2021年12月29日水曜日

認知症患者の閉じこもりはハイリスク


Ornstein KA, Liu SH, Husain M, Ankuda CK, Bollens-Lund E, Kelley AS, Garrido MM. Prospective assessment of dementia on transitions in homeboundness using multistate Markov models. J Am Geriatr Soc. 2021 Dec 23. doi: 10.1111/jgs.17631. Epub ahead of print. PMID: 34951008.


米国では、高齢者の20人に1人が家に閉じこもっているとのことです。

日本でも閉じこもりの高齢者は多いという肌感覚があります。

コロナ禍で、この傾向はさらに悪化すると思われます。個人的には、育児も高齢者も身内にいる者としては、コロナ禍は、様々な機会の喪失に直結していると感じています。


障害や疾患のある高齢者にとって、閉じこもりはQOL低下と関連しています。

どのような人がどの程度閉じこもりになるのか、あるいは、閉じこもりからの脱却はどの程度起こるのか、それが認知症患者ではどうか、をしらべたのがこの論文です。


米国における高齢者の全国的な縦断研究であるNational Health and Aging Trends Study(NHATS)の、2011~2018年のデータを用いて同定した、地域に住むメディケア受給者(≒高齢者)6375人が研究参加者です。

対象者の自己申告をもとに、対象者の状態を非閉じこもり、準閉じこもり(自宅を離れるが困難または助けが必要)、閉じこもり(ほとんどまたは全く自宅を離れない)、老人ホーム居住、死亡と分類しています。

そして、各状態間の移行の確率を,マルチステートマルコフモデルを用いて評価しています。

マルコフモデルについて私が理解しているのは、「次にどのような状態になるかは現在の状態のみに依存し、過去の状態には依存しない」ということのみです。詳しくは本文並びに成書をご参照ください。


この結果、閉じこもり状態にいる高齢者が1年後も閉じこもりである確率は半分以下であることが分かりました。その理由として、4人に1人が死亡していることが多いと思われます。老人ホームに移る確率は3%と低かったです。

患者に認知症があることは、非閉じこもりから閉じこもり状態へ移行するリスクの上昇と関連していました(HR:1.01-3.34)。認知症があると、閉じこもりから死亡への移行のリスクが2倍増加するなど、死亡の増加と一貫して関連していました。そして、認知症の閉じこもり患者は、5年以内に死亡する確率が25.8-48.1%であるのに対し、認知症でない患者では13.7%-24.3%でした。


以上より、認知症のある高齢者は閉じこもりに移行するリスクが高く、さらに閉じこもりに移行すると死亡するリスクが高くなることが示されました。そもそも、閉じこもりの高齢者は1年で1/4が死亡するというのが驚きでした。


(認知症+)閉じこもりはハイリスクであるという観点をもつと、普段の診療での患者評価が変わっていくと思います。良く出会う事象ですし母数も多いので、非常にインパクトの高い研究だと思いました。


2021年12月19日日曜日

HFrEFのfantastic four/プライマリケアにおけるアドボカシー/チーム医療の評価・実装フレームワーク


忙しくて更新できていませんでした。


今月号のCanadian Family Physicianがとても面白かったので、抜粋して紹介します。


Barry AR, Kosar L, Koshman SL, Turgeon RD. Medication management for heart failure with reduced ejection fraction: Clinical pearls for optimizing evidenced-informed therapy. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):915-922. doi: 10.46747/cfp.6712915. PMID: 34906941.


HFrEF患者にfantastic 4を導入する際のプライマリケアと専門家との協働が症例ベースで解説されています。


Shoucri R, Dorman K, Green S, Bloch G, Swartz A. Integrating social justice advocacy into a family health team: Successes and lessons learned. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):923-929. doi: 10.46747/cfp.6712923. PMID: 34906942.


St. Michael’s HospitalのDepartment of Family and Community Medicineが作成したアドボカシーツールキットを現場に導入してどうなったかという研究です。

ツールキットを使うことで、プライマリケアの現場でスタッフがアドボカシー活動を行うことが推進されるとまとめられています。


Fletcher SC, Humphrys E, Bellwood P, Hill TT, Cooper IR, McCracken RK, Price M. Team-based care Evaluation and Adoption Model (TEAM) Framework: Supporting the comprehensive evaluation of primary care transformation over time. Can Fam Physician. 2021 Dec;67(12):897-904. doi: 10.46747/cfp.6712897. PMID: 34906936.


文献レビューにより開発したTeam-based care Evaluation and Adoption Model (TEAM) Frameworkが掲載されています。


2021年12月9日木曜日

小児の便秘/INOCA/女性の過活動性膀胱


BMJの学習用教材は家庭医にとって必要なトピックを簡潔にまとめてくれています。

最近読むのをさぼっていたので、まとめ読みします。


〇小児の便秘

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-065046


具体的な記述が多くて、そのまま家族の説明に使えます。

まずは、決して怒らないよう家族に伝えます。

シールを使うなどで報酬を与えることは効果的だとありました。これは実感としても納得です。

sitting exerciseの具体的な方法としては、毎食30分後と就寝前にトイレに座っていきむようにします。


下剤(マグコロール)を使う場合は、便秘による逆流性下痢(宿便があるために下痢が起こる)が下剤を使うと一時的に悪化する可能性があることを説明します。

そして、まずはどろどろの便にすることを目指します。

その後、維持療法を行い、最終的に、毎日柔らかい固形便がでるようにします。すぐに治療をやめるとすぐに悪化する可能性が高いので、減薬は徐々に行います。


red flagがなければ検査は必要ないとありました。

この記事には記載はなかったのですが、切れ痔の有無は確認しておくべきだと思っています。いたくて排便したがらない小児は結構いると思います。


〇ischemia with non-obstructive coronary arteries (INOCA)

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-060602


よく出会う病態です。冠攣縮性狭心症+微小血管狭心症という大雑把な認識でひとまずよさそうです。


カテーテル検査で明らかな閉塞がなくても、INOCA重大な心血管イベントのリスクなので、症状緩和と予防をどちらもしっかりしていこうね、というメッセージですね。


非薬物療法としては、禁煙(当たり前)や運動の励行があります。

薬物療法としては、Ca拮抗薬やβ遮断薬が推奨されていますね。

心臓保護としてはACEI/ARBの効果がありそうだそうです。


私の診療セッティングだと、エピソードが心由来の胸痛らしく、筋骨格系由来の胸痛(案外多い)でもなさそうなら、この時点で循環器内科への紹介を考慮します。

そして、どうも閉塞なさそうだ、となった時に、INOCAとして対応するかなと思います。治療して症状がどうなるかフォローしていきます。

様々な理由で循環器内科の紹介を断る患者さんには、その場合は血管リスクに応じて安定狭心症として抗血小板薬、スタチン、β遮断薬を使いながら、生活習慣の是正を図ることもあります。



〇女性の過活動性膀胱

https://www.bmj.com/content/375/bmj-2020-063526


これも超コモンです。

非薬物的治療を具体的に指示できるようになることが家庭医にとって重要だと思います。

水分量は2-2.5L/dayとし、炭酸飲料とカフェインを除去します。

炭酸飲料については、今まで意識したことなかったです。

あとは、BMI30以上なら痩せる必要があります。

膀胱トレーニングは、おしっこにいきたくなったら5-15分我慢するようにします。

2.5時間おしっこに行かなくて済むようになるのが目標で、達成出来たらそれから徐々に伸ばしていきます。


薬物療法は、まずエストロゲン膣錠を試すようです。知りませんでした。

ただし、閉経後女性で膣の萎縮がある場合です。


効果不十分なら抗コリン薬→β3アゴニストと進みます。併用可です。


鑑別については、夜間の多尿は慢性心不全を考えるようです。

いままで過活動性膀胱mimickerで慢性心不全を考えたことはなかったです。勉強になりました。

また、排尿障害、血尿、恥骨上部痛があれば、過活動性膀胱ではないです。

感染症、膀胱がん、間質性膀胱炎(bladder pain syndrome)を考えましょう。


また、女性の排尿障害なら、子宮脱は確認しておくべきですね。


今回初めて知った概念に、latchkey urgencyがあります。

玄関先で突然おしっこにいきたくなることを指します。

トイレの近くに来ると突然おしっこにいきたくなると訴える人が、過活動性膀胱ではいるようです。なるほどです。


2021年12月5日日曜日

若年で、喫煙者で、社会的に孤立し、アドヒアランスが不良で、QOLが低い、コントロール不良の糖尿病患者


Frédéric Fortin, Philippe Vorilhon, Catherine Laporte, Yves Boirie, Marc Ruivard, Marie Riquelme, Bruno Pereira, Gilles Tanguy, Profile of patients with type 2 diabetes and glycated haemoglobin ≥ 10% followed in general practice, Family Practice, 2021;, cmab161, https://doi.org/10.1093/fampra/cmab161


糖尿病は家庭医にとって非常にコモンな疾患です。

臨床での肌感覚として、ちゃんとコントロールできている人もいるし、様々な社会経済的要因やその他の複雑な要因でコントロール不良のまま何とかこらえている方もいらっしゃいます。


この研究では、1年以上家庭医が治療している、HbA1cが10以上のコントロール不良2型糖尿病患者についてのものです。

フランスのGPがフォローしている糖尿病患者のうち、上の要件を満たす104名の患者について、後方視的、横断的に情報を収集しています。データは、郵送された自記式の質問票によって収集されています。


結果として重要なものを示します。

・GPのみのフォロー:48%

・社会経済的に脆弱:47%

・治療アドヒアランスに問題:70%

・微量アルブミン尿測定されている:20%

・QOLに負の影響を及ぼす要因:

 年齢、社会経済的脆弱、インスリン治療、複数の医療専門家によるフォローアップ


そして、さらに重要なのがここからです。

因子分析(multiple correspondence analysis)を行うことで、コントロール不良の糖尿病患者を2つのグループに分けられました。

第1群は、若年・田舎に居住・喫煙・社会的孤立・アドヒアランス不良・低いQOLの集団です。

第2群は、高齢・都会に居住・身体活動多い・夫婦共働き・安定・高いQOLの集団です。


私は、この区分がまさに家庭医臨床に影響を与える知見だとおもいました。

確かに、自分の臨床経験から、若年で、SDH上の問題を抱え、いろいろな社会上の課題のために治療アドヒアランスが悪い、という患者群がいることは理解していました。

そして、なかには他の病院から実質的に出入り禁止を食らった経験のある人も多かったです。

本来ケアとサポートが必要な患者が医療から遠ざけられているという状況をみたことが、今の研究のモチベーションの1つとなっています。


このような知見が広まることが、第1群のような患者が医療機関で過度の自己責任を負わされることなく、必要なケアとサポートが受けられるようになるために必要だと思います。



2021年11月26日金曜日

個人情報の項目への無回答を「プライバシーに関する心配」と読みかえる


Rubanovich CK, Zisook S, Bloss CS. Associations Between Privacy-Related Constructs and Depression and Suicide Risk in Health Care Professionals, Trainees, and Students. Acad Med. 2021 Nov 16. doi: 10.1097/ACM.0000000000004513. Epub ahead of print. PMID: 34789664.

https://journals.lww.com/academicmedicine/Abstract/9000/Associations_Between_Privacy_Related_Constructs.96462.aspx


医療者・学生のメンタルヘルスは、およそどの国においても重要な関心事です。

この研究が行われたカリフォルニア大学サンディエゴ校では,医療者や学生にうつ病や自殺のリスクをスクリーニングしているようです。


スクリーニングにおいて、様々な個人情報を回答してもらうことになるのですが、この研究は、年齢、性別、民族・人種、職位といった個人情報を回答しないという事象に焦点を当てています。うつや自殺についての質問でこのような個人情報の項目を回答しないのは、プライバシーを気にしているからではないかと考えているのです。


この研究は、医療者や学生のメンタルヘルスについて、プライマシーを気にする(だから個人情報に回答しない)ことと、うつや自殺のリスクとの関連をみています。


対象となった回答者は1,224名です。42%(524/1,224)が中程度以上のうつを報告しているので、大変に深刻な値だと思います。


回答者の5人に1人(248人/1,224人)が、メンタルヘルスサービスを求めることに対するスティグマを心配していると回答しています。

そして、17%(212人/1,224人)が、少なくとも1つの個人情報に関する質問を省略していました。


そして、そのようなプライバシーに関する心配は、最近のうつおよび自殺念慮・行動(OR:3.13-7.02、95%CI:2.23-19.20)、これまでの自殺企図(OR:1.76、95%CI:1.08-2.86)と正の相関がみられました。

また、プライバシーに関わる行動は、自殺行為と正の相関がありました(OR =:2.23; 95% CI: 1.24 - 4.02)。


著者たちは、プライバシー関連の構成要素を考慮することは、苦痛を経験している医療や学生を特定し、差し迫ったメンタルヘルスの問題に対処する際に有用であると主張しています。


統計では、無回答の扱いはとても大変です。

この研究は、無回答であることに意義を持たせ、積極的に解釈しようとしているのが優れた着眼点であるように思いました。



2021年11月21日日曜日

血圧を下げるのは大変

Rogers EA, Abi H, Linzer M, Eton DT. Treatment Burden in People with Hypertension is Correlated with Patient Experience with Self-Management. J Am Board Fam Med. 2021 Nov-Dec;34(6):1243-1245. doi: 10.3122/jabfm.2021.06.210191. PMID: 34772780.

https://www.jabfm.org/content/34/6/1243


家庭医として、高血圧患者を診療する機会は当然ながらたくさんあります。

最近の診療ガイドラインは、厳格な降圧を推奨している印象があり、実際にこれをすべての患者でやると大変だなという感覚がありました。

大変、というのは、「医師が大変」という意味ではなく、「患者が大変」ということです。


私のマインドラインはおそらくこんな感じです。

・比較的若年でsingle issueであれば降圧は厳格に。

・高齢でも元気に診療所まで歩いてやってくる方は、現行の治療で厳密な降圧が出来ているならそのままで。

・multimorbidityであったりfrailであったりすれば無理しない。

・ただ、高血圧によると思われる心不全がある場合には気合を入れてコントロール。

・ADLの低下した患者では、例外を除き血圧高値を許容する。

・患者にとって血圧管理の優先度が低ければ、血圧の値はいちいちうるさく言わない。


さて、本研究では、たくさん薬を飲んだり生活を改善したりしないといけない高血圧患者に対し、治療負荷treatment burdenと患者の自己管理との関係性が検討されています。


高血圧患者254名を対象としたところ、「自己管理能力に対する自信がない」、「ヘルスリテラシーが低い」、「経済的に困難である」、「対人スキルの低い医療従事者にかかっている」と回答した患者で、治療負担のスコアが高いことが分かりました。


治療負荷が高くなると、「できるひとはできるけどできないひとはしない」になっていき、格差につながる危険性があると筆者たちは主張しています。


2021年11月17日水曜日

最近の診療を振り返る家庭医的クリニカルパール


最近の自分の診療を振り返る一環として、クリニカルパールを作成しました。

家庭医セッティングでの診断推論は、独自の面白さと課題があると思っています。



 ・手関節周囲に局所的な圧痛点のない手関節橈側の疼痛は、上腕骨外側上顆炎を疑う

いわゆるテニス肘ですが、肘の痛みではなく、手関節周囲の痛みの訴えが前面に出ることがあります。

外側上顆をさわると明確に疼痛が惹起されますが、自発痛でないためか患者本人が気づかないことが多いと思われます。


テニスをしていない中年~高齢患者でも発症することがあります。

最近出会った患者は、右下肢に障害がある方で、ベッドから起き上がる時に左手でベッド柵をもって体重をかける動作をしていたことが原因でした。

以前には、脱サラして蕎麦屋を始めた方で、こねる動作(まだまだ不慣れで余計な力が入っていたのでしょう)で発症していた方がいました。



・ADLの低下した高齢者の、繰り返す「ちょっと動いた後ふらついて転倒、その後しばらく動けない」は、COPDかもしれない


ADLが低下している患者では、呼吸困難を呈するほどの労作をしないため、心不全やCOPDの診断遅延が起こることがあります。

安静時の酸素飽和度が正常だと、定期診察のルーチンでは見落とされることがあります。

なので、例えばトイレまで自分で歩いていこうとしたときに、労作による低酸素血症を来し、ふらついて転倒、その後、低酸素血症が自然と改善するまでその場から動けない、という形で、COPDの症状が発現することがあります。

今は喫煙していなくても、実は昔はヘビースモーカーだった、ということもあります。


繰り返す転倒の原因として真っ先に思いつくのは、薬剤性、低血圧、神経変性疾患、筋力低下、筋骨格疾患などですが、「普段そこまで動かない高齢者がちょっと動いた後に転倒ししばらくその場から立ち上がれない」で労作性の低酸素血症を疑うという思考は持っておくべきだと思いました。



・高齢者のステロイド吸入に十分に反応しない「(咳)喘息」は、咽頭結核/気管支結核を考慮する。画像検査が正常であっても結核は除外できない。


慢性咳嗽患者全員に喀痰抗酸菌培養はしないよなと思いつつ、リスクが高いケース、吸入ステロイドに反応しないケースでは、漫然とステロイドを継続する前に結核やアスペルギルスなどの感染症疾患を除外する必要があるなと最近痛感しました。

気管支結核や咽頭結核は、X線検査で異常が出ないので、どこかのタイミングで「結核を調べなきゃ」と思わないと診断できず、その間、患者は結核菌を放出しつづけます。

日本は結核蔓延国ですし、高齢者の慢性咳嗽という時点でひっかけてもいいのかもしれません。


2021年11月14日日曜日

患者の感情に対応すると診療時間が短くなる

Beach MC, Park J, Han D, Evans C, Moore RD, Saha S. Clinician Response to Patient Emotion: Impact on Subsequent Communication and Visit Length. Ann Fam Med. 2021 Nov-Dec;19(6):515-520. doi: 10.1370/afm.2740. PMID: 34750126.

https://www.annfammed.org/content/19/6/515?rss=1

患者の感情を診療中に対応することで、診療時間が短くなるかどうかを調べた研究です。
研究の目の付け所が良いですよね。


41人の医師が計342人の患者を診療している際の音声を録音し,特定の既知のコードを用いて患者の感情表現をタイムスタンプで記録し,臨床医の反応を分類しています。そして、臨床医の反応と、感情表現のタイミングなどと、その後の診察時間との関連を、random-intercept multilevel-regression modelで解析しています。
大学院の疫学系の授業でこの解析方法は(ざっと)習いましたが、このリサーチテーマでこの手法を使うんだと驚きました。言われてみれば納得です。

結果としては、医師が患者の感情を明示的に扱うと、診療時間が短くなる、というものでした。しかし、診療時間の平均が30.4分であり,多くの日本の医療機関にとっては実情にそぐわないものと思います。

その点を差し引いても、患者の感情を明示的に扱っても診療時間は長くならない(むしろ短くなる)というのは、押さえておくべきポイントだと思います。


2021年11月10日水曜日

Advance Care Planningについての我流レクチャー資料


Advance Care Planningについて研修医や専攻医に話をすることが多いので、
自分なりのレクチャー資料をまとめました。

あらかじめ申し上げておくと、この資料は何らかの答えを示すものではありません。
実際のレクチャーは対話形式で行います。
レクチャー後はみなさんもやもやしています。そのもやもやが大事だと思っています。

やや過激に思える表現があるかもしれません。
議論を刺激するために、あえて極端に思える意見を呈示することがあります。


事前課題①
厚生労働省の資料(木澤義之先生)に目を通してください
(ページ数多いですが、とても読みやすいです)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000173561.pdf

事前課題②
家庭医療専攻医は、NHSの診療ガイドラインに目を通してください
https://www.stlukes-hospice.org.uk/wp-content/uploads/2017/06/ACP-Guide-for-Health-and-Social-Care-Staff-.pdf
英語の勉強をしたい方以外は、DeepL翻訳を使っていいので読んでください。

家庭医療専攻医は、①②を読まずにACP(の真似事)をしてはいけません。


【ここからレクチャー開始】

まず用語の定義をしましょう(Am Fam Physician 1999 Feb 1; 59(3): 613-4.)

