2016年2月28日日曜日

医療面接の技法について



Asia Pacific Family Medicineに、日本発の論文が掲載されていました。

著者は医療面接について研究されている方です。
今回の論文の内容を合わせて、これまでのエビデンスをまとめてみます。

今回publishされた論文
Michiko Goto, Yousuke C. Takemura 
Which medical interview skills are associated with patients' verbal indications of undisclosed feelings of anxiety and depressive feelings? 
Asia Pacific Family Medicine 2016, 15:2 

この著者のレビュー
竹村洋典
日本におけるよい医療面接とは―エビデンスに基づいて― 
医学教育 2008,39(3):187~190


 ・身体的情報を得るためには(Tohoku I Exp Med 2007; 213:121-7.)

促進:患者が話を続けられるように言葉や動作で促す

絞り込み:最初は患者に自由に話してもらうが、次第に必要な情報に絞る

まとめ:患者の話した内容をまとめて述べる

なお、開放型質問は身体的情報を多く収集できるとは言えない。


・患者満足度を上げるためには(Family Medicine 2008; 40:253-8.)

反映:患者が表現した情緒的側面を認知し、その内容を患者に伝える

是認:患者の情緒的体験を受け止めたと患者に伝える

なお、非言語コミュニケーションより言語的コミュニケーションのほうが大事かもしれない


・情緒的情報を得るためには(これが今回の論文)

○不安の表出(上の2つが特に関連が強い)

開放型質問

正当化:患者の情緒的体験を受け入れ、それが妥当なものだと伝える

病い(illness)の意味をどう考えているか尋ねる

反映

なお、「閉鎖型質問」「絞った質問」は逆効果

○抑うつの表出

敬意:患者を名前で呼ぶ、肯定的な意見を述べるなど、敬意を示す

なお、「詮索的質問:まとめたあとにさらに何か問題がないか尋ねる」は逆効果



以上まとめると、この通りです。

身体的情報を得るには「促進」「絞り込み」「まとめ」

情緒的情報を得るには「開放型質問」「正当化」「敬意」

患者満足度を上げるには「反映」「是認」

時と場合に応じて意識したいですね。


2016年2月14日日曜日

CO2ナルコーシスを疑うとき



心不全で入院中に意識低下→CO2ナルコーシスと判明というケースに出会ったので
どういうときに疑えばよいかを中心にまとめます。


CO2ナルコーシスの身体所見は以下の通り

中等度まで:そわそわ、なんとなく息苦しい、日中にのろのろしている、朝の頭痛、寝てしまう

重度または急激に悪化:意識変容、譫妄、妄想、抑うつ、混乱 進行すれば昏睡に
重度のときはほかに…羽ばたき震戦、ミオクローヌス、けいれん、入刀浮腫、表在静脈の怒張


では、どんな患者さんがCO2ナルコーシスになりうるのでしょうか。

○換気量(一回換気量×呼吸数)の減少

・「呼吸しない」
例:鎮静薬、脳症、大きな脳梗塞、中心性無呼吸、閉塞性無呼吸、脳幹障害、代謝性アルカローシス、甲状腺機能低下症、低体温などなど

・「呼吸できない」特に感染症、脱水などのストレス下で顕在化する
例:横隔膜麻痺、薬剤、中毒、胸郭異常(側彎、強直性脊椎炎など)

○死腔増加:COPD、肺炎、肺線維症など


今回体験したケースでは
心不全→中枢性低換気(Cheyne-Stokes呼吸)→CO2ナルコーシス
または利尿薬・低カリウム血症→代謝性アルカローシス→低換気→CO2ナルコーシス
が考えられます。

参考
UpToDate The evaluation, diagnosis, and treatment of the adult patient with acute hypercapnic respiratory failure
UpToDate Mechanisms, causes, and effects of hypercapnia

2016年2月13日土曜日

安定期COPDの治療



喘息の治療はなじみがあるのですが、
安定期COPDの治療は何が有効なのかあまりわからないので調べました。


まずは重症度判定です。
スパイろメトリーで判定するのはこちら

GOLD1 FEV1≧80%予測値
GOLD2 50%~80%
GOLD3 30%~50%
GOLD4 FEV1<30%予測値

GOLD 1-2だと急性増悪のリスクは年1回以下ですが、
GOLD 3-4だと急性増悪年2回以上or入院年1回以上のリスクとなります。


症状の重症度はCOPD Assessment Test(CAT)で行います。
10点が境界線です。




modifiedMRC(mMRC)分類も症状で分類します。

0 強い労作でしか息切れを感じない
1 平地で急ぎ足、もしくは緩やかな坂を歩いているときに息切れを感じる
2 同年齢の人と比べると息切れのために平地で歩くのが遅い、もしくは自分のペースで歩いていても息継ぎのために休まなければならない
3 平地で約100m歩くか、数分間歩くと息切れのために休まなければならない。
4 息切れがひどくて外出できない、もしくは着替えにも息切れする


