2018年12月31日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 6)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療が自分に合っているか、どうしたらわかるのか

 家庭医が自分に合っているか知るには、実際に家庭医についてみるのが一番である。家庭医の診療をローテーションで回るのが良いだろう。様々な人に家庭医は合っているし、その理由も様々だ。家庭医に聞いてみれば、自分の仕事をどんなところが好きか、多種多様な内容を話してくれるだろう。患者や地域社会と、深く有意義な継続的関係を築くのが楽しいのだという人もいれば、状態や疾患にとらわれず生まれてから亡くなるまで幅広い診療をできるのが好きだという意図もいる。包括的な研修を受けることで、診療の選択肢が広がり、地域社会に貢献できるのが楽しいという人もいる。家庭医療に興味を惹かれた理由として、国境に関係なくほとんどすべての問題に立ち向かうことができることを挙げる人もいれば、分娩や新生児ケアを含めた家族全体をケアできることを挙げる人もいる。
 家庭医の診療射程は幅広い。もし卒前実習でローテーションした科がどれも楽しくて、一つに絞り切れないと思ったら、家庭医療に進むことをお勧めする。医者になりたいと思ったきっかけを思い出して、自分の理想としている診療は何でそれをどこでしているかを想像してみなさい。その理想が現実のものとなるように専門研修を考えてみるのが最も大事なことです。

家庭医療プログラムを選択する際に考慮した方がよいことは何か

 完璧なものかそうでないかはともかくとして、その人にあうプログラムはおそらくたくさんある。プログラムの立地は、学生が判断する際に最も重要な因子の1つとしてよく言われている.家庭との近さ,配偶者のニーズ,地域社会と関連したライフスタイル,レジデンシーが医療を提供する患者集団は,プログラムを差別化する要素となりうる.半数以上の家庭医療レジデントはレジデンシートレーニングを受けた場所から100マイル (161キロメートル)以内の地域で最終的に診療することになる.

レジデンシーの医療機関の状況(大学病院か地域の医療機関か)や他専攻のレジデントやフェローがいるかどうかも,検討する上での重要な要因となるかもしれない.他の専攻レジデンシーが典型的には大きな大学病院を基盤としているのと対照的に,家庭医療のレジデンシーはより小規模な地域の病院や医療機関にあることが多い.学生の時には大学や大きな附属病院のなかで,大人数で専攻も様々なレジデントやフェローがいるような環境で実習を受けてきたはずだ.レジデンシー研修では,同時に研修いる他の専攻のレジデントやフェローが様々いて,多彩なレアケースがあり資源が豊富な大学病院の環境の方を好むこともあるだろう.規模が小さい地域の医療機関では患者や手技の競合がすくなく,よくある病態より集中的に診ることができるので,その方があっていることもあるだろう.以上の記述はかなり単純化しており,上記のカテゴリー内でも非常に多様な研修環境がある.なので,あなた自身にとって最良の学習環境を選ぶ必要がある.


2018年12月24日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 5)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医が行う手技にはどのようなものがあるか

 家庭医は様々な手技を行うことがある(Table 2)。心負荷試験の7.5%、分娩の9.9%、筋骨格系手技の64%、皮膚系手技の79%は家庭医が行っている。家庭医は、診療の幅が多岐にわたっているほど、ヘルスケアの4つの目標をより達成できるようになる。

Table 2. 家庭医が行う手技

○麻酔
意識下の鎮静
指、局所、末梢神経ブロック

○消化管
肛門鏡
大腸内視鏡
経管栄養チューブ留置
血栓性痔核の切開
S状結腸鏡
肛門周囲膿瘍の石灰排膿
経鼻胃管留置

○泌尿器
新生児割礼
恥骨上膀胱穿刺
尿鏡検
精管切除

○救命
ACLS
産科ALS
ATLS(外傷)
新生児蘇生プログラム
PALS(小児)

