2020年5月28日木曜日

免疫不全のごくシンプルなまとめ



どうしても,どうしても,免疫不全が覚えられないのです.
何回教科書を読んでも,覚えられません.
「はたらく細胞」でもダメでした.かなり苦手な分野です.

仕方ないので,最小限の事項に絞って暗記することにしました.

・液性免疫不全
免疫グロブリンの低下により,莢膜を持つ細菌に弱くなる
原因菌:S. pneumoniae,H influenzae,Klebsiella spp.など
病態:CVID,多発性骨髄腫,CLL,脾摘後

・好中球減少
発熱・臓器特異的所見が起こりにくい.
一般的な細菌に加え,S. aureus,P. aeruginosa,アシネトバクター,アスペルギルスに注意
病態:急性白血病,化学療法,再生不良性貧血,薬剤性

・細胞性免疫不全
T細胞の異常.ウイルス,真菌,細胞内寄生菌に弱くなる.
原因菌:CMV,ニューモシスティス,クリプトコッカス,結核,ヒストプラズマ,レジオネラ,ノカルジアなど
病態:HIV,悪性リンパ腫,免疫抑制薬(シクロフォスファミドは,他の免疫不全も引き起こす)

・ステロイドは細胞性免疫不全>液性免疫不全

これで何とかなるでしょう.

参考:免疫不全者の呼吸器感染症




2020年5月25日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 6


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


支援

 学生が自分の快適な領域から一歩外に出て、患者や臨床医と協働することを助ける,3つの条件がある.この条件は、経験の種類(見学、クラークシップ、臨床研修、臨床現場訪問、選択実習、インターンシップのいずれであっても、そして経験の期間(瞬間、数ヶ月、数年など)によって変わることはない。その条件とは,次の 3 種類の支援である。

・組織的支援:施設、リソース、および学生実習を統括する団体
・教育学的支援:臨床医による,学生の学習の公式,非公式両面からの支援
・感情面での支援::学生の学習環境における肯定的な態度と価値観の表示

 支援とは,学生を甘やかすことでもなければ,追加のオプションでもない.学生が臨床での課題に立ち向かうことを可能にするものである。図 2 はその例示である.表 3 の完全版ガイドで詳細を述べる.



組織的支援
 組織的支援により,学生、患者、臨床医が協働して,臨床と教育の双方を推し進めて3つの当事者すべてに最大の利益がもたらされるようになる。臨床医がリーダーシップを発揮することで、患者,学生との三者間の相互作用が促進されるが、これは組織的支援の最も重要な要素である。

教育学的支援
 ExBLでは、「教育teaching」よりも「公式な教育学的支援formal pedagogic support」という言葉を好んで使用する.それは,教師ではなく学生に関するプロセスに再び焦点を当て、教条的ではなく支持的なものであることを強調するためである.つまり,良い実践をモデル化し、臨床活動に学生を巻き込み、自分の経験を構造化しそこから学ぶ方法を学生に伝えることを意図している。臨床医は、自分の考えを声に出し、学生が一緒に考えることを援助し、学生に説明し、質問し、耳を傾け、臨床での実践について話をすることによって、非公式の支援を提供する。また臨床医は、学生がただ参加するだけでなく,省察を経て実際の患者での学習と能力の獲得を目指すようになる手助けをする.

感情面での支援
 臨床医は、教育的および臨床的実践に対して積極的な態度を持ち、集団レベルでも個人レベルでも学生に肯定的にかかわることで,本質的な支援を提供することができる.感情面での支援は,定義するのは難しいが、認識するのは簡単である。それが最も容易に観察されるのは学生と臨床医との個人間での相互作用においてであるが、どのカリキュラムのレベルにおいても感情面での支援は存在する.配置やカリキュラムを決めるリーダーは学生の情動面をサポートすることで,最も効果的な人材になるからである。