Advance care planningとは,患者が医師と,人生の最期に受ける治療内容についての希望を話し合うことを指します.
何をしてほしいか,してほしくないかを話し合う、一つの方法です.

そのなかで、患者は、何らかの理由で意思表示ができなくなった時にどうしてほしいかを医師に伝えることができます.
この希望を書面に記せば,それはadvance directiveとなります。

Advance directiveでは,具体的に何をしてほしいか(死期が迫った時にCPRをしてほしい/ほしくないなど)を示す以外に,自分が意思疎通できなくなった時に代わりに意思決定をする人を指名することができます.
これをdurable power of attorney for health careといいます。


ACPは「医療従事者と患者との話し合い」を指す概念であり,多くの文献で「プロセス」であることが強調されています.
ACPを経て,誰にでもわかる形で文書に残されたものがadvance directiveです.

患者がかかりつけ医とACPを行って、一定の結論に達していたが,急変時に別の医療機関に運ばれて、ACPの内容が活かされない,というのは当然起こりうる話です.(Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 281-3.)



疑問1.どんな人がACPの対象なのか?

健康成人に対するACPは効果が不確かであり、害も多いです(事前課題①参照)

私なら、「ACPについて知ってもらう」ことを目的に,恒例の患者で、ライフイベントなどのタイミングで声掛けをすることがあります。それまでの患者医療者関係やその場の不陰気に強く依存します。
「正月にはお子さん帰ってきますか?」「いまはお元気ですけど,大きな病気になったらどうしてほしいか,家族で話をしたことありますか?」などと声をかけると、人によってはいろいろ話してくれます.決して無理はしないこと。


疑問2.事前に患者の意志を確認していても、いざその時に反映できないのでは意味がないのでは?

単にAdvance directiveをとるだけでは,有効に機能しないことが多いです(事前課題①参照)
・そもそも将来を予想することが困難です。患者だけでなく医師も。
・決断なんて時と共に変わるものです。
・家族が知らない、いざというときにその場にいる医療者が知らない、ということがあります。

繰り返しますが、ACPはプロセスです。
そもそも自分なら,自分の大切な人なら,そんなに簡単に決められるものなのか、という(当たり前の)感情を大事にしてください。


疑問3.ACPって「心肺蘇生しません」と言わせるためのものなの?

完全に私論なのですが,ACPは「いかなる人でも個人として尊重されている」という前提条件が必要です.そして日本では必ずしもこの前提条件は満たされていません.

「ICUに入ってもすぐに死ぬ高齢者,医療費もったいない」という議論は,「障害者に対する医療なんかもったいない」「貧困者にかける医療費などない」という議論と本質的に同値です。

例えば、「癌になったら治療しないでください」という患者の自由意志は
「子どもに残すお金がなくなってしまう.余裕があるのなら治療を受けたいけど」
かもしれません.それは自由意志とはいいません。

なので,ACPを行う(行おうとする)医療者は、人権に敏感になる必要があります.

ACPをしようと思うあなたは、優生保護法を知っているでしょうか?
昔のらい予防法を知っているでしょうか?

あなたは誰のためにACPをするのでしょうか。
あなたが患者と行うACPは、本当に患者の人権を守るために行われていますか。


疑問4. じゃあ具体的にどのように進めればいいのか?

まずは、全例ルーチンに行わなくてはいけないという思い込みを捨ててください。
患者の生死にかかわる事柄は、そもそも機械的に扱うことができる話題ではないです。
その中で、一定のガイダンスは存在します。

家庭医療学のこの3つの文献が有用だと思います。
3. Am Fam Physician 1999 Feb 1; 59(3): 605-12.
4. Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 278-80.
5. Am Fam Physician 2019 Mar 1; 99(5): 281-3.

文献3はやや古いですが,家庭医によるACPの理想が書かれています.

Ultimately, advance care planning is designed to clarify the patient’s questions, fears and values, and thus improve the patient’s well-being by reducing the frequency and magnitude of overtreatment and undertreatment as defined by the patient.
という一文に,いろんなエッセンスが凝縮されています.名文ですね。

実際にはこの理想通りにはいかないことが分かったので,文献4,5が出てきました.


文献4では、ACPとはiterative(反復する)かつintegrative(統合的)なプロセスである、とあります。

Iterative:病気の進行に伴って繰り返し議論することで,患者は「弱り行く自分」を受け入れるようになります.
何回もACPを話題にすると患者を不安にしてしまわないかと思うけど,実際はそうではないことが研究で示唆されています。

Integrative:疾病の予測される経過を患者や家族が理解することで,目標や意志の決定ができるようになると書かれています。


文献5では、具体的な対話ガイドである、Serious Illness Conversation Guideが紹介されています。

1. セットアップ
「あなたの病気がこれからどうなるかについて話しあい、あなたが望むケアを提供できるように、あなたにとって何が重要かを事前に考えたいのですが、よろしいですか?"

2. 患者の理解と志向の評価
「あなたは今、自分の病気の状態をどのように理解していますか?」
「あなたの病気の先にありそうなことについて、私からどのくらいの情報を得たいですか?」

3. 予後の共有
「あなたの病気の状況について、私の理解をあなたと共有したいと思います.」
「あなたの病気で何が起こるかを予測するのは難しいかもしれません。私は、あなたが長く元気に暮らし続けることを願っていますが、あなたがすぐに病気になってしまうのではないかと心配しており、その可能性に備えることが重要だと考えています。」
「そうでなければよいのですが、残された時間が○○(数日~数週間、数週間~数ヶ月、数ヶ月~1年などの範囲を表現)くらいではないかと私は心配しています。」
※この際、沈黙を許容することで、患者の感情を探ります。

4. キーとなるトピックを探る
「健康状態が悪化した場合、あなたにとって最も重要な目標は何ですか?」
「病気のこらからについて考えるとき、あなたに力を与えてくれるものは何ですか?」
「もし病気になったら、残された時間が増える可能性のために、どれだけのことをしてもいいと思いますか?」
「あなたの家族は、あなたの優先事項や希望についてどの程度知っていますか?」

5. クロージング
「あなたは自分にとって○○がとても大切だとおっしゃっていましたね。そのことを念頭に置きながら、あなたの病気について知っていることを考慮して、私は○○することをお勧めします。これは、あなたの治療計画が、あなたにとって重要なことを反映していることを確認するのに役立ちます。」

6. 会話の記録する
7. 鍵となる他の医療者とコミュニケーションを図る


事後課題
1-3のうち、どれか一つを選んで考えてください。

1.あなたはSNSで、「高齢者が救急搬送されたときに無駄な医療費を使わないためにACPが大事」「かかりつけ医がACPしてないから病院の医者が大変なんだ」という意見がタイムラインに流れてきたのをみました。この意見に対するあなたの考えを述べてください。

2. 元アナウンサーで元国政候補者である某氏が、自分のブログに「透析患者は自己責任だ、全額自己負担にせよ、払えないなら…」という記事を載せているのをあなたは目にしました。「●●(任意の疾患)の患者は自己責任だ」という言説について、どうしてそのような言説が発生すると考えられるのか、またそのような言説が医療現場に与える影響として何が考えられるのか、あなたの意見を述べてください。

3. あなたは80歳です。膝が痛かったり血圧が高かったりしますが、日課の散歩や友人との談笑を楽しんで日々暮らしています。そんなあなたはある日、いつも通っている診療所で、自分の孫くらいの年齢の医師から「〇〇さんももう年なんだから、自分が倒れた時のことを考えておかなきゃ。」と言われました。あなたならどう感じると思いますか?あなたなら話し合いを望みますか?望むなら、どのような話し合いを望みますか?


2021年11月3日水曜日

珍しいがんの早期診断のために、非特異的症状での紹介ルートを!


Chapman D, Poirier V, Fitzgerald K, Nicholson BD, Hamilton W; Accelerate Coordinate Evaluate Multidisciplinary Diagnostic Centre projects. Non-specific symptoms-based pathways for diagnosing less common cancers in primary care: a service evaluation. Br J Gen Pract. 2021 Jun 4:BJGP.2020.1108. doi: 10.3399/BJGP.2020.1108. Epub ahead of print. PMID: 34097639; PMCID: PMC8463131.

https://bjgp.org/content/71/712/e846.short?rss=1


プライマリケア領域でのがんの診断は、重要な実践・研究課題の1つです。


最近ですと以下の論文が出ています。どれも重要なテーマを扱っています。

【大腸がん】

J Gen Intern Med. 2021 Apr;36(4):952-960. PMID: 33474640

J Am Board Fam Med. 2021 Jan-Feb;34(1):61-69.  PMID: 33452083.

J Gen Intern Med. 2021 May 28:1–8. PMID: 34047921

Br J Gen Pract. 2020 Nov 26;70(701):e843-e851. PMID: 33139332

【肺がん】

Br J Gen Pract. 2021 Mar 26;71(705):e280-e286.  PMID: 33318087

Br J Gen Pract. 2021 Apr 16:BJGP.2020.1099.  PMID: 33875450


今回紹介する論文では、「uncommonな悪性腫瘍」を扱っています。

uncommonといえども、数が多いので全部合わせると悪性腫瘍診断の約半数を占めます。

uncommonな悪性腫瘍は、非特異的かつ複雑な症状を呈するので、プライマリケアでなかなか診断できず、結果的に病状の進行を招いてしまう危険性があることが分かっています。


そこで、英国では、Multidisciplinary Diagnostic Centre (MDC)という、非特異的症状であってもGPが高次医療機関に紹介できる紹介経路を構築しています。

この論文はMDCのパイロット研究です。


2016年12月から2019年3月まで、英国の5つのMDCにおけるパイロットプロジェクトのサービス評価を行いました。

すると、5134件の紹介から378件の悪性腫瘍が診断され、そのうち218件(58%)がuncommonな悪性腫瘍であったことがわかりました。

症状は、「体重減少」「医師が診て何となくおかしい」「食思不振」などの非特異的な症状が多くを占めていました。これでは症状だけで悪性腫瘍の種類を絞ることはできません。

これらの患者の23%(n=50)は、紹介前に3回以上GPに相談していました、

GPからの緊急紹介から治療までの期間は中央値で57日でした。


まとめると、uncommonな悪性腫瘍は非特異的な症状でGPのもとにやってくるため、早期診断のためには非特異的な症状でも紹介できるルートが必要である、ということですね。


日本の文脈におきかえると、診療所家庭医と、病院総合診療医/病院家庭医との連携をより強固なものにすることが解決の道筋でしょうか。

診療所で勤務していると「最近食べられなくて体重が減っているんです。何かおかしいと思うので精査してください」という病院への紹介はかなりハードルが高いです。

総合診療医/家庭医がいない病院では、「どの科に紹介ですか?」と言われてしまいます。それが分からないから相談しているのに。

これが、プライマリケアの状況をよく知っている病院総合診療医/病院家庭医がいると、途端にスムーズに連携が進みます。

決してがん診断に限った話ではないのですが、病院総合診療医/病院家庭医の役割の重要性を傍証する論文だと私は思いました。



2021年10月29日金曜日

safety-nettingをカルテに記載しているか

Edwards PJ, Bennett-Britton I, Ridd MJ, Booker M, Barnes RK. Factors affecting the documentation of spoken safety-netting advice in routine GP consultations: a cross-sectional study. Br J Gen Pract. 2021 Jun 25:BJGP.2021.0195. doi: 10.3399/BJGP.2021.0195. Epub ahead of print. PMID: 34489251; PMCID: PMC8436774.

https://bjgp.org/content/71/712/e869.short?rss=1


satety-nettingとは、診療の最後(が多いと思います)に、「もしこうなったらこうしてね」と患者に伝えることです。

「腹痛が右下腹部に移動したら、虫垂炎かもしれないからもう一回受診してください。」

「スタチンという薬を始めますので、筋肉が痛くなったら服用を中止してください。」

みたいな感じですね。


Roger NeighborのThe inner consultationでも、safety-nettingの重要性が書かれています。

私が医学部最終学年の時に日本語版がでて、背伸びしつつ一所懸命読んだことを思い出します。

今の私の診療は間違いなくこの本に大きな影響を受けています。

変な癖をつける前にこの本を読むことができたのは良かったのかもしれません。


さて、そんなsafety-nettingですが、実際には口頭で済まされていることもあります…よね。

私はちゃんとカルテに残しておくようにしていますが、定期外来で複雑ケースだと、プロブレムの整理に精一杯でsatefy-nettingまで行かないことも多いかと思います。


医療訴訟の観点から考えても、satefy-nettingをしっかりカルテに残しておくことは大事です。


この研究は、①GPがsafety-nettingを行う割合と、②文書に残す割合を調べています。


録音・録画されたGPの診療295件を調べたところ、

satety-nettingが音声でのみ行われたのが192/295件と約2/3で

そのなかで、診療中に言及された問題のうち、safety-nettingがなされたのが242/516と半数以下でした。


safety-nettingが記録されたのは94/295で約1/3。

同じく言及された問題の105/516(約20%)をカバーしていました。


ロジスティック回帰分析では、新たに出現した問題、1つだけの問題、具体的なアドバイスを行った場合に、safety-nettingを記録する傾向が強いことがわかりました。

また、複数の問題を取り扱っている場合に、口頭で済ましやすくなっていました。


家庭医は複数の健康問題を1人の患者に対して取り扱うことが多いので、この結果はとても重要です。

できるだけ具体的なアドバイスを心がけつつ、複雑なケースでも記録に残すようにしておかなくては。


2021年10月12日火曜日

de-inteisificationを共同創造で研究する


Caverly TJ, Skurla SE, Klamerus ML, Sparks JB, Kerr EA, Hofer TP, Reed D, Damschroder LJ. Applying User-Centered Design to Develop Practical Strategies that Address Overuse in Primary Care. J Gen Intern Med. 2021 Sep 17. doi: 10.1007/s11606-021-07124-6. Epub ahead of print. PMID: 34535845.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-07124-6


個人的に2021年で一番感銘を受けた家庭医療学領域の論文です。

前提知識が必要なのでまずはごく簡単に。


●de-intensification

治療・介入強度を必要に応じて下げること。

著者たちは本研究の前に文献レビューをしていて、以下の3つが優先度の高いde-inteisificationであると同定しています。

1. 高リスク患者における糖尿病治療の緩和

2. 無症候性患者における頸動脈狭窄症のスクリーニングの中止

3. 平均的リスクの高齢者における大腸がんスクリーニングの中止


●共同創造co-design

当事者と研究者がともに研究を行い、研究のゴールや成果物を協働して作成すること

例えば、医学部の研究者が統合失調症の治療について研究する際に、

従来は研究者が決めたアウトカム(幻聴が聞こえなくなること、など)で効果を判定していたが、

共同創造では、当事者(患者自身)がアウトカムの設定に積極的に関与する。

研究の成果物についても研究者と当事者の協働の産物とする。

極端に言葉を省略していうと「自分がどうなりたいかは自分が決める」。


この研究は、とても単純化していうと

de-intensificationをどのように進めていけばよいのか

現状の問題点はどこにあり、どう克服すればよいのか、について

患者と臨床家が共同創造した研究 となります。


研究のプロセスはいろいろ複雑なので、本文をお読みください。


共同創造や当事者研究を用いた家庭医療学研究というのは、ある意味で真っ当な方向性だと思います。

特にSDHに関連するテーマだと、共同創造せずにどうするか、というところまで進化するかもしれません。


患者に丁寧に誠実に向き合っている研究だと感じました。


2021年10月10日日曜日

WorkPlace Based Assessmentは「歩けなくなったムカデ」なのか


Dunne D, Gielissen K, Slade M, Park YS, Green M. WBAs in UME-How Many Are Needed? A Reliability Analysis of 5 AAMC Core EPAs Implemented in the Internal Medicine Clerkship. J Gen Intern Med. 2021 Sep 24. doi: 10.1007/s11606-021-07151-3. Epub ahead of print. PMID: 34561828.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-07151-3


