2016年5月31日火曜日

DVTの診断と再発予防、血栓後症候群について


DVTに出会った時の戦略をまとめました。
World Journal of Critical Care Medicneのレビューを参考にしました。
World J Crit Care Med 4(1): 29-39 2015


まずはDVTの診断について。
DVTの診断・除外にはRotterdam approachが用いられます。


少し解説。
D-dimerは複数の測定方法がある。
下肢静脈エコー陰性かつでD-dimer(ELISA VIDAS)<1000ug/mlだとNPV>99%で除外可能。
下肢静脈エコー陰性なのにD-dimer陽性なら、一週間後に再エコーすると患者の3%にDVTありとなる。

つまり、D-dimer陰性かつエコー陰性なら除外してよい。
D-dimer陽性でエコー陰性の場合、D-dimer比較的低値で臨床症状も強くなければ除外する。
D-dimer高値、臨床症状中等度以上なら、再度エコー検査、そこでも陰性なら除外する。


次は、DVTの再発リスクと血栓後症候群(PTS)について

PTSはDVT治療後に出ることのある下腿の静脈うっ血による症状
(写真はこちらから引用)


PTSの評価項目はたくさんあるが、Prandoniスコアを示します。



どんな人にDVT再発やPTSが起こりやすいのか。

遠位DVTの再開通は、治療効果は迅速で、治療期間も1-3カ月でよく、PTSの発症頻度も低い。
近位DVTの再開通は、治療効果が遅く、治療開始後3,6,9カ月時点でその都度評価する。DVT再発やPTS発症も多い。
膝窩静脈のDVTがPTS発症多い。
3カ月以内に完全開通し、逆流が見られなければ、PTSのリスクは低く、弾性ストッキングは不要。
6-12カ月で完全/部分開通する場合は、逆流が多く、DVT再発やPTSの頻度が多い。
3カ月の治療で、30%は血栓が静脈断面の40%以上を占めている(residual vein thrombosis: RVT)。その場合、DVT再発率は2年間で27%。


というわけで、DVTを層別化して、それぞれ治療戦略を構築することが必要です。


DVTと診断したら、抗凝固療法と弾性ストッキング開始
1カ月後、3カ月後にPrandoni scoreでPTS評価

Group 1: 3カ月以内に完全開通して、PTSの徴候がなければ、治療終了でよい
Group 2: 3-6カ月で部分開通の場合、治療を続け、1年後再評価
Group 3: PTSが発症した場合、2年間は治療継続
Group 4: 開通しない場合も2年間治療継続

抗凝固薬中止の判断はエコーとD-dimerで。
正常なら1か月間休薬する。D-dimer陰性であることを3カ月おき計1年間確かめる。
D-dimer陽性ならPTS評価を繰り返す。DVT再発したら再度抗凝固療法


2016年5月27日金曜日

BPPVのピットフォール



BPPVは急性発症のめまいで救急搬送される方の大多数を占めます。
非常にcommonな病態では、稀なピットフォールもしっかり押さえておきたいです。
中枢性との鑑別はもちろん大事。その中でもみおとしそうなものを。

まず、背景知識から。

・後半規管型(60-70%)の所見
Dix-Hallpike test:座位から右(左)下懸垂頭位に変換して回旋性眼振が出現
眼振出現時に下になっている方向=回旋の方向が患側です

治療はEpley法。ただ、処置室では気分悪くてそれどころではないという方がとても多いです。
座位→患側下懸垂頭位→健側下懸垂頭位→健側臥位→座位 それぞれめまいが止まるまで保持


・外側半規管型(30%)の所見
Supine-roll test:仰臥位で右下頭位→左下頭位にすると方向交代性眼振が起こる
患者は自然に健側下頭位、健側臥位になっており、それがそのまま治療法になる(Vannucchi法)


・前半規管型(1%)は後半規管型と所見が似ていて、治療も同じなので、省略します。


そこで、pitfall。

外側半規管型に似た中枢性めまいがあります。小脳梗塞などが原因です。
Central paroxysmal positional nystagmus(CPPN)といいます。

