2026年9月12日土曜日

持続血糖モニタリングの医療格差

 Milosavljevic J, Schechter C, Fazzari M, Mathias P, Mathew J, Agarwal S. Inequity in continuous glucose monitor (CGM) prescribing behaviors in primary care. J Gen Intern Med. 2026 Jan 13. doi:10.1007/s11606-025-09923-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-025-09923-7


背景

持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM)は糖尿病管理の標準的な治療手段となっているが、糖尿病患者の大部分を診療するプライマリ・ケアにおいて、その導入は依然として限定的である。プライマリ・ケアにおけるCGM処方に関連する要因を検討することで、糖尿病診療全体の健康アウトカムを改善するための新たな介入標的を特定できる可能性がある。


目的

11,000人以上のインスリン治療中2型糖尿病患者を診療するセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、プライマリ・ケア医(PCP)によるCGM処方に関連する要因を明らかにすること。


方法

後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、ニューヨーク州ブロンクスのセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、2020年7月31日から2023年7月31日の間に少なくとも1回プライマリ・ケアを受診した、インスリン治療中の2型糖尿病成人患者とした。主要アウトカムは、PCPによる初回CGM処方とした。多変量解析には原因別Cox回帰を用い、死亡および内分泌科によるCGM処方を打ち切りイベントとして扱った。


結果

インスリン治療中の患者11,037人(平均年齢61±14歳、女性56%、ヒスパニック系44%、非ヒスパニック系黒人39%)のうち、17%がプライマリ・ケアで初回CGM処方を受けた。月あたりの新規CGM処方率の中央値は3.1%(2.8–3.3%)であった。高齢患者、スペイン語話者、公的医療保険加入者では、CGMが処方される可能性が低かった。一方、HbA1c値が高い患者、より強化されたインスリン治療を受けている患者、および診療経験年数の長い医療者から診療を受けている患者では、人種・民族にかかわらずCGMが処方される可能性が高かった。


結論

プライマリ・ケアにおけるCGM処方率は依然として低く、若年、英語話者、民間医療保険加入者、および経験年数の長い医療者による診療を受ける患者に有利な不公平が認められた。CGM処方を増加させるためには、診療ワークフローの効率化、言語や年齢に応じたトレーニング支援、研修医教育における課題に取り組む必要がある。CGM処方における不公平に対処することは、プライマリ・ケアにおける糖尿病診療の質を高め、十分な医療を受けにくい糖尿病患者におけるアウトカムの格差が連鎖することを防ぐための重要な第一歩である。


感想

CGMは格差を助長するのではないかと疑問に思っており、自分で小規模な研究をしようかなと思っていたのですが、大規模な研究が出ましたね。どうやったら必要な患者に必要なケアが届くかという命題は常に考えなければなりません。

2026年9月11日金曜日

素敵なケースレポート

 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.70177


とても素晴らしいケア実践のケースレポート。こういうことができる家庭医になりたい。
おそらく、この患者さんがやってきた→外来担当医が勉強してケアを実践、という時系列だと思うんですよね。目の前にいる患者が自分の専門である、という家庭医の本懐を体現しています。素敵。

再発性尿路感染が患者生活に与える影響

 Glogowska M, Moore M, Hay AD, Butler CC, Hayward G. The impact of recurrent urinary tract infections in women: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 May 14:BJGP.2025.0699. doi:10.3399/BJGP.2025.0699. https://bjgp.org/content/early/2026/09/06/BJGP.2025.0699


背景

多くの女性が再発性尿路感染症(recurrent urinary tract infection: rUTI)を経験しているが、罹患した女性にとってrUTIがどのような意味を持つのかについては、十分に記述・理解されていない。


目的

女性が経験するrUTIと、それが女性の生活に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。


研究デザイン・設定

臨床的にrUTIと定義された女性を対象とした、D-マンノースに関する英国のRCTに組み込まれた質的研究。


方法

RCTに参加した32人の女性を対象に、半構造化電話インタビューを実施した。インタビューは録音し、逐語的に文字起こしした。データはテーマ分析によって分析した。


結果

女性たちは、rUTIの経験が身体的に苦痛で消耗させる症状をもたらすだけでなく、生活全般にも広範な支障を及ぼす負担の大きい経験であると語った。rUTIは人生のさまざまな段階に影響を及ぼしており、その影響には2つの側面が認められた。

