2020年1月20日月曜日

3か月の入院担当ケースを振り返る


昨年10月から,専攻研修の基幹病院(80床程度のcommunity hospital)で,主に病棟・救急を担当しています.
多岐にわたる問題を片っ端から受け持っていたような感覚があるので
その感覚が果たしてどれだけ正当なものなのか
10月から12月の3か月で受け持った入院ケースを順不同で書き出します.

不明熱→ウイルス感染症
肺炎によるCOPD急性増悪,経過中にCPPD関節炎,胆管炎,緑膿菌感染を続発
出血契機の肝性脳症,身体障害者申請
フレイル高齢者の独居生活限界事例
肺塞栓症,在宅支援環境調整
終末期心不全緩和ケア
severe sepsis→日本紅斑熱のsnap diagnosis
虚血性腸炎
Bochdalek孔ヘルニアによる誤嚥性肺炎
肺炎によるアルコール離脱
アルコール性急性肝炎,complex case
細菌性肺炎,地理的理由で入院
脊椎デバイス感染症
消化管出血→大動脈結腸瘻
薬物過量内服
癌性疼痛緩和ケア
肺炎によるseptic shock
側頭動脈炎
高齢者の意識障害→尿路感染症
リウマチ患者の発熱→両側腎膿瘍
高齢者の片麻痺→尿路感染症
発熱+皮疹→薬疹
COPD急性増悪+心不全急性増悪(CS1)
急速に進行した心不全→終末期ケア
急性膵炎→膵炎後の感染
心筋梗塞除外目的の経過観察
失神→Mendelson症候群
腎盂腎炎
癌性潰瘍の感染
憩室炎
熱源不明の細菌感染症
誤嚥性肺炎→原因が脳出血
熱源不明の細菌感染,横紋筋融解
腎盂腎炎による敗血症性ショック
重症肺炎→人工呼吸器管理
窒息→ROSC→社会復帰
腸炎,脱水
癒着性イレウス
心不全,肺炎,胆嚢炎→集中治療
精神疾患患者の意識障害→前立腺炎
腎障害+貧血精査
抑うつによる食事摂取拒否
早期閉鎖型大動脈解離
肺炎+心不全
特発性細菌性腹膜炎
尿膜管膿瘍
社会的孤立→横紋筋融解症
腎盂腎炎+COPD急性増悪
RS3PE症候群
誤嚥性肺炎
敗血症性ショック→腸腰筋膿瘍
肝性脳症
COPD急性増悪
急性胆管炎
肺炎+心不全
憩室出血
心不全急性増悪(CS2)


commonなものから比較的rareなものまでありますね.
重症度も様々です.
実際には,疾患の治療だけでなく,心理社会的アプローチや家族志向型ケアも同時に行っているので,病名リストを眺めるだけでは分からないことは多いです.

小さい病院だからこそ,いろいろできて楽しいです,というお話でした.


2020年1月13日月曜日

症例報告:Rumpel-Leede試験陽性のパルボウイルスB19感染症


American Journal of Medicine誌に症例報告が掲載されました!
Parvovirus B19 Infection with Positive Rumpel-Leede Sign.

パルボウイルス感染症では,gloves and socks syndromeが特徴的ですが,
さまざまな点状出血を呈することが知られています.
パルボウイルス感染症による点状出血をまとめた概念として.
Parvovirus B19-associated purpuric-petechial eruptionが提唱されています.

本報告は成人のパルボウイルス感染でRumpel-Leede試験が陽性になったというものです.
数日前から発熱,全身痛,全身リンパ節腫大,様々な皮疹が出現しており,四肢末端の浮腫も起こったため来院したというものです.
来院時には皮疹は消褪していましたが,血圧測定により紫斑が出現しました.

他のウイルス感染症との類似性を指摘したうえで,
すでに報告されているPBPPEとの異同を議論し,
全身症状+皮疹消褪後の紫斑出現ではパルボウイルス感染を考慮すべきであると主張したものです.

是非ご一読ください.


2020年1月6日月曜日

特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(腹水検査の解釈)


引き続きSBPについてです.

