2014年11月29日土曜日

脳震盪(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





17歳男性。高校のフットボールの試合中に脳震盪を起こした。その時は、意識消失は起こさなかったが、約10分間の混乱が見られた。頭部画像検査は正常だった。その数週間後に診療所受診。事故の時からずっと続く頭痛と、時に起こるめまいを訴えている。母親は、患者が学校で集中力が続かず、最近落ち込んでいるように見えるのを心配している。事故の前まではもっと元気だったとのこと。身体所見は正常だが、感情の平坦化がいくらかある。(選択肢割愛)



例によってUpToDateで調べてみました。

Concussion and mild traumatic brain injury - SUMMARY AND RECOMMENDATIONS
を見てみます。


・ほとんどは予後良好である。

・受傷時には、短時間の意識消失や、明らかな混乱・健忘が生じる。神経学的な症状がわずからながらみられることが多いが、たいていは気づかれない。

・頭部外傷がある、または疑われるアスリートには、脳震盪の評価をすべきである。単純に見当識を尋ねるだけでは不十分で、SACによる評価をすべきである。


・意識消失があったり、症状が継続したりする患者は、救急受診して頭部CTを含む医学的評価をうけるべきである。


受傷を短い間隔で繰り返すと、急性で致死的な脳浮腫が起こりうる。また慢性的な神経精神症状も起こりうる。

・他の後遺症として、脳震盪後症候群、頭痛、てんかん、めまいがある。

アスリートは脳震盪を起こしたその日は試合に戻るべきではない。薬物治療が終わり症状がなくなるまで試合はするべきでない。小児、青少年の場合は更に厳格にすべきである。



この症例は脳震盪後症候群だと考えられます。
UpToDate - Postconcussion syndromeによると、自然史は以下の通り。


症状は最初の7-10日が最も強く、1か月で改善していく。

多くは3か月のうちに治まるが、10-15%で1年以上続くかもしれない。



最近、フィギュアスケートの事故で話題になりましたね。

意識戻ったら大丈夫という迷信は、根性論とともにはびこっている気もします。



(追記) JHospital NetworkのClinical questionにて

スポーツにおける脳震盪の評価、復帰時期

についてわかりやすくまとめてありました。ぜひご一読を。



NEJM Case37-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


いつもは、

前半の症例提示を読む→鑑別を考える→問題篇と解説篇前半作成
→後半の解説を読む→解説篇後半作成

としているのですが、今回は症例の特性上、問題篇、解説篇にわけずにやります。



Case 37-2014
An 35-Year-Old Woman with Suspected Mite Infestation


【患者】35歳女性

【主訴】搔痒を伴う紅斑、本人は寄生虫のせいと思っている

【現病歴(おおざっぱに)】
2週間前に不眠が出現。

10日前、白い“ブツブツ”がみえだした。それはダニかシラミであり、皮膚やシーツ、服から出てきて這いまわる。あわせて、搔痒を伴う紅斑が出現。精神科医に受診。精神症状と紅斑、HCV感染の既往から晩発性皮膚ポルフィリア(伏字にしておきます。何でしょうか?)を考えて皮膚科に紹介受診。

3日前、クロナゼパムがなくなり、不安症と不眠が増悪。15ヶ月の息子の頭蓋骨から“虫”が出てきて、皮膚を這ってオムツの中に消えるのが見えた。この虫をのけようと、自分の皮膚と子供の皮膚をひっかいた。

1日前、息子を連れて他院救急受診。ツメダニ症疑いで硫化セレン入りシャンプーを使うよう言われた。子供と一緒に帰宅。

当日朝、子どもをお風呂に入れているときに、子どもの頭皮が赤くなって泣きだしたために、当院救急受診。自分の皮膚に虫がいると訴え、その部位を指し示そうとする。自分には寄生虫が感染しており、“モルジェロンズ病”にかかったと主張している。助けてくれと訴えている。思考過程は固執性で時に脱線する。時々自分の体をかきむしっている。不眠以外のうつ症状を訴えない。

思春期の時から自分の皮膚をつねる癖があり、それをすると落ち着く。
4か月前、MRSAの顔面部膿瘍ができたが、ST合剤経口で改善。
息子もMRSA関連皮膚感染になったことがあり、抗菌薬治療後、Clostridium difficile大腸炎で入院した。

大うつ病に罹患しているが、現在は寛解状態である。鬱状態の時に幻覚や幻想などの精神病症状はなかった。
睡眠薬、オピオイドの依存あり。時に違法アンフェタミンを使う。ここ数日の間に60mgのアンフェタミンを使用した。


【既往歴】HCV感染(2年前)、ざ瘡、大うつ病、薬物依存、憩室炎、腎結石、十二指腸潰瘍穿孔(4年前、手術した)

【服用薬】ブプレノルフィンとナロキソンの配合薬(8mg舌下を1日2回、20mg/日が処方されている)、クロナゼパム(0.5mgを1日3回、3日前に切れた)、オメプラゾール

【アレルギー歴】なし

【生活歴】飲酒なし。昔オキシコドンを注射で使っていたが、子どもが生まれてからはオピオイドは使っていない。2年間無職で、フードスタンプなどの社会保障で生活している。

