2015年4月27日月曜日

閉経前の異常子宮出血(AFP)



前回の投稿に関連して、2012年のAFPに載った閉経前の異常子宮出血のレビューについてまとめます。

Evaluation and Management of Abnormal Uterine Bleeding in Premenopausal Women
Am Fam Physician. 2012 Jan 1;85(1):35-43.


・罹患率は9~14%。
まずは妊娠を除外。
排卵性出血無排卵性出血の2つに大別できる。


・無排卵性出血は、不整でありかつ頻繁でない周期で訪れる。
・出血量は軽いものから非常に重いものまでさまざま。
・無排卵性出血に内包される用語は以下の通り
  無月経(3周期以上なし)
  稀発月経(周期が35日以上)
  不正出血(大量出血または月経期が7日以上であり、周期が不整)
  機能不全性子宮出血(原因疾患が除外されている無排卵性出血とここでは定義)

排卵性出血は月経過多ともいう。
周期は整であるが、出血量が多いまたは月経期が7日以上ある。
・出血量の推定には、シートを何枚変えたかを聴くといいかも。


【無排卵性出血】
初経から2,3年または閉経まで8年間では生理的に見られる。
・一方、上記の期間以外の無排卵性出血は異常である。
・無排卵→黄体できない→プロゲステロン作られない→子宮内膜成長しすぎる→破綻出血

・無排卵性出血の6~10%はPCOSである。
未コントロールの糖尿病、甲状腺機能亢進/低下症、高プロラクチン血症、摂食障害も原因となる。
抗てんかん薬(特にバルブロ酸)は体重増加、男性化、無排卵の原因となる。
定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の一部(クロザピンやリスペリドンなど)も高プロラクチン→無排卵を起こしうる。

・無排卵が2~3年続くと子宮体癌のリスクとなる。
・無排卵を繰り返す閉経前の女性の約14%で、子宮体癌またはその前駆病変がある。
子宮体癌のリスク:高齢、肥満、出産歴なし、不妊、糖尿病、大腸がんの家族歴、長期間のエストロゲン療法、タモキシフェン使用
・異常子宮出血患者にスクリーニングを行い前癌病変~癌を検出するときのNNS(number needed to screen)
  45歳以上かつ閉経前だとNNS 13
    体重90kg以上だとNNS 8
    どちらもだとNNS 5

・異型性のない過形成が癌に進行するのは5%以下。
・一方、異型性のある過形成は30%が癌に進行し、また42.6%の患者で診断されていない腺癌が既に存在している。

・まずは病歴と身体診察。そして妊娠検査とTSH、プロラクチン測定。
思春期、または35歳以下で上述の子宮体癌リスク因子がなければ、ピルを試してみる。症状が続けば子宮内膜生検→経膣エコー→子宮鏡の順番で検査。
・上記に当てはまらない場合はまず内膜生検。異型性のない過形成ならばプロゲステロンなどを試しながら3~6か月後に再検。それ以上であれば婦人科紹介。


【排卵性出血】
・原因:甲状腺機能低下症、末期肝障害、出血異常、粘膜下筋腫など。
von Willebrand病は原因の13%を占める。若年者で多い。
出血異常(血友病、白血病、血小板異常、von Willebrand病など)のリスク:家族歴、月経期が7日以上で生活に支障をきたす、貧血の治療歴、抜歯や手術、出産などで出血多量
・半数で原因が同定できない。
・癌のリスクにはならない。

・まずは病歴と身体診察。そして妊娠検査とTSH、血算測定。
思春期または上述の出血以上リスク因子があれば、出血異常の検査。
・上記に当てはまらない場合は画像検査(エコーなど)、それでも異常がなければプロゲステロンやNSAIDs、トラネキサミン酸などを使って3~6か月経過観察。


量が多くなったので、特に大切だと思うところを抜き出します。

~Clinical Pearls~

・異常子宮出血をみたら、まず妊娠を除外する。

・次に、周期が整か不整かで、無排卵性か排卵性かに大別する。

・無排卵性なら子宮体癌のリスクを考慮して検査計画を立てる。

・排卵性なら出血以上のリスクを考慮して検査計画を立てる。



2015年4月26日日曜日

月経困難症について(AFP)



今週のNEJMのClinical Practiceが子宮筋腫についてだったので
いまいち理解しきれてない月経困難症について調べてみました。

Ameican Family Physician(AFP)に載ったレビューをまとめます。

Diagnosis and Initial Management of Dysmenorrhea
Am Fam Physician. 2014 Mar 1;89(5):341-346.



