2020年1月27日月曜日

Carl Rogers: Core conditions for facilitative educational practice


日本プライマリケア連合学会が企画した,英国家庭医療学会(RCGP)指導医を招いての講習会(Training the trainer: TTT)に参加しました.
https://www.rcgp.primary-care.or.jp/

ブログ上での振り返り第2弾です.
期間中に幾度となく登場し,繰り返し強調されたCarl RogersのCore conditions for facilitative educational practiceを取り上げます.

要は,ファシリテーターである指導者としてあるべき振舞い方を簡潔にまとめたものです.
1) 指導者のリアルを見せる
2) 学習者をほめる,評価する
3) 共感的な理解を示す

1)が少し理解しにくいですが,あまり完璧な姿を見せるな,ということだと理解しました.指導者が素晴らしすぎると学習者が萎縮してしまうというわけです.また,完璧を目指すのは燃え尽きの要因となります.

Carl Rogersはカウンセリングの祖として有名です.
以前からこの人の本を買おうと思っては,積読消化が先と財布のひもを締め直す日々です.
Active listening(積極的傾聴)の本は読んだことがあります.特に看護界で有名な用語ですが,なんとなくの理解に留めるには惜しいので,ぜひ原典を読みましょう.
あとは,カウンセリングの中核三条件:一致,無条件の積極的関心,共感的理解が有名です.個人的には2つ目の「無条件の積極的関心」にグッときます.

話がそれましたが,Core conditions for facilitative educational practiceの出典は"Client-Centered Counselling"のようです.

以下,原文を抄訳します.

1. Realness in the facilitator of learning. (ファシリテーターの学びのリアル)
指導者として不可欠な3つの態度のうち,最も基本的なものが,ありのままをみせる,ということかもしれない.指導者がありのままの姿で,見栄を張らず,見せかけを飾ることなしに学習者と関係性を気付くとき,その指導者はぐっと優秀さを発揮するようになる.学習者と同等の目線で接することで,学習者は自己を卑下することなく,自分らしくいることができる.

2. Prizing, acceptance, trust. (褒め,受容,信頼)
学習者を褒める,つまり学習者の感情を褒め,意見を褒め,その人自身を褒めることは,成功するファシリテートの際立った特徴である.ほめることは思いやることであり,支配することではない.相手を個人として受容し,価値ある人間だと信頼することである.褒めるとは,学習者を多くの感情と可能性を持っている未完の器だとみなすことである.

3. Empathic understanding. (共感的理解)
共感的理解は,経験型学習を自ら開始する風土を養成する.学習者の内からあふれ出るうねりを理解し,学習過程が学習者の眼にどのように映っているかを鋭く読み取ることで,意義深い学習の機会が増えていく.学習者が求めているのは,品定めされることではなく,単に理解してもらうことである.それも指導者の視点からではなく,学習者自身の視点からの理解である.

日々,気を付けたいものです.


2020年1月20日月曜日

3か月の入院担当ケースを振り返る


昨年10月から,専攻研修の基幹病院(80床程度のcommunity hospital)で,主に病棟・救急を担当しています.
多岐にわたる問題を片っ端から受け持っていたような感覚があるので
その感覚が果たしてどれだけ正当なものなのか
10月から12月の3か月で受け持った入院ケースを順不同で書き出します.

不明熱→ウイルス感染症
肺炎によるCOPD急性増悪,経過中にCPPD関節炎,胆管炎,緑膿菌感染を続発
出血契機の肝性脳症,身体障害者申請
フレイル高齢者の独居生活限界事例
肺塞栓症,在宅支援環境調整
終末期心不全緩和ケア
severe sepsis→日本紅斑熱のsnap diagnosis
虚血性腸炎
Bochdalek孔ヘルニアによる誤嚥性肺炎
肺炎によるアルコール離脱
アルコール性急性肝炎,complex case
細菌性肺炎,地理的理由で入院
脊椎デバイス感染症
消化管出血→大動脈結腸瘻
薬物過量内服
癌性疼痛緩和ケア
肺炎によるseptic shock
側頭動脈炎
高齢者の意識障害→尿路感染症
リウマチ患者の発熱→両側腎膿瘍
高齢者の片麻痺→尿路感染症
発熱+皮疹→薬疹
COPD急性増悪+心不全急性増悪(CS1)
急速に進行した心不全→終末期ケア
急性膵炎→膵炎後の感染
心筋梗塞除外目的の経過観察
失神→Mendelson症候群
腎盂腎炎
癌性潰瘍の感染
憩室炎
熱源不明の細菌感染症
誤嚥性肺炎→原因が脳出血
熱源不明の細菌感染,横紋筋融解
腎盂腎炎による敗血症性ショック
重症肺炎→人工呼吸器管理
窒息→ROSC→社会復帰
腸炎,脱水
癒着性イレウス
心不全,肺炎,胆嚢炎→集中治療
精神疾患患者の意識障害→前立腺炎
腎障害+貧血精査
抑うつによる食事摂取拒否
早期閉鎖型大動脈解離
肺炎+心不全
特発性細菌性腹膜炎
尿膜管膿瘍
社会的孤立→横紋筋融解症
腎盂腎炎+COPD急性増悪
RS3PE症候群
誤嚥性肺炎
敗血症性ショック→腸腰筋膿瘍
肝性脳症
COPD急性増悪
急性胆管炎
肺炎+心不全
憩室出血
心不全急性増悪(CS2)