医学教育の話です。

EPA、WPBA、G理論、D理論は既知のものとさせてください。すみません。


EPAをもちいて実際にWPBAを行う際に、妥当な評価ができるのか、という問題は、今でも様々な研究がなされています。それだけ難しいことなのだと思います。


この研究では、8週間の内科実習で,指導医が5つの中核的なEPAについて修正オタワスケールを用いてその場限りの委託の決定(ad hoc entrustment decisions)を記録しました。

G理論でスコアの信頼性を推定し、学生・特定のEPA・評価者のタイプ(主治医と研修医)、症例の複雑さなどの要素に起因する分散の割合を算出しています

また、D理論で信頼性を決定しています。


94 名の学生、5 つの EPA に対して合計 1368 件の評価が行われた.人に起因する分散(真の分散)はすべての EPA で高く、信頼性指数 0.7 に達するために必要な推定観測数は、ケースの複雑さに敏感な EPA5 を除くすべての EPA で 9~11 の範囲となりました。

つまりこれは、EPAを用いたWPBAを高い信頼性をもって行うには、1人の研修医、1つのEPAに対し、9-11回の観察が必要であるということです。めっちゃ大変ですね。


このような研究をみると、Workplace Based Assessmentを総括的評価に使うのは難しいよなと思ってしまいます。いかに有意義なフィードバックをするかに振り切るという妥協案もありますが、それでもある程度の評価の妥当性は必要なわけで。

WPBAって、ちゃんとした教育施設では昔から現場で行われていて、一定の効果はあったのだと思います。しかし、EPAを作成して評価者を訓練して評価の妥当性を検証して…とやると、とてもじゃないけど実現不可能なものになってしまいます。

マザーグースに、たくさん足があるのにどうやって歩いているのか尋ねられたムカデが歩けなくなるという話がありますが、そんな印象を受けています。


2021年10月8日金曜日

がん治療中の生活空間


Wong ML, Shi Y, Smith AK, Miaskowski C, Boscardin WJ, Cohen HJ, Lam V, Mazor M, Metzger L, Presley CJ, Williams GR, Loh KP, Ursem CJ, Friedlander TW, Blakely CM, Gubens MA, Allen G, Shumay D, Walter LC. Changes in older adults' life space during lung cancer treatment: A mixed methods cohort study. J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 5. doi: 10.1111/jgs.17474. Epub ahead of print. PMID: 34611887.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17474?af=R


家庭医として、私自身ががん治療をすることはあまりありません(前立腺がんのリュープロレリンくらい)ですが、がん治療中の患者の家庭医として診察することはとてもよくあります。たいてい外来1単位で平均1人くらいはいるかもしれません。

がん治療を受けている人は、外出しなくなったり、家で寝ていることが多くなったりするというのは、臨床的に感じていました。「がん治療中の患者の生活空間」について、ちゃんとRQにまで昇華して、混合研究で多角的に分析している、とても素晴らしい研究です。


65歳以上の進行性非小細胞肺がん(NSCLC)の患者で、緩和化学療法、免疫療法、標的療法を開始する患者を対象にコホート研究を行いました。

治療前、治療開始後1、2、4、6カ月目に、Lite-Space Assessment(LSA)を含む老年医学的評価を行いました。混合効果モデルを用いて、治療前のLSA、0~1ヵ月後の変化、1~6ヵ月後の変化を調べています。さらに、治療前、2カ月目、6カ月目に半構造化インタビューを行い、量と質の統合を行うために縦断的なLSAスコアと例示的な引用文を並べた共同ディスプレイを作成しています。共同ディスプレイとは質的データと量的データの関係を視覚的にわかりやすくしたもののことで、ぜひ本文を読んでいただければと思います。


重要だと思った結果を簡単に示します。

①高齢のがん患者は、治療前から生活空間が狭い。

②治療前の不安が、治療後の生活空間の縮小と関連する

②化学療法と同程度に、免疫療法や標的療法でも生活空間が縮小する

④生活空間が狭くなるのは、様々な要因による(免疫力低下しているので感染が不安など)

⑤適切な介入は移動低下を防止する可能性がある(車いすの利用など)


いままでがん治療中の患者を「この人の生活空間は狭くなっているのだろうか」という視点で見たことがなかったのですが、とても臨床的に重要な問いですよね。

臨床医として論文を読むことの意義は、このように見落としていた視点を知り、診療を深いものにすることだと思います。


2021年10月5日火曜日

上級生からの「引継ぎ」は大したことない?


Huang K, Mak D, Hafferty FW, Eva KW. The Advice Given During Near-Peer Interactions Before and After Curriculum Change. Teach Learn Med. 2021 Sep 15:1-9. doi: 10.1080/10401334.2021.1957685. Epub ahead of print. PMID: 34524067.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2021.1957685?af=R&journalCode=htlm20


学部では、先輩、後輩の間で、「この授業はこういう内容でこの点が大事だよ」「この実習はこうすればうまくいくよ」という情報が流れます。私も経験ありますし、おそらくどの医学部でも起こっていることではないでしょうか。

このような、近い学年の学生同士の交流(Near-peer interaction:NPI
NPI)についての研究です。

(以降、私独自の解釈が混じっています。研究内容を正確に知りたい場合は原文を読んでください)


「NPIは、先輩と同じカリキュラムじゃないと、なされないのではないか」つまり「カリキュラムが変わった直後の学年は、不利な状況にいるのではないか」ということを明らかにしようとした質的研究です。

2019年に新たに刷新されたカリキュラムについて、はじめてそのカリキュラムを受ける学年と、その次の年にカリキュラムを受ける学年(1つ上からそのカリキュラムについての情報を得ることができる)の学生にそれぞれインタビューしています。


結果としては、初めて新たなカリキュラムを受ける学年は、先輩にアドバイスをほとんど求めていないことが分かりました。カリキュラム変わったから意味ないじゃん、ということですね。

この研究が面白いのはここからで、じゃあカリキュラム刷新により上級生からのアドバイスを得られなかったのは懸念すべきことなのかというと、どうもそうじゃないということが分かりました。

どういうことかというと、そもそもNPIは学術的な内容じゃなくて、「どうしたらさぼれるか」(超意訳)みたいな、非学術的なものが多いということが分かりました。また、学術的な内容であっても、それはカリキュラムに依存するものではありませんでした。

さらに、情報を受け取る下級生は、アドバイスを歓迎する一方で、頼り切っていない、つまりある程度「眉唾物」(これも超意訳)だと思っていました。


つまり、上級生からのカリキュラムに関する「引継ぎ」は、カリキュラムが変わると失われるが(多分ここまでは研究者の想定の範囲内)、そもそもその引継ぎはあまり教育的なものではないし、受け取る学生も歓迎しつつもどうせ大した内容じゃないとおもっている、ということに気づいちゃった、ということです。


自分の学生生活を振り返って考えるに、自分も自分の周りもそうだったよな、という内容でした。質的研究で、深く洞察すると、思いもがけない結果が得られて面白い、という意味で示唆に富む研究だなと思います。


2021年10月1日金曜日

ケースレポートがアクセプトされました

 

この類の記事は久しぶりです。

業績は本ブログの右側にあるリンクにまとめています。

主に自分が参照する用です。


Uemoto M, Mizumoto J. Vertebral compression fracture with diffuse idiopathic skeletal hyperostosis J Gen Fam Med. 2021 September 2. DOI: 10.1002/jgf2.495


執筆を支援したケースレポートがpublishされました。

家庭医療専攻医が救急研修中に出会った事例です。


腰椎圧迫骨折はプライマリケアにとっても非常にコモンな疾患ですが、急性期管理の体系的な学習はあまりされていないように思います(私含めて)。

整形外科医にとっては、Vaccaroの分類(AOSpine Injury Score)は常識だと思いますが、恥ずかしながら私は今回初めて知りました。


高齢者の腰椎圧迫骨折は、破裂骨折で神経学的所見がある、とかじゃなければ、基本的に保存療法になると思いますが、DISHがありそれが折れている場合は手術適応になりますよ、というメッセージです。

肥満や糖尿病があり圧迫骨折を疑う患者では、DISHの診断があらかじめついていない場合でも、DISH骨折合併ではないかという目でCT,MRIを見なくてはいけません。


2021年9月30日木曜日

出生前ケアと子の予防接種


Krishnamoorthy Y, Rehman T. Impact of antenatal care visits on childhood immunization: a propensity score-matched analysis using nationally representative survey. Fam Pract. 2021 Sep 26:cmab124. doi: 10.1093/fampra/cmab124. Epub ahead of print. PMID: 34564727.


インドにおいて、妊婦の出生前ケアと、生まれてくる子供の予防接種の関係を研究した論文です。

全国規模のデータベースを用いて、傾向スコアマッチングをしています。


詳細は省きますが、妊婦が出生前ケアを4回受診すれば、生まれてくる子の予防接種の機会が25%増加するという結果となりました。


この論文がFamily Practiceから出版されているというのが良いですね。

家庭医としては、外来に妊婦やパートナー、挙児希望のあるカップルがきたら、予防接種の話をする、というのがよいのでしょう。


2021年9月28日火曜日

アドボカシーってなに?


アドボカシーはSDHに関する教育・研究の文脈でよく登場します。

ですが、言葉だけで実質が伴っていないことが多いと感じています。

アドボカシーが大事って言っておけばいいだろう、みたいな。

アドボカシーが大事ということがアドボカシーになっている感があります。


最近、アドボカシーにまつわる研究を立て続けに読んだので、一部面白かったものを紹介します。


①Griffiths EP, Tong MS, Teherani A, Garg M. First year medical student perceptions of physician advocacy and advocacy as a core competency: A qualitative analysis. Med Teach. 2021 Jun 21:1-8. doi: 10.1080/0142159X.2021.1935829. Epub ahead of print. PMID: 34151706.


この研究では、医学部1年生がアドボカシーをどのように定義しているか、アドボカシーを行う動機や予想される課題、アドボカシーをコア・コンピテンシーとすべきだと考えているかどうかを調べています。書面での回答を質的に分析(content analysis)しています。


結果として、学生は、「医師は個々の患者のためにアドボカシーを行うべきである」というコンセンサスを共有していたものの、すべての医師が社会レベルのアドボカシーを行うべきかどうか、また、それを医学部のコア・コンピテンシーとすべきかどうかについては、一致していませんでした。


私が興味を持ったのは、医学生がアドボカシーを実施する際の課題を予想していたことです。

多忙さやスキル・トレーニング不足のほかに、

医師がアドボカシーを行うことで医療が政治的なものになるのではないか

自らの権力を不当に高めるためにアドボカシーを悪用する医師もいるのではないか

という懸念を表明していました。


②Endres K, Burm S, Weiman D, Karol D, Dudek N, Cowley L, LaDonna K. Navigating the uncertainty of health advocacy teaching and evaluation from the trainee's perspective. Med Teach. 2021 Sep 27:1-8. doi: 10.1080/0142159X.2021.1967905. Epub ahead of print. PMID: 34579618.


カナダのオンタリオ州の医学部のカリキュラム文書におけるアドボカシーの記載を検討し、さらに研修医と指導医にインタビューを行っています。


カリキュラム文書の目的があいまいで評価方法も不明確であること、そのために、アドボカシーの重要性が過小評価されているように見え、臨床学習から切り離されているように見えること、そのため研修医が学習の関心を他の場所に移していることが分かりました。


カリキュラム上で焦点が当たっていないために、アドボカシーは価値がないという認識が生まれ、興味がある研修医でさえアドボカシースキルの開発を躊躇していることが述べられています。


①②の研究は、医師(医療者)がおこなうアドボカシーとは何をすることなのか、ということが明確に示されていないことによる問題点を述べています。


では、具体的にどうしたらよいのでしょうか。


③Hollister BA, Yeh J, Ross L, Schlesinger J, Cherry D. Building an advocacy model to improve the dementia-capability of health plans in California. J Am Geriatr Soc. 2021 Sep 2. doi: 10.1111/jgs.17429. Epub ahead of print. PMID: 34476815.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17429?af=R


カリフォルニアで2013年から18年まで行われた、認知症Cal MediConnect(CMC)プロジェクトの内容と影響について述べられています。


以下のステップでアドボカシーを行っています。

(1)システム変革の指標となる認知症対応のベストプラクティスを特定する

(2)システム変革の指標となる公共政策を特定し、活用する

(3)チャンピオンを特定し、参加させる

(4)認知症ケアを改善するためのビジネスケースを作成し、提唱する

(5)認知症対応のプラクティスのギャップを特定する

(6)認知症対応のプラクティスのギャップを解決するための技術支援、ツール、スタッフトレーニングを提供する

(7)システム変革を追跡する。


これにより、認知症患者とその介護者のケアを向上させるシステムの変化がもたらされたことが述べられています。


③の研究ほどしっかりやるのはハードルが高いかもしれませんが、一つのbest practiceを示している点でとても重要な論文だと思います。


私にとってのアドボカシーは、症例報告を書いたり、商業誌や単行本の原稿を書いたり、レターを書いたり、ワークショップを開いたり、研究したり、路上生活者の夜回りをしたりです。

今回紹介した論文を読んで、もっと体系的に活動しなければいけないと感じました。



2021年9月23日木曜日

とある日の家庭医外来

 

※この記事に登場する患者は、すべて架空のものです。


とある小病院の家庭医外来の風景。


①70代女性。高血圧管理中。自宅血圧は変動が強いですが、拡張期血圧が60台になることもあり、これ以上治療強度は上げません。数年前に様々な要因が重なり精神的なトラブルがあったものの、現在は落ち着いています。毎日焼酎2合飲んで、肝障害あり。精神的トラブルのため独居になり、夜は寂しい様子。休肝日を作ってほしいと伝えつつ、本人がいま安定して生活していることを共通の理解としています。何がその患者を健康たらしめているのか、という視点はとても大事です。


②70歳男性。高血圧と喘息で呼吸器内科にかかっていたが、クリニック閉院により最近転院してきた。SSSでペースメーカーいれた循環器内科と、糖尿病内科にそれぞれかかっており、ポリファーマシーとなっています。こういう場合は、PCMH的な働きを意識しつつ、情報をまとめて、必要なスクリーニングを行いつつ、ケアの抜け漏れがないようにしています。また別の病院でHP除菌をしていたことが分かったりします(フォローの胃カメラが必要)。あとは、AAAスクリーニングのための腹部エコー(1回やればOK)、便潜血など。喘息はコントロール良好ですが、前医から継続して点鼻ステロイドが処方されており、本人も気に入っている様子。長期使用はかえって鼻炎症状を増悪させる可能性があるので、もう少し患者医師関係が強固になったら休薬について話してみようと思っています。


③60代女性。夏・冬に増悪する糖尿病。原因は果物で、冷蔵庫にあるとついつい食べてしまうらしい。気持ちはわかりますが小スイカ半玉を一気に食べる日々が続けば、まあ数値はあがりますよね。せめてもう少し摂取量減らしてみてはと伝えつつ、シーズンが終われば元に戻るので目くじらを立てるほどではないです。足病変は特になし(糖尿病患者では定期的に振動覚、白癬の有無、外反母趾などの変形、末梢動脈蝕知などの足診察をします)。加齢黄斑変性あり眼科を定期的に通院中。高血圧に関しては、2剤でコントロールOK。腎症2期なのでARBをまずは選択(ACEIは咳嗽あり断念)。片頭痛あるとのことであと1剤はCCBを選択したところ、発作がなくなってかなり喜ばれました。euthyroidの甲状腺腫があるためエコーを施行し、腺腫様甲状腺腫で悪性所見なかったので、2年後再検の予定。(甲状腺腫は私はこのレビューを参考にしていますhttps://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmcp1415786)右肩痛があり、触診では烏口突起周囲に圧痛がありますが、外転150°まで可能でpainful arc signないため、簡単な運動療法を指導し、症状は軽快しています。


④20代男性。COVID-19感染のため自宅待機していたが、微熱と倦怠感が続くため結局3週間家にいた。おとといから職場復帰したが息切れ、強い倦怠感があるため受診。支持的に接しつつ、解釈モデルを聞き出したところ、肺炎の恐怖が強かった様子。いわゆるlong COVIDの一般的な説明をしつつ、家に3週間いたのだから体力は落ちて当たり前、徐々に生活を取り戻していきましょうと伝えました。幸い家族も周囲も受け入れは良好な様子。短期間でフォローしていくことになりました。


⑤50代女性。TIAが起きてもうすぐ1年。発作を期にアスピリン+スタチンが始まり、いわゆる「慢性疾患患者の仲間入り」になったことで、いつまでも元気で健康な自分という認識が揺らいでいる様子。この薬はずっと飲まないといけないのですかと聞かれた際に、単にエビデンスを示して説得する、というのではなくて、患者のselfの揺らぎというか、ある意味で「病院に定期的に通っている人になる」というライフステージの移行をどのように受容しているかという視点が大事だと思っています。この方の場合、自分が自分の病気をコントロールできているという感覚をもつことが、うまく受容するポイントだったように思います。


…この調子で20名(大体一コマこのくらいのことが多い)書こうとしましたが、あまりに長くなるので断念。

NTMの治療開始時期を見定めたり、菊池病の診断をしたり、誤嚥性肺炎から復活した超高齢の方が禁煙したことで呼吸機能が回復しておせんべいをバリバリ食べていると聞いて驚いたり、アルコール依存症の方を半年かけて何とか専門外来につなげたり、鵞足炎のストレッチを指導したり… これが1回の外来単位で全部起きるので、楽しいです。


2021年9月13日月曜日

暴力にさらされた女性の受診時における徴候

Vicard-Olagne M, Pereira B, Rougé L, Cabaillot A, Vorilhon P, Lazimi G, Laporte C. Signs and symptoms of intimate partner violence in women attending primary care in Europe, North America and Australia: a systematic review and meta-analysis. Fam Pract. 2021 Aug 27:cmab097. doi: 10.1093/fampra/cmab097. Epub ahead of print. PMID: 34448843.

https://academic.oup.com/fampra/advance-article-abstract/doi/10.1093/fampra/cmab097/6358619?redirectedFrom=fulltext


