2023年9月26日火曜日

今月号のAFM


今月号のAnnals of Family Medicineが、良い論文ばかりだったので、簡単に紹介します。

質的研究が多い号でした。やはり自分の興味関心と合っている研究手法なのだと思います。


Transgender People’s Experiences Sharing Information With Clinicians: A Focus Group–Based Qualitative Study

トランスジェンダーの患者が受診時に自分の情報を医療者に共有するという経験を探った質的研究。

結論にある、"Transgender people often must choose between stigma and potentially suboptimal care."(トランスジェンダーはたいていの場合、スティグマを貼られるのか、最適ではないケアをうけるのかの選択を迫られる)という言葉が重いです。

SOGIアライな診療空間を作らなくてはいけません。いま自分が最もしなくてはならないこと。


Declining Participation in Primary Care Quality Improvement Research: A Qualitative Study

QIプロジェクトに参加しなかった(←ここ大事)診療所に連絡し、どうして参加しなかったのかを聞いた研究。こういう研究とであう喜びがあります。


Acute Gastroenteritis: A Qualitative Study of Parental Motivations, Expectations, and Experiences During Out-of-Hours Primary Care

急性胃腸炎の子どもを時間外に連れてきた親に、受診後3週間以内に電話で連絡を取り、研究に参加してもらったという、質的研究。親がどうして時間外を受診したのかについて調べてます。とても良い研究。さすがAnn Fam Med。


Patient Communication Preferences for Prostate Cancer Screening Discussions: A Scoping Review

前立腺がんスクリーニングに関する患者とのコミュニケーションについてのスコーピングレビュー

2023年7月17日月曜日

Professionally-driven ZPSDとはなにか


Landry JT. Current models of shared decision-making are insufficient: The "Professionally-Driven Zone of Patient or Surrogate Discretion" offers a defensible way forward. Patient Educ Couns. 2023 Jul 8;115:107892. doi: 10.1016/j.pec.2023.107892. Epub ahead of print. PMID: 37454477.


なんだかとても重要そうなレビューがでましたよ。


既存のshared decision makingのモデルでは、誰が患者のために決定を下すかによって、異なる有害閾値が必要であることが認識されていない、患者が要求する治療が医学的に必要でない場合には結局患者に治療を提供しないという選択しかない、という点をうまく説明できなかった、と筆者は述べています。


筆者が提案する"Professionally-Driven Zone of Patient or Surrogate Discretion"は、参加者の役割の範囲を明確に定義し、倫理的に可能な選択肢から選ばれた治療・介入を行うことを説明できる、とのことです。


ざっくりいえば、医療者がありうる選択肢において想定される害について考え、その害が許容できる範囲内で、本人や代理人の希望と、許容できる害とのバランスを考えて意思決定を行う、というものです。正確な表現ではないと思いますが、ひとまず私はそう理解しました。


私自身、SDMについて「メニューを並べて好きなものを選んでね」ではいけない、と思っていたので、とても興味深く論文を読みました。

professionally-driven ZPSD の考え方は、私が普段していることに近いのかもしれません。

もう少し掘り下げて学習してみます。


2023年7月10日月曜日

総合診療医の成長について(レクチャー資料)


年度初めに、専攻医対象に行ったプレゼンテーションの概要について
参照用資料として、簡潔にしたものをこのブログに転記します。


総合診療医は、その地域で起こる様々な健康事象に対応します。
そして、日本の総合診療医は、多様なセッティングで働きます。

総合診療医は、よく出会う健康問題に通暁している一方で、
毎日、今まで出会ったことのない問題に出会います。

では、総合診療医ができることは何でしょうか?

例えば外来で。
  • 慢性心不全、慢性腎障害、慢性肝障害、糖尿病をかかえた中年男性におこるさまざまな健康問題に対応します
  • 寝ているときに再々トイレに行くという高齢女性の訴えに、適切な非薬物的療法を行います
  • 膝が痛くてゴミ出しができないという独り暮らし高齢者の悩みを解決するために複数の手段を想起し対応します
  • 時々胸が痛くなるという高校生の訴えに、適切なマネジメントを行います
  • 急に手が動かなくなったという主訴から甲状腺機能亢進症を診断し、治療のマネジメント行います
  • 2年続く腹痛という主訴から胸椎ヘルニアを診断し、疼痛緩和のために様々な専門家と協働します
  • 「健康」な70歳女性をみて、健康増進の方略を5つ以上提案します
  • 一見認知機能が保たれているように見える80歳女性の冷蔵庫に腐った食物が満載であることに気づき、生活を安定化させるために多職種と協働します。

