2014年12月29日月曜日

無症候性蛋白尿/透析受容/Reticulocyte Index/オタワCTルール



先日参加したカンファランスで話題になった事項を纏めます。


・成人の無症候性蛋白尿のアプローチ

透析導入時の患者・家族の受容や、紹介元が果たすべき役割についての議論がありました。
議論したケースの患者さん(80歳代)は、20歳代で蛋白尿のみを指摘されていました。
おそらく今回の透析導入とは関係ありませんが、無症候性蛋白尿の鑑別について調べてみました。

いつものようにUpToDateを。proteinuriaで検索し以下の記事を見つけました。
Assessment of urinary protein excretion and evaluation of isolated non-nephrotic proteinuria in adults

蛋白尿があって、尿沈渣(血尿など)に異常がなく、GFR低下がなく、高血圧や糖尿病もない場合を、isolated proteinuriaというとのことです。
蛋白排出は3.5g/day以下で、低アルブミンがなく、浮腫などの症状がないのが特徴です。

isolated proteinuriaをみたら、まず一過性蛋白尿でないかを確認します。
発熱や運動などで惹起されることが多く、多くは尿蛋白1g/day以下です。
18歳以下の蛋白尿の8-12%を占めるそうです。

次に起立性蛋白尿を鑑別します。
大事なのは、30歳以上では稀であること、仰臥位で尿蛋白が正常になることです。
立位より臥位で尿蛋白が減るのは当たり前だそうです。

この2つでない、つまり生理的でない蛋白尿のアルゴリズムは以下の通りです。
尿蛋白が3mg/day以上、またはアルブミンが大部分を占める場合は、糸球体性蛋白尿を考え腎生検を行います。
尿蛋白3mg/day以下でアルブミンの割合が小さいなら、骨髄腫を考えて、モノクローナル軽鎖を測定します。
それでもなければ、尿細管障害(薬剤、自己免疫など)を考えます。β2ミクロアルブミンなど低分子蛋白を測定します。

腎後性蛋白尿、つまりUTI、結石、腫瘍でも蛋白尿が起こるので注意です。1g/day以下が多いみたいです。
あとは、溶血や横紋筋融解症も蛋白尿をきたします。



・透析導入の受容過程

ディスカッションでは、紹介元医師による透析の説明の有無や、家族の支援、本人の病状の理解などが大事なのではとなりました。
透析施設=墓場みたいなイメージを持つ患者さんもいるらしく、事前にビデオを見せたり見学をしてもらったりしているみたいです。

私は、週3回の通院の負担を考え、タクシー代などの通院費や、施設へのアクセス、家族の協力が需要に関係するのではという意見を述べました。
私は研修を行う病院のある自治体では、障害者手帳でタクシー運賃の割引があるそうですが、詳しい数字は福祉課そなえつけのしおりにしか載っていないらしく、調べられませんでした。

透析需要に影響を与える要因について質的に分析した看護論文(J. Jpn. Acad. Nurs. Sci. 23; 1-13, 2003)によると、「ス トレスの認知状態」「友人の手段的支援」「年齢」「精神健康状態」「導入時 どの程度納得していたか」が心理的適応に影響しており、ストレスの積極的な介入と透析に至る前の患者教育が重要であると結論しています。

また、糖尿病性腎症による透析導入の患者では、視力障害などで就業率や社会参加が低いという患者背景があり、障害を負い目と感じ、その障害と対峙できないことが、自尊心の低下をもたらすという研究もありました。(J. Jpn. Acad. Nurs. Sci. 34; 31-38, 2011)



・貧血における網赤血球の評価

貧血では網赤血球の増減が大事だけど、Retの数値をみるだけでは騙されるよという話でした。
RI(Reticulocyte Index)を計算して、2以上なら溶血性貧血を考えます。




上表は週刊医学界新聞のこの記事より引用しました。



・頭痛を訴える救急患者にCTを撮るべきか

作業服を着た30歳男性が、頭痛を訴えて救急受診というケースでした。
続発性を除外しないと、工場勤務だから中毒か…ということでCT撮影までしましたが
実際は作業着来てるけど仕事は事務、ブラック企業で睡眠時間も3時間程度で、診断は緊張性頭痛でした。

頭痛患者のCT撮影については
JAMAで2013年にpublishされた以下の論文があります。
Clinical decision rules to rule out subarachnoid hemorrhage for acute headache.

カナダで3次救急を受診した頭痛患者(ピークが1時間以内、神経学的所見なし)2131人を対象に
SAHがあった群(6.2%)とそうでない群を比較して、decision ruleを作成したものです。

作成されたオタワSAHルールは以下の通り。




これで感度100%(98.6-100%)、特異度17.8%(16.6-19.1%)です。

…そりゃそうだろっていう感じですかね。
病歴聴取でこのあたりを落とさないようにするのが大事ということでしょうか。
でもこれだと、40歳以上の患者は全例ひっかかりますよね。



2014年12月25日木曜日

解説篇:NEJM Case40-2014



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 40-2014
A 57-Year-Old Man with Inguinal Pain, Lymphadenopathy, and HIV Infection


AIDS患者の、左鼠蹊部付近優位のリンパ節腫大の鑑別となります。
比較的大きく、圧痛があり、壊死を伴っています。

リンパ節腫大の局在があるので、感染症をまず考えたいです。

内部壊死ですぐに連想するのは結核です。

ネコ飼育歴+免疫不全は、Bartonella henselaeによるBacillary angiomatosisを思い浮かべますが、臨床像が違う気がします。

免疫不全患者のHHV8感染といえば、カポシ肉腫とmulticentric Castleman's disease、primary effusion lymphomaです。
multicentric Castleman's diseaseはリンパ節の腫大が主徴候ですが、その名の通り全身のリンパ節が腫れると思います。あまり詳しく知らないので何とも言えません。
primary effusion lymphomaは胸水ADA高値なので結核性胸膜炎と誤診されやすいんでしたっけ。今回の症例には合いません。

他にもリンパ節腫大を起こす病原体はたくさんあると思いますが
気になるのは侵入経路が不明であること。
ヘルニア門から侵入とかあり得るのでしょうか?もしくは陰部から?


感染症以外だと、「夜間発汗を伴う間欠的な発熱」というキーワードは悪性リンパ腫を思い起こします。
ただ局在は説明できるのでしょうか。

サルコイドーシスは…こんな経過にはならないよなぁ。


以前、大学の課題でリンパ節腫大についてまとめたことがあったので
ここで見返してみました。



この表だと、結核とリンパ腫以外にそれっぽい疾患はないですね。



と、ここまで考えたうえでケースの続きを読みました。



…おお、答えは梅毒による壊死性リンパ節炎でしたね。



シマウマに走ってしまいました。反省です。

ですが、鑑別診断の議論で

The necrosis in the affected nodes brings mycobacterial infection to the top of the list of possibilities. However, other infectious processes, including cat scratch disease, are also associated with enlarged, necrotic lymph nodes.

とあり、自分も捨てたものではないなとうれしくなりました。

なお、multiple Castleman's diseaseは高熱などの全身症状が出るのが特徴らしいです。

…骨盤部腫瘍の転移は考えていませんでした。まだまだですね。



梅毒はありとあらゆる病像を呈することで有名ですが、
リンパ節炎を起こすことは知りませんでした。

本文中には

Syphilitic lymphadenitis, although uncommon, may be manifested as painful inguinal masses and may simulate an inflammatory pseudotumor, features that are similar to those seen in this case. 

とあり、そのまま疾患スクリプトとして覚えておく必要がありそうです。



実際には、ルーチーンで梅毒検査はするでしょうから

いずれにせよそこで判明するのでしょうね。

身も蓋もない意見ですが。



リンパ節の局在から感染症を疑ったところまでは良かったのでしょうが

侵入経路についての考察をもっとしておけば

何らかのSTIによるもの、という所までは行けた気がします。



~Clinical Pearl~

リンパ節腫大では、リンパの流れを意識する!

梅毒は鼠蹊部のinflammatory pseudotumorを起こしうる!



問題篇:NEJM Case40-2014




今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 40-2014
A 57-Year-Old Man with Inguinal Pain, Lymphadenopathy, and HIV Infection

【患者】HIVに感染している57歳男性

【主訴】左鼠蹊部痛

【現病歴】
10年前から左>右の鼠径ヘルニアあり、時々膨隆するも還納容易。
3か月前より、膨隆を伴う痛みが増強。
3週間前より、左側のヘルニアが大きくなり、夜間発汗を伴う間欠的な発熱を自覚
1週間前より、ヘルニアの近くに圧痛のある「硬い塊」を自覚
前日夜、口腔内体温38.1℃
当日朝、救急受診

受診時の所見
陽性:鼠蹊部痛(スケール3/10)、
陰性:悪寒、嘔気、嘔吐、腹痛


【既往歴】
8年前:HIV感染と診断、ART開始。2カ月前の検査で、HIVRNA検出限界以下、CD4+リンパ球250/mm3
8年前:カポシ肉腫(左大腿と口蓋)、ブレオマイシンで治療
他に、伝染性軟属腫、anal dysplasia(HPV感染による、anal wartsより進行)、肺MAC症(9年前に診断され、18か月の治療を受けた)、ニューモシスティス肺炎、鵞口瘡、眼窩隔膜前蜂巣炎、クリプトスポリジウムによる下痢の既往あり
3年前に一過性の肝酵素上昇あり(脂肪肝化アルコール性肝障害によると思われる)
HIV診断後すぐの検査でトキソプラズマIgG抗体(-)、8年前と5年前の検査でRPR(-)、他のSTIの既往なし

【薬剤】emtricitabine, tenofovir, rilpivirine
【アレルギー】ST合剤で溶血性貧血

【社会歴】異性愛者。離婚後、いまはHIV(+)でART服薬中の女性パートナーと同居。直近の性交歴はそのパートナーと2年前でコンドーム着用だった。喫煙30年間、アルコール毎日1-2本、違法薬物なし。製造工場で勤務。22歳の猫の世話をしているが最近噛まれたり引っ掻かれたりはない。6か月前にオクラホマから移住。白人ヨーロッパの血筋。

【家族歴】父親:冠動脈疾患 母親:線維筋痛症

【身体所見】
体温36.8℃、血圧155/79mmHg、脈拍82bpm、呼吸数18/min、SpO2 100%(r/a)
腹部平坦で圧痛や膨満はなし。左>右の鼠径ヘルニアあり、還納容易。鼠径管に一致してわずかに圧痛あり。左鼠径に3つ、大きく(最大径3cm)軽度圧痛あるリンパ節腫大あり。

【検査】
血液検査は以下の通り。
CTで左総腸骨、左外腸骨、左鼠径領域に多数のリンパ節腫大あり。壊死と考えられる低信号領域もある。傍大動脈、右鼠径領域にも小さいリンパ節腫大がある。
肝腫大(22cm)あり、下端は腸骨稜に達する。脾臓12.8cmとやや大きい。非閉塞性腎結石あり。






さて、あなたの診断は?