内在化された影響(internalised impact)には、rUTIに対する感情的な反応、再発への恐怖、そして再発に対処できるよう常に備えておくことが含まれていた。

外在化された影響(externalised impact)には、再発を極めて警戒すること、再発が疑われるとすぐに医療機関に助けを求めること、そしてその過程で直面するさまざまな困難が含まれていた。

また、女性たちは、医療者(HCP)に相談した際の医療者側の対応が、その後の受診行動や自己評価に影響し、ときには無力感につながることを説明した。


結論

rUTIを経験することで、女性たちは自身の状態に対して警戒し、積極的に対処するようになっていた。しかし、そのような女性自身の理解や対応力が、医療者からの理解や承認によって必ずしも支えられているわけではなかった。rUTIを経験している女性が医療機関を受診した際には、臨床医はrUTIそのものだけでなく、女性が経験しているより広範な影響、すなわち内在化された影響と外在化された影響の双方を考慮することが有用である。


感想

8/17に紹介したBJGPOの再発性尿路感染症の研究と類似していますが、こちらは尿路感染が引き起こす生活全般の影響について探索しています。RCT研究と同時に行われた質的研究ですね。家庭医にとって重要なテーマだと思います。

2026年9月10日木曜日

アルコール使用障害入院患者を外来につなげる

 Bernstein EY, Hills-Dunlap K, Challapalli A, Bero L, Calcaterra SL, et al. Interventions to improve outpatient follow-up for hospitalized patients with alcohol use disorder: a systematic review. Ann Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.7326/ANNALS-26-01312. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-26-01312


背景

アルコール使用障害(alcohol use disorder: AUD)による入院は多く、重大な健康上の問題と関連している。退院後の外来フォローアップは重要であるが、入院中にどのような介入を行えば、退院後に外来治療へつなげられるのかについては明らかになっていない。


目的

AUDで入院した患者に対して、退院後の外来フォローアップを改善することを目的として、病院で実施される介入の有効性を評価すること。


情報源

複数の電子データベースを検索し、AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための介入を評価した研究を検索した。


研究選択

AUDによる入院後の外来フォローアップを改善することを目的とした、病院ベースの介入を評価した研究を対象とした。


データ抽出・統合

研究の特徴、介入内容、比較対象、フォローアップのアウトカムおよび研究の限界についてデータを抽出した。介入内容とアウトカムには大きな異質性が認められたため、結果を定量的に統合することには限界があった。


結果

17研究、合計12,000人以上の患者を対象とし、21種類の介入を評価した。17研究のうち、12研究はランダム化比較試験、3研究は非ランダム化試験、2研究はコホート研究であった。

介入の多くは、複数の要素を組み合わせたものであり、例えば、

行動カウンセリング

ケア・コーディネーション

AUDに対する薬物療法

社会的支援

電話による退院後のフォローアップ

予約のリマインダー

外来医療へのナビゲーション

などが含まれていた。

21種類の介入のうち、8種類では退院後の外来治療へのフォローアップを改善する効果が認められた。一方で、研究間で介入内容や評価方法が大きく異なっており、効果の大きさも一貫していなかった。

また、ランダム化比較試験の12研究のうち10研究は、バイアスのリスクが高いと評価された。全体として、エビデンスの確実性は非常に低かった。


限界

研究間で、対象患者、介入内容、アウトカムの定義、研究方法が大きく異なっていた。また、多くの研究でバイアスのリスクが高く、どの介入が最も有効なのかを明確に判断することは困難であった。


結論

AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための病院ベースの介入については、現在のエビデンスは限定的である。いくつかの介入では外来治療へのつながりを改善する可能性が示されたものの、研究間の異質性が大きく、エビデンスの確実性も非常に低かった。今後は、どのような介入の構成要素が退院後の外来治療への移行を効果的に促進するのかを明らかにするため、より大規模で質の高い臨床試験が必要である。


感想

効果の合った介入をまとめると、退院時に単に『外来へ紹介する』だけでは不十分で、患者の動機づけ・家族/peer支援・薬物療法と、退院後の具体的なケアコーディネーションを組み合わせることで、外来治療への接続が改善する可能性がある、と結論できそうです。単独では効果が立証されていないものが多く、組み合わせないといけないようですね。手間暇がかかります。

2026年9月9日水曜日

肺がん検診を促すシステム

 Wernli KJ, Anderson ML, Palazzo L, Luce C, Bezman N, Rogers K, et al. Health communication and stepped reminders interventions for lung cancer screening: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2026 Aug 10. doi:10.1001/jamainternmed.2026.3666. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2852476


Key Points

問い:複数のレベルに存在する障壁に対処する介入によって、毎年の肺がん検診の受診率は改善するのか?


