、内容が本来のメッセージ(例:「それはケアとして意義が乏しいです」)から離れてしまう傾向があり、議論の余地を与えてしまうことになる。この種の愚論は気力と時間を浪費するだけでなく、医師が要求に屈してしまったり、患者の不満が高まり誤解を招いたりすることが多い。医師側が本来のメッセージに立脚しつづければ、患者側は意義の乏しいケアを要求する、あるいは法律違反である、人道にもとる、信義に反することを医師にするよう要求するという危うい立場に置かれることになり、議論が発生しづらくなる。
 自分の心証について話す。「この薬の処方量を増やすのはあまり気乗りしないなぁ」などの発言は,医師の気持ちなどには全く興味がない患者にはいら立ちを非常に大きく募らせるだけであり,患者を怒らせることになりかねない.その代わりに,要求に対する不快感を克服すべきものとみなして,患者のおかれている状況を再度説明したりより詳しく説明したりする医師もいる.
 立場を述べた上で,その立場を変える.これをすると,信頼や医師の意思決定に対する患者の信用に関わってしまう.加えて,議論の余地を提供することになりかねない.
 研修医や若手の医師は,立場を確立したり制限を明確に設けるほどの経験や医学知識,権威がないため,苦労することが多い.しかし,年季の入った医師でも同様の状況に陥ることがある.診察中に刻々と進んでいく秒針の音を聴いて,明確な制限を決めて設定するための時間を割くことができると感じられなくなるのかもしれない.長い目で見れば,部屋から出て,制限を決めてから,それを患者に効果的に伝える方法を定める方が良い手であり,効率的でもある.
 意義の乏しいケアを提供したり,人道に反することを行う:「ちょっとだけ」.もしオピオイド処方が患者の疼痛のタイプでは適応がないのに,患者に少しだけ,今回だけと処方してしまったら,それはちょっとだけ不適切な治療を行ったのと同じことである.搔痒に「病欠証明書は過去の日付で出してはいけないことになっているんだけど.今回だけは出してあげますね」といつ発言は,回避行動の1つの型,つまり問題の一時的な先延ばしであり,逆効果である.これが特に当てはまるのが,あなたが同僚の代わりにしたことを,あとでその同僚が元に戻したり,患者受けの悪い他の方策を取らなくてはいけないときである.


2018年8月13日月曜日

相手を知ってノーと言えるように(Part 2)


続きです.いよいよFAVERアプローチの具体的な項目が説明されます.

F:不愉快な気持ち(Feeling)を認識する
 FAVERは患者からの要求によって生じるあらゆる不愉快な気持ちを認識することから始まる。人間は否定的な感情をしらずしらずのうちに避けてしまうことが多く、医師も例外ではない。それどころか、誰かに仕えている際の自分の体験を否定するのに長けてしまうという更なる合併症を来たすことさえある。患者からの不適切な要求による居心地の悪さを認識し、そこから逃げないことは不可欠な要素である。それは今の状況をもっとよく観察する必要があるという手がかりとなる。
 上記を実践するには、以下の患者からの要求を読んでどのように感情が動くか気づくのがよい。
・オキシコドンが全然効かなくなっているの。もっと量を増やしてちょうだい。
・頭痛が何回も起きるからMRIを撮ってほしいのですが。
・陪審員として召集がかかっているんだ。行かなくてすむように一筆書いてくれないか。
・電気車椅子を手に入れることができるために、この用紙に記入してください。
・私の犬がコンフォートアニマル(※6)として認められるように一筆書いてくださいませんか。
 このような要求を何も不愉快に感じないならば、その要求が適切でありFAVERの枠組みの残りの部分を適用する必要がない状況をおそらく想像しているのである。たとえば、慢性腰痛や重度の不安障害により陪審席に座ることができない身体状況にある患者に診断書を渡すことは良質な患者のケアといえるだろう。また、重度の不安障害のある患者について併診している精神科医に相談し、飼い犬の存在により患者の屋外での機能が著しく高くなると判断したならば、コンフォートアニマルを承認することは完全に適切なことである。
 しかし、状況が適切でなければ、不愉快な気持ちとともに、以下のような特徴的な思考が芽生えることになる。
・自分はうまく利用されている。
・この患者は自分をだしにしている。
・患者に申し訳ない。
・断るのはいやだなぁ。
・患者の頭に血が上っていっているぞ。
・患者のいうとおりにしなかったら、クレームをつけられることになる。