麻痺性イレウスの原因




友人の研修医の方が

未治療の糖尿病があり麻痺性イレウスで入院となった

患者さんを受け持っているとのことで

麻痺性イレウスについて調べてみました。


なかなか良い記事や論文が見つからず

どうしてだろうと思っていたのですが

どうやら日本語と英語では用語の使い方が違うようですね。


単にileusといえば、機能性イレウス、特に麻痺性イレウスのことを指すらしいです。

機械性イレウスはmechanical obstructionと表現するみたいです。


麻痺性イレウスのことについて調べるときは

ileus, pseudo-obstruction, Ogilvie's syndrome

などの用語で検索するといろいろ出てくることが分かりました。


Ogilvie's syndromeは見慣れない用語ですが

UpToDateのAcute colonic pseudo-obstruction (Ogilvie's syndrome)には

急性の結腸拡張の原因として

・Toxic megacolon(炎症性腸疾患、CD関連)
・Mechanical obstruction
・Acute colonic pseudo-obstrustion

とあります。

Ogilvie's syndromeはacute colonic pseudo-obstructionと同義とのことです。



麻痺性イレウスの原因は多岐にわたります。

DynamedのColonic ileusによると以下の通りです。

【薬剤】
オピオイド、Caブロッカー、抗うつ薬、フェノチアジン(抗精神病薬クロルプロマジンなど)、抗パーキンソン病薬、クロニジン、テオフィリン、バクロフェン、化学(放射線)療法、ステロイド、αグルコシダーゼ阻害薬

【外傷】
骨盤外傷、頬部外傷、脊髄外傷、長管骨骨折

【腫瘍】
血液学的悪性腫瘍(白血病など)、後腹膜腫瘍、骨盤放射線療法、傍腫瘍症候群(胸腺腫、小細胞癌など)、多発性骨髄腫

【膠原病】
強皮症、SLE、血管炎

【手術後】

【感染症】
急性胆嚢炎、髄膜炎、骨盤膿瘍、帯状疱疹、肺炎、CMV感染、敗血症、川崎病、デング熱

【神経疾患】
パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、下部脊髄障害、ギランバレー症候群、髄膜炎、糖尿病性末梢神経障害、神経線維腫症、家族性血管ニューロパチー、脳梗塞

【代謝疾患】
電解質異常(低K、低Ca、低Mg)、腎障害、肝障害、糖尿病、アルコール乱用

【心血管】
AMI、CHF、脳卒中

【それ以外】
人工呼吸、呼吸器疾患、急性膵炎、後腹膜血腫、妊娠、腎移植、中毒、甲状腺機能低下症、周期性四肢麻痺、下垂体機能低下症、鎌状赤血球症、大腸内視鏡後、家族性内臓ミオパチー


あまりに煩雑なので、UpToDateの表も参考にまとめてみました。

outside the box(腹部症状を考えるときは腹部以外の原因から)を意識してみました。

○医原性
 ・薬剤性
 ・手術や内視鏡の後、特に脊椎麻酔施行時

○全身疾患
 ・強いストレス(肺炎、AMI、脳卒中など)
 ・電解質異常、甲状腺低下
 ・膠原病

○消化管に向かう神経、血管の障害
 ・神経障害(脊髄障害、末梢神経障害、自律神経障害、DM含む)
 ・血行障害

○腹腔内、後腹腔
 ・腹部の炎症
 ・腹部内占拠病変



糖尿病と麻痺性イレウスの関連について

麻痺性イレウスを呈する糖尿病患者の割合や

麻痺性イレウスを起こすリスク因子を知りたかったのですが

PubmedとGoogle scholarを調べても論文が見つからず

いまのところ未解決です。


UpToDateのDiabetic autonomic neuropathy of the gastrointestinal tractには

Esophageal involvement(糖尿病患者ではGERDが多い)
Gastroparesis(胃の蠕動運動が低下する)
Diabetic enteropathy(糖尿病患者では下痢が多い)

の項目がありましたが、麻痺性イレウスについての言及はありませんでした。



2014年12月23日火曜日

急性心膜炎(NEJM Clinical Practice)



移動時間で、今週のNEJMのClinical Practiceを読んだので

忘れないうちに要点をまとめておきます。

本文を読みたい方はこちら


Acute Pericarditis
Martin M. LeWinter, M.D.
N Engl J Med 2014; 371:2410-2416


先進国では80-90%が特発性(ウイルスが原因と思われる)
続発性の殆どは心障害後症候群、膠原病(特にSLE)、悪性腫瘍によるもの
心筋炎を繰り返す稀な遺伝疾患として、tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome(TRAPS)と家族性地中海熱がある
心筋梗塞後に心膜炎を起こすことは少なくなったが、時に無症状の心筋梗塞に続発したと判明することがある

救急で非虚血性胸痛の5%を占める
大規模コホートによると、男性に多く(年齢調整尤度比1.85(1.65-2.06))、入院中の死亡率は1.1%(0.6-1.8%)

1/3が心筋炎を併発。その場合も長期予後は良い(excellent)
左室不全、心不全、不整脈はあまり起こさない
2/3で心嚢水貯留。ほとんどは少量で問題にならない
エコーで厚さ20mm以上の大量心嚢水は3%でみられる。
心嚢水のある心膜炎では、心タンポナーゼや収縮性心膜炎に注意
大量心嚢水、心タンポナーゼ、収縮性心膜炎は続発性で多い

70-90%でself-limited。初期治療に迅速に反応する
全体の10-30%は初期治療で良くなった後に再発する
再発の多くは1、2回だが、全体の5%以下で再発を繰り返す

心膜炎の診断は次のうち2つ以上を満たせばOK
・心膜炎と矛盾しない胸痛
・心膜摩擦音
・典型的な心電図変化
・ある程度以上の心嚢水貯留

前かがみで良くなり、僧帽筋縁に放散する胸痛は心膜炎っぽい
多くで感冒用症状が先行し、突然発症も少なくない
何回も聴診して心電図をとるのが大事
急激に貯留が進めば、X線で心シルエットが拡大していなくても心タンポナーゼが起こりうる

ST変化が一部の電極だけで心筋梗塞と紛らわしいことがある
PR低下だけが唯一の心電図所見のこともある

心膜炎の胸痛と紛らわしい他の疾患は以下の通り
・胸膜炎(1/3で心膜炎と併発)
・肋軟骨炎
・GERD
・肺塞栓症
・水疱出現前の帯状疱疹

診断基準を満たせば、次に続発性か否かを判断する
上記以外では血算(分画含む)、CRP、トロポニン、クレアチニンを測定して、胸部X線を撮るべき
若い女性または身体所見上疑わしいときは膠原病の血清検査をする
38℃以上、WBC13,000以上、他に細菌感染の徴候があるときは血培をする
(洞性頻脈と軽度発熱、WBC軽度上昇はよくみられる)
貧血があれば膠原病や悪性腫瘍などによる続発性を疑う
CRPは75%で上昇し、1、2週で元に戻る

心膜炎が疑わしいが基準を満たさないときは、心MRIやCTが使えるかも
胸痛の他の原因を除外したら、診断的治療をしてもよい

特に合併症のない心膜炎の初期治療は、NSAIDsとコルヒチン
コルヒチンを併用すると、再発予防と有症状期間短縮になる
NSAIDsは1-2週続け、CRPをみながら徐々に減らしていくのがいいかもしれない
NSAIDsの最適な種類と投与期間についてのRCTはまだ行われていない

低リスク患者(亜急性の経過で、発熱、免疫抑制、外傷、心筋炎、大量の心嚢水、心タンポナーゼがなく、抗凝固療法を受けていない)は全体の85%を占め、外来でも安全にマネージメントできる。入院になったのは13%で主要な合併症はなかった。

初期治療に反応しない場合、続発性の可能性が高い
副作用が許容できるならNSAIDsを続け、ステロイド投与を検討する
ステロイドを投与すると症状改善が多くなるが再発も多くなる

再発を繰り返す場合も、発作時はNSAIDs+コルヒチン
効果が乏しい場合、ステロイドや免疫調整薬を用いることもある。心膜切開の効果は一定しない
再発を繰り返す心膜炎の機序は不明である。ただ、基礎疾患がなければ重篤な合併症を起こすことは少ない


2014年12月21日日曜日

薬の名前が入ったボールペンを使わない理由




あくまで個人的な意見ですが

医療者が製薬会社から接待を受けるのは

非常に見苦しいし不快である

と考えています。



薬剤の販促や医療者のプロフェッショナリズムに関する

種々の議論に関しては

週刊医学界新聞のこの連載が非常に勉強になります。

医療者の投薬行動がどれだけ影響を受けるのか

きっちり分析している論文がこんなにあるのかと驚きました。


“Culture of Entitlement”仮説ということばを初めて知りました。

「頑張って医者になったんだからこれくらい良いよね」仮説といったところでしょうか。

発想が官僚の天下りと似てますよね。


この座談会の記事もとても面白いです。

私のように極端な意見を押し付けることなく

理知的な議論がされているので、ぜひご一読ください。



以下は、私の個人的な意見です。


私は現在、企業や薬剤の名前の入った物品は

ボールペン1本、メモ1枚たりとも持っておりません。

2013年12月以降

薬説(製薬会社が行う薬の説明会)で出されるお弁当は勿論ですが

学会のランチョンセミナー

製薬会社が医局に持ってきたお菓子

製薬会社が後援する研究会で出される飲食物

ペットボトルのお茶1本に至るまで

(学会費や参加費で賄われていると確認できるものは除く)

