2026年10月25日日曜日

妊婦のベンゾジアゼピン曝露

 Fung K, Sujan AC, Bateman BT, Straub L, Hernandez-Diaz S, Brill G, et al. Benzodiazepine use early in pregnancy and risk for congenital malformations. Ann Intern Med. 2026 Oct 13. doi:10.7326/ANNALS-25-05148.


背景

妊娠中のベンゾジアゼピン系薬剤の使用と先天奇形との関連について、これまでの研究結果は一致していない。


目的

妊娠第1三半期にベンゾジアゼピン系薬剤に曝露した場合の、主要な先天奇形のリスクを評価すること。


研究デザイン

米国における集団ベースのコホート研究。


研究セッティング

Medicaid(2000~2018年)およびMerative MarketScan(2003~2020年)のデータベース。


対象者

妊娠前90日から分娩後30日まで保険に加入していた妊婦と、出生後90日間保険に加入していた生児。


評価項目

曝露は、妊娠第1三半期にベンゾジアゼピン系薬剤を少なくとも1回調剤されたことと定義した。

主要評価項目は、すべての主要な先天奇形、および過去の研究でベンゾジアゼピン系薬剤への曝露との関連が報告されている臓器別の先天奇形とした。

交絡因子を調整するため、傾向スコアの細分化層別化に基づく重み付けを用い、薬剤曝露群と非曝露群を比較して相対リスクを推定した。相対リスク1.3以上を、臨床的に重要なリスク上昇と事前に定義した。


結果

公的医療保険加入者では2,478,434件の妊娠のうち51,339件(2.1%)、民間医療保険加入者では1,750,721件の妊娠のうち27,779件(1.6%)で、ベンゾジアゼピン系薬剤への曝露が認められた。

先天奇形全体の調整後絶対リスクは、曝露群と非曝露群の比較で、公的医療保険加入者ではそれぞれ4.0%と4.1%、民間医療保険加入者ではそれぞれ4.9%と4.8%であった。

両データベースを統合した調整後相対リスクは0.99(95%信頼区間0.96~1.03)であった。

臓器別の先天奇形との関連は、感度分析では一貫して認められず、用量反応関係も認められなかった。ベンゾジアゼピン系薬剤の種類別に解析した結果も、同様であった。

一部の解析では、ベンゾジアゼピン系薬剤と他の向精神薬を併用した場合、特定の臓器別先天奇形のリスク上昇が認められた。しかし、一貫した傾向は確認されなかった。


研究の限界

曝露およびアウトカムの誤分類が、非差別的に生じている可能性がある。また、解析対象は出生時に認められる先天奇形に限定されていた。


結論

複数のデータソースを通じて、先天奇形のリスクが大幅に上昇するという一貫した証拠は認められなかった。

他の薬剤との併用に関する解析結果は一貫しておらず、さらなる研究が必要である。


感想

限界はもちろんありつつも、おそらくリスクはないだろうということで、重要な研究だと思います。

2026年10月24日土曜日

乳がん早期死亡とプライマリケアアクセス

 Thomas P, Carter B, Earle CC, et al. Factors associated with early death from de novo metastatic breast cancer in Ontario, Canada. CMAJ. 2026;198(36):E1392-E1403. doi:10.1503/cmaj.260156.


背景

女性の乳がんによる早期死亡には、疾患の生物学的特性に加え、年齢、社会的周縁化、社会経済的地位、居住地域の農村性、プライマリ・ケアへのアクセスなどの要因が影響する。本研究の目的は、初診時に遠隔転移を認めることで定義される、初診時転移性乳がんと診断された患者において、早期死亡と関連する要因を明らかにすることである。


方法

カナダ・オンタリオ州の2010~2019年の医療行政データを連結して用い、集団ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。オンタリオ州がん登録を用いて、初診時転移性乳がんと診断された成人患者を特定した。主要アウトカムは早期死亡の頻度とし、がん診断から6か月以内の死亡を早期死亡と定義した。早期死亡と関連する患者、がん、および医療提供者の特性を明らかにするため、多変量ロジスティック回帰分析を行った。


結果

初診時転移性乳がんと診断された4,004人の患者のうち、22.9%(918人)が早期死亡を経験した。

オンタリオ州社会的周縁化指数のうち、世帯・住居および物質的資源の領域におけるスコアが高いことは、早期死亡と有意に関連していた。それぞれのオッズ比は1.27(95%信頼区間1.04~1.55)および1.21(95%信頼区間1.00~1.46)であった。