たとえば訪問診療で。
  • がん・非がん問わず、終末期のケアを提供します
  • 急な発熱に対し、往診をして、病歴と身体診察だけで軽症の憩室炎だと診断し、在宅で治療を完遂します
  • 夜中にSpO2 60%の心不全増悪を起こした患者が、入院をどうしてもしたくないという場合、在宅でできる限りの治療を行い状態を安定化させます。
  • 80歳代の妻は寝たきり、神経因性膀胱、認知症で気ままに家族を支配している、夫が家の切り盛りや介護をすべてしていたが突然前立腺がん末期となりADL急激に低下し血便でている、娘は生活能力ないが在宅サービスの利用を拒否している、という複雑な状況にいる家族に対し、問題を切り分けて整理し、多職種と協働します。

例えば救急で。
  • 熱がない意識障害の患者に対し、バイタルと身体診察から敗血症性ショックと判断し、熱源として髄膜炎を想起し迅速な検査治療を行います
  • 父親と遊んでいたら首が傾いたまま動かなくなったという幼稚園児の診断とマネジメントをします
  • 風呂掃除をしていたら立ち上がれなくなったという高齢救急患者に、速やかに心電図を撮り、心筋梗塞と判断します
  • 寝ていると「動悸」をして不安だという患者の解釈モデルを聴き、適切な対応をします

例えば病棟で。
  • 誤嚥性肺炎の治療を行いながら可逆的な原因を検索し、本人・家族と話し合い今後の生活のプランを立てます。
  • 5か所の医療機関から計20種類の内服薬を処方されている患者に減薬のプランを提示します
  • 1か月続く発熱患者を、成人発症スティル病だと診断します
  • 退院後の生活のために必要な介入を、入院する前から考えだします

ところで、地域におけるコモンディジーズとは何でしょうか。
例1:目も耳も聞こえない元・左官の男性。
人の気配がすると「お茶とミカンを買ってくださいやー」といってお金を差し出すような生活。
家で尿便まみれでうごけなくなっているところを発見され、入院。さて、どうする?
 
例2:統合失調症がある若年女性。
胸痛が心配と受診した。
母と二人暮らしで、2人とも肥満あり。採血するとどちらもHbA1c 10以上の糖尿病。さて、どうする?

このように、未分化な問題が複雑に絡み合っていることこそが、地域におけるコモンディジーズです。

では、総合診療医はどのように成長するのでしょうか。
もっとも大事なこと:「総合診療医の成長は個人では達成できない」
総合診療医は、常にチームで診療を行います。
孤高の天才は、総合診療医には存在しません。

ありとあらゆる経験が、成長につながります。
子育てや介護の経験、躓いたこと、悲しかったこと、すべてがキャリアになります。
いついかなるときも、多様性は私たちの味方です。

総合診療医の学習は一生涯続きます。
肩書、資格、●●専門医…ぶっちゃけどうでもいいです。
どうせ一生勉強するのですから。
患者・地域に必要とされていれば、それでいいでしょう。
私たちの学びの場は、常に開かれています。

早くゴールを目指す必要はありません。そもそもゴールなんてありませんので。
どこまでも終わらない旅路を楽しむ気持ちでいましょう。


2023年6月20日火曜日

忙しいERにおける効率的な臨床推論

 

忙しくて、じっくり考える暇のないER(2次救急で6時間30人を医師一人で回す、入院指示も時間内にすべて出す、くらいの忙しさをイメージしています)では、ある程度思考を自動化して、乗り切っています。


腹痛を例にすると、しょっちゅう作動する自動化思考はこんな感じです。

・本人が強く痛がっているのに所見が大したことない腹痛は、血管由来を疑う

・すべての嘔吐下痢患者で、虫垂炎のフィジカルをとる。特に、嘔気より腹痛が先に来る場合。(虫垂炎に限らず。先日これでカンピロバクタを見つけました)

