2015年12月31日木曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part1



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part1です。血液検査の結果は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


患者:40歳 路上生活中の女性
主訴:頭痛、高血圧、精神病

 精神病の既往のある40歳女性が、頭痛と高血圧のため路上生活者のシェルターから当院に入院した。

 入院1週間前、患者はシェルターに入ることとなった。それまで4年間は、公共の建物の中で寝泊まりしていた。その間、シェルターのアウトリーチワーカーによる援助を繰り返し拒否していた。屋外にいて人々を見守るのが神から与えられた使命であると患者は話していた。シェルターでの評価では、恰好が乱れていて話が支離滅裂であり、霊的な事柄ばかりを考えていた。自分の障害を、12年以上前に遭った自動車事故で脳が損傷したためだと考えていた。自分が精神科疾患にかかっているとは考えておらず、精神科的治療を拒否したが、シェルターに駐在しているプライマリケア医の診察を受けることには同意した。限られた身体診察では、白癬が広がっており、足に静脈鬱滞性皮膚炎があることが分かった。

 入院当日の朝、患者は昨夜からの強い頭痛を訴えた。看護師が許可の上でバイタルサインを測定すると、血圧が180/110mmHgであった。緊急医療サービスが要請され、再度測定すると、収縮期血圧が212mmHgであった。患者は救急車で当院救急部門まで搬送された。


 患者は“おかしい”感じがあると言い、前頭部の頭痛を時々訴えた。視覚症状、胸痛、腹痛、嘔気、嘔吐は訴えなかった。高血圧に加え12年以上前からの精神病の既往があり、身体性妄想、偏執性妄想、誇大妄想、滅裂思考、貧困なセルフケアといった特徴があった。今回の入院の5年前に精神病院への入院歴があった。入院中はオランザピンの服用で症状が若干改善していた。退院後は精神科ケアのフォローアップを受けず、オランザピンの服用も中断していた。今回の入院の4年前にヒドロクロロチアジドを服用していたが、最近はどの薬剤も服用していなかった。ニフェジピンのアレルギーがあり、動悸がおきるとのことであった。患者はカリブ海の国の出身で、だいぶ昔にアメリカ北東部に移住してきた。喫煙は時々あり、違法薬物を使ったことはないが、過去によくわからない物質を大腿に注射したことがあると申告した。家族歴は不明だった。


 診察を行った。患者は肥満かつ低栄養で、恰好が乱れ、多数の服を重ね着していた。血圧は208/118mmHgで、再度測定すると240/130mmHgであった。脈拍95bpm、体温36.4℃、呼吸数16/min、SpO2 90%(室内気)。上部胸骨右縁に収縮期雑音(grade 1/6)を聴取したが、心膜摩擦音やギャロップはなかった。両下肢膝以遠に2+の圧痕性浮腫があり、慢性の鬱滞と硬化による皮膚の変化があった。態度は快活かつ協力的で、視線を合わせ、異常な動きはなかった。発語は小声かつ早口であった。自分の気分は「良好」であると話し、見ためも気分良好で感覚鈍麻あった。思考過程は滅裂で、過度に宗教的かつ誇大な妄想が含まれていた。神や悪魔の声といった幻聴があり、神からのメッセージだと信じている「幻視」もあった。自殺・他殺の念慮はなく、自分の状況をよくわかっておらず、判断力に欠けていた。他の一般診察所見は正常であった。

 白血球数と分画、腎機能、凝固、尿検査は正常であった。電解質、カルシウム、リン、マグネシウム、血糖、トロポニンT、NT-proBNP、ビタミンB12、葉酸も正常であった。トロポニンI、尿hCG試験は陰性だった。他の結果はTable 1に示す。心電図、胸部X線、単純頭部CTは全て正常だった。ラベタロール静注とカプトプリル経口投与が開始され、血圧は187/111mmHgに下がった。患者は入院となった。


 ラベタロールとカプトプリルを増量し、アセトアミノフェン、ダルテパリン、硫酸第一鉄、オメプラゾール、葉酸、チアミン、マルチビタミンも投与した。血圧は左上肢141/65mmHg、右上肢141/62mmHgまで低下し、頭痛は徐々におさまった。尿薬物スクリーニングは陰性だった。患者はインフルエンザワクチンを拒否した。患者は入院3日目にシェルターに退院し、シェルター内で血圧モニタリングを受けることとなった。退院時の薬剤は、リシノプリル、チアミン、マルチビタミン、葉酸、オメプラゾール、硫酸第一鉄であった。診療所の外来で1週間後にフォローアップを受けるよう患者に促した。

 方針の決定がなされた。



2015年12月29日火曜日

重度認知症患者の経管栄養と輸液(part 2)


Canadian Family Physicianに掲載されていたレビューを読んで
驚きと反省が大きかったので
全訳して掲載いたします。
前回の続きです。

Artificial nutrition and hydration in advanced dementia
Irene Ying
Canadian Family Physician (61) 245-248 2015


 Nさんに胃瘻を増設すると、全体として有害事象が多く苦痛が増える、とあなたは説明したが、Nさんの娘は、母親が飢え死にしてしまうという考えにとらわれたままであった。


ANHを希望する家族へのアプローチ

 理想的には、ANHを開始するという決断は、利益(身体的、精神的の両方にわたる)と有害事象の重みを天秤にかけたうえで、医師、患者、家族が共同して行うべきものである。法的にはは、意思決定は各州で定められた意思決定代理人(SDMs)の順位に従って指名された人が行うべきである。一般的にこのような決定は、患者が以前表明していた希望にまず真っ先には基づくべきであるが、この希望は、認知症が始まる前かまだ進行していない初期に、患者に尋ねることでしか知りえない。このような希望を知りえない状態では、患者の最善の利益に基づいて決定が行われるべきである。
 栄養チューブ挿入は大抵の場合、急性期での入院の間に行われるが、そこではスペシャリストや患者家族に継続した関係を持たない医師が医学的ケアを提供しており、家族が意思決定を行う際のプレッシャーが強くなることが多い。それゆえ家庭医にとっては、進行期での人工栄養を支持するエビデンスがないことについて、認知症の初期の段階で患者や家族と話し合っておくことが、やはり大事である。

理解内容を明確にする
 ANHの利害について話し合う前に、患者の友人や家族が抱いている特定の懸念についてまず理解することが大切である。その懸念は、最愛の人が「渇きと飢えで死んでいく」という考えに端を発しているのか。技術の進歩と良質なケアを同一のものと認識しているのか。まだ見えていない家族内の複雑な動的作用から導かれた決定なのか。こういったことを知らなければ、家族や患者を効果的に支えることがとてつもなく困難になる。

教育する
 前述のようなANHにまつわる神話に加えて、飢えと渇きについての不安が介護者の心にのしかかっていることが多い。口渇と口腔乾燥は終末期によく見られることであるが、輸液はこの症状を緩和していないように見える。末期患者では、経口での食事が空腹感を悪化させることすらある。死期が近い場合は、少量の食事、水分、人工唾液、良質な口腔ケアにより、飢えと渇きをどちらも効果的に治療することができる。

支える
 SDM(意思決定代理人)の役割は、不確定や不安と闘うことである。SDMは、ソーシャルワークやスピリチュアルケアといった、自らの支えとなる存在に気付くべきであり、実際それらは利用可能である。文化的、宗教的信念に基づいて家族が反対を唱えている場合は、その信念の細部を理解して情報が明確に伝達できるようにするために、患者の文化的、精神的指導者に対話をお願いすることが有用かもしれない。たとえば、苦しみが人間の体験における重要な側面であるとみなされている文化があるが、そこでは不快感のリスクは特定の介入を追求する際の妨げとならないかもしれない。しかしこれは、有害事象の危険性があることや死に向かう最後の数日間の過程を変えることとは異なる。このようにしばし曖昧となる輪郭を描く際には、コミュニケーションの継続が重要となる。

予測とパラメーターを設定する‐しかし、柔軟でありつづける
 ANHが開始された場合では、介入の変更や中止の必要性を示す徴候や症状についてのガイドラインを近しい人に渡しておくとよい。肺水腫による息切れ、下痢、褥瘡の悪化などの徴候や、栄養チューブや輸液ラインの自己抜去といった、ANHの有害事象を再評価する必要があるイベントについてあらかじめ議論しておくことで、家族がANHの中止に備えるのを手助けすることができる。友人や家族が、「生命維持」の提供というシンボル的性質と、実際目の前で起こっている有害事象との間で引き裂かれているような状況では、栄養注入や輸液の速度を症状が出ないレベルに下げるというような、より柔軟なアプローチでもよいかもしれない。速度が無視できるレベルになることもあるだろう。このようなシンボル的な所作は、近しい人が感情的に自らの喪失と向き合い、悲嘆過程を安寧なものとするのに十分な時間を提供するのかもしれない。


 あなたは、母親が「飢え死に」するのではとNさんの娘が心配していることを理解し、ANHの限界と有害事象について彼女に説明した。Nさんの娘は、注意深い食事介助を続けることに決めた。それから6か月間、Nさんは徐々に傾眠になっていき、娘は輸液を希望した。あなたは、他の症状が出ないレベルで皮下注入を行うことに同意した。娘は最終的にNさんの末期状態に向き合うことができ、輸液は終了となった。


これだけは

・人工栄養が重度認知症患者の予後を伸ばす、人工栄養・補液(ANH)は飢えと渇きを改善させる、というエビデンスはない。非経口補液は、それを行うことで症状を改善させる状況があるかもしれないため、ケースバイケースで考慮しても良い。

・食事、飲水はシンボル的な意味を強く有しており、これはANHの利害を推し量る際に無視できないものである。家庭医とジェネラリストは、サブスペシャリストによる管理の間は欠けてしまうかもしれない俯瞰的な視点を有しているため、重度認知症患者に対するANHの利害について家族と相談する際に重要な役割を果たす。

・議論は予防的に行うべきである。つまり、嚥下困難により合併症や入院が起こる前に、理想的には患者が自分の願いを表現できなくなる前に、議論をしておくとよい。

以上


調べていて見つけたのですが、
American Geriatrics SocietyのChoosing Wiselyの最初の項目は
American Academy of Hospice and Palliative Medicineと同じであり、
本文での推奨通りのことが書かれています。

Don't recommend percutaneous feeding tubes in patients with advanced dementia; instead offer oral assisted feeding.

Careful hand-feeding for patients with severe dementia is at least as good as tube-feeding for the outcomes of death, aspiration pneumonia, functional status and patient comfort. Food is the preferred nutrient. Tube-feeding is associated with agitation, increased use of physical and chemical restraints and worsening pressure ulcers.


参考:ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.5 Choosing wisely in Japan -Less is more-




2015年12月24日木曜日

重度認知症患者の人工栄養と補液 (part 1)


Canadian Family Physicianに掲載されていたレビューを読んで
驚きと反省が大きかったので
全訳して掲載いたします。

Artificial nutrition and hydration in advanced dementia
Irene Ying
Canadian Family Physician (61) 245-248 2015


 Nさんは80歳の女性であり、7年前にアルツハイマー型認知症とはじめて診断された。病状は進行し、現在は寝たきりでADLは全介助である。周囲の状況をあまり理解しておらず、同居している娘や義理の息子のことも時に分からなくなる。幸運にも、興奮や他の行動上の懸念はわずかである。娘は主介護者として家を離れずに面倒を見ている。
 あなたはNさんと娘家族を家庭医として長年診ている。ある日の診察中、Nさんの娘が、経管栄養が母にとっていいのだろうかと質問してきた。Nさんは食事が難しくなってきており、よく喉を詰まらせるからとのことである。


認知症患者の人工栄養と輸液のリスク

 アメリカにおいて、重度認知障害があり施設入所中の患者の3分の1が経管栄養を受けている。精神能力が障害されている可能性のある患者における人工栄養と輸液(ANH)に関する治療法決定のシステマティックレビューによれば、認知症患者を含めてANHを開始する第一の理由は延命である。しかし、エビデンスによれば、重度認知症患者におけるANHは延命にもQOL向上にもつながらない。それどころか、経腸栄養は合併症のリスクを挙げ尊厳を否定しかねない(Box 1)。従来から人工栄養は誤嚥のリスクを下げ創傷治癒を促進するといわれてきたが、研究は全く逆の結果を示しており、誤嚥のリスクと褥瘡の進行は経管栄養を開始することで増加する。後者に関しては、排便の量が増える(特に下痢になることが多い)ことで湿潤環境になり皮膚バリアが破壊してしまうのではと言われている。
 1989年に、生命倫理学者のMark Yarborough博士は増え続ける経腸栄養の利用に疑問を投げかけた。Yarboroughは経腸栄養を特定の集団に“強制的に食事させる”方法であると考えている節があった。想像力を抑制する必要はないが、経腸栄養により忍容量以上の食事を与えるという考えを招くため、重度認知症患者の文脈ではこれは適切なたとえではない。たとえそうであっても、私たちは異常な割合で重度認知症患者にANHを使い続けている。