・原因疾患があれば続発性、なければ原発性

・典型的な原発性は、初経後6-12か月で発症し、有病率のピークは10代後半~20代前半
・原発性の特徴的な症状は、下腹部痛もしくは骨盤痛。背中や下肢に放散することもある。
・疼痛は月経開始時に起き、8-72時間持続。
・腰痛、頭痛、下痢、疲労感、嘔気嘔吐を伴うこともある。

既往のない中年以降の月経困難症は続発性を考える。
・続発性の付随症状:月経過多、月経間期の出血、痛みが周期的でない、性交時疼痛、性交後の出血、不妊

・思春期~若年の月経困難症の約10%が続発性。
・続発性の最多原因は子宮内膜症。25-29歳で多い。
・一親等における子宮内膜症の家族歴があれば、患者は続発性の可能性が強くなる。
疼痛の時機や程度の変化や、もしくは性交時痛があれば子宮内膜症を疑う。
・子宮圧痛、付属器圧痛、頸部他動時痛のうち1つ以上あればPIDを疑う。

・性交歴のある思春期患者には内診を行うべきである。全員に行う必要はない。
・子宮内膜症に対する内診:感度76%、特異度74%、PPV 67%、NPV 81%。
・続発性を疑えば経膣エコーを行うべきである。
・腸管子宮内膜症に対する経膣エコー:感度91%、特異度98%、LR+ 30, LR- 0.09

・原発性にはNSAIDsを強く推奨。月経開始予定日の1~2日前から始めて、2~3日服用を続ける。
・原発性にはピルも勧められる。しかしエビデンスは限定的。
・原発性では骨盤を温めるのもいいかも。
・子宮内膜症にはピルが第一選択。







2015年4月24日金曜日

NEJM Case13-2015



今週のNEJM Case Recordです。
Case 13-2015 — A 27-Year-Old Woman with Arthralgias and a Rash


【患者】タークスカイコス諸島で蚊に刺され、8日前に帰国した27歳女性
【主訴】関節痛、発疹

5日前:指関節、手関節、肩関節痛と、腰痛、頸部痛、眼の奥の痛み、39.0℃の発熱、悪寒、嘔気、食欲不振、咽頭痛、眼の充血、陰部潰瘍、舌側面の潰瘍、味覚低下、頸部と鼠径部の圧痛を伴うリンパ節腫大が出現。
4日前:右前腕にピンク色で無痛の痒疹(蕁麻疹様)が出現。そこから1時間で、体幹と四肢に広がる。
3日前:関節痛が肘、膝、足首、足趾にも。手首以遠の腫脹あり。歯磨き時に歯肉出血。夕方に発熱、頭痛、発疹が消失。
2日前~:関節痛以外の症状が消失。
当日:新たに痒い丘疹が出現。手掌から始まり上肢、体幹、下肢に広がる。足底にはない。

BT 36.4℃、HR 69bpm、BP 135/87、RR 18/min、SpO2 98%r/a
ターニケット試験陰性。腎機能、電解質正常。Hb 14.2、WBC 5600、Plt 10.7万、ALT 52、AST 46


なんとなくデング熱かチクングニア熱かなと思うのですが、症状の細かい違いは良く知りません。
潜伏期はこんな感じだそうです。


デング熱とチクングニア熱は似ていますが、明確に区別すべき病態です。
デング熱は、最初の発熱以降すっとよくなることもあれば、重症化する人もそれなりにいます。
チクングニア熱は、重症化は稀ですが、強い関節痛がずっと続くのが悩みの種です。

