2016年11月30日水曜日

Dermacase from CFP 2012-前半



だいぶ前に,Canadian Family Physicianが以前連載していた
皮膚科のsnap diagnosisまとめ(Dermacase)をブログにしました.

久しぶりにその続きをまとめました.
今回は2012年の掲載記事を前半,後半に分けてお送りします.

CFP dermacaseシリーズの原文はこちらから.

以前の記事→CFP dermacase 2013-前半後半













2016年11月23日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 1)



最近のブログはもっぱらUnderserved populationについて
海外のarticleを翻訳して発信する,という内容になっています.


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


 Gail LevineはBoston's Brigham and Women's Hospitalの内科医であり,重度精神疾患の患者を熱心に診る医者である.初めて彼女と話した時に言われたことは,今でも心にぐさりと来る.当時,彼女は50歳代中頃の妄想型統合失調症の男性患者を受け持っており,私もその患者の治療にあたっていた.D氏は広範囲の心筋梗塞を発症し,少し前に入院となったのだが,血管再開通療法を拒否していた.全身状態はしばらく落ち着いていたのだが,ある日,呼吸困難を呈した.初期のタンポナーゼによる血行動態の破綻が見られた.D氏はからだに針を立てててほしくないとこれまで繰り返し主張していたので,心嚢穿刺を拒否するのではと心配していたが,Levineから電話がかかってきたのでほっと胸をなでおろした.

 私がこれまで重度精神疾患患者と交渉してきたその実績はあまり芳しいものではない.ついこの前,有症状の重度僧房弁閉鎖不全症がある比較的若年の統合失調症患者を担当していた時の話だ.手術適応例として申し分なかったが,私はその患者に血液検査すらさせてもらえなかった.手術なんてとんでもない.患者はいつもベッドに腰かけ,少し体を揺らしながら髪をとかしていた.質問しても答えることはなく,本当に気が向いた時しか検査に応じなかった.私はすぐに説得をあきらめてしまった.彼女ならではの理由があるはずだが,それを理解しようともしなかった.その代わり,患者に意思決定能力が欠落していることは明白だったため,裁判所任命の後見人を数か月かけてたてる手続きを始めることにした.これまで十分に苦しみぬいてきた患者の精神をさらにずたずたにしてもなお,我々は患者の心臓を救うべきなのか.私に課された決断は非常に困難なものだった.

D氏に関しては,そのような難しい決定を誰かに押し付ける時間的余裕はなかった.もしタンポナーゼに陥ったら,それが最期となってしまう.私はそんな結末を迎えたくないと思ったが,Levineは少し判然としない様であった.「知ってるでしょ.重度精神疾患の平均寿命は53歳だってこと.」これが判断を困らせる大きな理由の一つだ.医師は,精神疾患がある患者のQOLは完全に損なわれていると考える.患者の拒否を簡単に承諾するわけにはいかない


死亡率の格差

 ニューヨークの疫学者Benjamin Malzbergは1932年に,精神疾患がある人はない人と比べ,他の因子を調整した群どうしで比べても.寿命が平均して14-18年短いという研究結果を発表した.この死亡率の格差はいまも残存しており,下手すればもっと悪いことになっている.2006年のアメリカの研究では,その差は13-30年と推測される.さらにいえば,この格差は全世界に広がっている.事故や自殺といった「非自然的な」原因よりも,がんや心血管疾患といった医学的原因がこの格差に寄与している.最近になるまでこの不平等は無視され続けてきた.しかし,このような事態がまだ続いているのは単に注目されていないだけの問題ではない.明白なリスク因子の中には,すぐに解決できないものがある.重度精神疾患の患者は,喫煙,薬物乱用,運動不足といった特定の行動をとる割合が多いが,このことは慢性疾患のリスクを高める.このような病気を治療するには,しっかり薬を飲み行動を変える必要があるが,重度精神疾患患者にとっては時に困難である.精神疾患の中には,患者が自分の状況を理解できなくなるものもあり,その場合はヘルスリテラシーが低い場合や貧困にある場合と同じように,治療にしっかり乗ることができない可能性がある.このことは精神疾患患者にとりわけ強く影響を与える.最後に,精神症状の安定のために不可欠でありよく処方される薬剤の多くは肥満や糖尿病を引き起こすため,心血管疾患のリスクを高めることになってしまう

 上記の現実を目にすると,近い将来に死亡率の格差をなくすことなんて思いもよらないことである.しかし,Levineをはじめとした重度精神疾患患者の治療にあたっている医師の姿を見て,ふと疑問に思った.精神疾患患者は余命が短いと医師が思っていることも,本当に患者の余命を短くしているのではないか.つまり,精神疾患患者を医師がどう見ているかがこの死亡率の格差の一因となっているのではないか.もしそうだとしたら,医師は変わることができるのか.



2016年11月16日水曜日

失神の鑑別



失神の鑑別についてまとめて発表する機会があったので,
スライドを挙げます.

内容は基本的なものですのであしからずご了承ください.




































2016年11月9日水曜日

非糖尿病患者の低血糖


救急でであったので,考え方をまとめてみます.

CutlerのProblem solving in clinical medicineには,低血糖は3つに分類すると書いてあります.
「内科診断リファレンス」の記載も追加して分類を挙げます.

①反応性低血糖
食後2-4時間で起こる低血糖です.特に炭水化物の多い食事を食べた後です.

下位グループとしてさらに3つに分けます.

機能性:最も多い.症状はそこまで強くない.
OGTTで5時間経過観察し血糖の変移をみる.
アルコール多飲がリスク.