鑑別点は以下の通り
・頸部進展(座位→仰臥位)で下方向性眼振
・頸部屈曲(仰臥位→座位)で上方向性眼振

じっと側臥位で寝ている→supine-roll testをして方向交代性眼振がある→じゃあ外側半規管型BPPVかな→まてよ、CPPNを除外しておこう→座位⇔臥位の変換で垂直性眼振がある!→小脳に病変があるぞ!
というパターンでしょうか。


参考文献
Hospitalist~病院総合診療医~ 2015.6.3 Central paroxysmal positional nystagmus
救急外来ただいま診断中


2016年5月24日火曜日

ドライアイについて(BMJ Clinical Review)



BMJ Clinical Reviewです。
ドライアイについて。こういうコモンな病態のレビューはとてもうれしいです。

BMJ 2016;353:12333
The management of dry eye

・有病率8-34%
・リスクファクター:女性、高齢、閉経後エストロゲン療法、パソコン仕事、コンタクト着用、ω-3脂肪酸低摂取(!)、眼手術、骨髄移植、C型肝炎、薬剤、ビタミンA欠乏

・大きく分けて2つ:房水欠乏型と蒸発型
・房水欠乏型はシェーグレン関連と非シェーグレン関連に分けて考える。薬剤が原因のことも。
・蒸発型の多くはマイボーム腺の機能不全。油膜が張れない。外因としてはアレルギー、局所薬剤、コンタクトなど。
・症状は目の違和感、羞明、涙目など。角膜表面の不可逆的障害をきたすことも。

・評価は以下の通り
・tear film break-up time(フルオレセイン染色をして、瞬きを我慢してもらい、涙膜が壊れるまでの時間を測る)、Schirmer試験、染色をして角膜・網膜の上皮を観察、マイボーム腺の評価
・Ocular Surface Disease Index(OSDI)が病勢とよく相関する。各項目を0点-4点で評価。足して30点以上なら重症。

OSDI
ここ一週間で以下の症状がありましたか
・羞明
・目がチカチカ
・痛い、かゆい
・目のかすみ
・見えにくい
ここ一週間で目の症状のせいで以下の行動がしづらいことはありましたか
・読書
・夜間の運転
・ATM
・テレビ
ここ一週間で以下の状況で目の違和感がありましたか
・風が強いとき
・乾燥しているとき
・空調がかかっているとき

・まずはこれまでどんな治療をして効果はどうだったかを尋ねる
・環境を整える。パソコンや乾燥はなるべく避ける
・目薬の保存剤が実は犯人である可能性を考える
・内服薬をチェックする:抗ヒスタミン薬、βブロッカー、エストロゲン、TCA、SSRI、レチノインは原因となりうる

・人工涙液や軟膏は効果がありそう。製品ごとの差はない。
・重症なら保存剤の入っていない人工涙液か夜間の軟膏を。
・軽症~中等度なら市販の目薬でもいいかも。
・1日に4回以上点眼するなら保存剤の入っていないものを
・点眼が難しい人向けの補助器具もある。

・以下の場合は眼科紹介を
・眼痛や羞明が強い、片目だけ著明に充血、視力低下:即日紹介
・4週間治療してもコントロールできない
・診断に専門家が必要
・視力が徐々に悪くなっている
・潰瘍をはじめとする角膜障害の徴候
・シェーグレン症候群、眼瞼異常など専門家の管理が必要な状態


2016年5月22日日曜日

家庭医療について学生がよく抱く疑問とその回答 part2


今月のAmerican Family Physicianに

Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine

という題のレビューが掲載されていました。

前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまいました。part2です。
Tableは訳出していません。原文がフリーで読めるのでそちらをどうぞ。



