2021年12月29日水曜日

認知症患者の閉じこもりはハイリスク


Ornstein KA, Liu SH, Husain M, Ankuda CK, Bollens-Lund E, Kelley AS, Garrido MM. Prospective assessment of dementia on transitions in homeboundness using multistate Markov models. J Am Geriatr Soc. 2021 Dec 23. doi: 10.1111/jgs.17631. Epub ahead of print. PMID: 34951008.


米国では、高齢者の20人に1人が家に閉じこもっているとのことです。

日本でも閉じこもりの高齢者は多いという肌感覚があります。

コロナ禍で、この傾向はさらに悪化すると思われます。個人的には、育児も高齢者も身内にいる者としては、コロナ禍は、様々な機会の喪失に直結していると感じています。


障害や疾患のある高齢者にとって、閉じこもりはQOL低下と関連しています。

どのような人がどの程度閉じこもりになるのか、あるいは、閉じこもりからの脱却はどの程度起こるのか、それが認知症患者ではどうか、をしらべたのがこの論文です。


米国における高齢者の全国的な縦断研究であるNational Health and Aging Trends Study(NHATS)の、2011~2018年のデータを用いて同定した、地域に住むメディケア受給者(≒高齢者)6375人が研究参加者です。

対象者の自己申告をもとに、対象者の状態を非閉じこもり、準閉じこもり(自宅を離れるが困難または助けが必要)、閉じこもり(ほとんどまたは全く自宅を離れない)、老人ホーム居住、死亡と分類しています。

そして、各状態間の移行の確率を,マルチステートマルコフモデルを用いて評価しています。

マルコフモデルについて私が理解しているのは、「次にどのような状態になるかは現在の状態のみに依存し、過去の状態には依存しない」ということのみです。詳しくは本文並びに成書をご参照ください。


この結果、閉じこもり状態にいる高齢者が1年後も閉じこもりである確率は半分以下であることが分かりました。その理由として、4人に1人が死亡していることが多いと思われます。老人ホームに移る確率は3%と低かったです。

患者に認知症があることは、非閉じこもりから閉じこもり状態へ移行するリスクの上昇と関連していました(HR:1.01-3.34)。認知症があると、閉じこもりから死亡への移行のリスクが2倍増加するなど、死亡の増加と一貫して関連していました。そして、認知症の閉じこもり患者は、5年以内に死亡する確率が25.8-48.1%であるのに対し、認知症でない患者では13.7%-24.3%でした。


以上より、認知症のある高齢者は閉じこもりに移行するリスクが高く、さらに閉じこもりに移行すると死亡するリスクが高くなることが示されました。そもそも、閉じこもりの高齢者は1年で1/4が死亡するというのが驚きでした。


(認知症+)閉じこもりはハイリスクであるという観点をもつと、普段の診療での患者評価が変わっていくと思います。良く出会う事象ですし母数も多いので、非常にインパクトの高い研究だと思いました。


2021年12月19日日曜日

HFrEFのfantastic four/プライマリケアにおけるアドボカシー/チーム医療の評価・実装フレームワーク


忙しくて更新できていませんでした。


今月号のCanadian Family Physicianがとても面白かったので、抜粋して紹介します。


Barry AR, Kosar L, Koshman SL, Turgeon RD. Medication management for heart failure with reduced ejection fraction: Clinical pearls for optimizing evidenced-informed therapy. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):915-922. doi: 10.46747/cfp.6712915. PMID: 34906941.


HFrEF患者にfantastic 4を導入する際のプライマリケアと専門家との協働が症例ベースで解説されています。


Shoucri R, Dorman K, Green S, Bloch G, Swartz A. Integrating social justice advocacy into a family health team: Successes and lessons learned. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):923-929. doi: 10.46747/cfp.6712923. PMID: 34906942.


St. Michael’s HospitalのDepartment of Family and Community Medicineが作成したアドボカシーツールキットを現場に導入してどうなったかという研究です。

ツールキットを使うことで、プライマリケアの現場でスタッフがアドボカシー活動を行うことが推進されるとまとめられています。


Fletcher SC, Humphrys E, Bellwood P, Hill TT, Cooper IR, McCracken RK, Price M. Team-based care Evaluation and Adoption Model (TEAM) Framework: Supporting the comprehensive evaluation of primary care transformation over time. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):897-904. doi: 10.46747/cfp.6712897. PMID: 34906936.


文献レビューにより開発したTeam-based care Evaluation and Adoption Model (TEAM) Frameworkが掲載されています。


2021年12月9日木曜日

小児の便秘/INOCA/女性の過活動性膀胱


BMJの学習用教材は家庭医にとって必要なトピックを簡潔にまとめてくれています。

最近読むのをさぼっていたので、まとめ読みします。


〇小児の便秘

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-065046


具体的な記述が多くて、そのまま家族の説明に使えます。

まずは、決して怒らないよう家族に伝えます。

シールを使うなどで報酬を与えることは効果的だとありました。これは実感としても納得です。

sitting exerciseの具体的な方法としては、毎食30分後と就寝前にトイレに座っていきむようにします。


下剤(マグコロール)を使う場合は、便秘による逆流性下痢(宿便があるために下痢が起こる)が下剤を使うと一時的に悪化する可能性があることを説明します。

そして、まずはどろどろの便にすることを目指します。

その後、維持療法を行い、最終的に、毎日柔らかい固形便がでるようにします。すぐに治療をやめるとすぐに悪化する可能性が高いので、減薬は徐々に行います。


red flagがなければ検査は必要ないとありました。

この記事には記載はなかったのですが、切れ痔の有無は確認しておくべきだと思っています。いたくて排便したがらない小児は結構いると思います。


〇ischemia with non-obstructive coronary arteries (INOCA)

