2022年12月22日木曜日

高齢者は多剤服用を習慣として受け入れている


Adamson J, Hanson H, Todd A, Duncan R, Hanratty B, Robinson L. 

“No trouble at all” - medication work amongst nonagenarians: a qualitative study of the Newcastle 85+ cohort participants at 97

Br J Gen Pract 2022 Nov 22. DOI: https://doi.org/10.3399/BJGP.2022.0188


85歳以上の高齢者が、ポリファーマシーに対してどのように対応しているかを探る質的研究です。20名にインタビューしています。

興味深いことに、多くの場合、服薬の自己管理にはかなりの労力が必要にもかかわらず、高齢者自身はそれを問題視していませんでした。

服薬がルーチンとして習慣化されていて、食事や入浴と同じような経験となっています。


しかし、あたらな診断による投薬の変更や、ライフイベントの後など、これまでの安定状態が変化した場合には、服薬管理が途端に困難になることが分かりました。


服薬をしっかり自己管理できている高齢者って確かに多いよな、とおもいますし、しっかり薬を飲むことが習慣化されているという指摘はなるほどと思います。

ライブイベントや投薬変更時にサポートを注力するのがよさそうです。



2022年12月15日木曜日

在宅終末期ケアの質と関連する因子


ElMokhallalati Y, Chapman E, Relton SD, Bennett MI, Ziegler L.
What characterises good home-based end-of-life care: Analysis of 5-year data from a nationwide mortality follow-back survey in England
Br J Gen Pract 2022 Dec 13. DOI: https://doi.org/10.3399/BJGP.2022.0315

在宅医療における良質な終末期ケアの特徴を明らかにするために行われた研究です。
対象は、2011年から2015年に英国で登録された246,763人の死亡例のうち、110,311件の死亡追跡調査から抽出した,人生の最後の3か月間を自宅で過ごした63,598人です。

終末期ケアの質が高かったと親族が認識することに関連する因子は以下の通りでした。
・プライマリケアの良好な継続性があった
・緩和ケアを支援してくれた
・がん死亡、病院外で死亡

また、高齢であること、女性であること、社会経済的剥奪が最も少ない地域出身であること、白人であることが、ケアの質の高さと関連がありました。

以上より、質の高い在宅終末期ケアとして、プライマリケアの継続性の高さが重要な要因である可能性が示唆されました。
また、社会的に周縁化されている人々に公正で質の高いケアを提供する方略を考える必要性が示唆されました。

2022年11月20日日曜日

家庭医は患者の妊娠の半数に気づいていない。


論文紹介です。

これまでと違って、できるだけシンプルにまとめてみます。


General practitioners’ awareness of pregnancy: trends and association with hazardous medication use

https://doi.org/10.3399/BJGP.2022.0193


2004年から2020年にかけて、家庭医が患者の妊娠を把握していたか、妊娠患者に催奇形性のある高リスク薬剤を処方していたかを調べた研究


140,976件の妊娠のうち、家庭医の記録があったのは48%。

2004年では28%→2020年では63%と増加している。


妊娠の3%で、催奇形性のある高リスクの薬が処方されていた。

高リスク薬の初回処方で家庭医が妊娠を確認したのは13%。

妊娠が確認されていない場合、確認されている場合に比べ、ハイリスク薬処方の可能性が59%高い。


あらためて、ちゃんと質問しなければならないですね。




2022年11月13日日曜日

質的研究のResultsの書き方

 

とある雑誌に投稿した質的研究の論文が、major revisionで返ってきました。

コメントはとても好意的であり、特にIntroductionとDiscussionについてはかなり良い評価なのですが、

Resultsに関する指摘が多く

「この引用文が何を意味しているのか分からない」

「テーマと引用文との関連が分からない」

など、言語の壁を強く感じます。


今回は、テーマとサブテーマを表にして、対応する引用文を付記して、全体像を分かりやすくせよ、と言われました。

確かに、このような表を載せている論文は時折目にします。


以前投稿した別の質的研究の論文では、当初このような表を作っていたのですが、

査読者から、煩雑でわかりづらいといわれて、消去することになりました。


決まった作法があるわけではないので、難しいですね。


Resultsで展開されるテーマは質的研究の肝ですし、

引用文は分厚い記述のために必須なのですが、

今の英語力では、言いたいことを英語で十分に表現できていないのだと思います。


査読者のコメントをもらいつつ、ブラッシュアップしていくしかないです。



2022年11月1日火曜日

【雑記】「要さない」と「要しない」

 

最近はブログを更新する時間が取れず、ご無沙汰しております。


文章を書く機会が増え、日本語について考えることも多くなりました。


ある文書で、「特別な扱いは要ない」という表現をみました。

直観的には、「特別な扱いは要ない」のほうが自然なのでは、と思いましたが

元の表現も十分成り立つようにも感じ、調べてみました。


「要する」は「要」+「する」の複合動詞であり、活用は「する」と同じサ行変格活用です。

なので、「する」→「しない」と同じ活用で、「要する」→「要しない」が正しいことになります。


ここからが奥深いところです。

「漢字一字+する」の形の動詞で、サ行変格活用ではなく四段活用をする例が増えているようです。

例えば「愛する」。たしかに、「愛しない」も「愛さない」も自然に聞こえます。


これは、「漢字一字+する」を複合動詞ではなく一つの動詞ととらえる感覚になったからではないかと思いました。

「欲する」「発する」などもそうですね。


「漢字一字+する」ではない複合動詞を考えればより分かりやすくて、

「計算する」は「計算しない」としか言えませんし、「パーマする」も「パーマしない」としか言えません。

ですが、「愛する」は「愛しない」も「愛さない」もどちらも許容できます。


以下はわたし個人の考えです。

わたしは、「特別な扱いは要しない」と「特別な扱いは要さない」であれば、後者のほうがどちらかというと自然かなと感じました。

ですが、「特別な扱いを要しない」と「特別な扱いを要さない」であれば、微妙な差ですが、前者の自然さが強まったように感じます。

(とても細かな感覚の違いなので、そう思わないという人もたくさんいるでしょう。)


これは、副助詞「は」と格助詞「を」の働きの違いに端を発する違いなのでは、と思いました。

主題を示す副助詞「は」をつかうと、「は」の後で一度文章が途切れます。なので、その後の「要する」がひとまとまりに見えて、「要さない」がより自然に響くのではないでしょうか。

一方で、格助詞「を」をつかうと、「要する」という動作の対象が「特別な扱い」であるという関係性が示されるため、「AをBする」という分全体の構造がより明らかになり、「要する」が「要+する」と2つの要素に分かれやすくなり、「要しない」がより自然になるのではないか、と考えました。


議論の正しさはともかく、ちょっとした引っ掛かりからあれこれ考えることができ、満足しました。

お目汚し失礼しました。

次に更新するときは、もうちょっとまともな記事を書こうと思います。



2022年8月31日水曜日

ケアの調整は、良い患者アウトカムに関連する


Elliott MN, Adams JL, Klein DJ, Haviland AM, Beckett MK, Hays RD, Gaillot S, Edwards CA, Dembosky JW, Schneider EC. Patient-Reported Care Coordination is Associated with Better Performance on Clinical Care Measures. J Gen Intern Med. 2021 Dec;36(12):3665-3671. doi: 10.1007/s11606-021-07122-8. PMID: 34545472.


