2017年9月30日土曜日

爪周囲炎の処置


ときどき出会うマイナートラブルですね.

Acute and Chronic Paronychia
Am Fam Physician. 2017 Jul 1;96(1):44-51.

爪周囲炎は,指趾の3つある爪縁のうち1つ以上に炎症が起きている状態である,急性爪周囲炎は爪の保護的なバリアが破られたことで複数の細菌感染が起きることによる.治療は温水浸漬であり,ブロー液や1%酢酸はあってもなくてもよい.浸漬だけで炎症が改善しないときは,局所の抗菌薬を使用する.局所ステロイドを併用することもある.膿瘍の有無を確認し,あればドレナージを行う.ドレナージには様々な選択肢があり,皮下注射針をつかうこともあれば,外科用メスで広く切開することもある.十分にドレナージできれば,免疫不全や重症感染がなければ経口抗菌薬はまず必要ない.治療は病原として可能性の高い菌と地域の感受性パターンに基づく.慢性爪周囲炎は症状が少なくとも6週間つづくもので,爪のバリアが破壊されたことで刺激物質による皮膚炎を呈する.刺激物質としては酸,アルカリなどの化学物質が多く,主婦,皿洗い,バーテンダー,花屋,パン屋,水泳選手がなることが多い.局所ステロイドやカルシニューリン阻害薬で炎症を抑えながら,刺激源を避けることが大事である.爪の保護的バリアを復元するにはより積極的な手技が必要なこともある.治療は数週から長くて数か月かかる.急性爪周囲炎,慢性爪周囲炎の再発を予防するには患者教育が最重要である.

2017年9月25日月曜日

Choosing Wisely優秀賞

AFP 8/15号に,2016年に掲載したPOEMSの優秀pearlsがまとまっています.
内科系分野のChoosing wiselyを訳出しました.

Top POEMs of 2016 Consistent with the Principles of the Choosing Wisely Campaign
Am Fam Physician. 2017 Aug 15;96(4):234-239.


心血管系
慢性の安定型狭心症があり,冠動脈の1つに70%以上の狭窄が見られる患者に,最適な薬剤治療単独に加えて,PCIの施行をあわせて推奨してはいけない.

冠動脈疾患に罹患しているかそのリスクが高い患者に,アスピリンに加えてクロピドグレル(プラビックス)も併用しても,死亡率が下がることはないため,併用してはいけない.

活動能力を下げ,副作用が増えるため,HFpEF患者に硝酸イソソルビドを処方してはいけない.

呼吸器系
市中肺炎では,最短5日間の抗菌薬投与後に臨床状態が安定していれば抗菌薬を中止するのが良い.

全身ステロイド投与が必要な喘息の急性増悪に対し,標準治療に加えてアジスロマイシン(ジスロマック)を処方してもアウトカムの改善は得られないため,処方してはいけない.

吸入ステロイド,長期間作動型β2刺激薬,ロイコトリエン受容体刺激薬を用いてもなお中等度の発作が持続する,10代で非喫煙の喘息患者に,チオトロピウム(スピリーバ)を追加してはいけない.

予防
平均的なリスクを有する女性に卵巣がんのスクリーニングを行うことは,死亡率の改善に資することはないと考えられるため,推奨されない.

低線量CTによる肺がんスクリーニングを受けようと考えているすべての患者に以下のことを伝え話し合いなさい.肺がんによる死亡を1つ防ぐために必要なスクリーニング数は非常に多く(308; 95%信頼区間は201-787),それに比べスクリーニングによる害の危険性は無視できない(スクリーニング後の侵襲的手技による死亡率は3%).

大腸がんが一親等内に1名いるが,55歳までに大腸がんにならなかった場合,その患者の大腸がんのリスクは一般集団とほぼ同じであると伝えなさい.

典型的な多民族集団において,ACC/AHAのPooled cohort Equations calculatorで動脈硬化性の心血管疾患のイベント発生リスクを正確に推定できると考えてはいけない.

施設に入所している高齢女性に毎日のクランベリーカプセル内服を推奨してはいけない.

2017年9月11日月曜日

プロバイオティクスについて


プロバイオティクスについての総説がAFPに掲載されていました.
臨床にじかに結びつく,AFPらしい総説です.
アブストラクトと,本文中のキーポイントを訳出しました.


Probiotics for Gastrointestinal Conditions: A Summary of the Evidence
Am Fam Physician. 2017 Aug 1;96(3):170-178.

要約
プロバイオティクスは微生物で構成され,ヒトの腸に常在する善玉菌に似た細菌が大半を占める.様々な消化器疾患で幅広くプロバイオティクスの効果が研究されている.最も研究が進んでいる菌種はLactobacillus, Bifidobacterium, Saccharomycesなどである.しかし,種々の消化器症状に対し,プロバイオティクスをいつ投与すべきか,最も効果的なプロバイオティクスはなにかについて,明確なガイドラインがないために,家庭医と患者は困惑する羽目になっている.プロバイオティクスは消化管の免疫平衡の維持に対し重要な役割を果たすが,それは免疫細胞に直接作用してなされる.プロバイオティクスの効果はおそらく菌種,用量,疾患に応じて定まり,治療期間は臨床上の指標で決まる.プロバイオティクスが効果的だという質の高いエビデンスが存在するものとして,急性の感染性下痢,抗菌薬関連下痢,クロストリジウム関連下痢,肝性脳症,潰瘍性大腸炎,過敏性腸症候群,機能性胃腸障害,壊死性腸炎がある.反対に,急性膵炎とクローン病は,プロバイオティクスの効果がないというエビデンスがある.プロバイオティクスは幼児,小児,成人,高齢者と幅広い世代で安全に使用できるが,免疫不全患者には注意が必要である.


