2014年12月29日月曜日

無症候性蛋白尿/透析受容/Reticulocyte Index/オタワCTルール



先日参加したカンファランスで話題になった事項を纏めます。


・成人の無症候性蛋白尿のアプローチ

透析導入時の患者・家族の受容や、紹介元が果たすべき役割についての議論がありました。
議論したケースの患者さん(80歳代)は、20歳代で蛋白尿のみを指摘されていました。
おそらく今回の透析導入とは関係ありませんが、無症候性蛋白尿の鑑別について調べてみました。

いつものようにUpToDateを。proteinuriaで検索し以下の記事を見つけました。
Assessment of urinary protein excretion and evaluation of isolated non-nephrotic proteinuria in adults

蛋白尿があって、尿沈渣(血尿など)に異常がなく、GFR低下がなく、高血圧や糖尿病もない場合を、isolated proteinuriaというとのことです。
蛋白排出は3.5g/day以下で、低アルブミンがなく、浮腫などの症状がないのが特徴です。

isolated proteinuriaをみたら、まず一過性蛋白尿でないかを確認します。
発熱や運動などで惹起されることが多く、多くは尿蛋白1g/day以下です。
18歳以下の蛋白尿の8-12%を占めるそうです。

次に起立性蛋白尿を鑑別します。
大事なのは、30歳以上では稀であること、仰臥位で尿蛋白が正常になることです。
立位より臥位で尿蛋白が減るのは当たり前だそうです。

この2つでない、つまり生理的でない蛋白尿のアルゴリズムは以下の通りです。
尿蛋白が3mg/day以上、またはアルブミンが大部分を占める場合は、糸球体性蛋白尿を考え腎生検を行います。
尿蛋白3mg/day以下でアルブミンの割合が小さいなら、骨髄腫を考えて、モノクローナル軽鎖を測定します。
それでもなければ、尿細管障害(薬剤、自己免疫など)を考えます。β2ミクロアルブミンなど低分子蛋白を測定します。

腎後性蛋白尿、つまりUTI、結石、腫瘍でも蛋白尿が起こるので注意です。1g/day以下が多いみたいです。
あとは、溶血や横紋筋融解症も蛋白尿をきたします。



・透析導入の受容過程

ディスカッションでは、紹介元医師による透析の説明の有無や、家族の支援、本人の病状の理解などが大事なのではとなりました。
透析施設=墓場みたいなイメージを持つ患者さんもいるらしく、事前にビデオを見せたり見学をしてもらったりしているみたいです。

私は、週3回の通院の負担を考え、タクシー代などの通院費や、施設へのアクセス、家族の協力が需要に関係するのではという意見を述べました。
私は研修を行う病院のある自治体では、障害者手帳でタクシー運賃の割引があるそうですが、詳しい数字は福祉課そなえつけのしおりにしか載っていないらしく、調べられませんでした。

透析需要に影響を与える要因について質的に分析した看護論文(J. Jpn. Acad. Nurs. Sci. 23; 1-13, 2003)によると、「ス トレスの認知状態」「友人の手段的支援」「年齢」「精神健康状態」「導入時 どの程度納得していたか」が心理的適応に影響しており、ストレスの積極的な介入と透析に至る前の患者教育が重要であると結論しています。

また、糖尿病性腎症による透析導入の患者では、視力障害などで就業率や社会参加が低いという患者背景があり、障害を負い目と感じ、その障害と対峙できないことが、自尊心の低下をもたらすという研究もありました。(J. Jpn. Acad. Nurs. Sci. 34; 31-38, 2011)



・貧血における網赤血球の評価

貧血では網赤血球の増減が大事だけど、Retの数値をみるだけでは騙されるよという話でした。
RI(Reticulocyte Index)を計算して、2以上なら溶血性貧血を考えます。




上表は週刊医学界新聞のこの記事より引用しました。



・頭痛を訴える救急患者にCTを撮るべきか

作業服を着た30歳男性が、頭痛を訴えて救急受診というケースでした。
続発性を除外しないと、工場勤務だから中毒か…ということでCT撮影までしましたが
実際は作業着来てるけど仕事は事務、ブラック企業で睡眠時間も3時間程度で、診断は緊張性頭痛でした。

頭痛患者のCT撮影については
JAMAで2013年にpublishされた以下の論文があります。
Clinical decision rules to rule out subarachnoid hemorrhage for acute headache.

カナダで3次救急を受診した頭痛患者(ピークが1時間以内、神経学的所見なし)2131人を対象に
SAHがあった群(6.2%)とそうでない群を比較して、decision ruleを作成したものです。

作成されたオタワSAHルールは以下の通り。




これで感度100%(98.6-100%)、特異度17.8%(16.6-19.1%)です。

…そりゃそうだろっていう感じですかね。
病歴聴取でこのあたりを落とさないようにするのが大事ということでしょうか。
でもこれだと、40歳以上の患者は全例ひっかかりますよね。



2014年12月25日木曜日

解説篇:NEJM Case40-2014



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 40-2014
A 57-Year-Old Man with Inguinal Pain, Lymphadenopathy, and HIV Infection