ケアの調整care coordinationと、必要な検査の試行との間にどのような関連があるかをみた研究です。


メディケアの受給者152,069人を対象としています。


ケア調整の指標は以下の5項目です:検査結果をフォローアップしているか、受診時に医師が医療情報を持っているか、服用しているすべての薬について医師がどのくらい話すか、専門医から受けた治療について医師が知っているか、複数の医師からケアを受ける際に助けが得られたか。

患者アウトカムの指標は以下の13項目です:マンモグラフィ、大腸がん検診、心血管LDL-C検診、血圧管理、5つの糖尿病ケア指標(LDL-C検診、網膜眼底検査、腎症、血糖値/HbA1c<9%、LDL-C<100mg/dL)、高齢者の緑内障検診、BMI評価、骨折した女性の骨粗鬆症管理、関節リウマチ治療。


解析の結果、患者アウトカムの9つの項目が、ケアの調整の程度と正の相関を示しました。逆相関を示した項目はありませんでした。


ケアを調整する(患者がいろいろなところで受けているケアを把握して、適切な道筋をつける)ことが、患者が必要な検査を受けることと関連していることが示されました。ケアの調整に関する重要なエビデンスです。


2022年8月24日水曜日

vulnerabilityの定義


Levasseur M, Lussier-Therrien M, Biron ML, Dubois MF, Boissy P, Naud D, Dubuc N, Coallier JC, Calvé J, Audet M. Scoping study of definitions and instruments measuring vulnerability in older adults. J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 20. doi: 10.1111/jgs.17451. Epub ahead of print. PMID: 34669967.


高齢者のvulnerabilityを定義するために、文献レビューを行った後、高齢者(当事者)2名を含む専門家がワークショップに参加し、議論した。


完成した定義がこちら

「1人以上の個人が特定の瞬間に、1つまたは複数の生理学的、心理学的、社会経済的、社会的な困難を経験し、それらが相互に影響し合って、危害を受けるリスクを高めたり、生活に悪影響を及ぼすような対処の問題を抱えている一連の状況」


この定義を完全に満たしている尺度はないものの、22項目で構成されるPerceived Vulnerability Scale(PVS)が、最も合致した。


この定義と尺度を使って、研究調査してみたいですね。


2022年8月18日木曜日

多疾患併存患者との共同意思決定を阻害する法的リスクへの不安


Brown EL, Poltawski L, Pitchforth E, Richards SH, Campbell JL, Butterworth JE. Shared decision making between older people with multimorbidity and GPs: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2022 Jul 28;72(721):e609-e618. doi: 10.3399/BJGP.2021.0529. PMID: 35379603; PMCID: PMC8999685.


英国のGP診療所において、多疾患併存高齢者のShared Desicion Making (SDM)に影響を及ぼす要因を、患者と医師の両側から調べた質的研究です。


65歳医所の多疾患併存高齢者を集めたfocus groupを2つ、GPを集めたfocus groupを2つ作り、インタビュー内容を帰納的テーマ分析しています。


この分析結果がべらぼうに面白いので、この論文を紹介しようと思ったわけです。

(結果を単純化してやや誇張して書いていますので、詳細は原文をご覧ください)


とくに英国のGPは、診療ガイドラインに即した診療を行うよう求められる状況にいると理解していますが、多疾患併存高齢者では、各疾患の診療ガイドラインをそのまま実行するのが必ずしも最適ではない、ということはかなり周知されていると思います。

ただ、医師としては、診療ガイドラインに即していない診療をすることで、法的なリスクを背負う可能性があるのではないか、と不安になります。この論文ではmedicolegal vulnerabilityと表現されています。訴えられたら負けるのでは、というわけですね。


そりゃあ、診療ガイドライン通りにしないと訴えられると思っている医師と、医師がそうやっておびえていることを認識している患者との間で、個別性を踏まえたSDMは起こらないですよね。


筆者たちは、このようにSDMが阻害されていることに対する対応策として、まず医師がこの分野でSDMがうまくできていないということを認識したうえで、不確実性を扱うための教育と、miltirmodityに関する診療ガイドラインの普及が重要であるとしています。この議論は納得がいくところです。


自分の診療をふりかえると、この患者はtreatment burdenが大きすぎるから、この治療は控えた方がいいのだろうけど、その結果、心配している事象がおきたらどうしよう、その可能性は相対的に低いけど、万一のことがあったら非難されるかも、と考えてしまうことは結構あるなと思います。

患者とのコミュニケーションの質をあげるために、このような阻害要因を認識しておくことは、とても大事なことだと思います。



2022年8月11日木曜日

薬剤アドヒアランスの実態調査


Singer AG, LaBine L, Katz A, Yogendran M, Lix L. Primary medication nonadherence in a large primary care population: Observational study from Manitoba. Can Fam Physician. 2022 Jul;68(7):520-527. doi: 10.46747/cfp.6807520. PMID: 35831084.


カナダの20万人以上の患者コホート研究。

3年間、合計91,660件の処方箋を評価し、薬剤アドヒアランスについて調べています。


薬剤non-adherenceの割合は、13.7%(抗うつ薬)~30.3%(抗高血圧薬)

典型的な症状を呈する疾患(例:感染症、不安症)では、non-adherenceは13.7%~17.5%。

無症状の疾患、またはスクリーニングで発見されるような疾患では、21.2%~30.0%。


予想通りの結果ではあります。


2022年8月4日木曜日

夜間の疼痛は過小評価される



Annemaria C van Berkel, Robin Ringelenberg, Patrick J E Bindels, Sita M A Bierma-Zeinstra, Dieuwke Schiphof.

Nocturnal pain, is the pain different compared with pain during the day? An exploratory cross-sectional study in patients with hip and knee osteoarthritis.

