2015年3月30日月曜日

坐骨神経痛のレビュー



NEJMに坐骨神経痛のreviewが載っていました。
へーと思ったところだけをまとめてみました。

図がきれいです。これだけでも理解が深まります。


坐骨神経痛は40-50歳代で多い
坐骨神経痛の85%は椎間板障害による。次に多いのは脊椎変形

L4、L5、S1、S2が坐骨神経を構成する
L4-L5またはL5-S1の障害が多く、L3-L4障害は比較的少ない
神経支配は下図の通り(http://asahi.co.jp/hospital/archive/kaisyo/youtsu/point/images/point_img_01.jpgより改変)
L4障害では股関節疾患と間違えられることがある



多くは片側性だが、ヘルニア、脊柱管狭窄症、脊椎すべり症では両側になることもある


ラセーグ徴候は、ヘルニアに対して感度90%だが特異度は低い
Fajersztajnテストは、ヘルニアに対して特異度90%だが感度は低い
(下図はhttp://images.slideplayer.es/3/1120870/slides/slide_31.jpgより一部改変)



原因としては圧倒的に脊髄関連が多いが、それ以外の原因を挙げる。

梨状筋症候群 piriformis syndrome
特徴:局所的な臀部中部の疼痛、坐骨棘の圧痛、座位で疼痛増悪、股関節外旋など梨状筋にテンションをかけると疼痛誘発
ラセーグ徴候は半数のみで陽性
尻ポケットに財布その他を入れることによる坐骨神経痛が20世紀中ごろより見られだした。Credit-carditisというらしい。へぇー

皮疹のない帯状疱疹 Zoster Sine Herpete
ヘルニアによる坐骨神経痛をさらに刺激する

外傷
骨盤骨折、近位ハムストリング損傷後、神経の過度な伸展後など
筋内血腫や腱損傷は、重度の坐骨神経痛を引き起こすことがある
後方への股関節脱臼や大腿骨骨折で、神経が挟まれて痛みが起こることがある
臀部注射による障害もある

産婦人科系問題
子宮内膜症で起こることがある。とくに右側に多い
卵巣嚢腫や妊娠後期の子宮による圧迫でおこることがある
分娩中の損傷でもおこる


無治療で、1/3の患者は2週間以内に、3/4の患者は3か月以内に症状改善
体を動かすことができるなら動かしたほうがいい
各種痛みどめで効果が確実なものはない

ヘルニアが原因の場合、手術をした方が早く痛みが良くなる
しかし、1年後の痛みや障害の程度は手術してもしなくても同じ
なので、手術を先延ばしにして痛みが良くなるかフォローするのは良いかも
もちろん、膀胱直腸障害があれば手術適応



2015年3月28日土曜日

NEJM Case10-2015



先ほど旅行から帰ってまいりました。
遅くなりましたがNEJM Case Recordです。
本文はこちら


Case 10-2015
A 15-Year-Old Girl with Graves' Disease and Psychotic Symptoms

【患者】グレーブス病がある15歳女児
【主訴】精神病症状

3か月前、甲状腺機能亢進症状出現し、TSH低値とシンチによりグレーブス病と診断され、アテノロールとメチマゾールが開始となった。
5週前、身体の見た目についてイライラすることが増え、友達がいなくなった。
3週前、どこにいても声が追いかけてきて、悪魔に狙われていると妹に訴えた。自傷や自傷未遂を繰り返し腹部と手首に痕あり。毎朝3時には目が覚める。不安を訴え、食事をとらなくなった。

身長166cm、体重85.6kg、BMI 31.1
血圧137/81、心拍110整、呼吸数28、体温とSpO2は正常。見当識正常。
涙を流しさびしそうでそわそわしているが協力的。
血算、電解質、糖、腎機能正常。鉄、VitB12、フェリチン、甲状腺以外のホルモン正常。
毒物スクリーニング陰性。妊娠反応陰性。TSH<0.01。
メチマゾール増量。オランザピンとロラゼパム開始。6日目で精神病症状落ち着き、気分も明るくなった。

2週間前に退院。過度に信心深くなり、突然教会を変えたりした。
8日前、ネットで知り合った男性に会うために家を出て、翌日警察が保護、病院へ搬送。抑うつ気分とエネルギーのなさを感じているが、希死念慮と幻覚はなし。



3か月前から重症のグレーブス病に罹患している15歳女児に現れた精神病症状の原因は何でしょうか。
最初に答えを言ってしまうと、この症状はグレーブス病によって引き起こされたものであると考えられるそうです。

