2016年12月28日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 4)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

前回記事「能力を評価する」の続きです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



 患者に何かを強制せざるを得ない事態は私たちの宿命であるが,これは法的なジレンマを想起させる.治療拒否の意思決定能力を有していない患者に必要な治療を提供しなかった過失責任で訴えられることもあるだろうし,同様に意思決定能力が欠如していると誤判断し患者の意向を無視したばかりに訴えられることだってありうる.Bagleyは,裁判所が後知恵で批判する後医としてふるまうことは「非常に考えにくい」と強調しているが,それでも「法的リスクが完全に排除できないことで医師は躊躇してしまうだろう」と述べている.

 さらに悪いことに,患者が意思決定能力を有しているかはっきりしないのはよくあることである.私はよく,患者に復唱させて万事足れりとしてしまう.例えばこんな感じだ.「カリウムがこんなに高い状態で帰宅したら死んでしまうかもしれないですよ,わかってますか.」もし患者が「死んでも構わない」と言ったら,その会話をカルテに書いて,こう自分を納得させる.「ほかに何ができるって?」だが実際は,できることはたくさんある.

 MacArthurテストは4つの基準を評価するものであり,意思決定能力を測定するツールとして最も広く使われている.以下の4つを達成すれば意思決定能力があると評価される.①選択肢を伝えることができる,②関連情報を理解できる,③自分の状況とその結果を実感していると示すことができる,④治療選択を論理的に考えることができる.「理解」が関連する医学的事実をつなぎ合わせる能力を反映するのとは違い,「実感」はそれらの事実が自分に関係しているという感覚を必要とする.自分の腎機能が衰えていなくても,腎不全が致死的な高カリウム血症を招きうると「理解」することは可能である.

 より良質な意思決定能力評価のトレーニングが必要なのは明らかだが,どんなにトレーニングをしても,法律と倫理の分断に橋をかけるのは不可能だとも思う.意思決定を担い患者の考えを大事にするよう倫理的に託されているのだという考えが優勢になるにつれ,法的基準に則り患者の望みを無視することを正当化することはまずます下火になっていく.法律的には,消化管出血の治療を受けたばかりのしっかりした女性が娘の結婚式に出るために下部消化管内視鏡を拒否することは,妄想症の女性が前処置に蛇が含まれていると信じ込んでいることとは区別されるだろう.しかし,私たち医師は,パターナリズムを発揮しようとすればするほど,尊重されるべき意思と無視すべき不合理な決断を区別できなくなっていくのではないだろうか.


2016年12月21日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 3)


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



能力を評価する

 D氏は胸痛発症後ERに運びこまれ,Levineはその知らせを朝早くにすぐ受け取った.Levineは循環器科医として診察をしたうえで冠動脈造影をすすめたがD氏は拒否した.そこでLevineは治療チームに,患者には処置の同意を行うことができる国選弁護人の後見人がいるし,もし後見人に連絡がつかない場合は倫理委員会のコンサルトが必要になると伝えた.「患者は拒否するだけの意思決定能力がない」とLevineは私に言った.

 Levineは治療チームに一日中何回も電話をかけては進捗を聞いたが,後見人には午後2時に連絡がついたもののすぐに途切れ,ついぞ晩まで折り返しもなかった.治療の遅れは,処置に見合う利益が担保できなくなるということであり,D氏の意向を無視することを正当化できなくなるということである.しかし,利益が明らかで,見返りが大きく,患者の決定能力が欠如していて,ルールがすっきりしている典型例の場合は,暗黙の了解のもとに医師は患者の意向を無視すべきである.ということは,目の前の患者に意思決定能力があるかどうかを決断する際に,バイアスになりうるものが入り込む余地があるということだ.

 ミシガン大学の保健衛生法教授であるNicholas Bagleyが説明するように,意思決定能力の有無は,規則(赤信号では止まりなさい)ではなく基準(安全じゃないと思ったら止まりなさい)により評価される.だから私たちはこの評価を上手にすることができないのである.ある研究によると,入院患者302人のうち,治療について同意する能力が欠如している割合は40%であるのに,治療チームは25%程度であると過少に認識していた.「自分の基準を明確にせずに,患者の意思決定能力の欠如を云々するなんてとんでもない」とBagleyは語っている.

 私たち医師が患者の意思決定能力を誤って評価してしまう理由の一つは時間だ.適切な評価を行うのに20分もかけていられないことはざらにあるし,患者の意向を無視する長々とした手続きを踏むより,患者には治療拒否の意思決定能力があるとみなす方がずっと時間を短縮できる.しかし,患者の意向を無視して処置を行うことは,時間以上のものを消費してしまう.私たち自身をすり減らすのである.血色の良い精神病患者を鎮静抑制し望まない治療を無理やり行うのは,いくら医学的必要があるからとはいえ残忍さが残ることは避けられない.


2016年12月7日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 2)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


医師のバイアス

 私たち医師の対応が精神疾患患者の健康に与える影響についてのデータは限られているが,その中でも比較的研究が進んでいる現象として,diagnostic overshadowingが挙げられる.精神疾患の診断名という影が患者の訴えを尽く影で覆ってしまい,様々な身体症状の原因を精神疾患に帰してしまうことを指す.例えば,急性の疼痛を訴える患者の既往にうつや身体症状がある医師が気付くと,重篤な病気をあまり疑わなくなり,追加検査をあまりしなくなることを示した研究がある.

 解釈バイアスと関連情報とは,はっきりと区別できるものだろう.例えば,胸痛患者が急性冠症候群かどうかを判断する時に,うつの既往があってもその可能性が低くなるとは考えないが,長期にわたる身体症状の既往があれば可能性を下げることができるだろう.良くも悪くも臨床判断はつまるところ審理である.

 バイアスについて研究する別のアプローチとしては,精神疾患のある患者とない患者でガイドライン推奨の治療を行っている割合が異なるかを調べるという方法がある.そしてそれはどうやら異なるようである.がんスクリーニングや待機手術,血圧管理など様々な治療において乖離があることを種々の研究が示唆している.患者の好みやフォローアップ中断がその一因ではあるだろうが,それだけがすべてではないだろう.

 それだけにとどまらない.急性心筋梗塞での冠動脈造影や血管再開通療法といった,緊急時の一回こっきりのイベントであっても,その割合には格差がある.ここまでいってもなお,バイアスが原因であるとは言い切れない.重度精神疾患,とくに妄想症の患者は,医療にかかろうとするのが遅くなり,結果として早期に再開通をしていたら良かったということが起こるかもしれない.さらに言えば,抗凝固薬併用療法を遵守できそうにない患者に積極的にステント留置をする医者はいないだろう.くわえて,D氏のように,治療をすすめても拒否されることもあるだろう.問われるべきことは,患者が必要な治療を拒否するのを医師が受け入れる,それだけでバイアスが説明できるかどうかということだ.


2016年11月30日水曜日

Dermacase from CFP 2012-前半



だいぶ前に,Canadian Family Physicianが以前連載していた
皮膚科のsnap diagnosisまとめ(Dermacase)をブログにしました.

久しぶりにその続きをまとめました.
今回は2012年の掲載記事を前半,後半に分けてお送りします.

CFP dermacaseシリーズの原文はこちらから.

以前の記事→CFP dermacase 2013-前半後半













2016年11月23日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 1)



最近のブログはもっぱらUnderserved populationについて
海外のarticleを翻訳して発信する,という内容になっています.