Family Practice, 2022; cmac074


股関節・膝関節の変形性関節症患者で、夜間痛がある患者とない患者の特徴と症状の違いを明らかにするために行われた、横断研究です。


2020年4月、5月にソーシャルメディアや患者会を通じてオンライン調査を配布し、OA患者101人が自己申告式で、痛みの強度、局在、次元、(夜間の)痛みが睡眠に与える影響を回答しました。


結果として、夜間痛は75%の参加者が報告しました。

夜間痛がある患者は、日中より夜間の方が痛みが強いと報告しました。

また、夜間痛のない患者を比較して、①断続的、恒常的、および放散する痛みを訴え、②痛みが睡眠に与える影響が大きく、③痛みが最もひどい時のスコアが高いことが分かりました。


重要な知見だと思います。

診察時点ではそこまで痛くないから、夜間の疼痛をGPは軽視する可能性があります。

夜に痛いという訴えがあれば、その訴えを真剣に受け取る、というのは、ちょっとした心構えですが、患者の症状やQOLに大きな影響を与えるかもしれません。


リクルート方法もfeasibilityが高いですね。Research Questionが何より大事というのがよくわかる論文だなと思います。


2022年7月30日土曜日

COVID-19によるがん診断の減少


Núria Mora, Carolina Guiriguet, Roser Cantenys, Leonardo Méndez-Boo, Mercè Marzo-Castillejo, Mència Benítez, Francesc Fina, Mireia Fàbregas, Eduardo Hermosilla, Albert Mercadé, Manuel Medina, Ermengol Coma.

Cancer diagnosis in primary care after second pandemic year in Catalonia: a time-series analysis of primary care electronic health records covering about 5 million people.

Family Practice, 2022;, cmac083,


COVID-19のパンデミックにより、プライマリ・ケアの受診が減りました。

この受診抑制により、がんの診断がどのような影響を受けたのかを分析しています。


2014年1月から2021年12月までの電子カルテデータを用い、トレンドと季節性で調整した時間回帰を用いて、人口10万人あたりの月間がん診断率の予測値を求めました。

そのうえで、2019年のがん診断率と2020年、2021年のがん診断率をt検定で比較しました。


その結果、2020年のがん診断の割合は2019年と比較して-21%減少していました。

とりわけ、2020年初頭のロックダウン期間中では40%以上減少していました。

前立腺がんと皮膚がんでは減少の幅がより大きく、それぞれ29.6%減少、26.9%減少でした。

一方、肺がんは統計的に有意な差はありませんでした。


がん診断は2021年3月頃に期待値に戻り、2021年の割合は2019年とほぼ同じでした。

しかし、2020-2021年のパンデミック月とパンデミック前の月を比較すると、やはり11%の減少が見られました。


ポイントとしては、

①がん診断の割合はパンデミック前に戻った。しかし、パンデミック中に診断されなかったケースを取り返すほどではない。

②前立腺がんと皮膚がんで診断されず取り残されている人が多いはず。


普段から意識しましょう。


2022年7月25日月曜日

高齢者の自宅訪問による医学生の学び


Goldlist K, Beltran CP, Rhodes-Kropf J, Sullivan AM, Schwartz AW. Out of the classroom, into the home: Medical and dental students' lessons learned from a Geriatrics home visit. J Am Geriatr Soc. 2022 Jul 19. doi: 10.1111/jgs.17968. Epub ahead of print. PMID: 35852495.


ハーバード大学医学部で、1年生が老年医学のカリキュラムの一環で、高齢者の自宅に訪問するということをしているようです。

3年間、495名の1年生のうち、参加に同意した348名が匿名評価用紙に記入した内容の質的内容分析を行って、老年医学の5Mというのを抽出しています。

5MとはMobility, Mind, Medications, Multicomplexity, Matters Mostです。


研究手法としては非常にシンプルです。日本でも同様の取り組みをしているところはありますよね。この論文は、普段の教育をしっかり分析して、5Mという簡潔で分かりやすいテーマを見つけたところだと思います。


2022年7月15日金曜日

家庭医に必要な時間は1日26.7時間?



家庭医が扱う各健康問題に対し、エビデンス通りに診療するのに必要な時間を文献を基に推定して、家庭医の患者パネルでその時間を足し合わせて計算した、というものです。


細かい内容は本文を読んでいただくとして…
家庭医が単独で行うなら26.7時間/日必要です。
チームでするなら9.3時間/日必要です。

実際には、必要な時間はコンテキストで変わるだろうから参考程度にするとして、慢性疾患ケアの2倍の時間が予防医療にかかる、というのが私としては一番面白いところでした。
チーム内で役割を分担することが大事というのは賛成です。
この論文を読んで、家庭医は忙しいんだ、と主張するより、自分がちゃんとした予防医療や疾患ケアを提供できていないのではないか、と自分の診療を振り返るのがよいのだろうと思います。
また、マルチモビディティに対して効率的なケアを提供する、継続的な関係性をもとに健康問題に優先順位をつける、といった方略が重要なのかなと思いました。

2022年7月12日火曜日

大腸がんスクリーニングで家族歴を意識するか?


Ingrand I, Palierne N, Sarrazin P, Desbordes Y, Blanchard C, Ingrand P. Familial colonoscopic screening: how do French general practitioners deal with patients and their high-risk relatives. A qualitative study. Eur J Gen Pract. 2022 Dec;28(1):182-190. doi: 10.1080/13814788.2022.2089353. PMID: 35796607.


フランスにおける家族性 CRC スクリーニングにおけるGPの位置づけを探ることを目的とした質的研究です。


65歳以下で大腸がんになった患者とその第一度近親者に対する大腸がんスクリーニングに関して、GP対象に35件の犯行増加面接を行ってデータを収集しています。収集したデータはテーマ分析をしています。


その結果、大腸がんの第一親等に対する大腸がんスクリーニングに関する知識と実施状況は、GPによって大きく異なることがわかりました。

診断プロセスを開始しながらも、GPは自分たちが家族歴に関するリスクに関する情報の流れの主体であるとは考えていませんでした。

GPは、家族歴の調査の重要性を強調するものの、実際には時間がなくて、また患者 が提供する情報の信頼性を疑っていました。


研究者たちは、知識ギャップを回避し、家族歴収集の質を改善し、適切なスクリーニングにむずびつけることが課題であると指摘しています。


この研究を実臨床にどう応用するか考えました。

私は、定期通院患者に対しては40-45歳から年1回の便潜血検査を推奨するようにしています。(大腸ポリープ既往があればリスクに応じた期間で内視鏡スクリーニングです。)

しかし、家族歴については、そこまで気にしていませんでした。

これだと、40歳未満で大腸がんが起こりうる遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC: Hereditary nonpolyposis colorectal cancer)や家族性大腸ポリポーシス(FAP: Familial adenomatous polyposis)がもれてしまいますね。

そもそも、40歳未満で私の外来を定期通院する患者に、がんの家族歴を聞く、というプラクティスをしていませんでした。

今の自分のセッティングなら、40歳未満の方が定期通院していることが少ないので、若年者のスクリーニングに力を入れるより、40-45歳以上の患者に確実に便潜血検査を行うほうが現実的かなと思いつつ、40歳未満の患者に(大腸がんに限らず)がんの家族歴を聴取し、もし大腸がんの家族歴があれば、必要に応じて検査を行う、少なくとも40歳になったら便潜血検査を確実に開始する、というプラクティスがいいのかなと思いました。




2022年7月9日土曜日

肺塞栓症の診断遅延


van Maanen R, Trinks-Roerdink EM, Rutten FH, Geersing GJ. A systematic review and meta-analysis of diagnostic delay in pulmonary embolism. Eur J Gen Pract. 2022 Dec;28(1):165-172. doi: 10.1080/13814788.2022.2086232. PMID: 35730378.