チクングニア熱に特徴的なものとして、低Ca、高CK、粘膜潰瘍や蕁麻疹などの皮膚病変、小~中関節を対称に侵す多関節炎などがあります。
実際は、渡航地の発生状況などを参考に検査を進めていくのがいいと思います。
本例では検査にてチクングニア熱の診断となりました。

実際の論文ではたくさんの鑑別診断について解説しています。
ぜひご一読ください。


~Clinical Pearls~

・発熱、関節痛、発疹をみたら、渡航歴を聴取すべき。

・デング熱は良くなりやすいが重症化もあり、チクングニア熱は症状続いて苦しいが致死性ではない。

・多様な発疹、粘膜潰瘍、浮腫と多関節炎をみたら、チクングニア熱の可能性が高まる。


2015年4月16日木曜日

クロストリジウムディフィシル感染症(NEJM Review)



今週のNEJM Case Recordは胎便吸引症候群の原因についてでした。
今回はCase Recordのまとめはパス。そのかわり、Review Articleで知らなかったこと、へぇ~となったことを中心に箇条書きします。本文はこちら


Clostridium difficile Infection

・高齢、抗がん剤、重篤な基礎疾患は、毒素への対抗力を弱める。
・新生児の大多数はC. difficileのコロニーがあるが、毒素が結合する受容体が発現していないため発症しない。

・B1/NAP1/027という群が薬剤耐性が強く毒素も強い。

・ほぼすべての抗菌薬がリスクとなりうる。
C. difficile市中感染も問題になっている。比較的若年者に多く、抗菌薬曝露などのリスクファクターに乏しい。程度は比較的軽いが40%は入院を要する。

・PPIはC. difficile感染のリスクを上げるという意見もあるが実のところははっきりしない。
(すくなくともC. difficile感染の診断後は不必要なPPIは中断した方がいいと思います。doi:10.1001/jamainternmed.2015.42.)

・感染に関連した死亡率は5%、すべての原因を合わせた死亡率は15-20%。

WBC>15000、低Alb、急性腎不全があれば、Severe C. difficile infectionである。

・下痢患者で、酵素免疫アッセイかPCRアッセイのどちらかでも陽性なら治療開始。どちらも陰性なら、平均的なリスク集団においてNPV>95%。

・治癒患者でも症状治まってから数週~数月は試験は陽性に出る。
(The Society for Post-Acute and Long-Term Care Medicine(AMDA)が発表したChoosing Wiselyの10項目のうちの1つに、「治癒確認のためのC. difficile検査はしてはいけない」とあります)

・予防は感染防御と不必要な抗菌薬投与の削減
・治療はバンコマイシン経口が最も良いと考えられる。



2015年4月15日水曜日

64歳女性:下痢と腹部膨満(Mayo Residents' Clinic)


4月号のMayo Clinic Proceedings Residents' Clinicです。
なぜか3月号が見れません。どうしてでしょうか。

4月のResidents' Clinicは2つ記事がありますが、1つは嚢胞性線維症が題材で、日本にはまず見ない疾患だったので本ブログでは紹介しません。


64-Year-Old Woman With Diarrhea and Increased Abdominal Girth


64歳女性が、1か月前からの食後の水溶性下痢と、腹回りが大きくなってきたことを主訴に来院しました。
血圧136/83、心拍96、SpO2 95%r/a、呼吸数18、体温36.9℃です。どうやら腹水がたまっている様子。

新規発症の腹水をみたら、いの一番に特発性細菌性腹膜炎(SBP)を除外しなくてはいけないそうです。腹水をとって、好中球>250/uLか培養(+)だとSBPの診断になり、抗菌薬治療開始です。
また、血清Albと腹水Albの差が1.1g/dL以上だと、門脈圧亢進を疑うそうです。