・全身状態が悪くないのに呼吸数が早い心窩部痛~腹部全体痛は、胸膜痛(感染症、気胸、肺塞栓)を疑う。

・浣腸して排便がでた便秘患者がまだ腹痛を訴えていたら、虚血性腸炎を疑う。

・姿勢を変えるときに痛みが出る慢性腹痛は、脊椎由来を疑う。

・下痢の患者がショックだったら、原因は腸管外にあることが多い。


こういう自分なりのルールに頼って診療しています。ほかにも…

・比較的全身状態がよいのに高熱を呈している高齢者では、パンツ、ズボン、靴下をすべて脱がす。(もちろん、いつでも全身診察すべきなのですが…)

・発熱と感冒症状を訴えるが咽頭所見に乏しい若年患者では、こちらから頭痛の有無を聞く。副鼻腔炎患者が自ら頭痛を報告することは少ない。

・家で熱が高かったので、布団をかぶって震えていたら、汗をかいてすっとして熱が下がった、と話す高齢患者は、敗血症の進行する過程をみている可能性が高い。


こういう自動化思考を言語化して書き出して、その妥当性を問う、ということをすると

診療の質の向上に寄与するかもしれないなと思います。

研修医と一緒に診療すると、言語化が促されるので、いい感じです。



2023年5月29日月曜日

疼痛とサルコペニア/社会的ニーズのスクリーニング/継続性と終末期ケア


Lin T, Huang X, Guo D, Zhao Y, Song Q, Liang R, Jiang T, Tu X, Deng C, Yue J. Pain as a risk factor for incident sarcopenia in community-dwelling older adults: A 1-year prospective cohort study. J Am Geriatr Soc. 2023 Feb;71(2):546-552. doi: 10.1111/jgs.18118. Epub 2022 Nov 4. PMID: 36330882.


疼痛のある高齢者は、サルコペニア発症リスクが有意に高い。

疼痛が強いほど、また疼痛部位が特定されているほど、サルコペニア発症のリスクが有意に蓄積される。


Russell LE, Cohen AJ, Chrzas S, Halladay CW, Kennedy MA, Mitchell K, Moy E, Lehmann LS. Implementing a Social Needs Screening and Referral Program Among Veterans: Assessing Circumstances & Offering Resources for Needs (ACORN). J Gen Intern Med. 2023 May 10:1–8. doi: 10.1007/s11606-023-08181-9. Epub ahead of print. PMID: 37165261; PMCID: PMC10171907.

社会的ニーズのスクリーニング。

半数は一項目以上が陽性。患者の受け入れは良好。

実践上の問題は、スクリーニングされた問題に対し提示されたリソースにアクセスした患者が一人もいなかったことです。

スクリーニングして、じゃあここに連絡してね、はい終わり、というのは、有効に機能しないだろうなと思っています。短期的アウトカムは無理だろうと。

そうじゃなくて、医療者側が患者さんのことを理解し、その結果医療者の関わり方が変わり、互いが互いを大事な存在と認識し、長い時間をかけて状況が変わっていく、というプロセスがうまれることが重要であると思っています。


ElMokhallalati Y, Chapman E, Relton SD, Bennett MI, Ziegler L. Characteristics of good home-based end-of-life care: analysis of 5-year data from a nationwide mortality follow-back survey in England. Br J Gen Pract. 2023 May 25;73(731):e443-e450. doi: 10.3399/BJGP.2022.0315. PMID: 37012076; PMCID: PMC10098834.


最近BJGPは、継続性についての量的研究をたくさん載せている印象があります。

継続性の高い患者で、終末期ケアの家族報告アウトカムが高かったという内容です。

2023年5月3日水曜日

2022年のTop20エビデンス


American Family Physicianに、プライマリケア医のための2022年top20エビデンスがまとめられていました。


【予防医学】

1. スタチンによるLDLコレステロール低下の一次予防効果は僅少。

3-6年間以上の治療による絶対リスク低下は、死亡で0.8%、心筋梗塞で1.3%、脳梗塞で0.4%

LDL-Cを強力に下げてアウトカムはあまりかわらない。

(私見)

私は、一次予防はあまり積極的に提案しておらず、糖尿病がある場合、家族性が疑われる場合などに限っています。腎障害がある場合も、まあLDL-C下げたほうがいいよな、とは思っています。一方、二次予防(脳梗塞、心筋梗塞)は漏らさず行うようにしています。