手を付けておりません。

タクシー券はごみ箱に捨てました。


恥ずかしながら白状いたしますと

2013年12月以前は、何の考えもなしに

薬説の弁当を食べたこともありました。


しかし、2013年1月にpublishされたBMJの論文

Medical school gift restriction policies and physician prescribing of newly marketed psychotropic medications: difference-in-differences analysis

を読んで

学生時代に便宜を受けると医師になってからの投薬行動に影響がでる

という内容に愕然とし

自らの不勉強と甘さを恥じました。

これほど脇が甘く

医学について不十分な知識しか持たず

正確に物事を判断できず

薬剤の効果をきちんと判断する頭のない私が成しうる

唯一の防衛策は

このような便宜供与を一切受けない以外にない、と思い至り

現実的に一切影響を受けないということは不可能ですが

できる限るのことはしようと

上記のような行動をするに至っております。


やってみると、非常に気持ちのいいものです。

モヤモヤしながら弁当食べるより絶対健康にいいです。

ひとつ注意しなければならないのは

自分が様々なバイアスから完全に自由である

思いあがる危険性をはらんでいることです。


長々書きましたが、別に偉そうに書くようなことではないですね。

とっても当たり前のことで、なんだか恥ずかしくなりました。



私の意見を押し付けるつもりは毛頭ございませんが

私の駄文を含めて、読んだ方の考える機会になっていただければと思います。



NEJM Case 39-2014 / BMJクリスマス号



今週のNEJM Case recordは

クローン病患者の肺結節影についてでした。

本文はこちらを。

Case 39-2014
A 9-Year-Old Girl with Crohn’s Disease and Pulmonary Nodules


いつもみたいに頑張って診断を考えて…というケースではなかったです。

診断であった肺クローン病は知りませんでした。

肺実質に血管炎による結節ができるみたいです。

こういうマニアックな疾患の勉強は、今はまだいいかな…



もうBMJクリスマス号のシーズンなのですね。

毎年のことながらウィットに富んでいます。


テレビの医療番組の半分は嘘っぱち(だいぶ荒い表現です)という記事もありましたね。

ちょっと違いますが、空間除菌のCM、あれは何とかならないのでしょうか。


私が知ったのは2年前でした。

便を犬に嗅がせることでCD関連腸炎を検査するという内容でした。



BMJの公式サイトはこちら

南郷栄秀先生がアブストラクトを訳してくれています。ありがたいです。



2014年12月16日火曜日

誰が包摂するのか



SNSで、このようなツイートが流れてきました。





以前、社会学者の土井隆義先生の講演を拝聴したのですが

知的障害者の受け入れる施設が刑務所になってしまっている

という旨を氏が仰り、とても驚いた記憶があります。


というわけで、法務省「矯正統計」を基に私もグラフを作ってみました。



知能指数の基準は以下の通り。
実際は重度知的障害を測定するのは困難みたいです。

70以下:軽度知的障害
50以下:中等度知的障害
35以下:重度知的障害



教育程度のデータもあったのでこちらも作成しました。





念のため申し上げますが

この記事は差別や偏見を助長するものではありません。


このデータをどう解釈するか

…なんてこと、私の手には負えません。



ただ、私はこのグラフを見て

以前にこの記事で取り扱った

「路上生活者の3割に知的障害の疑い」

と同じ病巣を何となく感じました。



SLEの急性増悪(flare) (ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





25歳女性。6か月前、軽度関節症、光過敏、蝶形紅斑、ANA(+)、anti-dsDNA(+)にて、SLEと診断された。腎機能と尿検査は正常だった。友達と一緒に砂浜に行った後、救急受診。肉眼的血尿あり、露光部に紅斑あり。手、膝、足首の滑膜肥厚あり。新たな血小板低下、白血球低下あり、血清Cre 2.5。緊急で腎生検を行うと、急性びまん性ループス腎炎に一致する像であった。適切な治療はなにか。(選択肢省略)


SLE flareという概念を初めて勉強しました。
このケースでは、紫外線により皮膚のアポトーシスが起き、flareを起こしたと考えられるようです。


UpToDate-Overview of the management and prognosis of systemic lupus erythematosus in adults-ASSESSMENT OF DISEASE ACTIVITY AND SEVERITY-Flares
の項には以下のように書いてあります。

・flareをちゃんと定義することは難しく、予測もしにくい。

・血清学的検査と疾患活動指標を用いて判断される。

中等度、重度のflareが起きたら治療を変える必要がある。

・あらゆる臓器が関係する。

・flareの予測には補体低下と抗dsDNA抗体上昇が有用。

・ただ、補体低下と抗dsDNA抗体上昇がある患者の12%は急性症状を呈さない。

・診断年齢25歳以下、腎・血管・神経障害がある患者が高リスク


flareの一例は以下の通り。

軽度:微熱、頬部紅斑、関節痛が出現し、倦怠感が増悪。軽度白血球減少。
この場合、治療は必要ない、またはhydroxychloroquineか7.5mgプレドニゾンを用いる。

中等度:SLE患者に胸膜痛と肘関節腫脹が出現。L/Dで急性反応が起きている。X線で胸水あり。
この場合、7.5mg以上のプレドニゾンを用い、アザチオプリンなどの免疫抑制薬を併用することもある。

重度:SLE患者にループス腎炎による腎不全と著明な尿蛋白出現。補体低下と抗dsDNA抗体上昇あり。
この場合、高容量のプレドニゾンを投与し、さらに免疫抑制薬を追加する。


要するに、

flareの診断には補体低下と抗dsDNA抗体上昇が重要だけど
あまり頼りすぎずに状態を綿密にモニターして
臨床的な増悪が見られたらしっかり治療しましょう

ということですかね。



2014年12月14日日曜日

解説篇:NEJM Case38-2014

問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 38-2014
An 87-Year-Old Man with Sore Throat, Hoarseness, Fatigue, and Dyspnea


まずは主訴でもある嗄声について考えました。

病態は、声帯か、球麻痺か、迷走神経障害。
球麻痺だと呂律が回らない、嚥下障害などが出るはずです。
顔面腫脹を伴っているので、嗄声は声帯浮腫によるものでしょう。


顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫に関しては
最初は上大静脈症候群かなと思ったのですが
画像検査で縦隔腫瘤影なく
また体重増加を伴っているので
全身の浮腫によるものだろうと考えました。

UpToDate‐Clinical manifestations and diagnosis of edema in adults
にはこのように書いてあります。

Periorbital and scrotal edema are localized forms of edema that can be seen in systemic edematous states but should not be the sole manifestation of edema in these disorders.

また、「内科診断学改訂第17版」(南江堂)には
上大静脈症候群は「顔面浮腫、チアノーゼ、頸静脈怒張をきたす」とあります。
やはりこのケースには当てはまりません。

この本によると、急性糸球体腎炎の浮腫は眼瞼にとどまることが多く、
ネフローゼ(特に微小変化型)では浮腫が高度、目を開くことができないほどになり、顔面は蒼白、
心不全では顔面腫脹に合わせてチアノーゼ、頸静脈怒張をみることが多いそうです。
また、腫瘍などによる両側頸静脈閉塞では顔面全体に強い浮腫(開眼、開口障害を伴うこともある)が生じてくるそうです。


声帯浮腫を伴う全身浮腫、CK著名高値という点でピンときました。
コントロールされていた甲状腺機能低下症が、何らかの要因で悪化したのではと考えます。

87歳男性で、数年前に妻と死別して独居、そしてpolypharmacy。
なんとなく生活が目に浮かびます。


このケースを読んで、藤沼康樹先生のブログのこの記事を思い出しました。

事例:75才男性 72才の妻と二人暮らし

問題リスト

1. 糖尿病・高血圧 A内科医院(糖尿病専門医)にて経口血糖降下剤処方 

2. 心房細動 B病院循環器内科にて抗凝固薬処方

3. 変形性膝関節症 C整形外科医院にてNSAIDS処方及び物理療法

4. 皮脂欠乏性湿疹 D皮膚科医院にて軟膏処方

5. 白内障 E眼科医院にて保存的治療

そして、ものわすれがひどいことが気になり、F病院神経内科受診する予定。

(リンク先記事より引用)

私も実習で経験した例として、
腹痛で入院した患者さんが、便秘と下痢の薬を両方飲んでいた、ということがありました。



「Dr.宮城の白熱カンファランス」(羊土社)のp.70に
poly-pharmacyについてのコラムがありました。

5種類以上の内服と定義することが最近は多いのだとか。
prescribing-cascadesという言葉も初めて知りました。

「医療機関受診者のうちpoly-pharmacyに起因するものはプライマリケア領域では27%に上るとされており、またそのうち42%が予防可能であった」

「高齢者の薬剤の有害事象による入院のうち、88%は予防可能であった」

(全て上記コラムより引用)





と、ここまで考えたうえでケースの続きを読みました。



…やはり診断は甲状腺機能低下症でしたね。


なぜ甲状腺機能低下症が悪化したのか、
Discussionされていた可能性は以下の通りです。

1. levothyroxineを服用していなかった。

2. 服薬が複雑でちゃんとできなかった。

3. コーヒー、食物繊維、カルシウムなどと一緒に服用して吸収阻害が起きた。


添付文書には、併用すると血中濃度が下がる薬剤が並んでいます。
鉄剤と一緒だと吸収低下は、ハリソン問題集に載っていました。





実際は、服薬指導が複雑になってしまったために
患者さんがlevothyroxineを服用しなくてよいと勘違いしていたようです。

甲状腺機能低下症があると、スタチンによる横紋筋融解症が起きやすいみたいです。
CK異常高値に寄与しているのかもしれませんね。


解説では、polypharmacyやpolydoctorの害について詳しく書かれていました。
この患者さんが飲んでいた薬の外観が写真に載っており、非常に興味深かったです。
こりゃ間違えるわ。


このケース、ぜひご一読をおススメします。



2014年12月13日土曜日

問題篇:NEJM Case38-2014

今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 38-2014
An 87-Year-Old Man with Sore Throat, Hoarseness, Fatigue, and Dyspnea