親密なパートナーからの暴力(Intimate Partner Violence: IPV)は、見逃されやすい問題です。

その性質上、患者さんが積極的にIPVについて医療者に開示することは期待されないでしょう。

でも、できる事なら気づいて対処したいものです。命と健康にかかわる問題なので。


このシステマティックレビューでは、IPV被害者の女性がプライマリケアを受診したときに、どのような徴候・症状を呈するのかを明らかにするために行われました。

IPVが直接の受診の動機になっている場合だけでなく、受診動機は問わないとのことです。

これはとても現実的な前提だと思います。


系統的レビューの対象は、ヨーロッパ、北米、オーストラリアのプライマリケアを受診した15歳以上の女性を対象とした定量的研究で、IPV被害者について調べているものです。

日本と文化圏が異なることに注意が必要です。


結果をまとめると、受診時のうつ症状、不安症状、性感染症、身体症状症が、IPVと関連していました。かならずしも身体的な暴力の痕跡(あざなど)に限らないという点が重要だと思います。

もしかしたら(というより、かなり高い割合で)、IPVについてこれまで相当数見逃しているのかもしれないと、深く反省しました。


プライマリケアに、うつ、不安、性感染、身体症状症の問題が持ち込まれることは結構ありますので、そのような方からお話を伺うときに、本研究が示したIPVとの関連を頭に思い浮かべておくようにしようと思います。

「身の安全が守られていますか?」という質問をすることで、もしかしたら患者のこれからの人生が変わるかもしれません。


2021年9月10日金曜日

脆弱な高齢者の障害を軽減する在宅プログラムの効果

Szanton SL, Leff B, Li Q, Breysse J, Spoelstra S, Kell J, Purvis J, Xue QL, Wilson J, Gitlin LN. CAPABLE program improves disability in multiple randomized trials. J Am Geriatr Soc. 2021 Jul 27. doi: 10.1111/jgs.17383. Epub ahead of print. PMID: 34314516.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17383


生活機能動作に障害のある高齢者は、家庭医にとっても頻繁に出会う集団です。

その障害をどのようにしたら軽減できるのか、という問いに向き合っている研究です。


本誌のEditorialから抜粋すると…

CAPABLEプログラムは、作業療法士(OT)と正看護師(RN)が連携して評価を行い、その結果に基づいてカスタマイズされたアクションプランを提供する、5カ月間で10回のセッションを行う在宅型プログラムである。

このプログラムの斬新な点の一つは、家庭内の潜在的な危険性や自立機能を阻害するその他の環境に対処するために、家周りの改修業者(handyworker)によるサービスを提供することである。

参加者は、OTによる1時間のホームセッションを最大6回、RNによる1時間のホームセッションを最大4回受けることができ、最大1,300ドルの住宅修理、改造、補助器具の提供を受けることができる。CAPABLEの提供にかかる総費用は、訪問、消耗品、チームの調整、走行距離、部品、労働力などを含めて、一人当たり約3,000ドルである。

このプログラムは、低所得の高齢者という恵まれない環境にある人々にほぼ焦点を当てており、女性とアフリカ系アメリカ人の割合が高いのが特徴である。

(https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17440?af=R)


つまり、障害のある高齢者が自宅の生活をよりよく送るために、

・OTと看護師による在宅での患者指導と

・家屋改修

を組み合わせています。


このプログラムについては、RCTが3本、実装後の研究が3本なされており、それをまとめたのがこの論文です。

6つの試験すべてにおいて、ADLおよびIADLの改善が確認されたとのことです。

また、コストについて検討した4論文では、コスト削減も示されたとのことです。


プログラムの効果を明らかにするためにRCTを(コントロール群を変えながら)複数行って、さらに実装研究もおこなって、RCTと実装後の結果を統合して発表するという、お手本のような流れです。美しいです。


2021年8月31日火曜日

不勉強な医者は不適切な処方が多い。

Vandergrift JL, Weng W, Gray BM. The association between physician knowledge and inappropriate medications for older populations. J Am Geriatr Soc. 2021 Aug 30. doi: 10.1111/jgs.17413. Epub ahead of print. PMID: 34459494.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17413?af=R


「不勉強な医師は、不適切な処方をしているのでは?」という、身もふたもないというか、何とも残酷なResearch Questionです。


横断研究です。8196人の一般内科医の内科資格医師試験の点数と、各医師が66歳以上のメディケア受給患者に不適切な処方をしているかどうかを関連付けています。

処方が不適切かどうかは、Beers Criteriaに基づいています。ポリファーマシーの文脈で、PIM(Potentially Inappropriate Medication)と呼ばれるものですね。


結果としては、試験の点数が低い(下位1/4)医師は、高い(上位1/4)医師と比べて、不適切な処方が8.6%(95%CI:-12.7~-4.5)多かったとのことです。適切な代替薬の処方は4.7%(1.7~7.6)低かったです。


というわけで、患者に有害な医療をしないよう、日々勉強しましょう、という結果でした。


2021年8月19日木曜日

アルコール使用障害のチェックリストをプライマリケアで使う

Hallgren KA, Matson TE, Oliver M, Witkiewitz K, Bobb JF, Lee AK, Caldeiro RM, Kivlahan D, Bradley KA. Practical Assessment of Alcohol Use Disorder in Routine Primary Care: Performance of an Alcohol Symptom Checklist. J Gen Intern Med. 2021 Aug 16. doi: 10.1007/s11606-021-07038-3. Epub ahead of print. PMID: 34398395.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-07038-3


背景

アルコール使用障害(AUD)は、プライマリ・ケアの現場では十分に認識されておらず、治療も十分に行われていない。アルコール症状チェックリストは、患者と医療従事者がAUD関連のケアについて話し合う際に役立つ。しかし、アルコール症状チェックリストが日常診療で使用され、電子カルテ(EHR)に記録された場合の性能は、まだ評価されていない。


目的

日常的なプライマリーケアにおけるアルコール症状チェックリストの心理学的性能を評価すること。


デザイン

項目反応理論(IRT)および項目機能差分析を用いて,年齢,性別,人種,民族を超えた測定の一貫性を評価した横断的研究。


対象者

2015年10月から2020年2月の間に、Kaiser Permanente Washington Healthcare Systemのプライマリーケアを受診し、アルコール使用障害識別テスト消費スクリーニング尺度(AUDIT-C≧7)で高リスク飲酒を報告し、その後アルコール症状チェックリストを記入した患者。


主な測定方法

精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)で定義されたAUD基準を評価する11項目のアルコール症状チェックリストを、患者が日常診療中に記入し、EHRに記録した。


主な結果

高リスク飲酒のスクリーニングで陽性と判定され、アルコール症状チェックリストを記入した患者11,464名(平均年齢43.6歳、女性30.5%)のうち、54.1%がDSM-5のAUD基準(AUD診断の閾値)を2つ以上報告していた。IRT分析により、チェックリストの項目は、AUDの重症度を一次元的に連続して測定することが示された。項目の機能差は、いくつかの人口統計学的サブグループで観察されたが、AUDの重症度の正確な測定にはほとんど影響しなかった。項目の機能差に起因する人口統計学的サブグループ間の差は、全症状数の0.42ポイント(可能な範囲は0~11)を超えることはなかった。


結論

日常診療で使用されるアルコール症状チェックリストは、現在のAUDの定義と一貫してAUDの重症度を判別し、年齢、性別、人種、民族を問わず公平に機能した。症状チェックリストを日常診療に組み込むことは、AUDの診断と管理に関する臨床的意思決定に役立つ可能性がある。


感想

プライマリケアの現場でチェックリストが十分に機能するかを評価した研究で、家庭医としてとても価値が高い論文だと思います。

2021年8月16日月曜日

プライマリケアでのCOPD予後予測

 Alameda C, Matía ÁC, Casado V. Predictors for mortality due to acute exacerbation of COPD in primary care: Derivation of a clinical prediction rule in a multicentre cohort study. Eur J Gen Pract. 2021 Dec;27(1):211-220. doi: 10.1080/13814788.2021.1959547. PMID: 34355618; PMCID: PMC8354163.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13814788.2021.1959547?af=R


背景

プライマリケア(PC)で、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪(AECOPD)の80%が治療されていると言われている。しかし、GPがこれらの患者について意思決定を行う際に役立つ、PCで使用するための予測モデルは導き出されておらず、検証もされていない。


目的

PCの最終受診日から30日後のあらゆる原因による死亡率の臨床予測ルールを導き出すこと。


方法

2013年12月から2014年11月にかけて、スペインの148の医療機関でAECOPDの治療を受けた40歳以上の人を対象にコホート研究を行った。患者の人口統計学的変数、過去の病歴、徴候、症状を記録し、ロジスティック回帰モデルを導き出した。


結果

解析には、1,696例のAECOPDが含まれ、17例(1%)が追跡調査中に死亡した。過去12ヵ月間の増悪、年齢、心拍数に基づいて、臨床予測ルールが導き出され、ROC曲線下面積は0.792(95%信頼区間、0.692-0.891)で、良好なキャリブレーションが得られた。


結論

このルールは,患者をリスクの高い3つのカテゴリーに分類し,低リスクの患者はPCで管理し,高リスクの患者は病院に紹介し,中リスクの患者は他の基準を考慮して意思決定を行うという,カテゴリーごとに異なる行動を医師に提案するものである。これらの結果は、複雑なデバイスを使用せずに、AECOPDによる死亡リスクを正確に推定することが可能であることを示唆しています。この予測ルールが臨床現場で使用されるようになるには、外部検証と影響評価に関する今後の研究が必要である。


感想

スコアリングはめちゃ簡単。

EXAGGERATEスコア(EXacerbations suffered in the last 12 months of age, the AGE, and the heart RATE)

①過去12か月の増悪回数:1回あたり1点。

②年齢:75歳以上で1点

③心拍数:100回以上で1点

低リスク:0-1点、中リスク:2-3点、高リスク:4点以上と分類

低リスクならプライマリケアで管理、高リスクなら病院に紹介、という推奨。

プライマリケアセッティングで作成されたスコアリングなので使いやすそうです。

外的妥当性の検証はまだなので注意が必要です。日本での妥当性を確認したいですね。

2021年8月15日日曜日

実習生は受け入れ現場に価値をもたらすのか

Kemp C, van Herwerden L, Molloy E, Kleve S, Brimblecombe J, Reidlinger D, Palermo C. How do students offer value to organisations through work integrated learning? A qualitative study using Social Exchange Theory. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2021 Aug;26(3):1075-1093. doi: 10.1007/s10459-021-10038-x. Epub 2021 Feb 27. PMID: 33641049.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10459-021-10038-x

仕事を通じた学習は、医療専門家を実践に向けて準備する際の一般的な特徴である。職場統合学習や職場基盤型配置に関する現在の理解は、学生を配置された組織に相互に利益を提供する者ではなく、経験の消費者であることに焦点を当てている。学生が組織に価値を提供する方法をより細やかに理解することで、職場での学習に新たな機会とさらなる力を提供することができるかもしれない。本研究では、社会的交換理論Social Exchange Theoryを用いて、学生が配属された組織にとって、職場統合型学習の経験がどのような価値と利益をもたらすかを探った。

焦点を当てたのは、オーストラリアの大規模大学で栄養学の学生が行った人口保健の実習である。解釈学的なアプローチを採用し、実習教育者とのインタビューと、学生が実習中に作成した成果物の文書分析を行った。対象となる実習教育者20名のうち17名にインタビューを行い、インタビューデータはテーマ別フレームワーク分析を用いてコーディングされた。これらのデータは、評価の一部として完成した学生の学術的ポスターの文書分析によって裏付けられ、社会的交換理論によって解釈されたテーマを生み出した。

その結果、以下の3つのテーマが明らかになった。(1)学生は組織の能力を高める(2)利益は計画と監督の時間的コストを上回る、(3)学生の貢献を明確に評価することで信頼を築き、双方向の利益をさらに高めることができる。この結果は、学生の配属が組織に価値をもたらすことを示唆している。このような利益の互恵性は、学生を含めた大学と地域の連携に関わるすべての関係者に伝えられるべきである。社会的交換理論は、本研究で得られた知見を他の学生の仕事と統合した学習環境に適用することを可能にする細やかな知見を研究者にもたらした。

感想

非常に興味深い。学生配属を職場にとって価値を追加するものと捉えていますが、本当にその通りだと思います。

2021年8月12日木曜日

低価値ながん検診

 Gerend MA, Bradbury R, Harman JS, Rust G. Characteristics Associated with Low-Value Cancer Screening Among Office-Based Physician Visits by Older Adults in the USA. J Gen Intern Med. 2021 Aug 11. doi: 10.1007/s11606-021-07072-1. Epub ahead of print. PMID: 34379279.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-07072-1


背景

一定の年齢を超えると、がん検診は高齢者に不必要な有害性をもたらし、有益性は限られ、医療資源の非効率的な使用となる可能性がある。


目的

USPSTFが設定した、がん検診を定期的に行うべきでない年齢の基準を超える高齢者における子宮頸がん、乳がん、大腸がんの検診の頻度を推定し、価値の低いがん検診に関連する医師および患者の要因を明らかにすること。


デザイン

米国の診療所医師の診察を対象とした全国代表的な確率サンプルであるNational Ambulatory Medical Care Surveyの横断的データ(2011~2016年)をプールした観察研究。


対象者

子宮頸がん検診と乳がん検診の分析は、それぞれ65歳以上の女性(N=37,818)と75歳以上の女性(N=19,451)の受診に限定した。大腸がん検診の分析は、75歳以上の患者の受診に限定した(N=31,543)。


主な測定

USPSTFの年齢基準を用いて低価値と分類されるがん検診


主な結果

2011年から2016年の間に、潜在的に価値の低いパップスメア、マンモグラフィ、および大腸内視鏡/シグモイドスコープが、それぞれ推定で年間509、507、273,000件行われていた。価値の低い子宮頸がん検診は、年齢の高い患者の受診では(若い患者とくらべ)発生しにくかった。非ヒスパニック系白人、非ヒスパニック系黒人、ヒスパニック系以外の人種・民族の女性の受診では、非ヒスパニック系白人女性の受診と比較して、低価値な子宮頸がん検診および乳がん検診の実施率が低かった。産婦人科医は、家庭医やGPと比較して、価値の低いパップスメアやマンモグラムを行う傾向があった。


結論

米国では、ガイドラインの基準を超えた年齢での子宮頸がん、乳がん、大腸がんの検診が毎年何千件も行われている。このパターンが、臨床的惰性clinical inertiaや以前の検診方法の廃止に対する抵抗を表しているのか、あるいは、医師や患者が、エビデンスに基づくガイドラインを書いている専門家が推奨するよりも、これらの検査に高い価値を感じているのかを理解するには、さらなる研究が必要である。


感想

テーマがいいですよね。低価値ながん検診、私もしてるなぁと。ただ、日本の医療体制を考えると、USPSTFの推奨はあまりに厳しいと思ってしまいます。

2021年8月5日木曜日

入院患者の医療者への信頼の構造

Gregory ME, Nyein KP, Scarborough S, Huerta TR, McAlearney AS. Examining the Dimensionality of Trust in the Inpatient Setting: Exploratory and Confirmatory Factor Analysis. J Gen Intern Med. 2021 Jun 2:1–7. doi: 10.1007/s11606-021-06928-w. Epub ahead of print. PMID: 34080110; PMCID: PMC8172002.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-021-06928-w

背景

医療従事者への信頼は重要な転帰と関連しているが、これまでは主に外来で評価されてきた。入院中の患者が医療従事者に対する信頼をどのように考えているのかはほとんど知られていない。

目的

入院患者の信頼感を表す尺度の次元性を検討する。

デザイン

探索的因子分析(EFA)および確認的因子分析(CFA)。

対象者

米国中西部の6つの病院の入院患者(N = 1756、回答率76%)。サンプルは無作為に分割され、約半分がEFAに、残り半分がCFAに使用された。

主な測定項目

医師への信頼感尺度を入院治療用にアレンジしたもの。

主な結果

Kaiser-Guttman基準と並行分析により、EFAは結論に至らず、このサンプルでは信頼が1つまたは2つの因子で構成されている可能性が示された。フォローアップCFAでは、カイ二乗差検定(Δχ2 = 151.48(1), p < 0.001)と比較適合度指数(CFI)差検定(CFI差 = 0.03)により、2因子モデルが最も適合した。2因子CFAモデルの全体的な適合度は良好であった(χ2 = 293.56, df = 43, p < 0.01; CFI = 0.95; RMSEA = 0.081 [90%信頼区間 = 0.072.090]; TLI = 0.93; SRMR = 0.04)。項目は、信頼の認知的側面(患者が医療従事者を有能と見なしているかどうか)と感情的側面(患者が医療従事者を気遣っていると見なしているかどうか)に関連する2つの因子にロードされた。

結論

外来患者における信頼の尺度は一次元的なものとして検証されてきたが、入院患者の場合、信頼は認知的信頼と情動的信頼の2つの要素から構成されているようである。このことは、入院患者の信頼を得るためには、入院患者が自分を有能で思いやりのある人物と見なすように努力する必要があることを示す最初の証拠となる。

感想

セッティングの違いによる患者の医療者への信頼の構造の相違を示唆する研究.認知的信頼と情動的信頼,と分かりやすく言語化されると,イメージがつきやすいです.因子構造を適切に分析すると、言い得て妙なカテゴライズができるものなのですね。

2021年8月4日水曜日

複雑な問題を抱える患者のプライマリケアアクセスを確保する

Moreno G, Mangione CM, Tseng CH, Weir M, Loza R, Desai L, Grotts J, Gelb E. Connecting Provider to home: A home-based social intervention program for older adults. J Am Geriatr Soc. 2021 Jun;69(6):1627-1637. doi: 10.1111/jgs.17071. Epub 2021 Mar 12. PMID: 33710616.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17071?af=R


目的

複数の医学的状態と複雑な社会的問題を抱える患者は、医療機関の利用率が高く、転帰が悪くなるリスクがある。Connecting Provider to Homeプログラムは、ソーシャルワーカーとコミュニティ・ヘルス・ワーカー(CHW)からなるチームを配置し、社会的問題を抱える患者のプライマリ・ケアへのアクセスをサポートするものである。我々の目的は、複雑な社会的・医学的問題を抱える高齢者の医療利用と満足度に、このプログラムが与える影響を検討することであった。


方法

一致させた比較群を用いたレトロスペクティブな準実験的観察研究。


設定

南カリフォルニアの地域密着型プログラム


参加者

地域社会に住む成人420人


介入

複雑な医療的・社会的ニーズを持つ高齢者を対象とした、ソーシャルワーカーとCHWチームが提供する地域密着型のヘルスケアプログラム。


測定

パイロットプログラムへの登録前後の12カ月間における急性期の入院および救急部(ED)の受診状況。マッチした比較対象グループを用いた差の差分析を行った。通常の治療を受けている患者の比較対照群のデータを入手した。プログラムに対する患者の満足度と経験を評価するためにアンケート調査を実施した。


結果

患者の平均年齢は74歳で、700人の比較対象者と比較して、急性期の入院と救急外来の利用が統計的に有意に減少したことが示された。介入群では、急性期前後の入院およびEDの受診が減少した。急性期入院の患者1人当たりの年間平均削減量は-0.66であり、ED利用の患者1人当たりの平均削減量は-0.57であった。プログラムに参加した患者は高い満足度を報告し、プログラムを好意的に評価していた。


結論

ソーシャルワーカーとCHWによるケアモデルは、プライマリーケアと連携して患者の社会的ニーズに対応することができ、医療サービスの利用を減らし、患者のケア経験を向上させる可能性がある。


感想

差の差分析を用いた準実験的手法で,複雑な問題を抱えた高齢者のケアのニーズに対応するプログラムの効果を示した研究.このような研究結果が集積して,社会的アプローチが政策上優先されるようになればいいなと思います.

