2015年5月31日日曜日

無症候性細菌尿について



研修をはじめて、高齢者の細菌尿によく出くわします。

UpToDateには、細菌尿の定義が載っていました。

尿検体はコンタミが多いため、以下の定義を満たしたときに細菌尿と定義する
女性:2回連続で同じ菌がみつかる(>10^5cfu/ml)
男性:1回菌がみつかる(>10^5cfu/ml)
カテ採取:1回菌がみつかる(>10^2cfu/ml)

高齢者で細菌尿を見たときに、
これは無症候性細菌尿なのか、
それとも高齢故に症状がでない(あるいは訴えられない)だけのがっつり尿路感染なのか
非常に悩みます。

無症候性細菌尿なら、ほとんどの場合、症状がないのに治療するのは不適切です。
ではその「症候」とは何やねん、という話ですが、
発熱、尿閉、頻尿、残尿感、排尿時痛、CVA叩打痛、尿臭、血尿などが挙げられると思います。
判断に迷った場合は、膿尿は良い指標となるみたいです。


以下、「高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス」
の記載を参考にまとめてみます。

まず、無症候性細菌尿の頻度です。
市中70歳以上:(女性)10.8-16%、(男性)3.6-19%
施設入所:(女性)25-50%、(男性)15-40%
尿道カテ長期留置:100%

市中菌血症の症状の頻度は、85歳以上では以下の通り(頻度の高いもののみ抜粋)。
頻脈 73%、鼓膜温>38.5℃ 77%、ショック 39%
症状の出ない菌血症に注意です。

やはり尿路症状とCVA叩打痛が大事と書いてあります。
日が経つと顕在化することもあります。疑ったら毎日CVA叩打痛をとりましょう。
CVAでいたくなくても、後腋窩線をたたくと痛いこともあります。
表情も参考になります。
CVA叩打痛がない男性なら前立腺炎の可能性があります。直腸診が必要です。

また、咳や呼吸困難などの呼吸器症状があっても、尿路感染は否定できないです。
診断を「肺炎」だと早期閉鎖しないほうがいいみたいですね。


~Clinical Pearls~

・尿路感染を疑ったら毎日CVA叩打痛を取る。

・CVA叩打痛のない男性の尿路感染疑いは直腸診!

・呼吸器症状のある尿路感染を肺炎としない。

・症状のない細菌尿を安易に治療してはいけない。

2015年5月27日水曜日

急性肝炎/achromobacter/serratia




・急性肝炎が疑われて、HBsAg(-), HCVAb(-)ならB型肝炎、C型肝炎を否定してよいか。

HBsAgは重症肝炎例で初診時にすでに陰性化していることがある。IgM-HBcAbを測定する必要がある。(日本医師会雑誌第143巻特別号(2)S402より)
HCVAbは感染から陽性化するまでに長くて12週間かかる。HCVRNAは感染後一週間以内に検出できるようになる。(Blueprints Pediatrics sixth edition p165より)


・喀痰培養にてachromobacter xylosoxidansが検出されたらどうするか

グラム陰性桿菌であり、病院の水道水、湿潤環境にも広く存在する。
健常人の気道や消化管に常在する。
緑膿菌やアシネトバクターなど他のグラム陰性桿菌と同じように、水、湿潤環境を介して感染する。
多くの消毒薬に耐性があるため、加湿器や石鹸、注射による院内感染の原因となりうる。
静脈カテからの菌血症が最も多い。免疫低下患者では呼吸器感染、尿路感染などをおこす。
(臨床細菌学ガイドより)


・カテーテル尿からSerratia marcescensが検出されたらどうするか

セラチアは院内感染の原因として有名である。
入院中の免疫低下患者に日和見感染症を起こす。感染源の多くはカテーテルや呼吸器である。
無症候であれば治療は必要ないが、菌血症をおこすリスクが高く、注意が必要である。
スタッフ間でセラチア検出患者の情報を共有し、水平感染予防を徹底するといいのではと考える。
サンフォードによれば、第一選択はPIPC/TAZ, CPFX, LVFX, GM.
(臨床細菌学ガイドより)



2015年5月24日日曜日

今週のRCT論文:上腕骨骨折の治療



RCT論文を読めるようになりたいと思って勉強しております。

今日読んだのはこれ。

Surgical vs Nonsurgical Treatment of Adults With Displaced Fractures of the Proximal Humerus
The PROFHER Randomized Clinical Trial
JAMA. 2015;313(10):1037-1047. 