【患者】慢性疾患を多く抱えている87歳男性

【主訴】のどの痛み、倦怠感

【現病歴】
数週間前に嗄声、のどの痛み、増悪する倦怠感出現。家族に勧められ当診療所受診。

受診時の所見
陽性:嗄声、顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫
陰性:胸痛、呼吸困難、関節痛、筋痛

【既往歴】
高血圧、脂質異常症、慢性腎不全(2か月前Cre 2.22mg/dlでここ数年は安定)、甲状腺機能低下症(8か月前TSH 3.38uU/mlで基準範囲内)、GERD、食道運動障害、AAA、慢性腰痛、希死念慮を伴ううつ病(数年前に妻と死別してから)、繰り返す尿路感染
右腎動脈形成術(10年前)、胆嚢摘出、結節(おそらく良性)に対する右肺中葉切除、閉塞性前立腺肥大症に対する光選択式前立腺蒸散術(2か月前)、手首の手術

【内服薬】
atenolol, vitamin D3, fluticasone propionate and salmeterol inhaler, aspirin, citalopram, fluticasone nasal spray, atorvastatin, omeprazole, levothyroxine
Lisinopril で咳が、zolpidem tartrate で悪夢が出た。

【生活歴】
独居、ADL自立、3人の子は近くに住んでいるが、あまり顔を見せず、診療所にもついてこない。
内科、泌尿器科、循環器科に定期通院。何年も前に禁煙、アルコールは飲まない。

【家族歴】
父:肝がんで死亡 息子:サルコイドーシス

【身体所見】
General appearance 快活、嗄声あり。血圧130/72、脈拍59、SpO2 96%r/a、体重86.8kg(1か月で4.5kg増えた)、BMI 29.9
顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫以外の所見なし。

【その後の経過】
2日後、血液検査の結果が出た。CK高値のためスタチンの内服中止を指示。
7日後、再度受診。腹部膨満も訴えた。
11日後、再度受診。倦怠感がひどくなり、特に労作後にひどい。息切れ、顔面腫脹、体重増加、湿性咳嗽、咽頭炎を訴えた。胸痛、関節痛なし。胸部レントゲンでは陳旧性の病変のみで肺水腫、リンパ節腫脹、縦隔腫瘍はない。

【血液所見】


さて、あなたの診断は?



2014年12月12日金曜日

「医学生・研修医のための神経内科学 」(医学書)


神経系は美しい論理に貫かれたシステムであり、ヒトがヒトであるためには神経系の代替物は存在しない。この美しいシステムを崩壊させる神経疾患の克服は、21世紀医療の最大の課題である。(第2版の序より引用)




神経内科の勉強の現段階でのまとめとして、教科書を読んでみました。

600頁ほどありましたが、すんなり通読することができました。

記述がシンプルで、重要な疾患、見落としてはいけないことに焦点を絞ってあり、

今の私のレベルにちょうどあった内容でした。


今まで知らなかった概念や疾患も

読んだ3冊で繰り返し登場したものは

しっかり覚えることもできました。


こんな教科書が各科ごとにあればいいのに。



2014年12月9日火曜日

「神経内科の外来診療」(医学書)



私は想像するのですが、

実は患者さんは病院やクリニックを訪れる前の日から、

「明日は病院に行って診てもらうんだ」と“決心して”、

ある種の決意をもって訪れてこられるのだと思います。 (本書「はじめに」より引用)





外来に訪れる患者さんの

非常にCommonな症状を

しっかり診断するまでの過程を

対話形式で描いています。


患者さんの話のどこに注目するのか

仮説を確かめるためにどのような話しかけをするのか

それぞれの疾患の特徴を分かりやすく学ぶことができます。


「患者さんの訴えは常に正しい」

帯に書いている言葉の意味するところに深く感じ入りました。


やっぱり神経内科は楽しいですね。

神経内科が楽しいと思える日が来たことに驚きです。


1.クロストーク(本書では「問診」「医療面接」のことをこう表現しています)が診断仮説生成に大きく寄与している

2.疾患の知識に基づいて身体所見を予想できる

3.頻度がそこそこ高いマニアックな疾患(表現が矛盾している?)に知的興味が湧く
  (しっかり診断することで患者さんの苦しみが少しでもなくなったら一石二鳥)


このあたりが楽しみを覚える理由かなと分析しております。


実際に現場にでたらこんなバラ色ではないでしょうが。



やはりもうちょっと神経内科の勉強をしてみよう。



2014年12月8日月曜日

「神経症状の診かた・考え方」(医学書)



本書は街中の交通渋滞に対処するものである。 (本書 序より引用)





日常診療で遭遇する症状と

緊急処置が必要なケースについて

実際の症例をふんだんに用いて解説しています。



神経内科っておもろいやん!

と初めて感じることができました。


こういう場合には

こことここに注意して

こういう風に考えようね

時たま、こういうこともあるよ、一応覚えといて

・・・という本です。


ごちゃごちゃだった知識を

分かりやすく整理してもらえて

さらに、ちょっとマニアックなことも教えてくれる

まさにお得感満載。


本当に面白かったので

もうちょっと神経内科の勉強続けてみます。



2014年12月7日日曜日

「ジェネラリスト診療が上手になる本」(医学書)



専門外だからと、全く見ないか、

きちんと勉強して、その場をしっかり対処するか、

どちらかではないのかね? (本書p.68より引用)




症候別に考えるべきことが纏めてある各論の本です。

非常に幅広い症候について、

考え方、ピットフォール、鑑別診断が

これでもかというほど凝縮してが書かれています。


羅列してあるだけではなく、しっかり読んで理解して覚えることができました。

ただ、私にとってあまりに情報量が多い項もあり、未消化のところも。


現場に出てから、ポケットリファレンス代わりに使えそうです。


2014年12月6日土曜日

ANCA関連腎炎の初発症状



先日、講師の先生が研修医時代に最も印象に残った患者さんについて話をしてくれました。


たしか60代の男性。BUN, Cre高値。
半月ほど前に感冒様症状があったため、薬剤性腎障害を疑い入院。
しかし、休薬して3日目、どんどんCreが高くなっていった


ここまで聞いて、非常に驚きました。

以前に読んだ、急速進行性糸球体腎炎の症例と病歴がほとんど一致していました。


果たして、生検してANCA関連腎炎と判明。

その後は省きますが、波乱に富んだ経験だったそうです。



以前よんだ文献とはコレ。

鮫島謙一. 急速進行性糸球体腎炎(RPGN). Hospitalist 2014 ; 2 : 105-10.


典型的なRPGNとして、このような症例が紹介されています。

63歳男性、2カ月前から全身倦怠感。1か月前に37.5℃あり近医受診し感冒と診断
セフェム系処方されたが2週間後でも改善せず。CRP4.5、Cre1.34で尿潜血と尿蛋白が陽性。
尿路感染症としてニューキノロン処方されたが症状改善せず他院受診。
Cre2.41で当科紹介。MPO-ANCA陽性。生検でMPAと診断された。


RPGNの初期症状は、微熱、倦怠感、食欲低下など非特異的だそうです。

この文献では、感染症を注意深く除外する必要性が強調されていました。


日本のガイドラインでは、

1. 尿所見異常(血尿、蛋白尿、円柱尿など)
2. eGFR<60
3. CRP高値や赤沈促進

があれば疑い症例で専門医受診をすすめるとあります。



朝倉内科学によると

ANCA関連の急速進行性糸球体腎炎では先行感染や何らかの刺激により、MPOやPR3が好中球や単球の表面に発現され、ANCAと反応して、好中球・単球の脱顆粒や活性酸素の放出をきたし、糸球体内皮細胞の壊死、毛細血管壁の破綻をきたす。(第九版 p.1202より引用)

急速進行性糸球体腎炎の初発症状としては、全身倦怠感(44.9%)、発熱(42.0%)、食欲不振(32.1%)、上気道炎症状(26.2%)、関節痛・筋肉痛(16.7%)、嘔吐・悪心(15.4%)、体重減少(11.8%)などの非特異的症状が大半で、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。(第九版 p.1203より引用)

だそうです。



~Clinical Pearl~

感冒と診断された後の腎機能異常では、予後不良なRPGNを頭の片隅においておく。



Hospitalistのまだ読んでいない記事も早めに目を通さないといけませんね。




最新号の消化器疾患特集はどうしようかな。懐事情と相談です。



2014年12月3日水曜日

「漂白される社会」を読みました



私もすでに漂白済みなのでしょうか。





「漂白される社会」

著者の開沼博さんは、「フクシマ論」で一躍有名になりましたね。


そこに生活している個人の姿を真正面からとらえ、

もやもやしたものをもやもやしたまま描き

安直な流れに迎合しない姿がカッコいいです。



私たちが住む社会を

平和かつグレーのないものにしようと

必死に「漂白」してきたがために、

そこに厳然と存在するにもかかわらずそこにあってはならないとされた

猥雑なことがらが

どんどん見えなくなっていく。


偏見や思い込み、上から目線の画一化で

眼に入ると煩わしいものを綺麗に視界の外に片付けてしまう。



この通底するテーマのもと

日本社会の「スナップショット」が12枚提示されています。


ホームレスギャル

未成年売春

違法ギャンブル

偽装結婚 などなど…



特に印象深かったのは、ヤミ金と生活保護を扱った第四章。


貧困者=健気に頑張る素朴なひと

という図式も

貧困者=努力しない落伍者

という図式も

もちろんどっちも間違っていて

貧困状態にある人のなかに

聖人君主のような人もいれば

狡猾な人、怠惰な人、箸にも棒にもかからない人も

もちろんいるわけで、

しかし現在社会では

本書の表現を使うなら 「純粋な弱者」 のみが許容される

という指摘。


SNSをみていると

上記のどちらかの図式だけを盲信している意見が

非常に多いなとも思いますし、

自分もその一員であったと深く反省する次第です。



自分には関係ないこととして、猥雑なものを切り離す。

この末路がどのようなものかは、

先日ブログに書いた「女子高生の裏社会」でも扱われていますね。



「信じがたい」状況を目の当たりにしたときに

情報をどのように処理し

どのような方向性で取り扱うか

そのお手本を提示されたのだと思います。



2014年11月29日土曜日

脳震盪(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





17歳男性。高校のフットボールの試合中に脳震盪を起こした。その時は、意識消失は起こさなかったが、約10分間の混乱が見られた。頭部画像検査は正常だった。その数週間後に診療所受診。事故の時からずっと続く頭痛と、時に起こるめまいを訴えている。母親は、患者が学校で集中力が続かず、最近落ち込んでいるように見えるのを心配している。事故の前まではもっと元気だったとのこと。身体所見は正常だが、感情の平坦化がいくらかある。(選択肢割愛)



