2026年10月10日土曜日

スティグマを伴う言葉遣いのカルテ記載

 Caton J, Sun B, Steele N, Santiago C, Antara F, Hom J, Dougherty R. Hospital-Based Clinicians’ Knowledge and Practices Regarding Stigmatizing Language in Clinical Documentation: A Multicenter Survey. J Gen Intern Med. 2026 Oct 7. doi: 10.1007/s11606-026-10803-x.


背景 スティグマを伴う言葉遣いは医療記録に広くみられ、偏見を助長し、その後の臨床判断や患者ケアに影響を及ぼす可能性がある。内科の指導医、研修医、Advanced Practice Provider(APP)は、臨床記録を作成する最前線の医療者である。また、指導医とAPPには、研修医に適切な記録方法についてフィードバックや教育を行う役割もある。しかし、研修医、APP、指導医が、医療記録におけるスティグマを伴う言葉遣いに対応する準備ができているかは明らかでない。さらに、このような言葉遣いに関する医療者の知識、態度、行動についても、十分にわかっていない。


目的 臨床記録におけるスティグマを伴う言葉遣いについて、研修医、APP、指導医の経験、価値観、信念を明らかにすることを目的とした。


方法 横断的なオンライン調査と知識テストを実施した。


対象者 2つの大規模な大学内科部門に所属する内科研修医、指導医、APPを対象とした。


主要評価項目 知識テストでは、臨床記録の抜粋に含まれるスティグマを伴う言葉遣いを識別する能力を評価した。質問紙では、リッカート尺度による質問を用いて、言葉遣いに関する態度と、自分自身のスキルに対する認識を評価した。


結果 指導医・APP群から82人(指導医72人、APP 10人、回答率52%)、研修医群から63人(回答率21%)の回答を得た。

回答者のほぼ全員が、自分の言葉遣いが患者に与える影響を考慮していると回答した(指導医・APP群91%、74人;研修医群92%、58人)。また、他の医療者への影響を考慮していると回答した割合も高かった(指導医・APP群90%、73人;研修医群84%、53人)。

しかし、自分の臨床記録がスティグマを伴う言葉遣いを避けられていると自信を持っていたのは、指導医・APP群の10%(8人)、研修医群の24%(15人)にとどまった。 さらに、知識テストで評価された11個のスティグマを伴う用語をすべて正しく識別できたのは、指導医・APP群の4%(3人)、研修医群の3%(2人)だけであった。


結論 参加施設の指導医・APPと研修医は、患者中心の言葉遣いの重要性を認識している一方で、このテーマに関する知識やスキルが不足していた。この結果は、対象を絞った教育的介入と、システムレベルでの介入を今後開発する重要性を示している。


感想

カルテ記載内容を扱ったスティグマに関する研究。面白い着眼点です。

2026年10月9日金曜日

研修医はメンタルを病みやすいがあまり受診しない

 Syed S, Myran DT, Solmi M, Kobewka D, Yoo S, Gibb M, Spilg E, Kendall CE, Fleming N, Maniate JM, Tucker J, Hundemer GL, Colman I, Tanuseputro P, Sood MM. Mental Health Care Use Among Resident Physicians Compared with the General Population. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10843-3.


背景 医師では一般人口よりもメンタルヘルス上の問題が多いことが、これまでの調査から示唆されている。しかし、こうした問題が医師という職業特有の要因によるものなのか、それとも社会全体にみられる変化を反映したものなのかは明らかではない。特に、独特のストレスにさらされる研修医においてメンタルヘルス上の問題がより大きな影響を及ぼしているのか、また男女で違いがあるのかについては十分にわかっていない。本研究では、研修医におけるメンタルヘルス関連の医療機関受診を、非医師と比較し、さらに性別による違いを検討することを目的とした。