2021年8月3日火曜日

パートナーからの暴力をスクリーニングすることについて

 Perone HR, Dietz NA, Belkowitz J, Bland S. Intimate partner violence: analysis of current screening practices in the primary care setting. Fam Pract. 2021 Jun 29:cmab069. doi: 10.1093/fampra/cmab069. Epub ahead of print. PMID: 34184740.

https://academic.oup.com/fampra/advance-article-abstract/doi/10.1093/fampra/cmab069/6311092?redirectedFrom=fulltext


背景

親密なパートナーからの暴力(Intimate Partner Violence: IPV)は、米国ではほとんど発見されていないが、36~50%の女性が生涯のうちに経験すると言われており、身体的・心理的に大きな影響を及ぼす。現在、米国予防サービス専門委員会(USPSTF)はユニバーサルスクリーニングの実施を推奨している一方で,世界保健機関(WHO)は反対しており,推奨が相反している。また、女性が診療所でIPVについて質問されることはほとんどないという調査結果もあり、現在のスクリーニング方法についてさらなる情報が必要とされている。


目的

プライマリケアにおけるIPVスクリーニングの現状と、スクリーニングの完了に影響を及ぼす可能性のある要因を明らかにする。


方法

フロリダ州南東部にある4つの大学付属プライマリ・ケア・クリニックで、年次検診を受けた患者をレトロスペクティブに調査した(n = 400)。患者の人口統計、スクリーナーの人口統計、スクリーニングの完了、およびスクリーニングの結果を医療記録から収集した。結果は、有病率やスクリーニングの推奨度が同程度であることから、うつ病と不安神経症のスクリーニングと比較した。人口統計学的特徴によるスクリーニング率の比較には、ピアソン・カイ二乗およびフィッシャー正確確率検定を用いた。


結果

IPVスクリーニングは、不安神経症(37.3%)およびうつ病(71.3%)のスクリーニングと比較して、はるかに低い頻度(8.5%)で実施されていた。記録されたIPVスクリーニングのうち、患者がスクリーニングを拒否したケースは64.7%であった。スクリーニング率は、患者の民族性によってわずかに影響を受けることがわかった(P = 0.052)。


結論

スクリーニング率の低さとスクリーニングの成功率の低さという結果は、普遍的なIPVスクリーニングを提唱することの難しさを懸念させるものであった。したがって、普遍的な調査を推奨する前に、スクリーニングの完了を妨げる隠れた障壁を特定するための追加研究が必要である。


感想

スクリーニングを推奨する前に一歩立ち止まって,そのスクリーニングがどのような影響を及ぼすのかを多面的に検討しましょう,ということかなと思いました.

2021年8月2日月曜日

健康保険と糖尿病治療アドヒアランスとの関係

Rastas, C., Bunker, D., Gampa, V. et al. Association Between High Deductible Health Plans and Cost-Related Non-adherence to Medications Among Americans with Diabetes: an Observational Study. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06937-9


背景

糖尿病患者にとって、処方された薬を服用することは不可欠である。しかし、HDHP(注:免責額が高く月額保険料の低い保険プラン.慢性疾患の患者では必要な検査や治療を先送りするなどの問題が指摘されている)普及やインスリンなどの糖尿病治療薬の価格上昇は、アドヒアランスを阻害する可能性がある。


目的

米国の非高齢糖尿病患者の費用関連服薬アドヒアランス低下(CRN)に及ぼすHDHPの影響を評価すること。


調査方法

繰り返す横断調査


設定

全米健康面接調査,2011~2018年。


参加者

薬を処方され,HDHPまたは以前からの商業医療プラン(TCP)に登録している18~64歳の民間保険加入者のうち,糖尿病患者7469人。


主な測定項目

CRNの自己申告による測定値を、HDHPとTCPの加入者全体およびインスリンを使用しているサブセットの間で比較した。解析は、多変量線形回帰モデルを用いて、人口統計学的および臨床的特性を調整した。


主な結果

HDHP加入者はTCP加入者よりも、処方箋の引き換えをしない(13.4%対9.9%、調整後ポイント差(AD)3.4[95%CI 1.5~5.4])、服薬を省略する(11.4%対8.5%、AD 2.8[CI 1.0~4.7])、服薬をスキップする(11.4%対8.5%、AD 2.8[CI 1.0~4.7])、服薬量を減らす(11.1%対8.8%、AD 2.3 [CI 0.5~4.0])、節約のために処方箋の引き換えを遅らせる(14.4%対10.8%、AD 3.0 [CI 1.1~4.9])、何らかの形でCRNとなる(20.4%対15.5%、AD 4.4 [CI 2.2~6.7])可能性が高かった。インスリンを服用している人では、HDHP加入者の方が何らかのCRNを持っている可能性が高かった(25.1%対18.9%、AD5.9[CI1.1~10.8])。


結論

HDHPは、糖尿病患者、特にインスリンを処方されている人のCRNの増加と関連している。糖尿病患者の場合,HDHP以外に加入すると,処方された薬に対するCRNが減少する可能性がある。


感想

米国特有の問題にみえますが,日本でも経済的事由による糖尿病患者の受診抑制,治療抑制,検査抑制はよく出会う問題だと認識しています.日本でも同様の研究が必要です(すでに行われている研究もありますね).

2021年8月1日日曜日

SOGIと子宮頸がん検診

 Berner AM, Connolly DJ, Pinnell I, Wolton A, MacNaughton A, Challen C, Nambiar K, Bayliss J, Barrett J, Richards C. Attitudes of transgender men and non-binary people to cervical screening: a cross-sectional mixed-methods study in the UK. Br J Gen Pract. 2021 Jul 29;71(709):e614-e625. doi: 10.3399/BJGP.2020.0905. Erratum in: Br J Gen Pract. 2021 Jun 24;71(708):302. PMID: 34001539; PMCID: PMC8136582.

https://bjgp.org/content/71/709/e614.short?rss=1


背景 

子宮頸部を切除する手術を受けていない Transgender men and non-binary people assigned female at birth(TMNB)は、cisgender womenと同じ頻度で子宮頸癌検診を受けることが推奨されているが、TMNBは生涯および直近の子宮頸癌検診の受診率が低いことが示唆されている。


目的

英国に住むTMNBの子宮頸癌検診に対する意識と嗜好を理解する。


デザインと設定 

NHSのgender identity clinic(GIC)およびtransgender peopleのケアを専門とするNHSのsexual health serviceでTMNBを対象とした横断的な調査を行った。


方法

GICとsexual health serviceの患者をメールで招待して募集した。組み入れ基準は以下の通り:①female sex assigned at birth、② transgender man, masculine, or non-binary gender identity、③年齢が18歳以上、④英国在住。定量的な結果は記述統計学を用いて分析し、自由記述のコメントはテーマ分析を行った。


結果 

合計で137名の参加者がいた。80%がtransmasculine、18%がnon-binary、残りの参加者はその他のnoncisgenderのアイデンティティを持っていた。64人(47%)の参加者が子宮頸がん検診を受けるのが適当であり、そのうち37人(58%)が検診を受けていた。子宮頸がん検診について十分な情報を得ていると感じていたのは、検診対象者のうち34人(53%)であった。半数強(n=71/134、53%)が、高リスクのヒトパピローマウイルスに対するself-swabのオプションを希望すると回答した。子宮頸癌検診の自動案内に賛成したのは、半数(n=68/134、51%)にとどまった。テーマ分析では、スクリーニングに対する多くの追加的な障壁と促進要因が特定された。


結論 

TMNBにとって,子宮頸がん検診の受診率と患者の体験を向上させる可能性のある変化の余地がある多くの分野を特定した。


感想

切実かつ重要な問題意識からスタートしたリサーチだと思います.

2021年7月30日金曜日

医師と患者がそれぞれ経験するDeprescribingの障壁

 Hahn EE, Munoz-Plaza CE, Lee EA, Luong TQ, Mittman BS, Kanter MH, Singh H, Danforth KN. Patient and Physician Perspectives of Deprescribing Potentially Inappropriate Medications in Older Adults with a History of Falls: a Qualitative Study. J Gen Intern Med. 2021 Jan 19. doi: 10.1007/s11606-020-06493-8. Epub ahead of print. PMID: 33469744.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11606-020-06493-8


背景

高リスクの薬剤は、転倒のリスクを高めるなど、高齢者にとって深刻な安全上のリスクをもたらす。転倒を経験した高齢者に潜在的に不適切な薬剤(PIM)を処方しないことは、転倒防止戦略の重要な要素である。しかし、高齢者がPIMを継続して使用することは一般的であり、臨床医はPIMの減薬で大きな障壁に直面する可能性がある。


目的

転倒歴のある患者におけるPIMsの減薬について、患者と臨床医の経験と認識を探る。


デザイン

患者に,ステークホルダーとともに,減薬シナリオを経験するふぃーづバックセッションを行った.また,プライマリ・ケア医(PCP)に半構造化インタビューを行い、転倒リスクガイドラインの知識と認識、減薬の経験、脱処方の障壁と促進要因について調査した。


参加者

カイザー・パーマネンテ南カリフォルニア(KPSC)のプライマリ・ケア医と、KPSCの地域患者諮問委員会の患者メンバー。


方法

最大変動サンプリングを用いて、転倒した患者がいるPCPを特定し、その患者のPIMの処方分布を高頻度と低頻度に分類した。データの分析には、ハイブリッドな演繹的・帰納的アプローチを用いた。コーダーは、最初に演繹的に導き出されたコードをデータに適用すると同時に、オープンコードによる帰納的アプローチを用いて、浮かび上がってきたテーマを把握した。


主な結果

医師は、転倒した患者であっても、減薬の議論は論争になる可能性があると認識していた。医師は、減薬戦略の快適さについて様々なレベルを報告した。この会話は他の人(例えば薬剤師)の方が適しているかもしれないと感じている人もいれば、十分に計画された交渉戦略を持っている人もいた。患者は、減薬の理由と目的が明確でないこと、転倒の重大性に対する理解が不十分であることを報告した。


結論

本研究では,減薬の主な障壁として,PCPが議論の余地のあるテーマを提起することにためらいを感じていることと,患者が転倒の潜在的な重大性を十分に認識していないことが示唆された。これらの結果から、臨床医のトレーニング戦略、患者の教育資料、患者と臨床医の信頼関係の構築に焦点を当てた、多面的かつマルチレベルの脱抑制アプローチの必要性が示唆された。


感想

Deprescribingの障壁について,転倒した高齢者という特定の集団を念頭に,医師と患者双方の視点を探る,という,とても実践的かつ重要な研究だと思います.結論はクリアです.

2021年7月29日木曜日

退院後のフォローアップは1週間が勝負!?

Coppa K, Kim EJ, Oppenheim MI, Bock KR, Conigliaro J, Hirsch JS. Examination of Post-discharge Follow-up Appointment Status and 30-Day Readmission. J Gen Intern Med. 2021 May;36(5):1214-1221. doi: 10.1007/s11606-020-06569-5. Epub 2021 Jan 19. PMID: 33469750; PMCID: PMC8131454.

https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-020-06569-5


背景

退院後のフォローアップ予約は、入院後の患者の回復状態を評価することを目的としているが、予約状況が再入院とどのように関連しているかは不明である。


目的

退院後の外来フォローアップの状況((1)予約された予定があること、(2)予約された予定通りに受診したこと)と30日後の再入院との関連を検討する。


デザインと設定

Integrated Delivery Networkに参加している12の病院に入院した患者と、同ネットワーク内の外来診療予約者を対象としたレトロスペクティブコホート研究。


対象者および主要評価項目

2018年に入院してから18か月以内に外来予約をした50,772人の患者を対象とした。主要アウトカムは退院後30日以内の再入院とした。


主要な結果

予定されたフォローアップの予約があった患者は3万2,108人(63.2%)、フォローアップがなかった患者は1万8,664人(36.8%)で、2万8,313人(88.2%)が受診し、3149人(9.8%)が欠席し、646人(2.0%)が予定された予約の前に再入院した。全体の30日再入院率は7.3%で、予約通り受診した患者では6.0%[5.75~6.31]、フォローアップを受けていない患者では8.8%[8.44~9.25]、予定された予約を逃した患者では10.3%[9.28~11.40]であった(p<0.001)。共変量を調整したところ、退院後1週間以内に予約外来を受診した患者は、フォローアップの予定がない患者に比べて再入院の可能性が有意に低かった(内科での調整ハザード比(aHR)0.57 [0.47-0.69]、p < 0. 001; 外科ではaHR 0.58 [0.44-0.75], p < 0.001) フォローアップ外来を受診した内科患者は、フォローアップの予定がない患者に比べて、3週目および4週目のリスクが増加した(3週目のaHR 1.29 [1.10-1.51], p = 0.001; 4週目のaHR 1.46 [1.26-1.70], p < 0.001)。


結論

退院後の予約時間に到着した患者の利益は、フォローアップの予約を逃した患者やフォローアップの予定がなかった患者と比較して、退院後1週間目にのみ有意であり、30日再入院を減らすためには退院後1週間以内の連携が重要であることが示唆された。


感想

退院後のフォローアップは1週間以内が勝負ということのようです.

本文には,はっきりとどんな介入をしたかは書かれていませんでした(後方視の観察研究なので仕方ないですが).

退院後状態が安定しているかが再入院に関係する重要な因子であり,そこをみるためには1週間以内じゃないと効果的じゃない,という主張のようです.

アメリカでは30日再入院率が高いとペナルティがあるようですね.そりゃあ切実な問題になりますよね.

他に重要だと思った文を引用します.

A development of a 30-day risk calculator would be helpful to prioritize whom to schedule for follow-up in 1 week.

We also found that 10% of patients did not show up to their appointment. It will be important to assess the factors, particularly social determinants of health, which may be affecting arrival to the appointment.

2021年7月26日月曜日

便潜血陽性患者が大腸内視鏡を受ける際の障壁

 Cooper GS, Grimes A, Werner J, Cao S, Fu P, Stange KC. Barriers to Follow-Up Colonoscopy After Positive FIT or Multitarget Stool DNA Testing. J Am Board Fam Med. 2021 Jan-Feb;34(1):61-69. doi: 10.3122/jabfm.2021.01.200345. PMID: 33452083.

https://www.jabfm.org/content/34/1/61.full


背景 

糞便免疫化学検査(FIT)およびマルチターゲット便DNA検査(mt-sDNA)は,推奨される大腸がんスクリーニングの選択肢であるが,陽性結果の原因を特定するためには,大腸内視鏡検査によるフォローアップが必要である。我々は,これらの患者の大腸内視鏡検査の受診率を調べるために,学術的な医療機関でレトロスペクティブな分析を行った。


方法

2016年1月から2018年6月の間にFITまたはmt-sDNAが陽性で、少なくとも1回のプライマリケア受診があった40歳以上の全患者を特定した。陽性検査後6か月以内の大腸内視鏡検査の受診を確認し、大腸内視鏡検査を受けなかった理由を調べるために医療記録を見直した。


結果 

FITが陽性の308名の適格患者とmt-sDNAが陽性の323名の患者を確認した。FIT陽性患者の一部(46.7%)とmt-sDNA陽性患者(71.5%)は6カ月以内に大腸内視鏡検査を受けており、大腸内視鏡検査までの期間はmt-sDNAの方が短かった(ハザード比、1.83、95%CI、1.48-2.25)。これらの差は、患者の特性を調整した多変量モデルでも変わらなかった。FIT 陽性で大腸内視鏡検査を受けなかった患者のうち、1 つ以上のシステム上の障壁、医療機関上の障壁、患者上の障壁が確認されたのは、それぞれ 32.1%、57.6%、36.3%であった。mt-sDNA陽性で大腸内視鏡検査を受けなかった患者では、それぞれ30.4%、43.5%、57.6%であった。


結論

mt-sDNA検査ではFIT検査よりもフォローアップ検査の実施率が高かったが、これは臨床医や患者による事前選択が原因の一つであると考えられる。フォローアップを行わなかった患者では、医療機関やシステムの要因が、患者の要因と同様に頻繁に見られた。これらの結果は、フォローアップを向上させるためのマルチレベルの介入の必要性を示唆している。


感想

便潜血陽性が分かればちゃんと大腸内視鏡につなげようね,医療機関やシステムによる要因が結構あるから見直そうね,という研究結果ですね.本文読みましたが,適切に紹介していなかったり,偽陽性の可能性が高かったり(じゃあなんで検査したんだ,といわれてしまいます)と,医療側が改善すべき点が多々ありますね.