例によってUpToDateで調べてみました。

Concussion and mild traumatic brain injury - SUMMARY AND RECOMMENDATIONS
を見てみます。


・ほとんどは予後良好である。

・受傷時には、短時間の意識消失や、明らかな混乱・健忘が生じる。神経学的な症状がわずからながらみられることが多いが、たいていは気づかれない。

・頭部外傷がある、または疑われるアスリートには、脳震盪の評価をすべきである。単純に見当識を尋ねるだけでは不十分で、SACによる評価をすべきである。


・意識消失があったり、症状が継続したりする患者は、救急受診して頭部CTを含む医学的評価をうけるべきである。


受傷を短い間隔で繰り返すと、急性で致死的な脳浮腫が起こりうる。また慢性的な神経精神症状も起こりうる。

・他の後遺症として、脳震盪後症候群、頭痛、てんかん、めまいがある。

アスリートは脳震盪を起こしたその日は試合に戻るべきではない。薬物治療が終わり症状がなくなるまで試合はするべきでない。小児、青少年の場合は更に厳格にすべきである。



この症例は脳震盪後症候群だと考えられます。
UpToDate - Postconcussion syndromeによると、自然史は以下の通り。


症状は最初の7-10日が最も強く、1か月で改善していく。

多くは3か月のうちに治まるが、10-15%で1年以上続くかもしれない。



最近、フィギュアスケートの事故で話題になりましたね。

意識戻ったら大丈夫という迷信は、根性論とともにはびこっている気もします。



(追記) JHospital NetworkのClinical questionにて

スポーツにおける脳震盪の評価、復帰時期

についてわかりやすくまとめてありました。ぜひご一読を。



NEJM Case37-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


いつもは、

前半の症例提示を読む→鑑別を考える→問題篇と解説篇前半作成
→後半の解説を読む→解説篇後半作成

としているのですが、今回は症例の特性上、問題篇、解説篇にわけずにやります。



Case 37-2014
An 35-Year-Old Woman with Suspected Mite Infestation


【患者】35歳女性

【主訴】搔痒を伴う紅斑、本人は寄生虫のせいと思っている

【現病歴(おおざっぱに)】
2週間前に不眠が出現。

10日前、白い“ブツブツ”がみえだした。それはダニかシラミであり、皮膚やシーツ、服から出てきて這いまわる。あわせて、搔痒を伴う紅斑が出現。精神科医に受診。精神症状と紅斑、HCV感染の既往から晩発性皮膚ポルフィリア(伏字にしておきます。何でしょうか?)を考えて皮膚科に紹介受診。

3日前、クロナゼパムがなくなり、不安症と不眠が増悪。15ヶ月の息子の頭蓋骨から“虫”が出てきて、皮膚を這ってオムツの中に消えるのが見えた。この虫をのけようと、自分の皮膚と子供の皮膚をひっかいた。

1日前、息子を連れて他院救急受診。ツメダニ症疑いで硫化セレン入りシャンプーを使うよう言われた。子供と一緒に帰宅。

当日朝、子どもをお風呂に入れているときに、子どもの頭皮が赤くなって泣きだしたために、当院救急受診。自分の皮膚に虫がいると訴え、その部位を指し示そうとする。自分には寄生虫が感染しており、“モルジェロンズ病”にかかったと主張している。助けてくれと訴えている。思考過程は固執性で時に脱線する。時々自分の体をかきむしっている。不眠以外のうつ症状を訴えない。

思春期の時から自分の皮膚をつねる癖があり、それをすると落ち着く。
4か月前、MRSAの顔面部膿瘍ができたが、ST合剤経口で改善。
息子もMRSA関連皮膚感染になったことがあり、抗菌薬治療後、Clostridium difficile大腸炎で入院した。

大うつ病に罹患しているが、現在は寛解状態である。鬱状態の時に幻覚や幻想などの精神病症状はなかった。
睡眠薬、オピオイドの依存あり。時に違法アンフェタミンを使う。ここ数日の間に60mgのアンフェタミンを使用した。


【既往歴】HCV感染(2年前)、ざ瘡、大うつ病、薬物依存、憩室炎、腎結石、十二指腸潰瘍穿孔(4年前、手術した)

【服用薬】ブプレノルフィンとナロキソンの配合薬(8mg舌下を1日2回、20mg/日が処方されている)、クロナゼパム(0.5mgを1日3回、3日前に切れた)、オメプラゾール

【アレルギー歴】なし

【生活歴】飲酒なし。昔オキシコドンを注射で使っていたが、子どもが生まれてからはオピオイドは使っていない。2年間無職で、フードスタンプなどの社会保障で生活している。

【家族歴】母方のおばが統合失調症。母親は、患者が子供のころに自殺未遂をしたことがある。

【身体所見】
General appearance:協力的、心配している、身なりはだらしない、皮膚の病変を指し示している。
血圧141/95mmHg、脈拍100bpm・整、体温と呼吸数は正常。見当識正常
顔、腕、足に擦過創あり、背中の中央にはなし。他の身体所見は正常。

【血液、尿所見】尿検査でアンフェタミン陽性。その他は特記事項なし。



このような病態を
delusional parasitosis というそうです。

primaryもありますが、secondaryの原因には

神経変性疾患
HIVその他感染症
ビタミン欠乏
内分泌疾患
薬物離脱
薬物中毒

などがあるそうです。


アルコール離脱で虫の幻覚があるのは有名ですが、
その仲間と考えていいのでしょうか。


この症例では、アンフェタミン精神病と診断されていました。


患者は、リスペリドン、クロナゼパムの内服と認知行動療法で退院。

その後、治療プログラムを通して長期に関わり、薬物依存から脱却、

息子のためというモチベーションが強く、頑張って回復しているそうです。



モルジェロンズ病(Morgellons disease)

初めて聞いたのですが、いわゆるトンデモ医学ですね。
興味のある方は検索してみてください。僕は頭が痛くなりました。

自分はモルジェロンズ病と思っている方の多くは
delusional parasitosisではないか、と解説にはありました。


トンデモ医学を垂れ流す輩は
善意悪意に関わらず厳しく糾弾されないといけないと思いますが、

「原因不明」「治らない」と言われて苦しんでいる患者さんが
この手の情報につかまってしまうことは多いですね。



2014年11月26日水曜日

無料定額診療とその課題



朝日新聞の11/23付の記事で、無料定額診療が取り上げられていました。


更に詳しいデータについては

「リハ医の独白」というブログのこの記事にあります。



無料定額診療を行うためには

事前に都道府県に届け出が必要です。

定めた基準を満たした場合に受理されます。


患者が経済的に困窮しており、医療費を支払う余裕がないと施設が認めたら

医療費の窓口負担分が全額または一部無料になります。


全額免除の基準は

収入が生活保護基準以下である

としている施設が多いのではと思います。


国民皆保険を謳っている日本ですが、

厚生労働省の発表によると

国民健康保険料未納世帯は372.2万世帯

該当世帯の18.1%が未納となっています。


無保険となり医療にかかることができず

亡くなってしまう方もいるようです。

こちらは2013年の調査。

調査報告は2005年分から読むことができるので、良ければ。


無料定額診療は

このように経済的困窮状態に陥った時の

セーフティネットとして働いていると考えられます。


社会資源を有効に活用し

患者の生活を支えていくのも

家庭医・総合診療医の力の見せ所ですよね。



無料定額診療の問題点としては

・免除となる窓口負担分については病院の機会損失となる

・該当施設でしか適応されないので、制度のない他病院への転院ができない

薬代は自己負担免除にならない

などが挙がります。


私の数少ない実習経験でも、上記の問題にぶつかったことがありました。

路上生活で肺がん末期、皮膚にまで多発転移している方を実習で受け持ちました。

実習先の病院は無料定額診療を行っていたのですが

痛みどめの代金をどうするか非常に困りました。

また、診断をする際に

肺結核との鑑別のため専門の病院に受診が必要でしたが

ここでの医療費は全額自己負担となっていました。


高知市には独自の制度があり

無料低額診療の決定後14日以内に発行される処方箋に限っては

薬代も患者負担分は市の補助になります。


やはり、薬代の負担も軽減されないと

医療が必要な人への制度には真にはならないのでは、と思います。


そもそも、無料定額診療は、半ば死文化していた法律の文言を実体化させたもの。

たとえば、生活保護がまともに機能していれば

生活保護世帯の医療費は無料なはず。

無料定額診療に頼る必要のない制度設計が求められるのではないか。

これが、ここまで書いてきて私が得た結論でした。


2014年11月25日火曜日

内側側頭葉てんかん症候群(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





内側側頭葉てんかん症候群の患者の評価を依頼された。患者には難治性の部分てんかんがある。発作はしばしば前兆を伴い、行動停止、自動症、一側性ジストニア肢位を呈する。MRIではT2協調で高信号かつ萎縮した側頭葉海馬が見える。追加で聴取される可能性の高い既往歴はなにか。(選択肢割愛)


例によってUpToDateを。
Localization-related (focal) epilepsy: Causes and clinical feature より関連記載をまとめます。

・内側側頭葉てんかんは、側頭葉てんかん(TLE)の大部分を占める。

・TLEは複雑部分発作を呈することが多い。1/3で全般発作を続発する。けいれん重積状態になることは少ない。

・内側TLEの最も多い原因は海馬硬化(HS)である。病変は両側性かつどちらかがより目立つのが典型。



・生育・発達歴はたいてい正常だが、熱性けいれんの既往が見られることが多い(TLE67例中54例)。

・内側TLEのてんかんの特徴を挙げる。
 ○前兆がある
 ○30-120秒続く行動停止・凝視
 ○自動症
 ○片側性の症状がみられる
 ○発作中の発語、感情表現(笑う、泣くなど)、過運動発作(体幹を左右に振るなど)、leaving behavior(歩き去ってしまう)が見られることもたまにある
 ○postictal confusionで、病側の手で鼻を拭く動作がよくみられる。
 ○急激な頻脈を伴う