社会、文化、倫理的考慮

 重度認知症患者への人工栄養が有害であるというエビデンスが既に知られており、どんどん蓄積されているにもかかわらず、人工栄養はこのような患者集団で頻繁に使用される介入方法であり続けている。この現象の原因として特定の集団をどれか一つだけ指摘するのは不公平であろう。というのも、原因はおそらく多岐にわたっているからだ。
 患者や家族にとって、食事や水分は宗教的、文化的、個人的な理由により重要な意味を持ちうる。例えば、迫害や貧困などにより飢えを経験した人はどのような状況であっても、経管栄養により生じる可能性のある害を差し置いて、栄養を投与されないことを尊厳の蹂躙ととらえるだろう。多文化な集団に対するこのような考慮を心にとどめておくことが特に重要である。カナダにいる住民の多くは、国内外を問わず生活環境が非常に苛酷であった可能性のある地域の出自である。
 医師やほかの臨床家が、重度認知症患者に経腸栄養を過度に使い続ける役割を演じてしまうこともある。たとえば認知症患者にとって誤嚥性肺炎は経管栄養の重要な適応であるというような誤りをよく犯す医師には知識の大きなギャップがあるというエビデンスが存在する。このように、多くの言語病理学者は、重度認知症や重度嚥下障害患者に経管栄養を行うと栄養状態が改善し予後が延伸するという誤った信念を抱いている。
 サブスペシャリストが管理している患者は、ジェネラリストの患者と比較して経管栄養を受けていることが多い。この理由は不明確だが、ジェネラリストが患者のケアをより広い視点で見る傾向にあることと関係しているのかもしれない。
 アメリカ老年医学協会のガイドラインでは、重度認知症患者に経管栄養を行わないよう推奨しており、注意深く介助下で食事させることを勧めている。注意深い食事会所が可能な状況下ではたしかにそのほうが良いが、現実には、重度の認知機能低下がある患者の多くは、育児も行っており非常に忙しい子ども(sandwich generation: 親の介護と育児の両方を行わなくてはいけない世代)が世話をしていたり、1対1の対応をする時間が限られている施設にいたりする。アメリカの研究では、経管栄養の入居者にかかる1日のコストは、そうでない入居者より低いことが明らかになっている。しかし、メディケアの請求書をみると、経管栄養の患者はチューブの挿入や合併症による入院などに関連する払戻の必要額が随分高いことが分かる。この研究結果により介護施設は、患者の健康とヘルスケアシステム全体のコストを考慮しながらも、自分の経営も安定化させなければいけないという難しい状況に追い込まれている。


輸液 (注:原文はparenteral hydration)

 経管栄養が引き起こすリスクと害のうち、輸液とも関連しているものがある(肺水腫、末梢浮腫、分泌物増加)が、量を制限して集中的に輸液を行うことが良い状況があるかもしれない。たとえば、補液はオピオイド中毒や高カルシウム血症のような譫妄の原因を緩和させることがある。


2015年12月19日土曜日

SMA症候群について



糖尿病→急激な減量→嘔気・嘔吐→SMA症候群
の疑いがあるケースを経験したので、SMA症候群について調べてみます。


基本的には近位小腸閉塞と一致した病状を呈します。
軽症だと食後心窩部痛や早期満腹感のみですが
進行すると嘔気、胆汁性嘔吐、体重減少を来します。
逆流性食道炎の症状が出ることもあります。

症状は腹臥位、左側臥位、膝胸位で軽快することもあります。

身体的ないし精神的疾患や手術後による体重の急激な減少が最も多いリスク因子です。
悪性腫瘍、吸収不良症候群、AIDS、外傷、熱傷が契機となることが多いです。

しかし、体重減少がなくてもSMA症候群を来すことがあります。
例えば側弯症の手術後(これをCast症候群といいます)などです。


診断が遅れると、嘔吐→電解質異常、胃穿孔、気腹症、門脈内ガス、十二指腸内石の原因となります。

鑑別疾患は以下の通り。
糖尿病などによる蠕動運動低下、膠原病、強皮症、慢性特発性腸偽閉塞
食道裂孔ヘルニアなど良くある消化不良、逆流の原因を検索する必要がります。
腸管アンジーナも似た症状を呈するので注意です。

画像検査では、十二指腸の閉塞、腹腔動脈とSMAの分岐角が25°以下、Treitz靭帯の異常、SMA起始部が低位などの所見に留意します。


治療は、胃管挿入(全例挿入と記載してあります)、電解質補正、栄養療法(鼻-十二指腸管やCVを考慮することも)です。ダメなら手術適応です。といっても効果はまちまちみたいですが。


参照:UpToDate Superior mesenteric artery syndrome


2015年12月14日月曜日

ニューキノロンの相互作用



尿路感染症の外来フォローなどで使う機会があります。
知っているものもあれば知らなかったものもあるので、纏めてみました。


ニューキノロン+NSAIDs:痙攣

ニューキノロン+ワーファリン:PT-INR延長

ニューキノロン+テオフィリン:テオフィリン中毒(頭痛、痙攣)

ニューキノロン+Na, Ca, Al:ニューキノロン吸収低下
市販胃腸薬に含まれていたりするので注意
Fe, Znでも吸収低下が起こりうる

ニューキノロン+アミオダロン・抗精神病薬など:QT延長


気を付けて使用しなくては。


2015年12月11日金曜日

甲状腺結節(NEJM Clinical Review)


今週のNEJM Clinical reviewが甲状腺結節についてでした。
偶発的に見つけることがままあるので、まとめてみます。

・触知可能な甲状腺結節は人口の4-7%にみられる。
・癌は結節の8-16%を占める。
・無症状の患者100人にエコーをすると、22人に単結節、45人に多結節がみられる。

・亜急性甲状腺炎や橋本病が腫瘤を形成することがある。
・ヘモクロマト―シスや癌転移などの浸潤性疾患や種々の良性腫瘍は甲状腺結節の稀な原因である。

・甲状腺がんのリスクファクターは以下の通り:家族歴、放射線曝露歴、既往歴、男性、原子力事故の近隣住民

・良性の場合は大きさが比較的変わらない。
・組織学的に良性と診断された甲状腺結節を5年間フォローすると、拡大傾向が15%、縮小傾向が19%。5例(0.3%)が悪性と判明した。

・まずは病歴。上記のリスクファクターを念頭に。
・急速進行は悪性を疑うが、良性結節・嚢胞の出血も。
・嗄声、嚥下困難、前頸部不快感はRED FLAG。
・甲状腺がん、乳がん、大腸がんの家族歴あり、皮膚や粘膜に過誤腫があれば、Cowden症候群かも。他にも家族性に甲状腺がんを来す症候群はある。
・触診では硬さ、位置、大きさを確認。リンパ節腫大も合わせて確認。

・TSHは全例測定しよう。TSH低値でhyperfunctioning noduleなら甲状腺機能亢進症として治療となる。
・カルシトニンを全例測定するのは推奨されていない。

・エコーも全例検査しよう。低エコー、辺縁不明瞭、高さ>幅、微小石灰化は悪性所見
・1cm以上でエコーで疑わしい場合、1.5cm以上でエコーで否定的でない場合、2cm以上の場合は細胞診を。
・細胞診の偽陰性は5-10%ある。3cm以上なら偽陽性率11.7%(3cm以下なら4.8%)。

・細胞診の結果と将来の発がんリスクは以下の通り。



・細胞診で良性所見かつ臨床的、エコー的に疑わしくない場合は1-2年ごとにエコーをフォロー。
・少しでも疑わしい所見があれば6-12か月ごとにエコーをフォロー。
・50%以上の体積増加あるいは2つの次元で2mm以上増大があれば再度針生検。



2015年12月6日日曜日

CEA産生腫瘍/胆嚢摘出術後の総胆管結石



研修で生じた疑問をサクッと解決しちゃいましょうのコーナーです。
UpToDateに頼りきりですが、パパッとまとめます。


①大腸癌でCEAが高いと予後が悪いのか。

CEAが5.0ng/ml以上であると予後不良です。これはステージとは独立しています。
J Natl Cancer Inst. 2011;103(8):689によれば、27ヶ月間のフォローでCEA高値群の死亡率がHR 1.46-1.76で高値でした。
この傾向はどのステージでも見られました。
そして、リンパ節転移なしでCEA高値の群が、リンパ節転移ありでCEA正常の群と比べて死亡率が同じもしくは高い傾向が見られました。(HRで比較すると前者が1.48-2.09、後者が1.30-1.91)。

(以上、Pathology and prognostic determinants of colorectal cancerを参照)

なお、CEAは胃潰瘍や喫煙、加齢などでも上昇することがあります。
感度、特異度ともに高くないので、CEAのみを根拠に診断を行うのは無理です。
当然、大腸がん検診をCEAで行うのもアウトです。


話はそれますが、大腸がんの健診におけるUSPSTFの推奨は以下の通りです。
対象:50-75歳
方法
①便潜血検査を年1回
②10年ごとの大腸内視鏡
③5年ごとのS状結腸鏡+3年ごとの便潜血検査

大腸ポリープ診療ガイドライン2014では、6mm以上の大腸ポリープは切除適応で3年後フォローアップとなっています。

上の2つは、国内外の様々なガイドラインで推奨が異なります。

(参照:Hospitalist 外来における予防医療)


②胆嚢摘出術後の総胆管結石について

発生率は10%程度とのことです。結構多いのですね。
エコーは使えない(そもそも摘出術後は胆管拡張している)ので
胆石様の腹痛や肝酵素異常などで疑ったら、CTなどの検査をもちいます。

胆嚢摘出術後症候群(postcholecystectomy syndrome PCS)という概念があります。
症状としては、繰り返す持続的腹痛と消化不良です。
晩期に起こることもあり、結石再発、胆道狭窄、胆嚢遺残の炎症、胆道ジスキネジアなどが原因となります。

(以上、UpToDate Laparoscopic cholecystectomyを参照)


高齢者虐待 part3



NEJMの高齢者虐待のレビューです。
今回はpart3です。これで終わりです。
なお、Figureの訳は載せていません。


介入
高齢者介入についての特異的かつ明確な介入について大規模かつ質の高いランダム化比較研究はなく、この分野における決定的な知識ギャップを引き起こしている。しかし、この分野での数十年にわたる臨床経験と記述された最良の診療が、被害者と救う際の臨床家の手助けとなる。成功例であっても、一回の介入で虐待の被害者を窮地から迅速かつ確実に救い出せることはまずない。そうではなく、高齢者虐待に対する介入の成功例は、多職種が関わり、継続して、地域ベースで、資源を集約しているのが典型的である。医者はこのような介入の医学的要素に重要な役割を果たしているが、たいていの場合は、高齢者虐待自体に対し介入を始め、維持し、成功するのは、医師だけでは困難である。それ故、医師にとって最も重要な仕事は、高齢者虐待を認識、同定し、地域社会で利用可能な介入資源をよく理解し、これらの資源に患者を紹介したりともに協同してケアを行っていくことである。
Table 2に、高齢者虐待の事例に介入する際によく関係するサービスや機関とその役割を載せている。Figure 1は、虐待被害者が同定されたとき、あるいは疑わしいときに行う、包括的かつ多職種による介入アプローチの概要を示している。APSは、虐待が疑わしいときに必須の報告を受け取る連邦政府プログラムであり、事例調査の中心的存在である。49の州(ニューヨークを除く)は、虐待のケースを、たとえ疑い例でもAPS、警察、調整機関に報告する義務を、指定報告者(医師を含む)に法律で課している。報告を受けるとAPS職員は通常、懸念を確証したり打ち消したりするために、家庭を訪問し調査を行う。もし虐待だとわかったら介入措置が取られるが、それは被害者の状況に合致したものであり、地域資源や家族の資源や動きに高度に依拠したものである。医師は、APS職員が調査を進めるときに非常に有用な資源となりうる。
虐待の状況により必要な介入は様々である。精神科疾患のある加害者には強制的に精神科的治療が必要となるかもしれない。介護負担が重いために高齢者虐待となっている場合はレスパイトサービスや被介護者に対する在宅サービスが必要かもしれない。物質乱用に関連した高齢者虐待では、全く異なる介入が有効である。このような状況全てにおいて医師は重要な役割を有しており、虐待の存在がはっきりと証明されていなくても、身体的治療や在宅サービスを導入し、慢性疾患治療を最適化し、ケアを調整し、生活機能を高く保持するために注意を払うなどの高齢医学的サービスを始めることで、虐待の起きた状況を改善することができる。
認知症による認知機能低下(高齢者での機能障害の最も多い原因)は有病率が高いため、高齢者虐待では全例、被害者が意思決定能力を有しているか、避難的介入を受け入れることができるかを考慮することが肝要である。このような意思決定能力の評価には、決定権のある州の法的機関だけでなく当人の障害の程度にもよるが、精神科医や高齢医学の臨床家が大抵は必要となる。それは、APSチームと一員としてのこともあるし、私的な依頼を受けてのこともある。患者が介入を拒否したり意思決定能力を欠いたりしている場合は、後見人などの法的介入が必要になることが多い。そのような場合、医師は身体診察と病歴から意思決定能力の有無を示す証拠を提出することが役割であり、時には、加害の被疑者が後見人にならないように手続きに参加することもある。
高齢者虐待は様相が複雑なため、最も幸先のある対応策は多職種協同チームの発展である。多職種連携チームとも呼ばれる多職種協同チームは、医師、ソーシャルワーカー、警察、代理人、他の地域社会の参加者が協同して動くものであり、被害者を救うための最も実践的なアプローチであるとのエビデンスがある。多職種協同チームは、地域社会での複雑なケースについて議論し、効果的な反応を呼び起こすために、コーディネーター(大抵はソーシャルワーカーや看護師が担う)が旗振り役となって定期的に会合を開く。行動プランが立ち、個々のメンバーが特定の仕事に割り振られ、フォローアップの時間枠が明確に定められる。(分野を超えたチームの会合の模擬映像はhttp://nyceac.com/clinical-services/mdtsで観ることができる。) データによると、分野を超えたチームはメンバー間で効率、協同、専門的サポートを高め合う。
多くの医師にとって、地域社会での高齢者虐待に対応する公的な多職種協同チームを抱えるのは無理がある。しかし、いくつかの必要な機関(APSを含む)と専門家がいることで、そのようなチームを作り上げることができる。医師はこれらの関係性を熟成させて、高齢者虐待の被害者を救い、地域社会での多職種協同チームを発展させることができる。まさしく、地域社会で多職種協同チームを構築するための触媒となることこそが、高齢者虐待に関して医師ができる最大の貢献である。多職種協同チームの構築に関する詳細なガイダンスは、高齢者虐待ナショナルセンターのサイトからダウンロードできる(http://ncea.aoa.gov/stop_Abuse/Teams/index.aspx#traditional)。