A:なぜ不愉快な気持ちなのかを分析(Analyze)する
 FAVERアプローチの2番目のステップは、どのような考えが不愉快さをもたらしているのか分析することである。不適切な要求に対して抱く考えは、以下のどちらかあるいは両方に通常は分類できる。
・この要求を呑んだら医療ケアの質が低下してしまう。
・この要求を呑んだら、法律に違反する、人道にもとる、あるいは信義に反する。
 患者の要求を不適切だと感じ不愉快な気持ちになる理由は大抵すぐに分かるようになる。


※6 コンフォートアニマル(comfort animal)は不安障害やうつ病患者の心のよりどころとなる動物のことで、米国では法律上の規定がある。盲導犬などのservice animalとは異なり、特定の技能を持っているわけではない。


2018年8月6日月曜日

相手を知ってノーといえるように(part 1)


Family Practice Managementのレビュー記事

Getting to No: How to Respond to Inappropriate Patient Requests

の全文訳です.面白い内容ですよ.


相手を知ってノーといえるように(※1):患者に困ったお願いをされたら
5ステップのFAVERアプローチで,患者との関係を保ちつつも不愉快なお願いを拒否できるようになる.

 「やあ先生,お願いがあるんだけど」
 こんなありきたりの質問が、一日の仕事のなかで最大の難題にたやすく変わることがある。医師が不適切だと感じるお願いを患者がするのは珍しいことではない。オピオイドやベンゾジアゼピンの処方、職場や学校への病欠証明書、高価な検査や手技、家族介護休暇や医療休暇の証明書(※3)、耐久性医療用具(※2)を患者が要求することは、しかるべき状況であれば全く適切なことである。しかし、その要求がふさわしくない状況である場合、あなたならどうするだろうか。気持ちが逆立ち、要求を断るというのがよくある反応である。了解してしまい後悔することもあるかもしれない。要求を断るも場当たり的な対応に終始したため、医師への信頼を損ない、患者の足が遠のき、双方とも不満なままで終わることもあるかもしれない。
 効果的でありかつプロフェッショナルとして恥じないやり方で、患者へのケアの質を向上させてかつ関係性を損なわないようにしながら、医師自身の満足度も保たれるような断り方を学ぶ技能が必要とされている。経験上、この技能を自然と身につけている医師は殆どいない。患者からの不適切な要求にこたえる枠組みがなければ、ノーというのは骨の折れる業となるかもしれない。
 患者からの不適切な要求に対処する、シンプルで標準化され応用しやすいアプローチを私たちは開発してきた。FAVERアプローチ(各ステップの頭文字になるようfavor(※4)の綴りをもじった)は5つのステップからなり、患者医師間の齟齬を最小化し、ケアの質とラポールを最大化するものである。(このモデルを1ページに要約したものを”FAVERアプローチ:患者に困ったお願いをされたら”の29ページに掲載している(※5)。)

KEY POINTS
・オピオイド、病欠証明書、高価な検査といった、患者からの不適切な要求に対応することは、すべての医師が獲得する必要のある技能である。
・FAVERアプローチは、自分が不愉快な気持ちでいることを認識することからはじまる。なぜなら、このような気持ちが得てして患者からの要求が不適切であることを示すからである。
・患者は自分の要求が「間違っている」と分かっていると決め付けても、意思疎通が複雑になるだけなので、患者に悪意はないとみなすのがよい。
・要求を断らないといけないときは、その要求が不適切である理由を明確に伝えるべきである(例:その要求はケアとして意義が乏しい、法律違反である、人道にもとる、信義に反する)が、長々とした説明は避ける。


※1 表題のGetting to noは、”get to KNOW (知り合いになる、相手のことを深く理解する)”というイディオムとかけていると解釈して、このように訳した。

※2 家族介護休暇(family leave)は高齢の家族の介護のための休暇、医療休暇(medical leave)は病気療養のため自宅安静が必要な場合のための休暇で、どちらも有給休暇となる。取得には医師の診断書が必要。

※3 耐久性医療用具(durable medical equipment):車椅子や介護ベッドなどの福祉機器の総称。メディケア加入者を対象に販売される。

※4 favorは人にお願いをする決まり文句の中にある語句。この記事の冒頭でも使われている。「やあ先生、お願いがあるんだけど」(Hey, doc, can you do me a favor?)