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-060602


よく出会う病態です。冠攣縮性狭心症+微小血管狭心症という大雑把な認識でひとまずよさそうです。


カテーテル検査で明らかな閉塞がなくても、INOCA重大な心血管イベントのリスクなので、症状緩和と予防をどちらもしっかりしていこうね、というメッセージですね。


非薬物療法としては、禁煙(当たり前)や運動の励行があります。

薬物療法としては、Ca拮抗薬やβ遮断薬が推奨されていますね。

心臓保護としてはACEI/ARBの効果がありそうだそうです。


私の診療セッティングだと、エピソードが心由来の胸痛らしく、筋骨格系由来の胸痛(案外多い)でもなさそうなら、この時点で循環器内科への紹介を考慮します。

そして、どうも閉塞なさそうだ、となった時に、INOCAとして対応するかなと思います。治療して症状がどうなるかフォローしていきます。

様々な理由で循環器内科の紹介を断る患者さんには、その場合は血管リスクに応じて安定狭心症として抗血小板薬、スタチン、β遮断薬を使いながら、生活習慣の是正を図ることもあります。



〇女性の過活動性膀胱

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2020-063526


これも超コモンです。

非薬物的治療を具体的に指示できるようになることが家庭医にとって重要だと思います。

水分量は2-2.5L/dayとし、炭酸飲料とカフェインを除去します。

炭酸飲料については、今まで意識したことなかったです。

あとは、BMI30以上なら痩せる必要があります。

膀胱トレーニングは、おしっこにいきたくなったら5-15分我慢するようにします。

2.5時間おしっこに行かなくて済むようになるのが目標で、達成出来たらそれから徐々に伸ばしていきます。


薬物療法は、まずエストロゲン膣錠を試すようです。知りませんでした。

ただし、閉経後女性で膣の萎縮がある場合です。


効果不十分なら抗コリン薬→β3アゴニストと進みます。併用可です。


鑑別については、夜間の多尿は慢性心不全を考えるようです。

いままで過活動性膀胱mimickerで慢性心不全を考えたことはなかったです。勉強になりました。

また、排尿障害、血尿、恥骨上部痛があれば、過活動性膀胱ではないです。

感染症、膀胱がん、間質性膀胱炎(bladder pain syndrome)を考えましょう。


また、女性の排尿障害なら、子宮脱は確認しておくべきですね。


今回初めて知った概念に、latchkey urgencyがあります。

玄関先で突然おしっこにいきたくなることを指します。

トイレの近くに来ると突然おしっこにいきたくなると訴える人が、過活動性膀胱ではいるようです。なるほどです。


2021年12月5日日曜日

若年で、喫煙者で、社会的に孤立し、アドヒアランスが不良で、QOLが低い、コントロール不良の糖尿病患者


Frédéric Fortin, Philippe Vorilhon, Catherine Laporte, Yves Boirie, Marc Ruivard, Marie Riquelme, Bruno Pereira, Gilles Tanguy, Profile of patients with type 2 diabetes and glycated haemoglobin ≥ 10% followed in general practice, Family Practice, 2021;, cmab161, https://doi.org/10.1093/fampra/cmab161


糖尿病は家庭医にとって非常にコモンな疾患です。

臨床での肌感覚として、ちゃんとコントロールできている人もいるし、様々な社会経済的要因やその他の複雑な要因でコントロール不良のまま何とかこらえている方もいらっしゃいます。


この研究では、1年以上家庭医が治療している、HbA1cが10以上のコントロール不良2型糖尿病患者についてのものです。

フランスのGPがフォローしている糖尿病患者のうち、上の要件を満たす104名の患者について、後方視的、横断的に情報を収集しています。データは、郵送された自記式の質問票によって収集されています。


結果として重要なものを示します。

・GPのみのフォロー:48%

・社会経済的に脆弱:47%

・治療アドヒアランスに問題:70%

・微量アルブミン尿測定されている:20%

・QOLに負の影響を及ぼす要因:

 年齢、社会経済的脆弱、インスリン治療、複数の医療専門家によるフォローアップ


そして、さらに重要なのがここからです。

因子分析(multiple correspondence analysis)を行うことで、コントロール不良の糖尿病患者を2つのグループに分けられました。

第1群は、若年・田舎に居住・喫煙・社会的孤立・アドヒアランス不良・低いQOLの集団です。

第2群は、高齢・都会に居住・身体活動多い・夫婦共働き・安定・高いQOLの集団です。


私は、この区分がまさに家庭医臨床に影響を与える知見だとおもいました。

確かに、自分の臨床経験から、若年で、SDH上の問題を抱え、いろいろな社会上の課題のために治療アドヒアランスが悪い、という患者群がいることは理解していました。

そして、なかには他の病院から実質的に出入り禁止を食らった経験のある人も多かったです。

本来ケアとサポートが必要な患者が医療から遠ざけられているという状況をみたことが、今の研究のモチベーションの1つとなっています。


このような知見が広まることが、第1群のような患者が医療機関で過度の自己責任を負わされることなく、必要なケアとサポートが受けられるようになるために必要だと思います。