【家族歴】母方のおばが統合失調症。母親は、患者が子供のころに自殺未遂をしたことがある。

【身体所見】
General appearance:協力的、心配している、身なりはだらしない、皮膚の病変を指し示している。
血圧141/95mmHg、脈拍100bpm・整、体温と呼吸数は正常。見当識正常
顔、腕、足に擦過創あり、背中の中央にはなし。他の身体所見は正常。

【血液、尿所見】尿検査でアンフェタミン陽性。その他は特記事項なし。



このような病態を
delusional parasitosis というそうです。

primaryもありますが、secondaryの原因には

神経変性疾患
HIVその他感染症
ビタミン欠乏
内分泌疾患
薬物離脱
薬物中毒

などがあるそうです。


アルコール離脱で虫の幻覚があるのは有名ですが、
その仲間と考えていいのでしょうか。


この症例では、アンフェタミン精神病と診断されていました。


患者は、リスペリドン、クロナゼパムの内服と認知行動療法で退院。

その後、治療プログラムを通して長期に関わり、薬物依存から脱却、

息子のためというモチベーションが強く、頑張って回復しているそうです。



モルジェロンズ病(Morgellons disease)

初めて聞いたのですが、いわゆるトンデモ医学ですね。
興味のある方は検索してみてください。僕は頭が痛くなりました。

自分はモルジェロンズ病と思っている方の多くは
delusional parasitosisではないか、と解説にはありました。


トンデモ医学を垂れ流す輩は
善意悪意に関わらず厳しく糾弾されないといけないと思いますが、

「原因不明」「治らない」と言われて苦しんでいる患者さんが
この手の情報につかまってしまうことは多いですね。



2014年11月26日水曜日

無料定額診療とその課題



朝日新聞の11/23付の記事で、無料定額診療が取り上げられていました。


更に詳しいデータについては

「リハ医の独白」というブログのこの記事にあります。



無料定額診療を行うためには

事前に都道府県に届け出が必要です。

定めた基準を満たした場合に受理されます。


患者が経済的に困窮しており、医療費を支払う余裕がないと施設が認めたら

医療費の窓口負担分が全額または一部無料になります。


全額免除の基準は

収入が生活保護基準以下である

としている施設が多いのではと思います。


国民皆保険を謳っている日本ですが、

厚生労働省の発表によると

国民健康保険料未納世帯は372.2万世帯

該当世帯の18.1%が未納となっています。


無保険となり医療にかかることができず

亡くなってしまう方もいるようです。

こちらは2013年の調査。

調査報告は2005年分から読むことができるので、良ければ。


無料定額診療は

このように経済的困窮状態に陥った時の

セーフティネットとして働いていると考えられます。


社会資源を有効に活用し

患者の生活を支えていくのも

家庭医・総合診療医の力の見せ所ですよね。



無料定額診療の問題点としては

・免除となる窓口負担分については病院の機会損失となる

・該当施設でしか適応されないので、制度のない他病院への転院ができない

薬代は自己負担免除にならない

などが挙がります。


私の数少ない実習経験でも、上記の問題にぶつかったことがありました。

路上生活で肺がん末期、皮膚にまで多発転移している方を実習で受け持ちました。

実習先の病院は無料定額診療を行っていたのですが

痛みどめの代金をどうするか非常に困りました。

また、診断をする際に

肺結核との鑑別のため専門の病院に受診が必要でしたが

ここでの医療費は全額自己負担となっていました。


高知市には独自の制度があり

無料低額診療の決定後14日以内に発行される処方箋に限っては

薬代も患者負担分は市の補助になります。


やはり、薬代の負担も軽減されないと

医療が必要な人への制度には真にはならないのでは、と思います。


そもそも、無料定額診療は、半ば死文化していた法律の文言を実体化させたもの。

たとえば、生活保護がまともに機能していれば

生活保護世帯の医療費は無料なはず。

無料定額診療に頼る必要のない制度設計が求められるのではないか。

これが、ここまで書いてきて私が得た結論でした。


2014年11月25日火曜日

内側側頭葉てんかん症候群(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





内側側頭葉てんかん症候群の患者の評価を依頼された。患者には難治性の部分てんかんがある。発作はしばしば前兆を伴い、行動停止、自動症、一側性ジストニア肢位を呈する。MRIではT2協調で高信号かつ萎縮した側頭葉海馬が見える。追加で聴取される可能性の高い既往歴はなにか。(選択肢割愛)


例によってUpToDateを。
Localization-related (focal) epilepsy: Causes and clinical feature より関連記載をまとめます。

・内側側頭葉てんかんは、側頭葉てんかん(TLE)の大部分を占める。

・TLEは複雑部分発作を呈することが多い。1/3で全般発作を続発する。けいれん重積状態になることは少ない。

・内側TLEの最も多い原因は海馬硬化(HS)である。病変は両側性かつどちらかがより目立つのが典型。



・生育・発達歴はたいてい正常だが、熱性けいれんの既往が見られることが多い(TLE67例中54例)。

・内側TLEのてんかんの特徴を挙げる。
 ○前兆がある
 ○30-120秒続く行動停止・凝視
 ○自動症
 ○片側性の症状がみられる
 ○発作中の発語、感情表現(笑う、泣くなど)、過運動発作(体幹を左右に振るなど)、leaving behavior(歩き去ってしまう)が見られることもたまにある
 ○postictal confusionで、病側の手で鼻を拭く動作がよくみられる。
 ○急激な頻脈を伴う