※5 この訳文には掲載していない.


2018年8月1日水曜日

糖尿病治療中断をどうとらえるか


糖尿病があり定期通院を中断していた患者さんに出会う機会が相次いだので,Clinical Jazzで振り返りました.

Clinical Jazzについて,詳細はこちらを.
(日本プライマリ・ケア連合学会誌 33:322-325)

そしてこの本は必携です.


ブログでは「文献検索」のところだけを抜き出します.

文献1. 2型糖尿病患者における通院中断に関連する心理社会的要因

対象:糖尿病専門クリニックを1年以上通院している患者686名
うち有効回答者は350名.
そのなかで25人が1年以上の通院中断者であった.
中断者は平均年齢が低く・糖尿病歴が短かったので,その2因子で マッチング(中断者1人-継続者3人) を行った結果,中断者は以下の要素を持っている割合が多かった.
 ・自覚症状がある
 ・結果期待が低い
 ・体に気を配らず, 体重や血糖値を意識していない
 ・職場での配慮や病気に対する理解や支援者がいない
 ・ 趣味など生活全般が悪くなっている

結論:糖尿病患者の意識に関する教育のみならず,社会的支援環境整備のための対策が必要である.



対象:かつて通院を中断し,現在は通院している2型糖尿病患者15名
エスノグラフィーで質的分析を行った

結論:通院再開は,通院中断を「後ろめたさ」,通院再開を「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づける体験である


通院再開が「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づけられる
というのが非常にしっくりきました.なるほどですよね.
こういう発見があるので質的研究は面白いです.


2018年7月25日水曜日

ACP Journal Club(19 June 2018)


ACP Journal Club 19 June 2018
箇条書きでまとめます.

・オピオイド使用障害の治療はstepped treatment approachで.
コメント:アメリカだと社会問題になってますね.

・急性脳梗塞の早期マネジメントに対するAHA/ASAの推奨
コメント:発症6-16時間以内の前方循環大血管閉塞なら血管内治療で血栓除去が適応になる可能性があります.DAWN studyとDEFUSE 3 studyの成果ですね.あとは血圧<220/120だと発症48-72時間以内は降圧しないとか,早期にアスピリンとか,至って当たり前のことが書かれています.

・重篤な慢性腰痛/膝痛/変形性股関節症に対して,非オピオイドとオピオイドでベネフットは同様で,非オピオイドの方が副作用が少ない.
コメント:アメリカのオピオイド使い過ぎ問題に対する1つの警鐘ですね.

・喘息発作時にICSの容量を4倍にすれば急性増悪を防ぐことができる。
コメント:患者が自宅でできる喘息増悪予防の指導ですね。こういうお金のかからない介入法はありがたいです。HR 0.71-0.92。

・冠動脈多枝病変+糖尿病では、CABGのほうがPCIより治療予後が良い。ただし糖尿病被合併だと変わらない。左枝主幹部病変でも変わらない。
コメント:直接かかわることはない分野ですが、CABGの積極的適用の範囲が広がっているのですかね。

・大うつ病の成人患者では、抗うつ薬はプラセボより短期間での治療反応率が高くなる。
コメント:「大うつ病の成人患者」という点に注意でしょうか。今主に勤務している環境は精神科医にすぐ相談できるので助かります。

・ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンは敗血症性ショック患者の90日死亡率を減少させる。ヒドロコルチゾンだけでは死亡率は減少しない。
コメント:いろんなところで話題になった研究ですね。本文のコメントにもありましたが、これをもって全例コルチゾンとはならないようです。

・COPD患者で高容量ICSの長期使用は骨折リスクを高くする。
コメント:4年以上のフルチカゾン換算1000ug/day以上の使用でリスクが上昇する。ただしRR 1.02-1.18。そもそもCOPDでICSの出番は稀なはずですね。choosing wiselyです。

・太極拳は有酸素運動と比べて線維筋痛症患者の症状を緩和させる。
コメント:なぜかいろんな研究が大好き太極拳。オリエンタルな感じがよいのでしょうか。いまいる地域に太極拳サークルあるのかなぁ。


2018年7月18日水曜日

読書録:これからのコミュニティのあり方について


      