甲状腺機能亢進症は、イライラや心配などの精神症状は有名ですが、本症例のような躁症状や精神病症状は稀とのことです。どちらかというと甲状腺機能低下症で見られることが多いです(myxedema madness, myxedema psychosis)。

しかし、双極性障害や精神病の家族歴のある患者では特に、甲状腺機能亢進でも躁症状や精神病症状がみられることがあるそうです。治療開始後するに症状が出ることが多く、甲状腺の機能が亢進から正常に移行するときに起きやすいのではと考えられています。


私なら、このような患者さんに出会ったら、まず薬物と譫妄を除外したいと考えます。
いわゆるtreatable dementiaに内包する各種疾患やAIUEOTIPSが鑑別疾患に含まれるのではないでしょうか。


甲状腺機能亢進症の治療開始直後に発症した精神病症状の症例でした。


~Clinical Pearls~

甲状腺機能亢進症の治療開始直後に精神病症状が発症することがある


2015年3月21日土曜日

「皮膚でわかる内科疾患」(医学書)



久しぶりの医学書紹介です。
「新・総合診療医学 病院総合医学編 第2版」の中で、引用文献として紹介されていたので中古で購入しました。





前半は、皮膚症状からこんな疾患が考えられるという視点で、
後半は、この全身疾患ではこんな皮膚症状がみられるかも、という形で書かれています。

皮膚科のアトラスは見ていて飽きないですね。
日常診療でよく目にする湿疹や接触性皮膚炎などを除けば
皮膚科疾患は一見して診断が想起できるかが鍵となるため
マニアックな疾患も含めて目を肥やしていくのは有用なのかなと朧げながら思います。

snap diagnosisできたらカッコいいだろうなーと夢想しながら読むと非常に面白い本です。
(実臨床はそんなに簡単な話ではないことは了解しておりますが。)

・肝斑が眼周囲や側頸部に生じたら悪性腫瘍潜在を考えよ
・下肢のリベドに結節性病変を伴ったら、結節性多発動脈炎を考える。時に多発性の脳梗塞を伴うこともある(Sneddon syndrome)。

など、マニアックなClinical Pearlsをたくさん生成できます。
家庭医にとっては流石に無駄知識ですかね。無駄な努力が大好きな僕にとっては、娯楽としての楽しみがあります。



2015年3月19日木曜日

NEJM Case9-2015



今週のNEJM Case Recordです。
本文はこちら

Case 9-2015
A 31-Year-Old Man with Personality Changes and Progressive Neurologic Decline

【患者】19年前に交通事故で頭部外傷を負った31歳男性
【主訴】人格の変化、進行する神経学的障害

3年前から、音楽をずっと聞いたり、訳わからん買い物をしたり、吐くまで酒やたばこをしたり、人づきあいが亡くなったりという人格変化が始まった。生まれた子のミルクをうまく作れなかったりもした。

CTは以下の通り。前頭部の軟化は19年前の交通事故によるものだろう。しかしそれ以外のところも萎縮や異常信号がある。
とりあえずうつという診断で薬剤開始していたが効果なし。



1年前から意思疎通できず、時に失禁。いまは歩行、食事もできない。
診察では、命令に従うことができない、仮面顔貌あり。眼球運動は正常、指鼻試験も正常。
筋量減少あり、線維束攣縮なし。四肢筋緊張亢進し歯車様硬縮あり、ミオクローヌス時にあり、両側把握反射↑

薬剤:トラゾドン、ベンズトロピン、ヒドロキシジン、オメプラゾール、ハロペリドール


さーて、なんでしょうかねー。
3年の経過で進行した人格障害、神経機能障害ですね。
感染症(梅毒、HIV、ウイルス脳炎など)、金属中毒、神経変性疾患、自己免疫疾患などが鑑別だと私は考えました。漠然としすぎていますが。
treatable dementiaの検査(ビタミン、甲状腺など)はすべきだと思います。何か見つかる気はしませんが。

dementiaをみる場合、最初の症状に注目すべしとありました。
たとえばアルツハイマー病では、脳の後方がまず障害されるため、覚えられない、ことばが出ないといった症状がまず出ます。
本ケースでは、精神病的症状がまず出ています。非優位半球の頭頂葉、島皮質、眼窩前頭皮質の障害が考えられます。


急速進行の認知症(rapidly progressive dementia)の鑑別が載っていました。
CJD、ウイルス脳炎、中枢神経限局性血管炎(PCNSV: primary central nervous system vasculitis)、傍腫瘍症候群、自己免疫性脳症

