2020年8月31日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 5 final)

JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


604 意識障害,ミオクローヌス,尿閉を来したアマンタジン中毒の一例:腎機能の確認が必要
(タイトルにポイントが詰まっています.とても分かりやすくてよいタイトルですね)
(自分で処方したことはまだない薬ですが,処方されているのを見たことはあります.薬物の副作用はある程度覚えておく必要があります)

607 健康な高齢女性が急な嘔気,嘔吐,下痢で来院し,electrolytes depletion syndromeと診断した1例.
・80歳女性が数日前からの嘔気嘔吐下痢で受診.
・腎前性腎不全,低Na血症,低K血症あり.
・原因検索の画像検査で直腸巨大腫瘤あり.
・いくら補正してもK値は上昇せず.腫瘍摘出後に軽快した.
・繊毛腫瘍から大量に粘液が排泄されることで脱水と電解質異常が起こる.
(初めて知りました.臨床は奥が深い…)
(高齢者で腎前性腎不全,低Na血症,低K血症は,補正に気を取られるので原因の同定をしようという意識になりづらいです.)
(幸い5cm以上の腫瘤で起こるようなので,画像検査で腫瘤があることはすぐわかるとは思います.しかし2cmの腫瘤で起こることもあるようです.)

627 爪の圧迫によって特定できたJaneway病変
(ぜひポスターをご覧になってください.よく気付いたなぁと感服するほかないです)
(指趾末梢に病変がなくても,あきらめずに爪を押すようにします)

今回でこのシリーズは終了です.

2020年8月24日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 4)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


562 抗IL-6受容体抗体投与中に発熱やCRP上昇を伴わず発症した急性喉頭蓋炎の一例
・関節リウマチでトリシズマブを投与されている患者が,咽頭痛,嚥下困難のため診療所を受診した.
・発熱なし.白血球8640,Seg 81.6%,CRP 0.06.
・急性喉頭外炎を疑いX線検査でthumb sign確認.耳鼻科紹介で診断確定.
(抗IL-6抗体は血液検査だけでなく,発熱や倦怠感の症状も見えづらくなる,ということをまず知っておかなければいけません.この点,知識はあるものの普段の診療で頻繁に出会う薬剤でないので,パッと想起できない可能性があるなと思いました.)
(トシリズマブ(アクテムラ)やサリルマブ(ケブラサ)を投与されている患者は細菌感染症があっても熱がない,倦怠感がない,炎症反応がない.覚えます)
(このケースだと,咽頭痛と嚥下困難があるので,喉頭の画像検索にはたどり着けるかなと思います.採血ありきだと変なノイズが入ってしまいそうですね)


592 胆嚢炎を疑ったら~私,ときどき垂れて捻じれるんです~
(タイトルがすべて.鑑別疾患リストに入れていないと画像所見を見落としそうです)
(知らないと「何かおかしいんだけど,まあいいか」といってスルーしてしまうことは,胆嚢捻転症に限らずままあることです)


595 病歴聴取の重要性を痛感した急性肺塞栓症の一例
(overdose後の気分不良という触れ込みだったが,実際は肺塞栓症だったというケース)
(overdoseの病歴がなければ診断は難しくないけど,いわゆるred herringのためpremature disclosureに陥ってしまった.)
(このような診断エラーを共有してくださるとはとてもありがたいです)
(ポイントは病歴聴取の重要性ではなく認知エラーだと思います)


596 ニボルマブ投与中止後に急性発症1型糖尿病から糖尿病性ケトアシドーシスに至った1例
(免疫関連有害事象irAEは投与修了後半年までは発症する可能性がありますよ,ということです)
(irAEについては最低限の知識は入れています.こうやって素振りしておくといつか役に立つ…かも)


602 診断に苦慮した感染性胸部大動脈瘤の1例
(MSSA菌血症はsource不明はまま経験しますが,感染性大動脈瘤は確かにpitfallとなるかもしれないです.ただsource不明なら造影CTするような気がします.)
(そこにあっても疑わなければ見えない,というケースであり,やはり共有していただくことはとてもありがたいです)




2020年8月17日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 3)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

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症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
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ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


