2021年1月9日土曜日

医学教育における適応的熟達

 Kua J, Lim WS, Teo W, Edwards RA. A scoping review of adaptive expertise in education. Med Teach. 2020 Nov 28:1-30. doi: 10.1080/0142159X.2020.1851020. Epub ahead of print.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/0142159X.2020.1851020?journalCode=imte20


適応的熟達には効率性と革新性が含まれるが、医学教育における適応的熟達の研究状況についてはほとんど知られていない。本研究では、適応的熟達の概念的枠組み、発達、測定に関する既存のエビデンスをまとめた。

1986年以降に発表された英語の原著論文をPubmed, MEDLINE, ERIC, CINAHL, PsycINFOで検索した。研究の不均一性を考慮して、定量的統合は行わず、論文は定性的に要約した。

組み入れ基準を満たした48本の論文のうち、19本が概念的枠組みを、24本が発達を支援する介入を、5本が測定を検討していた。概念的枠組みは、医療従事者教育の内外で一貫していた。発達に影響を与える要因には、知識などの素因(知識を統合して革新する能力)、信念と態度(高いモチベーションと謙虚さ)、スキルなどの実現因子(enabling factor)(人とうまく付き合う能力、内省や学術活動の実施)、カリキュラムを実現させる要素などの資源(多様なケースの提供,解決策を生み出す柔軟性、教科書の批判的評価)、指導者によるフィードバックや継続的なカリキュラムの見直しなどの増強要因が含まれている。

適応的熟達については、妥当性のある測定ツールが2つ存在する。適応的熟達の発達がおこる介入を研究する機会は非常に多い.測定ツールの開発と検証には注目すべきギャップが存在している。


用語確認

adaptive expertise:適応的熟達

以下,本文中の記載より.

熟達には2つあり,特定の領域内で一般的なタスクを実行することの熟達をroutine expertise(固定的熟達化)といいう.一方,適応的熟達は,一般的な問題を解決することができるだけでなく、なぜその解決策が機能するのかについてのより深い理解に根差す.手続き的な知識だけでなく,物事が「なぜ」機能するのかを知るための概念的な知識を持っていることため,適応的熟達者は,類推的な問題解決能力を発揮することができるし,慣れない状況に直面しても乗り越える力がある.

感想

adaptive expertiseは,家庭医療学でよく言及される省察的実践家に似たような概念なのですね.2つの測定法とは,the adaptive expertise inventory と the adaptive expertise surveyのことみたいです.

routine expertiseとadaptive expertiseという言葉は知っておいた方がよさげですね.

教育学一般の概念を医学教育学の文脈で検討するという意味では王道ですね.