プライマリ・ケア医に登録していることは、早期死亡のオッズの有意な低下と関連していた(オッズ比0.74、95%信頼区間0.62~0.88)。

また、早期死亡の頻度には地理的地域によるばらつきが認められた。さらに、全身療法の開始後には、農村部に居住する患者で早期死亡が増加していた。


解釈

オンタリオ州において、初診時転移性乳がんと診断された患者の早期死亡には、社会的周縁化、プライマリ・ケア医へのアクセス、および地理的要因が関与している。プライマリ・ケア提供者へのアクセスを改善することは、これらの患者の早期死亡を減らすうえで有用である可能性がある。


感想

プライマリケアへのアクセスが予後を改善するというエビデンスの一つですね。

2026年10月23日金曜日

成人ADHD(NEJM review)

 Buitelaar JK, Newcorn JH. Adult attention deficit–hyperactivity disorder. N Engl J Med. 2026;395(15):1519-1528. doi:10.1056/NEJMcp2516040.


ADHD(注意欠如・多動症)は、世界の成人の約2.5%に認められる医学的疾患であり、生涯を通じてさまざまな形で症状が現れる。成人ADHDの患者には、不安症、気分障害、睡眠障害、物質使用障害、パーソナリティ障害などの精神疾患が併存することが多い。また、肥満、心血管疾患、脳血管疾患、1型・2型糖尿病、免疫・炎症性疾患などの身体疾患も併存しやすい。そのため、成人ADHDの患者は、精神疾患から身体疾患まで、幅広い健康問題を診療する医療者を受診する可能性がある。しかし、成人ADHDは、現在でも多くの患者で認識されず、診断に至っていない。評価にあたっては、ADHDの中核症状、併存疾患、およびそれらが日常生活の機能に及ぼす影響について、患者への面接を行う必要がある。標準化された評価尺度を活用することで、評価をより体系的に進めることができる。治療の主な要素は、心理教育と、精神刺激薬または非刺激薬による薬物療法である。多くの場合、心理社会的介入や生活習慣に関する助言を組み合わせて治療を行う。


感想

成人ADHDは、典型的な多動を主訴に受診するとは限らない、というのがポイントかなと。仕事の不調や不安、不眠などをきっかけに発見されるものだと理解しておく必要があります。

本文中には気づくきっかけとして以下の項目がありました。

仕事・学業上の問題: 先延ばし、締め切りを守れない、仕事を最後まで終えられない、計画や整理が苦手。

日常生活上の問題: 忘れ物、時間管理の困難、家事や育児の段取りが苦手。

対人関係上の問題: 相手の話を遮る、衝動的な発言や行動、感情のコントロールの難しさ。

精神症状を主訴とする場合: 不安症、抑うつ、睡眠障害、物質使用の問題など。


特に、治療抵抗性のうつ病ではADHDの併存を検討し、仕事、家庭、対人関係など複数の生活領域に支障が生じていないかを確認する必要があります。

とりわけ女性では症状が見過ごされやすいようです。

パートナーや親などから情報を得ることも大事なようです。小児期の症状を正確に思い出せないからということですが、そりゃあそうですね。


一見関係ない症状(精神症状だけでなく、糖尿病や肥満、動脈硬化性疾患など)からADHDを疑い、不注意、時間管理の困難、先延ばしなどが、複数の生活領域に影響していないかを確認せよ、ということだと理解しました。

治療は専門家との協働になるかと思います。特に慢性疾患管理の際には、特性を理解するだけでもかなり対応が変わりそうではありますね。

2026年10月22日木曜日

社会的処方は必要な人に届き、時間経過とともに効果が表れる

 Calderón-Larrañaga S, Meza-Torres B, de Lusignan S, et al. Equity and impact of social prescribing in type 2 diabetes prevention: cross-sectional and cohort study using national primary care data. Br J Gen Pract. 2026 Oct 19. doi:10.3399/BJGP.2025.0748.


背景: 社会的処方は、長期的な健康問題の予防・管理を支援するため、2019年以降、英国のプライマリ・ケアで急速に普及している。しかし、2型糖尿病予防における利用機会の公平性や有効性に関するエビデンスは限られている。


目的: 2型糖尿病の発症リスクが高い成人を対象に、社会的処方の到達範囲、利用機会の公平性、および2型糖尿病予防への潜在的な影響を検討すること。


研究デザイン・設定: イングランドの1,800か所以上の家庭医療診療所を含む Oxford-RCGP Research and Surveillance Centre の日常診療データを用いた観察研究。対象期間は2019年1月から2023年11月。


