2021年11月26日金曜日

個人情報の項目への無回答を「プライバシーに関する心配」と読みかえる


Rubanovich CK, Zisook S, Bloss CS. Associations Between Privacy-Related Constructs and Depression and Suicide Risk in Health Care Professionals, Trainees, and Students. Acad Med. 2021 Nov 16. doi: 10.1097/ACM.0000000000004513. Epub ahead of print. PMID: 34789664.

https://journals.lww.com/academicmedicine/Abstract/9000/Associations_Between_Privacy_Related_Constructs.96462.aspx


医療者・学生のメンタルヘルスは、およそどの国においても重要な関心事です。

この研究が行われたカリフォルニア大学サンディエゴ校では,医療者や学生にうつ病や自殺のリスクをスクリーニングしているようです。


スクリーニングにおいて、様々な個人情報を回答してもらうことになるのですが、この研究は、年齢、性別、民族・人種、職位といった個人情報を回答しないという事象に焦点を当てています。うつや自殺についての質問でこのような個人情報の項目を回答しないのは、プライバシーを気にしているからではないかと考えているのです。


この研究は、医療者や学生のメンタルヘルスについて、プライマシーを気にする(だから個人情報に回答しない)ことと、うつや自殺のリスクとの関連をみています。


対象となった回答者は1,224名です。42%(524/1,224)が中程度以上のうつを報告しているので、大変に深刻な値だと思います。


回答者の5人に1人(248人/1,224人)が、メンタルヘルスサービスを求めることに対するスティグマを心配していると回答しています。

そして、17%(212人/1,224人)が、少なくとも1つの個人情報に関する質問を省略していました。


そして、そのようなプライバシーに関する心配は、最近のうつおよび自殺念慮・行動(OR:3.13-7.02、95%CI:2.23-19.20)、これまでの自殺企図(OR:1.76、95%CI:1.08-2.86)と正の相関がみられました。

また、プライバシーに関わる行動は、自殺行為と正の相関がありました(OR =:2.23; 95% CI: 1.24 - 4.02)。


著者たちは、プライバシー関連の構成要素を考慮することは、苦痛を経験している医療や学生を特定し、差し迫ったメンタルヘルスの問題に対処する際に有用であると主張しています。


統計では、無回答の扱いはとても大変です。

この研究は、無回答であることに意義を持たせ、積極的に解釈しようとしているのが優れた着眼点であるように思いました。



2021年11月21日日曜日

血圧を下げるのは大変

Rogers EA, Abi H, Linzer M, Eton DT. Treatment Burden in People with Hypertension is Correlated with Patient Experience with Self-Management. J Am Board Fam Med. 2021 Nov-Dec;34(6):1243-1245. doi: 10.3122/jabfm.2021.06.210191. PMID: 34772780.

https://www.jabfm.org/content/34/6/1243


家庭医として、高血圧患者を診療する機会は当然ながらたくさんあります。

最近の診療ガイドラインは、厳格な降圧を推奨している印象があり、実際にこれをすべての患者でやると大変だなという感覚がありました。

大変、というのは、「医師が大変」という意味ではなく、「患者が大変」ということです。


私のマインドラインはおそらくこんな感じです。

・比較的若年でsingle issueであれば降圧は厳格に。

・高齢でも元気に診療所まで歩いてやってくる方は、現行の治療で厳密な降圧が出来ているならそのままで。

・multimorbidityであったりfrailであったりすれば無理しない。

・ただ、高血圧によると思われる心不全がある場合には気合を入れてコントロール。

・ADLの低下した患者では、例外を除き血圧高値を許容する。

・患者にとって血圧管理の優先度が低ければ、血圧の値はいちいちうるさく言わない。


さて、本研究では、たくさん薬を飲んだり生活を改善したりしないといけない高血圧患者に対し、治療負荷treatment burdenと患者の自己管理との関係性が検討されています。


高血圧患者254名を対象としたところ、「自己管理能力に対する自信がない」、「ヘルスリテラシーが低い」、「経済的に困難である」、「対人スキルの低い医療従事者にかかっている」と回答した患者で、治療負担のスコアが高いことが分かりました。