American Family Physician(AFP)のブログで紹介されていたので知りました。


P: 上腕骨近位部変位骨折患者(詳しい基準は本文参照)に対し
E: 保存的治療を行うのは
C: 手術をするのに対して
O: OSSスコア(疼痛と機能を主観的に判断するスコア)は変わらない
T: RCT

批判的吟味のしきたりに則って
必要なところを拾い読みして
なんとか15分ちょっとで終わらせることができました。

まだまだBackground knowledgeが不足しているなと痛感しており
EBMの手前の段階で足ふみしていますが
消耗しない範囲で楽しくやっていければと思います。

2015年5月22日金曜日

抗菌薬あんちょこメモ



感染症治療の原則は
本当に感染症か→どんな患者のどこの感染か→起因菌は何か
であると心得ております。

しかし、研修医として実際に抗菌薬を選択するとなると、不勉強が露呈します。


研修医として使用する機会の多い点滴抗菌薬について、簡潔にまとめてみました。
病棟で、片手にこのメモを、もう一方の手にサンフォードを携えて、乗り切りたいと思います。


ユナシン(スルバクタム・アンピシリン)ABPC/SBT
グラム陽性菌に加え、グラム陰性菌や嫌気性菌に使う。
誤嚥性肺炎で◎。腸球菌の尿路感染も。

セファメジン(セファゾリン)CEZ
腸球菌以外のグラム陽性菌に効く。髄膜炎には使えない。グラム陰性菌は効かない
軟部組織感染症に◎

セフメタゾール CMZ
グラム陰性菌+嫌気性菌に効く。腹部の感染症に◎。腸球菌以外の尿路感染にも。

モダシン(セフタジジム)CAZ
緑膿菌を疑ったとき(=糖尿病など免疫抑制、長期入院など)にのみ使う
セフェム系だがグラム陽性菌には効かない

ロセフィン(セフトリアキソン)CTRX
腸球菌以外のグラム陽性菌+腸内細菌・インフルエンザ桿菌・モラキセラ+SPACE
肺炎球菌髄膜炎症などを除き、グラム陽性菌のみターゲットならCEZを使う。

ピペラシリン PIPC
緑膿菌を疑ったとき(=糖尿病など免疫抑制、長期入院など)にのみ使う

ダラシン(クリンダマイシン)CLDM
横隔膜より上の嫌気性菌につかう。偽膜性腸炎に注意。

ミノサイクリン MINO
非定型肺炎に◎

バンコマイシン VCM
フィニバックス(ドリペネム)DRPM
少なくとも小病院の研修医レベルでは、出番はまずないと思っていた方が良い。


2015年5月16日土曜日

polyarticular goutという概念



痛風が発作性の多発関節炎となることがあります。polyarticular goutといいます。
多くの場合無治療で放置された場合です。
発作間(intercritical period)は全く無症状になることが多いです(UpToDateによる)。

多発関節炎の鑑別に痛風を入れたことがなかったので、驚きです。
敗血症せん妄関節リウマチに間違えられることもあるようです。

上行性に関節をおかしていき、上肢全ての関節が罹患するそうです。
変形性関節症を合併していることも多いみたいです。

日本の症例報告もあります。
高尿酸血症の持続により持続性の多発関節炎を呈した慢性結節性痛風の一例
非定型的な多関節炎を臨床症状と した結節性痛風の一例

なんと、尿酸値が正常なこともあるらしく、ただでさえ難しい診断がほぼ不可能な領域になってしまいます。

無症状→発作→無症状を繰り返す多発関節炎をみたら、
(回帰性リウマチに飛びつく前に)多発関節性痛風を考えましょう。
ちなみに回帰性リウマチでは、発熱が稀である(DynaMedによる)、発作が通常は単関節炎であるため、そこらへんで鑑別してもいいかもです。