長期ケア施設における高齢者虐待
施設で高齢者虐待が起こっているという懸念が最初に世間に広まったのは1970年代であった。そのころは、施設はあまり管理されておらず、見逃しもあった。1987年の連邦予算削減一括法で、施設入居者の評価とケアを標準化する枠組みを連邦政府が策定したことで、施設での高齢者虐待の発見と報告が多くなった。このような状況で虐待が多くなるという科学的研究はないが、利用可能な観察研究、臨床研究のエビデンスによると、スタッフが利用者を不適切に扱うことは、医師が関心を抱くくらいには多い。利用者間での暴力は、身体的、言語的、性的のいずれでも非常に多いことが研究で指摘されている。利用者間の暴力によって生じる臨床的に重要な創傷を発見するために、利用者を診察、治療する際に、このような可能性に留意するべきである。
虐待の原因が何であろうと、医師は虐待を受けた利用者に出会うことがある。プライマリケア医として施設で出会うこともあるし、患者が救急受診した際に相談されることもあるだろう。施設での虐待の疑いを報告し調査するための報告機関が各州にはあり、それに従って医師は自らの懸念を報告しなければいけない。高齢者虐待のナショナルセンターでは、このような目的のために報告用の電話番号や各州のオンブズマン機関の住所をウエブサイトに掲載している(http://ncea.acl.gov/Stop_Abuse/Get_Help/State/index.aspx)

結論
高齢者虐待の被害者は孤立する傾向にあるので、途切れ途切れであったり回数が少なかったりしても医師が虐待被害者と関わることは、高齢者虐待を認識し、介入したり被害者を適切なケア提供者へ紹介したりする決定的に重要な機会となりうる。また、高齢者虐待の多様な表出と多職種協同チームのアプローチの重要性について理解を深めるにつれ、このような公衆衛生上の主要な問題を扱う際に医師が果たす重要な役割が何かが浮かび上がってくる。研究と臨床経験の両方が、医師一人だけでは高齢者虐待の治療を成功させることは、もしできたとしてもめったにないことを示唆している。なので、医療の専門家としては、理想的には多職種協同チームによるアプローチの文脈において、ソーシャルワーカー、警察、保護サービスなどの多分野の専門家と共同して対応をしなくてはならない。


2015年12月1日火曜日

急性冠症候群のprediction score


胸痛の救急患者さんに出会うと

「急性冠症候群じゃないよね」と常に不安が付きまといます。

もちろん、6時間おきに心電図とデータフォローというのが王道なのですが

もうちょっと自らの診断性能を高めたいと思っています。


JAMAのClinical Rational Examinationでこの話題があったので(JAMA. 2015;314(18):1955-1965.)
目を通したところどうやらTIMI scoreとHEART scoreが有用とのことだったので、調べてみました。


TIMI score (Thrombolysis in Myocardial Infarction Score)

・65歳以上
・リスクファクターが3つ以上
  (冠動脈疾患の家族歴、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)
・冠動脈狭窄の既往(50%以上)
・7日間以内のアスピリン使用
・24時間以内に2回以上の狭心痛
・0.5mm以上のST変化あり
・心筋マーカー(CKMB, TropT)陽性

TIMI scoreが5-7点でLR+:5.2-8.9
0-1点でLR-:0.23-0.43となっています


HEART score

【病歴】非常に疑わしい:2点 そこそこ疑わしい:1点 あまり疑わしくない:0点
【心電図】著明なST低下:2点 非特異的再分極:1点 正常:0点
【年齢】65歳以上:2点 45-65歳:1点 45歳以下:0点
【リスクファクター】3以上:2点 1-2:1点 0:0点
【トロポニン】3倍以上:2点 1-3倍:1点 正常:0点

7点以上でLR+ 7.0-24
3点以下でLR- 0.13-0.30です。


救急の場で、しっかりリスク因子(冠動脈疾患の家族歴、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)を聴取しないといけないのですね。



2015年11月30日月曜日

ベンゾジアゼピンの依存



数年間エチゾラム(デパス)を服用していた方が別の原因で入院され、依存形成が疑われたケースを経験しました。

とくに高齢者へのベンゾジアゼピン投与はBeers criteriaでも注意となっています。


頻用されることの多いベンゾジアゼピン系は以下の通り
ハルシオン、サイレース、ロヒプノール、デパス、ソラナックス
マイスリー(ゾルピデム)は非ベンゾジアゼピンですが、準じた扱いが必要です。

ベンゾジアゼピン系は常用量でも長期投与で依存が形成されます。
耐性も生じやすく増量は要注意です。
経験例の場合では、常用量の長期投与で身体的依存も形成されていました。


また急激な服薬中止は、離脱をおこすこともあります。
最悪の場合、致命的になるので、要注意です。
離脱症状は、不安、抑うつ、知覚過敏、振戦、痙攣、頭痛などがありますが、
服薬前より不眠が悪化する反跳性不眠は、長期服用を促してしまい厄介です。


高齢者では副作用も問題になります。
認知症リスクは1.5倍程度高まります。
90日以上など長期に投与するほどこのリスクが高まります。
服薬後5年以上経過してからリスクが有意になります。

また、転倒および外傷のリスクも1.5倍程度たかくなります。
新規に服用開始して14-30日以内が最も危険です。


そもそも、高齢者に対する睡眠薬の効果は明らかではありません。
少なくとも長期的な有効性についてのエビデンスは存在しておらず、
短期間の有効性も限定的です。


今回のように、デパスなど短期間作動薬で依存が起こっている場合の治療は、
長期間作動薬(マイスリー、メイラックス)に変更し
数か月かけて徐々に減薬していくことになります。


ベンゾジアゼピンの代替薬としてはロゼレムがありますが、
徐々に効いてくる薬であることを説明する必要があります。



参考文献
・いまどきの依存とアディクション 2015年
日本プライマリ・ケア連合学会誌 38(3) 228-242
UpToDate- Benzodiazepine poisoning and withdrawal




2015年11月27日金曜日

高齢者虐待part 2


NEJMに高齢者虐待のレビューが載っていました。
社会的トピックはあまり勉強する機会がないのでしっかり読まなければ。
というわけで全訳してみます。part 2をどうぞ!


Elder Abuse
Mark S. Lachs, M.D., M.P.H., and Karl A. Pillemer, Ph.D.
N Engl J Med 2015; 373:1947-1956


臨床的評価
・同定とスクリーニング
 医師は、高齢者虐待の評価と治療に慣れておらず、不快にさえ感じるかもしれない。そこには難題が待ち構えているからだ。第1には、被害者は状況を隠したり、認知機能障害により状況をはっきりと伝えることができなかったりする。第2には、高齢者の慢性疾患は多くの症状を起こすため、評価の際に偽陰性所見(骨粗鬆症のためと間違われた骨折)と偽陽性所見(身体的虐待のためだと間違われた特発的な皮下出血)のどちらも起こってしまう。これ以外にも種々の理由により、高齢者虐待とネグレクトのスクリーニングはUSPSTFでは推奨されていない。第3には、文化的言語的障壁により虐待の事実が隠されてしまうことがある。第4には、虐待が起きていると確定できるまでに数週間ないし数カ月かかることがあり、医師は虐待と確定する前に介入することが時に求められる。このような戦略が医学的なマネジメントではあまり典型的ではない。これらの複雑な要因により、Table 1に挙げた所見のうちどれか一つでもあれば、患者を含む多職種による徹底した評価を行うべきである。

・評価戦略
 高齢者虐待の被害者ないしは加害者であると疑われる者には、1人ずつ面接を行うべきである。理由は2つあり、家族や介護者が加害者である可能性があるというのと、他者がいると被害者が気恥ずかしさや罪の意識を感じて不適切な扱いを明らかにしようとしなくなりうるということである。加えて、別々に面接をすることで、身体所見に対する患者の説明と家族・介護者の説明(受傷機転など)が食い違うことがあきらかになり、虐待の疑いを強めることができる。被害者であると疑われる場合は、あまり怯えさせないように、最初のうちは直接的でない質問(家ではほっとしますか、家計を管理しているのはあなた以外の人ですか、など)を用いる。もし必要なら直接的な質問を行うが、その時は家庭内暴力の調査に準じて行い、以下のような質問をする。「家にいる誰かがあなたを傷つけますか。」「助けを必要とするときに助けを得られないことがありますか。」認知症は高齢者虐待のリスクを上昇させるのに加え、うつは高齢者では非常によくあることなので、虐待の評価の際は認知機能と気分についてしっかりと評価を行うことが不可欠である。これはプライマリケア医が行うこともあるし、精神科医、神経専門医、高齢医学の臨床家が行うこともある。
 加害者であると疑われる者の面接はこの分野に精通しているものが行うのが最良である。強く言い立てたり対立したりすると、虐待がエスカレートしたり被害者の可能性がある者が孤立したりしかねない。関連する事実が全て明らかになるまでは、医師は共感を示し価値判断を避けるアプローチをとるのがよい。患者のカルテを詳細に見返すことで、その時は見過ごされていたが後から振り返ればわかる高齢者虐待のサインを見つけることができるかもしれない。虐待が疑われる場合は、家庭訪問をするのが理想的である。医師が全例家庭訪問をするのは難しいかもしれないので、多職種が協力して被害者と介入方法の両方を評価するのが不可欠である。成人保護サービス(APS)に問い合わせると、多くは家庭訪問に繋がり、医師に事例についてさらに詳細な報告を届けることができる。
 評価戦略は、疑われる虐待の種類により異なりうる。虐待の5つのタイプの典型像と、それを疑ったときに有用な評価方法については、Table 1に示している。身体的虐待の場合は、高齢者虐待により生じたと明らかに診断できる外傷というのはなく、これは小児虐待でも同様である。法医学的研究では身体的虐待でおこるパターンがいくつか記述されており(例:高齢の虐待被害者は、虐待と関係ない高齢外傷患者と比べ、あざが顔、右腕の側面、背部・胸部・腰・臀部を含む体幹後面にできやすい)、これらの所見は臨床家が虐待の可能性をまず疑うのに有用だが、他の関連する臨床的所見や病歴をとらずにこれらの所見だけで虐待だと診断することは、医学的目的、法的目的のいずれにおいても、厳に慎むべきである。
 精神的・言語的虐待は、他の虐待の存在を意味することがあり、臨床家やスタッフが発見しうる唯一の状態となりうる。精神的・言語的虐待は、臨床像がうつや不安症をはじめとする精神的苦痛であるため、通常は投薬や精神療法の対象となるが、虐待の背景に気づきそこをどうにかしないことにはどうにもならない。
 高齢者に対するネグレクトと経済的搾取には多くの共通点があり、臨床家がその虐待を発見し評価する際のポイントとなる。身体的虐待の徴候と症状は直接観察できることが多いが、経済的搾取とネグレクトの所見は比較的わかりづらい(例:予約や処方を守れない、体重が減った、良好にコントロールされているはずの疾患で救急受診を頻回に行う)。介護者の経済状況が良い方向、悪い方向のどちらにせよ突然変わった場合(例:突然の失職、奢侈品の購入)、経済的搾取の危険があるか、既に搾取が始まっていると疑う必要があるのかもしれない。ネグレクトの場合は、ADLなどの基準に沿った機能評価を行う際に、介護者など責任のある者が患者に必要なケアを怠っていないか質問するべきである。最近の研究によると、経済的搾取は虐待の中で最も多く、気づいた時には資産がかなり減っていることが多いため、迅速な発見と介入が不可欠である。


2015年11月24日火曜日

高齢者虐待 part1



NEJMに高齢者虐待のレビューが載っていました。
社会的トピックはあまり勉強する機会がないのでしっかり読まなければ。
というわけで全訳してみます。まずはpart 1をどうぞ!


Elder Abuse
Mark S. Lachs, M.D., M.P.H., and Karl A. Pillemer, Ph.D.
N Engl J Med 2015; 373:1947-1956


 おそらくその前から起こっていたことではあるが、高齢者虐待が医学論文に最初に記載されたのは1970年代のことである。臨床的に幅の広いこの現象を分類し、効果的な介入方法を策定する試みがまずはなされたが、問題の逸話的性質を扱うのに難渋したり、疫学的に欠陥が多かったりした。しかし、ここ10年間で、高齢者虐待に関する研究の質が向上した。これは高齢者やその家族をケアする臨床科にとって福音である。高齢者に対する金銭的搾取は、初期にはほとんど追究されてこなかったが、最近では、よくみられる問題であり、注意深い医師なら見つけ出すことができるものとされている。
 長期ケアに関する研究では、高齢者に対する個人間の暴力や攻撃が高い割合で存在することが明らかになってきた。特に、長期ケア施設では、他の利用者からの虐待が職員からの虐待より頻度が多いことが分かっている。専攻や分野を超えたチームは、高齢者虐待の文脈では多職種チームと呼ばれることもあり、高齢者虐待の被害者が抱えている複雑かつ多次元のニーズや問題に対処するための介入戦略として脚光を浴びている。そのようなチームは医師にとって重要な資源である。このような新しい展開により、高齢者虐待の被害者を評価、治療し、さらなるケアにつなげることも医師の役割であると考えられるようになっている。
 本稿では、質の高い研究や最近のシステマチック研究を分析したり文献をレビューしたりすることで得られた、高齢者虐待の程度、評価、マネジメントに関する研究内容と臨床的エビデンスを要約する。

