2023年4月25日火曜日

CTによる肺がんスクリーニングの候補者をどう洗い出すか

 

Thuppal S, Hendren JR, Colle J, Sapra A, Bhandari P, Rahman R, Krus-Johnston A, Hoffman MR, Foray N, Hazelrigg S, Crabtree T. 

Proactive Recruitment Strategy for Patient Identification for Lung Cancer Screening.

Ann Fam Med. 2023 Mar-Apr;21(2):119-124. 

doi: 10.1370/afm.2905. PMID: 36973046; PMCID: PMC10042567.


Low-dose CTによる肺がんスクリーニングの適格者を看護師が見つけ出して、必要な患者にはCTを撮ってもらいましょう、という介入の前後比較の論文です。


55 ~ 80 歳であり、現喫煙者/元喫煙者である451 人をまず特定しました。

2019 年 3 月~8 月の診療録を後方視的にレビューすると、結果は以下の通りでした。

CTを受けるべき           …184 人 (40.8%) 

CTを受けなくてよい         …104 人 (23.1%) 

喫煙歴が分からないから判断できない  …163 人 (36.1%) 


184人のうち、過去一年間でCTを撮影された人は34人(18.5%)しかいませんでした。


2020年に、看護師による介入が開始されました。

まず、喫煙歴が不完全だった患者から情報を得ました。その結果、追加で 56/451 (12.4%) 人が適格であると特定しました。

前年度でCTを撮っていなかった150人とあわせて、合計206人の適格者がこれで特定されました。

これらの患者は、看護師から連絡を受け、適格性と事前スクリーニングについて話し合われました。

その結果、122 人 (59.2%) がスクリーニングに口頭で同意し、94 人 (45.6%) が医師に会い、42 人 (20.4%) が LDCT の撮影を受けました。


スクリーニングは多職種総出で頑張る!という研究ですね。

とても家庭医らしくでいい研究だと思います。


2023年4月20日木曜日

外来での何気ない臨床推論

 

病院でも家庭医外来をしています。

普段の何気ない外来の臨床推論は、学習する資料が少ないですが、家庭医にとってはとても大事です。


若い女性。昨日からの発熱と悪寒。

時節柄、SARS-CoV-2抗原陰性は確認しました(インフル同時キットですが、こちらも陰性)


発熱患者の診察は、COVID-19以外の疾患を見つける時間である、と自分に言い聞かせています。

事前問診で、昨日は悪寒があったこと(いまはない)、上気道症状がないことは把握しています。この時点で局所所見に乏しい感染源による菌血症かなとあたりをつけました。

genaral appearanceは良好で、いろいろ聞いても熱と悪寒以外の症状はないとのこと。

それでも食い下がると、何となく体の節々が痛いという訴えはありました。

咽頭異常なし、心音呼吸音異常なし、頸部異常なし、腹部異常なし、CVA叩打痛なし、関節炎所見なし、皮疹なし。


どこにも細菌の居場所がないなーと悩みます。

こういう場合、患者にそのまま悩んでいることを伝えるようにしています。

「うーん、どこかにバイ菌がいそうなんだけど、どこにも見当たらないんですよねー」


すると、困っている医者を助けようと、患者が協力してくれることが多いです。

この患者さんも、「そういえば、熱があるから当たり前だと思っていたんですが、ちょっと頭が痛いです」と教えてくれました。

よくよく話を聞くと「思い出すと、熱が出る数日前からちょっとだけ頭が痛かったような」

頭痛の部位は左側で、重いような鈍いような違和感とのこと。

髄膜刺激徴候は陰性。

俯くと頭重感が起こり、左上顎洞・左前額洞に一致して叩打痛がありました(左右差あり)