痛風発作がある患者に対する尿酸値降下療法



[foreground question]

P: 痛風発作の既往がある高尿酸血症の患者に
E: キサンチンオキシダーゼ阻害薬を使用するのは
C: 尿酸排泄促進薬を使用するのと比べて
O: 痛風発作の回数を減らすか

キサンチンオキシダーゼ阻害薬は
アロプリノール(ザイロリック)やフェブキソスタット(フェブリク) などがあります。
フェブリクは新しい薬ですが、アロプリノールとのRCTで遜色ない効果を示しています。
(このRCTに関しては後日ブログで紹介する予定)

一方、尿酸排泄促進薬は
プロベネシド(ベネシッド)やベンズブロマロン(ユリノーム)などがあります。

CURRENTや「内科診療ストロングエビデンス」には、
蓄尿で尿酸排泄600-800mg/day以下なら
尿酸排泄低下型として、尿酸排泄促進薬を投与し、
600-800mg/day以上なら
尿酸産生亢進型として、キサンチンオキシダーゼ阻害薬を投与すると書いてあります。


   

しかし、引用文献がなく、根拠が不明でした。

そこで、Pubmedにて検索。
gout, arthritisでRCT, humanのフィルターをかけると135の論文がヒット。
しかし、そのうちお目当ての論文はありませんでした。

どうやら、尿酸排泄促進薬を評価したRCTはこの世に存在していないみたいです…。
アメリカリウマチ協会のガイドラインでは、禁忌がなければ第一選択はアロプリノールになっています。

副作用について
ザイロリックはやはり、過敏反応(DIHSとか)が恐ろしいです。
肝障害が起こる頻度も高いです。
ベネシッドやユリノームは尿酸結石に注意です。
予防のために飲水を促します。また、尿pHを6.0~7.0になるよう調節します。
ユリノームは最低6か月間は肝機能酵素をフォローする必要があります。

無症候性の患者に治療すべきではないのはいまさらですが、
発作があり治療する場合は血中尿酸は6.0以下になるようにします。
アロプリノールは容量不足なことが多いみたいです。割とがっつり出すべきなのでしょう。

そういえば、発作時にザイロリックを飲んでも発作がひどくならないのではという話がありますね。

Allopurinol during acute gout attacks did not differ from delayed allopurinol for pain or recurrence
Ann Intern Med. 2013;158(8):JC6.

あえて危険を冒す必要はないとは思います。


~5/22追加~
尿酸低下療法時にコルヒチン600mg/day服用することで発作の予防になるみたいです。


2015年5月13日水曜日

78歳女性:労作時呼吸困難(Mayo residents' Clinic)



Mayo Clinic Proceedings 2014年11月のResidents' Clinicを読みました。

78-Year-Old-Woman With Dyspnea on Exertion


患者は78歳女性、数カ月前から進行する労作時呼吸困難。
既往は高血圧、脂質異常症、PAF、HFPEF。
聴診でASあり、経胸壁エコーでは大動脈弁口面積1.25cm2、圧較差28mmHgで中程度と評価。
しかし症状は重度AS。この食い違いをどうするか。

経胸壁心エコーはASの重症度を過小評価してしまうことがある。
その場合は心カテ。今回は弁口面積0.85cm2、圧較差48mmHgと重度との評価が出た。

軽度~中等度ASはACEIやβブロッカー。しかしASの進行を遅くしてはくれない。
重度ASは手術適応になる。その場合、以下のスコアなどを用い術式を決定する。

Online STS Adult Cardiac Surgery Risk Calculator
euroSCORE II



2015年5月11日月曜日

解熱鎮痛薬の見た目



痛みどめを飲んでいる方は多く、
薬剤名を覚えていない方も多い。
薬剤歴をきく際に参考となるよう、各種痛みどめの錠剤の画像を集めてみました。
あくまで一例です。

アスピリン(バファリンなど)


ロキソプロフェン(ロキソニンなど)



ジクロフェナク(ボルタレンなど)