方法 2004年4月1日から2018年3月31日までを対象とした、性別で層別化した人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。研修医を、研修開始年、性別、年齢、都市・農村区分、所得五分位を用いて、非医師と1:5でマッチングした。主要評価項目は、5年間の研修期間中におけるメンタルヘルス関連の受診率とし、メンタルヘルス疾患を示す診断コードまたは請求コードが記録された場合を受診と定義した。


結果 研修医10,925人と、マッチングされた非医師54,625人を対象とした。研修医の平均年齢は27.2歳で、女性が5,941人(54.37%)、男性が4,984人(45.62%)であった。全体として、研修医の34.35%が研修期間中にメンタルヘルス関連の受診をしていたのに対し、非医師では36.13%であった。すべての群で不安症が最も一般的な診断であり、女性研修医ではメンタルヘルス関連受診の67.38%を占めた。

研修医の中では、女性は男性よりもメンタルヘルス関連受診のリスクが高かった(調整HR 1.44、95% CI 1.35–1.54)。一方、非医師と比較すると、女性研修医の受診率は女性非医師より低かった(39.71% vs 41.24%、調整HR 0.89、95% CI 0.85–0.93)。男性でも同様に、男性研修医は男性非医師より受診率が低かった(27.97% vs 30.03%、調整HR 0.81、95% CI 0.76–0.85)。


結論 研修医の3人に1人が研修期間中にメンタルヘルス関連の医療機関を受診していた。しかし、受診率は、背景因子をマッチさせた非医師よりも低かった。これは、医師のメンタルヘルスに関する懸念が持続しているにもかかわらず、研修医が必ずしも一般人口より積極的にメンタルヘルスケアを利用しているわけではないことを示している。女性研修医は男性研修医よりも受診率が高く、この点は一般人口における男女差と同様のパターンであった。


感想

重要な記述研究です。研修医はメンタルで病院を受診するのにハードルがあるのでしょう。

2026年10月8日木曜日

「QIを教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別

Disalvo D, Giannitrapani K, Lorenz K, Offner K, Roberts SJ, Puranam S, Mickelsen J, DeNatale M, Agar M. Fostering Locally Led Palliative Care Innovation: A Qualitative Evaluation of the SPHERE-Stanford Collaborative Quality Improvement Program. J Gen Intern Med. 2026 Oct 5. doi: 10.1007/s11606-026-10824-6.


背景 オーストラリアは質の高い緩和ケアで国際的に評価されている一方、緩和ケアへのアクセスの不均衡、サービスモデルのばらつき、医療人材への負担などが、安全で効果的かつ患者中心のケアを妨げている。質改善(QI)は、こうした課題に取り組むための実践的な方法となり得る。本研究では、地域におけるQI能力を構築するため、Sydney Partnership for Health, Education, Research and Enterprise(SPHERE)がStanford Medicineと連携し、オーストラリアの7つの緩和ケアサービスにエビデンスに基づくQIプログラムを導入した。


目的 SPHERE-Stanford Medicine Collaborative QI Programを通じてQIプロジェクトを実施した医療者の経験を評価し、プロジェクトの実施を成功させるうえでの障壁と促進要因を明らかにすることを目的とした。


参加者 7つの参加チームから、チームリーダー、チームメンバー、メンター、サービスディレクターを含む25人にインタビューを実施した。


方法 各チームは、オンラインワークショップ、2日間の対面集中研修、継続的なメンターによる支援を組み合わせた、6か月間の構造化されたQIカリキュラムを受講した。半構造化インタビューによって、QI能力の構築とQIプロジェクトの実施に関する経験を調査した。Consolidated Framework for Implementation Research(CFIR)を枠組みとして、質的内容分析を行い、実施の成功に影響する要因を特定した。


結果 プログラムによって、医療者のQIに関する知識と自信が向上し、各チームはサービス上の問題の根本原因を特定し、標的を絞った介入を設計できるようになった。その結果、緩和ケアへの紹介件数の増加、ケアの統合の向上、記録方法の一貫性の向上など、意味のある改善が得られた。多職種連携、強いチームの結束、そして継続的なメンタリングが、主要な促進要因であった。また、経営層からの支援と積極的なコミュニケーションが、関係者からの支持を促し、新しい実践の導入を支えた。