・発症は思春期が多い(80%以上は16歳以下)。進行性であり、60-90%は薬剤抵抗性


ハリソン問題集には、薬剤抵抗性かつ手術でとっても良くなるから、この症候群を独立して捉える必要があるとされています。


というわけで答えは、「熱性けいれんの既往」でした。


寒冷蕁麻疹(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。




28歳女性。10年前より、手足が冷たいものの触れると蕁麻疹ができる。冷たいもの以外の誘因はない。喘息・アトピー・食物アレルギーの既往なし。薬剤歴は5年前からのピルのみ。舌圧子で前腕をひっかくとその部分が隆起する。手を冷たい水につけると、発赤腫脹が生じ、膨疹‐潮紅反応も見られる。


UpToDate-Cold urticariaをざっと纏めるとこんな感じ。
(画像はすべてUpToDateより)

・寒冷曝露により脂肪細胞が活性化しておこる蕁麻疹。原因は不明。



症状は曝露領域に限局し、数分で出現。曝露が激しいと全身反応起こすこともあり、アナフィラキシーや咽頭浮腫による窒息をおこすことも。

・診断は寒冷刺激検査(CST)で行う。



・多くは特発性。全身の炎症(発熱・関節痛など)や紫斑ができる場合は、感染症やfamilial cold antiinflammatory syndrome(FCAS)などを疑う。

寒冷刺激を避けるのが一番だが実際には難しい。第2世代抗ヒスタミン薬投与が推奨される。



知らないことがたくさんあります。


2014年11月24日月曜日

「内科で診る不定愁訴 診断マトリックスでよくわかる不定愁訴のミカタ」(医学書)



「患者が、不定愁訴を訴えて来院することはない。」 (本書「はじめに」より引用)





不定愁訴ってそもそもなに?

これって不定愁訴なの?

どんなときに不定愁訴になるの?


不定愁訴を不定愁訴にせず、

症状の全体像をマトリックスを用いて分類し

しっかり診断をつけていこう、という観点で書かれています。


また訳の分からないこと言ってるよ、とせず

しっかり除外診断を進めていくこと以外に

解決方法はないのでしょうね。


不定愁訴を生む原因についての考察が特に面白いです。

この部分だけでも購入した価値があります。



なお、本書で言う「本当の不定愁訴患者」については、

「不定愁訴のABC」がおススメです。





器質的に異常がないことを肯定的に捉え

患者にどのように向き合っていけばよいかが書かれています。


機能的疾患をゴミ箱診断にしない。

積極的に所見を取って疑っていく。

器質的異常が見つからないイライラ、うしろめたさを患者のせいにしない。



書くだけは簡単、いざとなると難しいのでしょう。



2014年11月22日土曜日

解答篇:NEJM Case36-2014



問題篇をまだ読んでいない方は、さきにこちらを読んでください。


Case 36-2014
An 18-Year-Old Woman with Fever, Pharyngitis, and Double Vision


扁桃から細菌が侵入、耳下腺や眼窩など頭部組織に至ったのでしょう。

開口障害が出た時点で対応しておけばここまで重症にはならなかったのかも。
やはりおそるべし開口障害


伝染性単核球症の合併症であるVincent's anginaがまず想起されました。

私がはじめてこの疾患を知ったのは

生坂政臣先生の「見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール」でした。



以下、この本からの引用です。

   紡錘状桿菌、スピロヘータなどの嫌気性菌を起因菌とし、健康状態不良、齲歯、口腔内不潔などが誘因となって、主に若年者に発症する咽頭炎である。
   
   合併症として、咽後膿瘍から縦隔膿瘍への移行のほか、Fusobacterium necrophorumが起炎菌の場合に生じることのある、敗血症性血栓性頸静脈炎からの転移性肺化膿症や咽頭閉塞が知られている(Lemierre's disease)。

   いずれの合併症も致命率が非常に高いので、Vincent's anginaを疑った場合は抗菌薬による入院治療の適応となる。


硬膜の肥厚からは、髄膜炎、もしくは脳肥厚性硬膜炎が考えられます。

脳肥厚性硬膜炎は、頭痛を初発として、脳神経症状、脊髄根症状などがみられる疾患であったと記憶しています。
特発性もありますが、感染症や血管炎、膠原病などによる続発性もあります。
たしかIgG4関連疾患との関係も聞いたことがあります。