インドメタシン(インダシンなど)



メフェナム酸(ポンタールなど)





アセトアミノフェン(カロナールなど)




鉄剤で良くならない鉄欠乏性貧血



先週のNEJMはClinical Problem-Solvingでした。
最終診断はまさかの疾患。さすがに私が扱うにはマニアックすぎます。

同じ号のReview Articleが鉄欠乏性貧血についてでした。
そのうち、「鉄剤で良くならない鉄欠乏性貧血」についてまとめます。

Iron-Deficiency Anemia
N Engl J Med 2015; 372:1832-1843


・最も多い原因は消化管によるもの
 ・胃摘やRoux-en-Y法などの手術後
 ・ピロリ菌感染
 ・セリアック病
 ・自己免疫性萎縮性胃炎
 ・炎症性腸疾患

・常染色体劣性遺伝のiron-refractory iron-deficiency anemia(IRIDA)
  ヘプジシンが大量に産生されることによる



2015年5月4日月曜日

乳幼児突然死症候群を防ぐには(BMJ)



BMJのClinical Reviewで、乳幼児突然死症候群(SIDS)について載っていました。


Sudden infant death syndrome and advice for safe sleeping
BMJ 2015;350:h1989


SIDSは、以下の3つが揃ってしまうと起きてしまうのではと考えられています。

・1歳以下であること
・前期出産や母体の喫煙などによる、もともとの弱さ
・うつ伏せ、うつ熱などの外部要因



危険因子について1つずつ見ていきます。

・うつぶせ寝
RR 3.5~9.3と強い危険因子です。
側臥位もあぶないそうです(オッズ比1.4)。いつの間にかうつぶせになってしまうからです。

・妊娠中/後の喫煙
妊娠中の喫煙はリスクを5倍にします。

・前期出産

・頭まで布団をかぶる
前日の睡眠時に頭まで布団をかぶっていた乳幼児の割合は、SIDS群で24.6%、コントロール群では3.2%でした。
寝具を柔らかい素材にするのも危険です。SIDSのリスクが5倍になります。枕は必要ありません。
ブランケットは必要ありませんが、もしかける場合は、絶対に脇の上まで来ないようにします。幼児の足をベッド柵まで下げて、ブランケットは3つ折りにしましょう。
とにかく、ベッドの中に柔らかいものやおもちゃは入れないようにしましょう。

乳幼児用の寝袋を使ってみるのもいいかもしれないそうです。
(画像はhttp://www.babyinabag.com/より引用)



一方、SIDSを防ぐ因子は以下の通りです。

・母乳哺育
リスクが45%~73%下がるそうです。

・一緒の部屋で寝る
親と一緒の部屋で寝ることで、リスクは約50%下がります。
なお、少なくとも生後6か月までは、一緒の布団で寝るのは避けたほうがいいみたいです。
ソファーで寝かせるのはもってのほかです。


SIDSに限らず、乳幼児死亡が起こると、次の子が同じ原因で亡くなってしまう相対リスクは9.1倍、違う原因でなくなってしまう相対リスクは1.6倍になります。
当然、親は心配なわけですが、無呼吸モニターなどのデバイスでSIDSを予防できるというエビデンスは欠けています。それを踏まえたうえで、医学、技術面のみならず心理的サポートが求められます。



2015年5月2日土曜日

炎症性筋疾患について(NEJM)



今週のNEJM Review Articleは、炎症性筋疾患についてでした。
4つの疾患の臨床的特徴を中心にまとめてみます。

Inflammatory Muscle Diseases
N Engl J Med 2015; 372:1734-1747

皮膚筋炎
有名なヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候の他にも特徴的な皮疹があります。
画像はhttp://www.rheumtutor.com/dermatomyositis/より引用。
ちなみに、日本人だとヘリオトロープ疹は赤褐色みたいになります。






皮膚症状のみという場合もあり、amyopathic dermatomyositisといいます。
その場合でも、検査をしてみると筋障害が見つかることが多いです。
悪性腫瘍の合併に注意です。発症後3~5年以内に9~32%の患者さんに癌が見つかります。