本例では、腹水所見によりSBPは除外、門脈圧亢進が疑われました。
血液検査では、Hb 9.8, MCV 100.3, WBC 18600, Plt 11.8万, INR 1.4。
また、ALP 589で、T.Bil, AST, ALT, Albは正常値。
画像検査では腹水、肝左葉腫大、臍静脈開大、脾腫がありましたが胆道は正常。
骨、とくに椎体にびまん性の硬化がありました。

ウイルスや自己免疫性肝炎などで肝細胞がやられるとAST,ALTがより上がるはずです。
NASHでは、AST,ALTは上昇したとして正常最大値の2倍から5倍、ALPもせいぜい最大値の2から3倍にとどまります。アルコール性ではAST>ALTです。

本例のようにALPが著明に高値であれば、胆汁鬱滞を考えます
原因は肝内性と肝外性に大別できます。
各種血清学的検査では異常は見つからず。心エコーで肝心症候群は否定的。
というわけで生検を施行。
肝臓と消化管を巻き込んだ全身性肥満細胞症の診断となりました。

全身性肥満細胞症では~49%の患者にアナフィラキシーが起きます。
なので、本性を診断したらすぐに抗ヒスタミン薬を処方する必要があります。
腹水については利尿薬でコントロールします。


というわけで、全身性肥満細胞症による肝障害→腹水と消化管障害→下痢というケースでした。
下痢は全身性肥満細胞症の34%で見られる症状みたいです。

最後に、全身性肥満細胞症の皮膚以外の症状をまとめておきます。(UpToDateを参照)

・消化管(嘔気嘔吐、慢性下痢、潰瘍など)
・筋骨格系(筋痛、骨痛など)
・循環器(血管拡張→低血圧、頻脈)
・リンパ系(脾腫、リンパ節腫大)
・骨髄(貧血、血小板低下、好酸球増加など)
・神経系(うつ、気分変化など)


~Clinical Pearls~

・新規発症の腹水をみたら、いの一番に特発性細菌性腹膜炎(SBP)を除外!

・ALPが500以上なら胆汁鬱滞をまず考える。

・全身性肥満細胞症は、肝障害→浮腫の原因となりうる。



2015年4月12日日曜日

ワーファリンが効きすぎたら(BMJ Practice)



BMJのPracticeで、ワーファリンでINRが高いときの対処法について載っていました。
箇条書きでまとめます。本文はこちら


High INR on warfarin BMJ 2015;350:h1282

・まずは出血がないか評価
消化管出血、頭蓋内出血に特に注意。

・どの量のワーファリンを何回のんでいるか確認。

・ワーファリンが効きすぎる状況がないか確認。
肝疾患、悪性腫瘍、ポリファーマシー、低栄養な
とくにCYP450阻害薬との併用に注意。代表的なのはクラリスロマイシン、エリスロマイシン、アミオダロンなど。

・アルコールについて尋ねる
大量のアルコールはワーファリンの代謝を阻害する

・食事が変わったかについて尋ねる
VitKについてはもちろん。フルーツジュースはワーファリンの代謝を阻害する可能性あり。

・出血してない場合は以下のようにしましょう

INR 3-5のとき:ワーファリンの分量を減らす、48時間後にINR再検
INR 5-8のとき:INRが5以下になるまで中止、その後低用量で再開、48時間後にINR再検
INR 8以上のとき:ワーファリン中止、VitKを1-5mg p.o.、24時間後にINR再検



2015年4月10日金曜日

慢性下痢と腰痛(NEJM interactive medical case)



NEJM interactive medical caseをまとめてみます。
選択肢をぽちぽち押しながら読み進めていくので楽しいです。本文はこちら


A Man with Diarrhea and Back Pain

患者は43歳男性。6週前より腹痛と下痢がある。
初めは食事時に上腹部が痛むだけだったが、次第に、いつも腹部全体が痛いようになった。
切迫感(+)、しぶり腹(+)。
便は黒く、鮮血はまじっていない。油っぽくはない。悪臭なし。トイレで流れにくくもない。
ここ1カ月で14kg減少だが食欲低下はない。
発熱、胸痛、咳嗽、息切れ、嘔気嘔吐、尿量減少、口腔内潰瘍、皮疹いずれもなし。