○妊婦ケア
自発的経膣分娩(胎児モニタリング、分部誘発・促進、裂傷縫合を含む)
吸引分娩

○筋骨格系
単純骨折の初期対応
関節・滑液包注射、トリガーポイント注射、ガングリオン吸引
肩関節脱臼の修復
四肢の固定法

○呼吸器
スパイロメトリー

○皮膚
生検
凍結手術
電気メスでの手術
切開排膿
裂傷縫合

○超音波
基本的胎児エコー
筋骨格系エコー
中心静脈穿刺、腹腔穿刺、胸腔穿刺のエコーガイド

○外来、病棟
鼻出血に対する後方鼻腔パッキング
フルオレセイン眼染色
異物除去
腰椎穿刺
静脈ルート確保

○女性医療
子宮頸部凍結療法
コルポスコピー
子宮内膜生検
子宮内デバイス挿入・除去
パパニコロウ染色
子宮内膜掻爬
外陰部生検

2018年12月17日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 4)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療の研修について何を知っておく必要があるか

 家庭医療レジデンシー研修の目標は、卒業するころには包括的かつ継続的なケアをあらゆる年齢層の患者に提供できるようになることである。このような教育での肝腎なポイントは、診療のその場その場で最良のエビデンスに当たり、情報を上手に患者に適応し、資源を効率的に活用する方法を教えることである。

 多くの場合、家庭医療レジデンシープログラムの研修期間は3年間であり、内科や小児科の研修と同じである。家庭医療プログラムの卒業生は、臨床現場に非常によく適応できる。少数ではあるが、研修の最適な期間を調べる長期間の国家的パイロットプログラムに参加しているレジデンシープログラムもある。このばあい、期間は4年間であり、特別なコースや上位の資格を得ることができる。


専門的関心を追求したい家庭医療レジデントは、どのような複合型レジデンシーやさらなるフェローシップ研修を受けることができるか

 家庭医療教育の目標は、プライマリケアを患者、家族、地域社会に提供できるように最適な研修をすることである。家庭医はそれぞれ特有の興味を持っていて、ジェネラリストの研修の一環として、あるいは追加する形で、その分野をさらに学ぶこともできる。複合型レジデンシーにおいて深く体験できたり、レジデンシー終了後にフェローシップを選択したりすることを望む場合もあるだろう。(Table 1)

 複合型レジデンシーのトレーニングプログラムは、異なった二つの専門医プログラムの要素をつなぎ合わせたハイブリッドである。しかし、全く別の専門が二つあるわけではなく、どちらの専門もより広く認定できるように制度設計されている。現在、家庭医とのダブルボードが可能な専門分野は4つある:家庭医療/精神科、家庭医療/救急科、家庭医療/内科、家庭医療/予防医療。これらの複合型レジデンシーの期間はたいてい4-5年である。

 内科/小児科プログラムは、家庭医療とは異なる。このプログラムは、内科と小児科を4年間のレジデンシーにまとめたものである。最近のレビューによれば、内科/小児科プログラムの大半は、分娩、婦人科、外科、皮膚科、整形領域の訓練を必要としていない。内科/小児科プログラム卒業生のおよそ1/3はサブスペシャリティ志向であり、これはプライマリケアとは異なるところである。

 アメリカ家庭医療学会(AAFP)が家庭医療のレジデントが卒業する際におこなった2013年の調査によると、約14%のレジデントがフェローシップやさらに上の学位を含めた追加研修を計画している。

(以下,米国のレジデンシーの詳細が書かれているが,訳では省略する)


Table 1
家庭医療レジデンシーの卒業生が選ぶことのできるフェローシップ

思春期医療 行動医学 医療情報学 地域医療 救急医療 大学教育の質改善活動
高齢医学 健康政策 ホスピス・緩和医療 病院総合診療 HIV/AIDS
統合医療 国際医療 妊婦ケア・産科 疼痛緩和 予防医学 研究
僻地医療 睡眠医学 スポーツ医学 薬物乱用 初診外来 女性医療



2018年12月10日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 3)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


診療の射程はどうか、どんなキャリアを得る機会があるか

 家庭医を目指すと、家庭医として特徴的な研修を受けることになる。急性疾患も慢性疾患も扱い包括的なケアを提供する、健康増進と疾患予防を行う、他の専門家と協同して治療を取りまとめるといった内容が含まれる。幅広い射程をもった研修を行い、家族や地域社会という文脈で患者中心の医療を実践し、ヘルスケアシステムの機能について理解を深めることで、どんな場所でも、どのようなセッティングでも対応できるようになる。家庭医が「多分化幹細胞」と評される所以である。

