2017年7月30日日曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 3)



施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


患者の治療目標対コスト


非経口ビスフォスフォネート(ゾレドロン酸)とデノスマブは,経口ビスフォスフォネートと比べて骨所掌症患者の骨折予防により効果的であるように思える.研究者はさらなる研究が必要だ,これらの薬剤の利益を比較しきちんと数字で示すためにガチンコ勝負が必要であると言うだろう.学術的臨床家は,患者が長期施設入所しており薬剤治療の益があるなら,患者の治療の目標,過去の治療の経験,併存疾患,機能の状態,費用により最適な治療が決まると結論するだろう(表1).結局のところ,多くが低収入であると考えられる施設長期入所者において,費用は実際になるほどと思う論点なのだろうか.


薬剤
年間の費用(概算)
コメント
ビタミンD3とカルシウム
> $30
1日にビタミンD3を600IU,またはカルシウムを最大999mgだとこの費用となる
経口ビスフォスフォネート(毎日)
> $92
カルシウムとともに毎日の経口摂取
経口ビスフォスフォネート(週1回)
> $229
ビタミンDとともに週1回の経口摂取
デノスマブ
> $660
6か月おきの注射
ゾレドロン酸
> $671
年1回の注射

結論 B氏にはどのようなアドバイスがなされるべきなのだろうか.QOLとケアの目標に焦点を当てた診療にエビデンスを落とし込むことは容易ならざることだとレジデントは結論するだろう.そしておそらく,研究者や学術医,そして"もっとも重要なことだが"レジデントの指導医もこの結論に同意するだろう.


2017年7月19日水曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 2)


施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


治療のエビデンス

ついこの前リウマチ科をローテートしていたとき,椎体骨折の既往がある地域に住む患者には経口ビスフォスフォネートよりゾレドロン酸やデノスマブがよいと指導医に勧められ,刺激的な議論を繰り広げた.ところで,長期施設入所者に対する骨粗鬆症の薬物的治療のエビデンスはどのようなものだろうか.

最近公表されたJournal of Internal Medicineのレビューには,カルシウムとビタミンDの補充は,地域に住む成人の股関節部の骨折を予防しないとある.しかし,カルシウムとビタミンDの組み合わせは,ビタミンDが欠乏している施設長期入所中の高齢女性の股関節部骨折の予防には有用であることが示されている.高齢者,特に高齢男性に対し,当然のようにビタミンDとカルシウムの補充を行ってよいのか疑問が出てくる.骨折を予防するというエビデンスが現状不十分にしかないからだ.しかし,施設入所者のビタミンD欠乏がおそらく非常に多いことを考えると,低用量のビタミンD補充(400-800IU/日)は,重大な副作用もなく,おそらく許容されるだろう.一方,過量のカルシウム摂取は,消化器の副作用,腎結石,心筋梗塞などの心血管イベントにつながる.実際に,ビタミンD欠乏のない患者で,カルシム摂取量が300mg/dayと少量であっても,臨床的に有意な骨量減少につながらないというエビデンスがある.このような理由により,カルシウム補充の敷居は高く,とくに他疾患が併存している長期施設入所高齢者ではとりわけ難しいと感じるだろう.

骨粗鬆症治療薬の一つである骨吸収抑制薬の選択については,Nature Reviewsの論文に,頻用される薬剤を比較した包括的な要約がある.経口または非経口のビスフォスフォネートならびにデノスマブは臨床で最もよく出会う薬剤である.第一に,これらの薬剤の効果とリスクを直接比較したガチンコ勝負は行われていない.デノスマブはRANKLを標的としたモノクローナル抗体であり,6か月おきに60mgを皮下注射することで椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ68%, 40%, 20%減らす.デノスマブに関連する重要な有害事象として,皮膚感染,尿路感染,皮膚炎や失神といった皮膚反応がある.36か月間のデノスマブ治療はプラセボと比較して,有害事象全体の発生率に有意な差はなかった.

以上のデータはFREEDOM (Fracture Reduction Evaluation of Denosumab in Osteoporosis Every 6 Months)試験で得られたものである.ゾレドロン酸(年1回5mg投与)の有効性も同様であり,椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ70%, 41%, 25%減らす.7つのRCTをまとめたシステマティックレビューによると,経口リセドロネートは椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ39%, 26%, 20%減らす.ビスフォスフォネートの有害事象はよくわかっており,顎骨壊死,非定型大腿骨骨折,消化管障害などがある.これらの有害事象のリスクは低く(治療10,000-1,000,000人年に1例),経口でも非経口でもおおよそ同じである.注意すべきこととして,非経口ビスフォスフォネートでは注射後に頭痛,発熱,筋痛といったインフルエンザ様症状が出現することがある.初回で最も可能性が高く(31.6%),回数を経るにつれリスクは大きく減少していく.


2017年7月4日火曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 1)



施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.
まずは導入部,part1です.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


85歳の施設長期入所者であるB氏は,転倒により脊椎骨折を受傷した.B氏と出会ったのは最近のことだが,施設ケアにおける骨粗鬆症の治療について,刺激的な会話を指導医とするきっかけになった.これは,多くの医師がよく直面するジレンマを浮かび上がらせるものである.QOLや治療目標に焦点を当てながら,現在のエビデンスを臨床に組み入れることについて考えよう.

過少治療と変動


Osteoporosis Canadaによれば,B氏が1年以内に次の椎体骨折を受傷する危険性は20%である.たしかに,女性の3人に1人は生涯で1回は骨粗鬆症による骨折を経験するし,カナダでの50歳以上の骨折の80%以上が骨粗鬆症,つまり「静かな盗賊(注:無症状のまま骨量が減少していくことをこのように表現している)」によるものである.長期施設入所者には骨粗鬆症が多いという認識は広く共有されているものの,現時点ではあまり治療されていないことが多いようである.骨粗鬆症のマネジメントは施設によってかなりさまざまである.骨粗鬆症患者の治療の質を改善するには,目標志向型の介入が必要である.骨粗鬆症のマネジメントに関する研究はこれまで主に,地域社会に住む成人を対象に行われてきた.しかし,長期施設入所者はこのような研究から除外されることが多く、施設入所者の骨粗鬆症治療の決定を困難にしている。

最近公表されたOsteoporosis Canadaは、長期施設入所者を対象とした骨粗鬆症マネジメントのガイドラインである。ガイドラインによると、食事による1日1200mgのカルシウム摂取が望ましく、食事によるカルシウム摂取が1日500mg未満であればカルシウム補充が推奨される。骨折のリスクが高い場合(股関節や椎体骨折の既往、複数回の骨折の既往、骨折既往があり最近グルココルチコイドを投与されている、レントゲンで診断された椎体骨折、高リスクだと以前判断された)や余命が1年以上と期待できる場合は、少数の例外を除き、第一治療として経口ビスフォスフォネート、ついでデノスマブやゾレドロン酸が推奨される。