あまりなじみがない分野の本ですが、コミュニティの在り方についてイメージを抱くのにはうってつけですね。

深く読み込むとおうより、さらっと流し読みしてふんふんそんな考え方があるのかと発見するための本かなと思います。


2018年7月12日木曜日

読書録:社会疫学と総合診療 (ジェネラリスト教育コンソーシアム)




遅ればせながら、出張の機内で読了。
社会疫学の知見を日常診療に実装するための理論と実際を知り深めるために重要な論文集です。

自らの日常診療を振り返り、到底足元にも及ばないなと言う忸怩たる思いと、
社会疫学についてもっと学習しなければという焦りを抱きました。

研究を進めていく上でのリファレンスとしても有用だとおもうので、さらに勉強していくとっかかりになります。


2018年7月8日日曜日

家庭医療の気になる論文(BMC Family Practice)


直近のBMC Family Practice 掲載論文がわりとどれも胸キュンだったので.


Formative evaluation and adaptation of pre-and early implementation of diabetes shared medical appointments to maximize sustainability and adoption

糖尿病患者に対するプログラムを実際にプライマリケアに実装するにあたり,本当に思い通りになるのか,実装する際にどのような障壁があるのかをConsolidated Framework for Implementation Research (CFIR)で探索した研究.

Backgoround内の一文

We illustrate the role and importance of pre-implementation interviews for guiding ongoing adaptations to improve implementation of a clinical program, achieve optimal change, and avoid type III errors.

が,この研究の意義を端的に言い表しているように思います.

なお,Type Ⅲ errorとは,「誤った疑問に正しい答えを出す」エラーのことだそうです.うっ,胸が痛い.

CFIRについてはこちら.まだちゃんと理解できていません.


Multimorbidity patterns with K-means nonhierarchical cluster analysis

最近,Multimorbidityの疫学研究というか,どんなパターンがあるのかを突きとめる研究をよく目にします.
解析方法は私には難しいので割愛.このような疫学データを基に各パターンごとの適切な介入策などが論じられていくのでしょうか.


Colorectal cancer and screening awareness and sources of information in the Hungarian population

大腸がんとそのスクリーニング法について適切な情報を得ている人は非常に少ない.特に,教育年数が短く,若い男性で,都市居住でない場合は,適切な情報を持っていないことが多い.
SDHの観点からも重要な論文ですが,なによりこのResearch Questionを立てたことが素敵.


Development of an evidence-based brief ‘talking’ intervention for non-responders to bowel screening for use in primary care: stakeholder interviews

非常にざっくり説明すると,大腸がん検査受けてねーといわれたのに受けなかった人(non-responder)を対象として,Brief-Interventionを開発し,各ステークホルダーの意見を聞いてみたという研究.non-responderが「全人的に診てほしい」「もっと患者を参加させて」と言っているのは興味深いですね.これもResearch Quesionが秀逸です.スクリーニングを推奨するだけでなく,実際にどうやったら受けてもらえるかを探索しています.


Patient safety and safety culture in primary health care: a systematic review

第一歩は,患者安全に関連する観点の基本的な理解を医療従事者にしてもらうところから,という結論です.

2018年7月4日水曜日

健康格差,話題です.



日本プライマリ・ケア連合学会が
健康格差に対する見解と行動指針
を発表しましたね.

健康の社会的決定要因と健康格差に関心を持つものとして
心から嬉しく思うのと同時に
ここからスタートだなという気持ちです.


健康の社会的決定要因を臨床現場に実装する手法の開発普及
ここ1年半くらい取り組んでいることです.

(今年の学会でポスター発表しました.「健康の社会的決定要因を臨床現場に実装する:社会的バイタルサイン(SVS)を用いた患者評価の手法」)


家庭医療学夏期セミナーでもワークショップ出しますよ.
8/4(土) 16:25-18:25
【2C】患者さんの「困った」に多職種でアプローチしよう ~「健康の社会的決定要因」を活用した問題解決の方法~


全国から集まったメンバーで進めている活動ですが
現在の僕の役割は理論武装だと考えているので
エモーショナルな部分やクリエイティブな部分はほかの方に任せて
がしがし本読んで論文読んで学術的な貢献をしていきたいです.


一応宣伝.
翻訳に携わりました.手に取っていただければありがたいです.