方法: 横断解析では、多変量ロジスティック回帰を用いて、2型糖尿病の発症リスクが高い成人における社会的処方への紹介と関連する要因を検討した。コホート解析では、ベースラインの共変量を調整し、紹介と新規の2型糖尿病発症との関連を推定した。サービスの導入拡大やCOVID-19による変化を考慮するため、暦年別のCox比例ハザードモデルを用いた。また、紹介からの経過時間によって関連が異なるかを探索的に検討した。


結果: 2型糖尿病の発症リスクが高い成人2,326,400人のうち、271,582人(11.7%)が追跡期間中に2型糖尿病を発症した。追跡期間の中央値は3.7年(四分位範囲[IQR]1.44~4.83年)だった。

社会的処方への紹介割合は、2019~2020年の0.3%(3,897/1,479,172人)から、2023年1~11月には2.5%(47,883/1,917,187人)へと9.5倍に増加した。

紹介は、女性(調整オッズ比[aOR]1.42、95%信頼区間[CI]1.40~1.43)、より剥奪度の高い地域の居住者(aOR 1.89、95% CI 1.86~1.93)、現在喫煙者(aOR 1.71、95% CI 1.68~1.73)、肥満のある人(aOR 1.19、95% CI 1.17~1.21)、うつ病・不安症のある人(aOR 2.52、95% CI 2.49~2.54)、多疾患併存のある人(aOR 1.45、95% CI 1.43~1.47)で多かった。

暦年別の解析では、社会的処方への紹介は、2019年には2型糖尿病の発症リスク上昇と関連していた(調整ハザード比[aHR]1.67、95% CI 1.20~2.32)が、2023年には発症リスク低下との関連が認められた(aHR 0.84、95% CI 0.79~0.89)。

紹介後の経過時間別では、紹介後0~2年では発症リスクの上昇と関連していた(aHR 1.09、95% CI 1.04~1.15)が、3年以上経過した後では発症リスク低下との関連が認められた(aHR 0.88、95% CI 0.80~0.97)。


結論:社会的処方は、健康面・社会面のニーズがより大きい人々に届いていた。2型糖尿病発症リスクの低下との関連は、COVID-19後にサービスが成熟するにつれて、また追跡期間が長くなるにつれて現れていた。この結果は、サービスへの継続的な参加が関係している可能性を示唆するが、実際の利用状況に関するデータは得られていなかった。


感想

必要な人に届いている点と、時間経過とともに効果が表れる点を示しているのが白眉だと思います。

2026年10月21日水曜日

診療所における患者からの暴力

 Chou S, Tyrrell E, Rowe E, Bryant J. Experience and impacts of violence and abuse by patients and the public towards general practice staff: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Oct 19. doi:10.3399/BJGP.2025.0685. https://bjgp.org/content/early/2026/10/16/BJGP.2025.0685


背景

家庭医療診療所では、総合病院の診療現場と比べて、患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為が多く発生している。しかし、医療スタッフがこうした行為をどのように経験し、どのように受け止めているかについて、幅広さと深さの両面から検討した質的研究は限られている。


目的

家庭医療診療所のスタッフが患者や一般市民から受けた暴力や虐待・迷惑行為について、直接的・間接的な経験を明らかにし、それらがスタッフのウェルビーイングや診療所の業務に及ぼす影響について、スタッフ自身がどのように認識しているかを探ること。


研究デザイン・設定

イングランド全土を対象としたオンライン全国調査に続いて実施された、混合研究法プロジェクトの第2段階にあたる質的研究。全国調査の終了時に、参加者にインタビューへの参加を依頼した。


方法

2023年8月から12月にかけて、半構造化インタビューを実施した。参加者の特性、暴力や虐待・迷惑行為の経験、職場での安全感や支援に関する認識を記述するため、全国調査の量的データも抽出した。インタビューは逐語録にし、フレームワーク・アプローチに基づいてテーマ分析を行った。


結果

家庭医療診療所のスタッフ23人が参加し、女性17人、男性6人だった。15人は非臨床職、8人は臨床職に従事していた。

以下の6つのテーマが特定された。

直接的なやり取りを通じた暴力や虐待・迷惑行為

直接的なやり取り以外の場面で生じる暴力や虐待・迷惑行為

リスクの増大

個人への影響

職業上の影響

ケアや医療サービスへの影響


結論

患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為には、幅広い行動が含まれる。スタッフには深刻な影響が及び、場合によっては長期にわたって、安心して働けないという感覚が持続したり、私生活や社会生活に支障が生じたりする。