プライマリケアセッティングでの肺塞栓症の診断遅延についてのメタアナリシスです。


平均診断遅延の推定値は、6.3日(95%予測区間2.5~15.8)。

7日以上の遅延があった患者の割合は、18%~38%。

咳嗽、慢性呼吸器疾患、心不全があると、診断が遅れる。


プライマリケアでは肺塞栓診断前に症状が平均して1週間続く、というのは驚きでした。

数日以上続く呼吸器症状や胸痛、というプレゼンで患者が診療所を受診すれば、肺塞栓症を考えるスイッチを入れるほうがよさそうです。



2022年6月27日月曜日

研修医指導:プレゼンテーション指導と胸部X線

 

週のうち半日、研修医指導をしております。

カンファでのプレゼンテーションの指導は、最初が肝心だと思っており、1例1時間くらいかけてみっちりやります。

(本当はずっと継続してしたいのですが、カリキュラムの内容が多すぎて数回しかプレゼン指導はできないのです。)


プレゼンの練習をすることで、自分の思考過程とアセスメントを振り返ることができます。

ただ「全身が痛い」だけではなくて、それはどこが痛いのか、関節か、付着部か、筋か、自動時と他動時で違いはあるのか、など、細かくチェックします。

また、いわゆるプライマリケアを担う医療機関で指導しているので、illness scriptが完成する前に受診される場合も多く、ファーストタッチの限られた情報からなにを考えてどのように動けばよいのかを考えてもらう機会となっています。


また、時間外にはなりますが、週1回くらいのペースで、胸部X線読影カンファをしています。

私自身、読影は苦手意識があるのですが、研修医と一緒に勉強しています。

教科書ではあまり扱われない、normal variantやarchifactについて、これは病的意義があるのかないのかについて、詳しく検討します。

何回か繰り返すと、みるみる読影できるようになっていくのを実感して、指導側としても楽しいです。


2022年6月23日木曜日

「総合診療」に寄稿しました


雑誌「総合診療」の6月号

「特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス My Best 3」

に拙稿が掲載されました。


https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/111059#tab2


健康の社会的決定要因に関する最新エビデンスについて

プライマリケア診療への実装を念頭に解説しております。


もしよければお読みいただけますと幸いです。



2022年6月20日月曜日

新参者が辿る医学部生活


Sims, Lillian R.  Into the Unknown: Experiences of Social Newcomers Entering Medical Education, Academic Medicine: June 01, 2022 - Volume - Issue - 10.1097/ACM.0000000000004762

doi: 10.1097/ACM.0000000000004762 


ぎゃー。しびれる論文に出会いました。


医師の子弟であるなど、もとから医療とかかわりがあった学生(この論文ではinsiderと呼称しています)ではない、もともと医療にかかわりがなかった医学部入学生(=newcomer)が医学部生活で何を体験するのかについて探った研究です。


まず、newcomerは、入学直後にoutsiderとして結構しんどい思いをするようです。

outsiderとしての経験には、地方出身、低所得といった社会的背景も影響します。

そんなnewcomerも、自分の持つ多様な背景をもとに、自分なりのやりかたで医療に向き合っていきます。


私自身、医師の子弟でなく、地方出身であるなどといった様々な背景が重なり、大学生活ではoutsiderとして、まあまあしんどい経験はあったなと思います。

同級生がみな文化的資本力に満ち溢れていて、愕然としたこともありました。

学内での社会的資本は明確に不足していました。

ですが、結局は地元の小病院で研修して家庭医になるという、私がいた大学の中では明らかに異質な道を歩みましたし、それにより多大な利益を得たと思っております。

ですので、まさに私のことを書いた論文だ、という感じました。


そして、恐ろしいことに、単独著者です。世の中にはすごい人がいるのですね…



2022年6月16日木曜日

認知症のある高齢者に赤ちゃん言葉で話しかけるとケアの拒否が増える

Shaw CA, Ward C, Gordon J, Williams KN, Herr K. Elderspeak communication and pain severity as modifiable factors to rejection of care in hospital dementia care. J Am Geriatr Soc. 2022 Jun 1. doi: 10.1111/jgs.17910. Epub ahead of print. PMID: 35642656.

elderspeakとは、簡単に言えば、高齢者にたいして、赤ちゃんかのように話しかけてしまうことです。

私としては、できるだけしないようにとは思っていますが、ついついelderspeakになってしまうことがあり、あとで反省することも多いです。


痛みを緩和しelderspeakを控えることで、rejection of care(ケアの拒否)が減る、という研究です。

認知症患者と看護師との間に行われた会話の大半(96.6%)が何らかの形でelderspeakを含んでいました。

また、半数近く(48.9%)の看護職員がケアの拒否を経験していました。

elderspeakが10%減少すると、ケアの拒否のオッズは77%減少し、ケアの拒否の強さは16%減少しました。また、痛みの重症度が1単位下がると、ケアの拒否のオッズは73%減少し、強さも28%減少しました。


2022年5月15日日曜日

パートタイム研修から得た主体性


Alexander SM, Byerley JS, Page CP, Holmes AV, Beck Dallaghan GL. Reflections on part-time residency training, 15-25 years later: a qualitative study on wellness and career impact. Teach Learn Med. 2022 Apr 17:1-8. doi: 10.1080/10401334.2022.2050241. Epub ahead of print. PMID: 35435100.


様々な理由で「非常勤での研修」を受け、修了した医師にインタビューを行い、非常勤研修が職業生活やし背うかつにどのような影響を与えるかを探った研究です。

とても重要なテーマだと思います。様々な理由で、full-timeでの研修ではなくpart-timeでの研修が適しているようなことはたくさんありますし、従来のマッチョな医師像、研修像から医療界は早々に脱しないといけないと思っています。


この研究の素晴らしい点は、非常勤研修を「仕方なしに選択するsecond-bestな選択肢」として扱っておらず、むしろ非常勤研修を修了したことで得られたポジティブなテーマを見出しているところです。


小児科、内科・小児科併用、家庭医学の各プログラムで1995年から2005年にかけてパートタイムでレジデント研修の一部を修了した医師に対してインタビューを実施しました。研究参加者は、女性医師7名でした。

現象学の枠組みで分析を行い、非常勤研修の理由と利点として、4つの包括的なテーマを決定しました。「長時間トレーニングの追求」、「ロジスティックス」、「キャリア軌道への影響」、「ウェルネス」というテーマは、非常勤研修の有用性と、その成功を確実にするためのプログラムの必要性を強調するものでした。


これらの分析から、非常勤研修を通じて参加者は主体性を獲得していることがわかりました。さらにこの主体性の感覚はキャリアを通して持続していました。


非常勤研修に関するこの質的研究は、研修機会の多様性を確保し、レジデントのレジリエンスを高めるために重要な位置づけになると思います。


2022年4月27日水曜日

心房細動にはABC pathwayで


Rivera-Caravaca JM, Roldán V, Martínez-Montesinos L, Vicente V, Lip GYH, Marín F. The Atrial Fibrillation Better Care (ABC) Pathway and Clinical Outcomes in Patients with Atrial Fibrillation: the Prospective Murcia AF Project Phase II Cohort. J Gen Intern Med. 2022 Apr 11. doi: 10.1007/s11606-022-07567-5. Epub ahead of print. PMID: 35411538.