・発症は思春期が多い(80%以上は16歳以下)。進行性であり、60-90%は薬剤抵抗性


ハリソン問題集には、薬剤抵抗性かつ手術でとっても良くなるから、この症候群を独立して捉える必要があるとされています。


というわけで答えは、「熱性けいれんの既往」でした。


寒冷蕁麻疹(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。




28歳女性。10年前より、手足が冷たいものの触れると蕁麻疹ができる。冷たいもの以外の誘因はない。喘息・アトピー・食物アレルギーの既往なし。薬剤歴は5年前からのピルのみ。舌圧子で前腕をひっかくとその部分が隆起する。手を冷たい水につけると、発赤腫脹が生じ、膨疹‐潮紅反応も見られる。


UpToDate-Cold urticariaをざっと纏めるとこんな感じ。
(画像はすべてUpToDateより)

・寒冷曝露により脂肪細胞が活性化しておこる蕁麻疹。原因は不明。



症状は曝露領域に限局し、数分で出現。曝露が激しいと全身反応起こすこともあり、アナフィラキシーや咽頭浮腫による窒息をおこすことも。

・診断は寒冷刺激検査(CST)で行う。



・多くは特発性。全身の炎症(発熱・関節痛など)や紫斑ができる場合は、感染症やfamilial cold antiinflammatory syndrome(FCAS)などを疑う。

寒冷刺激を避けるのが一番だが実際には難しい。第2世代抗ヒスタミン薬投与が推奨される。



知らないことがたくさんあります。


2014年11月24日月曜日

「内科で診る不定愁訴 診断マトリックスでよくわかる不定愁訴のミカタ」(医学書)



「患者が、不定愁訴を訴えて来院することはない。」 (本書「はじめに」より引用)





不定愁訴ってそもそもなに?

これって不定愁訴なの?

どんなときに不定愁訴になるの?


不定愁訴を不定愁訴にせず、

症状の全体像をマトリックスを用いて分類し

しっかり診断をつけていこう、という観点で書かれています。


また訳の分からないこと言ってるよ、とせず

しっかり除外診断を進めていくこと以外に

解決方法はないのでしょうね。


不定愁訴を生む原因についての考察が特に面白いです。

この部分だけでも購入した価値があります。



なお、本書で言う「本当の不定愁訴患者」については、

「不定愁訴のABC」がおススメです。





器質的に異常がないことを肯定的に捉え

患者にどのように向き合っていけばよいかが書かれています。


機能的疾患をゴミ箱診断にしない。

積極的に所見を取って疑っていく。

器質的異常が見つからないイライラ、うしろめたさを患者のせいにしない。



書くだけは簡単、いざとなると難しいのでしょう。



2014年11月22日土曜日

解答篇:NEJM Case36-2014



問題篇をまだ読んでいない方は、さきにこちらを読んでください。


Case 36-2014
An 18-Year-Old Woman with Fever, Pharyngitis, and Double Vision


扁桃から細菌が侵入、耳下腺や眼窩など頭部組織に至ったのでしょう。

開口障害が出た時点で対応しておけばここまで重症にはならなかったのかも。
やはりおそるべし開口障害


伝染性単核球症の合併症であるVincent's anginaがまず想起されました。

私がはじめてこの疾患を知ったのは

生坂政臣先生の「見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール」でした。



以下、この本からの引用です。

   紡錘状桿菌、スピロヘータなどの嫌気性菌を起因菌とし、健康状態不良、齲歯、口腔内不潔などが誘因となって、主に若年者に発症する咽頭炎である。
   
   合併症として、咽後膿瘍から縦隔膿瘍への移行のほか、Fusobacterium necrophorumが起炎菌の場合に生じることのある、敗血症性血栓性頸静脈炎からの転移性肺化膿症や咽頭閉塞が知られている(Lemierre's disease)。

   いずれの合併症も致命率が非常に高いので、Vincent's anginaを疑った場合は抗菌薬による入院治療の適応となる。


硬膜の肥厚からは、髄膜炎、もしくは脳肥厚性硬膜炎が考えられます。

脳肥厚性硬膜炎は、頭痛を初発として、脳神経症状、脊髄根症状などがみられる疾患であったと記憶しています。
特発性もありますが、感染症や血管炎、膠原病などによる続発性もあります。
たしかIgG4関連疾患との関係も聞いたことがあります。


明らかな血栓はないようですが、
海綿動脈洞血栓症は頭部領域の感染症で考える必要があると思います。


血糖が高い+頭部感染症=ムコール症

という単純な方程式もありますが、本例では違うでしょう。



とここまで考えて、続きを読んでいきます。



…なるほど、だいたい当たっていました。

FINAL DIAGNOSISは以下の通り

Fusobacterium necrophorumによるLemierre症候群、海綿静脈洞血栓症、頸動脈血栓性動脈炎、耳下腺膿瘍、骨膜下眼窩膿瘍


生坂先生のすごさを改めて実感しました。



本文中に、初めて聞いた病名が出てきました。

Gradenigo's syndrome

中耳炎が深部に広がり、錐体尖端炎が起きた状態を指すみたいです。
三徴は、中耳炎(耳漏)、外転神経麻痺、三叉神経痛とのことです。



本日のClinical Pearl

 「なめてかかるな、開口障害!」



問題篇:NEJM Case36-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


Case 36-2014
An 18-Year-Old Woman with Fever, Pharyngitis, and Double Vision


【患者】18歳女性

【主訴】発熱、咽頭痛、顔面浮腫、複視

【現病歴】
2週間前、頭痛、のどの痛みが出現。発熱(-)。A診療所にて溶連菌迅速検査陰性、帰宅。

それから2日間、のどの痛みは持続。口からものを食べられなくなった。
脱水、しんどい、発熱(39.4℃)でB病院受診。
胸部レントゲン正常。繰り返しWBC2000/mm3以下を指摘された。
EBV感染パターン。インフルエンザとCMVは陰性。咽頭培養でC群連鎖球菌(+)。血培、尿培陰性。
伝染性単核球症±細菌感染と診断された。
輸液開始で改善、翌日にエリスロマイシン開始で帰宅となった。

9日前、開口障害、右側顔面の腫脹が出現し、再びB病院受診。
耳下腺炎の診断でイブプロフェン投与されたが顎右側の痛みは消えず。
熱は38.3℃で、右耳下腺と顔面の腫脹発赤あり。

6日前、C病院に転院。プレドニンと鎮痛薬投与。耳下腺マッサージ施行され帰宅。
しかし熱が依然としてあり、腫脹も悪化していった。

3日前、頭頸部CT施行。咽後膿瘍、扁桃腺周囲膿瘍はみつからず。
ST合剤、クリンダマイシン、輸液投与。

2日前、右眼瞼の腫脹と水平性複視が出現。右眼の外転制限あり。
頭頸部MRIにて右耳下腺にリング状に造影される多房性の液体貯留あり、膿瘍と矛盾しない所見であった。咀嚼筋に炎症所見あり。右側頭領域の硬膜が線状に肥厚している。右海綿静脈洞に不整あり、明らかな血栓はない。右眼窩骨膜下膿瘍あり。

D病院に搬送。意識は清明でバイタル特記なし。
右の耳介前部、眼窩周囲に腫脹あり。軽度開口障害あり。
両側(右>左)頸部オトガイ下・顎下リンパ節腫大、右側耳介前部・後部リンパ節腫大あり。
歯肉頬溝と舌前部に白苔あり、拭うと痛い。
右耳下腺管に圧痛あり、液体流出無し。
右眼は内側に偏移しており、中線を超えて外転できない。
継ぎ足歩行が軽度困難。

血液所見(抜粋):Hb 9.8g/dl、WBC 8290/mm3、Plt 119000/mm3 、Glu 173 mg/dl、Alb 2.3g/dl。HIV陰性。 
尿検査:蛋白±、Glu3+、ウロビリノーゲン2+、扁平上皮と細菌が+(コンタミかも)。






【既往歴】月経困難症にてピル服用中、喘息、ペニシリンアレルギーあり
【生活歴】喫煙なし、アルコールなし、違法薬物なし、旅行歴なし


さて、あなたの診断は?


「難民高校生」「女子高生の裏社会」を読みました



たまには医学書でない本も読みます。





「難民高校生 絶望社会を生き抜く『私たち』のリアル」


著者の仁藤夢乃さんは

  すべての少女に「衣食住」と「関係性」を。

を掲げて、

女子高校生サポートセンターColabo(コラボ)を立ち上げ、活動している方です。


ご自身が、高校時代は渋谷で過ごす「難民高校生」だったとのこと。

街をさまよう高校生を

家族や学校、社会とのつながりが断たれていると述懐し、

「貧困」の連鎖にまさにおかれている状態であると分析しています。


本書のなかでも紹介されていますが、

ここでいう貧困とは、

湯浅誠さんのいう 「溜め」のない状態 を指します。

決して金銭的欠乏だけが貧困じゃないんですよ、ってことです。


詳しくは湯浅さんの「反貧困」を読んでください。

私は大学1年生の時に読んで非常に衝撃を受けました。

これほどまでに現実を深くとらえ、分析し、未来を構築することのできる人がいるのかと。




「難民高校生」をはじめとする、生きづらさを抱えた人たちを

自己責任で片付けてしまうのは、

個人的には全く好きではありません。

生きづらさの原因は、家庭や学校の環境に留まらず、

金銭的な問題にあったり、

なかには疾病によると思われる場合もあるでしょう。

本書にも様々なケースが出てきます。


さらなる「貧困」の連鎖に陥らせないために、

自分にとって目障りな存在を視界の外に追いやらないために、

ここら辺のさらに突っ込んだ分析は、「女子高生の裏社会」で広げられています。




いわゆる「JK産業」に取り込まれている高校生たちは

けっして特別な存在などではないということ。

問題の責任はつねに社会の側、大人の側にある、

搾取する側がつねに糾弾されるべきであるということ。


公的(つまり表社会)の支援は、使いづらくよそよそしく

なんちゃってセーフティネットが裏社会にしか存在していない。


生きづらさを抱えている人、悩みを抱えている人を

私たちが遠巻きにしてあっちいけとするたびに、

その人たちは「きれいな表社会」から隔絶されていき、

表からは見えない「闇」におちていく。



高校中退者数:年間約5万5千人

不登校者数:(中学)年間約9万5千人(高校)年間約5万6千人

10代の自殺者数:年間587人

10代の人口中絶件数:1日57件

子どもの貧困6人に1人、虐待、ネグレクト、いじめ、家族関係、友人関係、性被害・・・・・

(Colaboのホームページより引用)



健康を脅かすのは、なにも病気に限ってはいない、というお話でした。



2014年11月21日金曜日

「フェルソン 読める!胸部X線写真」(医学書)





今更ながら読んでみました。


まさに入門書。学部4年生くらいで読むのがちょうどいいと思います。

記載は非常にわかりやすいです。
理論に基づいて所見を説明しています。

ときどき出てくるジョークのほうが理解困難です。
英語圏の人はあれを見て笑うのでしょうか?


