2023年5月29日月曜日

疼痛とサルコペニア/社会的ニーズのスクリーニング/継続性と終末期ケア


Lin T, Huang X, Guo D, Zhao Y, Song Q, Liang R, Jiang T, Tu X, Deng C, Yue J. Pain as a risk factor for incident sarcopenia in community-dwelling older adults: A 1-year prospective cohort study. J Am Geriatr Soc. 2023 Feb;71(2):546-552. doi: 10.1111/jgs.18118. Epub 2022 Nov 4. PMID: 36330882.


疼痛のある高齢者は、サルコペニア発症リスクが有意に高い。

疼痛が強いほど、また疼痛部位が特定されているほど、サルコペニア発症のリスクが有意に蓄積される。


Russell LE, Cohen AJ, Chrzas S, Halladay CW, Kennedy MA, Mitchell K, Moy E, Lehmann LS. Implementing a Social Needs Screening and Referral Program Among Veterans: Assessing Circumstances & Offering Resources for Needs (ACORN). J Gen Intern Med. 2023 May 10:1–8. doi: 10.1007/s11606-023-08181-9. Epub ahead of print. PMID: 37165261; PMCID: PMC10171907.

社会的ニーズのスクリーニング。

半数は一項目以上が陽性。患者の受け入れは良好。

実践上の問題は、スクリーニングされた問題に対し提示されたリソースにアクセスした患者が一人もいなかったことです。

スクリーニングして、じゃあここに連絡してね、はい終わり、というのは、有効に機能しないだろうなと思っています。短期的アウトカムは無理だろうと。

そうじゃなくて、医療者側が患者さんのことを理解し、その結果医療者の関わり方が変わり、互いが互いを大事な存在と認識し、長い時間をかけて状況が変わっていく、というプロセスがうまれることが重要であると思っています。


ElMokhallalati Y, Chapman E, Relton SD, Bennett MI, Ziegler L. Characteristics of good home-based end-of-life care: analysis of 5-year data from a nationwide mortality follow-back survey in England. Br J Gen Pract. 2023 May 25;73(731):e443-e450. doi: 10.3399/BJGP.2022.0315. PMID: 37012076; PMCID: PMC10098834.


最近BJGPは、継続性についての量的研究をたくさん載せている印象があります。

継続性の高い患者で、終末期ケアの家族報告アウトカムが高かったという内容です。

2023年5月3日水曜日

2022年のTop20エビデンス


American Family Physicianに、プライマリケア医のための2022年top20エビデンスがまとめられていました。


【予防医学】

1. スタチンによるLDLコレステロール低下の一次予防効果は僅少。

3-6年間以上の治療による絶対リスク低下は、死亡で0.8%、心筋梗塞で1.3%、脳梗塞で0.4%

LDL-Cを強力に下げてアウトカムはあまりかわらない。

(私見)

私は、一次予防はあまり積極的に提案しておらず、糖尿病がある場合、家族性が疑われる場合などに限っています。腎障害がある場合も、まあLDL-C下げたほうがいいよな、とは思っています。一方、二次予防(脳梗塞、心筋梗塞)は漏らさず行うようにしています。

最近は、目標値管理ではなく、できるだけ高力価なスタチンをできるだけ使う、という風潮があります。わたしは、二次予防ではロスバスタチンをできるだけ使って、LDL-Cの値をみて必要なら増量するという、折衷案を採用しています。一次予防は、できるだけ低力価で目標値達成できたらいいなという気持ちでしています。このあたりが現時点での落としどころかな、という気持ちでいます。このあたり、推奨があまりにコロコロ変わるので、もう細かいことはどっちでもいいや、という気持ちでいます。


2. VitD補充は骨折リスクを減少させない。

骨折既往がある患者や、ベースラインのVItD値が低い患者でも、効果はない。

(私見)

以前は、転倒も減らすと評価されてきたVitDですが、最近のレビューでは有害無益ということになっています。今年に入ってから、私は外来患者のVitD製剤を中止する方向で診療しています。高齢者は高Ca血症のリスクも出てきてしまうので。

ビスホスホネート製剤を使って低Ca血症になる(なりそう)な場合にのみ新規開始するようになりました。逆に、若年女性の骨密度低下(妊娠出産後やアスリートなど)ではよく使っています。


【行動医学】

3. 抗うつ薬の中断は再燃を招きやすい。

プライマリ・ケアで抗うつ薬を中止すると、1年間でうつが再発しやすくなる(NNH 6)。

調子のいい時に抗うつ薬をやめて、そのまま元気でいられる患者は、44%。

(私見)

自分がSSRIなどの抗うつ薬を出さざるを得ないときというのはまあまああります。安易に中止しないように。


4. 単剤で治療反応のない急性重度抑うつでは、SSRI, SNRI, TCAなどの多剤治療が望ましい。

(私見)