傍腫瘍症候群による中枢神経症状といえば
肺小細胞がんなどによる辺縁系脳炎、卵巣腫瘍による抗NMDAR脳炎、あとはstiff-person症候群などが思いつきます。
意識していないと傍腫瘍症候群という鑑別は出てきにくいですね。

PCNSV(primary central nervous system vasculitis)は初めて知りました。
PACNS(primary angiitis of the central nervous system)ともいうらしいです。
以下、UpToDateJAMA Neurologyの総説を基に記載します。

PCNSVは脳の小~中血管を侵し、雷鳴頭痛や人格障害、意識レベル変化などを起こします。
脳脊髄液は正常所見で、画像も非特異的な変化であることが多いため、診断のため脳生検をすることもあるみたいです。
血管攣縮を起こす何らかの原因(妊娠、偏頭痛、薬剤)を探る必要があります。
治療はステロイドとシクロフォスファミドの併用です。骨粗鬆症とPCPの予防をする必要があります。

主な鑑別疾患はRCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)です。
雷鳴頭痛が数日~数週間周期におき、同時に神経所見も呈することがあります。
この場合、シクロフォスファミドのような細胞毒性の強い薬剤を使う必要はないので、しっかり鑑別する必要があります。



結局、一番可能性が高いのは前頭側頭型認知症(FD)だろう、だそうです。
えー!28歳初発のFDなんてあるのー!と思いましたが、読み進めてみると色んな発見が。

まず、FD一般について。
・発症は60歳代が多いが、60歳以下の認知症で最も多い原因でもある。
・精神病的症状で初発が多い。
・10-15%でAD遺伝が見られる。

・左半球が障害→失語症がメイン
・右半球が障害→精神病的症状がメイン(behavioral variant)

・behavioral variantの主症状は6つ(本ケースでは5つ当てはまっている)
 脱抑制、無感動、同情や共感の欠落、反復行動、口唇傾向(hyperorality:何でも口に入れる状態)、実行能力の欠落


FDは3つのサブタイプに分かれるそうです。初めて知りました。

①tauサブタイプ
いわゆるPick病。50-70歳代が初発で、認知症がゆっくり進行していきます。家族性は稀で、パーキンソニズムを呈することがありますがALSとの関連はほぼ間違いなくありません。

②TDP43サブタイプ
70歳前半で初発が多く、behavioral variant + ALSとなることが多い。年齢を除けば本ケースの特徴と一致する。

③FUSサブタイプ
もっとも稀なタイプ。初発は30-40歳代で、behavioral variant + ALSとなることが多い。病歴からは最も可能性が高い。



剖検も踏まえての最終診断は以下の通り。
Frontotemporal lobar degeneration with tau-positive inclusions (Pick’s disease subtype) due to a Gly389Arg MAPT mutation, resulting in the behavioral variant of frontotemporal dementia with parkinsonism


というわけで、28歳初発の前頭側頭型認知症のケースでした。


~Clinical Pearls~

・認知症は初発症状に注目する。

・rapidly progressive dementia:CJD、ウイルス脳炎、PCNSV、傍腫瘍症候群、自己免疫性脳症

・前頭側頭型認知症は、失語症がメインの型と行動障害がメインの型がある。

・behavioral variant:脱抑制、無感動、同情や共感の欠落、反復行動、口唇傾向、実行能力の欠落



2015年3月14日土曜日

女性の健康問題のリスクを病歴から探る



最近は、第2版が出た総合診療医学の赤本・青本を読んだり




東野圭吾を読み漁ったり



新書の海におぼれたり



ハートのかけらを集めたりしております。



BMJ Openより、女性の健康問題についての記事です。

Nagai K, Hayashi K, Yasui T, et al. 
Disease history and risk of comorbidity in women’s life course: a comprehensive analysis of
the Japan Nurses’ Health Study baseline survey. 
BMJ Open 2015;5:e006360. doi:10.1136/bmjopen-2014-006360


日本の女性看護師49927人を対象にした前向きコホート研究です。

まずは女性によくある疾患の罹患年齢のピークについて。

子宮内膜症
36.0
貧血
36.0
偏頭痛
44.8
子宮筋腫
44.8
子宮頸がん
44.8
甲状腺疾患
49.2
乳癌
50.0
胆石
52.2
くも膜下出血
55.1
TIA
55.1
子宮体がん
55.9
糖尿病
57.3
胃癌
57.3
脳梗塞
58.8
卵巣癌
63.9
大腸癌
≥65
狭心症
≥65
骨粗鬆症
≥65
高血圧
≥65
脂質異常症
≥65