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


 Gail LevineはBoston's Brigham and Women's Hospitalの内科医であり,重度精神疾患の患者を熱心に診る医者である.初めて彼女と話した時に言われたことは,今でも心にぐさりと来る.当時,彼女は50歳代中頃の妄想型統合失調症の男性患者を受け持っており,私もその患者の治療にあたっていた.D氏は広範囲の心筋梗塞を発症し,少し前に入院となったのだが,血管再開通療法を拒否していた.全身状態はしばらく落ち着いていたのだが,ある日,呼吸困難を呈した.初期のタンポナーゼによる血行動態の破綻が見られた.D氏はからだに針を立てててほしくないとこれまで繰り返し主張していたので,心嚢穿刺を拒否するのではと心配していたが,Levineから電話がかかってきたのでほっと胸をなでおろした.

 私がこれまで重度精神疾患患者と交渉してきたその実績はあまり芳しいものではない.ついこの前,有症状の重度僧房弁閉鎖不全症がある比較的若年の統合失調症患者を担当していた時の話だ.手術適応例として申し分なかったが,私はその患者に血液検査すらさせてもらえなかった.手術なんてとんでもない.患者はいつもベッドに腰かけ,少し体を揺らしながら髪をとかしていた.質問しても答えることはなく,本当に気が向いた時しか検査に応じなかった.私はすぐに説得をあきらめてしまった.彼女ならではの理由があるはずだが,それを理解しようともしなかった.その代わり,患者に意思決定能力が欠落していることは明白だったため,裁判所任命の後見人を数か月かけてたてる手続きを始めることにした.これまで十分に苦しみぬいてきた患者の精神をさらにずたずたにしてもなお,我々は患者の心臓を救うべきなのか.私に課された決断は非常に困難なものだった.

D氏に関しては,そのような難しい決定を誰かに押し付ける時間的余裕はなかった.もしタンポナーゼに陥ったら,それが最期となってしまう.私はそんな結末を迎えたくないと思ったが,Levineは少し判然としない様であった.「知ってるでしょ.重度精神疾患の平均寿命は53歳だってこと.」これが判断を困らせる大きな理由の一つだ.医師は,精神疾患がある患者のQOLは完全に損なわれていると考える.患者の拒否を簡単に承諾するわけにはいかない


死亡率の格差

 ニューヨークの疫学者Benjamin Malzbergは1932年に,精神疾患がある人はない人と比べ,他の因子を調整した群どうしで比べても.寿命が平均して14-18年短いという研究結果を発表した.この死亡率の格差はいまも残存しており,下手すればもっと悪いことになっている.2006年のアメリカの研究では,その差は13-30年と推測される.さらにいえば,この格差は全世界に広がっている.事故や自殺といった「非自然的な」原因よりも,がんや心血管疾患といった医学的原因がこの格差に寄与している.最近になるまでこの不平等は無視され続けてきた.しかし,このような事態がまだ続いているのは単に注目されていないだけの問題ではない.明白なリスク因子の中には,すぐに解決できないものがある.重度精神疾患の患者は,喫煙,薬物乱用,運動不足といった特定の行動をとる割合が多いが,このことは慢性疾患のリスクを高める.このような病気を治療するには,しっかり薬を飲み行動を変える必要があるが,重度精神疾患患者にとっては時に困難である.精神疾患の中には,患者が自分の状況を理解できなくなるものもあり,その場合はヘルスリテラシーが低い場合や貧困にある場合と同じように,治療にしっかり乗ることができない可能性がある.このことは精神疾患患者にとりわけ強く影響を与える.最後に,精神症状の安定のために不可欠でありよく処方される薬剤の多くは肥満や糖尿病を引き起こすため,心血管疾患のリスクを高めることになってしまう

 上記の現実を目にすると,近い将来に死亡率の格差をなくすことなんて思いもよらないことである.しかし,Levineをはじめとした重度精神疾患患者の治療にあたっている医師の姿を見て,ふと疑問に思った.精神疾患患者は余命が短いと医師が思っていることも,本当に患者の余命を短くしているのではないか.つまり,精神疾患患者を医師がどう見ているかがこの死亡率の格差の一因となっているのではないか.もしそうだとしたら,医師は変わることができるのか.



2016年11月16日水曜日

失神の鑑別



失神の鑑別についてまとめて発表する機会があったので,
スライドを挙げます.

内容は基本的なものですのであしからずご了承ください.




































2016年11月9日水曜日

非糖尿病患者の低血糖


救急でであったので,考え方をまとめてみます.

CutlerのProblem solving in clinical medicineには,低血糖は3つに分類すると書いてあります.
「内科診断リファレンス」の記載も追加して分類を挙げます.

①反応性低血糖
食後2-4時間で起こる低血糖です.特に炭水化物の多い食事を食べた後です.

下位グループとしてさらに3つに分けます.

機能性:最も多い.症状はそこまで強くない.
OGTTで5時間経過観察し血糖の変移をみる.
アルコール多飲がリスク.

軽度糖尿病:つまりは低血糖をきたした患者には糖尿病の検査をする必要がある

消化管性:いわゆるダンピング症候群やその亜形


②空腹時低血糖
朝一番や食事を抜いた5時間以上経過後に起こる低血糖です.
糖原病など先天性のものを除けば,原因は以下の5つです.

内因性高インスリン血症:インスリノーマやインスリン自己免疫症候群など
インスリン自己免疫症候群は80%で自己免疫疾患が合併します.
SH基を持つ薬剤の先行投与がリスク因子です.
(メチマゾール,ペニシラミン,カプトプリル,イミペネムなど)

薬剤性:糖尿病の薬を間違えて飲んだなど.同居人全員の薬剤歴を聴取する.
非糖尿病薬で低血糖を起こすのは以下の通り.
Ⅰa・Ⅰc抗不整脈薬,抗うつ薬,ST合剤,キノロン,NSAIDs,アセトアミノフェン,βブロッカー,ACEI,フィブラートなど
また,クラリスロマイシンとSU薬の併用注意は有名ですね.

臓器不全:敗血症が有名.肝不全や腎不全でも.

ホルモン欠乏:副腎不全,下垂体不全など

nonislet cell tumor hypoglycemia(NICTH):稀ですが種々の腫瘍が低血糖を起こします
多いのは間質系腫瘍で.大きな腫瘤が後腹膜,腹腔内,胸腔内にみられます.
上皮系であれば肝細胞癌や副腎皮質腫瘍,カルチノイドが多いようです.
UpToDateからNICTHを起こす腫瘍のリストを引用します.



③虚偽性:ミュンヒハウゼン症候群が有名です.


低血糖発作=検査乱れ打ちではなく,糖尿病の有無の確認・反応性か空腹時かの区別,リスクファクターと薬剤に注目した病歴聴取で,なんとか迫っていきたいものです.


(Cutlerは邦訳も出ていますが,原著は平易な英語でかかれているのでお勧めです.)