2021年7月24日土曜日

知的障害者への予防ケアの医療機関へのインセンティブ

 McNeil K, Hennen B, Joyce M, Marshall EG. Health check guidelines and billing for family physicians caring for adults with intellectual and developmental disabilities: Incentives to improve care. Can Fam Physician. 2021 Jul;67(7):e197-e201. doi: 10.46747/cfp.6707e197. PMID: 34261728.

https://www.cfp.ca/content/67/7/e197?rss=1


目的 

知的発達障害(IDD)がある成人の年1回の包括的な予防ケア評価に関するカナダのコンセンサスガイドラインの推奨が、インセンティブ請求コードの導入以降、ノバスコシア州の家庭医にどの程度取り入れられているかを検証し、この患者集団に対する完全な身体検査の重要性、クリニックでの診察に必要な余分な時間、ケアを提供する開業医の課題について議論する。


デザイン 

2012年4月から2016年12月までの家庭医によるコード03.04Cおよび03.03Eの請求を分析した。


設定 

ノバスコシア州


参加者 

家庭医


主なアウトカム評価 

fee-for-serviceとalternative payment planによる請求数、およびこれらの料金コードを使用したケア提供者の数。


結果 

分析の結果、3つの重要な結果が得られた。ノバスコシア州における成人IDDの診察および精密検査に対するインセンティブ付き請求コードの使用は、修正コードの導入以来、患者に対して着実に増加していた。IDD成人訪問コードの使用率は、総数および請求する医療機関の数から見て明らかに増加していた。精密検査のコードはあまり普及していなかった。


結論 

強化された請求コードは、ノバスコシア州の家庭医に、IDDがある成人のケアにおいて新たに改訂された2018年のカナダのコンセンサスガイドラインを採用するインセンティブを与えていた。IDD患者に対する年1回の健康診断の議論と推進を継続することで、より多くの患者と介護者がこの積極的なケア項目を優先するかもしれない。


感想

Underserved populationへのヘルスプロモーションが医療機関へのインセンティブにより推進されたか銅貨を調べた研究としてとても意義深いものだと思いました.この内容で実装研究しているのはさすがカナダの家庭医です.

2021年7月23日金曜日

patient-guided tourによる障害者のプライマリケア受診経験の探索

 Walji S, Carroll JC, Haber C. Experiences of patients with a disability in receiving primary health care: Using experience-based design for quality improvement. Can Fam Physician. 2021 Jul;67(7):517-524. doi: 10.46747/cfp.6707517. PMID: 34261715.

https://www.cfp.ca/content/67/7/517?rss=1


目的 

patient-guided tourを用いて、障害のある患者がプライマリケアを受ける経験を洞察し、改善策を提案すること


方法 

patient-guided tourを用いた、経験に基づくデザインの質的研究。


セッティング

都市部のアカデミックなプライマリケア診療所。


参加者 

障害があると医療従事者が同定した患者。


方法 

患者は「典型的な受診」でしているのと同じように診療所内を歩き、その都度自分の気持ちや経験を説明した。研究者は、半構造化インタビューガイドを用いて、患者の語りを促した。ツアーの様子は録音され、文字おこしされた。テーマティックな内容分析を行った。


主な結果 

参加者は、様々な障害(身体障害、感覚障害、慢性疾患、精神疾患、学習障害、発達障害)がある18名の患者であった。強固な正の人間関係、特にチームや事務スタッフとの良好な関係が、ケアの利用や体験の認識に大きな影響を与えていた。多角的で、明確で、尊敬に満ちたコミュニケーションは,患者の経験を劇的に改善する独立した因子であった。参加者は、アクセス、調整、物理的な障害の多くが、チームの関係とコミュニケーションによって緩和されたと述べた。物理的なスペースや建物の問題は、身体的にも精神的にも障害のある人にとって厄介なものであった。各参加者の障害自体は、参加者の経験に影響を与えていたものの、人間関係、コミュニケーション、空間的な課題ほど顕著には語られなかった。参加者は、patient-guided tourは、経験や感情を引き出すのに価値が高い方法であると述べた。


結論 

医療チームの中には、人間関係やコミュニケーションが、障害者のヘルスケアのあらゆる側面に影響を与えることを知らない人もいる。これらの知見を医療機関や組織で強調することで、より患者を中心としたケアモデルが促されるかもしれない。私たちが行った、patient-guided tourからなる経験ベースのデザインは、障害者がどのようにケアを経験したかを評価するのに効果的であった。


感想

patient-guided tourというやり方があるのですね.これは非常に有効な方法論であるように思います.高齢者や介護者でも応用可能ですし,「施設入居者の急変で救急外来に同伴した施設スタッフ」を対象に研究したら意義深いデータが得られるのではと直感的に思いました.

2021年7月22日木曜日

抗うつ薬の中止は単なるdeprescribingではない

 Donald M, Partanen R, Sharman L, Lynch J, Dingle GA, Haslam C, van Driel M. Long-term antidepressant use in general practice: a qualitative study of GPs' views on discontinuation. Br J Gen Pract. 2021 Jan 17;71(708):e508–16. doi: 10.3399/BJGP.2020.0913. Epub ahead of print. PMID: 33875415; PMCID: PMC8074642.


背景 

オーストラリアは世界で最も抗うつ薬を使用している国の一つであり、抗うつ薬の使用量増加が懸念されている。エビデンスによると,この使用量の多さは新規処方によるものではなく、長期使用している患者によるものであることが示唆されている。抗うつ薬の処方のほとんどはGP診療所で行われており、抗うつ薬の使用を中止しようとする試みは行われていないか、あるいは成功していないと考えられる。


目的 

抗うつ薬の長期処方と中止に関するGPの洞察を探る。


デザインと設定 

オーストラリアのGPを対象とした質的面接研究。


方法 

半構造化面接により、GPの中止経験、意思決定、認識されたリスクと利益、患者への支援について調査した。データは反射的テーマ分析を用いて分析した。


結果 

22人のGPとのインタビューから、3つの包括的なテーマが特定された。1つ目のテーマ「単純なdeprescribingの決定ではない」は、患者が治療を中止する準備ができているかどうかを判断する際に、GPが行う複雑な意思決定について述べている。2つ目の「共に歩む旅」は、GPが患者と一緒に、中断前、中断中、中断後に適切なサポートを開始し、準備するための一連のステップを示している。3つ目は、「GPの処方実践における変化の支援」で、GPが、自分や患者が抗うつ剤を中止するのをよりよく支援するために、どのような変化を望んでいるかを説明した。


結論 

GPは、抗うつ剤の長期使用を中止することは、単なるdeprescribingの決定ではないと考えている。それは、患者の社会的・関係的背景を考慮することから始まり、慎重な準備、個別のケア、定期的な見直しを含む旅である。これらの洞察は、長期使用を是正するための介入は、これらの考慮事項を考慮に入れ、抗うつ薬の使用に関するより広い議論の中で位置づけられる必要があることを示唆している。


感想

deprescribingに関する極めて示唆に富む論文.臨床現場の実感ととてもよくマッチします.抗うつ薬だけでなく,睡眠薬や鎮痛薬でも同様のことが言えそうだなと思います.こうやって雑誌をあさっていると,ときどき,明日からの臨床を奥深くさせるとてもいい論文に出会いますが,これもそのような論文の1つだと思います.

2021年7月21日水曜日

こむらがえりが生活に与える影響

Paul Sebo, Dagmar M Haller, Céline Kaiser, Armita Zaim, Olivier Heimer, Nicolas Chauveau, Hubert Maisonneuve, Health-related quality of life associated with nocturnal leg cramps in primary care: a mixed methods study, Family Practice, 2021;, cmab082, https://doi.org/10.1093/fampra/cmab082


背景

夜間のこむらがえりは一般的であるにもかかわらず、生活の質に与える影響についてはほとんど研究されていない。この混合研究では、夜間のこむらがえりが健康関連の生活の質(HRQoL)に与える影響を調査した。


方法

本研究では、夜間のこむらがえりに悩まされていると報告したプライマリーケアの患者(50歳以上)を対象とした(2016~2017年)。定量的段階では、患者がHRQoL(SF-36)とこむらがえりの頻度に関するアンケートに回答し、SF-36スコアを算出した。そして、様々なレベルのHRQoLを持つ患者に半構造化インタビューを用いた質的研究を行い、こむらがえりが生活に与える影響についての患者の認識を探った。


結果

計114名(49%)の患者が量的研究への参加に同意し(平均年齢:71歳、女性:62%)、15名の患者が質的研究の対象となった(平均年齢:69歳、女性:67%)。前週のこむらがえりの回数は少なかった(平均。1.6(SD 1.5))。SF-36の身体的および精神的サマリースコアの平均値はそれぞれ43と50で、ドメインスコアは比較対象となる一般集団と同様であった。日常生活にほとんど支障がないと報告した患者もいれば、HRQoLの大幅な低下を報告した患者もいた。SF-36スコアのすべてのレベルの患者がインタビューでこむらがえりの大きな影響を報告したため、SF-36スコアはこむらがえり関連の障害を説明するのに十分ではなかった。


結論

一部の患者は、HRQoLに関係なく、こむらがえりが生活に及ぼす特定の影響を記述している。これらの患者は、今後の介入試験の対象とすべきである。


感想

こむらがえりが生活に与える影響はHRQoLでは評価できない,ということですね.いいところついてきたなという研究です.

2021年7月20日火曜日

授乳中の乳房・乳頭痛(BMJ Practice)


育児を経験して,授乳中の乳房トラブルはこんなに多くて大変なのかと,恥ずかしながらはじめて気づきました.

育児の経験があったからこそ,時々外来や救急でやってくる授乳婦の乳房トラブルについて一定の対応ができるようになったと思いますが,いつまでも経験則だけで対応するわけにはいかないので,しっかり学習しようと思います.


BMJ Practice の要点だけざっくりまとめます.

Identifying the cause of breast and nipple pain during lactation


●初産婦の70%以上が、産後1週間で乳頭や乳房の痛みを訴える.多くは哺乳の問題による乳頭痛.やっぱり頻度は多いのですね.


●乳頭痛の鑑別

・不適切な哺乳

・乳児の口腔解剖学的構造:非対称な顎や制限された前歯(舌小帯)、または吸啜時の口腔内の過剰な真空状態

(このあたりの問題は,当たり前ですが乳児を診察しないと判断できないですね.家庭医としては,舌小帯,鵞口瘡,ヘルペス性口内炎の有無は確認しておこうと思いました.)

・母乳を出す技術の問題:大きく加えすぎ,圧力が高すぎ,長すぎ

・乳頭の出血/白斑

表面的な炎症性のフィブリン病変で、乳頭先端に白斑として現れ、乳頭の開口部を塞ぎ、軽度から重度の乳頭の痛みを引き起こすことがある→閉塞につながることも

(これ,かなりコモンですよね.フィブリンだったのか.初めて知りました.)

→自然軽快することも多いが,長引くなら滅菌針で除去する.また,症例報告レベルだが,少量の強力ステロイド軟膏を毎日塗布し、吸収率を高めるために授乳の間にクリングフィルムラップで覆うとよいかもしれない.

・乳頭血管痙攣/レイノー病

痛みの主な原因となりうる。痛みや乳首の外傷(損傷した乳頭や鵞口瘡)に対する二次的な反応である場合も。通常、手足が冷たくなる血行不良の人に見られる。

(知らなかったです.「冷え症」かどうか聴取することが大事とのこと)

・乳頭皮膚炎

アトピー性皮膚炎、刺激性皮膚炎(乳首クリームや乳児の口腔内の食餌残渣による)、接触性皮膚炎(乳房パッドによる)、乾癬など

・細菌性乳頭感染症

24時間以上経過した乳頭の損傷には、一般的に黄色ブドウ球菌が繁殖している。

・陥没乳頭

稀なケース。乳頭の先端が折れ曲がっていると、折れ目の内側の皮膚が傷つきやすく、浸食されてしまうため、痛みが続くことがある。

・単純ヘルペス感染

感染源から乳頭/乳輪に感染が移った場合に発生。保育園で乳児がもらったヘルペス性口内炎から感染することも。

・カンジダ

外陰部カンジダはリスク因子.産後に抗菌薬が使われている場合もある.ただ,何でもかんでもカンジダとしてはいけない.


●乳房痛の鑑別

・乳汁鬱滞(engorgement)

産後2~10日目で母乳が急に作られたとき、授乳を急にやめたとき、乳房から母乳を取り出さずに何時間も経過したときなど。

(早期の育休復帰で必発するという印象があります)

・乳管閉塞

痛みは通常、授乳後に軽減する。乳房炎を引き起こす可能性がある

・乳腺炎

非感染性の場合もあるが(例:乳児が初めて夜通し寝たとき)、特に乳首に損傷があり、細菌が乳房組織に侵入した場合、感染症に移行することがある。カサカサした紅斑がでれば黄色ブドウ球菌の所見かも.

・乳房嚢胞(galactocele)

液体または母乳の詰まった乳房内嚢胞.圧痛のある腫れ/しこりとなる.

(痛みのあるしこりはすべてが乳腺炎ではないということですね)

・乳房への外的外傷

乳児に足で蹴られたなど


●ただしい授乳の姿勢 

・乳児が乳首ではなく乳房にしがみつくように、大きく口を開けて乳房に向かい、母親に密着して抱っこされている.

・母親が胸部を回転させたり屈曲させたりするような不適切な姿勢をとっていないか確認する。母親はデッキチェアのように少し後ろに寄りかかり、足を床につけたり支えたりして、肩は左右対称でリラックスしている必要がある。

・母親が乳児を乳房に近づけているか(乳房を乳児に,ではなく)、乳児のあごが乳房に押し付けられていて、鼻が空いているかどうかを確認する。乳児の鼻が乳房に埋まっている場合は、乳児の尻を近づける.

・乳児の頬は丸く(吸い込まれていない状態)、顎は飲み込むときに開閉する

・最初の吸引は母乳が下がるまで素早く行い、その後はリズミカルに吸引する。

・乳児の口から出た直後の乳首が白く、変形している(平らになっている、しわになっている、尖っているなど)場合に,接着不良を疑う


●痛みが出るタイミング

・授乳開始時にのみ生じる痛み

通常、乳頭の解剖学的構造や乳児の解剖学的構造に関連した、最適ではない付着による乳頭の外傷

・授乳後の痛み

乳頭の血管攣縮、白斑による管の閉塞と局所的な管の攣縮、または乳房鵞口瘡

・授乳後に経験する痛み:乳管閉塞


●ピットフォール

・まずは哺乳方法の問題を考える

・痛みが灼熱感と表現されても、カンジダとすぐに診断してはいけない

・舌小帯異常の過剰診断に注意する.正常な口腔解剖が舌小帯短縮と診断され、不必要なリリースが行われていることがある

・複数の要因がある可能性を認識する

・管理方法が症状の一因となっている可能性を認識する(例:乳首外用剤の使用による二次的な刺激性皮膚炎、小さすぎる乳首シールドやポンプフランジによる外傷、強すぎる乳房マッサージ)

・母親の健康状態だけでなく、乳児の成長と健康状態を評価する。

・乳房の痛みや乳房の痛みの認識が母乳育児とは無関係である状態に注意する。(線維筋痛症、筋骨格系の緊張、母乳育児に対する嫌悪など)



2021年7月19日月曜日

共同設計を高齢者医療研究に持ち込む

John Travers, Roman Romero-Ortuno, Éidin Ní Shé, Marie-Therese Cooney, Involving older people in co-designing an intervention to reverse frailty and build resilience, Family Practice, 2021;, cmab084, https://doi.org/10.1093/fampra/cmab084

背景
一般市民を対象に調査を行うより、一般市民とともに調査を行うことが,ヘルスリサーチにおいて重要なことです。高齢者対象の研究で Public and patient involvement(PPI)を行うことは、参加者数、関連性、影響力を改善させることができる。しかし、フレイル研究におけるPPIを用いた研究はほとんどない。PPIは、Covid-19パンデミックのため衰退している。

目的
我々は、フレイルを回復させ、レジリエンスを構築するための無作為化対照試験(RCT)介入の共同設計co-designingに高齢者を参加させることを目的とした。また、我々のアプローチを説明することで、高齢者とのPPIをより広く利用してもらいたいと考えた。

方法
高齢者の参加は3つの段階で行われた。18人の65歳以上の高齢者が、ソクラテス教育法を用いた2回のグループディスカッションで、運動介入策の共同設計に協力した。9ヶ月間にわたり、94人が介入のフィードバックを1対1の電話インタビューで行った。10人の協力者が、3回のオンラインワークショップで介入方法の最適化を支援した。共同設計には、学際的なチームの意見と系統的なレビューが用いられた。

結果
グループディスカッションの参加者(平均年齢75歳、女性61%)により、11種類の家庭でのレジスタンス運動が共同設計された。フレイルへの介入形式、男女のバランス、GPフォローアップは電話インタビューで形成された(平均年齢77歳、女性63%)。食事指導と患者とのコミュニケーションは、ワークショップで共同設計された(平均年齢71歳、女性60%)。テクノロジーはPPIの障害にはならなかった。共同設計されたフレイル介入は、確定的なRCTで現在評価されている。

結論
フレイルを改善し、多様な方法で回復力を高めるための介入策の共同設計に、112名の高齢者が参加したことは有意義であった。パンデミック時にも包括的な関与を実現できる。フィードバックにより、実際のプライマリーケアでの介入の実現性が高まった。

感想
共同設計は当事者研究と関連してこれからのプライマリケア研究のキートピックになると思っています.

