2016年4月27日水曜日

被災地支援報告②


今日はスーパーの軒先で健康相談でした。
1日でおよそ25名程度の方とお話ししました。

余震ですぐ逃げられるよう、ずっと飲んでいた睡眠薬を中止して、全然寝ていないという方や、もともと糖尿病のコントロールが悪かったところにインスタントラーメンやおにぎりばかりの生活になって口渇多尿が出現したという方がいました。後者は、次回定期受診までまたずに病院を受診するよう伝えました。
おひとり、脈圧が開大している方がいて、聴診してみると収縮期雑音があったので、生活が落ち着いたら受診をとすすめました。
他には、車中泊を10日間して足が痛い方や、9歳の孫が震度2の余震でも飛び起きてしまうという方、震災後の復旧作業と長期間の車中泊で腰が痛く、かかりつけの病院に見てほしいが、今は病院も大変だろうと受診を控えているという方もいました。
通常の健康相談もあり、頭が痛い→緊張性頭痛として対応、風邪のあとから息がゼーゼーする→wheezeあり受診勧めるなど。糖尿病のコントロールについての相談や、皮膚科領域の相談も多かったです。

以上、本日の相談内容を5つに大別すると以下の通り。
①通常の急性疾患
②被災による慢性疾患の増悪
③不安、不眠など精神的問題の発生
④避難生活による身体機能の問題の発生
⑤医療アクセスが遠くなることによる受診抑制

特に⑤に関しては、アウトリーチ活動でしか掘り起こせない群です。
他の群に関しても、それぞれ今後の見通しを持って対応する必要を感じました。


その他の支援報告について。

外来 災害医療というより一般外来の様相。外来患者数は多く、普段の医療圏外からも来ている。

病棟 職員は自分の家のことと病院のことで大変。業務支援で休める態勢を作る必要がある。

地域 病院では見えてこない医療ニーズが埋もれている。低血糖を繰り返している、不整脈があって気分が悪いなどの訴えがあっても病院受診を控えている方がいる。

やはり地域に出てニーズを洗い出し介入する必要があり、現地職員の負担軽減と合わせてどこまでできるかが支援者の見せ所だと思います。

2016年4月26日火曜日

被災地支援報告


本日より現地に入り支援をしております。
見たこと、聞いたことをまとめておきます。
あくまで私個人の経験、伝聞です。また、被災地の状況は刻々と変わります。その旨ご了承ください。同時期に支援に入った上級医の記載も参考にしております。

①病院外来

外来救急は上気道感染、尿路感染が多い。治りが悪い印象。
避難所にいる高齢者の認知症が悪化し避難所に居づらい、埃っぽくドアが開けっ放しなので風邪が悪化した、認知症や精神疾患のある方が、避難生活が長くなって体調を崩している、という様子が聞き取れる。
かかりつけがなくなって薬がない人も。慢性疾患が増悪している。血圧が高くなったり、炊き出しのご飯で血糖コントロールがわるくなったり。
総合的な力を発揮できる医師が必要。


②避難所
避難者は直後は15万人、現在は5万人ほど。
体育館など建物内だけではなく、車中泊、テント泊が多いのが特徴。2日前にテントが設置され、それまで10日間ほど車中泊していた方がようやく足が伸ばせたとの声があったた。
ペットOKのテントもある。
テント、車中泊がおおいため、誰がどこにいる、どこに医療支援の必要な人がいるかの把握が困難。また、夜だけ車中泊、日中は仕事していて支援者の見回りの時には不在というケースも多い。
今日は最高気温28℃と、日中のテント内は暑い。夜勤帯の業務のため昼はテントで寝ているという人もいるが、暑くてねれないとのこと。
発電機の騒音が一日中する、夜も灯りで眩しいなどの意見も。
私が聞き取っただけで、テント内に虫がいて咬まれた、家にコルセットを置いてきて腰が痛くで動けない、ずっと飲んでいた抗不安薬の手持ちがない、被災しながら休まず仕事をしている夫を不安に思っている、夜に喘息発作が出る、という声があった。また、もともと精神的に脆弱であった方に強い症状が出たケースもあり、適切な団体に繋いだ。