AIDS患者の、左鼠蹊部付近優位のリンパ節腫大の鑑別となります。
比較的大きく、圧痛があり、壊死を伴っています。

リンパ節腫大の局在があるので、感染症をまず考えたいです。

内部壊死ですぐに連想するのは結核です。

ネコ飼育歴+免疫不全は、Bartonella henselaeによるBacillary angiomatosisを思い浮かべますが、臨床像が違う気がします。

免疫不全患者のHHV8感染といえば、カポシ肉腫とmulticentric Castleman's disease、primary effusion lymphomaです。
multicentric Castleman's diseaseはリンパ節の腫大が主徴候ですが、その名の通り全身のリンパ節が腫れると思います。あまり詳しく知らないので何とも言えません。
primary effusion lymphomaは胸水ADA高値なので結核性胸膜炎と誤診されやすいんでしたっけ。今回の症例には合いません。

他にもリンパ節腫大を起こす病原体はたくさんあると思いますが
気になるのは侵入経路が不明であること。
ヘルニア門から侵入とかあり得るのでしょうか?もしくは陰部から?


感染症以外だと、「夜間発汗を伴う間欠的な発熱」というキーワードは悪性リンパ腫を思い起こします。
ただ局在は説明できるのでしょうか。

サルコイドーシスは…こんな経過にはならないよなぁ。


以前、大学の課題でリンパ節腫大についてまとめたことがあったので
ここで見返してみました。



この表だと、結核とリンパ腫以外にそれっぽい疾患はないですね。



と、ここまで考えたうえでケースの続きを読みました。



…おお、答えは梅毒による壊死性リンパ節炎でしたね。



シマウマに走ってしまいました。反省です。

ですが、鑑別診断の議論で

The necrosis in the affected nodes brings mycobacterial infection to the top of the list of possibilities. However, other infectious processes, including cat scratch disease, are also associated with enlarged, necrotic lymph nodes.

とあり、自分も捨てたものではないなとうれしくなりました。

なお、multiple Castleman's diseaseは高熱などの全身症状が出るのが特徴らしいです。

…骨盤部腫瘍の転移は考えていませんでした。まだまだですね。



梅毒はありとあらゆる病像を呈することで有名ですが、
リンパ節炎を起こすことは知りませんでした。

本文中には

Syphilitic lymphadenitis, although uncommon, may be manifested as painful inguinal masses and may simulate an inflammatory pseudotumor, features that are similar to those seen in this case. 

とあり、そのまま疾患スクリプトとして覚えておく必要がありそうです。



実際には、ルーチーンで梅毒検査はするでしょうから

いずれにせよそこで判明するのでしょうね。

身も蓋もない意見ですが。



リンパ節の局在から感染症を疑ったところまでは良かったのでしょうが

侵入経路についての考察をもっとしておけば

何らかのSTIによるもの、という所までは行けた気がします。



~Clinical Pearl~

リンパ節腫大では、リンパの流れを意識する!

梅毒は鼠蹊部のinflammatory pseudotumorを起こしうる!



問題篇:NEJM Case40-2014




今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 40-2014
A 57-Year-Old Man with Inguinal Pain, Lymphadenopathy, and HIV Infection

【患者】HIVに感染している57歳男性

【主訴】左鼠蹊部痛

【現病歴】
10年前から左>右の鼠径ヘルニアあり、時々膨隆するも還納容易。
3か月前より、膨隆を伴う痛みが増強。
3週間前より、左側のヘルニアが大きくなり、夜間発汗を伴う間欠的な発熱を自覚
1週間前より、ヘルニアの近くに圧痛のある「硬い塊」を自覚
前日夜、口腔内体温38.1℃
当日朝、救急受診

受診時の所見
陽性:鼠蹊部痛(スケール3/10)、
陰性:悪寒、嘔気、嘔吐、腹痛


【既往歴】
8年前:HIV感染と診断、ART開始。2カ月前の検査で、HIVRNA検出限界以下、CD4+リンパ球250/mm3
8年前:カポシ肉腫(左大腿と口蓋)、ブレオマイシンで治療
他に、伝染性軟属腫、anal dysplasia(HPV感染による、anal wartsより進行)、肺MAC症(9年前に診断され、18か月の治療を受けた)、ニューモシスティス肺炎、鵞口瘡、眼窩隔膜前蜂巣炎、クリプトスポリジウムによる下痢の既往あり
3年前に一過性の肝酵素上昇あり(脂肪肝化アルコール性肝障害によると思われる)
HIV診断後すぐの検査でトキソプラズマIgG抗体(-)、8年前と5年前の検査でRPR(-)、他のSTIの既往なし

【薬剤】emtricitabine, tenofovir, rilpivirine
【アレルギー】ST合剤で溶血性貧血

【社会歴】異性愛者。離婚後、いまはHIV(+)でART服薬中の女性パートナーと同居。直近の性交歴はそのパートナーと2年前でコンドーム着用だった。喫煙30年間、アルコール毎日1-2本、違法薬物なし。製造工場で勤務。22歳の猫の世話をしているが最近噛まれたり引っ掻かれたりはない。6か月前にオクラホマから移住。白人ヨーロッパの血筋。

