2015年1月29日木曜日

NEJM Case 4-2015



今週のNEJM Case Recordです。

本文はこちら

Case 4-2015
A 49-Year-Old Man with Obtundation Followed by Agitation and Acidosis


自殺目的で何かを服用した患者。
アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスから何を考えるか、というケースでした。

アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスの鑑別ですが
私はKUSSMALで覚えています。
(Kussmaulの大呼吸が見られることからの語呂合わせ)

Ketoacidosis(diabetic, alcoholic)
Uremia
Sepsis
Salicylate
Methanol
Aspirin
Lactic acidosis


これだとマニアックな中毒はカバーできないです。
そんなときはMUDPILES-CARTです。
こっちはさすがに暗記していません。

Methanol
Uremia
Diabetic ketoacidosis
Propylene glycol
Infection/Isoniazid
Lactic acidosis
Ethylene glycol
Salitylate
Cyanide
Alcoholic ketoacidosis
Rhabdomyolysis
Toluene


個人的には、アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスをみると
ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、アスピリン中毒、不揮発アルコール中毒
がこの順番で思い浮かびます。

尿毒症と敗血症がどうしても鑑別から抜け落ちてしまいます。
この二つをアニオンギャップ開大代謝性アシドーシスからみつけるという経験がないからでしょうか。
ピットフォールにならないように、この際、しっかり頭に叩き込んでおこうと思います。
尿毒症と敗血症、尿毒症と敗血症、尿毒症と敗血症…


今回のケースでは、浸透圧ギャップが開いていたことが手掛かりとなりました。
アニオンギャップ開大代謝性アシドーシス+浸透圧ギャップ開大ときたら
不揮発アルコール中毒で決まりですね。
プロピレングリコールかエチレングリコールです。

治療は重炭酸ナトリウム→ホメピゾールです。
ホメピゾールは2日前に日本でも発売開始になりました。なんという偶然。


浸透圧ギャップ開大が分かれば診断は容易ですので
アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスをみたときに浸透圧ギャップを測定できるかがカギだと思います。


意識障害をみたら、3つのギャップをさがせ
という言葉があるみたいです(出典はこちら)

アニオンギャップ
サチュレーションギャップ(CO中毒ではSpO2正常でもPaO2低下)
浸透圧ギャップ

に気を付ける必要があるとのことです。


アイスノンなどの保冷剤にもエチレングリコールは入っているみたいなので
自殺企図がないからといって安易に除外はできないですね。

また、プロピレングリコールはロラゼパム製剤に入っているそうです。
アルコール離脱譫妄だと思ってロラゼパムたくさん使っていたら、じつはプロピレングリコール中毒による譫妄だったという症例報告が2003年のthe Lancetにありました。

Agitation by sedation
Tuohy, Kathryn A et al.
The Lancet , Volume 361 , Issue 9354 , 308


~Clinical pearl~
アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスをみたら浸透圧ギャップを測定する。


2015年1月26日月曜日

聴覚障害者の健康管理




Emond A, Ridd M, Sutherland H, et al. The current health of the signing Deaf community in the UK compared with the general population: a cross-sectional study. BMJ Open 2015;5:e006668.
doi:10.1136/bmjopen-2014-006668

全文はこちら



イギリスで聴覚障害者の健康状態について研究した論文です。
概して、慢性疾患の有病率が高く、自分の健康状態を知らない人が多く、適切に治療されている人が少ない、ということがわかります。



たとえば、高血圧の有病率は、聴覚障害者で37%、一般人口では21%です(p<0.01)。

そして、自分は高血圧でないと申告した人のうち、本当は高血圧である人の割合は、一般人口では6%ですが、聴覚障害者では29%にのぼります。

自分が高血圧であると申告した人のうち、服薬しているのは51%(一般では62%)、服薬している人のうち血圧は140/90以下にコントロールできているのは42%(一般では80%)です。


つまり、高血圧の人が多いのに、自分が高血圧だと知らない人が多く、治療されている人は少なく、適切にコントロールされている人はもっと少ない、ということになります。



論文では他にも、心血管疾患、コレステロール、糖尿病、呼吸器疾患、うつ、喫煙、アルコールについて触れられています。程度の差はあれ、上に述べた傾向がそれぞれに見られます。