ExBLの評価

 適切に設計された学習環境は、学生が学ぶためのエネルギーを自分の中に見つける助けとなる。配属により学習環境の設計がどれだけうまく行われるかを評価する方法は様々あるが、そのどれもが学生に数値スケールで項目を評価するよう求めるものである.マンチェスター臨床配属指数(MCPI)は、ExBLを評価するために特別に開発されたものである(Dornan et al. 2012 Dornan T, Muijtjens A, Graham J, Scherpbier A, Boshuizen H. 2012. Manchester Clinical Placement Index (MCPI). Conditions for medical students’ learning in hospital and community placements. Adv Health Sci Educ. 17:703–716.).これは短く(わずか8項目である)、学生にコメントを求めて,配属を改善する方法を提案してもらうことができる。学生が簡単に回答を埋めることができるだけでなく、MCPIは広く使用されている他のスケール(Kelly et al. 2015 Kelly M, Bennett D, O’Flynn S, Dornan T. 2015. Can less be more? Comparison of the Dundee Ready Educational Environment Measure (DREEM) and a novel 8-item placement quality measure. Adv Health Sci Educ. 20:1027–1032.)と少なくとも同等の信頼性を有している.MCPIの8項目のうち5項目の平均は学習環境の質を測定し、他の3つの項目は学生のリハーサルと寄与に与えられた支援を測定する。MCPI は、ExBLの評価を行う際に,論理的に最初に選択すべきものである。


2020年5月21日木曜日

薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)


家庭医でも,抗精神病薬を処方するケースはままあります.

錐体外路症状に注意,という知識は当然ありますが,
具体的に何に注意したらいいのか,というと,あまり自信はなく…

薬原性錐体外路症状評価尺度(Drug-Induced Extrapyramidal Symptom Scale: DIEPSS)では,9つの徴候をそれぞれ5段階で評価します.

・歩行 Gait
小刻みな遅い歩き方.速度の低下,歩幅の減少,上肢の振れの減少,前屈姿勢や前非右突進現象.

・動作緩慢 Bradykinesia
動作がのろく乏しい.動作の開始または終了の遅延または困難.顔面の表情変化の乏しさ(仮面様顔貌).単調で緩徐な話し方.

・流涎 Sialorrhea
唾液分泌過多

・筋強剛 Muscle rigidity
上肢の屈伸に対する抵抗.歯車現象,蝋屈現象,鉛管様強剛,手首の曲がり具合.

・振戦 Tremor
口,手指,四肢,躯幹の4-8Hzのリズミカルな運動

・アカシジア Akathisia
静坐不能.下肢のムズムズ感,ソワソワ環,絶えず動いていたいという衝動などの内的不穏症状とそれに関連した苦痛.運動亢進症状(身体の揺り動かし,下肢の振り回し,足踏み,足の組み換え,うろうろ歩き).

・ジストニア Dystonia
筋緊張の異常な亢進.舌,頸部,四肢,躯幹などの筋の捻転やつっぱり.持続的な異常ポジション.舌の突出捻転,斜頸,後頸,牙関緊急,眼球上転,Pisa症候群

・ジスキネジア Dyskinesia
運動の異常な亢進.顔面,口,舌,顎,四肢,躯幹の他覚的に無目的で不規則な不随意運動.舞踏病様運動.アテトーゼ様運動を含む.振戦は評価しない

・概括重症度 Overall severity

以上の項目はしっかり覚えておくべきですね.
着眼点が分かると,わずかな異常を見落とす確率が下がりそうです.


2020年5月18日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 5



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


参加

 サポートの上で臨床現場に参加する経験は,学生が有能な医師になる一助となる。参加する際は、患者、臨床医、学生という三つ組みのメンバーとなる。参加には3つのタイプがある。

・観察:実際に手を動かすことはせず、臨床現場に参加し実践から学ぶ
・リハーサル:患者に対する治療は行わないが,臨床での業務に従事する
・寄与:臨床業務を(共同して)実践する責任を与えられている

 観察、リハーサル、寄与は、独立して臨床を行うようになるための梯子の段である。学生がこの梯子をのぼる姿は決して直線的ではないが,その理由の一端は,学生がどこまで参加できるかが,患者の臨床上のニーズに従い,大きく,そして時に非常に素早く変化するからである。表2で、臨床医が参加を促進する方法を説明する。


観察
 観察は学生に幅広い経験を与え、患者の治療に積極的に参加するようになるきっかけとなるため、観察という梯子の段を学生が踏むことは必須だが、しかしあまりにも長く観察の段で足踏みしてはならない。臨床医は表2に示すテクニックを使用して、学生を受動的な観察者ではなく能動的な参加者にするほうが,ずっと効果的である.

リハーサル
 表2で、学生が責任を取ったり患者の治療に携わったりすることなく、状況に応じて,医師としてのふるまいを経験することができる活動を挙げる.