皮膚筋炎
この疾患自体は稀であり、他の疾患を皮膚筋炎だと誤診することが多いみたいです。
基本的には除外診断であるということを押さえておきましょう。
鑑別は他の炎症性筋疾患にくわえ、成人発症の筋ジストロフィー、薬剤や内分泌疾患によるミオパチーやニューロパチーなどです。
抗シンセターゼ抗体陽性の患者は、間質性肺炎、関節痛、発熱、機械工の手などがみられることがあります。“抗シンセターゼ抗体症候群”といいます。


自己免疫性壊死性筋炎
上の2つと比べ、発症が急性となることもあること、CK値が異常に高くなることが特徴です。
特発することもありますが、ウイルス感染、スタチン投与、悪性腫瘍に続発することもあります。
スタチンをやめた後も悪化していくミオパチーをみたら本症を考えましょう。


封入体筋炎
上の3つと比べて異質な存在です。

 ○数か月~数年でゆっくり進行していく
 ○遠位筋も侵されやすい→ボタンをとめにくい等の症状も
 ○特に前腕や大腿四頭筋が侵されやすい→転倒の危険高い
 ○顔面や体幹の筋も侵されることがある→脊椎が曲がる、首がうなだれる
 ○左右非対称になることもある
 ○50%以上で嚥下困難が出る
 ○50歳以上の高齢男性で多い
 ○ステロイドや免疫抑制剤が効かない→嚥下困難にはIVIgが有用かも

皮膚筋炎だと思ってステロイド使っていたけど一向に良くならないときとかに本症を疑います。


誤嚥患者への抗生剤投与/葉酸欠乏になる期間



[Foreground question]
P: 入院中に誤嚥した患者さんに
E: 吸引後すぐ抗生剤を投与するのは
C: 吸引後様子を見て肺炎発症時のみ抗生剤を投与するのに比べて
O: 入院日数がより短くなるか(有害事象が減るか…etc)

UpToDateには以下の記載あり。
Antimicrobial agents are commonly given following a witnessed aspiration because of the difficulty in excluding bacterial infection as a contributing or primary factor. In patients who are severely ill, the empiric use of antibiotics is appropriate. However, if no infiltrates develop after 48 to 72 hours, it is appropriate to stop antibiotics.
(Aspiration pneumonia in adultsより引用。赤色は管理人によるもの。)
引用文献は載っておらず、Experts' opinionであると考えられる。

Dynamedには記載なし。
PubmedとGoogle scholarで、検索語句を変えていろいろ試してみたのですが
私の文献検索能力のせいなのか、それとも研究がされてないのか
文献を見つけることは出来ませんでした。


[Background question]
ビタミンB12は水溶性ビタミンながら肝臓に貯蓄されるので不足症状でるのに5~10年かかる。
では、葉酸はどれくらいの期間欠乏すれば貧血になるのか。

UpToDateには以下の記載あり。
Alcohol abuse produces a sharp fall in serum folate within two to four days by impairing its enterohepatic cycle and inhibiting its absorption. Thus, alcoholics on a low folate intake can develop megaloblastosis within 5 to 10 weeks. This period is shorter than the four to five months required in normals in part because alcoholics start with lower stores due to previous dietary habits.
(Etiology and clinical manifestations of vitamin B12 and folate deficiencyより引用。赤色、太字は管理人によるもの。)

正常人だと4~5ヶ月、アルコール依存症患者だと5~10週で葉酸欠乏になるみたいです。

ちなみに、葉酸値は直前の食事の影響を受けやすいため、偽陽性、偽陰性がでやすいです。
とくにアルコール依存症患者で入院してたりすると、お酒のまない分食事をしっかりとってくださって、葉酸値が偽陰性になる、というケースが考えられます。


2015年5月1日金曜日

NEJM Case14-2015



NEJM Case Recordです。
今週は議論が込み合っていて、すっきりとした結論が出ているわけではないのですが
「目に見えているものだけが真実とは限らない」という感じでエキサイティングでした。