2018年6月30日土曜日

BPHによる尿閉(EBMの実践)


研修医との回診で…

高齢男性、入院中に尿閉になり膀胱内カテーテル挿入中。
直腸診でクルミ大・弾性軟の前立腺を触れる。
タムスロシン服用を開始したが、今後どうすればよいのか。


Step1 定式化
P: BPHによる尿閉・カテーテル挿入患者に
I:タムスロシンを投与するのは
C:他の治療法(タムスロシン+他の薬剤の併用など)と比べて
O:尿閉を脱する可能性が高くなるのか


Step2/3 情報収集と批判的吟味
UpToDateでAcute Urinary Retentionという記事を発見。
Summary and Recommendationに、以下の記載あり(太字はM. Junによる、以下同様)。

●In men with BPH or presumed BPH, treatment also includes an alpha-1-adrenergic antagonist (eg, alfuzosin 10 mg daily) initiated at the time of initial catheterization. Ongoing combination treatment is generally necessary to prevent recurrence of AUR. (See 'Medical management' above and "Medical treatment of benign prostatic hyperplasia", section on 'Alpha-1-adrenergic antagonist and 5-alpha-reductase inhibitor'.)

●In men with BPH, removal of the catheter after a period of time ("trial without catheter" or TWOC) results in successful spontaneous micturition in up to 40 percent of patients, although recurrent AUR is common. We suggest a trial of catheter removal in one to two weeks. For patients who fail the initial TWOC, we advise a second trial of TWOC after an additional two weeks with the catheter. (See 'Trial without a catheter' above.)

●Men with BPH who fail a second TWOC may need surgical therapy. A urodynamic evaluation is advised prior to prostate surgery for patients who have experienced AUR. (See 'Surgical therapy' above.)

知りたい情報に近づいたので、リンクをたどり、Medical treatment of benign prostatic hyperplasia 内の項目 Alpha-1-adrenergic antagonist and 5-alpha-reductase inhibitorをざっと読む。

In patients with severe symptoms of BPH (IPSS ≥20) (table 2), those who are known to have a large prostate (>40 mL), and/or in those who do not get an adequate response to maximal dose monotherapy with an alpha-adrenergic antagonist, we suggest combination treatment with an alpha-adrenergic antagonist and a 5-alpha-reductase inhibitor.
(中略)The number needed to treat to prevent one instance of overall clinical progression was 8.4 for combination therapy, 13.7 for doxazosin, and 15.0 for finasteride.

まとめると…
・BPHによる尿閉にはα1作動薬+カテーテル挿入。1-2週後に一度カテーテルを抜去し、自尿がなければ再度挿入しさらに1-2週待つ。
・IPSS≧20、前立腺体積>40mL、α1作動薬だけでは効果不十分な患者では、5α還元酵素阻害薬の併用が推奨される(NNT 13.7→8.4)。


Step4 患者への適用
・認知症、施設入所中
・経済的問題があり早く退院したい&薬も増やしたくない
・前立腺容積は約25ml
・施設はカテーテル留置状態でも受け入れ可能
→今回は、タムスロシンだけを投与し、1-2週後にTWOC実施。抜去困難ならバルーン留置して施設退院とした。


Step5 1-4のフィードバック
退院後のかかりつけは当院ではないが、退院後の様子を教えてもらうことは出来そう。


振り返り
・研修医の疑問に端を発したものであったが、いつも何となくマネジメントしていたので、知識が整理され良い勉強になった。
・これからも研修医と一緒にEBMを実践していきたい。
・所要時間は5-10分。簡単。楽。

2018年6月26日火曜日

家庭医の専門性について


プライベートで様々なことがあり、ライフイベントを乗り越えるのに全精力を投入していたため、ブログの更新が途絶えていました。

先日、ひょんなことからこのブログの読者の方と出会い、更新する意欲が湧きましたので、少し衣替えをしてまた新たに再開します。


Facebookで藤沼康樹先生が

卓越した家庭医(プライマリ・ケア担当総合診療医)こそが対応できる外来(部分的には在宅)診療対象、すなわちExpert generalist practiceのdistinctiveな対象(Cases)