寄与
 梯子の一番上の段は,どれほど小さなものであっても、患者の治療に実際に携わることである.もちろん、これは安全でなければならないため,学生の能力と患者のプロブレムの性質によって左右される.学生はこの最上段にいるときに最も多くのことを学ぶ.つまり自分の能力を最大限活かして患者と関わるようになる。

表2. 参加型学習の支援(割愛)


参加のダイナミクス
 臨床現場での学習は本質的にダイナミックであるため、臨床医は動的に対応し,参加の水準を調整して学生にとって最も教育的な量の課題になるよう維持する必要がある.つまり,学生の予想より少し難しいタスクを与え,そのタスクを実行する自由も予想より少し多く与えることが求められるが,同時に,学生は臨床に参加するのに正当な存在であり,学生の学びは大事なことであり,学生と患者の双方の安全が保たれることを明確にしなければいけない.このことが自然と身に付いている臨床医もいるだろう.後述する表2とImplicationの章で,実践的なヒントを述べる.


実際の患者での学習(PRL)
 RPLとは、学生が記憶に残る患者に以前に行った学習を結び付けて、学んだことを新しい能力に再構築、統合、強化、文脈化する,省察プロセスである。参加の経験を省察することは、やまいと疾病の範囲と複雑さを理解し、理論と実践を結び付けるのに役立つ。学生が有する経験とRPLは多いほど良い.というのも,医師の頭の中がどうなっているのか分かるようになるからである.RPLが盛んとなるには,学生の省察的学習を支援する臨床医(支援方法については表3参照)がいる必要がある.臨床医にとってとりわけ大事なのは,学生の声によく耳を傾け、学生に自分の経験をあらゆる角度から洩らさず語るよう慎重に促すことである.


2020年5月14日木曜日

診断と治療「診療困難な痛みに向き合うケーススタディ」に寄稿しました



診断と治療2020年5月号「診療困難な痛みに向き合うケーススタディ」に拙稿が掲載されています.
http://www.shindan.co.jp/books/index.php?menu=03&zcd=2

プライマリケアレベルでよく出会う良性の胸痛について
・検査が陰性に出ることで,診断確定のモチベーションがわきづらいこと
・疾患概念を知り,特異的な臨床所見を狙いに行くことで診断ができること
・診断をつけることでbio-feedbackがかかり,説明が症状を和らげる治療となること
・良性疾患は積極的に診断する姿勢が必要だが,pitfallの回避も必要であること
以上の項目について議論しています.

つい最近も,1年間の腹痛を訴える若年女性を診察しました.
最終診断はslipping rib syndromeであり,説明するととても安心しておいででした.

プライマリケアを行うなら頻繁に遭遇する疾患群ですので,もしよければご笑覧ください.


2020年5月11日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 4



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


能力
経験が卒業生に与える能力には3種類ある:知的能力(知っている)、実践的能力(スキルがある)、そして情動的能力(感受性がある).そして,それぞれがサブタイプを有している。能力のタイプは境界が曖昧であり,それは各能力が複雑かつ個性的で、場面により様々に変化し、互いに重なり合い、臨床経験を通じて進化するためである.我々はラベルを、ある(サブ)タイプの能力を別の機能と正確に区別する定義としてではなく、各能力の原型を示すものとして利用している。

・知的能力
経験とRPLを省察することから生じる知識とは,医師となり,医師であり続けるための方法,医師が医学を実践する文脈,およびその実践の構成についての一元的な理解である。この能力のサブタイプには、応用的知識と推論スキルがある.

・実践的能力
これは観察可能な行動のセットを指す.つまり,:臨床スキル(患者に直接影響を与える行動)と自己管理スキル(学生や医師が自分の仕事と学習を整理するための行動)から成る.

・情動的能力
情動的能力には、価値観と感情が含まれる。自分が医者であることを自覚し,他者やその仕事に感情的に関わることが卒業生に求められるため、この能力は重要である。この能力は観察可能な行動とはいえないが、行動に確かに影響を与える。このサブタイプには,気分(例:満足感、報酬、不安、怒り)、自信と動機、アイデンティティ(例:自分が医者になりつつあるという自覚、臨床現場に属しているという自覚、患者を治療する権利を有しているという自覚)、態度と価値観(例:理想主義である、敬意を持っている、他者と協働できる、責任感がある)、他者への想い(例:共感、思いやり)がある.情動的能力は、伝統的にあまり強調されてこなかった.表1で詳説する.