また、スタッフの離職や、提供できる医療サービスの縮小を通じて、臨床サービスにも影響が及んでいる。


感想

興味深いテーマだったので全文読んでまとめました。

最も頻繁に報告されたのは言語的暴力(怒鳴る、罵る等)。受付事務にとって日常的な経験。

性的な嫌がらせ、人種差別、トランスジェンダーへの差別なども

執拗な電話や苦情、SNSでの中傷、ストーキングなどの直截的ではない被害も

心理的影響は長期化し、仕事以外の生活にも及ぶ

深刻な脅迫やストーキングは特に強い不安を招く。トラウマに類似する症状も。

職場の近隣で加害者と遭遇することへの不安から、仕事以外での外出や地域との関わりを避けるスタッフもいた。

被害対応、警察への連絡、苦情への返答などにより、特に診療所管理者の業務負担が増える。

暴力や迷惑行為を「仕事の一部」として受け入れる傾向があり、被害を受けて心理的に傷つくこと自体を恥ずかしく感じるスタッフもいる。

長期的な被害は休職や離職意向につながり、経験豊富なスタッフの退職、新人教育の負担、残った職員へのさらなる負荷という悪循環を招く

医療の質や患者へのケアにも影響する。暴力への対応により他の患者への対応や診療所の改善活動に使える時間が減る。

暴力を避けるため、医療者がエビデンスや専門的基準に沿わない対応をせざるを得ない場合があり、道徳的傷つきが生じる。

暴力や威圧的な行為を目撃した待合室の患者も、恐怖や精神的苦痛、身体的危険にさらされる。


さらにまとめると、以下の5つの点になると思います。

患者から罪悪感を刺激するような言動を受けることで、受付スタッフが自分の対応に自信を失う。

暴力を回避するために専門職としての基準を妥協することが、道徳的傷つきにつながる。

受付スタッフが被害を受ける姿を見た臨床職にも、罪悪感が生じる。

家庭医療診療所では職員と患者が同じ地域で生活することも多く、職業生活と私生活の境界が侵食される。

暴力を目撃した患者にも被害が及び、スタッフにはその安全を確保する負担が生じる。

2026年10月20日火曜日

プライマリケアにおける緩和ケアのQI

 Cunha V, Sidhu R, Gonzalez Pallares K, Englesakis M, Tripodoro VA, Pereira J, et al. Mapping quality indicators for primary care-based palliative care: a systematic review. BJGP Open. 2026 Sep 8. doi:10.3399/BJGPO.2026.0229.


背景

生命を脅かす疾患を抱える人々に対して、プライマリ・ケアに緩和ケアを組み込むことの重要性がますます認識されている。しかし、既存の緩和ケアの質指標(quality indicators:QIs)が、プライマリ・ケアの現場にどの程度適しているかは、依然として明らかでない。


目的

プライマリ・ケアで提供される緩和ケアに関連する質指標を特定し、体系的に整理・分類するとともに、その質を評価すること。


研究デザイン・設定

プライマリ・ケアを基盤とする緩和ケアに適用可能な質指標を記述した研究を対象とするシステマティックレビュー。


方法

MEDLINE、Embase、Cochraneデータベース、Global Index Medicusを対象に、各データベースの収載開始から2024年7月までの文献を検索した。緩和ケアとプライマリ・ケアの両方に関連する質指標を記述した研究を適格とした。

指標は、Donabedianの枠組みに基づいて「構造」「プロセス」「アウトカム」に分類した。さらに、National Consensus Projectの緩和ケア領域、およびWHOのプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)測定・改善フレームワークに対応づけた。また、Appraisal of Indicators through Research and Evaluationという評価ツールを用いて、指標の質を評価した。


結果

22件の研究が適格基準を満たし、関連する質指標381項目が抽出された。

指標の大部分はケアのプロセスに関するもので(64.8%)、構造に関する指標は27.6%、アウトカムに関する指標は7.6%だった。

緩和ケアの指標は、PHCの領域のうち、継続性、連携、患者中心性、ケアの有効性に集中していた。一方、心理社会的、スピリチュアル、文化的な領域を扱う指標は少なかった。また、ガバナンスや集団の健康に着目したアプローチなど、PHCの構造的なシステム要素を捉える指標もごくわずかだった。

指標の方法論的な質は、目的の明確さについては最も高かったが、利害関係者の関与についてはばらつきがあり(28~94%)、実装のための具体的な指針については低かった(17~65%)。


結論

現在の緩和ケアの質指標は、ケアのプロセスに重点を置いており、プライマリ・ケアを基盤とする緩和ケアの幅広い側面を十分に反映できていない可能性がある。特に、患者中心のアウトカムや、心理社会的、スピリチュアル、文化的な領域が十分に捉えられていない。

今後は、プライマリ・ケアの実践に特化した質指標を開発し、その妥当性を検証する必要がある。


感想

QI開発のためのSRという位置づけでしょうか。着眼点がいいなと思います。

2026年10月19日月曜日

処方カスケードはどう起こるのか

 Gilmore S, Doherty AS, Moriarty F, et al. Prescribing cascades, associated patient characteristics, and health-care utilisation in older community-dwelling adults in Ireland: a retrospective, observational cohort study. Lancet Prim Care. 2026 Sep 14;2(9):100206. doi:10.1016/j.lanprc.2026.100206.


