2017年11月23日木曜日

ピットフォールその3:心筋梗塞


今回でピットフォールシリーズはいったん終了.

●心筋梗塞は,非典型なのが典型

心筋梗塞患者434877人を解析した研究では,33%が胸痛なし
高齢者,女性,糖尿病,心不全の既往で多い.
(JAMA 2000;283:3223-9)

急性冠症候群で入院した20881例を解析した研究では,
8.4%に胸痛がなく,23.8%は初期診断が違っていた. 
呼吸困難が約半数.次いで発汗 26.2%,悪心・嘔吐24.3%,(前)失神19.1%.
(Chest 2004;126:461-9)

非典型的な症状の方が死亡率が高い.HR 1.30-1.97(多因子調整済)
30日後の死亡率 典型例17.9% 非典型例49.2%
1年後の死亡率  典型例26.2% 非典型例61.0% 
(Heart 2001;86:494-8)


●心筋梗塞をいかに除外するか

症状と身体所見だけでは診断も除外もできない.
(Br J Gen Pract 2008;58(547):e1-e8)

血清マーカーの組み合わせ(CK, CK-MB, ミオグロビン,トロポニンI/T)はどうか.
初回測定だけでは感度37-49%, 特異度87-97%とイマイチ.
(Ann Emerg Med 2001;37:478-94)


●TIMI score 0点で感度97.9-99.8%(Lancet 2011;377:1077-84)

個人的には,このスコアは絶対に覚えられない自信があります.
TIMI scoreを眺めると,大事な点がいくつか見つかります.
こうまとめる方が実践的かも.

①心電図の「変化」をみること
②時間を空けて再度血液検査行うこと
③生活歴をしっかり聞くこと
④65歳以上の胸痛はそれだけでリスクが高いと認識すること


2017年11月16日木曜日

ピットフォールその2:くも膜下出血


ピットフォールシリーズ 第2弾はくも膜下出血

●どうして私たちはくも膜下出血を見逃すのか.
N Engl J Med 2000;342:29-36には以下の要因が挙げられている.

1.臨床像の幅広さを理解していない
〇警告出血の頭痛(急性,強い,いつもと違う)
〇頭痛が自然と治る,鎮痛薬でよくなる
〇ウイルス感染症,一次性頭痛,副鼻腔炎,頸部痛に似ている
〇頭部外傷に惑わされる(実際は失神による転倒)
〇ECG変化に惑わされる
〇高血圧に惑わされる 
〇未破裂動脈瘤の臨床像を知らない

2.CTの限界を理解していない
〇頭痛開始から時間がたつと感度が低下していく
〇小出血で偽陰性となる
〇読影の問題
〇技術面の問題(スライスの薄さや動きによるアーチファクト)
〇Hct 30%以下で偽陰性

3.腰椎穿刺施行しない+所見を正確に解釈できない
〇CTで判断がつかないときに腰椎穿刺を施行しない
〇出血12時間以内なら陰性になることがある
〇視認は分光計より感度が劣る

●よくある迷信・神話

くも膜下出血の頭痛で,突然発症は半数のみにみられる.
ただし,大半は5分以内にピークに達する.
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1998;65:791‐3)

Trauma Tapを見分ける方法はない.別の椎間で穿刺するか他の方法を.
(Am J Neuroradiol 2005;26:820-4)

頭蓋内出血による頭痛もNSAIDsに反応する
(Am J Emerg Med 1995;13:43-5)

●オタワ基準やエメラルド基準は,そりゃそうだよなという印象を個人的に受けます.
それぞれJAMA 2015;310:1248-55,BMJ Open 2016;6:e010999を参照

●第5世代CTならSAHの見逃しは殆どない.(J Emerg Med 2005;29:23-7)
ただし,非専門医がパッと見て判断しても間違えない,なんて誰も言っていない.
やはり,少しでも疑わしければ腰椎穿刺の閾値を下げるのがよいか.
時間を空けて再度CTでもいいかも(BMJ 2006;333:235-40).




2017年11月9日木曜日

ピットフォールその1:虫垂炎


軽症疾患と間違えてしまうピットフォールをいかに避けるか.

その1:虫垂炎

「ERでの非典型症状に騙されない 救急疾患の目利き術」によると…
①主訴が腹痛でない
②腹部所見がそれらしくない
③既存の疾患のために惑わされる
のときに,虫垂炎を見落としてしまいやすくなる.

たしかに,自験例でも腹部膨満や便秘,発熱のみを主訴に来院した虫垂炎は
診断がつくまで厄介だった記憶があります.

●高齢者は腹部所見がはっきりしないので要注意.

60歳以上の虫垂炎患者で
・古典的症状(右下腹部痛,嘔吐,発熱,白血球増加)は20%のみ
・⅓は入院が48時間以上遅れ,入院時点で虫垂炎の疑いがあったのは51%のみ
(以上,Am J Surg 1990;160:291-3)

・⅔以上が発熱なし
・30%が右下腹部痛なし
・¼が白血球正常
(以上,Am J Surg 2003;185:198-201)

●小児も注意

①半数以上が痛みの移動がない
②半数以上が嘔気がない
③半数以上が局所的な圧痛点がない
④半数以上が反跳痛がない
→胃腸炎,咽頭炎,中耳炎,敗血症,尿路感染,熱性けいれんなどと誤診される
(Emerg Med Clin N Am 2010;28:103-18)

↑の文献は必読です.



結局は,すべての腹痛患者で虫垂炎を念頭に置き,
医療面接と適切な誘発試験を行ったうえで,
迷ったら,子どもならエコー,高齢者ならCTかエコーをするしかないかと.

65歳以上の腹痛患者で
CT撮影で方針が変化した割合が,入院:26%,手術:12%,抗菌薬:21%
診断が変化した割合が45%
という報告もあります(Am J Emerg Med 2004; 44:270-2)

虫垂炎のCTは, 感度90-100%,特異度91-99%と診断能が良い(N Engl J Med 2003; 348:236-42)ですが,
非専門医が見落としなく読めるかというのは別問題だと理解しています.