一方、サービスモデルの違い、限られた資源、医療者の離職・交代、連携先サービスにおける緩和ケアに対する認識不足が主要な障壁となった。それでも参加者は、本プログラムを継続的なQI活動のきっかけとなるものと捉えており、成果を他施設へ共有・拡大する機会も認識していた。


結論 本プログラムは、オーストラリアの緩和ケアサービスにおけるQI能力を強化し、公平性、アクセス、サービスの質を改善するために他の現場にも応用可能な解決策を生み出した。今後は、こうした取り組みを持続可能なものにするための支援、学習成果の普及、そして緩和ケア領域全体へのQI能力の拡大が必要である。


感想

「QI能力を個人に教える」ことと「QIが継続する組織をつくる」ことは別の課題、ということですかね。

単なる研修内容ではなく、①多職種チームの結束、②継続的なメンタリング、③経営層の支持、④積極的なコミュニケーションが成功要因で、逆に、医療者の離職や資源不足が組織的障壁として挙がっています。

2026年10月7日水曜日

妊娠有害転帰の行動変容を健康の公正性の視点でみる

 Hodges VJ, Shareef S, Chew-Graham CA, Wu P, Adetola M, Mitchell C. Primary Care Cardiovascular Risk Reduction after Pregnancy Complications: A Qualitative Systematic Review. Br J Gen Pract. 2026 Jun 1;76(??):BJGP.2026.0110. doi: 10.3399/BJGP.2026.0110. PMID: 42225390.


背景 妊娠有害転帰(adverse pregnancy outcomes: APOs)は約30%の妊娠で生じ、その後の生涯にわたる心血管疾患(CVD)リスク上昇と関連する。行動変容を促す介入は、このリスクを軽減できる可能性がある。本研究では、APOsを経験した女性が、心血管リスクを低減するための行動変容をどのように経験しているのかについて、健康の公正性に焦点を当てて質的研究を系統的にレビューすることを目的とした。


方法 PubMed、Embase、CINAHLを開始時点から2025年3月まで検索し、APOs後の心血管リスク低減に向けた行動変容について女性の経験を扱った一次研究を抽出した。対象は、医療への普遍的アクセスが確保されている高所得国で実施された研究に限定した。ThomasとHardenによる3段階の方法を用いてテーマ統合を行い、抽出されたテーマをCOM-Bモデル(Capability、Opportunity、Motivation―Behaviour)に対応させ、理論的枠組みとして分析を構造化した。


結果 18研究、計339人の女性がレビューに含まれた。マイノリティ民族の女性が参加者の過半数を占めていた研究は2件のみであり、5研究では社会経済的状況、民族性、またはその両方に関する人口統計学的情報が欠如していた。行動変容を形成する経験は、COM-Bモデルの各領域と対応していた。

身体的・心理的な回復が遅れることは、女性が行動変容を開始する能力(Capability)を低下させていた。また、育児、家事、仕事などの複数の役割や責任が、長期的な心血管の健康に取り組むための機会(Opportunity)を制限していた。一方、行動変容を家族の日常生活に容易に組み込むことができ、家族全体にも利益がある場合には、その機会が広がっていた。動機づけ(Motivation)は、自分自身のCVDリスクが高いことへの認識、親としての責任、そして医療者から個別化された助言を受けることによって強化されていた。また、個々の状況に合わせた積極的なフォローアップは、特にマイノリティ民族や社会経済的に不利な立場にある女性の医療への継続的な関与を支えていた。


結論 APOs後のCVD予防には、女性個人に行動変容を求めるだけではなく、家族を単位とした行動変容を優先できるような、構造化されたシステムレベルの支援が必要である。特にCVDリスクが高い集団はこれまでの研究に十分に含まれておらず、健康格差を拡大させないためには、これらの集団とともに介入を共同創出することが有用である可能性がある。