③地域訪問
全壊、半壊世帯が集中している。道路が波打っていたりもする。電線が破損しているところがあるなど、危険な地域も。
ゴミ処分場がないのが問題。被災ゴミを捨てる場所がなく、家の中が片付かない。道路脇にゴミが積まれており、場所によっては異臭がする。日中は家で、夜は庭の車で、という生活形態の方もいる。自主避難、自宅避難者の拾い出しと介入が課題。

④現地職員
車中泊、避難所暮らしをしながら医療支援を行っている職員も。現地職員の疲労はピークに達しておる。いかに現地職員に休息を確保することができるかが鍵。

⑤支援の課題
短期間で支援者が入れ替わる場合、情報の引き継ぎが非常に重要。すべてを支援団体本部に集めるのも大事だが、現地本部は忙殺されており的確な情報共有が困難なこともある。支援者は、お願いされたことを諾々と、提案は控えめに、というスタンスが大事。間違っても現地職員を責めないように。
また、現地では様々な団体が動いている。少し窮屈に感じることも。ある程度仕方がないと考え、情報共有を綿密に行うことが肝要。

日焼け止めを塗らずに外にいたらがっつり肌が赤くなりました。今後支援に入る方は、お気をつけください。












2016年4月25日月曜日

被災地支援に行きます。


本日より、被災した医療期間の支援に行きます。

研修医なのでできることは少ないかもしれませんが、求められることを行いたいと思います。

私が住むところも、いつ震災、放射能事故がおこるかわからないところです。後半に関しては、非常に残念な気持ちです。

自分の健康に気をつけて、頑張ります。


2016年4月18日月曜日

糖尿病性末梢神経障害



糖尿病性末梢神経障害が疑われるが他の疾患の可能性もある方をマネジメントしていて
ちょうど今週のNEJMでレビューが出ていたのでさっそく読みましたが
大雑把な記載であまり参考になりませんでした…。

(メトホルミンでビタミンB12欠乏になるから鑑別に入れるようにとの指摘はなるほどと思いました。)
(抗てんかん薬、TCA、SSRIなどの薬剤は疼痛緩和目的なのですね。)


神経疾患に出会った際にいつもお世話になっている教科書に
詳しい記載がありましたので
まとめてみます。




①sensory or sensorimotor polyneuropathy

いわゆる手袋靴下型。最もなじみのあるタイプ。
感覚障害優位で、腱反射は低下する。
dysesthesiaが強い。進行すると下肢遠位部優位に筋力低下・筋委縮。


②autonomic neuropathy

見逃しやすいタイプ。下痢、胆嚢機能障害、勃起不全、起立性低血圧、直腸膀胱障害など
低血糖の症状が自覚できないのも症状の一つ。


③cranial mononeuropathy

典型例:外眼筋麻痺+瞳孔は正常、一側性、急性発症、1-2カ月で自然回復
外転神経障害をきたすことも。
顔面神経麻痺をみたらヘルペスウイルスの関与を疑う。


④symmetric proximal lower limb motor neuropathy

ここら辺からなじみのないタイプになってきます。
ただ、今私が出会っているのはこのタイプかもしれません。

50歳以上のコントロール不良患者
慢性・対称性の下肢近位の筋萎縮・筋力低下
①と合併していることが多い。
厳格な血糖コントロールで改善する。


⑤asymmetric lower limb motor neuropathy

50歳以上の長期罹病患者
突然発症、1-2日で症状完成
一側大腿四頭筋、大内転筋の筋力低下・筋萎縮
保存的加療で徐々に改善

④⑤を合わせてdiabetic amyotrophyという


⑥trunk and limb monomeuropathy

50歳以上の長期罹病患者
肋間神経や体幹・四肢の神経幹の障害
非常に強い痛み
狭心症、急性腹症と間違えられることも
予後良好だが数年症状が続くことも


また、インスリン治療で血糖コントロールが急速に改善した場合に末梢神経障害が起こることがあります。
こちらの本に症例が載っていました。




post-treatment neuropathyは、もともと神経障害が軽度の患者に起こりやすいそうです
有痛性で夜間に増悪、アロディニアも来しますが、1年以内に自然軽快するようです。