聴覚障害があることが、慢性疾患のリスクとなり、ひいては余命を短くさせていることが分かります。



個人の経験を述べますと、訪問診療の同行実習をした際に、聴覚障害がある一人暮らしの方のお宅に伺ったことがあります。
アパートの一室で、テレビの音を最大まで上げているため、玄関の前でもにぎやかな音が漏れ出ていたのを覚えています。

その方は、外出もほとんどされず、訪問の医療、介護が人と接する唯一の機会となっていました。

健康の社会的決定要因」でいうところの、社会的排除、社会的支援をもろに感じた瞬間でした。




2015年1月22日木曜日

NEJM Case3-2015



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

記事が長いといわれたので、簡潔さを心掛けます。
時系列など大幅に端折ったので、全文を読みたい方はこちらへ。


Case 2-2015
A 60-Year-Old Woman with Abdominal Pain, Dyspnea, and Diplopia

【患者】真冬に救急受診した60歳女性

【主訴】腹痛、呼吸困難、複視

【現病歴】
1日前に、声が嗄れて太くなり、唾液が増えた。
その日の晩に以下の症状が出現。
 嘔気、嘔吐、腹痛(鋭い、持続する、びまん性)、喘息発作(既往あり)に似た息切れ、喉が締め付けられる感じ、嚥下困難

ここで他院に救急受診。体温36.8℃、血圧138/79、脈拍117、呼吸数18、SpO2 96%r/a。
CTで小腸閉塞あり、経鼻胃管挿入。
ここで、水平性の複視が2時間前から続いているとの訴えあり。
その後すぐ、しゃべることが難しくなっていった。
他院到着してから9時間後に当院到着。
そのころには患者は筆談でコミュニケーションをとるようになった。

【身体診察】
意識清明。体温36.8℃、血圧125/77、脈拍122、呼吸数18、SpO2 96%r/a
複視が進行。両側完全眼瞼下垂、眼球運動麻痺、瞳孔不同にまで至った。
語音不明瞭。舌突出不能。顔面神経麻痺も出現してきた。
喉頭鏡で両側声帯麻痺あり、浮腫なし →挿管に。
四肢近位筋力低下あり。腱反射低下。バビンスキー反射は陰性。
感覚障害はなし。



以下、解説篇です。



Problem listはこんな感じかな。

# 脳神経障害
両側動眼神経、顔面神経、迷走神経、舌下神経麻痺は少なくともある

# 自律神経障害(副交感神経障害)
頻脈、低血圧?、消化管運動低下→嘔気嘔吐腹痛

# 運動神経障害
近位筋力低下、もしかしたら呼吸筋麻痺あるかも、腱反射消失

# 感覚神経は障害されていない
# 上位運動ニューロンは障害されていない
# 失調なし

# 発熱なし、筋痛なし、先行する感染症状なし


障害部位に共通するのは、神経伝達物質がAChである、ということ。
重症筋無力症は、急速な進行と、自律神経障害があることから否定的。

筋電図検査やPCRなどで確定診断がつきました。
【診断】原因物質不明のボツリヌス中毒


ボツリヌス中毒の典型症状は、眼のかすみ、眼瞼下垂、複視です。
運動神経障害は下行性におこり、両側で近位→遠位へと思いります。
自律神経障害も良くみられる症状で、神経学的症状の前に消化器症状が出ることもあります。
感覚は正常、発熱もなく、画像検査では異常は見つかりません。

私は最初、喉頭浮腫+中枢神経症状で橋本病かなと考えました。
しかし、頻脈の説明ができず、アレ?という感じに。
両側声帯麻痺あたりから、何か違うぞと思いはじめました。
脳神経motor neuronの障害、それに加え麻痺性イレウス→自律神経障害?
というところまではたどり着けたのですが
ピッタリくる疾患が思い浮かばず、マニアックな自己免疫疾患かなとうたぐるハメに。
ボツリヌスという鑑別が完全に抜け落ちていました。


~Clinical Pearl~
ボツリヌス中毒=眼と球麻痺を中心とする脳運動神経麻痺+自律神経障害+感覚神経intact(+近位からの末梢運動神経障害)