感想

これはとてもいい着眼点のレビューだと思います。しびれます。

「運動しましょう」「体重を減らしましょう」という個人への助言だけでは不十分で、育児や家族生活の中に健康行動を組み込めるように支援する必要があることを示唆しています。また、リスクの高い人ほど、研究にも介入にも十分に含まれていないという、格差に対する視点も重要です。

2026年10月6日火曜日

台湾でのHospital at Homeのアウトカム

 Wang YC, Liao JY, Yang FC, et al. Hospital-Level Acute Care at Home via Direct Home Admission in Taiwan: A Non-randomized Controlled Pilot Trial Before National Implementation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 30. doi: 10.1007/s11606-026-10828-2. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10828-2


背景

Hospital-at-home(HaH)は世界的に広がりつつあるが、台湾のIntegrated Home-Based Medical Care(統合在宅医療)の仕組みの中で、地域から直接自宅に入院させる direct home admission(DHA) 型のHaHについては、十分なエビデンスがない。本研究では、DHAを中心としたHaHモデルについて、臨床アウトカム、患者・介護者の経験、および実施可能性を評価することを目的とした。なお、一部の患者については救急外来を経由して自宅での治療を開始する経路も含まれた。


方法

2022年10月から2023年7月にかけて、前向き非ランダム化比較パイロット試験を実施した。急性感染症のため病院レベルの治療を必要とする、在宅生活中の高齢者144人を対象とし、5病院・13地域診療所から登録した。83人がHaH群、61人が通常の病院入院群となった。対象者は概してフレイルで、慢性疾患を有し、日常生活機能が低下していた。

HaH群では、多職種による訪問診療、静脈内薬物療法、point-of-care検査、遠隔患者モニタリングを実施した。対照群では通常の入院診療を行った。

主要評価項目は、寛解・治療完遂、病院への搬送を必要とする臨床的エスカレーション、治療期間中の死亡、30日死亡率とした。副次評価項目として、在院期間(length of stay:LOS)、QOL、患者・介護者の満足度を評価した。


結果

治療完遂は両群の大多数で達成され、HaH群86.7%、通常入院群95.1%であった(p=0.153)。治療期間中の死亡率は低く、それぞれ2.4%、3.3%であった(p=1.000)。HaH群では、9人(10.8%)が臨床的エスカレーションを必要とし、病院への移行が必要となった。

一方、HaH群では在院期間が通常入院群より有意に短く、9.72日 vs. 11.85日(p=0.035)であった。また、HaH群では、患者・介護者の満足度、利便性、および「次回もこのモデルを選びたい」という意思が有意に高かった(いずれもp<0.05)。


結論

本研究は、台湾におけるdirect home admissionを利用したHaHモデルを評価した初めての研究であり、フレイル高齢者に対する地域起点の病院レベル急性期在宅医療(acute care at home:ACAH)が、実施可能かつ患者・介護者に受け入れられる可能性を示した。これらの結果は、既存の台湾の在宅医療インフラに病院レベルの急性期医療を統合することを支持するものであり、その後の台湾全国ACAHプログラムの開発にもつながった。


感想

これもHaHの研究。HaHでコストがどれだけかかったのか知りたいところ。

2026年10月5日月曜日

在宅医療が立ち向かう健康格差

 Baim-Lance A, Perez S, Gorbenko K, Nnemnbeng JF, Hart J, Howard B, et al. Leadership Perspectives on Hospital at Home and Equity: Broadening Access, Removing Enrollment Barriers, and Adding Value by Addressing Disparities. J Gen Intern Med. 2026 Oct 1. doi: 10.1007/s11606-026-10841-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10841-5


背景 Hospital at Home(HaH)は、従来の入院医療に代わり、患者の自宅で安全かつ質の高い急性期病院レベルの医療を提供する仕組みである。米国でHaHが拡大する一方、プログラムのリーダーが医療の公平性をどのように捉え、公平な医療提供に影響する運用上の課題にどう対応しているかは、十分に明らかになっていない。本研究では、HaHにおける公平性の定義、実現を妨げる障壁、およびその克服に向けた戦略を明らかにすることを目的とした。