定義と有病率の推定
 高齢者虐待をどのように定義しどのような行動を定義に含めるかについての議論は、このトピックの研究の初期段階では進捗を阻害するものであった。最初の定義はあまりに広範にわたり、家庭内虐待の定義に典型的には合致しないタイプの行動(知人でない者による犯罪、年齢差別、セルフネグレクトなど)についても含めていた。しかし、この10年間で、高齢者虐待は5つに大別できるという共通認識が得られてきた。1. 身体的虐待:身体的に痛みや傷を与えようとして行われる行為、2. 精神的・言語的虐待:感情的に痛みや傷を与えようとして行われる行為、3. 性的虐待:同意のないあらゆる種類の性的接触、4. 金銭的搾取:高齢者のお金や資産を不適切に扱うことを含む、5. ネグレクト:ケアを行う責任のある者が高齢者に必要なことを行わない。(Table 1)
 以上の虐待のタイプを合算すると、どの疫学調査が報告した高齢者虐待の年間発生率も大体同じになる。これは地域に住む60歳以上の高齢者に関する質の高い疫学研究を3つ挙げることでもわかる。ニューヨークで4000人以上の高齢者を調査した研究では、高齢者虐待の割合は7.6%であった。Laumannらによる全国調査では、割合は9%であり、Aciernoらの全国電話調査では、10%である。これらの数字は過小評価の可能性がある。というのも、調査参加可能者からの自己申告による情報には、認知症患者が除外されており、認知症がある高齢者は不適切な扱いを受けるリスクが上昇するとの報告があるからである。入手可能なエビデンスを考慮に入れると、すべての高齢者虐待の割合は約10%であると推定すべきである。以上から明らかなように、高齢者をケアする多忙な医者は、気づくか否かに関わらずこのような虐待の被害者に頻繁に出会うのである。

リスクファクター
 殆どの研究が、男性より女性の方が高齢者虐待の被害を受けやすいと報告している。また、比較的若い高齢者で、より虐待(感情的、身体的、経済的虐待とネグレクト)のリスクが高くなる。考えられる理由としては、「若年高齢者」は配偶者や成人した子どもと同居していることが多く、この2群は虐待者となりやすいというのが挙げられる。生活環境を共有していることは高齢者虐待の主要なリスクファクターである。
 認知症は文献上も経済的搾取のリスクファクターであるが、これを除けば虐待のリスクを挙げる特定の疾患は同定されていない。しかし、一般的には機能障害と身体的健康問題は、原因の如何に関わらず高齢者虐待のリスクを上げることが首尾一貫して示されている。虐待の加害者となってしまう臨床的リスクファクターについてはほとんど知られていない。利用できるかぎられたエビデンスに基づくと、成人した子供や配偶者が最も加害者になりやすい。他には、男性、過去ないし現在の薬物乱用歴がある、精神的または身体的健康問題がある、警察沙汰になったことがある、社会的に孤立している、働いていないか経済的問題がある、大きいストレスに直面している場合もリスクである。

後遺症
 高齢者虐待は、明らかな外傷から被害者が感じるであろう痛みまで、多岐にわたる後遺症を招く。高齢者虐待の被害者は、罹患している慢性疾患について調整してもなお、死亡リスクが高くなることが示されている。高齢者虐待が起こる場所は施設や病院がとても多い。虐待の精神的影響にはうつや不安症などの悪いアウトカムがあるが、これらは文献上も明らかである。


2015年11月19日木曜日

鉄剤の副作用



嘔気、心窩部痛、黒色便で来院して
出血性胃潰瘍を疑ったものの結局はフェロミアの副作用と判明したケースがありました。

鉄剤も頻用されるクスリなだけに、副作用をまとめておきます。
ぱっと思いつくのは、消化管症状(腹痛、腹部違和感、嘔気など)です。
小児の鉄剤誤嚥で吐血+代謝性アシドーシスというケースを以前知った記憶があります。


フェロミアの添付文書から副作用を拾っていくと
悪心・嘔吐が最も多く5%以上。
他の消化器症状としては、上腹部不快感、腹痛、下痢、便秘、食思不振、胸やけ。
肝障害もおきることがあり、AST, ALT, ALPの上昇。
あとは稀ながら頭痛、めまい、倦怠感が起こることもある。
発疹、掻痒感などは過敏症の所見。投与を中止する。

Mayo Clinicの患者向けサイトでは、よくみられる副作用として上記の他に
背部痛などの筋肉痛、胸痛、悪心、失神、頻脈、発汗を伴う発熱、紅潮、手足のしびれ、蕁麻疹、口・喉の浮腫、呼吸困難
が挙げられています。


上述した鉄中毒については、メルクマニュアルの記述が分かりやすかったです。
UpToDateも似た様な記述でした。



薬の飲み合わせも注意です。
甲状腺ホルモンとの飲み合わせについては以前の記事にも書いてあります。
他には、キノロン、テトラサイクリン、制酸剤が注意です。


2015年11月16日月曜日

酸化マグネシウム製剤について



酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症が最近トピックになっています。
今年10月に再度の注意喚起を促す文書もだされました。
https://www.pmda.go.jp/files/000207871.pdf


UpToDateによれば、血中濃度2-2.5mEq/lで低血圧と徐脈が出現、
2-3mEq/lで深部腱反射減弱が生じるとあります。
7.5mEq/lを超えると完全房室ブロックが起こる可能性があるともあります。

腎不全患者が高リスク群であるとされていますが、
活性化ビタミンD製剤との併用も、腸管や腎臓でのマグネシウム吸収が亢進するため、高マグネシウム血症を引き起こす危険性を高くします。


また、飲み合わせで注意すべきものとしては、
カルシウム製剤や大量の乳製品との併用があります。

ミルク・アルカリ症候群は
①高カルシウム血症、②腎機能障害、③代謝性アルカローシスを3徴候とする病態です。

歴史的には胃潰瘍の治療として牛乳と重炭酸ナトリウムを同時に服用することで生じていましたが
骨粗鬆症薬の増加やポリファーマシーにより
新たに問題になるようになりました。
(古くて新しいミルク・アルカリ症候群 第6回日本プライマリケア連合学会学術大会)


加えて、ビスフォスフォネート、テトラサイクリン、ニューキノロン、鉄剤など、
同時服用により薬剤の吸収に影響を及ぼす薬剤も多いです。


レボドパ・カルビドパ製剤との飲み合わせについては、以前記事にまとめました。
レボドパ・カルビドパと酸化マグネシウムの併用


2015年11月11日水曜日

熱性けいれん(BMJ Clinical Review)


熱性けいれんのレビューがBMJにあったので要点をまとめます。
http://www.bmj.com/content/bmj/351/bmj.h4240.full.pdf


15分以内、全身性の強直間代性発作、24時間以内の再発なし、トッド麻痺なし、異常四つを満たすと単純熱性けいれんです。安心です。そうでなければ複雑性です。

単純熱性けいれんがてんかんに移行する率は低く1/40程度。結構高いと思ってしまいますが。

抗てんかん薬予防投与のベネフィットに関するエビデンスはないです。
以下のリスク因子を持ち再発が疑われる場合は、ベンゾジアゼピンをあらかじめ処方しておくことがあります。その場合、強直間代性発作が5分以上続けば親が服用させます。
・18か月以下で初発、一親等に家族歴あり、体温39℃以下で出現、発熱から発作まで1時間以内、同一の発熱疾患のエピソードで複数回、保育所に行っている

脳炎や髄膜炎を示唆するレッドフラッグは以下の通り
・ぐずつき、食事量低下、ぐたっとしているという病歴
・複雑性の基準を満たす
・大泉門膨隆、項部硬直、羞明、神経学的巣症状がある
・痙攣後の意識変容や神経学的以上が1時間以上遷延する
・あやしてもあまり反応しないのが1時間以上遷延する
・抗菌薬の投与歴がある
・ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンをちゃんと接種していない
・2歳以下では、髄膜炎でも髄膜刺激症状が出ないことがままあるので、疑ったら髄液採取。

一般的には痙攣が五分以上続けばベンゾジアゼピンの投与を考慮します。
呼吸抑制の副作用がコワイですが、挿管の必要性を増やさなかったとの報告もあり、特に重積状態になれば積極的に使う必要があります。

親へのアドバイスは以下の通り
・けがを防ぐために、周りのものをどける
・体を抑える、口にモノをいれるのはダメ。
・けいれんがおさまったら気道確保と回復位を。
・けいれんが五分以上続けば救急車を。


基本的には予後良好の疾患なので、
脳炎・髄膜炎をみのがさないことと、親への教育が大事なポイントだと思います。



2015年11月5日木曜日

再発性尿路結石のマネジメント


尿路結石の再発率は以下の通り。
ワシントンマニュアルでは、尿路結石で行うべき検査として
尿培養/pH/沈渣、血清Ca/P/PTH/UAをルーチーンでと書いてあります。

再発性尿路結石に対しては
外来での24時間蓄尿でCa/P/UA/クエン酸/シュウ酸/シスチンを測定するようにあります。

…やりすぎでは?

なお、初回の結石発作でも、画像検査で結石が複数あれば、再発性と分類するようです。


再発予防はまず食事から。
増やす:水、カルシウム、カリウム、フィチン酸(ナッツやゴマに含まれている)
ヘらす:シュウ酸、動物性たんぱく、糖類、ナトリウム、サプリのカルシウムとビタミンC

3~6か月食事制限を行っても再発する場合は、結石の成分や背景疾患を検索したうえで薬剤投与を考慮します。

カルシウム尿中排泄量減少→サイアザイド
高尿酸尿症→アロプリノール
低クエン酸尿症→クエン酸カリウム

参考:UpToDate Prevention of recurrent calcium stones in adults


2015年10月28日水曜日

アキレス腱断裂について


今週のBMJ Practiceを箇条書きでまとめます。
Acute Achilles tendon rupture BMJ 2015;351:h4722


スポーツ中に起こることが多い。通常の歩行時に起こることはめったにない。
年間発症率は2/10000

リスク因子:加齢、アキレス腱症、ステロイド服用、アキレス腱付近のステロイド注射の既往、キノロン使用

非専門医は20%を見落としている。打撲と間違われることが多い。
歩けて、つま先立ちができて、底屈の筋力が正常でもアキレス腱断裂していることがある。
見落とす理由は以下の通り。
・腱が切れる音はないこともある
・完全断裂でも1/3は疼痛を訴えない
・内出血や腫脹が軽度のことがある
・触って断裂部位が分からないことがある
・他の底屈筋がアキレス腱をカバーしてしまう

治療が遅れると予後が悪くなる。
歩くことはできても走ったり階段上がったりが難しくなる。

診断はSimmondの三徴をみる。
2つ以上当てはまれば感度100%で診断できる。
Simmondの三徴は、言葉で説明するより動画をご覧あれ。


活動性の高い患者なら手術が第一選択。
治療すれば予後良好。歩行や階段昇降は12週(中央値)後、スポーツ復帰は9ヶ月(中央値)後に可能。


少しでも疑えば、Simmondの三徴をしっかりみて、手術につなぎましょう。


2015年10月22日木曜日

薬剤誘発性巨赤芽球性貧血(NEJM Review Article)


最近、薬剤副作用関連の記事が多いですね。

今週のNEJM Review Articleをまとめます。
Drug-Induced Megaloblastic Anemia

巨赤芽球性貧血といえばVitB12欠乏ならびに葉酸欠乏ですが
栄養状態が改善した現在は、医原性の割合が高くなっているとのことです。
MCVが高いからと言ってイコール巨赤芽球性貧血ではありません。
アルコール乱用、甲状腺機能低下症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、溶血など網状赤血球数が高い場合でもMCVは高値になります。

ビタミンB12の必要量は1-2.5ug/dayと少量です。
葉酸摂取により血球異常は修飾されるので、医原性のビタミンB12欠乏は神経症状が先行することが多いそうです。
ミエロパチー、ニューロパチー、視神経萎縮、精神変化、直腸膀胱傷害などの自律神経障害に注意です。

・プリン、ピリミジン代謝阻害
抗がん剤の他には、メトトレキサート、アロプリノールなどが普段使う薬で重要です。

・葉酸吸収阻害
アルコール、抗痙攣薬、避妊薬、抗生物質がここに挙げられます。

・葉酸代謝阻害
メトトレキサートは、腸管や骨髄の前駆細胞に急速に影響を与えるので、治療開始24時間後には葉酸服用を開始すべきです。
ST合剤もこの仲間です。

・ビタミンB12吸収阻害
臨床的には、回腸粘膜が傷害されることにより引き起こることが多いです。
また、ビタミンB12は弱酸なので、アルカリ下で吸収が阻害されます。
フェニトイン(pH12)、H2ブロッカー、PPIなどが注意です。


巨赤芽球性貧血を疑う場合は
これらの薬剤が処方されていないかを確認しましょう。



ニューモシスティス肺炎の予防について


HIV患者も非HIV患者も、ニューモシスティス肺炎予防の第一選択はST合剤です。
1年半の観察で、発症予防効果がRR 0.04-0.62、死亡予防効果が0.03-0.94です。
(J Hospitalist Network Clinical Question 「PCP予防」を参照。Cochrane Database Syst Rev. 2014;10:CD005590.)。

予防レジメンは、バクタ1錠/日あるいは2錠分1隔日です。(ブログ「呼吸器内科医」)


5-10mg/dayのステロイドを数年にわたり服用している方を連続して受け持つ機会があったので
ステロイドの用量との関係について調べました。

UpToDateには、予防開始の基準として
・プレドニゾン20mg/day以上を1か月以上かつ他の免疫抑制状態となる原因がある(Grade1A)
・リウマチ性疾患でプレドニゾン10mg/day以上を1か月以上かつ他の免疫抑制薬を使用(Grade2B)
とあります。

他の見解としては、20mg/day以上を2-3週以上使用する場合で推奨(Clin Microbiol Rev. 2004 17:770-82.)、16mg/day以上を8週間以上使用で推奨(N Eng J Med 2004 350:2487-98)などがあります。

10mg/day以下または累積700mg/day以下では発症率は増えない(Rev Infect Dis. 1989 11:954-63)という報告もあります。
一方、≦5mg/dayでHR 1.5-2.0、5-10mg/dayでHR 1.7-2.7、>10mg/dayでHR 1.6-3.2とする研究(Arthritis Rheum 2006 54:628-34)もあり、悩ましいです。
(参考:レジデントのための感染症診療マニュアル)

これをみると、10mg/dayのプレドニゾンを他院で10年間投与されている患者に関しては、St合剤による予防はありかなと思います。
一方、5mg/dayのプレドニゾンを1年間飲んでいる患者は、他の要因も考慮して、予防は必ずしも必要ではないかなと思います。

