Chou S, Tyrrell E, Rowe E, Bryant J. Experience and impacts of violence and abuse by patients and the public towards general practice staff: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Oct 19. doi:10.3399/BJGP.2025.0685. https://bjgp.org/content/early/2026/10/16/BJGP.2025.0685
背景
家庭医療診療所では、総合病院の診療現場と比べて、患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為が多く発生している。しかし、医療スタッフがこうした行為をどのように経験し、どのように受け止めているかについて、幅広さと深さの両面から検討した質的研究は限られている。
目的
家庭医療診療所のスタッフが患者や一般市民から受けた暴力や虐待・迷惑行為について、直接的・間接的な経験を明らかにし、それらがスタッフのウェルビーイングや診療所の業務に及ぼす影響について、スタッフ自身がどのように認識しているかを探ること。
研究デザイン・設定
イングランド全土を対象としたオンライン全国調査に続いて実施された、混合研究法プロジェクトの第2段階にあたる質的研究。全国調査の終了時に、参加者にインタビューへの参加を依頼した。
方法
2023年8月から12月にかけて、半構造化インタビューを実施した。参加者の特性、暴力や虐待・迷惑行為の経験、職場での安全感や支援に関する認識を記述するため、全国調査の量的データも抽出した。インタビューは逐語録にし、フレームワーク・アプローチに基づいてテーマ分析を行った。
結果
家庭医療診療所のスタッフ23人が参加し、女性17人、男性6人だった。15人は非臨床職、8人は臨床職に従事していた。
以下の6つのテーマが特定された。
直接的なやり取りを通じた暴力や虐待・迷惑行為
直接的なやり取り以外の場面で生じる暴力や虐待・迷惑行為
リスクの増大
個人への影響
職業上の影響
ケアや医療サービスへの影響
結論
患者や一般市民による暴力や虐待・迷惑行為には、幅広い行動が含まれる。スタッフには深刻な影響が及び、場合によっては長期にわたって、安心して働けないという感覚が持続したり、私生活や社会生活に支障が生じたりする。
また、スタッフの離職や、提供できる医療サービスの縮小を通じて、臨床サービスにも影響が及んでいる。
感想
興味深いテーマだったので全文読んでまとめました。
最も頻繁に報告されたのは言語的暴力(怒鳴る、罵る等)。受付事務にとって日常的な経験。
性的な嫌がらせ、人種差別、トランスジェンダーへの差別なども
執拗な電話や苦情、SNSでの中傷、ストーキングなどの直截的ではない被害も
心理的影響は長期化し、仕事以外の生活にも及ぶ
深刻な脅迫やストーキングは特に強い不安を招く。トラウマに類似する症状も。
職場の近隣で加害者と遭遇することへの不安から、仕事以外での外出や地域との関わりを避けるスタッフもいた。
被害対応、警察への連絡、苦情への返答などにより、特に診療所管理者の業務負担が増える。
暴力や迷惑行為を「仕事の一部」として受け入れる傾向があり、被害を受けて心理的に傷つくこと自体を恥ずかしく感じるスタッフもいる。
長期的な被害は休職や離職意向につながり、経験豊富なスタッフの退職、新人教育の負担、残った職員へのさらなる負荷という悪循環を招く
医療の質や患者へのケアにも影響する。暴力への対応により他の患者への対応や診療所の改善活動に使える時間が減る。
暴力を避けるため、医療者がエビデンスや専門的基準に沿わない対応をせざるを得ない場合があり、道徳的傷つきが生じる。
暴力や威圧的な行為を目撃した待合室の患者も、恐怖や精神的苦痛、身体的危険にさらされる。
さらにまとめると、以下の5つの点になると思います。
患者から罪悪感を刺激するような言動を受けることで、受付スタッフが自分の対応に自信を失う。
暴力を回避するために専門職としての基準を妥協することが、道徳的傷つきにつながる。
受付スタッフが被害を受ける姿を見た臨床職にも、罪悪感が生じる。
家庭医療診療所では職員と患者が同じ地域で生活することも多く、職業生活と私生活の境界が侵食される。
暴力を目撃した患者にも被害が及び、スタッフにはその安全を確保する負担が生じる。