方法 規模、地理的条件、セーフティネット病院としての位置づけが多様なHaHプログラムを目的抽出法によって選定した。半構造化インタビューを実施し、インタビュー後の振り返り用テンプレートと要約を用いた迅速な質的分析を行った。その後、焦点を絞ったコーディングによってテーマを抽出し、フレーム分析の枠組みで整理した。


結果 15の病院ベースのHaHプログラムと3つの民間事業者のプログラムを代表する28人のリーダーに対し、18件のインタビューを実施した。参加者のおよそ半数はセーフティネット病院に所属していた。HaHにおける公平性を捉えるための、相互に関連する3つのフレームが明らかになった。

HaHへのアクセスを広げる(Broaden HaH Access):プログラムの設立を妨げたり可能にしたりする要因に注目し、農村地域なども含め、より広い人々にHaHを届けることを目指す。

HaHへの登録・利用開始を妨げる障壁を取り除く(Remove Barriers to HaH Enrollment):保険の種類、地理的条件、自宅の安全性、患者や介護者の希望など、患者が実際にプログラムを利用できるかどうかに影響する社会人口学的要因に注目する。保険の対象範囲を広げるなど、それぞれの障壁に対応する戦略が報告された。

格差に対処することでHaHの価値を高める(Add Value by Addressing Disparities):既存の健康上・社会的な課題を軽減し、長期的なアウトカムの改善につなげるために、HaHを積極的に活用するという考え方である。


考察 これら3つのフレームは相互に補完的であり、排他的なものではない。それぞれのフレームにおいて、HaHのリーダーたちは公平性に関する課題や障壁を認識し、公平な医療提供を促進するための具体的な戦略を示していた。こうした取り組みは、医療システム全体の目標に対するHaHの価値を高めることにもつながる。


結論 HaHにおける公平性を考える際のフレームを明確にし、それらを整合させたうえで、各フレームに対応する改善策を個別にも横断的にも実施することが重要である。これにより、HaHが拡大するなかで、包括的で公平な医療を提供する能力を高められる可能性がある。


感想

あくまでリーダーへのインタビューではありますが、在宅医療が如何にして健康格差に立ち向かうのかがよくまとまっています。

①サービス自体を幅広い地域に届ける、②利用資格があっても利用できない人の障壁を取り除く、③既存の健康格差そのものを縮小する、という3つのアプローチが組み合わさるということですね。

2026年10月4日日曜日

若手女性家庭医の経験するマイクロアグレッション

 Byrd M, Filippi MK, Siddiqi A, Fleischer SE, Bazemore AW, Koempel A. The Impact of Biases for Early-Career Women in Medicine: “It’s the Little Day-to-Day Microaggressions”. J Am Board Fam Med. 2026;39(1):167190. doi:10.3122/jabfm.2025.250291R2. https://www.jabfm.org/content/39/1/167190


背景

女性医師は、臨床現場において、心身の健康を損なうさまざまな制度的・社会的バイアスに直面している。性別に基づく差別を経験したと報告した女性医師の割合は、キャリア初期では76%、中期では57%、後期では36%であった。これらの傾向は、キャリアを重ねるにつれてバイアスが減少する可能性を示唆しているものの、バイアスは女性医師のキャリアを通じて持続する負担となっている。本研究は、職場のバイアスに関する質的研究で十分に取り上げられてこなかった、キャリア初期の女性家庭医に焦点を当てた点に特徴がある。特に、女性医師が臨床現場で経験するマイクロアグレッションを取り上げ、直面するバイアスをより深く理解することを目指した。