【家族歴】父親:冠動脈疾患 母親:線維筋痛症

【身体所見】
体温36.8℃、血圧155/79mmHg、脈拍82bpm、呼吸数18/min、SpO2 100%(r/a)
腹部平坦で圧痛や膨満はなし。左>右の鼠径ヘルニアあり、還納容易。鼠径管に一致してわずかに圧痛あり。左鼠径に3つ、大きく(最大径3cm)軽度圧痛あるリンパ節腫大あり。

【検査】
血液検査は以下の通り。
CTで左総腸骨、左外腸骨、左鼠径領域に多数のリンパ節腫大あり。壊死と考えられる低信号領域もある。傍大動脈、右鼠径領域にも小さいリンパ節腫大がある。
肝腫大(22cm)あり、下端は腸骨稜に達する。脾臓12.8cmとやや大きい。非閉塞性腎結石あり。






さて、あなたの診断は?



麻痺性イレウスの原因




友人の研修医の方が

未治療の糖尿病があり麻痺性イレウスで入院となった

患者さんを受け持っているとのことで

麻痺性イレウスについて調べてみました。


なかなか良い記事や論文が見つからず

どうしてだろうと思っていたのですが

どうやら日本語と英語では用語の使い方が違うようですね。


単にileusといえば、機能性イレウス、特に麻痺性イレウスのことを指すらしいです。

機械性イレウスはmechanical obstructionと表現するみたいです。


麻痺性イレウスのことについて調べるときは

ileus, pseudo-obstruction, Ogilvie's syndrome

などの用語で検索するといろいろ出てくることが分かりました。


Ogilvie's syndromeは見慣れない用語ですが

UpToDateのAcute colonic pseudo-obstruction (Ogilvie's syndrome)には

急性の結腸拡張の原因として

・Toxic megacolon(炎症性腸疾患、CD関連)
・Mechanical obstruction
・Acute colonic pseudo-obstrustion

とあります。

Ogilvie's syndromeはacute colonic pseudo-obstructionと同義とのことです。



麻痺性イレウスの原因は多岐にわたります。

DynamedのColonic ileusによると以下の通りです。

【薬剤】
オピオイド、Caブロッカー、抗うつ薬、フェノチアジン(抗精神病薬クロルプロマジンなど)、抗パーキンソン病薬、クロニジン、テオフィリン、バクロフェン、化学(放射線)療法、ステロイド、αグルコシダーゼ阻害薬

【外傷】
骨盤外傷、頬部外傷、脊髄外傷、長管骨骨折

【腫瘍】
血液学的悪性腫瘍(白血病など)、後腹膜腫瘍、骨盤放射線療法、傍腫瘍症候群(胸腺腫、小細胞癌など)、多発性骨髄腫

【膠原病】
強皮症、SLE、血管炎

【手術後】

【感染症】
急性胆嚢炎、髄膜炎、骨盤膿瘍、帯状疱疹、肺炎、CMV感染、敗血症、川崎病、デング熱

【神経疾患】
パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、下部脊髄障害、ギランバレー症候群、髄膜炎、糖尿病性末梢神経障害、神経線維腫症、家族性血管ニューロパチー、脳梗塞

【代謝疾患】
電解質異常(低K、低Ca、低Mg)、腎障害、肝障害、糖尿病、アルコール乱用

【心血管】
AMI、CHF、脳卒中

【それ以外】
人工呼吸、呼吸器疾患、急性膵炎、後腹膜血腫、妊娠、腎移植、中毒、甲状腺機能低下症、周期性四肢麻痺、下垂体機能低下症、鎌状赤血球症、大腸内視鏡後、家族性内臓ミオパチー


あまりに煩雑なので、UpToDateの表も参考にまとめてみました。

outside the box(腹部症状を考えるときは腹部以外の原因から)を意識してみました。

○医原性
 ・薬剤性
 ・手術や内視鏡の後、特に脊椎麻酔施行時

○全身疾患
 ・強いストレス(肺炎、AMI、脳卒中など)
 ・電解質異常、甲状腺低下
 ・膠原病

○消化管に向かう神経、血管の障害
 ・神経障害(脊髄障害、末梢神経障害、自律神経障害、DM含む)
 ・血行障害

○腹腔内、後腹腔
 ・腹部の炎症
 ・腹部内占拠病変



糖尿病と麻痺性イレウスの関連について

麻痺性イレウスを呈する糖尿病患者の割合や

麻痺性イレウスを起こすリスク因子を知りたかったのですが

PubmedとGoogle scholarを調べても論文が見つからず

いまのところ未解決です。


UpToDateのDiabetic autonomic neuropathy of the gastrointestinal tractには

Esophageal involvement(糖尿病患者ではGERDが多い)
Gastroparesis(胃の蠕動運動が低下する)
Diabetic enteropathy(糖尿病患者では下痢が多い)

の項目がありましたが、麻痺性イレウスについての言及はありませんでした。



2014年12月23日火曜日

急性心膜炎(NEJM Clinical Practice)