commonなものから比較的rareなものまでありますね.
重症度も様々です.
実際には,疾患の治療だけでなく,心理社会的アプローチや家族志向型ケアも同時に行っているので,病名リストを眺めるだけでは分からないことは多いです.

小さい病院だからこそ,いろいろできて楽しいです,というお話でした.


2020年1月13日月曜日

症例報告:Rumpel-Leede試験陽性のパルボウイルスB19感染症


American Journal of Medicine誌に症例報告が掲載されました!
Parvovirus B19 Infection with Positive Rumpel-Leede Sign.

パルボウイルス感染症では,gloves and socks syndromeが特徴的ですが,
さまざまな点状出血を呈することが知られています.
パルボウイルス感染症による点状出血をまとめた概念として.
Parvovirus B19-associated purpuric-petechial eruptionが提唱されています.

本報告は成人のパルボウイルス感染でRumpel-Leede試験が陽性になったというものです.
数日前から発熱,全身痛,全身リンパ節腫大,様々な皮疹が出現しており,四肢末端の浮腫も起こったため来院したというものです.
来院時には皮疹は消褪していましたが,血圧測定により紫斑が出現しました.

他のウイルス感染症との類似性を指摘したうえで,
すでに報告されているPBPPEとの異同を議論し,
全身症状+皮疹消褪後の紫斑出現ではパルボウイルス感染を考慮すべきであると主張したものです.

是非ご一読ください.


2020年1月6日月曜日

特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(腹水検査の解釈)


引き続きSBPについてです.

腹腔穿刺の閾値を下げたほうが良いことは分かりました.
次に知るべきは,腹水検査の解釈の方法です.


腹水白血球500/ul以上または好中球250/ul以上でSBPの診断になります.
グラム染色は陰性でも不思議はありません.
培養を取る際は血液培養ボトルに10ml以上の腹水を入れるようにします.それで感度は8割近くになります.(当然血培も提出します,感度75%程度らしいです).
もし培養が複数陽性になれば,二次性の可能性が極めて強くなります.


好中球250/ul以下でも,培養が陽性になることがあるようです.
これをmonomicrobial nonneutrocytic bacterascites(MMNNB,またはMNB)といいます.
長いので細菌保有腹水(bacterasictes)でいいと思います.
MMNNBやMNBといっても,専門医でない限り通じないでしょうし.

自然軽快する例もあるようですが,SBPに移行する例もあり,臨床的な判断が必要です.
SBPを疑って検査した場合は治療対象とし,初発の腹水などで特にSBPを念頭に置いて検査していないのであれば時間を空けて再検査,でよいと思います.
臨床症状のないMNBのうち,SBPに進行するのは15%である,という疫学が役に立つかもしれないです.

培養の結果が出ておらず,臨床的にSBPが疑わしいけど好中球は250/ul以下,ということしかわかっていない時点では,やはり治療を開始すべきでしょう.
もちろん他疾患の除外は必要です.


上記の培養の感度をみれば,好中球はいるけど培養陰性というケースは容易に想像されます.培養陰性好中球性腹水(culture-negative neutrocytic ascites:CNNA)といいます.
うち1/3で血液培養が陽性になるようです.やはり血培は大事ですね.
CNNAのなかには,単純に培養が出なかった一般的なSBP群の他に,
結核,淋菌,クラミジアなどの感染や,膵炎,腹膜がんなどが混じってきます.
細胞診,腹水アミラーゼ,腹水ADA,抗酸菌培養,抗酸菌塗抹などの提出が必要ですね.


また,誤って腸管を刺すと,好中球<250/ulだけど複数菌が検出される,という結果になることがあります.polymicrobial nonneutrocytic bacteriascites(PMNNB)といいます.腹水蛋白が1g/dl以上あれば,二次性腹膜炎に進展せず自然改善が得られる可能性が高くなるようです.


まとめると
・腹水白血球500/ul以上or好中球250/ul以上ならSBPとして治療
・グラム染色が陰性のSBPは珍しくない
・培養結果未着で好中球250以下でも臨床上疑わしければSBPの治療を開始する
・好中球250以下で培養陽性なら,臨床上疑わしければSBPとして治療.無症状なら経過観察し,時間を空けて再検査
・好中球250以上で培養陰性なら,SBPとして治療しつつ,結核・膵炎・悪性腫瘍の精査
・腸管の誤穿刺で,好中球250以下で複数菌検出という結果になることがある