腹腔穿刺の閾値を下げたほうが良いことは分かりました.
次に知るべきは,腹水検査の解釈の方法です.


腹水白血球500/ul以上または好中球250/ul以上でSBPの診断になります.
グラム染色は陰性でも不思議はありません.
培養を取る際は血液培養ボトルに10ml以上の腹水を入れるようにします.それで感度は8割近くになります.(当然血培も提出します,感度75%程度らしいです).
もし培養が複数陽性になれば,二次性の可能性が極めて強くなります.


好中球250/ul以下でも,培養が陽性になることがあるようです.
これをmonomicrobial nonneutrocytic bacterascites(MMNNB,またはMNB)といいます.
長いので細菌保有腹水(bacterasictes)でいいと思います.
MMNNBやMNBといっても,専門医でない限り通じないでしょうし.

自然軽快する例もあるようですが,SBPに移行する例もあり,臨床的な判断が必要です.
SBPを疑って検査した場合は治療対象とし,初発の腹水などで特にSBPを念頭に置いて検査していないのであれば時間を空けて再検査,でよいと思います.
臨床症状のないMNBのうち,SBPに進行するのは15%である,という疫学が役に立つかもしれないです.

培養の結果が出ておらず,臨床的にSBPが疑わしいけど好中球は250/ul以下,ということしかわかっていない時点では,やはり治療を開始すべきでしょう.
もちろん他疾患の除外は必要です.


上記の培養の感度をみれば,好中球はいるけど培養陰性というケースは容易に想像されます.培養陰性好中球性腹水(culture-negative neutrocytic ascites:CNNA)といいます.
うち1/3で血液培養が陽性になるようです.やはり血培は大事ですね.
CNNAのなかには,単純に培養が出なかった一般的なSBP群の他に,
結核,淋菌,クラミジアなどの感染や,膵炎,腹膜がんなどが混じってきます.
細胞診,腹水アミラーゼ,腹水ADA,抗酸菌培養,抗酸菌塗抹などの提出が必要ですね.


また,誤って腸管を刺すと,好中球<250/ulだけど複数菌が検出される,という結果になることがあります.polymicrobial nonneutrocytic bacteriascites(PMNNB)といいます.腹水蛋白が1g/dl以上あれば,二次性腹膜炎に進展せず自然改善が得られる可能性が高くなるようです.


まとめると
・腹水白血球500/ul以上or好中球250/ul以上ならSBPとして治療
・グラム染色が陰性のSBPは珍しくない
・培養結果未着で好中球250以下でも臨床上疑わしければSBPの治療を開始する
・好中球250以下で培養陽性なら,臨床上疑わしければSBPとして治療.無症状なら経過観察し,時間を空けて再検査
・好中球250以上で培養陰性なら,SBPとして治療しつつ,結核・膵炎・悪性腫瘍の精査
・腸管の誤穿刺で,好中球250以下で複数菌検出という結果になることがある


2019年12月30日月曜日

特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(診断,予防,ピットフォール)


前回に引き続き,SBPについてまとめます.

臨床診断(どうやって疑うか)について.
プライマリケア医として最大の関心ごとの一つです.

腹水+発熱+腹痛なら,SBPの想起は容易ですが,最も頻度の高い臨床症状である発熱であっても,出現するのは最大80%とのことです.
腹痛などの腹腔内感染の所見が全くないこともあるようです.
嘔気嘔吐,下痢,低体温,低血圧,腎機能障害,脳症などで発症することがあります.

初診の腹水貯留は必ず腹水検査を行うというのは基本的なプラクティスだとおもいます.
あわせて,既知の肝硬変,腹水がある患者で,少しでもSBPを見落とさないようにするためにどうすればいいか考えてみました.

発症の契機がわからない脳症で疑う
(以前から肝性脳症があって,排便コントロール不良で発症,とかいう状況では不要だとおもいますが,肝性脳症を起こす切っ掛けとしてSBPを鑑別に入れておく)
原因不明の腎機能障害で疑う(SBPは肝腎症候群を起こす)
低体温,低血圧で疑う(一般的な感染症診断と同様ですね)
・少しでも消化器症状があれば疑う(嘔気嘔吐,下痢など)
消化管出血があれば疑う(SBPが静脈瘤出血の原因になることもある.上部消化管出血は20%でSBPを合併する)
・突然腹水が増えたら疑う

とにかく腹腔穿刺の閾値をさげるべきですね.
いまDICをおこしているとかなければ,血小板が低くてもPTが伸びていても,比較的安全に穿刺できます.血小板輸血などは不要というコンセンサスになっています.