2016年4月14日木曜日

非代償性アルコール肝障害の急性管理



これで入院してくる方、けっこういるように感じるので。

BMJ Clinical Review
Decompensated alcohol related liver diseas: acute management
BMJ 2016;352


・多飲患者の90-95%は脂肪肝に進展、20-40%が脂肪性肝炎+線維化まで進展、10-20%が肝硬変に。3-10%で肝細胞がんを発症する。
・肝不全を起こすと、黄疸、凝固異常、脳症が出現。
・門脈圧亢進を起こすと、静脈瘤、腹水、特発性細菌性腹膜炎に進行
・アルコール関連肝障害(ARLD)の平均寿命は59歳!!
・非代償性アルコール肝障害の短期死亡率は1カ月当たり10-20%と非常に高い。
・慢性肝不全急性増悪(acute-on-chronic liver failure)という概念が提唱されている、肝硬変のある患者に感染症などが重なって予後不良の肝不全になること。

・肝硬変患者に多い感染症は、SBP、UTI、肺炎、CD関連腸炎、蜂窩織炎
・発熱などの症状を呈さないこともある
・原因菌は腸内細菌と非腸球菌性球菌が多い

・SBPでは感染症状が起きないことがある。腹痛や発熱は見られることが多い。
・SBP患者ではアルブミン静注が推奨。初日1.5g/kgW、3日目1g/kgWで死亡率29%→10%に減少。
(・ERエラーブックによると、腹腔穿刺前にPTやpltを是正する必要はない、とのこと。)

・アルコール関連肝炎では、3カ月以内に黄疸出現。肝不全や全身炎症をきたす。
・有痛性肝腫大、発熱、腹水、脳症がみられる。
・AST,ALTは正常上限の2-6倍、AST/ALTは2以上となる。好中球増加、凝固異常がおこる。
・他の肝障害(敗血症など)との鑑別は困難なことが多い。

・重症度判定で最も普及しているのはMaddrey discriminant function。短期予後を予測する。32以上で重症、28日間で30%が死亡。
計算できるサイトもあります。簡単に式をかけば、(PT-12)+T.Bilとなります。
・重症ならプレドニン40mg/day経口で4週間。短期死亡率は下げるかも。
・始める前に培養などとって感染症がないか確認を
・non-responderならステロイド中止:7日目でLille scoreが0.45以上。40%が該当する
・non-responderの次の手としては、NアセチルシステインやGCSなどが候補

・肝硬変の入院患者20%に急性腎障害が起こる
・SBPだとさらに高率
・Cre解釈に注意。アルコール患者は低栄養のためベースのCreが低い。0.3mg/dl上昇or50%上昇でAKIと判断
・原因は腎前性(脱水、消化管出血、利尿薬など)、腎性(NSAIDs、ATNなど)…
・初期治療に反応しなければ、肝腎症候群が考えられる。

・肝腎症候群は、尿所見が正常で、腹水があり、輸液に反応せず、他の原因が否定的なときに診断する。
・治療はterlipressinとアルブミン

・腹水あれば塩分制限を
・腎機能、ナトリウムみながら、スピロノラクトン100mg/dayとフロセミド40mg/dayから開始

・ARLDの60-70%で低栄養、サルコペニアがおきている
・VitB1欠乏に注意
・refeeding症候群に注意 栄養補正する場合は毎日電解質をチェックする

・アルコール離脱に注意。肝性脳症との鑑別を。



2016年4月10日日曜日

リンパ節腫大の稀な原因



全身性リンパ節腫大の鑑別に苦慮しているところです。
基本的な診断方略、鑑別診断は知っているつもりなのですが
リンパ節腫大の稀な原因について網羅的にまとめます。

UpToDateにはリンパ節腫大の稀な原因として、菊地病、川崎病、アミロイドーシスとあわせて以下の疾患が挙げられています。


Castleman病
教科書で読んだことはありますが、いまいち病状がつかみきれていないです。
multicentric Castleman病では、全身のリンパ節腫脹、発熱、皮疹、体重減少などなど全身性の症状が現れます。腹腔、胸腔のリンパ節腫大があれば疑う、という感じでしょうか。
HIV,HHV-8感染の関連が示唆されています。