表1.

サブタイプ
トピック
気分
肯定的な気分である
幸せである 光栄である 刺激を受けている 誇っている 安心である 報われている 安全を感じている 満足している
両価的あるいは否定的な気分を認識し適切に対応している
心配である 葛藤している 落ち込んでいる 怯えている 苛立っている 悲しんでいる ストレスである 弱っている
動機と自信
達成した 自信がある モチベーションがある 自己効力感がある
他者に対しての感情
共感している 同情している
恐怖や嫌悪など他者への否定的な感情を認識し対応している
態度と価値観
おもいやりがある 協働的である 批判的でない 境界を認識している 限界を認識している 敬意がある 責任感がある 自己を認識している 個人の価値観を示している 肯定的態度を示している



2020年5月7日木曜日

erythrasma(紅色陰癬)


皮膚疾患の英語ってどうしてこんなに覚えにくいのでしょうか.

erythrasmaは紅色陰癬と訳されます.
よく出合っているはずなのですが,疾患概念としてイマイチ理解していなかったのでまとめました.
ちなみに,erysipelasは丹毒です.ごっちゃに覚えてました.

erythrasmaは,皮膚の皺にできる細菌感染症です.
脇,陰部,足趾間などにできやすいです.
原因菌はCorynebacterium minutissimumです.

皮疹は境界明瞭で,痂皮を伴い,表面に亀裂があります.搔痒を伴うことがあります.
糖尿病患者では全身に広がることがあるようです.

UpToDateのページに病変の写真があります.これなら何とか一発診断できそうです.

似た疾患でintertrigoがあります.こちらは間擦疹のことです.やはり英語は難しい.


2020年5月4日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 3


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


本目標と具体的目標

 本稿の本目標は、臨床医に次の質問に対する実践的な回答を提供することである.「学生が私のユニットに配置された時、私が処置をしている時,病棟にいる時,または私の診察室にいる時,私はどのように医学生に教えるべきか」.この本目標を達成するために、以下の項目をどのように達成できるのかについて実践的なガイダンスを提供するのが,本稿の具体的目標である。

・医学生が臨床現場に参加することができる.

・臨床現場のスタッフメンバーと患者が学生の参加を支援できる.

・臨床医が、学生が実際の患者の経験から内省的に学ぶ手助けをすることができる.

・安全で優秀で思いやりのある医師の能力とアイデンティティを涵養することができる.

 上記の質問に対する回答を待ち望んでいる読者は、図3と表2にすぐ目を向けるとよい.一方,実践法だけでなく原則についても理解したい読者は、次のセクションで推奨する事項についての説明を読むのがよい.


経験に基づく学習(ExBL)

 経験に基づく学習(ExBL)という教育学は、20年にわたる研究の業績であり、その中には職場学習理論の調査、約300の出版論文からのエビデンスの抽出、研究プログラムの実施、一連の論文の出版が含まれている。

 図1はExBLの模式図であり,学生はこの図のようにして,新人医師としてふるまうために医師としてのアイデンティティの基礎を確立する必要がある.これらの基礎を築くために、学生は能力を身に付ける必要がある。実際の患者からの学び(RPL:Real Patient Learning)は,臨床医、患者,学生という三つ組みの中に参加した経験の省察から生じるものであり、学生に能力を身に付けさせるものである。臨床医が支持的に振舞うかどうかで、学生の参加、RPL、および能力の獲得に適した状況となるかどうかが決まる。臨床医は,(1)良い診療をモデル化し、学生と共にそれを提供する.(2) 学生に現在の自分の能力を拡張させるよう促す.(3)患者が学生の学習に共に参加できるようにする.臨床医は、学生を職場での会話に巻き組み、治療を受けている患者との交流を促し、経験に対する省察を支援する.SPaRCはExBLの要素をまとめたものであり,支援(Support),参加(Participation),実際の患者からの学び(RPL),能力(Capability)の頭文字を取ったものである.図 1 で最も外側にあり全てを包含する矢印は、支援が ExBL の中核的な条件であることを強調している.


ExBLの射程範囲
範囲内:患者への直接的な治療と学生教育の双方ともを目標とする活動
範囲外:high-stakesな評価(訳注:合否や進級を決めるような評価)とシミュレーション


図1