あわせて,予防について.
こちらもプライマリケア医として関心が高いです.

一次性SBPは,消化管出血,PPI使用,腹水中蛋白低値(∵オプソニン活性低下)などが発症リスクです.
まず,上部消化管出血後7日間は,CTRX1g q24h divを行います.
経口摂取可能ならLVFXやCPFXでもいいとあります.

その他,腹水蛋白<1.5g/dlなら1次予防の利益があるかもしれません.
SBP発症後の2次予防はベネフィットがより高そうです.
投薬するなら,ST合剤を1日1錠,またはLVFX 250mg/day or CPFX 400mg/dayです.

ただし,予防については,現状エキスパートオピニオンであるようです.
(PMID: 31304804,23463403など参照)
併存症や予後などを考えながら,その都度判断するほかなさそうですね.


2019年12月23日月曜日

特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(治療)


最近出会ったのでまとめます.
「肝硬変による腹水がある患者の発熱は,そうでないとわかるまでSBPと思え(=腹水を採取せよ)」というクリニカルパールがあります.今回もこのパールに助けられました.

肝硬変患者の発熱の25%がSBPらしいです.
そしてアルコール性肝硬変+腹水で入院中の患者の10%で発症するそうです.
アルコール性を含め,肝硬変の患者さんを診る機会が多い環境なので,今一度勉強し直します.

こういうとき,日本語の良質な二次文献がたくさんあるので,有難いです.



まず,治療についてまとめます.

一次性SBPはほとんどが単一菌種で,60%がGNR(E.Coli, Klebsiellaなど),そのほかは腸内GPC(Streptococcus, S. pneumoniae, Enterococcus)です.
後述しますがGram染色で菌体が見えないことが多いので,エンピリックにはGNR+GPCをカバーします.教科書にはCTXやCTRXが1st choiceと書いています.キノロンの選択肢も記載がありますが,今の日本の耐性菌の状況や,万一の結核性を考えると,自分は使う気にはならないです.
入院患者などではESBL産生株や緑膿菌をカバーせよとありますが,よほど疑わしい状況か状態が悪いのでなければあまりに広域なのはどうかなと思います.ESBLカバーを考えるならCMZでいいのではとも思いますが記載はないですね.ABPC/SBTなどのβラクタマーゼ阻害薬配合薬は,耐性株のS.pneumoniaeに気をつけろと書いていますが,E.Coliの耐性も心配になります.
もちろん,培養が出ればde-escalationしますが,培養陰性もそこそこある(後述)ので悩ましいです.

適切な抗菌薬を使用すれば2-3日で臨床状況に反応がみられるとあります.
最近は短い投与期間が推奨されているからか,期間は5日間という記載が目立ちます.ただ,診療状況がしっかり改善していることが前提です.致死性の経過をたどることも多い疾患なので,すっきりいかない場合は従来の10-14日間投与がよいのではと思います.
ただ,再発が多い(再発率は1年で70%!)ので,あまり長々抗菌薬を投与すると,耐性菌のリスクが上がってしまいますね.

抗菌薬治療の他には,アルブミン投与に生存率改善効果が報告されています.
全例必要というわけではないようで,血液検査で適応を判断する推奨もありますが,そこはケースバイケースで判断すればよいように思います.
あとは,もしPPIを飲んでいたらやめる,とかでしょうか.


診断,予防,ピットフォールについては次回まとめます.


2019年12月16日月曜日

指導者の12の役割(後半)


後半です.

・評価者
評価,試験は,教師の役割と切り離すことができるため「良い教師ではあるがよい評価者ではない」という事態が起こりえます.ただし,評価がないと学習者が目標を達成できたのか,何が必要なのかを示すことができません.また,学習者からすれば評価は避けられないものであり,質を担保する必要があります.
カリキュラムも評価する必要があります.自身の指導の質を評価するという意味でも必要です.学習者からのフィードバックが評価には不可欠です.