535 8年前からのめまいで受診した持続性知覚性姿勢誘発めまいの1例
・8年前に頭位変換時のめまいが出現
・浮動性.持続時間は数秒~数分.日に何度も繰り返す.
・特定の姿勢(立位,歩行,上を向くなど)で誘発される.
・身体診察では異常なし
(vertigoじゃないけど,症状が出るタイミングに再現性がある,というのがポイントなのでしょうか.History,History,Historyですね)

・PPPD(Persistent Postural Perceptual Dizziness)と診断.
・認知行動療法とSSRI/SNRIで改善.
(PPPDは新しい疾患概念として知ってはいたが,詳しく勉強していなかったので,良い機会になりました)
(VertigoでなくてDizzinessであることと,誘発は頭位に限らず立位や視覚刺激もありうることを覚えておこうと思います)
(怖いのは過剰診断ですね.つい最近も「めまい症」で近医からいわゆる抗めまい薬を出され続けていた若年糖尿病性ケトアシドーシスのケースがありました)


553 繰り返し急性上気道炎として診断,加療されていたが,複数回問診を行い診断に至ったHIV感染症の一例
・若い男性が3日前からの発熱で救急受診→上気道炎として対症療法
(ここまではよくある経過.)
・その2日後に解熱しないと病院外来受診.体幹四肢に丘疹あり.臨床的にインフルエンザと診断しタミフル処方.
(後医は名医ですが,これは頂けないですよね.5日間の発熱でインフルエンザはないでしょうし,この経過で体幹四肢の丘疹があれば,急性HIV感染症,伝染性単核症,マイコプラズマが想起されます.)

・さらに7日後,強い頭痛が生じ救急受診.無菌性髄膜炎で入院.ここで診断がついた.
(プライマリケアでHIVの見逃しを避けるのはchallengingだといつも感じています.急性の感冒様患者全員に詳細に性交渉歴を聴取するのは非現実的だと思います.このポスターの考察はとても建設的で家庭医の役割を重視したものになっていますが,やはり急性HIV症候群のillness scriptを有しているかどうかが診断に関しては最も重要なのではないかと思います.)


555 朝起きられないのは鉄欠乏症が原因だった.
・3年前から朝起きられず学校に行けない高校生
・貧血のない鉄欠乏があり,鉄補充したら症状が改善した
(こういうケースは超大事で,気付けるかどうかで患者の人生が大きく変わります)
(ポスターでは同施設で過去3年間の貧血のない鉄欠乏のケースがまとめられており,これがかなり勉強になります.)
(私も倦怠感や抑うつがある女性では積極的に鉄を測定していますが,このポスターを見るともっと対象を広げたほうがよさそうです)
(ただし,鉄欠乏は有病割合が高いので,単に合併しているだけの可能性もありますね.補充自体は害は少ないと思うので,しっかりフォローしなくてはいけません.漫然と投与して他の疾患を見逃すことがないようにしたいです)


2020年8月10日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 2)


JPCA学術総会がオンラインで開催されています.

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症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
括弧内は私のコメントです.
ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.


522. 訪問薬剤師が在宅医と専門医の橋渡し役を担うことで,薬剤性ジスキネジアを消失できた1症例

・幻視,幻聴に対して処方された抗精神病薬ブロナンセリンによる薬剤性ジスキネジアに訪問薬剤師が気づいた.
・患者の服に米粒がついている→食事に問題があるのではないか→食事の時間に訪問した→歯がカクカクしている→これって薬剤性ジスキネジアでは?→動画を取って処方医に情報提供→ほかの薬剤に切り替えてジスキネジア消失,という流れ.
(まるで推理小説ですね.衣服に米がついていることに気付いて,そこまで推論を働かすことができるというのは,プロフェッショナルの業ですね.)
(”服に米粒がつくようになった?内服薬を確認しなさい.”というClinical Pearlはいかがでしょうか)


524. チラーヂンS錠にて薬疹が生じ,チラーヂンS散への変更で改善した2例

・チラーヂンS錠の添加物がアレルギー反応を引き起こすことがあり,その場合は散剤に変えることで対応できる.
(知りませんでした.錠剤の添加物のアレルギーなんて思いもしませんでした)
(知らなければ,単純にチラーヂンを止めるという話になりますが,よく考えてみれば甲状腺ホルモンは本来体内で産生されるものであり,それでアレルギーというのは腑に落ちないのですね.)
(ポスターにはさらに細かい考察がなされています.知らなくては絶対思いつかないので,とても教育的な症例です.)
(”チラーヂンS錠でアレルギー?散剤にするか50µg錠を使いなさい”というClinical Pearlですね)
(それにしても,筆者の先生方はどうして散剤に変えると良いということを知っていたのだろう?専門医の間では有名なことなのかな.)