移動時間で、今週のNEJMのClinical Practiceを読んだので

忘れないうちに要点をまとめておきます。

本文を読みたい方はこちら


Acute Pericarditis
Martin M. LeWinter, M.D.
N Engl J Med 2014; 371:2410-2416


先進国では80-90%が特発性(ウイルスが原因と思われる)
続発性の殆どは心障害後症候群、膠原病(特にSLE)、悪性腫瘍によるもの
心筋炎を繰り返す稀な遺伝疾患として、tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome(TRAPS)と家族性地中海熱がある
心筋梗塞後に心膜炎を起こすことは少なくなったが、時に無症状の心筋梗塞に続発したと判明することがある

救急で非虚血性胸痛の5%を占める
大規模コホートによると、男性に多く(年齢調整尤度比1.85(1.65-2.06))、入院中の死亡率は1.1%(0.6-1.8%)

1/3が心筋炎を併発。その場合も長期予後は良い(excellent)
左室不全、心不全、不整脈はあまり起こさない
2/3で心嚢水貯留。ほとんどは少量で問題にならない
エコーで厚さ20mm以上の大量心嚢水は3%でみられる。
心嚢水のある心膜炎では、心タンポナーゼや収縮性心膜炎に注意
大量心嚢水、心タンポナーゼ、収縮性心膜炎は続発性で多い

70-90%でself-limited。初期治療に迅速に反応する
全体の10-30%は初期治療で良くなった後に再発する
再発の多くは1、2回だが、全体の5%以下で再発を繰り返す

心膜炎の診断は次のうち2つ以上を満たせばOK
・心膜炎と矛盾しない胸痛
・心膜摩擦音
・典型的な心電図変化
・ある程度以上の心嚢水貯留

前かがみで良くなり、僧帽筋縁に放散する胸痛は心膜炎っぽい
多くで感冒用症状が先行し、突然発症も少なくない
何回も聴診して心電図をとるのが大事
急激に貯留が進めば、X線で心シルエットが拡大していなくても心タンポナーゼが起こりうる

ST変化が一部の電極だけで心筋梗塞と紛らわしいことがある
PR低下だけが唯一の心電図所見のこともある

心膜炎の胸痛と紛らわしい他の疾患は以下の通り
・胸膜炎(1/3で心膜炎と併発)
・肋軟骨炎
・GERD
・肺塞栓症
・水疱出現前の帯状疱疹

診断基準を満たせば、次に続発性か否かを判断する
上記以外では血算(分画含む)、CRP、トロポニン、クレアチニンを測定して、胸部X線を撮るべき
若い女性または身体所見上疑わしいときは膠原病の血清検査をする
38℃以上、WBC13,000以上、他に細菌感染の徴候があるときは血培をする
(洞性頻脈と軽度発熱、WBC軽度上昇はよくみられる)
貧血があれば膠原病や悪性腫瘍などによる続発性を疑う
CRPは75%で上昇し、1、2週で元に戻る

心膜炎が疑わしいが基準を満たさないときは、心MRIやCTが使えるかも
胸痛の他の原因を除外したら、診断的治療をしてもよい

特に合併症のない心膜炎の初期治療は、NSAIDsとコルヒチン
コルヒチンを併用すると、再発予防と有症状期間短縮になる
NSAIDsは1-2週続け、CRPをみながら徐々に減らしていくのがいいかもしれない
NSAIDsの最適な種類と投与期間についてのRCTはまだ行われていない

低リスク患者(亜急性の経過で、発熱、免疫抑制、外傷、心筋炎、大量の心嚢水、心タンポナーゼがなく、抗凝固療法を受けていない)は全体の85%を占め、外来でも安全にマネージメントできる。入院になったのは13%で主要な合併症はなかった。

初期治療に反応しない場合、続発性の可能性が高い
副作用が許容できるならNSAIDsを続け、ステロイド投与を検討する
ステロイドを投与すると症状改善が多くなるが再発も多くなる

再発を繰り返す場合も、発作時はNSAIDs+コルヒチン
効果が乏しい場合、ステロイドや免疫調整薬を用いることもある。心膜切開の効果は一定しない
再発を繰り返す心膜炎の機序は不明である。ただ、基礎疾患がなければ重篤な合併症を起こすことは少ない


2014年12月21日日曜日

薬の名前が入ったボールペンを使わない理由




あくまで個人的な意見ですが

医療者が製薬会社から接待を受けるのは

非常に見苦しいし不快である

と考えています。



薬剤の販促や医療者のプロフェッショナリズムに関する

種々の議論に関しては

週刊医学界新聞のこの連載が非常に勉強になります。

医療者の投薬行動がどれだけ影響を受けるのか

きっちり分析している論文がこんなにあるのかと驚きました。


“Culture of Entitlement”仮説ということばを初めて知りました。

「頑張って医者になったんだからこれくらい良いよね」仮説といったところでしょうか。

発想が官僚の天下りと似てますよね。


この座談会の記事もとても面白いです。

私のように極端な意見を押し付けることなく

理知的な議論がされているので、ぜひご一読ください。



以下は、私の個人的な意見です。


私は現在、企業や薬剤の名前の入った物品は

ボールペン1本、メモ1枚たりとも持っておりません。

2013年12月以降

薬説(製薬会社が行う薬の説明会)で出されるお弁当は勿論ですが

学会のランチョンセミナー

製薬会社が医局に持ってきたお菓子

製薬会社が後援する研究会で出される飲食物

ペットボトルのお茶1本に至るまで

(学会費や参加費で賄われていると確認できるものは除く)