2015年1月21日水曜日

非感染性疾患を予防するためには



1/19のWHO Newsに、非常に興味深い記事が載っていました。

Noncommunicable diseases prematurely take 16 million lives annually, WHO urges more action


Noncommunicable diseases
初めて聞いた言葉だったのですが、WHOの説明を訳すと以下のようになります。

 Noncommunicable diseases (NCDs)は、慢性疾患とも言います。
 人から人へ移るものではありません。
 長い時間にわたり、たいていはゆっくり進行していきます。
 NCDsのメインとなる4つのタイプは
  心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)
  悪性腫瘍
  慢性呼吸器疾患(COPDや喘息など)
  糖尿病
 です。


2012年では3800万人がNCDsでなくなっており、そのうち42%は予防できたものでした。
NCDsによる死亡の3/4は、経済的に低~中間の国で起こっており、感染性疾患による死を上回りつつあります。

というわけで、NCDsの予防を強力に進めていく必要があるとのことです。
そして、1人当たり年間1-3ドルの費用で予防は可能であると計算しています。

経済的かつ効果的な予防法は"best buy"です。
たばこ・アルコールの広告をやめる、トランス脂肪酸を多価不飽和酸に変える、健康な食事と運動を伝えるなどといった取り組みを国家が進めていくべきだと主張しています。



WHO From Burden to "Best Buys"より引用


日本だと、アルコール宣伝の規制、トランス脂肪酸の使用禁止、HBVワクチン、子宮頸がんスクリーニングあたりが課題でしょうか。

HBVワクチンは2016年度から定期接種化になるというニュースがでましたね。

子宮頸がんワクチンについては
最近の論文を見る限り副作用が多いとはいえないみたいです。
今月のJAMAにも、ワクチン接種での脱髄疾患のリスクは否定的であるとありました。
このあたりは、「六号通り診療所所長のブログ」のこの記事が詳しいです。


日本では「生活習慣病」=「だらけた生活しているお前が悪いんだ病」みたいになってますが、
経済状況が喫煙や運動習慣に相関するというデータもありますし
ヘルスプロモーションとしての系統だった介入が必要だと思います。





2015年1月15日木曜日

「最貧困女子」を読みました



世の中で、最も残酷なこととはなんだろうか?

それは、大きな痛みや苦しみを抱えた人間に対して、誰も振り返らず誰も助けないことだと思う。

(本書あとがきより引用)





「最貧困女子」

著者の鈴木大介さんは、いわゆる裏社会の少年少女を取材しているルポライターです。


本書は、最も劣悪な環境にいる女性を描いたルポルタージュです。

読んでいて本当に辛くなりました。

自分の周りで起こっているとは思えない、残酷で救いのない現実。

虐待や障害、本来ならもっとも救済されなければいけない少女が

徹底的に搾取され追い詰められ除け者にされてしまう。



なんで医者になるのだろう。

医者になってもこの方々に手を差し伸べることはできない。

医者になる意味ってあるのかな。

そう本気で考えました。

地獄のような現実に向き合わされ、途方もない無力感を抱きました。


いくら論文を読んでも

いくら手技がうまくなっても

そんなこと何の意味もない、そんな方々が現前しているのですから。



でも、圧倒されてはいけないのだと思います。

克服しなければいけないのだと思います。

徹底的に感受性を鋭くしなければいけない。

「医療」に閉じこもってはいけない。



とある小学校の先生の講演を聴いたことがあります。

虐待と貧困が子どもを如何に蝕んでいるのか

耳をふさぎたくなるような話を投げかけてくださいました。

そして最後、宮崎駿の引退会見の言葉を引用して、講演は締めくくられました。


  「この世は生きるに値するんだ」

  全ての子どもたちに、こう伝えるのが、私たちの役目です。



自分が腐っていてはだめです。

意地でも前を向いて、現実を変えていかなくては。


解説篇:NEJM Case2-2015



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 2-2015
A 25-Year-Old Man with Abdominal Pain, Syncope, and Hypotension


急激な腹痛と低血圧をみて、最初は
肝がん破裂、腹部大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂
などを想起しましたが、その後の経過が合わないです。