2021年7月14日水曜日

死期が近い高齢者の孤立と孤独

 Kotwal, AA, Cenzer, IS, Waite, LJ, et al. The epidemiology of social isolation and loneliness among older adults during the last years of life. J Am Geriatr Soc. 2021; 1- 11. https://doi.org/10.1111/jgs.17366


背景

社会的孤立や孤独は、高齢者の健康にとって非常に重要であるが、終末期におけるそれらの状況については十分に明らかにされていない。


目的

人生の最後の数年の高齢者における社会的孤立と孤独の有病率と相関関係を明らかにする。


方法

全国を対象とした横断的な調査。


対象

Health and Retirement Studyの2006年~2016年のデータ。


参加者

50歳以上の成人で、人生の最後の4年間に1回インタビューを受けた人(n = 3613)。


測定方法

社会的孤立は、家庭内接触、社会的ネットワーク交流、地域社会への関与を測定する15項目の尺度を用いて定義し、頻繁な孤独は3項目のUCLA孤独尺度を用いて定義した。多変量ロジスティック回帰法を用いて、死亡前の時間および対象となるサブグループごとに、これらの調整済み有病率を算出した。


結果

人生の最後の4年間に社会的孤立を経験した人は約19%、孤独を経験した人は約18%、両方を経験した人は約5%であった(相関 = 0.11)。社会的孤立の調整済み有病率は、死期が近い人ほど高く(4年:18% vs 0-3カ月:27%、p = 0.05)、孤独感には大きな変化はなかった(4年:19% vs 0-3カ月:23%、p = 0.13)。孤立感、孤独感ともに、そのリスク要因として、純資産の少なさ(孤立感:34% vs 14%、孤独感:29% vs 13%)、聴覚障害(孤立感:26% vs 20%、孤独感:26% vs 17%)、食事の準備が困難(孤立感:27% vs 19%、孤独感:29% vs 15%)などが挙げられた。社会的孤立ではなく孤独に関連する要因としては、女性であること、痛み、失禁、認知機能障害などが挙げられました。


結論

社会的孤立と孤独は終末期によく見られ、高齢者の4人に1人が経験しているが、両方を経験している人はほとんどいなかった。この結果は、終末期の心理社会的苦痛を特定して対処するための臨床的取り組みや、終末期の社会的ニーズを優先する医療政策に役立つと思われる。


感想

極めて示唆に富む研究.まず,孤独と孤立ははっきり違うことが分かります.聴覚障害や食事準備は医療や介護で影響を軽減できる領域ですし,疼痛や失禁が孤独と関係しているという視点があると高齢者のケアの在り方が大きく変化します.臨床的にとても重要な知見だと思います.

2021年7月10日土曜日

脳血管障害患者に対する心房細動検出のNNS

Ori Liran, Tamar Banon & Alon Grossman (2021) Detection of occult atrial fibrillation with 24-hour ECG after cryptogenic acute stroke or transient ischaemic attack: A retrospective cross-sectional study in a primary care database in Israel, European Journal of General Practice, 27:1, 152-157, DOI: 10.1080/13814788.2021.1947237


背景

潜在性心房細動による虚血性脳卒中や脳血管障害(CVA)は、深刻な罹患率や死亡率を引き起こす可能性がある。潜在性心房細動の診断は困難であり、最適なスクリーニングの期間については意見が一致していない。虚血性CVA後の潜伏心房細動を検出するために、24時間ホルター心電図がよく用いられる。


目的

プライマリケアにおける24時間ホルター心電図による潜在性心房細動の検出率を示すとともに、独立変数の記述的解析を行い、心房細動が検出された患者と検出されなかった患者を比較する。


方法

このレトロスペクティブ横断研究では、プライマリケアデータを活用し、2013年1月1日から2019年6月1日の間に、新たなCVAまたは一過性脳虚血発作(TIA)の診断を受け、6か月以内に24時間ホルター検査を受けた50歳以上の患者を対象とした。分析には、心房細動または心房粗動(AFL)が検出された患者とそうでない患者の人口統計および臨床特性を比較する記述統計が含まれた。


結果

対象患者5015人のうち、66人(1.3%)が心房細動/AFLと診断され、NNS(Number needed to screen)は88.5人であった。心房細動/AFLを検出しなかった患者と比較して、診断された患者は高齢であり(75.42±7.89対69.89±9.88、p=0.050)、高血圧(80.3対66.8、p=0.021)および慢性腎臓病(CKD)(71.2対44.2、p<0.001)の有病率が高かった。


結論

24時間ホルターは心房細動/AFLの検出率が低い。高齢者や高血圧、CKD患者は、この方法で心房細動/AFLを検出する可能性が高い。


感想

プライマリケアにおいて脳血管障害患者の24時間ホルターによる心房細動検出のNNSは86である(人数なので繰り上げて整数にするのが本来)というのは重要な疫学的データだと思います.正直,それ以上の含意をこのデータから導くのはどうかなと.脳血管障害患者の心房細動検出は様々な方法が試されていますが,現実的なのはウェアラブル端末でしょうか.遠くない未来には,脳梗塞患者にapple watchをつけてもらうのが標準ケアになるのかもしれません.

2021年7月9日金曜日

糖尿病患者ケアに家族を巻き込む

 Zupa, M.F., Lee, A., Piette, J.D. et al. Impact of a Dyadic Intervention on Family Supporter Involvement in Helping Adults Manage Type 2 Diabetes. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06946-8


背景

成人の糖尿病治療に対する家族の支援は、自己管理と転帰の改善に関連するが、医療従事者は支援者を巻き込むための構造的な方法を持っていない。


目的

患者支援者による糖尿病管理介入により,支援者の患者の糖尿病ケアへの関与,支援技術,介護経験に与える影響を評価する。


デザイン

多変量回帰モデルを用いて,ダイアド(患者,支援者双方)的介入と通常ケアに参加者を無作為化した大規模試験の一部として観察された支援関連指標のグループ間差を検討した。


対象者

HbA1cが8%以上、または収縮期血圧が160mmHg以上の2型糖尿病患者で、家族の支援者が登録されている成人239名。


介入方法

ヘルスコーチがポジティブサポート技術のトレーニングを行い、自己管理に関する情報共有と目標設定を促進した。


主要評価項目

糖尿病ケアにおける支援者の役割と介護の経験について、ベースライン時と12ヵ月後の患者と支援者の報告。


結果

12ヵ月後、介入を受けた患者は、医療機関への予約を忘れない(AOR 2.74、95%CI 1.44、5.21)、自宅での検査を行う(AOR 2.40、95%CI 1.29、4.46)、オンラインポータルにアクセスする(AOR 2. 34、95%CI 1.29、4.30)、医療機関への連絡時期を決定する(AOR 2.12、95%CI 1.15、3.91)、薬を取りに来る(AOR 2.10、95%CI 1.14、3.89)といった項目で支援者の関与が増加したと報告したが、診察予約や健康的な食事や運動の項目ではぞうかはなかった。介入を受けた患者は、自律支援型のコミュニケーション(7点満点で+0.27点、p=0.02)と目標設定のテクニック(5点満点で+0.30点、p=0.01)を支援者が使うようになったと報告した。患者の糖尿病に対する支援者の苦痛や介護の負担を評価するスコアの変化には、12カ月時点で差はなかった。介入で割り当てられたサポーターは、自分の役割に対する医療制度のサポートに対する満足度が有意に大きく向上した(10点満点で+0.88点、p=0.01)。


結論

ダイアド介入は,家族支援者のストレスを増加させることなく,家族支援者の糖尿病自己管理への関与を増加させ,ポジティブな支援技術の使用を増加させた。


感想

糖尿病のケアに家族を巻き込むことについての研究ですね.糖尿病患者に対する家族志向ケアはときどき研究テーマになっている容易思います.「家族の木」ですね.

2021年7月8日木曜日

multimorbidity高齢患者の降圧薬減薬に関するマインドライン

 Kuberska K, Scheibl F, Sinnott C, Sheppard JP, Lown M, Williams M, Payne RA, Mant J, McManus RJ, Burt J. GPs' mindlines on deprescribing antihypertensives in older patients with multimorbidity: a qualitative study in English general practice. Br J Gen Pract. 2020 Dec 22:bjgp21X714305. doi: 10.3399/bjgp21X714305. Epub ahead of print. PMID: 34001537.


背景 

multimorbidityを抱える高齢者の高血圧を最適に管理することは、プライマリ・ケア診療の基本である。高齢者の治療では個人に合わせたアプローチが重視されているが、GPが治療による潜在的な利益よりも潜在的なリスクの方が大きいと懸念している場合に、どのようにして減薬を実現するかについての指針はほとんどない。このような状況では、マインドライン(複数の情報源から時間をかけて作成された暗黙の内在化されたガイドライン)が特に重要であると考えられる。


目的 

マインドラインの概念を用いて、80歳以上のmultimorbidity患者の降圧に関するGPの意思決定を調査する。


デザインと設定 

英国のGP診療所を舞台にした質的インタビュー研究。


方法 

イングランド東部の7つの診療所の15人のGPとの対面インタビューをテーマ分析し、カルテによる外的刺激による想起アプローチを用いて、高血圧を伴うmultimorbidityの高齢患者の治療アプローチを探った。


結果 

GPは、転倒や薬物有害事象などのきっかけがあれば、multimorbidityの高齢患者に降圧薬を減薬する決定を下すことに自信を持っている。GPは、ポリファーマシーに関する一般的な懸念に対して減薬を試みることにはあまり自信がなく、意思決定のために複数の情報源(利用可能なエビデンス、共有された経験的知識、非臨床的要因を含む)を理解するよう努力している。


結論 

ポリファーマシーに関する懸念に対応して、いつ、どのように減薬を試みるかについて、明確なエビデンスベースがない中で、GPは実践的な経験を通じて時間をかけて「マインドライン」を構築する。複雑な意思決定を行うためのこれらの暗黙のアプローチは、減薬を試みる自信を深めるために重要であり、反省的実践によって強化される可能性がある。


感想

家庭医にとって自分のマインドラインを自覚することはとても大事です.どのように自分のマインドラインが構築されており,どのように活用しているのかを自覚することが,診療の質を担保する一つの方法だと思います.この研究はmultimorbidityの高齢者の降圧薬減薬がテーマですが,イベントをきっかけに減薬するというのは自分も確かにそうだと思います.

2021年7月7日水曜日

研修医採用面接にかかるCO2排出量

Liang KE, Dawson JQ, Stoian MD, Clark DG, Wynes S, Donner SD. A carbon footprint study of the Canadian medical residency interview tour. Med Teach. 2021 Jul 6:1-7. doi: 10.1080/0142159X.2021.1944612. Epub ahead of print. PMID: 34227912.


背景

毎年春になると、何千人ものカナダ人医学生が、研修医採用面接のためにカナダ全土を移動し、このプロセスは「CaRMSツアー」として知られている。大規模な移動であるにもかかわらず、CaRMSツアーの環境面での調査はほとんど行われていない。


目的

CaRMSツアーに関連するフライトの全国的なカーボンフットプリントを推定するとともに,代替モデルへの移行によって達成可能な排出量の削減を図る。


方法

3つの質問からなるオンライン通勤調査を実施し,2020年のCaRMSツアーに参加する受験者の試験のための旅行日程を収集した。すべてのフライトに関連する排出量を計算し、2つの対面式面接モデルと2つのバーチャル面接モデルの予想排出量をモデル化した。


結果

カナダの全17校の医学部における2943名の受験者のうち、960名から回答を得た。2020年のCaRMSにおけるフライトのカーボンフットプリントを4239tCO2e(二酸化炭素換算トン)、受験者1人あたり平均1.44tCO2eとと算出した。平均的な受験者のツアーでの排出量は、平均的なカナダ人の家庭の年間カーボンフットプリントの35.1%に相当し、26.7%の回答者の排出量は、年間の「2050年のカーボンバジェット」全体を超えていた。対面式の面接を一元化すると13.7%から74.7%、バーチャル面接では少なくとも98.4%から99.9%の排出量を削減することができる。


結論

カナダで義務付けられている研修医の対面式面接は、大きなCO2排出量をもたらし、排出量の多い慣習を反映している。CaRMSツアーではかなりの脱炭素化が可能であり,バーチャル面接に移行することでフットプリントをほぼ完全になくすことができる。


感想

これは着眼点がまさに目からうろこです.極めて重要なテーマだと思います.

2021年6月25日金曜日

質的データ収集にrich pictureを用いる

Molinaro ML, Cheng A, Cristancho S, LaDonna K. Drawing on experience: exploring the pedagogical possibilities of using rich pictures in health professions education. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2021 Jun 21. doi: 10.1007/s10459-021-10056-9. Epub ahead of print. PMID: 34152494.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10459-021-10056-9

リッチピクチャーとは,複雑な現象を参加者が描いた絵のことで,医療における多面的で感情的なトピックを探るための有効な手法として,臨床研究や医療専門家教育の分野で注目されている。例えば,最近行われた2つの研究では,新生児集中治療室(NICU)での難しい会話に関する研修医,医療従事者,保護者の体験を,半構造化インタビューに加えてリッチピクチャーを用いて明らかにした。どちらの研究でも、参加者には、この環境でどのように難しい会話を経験したかを絵に描いてもらった。インタビューでは,参加者がどのように絵を描いたのか,また,この研究手法の利点と限界についての認識を共有してもらった。ここでは、参加者の視点を報告し、医療専門職の教育と研究における教育的革新のためにリッチピクチャーを使用することの可能性について考察する。

感想

半構造化インタビュー+rich pictureを使ってデータ収集が行われた2研究のデータを再利用し,rich pictureを使うことの利点と限界について考察した研究.比喩や色彩などを使って複雑な情報を伝えることができる,絵をかくときに省察が促される,といったテーマが扱われていました.研究者が絵そのものを解釈する,というより,グルプインタビューなどと組み合わせて参加者の語りの質的,量的な深化をうながす,という使い方が良いのでしょう.特に,医療現場の経験を言語化する経験の乏しい患者や学生,研修医にとって有用である可能性が指摘されています.

2021年6月24日木曜日

良い医療をする燃え尽きそうな献身的家庭医

 Willard-Grace R, Knox M, Huang B, Hammer H, Kivlahan C, Grumbach K. Primary Care Clinician Burnout and Engagement Association With Clinical Quality and Patient Experience. J Am Board Fam Med. 2021 May-Jun;34(3):542-552. doi: 10.3122/jabfm.2021.03.200515. PMID: 34088814.


背景 

バーンアウト(燃え尽き症候群)とエンゲージメント(関与)は、一般的には対極にあるものとして概念化されており、臨床医のバーンアウトが高く、エンゲージメントが不足していると、患者のケアに悪影響を及ぼすのではないかと懸念されている。


方法

182名のプライマリ・ケア臨床医のバーンアウトとエンゲージメントに関する自己申告データを、臨床的な質(がん検診、高血圧および糖尿病のコントロール)および患者の経験(臨床医およびグループ調査-消費者による医療提供者およびシステムの評価(CG-CAHPS)のコミュニケーション・スコア、総合評価、クリニックを推薦する可能性)に関するデータと照合した。多変量線形回帰モデルにより、バーンアウト、エンゲージメント、またはバーンアウトとエンゲージメントの表現型(例:高いバーンアウトと低いエンゲージメント)を、品質と患者体験の予測因子として検討した。


結果 

このサンプルの3分の1の臨床医は、燃え尽き度が低い-関与度が高い、燃え尽き度が高い-関与度が低いというスペクトラムに当てはまらなかった。燃え尽き症候群とエンゲージメントのどちらか一方だけでは、品質や患者体験の指標とは関連しなかった。しかし、バーンアウトが高く、エンゲージメントも高い臨床医は、3つの患者経験ドメイン(臨床医のコミュニケーション、臨床医の総合評価、クリニックの総合評価)すべての平均評価が最も高かった。


考察 

本研究の結果は、バーンアウトとエンゲージメントは相反するものであり、バーンアウトやエンゲージメントの低さがケアの質や患者体験に悪影響を及ぼすという仮説を覆すものであった。個人的な幸福を犠牲にして質の高いケアを提供する可能性のある献身的な臨床家を支援する最善の方法について、より深い理解が必要である。


感想

とても含蓄のある研究.バーンアウトとエンゲージメントは対極にあるものではなく,むしろバーンアウトしながら懸命にアンゲージメントしていると(患者報告)アウトカムが高い,ということで,いち家庭医としてはしみじみしてしまう結果です.筆者たちが述べている通り,この研究結果をもとに,じゃあどうするのかを考えていく必要がありそうです.

2021年6月23日水曜日

薬代が払えない.

Rohatgi KW, Humble S, McQueen A, Hunleth JM, Chang SH, Herrick CJ, James AS. Medication Adherence and Characteristics of Patients Who Spend Less on Basic Needs to Afford Medications. J Am Board Fam Med. 2021 May-Jun;34(3):561-570. doi: 10.3122/jabfm.2021.03.200361. PMID: 34088816.


導入

低所得者にとって、コストは服薬アドヒアランスを阻害する要因となっている。薬代のために必要なものを買わずに過ごすことは、特に問題となるコスト対処戦略であり、健康状態の悪化と関連している可能性がある。本研究の目的は、(1)薬代を支払うために基本的な生活費を節約していると回答した人の人口統計学的および健康状態の特徴を明らかにすること、(2)これらの人が抱える心理社会的および経済的な課題を理解することである。


方法

2016年から2018年にかけて、大規模調査の一環として、ミズーリ州セントルイスの主に低所得の成人(n=270)にアンケートを実施した。ロジスティック回帰を用いて、薬代の支払いのために基本的なニーズへの支出が少ないと報告するオッズをモデル化した。


結果

薬代を支払うための基本的ニーズへの支出が少ないのは、健康状態がかなり悪い、慢性疾患の数が多い、薬代の支出が多い、請求書の支払いが困難である個人で有意に多かった。基本的ニーズへの支出が少ない人は、服薬アドヒアランスが十分でない可能性が高かった。


結論

プライマリケアにおいて、満たされていない基本的ニーズをスクリーニングし、社会的セーフティネットプログラムを紹介することは、患者が持続的な服薬アドヒアランスを達成するのに役立つ可能性がある。


感想

こういうことを一つ一つ明らかにしていくのはとても意味があることだと思います.