こうなってくるとプライマリケアが治療を行う範囲外で、できる限り精神科に紹介することが求められると思います。知識としては知っておくか気があるかなと思います。・


5. パニック障害の第一選択薬はSSRI。

(私見)

今の診療を継続すればいいなと確認しました。


6. 成人の不眠症で、薬剤治療はセカンドライン。

睡眠薬は効果と副作用のトレードオフ。最もバランスが良いのはルネスタとデエビゴ。

(私見)

どちらも薬価が高いのがネックですが、ルネスタのジェネリックならそこまででもないです。ルネスタ(エスゾピクロン)は非ベンゾの入眠薬ですが、そこまで依存形成しないようですね。とはいえ、安易に処方すべきではないのは変わらないとは思います。

私は、睡眠薬が必要と思われる患者(もちろん非薬物的治療は十分行ったうえで)には、いままではベルソムラをよく出していましたが、一包化OKですし、若干安いので、これからは新規処方はデエビゴが増えるかもしれません。ただ、デエビゴのほうが傾眠がおおくなるかもです(半減期が長いため)。悪夢はベルソムラのほうがやや多いようです(悪夢のためにベルソムラ飲めない人はそこそこ出会います)が、デエビゴでも悪夢の副作用はあります。(作用機序同じなので当たり前)


【喘息】

7. 中等度~重度の喘息では、アルブテロール・ブデソニドのレスキュー吸入が増悪の頻度を下げる。

(私見)

シムビコートのSMART療法ですね。喘息は様々な吸入デバイスがあって混乱しますが、わたしは、一部の軽症間欠型を除いてシムビコートを使用しています。薬価が高いのがネックですが。定期も屯用も同じデバイスを使えるのは便利です。喘息増悪の一番の要因はアドヒアランスですので、使い勝手の良さは大事です。


8. 喘息のレリーバーはSABA単独ではなく、ステロイドを追加。

(私見)

上述の通り、シムビコートのSMART療法で対応できると思います。


【消化器】

9. PPIは胃がんのリスクをわずかに上げる(10年間でNNH 1191)

(私見)

さすがにNNHが大きすぎて、このリスクは無視していいと思います。ただ、PPI自体はほかのリスクもあるので、漫然長期処方はさけるべきだとは思います。


10. GERDに対するPPI8週間で治療が成功していれば、休薬を試す。

(私見)

上述の通りです。


11. IBSの第一選択は運動と水溶性食物線維の漸増。

(私見)

海外では、サイリウム(オオバコ)の粉末を溶かしてゼリー状にして飲用する健康食品が売られています。

食事で摂取する場合は、野菜や果物、海藻になります。

日本でもサイリウムは買えますので、症状がつらい人には試してみるのもありだなと思いました。


【糖尿病】

12. 60歳以上の糖尿病予備軍の大半は糖尿病にならない

(私見)

60歳以上であれば、糖尿病予備軍であっても、あまり気にしなくてよい、というエビデンスだと思います。treatment burdenを考えると、とても大事な知見です。


13. 糖尿病予備軍の治療は長期アウトカムを変えない。

強度の高いライフスタイル改善やメトホルミンは心血管アウトカムの長期リスクを変えない

(私見)

しゃにむに頑張る必要はない、ということですかね。マイルドな食事運動療法はよいかと思いますが。


14. 高齢者施設でのフレイル高齢者の75%で、薬剤性低血糖が2週間のうちに発生した。

重篤な低血糖は50%で見られた。

(私見)

フレイル高齢者では厳格な血糖治療はやめましょう。


15. 糖尿病性神経痛の治療は単剤より併用がよい。

使う薬剤はアミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンなど

(私見)

まず単剤で治療して、効果乏しければ他の薬剤を追加する、というのが現実的かなと思います。最初はどの薬剤で始めてもいいようです。


【その他】

16. 患者にリスクを伝えるときは、言葉じゃなくて数字で。


17. 禁煙治療は12週間のバレニクリンで。


18. CBD(カンナビジオール)は様々な薬剤と相互作用を起こす

(私見)

CBDは、大麻由来のリラックス効果をうたう物質で、欧米では結構人気のようです。

大麻取締法上の「大麻」には相当しません。

今後日本で人気になった際に、問診で注意する必要が出てきそうです。


19. 急性腰痛症のNSAIDSは、薬剤間の差はない。


20. 尋常性痤瘡の第一選択は、adapalene/benzoyl peroxideで、次いでclindamycin/benzoyl peroxide、adapalene単剤。

adapalene/benzoyl peroxideは商品名エピデュオです。ひりひりとした痛みの副作用が強いので、注意です。肌にあわない場合は、adapalene単剤(ディフェリン)を使うことができます。(にきびの治療は経験が少なく、初めて知りました)