明らかな血栓はないようですが、
海綿動脈洞血栓症は頭部領域の感染症で考える必要があると思います。


血糖が高い+頭部感染症=ムコール症

という単純な方程式もありますが、本例では違うでしょう。



とここまで考えて、続きを読んでいきます。



…なるほど、だいたい当たっていました。

FINAL DIAGNOSISは以下の通り

Fusobacterium necrophorumによるLemierre症候群、海綿静脈洞血栓症、頸動脈血栓性動脈炎、耳下腺膿瘍、骨膜下眼窩膿瘍


生坂先生のすごさを改めて実感しました。



本文中に、初めて聞いた病名が出てきました。

Gradenigo's syndrome

中耳炎が深部に広がり、錐体尖端炎が起きた状態を指すみたいです。
三徴は、中耳炎(耳漏)、外転神経麻痺、三叉神経痛とのことです。



本日のClinical Pearl

 「なめてかかるな、開口障害!」



問題篇:NEJM Case36-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 36-2014
An 18-Year-Old Woman with Fever, Pharyngitis, and Double Vision


【患者】18歳女性

【主訴】発熱、咽頭痛、顔面浮腫、複視

【現病歴】
2週間前、頭痛、のどの痛みが出現。発熱(-)。A診療所にて溶連菌迅速検査陰性、帰宅。

それから2日間、のどの痛みは持続。口からものを食べられなくなった。
脱水、しんどい、発熱(39.4℃)でB病院受診。
胸部レントゲン正常。繰り返しWBC2000/mm3以下を指摘された。
EBV感染パターン。インフルエンザとCMVは陰性。咽頭培養でC群連鎖球菌(+)。血培、尿培陰性。
伝染性単核球症±細菌感染と診断された。
輸液開始で改善、翌日にエリスロマイシン開始で帰宅となった。

9日前、開口障害、右側顔面の腫脹が出現し、再びB病院受診。
耳下腺炎の診断でイブプロフェン投与されたが顎右側の痛みは消えず。
熱は38.3℃で、右耳下腺と顔面の腫脹発赤あり。

6日前、C病院に転院。プレドニンと鎮痛薬投与。耳下腺マッサージ施行され帰宅。
しかし熱が依然としてあり、腫脹も悪化していった。

3日前、頭頸部CT施行。咽後膿瘍、扁桃腺周囲膿瘍はみつからず。
ST合剤、クリンダマイシン、輸液投与。

2日前、右眼瞼の腫脹と水平性複視が出現。右眼の外転制限あり。
頭頸部MRIにて右耳下腺にリング状に造影される多房性の液体貯留あり、膿瘍と矛盾しない所見であった。咀嚼筋に炎症所見あり。右側頭領域の硬膜が線状に肥厚している。右海綿静脈洞に不整あり、明らかな血栓はない。右眼窩骨膜下膿瘍あり。

D病院に搬送。意識は清明でバイタル特記なし。
右の耳介前部、眼窩周囲に腫脹あり。軽度開口障害あり。
両側(右>左)頸部オトガイ下・顎下リンパ節腫大、右側耳介前部・後部リンパ節腫大あり。
歯肉頬溝と舌前部に白苔あり、拭うと痛い。
右耳下腺管に圧痛あり、液体流出無し。
右眼は内側に偏移しており、中線を超えて外転できない。
継ぎ足歩行が軽度困難。

血液所見(抜粋):Hb 9.8g/dl、WBC 8290/mm3、Plt 119000/mm3 、Glu 173 mg/dl、Alb 2.3g/dl。HIV陰性。 
尿検査:蛋白±、Glu3+、ウロビリノーゲン2+、扁平上皮と細菌が+(コンタミかも)。






【既往歴】月経困難症にてピル服用中、喘息、ペニシリンアレルギーあり
【生活歴】喫煙なし、アルコールなし、違法薬物なし、旅行歴なし


さて、あなたの診断は?