45歳以下でピークが来る疾患(下図A)をearly-onset diseasesと呼ぶことにします。
45-54歳、いわゆる更年期でピークになる疾患(下図B)は甲状腺疾患、乳癌、胆石です。
残りは、閉経後に発症のピークが来ます。



























そして、early-onset diseasesである子宮内膜症、貧血、偏頭痛、子宮筋腫について、他疾患との関連をみるとこんな感じ。





















early-onset diseases同士では有意に相関がみられます。
そして、early-onset diseases以外との相関は、以下で確認されました。

子宮内膜症:卵巣癌 (2.16-6.19)、子宮体癌 (1.14-5.04)、脳梗塞 (1.15-3.85)
貧血:胃癌 (1.68-5.08)
偏頭痛:TIA (2.29-4.09)、骨粗鬆症 (1.71-2.62)、脳梗塞 (1.26-3.30)、狭心症 (1.49-2.67)
子宮筋腫:大腸癌 (1.48-3.61)


まとめると以下のようになります。

・子宮内膜症、貧血、偏頭痛、子宮筋腫は女性で45歳以下に発症ピークがあるearly-onset diseasesである。

・early-onset diseasesのどれか一つがあると、他のearly-onset diseasesのリスクが上がる。

・early-onset diseasesに罹患した女性は、その後特定の疾患に罹患するリスクが上がる。


この論文では、early-onset diseasesの病歴をしっかり取ることで、その後に罹患する可能性が高い疾患に備えることができるのでは、と結論されていました。


2015年3月12日木曜日

NEJM Case8-2015



NEJM Case Recordです。
ざっくりまとめます。本文はこちら

Case 8-2015
A 68-Year-Old Man with Multiple Myeloma, Skin Tightness, Arthralgias, and Edema

【患者】多発性骨髄腫の治療を受けている68歳男性
【主訴】皮膚緊満感、関節痛、手足の腫れ

約2年前に多発性骨髄腫の診断をされ、多剤薬物療法開始。9カ月前に自家幹細胞移植し完全寛解。

約1年前より腰痛あり。3か月前の造影MRIにて圧迫骨折と多発する骨融解像あり。

2カ月前より手足の腫れと疼痛、皮膚緊満感出現。体幹四肢にびまん性色素沈着あり。レナリドミドによる維持療法開始になったが症状悪化のため中止。びまん性の関節痛も出現。
関節fat padの針生検では悪性細胞またはアミロイドはなし。

来院日、関節痛あり(6点/10点)。アシクロビル、スタチン、オメプラゾール服用中。
バイタルに異常なし。
両側のMP関節、PIP関節に腫脹圧痛あり。
膝より下に浮腫あり、色素沈着あり、発赤熱感なし。
CRP 54.7、CK正常値、各種抗体(SS-A, SS-B, Sm, RNP, Jo-1, Scl-70, CCP)陰性。
既往歴にGERDあり。家族歴に関節リウマチあり。
ステロイド開始。

5週間後、強い疲労感あり体がなかなか動かない、約3.5kgの体重減少。
関節痛は2/10点になったものの、こわばりや腫脹は依然強い。
黒色便あり、便潜血3+。上部内視鏡と生検で胃前庭部毛細血管拡張症と判明。
下部消化管は良性ポリープのみ。

3か月後、増悪する息切れあり。CTその他でNSIPに一致する所見あり。
またCTで、食道のびまん性拡張あり。

IVIGとボルテゾミブが開始も、5日後症状は悪化。下肢の関節が曲げられず、車いす使用。
その4日後、意識障害出現。言葉を見つけにくい。経口摂取低下。人に対してのみ見当識保たれている。血圧98/63、あらたに眼窩周囲と顔面の腫脹が出現。
Hb 8.1, Plt 88000, 末梢血破砕赤血球あり。BUN86, Cre 4.38, eGFR 14。フィブリノーゲンとはプログロビンは正常値。
尿検査でアルブミン2+、色素顆粒円柱あり、非変形赤血球あり、細胞円柱なし。


problem listを作ってみました。

○比較的急速に進行した筋骨格系の問題
 # 四肢の腫脹、皮膚緊満感
 # 多関節痛/腫脹、関節可動域制限
 # びまん性色素沈着

○急性期
  # 血圧低下
 # 軽度意識障害
 # 急性腎障害(thrombic microangiopathy によるものか)
 # 浮腫

○亜急性期
 # 息切れ→間質性肺炎
 # 貧血→胃前庭部毛細血管拡張症

○慢性期その他
 # 多発性骨髄腫寛解状態
 # 種々の薬剤投与
 # GERD、食道のびまん性拡張
 # リウマチ性疾患の家族歴あり


胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia GAVE)という疾患を初めて知りました。
その名の通りの疾患で、短期間に貧血が進行し輸血が頻回に必要になることが多いそうです。