・計画者
指導者はカリキュラムを計画する役割があります.学習アウトカムが何で,それをどのようにすれば実現できるのかを考える必要があります.その際に,評価法や教育環境の整備についても議論する必要があります.
カリキュラムを実際に走らせるコースの計画も必要です.

・教育資源の開発
教材作成も必要とされる役割です.教材開発を通じて,新しい学習環境をつくることもできます.個人的な例だと,CSAのシナリオつくりや,SDH教育のためのツール作成などに携わっていますが,これも指導者の役割なのですね.
教材と同様に,学習ガイドの作成も必要です.


この3×2=6つの役割は,いままで自分で意識したことのなかったものでした.
とくに評価は,確かに必要ですよね.いままで学習者の評価はあいまいになっていたと我が身を振り返って思います.

これらの役割は独立しているものではなく,相互に影響しています.同時に複数の役割を果たすことも稀ではありません.

指導者の役割を認識する意義についても多く論じられていますが,特に「教育の文化を構築する」という意義を強調するべきだと思います.
特に,原理的に教育のために最適化されていない環境である臨床現場では,学習者は全ての経験から学び取るわけですから,教育的な文化の醸成はとても重要だと思います.
このあたり,Experiensed-based learning(ExBL)の論文も読んでみたいです.



2019年12月9日月曜日

指導者の12の役割(前半)


日本プライマリケア連合学会が企画した,英国家庭医療学会(RCGP)指導医を招いての講習会(Training the trainer: TTT)に参加しました.
https://www.rcgp.primary-care.or.jp/

とても学びの多い一週間だったので,このブログでもつらつら振り返ろうと思います.
ただし,講義や議論の内容をそのまま転載するわけにはいかないので,
一般的なトピックや,追加で自己学習して深めたことを中心に書きます.

今回は,指導者(教師)の役割について.

HardenとCrosbyが2000年に提唱した,12の役割が有名どころですね.
"The good teacher is more than a lecturer - the twelve roles of the teacher"と題された,AMEEの医学教育ガイドNo.20の論文で紹介されています.


・情報提供者
レクチャーをする,というのは最も理解しやすい指導者の役割ですが,この部面においてもなお,一方的な知識の伝達という理解ではもはやダメなようです.
双方向性を保ちつつ,熱意が伝わり学習者の意欲を駆り立てるようなレクチャーが,評価が高いようです.
また,臨床現場における指導者の役割は,臨床での学習において最も重要であり,省察的実践家としての自らの思考を共有することで,臨床での動き方,考え方を指南することが求められています.病歴聴取や身体診察についても,臨床減までの学びは大きいようです.

・ロールモデル
臨床現場における(つまり,将来学習者が鳴りたいと思う医師としての)ロールモデルを提供する,という役割を理解する上で,おそらくhidden curriculumを意識する必要があると思います.学習者は指導者がどのように振舞っていたかをよく観察しており,それをまねしようとします.とくに価値観や態度,思考のパターン,キャリア選択において,ロールモデルは強い影響を与えます.
一方で,教師としてのロールモデルも重要です.臨床推論学習会などでの指導者の姿が,私は最もよくイメージしやすいです.

・ファシリテーター
学習者の自由度が上がると,一方的に教えるという権威主義的なスタイルはもはや成り立たず,学習者の自由な学びを支援するファシリテーターとしての役割が求められるようになります.PBLチュートリアルなどが最も想像しやすいと思われます.
ファシリテーターより役割があいまいなのがメンターです.オフラインでのヘルプと表現されることもあり,通常は直接指導や評価にかかわらない者がなります.頼れる兄貴,みたいな感じでしょうか(ややジェンダーの偏りがある表現ですが).


この3つの役割は,私自身が普段から意識していたことでもあります.
とくにロールモデルとなる(背中を見せる),ファシリテーターとなる,という2点は,常日頃からいつも意識して指導に当たっています.

驚いたのは後半の3つ,いままで意識したことのない役割でした.
詳しくは次回まとめます.