2016年11月3日木曜日

ホームレス状態にいる人のケア part5 (final)



時間がかかってしまいましたが,ようやくpart5です.最終回です.
図表は訳していないので,ぜひ原文をみていただければと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



皮膚,足の問題

 厳しい住環境のせいでホームレス状態の人々ではしらみ,疥癬と続発する細菌感染が蔓延している.しらみの寄生によりBartonella quintana感染が起こることがあり,ホームレス状態の人々に塹壕熱(回帰熱を伴うインフルエンザ用の症状を呈する)や血液培養陰性心内膜炎の原因となる.足部の不衛生,不潔な住環境,長期間の立位と歩行,足に合っていない靴による外傷の繰り返し,濡れた靴下や靴による皮膚のふやけは,擦過傷,膿瘍,うおのめ,たこ,爪真菌症,足白癬,浸足症(0℃以上の湿潤寒冷環境に長期間暴露することで起こる外傷)を招く.長期間の立位は,浮腫と静脈鬱滞を起こし,時に潰瘍や蜂窩織炎を招き入院での抗菌薬静注が必要になる.その場合,大量の水による洗浄,デブリドマン,筋内の抗菌薬,1週間まで使える薬剤浸漬弾性包帯(Unna boot)が有用である.適切なフットケアについての教育,問題の早期発見,足に合う靴,乾いた靴下,生活な住環境,適切なフォローアップが予防に重要である.


環境による健康障害

 ホームレス状態では寒冷や熱による外傷の頻度も高い.凍傷,浸足症,低体温のどれかを経験したことがあると,その他の原因による死亡のリスクが8倍になる.寒冷暴露による外傷の程度とその結果起こる細胞障害を決定する2つの絶対的な因子は,温度と暴露期間である.凍傷を重症化させる因子には,アルコール・ニコチン・ドラッグの使用,低栄養,脱水.副腎不全,糖尿病,甲状腺機能低下症,末梢血管障害,末梢神経障害がある.Frostnipは寒冷による外傷のうち軽症かつ可逆性のものを指し,罹患部位は異常感覚を呈するが復温で回復する.凍傷はより重症であり,局在性の組織損傷をきたす.損傷組織を壊死させないようにし,機能を失わないようにし,合併症を予防することが治療の主な目的である.浸足症(塹壕足)は乾いた靴下をはくことで予防できる.熱痙攣,熱疲労,熱射病は極端に暑い環境に長期間いることで起こる.このような状態に陥っている人は寒冷な場所に移して水分を補給させなければいけない.重症例では入院が必要である.熱射病は致死性である.


ケア提供のモデル

 ケアの最善なモデルは,ホームレス状態の人々に向き合う際に特徴的な困難についてよく知っているヘルスケア専門職のチームによる統合された他職種協働のアプローチであり,患者中心のメディカルホームモデルを様々な場所でのアウトリーチサービスに関連して適用することで,2次・3次医療,回復期・ホスピスケア,住居・雇用・法律支援に関する地域資源や地方局につなげられるようなものである.医療面と精神社会面の両方のニーズを1か所で対応できることと,「ハウジングファースト」政策がカギとなる要素である.標準的な臨床現場にこのようなモデルを持ち込むことで,ヘルスケア専門職は患者とつながり治療,教育を行い,この集団内でのヘルスケアのアウトカム向上を推進する際に統合された役割を果たすことができるようになる.また,このモデルは, 医療機関にかかれなかったりホームレス状態にあったりする人々に医師がかかわっていくようにAmerican Academy of Family Physicians(AAFP)のポリシーで提言する際の実際的な基盤を提供する.ホームレス状態の人々の健康とウェルビーイングを向上させることは,雇用につながる一歩であり,うまくいけば自分の家を再び手に入れる一歩となる.家庭医は,熱意をもって包括的,継続的なケアをこの患者層に提供し,他職種協働チームを統括するのに理想的な立場にいる.



2016年10月28日金曜日

ホームレス状態にある人のケア part4



引き続き訳していきます,part4です.次回で最終回です.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



認知機能障害と外傷による脳損傷



 ホームレス状態の人々は外傷による脳損傷が一般人口と比べて5倍以上起こっていると推定されている.元々の脳損傷に対する治療は存在しないが,家庭医,神経精神専門医,コミュニティや政府にある適切なリソースといった他職種協働の介入により,必要な評価,治療,リハビリテーション,支援が提供される.Mini-Mental State Exaination,Traumatic Brain Injury Questionnaire,Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Statusがこのような患者を評価するのに有用である.認知リハビリテーションは認知機能を最大化し,機能損傷を減らすようにデザインされている.初期評価を行い診断を確定させることに加え,このような患者によく起こる特有の状況(不安,注意力障害,認知症,抑うつ,頭痛,不眠症,痙攣)を想定し治療することも家庭医の範疇である.


外傷と暴力

 ホームレス状態の人々は家庭内暴力,強姦,身体的暴行に日常的にさらされており,不安障害,PTSD,大うつ病を招いてしまう.死の恐怖を抱いている場合も多いが,それは実際の脅威があるからである.女性では,性感染症,望まない新進,外傷後ストレス反応が多い.子どもでは,ストレスにさらされたり外傷をうけたり暴力沙汰に巻き込まれたりすることで,身体,感情,認知,社会,行動の各面で発達が阻害される.ホームレス状態の高齢者は,虚弱や身体機能低下,認知機能低下のため,とくに暴力や外傷が重大な帰結を招いてしまう.虐待が疑われる場合,医師はあらゆる外傷を評価治療し,患者の安全を確保する計画を立て,自治体の担当局への連絡という義務を果たすべきである.対人間の暴力が疑われる場合は, Posttraumatic Diagnostic Scale Modified for Use with Extremely Low Income Womenを用いるべきである.心的外傷に着目したケアや心的外傷に特異的な介入は,心的外傷の重要性に言及し治癒を促進するようデザインされている.


健康問題の予防,感染症,性感染症

 ホームレス状態の人には,予防医療,定期検診,ワクチン接種がなされていないことが多い.一般人口と同じくガイドラインを適応することができる.破傷風予防(破傷風並びにジフテリアトキソイド,またはTDPワクチン)は,最後の接種から10年以上たっていれば再度接種すべきだ.インフルエンザワクチンは年一回接種すべきである.肺炎のリスクがあれば肺炎球菌ワクチンも受けるべきである.HIV,B型肝炎,C型肝炎といった針刺しで感染する病原体の検査も行うべきである.アルコール依存症,HIV共感染,シェルターでの長期間居住は,結核アウトブレイクのリスクを上昇させる.DOTにより結核治療の有効性は著明に向上した.イソニアジドとリファンピンの服用中は肝機能をチェックする.患者の多くはアルコール依存症,肝障害,薬物乱用による肝障害があることが多いためこのチェックは重要である.


2016年10月22日土曜日

ホームレス状態にある人のケア part3


這う這うの体で,part3です.
ホームレス状態にいる人だけでなく,あらゆる社会的剥奪に成り立つ内容だなと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.


臨床状態,医学的状態

 ホームレス状態の人々も,一般人口と同じ医学的状態になる.異なる点は,長期間の病原暴露,狭い場所への稠密,不衛生,栄養状態不良,不良な睡眠環境.暴力,身体的心理的外傷,性的虐待,激しい天候に見舞われているというところである.このような逆境に対し適切に対応し,医学的問題に対処する能力は,教育機会の制限,精神疾患,物質乱用,信頼感の欠如の影響を受ける.以上により,ホームレス状態の人々は病気が進行した状態で見つかることが多く,治療介入は個々人の状況により様々となる.