として以下の5つを挙げていました。

1.未分化な健康問題の相談で来院する外来患者(非選択的初診外来患者)
2.病態生理学的臨床推論に適さない健康問題をもつ患者(例えばいくつかの健康問題の累積により顕在化した高齢者の健康問題)
3.多疾患併存慢性疾患患者(Multimorbidity)
4.心理社会経済倫理的複雑事例(Complex~Chaotic patient)
5.下降期慢性疾患患者(慢性疾患を持つ人の,身体的状態が不可逆的に進行し,安定した維持や回復がみこめない状態を生きる患者)

まさに我が意を得たり!です。
これなんですよね。私はこの1-5を診るのが楽しくて家庭医療をしています。
家庭医療の外来でこそ有効に取り扱う事が出来る問題群だし、それぞれの項目でしっかり論文と成書に基づいた学習を行う事が、経験の浅い初学者でも自信を持って自分は家庭医であると胸を張れるための方略であると考えます。

この5項目を取り扱う外来診療と、総合病棟診療をハイブリッドさせたものが、日本の総合診療医なのだと思います。


2018年3月2日金曜日

家庭医療の気になる論文から


家庭医療の気になる論文から


How well do general practitioners know their elderly patients’ social relations and feelings of loneliness?

患者が「孤独」または「社会参加が少ない」ことをGPはどれくらい把握できているか。
→医師の答えと患者の答えはあまり相関していない。
 特に、患者が独居でないとき、医師がこの患者は社会参加していると信じているときに、相関は小さくなる。


Population and patient factors affecting emergency department attendance in London: retrospective cohort analysis of linked primary and secondary care records

救急受診に影響を与える因子は何か
→最も強い因子は多疾患併存であった。


ちょうどいま、この本を読んでいるところです。



詳細は省きますが、ネガティブケイパビリティは家庭医に必須の能力ですね。
私の周りでは「中腰で粘る」「不確実性に耐える」と表現されるスキルと一致します。


2018年2月14日水曜日

認知症患者の抗精神病薬を減らす


家庭医療の気になる論文から

Deprescribing antipsychotics for behavioural and psychological symptoms of dementia and insomnia
Canadian Family Physician January 2018, 64 (1) 17-27

BPSDや不眠症のある高齢患者にルーチンの抗精神病薬はやめようぜ
という旗印のもと、減薬のフローチャートの有用性を評価した論文です。

フローチャートは以下のとおり。分かりやすい。
簡潔にいえば、BPSDに対する抗精神病薬は3ヶ月過ぎたらやめなさい、ということですね。




2018年1月25日木曜日

shared decision makingの最新論文


家庭医療の気になる論文から。

Ann Fam Med November/December 2017 vol. 15 no. 6 546-551
http://www.annfammed.org/content/15/6/546.full

Multimorbidity and Decision-Making Preferences Among Older Adults

4つ以上の疾患が併存している高齢者は、そうでない高齢者と比べてshared decision makingを好まない傾向にある。

多疾患併存の高齢者には、医師のほうから積極的にshared decision makingを勧めるのがよいというのが筆者らの意見。


J Am Board Fam Med January-February 2018 vol. 31 no. 1 64-72
http://www.jabfm.org/content/31/1/64

Primary Care Physician Involvement in Shared Decision Making for Critically Ill Patients and Family Satisfaction with Care

重篤な状態にいる患者の家族は、プライマリケア医がshared decision makingを申し出たほうが、満足度が高い。

そりゃそうか。でもこうやって研究されることが大事ですよね。


2018年1月12日金曜日

突然の両側難聴


諸事情あり、記事を更新する時間がとれない日々が続いています。
e-portfolioとして、日々の学びを小さいものでも書きとめていきたいものです。


この前、突然の両側難聴を主訴に救急受診した高齢患者のケースを見聞しました。
なんと、脳幹梗塞だったようです。

脳幹梗塞で突然の両側難聴?
とおもいましたが、調べてみると和文献でもけっこうヒットします。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/25/2/25_2_274/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/otoljpn1991/1/5/1_5_19/_pdf


付随して、めまい+突然の片側性感音難聴は、まず突発性難聴を想起してしまいますが、
AICA梗塞でも同じ症状が起こるため、鑑別が必要ですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/57/1/57_28/_pdf

突発性難聴と思ったら梗塞だった、というのはままあるピットフォールなのかもしれません。

Clinical Pearls
・突然の両側難聴は脳幹梗塞を想起する
・鑑別に突発性難聴を想起したら、かならず脳梗塞を除外する。