心不全患者の約半数は、心臓が硬くなっているHFpEFである。このタイプの心不全は、高血圧、肥満、糖尿病の既往歴のある高齢者に多くみられる。HFpEFの患者はプライマリケアで管理されることが多く、時には専門医との協働が必要である。心不全患者の数は増えているが,この集団を管理する最善の方法についての知見は限られており、このような患者のケアを改善することが急務となっている。目的
医師と患者・介護者のHFpEFの管理に関する視点や経験を探り、より良いケアモデルの開発に役立てることを目的とする。デザインとセッティング
イングランド東部、Greater Manchester、West Midlandsにあるプライマリーケアとセカンダリーケアを対象とした多視点の質的研究(multiperspective qualitative study)。方法
半構造化インタビューとフォーカスグループが実施された。書き起こしたデータは、フレームワーク分析を用いて分析され、正規化プロセス理論(NPT)で意味付けがなされた。結果
総計で50人の患者、9人の介護者/親族、73人の医師が参加した。診断の困難さ、疾患認識の不明確さ、管理の格差がHFpEFの管理に影響を与えうる重要な要因であることが明らかになった。また、NPTの構成要素である一貫性は、ケアを改善するためには、この疾患の同定、理解、認識を改善する必要があるという参加者の意見を反映したものであった。結論
HFpEFに対する一般への認知度と臨床での認知度を高め、HFpEFの管理に関して周知されている実践を明確にセット化したものを開発し、さらに,ケアシステムを利用しやすく,かつ心不全患者のニーズに合わせたものになるようにすることが急務である。
用語解説
・フレームワーク分析 (framework analysis)
5段階からなる質的分析法:data analysis, developing a theoretical framework, indexing, charting, synthesizing the data
詳細はhttps://www.magonlinelibrary.com/doi/abs/10.12968/ajmw.2010.4.2.47612
あるプログラムや知見を実装する際の理論.みんなが当たり前にできるようになるプロセスに関する理論.
1.Coherence 組織やその構成員が新しい実践提案を意味あるものとして理解できるプロセスに関する領域
2.Cognitive Participation 組織やその構成員が新しい実践提案に関わろうとするプロセスに関する領域
3.Collective Action 組織やその構成員が新しい実践を実行するプロセスに関する領域
4.Reflective Monitoring 新しい実践を実施後、振り返りによる評価吟味を行うプロセスに関する領域
詳しくは,藤沼先生のブログへ.以上の記載もそれの引用.
https://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2015/03/08/230213
HFpEFの研究と言えば,薬剤の効果をみる研究などが真っ先に思いつきますが,医師と患者/介護者の視点を探ることで,どのようにケアを実装していけばいいのかについて議論した,きわめて家庭医療らしい論文だと思いました.HFpEFという疾患の特性が実際の診療においてどのような課題を提起しているのかがよくわかります.HFpEFは、現状では、HFrEFのように明確なエビデンスのある薬剤がないため,背景疾患の管理や心理社会的因子への介入が肝になるので,そういう意味で今回のリサーチの切り口は「自然」なのでしょうが、こうやって形にするのは本当に難しいことですし、いい研究だと思います。