内視鏡所見からwatermelon stomachともいうそうです。
下の画像はUpToDateから。確かにスイカに見えますね。

UpToDateによれば、肝硬変や強皮症と関連するらしいです。





















本文の記載に従って、色素沈着と多関節痛(炎)を来す疾患について考えましょう。
私が思いついたのはこのくらい。zebraに思えて仕方がないです。
・POEMS 症候群
・アミロイド―シス
・ヘモクロマト―シス
・薬剤
・造影MRIによる腎性全身性線維症

上の3つは検査で否定的ですね。
腎性全身性線維症は、eGFR30以上だとまず発症しないそうです。
造影MRI検査時はeGFR>60なのでまずありえないかなと。
線維化はおもに皮膚ですが、肺、心、神経を侵すこともあるみたいです。

とここまでで行き詰りました。
本文を読むと、骨髄腫に関係する皮膚疾患が何個かあるみたいです。

強皮症
先行感染、糖尿病、MGUS、多発性骨髄腫との関係性があるそうです。
皮膚所見の分布が非典型的ですが、その他の所見は一致していますね。
GERD、間質性肺炎も説明できます。GAVEについては先述の通りです。
急性腎障害、軽度意識障害は、腎クリーゼで説明できます。高血圧はないですが。

なんで思いつかなかったのでしょうか…。
多関節炎の鑑別をしてしまったことと
多発性骨髄腫との関連を知らなかったことが原因ですね。

UpToDateには
Frank inflammatory arthritis is uncommon in SSc.
Joint pain, immobility and contractures develop as the result of fibrosis around tendons and other periarticular structures.
と書いてあります。
関節炎ではなく、関節痛、可動域制限、拘縮を診るのですね。
palpable and/or audible deep tendon friction rubs(腱がこすれる音)も大事な所見らしいです。


硬化性粘液水腫(scleromyxedema)
初めて知りました。
粘液水腫性苔癬の一形態で、ほぼ必ずIgG MGUSに合併するみたいです。
重症なものは多発性硬化症によっておこるとのこと。
診断基準は以下の4つです。本例では丘疹がないですね。

 ・丘疹と皮膚硬化が全身にある
 ・皮膚生検でムチン沈着、線維芽細胞増殖、線維化がある。
 ・モノクローナルのγグロブリン増殖
 ・甲状腺疾患がない


好酸球性筋膜炎(Shulman症候群)
骨髄腫を含む血液疾患で起こるみたいです。
手足や時に体幹から始まる急速進行の皮膚病変が特徴です。
オレンジの皮様の皮膚拘縮は有名ですね。
血中好酸球数が上昇していないので今回は否定的です。



というわけで、多発性骨髄腫寛解状態の68歳男性が強皮症を発症し、診断の遅れから腎クリーゼになったという症例でした。


~Clinical Pearls~

強皮症の腎クリーゼに注意。BUN, CreだけでなくRBC, Pltも確認。

強皮症の関節所見は、関節痛、可動域制限、拘縮。

GAVEは内視鏡でスイカの皮に見える。肝硬変と強皮症に注意。

骨髄腫と関係のある皮膚疾患:強皮症、硬化性粘液水腫、好酸球性筋膜炎


2015年3月5日木曜日

全身の搔痒(NEJM Clinical Problem-Solving)



今週のNEJMに載っている、Clinical Problem-Solvingです。
いつものごとくさらっとまとめます。本文はこちら


【患者】58歳女性
【主訴】2週間つづく全身の搔痒

3週前に軽い感冒用症状があった。
2週前より全身がかゆく、どんどん悪化している。皮疹はない。
食欲もなく、疲れやふらつきも感じる。
慢性副鼻腔炎に対してステロイド点鼻と、カルシウムとビタミンDを内服中。
身体診察上は特に異常なし。

皮疹のない全身搔痒なので、全身性の疾患を考えます。
私の鑑別は、胆汁酸鬱滞(黄疸)、腎障害、薬剤、骨髄増殖性疾患、悪性腫瘍、(妊娠)でした。
この記事によれば、さらにHIV感染甲状腺機能亢進症が鑑別に上がるようです。