Case 14-2015 — A 58-Year-Old Woman with Shortness of Breath

【患者】ジョギングが日課である58歳女性
【主訴】8か月前から進行する息切れ

8か月前にジョギング時の息切れを自覚。症状はどんどん進行し、階段を上っただけでも息切れが出るように。足のだるさもでてきた。喘息治療は効果なし。心エコー正常。Dダイマー正常。

陰性所見:起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、wheezing、浮腫、咳嗽、喀痰、発赤、悪寒、頬部圧迫感、同期、便変化、排尿症状、チアノーゼ、ばち指、リンパ節腫大

既往:骨粗鬆症、偏頭痛、脂質異常症、季節性アレルギー、軽度AST・ALT高値、乳腺石灰化
薬剤:アレンドロネート、シムバスタチン、ロラゼパム
生活:アルコールなし、30年前に禁煙(3年間のみ喫煙)

%FVC 101%, %FEV1 97%, FEV1/FVC 0.76, %TLC 97%, %DLco 92%
AST 56, ALT 60, ANA (+; 1:40), RF(-), ANCA(-), その他血液検査異常なし

CTは以下の通り。



プロブレムリストは以下の通り。

#進行性の重篤な労作時呼吸困難
#両側上肺野中心に結節(数個)と胸膜肥厚(葉間裂にわたる)
#下肢のだるさ

そしてとても大事なことが…
#症状の割に
 ・画像所見が派手じゃない
 ・呼吸機能検査に異常がない
 ・労作時呼吸困難以外の呼吸器症状がない

私が最初読んだときは、この「症状との乖離」に気づくことができませんでした。
最終診断を下すよりよっぽど大事なことだと思います。


肺野に多発結節があるときの3大鑑別診断は、感染症、癌、血管炎です。
感染症は、結核や真菌症(ヒストプラズマとか)が挙がりますが、咳嗽や発熱がなかったり期間が長すぎたりと、合わない点が多いです。
癌の多発転移だと、普通は下肺野中心です。
血管炎だとしても、発熱や手足のしびれ、腎障害といった他の症状に乏しいです。
というわけで、どうもこの結節は間質性の変化みたいです。

肺間質の疾患は、サルコイドーシス、過敏性肺臓炎、肺ランゲルハンス細胞組織球症、塵肺症などが挙げられます。
特定の物質の曝露歴はありませんし、喫煙者ではないため肺ランゲルハンス細胞組織球症も否定的です。ただし、サルコイドーシスを完全に除外することはできません。

画像的に本例と合致する疾患は以下の通り。
特発性器質化肺炎(COP)
慢性好酸球性肺炎
膠原病関連間質性肺疾患(膠原病の全身症状が出る前に間質性肺疾患が出ることがある)

ここで、初めに述べた「症状との乖離」についてもう一度考えてみます。
もしこの患者に画像的な異常がなかったらと考えると、
呼吸困難は呼吸器によるものではなく、呼吸筋によるものではないか、
下腿のだるさと、薬剤歴を踏まえると
スタチンによるミオパチーが挙がってきます。
スタチンが間質性肺疾患を引き起こすことも、非常に稀ながらあるみたいでして、
いよいよこれで決まりか、と思ってしまいますが、
実際は、スタチンは数週間前に始まったばかりであるとのこと。あらら。


生検の結果、特発性のpleuroparenchymal fibroelastosis (PPFE)との診断が下されました。

くだんの「症状との乖離」ですが、
・腰痛があり、歩きにくいのはそのせいと考えることもできる
・子どもが7年前に頭部外傷による障害を負い、それがストレスになっている
・強く症状を訴えているが、いまでも7kmのジョギングをこなすことができる

ということがさらなる医療面接で明らかとなりました。


最終診断こそマニアックですが
診断をしていく上で非常に大切な事項が盛りだくさんでした。


~Clinical Pearls~

・目に見えるものだけが真実とは限らない

 ・「症状と検査との乖離」に気づく。「検査値正常」はときに異常である。

 ・心惹かれる所見に出会ったら、本当にそれで全てが説明できるか考える。

 ・患者の訴えは、overestimateもunderestimateも避けるべし。