手を付けておりません。

タクシー券はごみ箱に捨てました。


恥ずかしながら白状いたしますと

2013年12月以前は、何の考えもなしに

薬説の弁当を食べたこともありました。


しかし、2013年1月にpublishされたBMJの論文

Medical school gift restriction policies and physician prescribing of newly marketed psychotropic medications: difference-in-differences analysis

を読んで

学生時代に便宜を受けると医師になってからの投薬行動に影響がでる

という内容に愕然とし

自らの不勉強と甘さを恥じました。

これほど脇が甘く

医学について不十分な知識しか持たず

正確に物事を判断できず

薬剤の効果をきちんと判断する頭のない私が成しうる

唯一の防衛策は

このような便宜供与を一切受けない以外にない、と思い至り

現実的に一切影響を受けないということは不可能ですが

できる限るのことはしようと

上記のような行動をするに至っております。


やってみると、非常に気持ちのいいものです。

モヤモヤしながら弁当食べるより絶対健康にいいです。

ひとつ注意しなければならないのは

自分が様々なバイアスから完全に自由である

思いあがる危険性をはらんでいることです。


長々書きましたが、別に偉そうに書くようなことではないですね。

とっても当たり前のことで、なんだか恥ずかしくなりました。



私の意見を押し付けるつもりは毛頭ございませんが

私の駄文を含めて、読んだ方の考える機会になっていただければと思います。



NEJM Case 39-2014 / BMJクリスマス号



今週のNEJM Case recordは

クローン病患者の肺結節影についてでした。

本文はこちらを。

Case 39-2014
A 9-Year-Old Girl with Crohn’s Disease and Pulmonary Nodules


いつもみたいに頑張って診断を考えて…というケースではなかったです。

診断であった肺クローン病は知りませんでした。

肺実質に血管炎による結節ができるみたいです。

こういうマニアックな疾患の勉強は、今はまだいいかな…



もうBMJクリスマス号のシーズンなのですね。

毎年のことながらウィットに富んでいます。


テレビの医療番組の半分は嘘っぱち(だいぶ荒い表現です)という記事もありましたね。

ちょっと違いますが、空間除菌のCM、あれは何とかならないのでしょうか。


私が知ったのは2年前でした。

便を犬に嗅がせることでCD関連腸炎を検査するという内容でした。



BMJの公式サイトはこちら

南郷栄秀先生がアブストラクトを訳してくれています。ありがたいです。



2014年12月16日火曜日

誰が包摂するのか



SNSで、このようなツイートが流れてきました。





以前、社会学者の土井隆義先生の講演を拝聴したのですが

知的障害者の受け入れる施設が刑務所になってしまっている

という旨を氏が仰り、とても驚いた記憶があります。


というわけで、法務省「矯正統計」を基に私もグラフを作ってみました。



知能指数の基準は以下の通り。
実際は重度知的障害を測定するのは困難みたいです。

70以下:軽度知的障害
50以下:中等度知的障害
35以下:重度知的障害



教育程度のデータもあったのでこちらも作成しました。





念のため申し上げますが

この記事は差別や偏見を助長するものではありません。


このデータをどう解釈するか

…なんてこと、私の手には負えません。



ただ、私はこのグラフを見て

以前にこの記事で取り扱った

「路上生活者の3割に知的障害の疑い」

と同じ病巣を何となく感じました。



SLEの急性増悪(flare) (ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





25歳女性。6か月前、軽度関節症、光過敏、蝶形紅斑、ANA(+)、anti-dsDNA(+)にて、SLEと診断された。腎機能と尿検査は正常だった。友達と一緒に砂浜に行った後、救急受診。肉眼的血尿あり、露光部に紅斑あり。手、膝、足首の滑膜肥厚あり。新たな血小板低下、白血球低下あり、血清Cre 2.5。緊急で腎生検を行うと、急性びまん性ループス腎炎に一致する像であった。適切な治療はなにか。(選択肢省略)


SLE flareという概念を初めて勉強しました。
このケースでは、紫外線により皮膚のアポトーシスが起き、flareを起こしたと考えられるようです。


UpToDate-Overview of the management and prognosis of systemic lupus erythematosus in adults-ASSESSMENT OF DISEASE ACTIVITY AND SEVERITY-Flares
の項には以下のように書いてあります。

・flareをちゃんと定義することは難しく、予測もしにくい。

・血清学的検査と疾患活動指標を用いて判断される。

中等度、重度のflareが起きたら治療を変える必要がある。

・あらゆる臓器が関係する。

・flareの予測には補体低下と抗dsDNA抗体上昇が有用。

・ただ、補体低下と抗dsDNA抗体上昇がある患者の12%は急性症状を呈さない。

・診断年齢25歳以下、腎・血管・神経障害がある患者が高リスク


flareの一例は以下の通り。

軽度:微熱、頬部紅斑、関節痛が出現し、倦怠感が増悪。軽度白血球減少。
この場合、治療は必要ない、またはhydroxychloroquineか7.5mgプレドニゾンを用いる。