「難民高校生」「女子高生の裏社会」を読みました



たまには医学書でない本も読みます。





「難民高校生 絶望社会を生き抜く『私たち』のリアル」


著者の仁藤夢乃さんは

  すべての少女に「衣食住」と「関係性」を。

を掲げて、

女子高校生サポートセンターColabo(コラボ)を立ち上げ、活動している方です。


ご自身が、高校時代は渋谷で過ごす「難民高校生」だったとのこと。

街をさまよう高校生を

家族や学校、社会とのつながりが断たれていると述懐し、

「貧困」の連鎖にまさにおかれている状態であると分析しています。


本書のなかでも紹介されていますが、

ここでいう貧困とは、

湯浅誠さんのいう 「溜め」のない状態 を指します。

決して金銭的欠乏だけが貧困じゃないんですよ、ってことです。


詳しくは湯浅さんの「反貧困」を読んでください。

私は大学1年生の時に読んで非常に衝撃を受けました。

これほどまでに現実を深くとらえ、分析し、未来を構築することのできる人がいるのかと。




「難民高校生」をはじめとする、生きづらさを抱えた人たちを

自己責任で片付けてしまうのは、

個人的には全く好きではありません。

生きづらさの原因は、家庭や学校の環境に留まらず、

金銭的な問題にあったり、

なかには疾病によると思われる場合もあるでしょう。

本書にも様々なケースが出てきます。


さらなる「貧困」の連鎖に陥らせないために、

自分にとって目障りな存在を視界の外に追いやらないために、

ここら辺のさらに突っ込んだ分析は、「女子高生の裏社会」で広げられています。




いわゆる「JK産業」に取り込まれている高校生たちは

けっして特別な存在などではないということ。

問題の責任はつねに社会の側、大人の側にある、

搾取する側がつねに糾弾されるべきであるということ。


公的(つまり表社会)の支援は、使いづらくよそよそしく

なんちゃってセーフティネットが裏社会にしか存在していない。


生きづらさを抱えている人、悩みを抱えている人を

私たちが遠巻きにしてあっちいけとするたびに、

その人たちは「きれいな表社会」から隔絶されていき、

表からは見えない「闇」におちていく。



高校中退者数:年間約5万5千人

不登校者数:(中学)年間約9万5千人(高校)年間約5万6千人

10代の自殺者数:年間587人

10代の人口中絶件数:1日57件

子どもの貧困6人に1人、虐待、ネグレクト、いじめ、家族関係、友人関係、性被害・・・・・

(Colaboのホームページより引用)



健康を脅かすのは、なにも病気に限ってはいない、というお話でした。



2014年11月21日金曜日

「フェルソン 読める!胸部X線写真」(医学書)





今更ながら読んでみました。


まさに入門書。学部4年生くらいで読むのがちょうどいいと思います。

記載は非常にわかりやすいです。
理論に基づいて所見を説明しています。

ときどき出てくるジョークのほうが理解困難です。
英語圏の人はあれを見て笑うのでしょうか?


これを読んだからといってX線読影ができるようになるわけではないのでご注意を。
内容は素晴らしいですが、あくまで「入門書」です。


私のお気に入りX線読影の本はコレ!



最近、第2版がでて、表紙が黒くなりました。


第1版をポリクリ前に読みました。

「何を観たらいいのかさっぱりわからない」医学生を

「ある程度自信を持って病態を答えることができる」医学生にしてくれます。


フェルソンを読み終わった方はこちらをどうぞ!

私は順番が逆でしたね・・・。



2014年11月19日水曜日

凍傷(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





路上生活の男性が救急に運ばれた。寒い中路上で寝ていた。左足の感覚がない。足首から下が冷たく、出血性の水疱があり、温痛覚がない。他の身体所見は正常。正しいのはどれ?

1. ガンガン温めるのはあまりよくない
2. 温めている間、強い疼痛が出ることがある
3. ヘパリン使うといいよ
4. すぐに切断すべきだ
5. 温めたら感覚は元に戻る



UpToDate: frostbite-TREATMENTでは
病院に行くまでの対応として以下のように書かれています。

・できるだけ早く暖かい環境へ。傷つけないように患部をパッドで覆うか添え木をする。
・濡れた衣服は脱ぐ
凍傷のある足で歩かない。どうしても歩かないといけないときは、温める前で
・再凍結の可能性があれば、組織破壊を避けるために温めない
・温かいお湯(熱湯はダメ)で暖めたり、わきに挟んで暖めたりするように
・こするのはダメ
・ストーブや火もダメ


そして病院についたら・・・

37-39℃のお湯につける
・患部が赤または紫色になり、柔らかくなればOK
痛みを伴うことがある。鎮痛はオピオイドで
・tPA投与の効果は疑問。だけど切断などの恐れがあり、禁忌がなければ、24時間以内ならtPAとヘパリンを動脈内投与したら良いのでは。ヘパリン単独はダメ
・水疱は、非血性かつ関節の上とかで動きを妨げている場合は除去する。血性の水疱はそのままに。小水疱もそのままでよい
破傷風予防をしましょう。予防的抗菌薬は勧めません
・経験のある外科、形成外科にコンサルトしましょうね


ハリソン問題集の解説に載っていることを付け加えます。

・温めたあとも色が青白いままなら、コンパートメント症候群を疑うこと。
感覚障害は治療後も残存することがある。
・晩期の合併症として、皮膚がん、爪の変形、骨端障害(小児)などがある。



というわけで正解は2でした。


「最速!聖路加診断術」(医学書)






診断学・臨床推論の本を読み漁っております。


40の症例をコンパクトにまとめてあります。

他書との違いは、チーフレジデントの頭の中を追っていけるようになっていることです。

この情報からこれを疑ってこんな検査をしました

という流れがわかりやすく記されています。

最初に提示される情報は、まさに現場で短時間で集めた病歴だけなので、

たとえば病歴を読む前に

「あ、フェリチン高値の情報が目に入っちゃったよ~」

とかいう事態にならないです。


症例もあまりマニアックなものがなく、ちょうど良いです。

最も印象深かったのは、大量の脂汗が主訴の症例。

「脂汗でみつかる貧血もある!」
(ネタバレになるため反転してあります)


甲状腺疾患がこんなに多彩な顔をしてやってくることにもびっくり。

浮腫、ミオパチー、心不全、腸閉塞…



非常に実践志向の本だと思います。



2014年11月18日火曜日

エボラより健康を脅かす5つのこと



エボラ出血熱

なかなか収まる気配がありません。


エボラ出血熱がこれほどまでに広がってしまった背景には

貧困がはびこり、政府が機能していないことが

あると考えています。


WHOのThe Solid Facts(日本語版はこちら)では

健康の社会的決定要因の1つとして

社会格差(social gradient)が挙げられていますね。



しかし、日本国内のことを考えてみると

あんまりヒステリックに騒ぐのもどうかという気分になります。



アメリカの公衆衛生学会が

   5 things that are bigger threats to your health than Ebola

と題し、アメリカ国内の健康を脅かす重大な要因について解説しています。


  1. 耐性菌(Antibiotic-resistant bacteria)