診療の射程はどうか、どんなキャリアを得る機会があるか

家庭医を目指すと、家庭医として特徴的な研修を受けることになる。急性疾患も慢性疾患も扱い包括的なケアを提供する、健康増進と疾患予防を行う、他の専門家と協同して治療を取りまとめるといった内容が含まれる。幅広い射程をもった研修を行い、家族や地域社会という文脈で患者中心の医療を実践し、ヘルスケアシステムの機能について理解を深めることで、どんな場所でも、どのようなセッティングでも対応できるようになる。家庭医が「多分化幹細胞」と評される所以である。
 大半の家庭医は臨床の最前線におり、救急対応や病棟でも医療を行っている。このようなセッティングでは、教育家リサーチの様々なキャリアを得る機会に恵まれている。教育は家庭医にとって重要なことであり、多くの家庭医が日常的に臨床の中で学生や研修医を教育している。また、レジデンシープログラムや大規模な学術機関といったアカデミックな場でのキャリアを選ぶ家庭医もいる。研究科学者になる人もいれば、臨床基盤型研究に参加して重要な®サーチクエスチョンにこたえるためのデータを提供する人もいる。家庭医療のキャリアの選択肢は幅広く、老年医学、思春期医学、緩和ケア、疼痛ケア、睡眠医学、救急医療、病院総合医、スポーツ医学、公衆衛生、国際医療、野外・災害救急など多岐にわたる。家庭医として得られる様々な機会についてまとめた短いビデオは、このサイトでみられる。http://vimeo.com/25152825


家庭医療の研修はグローバルヘルスを実践する足掛かりとなるか

 最高の健康を享受する権利は国境を超えた基本的人権である。その実現には、プライマリケアへのアクセスを確保するのが最善策である。エボラのような疾病のアウトブレイクは非常に目につくニュースであるが、いま大きな問題となっている疾患群は、発展途上国においても先進国においても、感染症から慢性疾患に移り変わってきている。しっかり研修を受けた家庭医は、小児、思春期、成人、産婦とあらゆる層に対応し、幅広い手技をみにつけているため、地球上のあらゆる場所で診療を行うのに最適である。これとまったく同じ能力が合衆国の中でも求められており、移民や難民を診療する際に必要となる。


家庭医療の研修について何を知っておく必要があるか

 家庭医療レジデンシー研修の目標は、卒業するころには包括的かつ継続的なケアをあらゆる年齢層の患者に提供できるようになることである。このような教育での肝腎なポイントは、診療のその場その場で最良のエビデンスに当たり、情報を上手に患者に適応し、資源を効率的に活用する方法を教えることである。
 多くの場合、家庭医療レジデンシープログラムの研修期間は3年間であり、内科や小児科の研修と同じである。家庭医療プログラムの卒業生は、臨床現場に非常によく適応できる。少数ではあるが、研修の最適な期間を調べる長期間の国家的パイロットプログラムに参加しているレジデンシープログラムもある。このばあい、期間は4年間であり、特別なコースや上位の資格を得ることができる。


専門的関心を追求したい家庭医療レジデントは、どのような複合型レジデンシーやさらなるフェローシップ研修を受けることができるか

 家庭医療教育の目標は、プライマリケアを患者、家族、地域社会に提供できるように最適な研修をすることである。家庭医はそれぞれ特有の興味を持っていて、ジェネラリストの研修の一環として、あるいは追加する形で、その分野をさらに学ぶこともできる。複合型レジデンシーにおいて深く体験できたり、レジデンシー終了後にフェローシップを選択したりすることを望む場合もあるだろう。(Table 1)
 複合型レジデンシーのトレーニングプログラムは、異なった二つの専門医プログラムの要素をつなぎ合わせたハイブリッドである。しかし、全く別の専門が二つあるわけではなく、どちらの専門もより広く認定できるように制度設計されている。現在、家庭医とのダブルボードが可能な専門分野は4つある:家庭医療/精神科、家庭医療/救急科、家庭医療/内科、家庭医療/予防医療。これらの複合型レジデンシーの期間はたいてい4-5年である。
 内科/小児科プログラムは、家庭医療とは異なる。このプログラムは、内科と小児科を4年間のレジデンシーにまとめたものである。最近のレビューによれば、内科/小児科プログラムの大半は、分娩、婦人科、外科、皮膚科、整形領域の訓練を必要としていない。内科/小児科プログラム卒業生のおよそ1/3はサブスペシャリティ志向であり、これはプライマリケアとは異なるところである。
 アメリカ家庭医療学会(AAFP)が家庭医療のレジデントが卒業する際におこなった2013年の調査によると、約14%のレジデントがフェローシップやさらに上の学位を含めた追加研修を計画している。
 (以下、アメリカでの家庭医療研修の詳細な議論が続く。読みたい方は本文を。)