心血管障害

 コントロールされていない高血圧,冠動脈疾患,鬱血性心不全,末梢血管障害がホームレス状態でよくみられる.食事が貧相なことは,栄養関連障害の発症やコントロールされていない糖尿病,脂質異常症,高血圧の高い罹患率に寄与する.怒り,過度な心理的ストレス,精神疾患,対処機構の乏しさ,アルコールや薬物の乱用は,リスクファクターとよくいわれるものの影響を助長させ,非常に早期に心血管疾患の罹患率と死亡率を著明に増加させる.
ホームレス状態の人々の平均寿命は42-52歳である.血圧,コレステロール,糖尿病の標準目標を達成するために,薬物治療を早期に開始するべきである.そして医師はケアマネージャーやリエゾン精神科医と緊密に連携し,健康的な食事を担保し,ストレスを減らし,治療計画を患者が順守してくれるようにすべきである.ライフスタイルを変化させようとしても大抵はうまくいかない.


重複診断:精神疾患と薬物乱用

 ホームレス状態の人々の約20-30%に精神疾患があり,30-50%に薬物乱用単独または薬物乱用と精神疾患の併存(重複診断とよばれる)がある.精神疾患では,大うつ病,双極性障害,統合失調症が多い.自殺のリスク因子は30歳以下,ヒスパニック,低い教育レベル,ホームレス状態の長期化がある.Health Care for the Homeless Clinicians' Networkはうつ状態のスクリーニングとして2項目あるいは9項目の Patient Health Questionnaireを推奨している.また,薬物乱用のスクリーニングとしては Simple Screening Instrument for Alcohol and Other Drug Abuseを推奨している.治療の根幹は,安定した住居を見つけたうえで,医学的治療に結び付け,支援サービスを提供し,最終的には雇用を獲得することに注力することである.



2016年10月17日月曜日

ホームレス状態にある人のケア part2


随分間が空いてしまいましたが,part2です.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



リスク因子

ホームレス状態では,1つ以上の慢性疾患があり,かつ物質依存あるいは精神疾患が存在すると,夭逝のリスクが上がる.アメリカの一般人口に比べ,ホームレス状態の人々は3~6倍も病気になりやすく,入院率も4倍高い.夭逝の割合も3-4倍になる.このような身体,精神問題は障害を招くことが多く,雇用の妨げとなり,ホームレス状態から抜け出せなくなる.The Housing and Urban Development調査によると,シェルターにいるホームレス状態の人々推定1600万人のうち,およそ37%に障害がある.この割合は,貧困層では25%,一般人口では15.3%である.

 ホームレス状態は子どもにも悪影響がある.生まれながらにホームレス状態である乳児は出生時体重が低く,生後12か月以内に亡くなる割合が9倍になる.ホームレス状態の子どもはそうでない子どもと比べて病気になる割合が4倍以上であり,喘息,鉄欠乏,鉛中毒,呼吸器感染症,耳感染症,消化器障害,感情・行動面での問題(不安,抑うつ,引きこもり,易怒性,敵意など)の発生割合が多い.発達遅延をきたす割合も4倍であり,成長障害は6倍,学習障害は2倍である.加えて,一般小児と比べて,飢餓,虐待,ネグレクト,家族からの別離を経験していることが多く,栄養も不足している.


初期介入

 患者がホームレス状態にあるか,または家族を含めてその危険があるかを同定するのがまず行うべきことである.アウトリーチ活動がホームレス状態の患者と初めて出会う機会となることが多いであろう.初回の受診で,医師をはじめとするスタッフは,心からの関心と共感,敬意を示し,患者を温かく迎え入れ,脅したり裁いたりしないよう注意するべきである.初回診療の目標は,シンプルな治療で改善が得られる症状にまず介入し,患者の生活に目に見える影響を与えることである.こうすることで患者は信頼と安心感を得て,再び診察室を訪れるようになる.信頼とラポールが形成されて初めて,緊急時の連絡先を確認したり,社会的,医療的,精神的問題や終末期について意見を交わしたりするなど本丸の目的に進むことができる.

 初期評価が終わったら,患者の適切な治療プランを立てる際の実際上の複雑さを考慮すべきだ.しっかりとしたコミュニケーションと移動方法がないことが予想されるので.紹介をしたり,フォロー外来の予約を取ったり,血液検査や治療への反応をモニターするのはなかなかむずかしい.この分野では,患者の代弁者やケースマネージャーが助けになってくれる.ゴールを決め,短期間でわかる成功の指標を決め,スタッフから定期的に進捗を報告してもらうことで,疾患のマネージメントという最大の難問に立ち向かえるかもしれない.


2016年10月11日火曜日

家庭医は物語を語る


今月のFamily Medicineに,家庭医教育における物語の効果についての記事が載っています.
巻頭には,ある家庭医が20年以上関わった患者についての物語が書かれてあります.

非常に良いエッセイですので,全訳しました.ご覧ください.

Teaching Continuity of Care
John Saultz,MD
Fam Med 2016;48(9):677-8.

 この号にあるVentresとGrossの論文(注:Fam Med 2016;48(9):682-7.)を読んで,家庭医を教育する上で物語を語ることがいかに重要か思い出すことができた.そこで,遺族の了承を得て,私の患者であり友人でもあるElizabeth Cowles Hedenの物語を皆さんと共有しよう.

  私が初めてElizabethに会ったのは1990年代の中頃だった.彼女は, 私が家庭医として自分にあっているか見定めるために,メディケア(注:アメリカの高齢者向け医療保険制度)でのget-acquainted visit(注:医師が患者を知る(あるいはその逆)のための初回診察,という意味か.アメリカの医療制度に不案内なのでよくわかりません)をした.今までかかっていた医者がリタイヤしてしまい,私たちのオフィスが彼女の家からほんの約6ブロックしか離れていなかったのが彼女がここに来た理由だった.彼女の家は1930年代に最初の夫と建てたもので,その夫は彼女の人生の良き伴走者であった.私は初めて彼女を診察した時のことををまるで昨日のことのように思い出せる.85歳の彼女はアメリカのおばあちゃんまさにそのものという風貌であった.彼女は目をぱちくりさせながら私がどんな医者なのかについて準備しておいた質問をし,また自分はどんな医者を探しているのかを私に教えてくれた.私たちはすぐに意気投合したが,それからの15年間で私を待ち構えているものを知る由などなかった.

  Elizabethは1910年の夏に生まれ,7歳でポートランドに引っ越してきてからはおばあさんに育てられた.1991年に二番目の夫が死んでからは彼女は一人で暮らしていた. 2人の息子,JackとGaryは遠くに住んでいたが,愛する甥が近くに住んでおり,また教会には友達がたくさんいた. 彼女と出会って初めての冬,私は天気が悪い時は訪問診療に行くことにした.彼女の家はきれいに整頓されてかわいらしい家族写真と家具がたくさんあり,彼女の個性をまさに反映していた.彼女の全身状態は良好であり,訪問診療ではちょっとした不調を診たり関節痛と高血圧を管理することが大半であった.2回目の訪問のとき,私はリビングにあった小さいオルガンについて彼女に質問した.Elizabethは,息子がベトナムの戦闘パイロットとして派兵されていた時に毎日そのオルガンを弾いていたと教えてくれた.オルガンを演奏しながら捧げた彼女の祈りが通じて息子は生きて帰ってきたと彼女は信じていた.だから,戦争が終わりオルガンをひかなくなったとはいえ,それを捨てることはできなかった.Elizabethは熱心に庭いじりをしており,立派に実ったトマトを誇りに思っていた.毎年夏には私に何個か野菜を渡してくれたものだった.そして私も自分の家の野菜を友好の証として彼女におすそ分けした. ある年のサンクスギビングデイでは,彼女の息子が二人とも帰って来れなかったので,Elizabethは私と妻と一緒に私の家でディナーを共にした.そこで彼女は,1920年代のポートランドの話をしたり,女性アイスホッケーチームで活躍した経験を話したりして私たちを楽しませてくれた.年を重ねるにつれ,彼女の関節炎はひどくなっていき,庭いじりを続けるのが難しくなっていった.1999年の12月,次の春にはもう庭に木を植えることができなくなっているだろうと彼女は言った. いつ家を出て行こうと考えているのか私はすぐ彼女に尋ねた.もう 代理人と契約しているのと彼女は答えた.その日私と一緒にいた医学生はその会話に困惑していた.彼女にとって庭いじりがどれだけ重要かを知らなかった彼は,どうして私がすぐに引っ越しについて彼女に尋ねたのか理解していなかった. その家には人生の思い出がつまっていた.介護付き住宅に引っ越した後,わたしは心を込めて鉢植えのトマトをプレゼントした.