治療負荷が高くなると、「できるひとはできるけどできないひとはしない」になっていき、格差につながる危険性があると筆者たちは主張しています。


2021年11月17日水曜日

最近の診療を振り返る家庭医的クリニカルパール


最近の自分の診療を振り返る一環として、クリニカルパールを作成しました。

家庭医セッティングでの診断推論は、独自の面白さと課題があると思っています。



 ・手関節周囲に局所的な圧痛点のない手関節橈側の疼痛は、上腕骨外側上顆炎を疑う

いわゆるテニス肘ですが、肘の痛みではなく、手関節周囲の痛みの訴えが前面に出ることがあります。

外側上顆をさわると明確に疼痛が惹起されますが、自発痛でないためか患者本人が気づかないことが多いと思われます。


テニスをしていない中年~高齢患者でも発症することがあります。

最近出会った患者は、右下肢に障害がある方で、ベッドから起き上がる時に左手でベッド柵をもって体重をかける動作をしていたことが原因でした。

以前には、脱サラして蕎麦屋を始めた方で、こねる動作(まだまだ不慣れで余計な力が入っていたのでしょう)で発症していた方がいました。



・ADLの低下した高齢者の、繰り返す「ちょっと動いた後ふらついて転倒、その後しばらく動けない」は、COPDかもしれない


ADLが低下している患者では、呼吸困難を呈するほどの労作をしないため、心不全やCOPDの診断遅延が起こることがあります。

安静時の酸素飽和度が正常だと、定期診察のルーチンでは見落とされることがあります。

なので、例えばトイレまで自分で歩いていこうとしたときに、労作による低酸素血症を来し、ふらついて転倒、その後、低酸素血症が自然と改善するまでその場から動けない、という形で、COPDの症状が発現することがあります。

今は喫煙していなくても、実は昔はヘビースモーカーだった、ということもあります。


繰り返す転倒の原因として真っ先に思いつくのは、薬剤性、低血圧、神経変性疾患、筋力低下、筋骨格疾患などですが、「普段そこまで動かない高齢者がちょっと動いた後に転倒ししばらくその場から立ち上がれない」で労作性の低酸素血症を疑うという思考は持っておくべきだと思いました。



・高齢者のステロイド吸入に十分に反応しない「(咳)喘息」は、咽頭結核/気管支結核を考慮する。画像検査が正常であっても結核は除外できない。


慢性咳嗽患者全員に喀痰抗酸菌培養はしないよなと思いつつ、リスクが高いケース、吸入ステロイドに反応しないケースでは、漫然とステロイドを継続する前に結核やアスペルギルスなどの感染症疾患を除外する必要があるなと最近痛感しました。

気管支結核や咽頭結核は、X線検査で異常が出ないので、どこかのタイミングで「結核を調べなきゃ」と思わないと診断できず、その間、患者は結核菌を放出しつづけます。

日本は結核蔓延国ですし、高齢者の慢性咳嗽という時点でひっかけてもいいのかもしれません。


2021年11月14日日曜日

患者の感情に対応すると診療時間が短くなる

Beach MC, Park J, Han D, Evans C, Moore RD, Saha S. Clinician Response to Patient Emotion: Impact on Subsequent Communication and Visit Length. Ann Fam Med. 2021 Nov-Dec;19(6):515-520. doi: 10.1370/afm.2740. PMID: 34750126.

https://www.annfammed.org/content/19/6/515?rss=1

患者の感情を診療中に対応することで、診療時間が短くなるかどうかを調べた研究です。
研究の目の付け所が良いですよね。


41人の医師が計342人の患者を診療している際の音声を録音し,特定の既知のコードを用いて患者の感情表現をタイムスタンプで記録し,臨床医の反応を分類しています。そして、臨床医の反応と、感情表現のタイミングなどと、その後の診察時間との関連を、random-intercept multilevel-regression modelで解析しています。
大学院の疫学系の授業でこの解析方法は(ざっと)習いましたが、このリサーチテーマでこの手法を使うんだと驚きました。言われてみれば納得です。

結果としては、医師が患者の感情を明示的に扱うと、診療時間が短くなる、というものでした。しかし、診療時間の平均が30.4分であり,多くの日本の医療機関にとっては実情にそぐわないものと思います。