中等度:SLE患者に胸膜痛と肘関節腫脹が出現。L/Dで急性反応が起きている。X線で胸水あり。
この場合、7.5mg以上のプレドニゾンを用い、アザチオプリンなどの免疫抑制薬を併用することもある。

重度:SLE患者にループス腎炎による腎不全と著明な尿蛋白出現。補体低下と抗dsDNA抗体上昇あり。
この場合、高容量のプレドニゾンを投与し、さらに免疫抑制薬を追加する。


要するに、

flareの診断には補体低下と抗dsDNA抗体上昇が重要だけど
あまり頼りすぎずに状態を綿密にモニターして
臨床的な増悪が見られたらしっかり治療しましょう

ということですかね。



2014年12月14日日曜日

解説篇:NEJM Case38-2014

問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 38-2014
An 87-Year-Old Man with Sore Throat, Hoarseness, Fatigue, and Dyspnea


まずは主訴でもある嗄声について考えました。

病態は、声帯か、球麻痺か、迷走神経障害。
球麻痺だと呂律が回らない、嚥下障害などが出るはずです。
顔面腫脹を伴っているので、嗄声は声帯浮腫によるものでしょう。


顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫に関しては
最初は上大静脈症候群かなと思ったのですが
画像検査で縦隔腫瘤影なく
また体重増加を伴っているので
全身の浮腫によるものだろうと考えました。

UpToDate‐Clinical manifestations and diagnosis of edema in adults
にはこのように書いてあります。

Periorbital and scrotal edema are localized forms of edema that can be seen in systemic edematous states but should not be the sole manifestation of edema in these disorders.

また、「内科診断学改訂第17版」(南江堂)には
上大静脈症候群は「顔面浮腫、チアノーゼ、頸静脈怒張をきたす」とあります。
やはりこのケースには当てはまりません。

この本によると、急性糸球体腎炎の浮腫は眼瞼にとどまることが多く、
ネフローゼ(特に微小変化型)では浮腫が高度、目を開くことができないほどになり、顔面は蒼白、
心不全では顔面腫脹に合わせてチアノーゼ、頸静脈怒張をみることが多いそうです。
また、腫瘍などによる両側頸静脈閉塞では顔面全体に強い浮腫(開眼、開口障害を伴うこともある)が生じてくるそうです。


声帯浮腫を伴う全身浮腫、CK著名高値という点でピンときました。
コントロールされていた甲状腺機能低下症が、何らかの要因で悪化したのではと考えます。

87歳男性で、数年前に妻と死別して独居、そしてpolypharmacy。
なんとなく生活が目に浮かびます。


このケースを読んで、藤沼康樹先生のブログのこの記事を思い出しました。

事例:75才男性 72才の妻と二人暮らし

問題リスト

1. 糖尿病・高血圧 A内科医院(糖尿病専門医)にて経口血糖降下剤処方 

2. 心房細動 B病院循環器内科にて抗凝固薬処方

3. 変形性膝関節症 C整形外科医院にてNSAIDS処方及び物理療法

4. 皮脂欠乏性湿疹 D皮膚科医院にて軟膏処方

5. 白内障 E眼科医院にて保存的治療

そして、ものわすれがひどいことが気になり、F病院神経内科受診する予定。

(リンク先記事より引用)

私も実習で経験した例として、
腹痛で入院した患者さんが、便秘と下痢の薬を両方飲んでいた、ということがありました。



「Dr.宮城の白熱カンファランス」(羊土社)のp.70に
poly-pharmacyについてのコラムがありました。

5種類以上の内服と定義することが最近は多いのだとか。
prescribing-cascadesという言葉も初めて知りました。

「医療機関受診者のうちpoly-pharmacyに起因するものはプライマリケア領域では27%に上るとされており、またそのうち42%が予防可能であった」

「高齢者の薬剤の有害事象による入院のうち、88%は予防可能であった」

(全て上記コラムより引用)





と、ここまで考えたうえでケースの続きを読みました。



…やはり診断は甲状腺機能低下症でしたね。


なぜ甲状腺機能低下症が悪化したのか、
Discussionされていた可能性は以下の通りです。

1. levothyroxineを服用していなかった。

2. 服薬が複雑でちゃんとできなかった。

3. コーヒー、食物繊維、カルシウムなどと一緒に服用して吸収阻害が起きた。


添付文書には、併用すると血中濃度が下がる薬剤が並んでいます。
鉄剤と一緒だと吸収低下は、ハリソン問題集に載っていました。





実際は、服薬指導が複雑になってしまったために
患者さんがlevothyroxineを服用しなくてよいと勘違いしていたようです。

甲状腺機能低下症があると、スタチンによる横紋筋融解症が起きやすいみたいです。
CK異常高値に寄与しているのかもしれませんね。


解説では、polypharmacyやpolydoctorの害について詳しく書かれていました。
この患者さんが飲んでいた薬の外観が写真に載っており、非常に興味深かったです。
こりゃ間違えるわ。


このケース、ぜひご一読をおススメします。



2014年12月13日土曜日

問題篇:NEJM Case38-2014

今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 38-2014
An 87-Year-Old Man with Sore Throat, Hoarseness, Fatigue, and Dyspnea