  2. 異常気象(Severe weather)

  3. 蚊が媒介する病気(Mosquito viruses)

  4. 交通事故(Vehicle and pedestrian safety)

  5. 肥満(Obesity)


これらの要因は、エボラより身近であり、

かつ、予防可能であるものであるとまとめられています。



日本だと、この5つの要因はどうなるのでしょうかね。

というわけで

私家版"5 things that are bigger threats to your health than Ebola in Japan"

を考えてみました。


  1. 耐性菌

  2. 低いワクチン接種率

  3. 自殺

  4. 交通事故

  5. 肥満


「格差と貧困」「アルコール」なんかも候補だとおもいます。


「がん治療についての極端な風説とそれを流布するメディア」を

ランクインさせようかとも思ったのですが

皮肉が強すぎるのでやめておきました。



耐性菌は日本でも大きな問題ですよね。


以前、実習していた病院に肺アスペルギルス症の方が来院されましたが、

前医で、日替わりでありとあらゆる抗菌薬を投与されていました。

今日の占いカウントダウンじゃないのですから、

今日のラッキー抗菌薬みたいな感覚で、

ナントカペネムとかを乱用するのは、勘弁いただきたい限りです。

そして、アスペルギルスに効く薬はなにも投与されていない。ガックシ。



健康については、非常に関心が高いトピックであるがゆえに、

冷静な情報を提供する義務が医療者にはあると思います。



…そういえばデング熱の報道って最近聞かないですね。



2014年11月17日月曜日

蕁麻疹性血管炎(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





35歳女性。6か月続く反復する蕁麻疹。ときに色素沈着を残す。関節痛もある。赤沈85mm/h。


蕁麻疹性血管炎は、30代の女性に好発します。
治療はステロイド。免疫抑制薬も使うことがあるみたいです。


≪Clinical Pearl≫
色素沈着を残す蕁麻疹に関節痛をみたら皮膚生検!



解答篇:NEJM Case 35-2014



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 35-2014
A 31-Year-Old Woman with Fevers, Chest Pain, and a History of HCV Infection and Substance-Use Disorder


薬物使用中の31歳女性で、主訴は発熱・呼吸困難・胸痛。
非常に高い熱が約1週間続いています。

この情報だけだと、静脈注射で菌血症というのが考えやすいですね。
HIV感染のハイリスク群だと思います。

HCV感染ということで、もし肝硬変に至っているのなら、
SBP(特発性細菌性腹膜炎)が鑑別に上がりますが、
今回はそうではないみたい。

もちろん感染症以外も考える必要がありますが。


既往歴や社会歴は、非常に興味深いのですが、
鑑別診断を狭める情報には乏しいですね。


バイタルサインだけではSIRSの基準は満たさず。
結局、WBCも12000未満なのでSIRSではないですね。
ただし、脈拍111bpmは、体温37.1℃(解熱薬が効いたのかな)では説明できないです。


心雑音がありますね。
Rivero-Carvallo徴候はないようです。これがあれば右心系の雑音をより強く示唆します。


胸部X線、CTで、結節が散在しています。
なかには内部壊死に陥っている病変もありますね。
粟粒結核にしては結節が大きすぎます。
血行性になにかが飛んできたのでしょうか。


以上より、最も可能性があるのは感染性心内膜炎でしょうか。
関節炎も説明できますし。
静脈注射から菌が侵入したのでしょう。

鑑別診断としては…
あまり思い浮かびませんが、
ヒストプラズマやブラストミセスなどの真菌症がちらっとよぎりました。
ここら辺の疾患は、詳しくは知らないです。



と、ここまで考えたので、Caseの続きを読んでみましょう。



…ううむ、診断は感染性心内膜炎で間違いなかったですね。
三尖弁に疣贅が付着していたようです。


このCaseでは、しっかり背景疾患をみることが強調されていました。
じつはこの患者さん、最初の入院では、感染性心内膜炎の治療は受けたのですが、
薬物中毒についておざなりな介入しかされず、
そのため、退院後の抗菌薬治療もうまくいかなかったようです。


感染性心内膜炎の治療だけでなく、
薬物中毒の治療もしっかりおこなうことが大事である。


あたりまえのことですが、
鑑別診断の勉強ばかりしていると抜け落ちてしまう視点ですよね。


私も、感染性心内膜炎の診断がついた時点で
「これで一丁あがり!」
という感じになってしまいました。


Caseの最後に、患者さん自身のことばが収録されています。
常に、患者さん全体をみる視点を身につけたいものですね。



問題篇:NEJM Case 35-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。



Case 35-2014
A 31-Year-Old Woman with Fevers, Chest Pain, and a History of HCV Infection and Substance-Use Disorder