その点を差し引いても、患者の感情を明示的に扱っても診療時間は長くならない(むしろ短くなる)というのは、押さえておくべきポイントだと思います。


2021年11月10日水曜日

Advance Care Planningについての我流レクチャー資料


Advance Care Planningについて研修医や専攻医に話をすることが多いので、
自分なりのレクチャー資料をまとめました。

あらかじめ申し上げておくと、この資料は何らかの答えを示すものではありません。
実際のレクチャーは対話形式で行います。
レクチャー後はみなさんもやもやしています。そのもやもやが大事だと思っています。

やや過激に思える表現があるかもしれません。
議論を刺激するために、あえて極端に思える意見を呈示することがあります。


事前課題①
厚生労働省の資料(木澤義之先生)に目を通してください
(ページ数多いですが、とても読みやすいです)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000173561.pdf

事前課題②
家庭医療専攻医は、NHSの診療ガイドラインに目を通してください
https://www.stlukes-hospice.org.uk/wp-content/uploads/2017/06/ACP-Guide-for-Health-and-Social-Care-Staff-.pdf
英語の勉強をしたい方以外は、DeepL翻訳を使っていいので読んでください。

家庭医療専攻医は、①②を読まずにACP(の真似事)をしてはいけません。


【ここからレクチャー開始】

まず用語の定義をしましょう(Am Fam Physician 1999 Feb 1; 59(3): 613-4.)

Advance care planningとは,患者が医師と,人生の最期に受ける治療内容についての希望を話し合うことを指します.
何をしてほしいか,してほしくないかを話し合う、一つの方法です.

そのなかで、患者は、何らかの理由で意思表示ができなくなった時にどうしてほしいかを医師に伝えることができます.
この希望を書面に記せば,それはadvance directiveとなります。

Advance directiveでは,具体的に何をしてほしいか(死期が迫った時にCPRをしてほしい/ほしくないなど)を示す以外に,自分が意思疎通できなくなった時に代わりに意思決定をする人を指名することができます.
これをdurable power of attorney for health careといいます。


ACPは「医療従事者と患者との話し合い」を指す概念であり,多くの文献で「プロセス」であることが強調されています.
ACPを経て,誰にでもわかる形で文書に残されたものがadvance directiveです.

患者がかかりつけ医とACPを行って、一定の結論に達していたが,急変時に別の医療機関に運ばれて、ACPの内容が活かされない,というのは当然起こりうる話です.(Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 281-3.)



疑問1.どんな人がACPの対象なのか?

健康成人に対するACPは効果が不確かであり、害も多いです(事前課題①参照)

私なら、「ACPについて知ってもらう」ことを目的に,恒例の患者で、ライフイベントなどのタイミングで声掛けをすることがあります。それまでの患者医療者関係やその場の不陰気に強く依存します。
「正月にはお子さん帰ってきますか?」「いまはお元気ですけど,大きな病気になったらどうしてほしいか,家族で話をしたことありますか?」などと声をかけると、人によってはいろいろ話してくれます.決して無理はしないこと。


疑問2.事前に患者の意志を確認していても、いざその時に反映できないのでは意味がないのでは?

単にAdvance directiveをとるだけでは,有効に機能しないことが多いです(事前課題①参照)
・そもそも将来を予想することが困難です。患者だけでなく医師も。
・決断なんて時と共に変わるものです。
・家族が知らない、いざというときにその場にいる医療者が知らない、ということがあります。

繰り返しますが、ACPはプロセスです。
そもそも自分なら,自分の大切な人なら,そんなに簡単に決められるものなのか、という(当たり前の)感情を大事にしてください。


疑問3.ACPって「心肺蘇生しません」と言わせるためのものなの?

完全に私論なのですが,ACPは「いかなる人でも個人として尊重されている」という前提条件が必要です.そして日本では必ずしもこの前提条件は満たされていません.

「ICUに入ってもすぐに死ぬ高齢者,医療費もったいない」という議論は,「障害者に対する医療なんかもったいない」「貧困者にかける医療費などない」という議論と本質的に同値です。

例えば、「癌になったら治療しないでください」という患者の自由意志は
「子どもに残すお金がなくなってしまう.余裕があるのなら治療を受けたいけど」
かもしれません.それは自由意志とはいいません。

なので,ACPを行う(行おうとする)医療者は、人権に敏感になる必要があります.