心房細動のマネジメントはAtrial fibrillation Better Care(ABC)pathwayで。

A: Avoid stroke

B: Better symptom control

C: Cardiovascular risk factors/comorbidities management

の頭文字でもあります。


A基準:抗凝固薬が適切に処方され、治療されている。


B 基準:EHRAスコアがI(症状なし)またはII(日常生活に影響しない軽度の症状)である


C基準:高血圧、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)、糖尿病などの主な心血管系合併症の最適な管理/治療を受けている

高血圧:160/90mmHg未満で適切な薬剤で治療されている

冠動脈疾患:ACE阻害薬、β遮断薬、スタチンでの治療

末梢動脈疾患:スタチンによる治療

脳卒中/TIAの既往:スタチンによる治療

心不全:ACE阻害剤/ARBおよびβ遮断薬による治療

糖尿病:インスリンまたは経口糖尿病薬による治療、を検討


この論文は2016年7月~2018年6月にワーファリンによる治療を開始した心房細動外来患者の前向きコホート研究についてのものです。

63.0%(658例)がABC pathwayを遵守しており、非遵守とくらべ全死亡や心血管系重大イベントの発生率が低いことが示されました。

リアルワールドの前向きコホートで、pathwayを遵守することが2年後の全死亡や重大イベントのリスクを有意に減少させることを示しています。


この研究はワーファリン服用者が対象となっている点に注意が必要です。

しかし、心房細動にはABC pathwayが大事、というのはDOAC服用でも大きくは変わらないと思います。


あらたに家庭医療研修を始める方や、新たに指導医になった方も多いと思うので、ぜひ外来診療/指導の参考にしてください。


2022年4月20日水曜日

心不全入院患者への教育的介入の効果をしらべるRCT


Hwang B, Huh I, Jeong Y, Cho HJ, Lee HY. Effects of educational intervention on mortality and patient-reported outcomes in individuals with heart failure: A randomized controlled trial. Patient Educ Couns. 2022 Mar 29:S0738-3991(22)00136-7. doi: 10.1016/j.pec.2022.03.022. Epub ahead of print. PMID: 35369996.


ソウルのuniversity-affiliated hospitalの入院患者を対象に、教育介入の効果をRCTで検証した論文です。


心不全の入院患者122名が研究参加者です。

介入群(n=60)では,入院中の看護師主導の個別教育セッション+退院後3回の電話連絡を行っています。

対照群(n = 62)は通常通りのケアです。


測定は患者報告アウトカム(入院時、3か月後、6か月後)と全死亡です。


追跡期間中(中央値:568日)に、介入群で7例(12%)、対照群で15例(24%)の死亡が発生しています(調整後ハザード比は0.16-0.98で、p=.046です)。介入群は対照群よりも患者報告での知識、セルフケア、健康関連QOLでより高い改善を示していました。


心不全ケアは患者との協働が重要だという認識は持っていましたが、RCTでちゃんと検証しているのは素晴らしいと思いますし、教育的介入はルーチンケアの一部だという主張も納得です。

追跡期間の間に全死亡が総計で22/122に発生しており、死亡リスクの高い集団で検証したのかなと思いました。本文読むと平均年齢66歳でNYHA Ⅲが32%、Ⅳが38%です。ソウルのuniversity-affiliated hospitalの入院患者が対象ですので、やはり重度心不全の方が多く集まったのだと思います。EF<40%のHFrEF患者が半数のようです。

対象者の投薬内容は、ACE inhibitor  20.5%,  ARB 27.9%, Beta blocker 65.6%, Diuretic 77.9%, Digitalis 19.7%で、SGLT-2iやMRA、ANRIについては記載がなく、現状の薬物療法の水準と同レベルの薬剤治療が行われていたかは疑問です。HFrEFは半数だけという点は考慮しなくてはなりませんが。

とはいえ、教育的介入が重要という主張はその通りですし、臨床医としては、新しい薬剤を使って満足というだけではなく、しっかりフォローしなくてはいけません。


この研究では看護師が電話で連絡を入れていますが、日本の家庭医療の文脈に直せば、家庭医療の継続性や近接性が活かされる分野でもあると思います。

病院家庭医としては、心不全急性増悪は入院加療で比較的早期に症状が落ち着くので、むしろ退院してからが勝負だという気持ちが必要なのですね。



2022年4月15日金曜日

家庭医としての医学的知識アップデート

 

以前にも同様の記事をアップしたことがありますが、要望があったため再度まとめます。

あくまで私はこうしているということです。

人は自分がしていることを正しい方法だと信じ込むバイアスがあると思っています。

自分が歩いてきた道は他より優れた道である、という思い込みですね。

なので、我流を披瀝するのは気が咎めるのですが、ないよりある方がいいかな、くらいの気持ちでこの記事を書きます。話題は医学的知識に限ります。

専攻医はまず基本的な家庭医療の教科書を読むことから始めた方がいいと思いますので、あしからずご了承ください。


①家庭医療学のアップデート

RSS readerやMy NCBIを使って、以下の雑誌については定期的に目を通しています。

タイトルでスクリーニングし、興味を持った原著と総説(6-8割)はアブストをよみ、興味を持てば全文読みます。アブストをDeepL翻訳使って読むだけなら短時間で読めます。

Annals of Family Medicine

British Journal of General Practice

Canadian Family Physician

Education of Primary Care

Family Practice

Journal of American Board of Family Medicine

Journal of General and Family Medicine

Journal of General Internal Medicine

Journal of the American Geriatrics Society

Patient Education and Counseling

あとは、教科書の類はとりあえず読みます。


(私は研究分野の関係上、以下の雑誌も同様にして読んでいます。家庭医としては優先度低いですが、家庭医療指導医としては読むと面白い雑誌だと思います。

Academic Medicine

Advances in Health Sciences Education

Medical Education

Medical Teacher

Teaching and Learning in Medicine)