 それから2010年まで,Elizabethは徐々に弱っていった.4月の初め,寒い冬のような日に彼女を訪れた際,彼女は息子をいかに誇りに思っているか,自分の信念がいかに自分にとって大事なものかを私と語り合った.彼女はその年の6月にやってくる100歳の誕生日を楽しみにしていたが,その日まで生きながらえることはないだろうと自分でわかっていた. 車に戻っているとき,彼女の部屋のすぐ外にある楓の木の枝でコマドリが鳴いているのに気付いた.春はもうすぐだった.
 Elizabethはその数日後,2人の息子とその家族,そして甥に囲まれて息を引き取った.私は彼らに会い,彼女の医者でいられたことをどんなに誇りに思っているか話した.葬式には妻と参列した.教会はいっぱいだった.35年の家庭医人生で,私がその人の生活に入りこむことを許してくれた多くの素晴らしい人々がいるが,Elizabethもその一人であった.私は彼女に正しいことをしてあげられただろうか.彼女が私に正しいことをしてくれたように.

 これまで研究者としてのキャリアを通じて私は,患者にとってそれがどんな価値があるのかを理解するために,ケアの継続性を測定する方法を研究してきた.そして,ここ15年間にわたり,自分の学校の家庭医クラークシップを選択した学生全員に,研究から得られたデータを提示してきた.しかし,いくらデータを紐解いても,私とElizabethとの関係性がどれだけ重要なものなのかを理解することはできない.その価値はエビデンスでは証明できない.にもかかわらず,彼女の物語を聞くと学生は継続性について学習しようとするのである.物語を語ることが,「誰かの医者である」とは何かを説明するのに最善の方法であるのだ.

 私はよく,Elizabethと初めて会った時のことについて考える.どんな医師患者関係は長続きして,どんな関係は一時的なもので終わるのか,私たちが知ることは決してない.それは私たちの仕事の美学である.新たな患者との出会いすべてが,特別ななにかの始まりになりうる.私のように同じ患者を30年間も診つづけることができる幸運な家庭医はそんなに多くない.Elizabethの家や施設に訪問診療に行く時間を確保できる人も多くないだろう.しかし,有意義な医師患者関係は共有された経験に立脚している.このような経験は,自分で起こそうとしない限り起こらないものだ.VentresとGrossは正しい.家庭医療で最も大事なことは,物語が一番教えてくれる.このような物語を共有し続ける限り,医学生に家庭医療の魅力を感じてもらうのに苦しむことはないだろう.



2016年10月3日月曜日

胸痛をきたす良性疾患



ようやく更新が再開できそうです.

明らかに非心臓性で,帯状疱疹や逆流性食道炎もなく
「まぁ・・・様子見ましょうか」で終わらせてしまう胸痛ってあるよなと思います.

Bornholm病(流行性胸痛症),Straight back syndromeは遭遇したことがあります.
また,Precordial catch syndromeは私自身がなった経験があります(たぶん).

あまり知られていない,けど知っているとそこそこ外来で引っ掛けられるのでは,
という疾患をまとめてみました.

●Straight back syndrome

・若年者の一過性の軽度胸痛,動悸
・胸郭が扁平で胸椎が直線状→心臓が圧迫されて胸痛出現?
・胸部側面X線で,T4-T12を結ぶ直線からT8までの距離が1.2cm未満
・胸痛は体動時や胸郭圧迫時に多い
・67%に僧房弁逸脱症候群の特徴あり.

参考:Q.J.Med(196),Cardiol(5),日本医事新報 (4759)

画像はリンク先より引用.



●Precordial catch syndrome

・小児の筋骨格性胸痛
・数秒から数分の鋭い胸痛
・胸骨左縁肋間あるいは心尖部の非常に狭い部位に局在
・突然発症,安静時あるいは軽い運動時に起こる
・吸気で増悪

参考:UpToDate Causes of nontraumatic chest pain in children and adolescents


●Slipping rib syndrome

・肋軟骨を介して胸骨に固定されていない第8,9,10肋骨で,結合組織がゆるんだり外傷により断裂したりすることで起こる
・結合組織の脆弱化により,肋間神経が挟まれ,胸痛をきたす
・Hooking maneuverで疼痛誘発

参考:UpToDate Causes of nontraumatic chest pain in children and adolescents
画像はHooking maneuver.リンク先より引用.





●肋軟骨炎

・胸骨縁の肋軟骨の局所的な圧痛
・重い荷物を持ち上げたり肩にかけたりすることが契機となりうる
・左側が多い
・Horizontal arm traction maneuver,Crowing rooster maneuverで疼痛誘発

参考:UpToDate Causes of nontraumatic chest pain in children and adolescents
上がCrowing rooster maneuver,下がHorizontal arm traction maneuver.
引用はUpToDateより.





 
●SAPHO症候群

・胸鎖関節炎による胸痛をきたしうる.
・皮膚症状が先行する症例が39%,関節症状が先行する症例が29%
・皮膚症状は84%にみられる.内訳は掌蹠膿疱症32%,重症ざ瘡18%,尋常性乾癬10%

参考:藤田保健衛生大学サイト


ほかにも,Mondor病やTiezte症候群など,いろいろあります.
当然,狭心痛や肺塞栓症など重篤な疾患の除外が優先ですけどね.



2016年9月14日水曜日

なかなか更新できない…


ご無沙汰しております.

現在,とあるプロジェクトに参加しており,9月いっぱいはそちらに空き時間のすべてを投入しているため,ブログを書く時間がなかなかとれません.

10月になったらまったり再開しようとおもいます.


2016年9月4日日曜日

Goal-oriented Careについて



The World Book of Family Medicine

WONCA Europeが2015年にpublishした家庭医療の資料集のようなもので
家庭医療のトピックスが100個まとめられています

全部で300ページのpdfなので,目を通すだけで一苦労ですが,
3割がた読み進めて,日常研修でやっていたことが
「なるほど,そうだったのか」と思い至ることも多く
これはずべてに目を通さなくてはという気になります.


たとえば,
J.D.Maeseneer “Family Medicine Facing New Challenges on a Global Scale”
には,このような内容が書かれています.

現在,人類の健康は2つの重大な難問に直面している.
①多疾患併存(multi-morbidity)
②健康の社会的格差

どちらも,日常診療でとても注意していたことであったので
まさに我が意を得たりという感じでした.