腹腔内でなにかが「破れた」のは間違いないだろうとおもいます。
あとは、このような急激な症状を引き起こすような「なにか」が分かればいいのです。
破れたものの内容物がこの病態を引き起こしているのでしょうが…。

うーん、ヒスタミンなら血圧低下・脈拍数増加と皮膚所見を説明できるかな。
肝臓のカルチノイド腫瘍が破裂した?原発は虫垂?
でも、本当にそんなこと起こるのでしょうか…。
25歳という年齢も合わないです。

失神の鑑別は
心原性、痙攣、神経性(血管迷走神経反射など)、血液循環(貧血など)
があがりますが
なんらかの物質により急激に血管拡張・透過性亢進が起きた
として間違いないとは思います。
問題は「何らかの物質」が全く思いつかないこと。なんだろう…。

と、ここまで考えて続きを読みました。


…あー、なんで思いつかなかったんだろう。
エキノコックスはアナフィラキシーショックを起こすじゃないか!

なぜここまで考えておいてエキノコックスを想起できなかったのか。
自分の理解、記憶の仕方が中途半端だったのでしょう。
「エキノコックスの嚢胞の生検は播種とアナフィラキシーを起こすため禁忌」
としか理解しておらず
エキノコックスの嚢胞が破裂してアナフィラキシー
というエキノコックスの自然史を十分理解していませんでした。


Wikipediaの記載が最も分かりやすかったので引用します。

患者の98%が肝臓に病巣を形成される。感染初期の嚢胞が小さい内は無症状だが、やがて肝臓腫大を惹き起こして右上部の腹痛胆管を閉塞して黄疸を呈して皮膚の激しい痒み、腹水をもたらす事もある。次に侵され易いのは肺で、咳、血痰、胸痛、発熱などの結核類似症状を引き起こす。経過は成人で10年、小児で5年以上かかるといわれている。そのほかにも、脳、骨、心臓などに寄生して重篤な症状をもたらす事がある。また、嚢胞が体内で破れ、包虫が散布されて転移を来たす事もしばしばある。内容物が漏出するとアナフィラキシーショックとなる。本虫の引き起こす症状は大型の条虫よりも重篤である。


~Clinical pearl~
エキノコックス嚢胞の破裂はアナフィラキシーショックを引き起こす。


問題篇:NEJM Case2-2015



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。
先週のCase1-2015は、乳癌の転移についての内容でした。
診断を考えるという類ではありませんでしたので、ブログには纏めませんでした。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 2-2015
A 25-Year-Old Man with Abdominal Pain, Syncope, and Hypotension

【患者】生来健康な25歳男性

【主訴】腹痛、失神、低血圧

【現病歴】
重い箱を持ち上げたときに、突然、全身が温かい感じがして、心窩部と右上腹部から腹部全体に放散する不快感が生じた。その後、口、舌、腕、脚がしびれてきた。
次の数分間で、視界がぼやけ真っ暗になった。意識が遠のき歩道に倒れた。非血性・非胆汁性の嘔吐があり、意識を失った。体は震えていた。救急車が呼ばれた。
救急隊員到着時点で、GCS3点。発汗あり、呼吸は浅く、歯を食いしばっていて、失禁していた。バックバルブマスクによる人工呼吸開始。血圧53/27、脈拍90、モニターでは洞調律。生食ボーラス。3分経過して血圧60/28、脈拍118、自発呼吸再開、ノンリザーバーマスクに変更。
血糖73mg/dl、ナロキソン投与も症状改善なし。搬送中にGCS9点に回復。血圧は102/73→83/31と変動あり。脈拍90、呼吸数17-21。
症状が出てから30分後に救急部に到着。状態は迅速に回復し意識もかなり戻ってきた。腹痛あり(2点/10点)。何が起こったか覚えていない。頭痛、胸痛、同期、痙攣の前兆はない。シャワーを浴びるときに時々かゆくなるとのこと。

【既往歴】虫垂切除
【薬剤歴】なし
【アレルギー歴】なし
【家族歴】父親:心血管疾患、心筋梗塞で59歳で死亡 痙攣・癌の家族歴なし
【生活歴】アルコール、タバコ、違法薬物なし
生まれはルーマニア、6年前に渡米。年1回ルーマニアに帰省する。ルーマニアで野良犬との接触あり。6年前にインド、7年前に中国に旅行。