531. 関節外症状のみで発症し地域医療連携の中で早期診断が困難であった悪性関節リウマチの一例

・長期にわたる貧血と血清CRP高値.他の所見はGAVEのみ.
・半年後に後頭部に1cmの腫瘤が数個あり.
・総合病院皮膚科に紹介するなどしたが,生検されず適切な診断がされないまま経過.
・関節症状が全くない悪性関節リウマチ(腫瘤はリウマトイド結節)と診断したが死亡.
(筆者の無念さが伝わってきます.)
(このようなケースを報告してくださるのは本当にありがたいことだと思います.)
(専門医に紹介して,「××の疑い」として返書が来た時に,「そんなわけないじゃん」と思ってもそれ以上追求できない,というのは,小病院総合診療科のあるあるなのかもしれないです)
(不明熱患者に突然できた腫瘤,というキーワードで関節症状がなくてもリウマトイド結節を想起できるようになっておくとよいのかもしれません)
(筆者のドヤ顔が浮かぶような症例報告より,このようなエラーを克明に記録した症例報告の方が,学ぶものが多いです.自戒を込めて)


2020年8月3日月曜日

JPCA症例報告ポスターから学ぶ(part 1)


日本プライマリ・ケア連合学会学術大会がオンラインで始まりました.
自宅で学習講演が聴ける,しかもいつもは裏かぶりで聴けないものも全部聴ける,というのは素晴らしいですね.一方で参加者同士の交流がほぼなくなってしまうのは淋しいです.

私はポスターを3本出しております.よければご笑覧ください.

[P-症-569]薬におぼれる:入院が契機となり有害事象が生じたポリファーマシー
[P-症-628]CTで見落とし,身体診察で判明した急性腹痛の原因:内腹斜筋断裂
[P-活-124]健康の社会的決定要因を臨床現場に実装する~社会的バイタルサインの開発,実践,普及と今後の展望~

折角手元でポスターデータを閲覧できるので,
症例報告ポスターから学んだことをまとめてみます.
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ポスターの内容については,一般公開されている抄録にある情報の範疇で記載いたします.

510. 初回指摘の肝硬変に合併した肝肺症候群の一例

・肝硬変患者の低酸素血症で鑑別に入れる
(経験に乏しいので,いざ目の前に来ると頭が回らなさそう.症例報告を学ぶ意味はまさにそこにありますよね)
・立位,臥位でSpO2が変動する
(シャントによるplatypnea-orthodeoxia syndromeのことでしょうか.起坐呼吸とは逆で,坐位で呼吸困難感が増悪します.肝硬変患者で1例経験があります.)
・胸部造影CTでは末梢で肺血管拡張あり.コントラスト心エコー検査陽性が補助所見となる.
(私の診療セッティングでは肺血流シンチができないので,このあたりで診断がつけられることを目標にします.除外診断が前提ですが.)

512. シタグリプチン投与後に血小板減少症をきたした一例

これは単純に,へぇーそんなことがあるんだ,というものですね.
DPP-4阻害薬の一般的な副作用,というわけではなく,
どうやらシタグリプチンに特異的に起こるようです.

516. 離島での医療資源に乏しい環境で適切なマネジメントができためまい症の一例

・めまいの身体診察はHINTS PLUS
(本症例はHead Impulse Testで内耳障害のパターンを呈さなかったことが,中枢性めまいを疑う根拠となっている.)
・中枢性めまい患者の大半に糖尿病または脂質異常症の病歴がある
(血管リスク評価は,とくに心筋梗塞を疑うときに気にしますが,めまいを見る際にも意識したほうが良いですね)
この症例で素晴らしいのは,身体診察と現場での判断が搬送直後のMRIより優れているという点です.ぜひポスターをご覧になってください.

521. 医療機関と教育期間で密に連携し,重症頭部外傷患者の高校受験に取り組んだ一例

ただただ驚嘆する報告です.
「患者に寄り添う」という言葉は手垢がついた陳腐なものになってしまっていますが
医療現場がここまでできるのだと心が奮いたてられます.
いやぁ.すごいです.