患者、家族とShared desicion makingをするしかないですね。


2015年10月20日火曜日

ビスフォスフォネートを止める時期について


骨粗鬆症のスクリーニング対象群と治療開始判断基準については
この本によくまとまっています。



骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版からの引用です。



ステロイドを使用する際も、第一選択はビスフォスフォネートです。
ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年改訂版)の引用です。



ビスフォスフォネートを使用している入院患者さんで
長期投与は逆に骨折のリスクになるとどこかで読んだなと思い
ポリファーマシーということもあって
ビスフォスフォネートをやめようかなと考えたのですが
ガイドラインや上の文献にも「やめ時」の記載がなく
どうしたものかと困ったので調べてみました。

BMJ 2015;351:h3783の記載を基にまとめます。

 HORIZON-PFT studyでは、ゾレドロン酸3年間投与後に、さらに3年ゾレドロン酸を内服した群と、3年後からプラセボを服用した群をRCTで比較しています。
X線上の椎体骨折発見率はゾレドロン酸継続群で少なかった(3.0%vs6.2%)ですが、臨床的な違いはなかったという結論でした。

FLEX studyでは、アレンドロン酸を継続した群と止めた群で、椎体以外の骨折のリスクは変わらなかったが、臨床的な椎体骨折の発生率は継続群で減少した(2.4%vs5.3%)という結論になりました。しかし、FDAの分析では診療的な骨折の発生率は差がないということになったみたいです。

ビスフォスフォネートの休薬に関するRCTはこの2つだけなので、はっきりしたことは言えないのですが
BMJでは、アレンドロン酸を5年間ありはゾレドロン酸を3年間使用することで、休薬しても骨折予防効果が残るかもしれないという記載になっています。
臨床の場では、その時々の患者さんの状態に合わせて判断するように、とのことですね。
薬を始めた後に寝たりきになった、ステロイドを始めた、骨折をした、など、続けるか止めるかを判断する情報は変わっていきますからね。
そして大切なのは、始めるときに治療期間を決めることだ、とのあります。

私のケースでは、ポリファーマシーであること、寝たきりであることは休薬を支持する情報であり
治療期間がまだ短いこと、骨折新規発症のハイリスク群であることは続行を支持する情報です。
本人のADLと相談し、併存疾患の趨勢を判断しながら、相談して決めていこうと思います。


2015年10月18日日曜日

低アルブミン血症とワーファリン


低アルブミン血症のある患者さんがDVTを起こしていたために
ワーファリンを少量から開始したのですが、PT-INRが著明に延長してしまい
慌てて拮抗したという経験をしました。

以前まとめた、ワーファリンが効きすぎたら(BMJ Practice)という記事では扱っていなかったのですが
低アルブミン血症でワーファリンが効きすぎることがあります。

血中ワーファリンの約95%はアルブミンに結合しています。
アルブミンが薬物と結合する箇所は3つあり、
それぞれサイトI(ワルファリンサイト)、サイトII(ジアゼパムサイト)、サイトIII(ジギトキシンサイト)と名前がついています。

故に、アルブミンが低値であったり、他のアルブミン結合性が高い薬剤が併用されていたりすると
遊離ワーファリン濃度が高くなり、PTが延長しすぎることが起こりえます。
仮にAlb 4で遊離ワーファリンが全体の5%だとするならば、
単純計算でAlb 2だと遊離ワーファリンは全体の52.5%を占めることになりますね。

Am J Med. 2002 Feb 15;112(3):247-8.にレビューがあるみたいですが
全文が読めず断念しました。

2015年10月17日土曜日

ボルタレン坐薬による血圧低下


内科研修で担当した患者を何かの切り口でまとめたいと考えています。
薬物の有害事象がでている高齢者をみる機会が非常に多いので、その切り口で分析したら面白いかなと思っています。

腎障害のある高齢者が腎盂腎炎で発熱して
近医でボルタレンサポを投与されて意識レベル低下して…
という患者さんに出会いました。

私自身はボルタレンサポを使用する機会がないのですが
腎障害+ボルタレンで低血圧を招くとのことです。

ROCKY NOTEに詳しい解説がありました。さすが…。
ジクロフェナク坐薬と血圧低下


2015年10月9日金曜日

Bad News Telling の共通言語


Bad News Tellingについては、以下の記事にも書いています。
終末期ケアにおける患者との対話 Vol.1, Vol.2, Vol.3

Bad News Tellingを勉強する上で、共通言語となるキーワードとして
SPIKESとSHAREをまとめておきます。

参照
http://www.kcfm.jp/filemgmt_data/files/SPIKES_SHARE_20110816.pdf
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02759_01

SPIKES
1. Setting
・ プライバシーを保証するような場を設定する。
・ 患者に「その場に居て欲しい人は誰か」を確認しておく。
・ 患者が涙ぐむ場合に備えてティッシュを用意しておく。
・ 患者と家族には必ず自己紹介し、患者のケアにおける役割を明確にする。

2. Perception
・次のように質問して患者の病気の認識度を把握する。
「あなたが理解していることをお話しください。」
「あなたが主治医から聴かれたことはどんなことでしょう。」
・否認の徴候は特に敏感に感じ取る。
否認は患者が恐怖やコントロール感を失うことへの対処の一つである。

3. Invitation
・患者がどれくらいの情報を知りたがっているのかを評価する。
「あなたはたくさんの情報を知っておきたいと思われるタイプですか、それとも...」
(患者の知る権利を尊重するのと同様に、患者の知りたくない権利も尊重する)
・常に現在の情報の必要性を確認していく。
患者は診断時に多くの情報を知りたがるがこの要求は病気が進行するにつれ減少することがある。

4 Knowledge
・ 評価した患者の理解力のレベルで医学的事実、情報を提供する。
・ 警告弾を放ってから悪い知らせを予測させ、情報を提供する。
「あなたに伝えなければならないことがありますが、あまり良い内容ではないので残念です......」
・ 情報は小出しに、わかりやすく伝える。 (医学的専門用語は避ける)
・ 患者がどのくらい理解したのかを時々確認しながら、それに応じて情報提供を調節していく。
「理解できましたか?」
「私の言っていることがわかりますか?」
・「我々があなたにできることはもうありません」と絶対に言わない。

5. Empathy & Exploration
・ すべての反応に共感的に反応する。
・ 患者の感情がわからないときは、患者の考えや気持ちを探索する。
・ 患者の気がかりを確認する。

6. Summary, Strategy


SHARE

Supportive environment
How to deliver the bad news
Additional information
Reassurance and Emotional support

・基本
礼儀正しく患者に接する
患者に質問を促し、その質問に十分にこたえる

1.面談を開始する<起>
患者の気持ちを和らげる言葉をかける
病状、これまでの経過、面談の目的について振り返り、病気に対する認識を確認する
家族に対しても患者と同じように配慮する

2.悪い知らせを伝える<承>
悪い知らせを伝える前に患者が心の準備をできるような言葉をかける
悪い知らせをわかりやすく明確に伝える
患者が感情を表に出しても受け止める
患者に理解度を確認しながら伝える

3.治療を含め今後のことについて話し合う<転>
標準的治療方針/選択肢/治療の危険性や有効性を説明し、推奨する治療法を伝える
誰が治療選択に関わることを望むかを尋ねる
「できないこと」だけでなく、「できること」を伝える
患者が利用できるサービスやサポート(たとえば、医療相談、高額医療負担、訪問看護、ソー
シャルワーカー、カウンセラー)に関する情報を提供する
患者のこれからの日常生活や仕事についても話し合う

4.面談をまとめる<結>
要点をまとめて伝える(サマリーを行う)
説明に用いた紙を患者に渡す
今後も責任をもって診療に当たること、見捨てないことを伝える
患者の気持ちを支える言葉をかける


2015年10月6日火曜日

ミノサイクリンによる皮膚色素沈着


上肢と顔面が「青い」患者さんがいて
原因は何だろうとあれこれ調べていたら
長期投与(理由は不明)されているミノサイクリンの副作用に当たりました。

minocycline-induced skin hyperpigmentationで検索すれば画像がたくさん見れます。


NEJMのIMAGES IN CLINICAL MEDICINEにも取り上げられたことがあります。
N Engl J Med 2006; 355:e23



薬剤を中止したら元に戻ることも多いですが、レーザー治療などを行うこともあるようです。
(British Journal of Dermatology 1996: 135: 317-9)



Dermacase from CFP 2013-後半



以前の記事の続きです。












2015年10月5日月曜日

レボドパ・カルビドパと酸化マグネシウムの併用


舌が黒くなっているパーキンソン病の方に出会いました。
レボドパ・カルビドパと酸化マグネシウム散剤を同時に服用していたことによるものと考えました。

レボドパはアルカリ下で分解されてしまい、黒色を呈するようになります。
ゆえに、一緒にお湯で溶かしたり、散剤を混ぜたりすると失活してしまいます。

また、カルビドパはアルカリ下で瞬間的に失活します。
パーキンソン病により便秘が起こるため、薬剤の服用のタイミングには注意です。

他に、鉄剤や抗精神病薬などとの併用も注意です。

また、レボドパ・カルビドパを急に中止すると、悪性症候群が起こることがあります。こちらも注意です。

参考:http://bit.ly/1OekoH7
混ぜ合わせた時の黒くなる動画もあります。参考にしてください。


2015年10月4日日曜日

Dermacase from CFP 2013-前半


Canadian Family Physicianで以前連載されていた
Dermacaseをまとめてみました。

まずは、2013年前半分です。
参考:Fitzpatrick’s color atlas and synopsis of clinical dermatology 7th edition













2015年9月26日土曜日

リウマチ性多発筋痛症に関する推奨



リウマチ性多発筋痛症(PMR)の治療に難渋しているケースに出会ったので。


PMRの2015年版ガイドラインがA European League Against RheumatismとAmerican College of Rheumatologyの合同で出されました。

原文は以下から全文読めます。
Arthritis & Rheumatology 67(10):2569–2580

9つの推奨がなされているので、簡単に書きます。


①NSAIDsではなくてステロイドを使用する。
ただし、変形性関節症などが併存しているときに短期に併用するのはあり。

②ステロイド使用は、個々人に合わせて、必要最小限の期間にとどめる。

③初回治療ではプレドニゾン換算で12.5-25mg/dayを投与する。多すぎ、少なすぎは良くない。
糖尿病、骨粗鬆症、緑内障などの併存疾患がある場合は、上記範囲の中で少なめの用量にする。

④病勢、データ、有害事象をみながら個々人次合わせた投与計画を立てる。
A. まず4-8週以内に経口プレドニゾン10mg/dayにtaperingする
B. 再燃した場合は、滓年前の用量に戻して、4-8週かけて徐々に再燃時の量にする
C. 寛解が得られたら、4週ごとに1mg/dayずつ減らしていく。再燃したらBの通り。
 (1T1.25mgだと、10mg/dayと7.5mg/dayを交互にするなどして調整をする)

⑤経口ステロイドのかわりに筋注メチルプレドニゾロンを用いても良い

⑥ステロイドは分1で用いる。夜中になると痛いなど特別な場合はその限りではない。

⑦再発の可能性が高いときや有害事象の危険性が高いときは、ステロイドにくわえメトトレキサートの早めの導入を検討する。
メトトレキサートの用量は7.5-10mg/wk

⑧TNFα阻害薬は使用しない。

⑨筋量と機能の維持、転倒防止のため、運動プログラムを行う。


へぇーと思うことばかりでした。

American College of Rheumatologyはcommonな疾患のガイドラインをpublishしているので、機会があれば他の疾患についても勉強してみようと思います。


男性介護者の特徴



男性の介護者の特徴として
「細かいことまで没頭してしまい、他人の助けを足りない」
という方が一定数いらっしゃるなという感覚が学生時代からありました。


P. B. Harrisが1993年に発表した論文(The Gerontologist 33(4):551-556)で
男性の介護者を4つに類型化しています。
読んでいて、なるほどと思ったのでまとめてみます。
(以下の記述は、立命館産業社会論集45(1):171-188を参考にしています。)

①the worker
介護を仕事の延長線上に捉え、合理的にそつなくこなしていくタイプです。
家事や身の回りの世話など、従来のジェンダーとしては女性の役割とみなされる介護を
男性的に行うタイプであり、どちらかというとうまくいきやすいかたちです。

②the labor of love
愛情をもって介護者に接するがあまり、あらゆる時間とエネルギーを注ぎ込むタイプです。
社会的孤立が深まりやすく、言い方は不適切ですが自分で自分の首を絞めかねないです。
僕が抱いていたイメージはこのタイプですね。

③the sense of duty
介護を義務としてとらえ、可能な限り介護と自分の生活を分けようとするタイプです。
訪問診療に行っても自分の部屋から出てこない介護者とかはこのタイプですね。

④at the crossroad
介護という「予期せぬキャリア」により、自分の役割とアイデンティティをマネジメントできず、人生の方向性を失っているタイプです。
まさにライフサイクルの「岐路に立って」いる状態です。
上のタイプと比較しても、早急なサポートが必要だとされています。


2006年の日本の調査では、男性介護者の年代は70歳代が最も多く、(平均69.3歳)57.3%が通院しているため、介護と自らの健康という二重の負担がかかっている方が多いです。

また、74%が定職についていませんが、そのうちの21.6%が介護を理由に仕事を辞めています。
介護と仕事の両立が難しく経済的に困窮する危険性があるのに加えて、上記の④at the crossroadに陥りやすい方が一定数いるということです。

また、非常に変な話なのですが、同居家族がいるとヘルパーは生活援助できないことになっているため、今まで家事をしてこなかった男性介護者にもすべての家事の負担がかかってしまうことになります。


男性介護者に出会ったときに、上記のどのタイプなのだろうと考えることで
より適切な対処が取れる可能性が上がるとおもいます。


2015年9月24日木曜日

ねこひっかき病について



ねこひっかき病の患者さんがいらしたので勉強してみました。


猫による外傷部位に発赤が生じ、2週間ほどで局所のリンパ節腫脹が生じます。
主な原因菌はBartonella henselaeです。
診断は臨床的に行います。抗体検査もないことはないようですが信頼性に乏しいです。