軽度糖尿病:つまりは低血糖をきたした患者には糖尿病の検査をする必要がある

消化管性:いわゆるダンピング症候群やその亜形


②空腹時低血糖
朝一番や食事を抜いた5時間以上経過後に起こる低血糖です.
糖原病など先天性のものを除けば,原因は以下の5つです.

内因性高インスリン血症:インスリノーマやインスリン自己免疫症候群など
インスリン自己免疫症候群は80%で自己免疫疾患が合併します.
SH基を持つ薬剤の先行投与がリスク因子です.
(メチマゾール,ペニシラミン,カプトプリル,イミペネムなど)

薬剤性:糖尿病の薬を間違えて飲んだなど.同居人全員の薬剤歴を聴取する.
非糖尿病薬で低血糖を起こすのは以下の通り.
Ⅰa・Ⅰc抗不整脈薬,抗うつ薬,ST合剤,キノロン,NSAIDs,アセトアミノフェン,βブロッカー,ACEI,フィブラートなど
また,クラリスロマイシンとSU薬の併用注意は有名ですね.

臓器不全:敗血症が有名.肝不全や腎不全でも.

ホルモン欠乏:副腎不全,下垂体不全など

nonislet cell tumor hypoglycemia(NICTH):稀ですが種々の腫瘍が低血糖を起こします
多いのは間質系腫瘍で.大きな腫瘤が後腹膜,腹腔内,胸腔内にみられます.
上皮系であれば肝細胞癌や副腎皮質腫瘍,カルチノイドが多いようです.
UpToDateからNICTHを起こす腫瘍のリストを引用します.



③虚偽性:ミュンヒハウゼン症候群が有名です.


低血糖発作=検査乱れ打ちではなく,糖尿病の有無の確認・反応性か空腹時かの区別,リスクファクターと薬剤に注目した病歴聴取で,なんとか迫っていきたいものです.


(Cutlerは邦訳も出ていますが,原著は平易な英語でかかれているのでお勧めです.)




2016年11月3日木曜日

ホームレス状態にいる人のケア part5 (final)



時間がかかってしまいましたが,ようやくpart5です.最終回です.
図表は訳していないので,ぜひ原文をみていただければと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



皮膚,足の問題

 厳しい住環境のせいでホームレス状態の人々ではしらみ,疥癬と続発する細菌感染が蔓延している.しらみの寄生によりBartonella quintana感染が起こることがあり,ホームレス状態の人々に塹壕熱(回帰熱を伴うインフルエンザ用の症状を呈する)や血液培養陰性心内膜炎の原因となる.足部の不衛生,不潔な住環境,長期間の立位と歩行,足に合っていない靴による外傷の繰り返し,濡れた靴下や靴による皮膚のふやけは,擦過傷,膿瘍,うおのめ,たこ,爪真菌症,足白癬,浸足症(0℃以上の湿潤寒冷環境に長期間暴露することで起こる外傷)を招く.長期間の立位は,浮腫と静脈鬱滞を起こし,時に潰瘍や蜂窩織炎を招き入院での抗菌薬静注が必要になる.その場合,大量の水による洗浄,デブリドマン,筋内の抗菌薬,1週間まで使える薬剤浸漬弾性包帯(Unna boot)が有用である.適切なフットケアについての教育,問題の早期発見,足に合う靴,乾いた靴下,生活な住環境,適切なフォローアップが予防に重要である.


環境による健康障害

 ホームレス状態では寒冷や熱による外傷の頻度も高い.凍傷,浸足症,低体温のどれかを経験したことがあると,その他の原因による死亡のリスクが8倍になる.寒冷暴露による外傷の程度とその結果起こる細胞障害を決定する2つの絶対的な因子は,温度と暴露期間である.凍傷を重症化させる因子には,アルコール・ニコチン・ドラッグの使用,低栄養,脱水.副腎不全,糖尿病,甲状腺機能低下症,末梢血管障害,末梢神経障害がある.Frostnipは寒冷による外傷のうち軽症かつ可逆性のものを指し,罹患部位は異常感覚を呈するが復温で回復する.凍傷はより重症であり,局在性の組織損傷をきたす.損傷組織を壊死させないようにし,機能を失わないようにし,合併症を予防することが治療の主な目的である.浸足症(塹壕足)は乾いた靴下をはくことで予防できる.熱痙攣,熱疲労,熱射病は極端に暑い環境に長期間いることで起こる.このような状態に陥っている人は寒冷な場所に移して水分を補給させなければいけない.重症例では入院が必要である.熱射病は致死性である.


ケア提供のモデル

 ケアの最善なモデルは,ホームレス状態の人々に向き合う際に特徴的な困難についてよく知っているヘルスケア専門職のチームによる統合された他職種協働のアプローチであり,患者中心のメディカルホームモデルを様々な場所でのアウトリーチサービスに関連して適用することで,2次・3次医療,回復期・ホスピスケア,住居・雇用・法律支援に関する地域資源や地方局につなげられるようなものである.医療面と精神社会面の両方のニーズを1か所で対応できることと,「ハウジングファースト」政策がカギとなる要素である.標準的な臨床現場にこのようなモデルを持ち込むことで,ヘルスケア専門職は患者とつながり治療,教育を行い,この集団内でのヘルスケアのアウトカム向上を推進する際に統合された役割を果たすことができるようになる.また,このモデルは, 医療機関にかかれなかったりホームレス状態にあったりする人々に医師がかかわっていくようにAmerican Academy of Family Physicians(AAFP)のポリシーで提言する際の実際的な基盤を提供する.ホームレス状態の人々の健康とウェルビーイングを向上させることは,雇用につながる一歩であり,うまくいけば自分の家を再び手に入れる一歩となる.家庭医は,熱意をもって包括的,継続的なケアをこの患者層に提供し,他職種協働チームを統括するのに理想的な立場にいる.