②健康の社会的格差に関しては,
以前ブログに書いた通り,Sir Michael MarmotのThe Health Gapをはじめとした
種々の文献で多く議論されており.
また,特に救急患者でよく出会う問題であるという認識です.

①multi-morbidityにつては,高齢者では切っても切れない問題であり
高齢者外来診療の大半はこれとの戦いです.


先ほどの記事では,こう続きます.

個々人が可能な限り最高の健康を得るためには
目標志向型ケア(goal-oriented care)が必要である.

goal-oriented careという用語に聞きなじみがなかったので,調べてみました.

N Engl J Med 2012; 366:777-779
が簡潔にまとめっていて非常にわかりやすかったです.

具体的に言うなら
高血圧診療に対して.
疾患志向型(disease-oriented)だと
降圧目標(140/90とか)が目標となることが多いです.
つまり,死亡率,検査所見,疾患特異的な症状をどうマネージメントするかを重視しており
単一疾患に罹患している場合に有用な手段となります.

一方, 目標志向型(goal-oriented)では
例えば,「起立時のふらつきによる転倒の恐怖を感じない」といった
「患者にとって重要なことはなにか」「それをどのように実現可能なものにするか」
が大事となります.

当然,個人の目標はそれぞれであり
家族と本人の目標が食い違う場合
目標が非現実的である場合
などでは,患者中心の医療でいうところの共通基盤の形成が不可欠になってきます.


外来で自然としていたことでも,
名前を与えられてその枠組みをしっかり学ぶことは
次の学びにつながります.


2016年8月23日火曜日

夏休みです


明日から夏休み&休み明けに押し寄せる企画の準備のため
8月中はブログお休みです.

書きたい事,書かなくてはいけない事はたくさんあるんですけどね.


2016年8月20日土曜日

本当の健康十訓



地域住民の方々を対象に,「元気で長生きする秘訣」というテーマでお話しさせていただくことになりました.
心根がねじ曲がっているので,ちょっと変わった健康講話を計画しております.

現在絶賛作成中ですが,いまのところ予定しているツカミの部分をこちらに転載いたします.

この本を参考にしました.世界医師会長Sir Michael Marmotの著書です.
心意気が伝わってきます.胸を熱く奮い立たせてくれる本です.





1999年,イギリス主席医務官が
健康になるための10のポイントを発表しました.
この手のリストは世界中どこにでもあるものです.

1.禁煙しましょう
2.果物野菜中心にバランスの良い食事を
3.運動しましょう
4.ストレスを避けリラック…スする時間を
5.お酒はほどほどに
6.直射日光は避けましょう
7.安全な性交渉を
8.がん検診を受けましょう
9.安全運転を心がけて
10.心肺蘇生を習いましょう

(注:わかりやすさ重視で意訳しています.以下同様)


この提言について,Sir Michael Marmotはこのように述べています.

 このリストは素晴らしい

 健全な科学に基づいている

 そして,心底どうでもいい

(注:わかりやすさ重視で意訳しています.以下同様)


この提言を見た人は,きっとこう考えるはずです.

仕事を首になってアパートから追い出されそうで

 今すごいストレスを抱えているけど,

 ちゃんとリラックスする時間をとったから問題ないね.

(注:わかりやすさ重視で以下同様)


…痛烈な風刺,皮肉ですよね.読んでいるこっちが心配になります.


じゃあMarmotさん,どんなリストがいいんですか?
ということで,お勧めしているのがこちら.

ブリストール大学デイビッド・ゴートン作
本当に健康になるための10のポイント

1.貧しくなるな
2.貧困地域から引っ越しましょう
3.障害者になるな
4.ストレスの多い低賃金の仕事に就くな
5.ホームレスになるな
6.社会的な活動に参加しましょう
7.ひとり親になるな
8.あらゆる権利を行使しましょう
9.マイカーを持てるようになりましょう
10.いい教育を受けて勝ち組になりましょう

(注:以下同様)


Marmotはこう述べています.

 このリストは健全すぎる科学に基づいている.

 ここからわかることは以下の一点だ.

 何が健康に悪いか分かっていても,自分でできることはほとんどない.

(注:同様)


こんな刺激的な文章で始まる第2章のタイトルは

Whose Responsibility?
健康はだれの責任か?


今日の健康講話では,皆さんが健康で長生きするのはだれの責任かについて考えていきます.


と,こんなツカミで話をしようとおもいます.
誤解を与えないように注意して,本当の健康は何か,考える機会になれば.



2016年8月12日金曜日

ミルク・アルカリ症候群



今週のNEJM Case Recordが,ミルク・アルカリ症候群についてでした.
Case 24-2016 — A 66-Year-Old Man with Malaise, Weakness, and Hypercalcemia

このブログでも以前取り扱っています


過剰検査に対する注意などもかかれており,非常に勉強になるので,ぜひ本文も読んでください.
ミルク・アルカリ症候群について簡単にまとめます.

現在ではカルシウム製剤やビタミンDが広く使われるようになったことで,発症が増えています.
2005年の研究では,高カルシウム血症の8.8%,重症の場合は25.7%を占めています.

サイアザイドはCa再吸収を促進するためリスク因子となります.
NSAIDsもリスクです.

高Ca血症に加え,急性腎障害,代謝性アルカローシスが起こります.
高Ca血症+急性腎障害なので,多発性骨髄腫との鑑別が問題となります.
そもそも高Ca自体が脱水→腎前性腎不全をきたすので,これだけでは決め手に欠ける印象ですね.




2016年8月7日日曜日

家庭医療学夏期セミナーに出展しました



昨日から行われている家庭医療学夏期セミナーにセッションを出しました.
http://www.jpca-srs.umin.ne.jp/kasemi/28th/

家庭医はあらゆる健康問題に立ち向かう.
ならば,「絶望事例」(私の造語です)に出会ったとき,私たちはどうするか
ということを学生さんに考えてもらいました.


初診で訪れた80代女性と長男.褥瘡からの蜂窩織炎で入院.
介護資源に乏しく,経済問題,家族間の葛藤,その他さまざまな問題がある複雑事例

使える制度をすべて使って,一生懸命プランを考えたけど,キーパーソンの拒否にあい水泡に帰してしまった.

さて,どうする.どうやってあなたは前を向くか.

という流れです.

(実際に提示した内容はもっとエグイです)


常々,心を動かし感情を揺さぶる発表をしたいと心がけています.

今回は,こちらの想定通りに

面食らう→なんとか食らいつく→これはやばいぞと感じ始める→力を合わせてやり遂げる→満足→と思ったらあれよあれよと絶望のどん底に→呆然→怒り・悲しみ→無力感→でも前を向く→感涙

という一連の心の動きを100分で演出できたので満足しています.


セッションで伝えたかったClinical Pearlは以下のとおり
「家庭医はそれでも患者とともにいる」
「絶望事例を診られるのはこの地域に私たちしかいない」
「家庭医療に心臓を捧げよ」



お勉強としては,臨床問題の複雑さ(Complexity)を紹介しました.
General practice-Chaos, complexity and innovation. 
Martin C, Sturmberg P  Med J Aust 183(2):106-9,2005

臨床問題の複雑さをsimple, complicated, complex, chaosの4段階に区分する方法です.
simple, complicatedはゴールが問題解決ですが,
complex, chaosは問題解決が不可能なことが多く,安定化(stabilizing)を目指すことになります.