最近は、目標値管理ではなく、できるだけ高力価なスタチンをできるだけ使う、という風潮があります。わたしは、二次予防ではロスバスタチンをできるだけ使って、LDL-Cの値をみて必要なら増量するという、折衷案を採用しています。一次予防は、できるだけ低力価で目標値達成できたらいいなという気持ちでしています。このあたりが現時点での落としどころかな、という気持ちでいます。このあたり、推奨があまりにコロコロ変わるので、もう細かいことはどっちでもいいや、という気持ちでいます。


2. VitD補充は骨折リスクを減少させない。

骨折既往がある患者や、ベースラインのVItD値が低い患者でも、効果はない。

(私見)

以前は、転倒も減らすと評価されてきたVitDですが、最近のレビューでは有害無益ということになっています。今年に入ってから、私は外来患者のVitD製剤を中止する方向で診療しています。高齢者は高Ca血症のリスクも出てきてしまうので。

ビスホスホネート製剤を使って低Ca血症になる(なりそう)な場合にのみ新規開始するようになりました。逆に、若年女性の骨密度低下(妊娠出産後やアスリートなど)ではよく使っています。


【行動医学】

3. 抗うつ薬の中断は再燃を招きやすい。

プライマリ・ケアで抗うつ薬を中止すると、1年間でうつが再発しやすくなる(NNH 6)。

調子のいい時に抗うつ薬をやめて、そのまま元気でいられる患者は、44%。

(私見)

自分がSSRIなどの抗うつ薬を出さざるを得ないときというのはまあまああります。安易に中止しないように。


4. 単剤で治療反応のない急性重度抑うつでは、SSRI, SNRI, TCAなどの多剤治療が望ましい。

(私見)

こうなってくるとプライマリケアが治療を行う範囲外で、できる限り精神科に紹介することが求められると思います。知識としては知っておくか気があるかなと思います。・


5. パニック障害の第一選択薬はSSRI。

(私見)

今の診療を継続すればいいなと確認しました。


6. 成人の不眠症で、薬剤治療はセカンドライン。

睡眠薬は効果と副作用のトレードオフ。最もバランスが良いのはルネスタとデエビゴ。

(私見)

どちらも薬価が高いのがネックですが、ルネスタのジェネリックならそこまででもないです。ルネスタ(エスゾピクロン)は非ベンゾの入眠薬ですが、そこまで依存形成しないようですね。とはいえ、安易に処方すべきではないのは変わらないとは思います。

私は、睡眠薬が必要と思われる患者(もちろん非薬物的治療は十分行ったうえで)には、いままではベルソムラをよく出していましたが、一包化OKですし、若干安いので、これからは新規処方はデエビゴが増えるかもしれません。ただ、デエビゴのほうが傾眠がおおくなるかもです(半減期が長いため)。悪夢はベルソムラのほうがやや多いようです(悪夢のためにベルソムラ飲めない人はそこそこ出会います)が、デエビゴでも悪夢の副作用はあります。(作用機序同じなので当たり前)


【喘息】

7. 中等度~重度の喘息では、アルブテロール・ブデソニドのレスキュー吸入が増悪の頻度を下げる。

(私見)

シムビコートのSMART療法ですね。喘息は様々な吸入デバイスがあって混乱しますが、わたしは、一部の軽症間欠型を除いてシムビコートを使用しています。薬価が高いのがネックですが。定期も屯用も同じデバイスを使えるのは便利です。喘息増悪の一番の要因はアドヒアランスですので、使い勝手の良さは大事です。


8. 喘息のレリーバーはSABA単独ではなく、ステロイドを追加。

(私見)

上述の通り、シムビコートのSMART療法で対応できると思います。


【消化器】

9. PPIは胃がんのリスクをわずかに上げる(10年間でNNH 1191)

(私見)

さすがにNNHが大きすぎて、このリスクは無視していいと思います。ただ、PPI自体はほかのリスクもあるので、漫然長期処方はさけるべきだとは思います。


10. GERDに対するPPI8週間で治療が成功していれば、休薬を試す。

(私見)

上述の通りです。


11. IBSの第一選択は運動と水溶性食物線維の漸増。

(私見)

海外では、サイリウム(オオバコ)の粉末を溶かしてゼリー状にして飲用する健康食品が売られています。

食事で摂取する場合は、野菜や果物、海藻になります。

日本でもサイリウムは買えますので、症状がつらい人には試してみるのもありだなと思いました。


【糖尿病】

12. 60歳以上の糖尿病予備軍の大半は糖尿病にならない

(私見)