 大半の家庭医は臨床の最前線におり、救急対応や病棟でも医療を行っている。このようなセッティングでは、教育家リサーチの様々なキャリアを得る機会に恵まれている。教育は家庭医にとって重要なことであり、多くの家庭医が日常的に臨床の中で学生や研修医を教育している。また、レジデンシープログラムや大規模な学術機関といったアカデミックな場でのキャリアを選ぶ家庭医もいる。研究科学者になる人もいれば、臨床基盤型研究に参加して重要なリサーチクエスチョンにこたえるためのデータを提供する人もいる。家庭医療のキャリアの選択肢は幅広く、老年医学、思春期医学、緩和ケア、疼痛ケア、睡眠医学、救急医療、病院総合医、スポーツ医学、公衆衛生、国際医療、野外・災害救急など多岐にわたる。家庭医として得られる様々な機会についてまとめた短いビデオは、このサイトでみられる。http://vimeo.com/25152825


家庭医療の研修はグローバルヘルスを実践する足掛かりとなるか

 最高の健康を享受する権利は国境を超えた基本的人権である。その実現には、プライマリケアへのアクセスを確保するのが最善策である。エボラのような疾病のアウトブレイクは非常に目につくニュースであるが、いま大きな問題となっている疾患群は、発展途上国においても先進国においても、感染症から慢性疾患に移り変わってきている。しっかり研修を受けた家庭医は、小児、思春期、成人、産婦とあらゆる層に対応し、幅広い手技をみにつけているため、地球上のあらゆる場所で診療を行うのに最適である。これとまったく同じ能力が合衆国の中でも求められており、移民や難民を診療する際に必要となる。



2018年12月3日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 2)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


なぜ家庭医療はこれほど重要なのか

 あらゆる専門科のなかで、家庭医療がプライマリケアの定義に最も当てはまる。患者を最初に診て、継続的、包括的に、多くの人と協同してケアを提供する。その対象も性別、疾患別、臓器別になっておらず、あらゆる人を診る。プライマリケアに基づいたヘルスケアシステムは、患者のQOLを上げ、集団としての健康を促進し、公平性を担保し、かつコストもかからない。米国は伝統的にプライマリケアの担い手をあまり重視しておらず、他の西欧諸国と比べてヘルスケアがあまり上手く機能していなかった。西欧諸国では、重要なポイントに沿ってヘルスケアのシステムがどのように機能しているかをしっかり評価していた。米国のヘルスケアシステムが医療サービスの量ではなく質を大事にするようになってきて、家庭医も国民の健康に良い影響を大きく与えることのできる体制になってきている。


家庭医療のケアモデルと患者中心メディカルホームとは何か

 家庭医は患者全体を治療しようと専心する。いつでもかかりやすい診療を提供し、継続的に患者を診ていくなかで包括的なサービスをおこなう。たとえ家庭医療の範疇を超えた治療が必要な場合でも、家庭医は患者に対する責任を持ち続け、他の専門医が行う治療についても協同してかかわる。このようなケアモデルを、患者中心メディカルホーム(PCMH)という。ヘルスケアシステムがどんどん複雑になり細切れになっていく中で、PCMHは伝統的なケアのモデルから派生して創られた。これはまさに、医師中心のモデルの対極にある、患者中心のモデルである。

 PCMHのモデルは単一ではない。またその定義は、一つの診療、一つの建物の中だけで完結するものではない。PCMHのフォーマットを決定する一番の因子は、地域社会が何を必要としているかである。チーム医療を行う、受診しやすいようにコミュニケーションを改善したり診療時間を広げたりする、電子カルテのような高度情報システムを備える、質と安全を重視する、家族や地域社会という文脈の中で患者にケアを提供する。このような取り組みを行うことで、以下の4つの目標に近づくことができる:より良い健康、よりよいヘルスケア、1人当たりコストの節約、医者人生の向上。

 ヘルスケアシステムを継続可能なものにするには、プライマリケア、行動・精神医学、公衆衛生を統合する必要があるという認識が最近ますます広がっている。PCMHのなかには、伝統的なモデルをさらに広げて、メンタルヘルスやポピュレーションヘルスツールも導入しているところもある。PCMHのモデルが進化していくということは、家庭医が適切なケアを適切な時に適切な場所で患者のニーズに適したやり方で行うよう努力し続けるということである。