もとはEBMの延長線上にある概念で,どのように臨床上の知を事例に適応するかについて考察されたものですが,家庭医療特有のundifferentiated problemを扱う際に有用な概念であると理解しています.

原著には定義も書いてありますが,これはセッティングで変わる気がします.
実際,私のいる病院では定義上complexな問題はcomplicatedとして扱うという具合に.
複雑さのレベルが一段階下がっている印象を受けます.
原著のchaosの例がそれほどchaoticに見えないですし.

chaosはnot undestandable until stabilisedであるとありますが,これは本当にその通りだなと思います.



2016年8月1日月曜日

高血圧の非薬物療法のエビデンス

 
BMJの10-minute consultationより
患者さんへの説明に使えそうだったので抜粋します。

・40-69歳の高血圧患者では、収縮期血圧が2mmHg上がるごとに、虚血性心疾患による死亡リスクが7%上がり、脳卒中による死亡リスクが10%上がる。

・具体的なリスク計算はQRISKでおこなう。
このサイトに項目を入れていけば、10年後の虚血性心疾患、脳卒中死亡リスクなどが計算できる。大変便利。初めて知りました。


・食塩摂取を4.4g/day減らせば、血圧は5/3mmHg下がる。

・肥満患者は、体重を0.45kg落とせば血圧が1mmHg下がる。

・DASH食を食べるとアメリカの典型的な食事と比べて血圧が6/4mmHg下がる。


引用
Poor adherence to antihypertensive drugs
BMJ 2016;353:i3268

2016年7月23日土曜日

急性好酸球性肺炎


10代の患者が呼吸困難と発熱で来院,SpO285%r/aですりガラス陰影あり,あとから好酸球が上がってきて喫煙歴発覚,というケースを見聞しました.


・比較的急性発症,多くは7日未満
・乾性咳嗽(95%),呼吸困難(92%),発熱(88%)が多い

・両側肺底部の吸気時crackelsと強制呼気でのrhonchiを聴取する
・バチ指はおこらない

・低酸素血症が起こる.人工呼吸が必要になることも多い.
(そういえば見聞したケースでも,若いのに著名な低酸素血症を呈していて,細菌性肺炎や非定型肺炎としては違和感があります)

・初期は好中球増加(細菌性肺炎っぽくみえる).CRPも上がる.好酸球はあとで上がってくる.
(これが最大のClinical pearls.AEPの初期診断はeosinophiliaではできない.)

・レントゲンではびまん性の実質の陰影
・喫煙のほかに,薬剤や塵の吸引歴を聞く

・治療は酸素吸入などの支持療法
・ステロイド40-60mg/dayで開始,2週間あるいは症状改善まで続けて,5mg/7dayで減量.
・重症では60-125md/6h毎.


まとめると,若年者の急激な呼吸困難で,非定型肺炎っぽいレントゲン像で,採血結果は細菌性肺炎っぽいのに喀痰はでなくて,低酸素血症が強い,というのがおおまかなゲシュタルトでしょうか.好酸球増加は後にならないとわからない点に注意ですね.

参考:UpToDate idiopathic acute eosinophilic pneumonia


2016年7月21日木曜日

ホームレス状態にある人のケア part.1



AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



ホームレス状態の人々に対するケア:概観


男性でも女性でも子どもでも,あらゆる人種,民族の人々が,ホームレス状態になりうる.アメリカでは,どの夜も61万人以上の人がホームレス状態にいる,ホームレス状態にあると,一般人口と比べて病気になりやすくなり,入院率が高くなり,若くして亡くなるようになる.ホームレス状態の人々の平均寿命は42歳~52歳である.ホームレス状態の子どもは非常に病気になりやすく,学習や行動面での問題を多く抱えることになる.収入が足りないことと,住める家がないことが,ホームレス状態になる主な理由である.心身ともに複雑かつ進行した問題を抱え,それが薬物やアルコールの乱用でさらに深刻なものとなり,さらに経済面,社会面での問題(例:家がない,適切な交通機関がない)が合わさるというホームレス状態特有の問題が,ヘルスケアシステム,地域社会,政府に突き付けられている.統合された多職種ヘルスケアチームが,アウトリーチ活動を行いながら,地方あるいは州の機関と協働することが,このような人々のケアの質を担保し,自己充足感を得る助けとなるために最も適している.家庭医は,ホームレス状態の人々に必要なものをマネージメントし,継続的なケアを提供し,多職種チームのリーダーとなるのに適している.


 ホームレス状態とは,毎日住むような家がないことをさし,路上だけでなくシェルターなどの施設や立ち入り禁止の建物,車などに住んでいる場合や,ほかの不安定または長続きしない状況にいる場合も含まれる.やむなく友達や親族の家を転々とする場合や,出所後や退院後に帰ることのできる安定した住居がない場合もホームレス状態とみなされることがある.


人口統計
 男性でも女性でも子どもでも,あらゆる人種,民族の人々が,ホームレス状態になりうる.アメリカではどの年度でも,約300万人,人口の1%がホームレス状態となっている.2013年は,どの夜も61万人がホームレス状態にいて,そのうち約36%が家族単位であり,約35%の安全が確保されていなかった.たいていの場合,ホームレス状態は数日から数週間と一時的なものである.

 過去30年にわたり,貧困の増大と住むことができる住居のさらなる不足がホームレス状態の増加を主に招いてきた.2009年の調査では,個人単位では14.3%,世帯単位では10.5%で収入が貧困レベルを下回っており,4620万人のアメリカ人が,経済的,医学的な問題が一度でも起これば生活が破綻しホームレス状態になる危険にあることが判明した.ホームレス状態と関連する経済的,社会的要因としては,不安定な雇用,低賃金,公的扶助の拒否,精神疾患患者の退院や退所,退役軍人,安価な住宅の欠如,低い教育水準,ヘルスケアを受けられないことがあげられる.このような要因がどれかひとつでもあると,アルコールや薬物の乱用,家庭内暴力,身体あるいは精神の疾患,虐待やネグレクトと結びつくことで,ホームレス状態に陥ってしまいかねない.



2016年7月15日金曜日

vocal cord dysfunction


vocal cord dysfunctionによるwheezeを聴取するケースに出会ったので勉強します。
こまったときのAFP。簡潔なReview記事があったのでそれを中心に。

Vocal Cord Dysfunction  AFP 81(2) 156-9 2010

・正常声帯は、吸気に外側に開き、呼気にわずかに閉じる
・本症では、呼気、吸気のいずれかで声帯が中央に移動してしまい閉塞をきたす
・病名はいろいろ。paradoxival vocal cord dysfunction (UpToDateでは
これを使っている)、paradoxical voral cors motion、factitious asthmaなど。

・20-40歳の女性に多いが、男性にも小児にもみられる。
・呼吸困難感+吸気時ストライダー、咳嗽、窒息感、胸のつまり
・症状は軽く間欠的であることが多い。
・59%が以前に喘息と診断されていた。

・喉頭痙攣は本症のサブタイプ。失声(aphonia)や急性の呼吸困難をきたす。麻酔時に多い。
・話している時に突然嗄声になることも。

・喘息との鑑別点:呼気より吸気がしづらい、胸つまり・窒息感がある
・診断のゴールドスタンダードは喉頭鏡だけど、なんとかスパイロで診断できないかなぁ→後述
・他の鑑別は以下の通り
急を要する:アナフィラキシー、血管浮腫、喉頭蓋炎、異物
その他:甲状腺機能低下症、喉頭軟化症、クループ、声帯ポリープ/癌、喉頭硬化症(挿管後、放射線治療後など)