骨髄増殖性疾患は具体的にはPV(真性多血症:polycythemia vera)やET(本態性血小板血症:essential thrombocythemia)を想起しました。
その場合、入浴などで温まると痒くなる、が典型例だと思います。
CMLでも好塩基球がヒスタミンを放出して搔痒が生じると思います。
悪性腫瘍は、リンパ腫や白血病の他に、気管支癌で全身搔痒が出やすいという記述をどこかでみました。

全身搔痒を引き起こす薬剤はあるのでしょうか。一応鑑別にはあげましたが。
調べてみると、オピオイドやイナビルをはじめ、結構あるみたいです。
肝障害や腎障害を引き起こして搔痒、という経路も考えられます。


血液検査です。
Na 129, K 4.9, Cl 93, HCO3 25, BUN 121, Cre 10.6, Glu 114, Ca 7.6, T.Bil 0.2, T.P 6.1, Alb 2.4
WBC 14200(Seg 47%, mono 14%, Lym 37%, Eos 0%), Ht 38%, plt 144000, 胸部Xp 異常なし
1か月前の血液検査では異常がなかったようです。

BUNとCreがとんでもないことになってますね。
全身搔痒の原因は腎障害ということでいいでしょう。たぶん尿毒症になってます。
さっそく、腎障害の鑑別をすすめていきます。


尿量変化なし。血尿1+、蛋白尿3+。RBCは変形していない。脂肪円柱あり。FENa 12%。エコーで両側腎やや腫大。その後の検査で尿蛋白22g/day(!)。

腎性の腎不全です。ネフローゼ症候群の基準を満たすかなと思ったら案の定そうでした。
脂肪円柱があるので糸球体疾患でしょう。
ただ、変形赤血球や赤血球円柱がないので腎炎とはいえないとのことです。
ネフローゼ症候群の半分は続発性のもので、糖尿病やSLE、感染後などが多いそうです。
NSAIDsなど腎障害(急性尿細管壊死)を引き起こす薬剤は飲んでいないようです。
腎の腫大は急性を意味します。慢性腎不全だと腎は縮小します。

膠原病の各検査は異常なし。ASO陽性で咽頭培養から溶連菌が出てきました。
こういわれると、私はすぐに急性糸球体腎炎に飛びつきたくなるのですが、先述の通り腎炎は考えにくいのだそうです。そんなものなのでしょうか。


溶連菌感染後に急性腎障害とネフローゼ症候群を引き起こした58歳女性
この疾患スクリプトにピッタリくる疾患として、collapsing glomerulopathyが挙げられていました。

…なにそれ?初見です。

HIV感染後に発症するためHIV関連腎症といわれていましたが、HIV感染がなくても起こることが分かって今の名前になったみたいです。
巣状糸球体硬化症の一亜型という扱いですが、独立した疾患にしようという動きもあるとのこと。

特徴はCre著明高値と大量の蛋白尿です。
腎炎を示唆する尿所見がないことも診断を支持します。
この患者さんでは生検で確定診断となりました。

続発性collapsing glomerulopathyの原因は以下の通りです。
HIV
他の感染(パルボ、CMV, HCVなど)
薬剤(ビス、IFNα、バルブロ酸など)
自己免疫疾患(SLEなど)、
TTP/HUS(thrombotic microangiopathyという)
血液疾患(血液貪食症候群など)


予後は不良。治療はステロイドや免疫抑制薬などですが効果はまちまちだそうです。


というわけで、全身搔痒を主訴にやってきた急性腎障害の症例でした。


~Clinical Pearls~

全身搔痒の鑑別は、胆汁酸鬱滞(黄疸)、腎障害、薬剤、HIV感染、甲状腺機能亢進症、骨髄増殖性疾患、悪性腫瘍、妊娠。

腎炎では破砕赤血球や赤血球円柱がみられる。

大量の蛋白尿とCre異常高値を呈する急速進行の腎障害をみたらcollapsing glomerulopathyを疑う。


2015年3月4日水曜日

線維筋痛症患者はmultimorbidityかつpolypharmacyである



今日のBMJ Openより。
線維筋痛症患者はmultimorbidityかつpolypharmacyである、という記事です。

A cross-sectional assessment of the prevalence of multiple chronic conditions and medication use in a sample of community-dwelling adults with fibromyalgia in Olmsted County, Minnesota


1111人の患者さんのカルテをひっくり返して
併存疾患と処方薬剤について調べたものです。


併存疾患が7つ以上の患者は、なんと半数以上!

