これを読んだからといってX線読影ができるようになるわけではないのでご注意を。
内容は素晴らしいですが、あくまで「入門書」です。


私のお気に入りX線読影の本はコレ!



最近、第2版がでて、表紙が黒くなりました。


第1版をポリクリ前に読みました。

「何を観たらいいのかさっぱりわからない」医学生を

「ある程度自信を持って病態を答えることができる」医学生にしてくれます。


フェルソンを読み終わった方はこちらをどうぞ!

私は順番が逆でしたね・・・。



2014年11月19日水曜日

凍傷(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





路上生活の男性が救急に運ばれた。寒い中路上で寝ていた。左足の感覚がない。足首から下が冷たく、出血性の水疱があり、温痛覚がない。他の身体所見は正常。正しいのはどれ?

1. ガンガン温めるのはあまりよくない
2. 温めている間、強い疼痛が出ることがある
3. ヘパリン使うといいよ
4. すぐに切断すべきだ
5. 温めたら感覚は元に戻る



UpToDate: frostbite-TREATMENTでは
病院に行くまでの対応として以下のように書かれています。

・できるだけ早く暖かい環境へ。傷つけないように患部をパッドで覆うか添え木をする。
・濡れた衣服は脱ぐ
凍傷のある足で歩かない。どうしても歩かないといけないときは、温める前で
・再凍結の可能性があれば、組織破壊を避けるために温めない
・温かいお湯(熱湯はダメ)で暖めたり、わきに挟んで暖めたりするように
・こするのはダメ
・ストーブや火もダメ


そして病院についたら・・・

37-39℃のお湯につける
・患部が赤または紫色になり、柔らかくなればOK
痛みを伴うことがある。鎮痛はオピオイドで
・tPA投与の効果は疑問。だけど切断などの恐れがあり、禁忌がなければ、24時間以内ならtPAとヘパリンを動脈内投与したら良いのでは。ヘパリン単独はダメ
・水疱は、非血性かつ関節の上とかで動きを妨げている場合は除去する。血性の水疱はそのままに。小水疱もそのままでよい
破傷風予防をしましょう。予防的抗菌薬は勧めません
・経験のある外科、形成外科にコンサルトしましょうね


ハリソン問題集の解説に載っていることを付け加えます。

・温めたあとも色が青白いままなら、コンパートメント症候群を疑うこと。
感覚障害は治療後も残存することがある。
・晩期の合併症として、皮膚がん、爪の変形、骨端障害(小児)などがある。



というわけで正解は2でした。


「最速!聖路加診断術」(医学書)






診断学・臨床推論の本を読み漁っております。


40の症例をコンパクトにまとめてあります。

他書との違いは、チーフレジデントの頭の中を追っていけるようになっていることです。

この情報からこれを疑ってこんな検査をしました

という流れがわかりやすく記されています。

最初に提示される情報は、まさに現場で短時間で集めた病歴だけなので、

たとえば病歴を読む前に

「あ、フェリチン高値の情報が目に入っちゃったよ~」

とかいう事態にならないです。


症例もあまりマニアックなものがなく、ちょうど良いです。

最も印象深かったのは、大量の脂汗が主訴の症例。

「脂汗でみつかる貧血もある!」
(ネタバレになるため反転してあります)


甲状腺疾患がこんなに多彩な顔をしてやってくることにもびっくり。

浮腫、ミオパチー、心不全、腸閉塞…



非常に実践志向の本だと思います。



2014年11月18日火曜日

エボラより健康を脅かす5つのこと



エボラ出血熱

なかなか収まる気配がありません。


エボラ出血熱がこれほどまでに広がってしまった背景には

貧困がはびこり、政府が機能していないことが

あると考えています。


WHOのThe Solid Facts(日本語版はこちら)では

健康の社会的決定要因の1つとして

社会格差(social gradient)が挙げられていますね。



しかし、日本国内のことを考えてみると

あんまりヒステリックに騒ぐのもどうかという気分になります。



アメリカの公衆衛生学会が

   5 things that are bigger threats to your health than Ebola

と題し、アメリカ国内の健康を脅かす重大な要因について解説しています。


  1. 耐性菌(Antibiotic-resistant bacteria)

  2. 異常気象(Severe weather)

  3. 蚊が媒介する病気(Mosquito viruses)

  4. 交通事故(Vehicle and pedestrian safety)

  5. 肥満(Obesity)


これらの要因は、エボラより身近であり、

かつ、予防可能であるものであるとまとめられています。



日本だと、この5つの要因はどうなるのでしょうかね。

というわけで

私家版"5 things that are bigger threats to your health than Ebola in Japan"

を考えてみました。


  1. 耐性菌

  2. 低いワクチン接種率

  3. 自殺

  4. 交通事故

  5. 肥満


「格差と貧困」「アルコール」なんかも候補だとおもいます。


「がん治療についての極端な風説とそれを流布するメディア」を

ランクインさせようかとも思ったのですが

皮肉が強すぎるのでやめておきました。



耐性菌は日本でも大きな問題ですよね。


以前、実習していた病院に肺アスペルギルス症の方が来院されましたが、

前医で、日替わりでありとあらゆる抗菌薬を投与されていました。

今日の占いカウントダウンじゃないのですから、

今日のラッキー抗菌薬みたいな感覚で、

ナントカペネムとかを乱用するのは、勘弁いただきたい限りです。

そして、アスペルギルスに効く薬はなにも投与されていない。ガックシ。



健康については、非常に関心が高いトピックであるがゆえに、

冷静な情報を提供する義務が医療者にはあると思います。



…そういえばデング熱の報道って最近聞かないですね。



2014年11月17日月曜日

蕁麻疹性血管炎(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





35歳女性。6か月続く反復する蕁麻疹。ときに色素沈着を残す。関節痛もある。赤沈85mm/h。


蕁麻疹性血管炎は、30代の女性に好発します。
治療はステロイド。免疫抑制薬も使うことがあるみたいです。


≪Clinical Pearl≫
色素沈着を残す蕁麻疹に関節痛をみたら皮膚生検!



解答篇:NEJM Case 35-2014



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 35-2014
A 31-Year-Old Woman with Fevers, Chest Pain, and a History of HCV Infection and Substance-Use Disorder


薬物使用中の31歳女性で、主訴は発熱・呼吸困難・胸痛。
非常に高い熱が約1週間続いています。

この情報だけだと、静脈注射で菌血症というのが考えやすいですね。
HIV感染のハイリスク群だと思います。

HCV感染ということで、もし肝硬変に至っているのなら、
SBP(特発性細菌性腹膜炎)が鑑別に上がりますが、
今回はそうではないみたい。

もちろん感染症以外も考える必要がありますが。


既往歴や社会歴は、非常に興味深いのですが、
鑑別診断を狭める情報には乏しいですね。


バイタルサインだけではSIRSの基準は満たさず。
結局、WBCも12000未満なのでSIRSではないですね。
ただし、脈拍111bpmは、体温37.1℃(解熱薬が効いたのかな)では説明できないです。


心雑音がありますね。
Rivero-Carvallo徴候はないようです。これがあれば右心系の雑音をより強く示唆します。


胸部X線、CTで、結節が散在しています。
なかには内部壊死に陥っている病変もありますね。
粟粒結核にしては結節が大きすぎます。
血行性になにかが飛んできたのでしょうか。


以上より、最も可能性があるのは感染性心内膜炎でしょうか。
関節炎も説明できますし。
静脈注射から菌が侵入したのでしょう。

鑑別診断としては…
あまり思い浮かびませんが、
ヒストプラズマやブラストミセスなどの真菌症がちらっとよぎりました。
ここら辺の疾患は、詳しくは知らないです。



と、ここまで考えたので、Caseの続きを読んでみましょう。



…ううむ、診断は感染性心内膜炎で間違いなかったですね。
三尖弁に疣贅が付着していたようです。


このCaseでは、しっかり背景疾患をみることが強調されていました。
じつはこの患者さん、最初の入院では、感染性心内膜炎の治療は受けたのですが、
薬物中毒についておざなりな介入しかされず、
そのため、退院後の抗菌薬治療もうまくいかなかったようです。


感染性心内膜炎の治療だけでなく、
薬物中毒の治療もしっかりおこなうことが大事である。


あたりまえのことですが、
鑑別診断の勉強ばかりしていると抜け落ちてしまう視点ですよね。


私も、感染性心内膜炎の診断がついた時点で
「これで一丁あがり!」
という感じになってしまいました。


Caseの最後に、患者さん自身のことばが収録されています。
常に、患者さん全体をみる視点を身につけたいものですね。



問題篇:NEJM Case 35-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

解説は次の記事を見てくださいね。



Case 35-2014
A 31-Year-Old Woman with Fevers, Chest Pain, and a History of HCV Infection and Substance-Use Disorder


