2020年9月28日月曜日

薬剤誘発性白斑


白斑vilitigoが,薬剤により起こることがあります.
phototoxic drug eruptionであろうと考えています.

drug-induced vilitigoの報告がある薬剤は以下の通り.

抗てんかん薬(カルバマゼピン,クロナゼパム,フェニトイン,バルプロ酸)
抗マラリア薬
抗がん剤
抗パーキンソン薬(レボドパ,トルカポン)
その他:βブロッカー,ドパミン,ガンシクロビル,インスリンなど

急に起こった白斑は薬剤性を疑うべきですね.


2020年9月21日月曜日

帰納的/演繹的アプローチと質的/量的データとの組み合わせ



Academic MedicineのLast Pageは,毎号,医学教育研究にかかわるトピックが一枚の図表にまとめられています.

今年7月号のAM Last Pageが,帰納的/演繹的アプローチと質的/量的データについてであり,まさに知りたいことでした.


帰納的inductiveは,from data to theoryとありますが,観察されるデータを集めて理論を構築するというやり方です.
一方,演繹的deductiveとは,from theory to dataで,まず理論(仮説)があって,それを検証するためにデータを取るというやり方です.

質的研究は帰納的アプローチ,量的研究は演繹的アプローチと単純にとらえられがちですが,実際は違うよというのがこのページの論旨です.
そもそも,帰納的/演繹的は二項対立ではなくスペクトラムがあり.さらに,各段階で量的/質的どちらの研究も成り立ちます.

①帰納的アプローチ
質的研究では,伝統的なグラウンデッドセオリーが当てはまります.観察されたデータに基づき現象を説明する理論を構築する手法で,観察者はtabula rasa,つまり何も書かれていない白紙のようにふるまうことが求められます.

量的研究では,探索的因子分析がここに当てはまります.調査票などから得られたデータを統計学的に解析し,背後にある理論的構造(これが因子です)を特定します.

②どちらかというと帰納的アプローチ
質的研究ではエスノグラフィーが当てはまります.ある集団の文化を観察したデータと,人間の社会的振る舞いに関する既存の理論とを組み合わせます.

量的研究では,構造方程式モデリングが当てはまります.あるデータセットを見た時に.それを説明できるような統計学的モデルを複数考えて,どれが最も当てはまるかを調べます.

③どちらかというと演繹的アプローチ
質的研究では,構成主義的グラウンデッドセオリーが当てはまります.構成主義は「見る人によってリアリティは異なる」という考え方にたちます.既存の理論を発展させることを目標にデータを解析していきます.

量的研究では,ベイズ統計学のアプローチが当てはまります.既存の知識やデータを用いた研究です.

④演繹的アプローチ
多くの量的研究はここにあたります.命題を検証するために帰無仮説を立てて統計学的に処理し有意差がでれば仮説を棄却し命題が証明されます.

質的研究では,内容分析が当てはまります.質的データを客観的かつ数量的に分析します.


それぞれの研究法は知っていましたが,このようにまとめるととてもすっきりします.


2020年9月14日月曜日

症例検討:DVT/PEの治療



経験したケースを基にしたひとりディスカッションです.
個人情報保護のため大幅に修正しました.もはや原形をとどめていないです.

心房細動,MRのある慢性心不全,COPD,慢性腎不全,認知症と,絵にかいたようなmultimorbidityの超高齢者.
息子と2人暮らしで,身の回りのことは何とかできていた.

ある日,トイレからの帰りに転倒し,廊下で動けなくなった.
夕方帰ってきた息子が発見し,なんとかベッド上に移動させたが,以降,左下肢の付け根を痛がっている.
鎮痛薬で効果なく,経口摂取が低下し,寝たきりとなった.
種々の事情で転倒から数日たってようやく救急受診.
(詳しくは書きませんが,このような場合,社会的な困難があるのだろうという仮説を立てて,診断ー治療のラインとは別に情報収集と評価を行います)

著明な脱水があり,Na 170と異常高値.慢性腎不全+急性腎不全.
心機能低下もしっかりあり,心不全増悪も隠れた病態でありそう.
もともと呼吸器+心臓+腎臓の機能不全が相互に関与し,下降期の病態であったのだろう.

発熱,ごく軽度の低酸素血症があり,画像上は片側の浸潤影と胸水がある.
(喀痰は当然とれず...)
左大腿痛については,X線骨折はなさそう.
というわけで鑑別を考える.

血液ガスは呼吸性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス.
呼吸性アルカローシス+片側大腿痛+片側浸潤影&胸水+この病歴なので
DVT+PEが想起される.(肺野は肺炎も起こしているのかもしれない.)
エコーで疼痛を訴える部位にDVTを確認.

さて,治療はどうするか.
日本ではDVT±PEの抗凝固療法はヘパリンがDOAC.
ただしDOACは腎障害があると使用が制限される.
具体的には,ア45ピキサバンとリバロキサバンはCCr15以下で禁忌,
エドキサバンはCCr 30未満で禁忌となる.

では,そこそこ腎機能が低下した患者でヘパリンは安全に使えるのか.
「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」では,CCr<30では未分化ヘパリン一択とある.未分化ヘパリンは腎排泄率30%である.
結局はリスクとベネフィットとを個々のケースで慎重に検討するほかないのでしょう.
なお,皮下注製剤のアリクストラはCCr 30以下で原則禁忌です.