知見:1,837人を対象としたランダム化臨床試験において、shared decision-makingに加えて健康情報を提供する介入を行っても、肺がん検診の継続受診率は改善しなかった。

一方、プライマリ・ケア医と患者の双方を対象としたシステムレベルのリマインダーによって、肺がん検診の受診率は向上した。特に、現在喫煙している患者でその効果が大きかった。


意味:プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムでは、適切なタイミングで、

プライマリ・ケア医には「低線量CTをオーダーするよう」リマインドする

患者には「低線量CTを予約するよう」リマインドする

という多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効だった。


重要性

米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force: USPSTF)は10年以上にわたり、毎年の肺がん検診を推奨している。しかし、毎年の検診を継続して受ける割合は依然として低い。


目的

ガイドラインに沿った毎年の肺がん検診の継続受診率を高めるため、患者中心の多層的な介入を2種類実施し、その効果を検証すること。


研究デザイン、実施場所、対象者

Kaiser Permanente Washingtonにおいて、プラグマティックな2×2要因ランダム化臨床試験を実施した。

2022年11月21日から2024年4月5日までに、肺がん検診を受け、画像上正常所見であった患者を対象とした。最終フォローアップ日は2025年7月4日であった。データ解析は2025年7月から12月に行われた。


介入

4群を設定した。

通常診療群

Health Communication群

Stepped Reminders群

両方の介入を行う群


Health Communication介入では、印刷物および動画による情報提供を行い、患者が肺がん検診について十分な知識を持っていないことによる障壁に対応した。

Stepped Reminders介入では、プライマリ・ケア医が肺がん検診の画像検査をオーダーできるようにするとともに、患者に検査の予約を促すアウトリーチを行った。

両方の介入は、電子健康記録のレジストリを利用するシステムレベルの肺がん検診コーディネーターによって実施された。


主要評価項目

主要評価項目は、基準となる低線量CT検査の9~15か月後に、肺がん検診として低線量CT検査または胸部CTを完了したかどうかであった。

毎年の検診対象となったすべての参加者をmodified intention-to-treat解析に含めた。肺がんと診断された場合、死亡した場合、予定より早くLDCTまたは胸部CTを受けた場合、または健康保険から脱退した場合には、その時点で追跡を打ち切った。


結果

1,837人が試験に参加した。平均年齢は66.3歳(SD 6.5)で、897人(48.8%)が女性、940人(51.2%)が男性であった。現在喫煙していた人は875人(47.6%)であった。

参加者は、

通常診療群:459人

Health Communication群:460人

Stepped Reminders群:460人

両介入群:458人

に無作為に割り付けられた。


年間肺がん検診の受診率は、Health Communication介入を受けた群では59.2%(804人中476人)であり、介入を受けなかった群の63.3%(815人中516人)より4.7ポイント低かった。相対リスクは0.93(95% CI, 0.86–1.00、P=0.04)であり、Health Communication介入による受診率の改善は認められなかった。

一方、Stepped Reminders介入を受けた群の年間検診受診率は75.5%(800人中604人)で、介入を受けなかった群の47.4%(819人中388人)より27.7ポイント高かった。相対リスクは1.59(95% CI, 1.47–1.72、P<0.001)であった。


さらに、Stepped Remindersの効果は現在喫煙している患者で特に大きかった。

現在喫煙者:介入あり73.0% vs 介入なし41.2% リスク差:32.3ポイント(95% CI, 25.9–38.8)

過去喫煙者:介入あり77.8% vs 介入なし52.9% リスク差:24.1ポイント(95% CI, 18.1–30.0)