②病院で使う医学知識

病院総合医にとって必要な医学知識を問題形式で学ぶのは、Graber and Wilburがおすすめです。時間的にも労力的にもこれ1冊でいいでしょう。MKSAPは家庭医にとっては優先度が低いと思います。(私は最近この学習が疎かになっており反省です)

あとは、NEJMのClinical PracticeとBMJのEducation at a glanceは定期的に確認しています。(趣味的に、Case Reportについては数誌、目を通しています)

ただ、日本語でインプットする方が効率がいいのは間違いないので、SNSやブログをみたり、興味を持った医学書を買って読むようにしています。


Graber and Wilburは翻訳する価値がある本だと思うのですが…


③家庭医外来で使う医学知識

上記の学習では、家庭医外来で使う知識はカバーできませんので、別途学習素材は必要です。

American Family PhysicianとFamily Practice Managementの購読で十分だと思います。

逆に、これを読まないと対応できない問題が外来では多くやってきますので、家庭医外来するなら必読です。AFPに関しては専攻医にもぜひ読んでほしいです。



2022年4月4日月曜日

新年度になりました。

 

新年度になりました。

大学院生活は折り返しです。今年こそは原著論文を出したいです。

現在進捗中のものがしっかり世に出せれば、今年は4,5本出せるはず…


臨床については大きな変化はありません。

COVID-19はまだまだ医療現場にとって負荷が大きいです。

限られた時間と能力をどのように配分するかがいつも悩ましいです。

迷惑をかけないように、スキルの維持をしなくてはいけません。

医師がどれだけ勉強しているかが、患者アウトカムに直結するということを、日々感じる次第です。


研究以外の発信について。

ケースレポートは、ペースは遅くなりながらも時々出しております。

「家庭医が読んで明日から使える」を一貫したテーマにしており、比較的コモンなテーマで書くことが多いので、アクセプトされるまでがいつも大変です。


ありがたいことに商業誌や本の執筆依頼を時々受けます。

こういう媒体でないと表現しづらいこともあるので、機会を頂けることに感謝です。

最近、翻訳してないですね。翻訳業務、大歓迎です。

学会等での発信も継続的にしております。


発信するチャンネルが比較的多いので、ついついこのブログを更新する頻度が下がってしまいます。

最近は気を付けているものの、なかなか論文紹介はハードルが高い昨今なので、

幸い今年度は研修医教育の機会もあり、臨床や教育実践の話題も織り込んでいければと思っております。

徒然なるままに書く記事が多くなるかもしれません。


2022年3月18日金曜日

路上生活者の街頭排除による悪影響


路上生活を営んでいる方を講演や街頭から排除するという施策は、日本でもよく行われています。

オリンピック前もそうでしたし、私が今いるところでは、国体前にこのような排除が行われました。

街頭排除が行われた後、コミュニティが散り散りになってしまい、支援が必要なはずの方が見えなくなってしまったという実感が私にはあります。

この論文は、街頭排除による健康被害と医療システムへの影響を明らかにしようとしたものです。


Qi D, Abri K, Mukherjee MR, Rosenwohl-Mack A, Khoeur L, Barnard L, Knight KR. Health Impact of Street Sweeps from the Perspective of Healthcare Providers. J Gen Intern Med. 2022 Mar 16. doi: 10.1007/s11606-022-07471-y. Epub ahead of print. PMID: 35296981.


2018年1月から2020年1月にかけて、サンフランシスコで路上生活経験者(PEH)に対して健康・福祉サービスを提供する医療従事者39名を募集し、自由記述のアンケートを行いました。

得られたデータをテーマ分析し、街頭排除が及ぼす健康への影響を2つ抽出しました。

①持ち物や医療品などの物的損失と、②地理的な移動、コミュニティの分断、フォローアップの喪失などの不安定です。

この2つのため、慢性疾患、感染症、薬物使用障害の状況が悪化し、身体的にも精神的にも悪影響となった可能性があるとのことです。

また、排除によって、救急や入院の利用が増加し、医療制度に悪影響を及ぼす可能性があることも指摘されました。


路上生活者を町から排除することの健康への影響を調べようと思った際に、当事者に研究に協力してもらう、量的なアウトカムを調査する、といった方法が考えられると思いますが、なかなか実施のハードルが高い研究になります。決してそのような研究をしなくていいという意味ではありませんが、支援者へのインタビューを通じて問題に迫るこのような研究は、feasibilityが高く、十分に計画すればこのように質の高い結果が得られると思います。

日本でも同様の研究が必要だと思います。



2022年3月9日水曜日

しばらく更新できておりません

 

なかなかに忙しく、まったくブログ更新ができておりません。

論文は定期的に読んでいるのですが…


2022年1月27日木曜日

心血管疾患を有する高齢者の主体性


心血管疾患を有する高齢者は多く、プライマリケアで薬剤管理をすることもよくあります。

DOACなど抗凝固薬はつねにbenefitとharmのトレードオフが付きまといますし、抗血小板薬もいつまでどのくらい服用するのかなど、このあたりの薬剤の開始・続行・中止は常に患者とshared decision makingしていく必要があります。


しかし、臨床の肌感覚ですが、薬剤治療の益と害について高齢患者と深く議論しているのは、薬剤を出す患者の1-2割にとどまっているような気がします。

多くの場合が、「前からこの薬を飲んでいた」「医者が飲めと言われる薬を飲んでる」というコンテクストで、特に議論のないまま継続処方となっているのではないでしょうか。


Wallis KA, Taylor DA, Fanueli EF, Saravanakumar P, Wells S. Older peoples' views on cardiovascular disease medication: a qualitative study. Fam Pract. 2022 Jan 25:cmab186. doi: 10.1093/fampra/cmab186. Epub ahead of print. PMID: 35078221.


この論文では、75歳以上のニュージーランド北部在住の患者を、民族が多様になるように研究リクルートしています。クリニックだけでなく、地元の図書館、ソーシャルグループ、礼拝所のチラシ、口コミでリクルートしており、努力がうかがえます。

質的研究に患者をリクルートするのって結構大変で、しかも多様なバックグラウンドの参加者を集めようと思ったら、地域に出ていくのが最適なのかもしれないですね。

1対1のインタビューと、1対多のフォーカス・グループを組み合わせて、データを収集しています。録音した発言内容を逐語的に書き起こし、テーマ分析を行っています。


すると、以下の4つのテーマが出てきました。

(i) CVD治療薬の有益性を強調し、有害性を軽視する

(ii) 治療薬を服用せざるを得ないと感じる

(iii) 「私の」医師を信頼する 

(iv) 治療薬が継続されることを期待する


筆者たちは、高齢CVA患者は、悪く言えば医師の言いなりになっているのではないかと指摘しています。主体性をもった治療方針の決定がなされていないかもしれないと述べています。


この研究はニュージーランドのものですが、日本でも同様の傾向はありそうです。

質的研究の面白いところは、限られた患者数を対象にしていても、深く分析することで、「あ、それそれ、分かる!」と読者に思わせることができることだと思います。

量的研究でいう外的妥当性external validityに相当する概念として、移転可能性transferabilityというものがありますが、これがまさにそうです。


私は、この研究結果は日本の高齢心血管疾患患者の診療においてもtransferできると感じました。

明日から、治療について話し合う時に、患者の主体性により着目してみようと思います。



2022年1月24日月曜日

在宅緩和ケアと経済的困難


Wang SE, Haupt EC, Nau C, Werch H, McMullen C, Lynn J, Shen E, Mularski RA, Nguyen HQ; HomePal Research Group. Association Between Financial Distress with Patient and Caregiver Outcomes in Home-Based Palliative Care: A Secondary Analysis of a Clinical Trial. J Gen Intern Med. 2022 Jan 22. doi: 10.1007/s11606-021-07286-3. Epub ahead of print. PMID: 35064463.