下痢は4週間以上続くと慢性と定義されます。
機能性、炎症性、浸透圧性、分泌性、脂肪性という区分を覚えましょう。

機能性ではないと考えるポイントは、5kg以上の体重減少、夜間就寝中の下痢、消化管出血、貧血、低アルブミン、炎症マーカー上昇です。

それぞれの特徴は以下の通り
炎症性:下血+全身症状(腹痛、発熱など)
分泌性:空腹時でも起こる、夜にも起こる
浸透圧性:空腹時は下痢が止まる
脂肪性:油っぽい、悪臭、便器から流れにくい


下痢とは別に、20年前より腰痛があります。最近、毎朝一時間以上続く頸部の疼痛とこわばりがでてきました。また3年前にブドウ膜炎と尿路結石発作を起こしています。

ここまでで最も考えられるのは、炎症性腸疾患(IBD)とそれに合併した脊椎関節炎です。
IBD患者の20%で炎症性関節炎が合併します。

IBD関連の末梢の関節炎はタイプⅠとⅡがあるそうです。
タイプⅠ:5箇所以下、大関節、病勢と関連あり、
タイプⅡ:多関節炎、左右対称、主に上肢、病勢と関連薄い


現症はとばします。興味があれば本文を参照ください。

45歳以下、緩徐に発症、経過3か月以上、朝のこわばりあり、運動で改善などは、炎症性腰痛を示唆する所見です。やはり脊椎関節炎がこの患者では疑わしいです。

最大の鑑別は、びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)です。
靭帯の骨への付着部が石灰化して、ときに背部痛を生じる疾患です。
なぜか糖尿病や肥満の人に多く発症します。
脊椎の可動域が狭く、かつ付着部に圧痛があると、本症が疑わしくなります。
発症が高齢、炎症所見がない、仙腸関節炎がない、などが鑑別のポイントでしょうか。


結局、画像検査その他で潰瘍性大腸炎の診断となりました。

IBD患者はシュウ酸カルシウム結石になりやすいです。シュウ酸の摂取は控え、カルシウムをたくさん摂取しましょう。カルシウム制限は逆に結石を引き起こすので注意です。
IBDは腸外病変が多いです。同じ号のNEJMに、IBDに合併するがんについてのレビューがありました。


軽度-中等度の潰瘍性大腸炎の寛解には、ステロイドとASAを用います。
3-5日以内に症状が改善しなければ、TNFα阻害薬を使うことになりますが、その前に結核とHBVの検査をして、インフルエンザと肺炎球菌のワクチンを打ちましょう


~Clinical Pearls~

・4週間以上続く下痢は慢性である

・機能性ではないかも:5kg以上の体重減少、夜間就寝中の下痢、消化管出血、貧血、低アルブミン、炎症マーカー上昇

・IBDは腸外病変が多い。全身くまなく診察するべき。尿路結石の既往も大事

・TNFα阻害薬を使う前に、結核とHBVの検査をして、インフルエンザと肺炎球菌のワクチンを打つ



2015年4月9日木曜日

NEJM Case11-2015



NEJM Case Recordです。
今週は簡単ですね。本文はこちら

Case 11-2015
A 28-Year-Old Woman with Headache, Fever, and a Rash

患者は28歳女性。
当日朝起きたら、頭全体がとても痛い。体動で増悪し嘔気嘔吐も。
いったん寝て数時間後起きたら全身の筋痛あり。体温37.7℃。体幹と右上肢に紫斑あり。

というわけで、髄膜炎を疑う徴候がありますね。
鑑別としては、TTP/HUSや血管炎でしょうか。
紫斑がでる髄膜炎は髄膜炎菌によるものが有名です。この後、急激に悪化していく可能性があります。実際にこの患者は髄膜炎菌性髄膜炎で、入院後急激に悪化していきます。

