Seligman L, Abdullahi A, Teherani A, Hauer KE. From Grading to Assessment for Learning: A Qualitative Study of Student Perceptions Surrounding Elimination of Core Clerkship Grades and Enhanced Formative Feedback. Teach Learn Med 2020 Nov 24 https://doi.org/10.1080/10401334.2020.1847654
問題点:医学生は、コア・クラークシップ中の優等生評定(honors grading)を不公平かつ不公正なものと認識しており、学習とウェルビーイングに悪影響を与えている。強力な外的動機付けである優等生評定を廃止し、形成的フィードバックを重視することで、このような問題に対処し、内部動機付けと学習を促進することができるかもしれない。しかし、コア・クラークシップの年に優等生評定から合否判定に移行し、形成的フィードバックを強化することが、学生の学習経験、ウェルビーイング、学習環境の認識にどのような影響を与えるかは不明である。
介入:米国のある医学部で、コア・クラークシップの成績評価を優秀/合格/不合格から合格/不合格に変更した。さらに、学生が指導教員から形成的フィードバックを週2回得られるようにした。
コンテキスト:この質的研究では、コア・クラークシップ中の学生の学習と評価についての認識を探るために、半構造化インタビューを用いた。インタビューの質問では、モチベーション、ウェルビーイング、学習行動、チームダイナミクス、フィードバック、評価の変更に関する学生と指導者の態度などが取り上げられた。著者らは、動機づけ理論(目標志向理論と自己決定理論)に関連した感受概念を参照してテーマ分析を用いることで帰納的にデータを分析した。
インパクト:18名の学生が参加し、そのうち5名は優等生評定と合否評定のクラークシップ双方の経験を持つ学生であった。著者らは、評価へのアプローチの変化について学生が述べる中で、3つの主要なテーマを特定した:学生のクラークシップへの関与、ウェルビーイング、学習コンテキストの認識。
学生の関与のサブテーマには、パフォーマンスではなく患者ケアに対する内的動機づけ、学習に対する主体性の感覚(学習の優先順位を設定する能力、フィードバックを求めたり受け取ったりする能力、学習のリスクを受ける能力、指導医と違う意見を具申する能力を含む)、同僚やチームメンバーとの協働関係が示された。
ポジティブウェルビーイングは、ストレスの少なさ、チームメンバーとの信頼感、身体的健康の優先、個人生活への配慮などが特徴であった。
学習コンテキストのサブテーマには、合否判定によるクラークシップはコンテキストが多様であることで公平性と公正性への懸念が緩和されることの認識、研修医や一部の医局員からの成績評価の変更への支持、将来のストレスと研修選択を取り巻く意味合いが含まれていた。
教訓:学生は、優等評価からフィードバックの増加を伴う合否評価への移行を、学習への関与、内的動機付け、ウェルビーイングをサポートするものであると認識している。ウェルビーイングを促進する要因として学生のコントロール感があるが、これは学生が他者に好印象を与えることに集中する必要がなく、学習の機会、指導、建設的なフィードバックを求めることができることによって達成された。このようなアセスメントの変化の重要性については、継続的な評価が必要である。
用語確認:感受概念sensitizing concept
シンボリック相互作用論の方法論の概念である。H・ブルーマーによると、『感受概念(sensitizing concept)』とは、経験的な事例にアプローチする際に、どこを参照するとか、どのように接近するかというような概括的な意味を与えるものである。ブルーマーは、このような感受概念を『定義的な概念(definitive concept)』の対極に置いた。定義的な概念とは、属性もしくは固定された基準尺度に関する定義によって、対象の類に共通する性質を精密に指示するものである。定義的な概念が、何を見るかについての指示を与えるのに対して、感受概念は、単にどの方向で見るかを示唆するにすぎない。感受概念とは、個々の経験的な特性を捨て去ってしまうのではなく、それに取り組まなくてはならない必要性から要求されるものである。それは主に、量的データの分析よりも、日記、手記、手紙、記録などの質的データを使用し参与観察法をもちいる。
https://kitiko.hatenadiary.org/entry/20051208
感想:クラークシップを,成績優秀者を表彰する評価から,評価は合否判定のみにして形成的フィードバックを主体にするように変更したことで,①学生が主体的に関与するようになった,②過度に評価の目を気にしなくて済むのでウェルビーイングが向上した,③学生が公正だと感じるような環境になったことを示した論文.実践を論文に落とし込むという意味で非常に参考になるいい論文だと思う。本文のMethodで,どのように質的研究を行ったかの描写も非常に具体的でわかりやすい.テーマもいちいち納得できるし、すぐに応用、実践可能である。こんな論文を書きたい。