2022年8月31日水曜日

ケアの調整は、良い患者アウトカムに関連する


Elliott MN, Adams JL, Klein DJ, Haviland AM, Beckett MK, Hays RD, Gaillot S, Edwards CA, Dembosky JW, Schneider EC. Patient-Reported Care Coordination is Associated with Better Performance on Clinical Care Measures. J Gen Intern Med. 2021 Dec;36(12):3665-3671. doi: 10.1007/s11606-021-07122-8. PMID: 34545472.


ケアの調整care coordinationと、必要な検査の試行との間にどのような関連があるかをみた研究です。


メディケアの受給者152,069人を対象としています。


ケア調整の指標は以下の5項目です:検査結果をフォローアップしているか、受診時に医師が医療情報を持っているか、服用しているすべての薬について医師がどのくらい話すか、専門医から受けた治療について医師が知っているか、複数の医師からケアを受ける際に助けが得られたか。

患者アウトカムの指標は以下の13項目です:マンモグラフィ、大腸がん検診、心血管LDL-C検診、血圧管理、5つの糖尿病ケア指標(LDL-C検診、網膜眼底検査、腎症、血糖値/HbA1c<9%、LDL-C<100mg/dL)、高齢者の緑内障検診、BMI評価、骨折した女性の骨粗鬆症管理、関節リウマチ治療。


解析の結果、患者アウトカムの9つの項目が、ケアの調整の程度と正の相関を示しました。逆相関を示した項目はありませんでした。


ケアを調整する(患者がいろいろなところで受けているケアを把握して、適切な道筋をつける)ことが、患者が必要な検査を受けることと関連していることが示されました。ケアの調整に関する重要なエビデンスです。


2022年8月24日水曜日

vulnerabilityの定義


Levasseur M, Lussier-Therrien M, Biron ML, Dubois MF, Boissy P, Naud D, Dubuc N, Coallier JC, Calvé J, Audet M. Scoping study of definitions and instruments measuring vulnerability in older adults. J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 20. doi: 10.1111/jgs.17451. Epub ahead of print. PMID: 34669967.


高齢者のvulnerabilityを定義するために、文献レビューを行った後、高齢者(当事者)2名を含む専門家がワークショップに参加し、議論した。


完成した定義がこちら

「1人以上の個人が特定の瞬間に、1つまたは複数の生理学的、心理学的、社会経済的、社会的な困難を経験し、それらが相互に影響し合って、危害を受けるリスクを高めたり、生活に悪影響を及ぼすような対処の問題を抱えている一連の状況」


この定義を完全に満たしている尺度はないものの、22項目で構成されるPerceived Vulnerability Scale(PVS)が、最も合致した。


この定義と尺度を使って、研究調査してみたいですね。


2022年8月18日木曜日

多疾患併存患者との共同意思決定を阻害する法的リスクへの不安


Brown EL, Poltawski L, Pitchforth E, Richards SH, Campbell JL, Butterworth JE. Shared decision making between older people with multimorbidity and GPs: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2022 Jul 28;72(721):e609-e618. doi: 10.3399/BJGP.2021.0529. PMID: 35379603; PMCID: PMC8999685.


英国のGP診療所において、多疾患併存高齢者のShared Desicion Making (SDM)に影響を及ぼす要因を、患者と医師の両側から調べた質的研究です。


65歳医所の多疾患併存高齢者を集めたfocus groupを2つ、GPを集めたfocus groupを2つ作り、インタビュー内容を帰納的テーマ分析しています。


この分析結果がべらぼうに面白いので、この論文を紹介しようと思ったわけです。

(結果を単純化してやや誇張して書いていますので、詳細は原文をご覧ください)


とくに英国のGPは、診療ガイドラインに即した診療を行うよう求められる状況にいると理解していますが、多疾患併存高齢者では、各疾患の診療ガイドラインをそのまま実行するのが必ずしも最適ではない、ということはかなり周知されていると思います。

ただ、医師としては、診療ガイドラインに即していない診療をすることで、法的なリスクを背負う可能性があるのではないか、と不安になります。この論文ではmedicolegal vulnerabilityと表現されています。訴えられたら負けるのでは、というわけですね。


そりゃあ、診療ガイドライン通りにしないと訴えられると思っている医師と、医師がそうやっておびえていることを認識している患者との間で、個別性を踏まえたSDMは起こらないですよね。


筆者たちは、このようにSDMが阻害されていることに対する対応策として、まず医師がこの分野でSDMがうまくできていないということを認識したうえで、不確実性を扱うための教育と、miltirmodityに関する診療ガイドラインの普及が重要であるとしています。この議論は納得がいくところです。


自分の診療をふりかえると、この患者はtreatment burdenが大きすぎるから、この治療は控えた方がいいのだろうけど、その結果、心配している事象がおきたらどうしよう、その可能性は相対的に低いけど、万一のことがあったら非難されるかも、と考えてしまうことは結構あるなと思います。

患者とのコミュニケーションの質をあげるために、このような阻害要因を認識しておくことは、とても大事なことだと思います。



2022年8月11日木曜日

薬剤アドヒアランスの実態調査


Singer AG, LaBine L, Katz A, Yogendran M, Lix L. Primary medication nonadherence in a large primary care population: Observational study from Manitoba. Can Fam Physician. 2022 Jul;68(7):520-527. doi: 10.46747/cfp.6807520. PMID: 35831084.


カナダの20万人以上の患者コホート研究。

3年間、合計91,660件の処方箋を評価し、薬剤アドヒアランスについて調べています。


薬剤non-adherenceの割合は、13.7%(抗うつ薬)~30.3%(抗高血圧薬)

典型的な症状を呈する疾患(例:感染症、不安症)では、non-adherenceは13.7%~17.5%。

無症状の疾患、またはスクリーニングで発見されるような疾患では、21.2%~30.0%。


予想通りの結果ではあります。


2022年8月4日木曜日

夜間の疼痛は過小評価される



Annemaria C van Berkel, Robin Ringelenberg, Patrick J E Bindels, Sita M A Bierma-Zeinstra, Dieuwke Schiphof.

Nocturnal pain, is the pain different compared with pain during the day? An exploratory cross-sectional study in patients with hip and knee osteoarthritis.

Family Practice, 2022; cmac074


股関節・膝関節の変形性関節症患者で、夜間痛がある患者とない患者の特徴と症状の違いを明らかにするために行われた、横断研究です。


2020年4月、5月にソーシャルメディアや患者会を通じてオンライン調査を配布し、OA患者101人が自己申告式で、痛みの強度、局在、次元、(夜間の)痛みが睡眠に与える影響を回答しました。


結果として、夜間痛は75%の参加者が報告しました。

夜間痛がある患者は、日中より夜間の方が痛みが強いと報告しました。

また、夜間痛のない患者を比較して、①断続的、恒常的、および放散する痛みを訴え、②痛みが睡眠に与える影響が大きく、③痛みが最もひどい時のスコアが高いことが分かりました。


重要な知見だと思います。

診察時点ではそこまで痛くないから、夜間の疼痛をGPは軽視する可能性があります。

夜に痛いという訴えがあれば、その訴えを真剣に受け取る、というのは、ちょっとした心構えですが、患者の症状やQOLに大きな影響を与えるかもしれません。


リクルート方法もfeasibilityが高いですね。Research Questionが何より大事というのがよくわかる論文だなと思います。