【患者】HCV感染と薬物使用障害の既往がある31歳女性

【主訴】発熱・呼吸困難・胸痛

【現病歴】
10日前に高熱が出現、2日後に解熱した。
6日前より、40.3℃にもなる高熱が出現。それに付随して悪寒、びまん性蕁麻疹、胸痛、背部痛、膝痛もあり。
1日前の夕方、38.9℃の熱がありイブプロフェン内服。
当日午後、当院救急受診。

【既往歴】
14歳より注射薬物(ヘロイン、コカインなど)使用、直近の使用は入院前日。
メタゾン維持プログラムなどの治療プログラムに何回か参加したことがある。
15歳でHCV感染が判明
多数の皮膚膿瘍が手、腕、足、背中にあり、いくつかは切開排膿したことがある。培養ではEnterobacter cloacaeやコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、MSSAが出た。
他は不安障害、腋窩多汗症、胆石、血管作動性鼻炎、肺炎、副鼻腔炎、膀胱炎、腎盂腎炎、背部痛、左足表在静脈の血栓静脈炎

【薬剤歴】
メタゾン(自分で手に入れた、前日服用)、イブプロフェン

【アレルギー歴】
ブプレノルフィンとナロキソンの組み合わせで退薬症状を呈したことがある

【生活歴】
昔は路上生活をしていた。いまはルームメイトと住んでいる
仕事で動物に接触する。喫煙あり、飲酒は時々。
去年メキシコに旅行した。

【家族歴】
姉妹に甲状腺疾患あり。両親は元気。

【vital signs】
意識清明、体温37.1℃、血圧105/58mmHg、脈拍111bpm、呼吸数18/min、SpO2 100%(r/a)

【身体所見】
胸部:肺野聴診にて巣状のクラックルが散在。
心音:下部胸骨左縁に間欠性の柔らかい雑音があり、吸気で増強しない。
外表:鼠径リンパ節腫大あり。腕、足、大腿に注射痕あり、膿瘍・感染の所見はなし。
両膝関節に熱感あり。左膝内側に少量の液体貯留あり、中等度圧痛あり、可動域正常、発赤なし。
その他:T12-L3にかけて脊椎圧痛あり。

【検査】
血液検査:Ht 27.8%↓、Hb 9.7g/dl↓、WBC 10,300/mm3、MCV 76um3↓、PT 15.1sec↑、K 3.1mEq↓、Cr 0.51mg/dl↓、Alb 3.1g/dl↓、ALP 332U/l↑

尿検査:色調は透明黄色、比重1.020、pH 6.0、ケトン±、Alb±、ウロビリノーゲン2+、ビリルビン1+

ECG:洞性頻脈(109bpm)。他に所見なし

胸部Xp


胸部単純CT



あなたの診断は?



2014年11月16日日曜日

「ココまで読める! 実践腹部単純X線診断」(医学書)





読影は苦手です。

CTについては、急性腹症のCT演習のサイトを利用して、思い出したように勉強しています。



今まで、腹部X線は

 free air と niveau くらいしかわからんやろ

という認識だったのですが、

見る人が見たらここまで読めるのかと目からうろこでした。



内容を咀嚼するには到底至らないですし、

この本を読んだからすぐに読めるようになるわけではもちろんないですが

(この本のせいではなくて、完全に自分の力不足です)

「あれ、なんかおかしいぞ」という感覚が、少しは分かるようになったかと思います。


この本を読むまでは

fluid ileus の所見があっても

「異常なし」と簡単に結論していたことでしょう。

2014年11月12日水曜日

シガデラ中毒(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





39歳男性。カリブ海に旅行に行き、海鮮ビュッフェを食べた数時間後から、腹痛、悪寒、嘔気、下知出現。手足のしびれ、のどの違和感も現れた。2日間かけて症状はゆっくり軽快したが、発症4日後に、冷たい水を温かく、温かい水を冷たく感じることに気付いた。


シガデラ中毒の症例です。
言われてみればなるほどですが、全く想起することができませんでした。


日本だと沖縄で遭遇することがあるみたいですね。
以前、美ら海水族館に行ったことがあります。
駐車に失敗しレンタカーを傷つけてしまったのはいい思い出です。

と思ったら、本州でも発症例があるそうな。あなおそろしや。


シガ毒素は、熱や冷凍で不活化されません。
なので煮汁に溶け出ることもあります。
味やにおいもなく、予防・対処は難しそうですね。


症状は上記の通り。あまり細かく覚える必要はないでしょう。
illness scriptとして丸覚えするに限ります。


日本では死亡例はなく、対処療法でよくなるので、そこは安心ですね。



2014年11月8日土曜日

0次医療と4次医療



いつも学ばせて頂いているブログ

 「病院家庭医を目指して ~野望達成への道~

北海道勤医協札幌病院の佐藤健太先生のブログです。



この中で私がとくに好きなのが、「4次医療」についてのこの記事



たとえば、がんの終末期で、「もうできることはありません」みたいな、

婉曲に言ってるけど要するに「ここから出てけ」と言われる方、

僕の知っている範囲でも結構いらっしゃいます。


もちろん高度医療機関の役割については重々理解しているつもりですが、

それにしてももっとやり方があるだろうと感じることがままあります。


日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之先生が、

「オンコロジストのやってはいけない掟(リンク先スライド28枚目)」として

このように挙げています。


非常に深く共感いたします。



がんに限った話ではないですね。


精神疾患の慢性期

成人になった小児麻痺患者の在宅ケア

経済的事由


色んな理由で、行き場所を失っている方にたいするケアを提供することも

「どのような健康問題でも相談に応ずるということがそのレーゾンテートル」(伴信太郎先生)