薬剤に関しては以下の通り。
そして、40%以上の患者さんで、線維筋痛症の症状のためにのんでいる薬剤だけで3つ以上とのことです。10%以上の患者さんでは、そのような薬剤の数が5つ以上です。

















併存疾患で多いのは以下の通り。

慢性関節痛/変形性関節炎(88.7%)
偏頭痛/慢性頭痛(62.4%)
高脂血症(51.3%)
肥満(48.0%)
高血圧(46.2%)

線維筋痛症が肥満の人で多いというのは前から言われているみたいです。
意外なのは、いわゆる生活習慣病の割合が高いことです。糖尿病も17.9%でみられています。


薬剤では以下の通り。

睡眠薬(33.3%)
SSRI(28.7%)
オピオイド(22.4%)
SNRI(21.0%)


また、うつ(75.1%)不安症(56.5%)、気分変調(19.4%)も多く
不眠(50.6%)やむずむず脚症候群(20.3%)の割合も高いです。
(2010年の診断基準ではunfresfing sleepが項目に入っていたので当たり前といえば当たり前です)



線維筋痛症の患者さんを継続的に診ていくときは、併存疾患と服用中の薬剤をしっかりみましょう、と結論付けられています。
例えば、SNRIに高血圧と肥満を悪化させる(それゆえ変形性関節炎も悪化させる)働きがあったり、線維筋痛症に対する効果が明確にわかっていないオピオイドがたくさん使われていたりと、やはりpolypharmacyになると注意すべきことがたくさんですね。



~Clinical pearls~

線維筋痛症はmultimorbidity、polypharmacyになりやすい。


2015年3月3日火曜日

SEID(旧:慢性疲労症候群)



AAFP(American Academy of Family Physicians)の昨日のNewsを読んで
そういや慢性疲労症候群の名称が変わったという論文をちょっと前に見たなと思いだしたので
軽くまとめてみます。

AAFP News(3/2)
Chronic Fatigue Syndrome: Renamed and Redefined

論文はこちら(2/21のLancet)
What's in a name? Systemic exertion intolerance disease



myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome(ME/CFS)について
(Am Fam Physician. 2012 Oct 15;86(8):741-746.に基づく)

・6か月以上の重篤な疲労感
・運動後不快感、寝てもすっきりしない、記憶・集中力の喪失、筋痛、多関節痛、咽頭痛、リンパ節圧痛、新規頭痛のうち4つ以上があてはまる
(以上、CDC基準による)

・アメリカで200万人以上が罹患しており、多くは診断されていないと推定される。
・女性の頻度は男性の2倍。40歳以上で多い。

・原因は不明。EBV慢性感染によるとの説が最も有名。免疫系の異常があるのはほぼ確定。
・治療は認知行動療法と段階的な運動療法。効果が証明された薬物療法はない。

・ME/CFS疑い患者のRed Flag Signはこちら
胸痛 : 心疾患
局所神経症状 : 中枢神経の悪性腫瘍や膿瘍、多発性硬化症
炎症反応、関節痛 : 自己免疫性疾患(関節リウマチやSLE)
リンパ節腫大、体重減少 : 悪性腫瘍
息切れ : 呼吸器疾患


今回、systemic exertion intolerance disease(SEID)に名称が変更になりました。

理由はいろいろあるようだが
・診断のやり方がいろいろありすぎる
・名前が勘違いさせやすい(怠けているだけ、たいしたことないと思わせてしまう)
この2つが主だと思います。

新しい診断基準は以下の通り。すべて満たしたらOKです。

・仕事、教育、社会、または個人活動が罹患前の水準で行うことができない状況が6か月以上続き、さらに、ある日から疲労感(とても強いことが多い)も出てくる。疲労感は、運動のしすぎによるものでなく、休憩してもそんなに良くならない。
運動後の不快感がある
寝てもすっきりしない
認知機能が障害されている、立ったままでいられない、またはそのどちらも


診断されていないことが多いこの疾患、しっかり理解し記憶する必要がありますね。
さらに詳しくはこちらを参照ください。
Beyond myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome Redefining an illness


患者さんの生の声(↑リンク先より引用)を今回のパールとします。


~Clinical Pearls~

“When I do any activity that goes beyond what I can do—I literally collapse—my body is in major pain. It hurts to lay in bed, it hurts to think, I can't hardly talk—I can't find the words.”

“ I feel my insides are at war.”