60歳以上であれば、糖尿病予備軍であっても、あまり気にしなくてよい、というエビデンスだと思います。treatment burdenを考えると、とても大事な知見です。


13. 糖尿病予備軍の治療は長期アウトカムを変えない。

強度の高いライフスタイル改善やメトホルミンは心血管アウトカムの長期リスクを変えない

(私見)

しゃにむに頑張る必要はない、ということですかね。マイルドな食事運動療法はよいかと思いますが。


14. 高齢者施設でのフレイル高齢者の75%で、薬剤性低血糖が2週間のうちに発生した。

重篤な低血糖は50%で見られた。

(私見)

フレイル高齢者では厳格な血糖治療はやめましょう。


15. 糖尿病性神経痛の治療は単剤より併用がよい。

使う薬剤はアミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンなど

(私見)

まず単剤で治療して、効果乏しければ他の薬剤を追加する、というのが現実的かなと思います。最初はどの薬剤で始めてもいいようです。


【その他】

16. 患者にリスクを伝えるときは、言葉じゃなくて数字で。


17. 禁煙治療は12週間のバレニクリンで。


18. CBD(カンナビジオール)は様々な薬剤と相互作用を起こす

(私見)

CBDは、大麻由来のリラックス効果をうたう物質で、欧米では結構人気のようです。

大麻取締法上の「大麻」には相当しません。

今後日本で人気になった際に、問診で注意する必要が出てきそうです。


19. 急性腰痛症のNSAIDSは、薬剤間の差はない。


20. 尋常性痤瘡の第一選択は、adapalene/benzoyl peroxideで、次いでclindamycin/benzoyl peroxide、adapalene単剤。

adapalene/benzoyl peroxideは商品名エピデュオです。ひりひりとした痛みの副作用が強いので、注意です。肌にあわない場合は、adapalene単剤(ディフェリン)を使うことができます。(にきびの治療は経験が少なく、初めて知りました)



2023年4月25日火曜日

CTによる肺がんスクリーニングの候補者をどう洗い出すか

 

Thuppal S, Hendren JR, Colle J, Sapra A, Bhandari P, Rahman R, Krus-Johnston A, Hoffman MR, Foray N, Hazelrigg S, Crabtree T. 

Proactive Recruitment Strategy for Patient Identification for Lung Cancer Screening.

Ann Fam Med. 2023 Mar-Apr;21(2):119-124. 

doi: 10.1370/afm.2905. PMID: 36973046; PMCID: PMC10042567.


Low-dose CTによる肺がんスクリーニングの適格者を看護師が見つけ出して、必要な患者にはCTを撮ってもらいましょう、という介入の前後比較の論文です。


55 ~ 80 歳であり、現喫煙者/元喫煙者である451 人をまず特定しました。

2019 年 3 月~8 月の診療録を後方視的にレビューすると、結果は以下の通りでした。

CTを受けるべき           …184 人 (40.8%) 

CTを受けなくてよい         …104 人 (23.1%) 

喫煙歴が分からないから判断できない  …163 人 (36.1%) 


184人のうち、過去一年間でCTを撮影された人は34人(18.5%)しかいませんでした。


2020年に、看護師による介入が開始されました。

まず、喫煙歴が不完全だった患者から情報を得ました。その結果、追加で 56/451 (12.4%) 人が適格であると特定しました。

前年度でCTを撮っていなかった150人とあわせて、合計206人の適格者がこれで特定されました。

これらの患者は、看護師から連絡を受け、適格性と事前スクリーニングについて話し合われました。

その結果、122 人 (59.2%) がスクリーニングに口頭で同意し、94 人 (45.6%) が医師に会い、42 人 (20.4%) が LDCT の撮影を受けました。


スクリーニングは多職種総出で頑張る!という研究ですね。

とても家庭医らしくでいい研究だと思います。


2023年4月20日木曜日

外来での何気ない臨床推論

 

病院でも家庭医外来をしています。

普段の何気ない外来の臨床推論は、学習する資料が少ないですが、家庭医にとってはとても大事です。


若い女性。昨日からの発熱と悪寒。

時節柄、SARS-CoV-2抗原陰性は確認しました(インフル同時キットですが、こちらも陰性)