・運動後に発作が起きやすい。通常治療に反応しない運動誘発性喘息をみたら鑑別に!
・心理的ストレスも発作を誘発する。不安障害などあればより起きやすい。
・副鼻腔炎、GERDの併発に注意

・スパイロで胸郭外上気道閉塞の所見が出る。非発作時でもみられることがある。


・治療:まずは患者さんを安心させる。
・呼吸法の指導:浅く素早く息をするだけで横隔膜呼吸、鼻呼吸、ストローを使っての呼吸、口すぼめ呼吸、シューッと息を吐く
・ヘリウムガス(!)を吸うと速効性あり。
・誘発因子(タバコ、ほこり)をさけ、併存疾患を治療する。運動誘発ならアトロベント吸入がよいかも。

2016年7月12日火曜日

女性の単純性膀胱炎の治療薬



30代前半の女性が「膀胱炎だと思う」と来院→単純性膀胱炎と臨床診断→グラム陽性球菌検出
という、よくあるケースを経験しました。


起因菌の多くはE.coliですが、P.mirabilisK.pneumoniaeなど他の腸内細菌も関与します。
グラム陽性球菌がみられたら、S.saprophyticusを考えます。 性交後の膀胱炎として有名ですね。
腸球菌やB群溶連菌の関与はまれだそうです。

海外のガイドラインでは、フラントイン、ホスホマイシン、ST合剤が第一選択ですが、前2つは日本では使えません。
ST合剤は妊婦では禁忌です。
日本のガイドラインではキノロン推しですが、まあ使う気にはなれません。
結局、単純性膀胱炎なら第一世代セフェムでよいのではと思います。

この論文を見ると、第一世代セフェムはST合剤と比べ
治療成功率は同じ、再発率は有意差ないものの若干劣る
という結果ですね。


第一世代セフェム3日間→再発すれば培養してST合剤
という治療プランはどうかなと考えています。

なお、患者の「膀胱炎だと思う」は信用してよいみたいですね。
Diagnosis and Treatment of Acute Uncomplicated Cystitis


参考
UpToDate Acute uncomplicated cystitis and pyelonephritis in women
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11239031852.html

2016年7月8日金曜日

壊疽性膿皮症について


皮膚所見から一発診断する機会があったので、こういう時こそ復習のタイミングです。
急性発症の境界明瞭な有痛性深ぼれ潰瘍で底が壊死していたら壊疽性膿皮症だと理解しています。

背景疾患があることで有名ですが、半数は特発性なのだとか。知らなかったです。
炎症性腸疾患のほかにも、憩室炎、パラプロテイン血症、白血病、活動性慢性肝炎、ベーチェット病が背景疾患となります。血管炎も得蘇生膿皮症を続発しえます。
針刺し、虫刺され、生検などの微小外傷が契機となることもあります。

水疱を形成することも多く、その時は血性の膿疱となります。
周囲が赤くハローを形成します、
全身状態は見た目ぐったりしていることが多いみたいです。

無治療だと数カ月から数年の有病期間です。自然に治癒することもあるみたいですが。
背景疾患の治療にくわえ、ステロイド全身投与などを行います。
壊死しているからといって不用意にデブリすると創部がどんどん広がっていきます。

参考:Fitzpatrick's color atlas and synopsis of clinical dermatology pp.116-119




2016年7月3日日曜日

QT延長と関連する薬剤


一カ月ぶりです。
ブログ再始動です。

いかなる主訴、病態を見ても
「薬剤性」を常に鑑別に上げるようにしています。

BMJ Clinical ReviewでQT延長が扱われていたので勉強しましょう。


BMJ 2016;353:i2732
Clinical Review From Drug and Therapeutics Bulletin
QT interval and drug therapy


薬剤性のQT延長とそれによるTdPは非常にまれであるとのことです。
しかし、死に至る状態ですので、やはりしっかり押さえておく必要があります。

よく見る薬剤を抽出してあげます。
・抗不整脈薬:アミオダロン(アンカロン)、ジソピラミド(リスモダン)
・抗菌薬:マクロライド(クラリス、ジスロマックなど)、キノロン(クラビット、アベロックスなど)、アゾール
・消化器:ドンペリドン(ナウゼリン)、オンダンセトロン(ゾフラン)
・抗ヒ薬:ヒドロキシジン(アタラックス)
・抗精神病薬
・抗うつ薬

ナウゼリンやアタラックスは、恥ずかしながらQT延長のリスクという認識を持っていませんでした。

こういう患者には注意です
・女性、高齢
・電解質異常(低K血症など)
・肝障害、腎障害
・心不全、左室肥大、心筋梗塞、徐脈など
・利尿薬、ジゴキシン投与中


心房細動を伴う心不全で、ジゴキシンとアンカロンが出されてて、利尿薬で低K血症になっている高齢女性が、尿路感染症で処方されたクラビットを飲んでいて、心肺停止というのがthe worst scenarioでしょうか。気を付けましょう。

2016年6月6日月曜日

精神科研修中→ブログはひと休み



ただいま、精神科研修中です。
人生、生活に深くかかわる科であり、今まで以上にわくわくした日々を送っております。

精神科で得られる体験、知識は、学習録の形式には合わないので、
しばらく更新頻度が下がることと思います。

日々の自己学習内容も「こころとはなにか」「ケアとは何か」とかその類の思索なので
このブログに書きだすにはあまりにも適さないです。

科が変わったころに更新が増えることと思います。


2016年6月2日木曜日

脳梗塞、脳出血を高次医療機関に転送する判断基準



2次救急機関にいると、脳卒中を高次に救急搬送するか入院で保存的に見るかの判断をする機会が多いです。
ある程度評価項目を覚えていないとやってられないので、暗記項目を極力少なくしてまとめます。


●脳梗塞 血栓溶解療法の適応

禁忌をちゃんと覚えておく必要があります。
発症4.5時間超、出血がある:消化管や尿路は21日以内の既往で禁忌になる、解離やSAHがある、というのはわかりやすいです。

降圧後も185/110mmHg以上なら禁忌、広汎な早期虚血性変化やmidline shiftがあっても禁忌です。
既往歴では、1カ月以内の脳梗塞があると禁忌になるのが注意です。

血液検査で以下に当てはまらないことを確認しなくてはいけません。
重篤な肝障害、急性膵炎、血糖50以下or400以上、Plt 10万以下、PT-ING>1.7, aPTT>40秒

あわせて、NIHSSは26点以上だと慎重投与になりますが、
4点以下の軽症例でも慎重投与になることも覚えておく必要があります。
つまり、感覚障害だけ、軽度の片側麻痺だけとかだと、適応にはならなくなります。

詳しくはrt-PA静注療法適正治療指針(2012年)を。


●脳出血 手術適応

日本脳卒中学会のガイドラインには以下のようにあります。


さすがに覚えられないので、ROCKY NOTEの記載を参考にまとめます。


以下の場合は非適応となるのでこれをおさえる。

・血腫量10ml未満 予後が良いので
・神経学的所見が軽微 予後が良いので
・逆に、GCS4以下の昏睡例 ただし小脳出血→脳幹圧迫は手術適応あり
・脳幹出血
・視床出血 ただし脳室穿破・脳室拡大はドレナージ術考慮