【患者】慢性疾患を多く抱えている87歳男性

【主訴】のどの痛み、倦怠感

【現病歴】
数週間前に嗄声、のどの痛み、増悪する倦怠感出現。家族に勧められ当診療所受診。

受診時の所見
陽性:嗄声、顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫
陰性:胸痛、呼吸困難、関節痛、筋痛

【既往歴】
高血圧、脂質異常症、慢性腎不全(2か月前Cre 2.22mg/dlでここ数年は安定)、甲状腺機能低下症(8か月前TSH 3.38uU/mlで基準範囲内)、GERD、食道運動障害、AAA、慢性腰痛、希死念慮を伴ううつ病(数年前に妻と死別してから)、繰り返す尿路感染
右腎動脈形成術(10年前)、胆嚢摘出、結節(おそらく良性)に対する右肺中葉切除、閉塞性前立腺肥大症に対する光選択式前立腺蒸散術(2か月前)、手首の手術

【内服薬】
atenolol, vitamin D3, fluticasone propionate and salmeterol inhaler, aspirin, citalopram, fluticasone nasal spray, atorvastatin, omeprazole, levothyroxine
Lisinopril で咳が、zolpidem tartrate で悪夢が出た。

【生活歴】
独居、ADL自立、3人の子は近くに住んでいるが、あまり顔を見せず、診療所にもついてこない。
内科、泌尿器科、循環器科に定期通院。何年も前に禁煙、アルコールは飲まない。

【家族歴】
父:肝がんで死亡 息子:サルコイドーシス

【身体所見】
General appearance 快活、嗄声あり。血圧130/72、脈拍59、SpO2 96%r/a、体重86.8kg(1か月で4.5kg増えた)、BMI 29.9
顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫以外の所見なし。

【その後の経過】
2日後、血液検査の結果が出た。CK高値のためスタチンの内服中止を指示。
7日後、再度受診。腹部膨満も訴えた。
11日後、再度受診。倦怠感がひどくなり、特に労作後にひどい。息切れ、顔面腫脹、体重増加、湿性咳嗽、咽頭炎を訴えた。胸痛、関節痛なし。胸部レントゲンでは陳旧性の病変のみで肺水腫、リンパ節腫脹、縦隔腫瘍はない。

【血液所見】


さて、あなたの診断は?



2014年12月12日金曜日

「医学生・研修医のための神経内科学 」(医学書)


神経系は美しい論理に貫かれたシステムであり、ヒトがヒトであるためには神経系の代替物は存在しない。この美しいシステムを崩壊させる神経疾患の克服は、21世紀医療の最大の課題である。(第2版の序より引用)




神経内科の勉強の現段階でのまとめとして、教科書を読んでみました。

600頁ほどありましたが、すんなり通読することができました。

記述がシンプルで、重要な疾患、見落としてはいけないことに焦点を絞ってあり、

今の私のレベルにちょうどあった内容でした。


今まで知らなかった概念や疾患も

読んだ3冊で繰り返し登場したものは

しっかり覚えることもできました。


こんな教科書が各科ごとにあればいいのに。



2014年12月9日火曜日

「神経内科の外来診療」(医学書)



私は想像するのですが、

実は患者さんは病院やクリニックを訪れる前の日から、

「明日は病院に行って診てもらうんだ」と“決心して”、

ある種の決意をもって訪れてこられるのだと思います。 (本書「はじめに」より引用)





外来に訪れる患者さんの

非常にCommonな症状を

しっかり診断するまでの過程を

対話形式で描いています。


患者さんの話のどこに注目するのか

仮説を確かめるためにどのような話しかけをするのか

それぞれの疾患の特徴を分かりやすく学ぶことができます。


「患者さんの訴えは常に正しい」

帯に書いている言葉の意味するところに深く感じ入りました。


やっぱり神経内科は楽しいですね。

神経内科が楽しいと思える日が来たことに驚きです。


1.クロストーク(本書では「問診」「医療面接」のことをこう表現しています)が診断仮説生成に大きく寄与している

2.疾患の知識に基づいて身体所見を予想できる

3.頻度がそこそこ高いマニアックな疾患(表現が矛盾している?)に知的興味が湧く
  (しっかり診断することで患者さんの苦しみが少しでもなくなったら一石二鳥)


このあたりが楽しみを覚える理由かなと分析しております。


実際に現場にでたらこんなバラ色ではないでしょうが。



やはりもうちょっと神経内科の勉強をしてみよう。



2014年12月8日月曜日

「神経症状の診かた・考え方」(医学書)



本書は街中の交通渋滞に対処するものである。 (本書 序より引用)





日常診療で遭遇する症状と

緊急処置が必要なケースについて

実際の症例をふんだんに用いて解説しています。



神経内科っておもろいやん!