血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(AITL)
全身リンパ節腫大、発熱、肝脾腫、溶血性貧血、ポリクローナルガンマグロブリン血症などを呈します。もしかしたら好酸球増加がヒントになるかもしれません。

炎症性偽腫瘍
IgG4との関連が言われています。肺に境界明瞭な腫瘤影を呈することもあります。

木村病
頭頚部のリンパ節腫脹、皮下巨大結節、好酸球増加を呈します。

Progressive transformation of germinal centers (PTGC)
症状のない、持続的あるいは再発するリンパ節腫脹で、頭頸部が多いそうです。男性により起こりやすいです。前癌病変というわけではなさそうです。

Rosai-Dorfman症候群
sinus histiocytosis with massive lymphadenopathyともいいます。頸部リンパ節に組織球が集まって、無痛性巨大腫脹をきたします。骨、肺、皮膚などリンパ節以外も侵食します。self-limitedですが、溶血性貧血をきたすこともあります。


UpToDate: Evaluation of peripheral lymphadenopathy in adults
 

2016年4月6日水曜日

安定している狭心症


NEJMのレビューをまとめます。

Chronic Stable Angina
E. Magnus Ohman, M.B.
N Engl J Med 2016; 374:1167-1176


狭心症のポイントは「予後の評価」です。

・症状の重症度はCanadian Cardiovascular Society Grading Scale of Angina (CCSスケール)で評価する
Class 1:通常の身体活動では症状なし
Class 2:通常の身体活動がわずかに制限される
Class 3:通常の身体活動が著明に制限される
Class 4:僅かな身体活動でも症状が出現する

・リスクファクターを同定し介入することで予後を改善させることができる
喫煙、脂質異常症、高血圧、高血糖

・重大な冠動脈疾患のリスク因子は以下の通り
胸痛の正常、年齢、性別、喫煙状態、糖尿病・脂質異常症の存在・心電図変化

・first lineは負荷心電図

・診断したら、すぐにアスピリン投与開始
・血圧は120/85以下に
・スタチンも開始
・当然、生活指導も
・有症状時のニトロを渡しておく。3回飲んでも症状がおさまらなければ病院受診。

・脈拍60以下、血圧100/80以下は緊急処置が必要。
・安定時の治療はβブロッカー、Caチャネルブロッカー、長期間作動型硝酸薬となる。
・2剤以上組み合わせるのがよい。第一選択はβブロッカー
・ただし、RCTだとβブロッカー単剤より効果的に症状を減らす組み合わせはない
・副作用・禁忌は以下の通り

硝酸薬
頭痛、ほてり、低血圧、失神、起立性低血圧、反跳性頻脈、メトヘモグロビン血症
禁忌:閉塞性肥大型心筋症

βブロッカー
疲労、抑うつ、徐脈、房室ブロック、気管支攣縮、末梢血管収縮、起立性低血圧、勃起障害、低血糖症状がでにくい
禁忌:徐脈、心伝導障害、喘息、末梢血管障害 COPDには注意して処方

Caチャネルブロッカー
徐脈、房室ブロック、心機能低下、便秘、歯肉腫脹、頭痛、浮腫、紅潮、反跳性頻脈
禁忌:重度AS、閉塞性心筋症、徐脈、心機能低下


・カテで造影するかと、再開通するかは、別のものとして考える
・内服で十分に症状がコントロール的ないor副作用で続けられないなら、再開通を。
・患者全体の半数は再開通が適していることになる。