多くは対症療法で良いそうです。自然と症状は消失します。
発熱はあるときもないときもあります。

重症例では以下のように抗菌薬を用いることもあります。
・AZM 初日500mg/day→2~5日目は250mg/day
・CAM 400mg/day 分2

局所の発赤は長いと数週間持続し、リンパ節腫脹の改善には数カ月かかることもあるため
症状がなくなるまで治療ということにはならないです。


ごくまれに、中枢神経、眼、肝臓、脾臓に感染が広がることがあります。

中枢神経系では、脳炎、脊髄炎、小脳性運動失調などが起こります。
肝脾腫を呈する場合では、末梢リンパ節腫脹は生じないため、不明熱となります。

眼病変では以下の症状が起こります。
・Parinaud眼腺症候群
 片側性肉芽腫性結膜炎+同側の著明なリンパ節腫脹

・視神経網膜炎
 急性の視力障害、視神経の浮腫、黄斑部の滲出性変化


B. henselaeは、HIV患者に感染すると、細菌性血管腫や感染性心内膜炎を生じることがあります。
USMLEの問題ではよく問われる知識ですが、やはりHIV患者が多いのでしょうか。


参考:レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版


外傷時の破傷風予防



外傷の際には破傷風ワクチンの接種を考慮します。
細かい回数や年数までは覚えていなかったので、備忘録がてら書いておきます。


まず基礎免疫について。
DPTワクチンまたは破傷風トキソイドを3回以上摂取すると、基礎免疫が獲得できる。
その後は定期的な破傷風トキソイド接種によりブースター効果で免疫が保たれる。


【Clean wound(鋭利で清潔な刃物による切創)以外の外傷】

・基礎免疫が獲得されていない又は不明な場合
 →テタノブリン筋注に加え破傷風トキソイド3回接種

・基礎免疫が獲得されている場合
 →ブースターから5年以上経過している:破傷風トキソイド1回接種
  5年未満:必要なし


【Clean wound】破傷風予防接種の好機であるととらえる。

・基礎免疫が獲得されていない又は不明な場合
 →破傷風トキソイド3回接種

・基礎免疫が獲得されている場合
 →ブースターから10年以上経過している:破傷風トキソイド1回接種
  10年未満:必要なし


参考:ここから始めよう! みんなのワクチンプラクティス ケアネットDVD 2014


2015年9月16日水曜日

甲状腺機能亢進症の症状


本日のPrimary Care Lecture Seriesのケースシェアリングカンファランスが
主訴が頻尿で、頸部痛があり亜急性甲状腺炎と診断したケースでした。

甲状腺機能亢進症で頻尿がでることを初めて知りました。
また、病棟でも甲状腺の問題が併存している方にたくさん出会います。
甲状腺結節を偶然発見→ホルモンは異常なし→エコーで結節が多発していると判明→euthyroid multinodular goiterだから安心だね(Washington Manual pp.895-896)、という流れはしばしば経験するところです。


総花的ですが、甲状腺機能亢進症のマイナーな症状についてまとめてみます。

・Plummer's nail
Plummerが記述した甲状腺機能亢進症患者の爪の変化です。
爪甲剥離、縦溝、扁平化がみられます(Ann Intern Med. 1958;49(1):102-8)。
画像はEndocrine Practice 2008;14(1):132 でみてください。

・血球異常
貧血が、女性で18%、男性で28%の割合であり、多くは正球性貧血ですが、悪性貧血が全体の1.9%でみられたという報告(Q J Med. 1978;47(185):35-47)があります。

・凝固能異常
凝固因子の異常をきたすことがあります(Eur J Endocrinol. 2001;145(4):391-6.)。
最近だと、甲状腺機能亢進症以外のリスク因子のないDVT発生の2例報告(Neth J Med. 2014;72(4):242-4.)や、甲状腺中毒症の脳静脈洞血栓症の報告(BMJ Case Rep. 2013;5:2013)があります。

・頻尿
UpToDateには、"Urinary frequency and nocturia are common in hyperthyroidism, although the mechanism is uncertain."とあります。また、小児の夜尿症については、"Enuresis is common in children."とあります。
女性尿失禁の罹患率が、甲状腺機能亢進症患者では1.60%、コントロールでは1.04%とHR1.30-1.83で有意に異なるという研究(Clin Endocrinol (Oxf). 2011;75(5):704-8.)があります。
尿意切迫、頻尿、夜尿は訴えづらい症状のため過小評価されており、甲状腺機能亢進症の治療で改善するとの論文(Postgrad Med. 1988;84(8):117-8.)もあります。


以前、亜急性発症の認知機能変動の原因として、甲状腺ホルモン正常だが各種抗体陽性で橋本脳症と診断されたケースを勉強しました。
rare presentations of common diseasesをしっかり把握しておきましょう。

参考:UpToDate Overview of the clinical manifestations of hyperthyroidism in adults


2015年9月14日月曜日

ギランバレー症候群の亜型


ここ2週間で、Bickerstaff型脳炎についての記載を続けてみたので
理解を深める機会だと思いまとめてみます。

ギランバレー症候群にはさまざまな亜型があります。

圧倒的に多いのがAcute inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy(AIDP)で、一般的にギランバレー症候群といったらこれを意味します。
進行性・対称性の筋力低下に加え、腱反射消失がみられます。

Acute motor axonal neuropathyは、AIDPと似ているところも多いですが、特徴は腱反射が消失しないこと、感覚神経が障害されないこと、運動神経が選択的に障害されること、生理検査で脱髄障害ではなくて軸索障害のパターンをとることです。
日本の若者で多く、大抵の場合はC. jejuniの感染が先行します。
進行すると、Acute motor and sensory axonal neuropathyとなります。

Miller Fisher syndromeは、外眼筋麻痺、失調、腱反射消失を三徴とします。
Bickerstaff encephalitisはMiller Fisher syndrome + 脳症を伴う脳幹炎 + 腱反射亢進です。
Pharyngeal-cervical-brachial weaknessは、口咽頭、頸部、肩の筋力が急性に低下し、嚥下困難を伴います。下肢筋力や下肢腱反射は保たれています。
この3つは、GQ1b抗体が陽性となり、IVIGが有効となります。


臨床では当然、ギランバレー症候群とそれ以外の疾患の鑑別のほうが大事だとは思うのですが
少なくともAIDPとAcute motor axonal neuropathyのイメージは持っておいた方がいいと感じました。


参考:UpToDate Clinical features and diagnosis of Guillain-Barré syndrome in adults


呼吸困難感を細分化して考える


労作時呼吸困難感で受診し、完全房室ブロックの診断となったケースを受け持ちました。
詳しく聞いたら「運動して数分で、どれだけ息を吸っても酸素が体に入っていかない感じになる」とのことでした。

心不全やCOPDの時の労作時呼吸困難感とはちがう訴えだなと思ったので、考察してみます。


そもそも、呼吸困難感とはなにか。
American thoracic societyでは、dyspneaをこのように定義しています。

“a subjective experience of breathing discomfort that consists of qualitatively distinct sensations that vary in intensity”(Am J Respir Crit Care Med 159:321–40)

大事なのは呼吸困難感は主観的な症状に過ぎない、
言い換えれば、呼吸困難感とは、末梢から呼吸感覚中枢に「もっと呼吸しなさい」という情報が異常に入力されることである、というところです。


というわけで、脳に情報を送る末梢の受容体毎に考えます。

①頸動脈小体や延髄に存在する化学受容体
動脈中の酸素・二酸化炭素・pHを感知する

低酸素血症や高二酸化炭素血症、アシドーシスで異常を感知
Air hunger(「もっと息がしたい」「酸素が足りない」)


②肺内に存在する迷走神経受容体
肺組織の膨張や収縮・肺血管のうっ血などを感知する

気管支狭窄、心不全などで異常を感知
Tightness(「息が詰まる」「胸が締め付けられる」)


③胸郭に存在する機械受容体
張力や振動を感知

COPDなど呼吸仕事量の増加で異常を感知
Work/Effort(「呼吸がつかれる」「息が切れる」)


以上のように、患者の訴える表現により呼吸困難感の原因をある程度追究できるみたいです(Chronic Respiratory Disease 3:117-22)。
もちろんそれだけに頼るのではなく、増悪因子や身体所見を総合的に判断するわけです。

「息が苦しい」→「じゃあSpO2を測ろう」→「正常値だね、気のせいだよ」というmalpracticeをしないためにも
しっかり患者さんの言葉を聞いて、SpO2に反映されない異常を感知していきたいです。


参考:JIM Vol.23 No.9 2013 「息苦しい」が主訴の時


2015年9月13日日曜日

多発性骨髄腫をいつ疑うか


貧血の精査を行い、多発性骨髄腫と診断する機会がありました。
骨髄障害であることはすぐわかったのですが、高齢でありかつ、骨痛やCa高値がなかったため、骨髄穿刺をするまで全く鑑別に上がりませんでした。

多発性骨髄腫の症状の頻度は以下の通り

貧血:73%
骨痛:58%
Cre上昇:48%
倦怠感:32%
高カルシウム血症:28%
体重減少:24%、うち半数は9kg以上減少

一つひとつの症状はそこまで頻度が高くないですね。
「貧血の精査で多発性骨髄腫」という今回のケースは十分にあり得るわけです。

貧血はもちろん正球性となることが多いですが、大球性貧血が全体の9%で見られています。
そのうち53%がVitB12<200ng/lであり、機序は明らかではないですがVitB12欠乏を一定割合で合併するみたいです。
VitB12欠乏性貧血かなと思ったら、しっかりその原因(悪性貧血など)まで追求しなくてはいけませんね。

腎障害が最初の症状となることもあるみたいです。
私の経験したケースでも、貧血進行の前に腎障害が出現していました。

上記にないものとしては、繰り返す感染症に注意です。
インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンが推奨されています。


多発性骨髄腫の定義は以下の通りです。

【必須】骨髄で形質細胞が10%以上または髄外形質細胞腫
これに加え以下のうち1つ以上当てはまれば確定。

①血清Ca>11mg/dl
②腎障害:Creクリアランス<40ml/minまたは血清Cre>2mg/dl
③Hb<10g/dl
④骨融解像
⑤骨髄内形質細胞60%以上
⑥血清free軽鎖比>100
⑦MRIで病変あり


なお、M蛋白が3g/dl以上または骨髄で形質細胞が10-60%にも関わらず、臓器障害がない状態を、くすぶり型多発性骨髄腫といいます。
年率10%で多発性骨髄腫またはALアミロイド―シスに移行するので、緊密なフォローアップが必要です。この時点では化学療法の適応にはなりません。


多発性骨髄腫はヘテロな病態の集合体であると考えられているそうで、その理由としては、化学治療をしても進行していく場合もあれば、長年経過観察しても良い場合もあるということです。

なので、ステージングが大事になるのですが、これには染色体検査などが必要になります。
非専門医では、International Staging System(ISS)を押さえておけばいいと思います。

Stage 1:β2ミクログロブリン<3.5mg/lかつ血清Alb>3.5g/dl 余命中央値62ヶ月
Stage 2:1でも3でもない 余命中央値44ヶ月
Stage 3:β2ミクログロブリン<5.5mg/l 余命中央値29ヶ月


参考:UpToDate
Clinical features, laboratory manifestations, and diagnosis of multiple myeloma
Staging and prognostic studies in multiple myeloma


2015年9月6日日曜日

悪性症候群とセロトニン症候群


救急外来で鑑別診断としてよく出てくるけどまだホンモノには出会っていないです。
起因薬剤を飲んでいる方にはよく出会うので、そのうち遭遇するかもしれません。


悪性症候群は、抗精神病薬を代表とするドパミン遮断薬を投与している患者でおこります。
初回投与でも起こりうるし、同一の薬剤を長年飲んでいても起こることがあります。
用量が少ないから起こらないというものでもありません。

以下の4症状のうち2つ以上当てはまれば悪性症候群を強く疑います。
なお、ほぼ全患者で最低でも1つあてはまります。

・精神症状(82%)
興奮・錯乱状態が多いですが、緊張病・緘黙状態となることもあります。

・筋強直
鉛管様強直~歯車様強直となったり、震戦・筋緊張亢進・後弓反張・咬痙・舞踏運動などの不随意運動が出ます。ドパミン遮断状態ですから納得です。

・高体温
38℃以上が87%、40℃以上が40%を占めます。

・心機能異常
頻脈(88%)、血圧不安定もしくは高血圧(61-77%)、頻呼吸(73%)などです。
不整脈や発汗が出ることも。


悪性症候群との鑑別が問われるのがセロトニン症候群です。
原因となる薬剤が異なるのと、症状も微妙に違います。

Hunter criteriaによると、SSRIなどセロトニン系薬剤を服用していて、以下の1つでも当てはまると診断となります。

・自発的なクローヌス
・誘発クローヌスに加え興奮または発汗
・眼球クローヌスに加え興奮または発汗
・震戦と腱反射亢進
・筋緊張亢進
・38℃以上に加え眼球クローヌスまたは誘発クローヌス


筋がこわばるのが悪性症候群
筋が過敏になるのがセロトニン症候群
というイメージですかね。


参考:UpToDate Neuroleptic malignant syndrome, Serotonin syndrome


高アンモニア血症にどう気づくか



ウレアーゼ産生菌の尿路感染症による高アンモニア血症の報告を最近よく目にする気がするので、纏めてみました。


意識障害をきたす高アンモニア血症の原因としては、やはり第1に肝性脳症が挙げられます。
他には、先天性の尿路回路酵素欠損(OTC欠損症など)ウレアーゼ産生菌感染薬剤(バルブロ酸など)があります。


肝性脳症の診断にアンモニア測定は必要ありません。
血清アンモニア値は様々な要因の影響を受けるため、変動が強いためです。
あえて言うなら、正常値の2倍以上となってはじめて診断的価値があるみたいです。

基本的には臨床診断です。
文献上の肝性脳症の定義は、"the development of clinically overt neuropsychiatric symptoms in patients with cirrhosis"とあり、肝硬変患者に神経精神症状が出れば肝性脳症です。
アルゴリズムでは、MMSEで24点未満ならその時点で肝性脳症として扱うことになっています。

肝性脳症の症状は、以下の図がすごくわかりやすいので掲載します。






問題は、肝硬変のない患者の高アンモニア血症にどう気づくかです。
特にウレアーゼ産生菌の尿路感染の場合、感染症そのものでも意識障害が起こりえます。

感染症の治療をすれば当然高アンモニア血症も是正されるので
臨床上どうしても鑑別したいというものではないのかもしれませんが
やはり目の前の意識障害患者の原因が分かっているとこちらとしても気持ちが楽です。

思いつきで恐縮ですが、呼吸性アルカローシスがあるときにアンモニアを測定する、というのは銅でしょうか。

UpToDate: Urea cycle disorder: Clinical features and diagnosisには以下の記載があります。
"Hyperventilation is thought to result from cerebral edema caused by the accumulation of ammonia and other metabolites."