発熱患者の診察は、COVID-19以外の疾患を見つける時間である、と自分に言い聞かせています。

事前問診で、昨日は悪寒があったこと(いまはない)、上気道症状がないことは把握しています。この時点で局所所見に乏しい感染源による菌血症かなとあたりをつけました。

genaral appearanceは良好で、いろいろ聞いても熱と悪寒以外の症状はないとのこと。

それでも食い下がると、何となく体の節々が痛いという訴えはありました。

咽頭異常なし、心音呼吸音異常なし、頸部異常なし、腹部異常なし、CVA叩打痛なし、関節炎所見なし、皮疹なし。


どこにも細菌の居場所がないなーと悩みます。

こういう場合、患者にそのまま悩んでいることを伝えるようにしています。

「うーん、どこかにバイ菌がいそうなんだけど、どこにも見当たらないんですよねー」


すると、困っている医者を助けようと、患者が協力してくれることが多いです。

この患者さんも、「そういえば、熱があるから当たり前だと思っていたんですが、ちょっと頭が痛いです」と教えてくれました。

よくよく話を聞くと「思い出すと、熱が出る数日前からちょっとだけ頭が痛かったような」

頭痛の部位は左側で、重いような鈍いような違和感とのこと。

髄膜刺激徴候は陰性。

俯くと頭重感が起こり、左上顎洞・左前額洞に一致して叩打痛がありました(左右差あり)

鼻腔を覗くと、両側の鼻粘膜が高度腫脹し発赤しています。


これは細菌性副鼻腔炎だろう、と思いましたが、先行する上気道症状がない点に違和感があります。

これも、患者さんに助けを求めます。

「鼻のあなの隣にある副鼻腔という洞穴に膿が溜まっているようなのですが…」

「あっ、そうそう。私、数日前から鼻うがいを始めたんです!」


というわけで、鼻うがいにより、鼻腔内の細菌が副鼻腔に押しやられておきた細菌性副鼻腔炎と判断しました。


通常の問診では、頭痛があることを患者は言ってくれなかったのですが、

医者が困っている姿をみて、いろいろと教えてくれました。


「自分の思考回路を即時的に患者にすべて打ち明ける」

「診断がつかなくて困っている姿を見せる」

というのは、外来診断術として有用であると考えています。


同じ日に、心身症という触れ込みの高齢慢性腹痛患者さんに、同様のやり方であれこれ話を引き出したところ、剣状突起痛と診断できました。

(すでに撮影されていた腹部CTを見直すと、画像所見も合致していました)


というわけで、診断に困ったら、患者さんに助けてもらっています、という話でした。



2023年4月16日日曜日

家庭医の診察室における臨床推論

 

最近は忙しくて、ブログの更新ができておりません。


原因不明のアナフィラキシー・アナフィラキシーショックがこの2か月で2回起きており、びくびくしながら暮らしています。エピペン携行してます。

あれこれ調べても診断に寄与する情報はヒットせず。

今話題のα-galかなとも思いましたが、自主的経口負荷試験で陰性なので違いますね。


俯くと息が詰まる、という主訴の患者さん。

診察すると、大きな甲状腺腫(既知のもの)がありました。

これは、と思って両手を挙げてもらうと、Pemberton徴候陽性でした。

俯くことで、甲状腺腫が周囲の組織を圧排して起こるものと判断しました。

説明すると納得された様子でした。

甲状腺腫のフォローはすでに行われているところに引き続きお願いしました。


胸が痛いという主訴であちこち受診している若い男性。

明確な圧痛があり、horizontal arm traction maneuverは陰性でしたが、rooster maneuverで疼痛が再現できたので、肋軟骨炎と診断しました。

本人希望あり画像検査では何もないことは確認しました。


毎朝めまいが起こるという中年男性。

問診の結果、首を進展させるような姿勢でめまいが起こっていることが判明しました。

診察室内で再現性もありました。いわゆるvertigoではないようでした。

bruitがないことを確認したうえで頸動脈洞の圧迫を行うと、症状が誘発され、血圧と脈拍の低下が観測されました。

頸動脈洞過敏症と判断し、特定の姿勢を避けるよう説明しました。

その後は症状は起こっておらず、一安心です。


というわけで、家庭医の診察室における臨床推論の一コマでした。

救急とも病棟とも違う臨床推論の奥深さがあると思っております。


2023年4月1日土曜日

単著が出ます!