2019年に行われたコホート研究(患者779人、介護者438人)のデータを利用して、在宅緩和ケアと経済的困難の関係を調べた論文です。


経済的困難の測定は、在宅緩和ケア開始時に、自身の経済的困難を0点から10点で自己評価してもらっています。

そして、アウトカムについては、患者報告指標としてEdmonton Symptom Assessment Scale、distress thermometer、PROMIS-10を、介護者報告指標としてPreparedness for Caregiving、Zarit-12 Burden、PROMIS-10を使っていまず。どれもベースラインおよび1ヵ月後の時点で測定しています。

病院の利用状況については、電子カルテと請求書を用いて把握しています。

そして、経済的困難とアウトカムとの関係を混合効果調整モデルで、病院利用との関係を比例ハザード競合リスクモデルでそれぞれ評価しました。


結果です。

在宅緩和ケアを介する患者の半数に経済的困難がありました。若い患者ほどつらい経済的困難を抱える傾向にありました。

経済的困難は、患者ならびに介護者の症状や苦痛、QOLの低さと関連していました。

ただし、そのような経済的困難がある患者は、1ヵ月後の負担改善の幅が大きく、同時にソーシャルワークとの接触が多かったです。介護者についても精神面での改善の幅が大きかったです。病院利用がより増えているというわけではありませんでした。


以上より、在宅緩和ケアにおいて患者の経済的困窮はコモンな問題であり(特に若い患者)、様々にネガティブな状況と関連するが、在宅緩和ケアを行うことで、おそらく社会的支援が媒介となって、アウトカムが大きく改善する、ということが、この研究で示唆されました。


在宅医療にかかわるものとして、自分の行う在宅緩和ケアがここに示されたような効果を持つものになるように、意識して患者の経済状況に向き合う必要があると思いました。


2022年1月22日土曜日

認知症アップデート:CCCDTDの推奨


今月号のCanadian Family Physicianで、

Canadian Consensus Conferences on the Diagnosis and Treatment of Dementia (CCCDTD)が昨年出したrecommendationが解説されていました。


認知症は本当によく出会うので、知識をアップデートしておきましょう。

Ismail Z, Black SE, Camicioli R, Chertkow H, Herrmann N, Laforce R Jr, Montero-Odasso M, Rockwood K, Rosa-Neto P, Seitz D, Sivananthan S, Smith EE, Soucy JP, Vedel I, Gauthier S; CCCDTD5 participants. Recommendations of the 5th Canadian Consensus Conference on the diagnosis and treatment of dementia. Alzheimers Dement. 2020 Aug;16(8):1182-1195. doi: 10.1002/alz.12105. Epub 2020 Jul 29. PMID: 32725777; PMCID: PMC7984031.


【血管型認知症について】

・CTよりMRIを取りましょう

(筆者コメント:全例MRI評価は厳しいなぁ。すぐに診療に取り入れるのは憚られてしまいます…)

・高血圧の治療はちゃんとしましょう。認知症のリスクを減らす可能性があります。

・血管性認知症を疑う場合、dBP 90mmHg以上、sBP 140mmHg以上なら降圧しましょう。ただし、sBP 120未満は逆効果です。

(高齢者でsBP 70以下には下げないよう気を付けていましたが、sBP 120以下もよろしくなさそうですね。)

アスピリンの使用は、脳卒中や脳梗塞の病歴のない、血管起源と推定される隠れた白質病変の画像上の証拠がある軽度認知障害または認知症の患者には推奨しません。隠れた脳梗塞が検出には、アスピリンの効果は不明です。

(ここが注意。CFPでは「アスピリンを推奨する」と書かれていたが、原文では「使ってもいいけど効果はよくわからない」というニュアンスなのでしょうか。Grade 2Cですし、この推奨文をもって、いわゆる「隠れ脳梗塞」がある認知症/軽度認知障害患者にはアスピリンを使いましょう、となるのは早計かと思います)


【スクリーニング】

・基本的にスクリーニングは推奨されない。

・潜在的な症状に注意を払うべし。薬剤服用が困難、セルフケアの減少、詐欺にあう、抑うつや不安などがあれば、ちゃんと評価しましょう。

(a)脳卒中/(TIA)の既往(b)うつの既往 (c)未治療の睡眠時無呼吸;(d)コントロール不良な代謝性疾患、心血管疾患(e)せん妄の最近のエピソード(f)高齢での精神科的症状 (g)最近の頭部外傷(h)パーキンソン病がある場合には、患者・家族・関係者に認知面について質問し、懸念がある場合はさらなる評価に進みましょう。

(日本だとHDS-Rでしょうか。Mini Cogとかもいいですよね。私はHDS-R+時計描画+狐の手・鳩の手模倣をしてもらっています。)

・家族/介護者が評価するAD-8(日本語版はこちら)、機能を見るDisability Assessment for Dementia(日本語版あるようですが探せませんでした…)といった評価ツールもあります

・高齢者にはCGAしましょうね。

・画像検査はCT+MRI。

(MRIでの細かな評価は…かなり専門的なようです。)


【認知機能以外の評価】

・歩行速度の低下は認知症と強い相関あります

(私はtimed up and go testをしています)

・パーキンソニズムがあると認知症発症率3倍になります。 

・フレイルは将来の認知症発症の祥のマーカーになる。

(現時点では、高度なイメージングやバイオマーカーより、歩行速度とフレイル、ということのようです)

・睡眠衛生は必ず聞く。特にREM睡眠障害と睡眠時無呼吸に注意。

・聴覚障害は認知症の発症と関連しています。聴力を評価しましょう。

・視覚障害が認知症発祥と関連しているという十分なエビデンスはありませんが、視力改善は認知機能を改善させる可能性があります。


【リスク軽減】

・地中海式食事、果物や野菜の摂取を励行しましょう。飽和酸ではなく不飽和​​脂肪酸をとりましょう。

・中等度以上の身体活動(有酸素運動、筋トレなど)をしましょう。太極拳いいですよ。

(私の勤めている病院の併設ジムでも太極拳のコースがあります)