感染症(特に尿路感染)が疑わしくて意識障害がある場合、とくに呼吸数20/min以上の場合は
全例血液ガスをとると思いますので、あながち無理のないプラクティスかとも思います。

尿路感染症の場合は、アルカリ尿や尿中結石の存在も傍証になると考えられます。
アルカリ尿がもっともわかりやすい所見でしょう。


参考:UpToDate: Hepatic encephalopathy in adults: Clinical manifestations and diagnosis

~Clinical Pealrs~

意識障害のある尿路感染患者で、呼吸性アルカローシスまたはアルカリ尿をみたら、血清アンモニア値を調べてもいいかもしれない。

肝性脳症の診断は臨床所見に基づいて行う。


2015年8月31日月曜日

起立性低血圧の原因



座位で血圧が急激に低下するという方がいらしたので
起立性低血圧(prthostatic hypotension)の原因についてまとめてみます。


起立性低血圧は65歳以上だと20%くらいに見られる、良くある状態です。
ただし、症状があるのは2%です。やはり症状があれば一度立ち止まる必要があります。

定義は、5分以上臥位になった後、2~5分直立して、sBP低下20mmHg以上またはdBP低下10mmHg以上、となります。

また、高齢者では、食後15~90分で血圧が下がることも良くあります。
知っておくと余計な心配をする必要がなくなるかもしれません。


原因は、自律神経障害、循環血液量低下、薬剤、その他と大別できます。
原因が分からない場合が1/3を占めるところに注意です。

まずは循環血液量低下がないか判断します。
最近の嘔吐、下痢、発熱、水分制限がないか聴取します。
血液検査と心電図は必要です。

合わせて、心不全、悪性腫瘍、糖尿病、アルコール依存症の既往歴と、以下に挙げるような薬剤歴も確認します。

自律神経障害を疑う場合は、パーキンソニズム、失調、末梢神経障害があるか、他の自律神経障害症状があるか(縮瞳/散瞳の異常、便秘の有無、勃起障害の有無など)を確認します。
感覚障害や腱反射の有無はすぐ確認できるので確認します。
バルサルバ手技で脈拍が変わるか、なども有用な診察です。


自律神経障害を起こす疾患は以下の通り。

●神経変性疾患
 ・パーキンソン病/症候群(レビー小体型認知症など)
 ・多系統委縮症
 ・真性自律神経不全

真性自律神経不全はPAFとかBradbuy-Eggleston症候群と呼ばれます。
特発的に自律神経のみ機能しなくなります。予後良好です。

●神経障害
 ・糖尿病
 ・アミロイド―シス・サルコイドーシス
 ・シェーグレン症候群などの膠原病
 ・腎不全
…などなど、典型的には遠位部の疼痛や感覚消失、勃起障害、尿路や消化管の症状と合わせて起こります。
また、ギランバレー症候群は強い自律神経障害を起こしうるので注意です。

自律神経のみを侵す疾患もあります。
nAChRに対する自己抗体ができる場合は、強い交感神経優位状態になります。
また、傍腫瘍性自律神経障害というものもあります。
家族性のものもあるみたいですが…あまりにマニアックなのでやめておきましょう。


●その他
大動脈弁狭窄症、心膜炎、不整脈、褐色細胞腫、副腎不全なんかも原因となります。


●薬剤
代表的な薬剤は以下の通り。

・アルコール

・α/βブロッカー
・利尿薬
・血管拡張薬(硝酸薬、Ca拮抗薬など)
・PDE阻害薬(バイアグラ)

・抗うつ薬、睡眠薬
・オピオイド

・抗精神病薬
・抗パーキンソン病薬

言われてみればなるほどと思う薬剤群です。
アルコールや精神科系の薬剤の見落としに注意ですね。



起立性低血圧は、将来の心血管系イベント発生のリスクとなります(HR 2.6)。
頸動脈雑音は全例で確認しておいた方がいいでしょう。
もちろん、転倒には注意です。


参考:UpToDate Mechanisms, causes, and evaluation of orthostatic hypotension


2015年8月19日水曜日

気管支拡張症について



疑う機会があったので簡単にまとめます。

種々の肺感染症が契機となって発症することが多いです。
あとは悪性腫瘍などによる気管支閉塞も契機となりえます。

数か月~数年続く咳嗽とねばっこい喀痰をみたら本症を疑います。
あとは喀血の鑑別診断の筆頭ですね。


症状の出現頻度は、咳嗽98%、毎日の喀痰78%、呼吸困難62%、鼻副鼻腔炎73%、喀血27%、繰り返す胸膜炎20%です。

女性の気管支拡張症患者における失禁の頻度は47%とのことです。
一概には言えませんが、「失禁+咳嗽」をみたら気管支拡張症を想起してもいいかもしれません。

所見では、cracklesが75%、wheezeが22%で聞こえます。ばち指を来すのは稀です。


事実上、診断はCTです。
細かいものを無視すれば、3つのサブタイプに分かれます。

・cylindrical
最も一般的なタイプです。気管支の輪切りが見えます。


・varicose
比較的まれなタイプ。


・cystic
重症。胸膜にまで広がる。二ボーが見える。



参考
UpToDate: Clinical manifestations and diagnosis of bronchiectasis in adults
American Journal of Roentgenology. 2009;193: W158-W171.
Radiopedia.org: Bronchiectasis


2015年8月18日火曜日

各種感染症検査の感度と特異度



各種感染症迅速検査について、日ごろの疑問をまとめてみました。

【ピロリ菌検査】

選択肢としては、尿素呼気試験、血清抗体検査、便抗原検査、内視鏡検査があります。
感度・特異度はどれも比較的良いみたいです。
注意点は以下の通りです。

・PPI・抗菌薬では、血清抗体検査以外の検査で偽陰性率が高くなる。
→なので検査の2週前にPPIは中止すること。
  抗菌薬は4週前に中止すること。

・最近の消化管出血の既往があると、迅速ウレアーゼ検査と鏡検で偽陰性率が高くなる。

除菌判定は、除菌後4週間以降で行います。
血清抗体検査は陰性化に1年くらいかかるので使えません。
1種の検査で陰性の時に限り、追加でもう1種検査を行うことができます。


【レジオネラ尿中抗原検査】
Legionella pneumophila1型のみを検出します。
日本ではレジオネラ感染症の50%を占めるのみなので、陰性すなわちレジオネラではないとは言えません。
重症度と関連して感度もあがるみたいです。


【肺炎球菌尿中抗原検査】
これも重症度に応じて感度が上がります。
この検査を提出するときは、肺炎の診断は付いていて、でも良質喀痰がとれないときになると思いますが、そのセッティングでの特異度は良くわからないです。
小児では特異度が低くなるみたいです。


【マイコプラズマ抗体検査】
文献的にはイムノカードマイコプラズマ抗体の感度、特異度は48%と79%で、計算すると陽性尤度比2程度です。これだけみるとあまり有用ではないのかもしれません。しかも対象は発症6日以降の検体なので、もっと早期のタイミングではさらに検査特性は悪くなるかもしれません。
なお、近くの病院の臨床検査科のデータだと、感度57%、特異度92%とのことです。これだといい感じですね。


参考:総合内科999の謎、感染症999の謎


2015年8月12日水曜日

終末期ケアにおける患者との対話 Vol.3



AAFPが発表している
Discussing End-of-Life Care With Your Patients
を自分なりに訳しています。

何回かに分けて、全文訳を載せていきます。
かなり崩して訳していますので、正確な記載はぜひ原文を確認ください。

今回で最後です。




事前指示(advance directive)について説明する

 事前指示では、患者は人生を終える際の希望を書き記すことができる。複雑だと思われている事前指示の種類についても、整理してみれば簡単である(下表参考)。内容指示(instructive advance directive)では、リビングウィルのように、自分が何をしてほしいかを書いたり伝えたりする。代理人指示(proxy advance directive)では、持続的権限移譲(durable power of attorney)に代表されるように、自分が意思決定をできなくなったときに代わりに決定してくれる人を指名する。患者の財産が複雑である場合を除いて、事前指示に法律家が関わらなくてもよい。

 事前指示について患者と話す時期は、終末期に至る前が最も良い。いつもの身体診査の間に行うのでも構わない。このように口火を切るのはどうだろう。「患者さん全員に、事前指示書について、それが必要となる前にお話しすることにしています。今まで作成してみようと思ったことはありますか?」このように言うと、事前プランニングが社会的かつ医療的に受け入れられていることであり、事前指示について考えたり作成したりしてみようとなる。


 宝物

 終末期ケアとは、最も内省的かつ脆弱なときをすごしている患者に手を差し伸べることである。死が近いと悟ると、その人の人格は著しく成熟する。この旅路にいる患者さんと共に歩むことこそ、医師が行う医業の中で最も価値のある宝物である。自分自身の死を身近にとらえ、患者との垣根を取り除くことが必要である。終末期ケアを行う医師は、患者の心に接してもいいのだ、人間として当然感じる感情を抱いてもいいのだということを知っている。

 積極的な治療を中止し、症状のマネージメントに向かうタイミングを知っているという点で、終末期のケアや教育は高貴なものである。仮にすべての病気を治癒しようと躍起になっても、私たちはいつか必ず死ぬ。患者の生命の質を少しでも良くするように奮闘すれば、たとえ死が近づこうとも、私たちはみな栄光を手にするのだ。


必読文献
・“End-of-Life Care: Guidelines for Patient-Centered Communication.” Ngo-Metzger Q, August KJ, Srinivasan M, Liao S, Meyskens FL . 2008;77:167-174.
・“Facing the Truth.” Havas NE. 2008;77:140.
・March 15 2008 のAAFPに載っている緩和ケアの記事も見るように



2015年8月11日火曜日

終末期ケアにおける患者との対話 Vol.2



AAFPが発表している
Discussing End-of-Life Care With Your Patients
を自分なりに訳しています。

何回かに分けて、全文訳を載せていきます。
かなり崩して訳していますので、正確な記載はぜひ原文を確認ください。

前回の続きです。



ホスピスでの会話を始める

 私たちが医師として行う中で最も難しいことのひとつに、患者やその家族に悪い知らせを伝えることがある。私たちにとっては、自然に死を迎えるためにややこしい議論を行うより、疾患治癒のはかない望みにかけ続けるほうがよっぽど簡単である場合が多い。しかし、賢明な医師なら、治療から緩和にいつ移行すべきか、その場合患者や家族がどれほど満足するかをよく知っている。

 終末期との診断を受けた患者は、たいていの場合その意味を理解し、医師が正直に伝えてくれたことに感謝する。医師はしばしば、患者の希望を奪ってしまったといらぬ心配はしてしまうが、誤った希望を与えるくらいなら患者のパートナーになる資格はない。「治癒」に合っていた患者の焦点を、より理にかなった目標、たとえば関係修復やイベントを見届けるなど特定のタスクを成し遂げるまでは長生きするなどの目標に向けなおすのも一考である。疼痛が伴わない死というのも目標になりうるかもしれない。生命の質と生命の量、このどちらも大事にすることは十分可能であるし、これは文献的にも明らかである。最近の研究によると、ホスピスケアを受けている患者は、積極的な治療を追求している患者より実際に長生きである。

 ホスピスや緩和ケアについて患者と話す前に、細かい実践上の注意点を慎重に考えなくてはならない。

 時間を確保する:会話を急かしてはいけない。
 空間を確保する:プライベートかつ静かな場所で、全員が着席できるところを選ぶ。
 電話の電源を切る:気をそらしたり邪魔をしたりする可能性のあるものは全て部屋に持ち入らない。

 会話それ自体についても事前に十分考えておくだけの価値がある。会話がどのように広がるかを数分でいいから考えておきなさい。自分が話すのと同じだけの時間、耳を傾けるようにしておきなさい。あなたはこれから述べるようなやりかたをしたいと思うかもしれない。

 患者の知っていることを明らかにする:まず、患者と家族が診断についてどれだけ理解しているかを明らかにしなさい。「あなたは自分の状況をどのように理解していますか」「他の医者から病気についてどのように言われましたか」といった質問をしても良い。

 患者の反応に注意深く耳を傾ける:予後について患者の感覚と自分の考えに大きな食い違いがあれば、時間をとって話し合うことになる。ゆっくりはきはき話しなさい。高齢の患者では耳が遠い可能性を敏感に察知しなさい。

 患者の目標を見つける:これが良質な緩和ケアにとっての鍵である。このためにはしっかりした傾聴スキルが必要となる。患者の目標が分かりさえすれば、あとは患者に気づいてもらう方法はたくさんある。患者の目標が緩和なら、ホスピス機関の助けを借りることは非常に価値のあることである。ホスピスで可能なことをリストアップし、患者の目標をホスピスのモデルに当てはめるのではなく、まずは患者の目標を確定して、それからホスピスが実際にできることと照らし合わせるのが良い。


終末期ケアにおける患者との対話 Vol.1



地域密着の病院で働くものの宿命として
患者さんやご家族と、お看取りについて話す機会が日常茶飯事にあります。

しっかり勉強しなくてはと思い、
AAFPが発表している
Discussing End-of-Life Care With Your Patients
を自分なりに訳しています。