【身体診察】
見当識あり。血圧98/48、脈拍128、体温36.0℃、呼吸数16(自発)、SpO2 99%(酸素15l)→98%(r/a)
瞳孔径同じ、対光反射(+/+)
肺音清、心音異常なし、左側胸部に中程度の叩打痛あり。
グル音あり、心窩部と腹部右側に圧痛あり、自発的な腹壁防御がある。
皮膚は全体に発赤。温かく青白い発疹が頸、胸、腹部にある。
指趾は冷たく、浮腫や蕁麻疹はない。
GCSは15まで回復、神経学的所見異常なし。

モニターは洞性頻脈で期外収縮なし。血液検査を施行(下表)。
腹部エコーでは腹腔内の液体貯留は見られない。肝臓に低エコー領域あり。

到着後1時間で、震えと嘔吐が出現。生食とオンダンセトロン投与。胸部レントゲン正常。
次の1時間で、口唇と爪床のチアノーゼと手の浮腫が出現。再度血液検査を施行(下表)。
4時間で生食2l、血圧96/52、脈拍77、SpO2 99%(r/a)。




さて、あなたの診断は?


2015年1月12日月曜日

メタアナリシスにおける報告バイアス



BMJにメタアナリシスにおける報告バイアスについての記事がありました。

Meta-analysis: testing for reporting bias
BMJ 2015;350:g7857


メタアナリシスはエビデンスの王様みたいな扱いを受けていますよね。
でも、当たり前ですがメタアナリシスにもバイアスは入り込む余地があるわけです。

引用バイアス、言語バイアス、出版バイアス、タイムラグバイアスなどが例示されていました。
これらをまとめて報告バイアスというそうです。
(用語にはゆらぎがあるみたいですが、ここでは本文中での使い方に基づいています)


メタアナリシスにおける報告バイアスを検出する方法として
funnel plotEgger's testが紹介されていました。



これがfunnel plotです。

あるメタアナリシスの結果、オッズ比が0.61(0.45-0.82)でした。
ここで、メタアナリシスに用いた各RCTの結果をプロットしてみると
このような左右非対称性が現れました。

つまり、オッズ比が低いRCTをより多く選んできているということです。
報告バイアスの存在が疑われるプロット、ということになります。


それじゃあ、本当に左右非対称性があるのか。
これを調べるのがEgger's testです。
このメタアナリシスだと、P=0.11となり、有意差なしとなりました。

ただ、Egger's testはtypeⅡのエラーを起こしやすい
つまり、本当はあるものをないとしてしまいやすいらしく
Egger's testで有意差なしイコール報告バイアスなしとしてはいけないみたいです。
また、RCTが10個以上のメタアナリシスでないと使ってはいけないそうです。


funnel plotとEgger's testを初めて知ったので
このようにまとめてみました。
もし間違い、誤解などありましたら教えていただければ幸いです。


2015年1月11日日曜日

腰痛にオピオイドはどうか



BMJに腰痛に対するオピオイド処方についてのreviewがありました。

Opioids for low back pain
Richard A Deyo, Michael Von Korff, David Duhrkoop
BMJ 2015;350:g6380



オピオイド使いすぎじゃー!患者を選定して使用は短期間にとどめろー!
という旨のreviewでしたが
ご存知の通り、日本はオピオイド使用量が非常に少ないので
日本だともっと使ってもいいのでは、ということになりそうです。

以下の図は本論文からの引用ですが
こんなに差があるんですね。



というわけで、日本では処方量が全く異なるということを前提にreviewを読んでいきます。
非常にざっくりまとめますので、内容を正確に知りたい方は本文を読んでくださいね。


○急性の腰痛について

最も驚くべきことは、急性腰痛についてオピオイドとプラセボを比較したRCTは存在していないということです。
他の疼痛のエビデンスを外挿して、腰痛にもオピオイドがいいだろう、となっているみたいです。
NSAIDsなど他の薬剤と比べて優れているかも不明です。、