これらの指標を組み合わせると

A群:GOLD 1-2かつ(CAT<10またはmMRC 0-1)
B群:GOLD 1-2かつ(CAT≧10またはmMRC 2-4)
C群:GOLD 3-4かつ(CAT<10またはmMRC 0-1)
D群:GOLD 3-4かつ(CAT≧10またはmMRC 2-4)

となります。


安定期の治療は、まず禁煙、そしてできる範囲で運動し、ワクチンで感染症予防をすることが大事です。
死亡率低下が証明されているのは在宅酸素くらいです。
PaO2≦55mmHgまたはSpO2≦88%で在宅酸素の適応です。


以上を理解したうえで、薬物治療は以下のようになります。
(第一選択のみ示します。薬剤名は例です)。

A群
短時間作用型抗コリン吸入薬(イプラトロピウム:アトロベント®)頓用 or
短時間作用型β2アゴニスト吸入薬(プロカテロール:メプチン®)頓用

B群
長時間作用型抗コリン薬吸入薬(チオトロピウム:スピリーバ®) or
長時間作用型β2アゴニスト吸入薬(サルメテロール:セレベント®)

C群
長時間作用型抗コリン薬吸入薬(チオトロピウム:スピリーバ®) or
ステロイド吸入薬+長時間作用型β2アゴニスト吸入薬(アドエア®)


D群
長時間作用型抗コリン薬吸入薬(チオトロピウム:スピリーバ®) and/or
ステロイド吸入薬+長時間作用型β2アゴニスト吸入薬(アドエア®)


注意点としては以下の通り。

・短時間作用型を長期間処方しない
・長時間作用型を頓用で使わない
・B群になったらちゃんと長時間作用型に切り替えましょう(コクラン 2015;9 CD009552.)
・ステロイド吸入薬を併用すると急性増悪の頻度は下がるが肺炎発症が多くなる(N Engl J Med. 2007 356(8):775-89.)
・スピリーバレスピマットはスピリーバカプセルと比べて死亡リスクが高いかもしれない(BMJ 2011; 342: d3215)


参考:内科診療ストロング・エビデンス(2014)
    薬のデキュスタシオン(2015)


2016年2月4日木曜日

冠攣縮性狭心症について



疑わしいけど心電図変化が捕まらないケースに出会ったので
冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)に従ってまとめます。


診断アルゴリズム


特に、参考項目は問診で明らかにするために記憶すべき事項だと思います。


自覚症状では抑えるべき事項はほかに以下の通り

・持続時間は数分~15分で、しばしば放散する
・器質性凶作と比べ持続時間が長い
・過換気のほか飲酒でも誘発されうる
・発作に伴いしばしば不整脈が出現する
・毎日数回頻発することもあれば、数年生じないこともある
・夜間から早朝の安静時に出現するが午後は激しい労作によっても誘発されない(著名な日内変動)


治療は、生活習慣の改善、高血圧・耐糖能異常・脂質異常症などの是正のほかに

・発作時硝酸薬
・予防目的の長時間作用型硝酸薬(耐性を避けるため休薬が必要)
・カルシウム拮抗薬
などが推奨されています。

冠狭窄併存例でβ遮断薬を用いる場合は長時間型カルシウム拮抗薬を併用するよう書かれています。




2016年2月2日火曜日

心不全の落穂拾い



最近、心不全の患者さんを担当することが多いので、
患者さんに関連して勉強したトピックスを羅列します。

【心臓再同期療法(CRT)の適応】
・βブロッカー、ACE阻害薬orARBを含む最適な薬物治療を受けている
・LVEF<35%
・QRS>120msec
・NYHAⅢorⅣ
・洞調律
→CRTでQOL改善、心不全の入院減少、全死亡率低下

症状改善はCRT埋め込み後1カ月以内に出現。
ただし1/3は改善見られず。

CRTで効果高い群
・特発性非虚血性拡張型心筋症
・左脚ブロック
・QRS>150msec

NYHAⅠorⅡ群でも心機能改善期待できる。しかし死亡率減少はイマイチ。


【急性非代償性心不全の原因】
・原病の悪化:特に高血圧→左室収縮障害に注意
・虚血
・不整脈
・ペースメーカー異常
・不摂生、怠薬
・アルコール
・薬物:特にNSAIDsに注意。カルシウム拮抗薬も引き起こすことある。


【心房細動+心不全】
心不全→体液貯留+左房圧上昇→心房細動というケースもあれば
心房細動→頻脈性心筋症→心不全ともなりうる

心房細動単体なら心拍数<110bpm程度のレートコントロールでいいよという流れですが
心不全合併例でレートコントロールがいいかリズムコントローrがいいかは明確にわかっていないようです。
心不全合併例のリズムコントロール第一選択はアミオダロン。
レートコントロールならβ遮断薬が第一選択で、
心機能が比較的保たれているならカルシウム拮抗薬、
心機能低下しているならジキタリスが選択肢としてあがります。

もちろんカテーテルアブレーションなど非薬物的治療の適応も考えます。


参考:「症例でつかむ心不全」 2015 MEDSi
        「循環器治療薬ファイル第2版」 2012 MEDSi