2021年1月6日水曜日

Workplace Based Assessmentを実装するにあたってのネガティブな経験とその克服

Young JQ, Sugarman R, Schwartz J, O'Sullivan PS. Faculty and Resident Engagement With a Workplace-Based Assessment Tool: Use of Implementation Science to Explore Enablers and Barriers. Acad Med. 2020 Dec;95(12):1937-1944.


目的

workplace-based assessment(WPBA)の実施は、大きな課題に直面している。教員や研修医は、WPBAを「チェックボックス」をつけるだけの取り組み,あるいは「輪くぐりの芸をする」ように評価を得るためなら何でもする取り組みとして否定的に捉えていることが多い。このような課題に対処するために、いくつかの提言がなされている。これらの提言に従ったWPBAの経験を理解するために、著者らは、「実装研究のための統合フレームワーク」(Consolidated Framework for Implementation Research:CFIR)を用いて質的研究を実施し、ツールへの関与の促進因子と阻害因子を明らかにした。


方法

Psychopharmacotherapy-Structured Clinical Observation(P-SCO)は、向精神薬管理の研修を受けている研修医のパフォーマンスを評価するために設計された直接観察ツールである。2017年8月から2018年2月まで、Zucker Hillside Hospital/Northwell Healthの2年目と3年目の研修医を対象として,継続外来を行う診療所においてP-SCOを実施した。2019年2月と3月に、筆者らは参加教員と研修医を対象に半構造化インタビューを実施した。CFIRに基づいたインタビューガイドを用いて、関与の促進因子と阻害因子を把握した。面接記録は独立してコーディングされた。コードはその後,CFIRのドメインに関連するテーマに統合された。


結果

10 名の教員と 10 名の研修医がインタビューを受けた。全体的に、参加者はP-SCOについて肯定的な経験をしていた。教員と研修医にとっての促進因子としては、継続的なトレーニング、P-SCOのデザインの特徴、素因となる信念、専任教員の時間確保、P-SCOによって口頭でのフィードバックの質が向上したという認識などが挙げられた。教員にとっての阻害因子には、チェックリストの長さやアイデンティティを脅かすフィードバックへの不快感があり、研修医にとっての障壁には、教員によるフィードバックの適時性と質のばらつき,フィードバックを最初に受け取ったのちの振り返りがほぼなされないことなどがあった。


結論

この研究は、先行研究で示されたWPBAに対する教員や研修医の否定的な経験は、具体的な実施戦略を追求すれば、少なくとも部分的には克服できることを示している。この結果は、今後の研究と実施のための指針を提供するものである。


用語確認

「実装研究のための統合フレームワーク」(Consolidated Framework for Implementation Research:CFIR)

参考:https://www.radish-japan.org/files/Radish2_proceedings.pdf

Dissemination and Implementation Research (普及と実装研究、D&I 研究)で用いられる. 5 つの領域と 39 の構成概念からなる。従来はD&Iのモデルが乱立していたが,いまはおよそこれを使っている様子.プログラム実装の阻害・促進要因を特定目的で使われる.

①介入の主要特性(8つの構成概念:介入の出処、エビデンスの強さと質など)

②外的環境(4つの構成概念:外部組織とのつながりの程度、外的な施策やインセンティブなど)

③内的環境(5つの構成概念と 9 つの下位概念:相対的優先度、組織の風土、リーダーの関与など)

④個人の特性(5つの構成概念:関係する人々の知識や信念、自己効力感など)

⑤実装プロセス(4つの構成概念と 4つの下位概念:実施計画、ステークホルダーの関わりなど)


感想

WPBAを実装するにあたっての課題をCFIRを用いて分析した研究.実装研究は家庭医療学研究でも時々みかけるが,医学教育でも有用だなと感じました.CFIRを知ったのがこの論文を読んだ最大の収穫です.WPBAに限らず,理論的には美しいけど実際にはうまく機能していないプログラムってありますよね.