オピオイドで腰痛の回復や仕事復帰が早くなるかも分かっていないとのことです。
オピオイドの処方量が多く、服薬期間が長いと、仕事復帰までの期間が長くなるという研究があります。もっとも、これだけではオピオイドのせいなのか腰痛そのものが重篤なためなのか判断はできません。
イギリスでプライマリケアの文脈で行われた研究では、他の要因を調整しても、オピオイド投与群は日投与群より6カ月後の機能が悪かったそうです。NSAIDsだとこの現象は見られません。
また、オピオイドの投与は長期にわたることが多いのも問題だそうです。

何回も申し上げますが、日本はそもそもオピオイドの処方量が極端に少ないです。
外的妥当性をきちんと勘案して解釈する必要があります。


○慢性の腰痛について
RCTは行われているものの、4か月以上観察したものはなく、エビデンスは不足しています。
全てのRCTで、中断率が20%を超えています。副作用または不満足によるものだろう、とのことです。
短期間での疼痛緩和効果については認められているといっていいみたいです。
しかし機能面の向上については、はっきりしていません。


○オピオイドの副作用

やはり便秘や嘔気の副作用は多いみたいですね。



○じゃあどうしたらいいか

全ての腰痛患者にいえることですが、セルフケアが最も大事であり、可能な範囲内でしっかり体を動かすことが薬剤に頼るより重要です。
そのためには、医師患者関係をしっかり構築していくことが必要になります。
オピオイド長期投与のベネフィットとリスクは未解明です。なので短期目標と長期目標は明確に区別すべきです。

オピオイド長期投与を考える前に、NSAIDs、抗うつ薬、局所の痛みどめを試してみましょう。
オピオイドの副作用についてきちんと共有すべきです。
患者の薬物乱用歴について確認しましょう。
オピオイド投与は疼痛緩和を目標にして短期に行うのがいいでしょう。

それでも長期投与する場合は、最小限の量にとどめ、きちんとモニターしましょう。



以上、オピオイドの使い過ぎの警鐘を鳴らす内容でしたが
腰痛を「いま楽にしたい」ときには短期オピオイド投与は低リスクかつ有用である
ということでもありますね。
日本だと、もっと適切に使う余地があると思います。



2015年1月8日木曜日

複雑性悲嘆(NEJM Clinical Practice)



今週のNEJM Clinical Practiceは、複雑性悲嘆についてでした。
意訳多めでまとめてみます。

本文を読みたい方はこちら


Complicated Grief
M. Katherine Shear, M.D.
N Engl J Med 2015; 372:153-160

冒頭に提示されている症例です。

68歳女性。夫の死から4年間寝れない日が続いている。夫と一緒に寝ていたベッドで寝るのが耐えられないためリビングの長いすで寝ている。料理をすると夫を思い出すので毎食たべるのをやめた。冷凍庫には夫のために作った料理がまだ残っている。夫の死がいかに理不尽だったか考えることが多い。どうしてもっと早く病気に気が付かなかったか、夫の世話をしていた医療者と自分自身を責める。夫とかつて一緒にしていたことをいま一人で行うのはあまりに辛い。夫と一緒に死ねばよかったと考えてしまう。


ポイントは以下の通りです。

・死別直後は、相手の声が聞こえたり姿が見えたりなどといったseparation responseが現れることもある。
・普通なら死別の悲しみは波打ちながらも時と共に徐々に薄らいでいく。

・複雑性悲嘆は異常に重篤かつ長期間にわたる。生活機能が失われる。
・亡くなった相手を激しく思い焦がれ、心理的な痛みを抱く。思い出でいっぱいになり、死を受け入れられない。相手の居ない未来を意味のあるものと想像できない。

・世界の人口の約2-3%が影響を受ける。
60歳以上の女性に起こりやすい。
配偶者との死別で10-20%発症。子どもとの死別では発症率はもっと高い。
・突然の暴力的な死別(自殺、殺人、事故など)で生じやすい。

・PTSDと明確に区別すべきである。
希死念慮の割合が高い。十分に話を聴きだすこと。

・RCTで有効性が確立しているのは認知行動療法のみ。
・抗うつ薬の投与で、症状と治療完遂率が改善する。RCTのデータはない。


冒頭の症例について

この患者は複雑性悲嘆に陥っている。
質問紙を用いて悲嘆の特徴を聴取する。気分障害などの既往歴や酒・ドラッグの使用、自殺企図についても尋ねる。他の医学的問題についても留意する。
治療は認知行動療法である、RCTのデータは欠けるが薬物療法を併用しても良い。



どうして薬を飲まないの?