何回かに分けて、全文訳を載せていきます。
かなり崩して訳していますので、正確な記載はぜひ原文を確認ください。



話し合いは容易ではない、しかし患者さんは必ず感謝してくれる


終末期ケアにおける患者との対話


 人口構造の変化に従い、家庭医療のかたちも変化している。85歳以上の人々の割合がこれほどまで急速に増加しているのは人類史上初めてのことである。今や、終末期との診断を受けてから実際に亡くなるまでに、平均して30カ月も生きなくてはならない(図は原文参照のこと)。これらがもたらす経済学的影響は、立ちくらみがしそうなほど重大である。ある研究によると、65歳を超えると、1年寿命を延ばすたびに患者(あるいは組織)は145,000ドルものお金を払わなくてはならない。しかし、医学の進歩により寿命は延びているにもかかわらず、人間の死亡率は(少なくとも私の経験では)いまだ100%のままである。


 余命を予測する

 余命を予測することは、終末期ケアにおいての最難問にあげられる。ある研究によると、医師は余命を63%も長く過大評価してしまう。プライマリケア医は、患者との関係が近いため、余命を予測するのに特に苦悩する。不幸中の幸いか、私たちを助けてくれる客観的なツールやガイドラインが開発されている。

 緩和医療行動スケールPPS(http://www.victoriahospice.org/ed=publications.html)は、機能低下がみられ始めた患者の予後を非常に正確に推定する。PPSスコアが50%以下であると、6か月以内に亡くなることが多い。余命予測の一般的なガイドラインは、米国ホスピス・緩和ケア協会のウェブサイト(http://www.nhpco.org)や、米国ホスピス・緩和医療学会のウェブサイト(http://www.aahpm.org)にもある。

 鍵となる臨床指標もまた、患者の余命を測る手助けとなる。慢性疾患のある患者で、以下に述べる基準のうちどれか1つでも当てはまれば、余命は6か月以内である可能性が非常に高い:意図せずに体重が10%以上減少する、感染症(誤嚥性肺炎、褥瘡感染、腎盂腎炎など)が繰り返し起こる、入院回数が増える、血清アルブミン値が2.5以下である、機能低下がある。

 経験のある医師にとっては、自分自身に問い直すことも有用である。「この患者が6か月以内に亡くなったら自分は驚くだろうか。」その答えがNOなら、ホスピスや緩和ケアに向けての評価をおこなう時期にきているのかもしれない。

 患者に予後を伝える方法もまた重要である。予測される残りの人生の期間を(「あなたは残り3カ月です」というように)かっちりと伝えることは、望ましくないばかりか危険ですらある。ただし、年単位より月単位、月単位より週単位で、できる限り具体的に提示することは理にかなっている。たいていの場合、患者は全ての情報を伝えてほしいと願うし、過度に楽観的な予後予測は求めていない。

 多くの医師は、死は避けるべきものであり、人生の一部として自然なものであると受容できるものではないと固く信じている。このような心持ちでいると、はじめは余命の予測を難しいと感じてしまう。しかし、疾病に対して関心を抱くのと同じように、人生の終末期に対して関心を持ち、しっかり観察するようになると、臨床的に予後を予測するスキルはあっという間に伸びていく。他の分野での臨床判断のほうが大変なくらいだ。余命について患者と話すことはつねに困難が付きまとうが、そのスキルは注意と経験によって向上させることができる。



2015年8月6日木曜日

ビタミンB1欠乏症



・拒食がある高齢者の認知機能低下の原因評価
・貧困状態で食事できていなかった方の末梢神経障害

というケースに出会いました。

どちらもビタミンB1を測定、低値であったため補充療法開始しましたが、症状は良くならず、結局別の診断がなされました。

ビタミンB1欠乏症による症状が疑わしくて、実際にビタミンB1低値でも、ビタミンB1欠乏症であるとは限らない、ということでしょうか。

ビタミンB1の生物学的半減期は10-20日。欠乏すると以下の状態を招きます。


・脚気
成人の脚気はdry beriberiとwet beriberiに分けられます。
dry beriberiでは、対称性末梢神経障害が起きます。運動と感覚どちらの神経も侵します。
多くは四肢遠位を障害します。
wet beriberiは心肥大、心筋症、心不全、末梢浮腫、頻脈も呈します。


・Wernicke-Korsakoff症候群
アルコール関連死の29-59%を占めます。
3徴は脳症、外眼筋麻痺、歩行失調です。
しかし、すべてそろうのは1/3にすぎません。
精神状態の異常だけが出ることがそこそこあるみたいですね。
生前に診断されていたのが26/131だけであったという報告もあります。
歩行障害が他の症状に先行することもあります。
血清ビタミンB1値による判断の感度、特異度が不明であり、血清値が正常でも本症を除外できなません。


・Leigh症候群
 progressive subacute necrotizing encephalomyopathyともいいます。
乳幼児に発症する神経変性疾患です。
Leigh症候群の患者でビタミンB1欠乏がよくみられます。
ただ、原因はミトコンドリア異常なので、いわゆる「欠乏症」ではないです。


参考:UpToDate
Overview of water-soluble vitamins
Wernicke encephalopathy
Hereditary neuropathies associated with generalized disorders

2015年8月5日水曜日

降圧薬、利尿薬の禁忌、慎重投与


良く使う薬は、いまのうちにしっかり勉強しておきたいです。
降圧薬、利尿薬の禁忌、慎重投与をまとめてみました。
考えたらあたりまえのことばかりですが、腎動脈狭窄疑いの人にACE阻害薬とかは踏んじゃいそうですね。

病院の採用薬中心です。簡単のため網羅性は多少犠牲にしています。


アーチスト (カルベジロール)
禁忌:喘息、アシドーシス、高度徐脈(SSS, 2-3°AV block)、非代償性心不全、肺高血圧、褐色細胞腫、妊娠
慎重投与:低血糖、コントロール不十分な糖尿病、絶食状態、栄養状態不良、糖尿病合併の慢性心不全、重篤な肝腎機能障害、1°AV block、徐脈、末梢循環障害、高齢車


エナラプリル
禁忌:血管浮腫の既往、妊娠
慎重投与:両側性腎動脈狭窄又は片腎で腎動脈狭窄、高カリウム血症、重篤な腎機能障害、脳血管障害、高齢者
※ARBも同様


カルブロック(アゼルニジピン)
禁忌:妊娠、アゾール系投与中
慎重投与:重篤な肝腎機能障害、高齢者


スピロノラクトン
禁忌:無尿、急性腎障害、高カリウム、アジソン病、エプレレノン投与中
慎重投与:心疾患のある高齢者、重篤な冠/脳動脈硬化、肝障害、高齢者
用量:50~100mg


フロセミド
禁忌:無尿、肝性昏睡、低Na・K、スルホンアミド誘導体過敏症
慎重投与:進行した肝硬変、重篤な冠/脳動脈硬化、重篤な腎障害、肝障害、嘔吐下痢、痛風・糖尿病の家族歴、ジギタリス・ステロイドの投与、高齢者


フルイトラン(トリクロルメチアジド)
禁忌:無尿、急性腎不全、低Na・K、スルホンアミド誘導体過敏症
慎重投与:進行した肝硬変、重篤な冠/脳動脈硬化、重篤な腎障害、肝障害、痛風・糖尿病の家族歴、高Ca血症、ジギタリス・ステロイドの投与、高齢者


ペルジピン注
禁忌:急性心不全において、高度な大動脈弁狭窄・僧帽弁狭窄、肥大型閉塞性心筋症、低血圧(収縮期血圧 90mmHg 未満)、心原性ショックがある、発症直後で病態が安定していない重篤な急性心筋梗塞患者
慎重投与:脳出血急性期、脳卒中急性期で頭蓋内圧亢進、肝・腎機能障害、大動脈弁狭窄症、急性心不全において重篤不整脈、急性心不全において低血圧



CIDPの亜型について



sensory dominant CIDPと診断された方がいましたので
良い機会だと思い勉強してみました。

典型的なCIDPは、比較的緩徐に進行する対称性かつ運動神経優位の末梢神経障害を呈します。腱反射が消失します。とはいえ突然悪化することもあるみたいです。
遠位筋も近位筋も筋力低下が起こるというパターンが脱髄性ポリニューロパチーの特徴です。
一方、感覚神経は遠位から近位へと障害が進行します。

CIDPはヘテロな疾患群である可能性が示唆されています。
CIDPの亜型としては以下の通り。

・Lewis-Sumner症候群
multifocal acquired demyelinating sensory and motor neuropathy(MADSAM)ともいいます。
運動神経、感覚神経の両方を傷害する多発性単神経炎を呈します。

・Sensory-predominant CIDP
感覚神経が優位に障害されます。温痛覚より振動覚、位置覚が強く障害されます。(太い神経から障害される)
平衡感覚障害、疼痛、感覚異常が出現します。
筋力低下がなくても、検査をすると伝導速度は低下しています。

・Distal acquired demyelinating sensory neruopathy(DADS)
典型的なCIDPより進行が緩徐。
IgMパラプロテインが見られることが多い。その場合、通常のCIDPの治療に抵抗性となる。

・CIDP with CNS involvement
10-20%の患者で、脳神経障害、球麻痺症状が起こる。
視神経障害、腱反射亢進、バビンスキー陽性、MRIにて中枢神経の脱髄所見などがみられる。


まとめると、古典的なCIDPの特徴は以下の通り。
 Progression over at least two months
 Weakness more than sensory symptoms
 Symmetric involvement of arms and legs
 Proximal muscles involved along with distal muscles
 Reduced deep tendon reflexes throughout
 Increased cerebrospinal fluid protein without pleocytosis
 Nerve conduction evidence of a demyelinating neuropathy
 Nerve biopsy evidence of segmental demyelination with or without inflammation

一方、これにあれはまらないものもあるということを認識しておきましょう。

もちろん、除外診断が基本になります。


2015年8月3日月曜日

三叉神経・自律神経系頭痛とその分類



群発頭痛は知っているけど、他にも似た様な疾患があると知ったのでまとめます。
総称してTrigeminal Autonomic Cephalalgia(TAC)といいます。
片側性の三叉神経領域の疼痛+同側頭部の自律神経症状(結膜充血、流涙など)を呈します。

・群発頭痛(cluster headache)
発作の持続時間:数分~数時間 頻度:8回/日

・発作性片側頭痛(paroxymal hemicrania)
持続時間:数分 頻度:40回/日

・SUNCT(short-lasting unilateral neuralgiform pain with conjunctival injection and tearing)
持続時間:数秒~数分 頻度:200回/日
他のTACで有効な酸素投与やトリプタンは効きにくい。リドカイン持続静注が有効。

・持続性片側頭痛(hemicrania continua)
持続的に数週~数か月続く


ポイントとしては、
自律神経症状があるところ
SUNCTのみ治療が異なるので鑑別が必要なところ
でしょうか。

自殺頭痛といわれるほど痛みが激しく、診断されていないことも多いので
出会ったら漏らさずすくいたいですね。


参考:UpToDate Pathophysiology of the trigeminal autonomic cephalalgias

遊走腎



「気持ちの問題」といわれる可能性の高い器質性の下腹部痛の原因として
慢性膵炎や間質性腎炎と並んで、遊走腎があります。

あまり良く知らない疾患なのでまとめてみました。


定義:臥位とくらべ立位で腎臓の高さが5cm以上あるいは2椎体以上下がる

典型例:痩せた若い女性。立位で悪化し臥位で寛解する腹部・側腹部の引っ張られる痛み

痛みの特徴:痛みは尿路結石の疝痛に似ることがある。右側で多い。開腹術を受けたことのある患者もいる。「気のせい」といわれると痛みが悪化することが多い。

他の症状
・嘔気・嘔吐:臓側自律神経の刺激による
・立位で腹部腫瘤をふれる:用手的に本来ある位置に戻すと症状良くなる
・一過性の血尿:腎静脈の機械的な進展による
・繰り返す尿路感染
・腎結石
・高血圧:RAA系の亢進による。腎動脈線維筋異形成の合併率も高い。

合併症:Dietl's crisis
尿管が閉塞して急性水腎症となる。
側腹部の激しい疝痛、嘔気、悪寒、頻脈、乏尿、一過性の血尿/蛋白尿、圧痛ある肥大した腎臓をふれる。
用手的に還納するor膝胸位になってもらう

保存的に見て改善乏しければ手術も考える。


引用文献:BJU Int. 103:296-300.


2015年8月2日日曜日

足白癬



とってもコモンな疾患です。病棟でもよく見かけます。
とはいえ、非典型的な出方をすることもあります。
足底の結節性紅斑の鑑別に上がることもあります。(South Med J. 1977 Jan;70(1):27-8.)

ネットで集めた写真をどうぞ。
(http://physio-treatment.weebly.com/foot/athletes-foot
http://healthh.com/tinea-pedis/
http://www.dermis.net/dermisroot/en/15724/image.htm
http://tundrat-zone.blogspot.jp/2010/05/fostering-patient-adherence-in.html)






急性と慢性(こちらが多い)に分かれます。
急性足白癬は、強い搔痒(時に疼痛)をともなう発赤した水疱の出現が初発症状です。
趾間や足底から生じ、足背に上がっていきます。
鑑別診断は汗疱(dyshidrosis)です。以下に写真を提示します。
(http://tundrat-zone.blogspot.jp/2010/05/fostering-patient-adherence-in.html)



慢性足白癬は、いつもよくみているアレです。
皮溝に落屑が溜まるのが特徴らしいです。
よくならない足白癬は、乾癬を疑うタイミングでもあります。


白癬が真皮にまで達すると、稀ですがMajocchi肉芽腫を形成します。
脚を剃毛する女性で起こりやすいみたいです。
健常人では局在しますが、免疫不全の患者さんだと発症、重症化のリスクが高くなります。
(UpToDate Dermatophyte (tinea) infections)



commonな疾患は、稀なPresentationも押さえておきたいですね。