腎障害患者での未分画ヘパリンの投与設計については,Clinical Kidney Journalのレビューにこのように記載がありました.

the traditional 75–80 units/kg loading dose and 18 units/kg/h maintenance dose for treatment of a venous TE for patients with severe kidney dysfunction is associated with supra-therapeutic levels. A more conservative dose of 60 units/kg loading dose and 12 units/kg/h maintenance dose is thus chosen for patients with severe kidney dysfunction. 

というわけで,初回投与60U/kg→持続投与12U/kgが推奨されています.
体格や血清Alb量をみて,もっと減らしてもよいかもしれません.

この患者では,腎障害が強いこと,るい痩著明で低Alb血症があることから,使うなら初回投与45U/kg→持続投与9U/kgくらいではじめて,APTTみながら調整,といった感じでしょうか.


ただ,この患者は,転倒によると思われる血腫が大腿にあり,静脈と交通していることが,下肢エコー時に判明しました.
こうなると抗凝固療法はリスクが高すぎる.

下肢静脈フィルターは,このような抗凝固ができない場合に適応となる.
やはり「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」によると,抗凝固療法がしっかりできるならフィルターは不要だし,PEの死亡や全死亡は減らないことが分かっているが,高齢者でフィルター留置が3か月以内の死亡リスクを軽減することも示されており,このケースでは適応は積極的に考えてもよいかもしれない.

このケースでは,著しい電解質異常があること,細菌感染合併が疑われること,全身状態から長期予後が見込めないこと,本人と家族の意志,社会的要因によるバリア等の複合的な要因があり,フィルター留置も行わず.DVTについてはそのままで経過を見るほかないということになった.全身状態が改善すれば,再度相談する必要がありそう.


2020年9月7日月曜日

質的研究の質評価の基準


Academic MedicineのLast Pageは,駆け出し医学教育研究者にとっては非常に勉強になります.
もちろん医学教育研究者でなくても,例えば家庭医療関連の論文を読む際にも参考になります.

今回は研究の質の基準について,量的研究と質的研究を対比する形で紹介します.


●エビデンスが真実であるかどうか
量的研究:内的妥当性
→観察された効果が,注目している独立変数の影響をどの程度受けているのか

ではどうすればいいのか?
・十分な検出力があるようにサンプルサイズを計算する
・介入内容を詳細に記述する
・脱落を減らす
・コントロール群を設定する など

質的研究:信頼性credibility
→研究知見が他者にとって価値があり,かつ信じるに足るものであるか

ではどうすればいいのか?
・複数の情報源,方法,研究者,理論を用いて,トライアンギュレーション(もとは三角測量という意味.いろんな視点で対象を見ることで,記述を厚くして信頼性を高める)を行う
・期間を長くしてデータを集める(prolonged engagement)
・データとその解釈を研究参加者に見せてフィードバックを得る(member checking)


●エビデンスが他の集団で適応できるのか?
量的研究:外的妥当性
→結果が研究参加者以外の一般の集団についてどの程度一般化できるか

ではどうすればいいのか?
・ランダム化したり層別サンプリングを行ったりする(集団の一般化可能性)
・他のコンテキストで研究を再度行う(生態学的一般化可能性)
・独立変数と従属変数との予測される関係を変えてみる(構造的バリデーション)

質的研究:Transferability
→知見が他のセッティングにおいてもどの程度成り立つのか

ではどうすればよいのか?
・知見とそのコンティストを詳細に記述することで,他者にとって意味のあるものにする(厚い記述)
・サンプリング戦略を説明する(典型例サンプリングなど)
・異なるセッティングにおける先行文献と得られた知見に通底するものを議論する


●エビデンスの一貫性
量的研究:信頼性reliability
→この研究を繰り返した時に一貫した結果が得られるか

ではどうすればよいのか?
・測定の繰り返しによる内的一貫性を推定する(古典的なテスト理論)
・測定に影響を与える変数の源を推定する(一般化可能性理論)
・項目,試験,人(受験者,評価者)のパラメーターを推定する(項目反応性理論)

質的研究:信頼性dependability
→知見が生み出されたコンテクストとの関係において,得られた知見が一貫しているのか

ではどうすればよいのか?
・新たなテーマが出なくなるまでデータを集める(飽和)
・継続的にデータを分析し,更なるデータ収集を行う(反復的データ収集)
・分析中に出てくる考えを用いて,データを継続的に再調査する(反復的データ分析)
・プロセスとトピックに対して柔軟でいる(flexible/emergent research design)


●エビデンスの中立性
量的研究:客観性
→個人のバイアスがどれだけ除去されて,価値判断のない情報が集められているか

ではどうすればいいのか
・盲検化を行う
・匿名化を行う
・オリジナルデータを保管しておく

質的研究:確証性confirmability
→研究者のバイアスではなく,研究参加者とセッティングに基づいて知見が作り出されているか

ではどうすればいいのか
・得られた知見に反するようなデータや文献を探す
・プロセスや結果を他者と議論する(peer debriefing)
・プロセスや研究者の役割や影響を振り返る(再帰 reflexivity)
・ステップや決定を記録する(audit trail)


むちゃくちゃ分かりやすいまとめです.
元論文をぜひご一読ください.