同様の経過をたどっている症例が、2014年12月のMayo Clinic Proceedings Residents' Clinicにあります。記事はこちら


この患者は9歳の時にも髄膜炎にかかっています。
そして、髄膜炎菌の感染症になりやすい免疫不全といえば、補体欠損です。
補体欠損症だと感染した時の症状があまり激しくなく、またすぐ治るのだそうです。へぇー。

検査の結果、原発性C8欠損症が判明したそうです。


~Clinical Pearls~

髄膜炎+皮疹(紫斑)は超危険。いまは平気そうでも急激に悪化するかも。

髄膜炎菌曝露者へのリファンピン予防投与も忘れずに。


2015年4月3日金曜日

なかなか治らない咽頭痛(NEJM Clinical Problem-Solving)



今週のNEJMはClinical Problem-Solvingが載ってました。
タイトルはA History Lesson。本文はこちら
ざくっとまとめます。簡単のため、病歴提示の順番は原文と違います。


患者は34歳男性。3日前からの咽頭痛、熱、咳その他、いかにも咽頭炎という症状で来院しました。バイタルは安定。右前頸部リンパ節腫大(1×3cm)。口腔内に異常所見なし。セファレキシン処方され帰宅。

開口障害や声のくぐもりはなく、3日前からでこの現症なら5 killer throat pain(急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、Lewdig's angina、Lemierre症候群)はまずないかな。

ウイルスかな~、細菌かな~。そういや最近若い人の咽頭炎でFusobacteriumが多いって前調べたな~(詳しくはこちら)。でもCentor scoreは1点なので、溶連菌やFusobacteriumを狙った抗菌薬治療はしないかな~。伝染性単核球症はどうだろう。でもとりあえず様子見で対症療法だろうなー

という印象でした。実はここで鑑別診断が抜けておりました。


6週間後、症状が良くならないと再診。WBC6500、異型リンパ球なし。

あら、おかしい!これは只者ではないですね。
6週間も続く慢性扁桃炎の鑑別ってなにがあるのだろう…。
本記事やUpToDateから引っ張ってくると以下の通りです。

伝染性単核球症
HIV
単純ヘルペス
淋病
クラミジア
梅毒
扁桃リンパ腫
炎症性疾患(PFAPA症候群など)

PFAPA症候群は最近知りました。
Periodic Fever with Aphthous stomatitis, Pharyngitis and Adenitisの略です。その名の通りの疾患です。5歳までに発症します。
突然発症の高熱が5日間程度続いたと思ったら下がり、それが1~2か月周期でみられます。
あとは口内炎、頸部リンパ節炎、咽頭炎、扁桃炎なども見られる疾患です。


じつは、この患者さん、覚醒剤使用歴がありました。
覚醒剤使用歴がある=性感染症のリスクということで、詳しく詳しく聞いたら、MSM(Men sexed with men)であることが判明。HIVは陰性でしたが、検査の結果、梅毒と判明しました。


二期梅毒の稀な症状の1つに咽頭炎があるそうです。
梅毒は以前、Case Recordで出てきましたね。(その時の記事はこちら。)


性活動について聴取するのって難しいですよね。
このケースでは、患者さんは最近の性行為を否定していましたが、実はオーラルセックスはしていた、というのが最大の問題点でした。
ヘテロセクシャルのカナダの大学生に聞いた調査では、実に60%がオーラルセックスを性行為とみなしていなかったそうです。
オーラルセックスで感染する病原体は、梅毒の他に淋菌、クラミジア、単純ヘルペス、ヒトパピローマウイルスがあります。最後以外は慢性扁桃炎を引き起こす疾患ですね。要記憶です。


~Clinical Pearls~

・慢性扁桃炎の鑑別診断は、伝染性単核球症、HIV、扁桃リンパ腫に加え、オーラルセックスで感染する各種病原菌。小児で周期性があればPFAPA症候群を疑う。

・オーラルセックスは性行為と認識されていないことが多い。