今週のNEJMにこんな記事がありました。

Beyond Belief — How People Feel about Taking Medications for Heart Disease


降圧薬やスタチンなど、心臓血管系のイベントを予防する薬はもく用いられますが
いくら医師が処方しても服薬してくれなかったら意味がないわけです。

この記事では
「どうして患者さんは薬を飲まないのか」
について、以下の要因があるのではと考察しています。

・リスク、副作用が怖い

・自然主義、薬は"natural"ではない

・ベネフィットが感じられない

・依存したくない、「薬漬け」になりたくない


どれも納得できる理由ではあります。


個人的には、糖尿病の患者さんで
「インスリンを始めたら一生続けなければいけない」
と強く主張する方が多い印象があります。

「眼鏡をかけたらもっと目が悪くなるから、かけはじめをなるべく遅くした方がいい」
とよく親が行っていたのですが
これも上記と同じような心の動きなのでしょう。

こういうの、非科学的だと切り捨てたところでなにも始まらないんですよね。


スタチン、βブロッカー、ACE阻害薬、ARBのアドヒアランスが36-49%に留まるのに対し
血液サラサラにするというイメージの湧きやすいクロピドグレルのアドヒアランスが70%なのも
頷けるところではあります。


でも、血液サラサラという表現も眉唾物ですよね。

通販や健康番組で一時期流行った
狭い隙間を赤血球が通り過ぎていく映像
あれ、なんだったんでしょうね。医学的な意味は皆無であると思いますが。

例えば、検査で脂質に異常値がないということを
「あなたの血液はサラサラです」と説明された方がいるとします。

その方に心房細動が判明して抗凝固療法を開始しようとなったときに
「血液をサラサラにする薬を飲みます」と説明したら
いったいどうなるのでしょうか?



医療者が抱く医薬品のイメージと患者さんのイメージって
かなり異なっているのだろうと思います。



2015年1月6日火曜日

46歳男性:腹痛と低血圧/60歳男性:慢性下痢と胃潰瘍(Mayo Residents' Clinic)



今月のMayo Clinic ProceedingsのResidents' Clinicはこの2つでした。

46-Year-Old Man With Abdominal Pain and Hypotension

60-Year-Old Man With Chronic Diarrhea and Peptic Ulcer Disease



1例目は、ヒスタミン中毒によるショックでした。
最初から食事摂取歴が提示されているので診断は簡単ですが
ヒスタミン中毒でショックが起こりうるとこが盲点になりそうだなと思いました。

皮疹+ショックできたらまずアナフィラキシーを思い浮かべるだろうし。

日々是よろずER診療のこの記事にも、アナフィラキシーと間違えやすいヒスタミン中毒の例について載っています。


~Clinical Pearl~
アドレナリンの反応が悪いアナフィラキシーをみたら、内服薬(βブロッカー)と食事(直前にサバやマグロを食べているか)を聴取する。



2例目はゾリンジャーエリソン症候群。
タイトルだけで診断も可能ですね。

Stool osmolar gapは、日本で測定しているところを見たことがないのですが
海外の文献だと非常に多用されている印象があります。

290 – 2 ([Na+] + [K+]) が50以下ならSecretory diarrhea, 100以上ならOsmolar diarrheaです。


最重要点がケースの最後に書いてありましたので、引用してパールにしたいと思います。

~Clinical Pearl~
Although chronic diarrhea is common, a methodical and thorough approach is important to not overlook rare but potentially serious, yet curable, conditions.