【患者】HCV感染と薬物使用障害の既往がある31歳女性

【主訴】発熱・呼吸困難・胸痛

【現病歴】
10日前に高熱が出現、2日後に解熱した。
6日前より、40.3℃にもなる高熱が出現。それに付随して悪寒、びまん性蕁麻疹、胸痛、背部痛、膝痛もあり。
1日前の夕方、38.9℃の熱がありイブプロフェン内服。
当日午後、当院救急受診。

【既往歴】
14歳より注射薬物(ヘロイン、コカインなど)使用、直近の使用は入院前日。
メタゾン維持プログラムなどの治療プログラムに何回か参加したことがある。
15歳でHCV感染が判明
多数の皮膚膿瘍が手、腕、足、背中にあり、いくつかは切開排膿したことがある。培養ではEnterobacter cloacaeやコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、MSSAが出た。
他は不安障害、腋窩多汗症、胆石、血管作動性鼻炎、肺炎、副鼻腔炎、膀胱炎、腎盂腎炎、背部痛、左足表在静脈の血栓静脈炎

【薬剤歴】
メタゾン(自分で手に入れた、前日服用)、イブプロフェン

【アレルギー歴】
ブプレノルフィンとナロキソンの組み合わせで退薬症状を呈したことがある

【生活歴】
昔は路上生活をしていた。いまはルームメイトと住んでいる
仕事で動物に接触する。喫煙あり、飲酒は時々。
去年メキシコに旅行した。

【家族歴】
姉妹に甲状腺疾患あり。両親は元気。

【vital signs】
意識清明、体温37.1℃、血圧105/58mmHg、脈拍111bpm、呼吸数18/min、SpO2 100%(r/a)

【身体所見】
胸部:肺野聴診にて巣状のクラックルが散在。
心音:下部胸骨左縁に間欠性の柔らかい雑音があり、吸気で増強しない。
外表:鼠径リンパ節腫大あり。腕、足、大腿に注射痕あり、膿瘍・感染の所見はなし。
両膝関節に熱感あり。左膝内側に少量の液体貯留あり、中等度圧痛あり、可動域正常、発赤なし。
その他:T12-L3にかけて脊椎圧痛あり。

【検査】
血液検査:Ht 27.8%↓、Hb 9.7g/dl↓、WBC 10,300/mm3、MCV 76um3↓、PT 15.1sec↑、K 3.1mEq↓、Cr 0.51mg/dl↓、Alb 3.1g/dl↓、ALP 332U/l↑

尿検査:色調は透明黄色、比重1.020、pH 6.0、ケトン±、Alb±、ウロビリノーゲン2+、ビリルビン1+

ECG:洞性頻脈(109bpm)。他に所見なし

胸部Xp


胸部単純CT



あなたの診断は?



2014年11月16日日曜日

「ココまで読める! 実践腹部単純X線診断」(医学書)





読影は苦手です。

CTについては、急性腹症のCT演習のサイトを利用して、思い出したように勉強しています。



今まで、腹部X線は

 free air と niveau くらいしかわからんやろ

という認識だったのですが、

見る人が見たらここまで読めるのかと目からうろこでした。



内容を咀嚼するには到底至らないですし、

この本を読んだからすぐに読めるようになるわけではもちろんないですが

(この本のせいではなくて、完全に自分の力不足です)

「あれ、なんかおかしいぞ」という感覚が、少しは分かるようになったかと思います。


この本を読むまでは

fluid ileus の所見があっても

「異常なし」と簡単に結論していたことでしょう。

2014年11月12日水曜日

シガデラ中毒(ハリソン問題集)



ハリソンの問題集を解き進めております。
知的好奇心をくすぐられます。





39歳男性。カリブ海に旅行に行き、海鮮ビュッフェを食べた数時間後から、腹痛、悪寒、嘔気、下知出現。手足のしびれ、のどの違和感も現れた。2日間かけて症状はゆっくり軽快したが、発症4日後に、冷たい水を温かく、温かい水を冷たく感じることに気付いた。


シガデラ中毒の症例です。
言われてみればなるほどですが、全く想起することができませんでした。


日本だと沖縄で遭遇することがあるみたいですね。
以前、美ら海水族館に行ったことがあります。
駐車に失敗しレンタカーを傷つけてしまったのはいい思い出です。

と思ったら、本州でも発症例があるそうな。あなおそろしや。


シガ毒素は、熱や冷凍で不活化されません。
なので煮汁に溶け出ることもあります。
味やにおいもなく、予防・対処は難しそうですね。


症状は上記の通り。あまり細かく覚える必要はないでしょう。
illness scriptとして丸覚えするに限ります。


日本では死亡例はなく、対処療法でよくなるので、そこは安心ですね。



2014年11月8日土曜日

0次医療と4次医療



いつも学ばせて頂いているブログ

 「病院家庭医を目指して ~野望達成への道~

北海道勤医協札幌病院の佐藤健太先生のブログです。



この中で私がとくに好きなのが、「4次医療」についてのこの記事



たとえば、がんの終末期で、「もうできることはありません」みたいな、

婉曲に言ってるけど要するに「ここから出てけ」と言われる方、

僕の知っている範囲でも結構いらっしゃいます。


もちろん高度医療機関の役割については重々理解しているつもりですが、

それにしてももっとやり方があるだろうと感じることがままあります。


日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之先生が、

「オンコロジストのやってはいけない掟(リンク先スライド28枚目)」として

このように挙げています。


非常に深く共感いたします。



がんに限った話ではないですね。


精神疾患の慢性期

成人になった小児麻痺患者の在宅ケア

経済的事由


色んな理由で、行き場所を失っている方にたいするケアを提供することも

「どのような健康問題でも相談に応ずるということがそのレーゾンテートル」(伴信太郎先生)

である、家庭医・総合診療医の役割なのだと思います。



予防を含めた0次医療

最後までつきあう4次医療


2014年11月5日水曜日

OECD医療の質レビュー2014



2014年11月5日に、OECDが日本の医療の質を評価したレビューを公開しました。

http://www.oecd.org/els/health-systems/ReviewofHealthCareQualityJAPAN_ExecutiveSummary.pdf

ものぐさな僕は、p33から始まる日本語で書かれた箇所を流し読みしただけなのですが、「プライマリーケア」に関する記述の占める割合がとても多いですね。

末尾に「日本の医療の質を改善するための提言」として、「特に、日本は以下のことを行うべきである。」とあるのですが、それは以下の4つ。

1.医療の質の管理と提供の全般的に強化する(原文ママ)
2.プライマリーケアの明確な専門分野を確立する
3.病院部門における質の監視と改善を向上させる
4.質の高い精神医療を確保するよう努力する



レビューでは、
   
   日本のプライマリーケアの構成は、多くの意味でこれまで有効であった。

としたうえで、

  ・社会人口的な変化は、人口がますます高齢化することを意味しており、多くの人が複数の複雑な医療ニーズを抱え、一部は健康面の弱さや社会的孤立に悩む。
  ・財政的圧力が、入院治療から地域社会でのケアへ、医療の方向転換を促している。
  ・特に高齢者の受診率が高く、一部の病院のデータでは、計画外の再入院率が増加していることが示されている。いずれも、地域社会のサービスが、適切なケアの提供に四苦八苦している可能性があることを示唆している。

ことを問題点として挙げ、その対処策を

   長期的に一貫したケア拠点を提供でき、複数の医療ニーズを有する患者に対するケアを個々に合わせて調整でき、患者の自己教育及び自己管理を支援できるような、地域社会のケア制度を備える必要性が示唆される。

と述べています。



また、プライマリーケアのありかたについては、

   プライマリーケアの専門分野の主な機能が、メンタルヘルスケアのニーズを含む複数の複雑な医療ニーズを有する患者に対する包括的なケアの提供であることが重要である。

としています。



患者を要素に分解するのではなく、きちんと全体を診て、いろんな専門家(もちろん医師以外も含む)と連携をとってmanagementするような仕組みをきちんと整えなさい、ということですね。

これからのプライマリーケアは、単一の診療所なり医療機関で完結するケアではなく、言ってみれば指揮者のような役割を果たしていくことになりそうです。

そして、プライマリーケアを担う人材を育成するために、医学部に部門を設立して、きちんと専門分野として確立させなさいとも指摘していますね。いままでみたいに「臓器別専門を極めたらプライマリーケアくらいできちゃうさ」では通用しません、と。



プライマリーケアの機能の中に、「メンタルヘルスケアのニーズを含む」とあえて記載しているのもポイントかな。このレビューの提言の4つ目は、「質の高い精神医療を確保するよう努力する」でした。

   日本における精神疾患に関する偏見が、メンタルヘルス専門施設に援助を求めることを思いとどまらせている可能性が考えられる。

確かにその通りですよね。



以前、とある精神科の先生から頂いた言葉を思い出しました。

   たとえば、癌になったひとは、心配してもらえて、大事にしてもらえる。

   だけど、精神疾患にかかった人は、厄介者にされて、差別を受ける。

   僕は、資本主義の世の中であっても、教育と医療だけは平等であるべきだと思っている。

   だから僕は、精神科医になろうと思ったんだ。



日本では、精神疾患の患者さんは社会から排除されてしまうようです。
有名なのは、森川すいめい氏の研究。池袋の路上生活者の4-6割が精神疾患を有していました。

https://www.jspn.or.jp/journal/symposium/pdf/jspn107/ss372-378.pdf



最近では、2014年11月2日に名古屋駅周辺で行われた調査で、路上生活者の3割に知的障害の疑いがあることがわかりました。(写真は11/3付毎日新聞)






OECDのレビューでは、プライマリーケア専門医も精神科医と協力してメンタルヘルスを向上させていくよう提言されています。




このブログの内容と方針

初めまして。

今は医学部6年生、将来は家庭医・総合診療医として、地域住民に一番近い場所で医療をしたいと考えています。

学習したこと、体験したことを、幾許かでも発信することで、読者の皆様の気づきになり、また自分の成長の糧にしていければと思います。

なお、修練中の身ですので、内容が不正確であることがままあります。
特に非医療従事者である読者の皆様は、ご留意ください。
お気づきの点がございましたら、ご教授いただければ幸いです。暖かく見守ってください。
そんな人いないだろうとは思いますが、本ブログの内容をそのまま診療その他に適応した際に生じるいかなる不利益も(また利益も)私の責に帰すものではございません。