方法

2021~2023年のAmerican Board of Family Medicine National Graduate Surveyに回答した、地理的・人種的に多様なキャリア初期の女性医師25名を、電子メールを通じて募集した。研修医から臨床現場で働く医師へと移行する時期の経験を理解するため、ライフヒストリー・アプローチに基づいた半構造化インタビューガイドを作成した。インタビューを逐語録にし、データを整理したうえで、NVivoを用いて帰納的内容分析を行った。分析は質的研究者によって実施された。


結果

データから、主に3つのテーマが特定された。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:臨床現場でのコミュニケーションに、性別に基づくバイアスのパターンが表れていた。

2. 外見や他者の認識による、医師としての立場の否定:患者が、女性医師の外見や自分自身の認識に基づいて、その医師の立場や専門性を認めない経験がみられた。

3. 感情的・心理的な労働への対処:女性医師は、職業上および社会的に求められる期待に応えるなかで、感情的・心理的な負担を抱え、それに対処していた。


結論

プライマリ・ケアの現場では、マイクロアグレッションに対して、直接的かつ意図的な介入が必要である。こうした経験に対処しなければ、公平性と医療従事者の持続可能な就労環境が損なわれるおそれがある。組織のリーダーには、個々の医師を支援するだけでなく、組織文化やプライマリ・ケア全体の使命を強化するために、マイクロアグレッションを認識し、それを中断させ、適切に対応する能力が求められる。こうした取り組みは、医療における公平性の実現という、より広い社会的要請にも関わるものである。


感想

具体的なテーマの説明は以下の通り。

1. 臨床現場における偏見を含むコミュニケーション:女性医師を、専門職としてではなく、性別に基づく役割や期待によって捉える言動。

採用時の質問: 男性面接官2名から、将来の出産・子育ての計画について質問された。

日常的な発言: 妊娠中の同僚が分娩シミュレーション用の骨盤模型を購入しようとした際、男性の責任者から「巣作り(nesting)をしているんだね」と言われた。

職場での関係: 男性の前任者とは意見が一致していたと繰り返し述べる上司との関係において、若さや性別が意見の対立に影響しているのではないかと感じた。

こうした何気ない発言が日常的に積み重なり、女性医師の専門性や能力を軽視する環境を形成している。


2. 外見に基づく医師としての立場の否定:若さ、性別、人種などに基づく患者の思い込みによって、医師としての専門性や立場を認めてもらえない経験。

医師であることへの疑念: 若く見える女性医師が、患者から「あなたが医師なの?」と疑うように尋ねられた。

医師であることを示す工夫: 医師であることを明記した名札をつけていても、「医師はどこにいるの?」と尋ねられた。

私生活への立ち入り: 患者から子どもの有無や次の出産予定について質問されたり、外見から話せる言語を決めつけられたりした。

こうした経験は、医師としての役割を否定するだけでなく、患者との専門的な関係や適切な境界を損なっている。


3. 臨床現場や社会の期待に伴う感情的・心理的労働:周囲の感情に配慮し、人間関係を円滑に保ち、ジェンダーや人種に基づく期待に対処するために、追加の心理的負担を引き受けること。

話し方への要求: 男性医師よりも女性医師のほうが、スタッフから話し方や言葉遣い、丁寧さを厳しく求められると感じていた。

社会的な性役割: 女性は医師として働いていても、家事や育児を担うべきだという社会的期待が残っていると語られた。

人種との交差: 黒人女性医師は、黒人患者を診療する際、白人男性医師には生じにくい感情的負担を経験していた。文化的配慮を意図した同僚の発言が、かえって不快感を与える場合にも、その状況に対処しなければならなかった。

過剰な警戒: 過去の経験から、将来も障壁に直面することを予期し、常に備えておかなければならないと感じていた。また、少数派の同僚に負担をかけたくないと考え、支援を求めることを控えた参加者もいた。

差別的な出来事そのものだけでなく、それを予測し、感情を調整し、周囲との関係を維持するために継続的な努力を求められる


非常に具体的かつ明確に記述されており、日本でも同様の現象は起こっているだろうと思いました。日本での追検証が必要だと思います。