Laboratory-Developed Diagnostic TestsをFDAは規制すべきか



RSSを使って最新の論文情報をチェックするようにしているのですが
7時間ほど前に更新されたJAMAのOnline firstに面白い議論がありました。


Laboratory-Developed Diagnostic TestsをFDAは規制すべきか
(JAMA Online first Viewpoint January 05, 2015)


laboratory-developed testという用語を初めて知りました。
薬事法で未承認である検査のことを指すみたいです。

アメリカでは現在、LDTはFDAの認可なしに市場に上がり
自由に利用していいことになっています。

LDTは遺伝子検査の分野で使われることが多いみたいですね。
いわゆるオーダーメイド治療や遺伝子診断などでしょうか。

ちょっと前に話題になった
「血液検査で胎児のダウン症が分かる!」
ってやつを思い出しました。
あれもLDTの一種でしょう。


規制に賛成、反対の両方の立場で記事が出ています。

賛成→FDA Regulation of Laboratory-Developed Diagnostic Tests: Protect the Public, Advance the Science

偽陽性が多すぎるなど、このままでは医療者・患者の意思決定に悪影響、という論旨。


反対→Genetic Testing and FDA Regulation: Overregulation Threatens the Emergence of Genomic Medicine 

規制すると技術革新が停滞してしまうしアクセスも悪くなる、という論旨。


日本は制度の違いがありLDTの市場は小さいみたいです。
個人的には、ダウン症血液診断のときのてんてこ舞いぶりをみると
しっかりと規制を設けたうえで試験的導入から始めるのが良いと思います。



2015年1月3日土曜日

19歳女性:多臓器不全と紫斑(Mayo Residents' Clinic)



久しぶりに、Mayo Clinic ProceedingsのResidents' Clinicを読みました。


Googleのお気に入りバーに入れていたのですが、放置しておりました。
RSS readerの利用を決心したので、今後は月1回の更新をキャッチアップできるはず。

Residents' Clinicは、英文も平易で、内容も教科書レベルです。
扱う疾患も重要なものばかりなので、非常に学生向けです。
なにより無料で読めます。とっても気軽。

正直、NEJMのCaseは内容も表現も難しすぎますよね。
あの回りくどい英語表現はどうにかならないものでしょうか。



今回扱うのはこの記事です。

19-Year-Old Woman With Multiorgan Failure and Purpura
(December 2014 Volume 89, Issue 12, Pages 1718–1721)

患者は19歳女性。

昨夜からの疲労、気分不良、発熱、嘔気、嘔吐で救急来院。
点滴と制吐剤で帰宅したが、症状良くならず翌日も来院。
熱は38.5℃、検査でNa 132mmol/l、K 2.8mmol/l。様子見で入院。
ところが急激に状態悪化。血圧低下と無尿出現。酸素も必要に。
1時間のうちに、両下腿に発疹が出現。
ICUで挿管+昇圧剤投与。
体幹と四肢にわたるびまん性の斑状丘疹性紫斑あり、数時間のうちに壊死が進んだ。
意識は傾眠状態、巣症状なし。


インフルエンザかな~と思っていたらあっという間に最悪の展開に。
自分が担当医だったらと思うと冷や汗ものです。

診断は髄膜炎菌感染による電撃性紫斑病でいいですね。
臨床症状はTTPと似ていますが、TTPの皮疹が壊死することは絶対にないそうです(
it (= TTP) never leads to skin necrosis.)。

敗血症性ショックにDICも起こしているとのこと。
すぐに血培とって輸液と抗菌薬です。
腰椎穿刺もしなくては。一刻を争うので抗菌薬投与後すぐでも良いと思います。
Early goal-directed therapy(EGDT)に則って、と本文中に書いてあります。
Surviving Sepsis Campaignで有名になったやつですね。敗血症には大量輸液です。




EARLの医学ノートより引用)



ステロイドは、肺炎球菌髄膜炎には有用ですが髄膜炎菌髄膜炎には意味がないそうです。
初めて知りました。
壊死した皮膚組織はデブリが必要です。


電撃性紫斑病は髄膜炎菌血症の15-25%で起こり、死亡率50%です。
この場合、抗菌薬投与が1時間遅れるごとに死亡率が7.6%ずつ上昇していきます。恐ろしい。
濃厚接触者の予防投与(リファンピシンなど)もしっかりと。

電撃性紫斑病はプロテインC/S欠損症や他の感染症でも起こります。
原因の如何によらず、皮膚所見は急速に進行していきます。


~Clinical Pearl~

急激に進行する発熱と意識障害をみたら、皮疹にも注意する。継時的に!