この効果の違いは統計学的にも有意であった(P for interaction=0.03)。


結論・意義

このランダム化臨床試験では、適切なタイミングで、PCPにはLDCTをオーダーするよう、患者には検査を予約するよう促す多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効であった。

特に、プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムにおいて、このような介入は有効である可能性が示された。


感想

患者要因だけではなく医療者要因にも介入することの有用性を示した研究だと思います。

2026年9月8日火曜日

Teach-backの有効性

 Vick JB, Pace R, Klimek-Johnson P, Rushton S, Roberts M, Lewinski A, et al. Teach-back in clinical communication: a systematic review and meta-analysis. J Gen Intern Med. 2026 Sep 3. doi:10.1007/s11606-026-10678-y. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10678-y


背景

Teach-backは、医療者が患者に伝えた情報を患者自身に説明し返してもらうことで理解度を確認する、臨床コミュニケーションの方法である。本研究では、臨床コミュニケーションにおけるteach-backの有効性に関する既存研究を統合し、特に患者の知識、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスに及ぼす影響を検討した。

方法

teach-backの有効性を検討したランダム化比較試験を対象として、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。18件のランダム化比較試験を含め、teach-backが患者の知識獲得、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスなどに及ぼす影響を評価した。

結果

teach-backによって患者の知識獲得が明確に改善するというエビデンスは得られなかった。一方、teach-backは自己効力感および健康行動へのアドヒアランスを有意に改善することが示された。ただし、これらのエビデンスの確実性は低かった。

結論

Teach-backは、患者の知識獲得を改善する効果については明確ではないものの、自己効力感や推奨される健康行動へのアドヒアランスを改善する可能性がある。今後は、teach-backを日常診療に効果的かつ持続的に導入するための方法や、どのような臨床場面・患者において最も有用なのかを明らかにする研究が必要である。


感想

teach-backを臨床でしたことはないです。どうやって良好なコミュニケーションをとりながらteach-backできるかのイメージがわかないです。知識を伝授するという診療スタイルではないからかもしれません。ですが、口頭で受けた専門的な説明を患者さんがいつも理解できているとは当然思っておらず、認識の齟齬をどのように確認したらいいのかについては考えなくてはならないなと思っています。

2026年9月7日月曜日

一人暮らし高齢者の食事

 Noh HY, Seo KI, Kim KH. Differences and determinants of dietary intake according to living arrangements in older adults: a cross-sectional study using the 2019, 2021, and 2023 Korea National Health and Nutrition Examination Surveys. Korean J Fam Med. 2026 Jun 26. doi:10.4082/kjfm.25.0331. https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4893


背景

高齢者の栄養状態は、居住形態と密接に関連しており、社会的支援や食料へのアクセスを反映している。本研究では、独居高齢者と他者と同居している高齢者の食事摂取量を比較するとともに、栄養素摂取量に影響を及ぼす主要な社会経済的、行動的、心理社会的要因を明らかにすることを目的とした。


方法

2019年、2021年、2023年の韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey: KNHANES)のデータを用いた。65歳以上の高齢者を、居住形態に基づいて「独居」と「他者との同居」に分類した。食事摂取量は24時間食事思い出し法(24-hour dietary recall)によって評価した。1日のエネルギーおよび栄養素摂取量について、年齢で調整した共分散分析(analysis of covariance)を用いて群間比較を行った。また、居住形態別に、エネルギーおよび栄養素摂取量と関連する要因を検討した。


結果

独居高齢者では、他者と同居している高齢者と比較して、1日のエネルギー、炭水化物、タンパク質、脂質、カルシウムの摂取量が有意に低かった(すべてP<0.05)。

非独居群では、喫煙状況、QOL、食料の豊富さ(food abundance)がエネルギーおよび栄養素摂取量の主要な決定因子であった。一方、独居高齢者では、経済活動、喫煙状況、食料の豊富さが最も影響の大きい要因であった。


結論

居住形態は、韓国の高齢者の食事摂取量に影響を及ぼす重要な文脈的要因である。 食料へのアクセス・食料安全保障を改善し、社会参加を促進する栄養支援プログラムによって、こうした格差を軽減し、健康的な加齢を支援できる可能性がある。


感想

重要な疫学的調査だと思います。