背景

ある薬剤の副作用を治療するために別の薬剤が処方される「処方カスケード」については、研究が限られており、問題のあるポリファーマシーに及ぼす影響も十分に検討されていない。この問題は、処方の大部分が行われ、処方カスケードが見過ごされる可能性のあるプライマリ・ケアにおいて、特に重要である。本研究では、一般診療所を受診する高齢者を対象に、処方カスケードの発生率、関連する患者特性、およびその後の医療利用との関連を検討した。


方法

本研究は、後ろ向き観察コホート研究である。アイルランドのダブリンにあるRCSI医科健康科学大学が保有する、Health Research Board(HRB)プライマリ・ケア研究センターの一般診療所コホートの電子診療録データを用いた。2011年1月1日から2016年6月30日までに、アイルランドの参加一般診療所44施設で得られたデータを用い、ThinkCascadesで定義された薬剤の組み合わせ(dyads)に基づいて処方カスケードの発生率を調べた。対象は、65歳以上で、少なくとも2年間のデータが利用可能な成人とした。


主要アウトカムの分析には、以下の条件を満たす患者を組み入れた。

- 薬剤A(ThinkCascadesで定義された薬剤ペアのうち、最初に処方される薬剤)を新規に処方されていること。

- 診療所に継続的に通院している患者であること。

- 薬剤Aの初回処方日から少なくとも1年間の追跡データがあること。


一方、指標日(薬剤Aの初回処方日)前の365日間に薬剤B(薬剤ペアの2番目の薬剤)が処方されていた患者、または薬剤Aの開始時点以前に薬剤Bによる治療の適応となる疾患の診断が記録されていた患者は除外した。

各ThinkCascades薬剤ペアについて、追跡開始後60日、180日、365日以内に薬剤Bが新たに処方されることを主要アウトカムとし、95%信頼区間(CI)を伴う累積発生率として報告した。

また、処方カスケードの累積発生率(1つ以上の処方カスケードが発生した場合と、発生しなかった場合)と患者特性との関連を、ロジスティック回帰モデルで検討し、オッズ比(OR)と95%信頼区間を算出した。


結果

HRBプライマリ・ケア研究センターの一般診療所コホートにおいて、65歳以上でデータが利用可能だった32,424人を研究対象として評価し、そのうち12,864人が組み入れ基準を満たした。対象者の平均年齢は71.8歳(標準偏差7.9)で、女性は7,303人(56.8%)、男性は5,558人(43.2%)、性別データが欠損していた人は3人(0.1%未満)だった。

365日以内に、ThinkCascadesで定義された薬剤ペアのいずれかで処方カスケードが発生した割合は3.2%(12,864人中416人)だった。分析対象となった8種類の薬剤ペアで、365日間に発生した373件の処方カスケードのうち、252件(67.6%)は180日以内に発生していた。

高齢であることは、処方カスケードの発生と関連していた(12,841人中416件、調整OR 1.02、95% CI 1.01–1.04、p=0.0013)。一方、性別、医療保障の種類、多疾患併存、および使用した薬剤の種類数と、処方カスケードの発生との間には有意な関連は認められなかった。


解釈

2011~2016年にアイルランドの一般診療所を受診した高齢者において、処方カスケードの発生は比較的まれだった。しかし、高齢者における回避可能な問題のあるポリファーマシーの一因となり得る。プライマリ・ケアを受診した高齢者に新たな症状が認められた場合、特に新規薬剤の開始後には、鑑別診断の一つとして薬剤有害反応を考慮すべきである。処方カスケードの多くは初回処方から6か月以内に発生していたため、この時期は、不要となった可能性のある薬剤を特定し、適切な場合には減薬・中止を行うことで、高齢者の薬物療法を最適化する機会となる。


感想

処方カスケードは、多剤併用の薬剤数だけを見ていてもわからないという点と、約3分の2が初回処方後6か月以内に発生している点が、重要なポイントだなと思いました。