と初めて感じることができました。


こういう場合には

こことここに注意して

こういう風に考えようね

時たま、こういうこともあるよ、一応覚えといて

・・・という本です。


ごちゃごちゃだった知識を

分かりやすく整理してもらえて

さらに、ちょっとマニアックなことも教えてくれる

まさにお得感満載。


本当に面白かったので

もうちょっと神経内科の勉強続けてみます。



2014年12月7日日曜日

「ジェネラリスト診療が上手になる本」(医学書)



専門外だからと、全く見ないか、

きちんと勉強して、その場をしっかり対処するか、

どちらかではないのかね? (本書p.68より引用)




症候別に考えるべきことが纏めてある各論の本です。

非常に幅広い症候について、

考え方、ピットフォール、鑑別診断が

これでもかというほど凝縮してが書かれています。


羅列してあるだけではなく、しっかり読んで理解して覚えることができました。

ただ、私にとってあまりに情報量が多い項もあり、未消化のところも。


現場に出てから、ポケットリファレンス代わりに使えそうです。


2014年12月6日土曜日

ANCA関連腎炎の初発症状



先日、講師の先生が研修医時代に最も印象に残った患者さんについて話をしてくれました。


たしか60代の男性。BUN, Cre高値。
半月ほど前に感冒様症状があったため、薬剤性腎障害を疑い入院。
しかし、休薬して3日目、どんどんCreが高くなっていった


ここまで聞いて、非常に驚きました。

以前に読んだ、急速進行性糸球体腎炎の症例と病歴がほとんど一致していました。


果たして、生検してANCA関連腎炎と判明。

その後は省きますが、波乱に富んだ経験だったそうです。



以前よんだ文献とはコレ。

鮫島謙一. 急速進行性糸球体腎炎(RPGN). Hospitalist 2014 ; 2 : 105-10.


典型的なRPGNとして、このような症例が紹介されています。

63歳男性、2カ月前から全身倦怠感。1か月前に37.5℃あり近医受診し感冒と診断
セフェム系処方されたが2週間後でも改善せず。CRP4.5、Cre1.34で尿潜血と尿蛋白が陽性。
尿路感染症としてニューキノロン処方されたが症状改善せず他院受診。
Cre2.41で当科紹介。MPO-ANCA陽性。生検でMPAと診断された。


RPGNの初期症状は、微熱、倦怠感、食欲低下など非特異的だそうです。

この文献では、感染症を注意深く除外する必要性が強調されていました。


日本のガイドラインでは、

1. 尿所見異常(血尿、蛋白尿、円柱尿など)
2. eGFR<60
3. CRP高値や赤沈促進

があれば疑い症例で専門医受診をすすめるとあります。



朝倉内科学によると

ANCA関連の急速進行性糸球体腎炎では先行感染や何らかの刺激により、MPOやPR3が好中球や単球の表面に発現され、ANCAと反応して、好中球・単球の脱顆粒や活性酸素の放出をきたし、糸球体内皮細胞の壊死、毛細血管壁の破綻をきたす。(第九版 p.1202より引用)

急速進行性糸球体腎炎の初発症状としては、全身倦怠感(44.9%)、発熱(42.0%)、食欲不振(32.1%)、上気道炎症状(26.2%)、関節痛・筋肉痛(16.7%)、嘔吐・悪心(15.4%)、体重減少(11.8%)などの非特異的症状が大半で、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。(第九版 p.1203より引用)

だそうです。



~Clinical Pearl~

感冒と診断された後の腎機能異常では、予後不良なRPGNを頭の片隅においておく。



Hospitalistのまだ読んでいない記事も早めに目を通さないといけませんね。




最新号の消化器疾患特集はどうしようかな。懐事情と相談です。



2014年12月3日水曜日

「漂白される社会」を読みました



私もすでに漂白済みなのでしょうか。





「漂白される社会」

著者の開沼博さんは、「フクシマ論」で一躍有名になりましたね。


そこに生活している個人の姿を真正面からとらえ、

もやもやしたものをもやもやしたまま描き

安直な流れに迎合しない姿がカッコいいです。



私たちが住む社会を

平和かつグレーのないものにしようと

必死に「漂白」してきたがために、

そこに厳然と存在するにもかかわらずそこにあってはならないとされた

猥雑なことがらが

どんどん見えなくなっていく。


偏見や思い込み、上から目線の画一化で

眼に入ると煩わしいものを綺麗に視界の外に片付けてしまう。



この通底するテーマのもと

日本社会の「スナップショット」が12枚提示されています。


ホームレスギャル

未成年売春

違法ギャンブル

偽装結婚 などなど…



特に印象深かったのは、ヤミ金と生活保護を扱った第四章。


貧困者=健気に頑張る素朴なひと

という図式も

貧困者=努力しない落伍者

という図式も

もちろんどっちも間違っていて

貧困状態にある人のなかに

聖人君主のような人もいれば

狡猾な人、怠惰な人、箸にも棒にもかからない人も

もちろんいるわけで、

しかし現在社会では

本書の表現を使うなら 「純粋な弱者」 のみが許容される

という指摘。


SNSをみていると

上記のどちらかの図式だけを盲信している意見が

非常に多いなとも思いますし、

自分もその一員であったと深く反省する次第です。



自分には関係ないこととして、猥雑なものを切り離す。

この末路がどのようなものかは、

先日ブログに書いた「女子高生の裏社会」でも扱われていますね。



「信じがたい」状況を目の当たりにしたときに

情報をどのように処理し

どのような方向性で取り扱うか

そのお手本を提示されたのだと思います。