2021年6月22日火曜日

男性の病気と思われている冠動脈疾患におけるpatient journeyとその男女差

Kreatsoulas, C., Taheri, C., Pattathil, N. et al. Patient Risk Interpretation of Symptoms Model (PRISM): How Patients Assess Cardiac Risk. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06770-0


背景

冠動脈疾患は "男性の病気 "であるという認識がある一方で、心臓のリスク評価に影響を与える要因や、性別による違いについてはほとんど知られていない。


目的

1) 心疾患のリスク評価の複雑さを、患者中心の視点から質的に捉える。2) リスク評価が性別によってどのように異なるかを探る。3) 新たなサンプルを用いて、質的な知見の妥当性を量的に検証する。


デザイン

本研究は2部構成で行われた。1)半構造化in-depth面接を音声録音し、逐語的に書き起こし、修正グラウンデッド・セオリーを用いて分析した。(2)調査結果を定量的に検証するために、別のサンプルで出現したテーマを調査した。差異は、両側 t 検定と kappa を用いて推定した。


対象者

CADの疑いで初めての冠動脈造影検査を受けるために紹介され、過去に1回以上異常な検査所見が出た参加者を第三次医療機関から募集した。


主な施策

パート1では、患者を中心としたテーマが導き出された。パート2では、患者は複数の時点で自分の症状が心臓に関連している確率を推定した。


結果

パート1では、男性14名、女性17名(平均年齢=63.3±11.8歳)が参加した。第2部では237名の患者が参加し、そのうち109名(46%)が女性であった(平均年齢=66.0±11.3歳)。パート1では、患者のリスク評価が3つの段階に分かれることが明らかになり、それらをIshikawaのフレームワーク「Patient Risk Interpretation of Symptoms Model(PRISM)」を用いて把握した。パート2では、PRISMの結果が検証された。患者は時間の経過とともに自分の症状をCADに起因するものと考える傾向が強まったが(フェーズ1とフェーズ3:21%と73%、p<0.001)、女性は男性よりもフェーズ3までに症状を心臓に起因するものと認識する割合がわずかに低かった(女性67% vs 男性78%、p=0.054)。


結論

患者のCADリスク評価は発展するものであり、女性は男性よりもリスクを過小評価する傾向がある。PRISMは,患者中心のケアを最適化するための臨床的な補助手段として使用できる可能性がある。今後の研究では,異なる臨床環境におけるPRISMの検証が必要である。


感想

時々,圧倒される論文に出会いますが,これがまさにそうです.

RQは大きく2つ「冠動脈疾患の診断がつくまでのpatient journeyは何か」「冠動脈疾患は男性の病気であると思われていることを考えると,女性の患者には女性特有のpatient journeyの複雑さがあるのではないか」だと考えました.

まず,冠動脈疾患患者が病院を受診し検査を受け診断が確定するまでのpatient journeyを記述し,3つのフェーズ(受診したほうがいいよなと思うまで,実際に受診するまで,冠動脈造影を受けるまで)でどのようなことが起こったのかをfishbone diagramにまとめています.そのうえで,男女を比較し相違点を探っています.ここまでが質的分析で,さらに量的な妥当性の検証を行っています.各フェーズで「自分の症状が冠動脈疾患に由来するものであると思っていたか」を尋ね,女性で自分の症状を冠動脈疾患のせいだと思わなかった割合が(統計学的有意差はありませんが)低い傾向にあることを示しています.

この研究結果がどのように臨床に応用されるかについても,論文中に書かれています.以下,引用です.


フェーズ1:医師は、患者の冠動脈疾患のリスクに対する認識と、実際の臨床リスクとの間に不一致があるかどうかを調査すべきである。医師は、医師の診察までの時間や病院到着までの時間を短縮するために、冠動脈疾患のリスクを高めるものや冠動脈疾患に関する症状について患者を教育する必要がある。


フェーズ2:医師は、適時性、共感性、ベッドサイドマナーの向上に努め、患者の満足度を高めるために、医療システムにおける患者のナビゲーションを改善することを支援すべきである。


フェーズ3:医師は、患者の心理社会的ウェルビーイングをサポートし、ライフスタイルの変化や前向きな考え方を促進し、患者のサポートシステム(家族や地域のリソース)との連携を深めることで、治療継続に良い影響を与えることができる。動機付け面接などのエビデンスに基づく手法は、このプロセスを促進する可能性がある。


男性の病気と思われている冠動脈疾患のpatient journeyにおける性差に目をつけるのも素晴らしいと思いますし,説明的順次デザインで多角的にjourneyの内容を検討し,さらに臨床医への提言まで踏み込んでいるところが,素晴らしいと思いました.

こんな研究してみたいです.


受診,検査,診断確定までの経過に着目したpatient journeyの研究を,もし自分がするなら,どうしようかなと考えます.

診断がつきづらい疼痛をきたす良性疾患(slipping rib syndrome,やACNESなど)の患者にインタビューして,care-seekingの複雑さや診断がついたことのインパクトについて探索すると面白そうだなと思いましたが,そのような患者さんに出会うのが大変そうですね.

2021年6月21日月曜日

ケア移行はより社会的な側面に着目すべき

 Liebzeit, D, Rutkowski, R, Arbaje, AI, Fields, B, Werner, NE. A scoping review of interventions for older adults transitioning from hospital to home. J Am Geriatr Soc. 2021; 1– 13. https://doi.org/10.1111/jgs.17323


背景・目的

高齢者は、病院から在宅へ移行する際に、有害な転帰のリスクが高い。移行期のケア介入は、主にケアコーディネーションと投薬管理に焦点を当てており、重要な要素を見逃している可能性がある。本研究の目的は、健康関連のアウトカムに影響を与える病院から自宅への移行期のケア介入の現状を調査し、高齢者とその介護者の関与を含むその他の重要な要素を検討することである。


デザイン

スコーピングレビュー。


方法

対象とした論文は、病院から在宅への移行期の介入に焦点を当て、入院後の主要なアウトカムを測定し、無作為化対照試験デザインを用い、主に60歳以上の成人を対象としたものであった。このレビューに含まれる論文は、全文をレビューし、研究目的、設定、人口、サンプル、介入、主要および副次的なアウトカム、および主な結果に関するすべてのデータを抽出した。


結果

タイトルから5,647件の論文を抽出しました。44件の論文が適格と判断され、含まれていた。移行期のケアへの介入の構成要素として最も多かったのは、ケアの継続と調整、投薬管理、症状の認識、および自己管理であった。介護者のニーズや目標に焦点を当てたことを報告した研究はほとんどなかった。一般的な介入方法は、電話、患者の入院中の面会、退院後の地域での面会などでした。最も多かった転帰は、再入院と死亡率であった。


結論

医療利用以外のアウトカムを改善するためには、ケアトランジション介入のデザインと研究にパラダイムシフトが必要である。今後の介入では、介護者の関与のための方法や新規の介入を検討し、ソーシャルワークや作業療法などのあまり知られていない専門家が関与する学際的なチームやケアコーディネーションハブを活用し、高齢者や介護者が報告するニーズや彼らの幸福に対応するために特別にデザインされた介入の機会を検討すべきである。


感想

ケア移行の研究は,従来の投薬やケア継続に焦点を当てるだけではなく,介護者のニーズなどより社会的な視点でなされるべきだというスコーピングレビュー.納得です.

2021年6月20日日曜日

躁症状を評価する質問紙:PMQ-9

 Cerimele, J.M., Russo, J., Bauer, A.M. et al. The Patient Mania Questionnaire (PMQ-9): a Brief Scale for Assessing and Monitoring Manic Symptoms. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06947-7


背景

測定結果に基づくケアは、双極性障害に対して有効な臨床戦略であるが、広く採用されている患者報告式の躁症状測定法がないこともあって、十分に活用されていない。


目的

患者報告による躁症状の簡易測定法の開発とその心理測定的特性を報告すること。


デザイン

双極性障害および/またはPTSDのスクリーニング陽性のプライマリケア患者1004名を対象に、2つの治療法を比較した無作為化効果試験で収集されたデータの二次解析。


参加者

双極性障害と診断され、テスト・リテスト・データが得られた114名と、精神科で双極性障害と診断され、9項目からなるPatient Mania Questionnaire-9 [PMQ-9]の評価を2回以上受けた179名の2つの分析サンプルを対象とした。


主な測定項目

内部信頼性,テスト・リテスト信頼性,同時性,変化に対する感度を評価した。最小重要差(MID)は,測定の標準誤差(SEM)と標準偏差(SD)の効果量で推定した。


主な結果

PMQ-9は,高い内部信頼性(Cronbach's alpha = 0.88)とテスト・リテスト信頼性(0.85)を有していた。躁症状測定法との同時有効性の相関は、Internal State Scale-Activation Subscaleで高く(0.70; p<0.0001)、Altman Mania Rating Scaleでは低かった(0.26; p=0.007)。長期的には、179名の双極性障害患者の1511回の受診時にPMQ-9を記入した。初回と最終回のPMQ-9の平均スコアは14.5(SD 6.5)と10.1(SD 7.0)で、治療中に平均スコアが27%低下したことから、変化に敏感であることが示唆された。MIDの点推定値は約3ポイント(2~4の範囲)であった。


結論

PMQ-9は,試験後の信頼性,同時性,内的整合性,変化に対する感受性に優れており,実用的な臨床試験において患者と臨床医に広く使用され,受け入れられた。抑うつ症状の測定法であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)と組み合わせることで、この簡便な測定法は、プライマリ・ケアやメンタル・ヘルス・ケアの現場で双極性障害の患者の測定に基づいたケアを行うことができるだろう。


感想

抑うつのPHQ-9は有名ですが,躁症状でもPMQ-9が臨床的に使えることを示した研究.スコアは以下の通りで10点がカットオフです.

(英語の質問項目の直訳です.)


この一週間で,以下の症状がどの程度ありましたか

(全くない:0点,数日:1点,週の半分以上:2点,ほぼ毎日:3点)

1. ほぼ,あるいはまったく眠らずにいるのに,元気である

2. すぐに腹が立つ

3. 活動的すぎると感じる

4. 後先考えずに衝動的に振舞ったり何かをしたりする

5. せかせかしている,あるいはせわしないと感じる

6. 気がすぐにそれる

7. しゃべり続けなければならないと感じたり,普段よりよくしゃべると誰かに言われたりする.

8. 議論を吹っ掛けたいと感じる

9. 思考があちこちに飛ぶ

2021年6月19日土曜日

アルコール問題に対する簡潔な介入

 Rubin, A., Livingston, N.A., Brady, J. et al. Computerized Relational Agent to Deliver Alcohol Brief Intervention and Referral to Treatment in Primary Care: a Randomized Clinical Trial. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06945-9


背景

アルコールのスクリーニングと簡単な介入は、有効性が実証されているが、実際のプライマリ・ケアの現場での効果と実施は限られている。


目的

アルコールスクリーニング、簡単な介入、および治療への紹介を行うようにプログラムされたコンピュータ化されたRelational Agentの効果を評価すること。実験条件の参加者は、通常通りの治療(TAU)の参加者と比較して、飲酒量の減少をより多く報告し、簡単な介入や専門医療機関への紹介をより多く行うとの仮説を立てた。


デザイン

本研究は、ハイブリッドI実施計画および層別RCTであった。参加者は、TAUまたはRelational Agent+TAUに無作為に割り付けられ、ベースラインおよび3カ月後のフォローアップで評価された。


参加者

アルコール検査で陽性となったプライマリ・ケア・スタッフからの紹介、または最近の診察で陽性となった患者に送られた手紙によって、178名の退役軍人の参加者が募集された。


介入

TAUは、年に一度、アルコールの使用状況を確認し、必要に応じて簡単な介入と治療の紹介を行うものであった。Relational Agentでは、自動化された簡単な介入、Relational Agentによる1カ月後の訪問、必要に応じた治療の紹介が行われた。


主な測定項目

3カ月間の1日あたりの平均飲酒量、週あたりの飲酒日数、簡単な介入の回数、および紹介の回数を測定した。


主な結果

参加者は両条件で飲酒量が減少し、主要なアルコール測定値にグループ間の有意差はなかった。しかし、Relational Agent+TAUの参加者は、3カ月間でアルコールに関連するネガティブな結果についてより大きな改善を示し、簡単な介入と専門家への紹介を受ける確率が有意に高かった。


結論

Relational Agentは、より多くの患者に簡単な介入を行い、専門医療機関に紹介することに成功し、プライマリケアの負担を増やすことなく、飲酒の程度が低い患者にも介入することができた。


感想

アルコール関連の有害事象が,比較的簡潔な介入で減らすことができるかもしれないことを示した研究.アルコール関連疾患の処方箋は「人とのつながり」なのだろうなという印象をもちました.

2021年6月18日金曜日

高齢HFrEF患者へのβ遮断薬

 Gilstrap, L., Austin, A.M., O’Malley, A.J. et al. Association Between Beta-Blockers and Mortality and Readmission in Older Patients with Heart Failure: an Instrumental Variable Analysis. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06901-7

背景

心不全の人口統計は変化している。特に75歳以上の "高齢 "心不全患者の増加率は他のどの年齢層よりも高くなっている。初期のβ遮断薬の臨床試験ではこれらの高齢者の参加が少なかった。このような高齢者では、死亡率の低下や副作用の増加など、リスクとベネフィットのトレードオフが異なる可能性があり、その理由はいくつかある。

目的

心不全退院後のβ遮断薬投与と、心不全で駆出率が低下した患者(HFrEF)、特に75歳以上の患者の早期死亡率および再入院率との関連を明らかにすることを目的とした。

デザインと参加者

メディケアパートAおよびBの100%とパートDの40%の無作為サンプルを用いて、2008年から2016年の間にHFrEFによる入院が1回以上あった受給者のコホートを作成し、操作変数分析を行った。

主要評価項目

主要評価項目は90日全死因死亡率、副次評価項目は90日全死因再入院。

主な結果

2段階の最小二乗法を用いて、全HFrEF患者において、退院後30日以内のβ遮断薬の投与は、90日死亡率を-4.35%(95%CI-6.27~-2.42%、p<0.001)、90日再入院率を-4.66%(95%CI-7.40~-1.91%、p=0.001)減少させることと関連していた。75歳以上の患者でも、退院時にβ遮断薬を投与することは、90日死亡率が-4.78%(95%CI-7.19~-2.40%、p<0.001)、90日再入院率が-4.67%(95%CI-7.89~-1.45%、p<0.001)と有意に減少することと関連していた。

結論

75歳以上のHFrEF入院後にβ遮断薬を投与した患者は,90日死亡率と再入院率が有意に低かった。その効果の大きさは、年齢とともに衰えないようである。強い禁忌がない限り、年齢にかかわらず、すべてのHFrEF患者は退院時または退院後にβ遮断薬の投与を試みるべきである。

感想

操作変数は「β遮断薬の使用率が高い(低い)病院に入院したか」のようです.この研究1本だけで結論付けることはできないですが,ベースラインの記述を読むと,75歳以上でmultimorbidityが多い集団であっても,HFrEFのβ遮断薬は害より益が大きいかもしれない,というのでいいのかなと思いました.(本当はちゃんと批判的吟味しなければ)

2021年6月17日木曜日

高齢者がオンラインで交流することの効果

 Gustafson, D.H., Kornfield, R., Mares, ML. et al. Effect of an eHealth intervention on older adults’ quality of life and health-related outcomes: a randomized clinical trial. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06888-1


背景

米国では、2030年までに65歳以上の高齢者の数が7,000万人を超えると言われている。米国政府は、65歳以上の高齢者の生活の質を高めることを国家的な優先課題としている。


目的

高齢者を対象としたeヘルスの介入が、生活の質、自立、および関連するアウトカムに及ぼす影響を評価する。


デザイン

マルチサイト、2群(1:1)、非盲検無作為化臨床試験。2013年11月~2015年5月に募集を行い、2016年11月までデータ収集を行った。


設定

ウィスコンシン州の3つのコミュニティ(都市部、郊外、および農村部)。


参加者

健康上の課題を抱える65歳以上の成人390名(コミュニティをベースとした意図的なサンプル)。除外項目:長期療養者、ベッドや椅子から自力で降りられない人。


介入

生活の質、社会とのつながり、自立性の向上を目的とした対話型ウェブサイト(ElderTree)へのアクセス(vs. アクセスなし)。


対策

主要評価項目:生活の質(PROMIS Global Health)。副次的評価:自立(手段的日常生活動作)、社会的支援(MOS社会的支援)、抑うつ(PHQ-8)、転倒予防(転倒行動尺度)。モデレーション:医療利用(Medical Services Utilization)。両群とも、ベースライン時、6ヵ月後、12ヵ月後にすべての測定項目を完了した。


結果

300人10人(79%)の参加者が12カ月間の調査に参加した。ElderTreeの主効果は見られなかった。モデレーション分析によると、プライマリ・ケアの利用率が高い参加者では、ElderTree(vs. コントロール)により、精神的な生活の質(OR=0.32、95%CI 0.10-0.54、P=0.005), 受け取った社会的支援(OR=0.17、95%CI 0.05-0.29、P=0.007)、提供された社会的支援(OR=0.29、95%CI 0.13-0.45、P<0.001)が多く,抑うつ(OR=-0.20、95%CI -0.39~-0.01、P=0.034)が少なかった.補足的な分析では、ElderTreeは複数の(0または1の)慢性疾患を持つ人に、より効果的である可能性が示唆された。


制限事項

無作為化された後、参加者は条件を知ることができず、自己報告は記憶バイアスの影響を受ける可能性がある。


結論

ETのような介入は、病気の負担が大きい高齢者の生活の質と社会的・情緒的転帰の改善に役立つ可能性がある。我々の次の研究は、このような人々に焦点を当てる。


感想

オンラインでの交流が,疾患負荷,治療負荷の高い患者では効果的かもしれないという結論.このようなテーマでRCTを実施するのがさすがといった感じです.