ACPをしようと思うあなたは、優生保護法を知っているでしょうか?
昔のらい予防法を知っているでしょうか?

あなたは誰のためにACPをするのでしょうか。
あなたが患者と行うACPは、本当に患者の人権を守るために行われていますか。


疑問4. じゃあ具体的にどのように進めればいいのか?

まずは、全例ルーチンに行わなくてはいけないという思い込みを捨ててください。
患者の生死にかかわる事柄は、そもそも機械的に扱うことができる話題ではないです。
その中で、一定のガイダンスは存在します。

家庭医療学のこの3つの文献が有用だと思います。
3. Am Fam Physician 1999 Feb 1; 59(3): 605-12.
4. Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 278-80.
5. Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 281-3.

文献3はやや古いですが,家庭医によるACPの理想が書かれています.

Ultimately, advance care planning is designed to clarify the patient’s questions, fears and values, and thus improve the patient’s well-being by reducing the frequency and magnitude of overtreatment and undertreatment as defined by the patient.
という一文に,いろんなエッセンスが凝縮されています.名文ですね。

実際にはこの理想通りにはいかないことが分かったので,文献4,5が出てきました.


文献4では、ACPとはiterative(反復する)かつintegrative(統合的)なプロセスである、とあります。

Iterative:病気の進行に伴って繰り返し議論することで,患者は「弱り行く自分」を受け入れるようになります.
何回もACPを話題にすると患者を不安にしてしまわないかと思うけど,実際はそうではないことが研究で示唆されています。

Integrative:疾病の予測される経過を患者や家族が理解することで,目標や意志の決定ができるようになると書かれています。


文献5では、具体的な対話ガイドである、Serious Illness Conversation Guideが紹介されています。

1. セットアップ
「あなたの病気がこれからどうなるかについて話しあい、あなたが望むケアを提供できるように、あなたにとって何が重要かを事前に考えたいのですが、よろしいですか?"

2. 患者の理解と志向の評価
「あなたは今、自分の病気の状態をどのように理解していますか?」
「あなたの病気の先にありそうなことについて、私からどのくらいの情報を得たいですか?」

3. 予後の共有
「あなたの病気の状況について、私の理解をあなたと共有したいと思います.」
「あなたの病気で何が起こるかを予測するのは難しいかもしれません。私は、あなたが長く元気に暮らし続けることを願っていますが、あなたがすぐに病気になってしまうのではないかと心配しており、その可能性に備えることが重要だと考えています。」
「そうでなければよいのですが、残された時間が○○(数日~数週間、数週間~数ヶ月、数ヶ月~1年などの範囲を表現)くらいではないかと私は心配しています。」
※この際、沈黙を許容することで、患者の感情を探ります。

4. キーとなるトピックを探る
「健康状態が悪化した場合、あなたにとって最も重要な目標は何ですか?」
「病気のこらからについて考えるとき、あなたに力を与えてくれるものは何ですか?」
「もし病気になったら、残された時間が増える可能性のために、どれだけのことをしてもいいと思いますか?」
「あなたの家族は、あなたの優先事項や希望についてどの程度知っていますか?」

5. クロージング
「あなたは自分にとって○○がとても大切だとおっしゃっていましたね。そのことを念頭に置きながら、あなたの病気について知っていることを考慮して、私は○○することをお勧めします。これは、あなたの治療計画が、あなたにとって重要なことを反映していることを確認するのに役立ちます。」

6. 会話の記録する
7. 鍵となる他の医療者とコミュニケーションを図る


事後課題
1-3のうち、どれか一つを選んで考えてください。

1.あなたはSNSで、「高齢者が救急搬送されたときに無駄な医療費を使わないためにACPが大事」「かかりつけ医がACPしてないから病院の医者が大変なんだ」という意見がタイムラインに流れてきたのをみました。この意見に対するあなたの考えを述べてください。