初めての単著「明日からの診療を変えるプライマリ・ケア/総合診療の再診論文70」が、4月11日に発売されます。



2021年から2022年8月末(執筆時点)の間に公開された家庭医療の論文のなかから、明日からの診療がガツンと変わる70本を選んで、個人的解釈をふんだんに入れつつ解説しています。わかりやすさ、診療への活かしやすさを優先しました。


目次は以下の通りです。従来の論文解説類書とは扱う内容が異なっていることが分かるかと思います。


1. 障害のある患者

2. がんの診断とケア

3. 周縁化された集団

4. 多疾患併存と薬剤

5. 医師自身を知ること

6. 慢性疾患

7. ヘルスケアシステム

8. 患者の理解

9. 診療の質


具体的にはこんな論文を紹介しています。

14. 便潜血陽性なのに内視鏡検査を受けない患者には、様々な障壁が存在する。

23. プライマリ・ケアでの支援的な経験がトランスジェンダーの方の心理的苦痛の低下と関連する

32. 訴えられるという不安が、多疾患併存患者との意思決定を困難にする

46. 男性の病気と思われている冠動脈疾患の影響が、女性では過小評価されてしまう

61. 医療者と患者がそれぞれ経験する心房細動は異なるものである


面白そうと思っていただけましたら、ぜひお手に取ってください。

2023年1月18日水曜日

SDHの聴取項目HEALTH+Pの策定


原著論文がSTFMの雑誌PRiMERから出版されました。


Assessing Social Circumstances in Primary Care: Expert Consensus via Delphi Technique


以前より、社会的バイタルサインという考え方を用いて、患者の社会的背景の聴取、評価をしてみてはどうか、という提案を各媒体でしております。

その際に、「HEALTH+P」という略語を使って、聴取すべき項目を提案しておりました。ですが、この項目は臨床上の経験をもとに定めたもので、科学的な妥当性がないことが課題になっていました。

そこで、デルファイ法という方法を用いて、当事者を含む多様な意見を集約し、新しいHEALTH +Pを策定しました。


新しい項目は以下の通りです。

Human network and relationships 人間関係

Economic condition and Employment 経済状況、仕事

Access to health care and other service ヘルスケア、その他サービスへのアクセス

Living a daily life and Leisure time 日常生活、余暇、楽しみ

Total physiological needs, Tool and Technology 衣食住、車や携帯電話などの生活ツール

History of the patient's life 生活史(小児期の経験や教育環境を含む)

Patient's Preference and values 価値観


すでに旧来のHEALTH+Pを臨床でお使いいただいている場合は、そのままで問題ないと思います。そもそも、完全なSDHスクリーニングは原理上ありえませんので。

もし、新たに項目を使った診療を考えていたり、論文等で使用したりするときには、こちらを利用していただくこともできるかと思います。



2023年1月2日月曜日

プライマリケアでの「糖尿病教育」


Baker KM, Nassar CM, Baral N, Magee MF. The current diabetes education experience: Findings of a cross-sectional survey of adults with type 2 diabetes. Patient Educ Couns. 2022 Dec 22;108:107615. doi: 10.1016/j.pec.2022.107615. Epub ahead of print. PMID: 36584557.


プライマリケアセッティングで、成人二型糖尿病患者498人を調査し、「糖尿病教育」を受けた経験について調査しています。

「糖尿病教育を受けたことがある」と回答したのは全体の半数でした。

受けたことがあると回答した人のうち44%は、教育を1回しか受けていませんでした。

糖尿病教育の70%は1対1のセッションでした。栄養士からが68%、医師からが51%でした。「病気のときに糖尿病の薬についてどうするか」といった、日常生活とは関係のないトピックに関する教育を受けた経験は少ないことが分かりました。


この論文を読んで、糖尿病について多岐にわたる話し合いを患者をすべきですし、それを繰り返すことがよいのかなと思いました。

食事や運動についてももちろんですが、最近はSGLT-2iのように経口薬でもsick day ruleをしっかりしていないと重篤な有害事象を招く可能性のある薬もありますし、しっかり説明しなければいけませんね。

医師、看護師、栄養士、薬剤師のチームを作るのが理想的かなと思いますし、薬剤についてはパンフレットを作るのもいいかなと思いました。