KEY RECOMMENDATIONS FOR PRACTICE
小児,成人ともに抗菌薬関連下痢のリスクを減らす.(A)
C. difficile関連下痢の発生を減らすかもしれない.(B)
肝性脳症のリスクを劇的に下げるかもしれない.しかし,NAFLDとNASHに関するエビデンスは不十分である.(B)
成人UCの寛解率を上げる.(A)
小児,成人ともにIBSの腹痛と全身症状スコアを改善させる.(B)
早期産児の壊死性腸炎の発生と死亡率を減らす.(A)
急性膵炎とクローン病に対する効果はない(B)

他に…
細菌性の急性腸炎には効果あり.ウイルス性に関してはどっちつかず.
H.pylori除菌に追加すると,NNT10で効果ありというメタアナリシスもあれば,OD=0.87-2.39というメタアナリシスもある.
慢性の特発性便秘に効果あり.


2017年9月8日金曜日

障害のある患者のケアの目標について



AFPのこの記事は,必読だと思います.
医療者が患者の意向を勝手に推測し,やさしさと見せかけて尊厳をうばうことになってはならないと思います.

Table 1の内容が非常に価値の高いものですので,以下に訳します.


Patients with Disabilities: Avoiding Unconscious Bias When Discussing Goals of Care
Am Fam Physician. 2017 Aug 1;96(3):192-195.


Table 1 障害のある患者の治療目標を議論する際によく陥りやすいコミュニケーションのピットフォール

【凡例】
〇無意識のバイアス→支持的コミュニケーション

「無意識のバイアスの例」
→支持的コミュニケーションの例


〇同情→尊敬

「このかわいそうで不運な患者はこんな病気になってしまって…」
→スミス氏は56歳の男性で,車いすに乗り,患者の声を届ける活動を行っています.

「家族のお荷物になって頼りっきりになるなんていやなんでしょ」
→機能制限が新しく起きた場合,それに慣れるには時間がかかります.障害がありながら生活している人の話を直接聞いてみるのはいかがでしょうか.

〇放棄→つながりを保ち,深めていく

「私たちにできることは何もありません」
→あなたの場合,この治療はリスクの方が高いです.しかし,私は定期的にあなたを診察し,ケアを提供していきたいと思っています.あなたの望みは何でしょうか.必要なことは?恐れていることは?

「痛みが我慢できなくなったら呼んでください」
→痛みをチェックするためにお呼びしますね.その前に,緩和ケアチームにあなたを紹介します.支援団体とマインドフルネスを基盤としたストレス軽減教室があり,あなたも興味を持つと思います.


〇予後の誤り→専門知識と不確実性を共有する

「あと6か月以内の命です」
→あとどれくらいかはっきり分かる人はいません.障害がある場合,予後を正確に予測することはとりわけ難しいのです.ただ,あなたの状態だと,おそらくあと数年ではなくてあと数か月でしょう.


〇制度にがんじがらめ→家や地域を基盤としたサービス

「状態が悪化すれば,施設入所が必要になるでしょう」
→ソーシャルワーカーに相談しますね.あなたの時間を友達や家族と楽しむために必要な援助や在宅サービスを使えるように手助けしてくれます.


〇文脈なき介入→その人ごとの目標,リスク,利点の情報を提供する

「人工呼吸がないと死んでしまうとなったら,つけることを望みますか.」
「経管栄養で生命を長らえたいと思いますか.」
→筋力が衰えており,飲み込んだり息をしたりすることが難しくなります.誤嚥性肺炎の危険性を下げ,栄養状態を改善し,より元気になるために,経管栄養や在宅人工呼吸器を使うことができます.神経筋障害があり,在宅人工呼吸器を使って生活している人の話を聞いてみるのはどうでしょうか.


〇脱人格化→包摂

「アルツハイマー病はあなたの母親の記憶と尊厳を徐々に奪っていくでしょう」
→アルツハイマー病があってもよい友人または家族の一員でいるためのヒントをお伝えしますね.


〇弱っている患者の生命を低く評価する→能力を最大化するよう支援する

「障害が治らなくてもこの手術,治療を受けたいのですか」
→体力や移動能力がこれ以上損なわれないよう手術を行い,その直後から,あなたの回復に合わせて理学療法のスタッフが関わるようにします.入院あるいは在宅での日常生活動作を上手に行うためにできることをしていきましょう.


〇希望を奪う→希望と現実的なプランを共有する

「それは非現実的だ」
→そうなればよいですね!なんて素敵でしょう!その目標を心にとめたうえで,なんとかなりそうなことから計画を立てていきましょう.


〇自律性を尊重しない→意思決定を支援する

「誰が医療上の決定を行うの?」
→医療上の決定を行うのを手助けしてくれる信頼のおける支援者を指名したいですか.

「痛みを感じているのだろうか?」
→どのようなコミュニケーションが最善ですか.あなたのためにどんなことが私にできますか.