家庭医が行う手技にはどのようなものがあるか。

 家庭医は様々な手技を行うことがある(Table 2)。心負荷試験の7.5%、分娩の9.9%、筋骨格系手技の64%、皮膚系手技の79%は家庭医が行っている。家庭医は、診療の幅が多岐にわたっているほど、ヘルスケアの4つの目標をより達成できるようになる。



2016年5月17日火曜日

旅行者下痢症について


BMJ Clinical Reviewをまとめます。
僕自身が、ほぼ必ずと言っていいくらい罹患するので、興味深い勉強になりました。

BMJ 2016;353:i1937
Travellers’ diarrhoea


これだけは押さえておく
・最も多い原因はETEC
・14日以上続く慢性の下痢は、細菌性の可能性が低い
・人工肛門や免疫抑制のある場合のみ抗菌薬予防の適応
・下痢開始時に1-3日間抗菌薬服用すると、有症状期間が3日間→1.5日間に短縮
・慢性下痢で、体重減少などの付随症状があれば、専門家に紹介を。


・危険地域は以下の通り
    超高リスク:南・東南アジア、中央アメリカ、西・北アフリカ
    高リスク:南アメリカ、東アフリカ
    中リスク:ロシア、中国、カリブ海、南アフリカ

・バックパッカーはビジネス旅行者と比べて発症率2倍
・サラダ、貝、生焼けの肉は避ける
・野菜、果物の皮はしっかり剥きましょう
・石鹸での手洗いで発症を30-40%減らすことができる

・原因がはっきり見つかることは少ない
・細菌、ウイルスのほかにも、ランブル鞭毛虫は14日以上の慢性下痢を呈する
・Cyclospora catayenisは、メキシコ帰りの旅行者下痢症として最近注目されている。

・旅行開始一週間以内(特に到着してから2-3日後)に発症
・ETEC:水様、多量、腹部疝痛・嘔気・倦怠感後
・腹部膨満、吃逆など上部消化管症状があればランブル鞭毛虫をより疑う
・排便切迫、血便、クランプなど疝痛症状があればカンピロバクターやシゲラをより疑う

・症状はたいてい1週以内に収まるが、超える場合も10%ある

・上記の通り、適応ある場合のみ予防内服
・シプロフロキサシン500mg/dayで予防率80-100%

・自己内服は以下の通り
    軽症なら、ロペラミド4mg頓用+軟便出るたびに2mgずつ内服 計16mg/dayまで
    中等度なら、南米、中央アメリカ、アフリカならシプロフロキサシン500mg2回を3日間
        南アジア、東南アジアならアジスロマイシン1gまたは500mg/dayを3日間
    高熱、重度腹痛、血便があれば病院受診を
・ただし、治療のメインは経口補液。


2016年5月9日月曜日

臨床研究のうち、量的研究を計画するにあたって(part 2)


臨床研究、とくに量的研究を行うにあたって
本当に最低限必要なことについて発表する機会を頂いたので
minimumな知識にしぼってまとめております。

頑張ってスライドを作ったので、ブログにも掲載します。
アップするにあたってスライドに変更を施しております。
後半です。




























2016年5月2日月曜日

臨床研究のうち、量的研究を計画するにあたって(part 1)



臨床研究、とくに量的研究を行うにあたって
本当に最低限必要なことについて発表する機会を頂いたので
minimumな知識にしぼってまとめております。

頑張ってスライドを作ったので、ブログにも掲載します。
アップするにあたってスライドに変更を施しております。
まずは前半。