2. 元アナウンサーで元国政候補者である某氏が、自分のブログに「透析患者は自己責任だ、全額自己負担にせよ、払えないなら…」という記事を載せているのをあなたは目にしました。「●●(任意の疾患)の患者は自己責任だ」という言説について、どうしてそのような言説が発生すると考えられるのか、またそのような言説が医療現場に与える影響として何が考えられるのか、あなたの意見を述べてください。

3. あなたは80歳です。膝が痛かったり血圧が高かったりしますが、日課の散歩や友人との談笑を楽しんで日々暮らしています。そんなあなたはある日、いつも通っている診療所で、自分の孫くらいの年齢の医師から「〇〇さんももう年なんだから、自分が倒れた時のことを考えておかなきゃ。」と言われました。あなたならどう感じると思いますか?あなたなら話し合いを望みますか?望むなら、どのような話し合いを望みますか?


2021年11月3日水曜日

珍しいがんの早期診断のために、非特異的症状での紹介ルートを!


Chapman D, Poirier V, Fitzgerald K, Nicholson BD, Hamilton W; Accelerate Coordinate Evaluate Multidisciplinary Diagnostic Centre projects. Non-specific symptoms-based pathways for diagnosing less common cancers in primary care: a service evaluation. Br J Gen Pract. 2021 Jun 4:BJGP.2020.1108. doi: 10.3399/BJGP.2020.1108. Epub ahead of print. PMID: 34097639; PMCID: PMC8463131.

https://bjgp.org/content/71/712/e846.short?rss=1


プライマリケア領域でのがんの診断は、重要な実践・研究課題の1つです。


最近ですと以下の論文が出ています。どれも重要なテーマを扱っています。

【大腸がん】

J Gen Intern Med. 2021 Apr;36(4):952-960. PMID: 33474640

J Am Board Fam Med. 2021 Jan-Feb;34(1):61-69.  PMID: 33452083.

J Gen Intern Med. 2021 May 28:1–8. PMID: 34047921

Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e843-e851. PMID: 33139332

【肺がん】

Br J Gen Pract. 2021 Mar 26;71(705):e280-e286.  PMID: 33318087

Br J Gen Pract. 2021 Apr 16:BJGP.2020.1099.  PMID: 33875450


今回紹介する論文では、「uncommonな悪性腫瘍」を扱っています。

uncommonといえども、数が多いので全部合わせると悪性腫瘍診断の約半数を占めます。

uncommonな悪性腫瘍は、非特異的かつ複雑な症状を呈するので、プライマリケアでなかなか診断できず、結果的に病状の進行を招いてしまう危険性があることが分かっています。


そこで、英国では、Multidisciplinary Diagnostic Centre (MDC)という、非特異的症状であってもGPが高次医療機関に紹介できる紹介経路を構築しています。

この論文はMDCのパイロット研究です。


2016年12月から2019年3月まで、英国の5つのMDCにおけるパイロットプロジェクトのサービス評価を行いました。

すると、5134件の紹介から378件の悪性腫瘍が診断され、そのうち218件(58%)がuncommonな悪性腫瘍であったことがわかりました。

症状は、「体重減少」「医師が診て何となくおかしい」「食思不振」などの非特異的な症状が多くを占めていました。これでは症状だけで悪性腫瘍の種類を絞ることはできません。

これらの患者の23%(n=50)は、紹介前に3回以上GPに相談していました、

GPからの緊急紹介から治療までの期間は中央値で57日でした。


まとめると、uncommonな悪性腫瘍は非特異的な症状でGPのもとにやってくるため、早期診断のためには非特異的な症状でも紹介できるルートが必要である、ということですね。


日本の文脈におきかえると、診療所家庭医と、病院総合診療医/病院家庭医との連携をより強固なものにすることが解決の道筋でしょうか。

診療所で勤務していると「最近食べられなくて体重が減っているんです。何かおかしいと思うので精査してください」という病院への紹介はかなりハードルが高いです。

総合診療医/家庭医がいない病院では、「どの科に紹介ですか?」と言われてしまいます。それが分からないから相談しているのに。

これが、プライマリケアの状況をよく知っている病院総合診療医/病院家庭医がいると、途端にスムーズに連携が進みます。

決してがん診断に限った話ではないのですが、病院総合診療医/病院家庭医の役割の重要性を傍証する論文だと私は思いました。