である、家庭医・総合診療医の役割なのだと思います。



予防を含めた0次医療

最後までつきあう4次医療


2014年11月5日水曜日

OECD医療の質レビュー2014



2014年11月5日に、OECDが日本の医療の質を評価したレビューを公開しました。

http://www.oecd.org/els/health-systems/ReviewofHealthCareQualityJAPAN_ExecutiveSummary.pdf

ものぐさな僕は、p33から始まる日本語で書かれた箇所を流し読みしただけなのですが、「プライマリーケア」に関する記述の占める割合がとても多いですね。

末尾に「日本の医療の質を改善するための提言」として、「特に、日本は以下のことを行うべきである。」とあるのですが、それは以下の4つ。

1.医療の質の管理と提供の全般的に強化する(原文ママ)
2.プライマリーケアの明確な専門分野を確立する
3.病院部門における質の監視と改善を向上させる
4.質の高い精神医療を確保するよう努力する



レビューでは、
   
   日本のプライマリーケアの構成は、多くの意味でこれまで有効であった。

としたうえで、

  ・社会人口的な変化は、人口がますます高齢化することを意味しており、多くの人が複数の複雑な医療ニーズを抱え、一部は健康面の弱さや社会的孤立に悩む。
  ・財政的圧力が、入院治療から地域社会でのケアへ、医療の方向転換を促している。
  ・特に高齢者の受診率が高く、一部の病院のデータでは、計画外の再入院率が増加していることが示されている。いずれも、地域社会のサービスが、適切なケアの提供に四苦八苦している可能性があることを示唆している。

ことを問題点として挙げ、その対処策を

   長期的に一貫したケア拠点を提供でき、複数の医療ニーズを有する患者に対するケアを個々に合わせて調整でき、患者の自己教育及び自己管理を支援できるような、地域社会のケア制度を備える必要性が示唆される。

と述べています。



また、プライマリーケアのありかたについては、

   プライマリーケアの専門分野の主な機能が、メンタルヘルスケアのニーズを含む複数の複雑な医療ニーズを有する患者に対する包括的なケアの提供であることが重要である。

としています。



患者を要素に分解するのではなく、きちんと全体を診て、いろんな専門家(もちろん医師以外も含む)と連携をとってmanagementするような仕組みをきちんと整えなさい、ということですね。

これからのプライマリーケアは、単一の診療所なり医療機関で完結するケアではなく、言ってみれば指揮者のような役割を果たしていくことになりそうです。

そして、プライマリーケアを担う人材を育成するために、医学部に部門を設立して、きちんと専門分野として確立させなさいとも指摘していますね。いままでみたいに「臓器別専門を極めたらプライマリーケアくらいできちゃうさ」では通用しません、と。



プライマリーケアの機能の中に、「メンタルヘルスケアのニーズを含む」とあえて記載しているのもポイントかな。このレビューの提言の4つ目は、「質の高い精神医療を確保するよう努力する」でした。

   日本における精神疾患に関する偏見が、メンタルヘルス専門施設に援助を求めることを思いとどまらせている可能性が考えられる。

確かにその通りですよね。



以前、とある精神科の先生から頂いた言葉を思い出しました。

   たとえば、癌になったひとは、心配してもらえて、大事にしてもらえる。

   だけど、精神疾患にかかった人は、厄介者にされて、差別を受ける。

   僕は、資本主義の世の中であっても、教育と医療だけは平等であるべきだと思っている。

   だから僕は、精神科医になろうと思ったんだ。



日本では、精神疾患の患者さんは社会から排除されてしまうようです。
有名なのは、森川すいめい氏の研究。池袋の路上生活者の4-6割が精神疾患を有していました。

https://www.jspn.or.jp/journal/symposium/pdf/jspn107/ss372-378.pdf



最近では、2014年11月2日に名古屋駅周辺で行われた調査で、路上生活者の3割に知的障害の疑いがあることがわかりました。(写真は11/3付毎日新聞)






OECDのレビューでは、プライマリーケア専門医も精神科医と協力してメンタルヘルスを向上させていくよう提言されています。




このブログの内容と方針

初めまして。

今は医学部6年生、将来は家庭医・総合診療医として、地域住民に一番近い場所で医療をしたいと考えています。

学習したこと、体験したことを、幾許かでも発信することで、読者の皆様の気づきになり、また自分の成長の糧にしていければと思います。

なお、修練中の身ですので、内容が不正確であることがままあります。
特に非医療従事者である読者の皆様は、ご留意ください。
お気づきの点がございましたら、ご教授いただければ幸いです。暖かく見守ってください。
そんな人いないだろうとは思いますが、本ブログの内容をそのまま診療その他に適応した際に生じるいかなる不利益も(また利益も)私の責に帰すものではございません。