2020年7月27日月曜日

慢性細葉性散布肺結核症


最近復習したので.



いわゆる岡ⅡBと呼ばれるタイプです.
岡先生による表現では「肺野に広く細かい病変が散布されたものである。その散布状況は全肺野一様ではなく粗密の差があり,一つ一つの病影も多少大小があり,形も不規則である。典型的には,両側肺に殆ど対称的に,上方は密で下方に行くに従って疎に細葉性病変が散布している」とあります.

私の理解では,肺小葉の1つ1つが個々に病変を呈するため,正常にみえる肺小葉と浸潤影を呈する肺小葉がモザイク状に分布することで,特徴的な画像所見を呈することで起こります.
どうしてこのような分布になるのかははっきりわからないようです.

肺結核の中では珍しい表現形ですが,結核はいつどこで出会うかわからないので,特徴的な画像を理解しておくべきだとおもいます.


画像についてはリンク先をご参照ください.



2020年7月20日月曜日

Favre-Racouchot症候群


皮膚科各論の知識は,外来診療で有用です.
少し突っ込んだ勉強をしておくとひょんなときに役に立ちます.

Favre-Racouchot症候群では,高齢者の眼科周囲などに大きな皺と多数の黒色開放面皰がみられます.
紫外線による老化現象と考えられています.

(http://www.atlasdermatologico.com.br/disease.jsf;jsessionid=843310D6854517D5D4BEDC871BD613FF?diseaseId=146より引用)

典型例では生検は必須でないようです.
知っていれば,良性疾患であると説明できますね.
美容的観点から治療を望めば皮膚科に紹介するべきだと思います.


2020年7月13日月曜日

症例検討:Bizarre appearance


またもや経験したケースの振り返りです.
患者所法は大幅に改変しており,ほぼ創作となっています.

70歳代.慢性腎障害あり.
昨日,転倒し前腕を強く打った.骨折はないが筋挫傷あり.
当日朝から気分不良があり外来受診.

この時点で嫌な感じがしたので,すぐ心電図をとる.
心電図は以下の通り(実際のものではなく,拾いものです)


なんだこれ,という心電図.
ここで,心電図のMy Clinical Pearlが発動.
「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」

はたして,Kは6.8と異常高値
すぐグルコン酸カルシウムを投与し,緊急透析ができる高次医療機関に転院打診.
その間に,β刺激薬の吸入,GI療法,フロセミド投与を開始.
無事,転院先で治療が行われ,回復した.


高K血症の心電図は,テント状T波やQRS幅拡大、P波消失がみられますが,時に「何が何だかわからない」心電図になることがあります.
これをBizarre appearanceといいます.
なので,「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」なのです.
このパールに救われたことが何回かあります.

以下,ネットで拾ったBizarre appearanceです.
どれも高K血症です.
まさに「読めない心電図をみたら高K血症を疑え」です.







2020年7月6日月曜日

症例検討:G群溶連菌菌血症



久しぶりに経験症例を振り返る形で学習してみます.
個人情報保護のため,患者情報は大きく改変しています.
二次資料だけを当たっています.ご承知ください.


80歳代の患者.朝から気分が悪く,胃液がこみ上げてくるような感覚があり夕食を食べることができなかった.倦怠感が続くため救急要請.救急隊が発熱に気付いた(38℃台).
意識は清明で,診察上熱源のフォーカスは絞れず.胸部X線検査と尿検査は異常なし.
採血では,既知の腎障害の他は,WBC 10000,CRP 1.5程度.

高齢者の漠然とした全身の症状+発熱なので,入院で経過観察.
血液培養,尿培養採取の上,抗菌薬フリーで経過観察.

後日,感受性良好のG群溶連菌が検出された.
関節炎の所見はない.皮膚感染症の所見はない.
末梢塞栓徴候や心雑音はない.経胸壁心エコーで疣贅はみられない.
経食道心エコー検査は当院では施行不可.
造影CTは腎障害があるため行わず.単純CTや腹部エコー等で膿瘍はなさそうとの判断.

感受性のあるセファゾリンを経静脈的に投与し,数日以内に状態の改善を得た.

さて,どうするか…


まず検討すべきは感染性心内膜炎(IE)の有無.
GPCだからIEが起こっても不思議じゃないよなと思いながら検索.
UpToDateの記事を当たると,このような記述がある.

In some series of patients with invasive GCS or GGS infection, bacteremia has been associated with endocarditis in 25 to 50 percent of cases

やっぱりIEがあっても不思議じゃない.

modified Duke criteriaでは,大基準1項目+小基準1項目でpossible IE.
うーん,なんとも.


抗菌薬治療期間については,やはりUpToDateの記載を読むと…

The duration of treatment should be tailored to clinical response and generally should be continued until at least three days after resolution of fever and other clinical signs. General guidelines are 7 to 10 days for cellulitis, 14 days for bacteremia, 14 to 28 days for severe invasive soft tissue infection, 28 to 42 days for osteomyelitis or septic arthritis, and 28 to 42 days for endocarditis.

IEなら28-42日間の治療が必要,菌血症単体だと14日間とある.
やはりIEかどうかが重要.しかし種々の条件から,経食道心エコーのためだけに高次医療機関に送るのはかなりハードルが高い.どうしよう…


菌血症の治療だけを考えるなら28日間投与が望ましい.
しかし,入院期間が長くなると自宅復帰が困難になりそう.

S. aureusのUpToDate記事を読むと,本患者と同じような条件で,抗菌薬投与2-4日後の血液培養が陰性なら,14日間の治療期間を推奨している.

というわけで,投与2-4日後に血液培養を採取し,陰転化が確認できれば,全身状態と採血データをフォローして,経過良好なら静注は14日間で終了し退院できるかもしれない.
その時点で経口薬に切り替えて1-2週間外来フォローするという方法もとれそう.


色々調べたものの,結局は当初から予定していたプラクティスに落ち着きました.
文献はあくまで文献で,患者の状態を慎重にみていくのが大前提だと思います.


追記
SNSでコメントをいただいたので転記します。


せっかくなので、追加で勉強してみました。

IEの経口スイッチ、研究けっこう進んできてるんですね。
そのままこの症例に当てはめてよいかは外的妥当性が微妙ですが(本文まで読まないと微妙さがわからないのが論文の面白さですね)、いろいろな制約があるなかで例外的に慎重に一歩踏み出すときのガイドにはなるように思いました
http://www.jseptic.com/journal/20181106.pdf

また、個人的にはKANSEN Journalのこの記事も、エキスパートオピニオンも入っていてけっこう好きです。
内容の無断転載だめなので本文読んでいただければと思いますが、最後の方にある血流感染でのガイドライン遵守率のところをみると色々感じるところがあるし、アクセス可能なら「ガイドライン通りに行けない事情があるとき(総合医の出番ぽい場面)こそ、専門医にエキスパートオピニオンを聞いてみる」ことの有用性があるという持論が強化された記述でした
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20190715J73-1.htm