鼻腔を覗くと、両側の鼻粘膜が高度腫脹し発赤しています。


これは細菌性副鼻腔炎だろう、と思いましたが、先行する上気道症状がない点に違和感があります。

これも、患者さんに助けを求めます。

「鼻のあなの隣にある副鼻腔という洞穴に膿が溜まっているようなのですが…」

「あっ、そうそう。私、数日前から鼻うがいを始めたんです!」


というわけで、鼻うがいにより、鼻腔内の細菌が副鼻腔に押しやられておきた細菌性副鼻腔炎と判断しました。


通常の問診では、頭痛があることを患者は言ってくれなかったのですが、

医者が困っている姿をみて、いろいろと教えてくれました。


「自分の思考回路を即時的に患者にすべて打ち明ける」

「診断がつかなくて困っている姿を見せる」

というのは、外来診断術として有用であると考えています。


同じ日に、心身症という触れ込みの高齢慢性腹痛患者さんに、同様のやり方であれこれ話を引き出したところ、剣状突起痛と診断できました。

(すでに撮影されていた腹部CTを見直すと、画像所見も合致していました)


というわけで、診断に困ったら、患者さんに助けてもらっています、という話でした。



2023年4月16日日曜日

家庭医の診察室における臨床推論

 

最近は忙しくて、ブログの更新ができておりません。


原因不明のアナフィラキシー・アナフィラキシーショックがこの2か月で2回起きており、びくびくしながら暮らしています。エピペン携行してます。

あれこれ調べても診断に寄与する情報はヒットせず。

今話題のα-galかなとも思いましたが、自主的経口負荷試験で陰性なので違いますね。


俯くと息が詰まる、という主訴の患者さん。

診察すると、大きな甲状腺腫(既知のもの)がありました。

これは、と思って両手を挙げてもらうと、Pemberton徴候陽性でした。

俯くことで、甲状腺腫が周囲の組織を圧排して起こるものと判断しました。

説明すると納得された様子でした。

甲状腺腫のフォローはすでに行われているところに引き続きお願いしました。


胸が痛いという主訴であちこち受診している若い男性。

明確な圧痛があり、horizontal arm traction maneuverは陰性でしたが、rooster maneuverで疼痛が再現できたので、肋軟骨炎と診断しました。

本人希望あり画像検査では何もないことは確認しました。


毎朝めまいが起こるという中年男性。

問診の結果、首を進展させるような姿勢でめまいが起こっていることが判明しました。

診察室内で再現性もありました。いわゆるvertigoではないようでした。

bruitがないことを確認したうえで頸動脈洞の圧迫を行うと、症状が誘発され、血圧と脈拍の低下が観測されました。

頸動脈洞過敏症と判断し、特定の姿勢を避けるよう説明しました。

その後は症状は起こっておらず、一安心です。


というわけで、家庭医の診察室における臨床推論の一コマでした。

救急とも病棟とも違う臨床推論の奥深さがあると思っております。


2023年4月1日土曜日

単著が出ます!


初めての単著「明日からの診療を変えるプライマリ・ケア/総合診療の再診論文70」が、4月11日に発売されます。



2021年から2022年8月末(執筆時点)の間に公開された家庭医療の論文のなかから、明日からの診療がガツンと変わる70本を選んで、個人的解釈をふんだんに入れつつ解説しています。わかりやすさ、診療への活かしやすさを優先しました。


目次は以下の通りです。従来の論文解説類書とは扱う内容が異なっていることが分かるかと思います。


1. 障害のある患者

2. がんの診断とケア

3. 周縁化された集団

4. 多疾患併存と薬剤

5. 医師自身を知ること

6. 慢性疾患

7. ヘルスケアシステム

8. 患者の理解

9. 診療の質


具体的にはこんな論文を紹介しています。

14. 便潜血陽性なのに内視鏡検査を受けない患者には、様々な障壁が存在する。

23. プライマリ・ケアでの支援的な経験がトランスジェンダーの方の心理的苦痛の低下と関連する

32. 訴えられるという不安が、多疾患併存患者との意思決定を困難にする

46. 男性の病気と思われている冠動脈疾患の影響が、女性では過小評価されてしまう

61. 医療者と患者がそれぞれ経験する心房細動は異なるものである


面白そうと思っていただけましたら、ぜひお手に取ってください。