・聴覚は大事です。聴覚検査+耳鏡検査をして、耳毒性の可能性がある薬剤をレビューして、慢性中耳炎などあれば耳鼻科に紹介しましょう。補聴器も大事です。

(難聴についてはこちら

・SASがあればCPAPを。

・頭を動かす娯楽、ボランティア、生涯学習など、なんでもいいのでいろいろな活動をしましょう。

・貧困に立ち向かうことは認知症に立ち向かうことになります。社会的な状況をサポートしましょう。

・幼少期だけでなく生涯にわたる学習の機会を支援しましょう。

・フレイルに介入しましょう。

・抗コリン薬はできるだけやめましょう。

・コミュニティレベルでの介入をしましょう。


【抗認知症薬】

・コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗剤の適応は、アルツハイマー病、パーキンソン病による認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症のみです。軽度認知障害には処方しないでください。

・コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗剤を12か月以上服用していて、次の場合に当てはまれば中止を検討しましょう

 ー他の要因がないのに、過去6か月間で臨床的に意味のある認知症の悪化がある

 ー臨床的な効果がない

 ー重度または末期の認知症

 -副作用(重度の悪心、嘔吐、体重減少、食欲不振、転倒など)

 -服薬アドヒアランスが不十分で、安全な継続または有効性評価ができない

・中止する際は、4週間ごとに50%ずつ減らしましょう。減薬で明らかに症状が悪化したら再開しましょう。

・精神病症状、興奮、攻撃性の見られる患者では、むやみな中断や止めましょう。症状が落ち着いても続けておいた方がいいでしょう。



以上、ざっくりまとめたつもりが長くなりました。

こうやってみると、推奨が幅広い分野にわたっていますね。

家庭医の腕の見せ所だと思います。



2022年1月21日金曜日

周縁化されている患者を研究にリクルートする時には…


家庭医療学の研究にも、基礎研究に当たるものがあります。


例えば、この論文。

Ravensbergen WM, Blom JW, Evers AW, Numans ME, de Waal MW, Gussekloo J. Measuring daily functioning in older persons using a frailty index: a cohort study based on routine primary care data. Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e866-e873.


高齢者のフレイルについて研究したいと思ったときに,どのようにフレイルを測定すればいいのか,という問題に突き当たります.

通常は,妥当性の確認された質問紙を用いて測定をするわけですが,これだと手間もお金もかかってしまいます。それが日常診療の電子カルテデータを用いて評価できたら嬉しいですよね.

そこで,特に研究を意識せずに日常診療で集めた情報だけが載っている電子カルテデータを用いて妥当なフレイルの測定ができないかやってみた、という研究です。結果は、うまくいかなかったようです。


昨日付でJ Gen Intern Medに公開された論文も、基礎研究にあたるものです。

いわゆる「マイノリティ」や辺縁化された方を研究にリクルートする際には、待合室にテーブルを置いて対面するのが良い、という論旨です。


Wambua M, Vang M, Audi C, Linzer M, Eton DT. Lessons Learned: Recruiting Research Participants from an Underrepresented Patient Population at a Safety Net Hospital. J Gen Intern Med. 2022 Jan 20. doi: 10.1007/s11606-021-07258-7. Epub ahead of print. PMID: 35048288.


複数の慢性疾患(MCC)を有する患者の治療負担を評価する研究において、異なるリクルート戦略の有効性を比較するしています。


比べたのは、郵便でのリクルート、待合室にテーブルを置いての対面、電話の3つです。

この研究は、セーフティネット上にある方を対象としています。

参加者の半数以上がアフリカ系アメリカ人またはアフリカ系移民であったとのことです。

そして、対面式のリクルートが最も迅速かつ高率にリクルートできた、という結果になりました。


少なくとも、社会的に周縁化されている方を研究にリクルートする際には、対面で行うのがよさそうですね。



2022年1月19日水曜日

違法薬物使用におけるハームリダクションの効果


物質使用障害はSDHと大きな関係があり、特にアメリカやカナダなどでは、薬物使用について、ハームリダクションの施策がとられるようになってきています。

たとえば、注射針を安全に捨てることができるゴミ箱を街中に設置したり、医療者の監視のもと安全に薬物を使用できる場所(safe consumption sites:SCS)を設けたりしています。


日本の従来型違法薬物対策(「ダメ、ゼッタイ」)は効果が乏しい、場合によればむしろ逆効果であることが分かっており、ハームリダクションに基づくアプローチについて実践と研究が進んでいますが、とはいえ特に国内では、違法薬物を安全に使うことができる場を設けることで急性中毒や感染症のリスクを下げようという取り組みは、なかなか進めづらい現状があると思っています。おそらく諸外国でも多かれ少なかれ同様でしょう。


この論文は、無認可(!)のSCSが違法薬物利用者の健康アウトカムにどのような影響を与えるのかを、前向きコホート研究で調べたものです。


Lambdin BH, Davidson PJ, Browne EN, Suen LW, Wenger LD, Kral AH. Reduced Emergency Department Visits and Hospitalisation with Use of an Unsanctioned Safe Consumption Site for Injection Drug Use in the United States. J Gen Intern Med. 2022 Jan 12:1–8. doi: 10.1007/s11606-021-07312-4. Epub ahead of print. PMID: 35020166; PMCID: PMC8753940.


2014年末に、アメリカの非公開の場所にある組織が無認可のSCSを開設しました。

このSCSでは、利用者は事前に入手している薬物を持参して、注射することができます。

訓練されたスタッフが駐在しており、監視やナロキソンの投与をすることができます。


その無認可SCSの周りに居住する、違法薬物注射を行った人をリクルートしました。

(よくリクルートできたなと驚いてしまいます)

そして、2018年から2020年にかけて、ベースラインと6カ月、12カ月目にそれぞれ面接を行い、患者の状況のデータを取得しました。


当然、介入研究が行えるわけではないので、前向きコホート研究です。

ただし、傾向スコアマッチングを用いて、準実験的に因果関係の推論ができるようにしています。


合計494名が研究に参加しました。うち59名(12%)が少なくとも一度はSCSを使用していまいた。

解析の結果、SCSを使用した人は、救急部を受診する可能性が27%低く、救急受診の回数が54%少なく、入院が32%少なく、入院日数が50%少ないことが分かりました。

また、有意ではないものの、SCS使用者は過剰摂取の可能性が低く、皮膚・軟部組織感染の可能性がわずかに高いことが示されました。


筆者たちは、SCSの利用により、違法薬物注射に関連する急性期医療サービスの利用負担の増加を軽減することができる、と述べています。


無認可のSCSの効果を測定するというchallengingな論文ですが、このようなエビデンスの積み重ねが、より公正で健康な社会を構築するのだと思います。