2015年3月1日日曜日

psychogenic nonepileptic seizures(PNES)について



ちょっと前に、とあるSNSでPNESという用語を目にしたので、調べてみました。
Psychogenic nonepileptic seizuresの略で、訳すなら「心因性非てんかん性痙攣」でしょうか。
てんかんの痙攣に似た発作が起こるが、器質的な異常はなく、精神的な影響により発作が起こるそうです。

そういえばそんな疾患聞いたことがあるなと思いましたが、詐病(malingering)の一種だろうと不十分かつ不適切かつ有害な理解をしていました。
調べてみて自分の不勉強をひどく恥じたので、UpToDateを参考に自分なりにまとめてみます。


PNESは、いわゆる「機能的疾患」に属します。

例えば、車が急に走らなくなって、その原因がタイヤのパンク、アクセルの回路の故障などであれば、これを器質的疾患といいます。
一方、エンスト、ギアがパーキングのまま、シートブレーキが入っているなどが原因で車が走らないとき、これを機能的疾患とよびます。

機能的疾患では、車の部品が壊れているわけではないですから、各種検査では異常が見つからないことが多いです。
ですが車は動きません。実際に動かないのです。ここが重要なポイントですね。

PNESは、以前はpseudoseizureといわれていたようですが、決して偽物ではありません。
患者さんが嘘をついているわけでも、演技をしているわけでもなく、本当に発作が起きている、ということをまず理解する必要があります。
そして、検査でどこにも異常がないという本来なら嬉しい情報で逆に悩んだり、本来不必要な抗痙攣薬を服用してさらに発作が出たりなどしてしまうわけです。

PNESをPNESだと診断することは大事ですが、それは患者さんが自分の状態に対して適切な理解を得て、不適切な治療をされることなく、生活を回復させていくために必要なのであって、医療者は決して「お前嘘ついてるだろ、俺には分かるんだ」という態度をとってはいけません。倫理云々の以前に、事実関係が間違っています。


PNESとてんかん発作の相違点をまとめます。
実際はこんなに明確に区分できるものではないことは留意してください。
PNESとてんかんが併発していたり、PNESなのに抗痙攣薬を服用させられていたりなどで、どっちにも分類しにくいことはままあります。


てんかん
PNES
持続期間
1-2分以内
2分以上
開眼が多い
閉眼が多い
開眼に抵抗したらさらに疑わしい
動き
決まった動きの繰り返し
全身の動きが同期している
一定または進行していく
色んな動きが混ざっている
骨盤を前に出す、左右に転がる、強直反張
波がある
(ただし、1/3の患者さんで典型的なてんかん発作がおきる)
発語
ないことが多い
横隔膜や声帯がけいれんして声が出ることはある
時々ある
遷延する発作時脱力
非常に稀
時々ある
失禁
けいれん発作ではよくある
それほどない
自律神経症状
大発作ではチアノーゼ、頻脈がよくみられる
あまりない
発作後
混乱、うとうと
半数で頭痛あり
すぐ覚醒、見当識も元通り
頭痛は稀
その他

声掛けに反応
前兆がある


発作が起きる状況も大事です。

PNESでは目撃者がいる場面で発作が起こることが多いです。
脳波検査のため電極をつけているときに起きたりするとますますPNESっぽくなります。

一方、寝ている間にはあまり起こらないです。
尤も、患者さん自身が夜に発作が起きたと主張することや、寝ているようにみえるけど脳波では覚醒状態ということもあるみたいです。

PNESの発作はストレス下で多くなり、月経周辺で少なくなるとのこと。
また、病院に来る患者さんの殆どで、1日1回以上発作が起こるそうです。
発作が1週間に1回以下ならPNESの可能性は低くなります。


診断は、発作時の脳波検査で異常がないことを確認します。
大抵はモニターを初めて数日以内に発作が起こります。

PNESの診断がつくまで、実に9-16年もかかるそうです。
できるだけ早期に診断したいですね。
30代の女性で発症が多いみたいなので、年齢と性別も重要なポイントです。


前頭葉てんかんは、臨床症状が非典型で発作時脳波も正常なので、PNESと間違えやすいそうです。鑑別時につねに考慮しましょう。


治療は行動認知療法などの精神療法が中心です。
患者さんの疑問に答えていくためにも神経学的フォローアップを行うのが良いとのことです。
薬物治療は併存する精神疾患によります。個別性の高いケアが必要だとありました。


~Clinical Pearls~

PNESは意外と多い。間違っても偽物扱いしないこと。

PNESの発作の特徴を理解する。2分以上、閉眼、横に転がったり骨盤を突き出したりする、発作後すぐ覚醒、声掛けに反応など。